この二つの方剤をどう使い分けるべきなのかを考えてみました。
先日聴講した加島雅之先生のセミナーでは、
★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い;
(抑肝散)自罰的、がまんが怒りへ変わる
(加味逍遥散)他罰的、熱として発散
と口訣を教わり、なるほどとうなづきました。
スライド原稿からは、抑肝散は肝風内動の項目に、加味逍遥散はその他の項目に記されています。
【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
柴胡 → 疏肝解欝
蒼朮・茯苓 → 理気健脾
当帰・川芎 → 養血疏肝
釣藤鈎 → 清肝熄風
甘草 → 調和
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的情動発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(主治)肝欝化風
【加味逍遥散】
(組成)当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
当帰・芍薬 → 養血柔肝
柴胡 → 疏肝解欝
蒼朮・茯苓 → 理気健脾
牡丹皮 → 清熱涼血
山梔子 → 清熱除煩
薄荷 → 清熱除煩?
生姜 → 醒脾
甘草 → 調和
(効能)疏肝解欝、清熱除煩、健脾養血、活血
(主治)肝鬱化熱、心煩火旺、血虚血瘀、肝脾不和、防陰虚
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、腹痛、便秘、月経不順、月経痛、めまい、のぼせ、胸苦しい感じ
(所見)脈弦、舌紅
★ 月経周期がバラバラなときに有効。
ツムラ漢方スクエア内にある西本隆先生の「抑肝散と加味逍遥散」を読んでみました。
抑肝散あるいは加味逍遥散が有効であったパーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつという報告を紹介し、生薬構成からみると、抑肝散の釣藤鈎と加味逍遥散の山梔子がポイントであると記しています。
また、関連処方として柴胡加竜骨牡蛎湯に触れ、抑肝散/加味逍遥散と比べると、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴であり、柴胡加竜骨牡蛎湯証では未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多い、とも。
ふたつ(加島Dr./西本Dr.)の口訣・意見は繋がるでしょうか?
(抑肝散) 自罰的・・・精神的に強い・打ち解けない
(加味逍遥散)他罰的・・・精神的に弱い・打ち解ける
私の素人的印象では、表面上の「イライラ・神経過敏・易怒性」は共通するものの、
(抑肝散)ガマン強いことがあだになって他人に相談することができず自分が壊れてしまう、ストレスを内にため込んで怒りに変化させるタイプ
(加味逍遥散)ガマンすることができず他人に当たり散らし、ストレスを周囲にまき散らすタイプ
なのかな、と思いました。
【抑肝散】
□ 適応病態(証):原典の『保嬰撮要』(1554,薛鎧・薛己)には「肝経の虚熱発搐、あるいは痰熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木乗土して嘔吐痰涎、腹張小食、睡臥不安を治す」とある。
□ 肝から生じる内風と類似の病態の鑑別:
肝の気血が順調に流れているとき、肝気は自然に昇発し、胆気は下降する。
なんらかの原因によって生理的な肝気の流れが障害されると,肝気鬱結・肝火上炎・肝陽上亢・肝風内動といった病的状態が出現する。この4種の病態は教科書的には表2のように分類されるが、これらは互いに相関しており、次のような連鎖を生じている。つまり、
・肝気の鬱結が長期化するとそこに熱が生じ肝火上炎の病態へ進む。
・肝火は肝の陰血を消耗し肝血不足の状態となり、これにより肝陽が上亢し、ついには肝風を生じる。
□ 抑肝散の証:
抑肝散証とは、元来肝気が疎通しにくい体質のものが長期間ストレスにさらされた結果、肝血不足を生じる。肝血不足は虚熱を誘発し、血燥となって、その結果、肝陽が上亢し内風を生む。また、木乗土すなわち、肝気がスムーズに運行しなくなった結果、脾を傷つけ(肝脾不和)種々の消化管症状や脾虚症状が出現してくる。このように、肝血不足それに伴う肝脾不和の病態とそこから派生した肝陽上亢および内風が抑肝散の証なのである。抑肝散の処方構成は、
・当帰:肝血を補う
・柴胡:肝に鬱滞した気を散じる
・川芎:活血し気をめぐらせる
・甘草・白朮・茯苓:補脾剤
・釣藤鈎:熄風
ーとなっている。
【抑肝散加陳皮半夏】
抑肝散に陳皮・半夏を加えた処方が日本では経験方として用いられている。これは抑肝散と二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草)合方とも解釈でき、抑肝散の病態からさらに脾胃の虚が進んで、痰飲の生成を強めた病態に用いられる。
日本漢方の成書(矢数道明:漢方処方解説.創元社)には「腹筋の無力化と左腹部大動脈の 動悸亢進」という特有の腹症が説明されている。
★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;(加島雅之Dr.)
