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米国の全土3分の1にわたるブリザードや寒波対策のため6州知事の非常事態宣言等と州兵の稼動状況

2011-02-12 09:52:13 | 国際政策立案戦略



 Last Updated:February 17,2021

 2011年2月2日、DOD(米国防総省)の連邦州兵総局(National Guard Bureau:NGB)から届いたリリースでは、米国全土の3分の1にわたるブリザード(筆者注1)や極めて強い冬の嵐により現在6州が非常事態宣言を発布しており、その他の州も含め11の州から連邦州兵 (筆者注2)約1,100人が各地で活動を開始したり、待機態勢に入ったと報じている。
 また、同時に米国DODは全米の州兵全体の員数についても公表した。

 世界全体にわたる異常気象の問題は今さら始まったことではないが、米国の最新情報を伝えるべくこのニュースの概要を紹介する。これに関し、筆者は別途米国地質調査局(USGS)等の多角的大規模災害実証計画の第二段:米国西海岸地域「冬季スーパー嵐(ARkStorm)シナリオ」動向について別ブログでまとめたので併せて読まれたい。
(筆者注3)

 今回の北米における大寒波(「2011年啓蟄の冬嵐(2011 Groundhog Day Blizzard)」と命名されている)を巡る連邦機関の対応とりわけ「連邦非常事態管理庁(FEMA)」の取組み状況をチェックしてみた。
(筆者注3-2)
 やはり、直近で見た大統領の非常事態宣言はメイン州(暴風雨:severe stormおよび洪水で2月1日発布)カリフォルニア州(吹雪(winter storm)洪水および泥流・土石流(Debris and mud Flows)
(筆者注4)で1月26日)(この2州はMajor Disaster Declarations)、オクラホマ州(2月2日発布)ミズリー州(2月3日発布)ニュージャージー州(2月4日発布)ウタ州(2月11日発布)、オレゴン州(2月18日発布)コネチィカット州(3月3日)マサチューセッツ州(3月7日)、イリノイ州(3月17日) ミズーリ州(3月23日)ニューメキシコ州(3月24日)ワシントン州(3月25日)ウィスコンシン州(4月5日)であり、本ブログで取上げた州の取組みとほぼ重なりつつある。2005年8月のハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による州兵の派遣を巡る対応の矛盾が、またも繰り返されないことを祈りたい。(筆者注5)

 なお、米国の大寒波による被害は昨年末から続いており、市民生活等にも重大な影響が及んでおり、例えば金融監督機関である連邦預金保険公社(FDIC)は昨年末頃からのメイン州を襲った猛烈な嵐や洪水による金融業務や地元の復旧活動を支援すべく
関連通達を発出している。また、2月8日にはニュージャジー州の金融機関に対しても同様の主旨の通達を発している。
(筆者注6)

1.6州の非常事態宣言や他州における州兵の派遣要請
(1)州知事による非常事態宣言や州兵の派遣活動状況
2月1日東部時間午後6時時点でイリノイインディアナ、カンサス、ミズリーオクラホマウィスコンシンの6州の知事 (筆者注7)は非常事態宣言を発布、アーカンサス、イリノイ、アイオワ、ミズリー、テキサス、ウィスコンシンでは州兵が救援活動を開始した。
一方、インディアナ、カンサス、ニュージャージー、オクラホマおよびペンシルバニアの州兵が待機態勢に入った。

 ミズリー州のミズリー州のジェイ・ニクソン知事(Jay Nixon)が非常事態宣言を行った1日後、ミズリー州兵全州にわたる緊急任務に当たるため600人の陸軍州兵と州兵空軍が召集された。同州の人事統括最高責任者・上級幕僚(Adjutant General)であるステーブン・L.ダナー陸軍少将(Army Maj.Gen.Stephen L.Danner)は「同州の州兵((Citizen Soldiers) (筆者注8)は、3つの機動部隊に広がっている。わが軍は何ダースにわたる部隊が海外展開を担っており、かつ2005年以来18州の緊急任務にも当たっている。

 セントルイスに基地をもつ東部機動部隊、カンサスシティに基地をもつノースウェスト機動部隊、およびスプリングフィールドに本拠をもつサウスウェスト機動部隊の陸軍州兵と州兵空軍は州警察等と連携を図りつつ、1軒ごとに安全確認や、高速道路や緊急対応車両用の通路確保のための雪かき等を行っている。

 以下、DODが2月2日に発表した各州別の州兵の活動状況のポイントを述べておく。
①イリノイ州
500人以上の州兵を派遣、足止めされた車両の救助等を行っている。

②アーカンソー州
州兵約5人が緊急輸送の支援を行っている。

③インデイアナ州
州兵はまだ活動は行っていないが、約875人が待機態勢に入っている。

④アイオワ州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑤カンサス州
州兵派遣を含む緊急支援の発動を宣言した。

⑥オクラホマ州
FEMAの活動のために同州の空軍基地を提供しているが州兵そのものは活動していない。

⑦テキサス州
約30人の州兵が足止めされた車の救助作業を行っている。

⑧ウィスコンシン州
州兵空軍の人事統括最高責任者・上級幕僚に対し、必要に応じ自治体の支援するため州兵の活動を行うべき権限を命じた。

⑨ニュージャージー州とペンシルバニア州については予備州兵がいるが、2月1日夜の段階では知事からの任務要請は行われていない。

(2)州兵総局(NGB)の情報にみる新たな課題
 前述したとおり、NGBのデータによるとこれだけの大規模災害でありながら州兵の派遣数は1,100人であるという現実はカトリーナの災害地支援の際、海外派兵で派あまりにも少ないと思えるし、また連邦軍の国内活動投入については連邦法の規制があり、自然災害からみの治安維持などには主に警察や州兵が第一次的に対応せざるをえないという問題があるようである。
 カトリーナの際、再上陸した2日後の8月31日、ブッシュ大統領は救援のため連邦軍の派遣を決定したが当初は海軍中心の後方支援であったため、有効性を欠く結果となり、また州知事と連邦との州兵の指揮権を巡る確執等が指摘されたが、今回も同様の懸念される事態がありえると思う。

2.米国の州兵制度の概要と課題
(1)米州兵のもつ「二重の地位と任務」の意味
 日本では日頃、州兵と連邦兵の区別も曖昧にしか理解されていない。2003年7月とややデータとしては古いが、国立国会図書館レファレンス (筆者注9)がわかりやすくまとめているので筆者の責任で抜粋、引用する。

①州兵は「陸軍州兵」(Army National Guard)と「州兵空軍」(Air National Guard)という二つの組織を持ち、国内にあっては暴動鎮圧や災害救助などに従事するとともに、海外においては、国家安全保障上の緊急事態に際して迅速に行動できる「動員日の軍隊」(Mobilization Day Force :M-Day Force) として数々の作戦に参加してきた。このような「二重の地位と任務」(Dual Status and Mission) は、州兵が有する最も際立った特徴である。
 合衆国憲法は、国家安全保障の根幹として民兵制度を規定しており、連邦法は、州兵を「組織化された民兵の一部」と定めている。「二重の地位と任務」という、州兵固有の法的地位と組織原理は、最終的にはこのような、民兵としての地位から導かれているといえよう。そのほか、連邦法は、州兵を合衆国軍隊が有する「予備戦力」(Reserve Force) と定めている。したがって、連邦法上のこういった規定も、州兵の組織と任務に関する根拠と考えられる。

