温清飲の加味方である柴胡清肝湯と荊芥連翹湯。
前項では扱いきれなかったので別に項目を設けました。
長くなるので、最初に調べてポイントと思われた事項を提示しておきます。
結論から申し上げると、元の温清飲は一般に病気が慢性化し・陰陽が入り乱れ,寒熱が交わっている時に使用する方剤、その加味方である柴胡清肝湯は易感染性の虚弱児に対する体質改善薬、荊芥連翹湯はさらに成長した思春期以降の体質改善薬として設定された方剤です。
各々のターゲットは、
・柴胡清肝湯:呼吸器・耳鼻>皮膚
・荊芥連翹湯:耳鼻>皮膚
と理解しました。
【柴胡清肝湯】
構成生薬:(温清飲+柴胡・連翹+)桔梗・薄荷・牛蒡子・天花粉
八綱分類:裏熱虚証(赤本)
虚実:虚実中間
気血水:気滞、血虚
漢方的適応病態:血虚血熱・風熱
TCM的解説:清熱解毒・祛風排膿・養血・止血
(備考)
・「解毒証体質=結核症体質」で昔は「虚弱児に対する結核予防薬」として用いられた。
・現代において解毒証体質は「やせた,血色は赤味がなく青黒く,腹部に腹直筋の緊張が強く(くすぐったがる)、扁桃炎を起こしやすく,一度ひいた風邪は治りにくく,また長びいて気管支炎になりやすく,肺門リンパ腺腫脹や頸部リンパ腺腫脹を起こしやすい,胃腸もあまり丈夫でないという小児」と訳すことができる。
・解毒証体質は現代でいうアレルギー体質に類似するとの解釈もある(小太郎漢方製薬)。
・薄荷・連翹・牛蒡子など皮膚疾患に頻用される生薬が入っている。
・元の方剤である温清飲より飲みやすい。
・柴胡清肝湯は,古方の小柴胡湯,小建中湯,柴胡桂枝湯と鑑別を要する。いずれの処方も虚弱な幼児の体を丈夫にする薬として,あるいは虚弱児に発するいろいろな病気の治療薬として使用されるが,小柴胡湯は,多くの場合胸脇苦満が認められる。小建中湯とは,ともに腹直筋の緊張を認める点が共通しているが,小建中湯証の児は甘い味を好み,柴胡清肝湯証の児は苦い薬でもよく服用することができるのが大きな相違といえる。
【荊芥連翹湯】
構成生薬:(温清飲+柴胡・連翹+)荊芥・防風・ 桔梗・薄荷・枳殻・白芷
八綱分類:裏熱虚証(赤本)
虚実:虚実中間
気血水:血虚
漢方的適応病態:血虚・血熱・肝鬱・風熱
TCM的解説:清熱解毒・疏肝解欝・凉血止血・解表
(備考)
・解毒症体質の小児は青年期になると扁桃炎/中耳炎ではなく蓄膿症を起こすようになる。
・耳鼻両方の病気をひとつの処方で治する方剤。
・温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したもの。
・柴胡清肝湯から牛蒡子(消炎)・栝楼根(滋潤)を去り,止痒の効能をもつ荊芥・防風・白芷(びゃくし)と排膿の枳実を加味して皮膚疾患に適した生薬構成となっている。柴胡清肝湯より清熱作用は弱いが,青年期となって化膿傾向が出現した場合によい適応となり、浅黒い皮膚,筋肉質,掌蹠の発汗などが使用目標である。
・灼熱感のある暗赤色の発疹(湿潤性がない)あるいは皮膚炎が適応となる。
さらに、診療でよく出会う「くすぐったがり屋さん」にドンピシャの解説を見つけました;
「腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認める」
「森道伯先生が、この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならない」(矢数格先生)
中耳炎の経過による方剤の使い分けの解説も;
「急性・慢性中耳炎では,急性期にまず葛根湯を使用し,2~3日たったのちには小柴胡湯あるいは大柴胡湯を使用するのが普通でありますが,小柴胡湯を使う時期以後で耳痛,分泌物があれば荊芥連麹湯を使用するとよい」(室賀昭三先生)
では最初に、柴胡清肝湯・荊芥連翹湯を「解毒証体質」に使う方剤として一世を風靡した一貫堂処方の解説を。
■ 「一貫堂の処方」より
(西本隆先生:西本クリニック)
【柴胡清肝散・荊芥連翹湯・竜胆瀉肝湯】
この3つの方剤は,いずれも,四物黄連解毒湯を基本としている。 四物黄連解毒湯とは,その名の通り,四物湯と黄連解毒湯の合方であるが,『漢方一貫堂医学』での黄連解毒湯は,我々が普段用いている『外台秘要』 を出典とした黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4味からなる黄連解毒湯ではなく,『万病回春』傷寒門を出典とした黄連・黄芩・黄柏・山梔子・柴胡・連翹の6味からなる処方をこれにあてている。
我々のよく知る黄連解毒湯(『外台秘要』)はいうまでもなく,上中下三焦の実熱を清する方剤である が,『万病回春』では柴胡・連翹が加わることによって,さらに肝胆の風熱を清する作用が強化されて おり,これに「血を養い,血熱を冷まし,血燥を潤す」四物湯を合方することにより,より強力で長期の使用にも耐えうる処方になるのである(『外台秘要』の黄連解毒湯合四物湯は,「温清飲」として知られているので,ここでの四物黄連解毒湯は温清飲加柴胡・連翹でもある)。
四物黄連解毒湯:当帰・地黄・芍薬・川芎・黄連・ 黄芩・黄柏・山梔子・柴胡・連翹
柴胡清肝散:四物黄連解毒湯+〔A〕桔梗・薄荷・ 牛蒡子・天花粉
荊芥連翹湯:四物黄連解毒湯+〔B〕荊芥・防風・ 桔梗・薄荷・枳殻・白芷
竜胆瀉肝湯:四物黄連解毒湯(去柴胡)+〔C〕薄荷・ 防風・竜胆・沢瀉・木通・車前子
このように,四物黄連解毒湯を基本に加味された生薬からそれぞれの方剤の適応病態を探ってみる。
柴胡清肝散:
〔A〕群の加味生薬により体表と上焦の祛風清熱作用が強まっており,上気道感染や感染性皮膚症状を起こしやすい小児に対する処方であることがわかる。
荊芥連翹湯:
白芷は「善く顔面諸症を治す」といわれ,頭部・顔面の諸症状すなわち,頭痛・座瘡・鼻閉鼻汁などを治す方剤に配合される。(川芎茶調散・清上防風湯・辛夷散など)荊芥・防風が配合されることにより祛風作用が強まり,また,利気作用の枳殻が配合されることで,気鬱を伴う青年期の座瘡・慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎・アトピー性皮膚炎などの諸疾患に対応できる処方である。
竜胆瀉肝湯:
〔C〕群の特徴は竜胆・沢瀉・木通・ 車前子といった下焦の湿熱を改善する生薬群であり,前立腺炎や女性の外陰部の炎症などに用いられる。去柴胡であるのは,柴胡の昇提作用を嫌ったものかと考えられる。
大野先生の鑑別処方の解説(続・Dr.Ohno教えてください 漢方処方実践編 症例から学ぶ服薬指導のポイント第二回アトピー性皮膚炎)もわかりやすいので引用させていただきます。
【鑑別処方:血虚のアトピー性皮膚炎】
① 柴胡清肝湯;
生薬構成は温清飲に柴胡・薄荷・連翹・桔梗・牛蒡子(ごぼうし)・栝楼根(かろこん)・甘草が追加されている。柴胡が2gその他の生薬はすべて1.5gである。柴胡・薄荷・連翹・牛蒡子は消炎作用を有し,薄荷・連翹・牛蒡子は皮膚疾患に頻用される生薬である。排膿作用のある桔梗と滋潤作用のある栝楼根が追加されている。
主に小児の腺病質の体質改善に応用されてきた。アトピー性皮膚炎に応用する場合,就学前の小児に適応する場合が多い。必ずしも飲みやすい味ではないが,問題なく服用してくれる小児が多いことには驚かされる。
② 荊芥連翹湯;
本漢方薬も温清飲の加味方であるが,柴胡清肝湯から牛蒡子・栝楼根を去り,止痒の効能をもつ荊芥・防風・白芷(びゃくし)と排膿の枳実を加味して皮膚疾患に適した生薬構成となっている。柴胡清肝湯より清熱作用は弱いが,青年期となって化膿傾向が出現した場合によい適応となる。浅黒い皮膚,筋肉質,掌蹠の発汗などが使用目標である。
③ 当帰飲子;
生薬構成としては四物湯に黄耆・防風・荊芥・蒺梨子(しつりし)・何首烏(かしゅう)・甘草を加味したものである。ただし四物湯の構成生薬の分量が異なり当帰5g・地黄4gと増量されている。したがって四物湯より血虚に対する効能が増強され,皮膚付属器の機能を回復させる黄耆・何首烏を加え,さらに止痒として働く防風・荊芥・蒺藜子が加味され,甘草で全体を調和していると考えられる。すなわち発疹・発赤などの皮膚の炎症状態が無いか軽度で皮膚枯燥が著しく痒みを伴っている場合に適応する。皮脂欠乏性皮疹に応用されることが多く,アトピー性皮膚炎に応用する場合には黄連解毒湯との合方も役立つ。
④ 十全大補湯;
四物湯(血虚)に四君子湯(人参3g・蒼朮3g・茯苓3g・甘草1.5g;気虚)を合方して八珍湯とし,さらに皮膚付属器の機能を回復させる黄耆3gと経脈を温める桂皮3gを加味した生薬構成をもつ。気血両虚を改善させ温めながら皮膚の状態を改善させる漢方薬ということになる。皮膚のカサツキは温清飲適応例と同様であるが,より虚証で元気の虚損が見られる症例に適応する。
当帰飲子の解説が印象的です。
当帰飲子(86)は四物湯ベースに皮膚を栄養する黄耆、痒みを抑える生薬(防風・荊芥・蒺藜子)を加えたものと考えるとわかりやすい。
荊芥連翹湯の生薬構成を分解・分析した小太郎漢方製薬の解説から;
荊芥連翹湯の白芷は顔面病変をターゲットにした生薬だそうです。
竜胆瀉肝湯には柴胡が入っていませんが、柴胡は効能を上半身に引き上げる作用があるので、それを抜くことにより下半身をターゲットにできたようです。
※右図をクリックすると拡大します;
この表を見ると、自ずと方剤の性格が浮かび上がってきます。
「解表」はこの場合「かゆみ止め」、「清熱」は「炎症(赤み)を押さえる」、「駆瘀血」(補血)は「色素沈着や苔癬化に対応」、「理気」はイライラした気持ちを和らげる、「利水」は「ジクジクに対応」と読めます。
すると、柴胡清肝湯と荊芥連翹湯の違いは、
・荊芥連翹湯の方が解表(かゆみ止め)の生薬数が多い。
・荊芥連翹湯の方が理気(気持ちを和らげる)の生薬数が多い。
一方、共通する点として、
・両者とも補血・駆於血剤がたくさん入っているが利水剤が入っていないので、ジクジクした湿疹より、カサカサして皮膚の色が悪いタイプの湿疹に向いている。
となります。
ただ、この表で気になる点が二つ。
・柴胡が解表に入っていること ・・・柴胡は半表裏を和解する生薬では?
