春盛りの頃、
地面すれすれに飛びながら
ツバメたちはえさ取りと、
巣作りの材料集めに余念がなかった。
やがて、doironが通う建物の壁に設けられた
換気口の上に少しずつ巣が出来始めた。
聞けばその場所には2年ぶりの営巣だという。
そういわれてみると、
別の換気口の上にも
巣のなごりがわずかに残っている。
ツバメが巣を作る建物は火事にならない
という言い伝えのいようなものがある。
それが単なる言い伝えなのか、
それとも我々には計り知れない予知能力があるのか。
あるいは、防火管理者の人となりを読み取っているのか、
それはどうかわからない。
ただ、冬のえさが乏しい時期のたくわえに、
枝に獲物を突き刺しておく百舌鳥のはやにえでは、
その突き刺してある枝の高さで
その年の降雪量が多いのか少ないのかがわかるという。
いずれにしても、
天空を飛び交い、
日々感覚を研ぎ澄ましている野生動物たちには
我々にはわからない感覚が
備わっているのだろう。
そのツバメの巣に、
やがて卵が生まれました。
抱卵の役割は主にメスの仕事なのだが、
たまにえさ取りと抱卵を
オスとメスが交代するようで、
その交代劇は、doironも目撃した。
それはタッチ交代するように行われる。
まるで鬼ごっこで背中をデンとされた子と
鬼が入れ替わるようだ。
そうして、周りも警戒し、
自らの採餌もしつつ、
二羽の親ツバメは
期待に胸を膨らませ、
早くもお祝いの燕尾服のいでたちで
孵化のときを待っていたわけである。
その間に巣の補強もたゆまず行われているようで、
益々巣は深くなり、
孵化したヒナ達が
より安心して成長できるように
という親鳥の愛情も
いっそう深くなっておった。
やがて、卵の内側から
ヒナ鳥の卵歯がこつこつと
殻を割ろうとする音が聞こえ始め、
そこからヒナが顔を出す。
孵化である。
生まれたばかりのヒナは食欲旺盛で、
すぐにその体には不似合いなくらい大きな口を開け、
親に餌をねだり始める。
普段は天敵の来襲に備えて
じっとしていても、近くを
ツイーッと親ツバメが飛翔すると
いっせいに口をあける様がとても可愛い。
この姿を是非絵手紙にしようと思っていたのだが、
数日前のあるときのことだ。
やってきたカラスが巣を壊し、
むき出しになったヒナたちをくわえていってしまった。
桜の頃にやってきて、
ハナミズキやつつじの花を眺めながら、
愛情たっぷりに営んできて、
わが子の巣立ちを夢見ていた子育てが
巣ごと破壊されたわけである。
今、あの親鳥達はどうしているのだろう。
海の見える電線にでも止まって、
涙を流しているのだろうか。
壊れた巣を見るにつけ、
胸がキュンとなる今日この頃だ。