小児漢方探求

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

未病の漢方:快眠

2025年01月14日 07時52分09秒 | 漢方
漢方医学には「未病」という概念があります。
健康と病気の中間のグレーゾーン、
天気に例えれば、快晴と雨の中間の曇り状態。

そしてそれをちょうどよい状態(中庸)に戻そうと考えます。
絶対的な健康ではなく、その人の一番よい体調というイメージです。
そこで登場するのが養生・薬膳・漢方薬。

薬を飲む前にもできることがたくさんあります。
養生・薬膳を実行しても病的状態に近づいたら、漢方薬を飲むという思想。

私は学校健診の診察をこなしている最中、
この“未病”をよく思い出します。

学校健診でスクリーニングする病気は、
「症状がないけど病的状態が疑われる」
という、まさに“未病”状態なのです。

(これは怪しい、問題がかくれていそうだ・・・)
と判断して医療機関への受診勧告を発行しますが、
せっかく拾い上げても実際の医療機関受診率は30%程度と低率です。

教育委員会は、
「規則に基づく学校健診を実施」
することには熱心ですが、
「受診率〇〇%を維持する」
という規定がないため、スルーしています。

建前だけなんですね。
これでは参加する医師のモチベーションが上がりません。
おっと、愚痴モードになってきました。
話を元に戻します。

YouTubeで喜多Dr.による「未病:快眠」というテーマの動画を見つけました。

自分自身も不眠症気味である私は興味深く視聴しました。
一口に「眠れない」といっても、様々な原因・要因があります。
西洋医学では「入眠困難」「中途覚醒」「早朝覚醒」と分類されることが多いのですが、
漢方医学では気血水というものさしでその人を評価・分析し、
その人に合った方剤を選択します。

簡単に云うと、
・疲れているのに眠れない → 気虚・血虚 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
・緊張して眠れない → 気うつ(肝気欝血)抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・興奮して眠れない → 気逆 黄連解毒湯(15)
等々。

メモを残しておきます。

▶ 睡眠の基礎知識
・睡眠-覚醒サイクル
(覚醒)動く:疲労・壊れる
 ↓↑     ↓↑
(睡眠)休む:回復・修復する
・REM睡眠
 ✓ 浅眠状態、夢見状態
 ✓ 速い眼球運動
 ✓ 体は動かない
・non REM睡眠
 ✓ 熟睡状態 ・・・最初の90分間
 ✓ 成長・若返り ← 成長ホルモン↑
 ✓ 疲労回復 ← 副交感神経↑

▶ 睡眠の役割
・体や脳の休養、記憶の整理、定着
・体の発育・修復、ホルモンバランスの調整
・脳の老廃物を除去、免疫を高める

▶ ビジネスマンの生活時間(シチズン意識調査、2000年)
       通勤時間  勤務時間 (睡眠時間)平日  休日
(1980年)  1:43    8:36     7:01     8:36(平日+95分)     
(2000年)  2:03    9:30    6:08     7:57(平日+109分)
 増減    +20分   +54分    −53分    −39分

▶ 睡眠の調節メカニズム
1.体内時計機構
・眠気の概日リズム・・・メラトニンが重要
・夜になると睡眠を発現させる
2.睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・長時間の覚醒・睡眠不足は・・・大脳皮質の疲労・睡眠物質の蓄積を招く
・深く、長いノンREM睡眠
3.覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
・オレキシンが活躍

▶ 体内時計機構(サーカディアンリズム)の調節
・規則正しい生活が最重要 ・・・同じ時刻に毎日起床
・メラトニン↑  ⇒  眠気↑
 ✓ 起床後約14時間後から分泌、太陽光によりリセット
 ✓ 就寝前には強い光を避ける(スマホ、タブレット、テレビなど)
・交感神経活動↓、深部体温↓、抗重力筋弛緩  ⇒  眠気↑
 ✓ 就寝前4時間のカフェイン摂取を控える
 ✓ 2時間前までの入浴、軽い読書、音楽、香り、筋弛緩トレーニングを取り入れる

▶ 睡眠恒常性維持機構(ホメオスターシス)
・脳疲労を回復する
・長時間の昼寝は睡眠物質を低下させるため、浅く短い睡眠になりがち
 → 昼寝をするなら15時前に20〜30分程度がお勧め
・日中の適度な活動は睡眠物質を増やし、深く長い睡眠を得られる
 → 運動週間は熟睡を促進
・必要な睡眠時間は個人差が大きい
 ✓ 朝起きられない、日中眠い  → 睡眠が足りていない
 ✓ 休日に(平日より)2時間以上長く寝る  → 睡眠が足りていない
 成人の約4人に1人が睡眠不足を感じている(2008年)

▶ 覚醒保持機構
・覚醒が必要とされるときに睡眠を抑えるメカニズム
 大脳辺縁系      → 情動的な興奮
 情動調節系      (不安、緊張、怒り、怖れなど)
   ⇩
 視床下部       → 交換神経興奮、身体的緊張状態
 オレキシン
   ⇩
 覚醒系の興奮     → 目がさえて寝付けない、
           入眠後も睡眠が不安定

▶ 不眠に対する漢方治療
1.日内時計機構の乱れ
2.恒常性維持機構の障害 → 気虚・血虚
・疲れているのに眠くならない
 → 加味帰脾湯(137)、酸棗仁湯(103)
3.覚醒保持機能の活性化 → 気うつ・気逆
・気うつ:緊張して眠れない
 → 抑肝散(54)、加味逍遥散(24)
・気逆:興奮して眠れない
 → 黄連解毒湯(15)、甘麦大棗湯(72)


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