風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

NHK交響楽団 第2000回定期公演 Aプロ @NHKホール(12月17日)

2023-12-31 01:54:43 | 日々いろいろ




この演奏会で、過去最多だった私の演奏会尽くしの一年も〆。

N響の記念すべき第2000回定期公演。第1000回は37年前だったといえばその稀少さがわかるというもの。
同じペースていけば、第3000回は37年後。その頃私はどうしているかな…。

マーラーは1番、2番、9番しか聴いたことがないので、今回聴く8番ももちろん初めて。
「一千人の交響曲」という大層な名前が付けられているけれど、初演時の演奏は実際に千人規模の編成だったとのこと。
もっとも今回のN響は300人くらい?だったようですが、それでも普段私が聴く演奏に比べれば十分に大編成で、舞台が人と楽器で埋め尽くされていました

この曲自体は予習で聴いたときは、第一部の大編成で主張される「神を称えよ!」が煩く感じられて辟易してしまいマーラーが嫌いになりそうだったのだけれど、実際に聴いてもその感覚が完全に払拭されたわけではなかったのだけれど、ところどころで聴こえてくる「マーラーな音」が楽しかった。
個人的には、この曲は第二部の方が美しさが感じられて好きだな。それでも予習のときは全く良さがわからなかったのだけれど。今日の演奏では、途中で(私が)中だるみしつつも、壮大なフィナーレの音の響きの美しさは圧倒的で、嫌な感覚を覚えることなく「音の宇宙」を実感することができました。
録音で聴きたい曲ではないけれど、生で聴くと楽しいですね。N響の弛緩することのない集中力のある演奏も、とてもよかった。なにより、苦手なこの曲を音楽的に楽しむことができたのは、ルイージの品よく開放的でドラマチックな音楽作りのおかげが大きかったのではないかと想像する。

第2000回という記念すべき公演をこうして聴くことができて、イベント好きとはいえない私も、なんだか幸せな気分になることができました。最後にホールを満たしたあの音の宇宙の色とともに、忘れない公演となりました。
まぁ、好きな曲か?と言われると、今もそうとは言えないけれど(マーラーに限らないけど、女性に無条件の愛と救済を求めるような夢見がちな歌詞にもあまり共感できない…)。
そうそう、バンダを照らす?左右のライトがここぞというときにオンになって、その効果も楽しかったです🎵

駆け足で感想をあげてしまったけれど、今年の感想を今年のうちにあげることができて、ほっとしました。音楽に浸りきることができたこの一年、本当に幸せでした。来年はどんな年になるのか想像がつかないけれど、良い年になるといいな。

皆さま、今年も当ブログにお越しくださり、ありがとうございました。

よいお年をお迎えください!

 

ソプラノ:ジャクリン・ワーグナー
ソプラノ:ヴァレンティーナ・ファルカシュ
ソプラノ:三宅理恵アルト:オレシア・ペトロヴァ
アルト:カトリオーナ・モリソン
テノール:ミヒャエル・シャーデ
バリトン:ルーク・ストリフ
バス:ダーヴィッド・シュテフェンス

合唱:新国立劇場合唱団
児童合唱:NHK東京児童合唱団

[Aプログラム]のマーラー《交響曲第8番「一千人の交響曲」》は、ファン投票により、3つの候補曲から選ばれた。名前通りの大編成を必要とするため、100年近い歴史を持つN響が演奏するのも、今回でようやく5回目である。戦後間もない山田和男(一雄)指揮の日本初演に続き、若杉弘、デュトワ、パーヴォ・ヤルヴィといった歴代のタイトル指揮者が、ここぞという時に取り上げてきた。マーラーへの思い入れの強さでは、ルイージも負けていない。彼の推薦する欧米のトップ歌手たち、そして大人数の合唱団がNHKホールに集結する。

実演でしか真価が伝わらない曲がいくつかあると思うが、この作品など、その最たるものだろう。マーラー自身は「これまでの交響曲は、すべてこの曲の序奏に過ぎない」と豪語し、初演も大成功を収めたが、ドイツの音楽美学者アドルノなどは「題材が崇高だからと言って、作品も崇高とは限らない」といった意味のことを述べているし、他にもこの曲に対する否定的見解は少なくない。確かに「聖なるもの」一辺倒で、猥雑な要素がない点は、マーラーの作品としてはかなり異色である。中世の讃歌(第1部)とゲーテの『ファウスト』(第2部)を無理につなぎ合わせたような構成も、一見不自然に感じられる。

