後期ゴシック彫刻・市民運動・演劇教育

小学校大学教師体験から演劇教育の実践と理論、憲法九条を活かす市民運動の現在、後期ゴシック彫刻の魅力について語る。

〔177〕昨今「教育密告ごっこ」がなぜこうも流行るのでしょうか。

2018年04月10日 | 学校教育
 このところ安倍一強の「成果」としか思えないようなことが続発しています。
 教育問題で実に奇妙で不愉快なことが立て続けに起こりました。足立区性教育告発事件と名古屋市前川講演会介入事件です。根っこのところはどちらも同じです。
 まずおさえておきたいことは、教育行政の仕事とは何かという問題です。
 2006年に教育基本法が「改悪」されました。第一次安倍内閣の時です。旧教育基本法と並べてみるとその違いは歴然としています。旧教育基本法では、教育行政は「教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立」を明確に目標にしています。
 ただ、新教育基本法でかろうじて残ったのが「教育は、不当な支配に服することなく」という文言でした。

●教育基本法 「教育行政」(文科省HPより)
第十六条 教育は、不当な支配に服することなく、この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり、教育行政は、国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互の協力の下、公正かつ適正に行われなければならない。

●旧教育基本法(文科省HPより)
第10条 (教育行政) 教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである。
2 教育行政は、この自覚のもとに、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立を目標として行われなければならない。


 では、「不当な支配」とは何なのでしょう。旧教育基本法では以下のような「参考」がついています。国会でのやりとりで「不当な支配」とは「官僚とか一部の政党」「超国家的な、或いは軍国主義的なもの」ということになります。

●(参考)帝国議会における第10条に関する主な答弁
【「不当な支配」とはどういうものを指すのか。】
◎昭和22.3.14 衆・教育基本法案委員会
<辻田政府委員> 第十条の「不当な支配に服することなく」というのは、これは教育が国民の公正な意思に応じて行はれなければならぬことは当然でありますが、従来官僚とか一部の政党とか、その他の不当な外部的な干渉と申しますか、容啄と申しますかによつて教育の内容が随分ゆがめられたことのあることは、申し上げるまでもないことであります。そこでそういうふうな単なる官僚とかあるいは一部の政党とかいうふうなことのみでなく、一般に不当な支配に教育が服してはならないのでありましてここでは教育権の独立と申しますか、教権の独立ということについて、その精神を表したのであります。

【「直接に責任を負つて行われる」とはどういう意味か。「不当な支配に服さず」というのは当然でありあえて規定する必要があるのか。】
◎昭和22.3.19 貴・本会議
<高橋国務大臣答弁> それから尚第十条「教育は、不当な支配に服することなく、」云々とありまするのは是迄におきまして、或いは超国家的な、或いは軍国主義的なものに動かされると云ふようなことがあつたものでありまするからして、この点を特に規定したものであります。

【学校教育の主体はだれか。】
◎昭和22.3.19 貴・教育基本法案特別委員会
<高橋国務大臣答弁> 地方教育に関しましては、地方分権の主義に則りまして、中央集権を廃して参りたい、斯う云ふ立場にあるのでありまするからして、矢張りそれぞれの地方公共団体が教育をする、斯う云ふことに相成るものと考へて居ります。


 はてさて、それでは、昨今の「前川氏講演問題」「性教育授業を都議が問題視」といった事件は「不当な支配」に該当しないのでしょうか。かつてこのブログに書いた〔110〕〔105〕はこの流れに沿った紛れもなく「不当な支配」に該当するのです。
〔110〕「いわゆる『教育密告サイト』から警察への情報提供に反対する請願」、清瀬市総務文教常任委員会は採択するでしょうか。
〔105〕「学校教育における政治的中立性についての実態調査」(自民党)はまさに学校教育密告サイトですね。

