株式会社ラボ教育センターについてはたびたび紹介してきましたが、単なる地域の英語教室ではなく、独特の方法(ラボ教育メソッド)により「英語力と社会力を獲得する」学びの場とでも言えるのでしょうか。私のラボ教育センターとの出会いやその研究組織での活動については拙著『実践的演劇教育論-ことばと心の受け渡し』や『地域演劇教育論-ラボ教育センターのテーマ活動』(いずれも晩成書房)に書いていますので、読んでいただければ嬉しいです。
ラボ教育センターの活動は、物語(ラボライブラリー)を丸ごと表現するテーマ活動などの日常活動と、キャンプや国際交流などの非日常活動に大別されるように思います。新刊『ラボっ子旅に出る。』はラボ教育センターの歴史も踏まえ、とりわけ50年にわたるラボ国際交流に焦点を宛てて書かれたものです。
著者の神山典士さんがラボっ子ということで、当然のことながらご自身の体験と重ね合わせながら自由自在に筆を運ばれています。
ノンフィクション作家の神山さんといえば、「佐村河内事件」でマスコミを賑わし、多くの賞を受けられているのでご存じの方も多いことでしょう。
私は松本輝夫さん(ラボ教育センター元会長)の出版記念会の司会をされている時に1度だけお目にかかったことがあります。神田の冨山房でのことでした。
本書は周到で丁寧な調査に基づいて書き込まれた労作です。日本の若者が異文化に出会い、大きく人生を変え、成長していく様が随所に語られています。写真もふんだんに挿入されていてとても読みやすい本になっています。昨今必要以上に匿名で語られ、ぼやかした映像が流布される風潮の中、全編を通して固有名詞で語られていることにも好感を持ちます。
谷川雁さん、定村忠士さんといったもはや歴史的人物のことばも適宜挿入されています。私が言語教育総合研究所でお世話になった故・鈴木孝夫さん、門脇厚司さん、故・本名信行さん、そして、テューターの佐藤公子さん(長時間インタビューさせていただきました)、岩坂えり子さん(私にとって初めてのラボ・パーティ訪問をさせていただきました)などのお名前も懐かしく拝見できました。
注文は1つだけです。国際交流がテーマなのでそちらに絞ったことは理解できるのですが、テーマ活動の写真を何頁か入れて欲しかったです。「初期のレッスン風景」との対比ができておもしろかったのではないでしょうか。
蛇足ですが、今年のパリオリンピックを回避して、来年夏には地域の仲間や家族とドイツを根城にした旅を考えています。南フランスのロマネスク再訪、北フランスのゴシック彫刻も視野に入れています。私たちも旅に出ます!
■ 『ラボっ子旅に出る。』副題、異文化をめぐる50年、そしていま、神山典士著、冨山房インターナショナル
〈目次〉
はじめに コロナ禍を乗り越える
第1章 旅立ちの前夜
第2章 「ラボ・パーティ」誕生の秘密
第3章 「ひとりだちへの旅」で鍛えられる
第4章 英語力と社会力を獲得する
第5章 旅の記録2023
第6章 OB・OGたちの足跡といま
おわりに 国際交流半世紀の歴史の重み