「副作用が少なそうなので漢方薬を希望」
される患者さんがいます。
でも漢方も“くすり”です。
体に一定の影響を及ぼすのですから、
それが体によいことばかりではありません。
体に不都合な作用を“副作用”と呼びます。
漢方薬を多用する小児科医である私は、
副作用に気をつけながら処方しています。
漢方の診断名である“証”に基づいて使用すれば回避できる副作用もありますが、
患者さんの体質によるアレルギー反応は西洋薬同様、完全回避不能ですし、
長期使用にてジワジワと出現してくる(用量依存性)副作用もあります。
最近私が悩んでいるのは、
・発達症に使用する柴胡剤
・月経前症候群に使用する加味逍遥散(24)
です。
柴胡剤に含まれる黄岑は抗炎症・抗アレルギー効果に優れた生薬ですが、
“効く薬は副作用もある”という暗黙のルール通り、
その生薬自体がアレルギーの原因にもなり、
まれに間質性肺炎や肝機能障害を起こすことが報告されています。
間質性肺炎は「風邪を引いたわけでもないのに咳が止まらない」という症状でチェック可能ですが、
肝機能障害は「だるい、食欲がない」と捉えどころがない症状で始まりますのでやっかいです。
私は柴胡剤を長期使用する場合、開始後1ヶ月以内に1回、
その後は半年〜1年に1回ペースで血液検査をすることにしています。
ここで問題になるのが発達症の患者さんです。
癇癪やパニックを起こす子どもがいるので、採血が大変なのです。
これは、発達症に漢方を使用している小児科医共通の悩みです。
漢方が効いているので止めたくない、でも採血はできない患者さんには、
「ヘンにだるそう、食欲がないときは中止して報告してください」
と指導するしかありません。
月経前症候群に加味逍遥散がとてもよく効いている女子がいます。
月経前のイライラ感が強く、家族も本人も困っていたのが、
この薬を飲み始めてから「とても楽になった」「この薬を手放せない」と報告してくれました。
加味逍遥散には山梔子という生薬が入っています。
この漢方を年単位で使用し、5年くらいすると山梔子による消化器障害「腸間膜静脈硬化症」が出現することが報告されています。
この副作用はアレルギー反応ではなく“使用量依存性”の副作用です。
月経は長い期間つき合っていかなければなりません。
5年以内に休薬する必要があるとすると、
別の漢方薬を探さなければなりません。
今のところ、女神散(67)が候補ですが、
果たして将来、どうなることやら…。
わかりやすい記事が目に留まりましたので、紹介します。
“甘草”という生薬の有名な副作用「偽アルドステロン症」の解説があります。
その中で、「甘草の作用はステロイドに似ている」という表現がありますが、
私は昔からそう感じています。
甘草は天然素材由来の“ステロイド様作用”が得られる貴重な生薬です。
しかし副作用はステロイド薬ほど重くはありませんので、
気をつけながら使用すればとてもよい薬になります。
■ 漢方薬の飲み過ぎで「大腸が真っ黒」になる
…医師が「副作用に注意すべき」と警鐘を鳴らす漢方薬の名前「漢方は副作用が少ない」はウソ
大脇 幸志郎:医師
大脇 幸志郎:医師
(2024/01/13:PRESIDENT Online)より一部抜粋(下線は私が引きました);
…医師の大脇幸志郎さんは「漢方薬に含まれる『甘草』や『大黄』、『山梔子』には頻繁に出会う副作用や重篤な副作用が指摘されている。『漢方薬だから副作用はない』と思って飲み過ぎると思わぬ健康被害にあう」という――。
▶ 本当に漢方薬は副作用が少ないのか?
・・・あるアンケート調査(※)では、回答者の7割以上が「漢方薬は副作用が少ないと思う」と答えていますが、本当に漢方薬は副作用が少ないのでしょうか。
※ QLife漢方「漢方のウワサ!リサーチ隊 Vol.3「漢方薬は副作用が少ない?」を徹底調査」
結論から言いますと、残念ながら、漢方薬にも副作用はあります。たいていの副作用は軽い症状にとどまり、飲むのをやめれば解消するのですが、中には深刻な副作用もまれにあります。
この記事では漢方薬の副作用のうち筆者がよく出会うものや特に深刻なものをいくつか紹介します。
▶ 放っておくと大変なことになる「偽アルドステロン症」
漢方薬の副作用として特に代表的なものが「偽アルドステロン症」です。
これは出会う機会も多いし放っておくと大変なことになるので、漢方薬を出す医師は必ず知っておくべきものです。
厚生労働省の資料によると、「偽アルドステロン症」には、高血圧、むくみ、手足のだるさ、筋肉痛などの症状があるとされます(『重篤副作用疾患別対応マニュアル』「偽アルドステロン症」)。
▶ 漢方薬に含まれる「甘草」が副作用を起こす
偽アルドステロン症は、多くの漢方薬に含まれている甘草が起こす副作用です。
より詳しく言うと、甘草の有効成分であるグリチルリチン酸が偽アルドステロン症を起こします。
アルドステロンというのは人体が自然に作っているステロイドホルモンの一種です。グリチルリチン酸はアルドステロンのような作用、たとえば血圧を上げ血中のカリウム濃度を下げるといった作用を引き起こします。
▶ 「ステロイドホルモン」の作用を強めてしまう
ステロイドホルモンという言葉が出てきました。ステロイドというのはあるグループの化学物質を指す言葉で、多くの物質がステロイドに分類されます。医薬品でステロイドと言えばふつう、アルドステロンとは別の、炎症を抑えて熱や痛みなどをやわらげるタイプの薬を指します。
人体内ではコルチゾールというステロイドホルモンがこの作用を持っています。ステロイド薬は、おおまかに言って、コルチゾールの作用をまねるように作られた物質です。
アルドステロンもコルチゾールもステロイドです。それぞれ機能は違うのですが、完全に異なるわけではなく、共通の作用を持っています。それが血圧を上げるとかカリウム濃度を下げるというものなのです。
ただ、体内では、コルチゾールが代謝されてコルチゾンという物質に変わることで、アルドステロンのような作用が抑制されています。
しかし、漢方薬の「甘草」すなわち「グリチルリチン酸」を摂取すると、その代謝産物が、コルチゾールからコルチゾンへの代謝を阻害してしまいます。
するとコルチゾールが過剰になり、アルドステロンのような作用も過剰になります。これが「偽アルドステロン症」です。
簡単に言うと、漢方薬の代表的な副作用は、ステロイドの副作用とも言えるのです。
▶ 認知症に処方される「抑肝散」に注意
甘草を含む漢方薬は、天然のステロイドであるコルチゾールを介した副作用を持っています。とすれば、漢方薬の「効果」も、コルチゾールによる部分があるのではないでしょうか?