しかし、圧倒的な音響空間に身を浸すことで、作品の全体像や、「宇宙の響き」を具現化しようとしたマーラーの意図に、多少なりとも迫れるのではないか。めったにない機会、生で聴くことを特に強くお勧めしたい。
N響HP









クリスチャン・ツィメルマン ピアノリサイタル @サントリーホール(12月13日)

2023-12-31 01:36:30 | クラシック音楽




ショパン:
   ノクターン第2番 変ホ長調 Op. 9-2
   ノクターン第5番 嬰へ長調 Op. 15-2
   ノクターン第16番 変ホ長調 Op. 55-2
   ノクターン第18番 ホ長調 Op. 62-2
   ピアノ・ソナタ第2番 変ロ短調 「葬送」 Op. 35


(休憩)

ドビュッシー:版画
シマノフスキ:ポーランド民謡の主題による変奏曲 Op. 10
ラフマニノフ:13の前奏曲 Op. 32-12(アンコール)
ラフマニノフ:10の前奏曲 Op. 23-4(アンコール)


同プログラムを弾いた4日のSNSの感想で「ショパンが陰翳に乏しく流しているように聴こえる」というものを見かけたので、そしてツィメさんは時々そういう演奏をすることがあるので(そう聴こえることがあるので)少し心配していたのだけど、とんでもない。
今日のショパンは、ノクターンもソナタも、最初から最後までとても丁寧に真摯に弾いてくださっていました。
確かにOp62-2などはポゴレリッチの演奏などに比べるとサラサラと弾いているように聴こえるところもあったけれど、確信をもって弾いている音に、これはこれでツィメルマンの解釈なのだろうと感じることができました。

「ツィメルマンの音」で弾かれるドビュッシーもとても素晴らしかったけれど(ツィメさんはこういう曲もお得意ですよね!)、演奏会後に印象に残ったのは、やはりポーランドの音楽であるショパンとシマノフスキでした。
ポーランドの血の音というか、魂の音というか、そういうものを強く感じた。
(録音で弾いていなかった終曲の星がキラキラ見えるような高音のフレーズ部分を今日は弾いていたように感じたのだけれど、気のせいかな

アンコールのラフマニノフも素晴らしかった。4日のアンコールはop.23-4の一曲のみだったそうなので、今日は二曲弾いてくれて嬉しかったな。Op.32-12はシマノフスキの曲?と思ったら、ラフマニノフだった。
「ツィメルマンの音」で弾かれるラフマニノフがこんなに素晴らしいとは、意外でした。
濃厚なコッテリさがあるわけではないのに、アッサリ軽いわけでもなくて。うまく言えないのだけど、正面からの真っすぐな美しさと深みが真っすぐに心の奥に届く。
唯一無二のピアニストだな、と改めて感じました。
一昨年に続いてこんな演奏を聴かせてくれて、心から感謝です。

このリサイタルでは、彼のヒューマニストとしての側面も改めて確認した。ピアノ・ソナタ(ショパンのピアノソナタ2番)の前、「武器で物事を解決することはできない。にもかかわらず、EUはこの不必要な戦争をさらなる武器をもって解決しようとしている」とドイツの聴取の前で語ったのである。この夜の最後には、「戦争で犠牲になった双方の側の息子たちに、ロシアの作曲家の作品を」と言って密やかな小品を弾いた。ラフマニノフの前奏曲作品23の第4番「アンダンテ・カンタービレ」だった。

 クリスチャン・ツィメルマンというひとりのピアニストのリサイタルを聴きながら、現実の喜びや悲しみも含めて、自分が何か大きな世界につながっていることを実感させてくれるような稀有な夕べだった。

(中村真人:【海外公演レポート】ニュルンベルクのクリスチャン・ツィメルマン








NHK交響楽団 第1999回定期公演 Bプロ @サントリーホール(12月7日)