・桔梗・枳実が理気薬に入っていること ・・・消炎・排膿が主治では?
さらに下表(「皮膚科疾患に用いられる方剤の医薬品情報」桂元堂薬局:佐藤大輔)をながめながら読むと、より理解が深まります。
次は室賀昭三Dr.の解説「重要処方解説:柴陥湯・柴胡清肝湯」から。
■ 「柴胡清肝湯」
この処方は明のころに薛立斎(せつりつさい)が著した『外科枢要』という書物の瘰癧門,つまり現在の結核性頸部リンパ腺炎,あるいはその類似疾患に使用された治療剤の一つとして記載されております。
□ 構成生薬:
その内容は,柴胡,黄苓,人参,川芎,梔子,連翹,桔硬,甘草の8味より成っております。後世になって、一貫堂の森道伯先生がこれにいろいろな薬味を加えられ, 一貫道方の柴胡清肝湯を作られ,現在の日本では,柴胡清肝湯といえばこれらの処方を意味するようになってしまいました。
森道伯先生の作られた処方は,柴胡,当帰,芍薬,川芎,地黄,黄連,黄苓,黄柏、山施子,連翹,桔梗,牛蒡子,天花粉,薄荷葉,甘草の15味より成っております。つまり元の処方から人参を去り,当帰,荷薬,地黄,黄連,黄柏,牛勢子、天花粉、薄荷葉の8味を加えたものであります。この処方の内容を見てもおわかりのように,この処方は後世方の処方であります。すなわち当帰,有薬,川蔦,地黄の四物湯と,黄連,黄柏,黄苓,山樋子の黄連解毒湯を合わせた温清飲に,桔梗,薄荷葉,牛勢子,天花粉を加えたものであります。
黄連、黄柏、黄芩、山梔子の4味を合わせた黄連解毒湯は,実熱によって起こる炎症と充血を伴った諸症を治す方剤であります。この4味はいずれも味が苦く、体の熱を冷ます作用があります。
温清飲は黄連解毒湯と四物湯を合わせたもので,一般に病気が慢性化し・陰陽が入り乱れ,寒熱がまじわっている時に使用されます。別な表現をすれば古くなった熱を冷まし,乾いた血に潤いを与え,肝の働きをよくする作用があるとされます。この温清飲に桔梗,薄荷葉,牛蒡子,天花粉を加えたものが本処方であります。
桔梗は昧は苦く,平(冷やすでもなく温めるでもない)であります。肺に入り,熱を瀉し,痰を除き,咳を治し,頭目を清め,咽喉を利し,滞気を散ずる、怯痰・排膿剤で,粘痰,化膿性の皮膚疾患などに用います。
薄荷葉は味は辛く,涼(軽く冷やす)で,風熱を消散し,頭目を清め,咽喉病を治す。つまり清涼,発汗,解熱,健胃剤で,胃腸炎,感冒に用いられます。
牛芳子は,味は辛く,平で,熱を解し,肺を潤し,咽喉を利し,瘡毒を散ず。つまり解毒,解熱,利尿剤で,浮腫,瘡毒に用います。
天花粉は津液を生じ,火を降し,燥を潤し,腫を消し,膿を排すとされ,もしこれがなければ瓜呂根を代用してもよいとされております。これらの15味が協力して作用するわけであります。
□ 使用目標 :
どのような目標に対してこの柴胡清肝湯を使用するかと申しますと,古方でいう小柴胡湯あるいはう小建中湯によく似ておりますが,一貫堂では,これを解毒証休質という独得の表現で示しております。
森道伯先生は,晩年においてその治療上の基準として体質を三つの証に分類し,その三大分類によって,従来の漢方医学の中に新しい異色のある一つの医学体系を打ちたてたのであります。その三大分類とは,瘀血証体質者,臓毒証体質者,解毒証体質者の三つであります。
瘀血証体質者とは,瘀血を体内に保有する人をいいます。婦人は体の構造上瘀血を生じやすく,この体質者の大半は婦人によって占められます。この瘀血は病気のために起こってくる場合もありますが,この場合の瘀血は,それ以前の,病気を起こす原因となる瘀血に重点を置いて考えています。瘀血は大部分腹部に存在することが多く,このような場合は主として通導散のような駆痕血剤を使用いたします。
第2の臓毒証体質者とは,食毒,風毒,体毒,水毒,梅毒の4毒が体内で合成,蓄積,留滞したという意味で,現在の卒中性体質に近いものに考えられましょう。これらの人には主として防風通聖散が用いられます。
第3の解毒証体質者は,現在でいえば胸腺リンパ体質,リンパ体質,滲出性体質あるいは結核性体質といってよいような体質を指しております。つまり,やせた,血色は赤味がなく青黒く,腹部に腹直筋の緊張が強く,腹診するとくすぐったがるので腹診ができないことがあります。扁桃炎を起こしやすく,一度ひいた風邪は治りにくく,また長びいて気管支炎になりやすく,肺門リンパ腺腫脹や頸部リンパ腺腫脹を起こしやすい,胃腸もあまり丈夫でないという小児を対象とします。そしてこのような小児が発育して青年期に達すると,先日お話しいたしました荊芥連翅湯証,あるいは竜胆潟肝湯証になるとされます。
この柴胡清肝湯は,今申しあげましたように,主として虚弱な小児に長期間与えて, 体を丈夫にするために使用されます。他の多くの漢方方剤のように,頸部リンパ腺腫, 肺門リンパ腺腫,扁桃炎を繰り返し起こすようなものに対し,このような病気が発病 していればその治療薬として使用します。同時にそれらの病気の予防薬として使用するのであります。
この処方(柴胡清肝湯)は,古方の小柴胡湯,小建中湯,柴胡桂枝湯と鑑別を要すると考えられます。いずれの処方も虚弱な幼児の体を丈夫にする薬として,あるいは虚弱児に発するいろいろな病気の治療薬として使用されますが,小柴胡湯は,多くの場合胸脇苦満が認められます。小建中湯とは,ともに腹直筋の緊張を認める点が共通していますが, 小建中湯証の児は甘い味を好み,柴胡清肝湯証の児は,苦い薬でもよく服用することができるのが大きな相違といえると思います。
以前は結核に対する的確な治療法,予防法がなく,虚弱児に対する結核予防は大きな意味を待っていましたが,BCG接種や,すぐれた抗結核剤の出現により,結核はもはや恐ろしい病気であるという印象が薄くなってしまい,虚弱児の体を丈夫にし, 結核にかからないようにするというようなことに対する世の中の関心が低くなってし まいましたので,本方をその意昧で使用する頻度は減少したと考えられますが,また別の見方によれば,現在こそ本方を使用することが可能であろうかと思います。
アトピー性皮膚炎への適用はさておき、興味深い記述がたくさんあります。
柴胡清肝湯は虚弱児に対する結核予防薬だったのですね。
それから<小柴胡湯と小建中湯との使い分け>も役立ちます。
・小建中湯と柴胡清肝湯はともに腹直筋の緊張を認める点が共通しているが、小建中湯証の児は甘い味を好み、柴胡清肝湯証の児は苦い薬でもよく服用することができるのが大きな違い。
なるほど、なるほど。
同じく室賀昭三先生の重要処方解説「荊芥連翹湯・清上防風湯」から荊芥連翹湯の記述部分を抜粋。
■ 「荊芥連翹湯」
荊芥連翹湯は『万病回春』(明代の襲廷賢の著書)の耳病門に出ております。また鼻病門にも出ておりますが,内容が少し異なっております。そして一貫堂森道伯先生は,ご自分の経験に基づき,これらの処方にさらに薬味を加えて,一貫堂方の荊芥連翹湯を作られました。すなわち同一の名前で三つの処方があるわけであります。荊芥連翹湯は古方ではなく,後世方の処方でありますので,古方のいろいろな処方に比べ,その薬味の数が多く,その代わりに一つ一つの薬味の量が少ないのが目立ちます。
□ 構成生薬と薬能:
『万病回春』の耳病門の荊芥連翹湯は,荊芥,連翹,防風,当帰,川芎,芍薬,柴胡,枳殻(きこく),黄芩,梔子,白芷,桔梗,甘草の13味より成り立ち,鼻病門の荊芥連翹湯は,耳病門の同方から枳殻を去り,薄荷,地黄を加えたものであります。森道伯先生の一貫堂の荊芥連翅湯は,鼻病門の同方に枳殻をそのまま残し,黄連と黄柏を加えた17味から成り立っております。つまり一貫堂の処方は,『万病回春』の耳病門と鼻病門の処方を合わせ、さらに黄連、黄柏を加えたものであるといえましょう。
処方の内容からみておわかりと思いますが,この処方は,当帰,芍薬,川芎,地黄、つまり四物湯と,黄連,黄柏,黄苓,梔子の黄連解毒湯を合わせたものである温清飲に,荊芥,連翹,防風,薄荷,枳殻,甘草,白芷,桔梗,柴胡の9味を加えたものであります。
四物湯の当帰は血を生じ,生をうるおすとあり,増血,滋潤の能あり,芍薬は血脈を和し,血流をよくするとされます。川芎は血を潤し,血行をよくし,地黄は増血,滋潤の薬であり,これらを合わせたものである四物湯は,味は甘く,体を温める作用があり,血を生じ,血燥,すなわち身体の潤いのなくなったものに潤いを与 え,血液の流れをよくするとされます。同時に肝,胆の経の冷えを温め,虚を補うとされ,漢方でいう肝の機能をよくし,肝の虚を補うと考えられます。
黄連解毒湯の黄連は,心と脾の熱を解し,不安焦燥を鎮静させ,黄芩は胃腸の熱を鎮め、利水作用もあり、黄柏は熱を冷まし、水作用があるとされ,梔子は熱を下し, もだえを除くとされております。この4者が協力し,お互いに作用を増強し合い,のぽせ,興奮,不安によく奏効するとされます。