陽性症状と陰性症状の有無で考える。
陽性症状のみ → 抑肝散
陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏
【加味逍遥散】
□ 原典:
加味逍遙散の原典は『内科摘要』(1529)で、抑肝散の原典である『保嬰撮要』と同じ薛己によるもの。
□ 生薬構成:当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
本方は丹梔逍遙散とも呼ばれるように、逍遙散に牡丹皮と山梔子を加えたものである。
□ 適応病態(証):
原典には「血虚により労倦し、五心煩熱し、肢体疼痛し、頭目昏重し、心○頬赤し、口乾咽乾し、発熱盗汗し、減食嗜臥する。及び血熱相搏ち、月水調わず、臍腹脹痛し、寒熱すること瘧の如きを治す」とある。すなわち、血虚証とそれに付随する瘀血・鬱熱の症状および肝脾不和の病態が逍遙散証であり、これに対して、それぞれの生薬が次のような働きをしている。
・当帰・芍薬: 肝血を補い、肝血虚・血燥・血瘀・血熱を改善する。
・柴胡:肝に滞った気を散じる。
・白朮・茯苓・甘草・生姜:肝血不足および肝気鬱滞により脾の機能が障害される(肝脾不和)病態を改善する。
・薄荷:上記の病態により発生した鬱熱を辛涼解表作用により散じる。
加味逍遙散は、上記のような逍遙散証に加えて、さらに肝血虚から血燥・血瘀・血熱状態が亢進し、また、心熱が上行する状態に、清熱涼血の牡丹皮と清心熱の山梔子を加味したものと考えられる。
■ 抑肝散と加味逍遙散の使い分け
喜多は、抑肝散加陳皮半夏有効群と加味逍遙散有効群 について、CMI健康調査票と16PFを用いて精神的愁訴の分析とパーソナリティー特性を検討した結果、精神的愁訴に関しては両群ともイライラ・神経過敏・易怒性などの症状に差が認められなかったものの、パーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつことを報告している(現代社会と漢方-心理的側面から見た証の判別.日本東洋医学雑誌,Vol.49 No.5, pp760-774,1999)。
これについて、それぞれの処方の構成生薬を比較すると表4のようになるが、抑肝散のみに含まれる釣藤鈎は「よく心肝の火をさまし熄風する」とあり、肝火を清する作用をもちながらも「広範囲な湿熱証に使用され」「鬱熱を冷まし取り去り煩熱を除き解毒する」山梔子(三浦於菟:実践漢薬学.医歯薬出版社,2004)との性格の違いが、両処方の適応するパーソナリティーに関係している可能性がある。
【柴胡加竜骨牡蛎湯】
これも精神神経症状や更年期障害に用いられる処方である。上述の2つの処方(抑肝散と加味逍遥散)と比べて、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴である。すなわち、柴胡加竜骨牡蛎湯証では、未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多いとする喜多の報告が示唆的であり、方剤使用のうえでのメルクマールになるものであると考える。
次にまとめとして、秋葉哲生先生の総論的解説から;
【抑肝散】
1 出典:薛鎧・薛己(父子でセツガイ・セツキと読む)著『保嬰撮要』
●肝経の虚熱、搐を発し、あるいは発熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木土に乗じて嘔吐痰涎、腹脹食少なく、睡臥不安なるものを治す。(急驚風門)
2 腹候:腹力中等度以下(2-3/5)。腹直筋の拘攣を認める。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈舌:原則的に、舌質はやや紅、舌苔は白、脈は弦細軟。