2023-12-31 01:36:11 | クラシック音楽



ハイドン:交響曲 第100番 ト長調 Hob.I-100 「軍隊」
リスト:ピアノ協奏曲 第1番 変ホ長調
アルヴォ・ペルト:アリーナのために(ソリストアンコール)

(20分間の休憩)

レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ 作品132


私のハイドン好きを知っている音楽仲間がチケットを譲ってくださったので、有難く行ってまいりました。

改めて、ルイージは本当に良い指揮者ですね
ハイドンの「軍隊」はヤンソンス&BRSOで聴いて大感動した音楽なのでN響で感動できるかな?と実はちょっと心配だったのだけど、ルイージ&N響、素晴らしかった。
N響の音はもちろんBRSOのようなドイツ味たっぷりな音ではないけれど、ルイージの歌うハイドン、最初から最後まで引き込まれて聴いてしまいました。

リストの協奏曲を弾いたアリス・紗良・オットを聴くのは、昨年のパリ管以来。
彼女のピアノ、結構好きなんですよね、私。
あの軽やかな音の美しい響き、彼女の個性だと思う。
かつ低音もしっかり聴かせてくれるし、エキサイティングなライブの楽しさもしっかりくれる
ルイージ&N響の伴奏も、奥に引っ込むことなくしっかりピアノとの掛け合いを聴かせてくれて、大満足です。
ソリストアンコールの前にアリスが「音だけが音楽じゃない」のトークが始まったときに、アンコールはペルトだな、とわかりました笑(パリ管のときと同じトークだった)。

レーガーの「モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ」はルイージは初挑戦とのことだけど、素晴らしかった。モーツァルトの軽やかさと美しさから始まる、数々の変奏の楽しさ。構築的に歌い継がれていくそれに全く飽きる暇なく、最後のフーガまで連れて行ってくれました。ルイージって、美しいままドラマチックに突き抜けてくれるところがとても良い。そしてオケの音が開放的で自然。
これからまだまだこのコンビを沢山聴くことができるんですよね。幸せです


[Bプログラム]のレーガーは、今年生誕150年を迎えるドイツ後期ロマン派の作曲家。マーラーと親しく付き合い、《千人の交響曲》の初演にも立ち会ったという。
《モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ》は、有名な《ピアノ・ソナタ第11番》の第1楽章を主題に用いたもので、ブラームスの衣鉢を継ぎ、変奏曲を得意としたレーガーの真骨頂ともいえる作品である。おなじみの優美な主題とともに始まるが、それが途中で原形を留めないほどミニマムな単位に分解され、ついには耽美的な最後の変奏曲と、壮麗なフーガに行き着く。初演は第一次世界大戦の最中。“古きよきヨーロッパ”が失われることへの慨嘆と、旧世界へのノスタルジーが詰まっているかのようだ。記念イヤーにちなんで、ルイージはこの曲に初挑戦することを決意した。

レーガーが引用したモーツァルトの《ピアノ・ソナタ第11番》は、第3楽章のリズムから「トルコ行進曲つき」と呼ばれるが、前半の2曲では、トルコ軍楽隊ゆかりの打楽器が活躍する。
首都ウィーンがオスマン・トルコに包囲されたこともあるハプスブルク帝国。ハイドンが長く暮らしたハンガリーは、その領土の一部だった。トルコから伝わった大太鼓やシンバルは、常に身近に感じられる楽器だったに違いない。これらを使った《交響曲第100番「軍隊」》は、初演地ロンドンをはじめ、異国の文化を歓迎するヨーロッパの聴衆に大いに喜ばれた。
シンプルでごまかしの効かないハイドンの交響曲は、オーケストラにとっての試金石。昨シーズンは《第82番「くま」》を演奏したが、ルイージの在任中は、これからもコンスタントに取り上げるつもりである。

ハンガリー生まれのリストは、トルコ軍楽隊の楽器の模倣として使われ始めたトライアングルを、《ピアノ協奏曲第1番》で準主役に引き立てた。主題が巧みに変奏され、クライマックスに行き着く構造は、レーガー作品にも共通する。リストの《超絶技巧練習曲集》で華々しくデビューした人気ソリスト、アリス・紗良・オットが、久しぶりにこの曲に挑む。
N響HP