
【ウェルフリートの別荘】エドワード・ホッパー(オールポスターズの商品ページよりm(_ _)m)
パレアナの言う<喜びのゲーム>が具体的にどういうことなのかについては、お話を進めていくごとに自然明らかになっていくと思うのですが――その前に物語の背景的なことを少し説明しておきたいと思いますm(_ _)m
まだ11歳という幼さで両親を亡くしてしまったパレアナ。お父さんは牧師さんだったのですが、彼の望みによって教会の婦人会の方がお母さんの妹だったパレー叔母さんに手紙をしたためます。すなわち、唯一の肉親であるあなたに姪を引き取ってはもらえまいかといった手紙ですね
そしてパレアナの叔母さんであるパレー・ハリントンは、あくまでも崇高なる義務心によってこの姪のことを引き取ろうと心に決めるのです。
物語の最初のほうに、このパレー叔母さんが相当の気難し屋で心の冷たいオールドミスである……といった描写が出てくるのですが、ハリントン家に長く仕えるトム爺やによれば、パレー叔母さんにはその昔恋仲だった人があって、その人との関係が駄目になってからパレーさまは変わってしまわれた――といったことのようです。
なんにしてもそんなわけですから、パレー叔母さんは遠来からやってくる姪のことを自ら駅まで迎えにいこうという気すらなく、その姪に与えた部屋も、屋根裏にある殺風景な部屋だったのでした。パレー叔母さんはハリントン家の財産をすべて受け継いでいましたから、実際はかなりのお金持ちです
パレアナはこれから自分が住むお屋敷までやって来た時、他の部屋の調度品などを見て「自分にも素敵なお部屋が与えられるんじゃないかしら?」と内心期待したに違いありません。けれども、屋根裏の殺風景ながらーんとした部屋を見て、とてもがっかりしたのでした。
実際、ハリントン家へやって来た日の夜、パレアナはこんな感想を洩らしてもいます。
>>「エンゼルの中にいらっしゃるお父さん、あたしはちっともゲームをうまくやっていません――まるでだめです。でも、お父さんだって、こんな暗いところにあげられて、眠るんだったらなんにも喜ぶことをさがせないと思います。ナンシーか叔母さんかどっちかのそばだったらいいんだけれど、婦人会の人だっていないよりいいわ」
(第五章『ゲーム』より)
この翌日、パレアナは朝がやって来たことを喜びながら、窓から見えたパレー叔母さんの元へとすっ飛んでいきます。
「おお、パレー叔母さん、パレー叔母さん、あたし、けさはただ生きていることがうれしいの」と言いながら……。
ここから続くパレアナとパレー叔母さんのやりとりは、奇妙なおかしみがあります(笑)
>>最初の数分間というもの、朝の食事は無言のうちに進みましたが、ややあってミス・パレーは食卓の上をうるさく飛ぶ二匹のハエを不興げに見ながら、
「ナンシー、このハエはどこからきたんだね?」
「存じません。台所には一匹もおりませんでした」
ナンシーはきのうの午後、パレアナの部屋の窓が開いていたのにぜんぜん気がつかなかったのです。
「叔母さん、あたしのハエかもしれませんよ。けさ、二階にたくさん遊んでいましたわ」
とパレアナはあどけない調子で言いました。ちょうどその時、ナンシーはできたてのマフィンパンを運んできましたが、そっと外へ持ってでてしまいました。
「おまえのハエだって!」
ミス・パレーはあきれ返って、
「それはいったいどういう意味だね?どっからきたって言うの?」
「あら、パレー叔母さん、きまってるじゃありませんか。外から、窓をとおってきたんですわ。飛んでくるところを、あたし、見ましたもの」
「飛んでくるのを見たって?網戸のないのに窓を開けたのかい、おまえは?」
「あら、網戸はついていませんでしたよ、叔母さん」
ナンシーがマフィンを運んできました。まじめな顔を、まっかにしていました。
「ナンシー」
と鋭い声音で呼んで、
「そのマフィン皿をここへ置いといて、すぐパレアナの部屋へあがっていって窓をすっかり閉めておいで。扉も閉めておしまい。あとかたづけがすっかり終わったら、家じゅうの部屋をまわって、ハエを殺しなさい。家じゅうをさがして歩かなけりゃいけないよ」
それからパレアナに向かって、
