漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

漢方生薬探求:朮と茯苓

2021年01月17日 06時49分44秒 | 漢方
生薬から漢方方剤を読み解く試みシリーズ、第5回は「朮」と「茯苓」です。
私のこの二つの生薬のイメージは、

・水を捌く(利水)
・利水とは「体内の水の偏りを元に戻す」ことで、西洋医学の「利尿」とは異なる
・朮には白朮と蒼朮があり、使い分けるらしい(が詳細不明)
・朮と茯苓の違い、使い分けはよくわからない

と云う感じです。
西洋医学の「利尿剤」は体の状態にかかわらずオシッコを出す薬ですが、
漢方の「利水剤」は過剰な水は出してくれるけど、
脱水状態の時はオシッコが増えることはない、という不思議な薬能を持っていると説明されます。
つまり「バランスを取る」「よい状態に戻す・保つ」ということ。
なぜこんなことができるのでしょう。

今回も今までと同じ資料を舐めるように読んでいきます。

<参考資料>

1.浅岡俊之Dr.の漢方解説
② Dr.浅岡の本当にわかる漢方薬(浅岡俊之著、羊土社、2013年発行)

2.『薬徴』(吉益東洞)、『薬徴続編』(村井大年あるいは村井琴山)

3.「増補薬能
編集人:南 利雄  出版元:壷中秘宝館 


まずは浅岡Dr.の解説動画(茶色)から、次にツムラ漢方スクエアの『薬徴』解説(黄土色)、担当は岡野正憲先生です。
いつもの通り、生薬の起源から始まり、生薬数の少ない方剤から其の生薬の薬能を導き出す手法です。

<序章・導入部分>

□ 漢方薬は「偏りを治す」薬能の生薬がある
(寒熱の偏り)
・表寒:
・上熱下寒:
・往来寒熱:柴胡
(気の偏り)
・気逆:
・気鬱(心下部):厚朴、枳実
(血の偏り)
・瘀血(下腹部):桃仁、牡丹皮
(水の偏り)
・水毒

附子は出世魚ならぬ出世生薬?
・キンポウゲ科トリカブト属の根
・1年もの→ 側子(そくし)
・2年もの→ 烏啄(?)
・3年もの→ 附子
・4年もの→ 烏頭
・5年もの→ 天雄

漢方生薬の古典の記載にある「両」とは?
・重さの単位で、1両=約1.2gに相当

 吉益東洞の張仲景に関する記述
「かの張仲景が病を治療するのは証に随って行うので、その元を考えて治療するのではない。元を考えるのは実際にはっきりわかったものでなくて、頭で想像したものである。はっきりわからぬことで事を決めるのは張仲景の取らぬところである。つまり、立証された以外のものを張仲景は否定している。」
「だからよく病を治すのだ。漢方の中に証が存在する。その漢方がどんな病症に用いるかと云うことを知らなければ、病症に薬方が的中できないのだ。この方がどんな病症に用いるかを知るには薬の効能を知ることが大切である。薬の効能を知ってから初めて漢方について語れるわけである。」
「張仲景は水の存在する音がして、水を吐いたならば、水があるとして之を治すのだ。これは当然知るべき事を知り、当然見るべき事を見るのだ。事実とはこのようでなくてはならない。これを知見する方法というのである。仲景の薬方には誠が会って確かな拠り所がある。」

<本論>

 朮は古代人の以下の体調不良の悩みが解決した生薬
・体が重い
・足がむくむ
・顔もむくむ
・オシッコの出が悪い
・なのに口が渇く
・昨夜の送別会が原因らしい?

「口が渇く」病態とは?
→ 水不足
・体に水が足りない→ 滋潤(甘草、大棗、小麦、膠飴・・・)
しかし、「口が渇く+体のむくみ」は?
→ 水不足ではない?

