漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

中医学における「肝陽上亢」「肝火上炎」とは?

2018年01月28日 16時18分53秒 | 漢方
初学者のための中医用語:①「肝陽上亢」(別府正志Dr.:漢方スクエア)より

 とにかくわかりにくい中医学用語。
 食わず嫌いを卒業する目的で「肝」に食らいついてみました。
 まずは「肝陽上亢」と「肝火上炎」。

 前者は肉体的に疲労困憊して体が火照っている状態、後者はストレスでカッカしている状態、というイメージでしょうか。
 あ、肝陽上亢は「原発で冷却水が不足し温度が上昇した状態」がピッタリですね。

「肝陽上亢」と「肝火上炎」の違い
 肝火上炎は,肝 気鬱結が長く続くなどの原因で気火が上逆して出現する病証を指すのに対し、肝陽上亢は腎陰虚によって肝陰が不足し、肝陽を抑制できずに上亢して出現する病証を指す。つまり肝火上炎は純粋な実証なのに対し、肝陽上亢は虚実錯雑証であるといえる。


 これは、「臓腑学説・肝」(大阪医療技術学園専門学校東洋医療技術教員養成学科講義ノート、奈良上眞)のシェーマがわかりやすいですね。


中医学における「虚実」
 中医学では、人を発病させうる病因を邪気と呼び、それに対応する人の力を正気と呼ぶ。人が発病するには、邪気が正気を上回って人を犯すことが必要で、そのためには邪気が強すぎる(邪実)か、正気が弱すぎる(正虚)か、もしくはその両方がある(虚実錯雑)のいずれかが存在することとなる。邪実は実証、正虚は虚証であり、日本漢方の一部とは定義が異なることに留意することが必要。


 日本漢方では、邪の存在を消して、人の力が弱いか強いかで虚実と捉えます。

病気は陰陽バランスが崩れた状態
・陰盛証(または実寒証):陰が剰余
・陽盛証(または実熱証):陽が剰余
・陰虚証(または虚熱証):陰が不足
・陽虚証(または虚寒証):陽が不足
・陽盛兼陰虚証:陽盛が陰に及んだ(これには陰虚が陽を制約しきれなくなって起きる場合もある)
・陰盛兼陽虚証:陰盛が陽に及んだ(陽虚が陰を制約しきれない場合もある)
ーなどがある。
 陰が盛んな陰盛証は、からだは寒に傾くため寒証であり、通常よりも陰が剰余な状態の実証であるため実寒証ともいわれる。




 わかりにくいけど、図と照らし合わせて見つめていると何となく頷けます。

中医学の生理学は、「蔵象学説」「気血津液学説」「経絡学説」の3つだけ。
臓象学説)身体の内部に隠れた本質的な変化は、必ず体表に象として現れるという哲学がベースになっ ている。人の体の主な働きを5つの系統に分け、その中心を体内奥深くにある「臓」に置き、かつそれに代表させる。
 消化器系であれば脾、循環器系(+精神系)を心、呼吸器系であれば肺、といった具合。この場合、肝は西洋医学 でいえば自律神経系といったところだが、東洋医学的には肝の主要な作用は蔵血と疏泄を主るこ とで、必要とされるところに血を送り、また気の流れ・消化の働き・情志をスムーズにさせる。腎は泌尿器・ 生殖器系と考えることも可能だが、主要な作用は精を蔵すること、水を主ること、納気を主ることの3つである。精の働きとして、生殖機能の促進、成長と発育を促す、血液の生成に参与する、各臓腑の陰陽の元となる、などがある。


 やはり肝の「蔵血と疏泄」という概念が一番わかりにくいですね。

肝火上炎
 心・肝・脾・肺・腎の五臓を中心とした系統は、それぞれ体表の器官や組織とも繋がっていると考える。例えば肝は目に繋がり(開竅する)、筋・ 爪などにも連なっているとされている。そのため、奥の方の本質的な肝の変化が目・筋・爪など体表の変化となって現れ、それを把握することで病気の本質をとらえることができる。肝の経絡はまた、頭頂部にも達している。
 肝は五行の木行に属しており、火が燃えやすい特徴をもっているため、肝火が抑制できないと容易に上炎し、頭に上り、頭痛や眩暈、耳鳴りなどが発生する。これが肝火上炎による病証である。
 中医学では、邪気の原因は体の外だけでなく中にもあると考える。
 代表的なのは2次的な病因である瘀血と痰飲だが、「五邪内生」と呼ばれるものもあります。これは、疾病の過程において気血津液と臓腑などの異常によって生まれた、風・ 寒・火・湿・燥の五邪と似通っている病理現象のこと。肝から発生する火は内火の1つで、内火は陽盛・陰虚・気血の鬱滞・病邪の鬱結などで発生する。肝火上炎の場合、多くはその原因は気の鬱滞にある。



肝陽上亢
 肝陽を抑えるのは肝陰であり、具体的には肝に貯蔵された肝血がその役割を担う。この肝血を化生しているのは何か? これが腎陰である。腎に蔵される精が各臓腑の陰陽の元となるということはこういう意味で、腎が肝陰を支えると同時に、肝と腎との関係は精血同源といって、お互いに化生できるという考え方があり、これからも肝陰は腎陰に大きく依存していることがわかる。
 したがって、単純に肝陽が過剰になって上炎する以外に、肝陰が不足して肝陽が上に昇る病態を考えなければならない。この背景には上述したように腎陰の不足がベースにあることになる。この状態を肝陽上亢という。
 文字には表れていないが、必ず肝腎陰虚が背景にあることを忘れてはいけない。臨床上では、頭痛・眩暈・耳鳴りなどの上半身の症状は肝火上炎とほとんど同じだが、腰や膝のだるさや無力、脈の弦細数などの腎陰虚の証が必ず現れている。肝陽上亢の場合も、内火としての肝火の存在がありる。内火の原因はこの場合は陰虚が原因の内火ということになる。
 ちなみに、肝陽上亢には天麻鈎藤飲、肝火上炎には竜胆瀉肝湯が第一選択となる。


★ (花月クリニックHPより
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