②州兵は、平和時・地域的緊急事態においては、各州知事の指揮に服し、治安維持や緊急事態対処等、国内での活動に携わる。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 これに対し、戦争時・国家的緊急事態において、州兵は大統領の命令により補充戦力として動員され、連邦政府の指揮下で各種任務にあたる。

③州兵の組織的特色としてあげられるのは、原則として、各州の知事(State Governor)が最終的な指揮権を持っていることである。知事の指揮権は、大統領から任命され、軍事問題に関して知事の最高顧問を務める「上級幕僚」(Adjutant General) によって各州兵部隊に対し行使される。
 したがって、大統領命令により連邦任務のため動員されている場合を除き、国防総省、各軍は州兵に対して直接指揮権を持たない。

④国防総省(DOD)が行うのは州兵組織の行政的な管理である。担当部署として、国防総省に陸軍省と空軍省の合同機関である「州兵総局」(National Guard Bureau)が置かれており、大統領によって任命された「州兵総局長」(Chief, National Guard Bureau) がこれを統括する。陸軍州兵と州兵空軍とを直接管理する責任者は、 「陸軍州兵局長」(Director, Army National Guard:ARNG)「州兵空軍局長」(Director,Air National Guard:ANG)であるが、両者は、それぞれ陸軍長官と空軍長官によって任命され、「州兵総局長」に対して報告義務を負う。

(2)州兵の収入源や家族生活の確保を巡る具体的な課題
 時間の関係でこの問題の詳細は機会を改めるが、米国NPOメデイア“Stateline” (筆者注10)が詳しくこの問題を論じている。米国がかかえる重要な問題だけに貴重なレポートであり、是非解析すべきものと考える。
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(筆者注1) 「ブリザード」:「このことばは、初めは冬季アメリカ合衆国バージニア州において、低気圧が通過するときに吹く、吹雪(ふぶき)を伴った冷たい北西の強風をさしていわれたらしいが、現在は、寒気と吹雪を伴う強風全体に対して広く使われるようになった。アメリカの気象局では、ブリザードの定義を、風速が毎秒14.3メートル以上、低温で、飛雪による視程が150メートル以下としている。激しいブリザードは、風速が毎秒20メートルを超し、気温はマイナス12℃以下、視程はほとんどゼロに近い場合をいう。」(根本順吉:日本大百科全書(小学館)より引用)

(筆者注2) 「州兵(National Guard)」”とは、アメリカ合衆国における軍事組織の一。主な任務は、アメリカ軍の予備部隊として、兵員・部隊・サービスを連邦軍に提供することと、アメリカ国内における災害救援、暴動鎮圧などの治安維持を行うことにある。州軍(しゅうぐん)とも呼ばれる。行政組織上はアメリカ国防総省州兵総局(中将指揮)の管轄下にある。ただし、平時においては、連邦軍は州兵の指揮権を持たず、各州知事が指揮権を持つ。連邦軍が指揮権を発動するのは、大統領の命令により、州兵が連邦軍に編入された場合である。(“Wikipedia”から引用)

(筆者注3) 同ブログの要旨は「米国連邦内務省・地質調査局(DOI・USGS)が公表した「冬季 超大規模嵐(ARkStorm)シナリオ(Atomspheric River 1000 Storm)」(note1)の報告書の概要が届いた。このシナリオは1月13日、14日にサクラメントで開催された連邦およびカリフォルニア州の防災や地質気候研究関係機関による研究会議「ARkStorm Summit」で公表された内容である。
 同地域での本格的な緊急対策目的で策定されたシナリオでは、最大10フィート(約3.5m)の降雨により既設の州の防護システムを超える大規模な氾濫が引き起こされ被害額は3千億ドル(約24兆4,600億円)以上となるとの仮説が立てられた。」というものである。

(筆者注3-2) 米国の商務省・大洋大気局(National Oceanic and Atmospheric Administration:NOAA)(National Oceanic and Atmospheric Administration | U.S. Department of Commerce (noaa.gov)は、2011年啓蟄の冬嵐(2011 Groundhog Day Blizzard)」に関し、詳しく報告している。なお、以下で例示するとおり、NOAAの検索機能は優れている。

ニューメキシコ州から北に向かってウィスコンシン州に、そして東に向かってメイン州に向かっても影響があった。 20インチ(50.8 cm)を超える降雪の報告が広まるとともに、 ある時点で、嵐の範囲は2,000マイル(3,200 km)を超え、22の州では5インチ(12.7 cm)を超える降雪が蓄積されていた。 以下略す。

(筆者注4) “Debris and mud Flows”とは、大雨でゆるんだ山腹から、主として谷沿いに土砂が水と混合して流下する現象を泥流という。水と土砂とが一体となり、かゆ状となってそれ自体に働く重力の作用によって運動する様式で流下する。泥流は、細粒分を多く含み、活火山や火山噴出物地帯に多く発生する。土石流は、巨礫、岩塊等を含み、巨礫が先頭に集中して回転・滑動しつつ移動する。侵食力がきわめて強く、流下の途中で渓床材料をまきこみ、渓岸をけずっていく。(財団法人資源・環境観測解析センター「用語集」から引用)

(筆者注5) ハリケーン「カトリーナ」で問題となった連邦政府と州政府等による対応の失敗についてはわが国でも多くの報告が行われているが、詳細性で比較した場合、東京海上日動リスクコンサルティングの報告「ハリケーン『カトリーナ』に対する米国政府・州政府等による対応の問題点について」連邦政府の対応および州政府の対応が良く整理されていると思う。

(筆者注6) FDIC通達の別添で「メイン地区の悪天候による嵐や洪水被害に関する金融機関監督的立場からの具体的実務措置:金融機関および被融資者の支援措置(Supervisory Practices Regarding Depository Institutions and Borrowers Affected by Severe Weather in Areas of Maine)」の内容について概略紹介しておく。

①貸出関係
銀行員は、今回の異常天候で影響を受ける共同体の借手と共に建設的な立場で働くべきである。FDICは地元企業や個人への自然災害は時として一時的であると理解しており、また永久を受ける地域での融資内容の調整や変更についての銀行の真摯な努力は検査官の批判に当らないと理解している。FDICは公益とともに被害地域の借手とともに行動する努力は公益に合致するとともに安全かつ健全な銀行実務と矛盾しないと理解している。
②投資関係
銀行員は、異常気象で影響を受ける地方債(municipal securities)や融資を正確にモニターすべきである。FDICは地方政府のプロジェクトがマイナスの影響を受けると理解している。そのような投資を安定化させるためには銀行による適切なモニタリングと真摯な努力が奨励されるべきである。
③報告義務関係
悪天候で影響を受けるFDICの監督下にある金融機関は、定期的な収支報告につき遅延が予想されるときはFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。FDICは報告金融機関につき許容できる範囲を考えコントロールできる以上の原因についても再査定する。
④公表義務関係
FDICは異常気象により引き起こされた損害が支店の閉鎖や移転、および仮設店舗につき各種の法律や規則の遵守面で影響を受ける点につき理解する。銀行に課される公表や要求につき災害に絡んで困難に陥る銀行はFDICボストン地区事務所に通知を行わねばならない。
⑤消費者保護法関係
消費者ローンに関し「レギュレーションZ」の規定(筆者追加注:具体的にはRegulation Zの Sec. 226.23 Right of rescission.(e)項 Consumer's waiver of right to rescind を指す)は「信義誠実原則から見て個人的な財政危機事由」が存在する場合、借手に3日間の契約の解除または変更する選択権を定める)がある。銀行は、この顧客の選択権を実行させるべく消費者は銀行に対し同レギュレーションに基づき緊急性の声明を実行する文書を提出すべき点を提供しなければならない。
⑥一時的な銀行施設関係
FDICボストン地区事務所は異常気象により銀行の支店が損害を被ったかもしくはより使い勝手が良いサービスを提供するため一時的な銀行の施設ニーズを促進させることを求めるであろう。多くの場合、FDICへの電話通知で文書での通知は後日で十分である。