6 口訣:
●(本方を用いる時は)怒りはなしやと問うべし。(目黒道琢)。
●この方を大人の半身不随に用いるのは和田東郭の経験である。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症。
b 漢方的適応病態:気血両虚の肝陽化風。
すなわち、いらいら、怒りっぽい、頭痛、めまい感、眠りが浅い、頭のふらつき、筋肉の痙攣やひきつけ、手足のふるえなどの肝陽化風の症候に、元気がない、疲れやすい、食が細い、皮膚につやがない、動悸、しびれ感などの気血両虚の症候を伴うもの。(『中医処方解説』)
★ より深い理解のために 五臓の肝と胆の機能を考えよう。肝胆の機能は、「情報の処理と決断」である。
8 構成生薬:
蒼朮4、茯苓4、川芎3、釣藤鈎3、当帰3、柴胡2、甘草1.5。(単位g)
9 TCM的解説:平肝熄風・補気血(平肝鎮驚・理気和胃)。
10 効果増強の工夫:
1 )ふるえ、ふらつきなど風動の症候が強ければ、
処方例) ツムラ抑肝散 7.5g
ツムラ桂枝加竜骨牡蛎湯 5.0g(1-0-1) 分3食前
2 )いらいら、のぼせ、ほてりなど肝火の症候が強ければ牡丹皮、山梔子などを加える目的で、
処方例) ツムラ抑肝散 5.0g
ツムラ加味逍遙散 5.0g 分2朝夕食前
3 )悪心、嘔吐、腹部膨満感などの症状と、舌苔が白膩で、痰湿の症候を伴う時は、陳皮、半夏を配した抑肝散加陳皮半夏とする。
処方例) ツムラ抑肝散加陳皮半夏 7.5g 分3食前
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
癎症・神経症・神経衰弱・ヒステリー等に用いられ、また夜啼・不眠症・癇癪持ち・夜の歯ぎしり・癲癇・不明の発熱・更年期障害・血の道症で神経過敏・四肢萎弱症・陰痿症・悪阻・佝僂病・チック病・脳腫瘍症状・脳出血後遺症・神経性斜頸等に応用される。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より
痙攣、驚悸、或は発熱、或は寒熱、或は嘔吐痰涎、腹脹、食欲不振、不眠のもの、或は左直腹筋緊張、心下部つかえ、四肢拘攣、或は麻痺、不眠、腹動、怒気あるもの。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より
パーキンソン病、脳出血後のふるえ、乳幼児のひきつけ、夜驚症、眼瞼痙攣、神経性斜頸、歯ぎしりなど。
<ヒント>
怒りを外に表す患者への適応は容易だが、現代の日本人は怒りを内に秘めており、そのあまり自分が怒っていることすら自覚しない例がある。「怒り」の有無を丁寧に問うことが本方を活用する鍵であり、症例は意外に多い。メンタルヘルス外来管理の要薬の1つといってよい。
【加味逍遙散】(別名:丹梔逍遙散)
1 出典:『和剤局方』
血虚労倦、五心煩熱、肢体疼痛、頭目昏重、心頬赤、口燥咽乾、発熱盗汗、減食嗜臥、及び血熱あい打ち、経水調わず、臍腹脹痛、寒熱瘧の如くなるを治す。また室女血弱、陰虚して栄衛和せず、痰嗽潮熱、肌体羸痩、漸く骨蒸と成を治す。(和剤局方、婦人諸疾門逍遙散条)
(貧血倦怠、あちこちの熱感、身体疼痛、頭重めまい、頬赤くのぼせ、口のど乾き、発熱ねあせ、食思不振で臥せがち、月経が不順、腹痛したりする、のぼせたり冷えたりを治す。また未婚の女子、婦人科の不調により体調わるく、痰あり、咳あり、やせ細り、次第に慢性の熱病となるを治す。)
2 腹候:腹力中等度かそれ以下(2-3/5)。胸脇苦満を認めることがある。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:舌質は紅、舌苔は黄。脈は弦細数。
