漢方学習ノート

漢方医学の魅力に取りつかれた小児科医です.学会やネットで得た情報や、最近読んだ本の感想を書き留めました(本棚3)。

こころの不調(気逆・気うつ)の漢方 〜心と肝〜

2024年12月30日 16時39分48秒 | 漢方
喜多先生のWEB配信されているレクチャーを視聴しました。
彼の解説は曖昧なところが少なく、頭の中の整理に役立ちます。

ポイントを列記します;
・こころの不調に対する漢方は、五臓の心と肝に属する。
・人間がストレスを受けたときの反応は、急性期(キャノン学説)と慢性期(セリエ学説)の2種類に分けられる。
・漢方医学的には急性期反応が“気逆”、慢性期反応が“気うつ”と捉えられる。
・気逆は「怒り・闘争・攻撃反応タイプ」と「恐れ・逃走・防御反応タイプ」の2種類に分けられる。
・攻撃反応タイプには黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)、防御反応タイプには桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)が適応となる。
・気うつは「悲しみをガマン・憂慮過多タイプ」と「怒りをガマン・緊張過多タイプ」の2種類に分けられる。
・憂慮過多タイプには半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)、緊張過多タイプには抑肝散(54)、加味逍遥散(24)が適応となる。
・抑肝散と加味逍遥散は適応となる精神状態が似ており、性格特性で使い分ける。抑肝散加陳皮半夏(83)は「打ち解けにくい」「精神的に強い」傾向があり、加味逍遥散は「打ち解けやすい」「精神的に弱い」傾向がある。
・こころの不調に対する漢方薬は、抑うつ・不安・興奮のどれがメインかで使い分けるが、性格特性も参考になる。

明快なのはよいのですが、これを理解して使いこなすにはちょっと時間がかかりそうです。
講義メモを備忘録として残しておきます。

***********************************

▶ 気の働き
1.生命活動を成業する:シグナルとしての気
2.生命活動を駆動する:パワーとしての気、エネルギーとしての気

▶ 二種類のストレス反応
1.キャノンの「闘争・逃走反応」 → 短期戦、交感神経系亢進 → 気逆
2,セリエの「ストレス抵抗反応」 → 長期戦、副腎皮質ホルモン分泌 → 気うつ

▶ 二種類の気逆と代表的方剤
1.攻撃反応タイプの気逆
・キーワード:怒り(闘争)、タイプA行動(虚血性心疾患になりやすい行動特性、ワンマン社長のイメージ)、顔面紅潮・のぼせ、血圧上昇、不眠
・代表的方剤;黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
2.防御反応タイプの気逆
・キーワード:恐れ(恐くて逃げる、逃走)、パニック発作、動悸発作、腹部の動悸、手足の発汗
・代表的方剤:桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

▶ 三黄瀉心湯の“心”は五臓の心
・心は覚醒・睡眠プロセスを司る
・心は中枢神経系と循環器系の日内リズムを作る
 ・心の陽気:動的活動・・・昼・覚醒し、心拍数多・血圧高い
 ・心の陰液:静的活動・・・夜・睡眠し、心拍数少・血圧低い
・心の異常
 ・心の陽気が過剰 → 気逆、興奮して眠れない → 黄連解毒湯(15)、三黄瀉心湯(113)
 ・心の陰液が不足 → 血虚、安らかに眠れない → 酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)

▶ 二種類の気うつと代表的方剤
1.憂慮過多タイプ
・キーワード:悲しみをガマン、憂鬱な気分、訴えが執拗、心気症的、胃気失調(※)を認める
・代表的方剤:半夏厚朴湯(16)、香蘇散(70)
2.緊張過多タイプ
・キーワード:怒りをガマン、イライラした気分、肩こり・頭痛、過緊張による症状、肝気鬱結を認める
・代表的方剤:抑肝散(54)、加味逍遥散(24)

※ 胃気失調:気の巡りが悪くて消化器症状(食欲がない、腹部膨満感、排ガス、ゲップ、腹部の鼓音)がみられる。

▶ 肝気鬱結:覚醒・睡眠プロセスの異常
・肝の働き:自律神経系+内分泌系の日内リズムを形成(陽気 → 陰液 → 陽気)
 ・肝の陽気:動的活動を担当、昼・覚醒、筋:緊張、肝:異化
 ・肝の陰液:静的活動を担当、夜・睡眠、筋:弛緩、肝:同化
・肝気鬱結とは動的活動から静的活動への移行がストレスのために障害された病態
 → 精神的&身体的な過緊張状態を呈する。

▶ 抑肝散(54)と加味逍遥散(24)の比較
・両方とも肝気鬱結に使用する方剤:高山Dr.の赤本のイラストを見ると似ている。
・適応となる精神状態は類似しているが、性格特性が異なる。
・16PF人格検査(★)による性格特性の比較
  (抑肝散加陳皮半夏) (加味逍遥散)
N: 如才ない       如才ない
O: 自信がない      自信がない
L:  疑り深い       疑り深い
Q4: 固くなる       固くなる
C: 情緒不安定      情緒不安定
H: 物おじする      物おじする
A: 打ち解けない     打ち解ける
I:   精神的に強い     精神的に弱い

▶ 性格特性から見た抑肝散加陳皮半夏(83)
・自己主張的:精神的に強い、打ち解けない
 → 協調性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ 性格特性から見た加味逍遥散(24)
・他者依存的:打ち解ける、精神的に弱い
 → 自立性が必要な状況・人間関係がストレスになる

▶ こころの不調に有効な方剤の16PF因子A得点分布
           (4点以下)  (5-6点) (7点以上)
           打ち解けない  ジレンマ  打ち解ける

抑肝散加陳皮半夏(83)  10      1      1
柴胡桂枝乾姜湯(11)    7      2      0
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)   5      3      0
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)   2      8      2
香蘇散(70)        0      7      0
補中益気湯(41)      3      5      2
加味逍遥散(24)      2      6      16
半夏厚朴湯(16)      0      1      12
加味帰脾湯(137)     1      4      5

★ 16PF人格検査
  (低得点)  (高得点)
A:打ち解けない  打ち解ける
B:知的に低い   知的に高い
C:情緒不安定   情緒安定
E: 謙虚     独断 
F: 慎重     軽率
G:責任感が弱い  責任感が強い
H:物怖じする   物怖じしない
I:  精神的に強い  精神的に弱い   
L: 信じやすい   疑り深い
M:現実的     空想的
N: 率直     如才ない
O:自信がある   自信がない
Q1:保守的    革新的
Q2:集団的    個人的
Q3:放縦的    自律的
Q4:くつろぐ   固くなる

▶ 心の不調に有効な方剤の精神状態・性格特性
         (抑うつ・無力) (不安・緊張) (興奮・焦燥) (性格特性)
加味帰脾湯(137)           △       △     打ち解ける
補中益気湯(41)   ◎         △       ✖️     中間
香蘇散(70)              〇       ✖️      中間
半夏厚朴湯(16)   〇         〇       ✖️     打ち解ける
柴胡加竜骨牡蛎湯(12)〇         ◎       〇       中間
桂枝加竜骨牡蛎湯(26)△               △      打ち解けない
柴胡桂枝乾姜湯(11) △         〇       △     打ち解けない
加味逍遥散(24)   △        〇        〇      打ち解ける
抑肝散加陳皮半夏(83)△        〇        ◎     打ち解けない
酸棗仁湯(103)   ✖️        〇        ◎      ー



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