白朮:キク科オケラ、オオバナオケラの根茎
蒼朮:キク科ホソバオケラ、シナオケラの根茎

白朮と蒼朮の使い分け
・『神農本草経』では区別なし
・『傷寒論』では「白朮」しか出てこない
・白朮と蒼朮の記述と使い分けはそれ以降
・現在では古典の朮と現在の述が同じ品質であるかどうかも判断不能・選別困難
→ 浅岡Dr.のレクチャーでは「朮」と統一した用語を使うことにした。
・朮について宗◯という人が云っているのには、古い時代の薬方や『神農本草経』では単に朮とだけ云っている。そして蒼朮、白朮を区別していない。陶弘景は『名医別録』に蒼朮、白朮を述べている。そして後の世の人は往々にして白朮を貴んで用いるが、蒼朮をばかにしている。東洞は中国産の蒼朮、白朮の水をなくす働きは蒼朮の方が白朮より勝れていると考える。だから私は蒼朮を使う。日本産のものは品質が悪くて効力が劣る。いずれも刻んで用いる。

古典における朮
・『神農本草経』風寒湿痺、死肌、痙、疽を主り、汗を止め、熱を除き、食を消す
・『傷寒論』10方、『金匱要略』25方に使用される
・『薬徴』朮、水を利するを主る。故に能く自利不利を治す。かたわら心煩疼、痰飲、失精、眩冒、下痢、喜唾(きだ)を治す。
→ 「朮は水分代謝を主治とするものである。其の故に尿の出すぎるほど出るものタ、尿の出の少ないものとを治する。そのかたわら、体の煩わしい痛みとか、体内に溜まって病気の原因になる水分とか、精液の病的に漏れることとか、頭に何か思いものを被っているようで眩暈するとか、大便の下痢することとか、唾液がダラダラ出ることなどを治する働きがある。」
「諸方を見渡してみると、尿の異常を論じていないものはない。その他飲、痰、体の煩わしい痛み、唾液がダラダラ出る、眩暈とかはみな水の病である。大体尿の出が少なくて、このような水の病の証を兼ねているものは朮を使って、尿が十分に出るようになるとすぐ治ってしまう。こういうことから考えてみると、朮は水の出をよくすることは明らかなことである」

<朮を含む方剤>

沢瀉湯】白朮、沢潟
「心下に支飲あり、其の人冒眩に苦しむ」
→ 沢潟の薬能は「冒眩」なので、引き算すると白朮は「心下の支飲」を担当
※ 「冒眩」頭に何か被さって絞められている感じ
※ 「支飲」水が溜まっている状態

枳朮湯】白朮、枳実
「心下堅、大いなること盤の如く、辺(あたり)旋盤のごときは水飲の作すところなり」
→ 枳実は「盤」(硬いこと)を担当、引き算すると白朮は「水飲」を担当

朮附湯白朮、附子
「風虚頭(ず)重く、眩(めまい)し、苦極(くきわまり)、食味を知らざる」

防已黄耆湯防已、黄耆、白朮、生姜、大棗、甘草
「風湿、脈浮、身重く汗出で悪風」
白朮は「湿」(裏の水)を担当
→ 防已+黄耆は「表の水」を担当

以上、「朮」は「水」に関連した病態に使用されていることがわかる。
次に、朮がどのようなときに加味されるか調べてみよう。

<朮を“加味”すべき病態>

麻黄加朮湯】麻黄湯(麻黄、桂枝、杏仁、甘草)+
湿家、身煩疼」
→ 朮は「湿家」(水飲の停滞のある人)を担当
・湿家:水分が多いとか汗が出やすい状態の人
・心煩疼:体の煩わしい痛み

越婢加朮湯】越婢湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草)+
「一身面目黄腫、其の脈沈、小便利せず」(『金匱要略』から?)
→ 朮は「小便利せず」(「裏の水」を排除)を担当
→ 麻黄+石膏は「表の水」を排除する
・一身面目黄腫:体中顔までひどくむくんでいること

理中湯】(=人参湯:人参・甘草・朮・乾姜
渇して水を得んと欲する者、述を加う
→ 決定的な条文!