6 口訣:
●老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通せざると云ふもの、何病に限らずこの方を用れば、大便快通して諸病も治すと云う。(浅田宗伯)
●婦人いっさいの申し分に用いてよくきく。いまより十数年前は、世間の医者は、婦人の病というとほとんどこの方を用いた。男子でも癇癪持ちに適する。(百々漢陰)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症(一般的に男性にも保険上の適用が認められている。病名は不定愁訴などで可である)。
b 漢方的適応病態:
逍遙散は肝気鬱結・血虚・脾虚に適応される。加味逍遙散は、これに牡丹皮、山梔子の適応状態が加わったもの。
★ より深い理解のために:
肝気鬱結とは、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、胸脇部が張って苦しい、脇の痛み、腹痛などをいう。血虚の症候とは、頭がふらつく、頭がボーッとする、目が疲れる、四肢がしびれる、皮膚につやがない、動悸、眠りが浅い、多夢などをいう。脾虚とは、食欲がない、疲れやすい、倦怠感、浮腫、下痢傾向、あるいは下痢便秘の交代などの症候をいう。月経については、不定な周期、過少月経、無月経など。
8 構成生薬:
柴胡3、芍薬3、蒼朮3、当帰3、茯苓3、山梔子2、牡丹皮2、甘草1.5、生姜1、薄荷1。(単位g)
9 TCM的解説:疏肝解欝・健脾補血・瀉火・調経(逍遙散に熱証を伴うもの)。
10 効果増強の工夫:
服後の状態からの判断により、瀉肝、清熱、補気、補血のいずれに重点を置くかでさまざまな兼用方、合方がありうる。例として瀉肝には竜胆瀉肝湯、清熱には黄連解毒湯、補気には四君子湯、補血には四物湯などが考えられる。
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
更年期障害(血の道症)・月経不順・流産や中絶および卵管結紮後に起こる諸神経症状に用いられ、また不妊症・結核初期症候・尿道炎・膀胱炎・帯下・産後口内炎・湿疹・手掌角皮症・肝斑・肝硬変症・慢性肝炎・疳癪持ち・便秘症等に応用される。
●龍野一雄『改訂新版漢方処方集』より
月経不順、血の道症、帯下、ノイローゼ、不眠症、心悸亢進症、気鬱症。
以上の状態で熱候または上部に充血症状あるもの。
●桑木崇秀『漢方診療ハンドブック』より
虚証の冷えのぼせ(上熱下寒)、更年期障害、月経不順、指掌角皮症。
先日聴講した加島雅之先生のセミナーでは、
★ 抑肝散と加味逍遥散の適応症状の違い;
(抑肝散)自罰的、がまんが怒りへ変わる
(加味逍遥散)他罰的、熱として発散
と口訣を教わり、なるほどとうなづきました。
スライド原稿からは、抑肝散は肝風内動の項目に、加味逍遥散はその他の項目に記されています。
【抑肝散】
(組成)柴胡5.0;朮・茯苓各4.0;川芎・当帰・釣藤各3.0;甘草1.5
柴胡 → 疏肝解欝
蒼朮・茯苓 → 理気健脾
当帰・川芎 → 養血疏肝
釣藤鈎 → 清肝熄風
甘草 → 調和
(効能)疏肝解欝 平肝熄風 理気健脾 養血活血
(症状)イライラ(怒りを我慢)、抑うつ、めまい、筋けいれん、突発的情動発作、くいしばり・歯ぎしり、電撃痛
(所見)胸脇苦満傾向、脈弦傾向
(主治)肝欝化風
【加味逍遥散】
(組成)当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
当帰・芍薬 → 養血柔肝
柴胡 → 疏肝解欝
蒼朮・茯苓 → 理気健脾
牡丹皮 → 清熱涼血
山梔子 → 清熱除煩
薄荷 → 清熱除煩?
