・・・え、そうでしょう。
と以前から思っていたことが記事になっていましたので紹介します。
風邪をたくさん見てきたアラ還小児科医の自分のイメージとちょっと異なる部分もありますね。
<ポイント>
・六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類。
・時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病。実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがあり、六病位の順番についても諸説あってややこしい。
(インフルエンザを例にとって)
【陽病期】
・太陽病:病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っている状況。インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多い。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点がある。
太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的。
・少陽病:病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めている状態。発汗とともに追い出すという作戦が使えないため、代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的。
・陽明病:体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況。陽明病に対しては「体の芯にある熱を排便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療がある。
【陰病期】
免疫が落ちて(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまう状態。
・太陰病:太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況。お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよい。
・少陰病・厥陰病:腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまい体温を維持することもだんだんと難しくなった状態。生命の危機が近づいていることを示す状況を少陰病、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼ぶ。この病気では西洋医学的治療が優先される。少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使う。
ふだん自分がカバーする病期は太陽病〜少陽病であることがわかります。
陽明病は病院へ紹介、陰病期は入院治療が必要です。
開業医の役割は、少陽病 → 陽明病に至らないよう治療することですね。
するとやはり柴胡剤が活躍することになります。
六病位の陽病期では「侵入してきた病原体を追い出す」という概念が底にあります。
まあ、西洋医学でも咳や鼻水は身体に入ったウイルスを排出するため、発熱もウイルスを失活させるための武器と説明されますから、一部共通しています。
太陽病期(風邪の初期)は体表面が戦いの場であり、発汗で追い出す(発表)、それができずに体深く侵入を許した陽明病期(風邪がこじれた状態)では消化管が戦いの場となり、排便で追い出す(瀉下)という発想が興味深いです。
そして太陽病期と陽明病期の間、少陽病期では追い出すのではなく「和解」するという概念が誠に興味深く、そこに柴胡剤を当てたのは歴史的大発見だと思います。
この柴胡剤、熱性疾患に使われますが、ストレス反応で体調が悪くなったときのメイン生薬でもあるのですから。
▢ 「急性期疾患のステージ分類」とも言える六病位って?
伊東 完(東京医科大学茨城医療センター総合診療科)
監修:伊藤亜希(横浜薬科大学漢方薬学科)
(2025/01/09:日経メディカル)より一部抜粋(下線は私が引きました);
・・・太陽病は、感冒初期に多くの患者さんが経験する状態を指していますが、「太陽病=感冒初期」としてしまうと、やや正確性に欠けるという問題があります。また、柴胡剤を取り上げた第9回では「感冒進行期」という表現を無理やり使っていましたが、これも「少陽病」という言葉を当てはめることができます。・・・そろそろ陰陽の概念を学ぶ潮時ではないかとも考え、今回は、陰陽に含まれる急性期疾患の重要概念である六病位について説明していきます。
六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類です。悪性腫瘍は、深達度や転移の状況に応じてステージが進んでいきますが、漢方医学の世界でもそれと似たような概念が存在するわけですね。そして、その順番を時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病となります。細かい話をすると、実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがありますし、六病位の順番についても諸説あってややこしいのですが1~3)、本連載では今挙げた順番で話を進めます。ここから先は、インフルエンザに罹患した患者さんをイメージしながら読み進めると分かりやすいかもしれません。