本方はこれにさらに、
・胸部の邪を解き,肝の熱をしりぞけ,結気を散じる柴胡
・湿熱を鴻し,腫を消し,膿を排する連翅
・頭目を溝め,血脈を通じ,斑疹瘡疥(まだらに出る発疹,いろいろな皮膚のけがや発疹)を治す荊芥
・表を発し,湿を去り,頭目の血の滞りを治す防風
・熱を消散し,頭目を清め,発汗作用のある薄荷
・結実を破る作用のある枳殻
・熱を冷まし,頭目を清め,排膿,怯疾作用のある桔梗
・頭痛,歯痛, 鼻疾患に広く用いられ,鎮痛,鎮静,消炎作用のある白芷
に甘草を加えたものが本処方であります。薬味はたくさん入っていますが,温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したものと考えられます。
□ 漢方における解毒症体質
森道伯先生の考えられた解毒症体質は結核性体質と同様であると考えられます。西洋医学的に表現すれば腺病質,リンパ体質,あるいは胸腺リンパ体質に近いものであると考えられましよう。そしてこの体質のものには,小児期では柴胡清肝湯,青年期には荊芥連翅湯,青年期あるいはそれ以後には竜胆潟肝湯というように選び使用するのであります。つまり,幼年期の柴胡清肝湯証が青年期に達すると荊芥連翹湯証,あるいは竜胆潟肝湯証となるのであります。
□ 証・適応:
本方の適応する体型は,一般にやせ型で,皮膚の色は青白いか,あるいは浅黒く,いずれにしても皮膚の色が冴えず,くすんだような色をしていることが多く,腹診すると両側腹直筋の緊張が強く,肝経に沿って鋭敏であり,腹診の手をくすぐったがったり,ひどい時にはあまりくすぐったがるので腹診が行なえないことがあります。先日某診療所に来ました中学生も,私が腹診をしようとしただけで笑い出して手で腹部を覆ってしまい,腹診ができませんでした。成書に皮膚の色はどす黒く,暗褐色を呈することが多いと記載されておりますが,必ずしもこれにこだわる必要はないかと思います。いずれにしても皮膚の色はある程度よごれたような感がするように思います。
□ 鑑別処方:
急性・慢性中耳炎では,急性期にまず葛根湯を使用し,2~3日たったのちには小柴胡湯あるいは大柴胡湯を使用するのが普通でありますが,小柴胡湯を使う時期以後で耳痛,分泌物があれば荊芥連麹湯を使用するとよいとされますが,慢性化してしまったものでも使用することができると考えられます。ただし膿汁の分泌が相当に多かったり,体力が衰えた時などには千金内托散などを使用した方がよいかと考えられます。
鼻の病気は,急性期には葛根湯,あるいは麻黄湯,慢性化した時には葛根湯加味方,あるいは柴胡剤がもっともしばしば使用されますが,前に述べたように筋肉質で皮膚の色が浅黒く,腹筋が緊張して,腹診すると強く笑う時には荊芥連魍湯がよいと考えられます。また葛根湯加味方が効かない時には本方を試みるのもよいと考えられます。 本方は地黄が入っておりますから,あまり胃腸の丈夫でない人には時に食欲不振・下 痢を起こす可能性があると考えられます。もしそのような時には小建中湯のような処方に変方した方がよいかと思われます。
「温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したもの」はとても明快でわかりやすい解説です。
でも皮膚疾患に関しての記述は出てきませんね。
先日、この荊芥連翹湯の著効例を経験しました。
10年来当院にアレルギー疾患で通院している女児(といっても現在は高校生)。気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などがありますが、最近悩んでいるのが手掌多汗症と皮むけです。夏中心に、手掌多汗のためにいつも濡れていて赤く皮むけがあるのです。桂枝加黄耆湯が一定の効果がありましたが満足できるほどではなく、荊芥連翹湯を処方してみました。すると、翌月は「もう漢方はいらない」というのです。「え?あきらめちゃうの?」と聞くと「なんだか調子いいから飲まなくても大丈夫」との返答。手を触ってみると、あれ?普通の手のひらだ・・・。長患いの手掌多汗症が1ヶ月でここまで改善したことに驚きました。
でも、今まで読んできて、なぜ手掌多汗症に有効なのかの説明は見つけられませんでした。
次に、中村實郎先生のケースリポートから荊芥連翹湯の説明を抜粋します;
■ 急性アトピー性皮膚炎の増悪と荊芥連翹湯
荊芥連翹湯は柴胡清肝湯に似ていて,
・黄連・黄岑・黄柏・山梔子は黄連解毒湯で,清熱瀉火・涼血・化湿・解毒の作用で紅斑のほてりと熱感を取り消炎をする。
・地黄・当帰・芍薬・川芎は四物湯で,滋陰(栄養・保湿)作用をもち,荒れた肌に補血活血なる潤いを与える。
・川芎・桔梗・白芷・枳実は排膿を,
・桔梗はマクロファージを活性化して消炎を助ける。
・薄荷・柴胡・連翹も黄連解毒湯をさらに助けて清熱瀉火・解毒をする。
・柴胡・連翹・薄荷は表証皮膚体表部の消炎効果を高め,
・薄荷は白芷・荊芥・防風と共に止痒の効果を上げる。
これは皮膚に特化した解説ですね。
次は浅岡俊之先生の生薬解説「薬剤師のための漢方講座⑪:地黄と処方」から抜粋:
■ 「地黄と処方」
1.地黄
1)ゴマノハグサ科ジオウの根茎
2)神農本草経
『折趺(せつふ)・絶筋,傷中(しょうちゅう)を主る。血痺を逐(お)い,骨髄を填(てん)じ,肌肉を長ず』
*趺:足のこと
*傷中:打撲などにより臓腑の気が損傷すること
*血痺:血が滞り,閉塞することによって主に四肢にしびれや痛みなどの症状が出現すること
*肌肉:筋肉のこと
3)主治
『津液不足』 『血熱』 『血虚』
4)ポイント
地黄は神農本草経に血の病に用いることが記されています。実際,傷寒論や金匱要略では出血などの際に阿膠(止血剤)とともに用いられています。 しかし後世ではそれのみではなく,滋潤や補血を目的として多用されることとなります。
地黄は,その加工(修治)の仕方によって薬能を変える生薬であることを確認する必要があります(図)。
●生地黄
新鮮根を搗き,地黄汁として用いることが多い。薬性は寒で清熱効果が強い。現在では生地黄というかたちで用いられることは殆どない。
●乾地黄
生地黄を乾燥したもの。薬性は寒,清熱効果に加え滋潤を目的として用いられる。
●熟地黄
酒などで蒸し,乾燥させたもの。薬性は温で補血作用が主たる目的。
したがって,本来であれば処方の目的によって上記の地黄を使い分けることとなるわけです。 しかし,生地黄と乾地黄の薬能は著しく異なるわけではなく,現在では保存などの理由から乾地黄が用いられることが殆どです。
2.「地黄」が配される処方
2)荊芥連翹湯
(1)出典:万病回春/一貫堂
(2)条文:『鼻渊(びえん),胆熱を脳に移すを治す』(万病回春)
*鼻渊:鼻詰まり,蓄膿症
*胆熱:六腑の一つである胆の熱をいう。この場合には粘った鼻水のこと
(3)適応:鼻炎,蓄膿,扁桃炎,中耳炎
(4)ポイント:
現在,一般的に用いられている荊芥連翹湯は 一貫堂による構成生薬から成立しています。そして熟地黄が用いられます。
しかし,その原典である万病回春では荊芥,連翹,防風,当帰,川芎,芍薬,柴胡,枳殻,黄岑,山梔子,白芷,桔梗,甘草という構成生薬からなり,そして記載されているのは生地黄です。
つまり一貫堂における地黄の目的は,痛んだ粘膜や皮膚の補修を行うという意味での補血であり,よって熟地黄が配されます。
これに比し,万病回春では清熱を目的として 生地黄が配されるものと考えられます。
では最後に秋葉先生の「活用自在の処方解説」より;
■ 80柴胡清肝湯
1.出典:本朝経験方
本方は森道伯が『明医雑著』の同名方より牡丹皮、升麻を除いたもの、ある いは『外科枢要』の同名方から人参を去って創方したもの。すなわち本朝経験方。
●肝胆三焦之風熱を治し、頸項腫痛、結核を消散する。(矢数格著『漢方一 貫堂医学』)
2.腹候:腹力中等度前後(2-4/5)。ときに胸脇苦満や心下痞硬を認める。
3.気血水:気血水いずれとも関わる。
4.六病位:少陽病。
5.脈・舌:
●小児の脈はあまり重要視することはできないが、原則としては緊脈である。
6.口訣:
●解毒証体質者は皮膚が黄褐色あるいは色素沈着しやすい。(矢数格)
●また腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認めるものである。(矢数格)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
かんの強い傾向のある小児の次の諸症:神経症、慢性扁桃炎、湿疹。
b 漢方的適応病態:血虚血熱・風熱。すなわち、一貫堂の解毒証体質に適応される。
8.構成生薬:
柴胡2、黄芩1.5、黄柏1.5、黄連1.5、括楼根1.5、甘草1.5、桔梗1.5、牛蒡子 1.5、山梔子1.5、地黄1.5、芍薬1.5、川芎1.5、当帰1.5、薄荷1.5、連翹1.5。(単 位g)
<より深い理解のために> 全体に寒涼薬の多いのが特徴である。
9.TCM的解説:清熱解毒・祛風排膿・養血・止血。
10.効果増強の工夫:
方中に温清飲が配されており、さらに清熱が必要な場合には黄連解毒湯を加え、あるいは補血が必要な場合には四物湯を少量追加することにより薬能を加減することが可能である。
処方例)ツムラ柴胡清肝湯 7.5g
ツムラ黄連解毒湯 2.5g 混合し分3食前
11.本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より:小児腺病体質の改善薬として用いられ、肺門リンパ腺腫・頸部リンパ腺腫・ 慢性扁桃炎・咽喉炎・アデノイド・皮膚病・微熱・麻疹後の不調和・いわゆる疳症・肋膜炎・神経質・神経症等に応用。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:腺病質、肺門リンパ腺炎、アデノイド、扁桃腺肥大症、るいれき、皮膚病。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より:腺病質の子供で頸部のリンパ腺や扁桃腺の腫れやすい体質の改善に用いる。 肌は赤黒く、手足は特に冷たくはないものに適用。
<ヒント>
一貫堂の柴胡清肝湯に精通しておられたのは道斎・矢数各先生である。先生の著書『漢方一貫堂医学』から紹介する。
「柴胡清肝散はもちろん純粋の感冒薬ではない。しかし、前に記したように、 小児の解毒証体質者は、体質上感冒にかかりやすく、したがつて、この体質者にとつては感冒薬よりも、感冒予防薬を論じる方がより必要なことであろう。森道伯先生が、この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならないのである。 解毒証体質者は風邪にかかり、扁桃炎を併発し易く、また気管支炎も容易に起こすのである。ゆえに、このような体質の者には、感冒が治ったあとも、 この柴胡清肝散を服用させてこれらの病気を起こさせないように努めなければならない。その意味でわれわれはかなりの成績をあげているのである。」 予防医学の重要性が叫ばれている今日、一貫堂医学は注目に値するテーマ である。
湿疹への適用については、効能・効果の項目にオマケ程度に記載されているに過ぎません。
やはり「解毒症体質」を理解し、その証に沿った処方をすることが大切で、証が合えば湿疹を含めた体の不調が改善することが期待される、という理解になるかと思われます。
ここで私が注目したのは「くすぐったがりや」です。小児診療では日常的に出会う所見ですが、矢数格先生は「腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認める」とハッキリと云っていて、わたしがずっと抱えてきた疑問に答えてくれました。
結核が国民病であった時代に「結核にかかりやすい体質=解毒症体質」と定義されて考え出された柴胡清肝湯。提唱者の森道伯先生が「この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならない」と云われたことも腑に落ちるようになりました。
現代で云えば、「解毒症体質≒易感染性に悩まされる虚弱児」でしょうか。私の外来でももっとたくさん処方されるべき処方ですね。
次は荊芥連翹湯の項目です。
■ 50荊芥連翹湯
1.出典:森道伯著『漢方一貫堂医学』
●荊芥連翹湯は柴胡清肝散(湯)の変方であって、青年期の解毒証体質を主宰する処方である。すなわち柴胡清肝散の去加方に『万病回春』の荊芥連翹湯を合方した一貫堂の創方で、耳鼻両方の病気を同一の処方で治することができる処方である。(矢数格『漢方一貫堂医学』)
●幼年期の柴胡清肝散(湯)証が長じて青年期となると、荊芥連翹湯証となるので、同様に解毒証体質者である。ゆえに、幼年期扁桃炎、淋巴腺肥大等にかかる者は、青年期になると蓄膿症となり、肋膜炎を起こし、肺尖カタルと変り、神経衰弱症を病む。この体質の者がすなわち荊芥連翹湯証で ある。(同上)
2.腹候:
腹力中等度以上(3-4/5)。腹直筋の攣急を認める。皮膚は色素沈着あり。
3.気血水: 気血水いずれとも関わる。
4.六病位:少陽病
5.脈・舌:
●原方となった温清飲より推測して、脈は細数。舌質は紅、舌苔は黄。(『中医処方解説』)
●荊芥連翹湯証の者の脈は緊脈を呈している。(矢数格)
6.口訣:
●皮膚の強い色素沈着と腹直筋の緊張とで本方の適用を決定することが多 い。(道聴子)
●青年期における一貫堂医学の解毒証体質者は、扁桃炎、中耳炎を病みやすかった小児期とは違って体質に変化を来たし、主として蓄膿症を起こすようになる。したがつて、同医学の病理によれば、小児期の扁桃炎と、青年期の蓄膿症とは同一性質の病気であることがわかり、蓄膿症が手術だけでは根治しにくい理由も理解される。(矢数格)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
蓄膿症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、にきび。
b 漢方的適応病態:血虚・血熱・肝鬱・風熱。
すなわち、皮膚につやがない、頭がふらつく、 目がかすむ、爪がもろい、手足のしびれ感、筋肉の引きつれ、などの血虚の症候とともに、のぼせ、ほてり、イライラ、不眠、目の充血、口渇などの熱証や、鼻出血、不正性器出血、下血など鮮紅色の出血がみられたり、 灼熱感のある暗赤色の発疹(湿潤性がない)あるいは皮膚炎、口内炎が生じるもの。さらに、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、胸脇部が張って苦しい、脇の痛み、腹痛などの肝気鬱結の症候を伴い、熱感を自覚するもの。
8.構成生薬:
黄芩1.5、黄柏1.5、黄連1.5、桔梗1.5、枳実1.5、荊芥1.5、柴胡1.5、山梔子1.5、 地黄1.5、芍薬1.5、川芎1.5、当帰1.5、薄荷1.5、白芷1.5、防風1.5、連翹1.5、 甘草1。(単位g)
9.TCM的解説:清熱解毒・疏肝解欝・凉血止血・解表。
10.効果増強の工夫:
著者は本方をアトピー性皮膚炎や慢性扁桃炎にしばしば適応する。一貫堂処方であるので、温清飲が配剤されているが、熱性強くやや力不足の感があるときには黄連解毒湯を適量追加する。
処方例)ツムラ荊芥連翹湯 5.0g 混合して分2朝夕食前
ツムラ黄連解毒湯 2.5g
同様に、血虚の状が目立つときには四物湯を適量追加する。
処方例)ツムラ荊芥連翹湯 5.0g 混合して分2朝夕食前
ツムラ四物湯 2.5g
11.本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より:青年期腺病体質の改善・急性慢性中耳炎・急性慢性上顎洞化膿症・肥厚性鼻炎など、また扁桃炎・衂血・肺浸潤・面疱・肺結核(増殖型のもの)・神経衰弱・禿髪症など。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:急性中耳炎、蓄膿症、肥厚性鼻炎、扁桃腺炎、鼻血、にきび、青年期腺病質改造。
柴胡清肝湯の思春期・成人版という設定ですが、こちらの項目には「アトピー性皮膚炎」とハッキリ記載されています。ただ解毒症体質を治すことにより皮膚病変にも好影響をもたらす、という雰囲気ですので、やはり本治>標治が目標なのですね。
前項では扱いきれなかったので別に項目を設けました。
長くなるので、最初に調べてポイントと思われた事項を提示しておきます。
結論から申し上げると、元の温清飲は一般に病気が慢性化し・陰陽が入り乱れ,寒熱が交わっている時に使用する方剤、その加味方である柴胡清肝湯は易感染性の虚弱児に対する体質改善薬、荊芥連翹湯はさらに成長した思春期以降の体質改善薬として設定された方剤です。
各々のターゲットは、
・柴胡清肝湯:呼吸器・耳鼻>皮膚
・荊芥連翹湯:耳鼻>皮膚
と理解しました。
【柴胡清肝湯】
構成生薬:(温清飲+柴胡・連翹+)桔梗・薄荷・牛蒡子・天花粉
八綱分類:裏熱虚証(赤本)
虚実:虚実中間
気血水:気滞、血虚
漢方的適応病態:血虚血熱・風熱
TCM的解説:清熱解毒・祛風排膿・養血・止血
(備考)
・「解毒証体質=結核症体質」で昔は「虚弱児に対する結核予防薬」として用いられた。
・現代において解毒証体質は「やせた,血色は赤味がなく青黒く,腹部に腹直筋の緊張が強く(くすぐったがる)、扁桃炎を起こしやすく,一度ひいた風邪は治りにくく,また長びいて気管支炎になりやすく,肺門リンパ腺腫脹や頸部リンパ腺腫脹を起こしやすい,胃腸もあまり丈夫でないという小児」と訳すことができる。
