漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

かぜに対する漢方薬は2つのパラメーター(経過日数と症状)で選択すべし

2024年07月03日 04時47分46秒 | 漢方
私は漢方を多用している珍しい小児科医です。
風邪患者さんにも希望する方には漢方薬を処方しています。

子どもが飲みやすい工夫も一緒に教えています。
「漢方は苦いから子どもは無理!」
と大人は思い込んでいても、飲んでくれることも結構あります。
中には効果を実感して、
「今日も漢方出してください」
とたどたどしく言う幼児もいたり…。

飲めて手応えがあったときはリピーターになってくれます。
具体的な効果は、
・風邪の治りがよかった
・夜の鼻づまりが楽になった
等の他に、体質改善の薬を使った場合は、
・風邪を引きにくくなり受診回数が減った
・保育園を休み日数が減った
という声もあります。

さて、かぜに対する漢方薬は、
その phase と症状で20種類くらいを使い分けます。
そのことにわかりやすく言及した記事を見つけましたので、
知識の整理がてら読んでみました。


■ “かぜ”の漢方、最適な処方を選ぶ2つのポイント
山内雅史(東条病院[千葉県鴨川市]副院長)
2024/06/27:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・
 ウイルス感染による急性上気道炎だと考えて対症療法を行う場合、漢方薬も選択肢になり得ます。漢方薬は、味や剤型から苦手な方もいる一方で、1種類で治療が完結することが多いというメリットがあります。解熱鎮痛薬、鎮咳薬、去痰薬など複数の薬剤を使用せず、総合感冒薬のように用いることができるのです。
 例えば、麻黄湯、葛根湯などは抗ウイルス作用があるだけでなく熱産生を助けることで発汗を促し、早期に解熱させる作用があることから解熱鎮痛薬を併用する必要がありません。
・・・

▶ エビデンスで見る急性上気道炎への漢方薬の有効性
 急性上気道炎に対する漢方薬の効果を検証した研究を紹介します。

・解熱薬と漢方薬(急性上気道炎で頻用される複数の漢方薬)を比較した試験では、解熱薬群(45人)の発熱の持続時間は2.6±1.7日だったのに対し、漢方薬群(35人)は1.5±1.9日と、有意に短くなっていました1)。さらに、咽頭痛や鼻汁といった症状の持続についても、解熱薬群の6.6±3.6日に対して、漢方薬群では5.1±1.9日と有意差を認めました。

・総合感冒薬と麻黄附子細辛湯の急性上気道炎への有用性を調べた試験もあります。臨床症状の改善度を「著明改善」「中等度改善」「軽度改善」「不変」「悪化」の5段階で評価したところ、総合感冒薬群(88人)で中等度以上の改善を得られたのは60.3%、麻黄附子細辛湯群(83人)では81.9%であり、有意差が確認されました2)。発熱の持続期間も、前者は2.8±1.5日、後者では1.5±0.7日と、有意に短い結果となりました。

・5日以上持続する症状(口内不快[口の苦み、口の粘り、味覚の変化]、食欲不振、倦怠感)を伴う急性上気道炎患者に対する小柴胡湯の有効性、安全性を検討したプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験でも、症状全般の改善度、咽頭痛や倦怠感など症状ごとの改善度のいずれにおいても、小柴胡湯の方が有意に優れていました3)。

・インフルエンザにも漢方薬が使われます。中でも、よく処方されるのが葛根湯と麻黄湯です。葛根湯は、炎症細胞浸潤を増強させる作用を持つインターロイキン(IL)-1αの誘導を抑制すると共に、気道上皮のIL-12などの産生を促進することでウイルスの増殖を妨げ、炎症を軽減させるといわれています4)。麻黄湯に関しては、in vitroで抗ウイルス活性を有することが明らかになっています5)。

▶ 漢方薬選びで注目すべきは「発症からの経過日数」と「症状のパターン」
 漢方薬を選択するに当たっては、患者が受診したタイミングが発症から「3日以内か」「4日以降か」で分けて考えることをお勧めします。ウイルスによる急性上気道炎は日数の経過に伴って症状が変化していくからです。例えば、発症初期は発熱が中心だったものの、解熱後は別の症状が残存したり、増悪したりすることもあります。発症後3日以内/4日以降で区切ると、それらの症状の移ろいに合わせて、より適切な処方がしやすくなると感じています。