(筆者注7) 米国の災害対応は州政府を軸にしている。市やカウンティ(ルイジアナの場合はパリッシュ)のような地方自治体には州政府の政策を実行に移す役割が与えられているが,災害対策の基本方針や事前対策などを決定するのは州政府の重要な責務となっている。そのため州知事の権限は大きく,知事は州軍(National Guard)の最高司令官の役割も与えられている。連邦政府は州政府だけでは手に負えない災害やテロなどの緊急事態が発生した際に,その支援を行う役目を担っており,その場合は大統領が各州の州兵を連邦正規軍に編入し,知事の統率権が停止される。(防災科学技術研究所「ハリケーンカトリーナ調査チーム報告速報」から抜粋)

(筆者注8) ここでいう“citizen-soldiers”とは、「主として平時にではあるが、州兵に対する指揮権が知事に委ねられている事実は、民兵制度にさかのぼる「郷土防衛軍」的な性格が、未だ州兵組織に根づいていることを示している。州兵が持つ緊急事態への対処能力は、地域社会との濃密な関係のなかで培われてきた。
知事による指揮権という制度は、このような米国社会の歴史的・文化的特色を反映したものといえよう。」(2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」から一部抜粋)
なお、州兵の歴史の詳細は州兵総局の専用HP で詳しく説明している。

(筆者注9) 2003年7月号国立国会図書館レファレンス 鈴木滋「米国の『国土安全保障』と州兵の役割―9.11同時多発テロ以降の活動を中心にー」

(筆者注10) “stateline ”は、フィラデルフィアに本拠を置く財団(Pew Charitable Trusts:PCT)が運営しているNPOメディアである。全米を代表する民間助成財団であるPCTについて解説しておく。
「現在ピュー・チャリタブル・トラスト(The Pew Charitable Trusts/以下「トラスト」)の名で知られる当財団は1948年に設立された。ジョセフとメアリー・ピュー夫妻の4人の子供たちはこの年、両親の理想と問題意識を反映するような活動や団体への資金援助を決めた。ジョセフは米国の石油産業界において成功し、かつ先見性のある企業家であった。彼が創業した大手総合石油会社のサン石油の株式が、トラストの助成活動の財政的基盤となった。
 トラストは、1948年から1979年までの間に設立された7つの基金によって構成される。これらの基金は一括して管理され、助成事業も共通の方針に基づいて行われている。フィランソロピー(博愛精神等にもとづく企業の社会貢献:Philanthropy)活動を目的とするこれらの基金は、いわばひとつの財団における諸事業のように運営されているといえよう。トラストはピュー家からの7人を含む11人編成の理事会によって管理されている。2000年度におけるトラストの資産価値は約48億ドル(約3,936億円)、助成事業費の総額は2億3,500万ドル(約192億2,700万円)だった。同年度には3,600件以上の助成申請を受け付け、最終的にはそのうちの369件に対して助成を決定した。各年度の助成事業予算の約10%が芸術と文化活動に充当される。
 米国の法律では、財団のフィランソロピー活動が多分野にわたっても全く問題ない。米国の民主主義社会において、フィランソロピーの分野が特に活発な理由は、国民一人ひとりのバックグラウンドや利害、ニーズの多様性を尊重する一方、共存しやすい状態を促進させる必要があるからだ。(以下省略する)」。(わが国のセゾン文化財団の解説から抜粋した)

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日本とベトナムの「アジアの平和と繁栄に関する戦略的包括的開発に関する共同声明」の全内容

2010-11-04 06:16:47 | 国際政策立案戦略


Last Updated: February 21,2021

 2010年11月1日の各社の朝刊は、10月31日に日本がベトナムの原子力発電施設の建設につき「協力パートナー」(2基の建設受注の内定)とするほか1兆円規模のプロジェクトの受注、レアアース(希土類)の共同開発に関する共同声明を採択したと報じた。

 これはわが国の経済協力活動の話である。一方で、わが国の原子力発電支援の前提として今年の6月以降交渉を進めてきているベトナムとの「原子力平和利用に関する協定交渉」の結末はどうなったのか。わが国のメディアは「実質合意」があり早期署名を目指すことを確認したと解説している(どのような協定案が策定されているのか国民は「蚊帳の外」である)。
(筆者注1)
 当然ながらわが国の外務省のサイトで確認したが、そこにある説明は、10月7日の第2回交渉までである。実は10月19日にハノイで第3回交渉が行われている。
(筆者注2)

 ベトナム政府の外務省(MOF)サイトで確認したが、その内容は公開されていない。しかし、「アジアの平和と繁栄に関する戦略的包括的開発に関する日越共同声明(Japan-Vet Nam Joint Statement on the Comprehensive Development of Strategic Partnership for Peace and Prosperity in Asia)」については確認できた。

 今回のブログは、同共同声明につきベトナム政府外務省の「プレスリリース全文」
(筆者注3)を仮訳で紹介するとともに、ODA支援を含めベトナムが日本をどのように見ているか、日本のベトナムへの経済やその他の支援の実態等についての正確かつ包括的な情報提供を目的でまとめた。(ベトナム政府の公式サイトの記事・写真参照)

 筆者独自に注釈つき仮訳作業した後、「外務省の仮訳」結果を同省のサイトで確認した。外務省のサイトの発表日付は10月31日となっているが筆者が同日確認したときには存在しなかった。(今まで気にしなかったが、日越共同声明文ということは事務方段階で声明文の内容は発表前に完全に詰めているはずであり、合意後に後から和訳(それも仮訳)を発表するとはいかにも準備不足の謗りを免れないと言えよう。外務省のサイトでは声明文原文(英文)が添付されていないのはどういうことか。ベトナム政府外務省のサイトをわざわざ探せということなのか、手順が甘い)。

 このような翻訳作業のみは筆者が本来意図するものではない。わが国の外交、経済協力、文化交流を理解するのは単なる声明文を仮訳して公開するだけで良いとは思えない。本ブログと外務省の仮訳文とをじっくり比較して欲しい。

 なお、筆者が本当に注目しているのは実は米国のクリントン国務長官の東南アジア外交戦略
(筆者注4)の内容である。DOSからの情報を日々読んでいるうちに今回の記事の件を思いついたのである。この件は別途まとめたい。

1.はじめに
 グエン・タン・ズン ベトナム社会主義共和国首相閣下(H.E.Mr. Nguyễn Tấn Dũng ) (筆者注5)の招待により、日本の管直人首相閣下(H.E.Naoto Kan)はアジア・サミットに引き続き10月30日~31日にわが国を公式訪問した。

H.E.Mr. Nguyễn Tấn Dũng 首相

 訪問の間、管直人首相はグエン・タン・ズン首相と首脳会談(summit meetingを行うとともに、ノン・ドゥック・マイン共産党中央執行委員会書記長(H.E.Mr. Nông Đức Mạnh )およびグエン・ミン・チェット大統領元首(H.E.Mr. Nguyễn Minh Triết)を表敬訪問した。