生姜 → 醒脾
甘草 → 調和
(効能)疏肝解欝、清熱除煩、健脾養血、活血
(主治)肝鬱化熱、心煩火旺、血虚血瘀、肝脾不和、防陰虚
(症状)イライラ、抑うつ、胸脇苦満、腹痛、便秘、月経不順、月経痛、めまい、のぼせ、胸苦しい感じ
(所見)脈弦、舌紅
★ 月経周期がバラバラなときに有効。
ツムラ漢方スクエア内にある西本隆先生の「抑肝散と加味逍遥散」を読んでみました。
抑肝散あるいは加味逍遥散が有効であったパーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつという報告を紹介し、生薬構成からみると、抑肝散の釣藤鈎と加味逍遥散の山梔子がポイントであると記しています。
また、関連処方として柴胡加竜骨牡蛎湯に触れ、抑肝散/加味逍遥散と比べると、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴であり、柴胡加竜骨牡蛎湯証では未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多い、とも。
ふたつ(加島Dr./西本Dr.)の口訣・意見は繋がるでしょうか?
(抑肝散) 自罰的・・・精神的に強い・打ち解けない
(加味逍遥散)他罰的・・・精神的に弱い・打ち解ける
私の素人的印象では、表面上の「イライラ・神経過敏・易怒性」は共通するものの、
(抑肝散)ガマン強いことがあだになって他人に相談することができず自分が壊れてしまう、ストレスを内にため込んで怒りに変化させるタイプ
(加味逍遥散)ガマンすることができず他人に当たり散らし、ストレスを周囲にまき散らすタイプ
なのかな、と思いました。
【抑肝散】
□ 適応病態(証):原典の『保嬰撮要』(1554,薛鎧・薛己)には「肝経の虚熱発搐、あるいは痰熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木乗土して嘔吐痰涎、腹張小食、睡臥不安を治す」とある。
□ 肝から生じる内風と類似の病態の鑑別:
肝の気血が順調に流れているとき、肝気は自然に昇発し、胆気は下降する。
なんらかの原因によって生理的な肝気の流れが障害されると,肝気鬱結・肝火上炎・肝陽上亢・肝風内動といった病的状態が出現する。この4種の病態は教科書的には表2のように分類されるが、これらは互いに相関しており、次のような連鎖を生じている。つまり、
・肝気の鬱結が長期化するとそこに熱が生じ肝火上炎の病態へ進む。
・肝火は肝の陰血を消耗し肝血不足の状態となり、これにより肝陽が上亢し、ついには肝風を生じる。
□ 抑肝散の証:
抑肝散証とは、元来肝気が疎通しにくい体質のものが長期間ストレスにさらされた結果、肝血不足を生じる。肝血不足は虚熱を誘発し、血燥となって、その結果、肝陽が上亢し内風を生む。また、木乗土すなわち、肝気がスムーズに運行しなくなった結果、脾を傷つけ(肝脾不和)種々の消化管症状や脾虚症状が出現してくる。このように、肝血不足それに伴う肝脾不和の病態とそこから派生した肝陽上亢および内風が抑肝散の証なのである。抑肝散の処方構成は、
・当帰:肝血を補う
・柴胡:肝に鬱滞した気を散じる
・川芎:活血し気をめぐらせる
・甘草・白朮・茯苓:補脾剤
・釣藤鈎:熄風
ーとなっている。
【抑肝散加陳皮半夏】
抑肝散に陳皮・半夏を加えた処方が日本では経験方として用いられている。これは抑肝散と二陳湯(半夏・茯苓・陳皮・生姜・甘草)合方とも解釈でき、抑肝散の病態からさらに脾胃の虚が進んで、痰飲の生成を強めた病態に用いられる。
日本漢方の成書(矢数道明:漢方処方解説.創元社)には「腹筋の無力化と左腹部大動脈の 動悸亢進」という特有の腹症が説明されている。
★ 精神症状における抑肝散と抑肝散陳皮半夏の使い分け;(加島雅之Dr.)