六病位とは、平たく言えば急性期疾患のステージ分類です。悪性腫瘍は、深達度や転移の状況に応じてステージが進んでいきますが、漢方医学の世界でもそれと似たような概念が存在するわけですね。そして、その順番を時系列で並べてみると、太陽病、少陽病、陽明病、太陰病、少陰病、厥陰病となります。細かい話をすると、実際の患者さんでは途中のステージが欠けていることがありますし、六病位の順番についても諸説あってややこしいのですが1~3)、本連載では今挙げた順番で話を進めます。ここから先は、インフルエンザに罹患した患者さんをイメージしながら読み進めると分かりやすいかもしれません。
▶ 太陽病
インフルエンザに罹患すると、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みといった症状が出ることが多いかと思います。これらの症状は、比較的体表部で起こるという共通点があります。病邪たるウイルスが体表から体の中へと進行を始め、それに対して体の免疫が「水際作戦」を行っているこの状況を太陽病と呼びます。なお、インフルエンザに罹患した患者さんのすべてが太陽病になるわけではなく、例えば、体の免疫が損なわれていて「水際作戦」を実施できない場合は、一気に病邪が体の中になだれ込んで、後述する少陰病から始まることもあります(このようなものを「直中(じきちゅう)の少陰」と呼びます)。
さて、太陽病では体表に病邪がいるので、汗とともに病邪を体の外に追い出してしまう(発表)のが合理的でしょう。そこで、汗の出にくい実証の患者さんに対しては、汗を出す麻黄湯や葛根湯が使われることになります。汗の出やすい虚証の患者さんの場合は、汗が出すぎて脱水を起こさないように、汗の量をほどほどに調整する必要があります。そこで、麻黄湯でなく桂枝湯を使用するのが良いという話になってくるわけです(参考:第5回)。
▶ 少陽病
インフルエンザに罹患してしばらくの間は、頭痛や咽頭痛、悪寒、節々の痛みが目立ちますが、時間がたつとこれらの症状が改善していき、代わりに咳が出始めたり、気分不快になって吐き気を催したり、倦怠感が残ったりします。しっかり問診をしていると、口の中が苦いと訴える患者さんがいることにも気付かされます。また、「日中は平熱なのに夜だけ熱が出る」といった具合に、発熱の日内変動を訴える患者さんも現れます。このような状況を少陽病と呼びます。
少陽病では、病邪たるウイルスが体表からもう少し深部に侵入しており、消化管にまで及び始めているので、発汗とともに追い出すという作戦が使えません。代わりに、体の中で炎症とともに病邪を解きほぐすような治療(和解)を行うのが合理的です。ここで活躍するのが柴胡剤という漢方薬のグループで、便秘になりがちな実証であれば大柴胡湯などが、そうでもない虚実中間証では小柴胡湯などが使われます。太陽病と少陽病の過渡期であれば、桂枝湯と小柴胡湯の間となる柴胡桂枝湯を使うのもありです。
▶ 陽明病
インフルエンザに罹患した患者さんの多くは外来での治療で間に合いますが、それでも一部の患者さんは、インフルエンザそのものによる肺炎や肺炎球菌などの細菌による二次性肺炎などを合併してしまうことがあります。そうすると、入院治療を余儀なくされるわけです。ある程度免疫がしっかりしている患者さんの場合は、入院下で抗ウイルス薬や抗菌薬などを使っている中で徐々に元気になってくるものですが、廃用症候群が進行してしまって、すぐに退院できないことがありますよね。
そういった亜急性期の患者さんの病棟管理をしていると、便秘になってしまうことが往々にしてあり、よく看護師さんから下剤としてセンノシド(商品名プルゼニド他)などの処方を求められます。さらに、不眠やせん妄といった問題が生じてしまうこともよくあります。このように、体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況を陽明病と呼びます。
そういった亜急性期の患者さんの病棟管理をしていると、便秘になってしまうことが往々にしてあり、よく看護師さんから下剤としてセンノシド(商品名プルゼニド他)などの処方を求められます。さらに、不眠やせん妄といった問題が生じてしまうこともよくあります。このように、体が病邪に屈服してはいないものの、病邪の影響が腸管にまで及んでしまい、体の芯に熱がこもって様々な症状を起こしてしまっている状況を陽明病と呼びます。
陽明病に対する漢方薬は今まで解説していませんでしたが、代表的なものとしては承気湯類や白虎湯類が挙げられます。残念ながら、これらに対応するエキス製剤は少なく、わずかに調胃承気湯や白虎加人参湯などが使用可能です。調胃承気湯は、大黄、甘草、芒硝(硫酸ナトリウム)で構成される漢方薬で、西洋医学に例えるなら、センノシドと酸化マグネシウム(マグミット他)を合わせたようなイメージです。排便とともに体の芯にある熱を外に逃がすわけです。また、白虎加人参湯は、石膏、粳米(こうべい)、知母(ちも)、甘草、人参で構成される漢方薬で、体全体を潤しつつも、ひんやりとした石膏の力で体の芯にある熱を冷やす力があります。
ここまでの説明を語弊を恐れずに簡略化すると、陽明病に対しては「体の芯にある熱を便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療があるということになります。
ここまでの説明を語弊を恐れずに簡略化すると、陽明病に対しては「体の芯にある熱を便とともに外に出す」「体の中に冷たいものを入れて冷やす」という2パターンの治療があるということになります。
▶ 太陰病
インフルエンザや肺炎球菌性肺炎に罹患した患者さんで、免疫が落ちている場合(≒虚証)、病邪たるウイルスや細菌に体の免疫が負けてしまって、病気のさらなる進行を許してしまうことがあります。このような患者さんにはもう発熱するだけの余力はなく、体温も平熱に留まったり、下がっていったりするわけです(体温の低い敗血症は予後が悪いというのは、西洋医学ではよく知られるところです)。このような状態を陰病と呼び、太陰病、少陰病、厥陰病(けっちんびょう)という順番で進んでいきます。