 10月31日のグエン・タン・ズン首相と管直人首相の会談では、2人のリーダーはこの数年における両国の相互関係の重要な発展を歓迎するとともに、より強力で包括的な方法でアジアの平和と繁栄に向けた戦略的協力関係を構築する意思を共有した。

2.意見交換と対話の強化
・両国は、毎年実施する訪問による首脳レベルの会談を実現し、あらゆるレベルでかつあらゆる領域で対話のルートを強化することの重要性を確認した。

・両国は、2011年の出来るだけ早く都合の良い時期に新しいベトナムのリーダーが日本を訪問することへの期待を表明した。

・両国は、2011年に関係大臣ならびに両国の行政機関の高級官吏が参加した第4回「ベトナム・日本協力委員会(Viet Nam –Japan Cooperation Committee)」を開催し、総合的な相互協力関係強化を図ることを決定した。

また、両国は2010年12月に包括的な政治、外交、防衛および安全保障問題につき議論するため第1回「ベトナム・日本戦略協力対話(Viet Nam –Japan Strategic Partnership Dialogue)」を開催することを決定した。両国はこのような両国間の対話がアジア地域の平和、安定と繁栄に貢献するという見解を共有した。

3.ベトナムへの日本の経済協力
・ベトナム側は、ベトナム政府およびその国民は日本がODA(政府開発援助)の最大の支援国としてベトナムの経済、社会開発に貢献したことを常に忘れずに真摯に感謝しており、またそのODA援助額は2009年度で見て1,550億円という過去最高水準に達していることを深く歓迎している。

・グエン・タン・ズン首相は、ベトナム南北高速道路、ホラック・ハイテク・パーク・プログラム(Hoa Lac High-Tech Park) (筆者注6)およびホーチミン市・ニャチャン(Ho Chi Minh-Nha Trang)間およびハノイ・ビン(Ha noi-Vinh)間の高速鉄道の2つの部門に関する実現可能性研究 というベトナムの優先インフラ計画に関する日本の支援の進展に感謝している。
 また、ベトナムはダーナン・クアンガイ(Da Nang-Quang)間の高速道路およびハノイ・ノイバイ(Ha Noi-NoiBai)間の鉄道の機能向上の重要性を日本に説明し、日本のこれらプロジェクトへの関心を引き付けた。

・管直人首相は日本の進んだ技術や専門性を利用する一方で、ベトナム側の見解に注目(take note)し、経済成長の推進、生活水の改善、セーフティ・ネット(筆者注7)、人的・制度的な組織の構築といった優先的な分野での支援を通じてベトナムの経済開発を強力に支援することを再確認(reaffirmed)した。

・日本側は、経済改革を進めるベトナムの決定および日本のODAに関するベトナムの反汚職問題(anti-corruption) (筆者注8)への対策措置を歓迎した。

・管直人首相は、係留施設(berth facility)の維持や実施につきベトナムと日本の企業による複合企業体により開発している「ラックウェン港複合施設(Lach Huyen Port Complex)」(筆者注9) を含む5つのプロジェクトに合計790億円の“ODA Loan” (筆者注10) を提供する旨述べた(expressed)。

・グエン・タン・ズン首相は、これらの支援に感謝するとともに日本政府が「ロンタイン国際空港建設計画(Long Thanh international air port project)」(筆者注11)、「ニンビン・バイボ(Ninh Binh-Bai vot)」間の高速道路計画、「ニャチャン・ファンティエット(Nhas Trang-Phan Thiet)」間の高速道路計画および新しい地下鉄線計画につき補助することを重要視し、迅速に決定したことに感謝する。

・管直人首相はベトナムの経済発展と国民の生活改善を支援すべく日本のODAを拡大し続けるという首相の意思を述べた。また管直人首相はベトナムとの人材開発やベトナムにおける支援産業の開発に向けた強固な協力活動を行うことを確認(affirmed)した。
   (続く)

4.貿易と投資
・両国は、ベトナム社会主義共和国と日本の間の貿易の自由化、推進、投資の保護に関する「経済連携協定(Economic Partnership Agreement )」(筆者注12)による経済協力協定がより大きなもの、サービスおよび投資プロセスを推進することで両国間の新たな段階と相互に利益をもたらす経済協力を推し進めることを再確認した。
・また、両国は経済関係の強化は企業部門のビジネスの機会と利益を膨らませ、両国の経済開発に貢献し、かつベトナムと日本の国民の幸福・福祉を増加させることに合意(agreed)した。

・両国は、前記協定(Agreement)が「WTOの多国間貿易システム(WTO multilateral trading system)」(筆者注13)の目標達成に貢献することを確認した。
 また、両国は経済連携協定に従い自然人の移動の自由交渉を促進させる必要性を確認した。

・日本政府が可能な限り時期にベトナムの完全市場経済状態を認めるべきというグエン・タン・ズン首相の要求にこたえるべく、両国はこの問題を検討する加速過程を加速させるべく取る組むこと、ならびに2010年12月にベトナムの完全市場経済化に関する第2回会合を開催することを決定した。・

・両国は、ベトナムと日本との「ベトナムの競争力強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み(Vietnam-Japan Joint Initiative to Improve Business Environment with a view to strengthen Vietnam’s Competitiveness)」(筆者注14)を誇るとともに、この取組がベトナムの競争力の強化とベトナムへの日本の投資拡大において効果的な役割を演じていることを共有した。

・また両国は、ベトナムにおける日本企業のためのさらなる投資環境の改善の必要性を理解するとともにこの共同的な取組の第4フェーズに対する関係当事者の意図を歓迎した。

5.エネルギー、転園資源開発および気候変動
・両国は、エネルギーの安全保障と地球環境の保護の観点から原子力エネルギーの平和的利用分野における共同活動の重要性を認識した。

・両国は、原子力エネルギー平和的な利用のために必要なインフラ開発を含む一方で、核拡散防止を保証し、ベトナムと日本が締結している国際的な条約の条項に従い安全性やセキュリティの保証の必要性を理解して、原子力エネルギー分野の相互協力を強化するとともに新たな観点からこの協力関係を高めるつもりである。

・両国は、出来るだけ早期に平和利用協定に署名できるよう期待しつつ、ベトナム・日本の原子力エネルギーの平和的利用協定締結のための実質的な交渉結果が成功裡にあることを歓迎する。

・ベトナム側は原子力の平和的利用に関する日本の継続的な支援を高く評価する。ベトナムは、日本からの提案の検討結果を踏まえ、ベトナム政府は日本をベトナム・ニン・トウアン州(Ninh Thuan)に建設予定の2基の原子力発電所の原子炉(reactor)の建設の協力パートナーとして日本を選択・決定した。

・管直人首相はこの決定を歓迎し、日本はベトナムが設計するこの計画の実現可能性研究の指揮の支援、低利の融資や同プロジェクトへの優先的融資、最も高い安全性基準に合致する最先進技術の使用、日本の技術移転や人材教育、廃棄物処理に関する協力ならびに本プロジェクトの全期間における安定的な物資の提供を保証した。

