傘を差しかけてくれた、見知らぬ男性

2008-01-19 16:03:13 | Weblog
冷たい雨に 打たれながら 哀しい物語 想い出した

あなたの帰り道 交差点 ふと足を 止める

レイニーブルー もう終わったはずなのに

レイニーブルー 何故追いかけるの あなたの幻

消すように 私も今日は そっと雨

   ……

あの頃のやさしさに つつまれてた想い出が 流れてく

この街に It's a rainy blue It's a rainy blue

ゆれる心 ぬらす涙 It's a rainy blue loneliness …

         (徳永英明「レイニーブルー」より)


え”っ?また徳永英明~!と、うんざりしているアナタ、ごめんなさいネ(笑)


就職して間もない頃、私はよく泣いていた気がする。

ある日、仕事からの帰り道、駅に着いたら雨が降りだしていた。それほどの雨でもないし、傘もないので、歩き出した。

すると突然、抑制されていた哀しい想いがこみ上げてきて、泣きたくなってしまった。

雨粒は顔にも当たっていたから、どうせ濡れるのだから、このまま泣いてしまおうか、と思った。

はじめは声を殺して泣いていたが、そのうち嗚咽も出ていた。もう、かまうものか、と開き直っていた。

急に雨が当たらなくなったので、えっ?と思ったら、隣に並んだ知らない人が傘を差しかけてくれていた。

無言の会社員風の男性である。私は、ガンガンに泣いていたのである。この人は、気付いていたのだろうか。それで、可哀相になって、傘に入れてくれたのだろうか。

私は恥ずかしさと驚きで、涙は止るし、下を向いたまま、口も利けなかった。もしこの人が、泣いていたのを知らなかったとして、今、涙の顔を拭いたら泣いていたのがバレてしまう。

親切はありがたいけれど、せっかく気持ち良く泣いていたのに、余計な事をしてくれている。はやく、どこかに行ってくれたらいいのに。。。と。

私は顔も上げられず、声も出せず、濡れた顔もそのままに、その人の靴先だけを見ながら、早足で歩いていた。どこかで、振り切りたいと思いながら。

その男性も、私に歩調を合わせながら、無言である。ひとことも口を利かない、路上を歩きながら泣いていた「奇妙な女」にかかわったのを、彼は後悔しているに違いない。

私のアパートは、けっこう駅から遠いのだった。

この男性は、どの辺に住んでいるのか。次の角で、去ってゆくだろうか。次のわき道で「じゃ~!」と言うだろうか。しかし、なかなかそうはならないので、私は焦ってきた。

この人は…この人は…。もしや、私のアパートの前まで来てしまったら、とても困るし、どうすればいいのだろう。頭が、もう混乱してきていた。

男性も、「サヨナラ」を切り出すタイミングを、探しているのだろうか。彼も、困っているのだろうか。

いい加減歩いた頃、やっと男性が声を出した。少し呆れたような、少し落胆したような。な、なんと、若い爽やかな声で「じゃぁ、僕はこっちなんで」と。

私は、顔を見られたくないので、下を向いたままお辞儀をした。声を聴いた瞬間、あ、私の好きな声だ~、と思ったけれど、イ・マ・サ・ラである。

結局振り返りもせずに、別れた。顔も姿も見ていない。見たのは革靴の靴先とコートの裾だけだ。残念だったけれど、仕方がない。

しかし、あの声は、20代半ばのエリート系サラリーマン。きっと、出会いの”運”が悪かったのね。トホホ…。

が、その後の人生経験からいうと、私好みの声の人が、アタリ~!の確率はあまりない。してみると、声だけ聞いてイケメンを想像していた方が、無難だということになるだろう。

あの時、顔を見なくて正解だったのかもしれない。今も、こんなささやかな思い出の中では、知的で清潔感の漂う二枚目だったかも、と思うことができるから。。。(笑)


徳永英明「レイニーブルー」(音量は調節してくださいネ)


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20 コメント

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ロマンティック!! (リラ)
2008-01-19 17:38:24
 今晩は!  トーコさん!
素敵なお話ですね。~♪ 

 もしかしたら・・? 運命の人だったのかも・・。
今更、地団太踏んだって仕方ないのですが・・何だかとても
歯痒い気がします。でも、それが若さなんでしょうね。

 もしあの時、左に曲がっていたら・・なんて、時折
考える事があります。全く違った、別の人生が・・?