発症から3日以内に受診した場合
 発症から3日以内のケースでは、表1のように症状のパターンに応じて使い分けましょう。

▢ 発症から3日以内に受診した場合に選択肢となる漢方薬
(症状のパターン)    (選択枝となる漢方薬)
・悪寒 → 発熱        麻黄湯、葛根湯
・悪寒 → 微熱/発熱なし   小青竜湯、麻黄附子細辛湯
・悪寒も発熱もなし(※)  桂枝湯、香蘇散
※ 発熱後1日程度で自然解熱した例も含む

 「悪寒→発熱」という発症パターンであれば、麻黄湯、葛根湯が適応になります。これは、急性上気道炎に限った話ではなく、インフルエンザでも新型コロナウイルス感染症でも、ウイルスが原因の場合には基本的に当てはまります。いずれも、まずは発汗させて自然解熱を助ける効果に加え、抗ウイルス作用を有するからです。インフルエンザのように高熱が出やすいケースでは、解熱作用のある麻黄、桂皮を多く含む麻黄湯を、発熱に伴う頭痛や筋肉痛が目立つときには、葛根、芍薬といったそれらの症状を緩和する生薬が入った葛根湯を使用します。

 「悪寒→微熱/発熱なし」(高熱は出ないが悪寒が続いている[微熱がないものも含む])のパターンでは、細辛、乾姜といった体を温める生薬が入っており、発汗・解熱に働く小青竜湯を選びます。特に、水溶性鼻汁や湿性咳嗽を伴う場合に効果を期待できます。冷えや悪寒が強く、顔色も悪いようならば、細辛や附子といった体を温める生薬を含む麻黄附子細辛湯が最適です。

 「悪寒も発熱もなし」で適応になるのは桂枝湯香蘇散です。前者は麻黄を含まず発汗・解熱作用は強くないものの、消化器症状によく効きます。そのため、受診時には解熱している、軟便や下痢のある患者などに使いやすい漢方薬です。後者は、最初から発熱がなく、咽頭痛、鼻汁、咳や痰などの症状のみで、胃もたれしやすかったり、高齢だったりする場合のほか、香附子や蘇葉といった気分を回復させる生薬を含むため、体調不良で気分が落ち込みやすい方にも適します。

▶ 発症から4~7日で受診した場合
 受診時点で発症後4~7日が経過しているときに用いる漢方薬は表2の通りです。発熱の有無が使い分けのポイントです。

▢ 発症から4~7日で受診した場合に選択肢となる漢方薬
(症状のパターン)        (選択枝となる漢方薬)

・発熱が続く/           小柴胡湯、小柴胡湯加桔梗石膏、柴胡桂枝湯
 解熱と発熱を繰り返す
      
・悪寒も発熱もなし 
 +水溶性鼻汁、湿性咳嗽     小青竜湯 
 +乾性咳嗽           麦門冬湯
 +膿性痰を伴う湿性咳嗽     清肺湯
 +喘鳴を伴う咳嗽        麻杏薏甘湯
 +強い咽頭痛          小柴胡湯加桔梗石膏
 +膿性鼻汁           葛根湯加川芎辛夷

 「発熱が続く/解熱と発熱を繰り返す」ケースでは、小柴胡湯が適応になります。解熱・抗炎症作用を持つ柴胡、黄芩のほか、鎮咳作用のある半夏、消化機能を高める生姜や人参などから成るため、長引く急性上気道炎で、発熱と咳嗽、食欲低下を伴うときに有効です。咽頭痛が目立つならば、小柴胡湯に鎮痛・抗炎症作用のある桔梗と石膏をプラスした小柴胡湯加桔梗石膏がより適します。小柴胡湯に桂皮と芍薬を加えた処方として柴胡桂枝湯がありますが、胃腸の調子を崩しやすいタイプや下痢症状を伴う患者に使用します。

 受診時点で「悪寒も発熱もなし」という場合は、中心となる症状に応じて漢方薬を選びます。水溶性鼻汁、湿性咳嗽が主なら小青竜湯、乾性咳嗽が主なら麦門冬湯、膿性痰を伴う湿性咳嗽が主なら清肺湯、喘鳴を伴う咳嗽が主なら麻杏甘石湯、強い咽頭痛が主なら小柴胡湯加桔梗石膏、膿性鼻汁で副鼻腔炎を疑うなら葛根湯加川芎辛夷をそれぞれ処方します。
・・・

<参考文献>
1)本間行彦 日東医誌 1995;46:285-91.
2)本間行彦 他 日東医誌 1996;47:245-52.
3)加地正郎 他 臨床と研究 2001;78:2252-68.
4)白木公康 医学のあゆみ 2002;202:414-8.
5)Masui S,et al. Evid Based Complement Alternat Med.2017:2017:1062065.

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