・両国は、上記で述べたプロジェクトの関係文書の署名を早期に実現するための作業を続けるため、2国の関係する機関や事業者による作業を協力して行った。

・ベトナム側は、鉱山資源、石炭、天然ガス、石油備蓄(oil stockpiling)、石油、電気、エネルギーの効率性や保存、クリーン・エネルギーおよび情報通信技術(ICT)について日本の協力に感謝する。
 両国は、共同地質調査の形式でのベトナムにおける「レアアース(rare earths)」の開発、人材開発、持続的資源開発のための環境にやさしい技術の移転、および政府対政府間の共同R&Dプログラムに関し協力を推進することを確認した。

・グエン・タン・ズン首相は、ベトナム側が日本をベトナムにおけるレアアースの調査、探査、開拓(exploitation)および処理におけるパートナーとして決定したことを発表した。
・管直人首相は、この決定を歓迎するとともに、両国によるレアアースの開発において日本側が支援する財政的および技術的な準備としての各種方法によりスムーズに進むことを期待するとした。

・両国は、森林緑化協力(forester-related cooperation)や海面上昇(sea level rise)等にインフラ構築計画など気候変動分野での現下の協力を再確認した。両国は、この分野の協力をさらに推し進めるという決定を確認した。

・両国は、クリーンエネルギー開発、環境保全という省エネルギーに関する先端技術が環境と経済を互換性のあるものとする上で、持続的な成長をなしとげつつ機構変動問題に取り組むことが極めて重要であることを確認した。

・両国は、双方の「オフセット・クレジット・メカニズム」(筆者注15)の将来的な確立を含むこれらの目的の実現と意見交換の目的で両国の関係政府機関に取組むことで合意した。

・両国は、気候変動問題の解決が差し迫った必要のある問題であることを認識し、また両国がすべての経済大国が参加する公正かつ効果的な国際的な枠組みの構築に向けて国際交渉に協力することを再確認した。

6.科学および技術面での協力
・両国は、2009年6月19日にハノイで開催した「ベトナム・日本の科学および技術に関する共同委員会(Viet Nam-Japan Joint Committee on Science and Technology)」を思い起こすとともにその成果を歓迎した。

・ベトナム側は素両国の宇宙協力を促進するため日本の努力ならびにAPEC2010の議長国である日本に役割に感謝するとともに2010年11月に日本で開催する第18回APEC首脳会議の成功のために緊密の働くことを確認した。

・両国は、アセアンと日本、アセアン+3(日本、中国、韓国)とEAS(東アジア首脳会議)のような既存の地域の枠組みについてより緊密な協力の重要性について再度強調するとともに相互の利益となる各種分野での協力の推進に関する決定を再確認し、「東アジア包括経済連携(Comprehensive Economic Partnership in East Asia)」に関する研究、「東アジア・アセアン経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia: ERIA)」(筆者注16)への効果的な寄与を含む東アジア地域の統合に向けた努力を奨励した。

・両国は、国連が21世紀に向けより現実に対処できるため、世界を代表すること、正統かつ効率的な機関であるため恒久的および非恒久的の双方の範疇を拡大を含む国連安全保障理事会の早期改革に向けた協力を進めるべく決定を再確認した。ベトナム側は、日本が常任理事国になるよう支援することについて再度確認した。

・両国は、「2005年9月の六者会議の共同声明(September 2005 Joint Statement of the Six-Party Talks)」および「関連する国連安全保障理事会決議(UN Security Council resolutions)」(筆者注17)に従い、「朝鮮半島エネルギー開発機構(The Korean Peninsula Energy Development Organization:KEDO)」の完全かつ証明された非核化の実現を支援することを再確認した

・両国は、国際社会の人道主義の懸念問題につきその解決の重要性を強調した(underlined)。

・両国は、管直人首相のベトナムへの初めての公式訪問の結果が大変満足のいくことを表明し、また今回の訪問がベトナムと日本の友好的かつ多元的な協力体制の新たな段階の幕開けであるという認識を共有した。

2010年10月31日 ハノイ

**********************************************************************************************

(筆者注1) わが国のベトナムとの経済・政治・文化関係を整理するには外務省サイトで確認できる。

(筆者注2) http://www.presscenter.org.vn/jp/content/view/1239/27/を参照した。

(筆者注3) 日本・ベトナム政府間の共同声明文の「要約リリース」もベトナム政府は公表している。しかし、内容的に見て具体性がないのであえて全文を仮訳した。

(筆者注4) クリントン長官の直近の外交日程を掻い摘んで紹介する。10月29日グアム米軍基地、10月30日ベトナム、10月30日~11月1日(10月31日にはバーレーン王国訪問)、11月2日マレーシア、11月4日ニュージーランド、11月6日オーストラリア等である。

(筆者注5) 外交用語“H.E.” について補足しておく。“high explosive”略語である。「閣下」と訳すと分かりやすい。くれぐれも「高性能爆弾」と訳さないように。

(筆者注6)  “Hoa Lac High-Tech Park”:「 本プロジェクトは、ハノイ西約30km(ハタイ省)に立地し、1998年JICA(国際協力機構)マスタープランに準拠し、同年10月12日ベトナム国首相承認を得て推進中のプロジェクトです。(総開発面積1650Ha,完成予定2020年)
 研究開発ゾーン、ソフトウエアゾーン、ハイテク工業ゾーン、そしてICTプラットフォームを基盤に、人材開発・新規企業育成・ハイテク技術移転・生産等を目途としたベトナム国の初の開発モデルとして、国際共同プロジェクトとして推進されています。
  現在、我国(経済産業省)の協力の下、現地にVietnam-Japan E Learning Center, 及びVietnam IT Examination Center (VITEC)の運営を行っています。」(参加企業ヴァイコム社サイトから引用)。
なお、2006年のものであるが、駐越南台北經濟文化辦事處科技組(ベトナム・ハノイ駐在台湾経済文化事務所・科学技術部)が作成しているパワーポイント資料はイメージが分かりやすい。
 ベトナム政府の「ホラックハイテク・パーク・プロジェクト(HHTP」専用サイトでも最新の動向が見ることが出来る。

(筆者注7) わが国では「セーフティ・ネット」について正確な意義を解説したものがない。発展途上国だけでなく世界の先進国でさえこの問題に根本から取る組まざるを得ない状況にあり、ここで説明しておく。
「セーフティ・ネット(安全網)とは元々サーカスの空中ブランコの下に張られたものから由来している。セーフティ・ネットは、空中ブランコの演技者が演技に失敗して下に落ちる事故を未然に防ぎ、軽減すると共に、演技者に安心感を与え、思い切った演技を行わせるという役割を果たしている。セーフティ・ネットの目的は3つあり、第一に、不幸が発生したときの損害を最小にする、第二に、被害が生じた時の補償を行う制度をあらかじめ用意しておく、第三に、セーフティ・ネットの存在によって安心感が与えられたことによる効果(人々が失敗をおそれず勇気ある行動を取ること)を期待する、ことである。一方、セーフティ・ネットの提供はモラルハザード(倫理の欠如あるいは制度の悪用)の問題を招き、ネガティブな効果が生じる場合もある。例えば、年金や健康保険、失業保険などで手厚い支給が得られるようになると、人は怠慢になり、働かなくなったり、ただ乗りしたりすることが生じる。SSNは傷病や失業、貧困など個人の生活を脅かすリスクを軽減し、保障を提供する社会的な制度やプログラムを総称するものということができる。SSNの主要な内容には、年金や健康保険、失業保険などの社会保障制度、障害者や母子家庭、高齢者、児童などの社会的弱者に対する福祉・社会サービス、失業者対策として雇用創出を図る公共事業や職業紹介・職業訓練、貧困層への食料補助、教育補助、住宅整備など幅広い支援が含まれる。これらの制度やプログラムは病気や失業、貧困などのリスクに見舞われたときにリスクを軽減し、保障を提供するものである。」JAIC研究所「ソーシャル・セーフティ・ネットに関する基礎調査 -途上国のソーシャル・セーフティ・ネットの確立に向けて-(2003年10月)」第2章第1節から引用。