・解毒証体質は現代でいうアレルギー体質に類似するとの解釈もある(小太郎漢方製薬)。
・薄荷・連翹・牛蒡子など皮膚疾患に頻用される生薬が入っている。
・元の方剤である温清飲より飲みやすい。
・柴胡清肝湯は,古方の小柴胡湯,小建中湯,柴胡桂枝湯と鑑別を要する。いずれの処方も虚弱な幼児の体を丈夫にする薬として,あるいは虚弱児に発するいろいろな病気の治療薬として使用されるが,小柴胡湯は,多くの場合胸脇苦満が認められる。小建中湯とは,ともに腹直筋の緊張を認める点が共通しているが,小建中湯証の児は甘い味を好み,柴胡清肝湯証の児は苦い薬でもよく服用することができるのが大きな相違といえる。
【荊芥連翹湯】
構成生薬:(温清飲+柴胡・連翹+)荊芥・防風・ 桔梗・薄荷・枳殻・白芷
八綱分類:裏熱虚証(赤本)
虚実:虚実中間
気血水:血虚
漢方的適応病態:血虚・血熱・肝鬱・風熱
TCM的解説:清熱解毒・疏肝解欝・凉血止血・解表
(備考)
・解毒症体質の小児は青年期になると扁桃炎/中耳炎ではなく蓄膿症を起こすようになる。
・耳鼻両方の病気をひとつの処方で治する方剤。
・温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したもの。
・柴胡清肝湯から牛蒡子(消炎)・栝楼根(滋潤)を去り,止痒の効能をもつ荊芥・防風・白芷(びゃくし)と排膿の枳実を加味して皮膚疾患に適した生薬構成となっている。柴胡清肝湯より清熱作用は弱いが,青年期となって化膿傾向が出現した場合によい適応となり、浅黒い皮膚,筋肉質,掌蹠の発汗などが使用目標である。
・灼熱感のある暗赤色の発疹(湿潤性がない)あるいは皮膚炎が適応となる。
さらに、診療でよく出会う「くすぐったがり屋さん」にドンピシャの解説を見つけました;
「腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認める」
「森道伯先生が、この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならない」(矢数格先生)
中耳炎の経過による方剤の使い分けの解説も;
「急性・慢性中耳炎では,急性期にまず葛根湯を使用し,2~3日たったのちには小柴胡湯あるいは大柴胡湯を使用するのが普通でありますが,小柴胡湯を使う時期以後で耳痛,分泌物があれば荊芥連麹湯を使用するとよい」(室賀昭三先生)
では最初に、柴胡清肝湯・荊芥連翹湯を「解毒証体質」に使う方剤として一世を風靡した一貫堂処方の解説を。
■ 「一貫堂の処方」より
(西本隆先生:西本クリニック)
【柴胡清肝散・荊芥連翹湯・竜胆瀉肝湯】
この3つの方剤は,いずれも,四物黄連解毒湯を基本としている。 四物黄連解毒湯とは,その名の通り,四物湯と黄連解毒湯の合方であるが,『漢方一貫堂医学』での黄連解毒湯は,我々が普段用いている『外台秘要』 を出典とした黄連・黄芩・黄柏・山梔子の4味からなる黄連解毒湯ではなく,『万病回春』傷寒門を出典とした黄連・黄芩・黄柏・山梔子・柴胡・連翹の6味からなる処方をこれにあてている。
我々のよく知る黄連解毒湯(『外台秘要』)はいうまでもなく,上中下三焦の実熱を清する方剤である が,『万病回春』では柴胡・連翹が加わることによって,さらに肝胆の風熱を清する作用が強化されて おり,これに「血を養い,血熱を冷まし,血燥を潤す」四物湯を合方することにより,より強力で長期の使用にも耐えうる処方になるのである(『外台秘要』の黄連解毒湯合四物湯は,「温清飲」として知られているので,ここでの四物黄連解毒湯は温清飲加柴胡・連翹でもある)。
四物黄連解毒湯:当帰・地黄・芍薬・川芎・黄連・ 黄芩・黄柏・山梔子・柴胡・連翹
柴胡清肝散:四物黄連解毒湯+〔A〕桔梗・薄荷・ 牛蒡子・天花粉
荊芥連翹湯:四物黄連解毒湯+〔B〕荊芥・防風・ 桔梗・薄荷・枳殻・白芷
竜胆瀉肝湯:四物黄連解毒湯(去柴胡)+〔C〕薄荷・ 防風・竜胆・沢瀉・木通・車前子
このように,四物黄連解毒湯を基本に加味された生薬からそれぞれの方剤の適応病態を探ってみる。
柴胡清肝散:
〔A〕群の加味生薬により体表と上焦の祛風清熱作用が強まっており,上気道感染や感染性皮膚症状を起こしやすい小児に対する処方であることがわかる。
荊芥連翹湯:
白芷は「善く顔面諸症を治す」といわれ,頭部・顔面の諸症状すなわち,頭痛・座瘡・鼻閉鼻汁などを治す方剤に配合される。(川芎茶調散・清上防風湯・辛夷散など)荊芥・防風が配合されることにより祛風作用が強まり,また,利気作用の枳殻が配合されることで,気鬱を伴う青年期の座瘡・慢性鼻炎・慢性副鼻腔炎・アトピー性皮膚炎などの諸疾患に対応できる処方である。
竜胆瀉肝湯:
〔C〕群の特徴は竜胆・沢瀉・木通・ 車前子といった下焦の湿熱を改善する生薬群であり,前立腺炎や女性の外陰部の炎症などに用いられる。去柴胡であるのは,柴胡の昇提作用を嫌ったものかと考えられる。
大野先生の鑑別処方の解説(続・Dr.Ohno教えてください 漢方処方実践編 症例から学ぶ服薬指導のポイント第二回アトピー性皮膚炎)もわかりやすいので引用させていただきます。
【鑑別処方:血虚のアトピー性皮膚炎】
① 柴胡清肝湯;
生薬構成は温清飲に柴胡・薄荷・連翹・桔梗・牛蒡子(ごぼうし)・栝楼根(かろこん)・甘草が追加されている。柴胡が2gその他の生薬はすべて1.5gである。柴胡・薄荷・連翹・牛蒡子は消炎作用を有し,薄荷・連翹・牛蒡子は皮膚疾患に頻用される生薬である。排膿作用のある桔梗と滋潤作用のある栝楼根が追加されている。
主に小児の腺病質の体質改善に応用されてきた。アトピー性皮膚炎に応用する場合,就学前の小児に適応する場合が多い。必ずしも飲みやすい味ではないが,問題なく服用してくれる小児が多いことには驚かされる。
② 荊芥連翹湯;
本漢方薬も温清飲の加味方であるが,柴胡清肝湯から牛蒡子・栝楼根を去り,止痒の効能をもつ荊芥・防風・白芷(びゃくし)と排膿の枳実を加味して皮膚疾患に適した生薬構成となっている。柴胡清肝湯より清熱作用は弱いが,青年期となって化膿傾向が出現した場合によい適応となる。浅黒い皮膚,筋肉質,掌蹠の発汗などが使用目標である。
③ 当帰飲子;
生薬構成としては四物湯に黄耆・防風・荊芥・蒺梨子(しつりし)・何首烏(かしゅう)・甘草を加味したものである。ただし四物湯の構成生薬の分量が異なり当帰5g・地黄4gと増量されている。したがって四物湯より血虚に対する効能が増強され,皮膚付属器の機能を回復させる黄耆・何首烏を加え,さらに止痒として働く防風・荊芥・蒺藜子が加味され,甘草で全体を調和していると考えられる。すなわち発疹・発赤などの皮膚の炎症状態が無いか軽度で皮膚枯燥が著しく痒みを伴っている場合に適応する。皮脂欠乏性皮疹に応用されることが多く,アトピー性皮膚炎に応用する場合には黄連解毒湯との合方も役立つ。
④ 十全大補湯;
四物湯(血虚)に四君子湯(人参3g・蒼朮3g・茯苓3g・甘草1.5g;気虚)を合方して八珍湯とし,さらに皮膚付属器の機能を回復させる黄耆3gと経脈を温める桂皮3gを加味した生薬構成をもつ。気血両虚を改善させ温めながら皮膚の状態を改善させる漢方薬ということになる。皮膚のカサツキは温清飲適応例と同様であるが,より虚証で元気の虚損が見られる症例に適応する。
当帰飲子の解説が印象的です。
当帰飲子(86)は四物湯ベースに皮膚を栄養する黄耆、痒みを抑える生薬(防風・荊芥・蒺藜子)を加えたものと考えるとわかりやすい。
荊芥連翹湯の生薬構成を分解・分析した小太郎漢方製薬の解説から;
荊芥連翹湯の白芷は顔面病変をターゲットにした生薬だそうです。
竜胆瀉肝湯には柴胡が入っていませんが、柴胡は効能を上半身に引き上げる作用があるので、それを抜くことにより下半身をターゲットにできたようです。
※右図をクリックすると拡大します;
この表を見ると、自ずと方剤の性格が浮かび上がってきます。
「解表」はこの場合「かゆみ止め」、「清熱」は「炎症(赤み)を押さえる」、「駆瘀血」(補血)は「色素沈着や苔癬化に対応」、「理気」はイライラした気持ちを和らげる、「利水」は「ジクジクに対応」と読めます。
すると、柴胡清肝湯と荊芥連翹湯の違いは、
・荊芥連翹湯の方が解表(かゆみ止め)の生薬数が多い。
・荊芥連翹湯の方が理気(気持ちを和らげる)の生薬数が多い。
一方、共通する点として、
・両者とも補血・駆於血剤がたくさん入っているが利水剤が入っていないので、ジクジクした湿疹より、カサカサして皮膚の色が悪いタイプの湿疹に向いている。
となります。
ただ、この表で気になる点が二つ。
・柴胡が解表に入っていること ・・・柴胡は半表裏を和解する生薬では?