 最後に前述した2つの事件について、新聞記事で確認しておきましょう。

■前川氏講演問題 政治家の見識が問われる(熊本日日新聞社説)3月23日 09:06
 文部科学省が、前川喜平前事務次官による名古屋市立中学での講演内容の報告を市教委に要請した問題で、自民党の文教族議員2人が同省に照会し、うち1人に同省が市教委への質問内容を事前に報告していたことが分かった。
 同省は「要請は主体的な判断」と強弁するが、教育基本法が定める「教育権の独立」が政治の介入で侵されたとの指摘もあり、教育行政への信頼が大きく揺らぐ事態となっている。
 地元紙で講演会記事を読んだ自民党文科部会長代理の池田佳隆衆院議員が、部会長の赤池誠章参院議員に連絡、赤池氏が同省に事実確認を要請していた。文科省は市教委に電話で確認し両氏に報告。メールで講演内容などの詳細な報告を求める際には、事前に池田氏に質問を見せ、意見を基に2カ所修正していた。
 同省は当初、講演会があったことを知ったのは地元紙を見たのがきっかけだったと説明していた。ところが、野党のヒアリングでは「外部からの問い合わせを受け記事を取り寄せた」と説明を変え、議員から照会があったことは明らかにしていなかった。
 文科省の担当者は、林芳正文科相が池田、赤池両氏の名前を明らかにした後も「政治家の圧力は受けていない」と繰り返している。しかし、林氏自身は質問内容について「圧力を与えかねない」と認めている。池田氏の意向が働いていたと疑われても仕方あるまい。
 調査の対象となった前川氏は「現場を不当な政治的介入から守るのが仕事なのに、教育行政として果たすべきことを果たしていない」と話している。文科省の関係者は、かつて同省の事務方トップにあった前川氏の苦言を肝に銘じるべきだろう。
 今回の文科省の対応には、森友学園問題での財務省の過剰な対応ぶりと根底でつながるところがあるのではないか。安倍政権下で目立つ政官関係の「ゆがみ」とも言うべき事態がまた露見したとも言える。その原因に内閣人事局制度を指摘する声も少なくない。
 安倍政権が政治主導を目指して2014年に導入。官邸が各省庁の幹部約600人の人事を一元管理する仕組みだが、福田康夫元首相は「各省庁の中堅以上の幹部は皆、官邸(の顔色)を見て仕事をしている」と指摘している。かつて「省益あって国益なし」とやゆされた霞が関の悪しき慣習を正そうという所期の目的は理解できるが、その在り方を再検討する必要があろう。
 赤池氏は「(今回のことが)文科省への圧力になるなら、国会議員は仕事ができなくなる」などと主張。批判を受け、「書面でやる話ではなく、口頭で十分確認できた」と修正したが、とても問題の本質に応えているとは言えまい。森友問題を巡る国会質疑では、自民党議員が財務省理財局長に対し「安倍政権をおとしめるために意図的に変な答弁をしているんじゃないか」などと述べ、批判された。政治家の見識も問われている。


■性教育授業を都議が問題視、都教委指導へ 区教委は反論(朝日新聞斉藤寛子、山田佳奈 2018年3月23日21時00分)
 東京都足立区の区立中学校で今月行われた性教育の授業が、学習指導要領に照らして不適切だとして、東京都教育委員会が区教委に対して近く指導をすることがわかった。16日の都議会文教委員会で自民党の都議が授業の内容を問題視し、都教委が調査していた。区教委は「不適切だとは思っていない」としている。
 授業は3月5日、総合学習の時間で3年生を対象に教員らが実施。事前アンケートで「高校生になったらセックスしてもよい」と答えた生徒が44%いたことをふまえ、高校生になると中絶件数が急増する現実や、コンドームは性感染症を防ぐには有効だが避妊率が9割を切ることなどを伝えた。その上で「思いがけない妊娠をしないためには、産み育てられる状況になるまで性交を避けること」と話した。また、正しい避妊の知識についても伝えた。
 この授業について、16日にあった都議会文教委員会で、自民党の古賀俊昭都議が「問題ではないのか」と指摘。都教委が区教委を通して授業内容を調査し、不適切な授業を行わないように区教委を指導し、来月の中学校長会でも注意喚起することを決めた。(後略)




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