陽性症状と陰性症状の有無で考える。
陽性症状のみ → 抑肝散
陽性症状+陰性症状→ 抑肝散加陳皮半夏
【加味逍遥散】
□ 原典:
加味逍遙散の原典は『内科摘要』(1529)で、抑肝散の原典である『保嬰撮要』と同じ薛己によるもの。
□ 生薬構成:当帰・芍薬・柴胡・蒼朮・茯苓各3.0;甘草・牡丹皮・梔子各2.0;薄荷・乾生姜各1.0
本方は丹梔逍遙散とも呼ばれるように、逍遙散に牡丹皮と山梔子を加えたものである。
□ 適応病態(証):
原典には「血虚により労倦し、五心煩熱し、肢体疼痛し、頭目昏重し、心○頬赤し、口乾咽乾し、発熱盗汗し、減食嗜臥する。及び血熱相搏ち、月水調わず、臍腹脹痛し、寒熱すること瘧の如きを治す」とある。すなわち、血虚証とそれに付随する瘀血・鬱熱の症状および肝脾不和の病態が逍遙散証であり、これに対して、それぞれの生薬が次のような働きをしている。
・当帰・芍薬: 肝血を補い、肝血虚・血燥・血瘀・血熱を改善する。
・柴胡:肝に滞った気を散じる。
・白朮・茯苓・甘草・生姜:肝血不足および肝気鬱滞により脾の機能が障害される(肝脾不和)病態を改善する。
・薄荷:上記の病態により発生した鬱熱を辛涼解表作用により散じる。
加味逍遙散は、上記のような逍遙散証に加えて、さらに肝血虚から血燥・血瘀・血熱状態が亢進し、また、心熱が上行する状態に、清熱涼血の牡丹皮と清心熱の山梔子を加味したものと考えられる。
■ 抑肝散と加味逍遙散の使い分け
喜多は、抑肝散加陳皮半夏有効群と加味逍遙散有効群 について、CMI健康調査票と16PFを用いて精神的愁訴の分析とパーソナリティー特性を検討した結果、精神的愁訴に関しては両群ともイライラ・神経過敏・易怒性などの症状に差が認められなかったものの、パーソナリティー特性は、抑肝散加陳皮半夏群に「精神的に強い・打ち解けない」、加味逍遙散群では「精神的に弱い・打ち解ける」という特徴をもつことを報告している(現代社会と漢方-心理的側面から見た証の判別.日本東洋医学雑誌,Vol.49 No.5, pp760-774,1999)。
これについて、それぞれの処方の構成生薬を比較すると表4のようになるが、抑肝散のみに含まれる釣藤鈎は「よく心肝の火をさまし熄風する」とあり、肝火を清する作用をもちながらも「広範囲な湿熱証に使用され」「鬱熱を冷まし取り去り煩熱を除き解毒する」山梔子(三浦於菟:実践漢薬学.医歯薬出版社,2004)との性格の違いが、両処方の適応するパーソナリティーに関係している可能性がある。
【柴胡加竜骨牡蛎湯】
これも精神神経症状や更年期障害に用いられる処方である。上述の2つの処方(抑肝散と加味逍遥散)と比べて、当帰・芍薬という補血剤が含まれておらず、肝陽上亢を防ぎ心神の安定作用をもつ竜骨・牡蛎が含まれるのが特徴である。すなわち、柴胡加竜骨牡蛎湯証では、未だ肝血虚の病態には至っていないと考えられ、このことは過敏・怒りに関する訴えを特徴とする抑肝散加陳皮半夏および加味逍遙散群に比べて、柴胡加竜骨牡蛎湯証では緊張に対する訴えが多いとする喜多の報告が示唆的であり、方剤使用のうえでのメルクマールになるものであると考える。
次にまとめとして、秋葉哲生先生の総論的解説から;
【抑肝散】
1 出典:薛鎧・薛己(父子でセツガイ・セツキと読む)著『保嬰撮要』
●肝経の虚熱、搐を発し、あるいは発熱咬牙、あるいは驚悸寒熱、あるいは木土に乗じて嘔吐痰涎、腹脹食少なく、睡臥不安なるものを治す。(急驚風門)