(筆者注8) ベトナムだけでなくインドネシア等でも汚職・賄賂問題は現地に進出する日本企業にとって極めて大きな問題である。
 今回の声明で取上げられている両国間の合意とは、2009年2月に報告が行われた「日本・ベトナムの日本のODA関係汚職の防止のための具体的手段にかかる共同委員会報告(Japan-Vietnam Joint Committee for Preventing Japanese ODArelated Corruption (Anti-ODA-related Corruption Measures)」を指すといえよう。

 なお、日本貿易振興機構(JETRO)は2010年3月に日系企業向けに「日系企業のためのベトナムビジネス法規調査」を公表している。その中で「汚職防止法(Law No. 55/2005/QH11 on Anti-Corruption dated 29 November 2005」をあえて取上げていることがその証左であろう。
 ベトナム政府の声明ではベトナムの汚職・賄賂について具体的な説明がないが、以下のようなわが国企業の意見は本音であろう。
「官・民に及んで賄賂の授受が常態化しており、健全なビジネスの運営に支障をきたしている。(行政において、ビザの発行・更新、会社設立の申請、税務申告書類の受理など)
(民間において、購買担当など購入決定者に賄賂を提供することが常態化している点)
・・・上記腐敗闘争に関する通達によると、汚職とは、政府官吏によって、職務遂行の間に政府、組織または個人の利益に損害をもたらすような役人自身の利益のために行われる行為である。汚職は、職務遂行の間に個人の利益のために、資産の流用、賄賂または職権の濫用を含む。政府官吏は、民間企業、パートナーシップ、協同組合、民営の病院、学校、団体の設立及び経営が禁止されている。汚職を犯した政府官吏は罰せられるか、労務の懲戒措置に服さなければならない。50万ベトナムドン(約30米ドル)以上の賄賂を受け取った者、または500万ベトナムドン(約330米ドル)以上の資産を横領した者は、刑事上の罰金の対象となると告示されている。」(「貿易・投資円滑化ビジネス協議会-各国・地域の貿易・投資上の問題点と要望 「2009年版」―」から一部抜粋)。

(筆者注9) 2002 年に策定されたベトナム北部地域における深水港開発計画(ハイフォン国際ゲートウェイ港開発計画)では、ラックウェン(Lach Huyen)海域が開発対象として選定された。同プロジェクトには日本企業3社(伊藤忠、商船三井(MOL)、日本郵船(NYK))が日本政府のODA融資を背景に参加している。

(筆者注10)“ODA Loan”とは「円借款(有償資金協力)」をいう。すなわち、本政府が途上国政府に対し、円建てで貸付を行うことを総称して円借款という。通常は国際協力銀行(JBIC)が実施する政府開発援助(ODA)借款のことを指す。贈与を基本とする無償資金協力に対し、有償資金協力ともいう。円借款の貸付条件(金利、返済期間、据置期間)は商業ベースのものと比べ、きわめて緩和されたものとなっており、平均金利は約年1.4%、償還期間の平均は約35年。形態的には開発途上国政府の開発ニーズに合わせてプロジェクト借款(道路や橋梁、発電所などの経済・社会基盤整備)とノン・プロジェクト借款(構造調整借款、セクター・プログラム借款など)に大きく分けられるが、特に経済発展に必要な経済・社会基盤整備部門で資金需要が高い。(JICS:「調達用語集」より引用)
なお、“ODA Loan”の詳細な説明は(財)日本国際協力システム(JICS)のサイトに詳しい。

(筆者注11) 「ロンタン国際空港建設計画(Long Thanh international air port project)」は(ベトナム南部ドンナイ省に開設し、2011年までに運用開始、最大年間1億人の乗客を運ぶ予定である。

(筆者注12) 2008年12月25日に署名・締結した日本・ベトナムの「経済連携協定(EPA)」については外務省サイトで経緯も含め確認できる。なお、わが国のEPA戦略の意義とビジネスのための手引きを外務省「対外経済対策総合サイト」は用意している。

(筆者注13)  “WTO multilateral trading system”問題は2010年APECの 主要議題であり、6月5日~6日,札幌市において,APEC貿易担当大臣会合(MRT)が開催された。岡田克也外務大臣および直嶋正行経済産業大臣が議長を務め,APEC参加21エコノミーの貿易担当閣僚等が参加した。今次会合の成果として,「議長声明」および多角的貿易体制の支持と保護主義の抑止に関する「閣僚声明」が出されている。(APEC JAPAN 2010サイトから引用)

(筆者注14) ここでいう両国の共同取組みの行動計画(action plan)ついて外務省サイトでは詳しい解説はない。その経緯について簡単に補足しておく。
 2003年4月7日、小泉首相とファン・バン・カイ(Phan Văn Khải: Phan Van khai)ベトナム首相は東京でベトナム・日本のベトナムの競争性強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み(Vietnam-Japan Joint Initiative to Improve Business Environment with a view to strengthen Vietnam’s Competitiveness)につき検討することに合意した。
4月8日、第1回目の委員会が開催され、共同委員長として服部則夫(当時ベトナム日本大使)、宮原賢次(日本経団連)、ヴォン・ホン・クォック(Vo Hong Phuc)ベトナム計画投資省大臣、ヴー・ズン(vu dung)ベトナム日本大使である。その他両国の官民代表が出席した。
 2003年12月4日第1段階の最終報告書「ベトナム・日本のベトナムの競争性強化に関するビジネス環境改善のための共同の取組み」が報告され両国の委員がこれに署名した。
2007年11月に第2フェーズ報告書がまとめられ、第3フェーズの検討に入った。
“foreign direct investment (FDI)”がキーワードである。

(筆者注15) 「オフセット・クレジット・メカニズム」につき補足する。“カーボン・オフセットとは、市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの温室効果ガスの排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部又は一部を埋め合わせることをいう仕組みをいう。(環境庁の定義)

(筆者注16) 「東アジア・アセアン経済研究センター(Economic Research Institute for ASEAN and East Asia: ERIA)」は、東アジアの経済統合に資する政策研究および統計資料の整備などを通じた政策提言活動を実施することを目的として、主として日本政府の出資により設立された国際研究機関である。(Wikipediaから引用)

(筆者注17) 外務省の資料によると、2007年6月に開催された「G8ハイリゲンダム・サミット」において「議論をリードする形で北朝鮮による核兵器開発は容認できず、引き続き国際社会として圧力をかける必要がある、拉致問題は国際的広がりのある人道問題であり、G8として連携して強い対応をとる必要がある、これらについて国際社会は北朝鮮に対して明確なメッセージを送るべき旨述べた。その結果、参加首脳の支持を得、議長総括で力強いメッセージを発出することができた。」とある。さらに「首脳文書関係部分」として、「 我々は、北朝鮮に対し、NPT上の義務を完全に遵守するとともに、2005年9月19日の共同声明及並びに安保理決議第1695号及び第1718号に従って、すべての核兵器及び既存の核計画並びに弾道ミサイル計画を放棄するよう求める。我々は、六者会合及び2005年9月19日の共同声明の誠実かつ完全な実施に向けた第一歩としての2007年2月13日に合意された初期段階の措置の速やかな実施を完全に支持する。我々は、北朝鮮に対し、拉致問題の早急な解決を含め、国際社会の他の安全保障及び人道上の懸念に対応するよう求める。」とある。今回のベトナム政府の声明はこれらを踏まえたものといえよう。


