ひょんなことから永山絹枝評論集『魂の教育者 詩人近藤益雄 ―綴方教育と障がい児教育の理想と実践』をいただき、さっそく読ませてもらいました。
そもそも近藤益雄(えきお)といえば障がい児教育のレジェンドで、生活綴り方運動でも名を馳せる教育実践家です。たしか近藤益雄全集も出版されていたはずだし、私はそのご子息の近藤原理氏の本を持っていたはずでした。…探し出しました、『障害者と泣き笑い三十年-ともに生き、ともに老いる』(太郎次郎社)がその本でした。
著者の永山絹枝さんは1944年生まれ、益雄と同郷、長崎県大村市出身の元小学校教師で、長崎県作文の会の中心メンバーです。つまり益雄とは郷里が同じというだけでなく、尊敬する生活綴り方の先輩教師ということになります。
永山さんは退職後、母校の長崎大学の大学院で学び直しています。文芸誌「コールサック」に5年にわたって20回連載されたのはそこでの研究の成果だったのではないでしょうか。解説の鈴木比佐雄氏によれば、そこでの連載を1冊にまとめ刊行したということになります。
本の内容と構成は以下の通りです。
●コールサック社(HPより)
永山絹枝氏は近藤益雄の「慈しみに溢れる詩」がどんなに価値あることかを知っており、障がい児教育に関わる方はもちろんだが、多くの人たちに真の命の尊さを感じてもらいたいとこの『魂の教育者 詩人近藤益雄』を後世の教育者や親御さんたちに向けて刊行したに違いない。(鈴木比佐雄 帯文より)
46判/360頁/上製本
定価:2,200円(税込)
発売:2020年4月15日
〔目次〕
Ⅰ 魂の教育者 詩人近藤益雄「戦前」
一、長崎綴方教育の創始者
二、益雄と第一童謡集『狐の提灯』(上志佐小時代)
三、第二童謡集『五島列島』(小値賀小時代)
四、文詩集「勉強兵隊」と童詩教育
五、リアリズムとヒューマニズムの道へ
―児童生活詩として長い詩を―(田平尋常高等小時代)
六、地域の文化を高めるために〝貧困との闘い〟
―児童生活研究所の創設―(田助尋常高等小時代)
七、決戦体制下の混迷と葛藤の中で
―「人間・益雄」を支えた短歌会(平戸高等女学校時代)―
八、短歌集『火を継ぐ』
―どうしたって黙っていられるものか 愛するものを死なしてしまって―
Ⅱ 魂の教育者 詩人近藤益雄「戦後」
九、民主国家・民主教育建設への道①
―綴方復興・胸のおどること!―
十、民主国家・民主教育建設への道②
〝益雄が夢みたものは〟貧しさからの解放、ゆたかさの建設
―学校を村の文化の源に 田助中教頭・田平小校長時代―
十一、知的障がい児教育の歩み① 「みどり組の誕生」
―これがほんとうの私のイス あたたかな日のこどもがもたれてきたり―
十二、知的障がい児教育の歩み② 「書くことの指導」
―言葉の感覚を磨くことは生活感情を美しく豊かにする―
十三、知的障がい児教育の歩み③
「みどり組への偏見」 ―君たちはどう生きるか―
十四、知的障がい児教育の歩み④
―入所施設「のぎく寮」の創設 一九五三~六一年―
付録 朗読劇脚本「のぎく寮」
脚本・演出=高知「劇団the創」西森良子
十五、第二詩集『ちえおくれの子たちと』
―新美南吉と八木重吉と―
十六、第三詩集『この子をひざに』
―ちえおくれの 子どもたちと―
十七、第四詩集『春あさき水にきて』
―親子・家族の絆のなかで―
十八、第五詩集『痴愚天国』
―のぎく学園となずな寮 益雄のめざしたものは?―
十九、最後の詩集:第六詩集『木のうた』
―最終章 一、「愛と平和への願い」―
二十、最後の詩集:第六詩集『木のうた』
―最終章 二、殉教「智恵の遅れた子等への救世の道」―
参考文献
【解説】近藤益雄の「慈しみ溢れる詩」を語り継ぐ人 鈴木比佐雄
あとがき
近藤益雄 略歴
永山絹枝 略歴
本書はまさに労作です。私より数歳年上の先輩教師に敬意を表したいと思います。