以上より、朮の主治が見えてくる。

朮の主治
口渇して小便不利
・守備範囲は「
→ (そこから派生した症候)四肢疼痛、心下逆満、浮腫
・しかし、この病態は体に水が多いのか、少ないのか、どっち?
→ どちらでもない。水の多寡ではなく「水の偏り」「水の偏在」という病態
→ 「水の偏り」があると乾きと過剰の両方の症候(口渇とむくみ、口が渇くのに舌が湿っている/歯痕舌、なのような)が出現し得る
・「水の偏在」を治すことを「利水」と言う

★ 述は「裏」の利水を担当、では「表」の利水は?
→ 「防已+黄耆」うあ「麻黄+石膏」が担当する。

防已黄耆湯防已、黄耆、白朮、生姜、大棗、甘草
「風湿、脈浮、身重く汗出で悪風」

越婢加朮湯】越婢湯(麻黄、石膏、生姜、大棗、甘草)+朮
「一身面目黄腫、其の脈沈、小便利せず」

部位別水の偏り・偏在」による症状
・頭部 → めまい、耳閉感、ボワーンとした感じ
・下部 → 足のむくみ・痛み 
・表 → 二日酔い
・裏(消化管)→ 嘔吐・下痢

水を扱うもう一つの生薬「茯苓」も紹介されています;
ツムラ漢方スクエア『薬徴』解説の茯苓の項目は坂口弘先生が担当されています。


<茯苓>

 茯苓
・サルノコシカケ科マツホドの菌核:アカマツの切り株の近くに生える(マツクイムシにやられた松には生えない)
・アカマツを伐採した数年後、根の周囲に子どもの頭大の塊の菌核ができる。秋から冬にかけて切った松の根の周囲を鉄の棒で突いて、その手応えと鉄棒の先についた白い粉末により、茯苓がそこにあることを発見する(茯苓突き)。昔は松の根にこのようなものが生じることを松の霊気が伏結して生じたと考え、つまり松の spirit が根の中に伏しているという意味から伏霊と名付けたものが、次第に今日の茯苓になった。菌塊茶色の外層を除き、中の白い菌塊を薬物として用いる。
・『神農本草経』「胸脇の逆気、憂・◯(うらみ)、驚邪恐悸、心下結痛、・・・、小便を利す」
・『傷寒論』15方、『金匱要略』30方に使用される
・主治:眩悸して口渇、小便不利
・『薬徴』主文「及び肉瞤筋愓(にくじゅんきんてき)を主治する。かたわら小便不利、頭眩、煩躁を治す」
→ 動悸がして、筋肉がピクピク動く状態を主治し、そのかたわら小便がうまく通じない、あるいは頭がくらみ、息苦しいとか、体に苦しみがありもだえ苦しむ状態を治す。
※ 「悸」は動悸、「肉瞤筋愓」は筋肉がピクピク動くこと(痙攣)、「小便不利」は小便が気持ちよく出ない(乏尿と頻尿の両方を含む概念)、「頭眩」は頭がくらむことでめまいも入るしふらつきも入る。
・『薬徴』(考徴)
 茯苓含有方剤を歴観すると、心下悸・臍下悸は当然であるが、四肢がピクピク動くとか、身が瞤動するとか、頭眩するとか、煩躁するとかなどがあるが、みなこれは動悸の類いである。
 「悸」が茯苓の主たる適応症であり、動悸がない場合に茯苓を用いても効果はない。その他に、小便不利、頭眩、煩躁というものが加わってくる。
・『薬徴』(品考)
 茯苓は古くなると色が濃くなり赤茯苓となる。比較的新しいものは白身が勝っているので白茯苓と呼ぶ。赤茯苓は瀉の力が強く、城茯苓は補の力が強いと云うことで、例えば猪苓湯では瀉の勝った赤を使った方がよいであろうとも言われるが、それは憶測であって従わなくてもよい。