〔参照URL〕
http://www.mofa.gov.vn/en/nr040807104143/nr040807105001/ns101031193902#dVpQCq3moNTB

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第8回)

2010-10-30 16:23:20 | 国際政策立案戦略



〔米国全米海洋大気局と食品医薬品局がメキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果を公表〕                                               
 10月29日、米国商務省全米海洋大気局(NOAA)と米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)が「メキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果:安全閾値にかかる全サンプル調査結果」を公表した。

 メキシコ湾の原油流出事故の魚介類への影響については本ブログでも報告してきたが、流出が完全に停止したとされた後である9月28日にもオバマ大統領は長期的な取組が必要と宣言(筆者注1)している。

 オバマ大統領の声明の根拠となったのは海軍省のレイ・バマス長官の報告書「America’s Gulf Coast:A Long Term Recovery Plan after the Deepwater Horizon Oil Spill」(全130頁)である。

 今回発表されたNOAAとFDAの報告内容はEPAとの関係は明確でないが、今まで本ブログで解説してきたこれら機関の取組み内容から見て当然の活動であると思う。
 環境保護団体や研究機関のこの報告に対する反応についてはこれからであるといえるが、「安全閾値(safety threshold)」(筆者注2)に関する全サンプル調査と断り書きがある今回の報告を、とりあえず現時点での最新情報として紹介する。

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 すでに行われてきた連邦、州や地方の官吏による膨大な量の試験や手順を足がかりとしてNOAAとFDAは魚、牡蠣、カニおよびエビについてデープウォーター・ホライズン海域で使用された石油分散剤を調査するため化学試験の開発のならびに使用して検査を行ってきた。

 厳格な官能分析手順(rigorous sensory analysis process)につき教育を受けた専門家がメキシコ湾の魚について汚染物質の存在および魚介類の各サンプル原油や分散剤が付着した検査をパスして再開した海域の水について検査を行った。

 それにもかかわらず、なおメキシコ湾で収穫される魚介類の安全性を完全な形で保証するため、NOAAとFDAはメキシコ湾での漁業の再開時期を決定するため第2番目の検査を追加した。

 この新たな第2次検査を使い、メキシコ湾岸の科学者達はメキシコ湾の連邦管理海域の再開のため集められた半分以上の細胞組織見本1,735を試験した。

 極めてわずかな量(1,735のうち13)に残留物があったが、魚類(finfish)については100万につき100、またエビ゛、カニおよび牡蠣については100万分の500という安全閾値(safety threshold)以下であった。

 このようなことから、人体への影響を与えることはない。

 この新しい検査では、分散剤の主要成分である「ジオクチル・ソジウム・スルホサクシネート (Dioctyl Sodium Sulfosuccinate:DOSS)(筆者注3)が検出されたが、
これは家庭用用品や市販薬で使用されているもので、その毒性はきわめて低くFDAが承認している。
 今までの検査で得られた最も優れた科学データは、DOSSは魚肉細胞組織では蓄積しないことである。

 今まで試験された1,735のサンプルは2010年6月から9月の間に連邦や州が管理するメキシコ湾全域の公開海域から集められたもので、連邦の海産物分析専門家の要請に応じてドックに集めた漁夫が持ち込んだものである。

 サンプルは様々な種類の見本からなる。ハタ(grouper)、マグロ(tuna)、サワラ(wahoo)、アオチビキ(gray snapper)、マナガツオ(butterfish)、サケ(red drum)、グチ(croaker)ならびにエビ、カニ、牡蠣である。
 以前の研究では魚類がどのようにDOSSを代謝するかにつき情報を提供した。FDAのドルフィン・アイランド、アラバマ実験室において科学者が魚、牡蠣、カニにつき更なる汚染試験を行っている。またエビに関する検査はNOAAのガルベスト( テキサス州)研究室に移されている。

 現在、約9,444平方マイル(連邦管理海域全体の4%にあたる)、なお商業やレジャー目的の釣りが禁止されている。

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(筆者注1) オバマ大統領の声明の要旨(仮訳)は次のとおりである。
「私はメキシコ湾の復旧および復元計画を策定した海軍省のレイ・マバス長官の信頼できる仕事に感謝する。BP社の原油流出は同地域での重大な環境面と経済面の課題を作り上げた。オバマ政権は、メキシコ湾に住む人々とともに支援する生態系を保持し、また健康で安全な生活や安全対策の再構築を支援すべくその作業に取組んでいる。
 マバス報告は、方針の策定に関しては非営利団体や民間部門の提言と同様に、地域、州、先住民(tribal)および連邦レベルでのアイデアや協調といった常識的な提言である。私は、連邦議会に回復に向けた打ち込むべき資源の提供を働きかけるつもりであるが、議会の回復に向けた行動のみを許すわけには行かない。
 私は、米国の景気回復問題と長期の保健制度を推し進める一方で、より健康的で回復力のある生態系を作るよう連邦環境保護庁(EPA)のリサ・ジャクソン長官(Administrator Lisa P.Jackson)に命じた。
 我々は、復旧の努力は新しい考え、協調および創造性を取り込むべきであると理解している。しかし、とりわけ時間がかかる問題である。」

(筆者注2) 「安全閾値(しきいち)(safety threshold)」とは、最小有効量(minimum effective dose)ともいう。刺激が効果を発揮し、生体反応を誘発するためには、ある値以上の強さを有する必要があり、その境界の値を閾値という。原則として、刺激に対する生理反応には、全か無かの法則(恣無律ともいう。all-or-none law)がある。閾値以下の刺激では反応は現れず、それを超えると一定の大きさの反応が現れる。(出典:小野宏・小島康平・斎藤行生・林裕造監修「食品安全性辞典」共立出版)

(筆者注3) 白色のろう状又は樹脂状物質で、オクチルアルコールようの特異なにおいがある。エーテルに極めて溶けやすく、エタノール又はクロロホルムに溶けやすく、水又はメタノールにやや溶けにくい。吸湿性である。便軟化・腸運動促進緩下剤の成分として一般に利用されている。(ゲノムネット医薬品データベースから引用)。

[参照URL]
・全米海洋大気局(NOAA)と米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)がメキシコ湾石油分散剤の魚介類への化学的影響検査結果
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm231653.htm

〔メキシコ湾原油流出事故に関する連邦機関の専門ウェブサイト〕
・FDA〔Gulf of Mexico Oil Spill Update〕http://www.fda.gov/Food/FoodSafety/Product-SpecificInformation/Seafood/ucm210970.htm
連邦政府のメキシコ湾Oil Spill復元専門サイト
NOAAのOil Spill専門サイト
・EPAのOil Spill専門サイト
http://www.epa.gov/bpspill/index.html

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第7回)(その2完)

