こないだカラマーゾフの兄弟の読書メモの最後で、「この小説のポリフォニーに面して、ああ、似ているなと頭の中を過った三島の小説があるのですが」と書いたのですが、それがこの「美しい星」です。
主人公は宇宙人、という三島の中では毛色の変わった作品。
木星人の大杉重一郎と白鳥座星雲から来た羽黒が、地球人の存続を巡ってディベートを展開するのですが、カラマーゾフの兄弟を読んだときに、本書のこのシーンが頭に浮かびました。
本書を読み終えて、巻末にある奥野健男の解説を読んでいたところ、『ぼくはドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」の「大審問官」の章を思い浮かべた』という記載をみつけました。
ああ、似ているという感覚を持つ人はわたしだけはないんだな、とちょっと愉快な気分になりました。
小説のテーマは、冷戦であり、現代人の思想であり、純文学的な内容ではありながら、主人公は宇宙人であるという非科学的な(空想的な)内容で進むストーリーです。しかしながら、宇宙人の会話が至極哲学的で、観念的で、人間の存在意義や時間の概念を越えた未来への意志を考えさせるような内容となっています。三島らしい現代知的生活批判(?)のスパイスも効いています。
この、非科学的な内容でストーリーを進めていく手法は、現在NHKでドラマ化されている平野啓一郎の「空白を満たしなさい」に通じるように感じました。こちらは、一度死んだ人間が生き返る、ということから話が始まりますが、SFでもホラーでもなく、死生観をめぐる心理を描いた小説です。
「美しい星」を最初に読んだのは10代の頃、しばらく後に買い直してもう一度読んで、今回で三度めになるのですが、作品の理解度は読み直した回数だけ確実に向上していると思います。読後のインパクトは初めて読んだときが一番大きいですが、読み直していくとそれまで気づかなかった作者の意図が見えたりして味わい深く、やはり小説は繰り返し読むことが大切だな、とあらためて思う次第です。
こちら書誌情報。文庫化は1967年ですが、発行は1961年。
新潮で1961年1-11月に連載されたものが単行本になったものです。
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