漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

中医学の「肝気欝結」とは?

2018年01月28日 16時20分41秒 | 漢方
初学者のための中医用語②「肝気欝結」(別府正志Dr.:漢方スクエア)より

 別府先生による中医用語講座を読んでみました。
 肝陽上亢の次は「肝気欝結」です。
 日本漢方には「気」の異常として「気滞」「気逆」「気虚」の3つの概念のみですが、中医学にはたくさんあるのですね。

肝気鬱結
(概念)気機をのびやかにして調和させるべき肝の機能が失調し、疏泄機能が不調になった状態。
(症状)抑うつ・イライラ・胸悶・ため息、胸脇部や少腹・乳房の脹痛などが出現
(所見)脈は弦
(治法)疏肝解鬱
(処方)柴胡疏肝散が第一選択。エキス剤なら四逆散か逍遙散。
 肝気鬱結がひどくなると、気が火に変わり、肝火上炎になる。

「気」とは
 「気」には重要な性質がいくつかあるが、その1 つは運動すること。気の運動は昇降出入の4つにまとめられ、これを気機という。
  気は両親から受け継いだ先天の精と、飲食物から得られる水穀の精微、呼吸から得られる清気(両者を併 せて後天の精ともいう)から作られる。
 その働きは大きく5つ、推動・温煦・防御・固摂・気化。
 気は活力の強い精微物質で、人体の成長・発育や各臓腑などの機能を促進する。また、血液の生成・運行や津液の生成・輸送・排泄などを促進する。こういった働きを気の推動作用という。

気と臓腑の関係
 気の産生に参与するのは肺・脾・腎。
 気の運行は肝の作用。
 肝の働きは疏泄を主ることと蔵血を主ること。
 疏泄とはスムーズ に動かすことであり、その意味するところは3つ。
1.気機を調節すること
2.消化の機能を促すこと
3.情志を調節すること
 肝の気機を調節する働きが順調であれば、気血は調和し、経絡は利通し、他の臓腑器官も正常に活動する。この働きで肝は直接的に気機を調整するだけでなく、脾胃の働きを正常化して、脾が気を昇らせ、また胃が気を降ろす働きを順調にする、あるいは肺の宣発粛降の働きを順調にするなど、間接的にも気機を順調にする。
 2つ目の消化の機能を促すのは、脾胃の気機の調節を介する働きと、胆汁の分泌を順調にさせることで実現される。したがって肝の疏泄機能が不調になると、消化器系の異常がよく現れる。



気の巡りと障害に関する用語
(気機)気の運動を気機といい「昇降出入」の基本形式をとり、それは具体的には臓腑系絡の働きによって表現される。例えば肺の宣発によって気血津液などを上へ輸送することは「昇」の表現。
(気機調暢と気機失調)各種の生理活動が必ずしも昇降出入のすべてを備えているわけではないが、全体では必ずバラ ンスがとれていなければならない。バランスがとれている状態を気機調暢、崩れれば気機失調という。
(気滞)気の運動は多種多様であり、気機失調の表現も多種多様である。一般的には広い意味で気機失調のことを気 滞と呼ぶこともあるが、狭義には気があるところにとまったまま動かないことを気滞という。
(気逆)上がるべき気が過剰に上がったり、下がるべき気が上がること
(気陥)下がるべき気が過剰に下がったり、上がるべき気が下がること
(気脱)気の過剰な外出
(気結)気の外出不足
(気閉)重度の気の交流障害
ーという。これらの気の運動をスムーズに行くようにしているのが肝の疏泄ということになる。
(肝気欝結)気血は経絡によって運行される。特に肝の経絡は、肝の疏泄機能が不調になるとすぐに阻滞するため、その循行部位(乳房・胸脇部・少腹部〈下腹部の正中外側〉など)に、もっぱら「張る」感じとして異常が出る。それは単に張る感じであることもあるし、脹痛であることもある。気の痛みの特徴は、移動しやすく、場所が特定しにくく、張る感じがあること。また、気の動きが悪くなると、肺の宣発粛降作用が悪くなるため、ため息が出やすくなったり、情志の不調が出る。こういった症状が「肝気鬱結」の症状となる。ちなみに、このときは弦脈がよくみられる。

肝気欝結の治療
 気の巡りを改善する「行気(こうき・ぎょうき)薬」を中心に組み立てることとなる。代表は柴胡で、柴胡は肝胆経に入り、ずばり疏肝解鬱に働く。これを中心に陳皮や枳実、香附子などの行気薬を配合するとよい。
 肝気鬱結に対する第一選択の方剤は柴胡疏肝散。これは四逆散(柴胡・枳実・白芍・炙甘草)の関連方剤。四逆散の枳実を枳殻に変え、疏肝行気の香附子・陳皮、活血化瘀の川芎を加えている。
 逍遙散も肝気鬱結によく用いられるが、さらに木乗土で脾の働きが悪くなったり、それによって(もしくは肝気鬱結そのものが蔵血作用を侵して)血虚になった場合(肝鬱脾虚血虚)がよい適応となる。

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