敬愛する郷土の先輩教師の足跡を丁寧に辿るために、可能な限りの資料にあたっています。膨大な近藤益雄著作集、指導して発行した作文集、雑誌に発表した益雄の文章、妻・近藤えい子氏の「証言」、子息の原理氏の「証言」…数限りありません。
全編を通して滲み出てくるのは著者の益雄愛です。頻繁に益雄の詩が挟み込まれ、良質の詩集としても読めます。そして、表紙にクラスの子どもといる益雄の写真(城台巌)が実に素晴らしい。まさに慈愛に溢れる益雄の人柄を如実に写し取っているようです。
もう少し知りたかったこと、注文は何点かあります。
・戦前の文詩集「勉強兵隊」について著者は「この言葉に私は馴染まない。」 と書いているが、なぜ益雄はこの名称を用いざるをえなかったのか思い巡らしてほしかった。
・参考文献の他に、益雄の仕事を確認するために近藤益雄著作一欄と、もう少し丁寧な近藤益雄経歴がほしかった。
・寒川道夫『山芋』について、(作者が誰であっても)と書いているが、『山芋』は寒川道夫の児童詩であることが定説になっている、としても良かったのではないだろうか。参照、拙著『地域演劇教育論-ラボ教育センターのテーマ活動』(晩成書房)「寒川道夫の光と影」
いずれにしても、近藤益雄という人物にスポットを当ててくださったのは障がい児教育には門外漢の私にとってとても新鮮で興味深いことでした。文芸や芸術に裏打ちされ、子どもに寄り添う教師が今の時代にも求められているのではないでしょうか。そんなことに気づかされた本でした。
この本に惹かれた最大のポイントは、益雄の生き様そのものでした。「リアリズムとヒューマニズム」の基盤に立つ小学校教師からスタートして、高等女学校、小学校教頭、校長と変遷して、知的障がい児教育に歩を進めています。さらに入所施設「のぎく寮」の建設…と邁進し、57歳での自死。壮絶な人生をただただ賞賛するしかありません。
いい本を読みました。
さて次は『障害者と泣き笑い三十年-ともに生き、ともに老いる』を読んでみましょうか。
そもそも近藤益雄(えきお)といえば障がい児教育のレジェンドで、生活綴り方運動でも名を馳せる教育実践家です。たしか近藤益雄全集も出版されていたはずだし、私はそのご子息の近藤原理氏の本を持っていたはずでした。…探し出しました、『障害者と泣き笑い三十年-ともに生き、ともに老いる』(太郎次郎社)がその本でした。
著者の永山絹枝さんは1944年生まれ、益雄と同郷、長崎県大村市出身の元小学校教師で、長崎県作文の会の中心メンバーです。つまり益雄とは郷里が同じというだけでなく、尊敬する生活綴り方の先輩教師ということになります。
永山さんは退職後、母校の長崎大学の大学院で学び直しています。文芸誌「コールサック」に5年にわたって20回連載されたのはそこでの研究の成果だったのではないでしょうか。解説の鈴木比佐雄氏によれば、そこでの連載を1冊にまとめ刊行したということになります。
本の内容と構成は以下の通りです。
●コールサック社(HPより)
永山絹枝氏は近藤益雄の「慈しみに溢れる詩」がどんなに価値あることかを知っており、障がい児教育に関わる方はもちろんだが、多くの人たちに真の命の尊さを感じてもらいたいとこの『魂の教育者 詩人近藤益雄』を後世の教育者や親御さんたちに向けて刊行したに違いない。(鈴木比佐雄 帯文より)
46判/360頁/上製本
定価:2,200円(税込)
発売:2020年4月15日
〔目次〕
Ⅰ 魂の教育者 詩人近藤益雄「戦前」
一、長崎綴方教育の創始者
二、益雄と第一童謡集『狐の提灯』(上志佐小時代)
三、第二童謡集『五島列島』(小値賀小時代)
四、文詩集「勉強兵隊」と童詩教育
五、リアリズムとヒューマニズムの道へ
―児童生活詩として長い詩を―(田平尋常高等小時代)
六、地域の文化を高めるために〝貧困との闘い〟
―児童生活研究所の創設―(田助尋常高等小時代)