まず、太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況を指します。具体的には、お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的です。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。このような時に使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよいでしょう。これに該当するのが、桂枝加芍薬湯や建中湯類(例:小建中湯、当帰建中湯、黄耆建中湯)といった漢方薬です。
まず、太陰病は、体が病邪に押し負けているものの、局所の敗戦に留まり、全身の敗戦には至っていない状況を指します。具体的には、お腹が張ったり、吐いてしまったり、腹痛があったり、下痢したりといった腸管症状が特徴的です。お腹は冷えているけれども、全身はそこまで冷えていない。このような時に使う漢方薬は、腸管を起点に全身を建て直してくれるもの──本連載で言うところの「お腹に優しい」漢方薬がよいでしょう。これに該当するのが、桂枝加芍薬湯や建中湯類(例:小建中湯、当帰建中湯、黄耆建中湯)といった漢方薬です。
▶ 少陰病・厥陰病
免疫が落ちている患者さんの中には、インフルエンザに合併した肺炎球菌感染症が肺炎だけに留まらず、菌血症、敗血症にまで至ってしまうことがあるかもしれません。こうなってしまうと、これはもう局所でなく全身の問題です。腸管だけでなく、体全体が冷えてきてしまうわけですね。体温を維持することもだんだんと難しくなっていきます。生命の危機が近づいていることを示すこの状況を少陰病(図5)、それを通り越した生命の危機を厥陰病と呼びます。
現代では、重症敗血症の患者さんに対しては、抗菌薬に加えてノルアドレナリンなどの昇圧薬や人工呼吸管理などを組み合わせて集中治療を行うことになるかと思いますので、漢方医学の入り込む余地はほとんどありません。ただ、もし少陰病に対して漢方治療を行う場合は、体を芯からしっかり温める漢方薬を使います。具体的には、四逆湯のように乾姜や附子(トリカブトの塊根)を含む漢方薬が選択肢です。
乾姜を含む漢方薬としては、人参湯などがあり、人参の作用も相まって胃などの上部消化管から全身を温めてくれます(太陰病期から使用できます)。また、人参湯に附子を加えた附子理中湯という漢方薬もあります。こういった漢方薬を使用する目安として、口角から少し唾液が出ていることも参考になります。また、附子を含む漢方薬として真武湯(しんぶとう)も有名で、歩行時のめまいや下痢の時によく使います。人参湯とは対照的に、下部消化管から全身を温めるイメージがあります。さらに、太陽病の時に簡単に触れた「直中の少陰」(陰病から始まる、冷えを伴った感冒)に対しては、麻黄附子細辛湯が使われます。
ここまで六病位をまとめてみましたが、漢方薬の種類がたくさん出てきて驚いた方も多いかもしれません。太陽病と少陽病、太陰病のところに出てきた処方はこれまでも触れてきた処方ですので置いておくと、皆さんには今回、新規に真武湯を覚えていただくのがよいかと思います。「陰病における葛根湯」と呼ばれるくらいには、応用範囲の広い漢方薬だからです。人参湯や麻黄附子細辛湯も時々使うので、余力があればどうぞ。
乾姜を含む漢方薬としては、人参湯などがあり、人参の作用も相まって胃などの上部消化管から全身を温めてくれます(太陰病期から使用できます)。また、人参湯に附子を加えた附子理中湯という漢方薬もあります。こういった漢方薬を使用する目安として、口角から少し唾液が出ていることも参考になります。また、附子を含む漢方薬として真武湯(しんぶとう)も有名で、歩行時のめまいや下痢の時によく使います。人参湯とは対照的に、下部消化管から全身を温めるイメージがあります。さらに、太陽病の時に簡単に触れた「直中の少陰」(陰病から始まる、冷えを伴った感冒)に対しては、麻黄附子細辛湯が使われます。
ここまで六病位をまとめてみましたが、漢方薬の種類がたくさん出てきて驚いた方も多いかもしれません。太陽病と少陽病、太陰病のところに出てきた処方はこれまでも触れてきた処方ですので置いておくと、皆さんには今回、新規に真武湯を覚えていただくのがよいかと思います。「陰病における葛根湯」と呼ばれるくらいには、応用範囲の広い漢方薬だからです。人参湯や麻黄附子細辛湯も時々使うので、余力があればどうぞ。
表1 六病位の治療コンセプトと代表的な漢方薬
<参考文献>
1)藤平健 『傷寒論』で少陽病篇が陽明病篇のあとに位置する理由. 日本東洋医学雑誌 1986;37(1): 9-17.
2)田原英一ら 日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察. 日本東洋医学雑誌 2021;72(4):452-9.
3)山崎正寿ら 「日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察」の問題点. 日本東洋医学雑誌 2022;73(3):347-8.
<参考文献>
1)藤平健 『傷寒論』で少陽病篇が陽明病篇のあとに位置する理由. 日本東洋医学雑誌 1986;37(1): 9-17.
2)田原英一ら 日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察. 日本東洋医学雑誌 2021;72(4):452-9.
3)山崎正寿ら 「日本で傷寒論の順が太陽, 少陽, 陽明となった理由の一考察」の問題点. 日本東洋医学雑誌 2022;73(3):347-8.