★ 水が偏在するとどうして口が渇くのか?
→ 他には余っているが、口周囲は水が足らないため
→ 脱水ではないので水をがぶ飲みするほどではない

<茯苓が配合された処方>

小半夏加茯苓湯半夏、生姜、茯苓
嘔吐し眩悸するもの」
→ 半夏と生姜が「嘔吐」を担当、茯苓は「眩悸」(めまいと動悸)を担当
・『薬徴』「眩悸」
→ 頭がクラクラして心臓に動悸がする。吐き気が強くていろいろな薬でどうしても収まらないときに、小半夏加茯苓湯(21)を冷たくして少しずつ飲むと吐き気が治まる。

苓桂朮甘湯】茯苓、桂枝、白朮、甘草
「心下逆満、気上がって胸を衝き、眩暈、動悸、口渇して小便不利のもの」
茯苓は朮とともに「眩暈、動悸、口渇して小便不利」を担当
・『薬徴』「身振振として揺をなす。また云う、頭眩」
→ 水が溜まったために起きるめまいとか、上衡というものを治すときに用いる。立ちくらみにも有効で、子どもの起立性調節障害など、学校の朝礼の時に長く起っていると倒れるものの場合には著効する。メニエール病にも用いる。

五苓散】茯苓、白朮、沢潟、猪苓、桂枝
「汗出で渇す」
→ 両方入っている。簡単すぎて分析不能(?)。
・『薬徴』「臍下に悸あり、涎沫(ぜんまつ)を吐して癲眩(てんげん)するもの」
→ 臍の下に動悸があり、泡のような唾を吐き、そして頭がくるめく状態。


<茯苓が加味(トッピング)される処方>

小柴胡湯
「若(ただ)し心下悸し小便不利のもの、茯苓を加う」

四逆散
・条文「小便不利のもの、茯苓を加う」

理中湯】(=人参湯:人参・甘草・朮・乾姜)
・条文「するもの、茯苓を加う」

真武湯
・条文「若し小便利するもの、茯苓を去る

以上、「小便不利」が主治と考えられる。

ただ、「水の偏在=口渇」が今ひとつピンとこない。
それに関して、ひとつ、衝撃的な条文を持つ方剤が存在する!

苓姜朮甘湯】茯苓、乾姜、蒼朮、甘草
水中に座するが如く、・・・、反って渇せず、小便自利」
→ 「小便不利」ではなく「小便自利」?
→ 苓姜朮甘湯の適用となる水毒は、腰が冷えて腰のあたりに水が溜まっている状態なので、否が応でも尿はたくさん出るのである。水の偏在は場所も考慮し相対的であることに留意すべし。

水の偏在→ 口渇、小便不利の意味は?
・心下部・胃のあたりに水が溜まっているので、相対的に頭部と下腹部には水が不足している状態のため「口渇」「小便不利」という症状に結びつく。
・水の偏在→ 水が足りない所と、余っている所ができる。
・体全体が乾いて(脱水)感じる口渇ではないので、ガブ飲みしたくなるほどではない。ちょっと口に入れると「もういい」程度。

朮と茯苓の守備範囲の違い
利水剤であることは共通、その守備範囲・水の溜まる場所が胃脘癰に異なる;
朮 :手足、心下部(水飲、心下逆満)
茯苓:胸部(動悸)、頭部(眩暈)


浅岡Dr.は、朮の主治を「水の偏在を治す(利水)」ことであると言い切っています。ただ、この「水の偏在」をよく理解することが必要で、「脱水状態」ではなく「水の過剰」でもなく、「脱水状態と水分過剰が混在している状態」であり、「脱水と過剰が分布する場所により、症候が異なり薬効も異なる」と説明しており、理解できました。