七、決戦体制下の混迷と葛藤の中で
―「人間・益雄」を支えた短歌会(平戸高等女学校時代)―
八、短歌集『火を継ぐ』
―どうしたって黙っていられるものか 愛するものを死なしてしまって―
Ⅱ 魂の教育者 詩人近藤益雄「戦後」
九、民主国家・民主教育建設への道①
―綴方復興・胸のおどること!―
十、民主国家・民主教育建設への道②
〝益雄が夢みたものは〟貧しさからの解放、ゆたかさの建設
―学校を村の文化の源に 田助中教頭・田平小校長時代―
十一、知的障がい児教育の歩み① 「みどり組の誕生」
―これがほんとうの私のイス あたたかな日のこどもがもたれてきたり―
十二、知的障がい児教育の歩み② 「書くことの指導」
―言葉の感覚を磨くことは生活感情を美しく豊かにする―
十三、知的障がい児教育の歩み③
「みどり組への偏見」 ―君たちはどう生きるか―
十四、知的障がい児教育の歩み④
―入所施設「のぎく寮」の創設 一九五三~六一年―
付録 朗読劇脚本「のぎく寮」
脚本・演出=高知「劇団the創」西森良子
十五、第二詩集『ちえおくれの子たちと』
―新美南吉と八木重吉と―
十六、第三詩集『この子をひざに』
―ちえおくれの 子どもたちと―
十七、第四詩集『春あさき水にきて』
―親子・家族の絆のなかで―
十八、第五詩集『痴愚天国』
―のぎく学園となずな寮 益雄のめざしたものは?―
十九、最後の詩集:第六詩集『木のうた』
―最終章 一、「愛と平和への願い」―
二十、最後の詩集:第六詩集『木のうた』
―最終章 二、殉教「智恵の遅れた子等への救世の道」―
参考文献
【解説】近藤益雄の「慈しみ溢れる詩」を語り継ぐ人 鈴木比佐雄
あとがき
近藤益雄 略歴
永山絹枝 略歴
本書はまさに労作です。私より数歳年上の先輩教師に敬意を表したいと思います。
敬愛する郷土の先輩教師の足跡を丁寧に辿るために、可能な限りの資料にあたっています。膨大な近藤益雄著作集、指導して発行した作文集、雑誌に発表した益雄の文章、妻・近藤えい子氏の「証言」、子息の原理氏の「証言」…数限りありません。
全編を通して滲み出てくるのは著者の益雄愛です。頻繁に益雄の詩が挟み込まれ、良質の詩集としても読めます。そして、表紙にクラスの子どもといる益雄の写真(城台巌)が実に素晴らしい。まさに慈愛に溢れる益雄の人柄を如実に写し取っているようです。
もう少し知りたかったこと、注文は何点かあります。
・戦前の文詩集「勉強兵隊」について著者は「この言葉に私は馴染まない。」 と書いているが、なぜ益雄はこの名称を用いざるをえなかったのか思い巡らしてほしかった。
・参考文献の他に、益雄の仕事を確認するために近藤益雄著作一欄と、もう少し丁寧な近藤益雄経歴がほしかった。
・寒川道夫『山芋』について、(作者が誰であっても)と書いているが、『山芋』は寒川道夫の児童詩であることが定説になっている、としても良かったのではないだろうか。参照、拙著『地域演劇教育論-ラボ教育センターのテーマ活動』(晩成書房)「寒川道夫の光と影」
いずれにしても、近藤益雄という人物にスポットを当ててくださったのは障がい児教育には門外漢の私にとってとても新鮮で興味深いことでした。文芸や芸術に裏打ちされ、子どもに寄り添う教師が今の時代にも求められているのではないでしょうか。そんなことに気づかされた本でした。
この本に惹かれた最大のポイントは、益雄の生き様そのものでした。「リアリズムとヒューマニズム」の基盤に立つ小学校教師からスタートして、高等女学校、小学校教頭、校長と変遷して、知的障がい児教育に歩を進めています。さらに入所施設「のぎく寮」の建設…と邁進し、57歳での自死。壮絶な人生をただただ賞賛するしかありません。
いい本を読みました。
さて次は『障害者と泣き笑い三十年-ともに生き、ともに老いる』を読んでみましょうか。