「パレアナ、わたしはあの部屋のために、網戸を注文しておきました。もちろん、こういう支度をするのはわたしの義務だとは知っているがね、おまえにはおまえの義務があるのを忘れたようだね」
「あたしの――ギムって、なんでしょう?」
パレアナは目を丸くしてたずねました。
「そりゃあね、蒸し暑いことはわかっていますけれど、網戸ができてくるまでは窓を閉めておくのがおまえの義務ですよ。ハエはね、不潔でうるさいだけでなく、健康にもたいへん害をするんですよ。食事がすんだら、このことを書いたパンフレットをあげるからよく読みなさい」
「読むんですか?パレー叔母さん、ありがとう。あたし、読むのが大好きです」
(第六章『義務の問題』より)
わたし、この箇所を最初に読んだ時、大笑いした記憶があります
パレアナはその善良な性質から、パレー叔母さんが自分と血の繋がった叔母さんであるというだけで、その一事についてただ無条件に喜んでいます。ところがパレーおばさんのほうではこの子供をどうしたもんだろうと思い、また己の崇高な義務心からこの子をよくしつけ、良い教育を施さねばと考えるのですが、それは先に子供に対する愛情があってこそ、正しく生きてくるものなのだと思います。
けれども、パレー叔母さんはとにかく、「それがわたしの義務だからね」、「義務だから」、「ギム・ギム・ギム」と言いつつも、最後にはパレアナのことが大好きになっていくのでした。
このくだりなどは、『赤毛のアン』のアンとマリラの関係を思い起こす方も多いでしょう。
なんにしても、パレー叔母さんのパレアナに対する養育は、彼女の言うところの崇高な義務心からはじまりました。そこで義務心からパレアナに料理や裁縫を教え、また午後からはピアノを弾くといった音楽の時間に使うようにということが決まったのです。
またパレー叔母さんは、己の義務心からひどいボロしか持っていないパレアナに、服を買ってあげてもいます。ただし、その日の夜……またしても事件が起きました。
例のハエ問題――屋根裏にはまだ窓に網戸がはまってないから、窓を開けちゃいけないよとパレーおばさんが言いつけたことをもちろんパレアナは覚えていました。そこで暑くて寝苦しいにも関わらず、パレアナは窓を開けることも出来ず、輾転反側としていたのです。そしてこう思いました。
窓の外にはなんて涼し気な世界が広がっているのだろう、と。見てみると窓の外は月光が美しく、まるで妖精の国へパレアナのことを招いているかのようです。そこでパレアナは、窓が開けられないのならばと、外へ出て平らなブリキ屋根の上で眠ることにしたのでした。
けれどもそこはパレーおばさんが寝ている部屋のすぐそばでしたから、パレーおばさんは屋根の上に泥棒がいると思い、屋敷に長く仕えるトム爺とティモシーに連絡しました。そこでふたりが当の現場へ向かうと、そこではパレアナが眠り眼をこすっていたというわけです。
>>「パレアナ、いったい、これはどういうことなんだね?」
とパレーが叫びました。
パレアナは眠い目をこすりこすり、起きあがって、
「まあ、トム爺やも――パレー叔母さんも」
と、どもりながら、
「そんなにびっくりしなくてもいいのよ。あたし、ジェール・ハートレーさんみたいに肺病じゃないのよ。ただね、暑くてたまらなかったの――部屋の中が。でもね、パレー叔母さん、窓はちゃんと閉めてきましたからだいじょうぶ。バイキンをつけたハエははいりません」
(第七章『パレアナの罰』より)
なんていう子供の無邪気さでしょうか(笑)
結局この日、パレーは自分と一緒に寝るようにとパレアナに言いつけます。けれどもパレアナはもともとそうしたかったので大喜びでした。そしてパレー叔母さんは思うのですね……パレアナに罰として与えたことが何故この子供には喜びの種になるのだろうか、といったように。
先ほどわたしは、パレー叔母さんがやがてパレアナを大好きになると書きましたが、けれど本当にそうなる(というか、そうと叔母さんが自分で気づく)までには、少し時間がかかるのでした(^^;)
さて、次回はパレアナのベルディングスビルにおける<喜びのえじき>第2号、ミセス・スノーの登場です♪(^^)
それではまた~!!
