Humdrum++

ツリオヤジのダイアリシスな日々 ~ 知れぬ事は知れぬまゝに、たやすく知れるのは浅い事 (葉隠 聞書第一0202)

水中都市・デンドロカカリヤ - 安部公房 (新潮文庫)

2024-12-18 05:31:32 | 読書メモ

この本は、十数年ぶりに読み直しました。安部公房の初期短編集です。
安部公房のシュールリアリズム作品は、右脳で読まないといけないのだと認識したことが、十数年前と現在との違いです(^^)

安部公房作品を読むのは、「砂の女」や「箱男」など有名な作品から入るのも手筋ですが、やはり最初は「壁-Sカルマ氏の犯罪」から入り、この「水中都市・デンドロカカリヤ」と続くのが定跡といったところでしょうか。

・デンドロカカリヤ (1949年8月号、表現)
最初の一行「コモン君がデンドロカカリヤになった話」で、この短篇の全てを表しています。コモン君の意思とはまったく無関係に植物になる変身譚は、今後の安部作品の幹をなす表現方法です。
芥川賞を受賞した「壁-Sカルマ氏の犯罪」が書かれる1年前の作品で、文体も以降の安部公房とはかなり異なります。デンドロカカリヤの名の意味は、九大のサイトに詳しいです。

・手 (1951年7月号、群像)
手を媒介として、生きた鳩から銅像の鳩へ、銅像の鳩から弾薬へ、有機から無機に姿を変える、これも変身譚といってよいでしょうか。最後に手の持主へ帰結するまで、緊張を持って一気に読めました。

・飢えた皮膚 (1951年10月号、文學界)
イメージは満州在住時代か、それともアヘン戦争へのアイロニーか?ブルジョアに街角で蹴り飛ばされた男の、阿片を使った復讐劇。保護色人間という観念が安部公房らしい作品。復讐が成功するも、ラストでは自分も保護色人間になってしまう結末。

・詩人の生涯 (1951年10月、文藝)
39歳の老婆が綿のように疲れて糸になってしまい織機に吸い込まれる、という安部公房ワールド全開の出だし。老婆はジャケツに形を変え、最後は息子を詩人に導く。最後に詩人は頁の中に消えていく。不可思議ながらも美しさを感じる作品。わたし好みの幻想的な一作です。

・空中楼閣 (1951年10月号、文藝春秋別冊)
空中楼閣の作業員募集、のビラを見た主人公(おれ)、就職しようとビラの貼り主を探すが、空中楼閣は気象コントロールシステムだったり、世論操作の方法論だったり、子どもの夢の中に入り込むセラピスト(?)だったり、会う人によって別の意味を持つ。最後に行きついたビラ貼りの男は、体から砂がでてきていた。サスペンス仕立の不条理譚、これも安部公房らしさ全開。しかし、1951年10月は多作な頃だったようで、いろんな雑誌に短篇を発表しています。

・闖入者 (1951年11月号、新潮)
初期の代表作のひとつといってもよいかと思います。すっかりこの一篇を読んだこと、この文庫本に収録されていたのを忘れていて、図書館で借りて読み直そうとした作品。後年は戯曲「友達」にもなっています。感想はこちらを参照のこと。

・ノアの方舟 (1952年1月号、群像)
旧約聖書のパロディか、それとも新興宗教へのアイロニーか。といった作品。後期の作品「方舟さくら丸」にも方舟が登場しますが、安部公房は方舟に特別な思いがある??

・プルートーのわな (1952年6月号、現在)
イソップ童話で、猫の首に鈴をつける話、というのがあり「やるべきことはわかっていても誰もそれをやろうとしない」ことが書かれていますが、では実際にそれやってみたら(猫の首に鈴をつけようとしたら)どうなるかという、いわばイソップ物語の続編で、ひとつの解を提示したものでしょうか。

・水中都市 (1952年6月号、文學界)
現実が不連続なことから、プランク定数を発見することこそ革命だと思っている男が、町中で不審な男に会ってその男を「不連続のh野郎」と揶揄するが、その男は会ったことのない父親だった。父親はやがて妊娠するが、男が妊娠すると死を生むという。膨らんだ父親は魚になり、周りの人間を襲い始めた。魚から逃げるうちに水中都市に入り込み、そこはかつて同僚が描いた絵画の世界だった。と、十数年前に読んだときは意味不明であまり面白くなかったのですが、今読み返してみるととても面白い。やっと安部公房作品の楽しみ方がわかってきたような気がした作品です、オススメ。

・鉄砲屋 (1952年10月号、群像)
先進国が土着民をだまして侵略する話。侵略行為に対しての批判から、こういう作品が生まれてくるのでしょうか。前述の「飢えた皮膚」も、アヘン戦争へのアイロニーと理解した方がいいのかもしれません。土着民が騙される本作は他人事ではありません、現代の民衆こそが本作の土着民にあたるからです。

・イソップの裁判 (1952年12月号、文藝)
最後の一篇は、これまでの作品とは毛色が異なる話。これは左脳で読まねばなりません。イソップを探して罰しようとする王に、異端とされた奴隷が矜持を保ちイソップを知らぬと答えて死刑になります。ここのイソップは実体のない噂話のこと。

・解説:ドナルド・キーン (1973年6月)
わたし実は巻末の解説ってほとんど読まないのですが、キーンさんの解説は別です。深い考察、著者へのリスペクト、作品への愛情、どれをも感じる解説です。解説文の最後を引用しておきます(下線わたし)、我が意を得たりです。
「安部氏の文学はカフカやリルケなどと度々比較されてきたが、その文学に与えた影響に関する論文は後を絶たない。私には影響の有無については全く興味がない。影響は別問題として、安部文学の中に存在する哲学的な要素や現代絵画や写真との関係は、学問的な研究に値するということは認めるが、これらの初期の短編の場合は、もっとすなおに、もっと楽しく読んで頂きたいたいと思う。そうしない読者は保護色人間になる可能性が多いと忠告する次第である。」

書誌事項。

ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

※覚書
本日よりドライウェイト(DW)を500g増加させた。DW管理のパラメータは、レントゲンCTR(心臓の影の大きさと、胸郭の比率)や血圧の上下降かと思っていたのですが、担当医師は「血液検査の結果から」といいます。「血液からDWの良否がわかるのか?それは何かの密度や濃度を測定するのか?」と聞いたところ、そうではなくて血液中のヒト心房性利尿ペプタイドホルモン(hANP)を使うという。hANPが25以下だとDWを上げる必要があり、わしは20だったので500g上げてみる、という話。なるほど勉強になった。

p.s. 2200引いて残りなしのところ、DWを500上げたので1700引いて残りなし。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« タンタンメン金家 片倉本店... | トップ | いちぜん [鎌倉市] ~ 世... »

コメントを投稿

読書メモ」カテゴリの最新記事