2022年6月17日、最高裁の判決は、東日本大震災を契機に発生した東京電力福島第一原発事故に関し、国には責任がないとしました。ただし裁判官の判断は3対1に分かれ、責任ありという裁判官も1名いました。本書はその判決の不当性を様々な角度から批判検討しています。本書出版の意義は、過去の原発政策における国の責任を免罪しないこと、今後の原発推進政策にお墨付きを与えないことにあります(はしがきより)。
福島第一原発事故のような重大な事故は二度と繰り返してはならないということで、まさに「ノーモア原発公害」であり、そして、広範囲にわたる放射能汚染という新しいタイプの公害と捉えています。
巻末には「ノーモア原発公害市民連絡会」の発起人が54名、特別賛同人が70名紹介されています。
発起人の一人、鎌田慧さんのコラムを読んでください。
◆廃炉は危機からの最大の脱出策
「原発は民主主義の対極にある」 鎌田 慧(ルポライター)
金沢市の四高記念公園で6月30日、「さよなら!志賀原発」全国集会
があった。小雨まじりだったが、福島第一原発被害者団体の武藤類子
さんや女川、柏崎刈羽、東海第二、島根原発など、各地の市民運動の
人びとが1100人ほど集まった。
能登半島大地震の被害者は寒さを脱したが、志賀原発への不安は急速
に高まっている。原発は次の地震に耐えられない。
半島先端で計画された関西電力や中部電力の「珠洲原発」は住民運動
が阻止したが、もしも建設されていたなら恐るべきカタストロフィー(
破滅)だった。その恐怖が運動をさらに真剣にさせる。
建設を断念した珠洲原発も用地買収は手練手管、汚い方法だった。借
地契約すれば土地はそのままで借地料を払う詐欺まがいの方法や、電力
各社の常套手段だった「先進地視察」という名の、原発立地地域を連れ
まわる無料の観光旅行。
賛成派になったある人は北海道から九州までの家族旅行を楽しんだ、
といった。
原発は建設前から地域を汚染していた。
「原発は民主主義の対極にある」。原発地帯をまわったわたしの
結論だ。
いまはヒロシマのあと、ナガサキを迎える直前の状況、と言える。
30日の集会は「志賀原発の廃炉を脱原発社会への突破口にする決意を
固め合う場」(北野進・集会共同代表)だった。廃炉は危機からの最大
の脱出策だ。 (7月2日「東京新聞」朝刊19面「本音のコラム」より)
◆ミサイル基地がやってきた
湯本雅典監督の基地反対運動の映画
『ミサイル基地がやってきた島で生きる』
鎌田 慧(ルポライター)
「杖をついて 3本足で立って 地面の匂いかぐほどに 腰が
曲がっても 戦争を止める手は 休めちゃいけない」。
石垣島の公園にある憲法9条の碑をバックに、山里節子さんが朗々と
歌うトゥバラーマ(即興曲)が流れる。と画面が変わって、島中央の平
野部を占領した、陸上自衛隊のミサイル基地の遠景になる。
私はこの標高526mの於茂登(おもと)岳の麓に広がっている田園風景
を、展望台から見下ろすのが好きだった。島の両側が東シナ海で、のど
かに風が渡って行くのが見える。
湯本雅典監督の『ミサイル基地がやってきた島で生きる』は、戦後、
与那国島や本島の基地建設に土地を奪われ、この地に入植した人々の、
基地反対運動のドキュメンタリー映画である。
防衛省の「南西地域の防衛態勢の強化」には、石垣島について「部隊
を配置できる十分な地積を有しており、島内に空港や湾岸等も整備され
ているとともに、先島諸島の中心に位置しており、各種事態において迅
速な初動対応が可能な地理的特性がある」とある。2018年度の予算に石
垣島のミサイル基地用地確保のために、136億円が確保されていた。
わずか5年後の2023年、200台ほどの軍用車両とミサイル発射機が運ば
れてきた。
この電光石火、狙い撃ち。
ひとつの島を戦略的にしか考えない冷酷さは、強い憤りを感じさせる。
(7月9日「東京新聞」朝刊19面「本音のコラム」より)