パレアナの言う<喜びのゲーム>が具体的にどういうことなのかについては、お話を進めていくごとに自然明らかになっていくと思うのですが――その前に物語の背景的なことを少し説明しておきたいと思いますm(_ _)m
まだ11歳という幼さで両親を亡くしてしまったパレアナ。お父さんは牧師さんだったのですが、彼の望みによって教会の婦人会の方がお母さんの妹だったパレー叔母さんに手紙をしたためます。すなわち、唯一の肉親であるあなたに姪を引き取ってはもらえまいかといった手紙ですね

そしてパレアナの叔母さんであるパレー・ハリントンは、あくまでも崇高なる義務心によってこの姪のことを引き取ろうと心に決めるのです。
物語の最初のほうに、このパレー叔母さんが相当の気難し屋で心の冷たいオールドミスである……といった描写が出てくるのですが、ハリントン家に長く仕えるトム爺やによれば、パレー叔母さんにはその昔恋仲だった人があって、その人との関係が駄目になってからパレーさまは変わってしまわれた――といったことのようです。
なんにしてもそんなわけですから、パレー叔母さんは遠来からやってくる姪のことを自ら駅まで迎えにいこうという気すらなく、その姪に与えた部屋も、屋根裏にある殺風景な部屋だったのでした。パレー叔母さんはハリントン家の財産をすべて受け継いでいましたから、実際はかなりのお金持ちです

パレアナはこれから自分が住むお屋敷までやって来た時、他の部屋の調度品などを見て「自分にも素敵なお部屋が与えられるんじゃないかしら?」と内心期待したに違いありません。けれども、屋根裏の殺風景ながらーんとした部屋を見て、とてもがっかりしたのでした。
実際、ハリントン家へやって来た日の夜、パレアナはこんな感想を洩らしてもいます。
>>「エンゼルの中にいらっしゃるお父さん、あたしはちっともゲームをうまくやっていません――まるでだめです。でも、お父さんだって、こんな暗いところにあげられて、眠るんだったらなんにも喜ぶことをさがせないと思います。ナンシーか叔母さんかどっちかのそばだったらいいんだけれど、婦人会の人だっていないよりいいわ」
(第五章『ゲーム』より)
この翌日、パレアナは朝がやって来たことを喜びながら、窓から見えたパレー叔母さんの元へとすっ飛んでいきます。
「おお、パレー叔母さん、パレー叔母さん、あたし、けさはただ生きていることがうれしいの」と言いながら……。
ここから続くパレアナとパレー叔母さんのやりとりは、奇妙なおかしみがあります(笑)
>>最初の数分間というもの、朝の食事は無言のうちに進みましたが、ややあってミス・パレーは食卓の上をうるさく飛ぶ二匹のハエを不興げに見ながら、
「ナンシー、このハエはどこからきたんだね?」
「存じません。台所には一匹もおりませんでした」
ナンシーはきのうの午後、パレアナの部屋の窓が開いていたのにぜんぜん気がつかなかったのです。
「叔母さん、あたしのハエかもしれませんよ。けさ、二階にたくさん遊んでいましたわ」
とパレアナはあどけない調子で言いました。ちょうどその時、ナンシーはできたてのマフィンパンを運んできましたが、そっと外へ持ってでてしまいました。
「おまえのハエだって!」
ミス・パレーはあきれ返って、
「それはいったいどういう意味だね?どっからきたって言うの?」
「あら、パレー叔母さん、きまってるじゃありませんか。外から、窓をとおってきたんですわ。飛んでくるところを、あたし、見ましたもの」
「飛んでくるのを見たって?網戸のないのに窓を開けたのかい、おまえは?」
「あら、網戸はついていませんでしたよ、叔母さん」
ナンシーがマフィンを運んできました。まじめな顔を、まっかにしていました。
「ナンシー」
と鋭い声音で呼んで、
「そのマフィン皿をここへ置いといて、すぐパレアナの部屋へあがっていって窓をすっかり閉めておいで。扉も閉めておしまい。あとかたづけがすっかり終わったら、家じゅうの部屋をまわって、ハエを殺しなさい。家じゅうをさがして歩かなけりゃいけないよ」
それからパレアナに向かって、
「パレアナ、わたしはあの部屋のために、網戸を注文しておきました。もちろん、こういう支度をするのはわたしの義務だとは知っているがね、おまえにはおまえの義務があるのを忘れたようだね」