2 腹候:腹力中等度以下(2-3/5)。腹直筋の拘攣を認める。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈舌:原則的に、舌質はやや紅、舌苔は白、脈は弦細軟。
6 口訣:
●(本方を用いる時は)怒りはなしやと問うべし。(目黒道琢)。
●この方を大人の半身不随に用いるのは和田東郭の経験である。(浅田宗伯)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
虚弱な体質で神経がたかぶるものの次の諸症:神経症、不眠症、小児夜泣き、小児疳症。
b 漢方的適応病態:気血両虚の肝陽化風。
すなわち、いらいら、怒りっぽい、頭痛、めまい感、眠りが浅い、頭のふらつき、筋肉の痙攣やひきつけ、手足のふるえなどの肝陽化風の症候に、元気がない、疲れやすい、食が細い、皮膚につやがない、動悸、しびれ感などの気血両虚の症候を伴うもの。(『中医処方解説』)
★ より深い理解のために 五臓の肝と胆の機能を考えよう。肝胆の機能は、「情報の処理と決断」である。
8 構成生薬:
蒼朮4、茯苓4、川芎3、釣藤鈎3、当帰3、柴胡2、甘草1.5。(単位g)
9 TCM的解説:平肝熄風・補気血(平肝鎮驚・理気和胃)。
10 効果増強の工夫:
1 )ふるえ、ふらつきなど風動の症候が強ければ、
処方例) ツムラ抑肝散 7.5g
ツムラ桂枝加竜骨牡蛎湯 5.0g(1-0-1) 分3食前
2 )いらいら、のぼせ、ほてりなど肝火の症候が強ければ牡丹皮、山梔子などを加える目的で、
処方例) ツムラ抑肝散 5.0g
ツムラ加味逍遙散 5.0g 分2朝夕食前
3 )悪心、嘔吐、腹部膨満感などの症状と、舌苔が白膩で、痰湿の症候を伴う時は、陳皮、半夏を配した抑肝散加陳皮半夏とする。
処方例) ツムラ抑肝散加陳皮半夏 7.5g 分3食前
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
癎症・神経症・神経衰弱・ヒステリー等に用いられ、また夜啼・不眠症・癇癪持ち・夜の歯ぎしり・癲癇・不明の発熱・更年期障害・血の道症で神経過敏・四肢萎弱症・陰痿症・悪阻・佝僂病・チック病・脳腫瘍症状・脳出血後遺症・神経性斜頸等に応用される。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より
痙攣、驚悸、或は発熱、或は寒熱、或は嘔吐痰涎、腹脹、食欲不振、不眠のもの、或は左直腹筋緊張、心下部つかえ、四肢拘攣、或は麻痺、不眠、腹動、怒気あるもの。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より
パーキンソン病、脳出血後のふるえ、乳幼児のひきつけ、夜驚症、眼瞼痙攣、神経性斜頸、歯ぎしりなど。
<ヒント>
怒りを外に表す患者への適応は容易だが、現代の日本人は怒りを内に秘めており、そのあまり自分が怒っていることすら自覚しない例がある。「怒り」の有無を丁寧に問うことが本方を活用する鍵であり、症例は意外に多い。メンタルヘルス外来管理の要薬の1つといってよい。
【加味逍遙散】(別名:丹梔逍遙散)
1 出典:『和剤局方』