・桔梗・枳実が理気薬に入っていること ・・・消炎・排膿が主治では?
さらに下表(「皮膚科疾患に用いられる方剤の医薬品情報」桂元堂薬局:佐藤大輔)をながめながら読むと、より理解が深まります。
次は室賀昭三Dr.の解説「重要処方解説:柴陥湯・柴胡清肝湯」から。
■ 「柴胡清肝湯」
この処方は明のころに薛立斎(せつりつさい)が著した『外科枢要』という書物の瘰癧門,つまり現在の結核性頸部リンパ腺炎,あるいはその類似疾患に使用された治療剤の一つとして記載されております。
□ 構成生薬:
その内容は,柴胡,黄苓,人参,川芎,梔子,連翹,桔硬,甘草の8味より成っております。後世になって、一貫堂の森道伯先生がこれにいろいろな薬味を加えられ, 一貫道方の柴胡清肝湯を作られ,現在の日本では,柴胡清肝湯といえばこれらの処方を意味するようになってしまいました。
森道伯先生の作られた処方は,柴胡,当帰,芍薬,川芎,地黄,黄連,黄苓,黄柏、山施子,連翹,桔梗,牛蒡子,天花粉,薄荷葉,甘草の15味より成っております。つまり元の処方から人参を去り,当帰,荷薬,地黄,黄連,黄柏,牛勢子、天花粉、薄荷葉の8味を加えたものであります。この処方の内容を見てもおわかりのように,この処方は後世方の処方であります。すなわち当帰,有薬,川蔦,地黄の四物湯と,黄連,黄柏,黄苓,山樋子の黄連解毒湯を合わせた温清飲に,桔梗,薄荷葉,牛勢子,天花粉を加えたものであります。
黄連、黄柏、黄芩、山梔子の4味を合わせた黄連解毒湯は,実熱によって起こる炎症と充血を伴った諸症を治す方剤であります。この4味はいずれも味が苦く、体の熱を冷ます作用があります。
温清飲は黄連解毒湯と四物湯を合わせたもので,一般に病気が慢性化し・陰陽が入り乱れ,寒熱がまじわっている時に使用されます。別な表現をすれば古くなった熱を冷まし,乾いた血に潤いを与え,肝の働きをよくする作用があるとされます。この温清飲に桔梗,薄荷葉,牛蒡子,天花粉を加えたものが本処方であります。
桔梗は昧は苦く,平(冷やすでもなく温めるでもない)であります。肺に入り,熱を瀉し,痰を除き,咳を治し,頭目を清め,咽喉を利し,滞気を散ずる、怯痰・排膿剤で,粘痰,化膿性の皮膚疾患などに用います。
薄荷葉は味は辛く,涼(軽く冷やす)で,風熱を消散し,頭目を清め,咽喉病を治す。つまり清涼,発汗,解熱,健胃剤で,胃腸炎,感冒に用いられます。
牛芳子は,味は辛く,平で,熱を解し,肺を潤し,咽喉を利し,瘡毒を散ず。つまり解毒,解熱,利尿剤で,浮腫,瘡毒に用います。
天花粉は津液を生じ,火を降し,燥を潤し,腫を消し,膿を排すとされ,もしこれがなければ瓜呂根を代用してもよいとされております。これらの15味が協力して作用するわけであります。
□ 使用目標 :
どのような目標に対してこの柴胡清肝湯を使用するかと申しますと,古方でいう小柴胡湯あるいはう小建中湯によく似ておりますが,一貫堂では,これを解毒証休質という独得の表現で示しております。
森道伯先生は,晩年においてその治療上の基準として体質を三つの証に分類し,その三大分類によって,従来の漢方医学の中に新しい異色のある一つの医学体系を打ちたてたのであります。その三大分類とは,瘀血証体質者,臓毒証体質者,解毒証体質者の三つであります。
瘀血証体質者とは,瘀血を体内に保有する人をいいます。婦人は体の構造上瘀血を生じやすく,この体質者の大半は婦人によって占められます。この瘀血は病気のために起こってくる場合もありますが,この場合の瘀血は,それ以前の,病気を起こす原因となる瘀血に重点を置いて考えています。瘀血は大部分腹部に存在することが多く,このような場合は主として通導散のような駆痕血剤を使用いたします。
第2の臓毒証体質者とは,食毒,風毒,体毒,水毒,梅毒の4毒が体内で合成,蓄積,留滞したという意味で,現在の卒中性体質に近いものに考えられましょう。これらの人には主として防風通聖散が用いられます。
第3の解毒証体質者は,現在でいえば胸腺リンパ体質,リンパ体質,滲出性体質あるいは結核性体質といってよいような体質を指しております。つまり,やせた,血色は赤味がなく青黒く,腹部に腹直筋の緊張が強く,腹診するとくすぐったがるので腹診ができないことがあります。扁桃炎を起こしやすく,一度ひいた風邪は治りにくく,また長びいて気管支炎になりやすく,肺門リンパ腺腫脹や頸部リンパ腺腫脹を起こしやすい,胃腸もあまり丈夫でないという小児を対象とします。そしてこのような小児が発育して青年期に達すると,先日お話しいたしました荊芥連翅湯証,あるいは竜胆潟肝湯証になるとされます。
この柴胡清肝湯は,今申しあげましたように,主として虚弱な小児に長期間与えて, 体を丈夫にするために使用されます。他の多くの漢方方剤のように,頸部リンパ腺腫, 肺門リンパ腺腫,扁桃炎を繰り返し起こすようなものに対し,このような病気が発病 していればその治療薬として使用します。同時にそれらの病気の予防薬として使用するのであります。
この処方(柴胡清肝湯)は,古方の小柴胡湯,小建中湯,柴胡桂枝湯と鑑別を要すると考えられます。いずれの処方も虚弱な幼児の体を丈夫にする薬として,あるいは虚弱児に発するいろいろな病気の治療薬として使用されますが,小柴胡湯は,多くの場合胸脇苦満が認められます。小建中湯とは,ともに腹直筋の緊張を認める点が共通していますが, 小建中湯証の児は甘い味を好み,柴胡清肝湯証の児は,苦い薬でもよく服用することができるのが大きな相違といえると思います。
以前は結核に対する的確な治療法,予防法がなく,虚弱児に対する結核予防は大きな意味を待っていましたが,BCG接種や,すぐれた抗結核剤の出現により,結核はもはや恐ろしい病気であるという印象が薄くなってしまい,虚弱児の体を丈夫にし, 結核にかからないようにするというようなことに対する世の中の関心が低くなってし まいましたので,本方をその意昧で使用する頻度は減少したと考えられますが,また別の見方によれば,現在こそ本方を使用することが可能であろうかと思います。
アトピー性皮膚炎への適用はさておき、興味深い記述がたくさんあります。
柴胡清肝湯は虚弱児に対する結核予防薬だったのですね。
それから<小柴胡湯と小建中湯との使い分け>も役立ちます。
・小建中湯と柴胡清肝湯はともに腹直筋の緊張を認める点が共通しているが、小建中湯証の児は甘い味を好み、柴胡清肝湯証の児は苦い薬でもよく服用することができるのが大きな違い。
なるほど、なるほど。
同じく室賀昭三先生の重要処方解説「荊芥連翹湯・清上防風湯」から荊芥連翹湯の記述部分を抜粋。
■ 「荊芥連翹湯」
荊芥連翹湯は『万病回春』(明代の襲廷賢の著書)の耳病門に出ております。また鼻病門にも出ておりますが,内容が少し異なっております。そして一貫堂森道伯先生は,ご自分の経験に基づき,これらの処方にさらに薬味を加えて,一貫堂方の荊芥連翹湯を作られました。すなわち同一の名前で三つの処方があるわけであります。荊芥連翹湯は古方ではなく,後世方の処方でありますので,古方のいろいろな処方に比べ,その薬味の数が多く,その代わりに一つ一つの薬味の量が少ないのが目立ちます。
□ 構成生薬と薬能:
『万病回春』の耳病門の荊芥連翹湯は,荊芥,連翹,防風,当帰,川芎,芍薬,柴胡,枳殻(きこく),黄芩,梔子,白芷,桔梗,甘草の13味より成り立ち,鼻病門の荊芥連翹湯は,耳病門の同方から枳殻を去り,薄荷,地黄を加えたものであります。森道伯先生の一貫堂の荊芥連翅湯は,鼻病門の同方に枳殻をそのまま残し,黄連と黄柏を加えた17味から成り立っております。つまり一貫堂の処方は,『万病回春』の耳病門と鼻病門の処方を合わせ、さらに黄連、黄柏を加えたものであるといえましょう。
処方の内容からみておわかりと思いますが,この処方は,当帰,芍薬,川芎,地黄、つまり四物湯と,黄連,黄柏,黄苓,梔子の黄連解毒湯を合わせたものである温清飲に,荊芥,連翹,防風,薄荷,枳殻,甘草,白芷,桔梗,柴胡の9味を加えたものであります。
四物湯の当帰は血を生じ,生をうるおすとあり,増血,滋潤の能あり,芍薬は血脈を和し,血流をよくするとされます。川芎は血を潤し,血行をよくし,地黄は増血,滋潤の薬であり,これらを合わせたものである四物湯は,味は甘く,体を温める作用があり,血を生じ,血燥,すなわち身体の潤いのなくなったものに潤いを与 え,血液の流れをよくするとされます。同時に肝,胆の経の冷えを温め,虚を補うとされ,漢方でいう肝の機能をよくし,肝の虚を補うと考えられます。