「あたしの――ギムって、なんでしょう?」
パレアナは目を丸くしてたずねました。
「そりゃあね、蒸し暑いことはわかっていますけれど、網戸ができてくるまでは窓を閉めておくのがおまえの義務ですよ。ハエはね、不潔でうるさいだけでなく、健康にもたいへん害をするんですよ。食事がすんだら、このことを書いたパンフレットをあげるからよく読みなさい」
「読むんですか?パレー叔母さん、ありがとう。あたし、読むのが大好きです」
(第六章『義務の問題』より)
わたし、この箇所を最初に読んだ時、大笑いした記憶があります

パレアナはその善良な性質から、パレー叔母さんが自分と血の繋がった叔母さんであるというだけで、その一事についてただ無条件に喜んでいます。ところがパレーおばさんのほうではこの子供をどうしたもんだろうと思い、また己の崇高な義務心からこの子をよくしつけ、良い教育を施さねばと考えるのですが、それは先に子供に対する愛情があってこそ、正しく生きてくるものなのだと思います。
けれども、パレー叔母さんはとにかく、「それがわたしの義務だからね」、「義務だから」、「ギム・ギム・ギム」と言いつつも、最後にはパレアナのことが大好きになっていくのでした。
このくだりなどは、『赤毛のアン』のアンとマリラの関係を思い起こす方も多いでしょう。
なんにしても、パレー叔母さんのパレアナに対する養育は、彼女の言うところの崇高な義務心からはじまりました。そこで義務心からパレアナに料理や裁縫を教え、また午後からはピアノを弾くといった音楽の時間に使うようにということが決まったのです。
またパレー叔母さんは、己の義務心からひどいボロしか持っていないパレアナに、服を買ってあげてもいます。ただし、その日の夜……またしても事件が起きました。
例のハエ問題――屋根裏にはまだ窓に網戸がはまってないから、窓を開けちゃいけないよとパレーおばさんが言いつけたことをもちろんパレアナは覚えていました。そこで暑くて寝苦しいにも関わらず、パレアナは窓を開けることも出来ず、輾転反側としていたのです。そしてこう思いました。
窓の外にはなんて涼し気な世界が広がっているのだろう、と。見てみると窓の外は月光が美しく、まるで妖精の国へパレアナのことを招いているかのようです。そこでパレアナは、窓が開けられないのならばと、外へ出て平らなブリキ屋根の上で眠ることにしたのでした。
けれどもそこはパレーおばさんが寝ている部屋のすぐそばでしたから、パレーおばさんは屋根の上に泥棒がいると思い、屋敷に長く仕えるトム爺とティモシーに連絡しました。そこでふたりが当の現場へ向かうと、そこではパレアナが眠り眼をこすっていたというわけです。
>>「パレアナ、いったい、これはどういうことなんだね?」
とパレーが叫びました。
パレアナは眠い目をこすりこすり、起きあがって、
「まあ、トム爺やも――パレー叔母さんも」
と、どもりながら、
「そんなにびっくりしなくてもいいのよ。あたし、ジェール・ハートレーさんみたいに肺病じゃないのよ。ただね、暑くてたまらなかったの――部屋の中が。でもね、パレー叔母さん、窓はちゃんと閉めてきましたからだいじょうぶ。バイキンをつけたハエははいりません」
(第七章『パレアナの罰』より)
なんていう子供の無邪気さでしょうか(笑)
結局この日、パレーは自分と一緒に寝るようにとパレアナに言いつけます。けれどもパレアナはもともとそうしたかったので大喜びでした。そしてパレー叔母さんは思うのですね……パレアナに罰として与えたことが何故この子供には喜びの種になるのだろうか、といったように。
先ほどわたしは、パレー叔母さんがやがてパレアナを大好きになると書きましたが、けれど本当にそうなる(というか、そうと叔母さんが自分で気づく)までには、少し時間がかかるのでした(^^;)
さて、次回はパレアナのベルディングスビルにおける<喜びのえじき>第2号、ミセス・スノーの登場です♪(^^)
それではまた~!!

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