ステロイド薬はいろいろな病気や症状に使われる、とても便利でよく効く薬です。ステロイドは炎症を抑え、熱や痛み、アレルギー反応をやわらげます。なんとなく、漢方薬が出される症状に似ている気もします。
甘草を含む漢方薬の公式説明文書(添付文書やインタビューフォーム)には、必ず、グリチルリチン酸が含まれること、偽アルドステロン症に注意すべきことが書かれています。
偽アルドステロン症を起こす漢方薬としてよく目にするのは「抑肝散」です。
抑肝散は、認知症による興奮を抑えると信じられているようです。ただ、これは臨床試験のエビデンスに基づいて承認された効能ではありません。1967年と1976年に多くの漢方薬製剤が臨床試験なしで薬価収載されたため、漢方薬について知るには臨床試験を頼りにできません。
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▶ 下剤として使われる「大黄」の副作用
たいていの薬は服用をやめると効果がなくなります。
ただ、中には急にやめると困ったことになる薬もあります。ステロイド薬はその代表です。
漢方薬の中にも、しくみは違いますが、長く続けるとなかなかやめられなくなるものがあります。
代表的なものが、排便を促す作用のある「大黄」を含む処方です(排便のための漢方薬には大黄を含まないものもあります)。
大黄の有効成分はセンノシドという物質です。いろいろな植物がセンノシドを含んでいて、西洋でも伝統的に下剤として使われてきました。いまでもセンノシド製剤のアローゼン、プルゼニド、ピムロなどがよく処方されています。
▶ 大腸の内側が黒くなる「大腸メラノーシス」
センノシドはよく効きます。スッキリするという感想もよく聞きます。
しかし長期にわたって毎日飲んでいると、だんだん効かなくなってきます。このことは添付文書で注意喚起されています。
困ったことに、センノシドが効かなくなった人は、どんな薬を使っても排便が困難になってしまう場合があります。
この状態の人の大腸を内視鏡で見ると、内側が黒ずんで見える場合があります。
これが「大腸メラノーシス」と呼ばれる状態です。
センノシドの長期服用が、「大腸メラノーシス」をもたらすとされています。
▶ よく分かっていない「いわくつきの薬」
ただ、これにはあいまいな点も残っています。
「大腸メラノーシス」になると腸の本来の機能が弱っているのではないかという説がある一方、それに反対する説もあり、よくわかっていません(『日内会誌』 108:40~45,2019)。
また、センノシドが効かない状態は、別の原因で腸の機能が弱った結果かもしれず、必ずしもセンノシドが原因とは限りません。
センノシドのような刺激性下剤は西洋では比較的人気がなく、研究も進んでいません。
学会のガイドラインなどでは一般に、センノシドのようなよく分からない薬よりも、より素性の知れた薬を優先して使うよう推奨されています。
学会も必要なときだけにしろと言う「いわくつき」の薬が、大黄を含む漢方薬の有効成分なのです。
「漢方だから安全」と単純には言えないのです。
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▶ 特に注意すべき漢方薬「防風通聖散」
最後に、特に注意すべき漢方薬をご紹介します。
それは「防風通聖散」です。
防風通聖散には、ここまで紹介してきた「甘草」と「大黄」に加え、「山梔子さんしし」が含まれています(この記事では紹介しきれませんが、ほかに「黄芩」と「麻黄」も副作用の面で「いわくつき」の成分です)。
山梔子は長期にわたって飲み続けると、「腸間膜静脈硬化症」という副作用をもたらすとされます。
厚生労働省によれば、「腸間膜静脈硬化症」で腸を切り取る手術が必要になった例もあるとのことです。
そのため、長期間にわたり服用する場合は、定期的にCT、大腸内視鏡等の検査を行うこと、腹痛、下痢、便秘、腹部膨満等が繰り返しあらわれた場合には特に注意すること、とされています。
▶ 「ダイエット目的」で飲む人は注意が必要
防風通聖散の効能・効果は「腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の諸症:高血圧の随伴症状(どうき、肩こり、のぼせ)、肥満症、むくみ、便秘」とされています。
ダイエット目的の人に人気があるのか、別の商品名のものを含め20種類以上も出ています。
偽アルドステロン症を起こす甘草。大腸メラノーシスを起こす大黄。腸間膜静脈硬化症を起こす山梔子。
副作用をもたらす成分を3つも含んでいる「防風通聖散」は、なんと処方箋なしで買えます(というか、たいていの漢方薬は処方箋なしで買えます)。
まずは、もし「漢方だから大丈夫」とか「市販薬だから大丈夫」と思って名前も確かめずに飲んでいる薬が手元にあれば、パッケージの注意を一度読んでみてください。心配になったら店舗の薬剤師に相談することもできます。
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