黄連解毒湯の黄連は,心と脾の熱を解し,不安焦燥を鎮静させ,黄芩は胃腸の熱を鎮め、利水作用もあり、黄柏は熱を冷まし、水作用があるとされ,梔子は熱を下し, もだえを除くとされております。この4者が協力し,お互いに作用を増強し合い,のぽせ,興奮,不安によく奏効するとされます。
本方はこれにさらに、
・胸部の邪を解き,肝の熱をしりぞけ,結気を散じる柴胡
・湿熱を鴻し,腫を消し,膿を排する連翅
・頭目を溝め,血脈を通じ,斑疹瘡疥(まだらに出る発疹,いろいろな皮膚のけがや発疹)を治す荊芥
・表を発し,湿を去り,頭目の血の滞りを治す防風
・熱を消散し,頭目を清め,発汗作用のある薄荷
・結実を破る作用のある枳殻
・熱を冷まし,頭目を清め,排膿,怯疾作用のある桔梗
・頭痛,歯痛, 鼻疾患に広く用いられ,鎮痛,鎮静,消炎作用のある白芷
に甘草を加えたものが本処方であります。薬味はたくさん入っていますが,温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したものと考えられます。
□ 漢方における解毒症体質
森道伯先生の考えられた解毒症体質は結核性体質と同様であると考えられます。西洋医学的に表現すれば腺病質,リンパ体質,あるいは胸腺リンパ体質に近いものであると考えられましよう。そしてこの体質のものには,小児期では柴胡清肝湯,青年期には荊芥連翅湯,青年期あるいはそれ以後には竜胆潟肝湯というように選び使用するのであります。つまり,幼年期の柴胡清肝湯証が青年期に達すると荊芥連翹湯証,あるいは竜胆潟肝湯証となるのであります。
□ 証・適応:
本方の適応する体型は,一般にやせ型で,皮膚の色は青白いか,あるいは浅黒く,いずれにしても皮膚の色が冴えず,くすんだような色をしていることが多く,腹診すると両側腹直筋の緊張が強く,肝経に沿って鋭敏であり,腹診の手をくすぐったがったり,ひどい時にはあまりくすぐったがるので腹診が行なえないことがあります。先日某診療所に来ました中学生も,私が腹診をしようとしただけで笑い出して手で腹部を覆ってしまい,腹診ができませんでした。成書に皮膚の色はどす黒く,暗褐色を呈することが多いと記載されておりますが,必ずしもこれにこだわる必要はないかと思います。いずれにしても皮膚の色はある程度よごれたような感がするように思います。
□ 鑑別処方:
急性・慢性中耳炎では,急性期にまず葛根湯を使用し,2~3日たったのちには小柴胡湯あるいは大柴胡湯を使用するのが普通でありますが,小柴胡湯を使う時期以後で耳痛,分泌物があれば荊芥連麹湯を使用するとよいとされますが,慢性化してしまったものでも使用することができると考えられます。ただし膿汁の分泌が相当に多かったり,体力が衰えた時などには千金内托散などを使用した方がよいかと考えられます。
鼻の病気は,急性期には葛根湯,あるいは麻黄湯,慢性化した時には葛根湯加味方,あるいは柴胡剤がもっともしばしば使用されますが,前に述べたように筋肉質で皮膚の色が浅黒く,腹筋が緊張して,腹診すると強く笑う時には荊芥連魍湯がよいと考えられます。また葛根湯加味方が効かない時には本方を試みるのもよいと考えられます。 本方は地黄が入っておりますから,あまり胃腸の丈夫でない人には時に食欲不振・下 痢を起こす可能性があると考えられます。もしそのような時には小建中湯のような処方に変方した方がよいかと思われます。
「温清飲によって虚弱な体質の改善をはかりながら,他の9味で慢性の耳鼻科疾患を治そうと意図したもの」はとても明快でわかりやすい解説です。
でも皮膚疾患に関しての記述は出てきませんね。
先日、この荊芥連翹湯の著効例を経験しました。
10年来当院にアレルギー疾患で通院している女児(といっても現在は高校生)。気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などがありますが、最近悩んでいるのが手掌多汗症と皮むけです。夏中心に、手掌多汗のためにいつも濡れていて赤く皮むけがあるのです。桂枝加黄耆湯が一定の効果がありましたが満足できるほどではなく、荊芥連翹湯を処方してみました。すると、翌月は「もう漢方はいらない」というのです。「え?あきらめちゃうの?」と聞くと「なんだか調子いいから飲まなくても大丈夫」との返答。手を触ってみると、あれ?普通の手のひらだ・・・。長患いの手掌多汗症が1ヶ月でここまで改善したことに驚きました。
でも、今まで読んできて、なぜ手掌多汗症に有効なのかの説明は見つけられませんでした。
次に、中村實郎先生のケースリポートから荊芥連翹湯の説明を抜粋します;
■ 急性アトピー性皮膚炎の増悪と荊芥連翹湯
荊芥連翹湯は柴胡清肝湯に似ていて,
・黄連・黄岑・黄柏・山梔子は黄連解毒湯で,清熱瀉火・涼血・化湿・解毒の作用で紅斑のほてりと熱感を取り消炎をする。
・地黄・当帰・芍薬・川芎は四物湯で,滋陰(栄養・保湿)作用をもち,荒れた肌に補血活血なる潤いを与える。
・川芎・桔梗・白芷・枳実は排膿を,
・桔梗はマクロファージを活性化して消炎を助ける。
・薄荷・柴胡・連翹も黄連解毒湯をさらに助けて清熱瀉火・解毒をする。
・柴胡・連翹・薄荷は表証皮膚体表部の消炎効果を高め,
・薄荷は白芷・荊芥・防風と共に止痒の効果を上げる。
これは皮膚に特化した解説ですね。
次は浅岡俊之先生の生薬解説「薬剤師のための漢方講座⑪:地黄と処方」から抜粋:
■ 「地黄と処方」
1.地黄
1)ゴマノハグサ科ジオウの根茎
2)神農本草経
『折趺(せつふ)・絶筋,傷中(しょうちゅう)を主る。血痺を逐(お)い,骨髄を填(てん)じ,肌肉を長ず』
*趺:足のこと
*傷中:打撲などにより臓腑の気が損傷すること
*血痺:血が滞り,閉塞することによって主に四肢にしびれや痛みなどの症状が出現すること
*肌肉:筋肉のこと
3)主治
『津液不足』 『血熱』 『血虚』
4)ポイント
地黄は神農本草経に血の病に用いることが記されています。実際,傷寒論や金匱要略では出血などの際に阿膠(止血剤)とともに用いられています。 しかし後世ではそれのみではなく,滋潤や補血を目的として多用されることとなります。
地黄は,その加工(修治)の仕方によって薬能を変える生薬であることを確認する必要があります(図)。
●生地黄
新鮮根を搗き,地黄汁として用いることが多い。薬性は寒で清熱効果が強い。現在では生地黄というかたちで用いられることは殆どない。
●乾地黄
生地黄を乾燥したもの。薬性は寒,清熱効果に加え滋潤を目的として用いられる。
●熟地黄
酒などで蒸し,乾燥させたもの。薬性は温で補血作用が主たる目的。
したがって,本来であれば処方の目的によって上記の地黄を使い分けることとなるわけです。 しかし,生地黄と乾地黄の薬能は著しく異なるわけではなく,現在では保存などの理由から乾地黄が用いられることが殆どです。
2.「地黄」が配される処方
2)荊芥連翹湯
(1)出典:万病回春/一貫堂
(2)条文:『鼻渊(びえん),胆熱を脳に移すを治す』(万病回春)
*鼻渊:鼻詰まり,蓄膿症
*胆熱:六腑の一つである胆の熱をいう。この場合には粘った鼻水のこと
(3)適応:鼻炎,蓄膿,扁桃炎,中耳炎
(4)ポイント:
現在,一般的に用いられている荊芥連翹湯は 一貫堂による構成生薬から成立しています。そして熟地黄が用いられます。
しかし,その原典である万病回春では荊芥,連翹,防風,当帰,川芎,芍薬,柴胡,枳殻,黄岑,山梔子,白芷,桔梗,甘草という構成生薬からなり,そして記載されているのは生地黄です。
つまり一貫堂における地黄の目的は,痛んだ粘膜や皮膚の補修を行うという意味での補血であり,よって熟地黄が配されます。
これに比し,万病回春では清熱を目的として 生地黄が配されるものと考えられます。
では最後に秋葉先生の「活用自在の処方解説」より;
■ 80柴胡清肝湯
1.出典:本朝経験方
本方は森道伯が『明医雑著』の同名方より牡丹皮、升麻を除いたもの、ある いは『外科枢要』の同名方から人参を去って創方したもの。すなわち本朝経験方。
●肝胆三焦之風熱を治し、頸項腫痛、結核を消散する。(矢数格著『漢方一 貫堂医学』)