血虚労倦、五心煩熱、肢体疼痛、頭目昏重、心頬赤、口燥咽乾、発熱盗汗、減食嗜臥、及び血熱あい打ち、経水調わず、臍腹脹痛、寒熱瘧の如くなるを治す。また室女血弱、陰虚して栄衛和せず、痰嗽潮熱、肌体羸痩、漸く骨蒸と成を治す。(和剤局方、婦人諸疾門逍遙散条)
(貧血倦怠、あちこちの熱感、身体疼痛、頭重めまい、頬赤くのぼせ、口のど乾き、発熱ねあせ、食思不振で臥せがち、月経が不順、腹痛したりする、のぼせたり冷えたりを治す。また未婚の女子、婦人科の不調により体調わるく、痰あり、咳あり、やせ細り、次第に慢性の熱病となるを治す。)
2 腹候:腹力中等度かそれ以下(2-3/5)。胸脇苦満を認めることがある。
3 気血水:気血水いずれにも関わる。
4 六病位:少陽病。
5 脈・舌:舌質は紅、舌苔は黄。脈は弦細数。
6 口訣:
●老医の伝に、大便秘結して朝夕快く通せざると云ふもの、何病に限らずこの方を用れば、大便快通して諸病も治すと云う。(浅田宗伯)
●婦人いっさいの申し分に用いてよくきく。いまより十数年前は、世間の医者は、婦人の病というとほとんどこの方を用いた。男子でも癇癪持ちに適する。(百々漢陰)
7 本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、ときに便秘の傾向のある次の諸症:冷え症、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症(一般的に男性にも保険上の適用が認められている。病名は不定愁訴などで可である)。
b 漢方的適応病態:
逍遙散は肝気鬱結・血虚・脾虚に適応される。加味逍遙散は、これに牡丹皮、山梔子の適応状態が加わったもの。
★ より深い理解のために:
肝気鬱結とは、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、胸脇部が張って苦しい、脇の痛み、腹痛などをいう。血虚の症候とは、頭がふらつく、頭がボーッとする、目が疲れる、四肢がしびれる、皮膚につやがない、動悸、眠りが浅い、多夢などをいう。脾虚とは、食欲がない、疲れやすい、倦怠感、浮腫、下痢傾向、あるいは下痢便秘の交代などの症候をいう。月経については、不定な周期、過少月経、無月経など。
8 構成生薬:
柴胡3、芍薬3、蒼朮3、当帰3、茯苓3、山梔子2、牡丹皮2、甘草1.5、生姜1、薄荷1。(単位g)
9 TCM的解説:疏肝解欝・健脾補血・瀉火・調経(逍遙散に熱証を伴うもの)。
10 効果増強の工夫:
服後の状態からの判断により、瀉肝、清熱、補気、補血のいずれに重点を置くかでさまざまな兼用方、合方がありうる。例として瀉肝には竜胆瀉肝湯、清熱には黄連解毒湯、補気には四君子湯、補血には四物湯などが考えられる。
11 本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より
更年期障害(血の道症)・月経不順・流産や中絶および卵管結紮後に起こる諸神経症状に用いられ、また不妊症・結核初期症候・尿道炎・膀胱炎・帯下・産後口内炎・湿疹・手掌角皮症・肝斑・肝硬変症・慢性肝炎・疳癪持ち・便秘症等に応用される。
●龍野一雄『改訂新版漢方処方集』より
月経不順、血の道症、帯下、ノイローゼ、不眠症、心悸亢進症、気鬱症。
以上の状態で熱候または上部に充血症状あるもの。
●桑木崇秀『漢方診療ハンドブック』より
虚証の冷えのぼせ(上熱下寒)、更年期障害、月経不順、指掌角皮症。