 一歩踏み出せずに後悔した事なんて、誰しも一度や二度ありますものね。
でも、そんな事を考えるのは、自分が今、幸せだからだそうですよ。

 不幸な時は、そんな事を考える余裕もないそうです。
言われてみれば、尤もですね。
トーコさんの素敵な、心ときめくお話、有難うございました。
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 (あんぎゅう46)
2008-01-19 18:37:08
あの~私も良く言われます 『いい声してるわね~・・・」って

それだけですが・・・
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運命のいたずら (山小屋)
2008-01-19 18:58:42
この人は誰だったのでしょう?
親切は素直に受けたほうがよかったのでは・・・?
運命が変ったかも知れません。
「淡い初恋の味」がしました。
カルピスのコマーシャルではありません。
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Unknown (トロ)
2008-01-19 21:39:47
それは素敵な出会いだったのでは!?

その男性も何も聞かないで黙っていてくれたなんて素敵です(*´艸`)



素敵な彼がどんなお顔してたかも興味わぁありますがねぇヽ(≧∀≦*ゞ)。。。
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通り雨ですか (一味)
2008-01-19 23:07:41
1つ間違っていたら!いえ、正しかったら?

トーコさんの、旦那さんになってたかも。

私も、ハタチの頃、とある場で、

歳なら同年か、1つ下の女の子。

お互いに、チラチラと目と目が合う。

ほとんど私好みなのに、なぜか言葉が・・・

私がウブだったのか。。。(笑)
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リラさんへ (トーコ)
2008-01-19 23:10:48
リラさん!ありがとうございます!

あぁ、まったく考えもしませんでした。その人が「運命の人」だったかもしれないなんて。。。えへ

子どもだったのですね。そして、”強がり”をしていた。きっと、泣いていたのだって、分かっていたでしょうね。だから、何も声をかけなかったに違いありません

けっこう長く歩いたのも、彼の自分の家路より、すでに行過ぎていたのかもしれないです。

私には、そんなオトナな女性の気持ちがなかったので、彼の優しい気持ちを、くみ取ることができなかったのでしょう

しかし、この事はず~っと忘れなかったです。リラさんに言われて、少し考え方、見方を変えたほうがいいかしら?、と思いました

「アンのような優しい気持ち」なコメント、ありがとうございました

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あんぎゅう46さんへ (トーコ)
2008-01-19 23:18:14
コメント、ありがとうございます!

そうですね、あんぎゅう46さんも、良いお声でしたね。以前の動画で、見せていただきましたよ。

今度は、動画に「ギター&歌」も入れていただけると、(私は)楽しめそうです。…失敗した場合は、、、もちろん責任など持てませんけれど(笑)

お忙しいのに、面白いコメントありがとうございました
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山小屋さんへ (トーコ)
2008-01-19 23:26:11
ありがとうございます!山小屋さん!

え”え”~~、山小屋さんもそんなふうに思ったのですか?もしかして、ロマンチスト…

「優しい人だったみたい~、けれどオシマイ~♪」って、歌にもありますね。いや、歌ってる場合じゃないですね。あはは

私は、鈍感な人間だったかもしれません。少し、反省しています(今ごろ~?)

”運命”を考えさせられたコメント、ありがとうございました
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トロさんへ (トーコ)
2008-01-19 23:34:32
トロさん!ありがとうございます!

ほぉ~、やはり素敵な人だったのでしょうか?

それは、惜しい事をしました。私にとっては、不思議で、緊張して、気まずかっただけなのですが。。。

子どもだったのですね。色気というものもなかったし。これから、気をつけます(笑)

楽しいコメント、ありがとうございました
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一味さんへ (トーコ)
2008-01-19 23:45:50
一味さん!ありがとうございます!

はぁ、まぁ、ウブといえば、ウブですね。

その頃は、仕事が第一でしたから、色恋に振り向けるエネルギーは皆無だったかも。

今ごろ、悔しくなってきた気がする、ような気もする…けれど?(笑)

一味さんはいいですね。万年青年で

サスガなコメント、ありがとうございました
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