吉益東洞は「水を出す」ことを方剤の薬能の共通項から抽出していますが、ここまでの掘り下げ方では苓姜朮甘湯の条文を説明できなくなり、行き詰まります。

浅岡Dr.は同じ利水薬である朮と茯苓を比較し、その微妙な差を理解するためには薬効に目を奪われないで、守備範囲とする水毒の部位に注目すべきとアドバイスしています。つまり、

の守備範囲は手足心下部 → むくみと水飲
茯苓の守備範囲は胸部頭部 → 動悸と眩暈

の流れで理解すべきである、と。
合点がいきました。


<増補薬能>

次に増補薬能で近代の本草書の「朮」の項目を概観してみます;

増補能毒】(1652年)長沢道寿
-白朮
 「味苦く甘く温。足の太陰脾、足の陽明胃の二経に入る。胃を温めて食の滞りを消し、また能く食を進めて脾胃を調う。心腹脹満するに、腹中冷えて痛むに、胃の腑虚して腹下るに、湿気を除き、気を益し、痰を去り小便を通ず」。私曰く、この薬は腹中を調え温め、湿気を去ると心得て使うべし。故に下り腹、脹満、水腫などに必ず用うるものなり。霍乱、吐逆、腹の痛みにも大略はずさず用いるなり。気を調える薬に用いる心は、腹中を調えれば気必ず生ずる故なり。四君子湯の内に入れたぞ。
-蒼朮 
 「性味、能毒、大略白朮に同じ。変わるところはよく汗を出し、風を去り、欝気を散するなり」。私曰く、白朮は汗を止めるぞ。是が殊の外の変わりなり。気を補う事あるまいぞ。この故に発散の薬の内に多く用いたぞ。白朮は柔らかなるものなり。蒼朮は古根といえり。また一説には同じ物にてはなしといえり。とにかく白く柔らかなるを白朮と心得、黒く堅きを蒼朮と使うべし。酒毒を消し、湿気を燥かす薬ぞ。
(毒)
「腎水燥き少なきには、脈数なるには」。私曰く、燥きたる者に忌むと心得ればよし。瘡を煩う人には気虚すといえども斟酌すべし。膿を生ずる故なり。

一本堂薬選】(1738年)香川修庵
 腸胃を燥し、泄瀉を止め、尿道を和す、自汗、盗汗を止め、傷食吐瀉止まず、胎を安じ、湿を除き、腸胃を堅む。

薬徴】(1794年)吉益東洞
 利水を主るなり。故に能く小便自利、不利を治す。傍ら身疼煩、痰飲失精、眩冒、下利、喜唾を治す。

薬性提要】(1807年)多紀桂山
 胃を燥し、湿を除き、鬱を散じ、痰を逐う。

古方薬品考】(1841年)内藤尚賢
 味微に苦く辛温。気芳烈。故に能く胃気を開き、湿水を瀉し、尿道を調利せしめ、古人、茯苓と並び用いて、以て心下の水満、浮腫、小便不利等を治す。

重校薬徴】(1853年)尾台榕堂
 利水を主る。故に小便不利、自利、浮腫、支飲冒眩、失精、下利を治す。兼ねて沈重、疼痛、骨節疼痛、嘔渇、喜唾を治す。

古方薬議】(1863年)浅田宗伯
 味苦温。風寒湿痺を主り、胃を開き、痰涎を去り、下泄を止め、小便を利し、心下急満を除き、腰腹冷痛を治す。

漢方養生談】(1964年)荒木正胤
 利水を主り、湿をとり、胃内の停水をとり、下痢を止め、嘔渇を治し、身体の疼痛、口中に唾の湧くのを止める。


各本草書におしなべて「利水」の記述がありますが、症候だけを羅列されると生薬のイメージが沸きません。この点が漢方方剤の勉強・理解の妨げになっていると以前から感じてきました。
その奥にある病態を解説してくれる浅岡Dr.はやはり貴重な存在です。

