私が今まで手に取ることなかった本を皆さんに紹介します。
まずは神奈川大学編集・発行の『神奈川大学評論』です(年3回発行)。最新号は3月末発行の105号です。210頁で定価が889円、内容の充実具合を知れば格安と言えるかも知れません。
ページを捲るのを楽しみにしている記事を列挙しましょう。
・エッセイ 永山則夫の短い旅路 鎌田慧
・対談 寅さんと旅 山田洋次、アーサー・ビナード
・講演記録 循環する言葉とものと文学 田中優子
・舞台時評 プーク人形劇場-建設までの経緯と絵入り年代記 竹内とよ子
・書評(全部で11冊あります)
大森淳郎・NHK放送文化研究所著『ラジオと戦争-放送人たちの「報国」』永田浩三
辻野弥生著『福田村事件-関東大震災。知られざる悲劇』北原糸子
とりわけ巻頭の見開き2頁に凝縮された鎌田慧さんの永山則夫論は秀逸です。裏付けのある一文、一段落が私に説得力を持って迫ってきました。
私は、鎌田さんがものにした大杉榮、鈴木東民、太宰治、葛西善三、坂本清馬などの評伝文学を愛しています。永山則夫の評伝もお願いしたいものです。
『星火方正(せいかほうまさ)』(燎原の火は方正から)を初めて手に取りました。
方正友好交流の会、37号、2023年12月号です。
敗戦の1945年、ハルピン市近くの方正で5千人近くの日本人が亡くなり、日本人たちの公墓が周恩来総理の許可の下1963年に設立されたといいます。
方正友好交流の会は2005年に立ち上げられました。日本人公墓の存在を知ってもらい、周恩来総理の国際的な精神を広めたいという思いから出発したようです。
興味があるようでしたら、是非ネット検索してみてください。
◆ヒマラヤと原発事故 鎌田 慧(ルポライター)
「『日本で大地震が発生し、東京でも死者が出ているそうです』宿泊
者のひとりが食堂に駆け込んできて涙声で言った」「東北の太平洋岸原
発の緊急自動停止装置がうまく作動したのだろか。阪神大震災や奥尻島
の大津波は取材にいって惨状を目にしている。今度は柏崎刈羽原発より
も被害は大きい、と推察される」
13年前の3月13日。カトマンズのホテルから手書き原稿をFAXでこ
の欄に送稿した。
ヒマラヤの8000m峰の一つダウラギリの麓ナウリコットのホテルに
帰ってきたばかりだった。
大地震のニュースは同行者たちを不安にさせた。
祈るような気持ちだった。 あのとき、東京にいなかったことが恥ずか
しく、 深い負い目だった。そのこともあって「さようなら原発」運動に
時間を割くようになった。
そのとき、友人たち7人とエベレストを見に行く旅のガイド役を務め
たのが、同郷の作家、高校の後輩、登山家の根深誠氏である。
この2月に上梓した『求道の越境者・河口慧海 チベット潜入ルートを
探る三十年の旅』を送ってもらった。
ヒマラヤを案内しながら根深氏は、100年前鎖国のチベットで修行した
慧海の潜入はこれまで伝えられてきた経路ではない、と力説していた。
それを解明した力作だ。ヒマラヤの山脈で聞いた原発事故のニュース
と河口慧海。やや奇妙な関係なのだが。
(4月2日「東京新聞」朝刊17面「本音のコラム」)