2.腹候:腹力中等度前後(2-4/5)。ときに胸脇苦満や心下痞硬を認める。
3.気血水:気血水いずれとも関わる。
4.六病位:少陽病。
5.脈・舌:
●小児の脈はあまり重要視することはできないが、原則としては緊脈である。
6.口訣:
●解毒証体質者は皮膚が黄褐色あるいは色素沈着しやすい。(矢数格)
●また腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認めるものである。(矢数格)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
かんの強い傾向のある小児の次の諸症:神経症、慢性扁桃炎、湿疹。
b 漢方的適応病態:血虚血熱・風熱。すなわち、一貫堂の解毒証体質に適応される。
8.構成生薬:
柴胡2、黄芩1.5、黄柏1.5、黄連1.5、括楼根1.5、甘草1.5、桔梗1.5、牛蒡子 1.5、山梔子1.5、地黄1.5、芍薬1.5、川芎1.5、当帰1.5、薄荷1.5、連翹1.5。(単 位g)
<より深い理解のために> 全体に寒涼薬の多いのが特徴である。
9.TCM的解説:清熱解毒・祛風排膿・養血・止血。
10.効果増強の工夫:
方中に温清飲が配されており、さらに清熱が必要な場合には黄連解毒湯を加え、あるいは補血が必要な場合には四物湯を少量追加することにより薬能を加減することが可能である。
処方例)ツムラ柴胡清肝湯 7.5g
ツムラ黄連解毒湯 2.5g 混合し分3食前
11.本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より:小児腺病体質の改善薬として用いられ、肺門リンパ腺腫・頸部リンパ腺腫・ 慢性扁桃炎・咽喉炎・アデノイド・皮膚病・微熱・麻疹後の不調和・いわゆる疳症・肋膜炎・神経質・神経症等に応用。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:腺病質、肺門リンパ腺炎、アデノイド、扁桃腺肥大症、るいれき、皮膚病。
●桑木崇秀著『新版漢方診療ハンドブック』より:腺病質の子供で頸部のリンパ腺や扁桃腺の腫れやすい体質の改善に用いる。 肌は赤黒く、手足は特に冷たくはないものに適用。
<ヒント>
一貫堂の柴胡清肝湯に精通しておられたのは道斎・矢数各先生である。先生の著書『漢方一貫堂医学』から紹介する。
「柴胡清肝散はもちろん純粋の感冒薬ではない。しかし、前に記したように、 小児の解毒証体質者は、体質上感冒にかかりやすく、したがつて、この体質者にとつては感冒薬よりも、感冒予防薬を論じる方がより必要なことであろう。森道伯先生が、この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならないのである。 解毒証体質者は風邪にかかり、扁桃炎を併発し易く、また気管支炎も容易に起こすのである。ゆえに、このような体質の者には、感冒が治ったあとも、 この柴胡清肝散を服用させてこれらの病気を起こさせないように努めなければならない。その意味でわれわれはかなりの成績をあげているのである。」 予防医学の重要性が叫ばれている今日、一貫堂医学は注目に値するテーマ である。
湿疹への適用については、効能・効果の項目にオマケ程度に記載されているに過ぎません。
やはり「解毒症体質」を理解し、その証に沿った処方をすることが大切で、証が合えば湿疹を含めた体の不調が改善することが期待される、という理解になるかと思われます。
ここで私が注目したのは「くすぐったがりや」です。小児診療では日常的に出会う所見ですが、矢数格先生は「腹診をするとき、くすぐったがる小児は柴胡清肝散証の強いものと思ってさしつかえなく、腹診時の腹壁の異常過敏性は解毒証体質者に特有であって、柴胡清肝散証ばかりでなく、荊芥連翹湯証、竜胆瀉肝湯証などにも同様にこの現象を認める」とハッキリと云っていて、わたしがずっと抱えてきた疑問に答えてくれました。
結核が国民病であった時代に「結核にかかりやすい体質=解毒症体質」と定義されて考え出された柴胡清肝湯。提唱者の森道伯先生が「この小児の解毒証体質者に柴胡清肝散を与えた理由は、 じつにこの体質者を向上させて、後に肺結核を起こす余地を与えないようにと考えられたにほかならない」と云われたことも腑に落ちるようになりました。
現代で云えば、「解毒症体質≒易感染性に悩まされる虚弱児」でしょうか。私の外来でももっとたくさん処方されるべき処方ですね。
次は荊芥連翹湯の項目です。
■ 50荊芥連翹湯
1.出典:森道伯著『漢方一貫堂医学』
●荊芥連翹湯は柴胡清肝散(湯)の変方であって、青年期の解毒証体質を主宰する処方である。すなわち柴胡清肝散の去加方に『万病回春』の荊芥連翹湯を合方した一貫堂の創方で、耳鼻両方の病気を同一の処方で治することができる処方である。(矢数格『漢方一貫堂医学』)
●幼年期の柴胡清肝散(湯)証が長じて青年期となると、荊芥連翹湯証となるので、同様に解毒証体質者である。ゆえに、幼年期扁桃炎、淋巴腺肥大等にかかる者は、青年期になると蓄膿症となり、肋膜炎を起こし、肺尖カタルと変り、神経衰弱症を病む。この体質の者がすなわち荊芥連翹湯証で ある。(同上)
2.腹候:
腹力中等度以上(3-4/5)。腹直筋の攣急を認める。皮膚は色素沈着あり。
3.気血水: 気血水いずれとも関わる。
4.六病位:少陽病
5.脈・舌:
●原方となった温清飲より推測して、脈は細数。舌質は紅、舌苔は黄。(『中医処方解説』)
●荊芥連翹湯証の者の脈は緊脈を呈している。(矢数格)
6.口訣:
●皮膚の強い色素沈着と腹直筋の緊張とで本方の適用を決定することが多 い。(道聴子)
●青年期における一貫堂医学の解毒証体質者は、扁桃炎、中耳炎を病みやすかった小児期とは違って体質に変化を来たし、主として蓄膿症を起こすようになる。したがつて、同医学の病理によれば、小児期の扁桃炎と、青年期の蓄膿症とは同一性質の病気であることがわかり、蓄膿症が手術だけでは根治しにくい理由も理解される。(矢数格)
7.本剤が適応となる病名・病態:
a 保険適応病名・病態:効能または効果
蓄膿症、慢性鼻炎、慢性扁桃炎、にきび。
b 漢方的適応病態:血虚・血熱・肝鬱・風熱。
すなわち、皮膚につやがない、頭がふらつく、 目がかすむ、爪がもろい、手足のしびれ感、筋肉の引きつれ、などの血虚の症候とともに、のぼせ、ほてり、イライラ、不眠、目の充血、口渇などの熱証や、鼻出血、不正性器出血、下血など鮮紅色の出血がみられたり、 灼熱感のある暗赤色の発疹(湿潤性がない)あるいは皮膚炎、口内炎が生じるもの。さらに、ゆううつ感、いらいら、怒りっぽい、頭痛、胸脇部が張って苦しい、脇の痛み、腹痛などの肝気鬱結の症候を伴い、熱感を自覚するもの。
8.構成生薬:
黄芩1.5、黄柏1.5、黄連1.5、桔梗1.5、枳実1.5、荊芥1.5、柴胡1.5、山梔子1.5、 地黄1.5、芍薬1.5、川芎1.5、当帰1.5、薄荷1.5、白芷1.5、防風1.5、連翹1.5、 甘草1。(単位g)
9.TCM的解説:清熱解毒・疏肝解欝・凉血止血・解表。
10.効果増強の工夫:
著者は本方をアトピー性皮膚炎や慢性扁桃炎にしばしば適応する。一貫堂処方であるので、温清飲が配剤されているが、熱性強くやや力不足の感があるときには黄連解毒湯を適量追加する。
処方例)ツムラ荊芥連翹湯 5.0g 混合して分2朝夕食前
ツムラ黄連解毒湯 2.5g
同様に、血虚の状が目立つときには四物湯を適量追加する。
処方例)ツムラ荊芥連翹湯 5.0g 混合して分2朝夕食前
ツムラ四物湯 2.5g
11.本方で先人は何を治療したか?
●矢数道明著『臨床応用漢方処方解説』より:青年期腺病体質の改善・急性慢性中耳炎・急性慢性上顎洞化膿症・肥厚性鼻炎など、また扁桃炎・衂血・肺浸潤・面疱・肺結核(増殖型のもの)・神経衰弱・禿髪症など。
●龍野一雄編著『改訂新版漢方処方集』より:急性中耳炎、蓄膿症、肥厚性鼻炎、扁桃腺炎、鼻血、にきび、青年期腺病質改造。
柴胡清肝湯の思春期・成人版という設定ですが、こちらの項目には「アトピー性皮膚炎」とハッキリ記載されています。ただ解毒症体質を治すことにより皮膚病変にも好影響をもたらす、という雰囲気ですので、やはり本治>標治が目標なのですね。