次に増補薬能の「茯苓」の項目です;

<茯苓>
 
増補能毒】(1652年)長沢道寿
 「味甘く淡平。肺・脾・小腸の三経に入る」。私曰く、微寒に行くべきか。「能く小腸を通ず」。私曰く、此の薬も腹中を調え小便を通ずる故に、下り腹、霍乱などに大略白朮と同じく用うると見えたり。また気をも生ずる故に、四君子湯に入りたぞ。「胸騒ぎに」。私曰く、痰または水より発りたる胸騒ぎにもよし。心虚して胸騒ぎするに猶よし。「痰を能く去り熱気を小便より去る」。私曰く、此の薬は小便を能く通ずるほどに湿気の煩いには何れにも用う。腹中を調え気を生ずる故に霍乱、吐逆、気虚の人には絶えず用いると心得るべし。
(茯神)「性味能毒だいたい茯苓に同じ。変わるところは神気を調える事、茯苓より益したると知るべし。故に一物に驚きやすき人に、胸騒ぎに、物忘れするに、夢を多く見るに」。
(毒)「多く汗の出る人に、小便のしげきに、強く目のかすむ人に」。私曰く、茯苓に細き筋あり、よく水飛して除けざれば人を盲目にすると云えり、慎むべし。茯苓と茯神との見分けようは、中に芯のあるを茯神とするなり。

一本堂薬選】(1738年)香川修庵
 元気を順導し、水道を通暢し、消渇を止め、停水を逐い、胎を安じ、泄を止め、津液を生じ、尿を利し心下悸、淋疾、水腫。

薬徴】(1794年)吉益東洞
 悸及び肉詩筋蔟を主治するなり。傍ら小便不利、頭眩煩躁を治す。

薬性提要】(1807年)多紀桂山
 甘淡。平。脾を益し、湿を除き、心を補い、水を行らし、魂を安じ、神を養う。

古方薬品考】(1841年)内藤尚賢
 気味甘淡。質潤降。故に能く津液を生じ、消渇を止め、また能く痰飲、宿水、嘔逆、煩満等を瀉す。

重校薬徴】(1853年)尾台榕堂
 水を利するを主る。故に能く停水、宿水、小便不利、眩悸、詞動を治す。兼ねて煩躁、嘔渇、下利、咳、短気を治す。

古方薬議】(1863年)浅田宗伯
 味甘平。胸脇逆気恐悸、心下結痛、煩満を主り、小便を利し、消渇を止め、胃を開き、瀉を止める。

漢方養生談】(1964年)荒木正胤
 利水を主り、胃内停水、小便不利、眩暈心悸、小便瀕数、減少、筋肉の間代性痙攣を治す。魂を安らかにし、神を養う霊薬。

Dr.浅岡の云う、動悸・眩暈(めまい)はそれぞれいかのしょもつにきさいされていました;
・動悸:増補能毒】胸騒ぎ、一本堂薬選】心下悸、薬徴】煩躁、重校薬徴】眩悸、古方薬議】胸脇逆気、恐悸、漢方養生談】心悸
・めまい:薬徴】頭眩、【重校薬徴】眩悸、【漢方養生談】めまい


さて最後に、私の当初の「朮」「茯苓」のイメージを振り返ってみます。

・水を捌く(利水)
・利水とは「体内の水の偏りを元に戻す」ことで、西洋医学の「利尿」とは異なる
・朮には白朮と蒼朮があり、使い分けるらしい(が詳細不明)
・朮と茯苓の違い、使い分けはよくわからない

有名な生薬ですから「利水」は当たっていました。
白朮と蒼朮は区別できていませんでしたが、詳しく知ってもやはり区別は困難であることを知りました。
そして朮と茯苓の違いも「守備範囲」の違いであることを知りました。

今回も勉強になりました。

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