2010-09-09 18:11:17 | 国際政策立案戦略

(原油や石油分散剤による重大な健康被害)
 メキシコ湾での原油流質が始まった早期の数か月にルイジアナ州では300人以上の個人(4分の3は清掃作業員)が頭痛、めまい。吐き気、嘔吐、咳、呼吸困難や胸痛等体質に起因する疾患による治療を求めた。これらの兆候は炭化水素や硫化水素による急性障害の典型であるが他の一般的疾患による中毒症状と臨床的に区別することは難しい。
 連邦環境保護庁(EPA)は、VOCs、粒子状物質、硫化水素およびナフタリンがないか否かを検査するため大気汚染測定網にセットした。

 連邦保健福祉省・疾病対策センター(CDC)とEPAのデータ分析結果は次のとおりであった。

「これまで報告された汚染物質の一部のレベルは一時的に目、鼻、のどの炎症や吐き気や頭痛を引き起こすかもしれないが、長期的な害を引き起こすレベルではない。」BP社のウェブサイトで載せられているデータによると沖合いの作業員の大気汚染の影響が陸地での作業員に比べ高いことを示している。

石油や分散剤の皮膚接触は脱脂、皮膚炎や二次皮膚感染を引き起こす。ある人は皮膚過敏症反応(dermal hypersensitivity eaction)、紅斑(erythema)、浮腫(edema)または灼熱感(burning sensations)や甲状腺皮膚炎(follicular rash)が見られた。いくつかの炭化水素は光毒性(phototoxic)皮膚炎を引き起こす。

(長期的に見た健康リスク)
 短期的に見て各種の炭化水素が魚介類を汚染するであろう。脊椎動物の海中生物はみずからPAHsの浄化機能を持つが、無脊椎動物の場合これらの化学物質は永年体内に蓄積される。メキシコ湾は米国の牡蠣生産の約3分の2を提供しており、またエビやカニの主要漁場である。微量のカドニウム、水銀は原油から生じ、魚肉組織に蓄積され、マグロやサバという大量消費による将来の健康被害への影響を増加させる。

(歴史的に見た原油流出による健康への影響)
 1989年のエクソン・バルディーズ号原油流出事故の後、合計1811人の清掃作業員から労働災害補償金請求が行われた。その大部分は急性損傷によるものであったが15%は呼吸器系疾患、2%は皮膚炎(dermatitis)であった。この原油流出事故にかかる長期的健康被害に関しては論文審査を経た(peer-reviewed)学術専門紙で利用可能である。清掃作業後14年の健康状態に関する調査では、高度の原油を被曝した労働者において自己報告による神経学的傷害(neurological impairment)や多発性化学物質過便敏症(multiple chemical sensitivity) と同様、慢性気道疾患(chronic airway disease)の症状との著しい関連性が見られた。

 原油流出後数週間から数か月の間に実施された症状調査(symptom surveys)では、頭痛、のどの炎症、目のいたみやかゆみ(sore or itchy eyes)が報告された。

 また、いくつかの研究では下痢(diarrhea)、吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、腹痛(abdominal pain)、湿疹(rash)、ゼーゼーといった喘鳴(wheezing)、咳や胸の痛みの緩やかな増加率が見られた。

 ある研究では、清掃作業員4271人を含む漁夫6780人では清掃作業後2年経過において下気道疾患(lower respiratory tract symptoms)の流行が見られた。この下気道疾患のリスクは原油被曝強度により増加している。

 2002年スペイン沖の「プレステージ号」沈没事故の清掃作業にかかわった作業員858人の研究ではボランテアや作業員につき重大な遺伝子毒性(acute genetic toxicity)について調査が行われた。

 「コメット・アッセイ法」(筆者注6)による検査ではとりわけ海岸で作業を行ったボランティアにおいてDNAの損傷が見られた。同様の検査では作業員においてCD4陽性細胞(リンパ球の一種で、細菌やウイルスといった病原体から身を守る「免疫」という働きをする細胞)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-4(IL-4)、(筆者注7)、インターロイキン-10およびインターフェロン(IFN)の低下が見られた。

 アラスカ、スペイン、韓国およびウェールズで起きた主要な原油流出事故の研究記録では、地元住民等の精神不安(anxiety)、鬱や精神不安の比率を上げた。エクソン・バルディーズ重油流出の1年後の調査で599人の被曝地元住民に対するメンタル・ヘルス調査では 平均指標に比べ不安障害にかかりそうな人の割合は3.6倍、心的外傷性ストレス障害にかかりそうな人が2.9倍、鬱にかかりそうな人が2.1倍という高い割合であった。また、メンタヘルヘルス副作用(adverse mental health effects)が重油流出の最大6年後までの間に観測された。

(患者へのアプローチ)
 臨床医は原油と関連する化学物質の被曝による毒性を知っておくべきである。 本質的な兆候を示す患者には、住居の職業上の被曝と住居地に関して質問すべきである。 身体検査は皮膚、気道および神経系システムに焦点を合わせるべきである。油の関連の化学物質に関連づけることができるいかなる兆候も記録すべきである。ケアは、まず「兆候」と「症状」を記録し、兆候以外の他の潜在的原因や被曝から削除し、および対症療法を除外することから始める必要がある。

 洗浄期間のメキシコ湾の原油と関連する化学物質からの病気の予防策は、労働者のための適切な保護具と地域住民に対する常識的な注意を含む。 労働者は潜在的に危険なレベルの気化蒸気、エアゾール、または粒子状物質が存在するとの前提で、ブーツ、手袋、作業着、保護メガネおよび呼吸装置を含む適切な訓練と設備を必要とする。また、作業労働者は、発熱に関連する病気(休憩休息と十分な水分を補給する)を避けるために予防策を講ずるべきである。 すべての労働者の負傷や病気については適切な経過追跡を確実に報告されるべきである。

 地域住民は立ち入り禁止区域や原油に関する証拠があるところでの釣りをするべきでない。 油のにおいがある魚や貝は捨てるべきである。 汚染水、原油またはタールの塊との直接的な皮膚への接触は避けるべきである。 地域住民が原油や化学物質の強いにおいに気付いて健康への影響に関して心配するときは、エアコン付きの環境で難を避けるべきである。 地元住民におけるメンタル・ヘルスを記述する治療介入は臨床および公衆衛生機関の対応の尽力に組み入れられるべきである。より長い期間にわたる湾の清掃作業者と地元住人の「コホート研究」(筆者注8)は、原油流出時の健康後遺症に関する科学的データの精度を大いに高めるであろう。

3.米国国立保健研究所(NIH)・国立環境科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences:NIEHS)の原油流失問題への取り組み
 NIEHSは「メキシコ湾の原油流出対応の尽力」と題する専用ウェブサイトを設けている。
 主な取り組みの内容を紹介する。

(1)NIEHSは連邦議会、NIEHS諮問委員会(NIEHS Advisory Committees)、公益代表委員、連邦保健福祉省(HHS)、連邦国立衛生研究所(NIH)やその他の利害関係者に証言や情報提供を行っている。
その主な内容は広く国民は広く知ることが出来る。
・連邦議会での証言(testmonies)
・洗浄作業員の安全教育プログラム(WETP)内容を広く公開
・原油流出対応に関するWETPの内容をNIEHS国立諮問環境健康科学委員会(National Advisory Environmental Health Sciences Council)の洗浄活動にあわせ更新。

(2)全米科学アカデミーのNPO機関である「医学研究所(Institute of medicine:IOM)との協同研究
・2010年6月22日~23日に行われたIOM主催の公開会議に積極的に参加。

(3)健康への影響の研究と分析
・6月15日、NIHのフランシス・コリンズ博士は支援研究開発費として1,000万ドル(約8億3000万ドル)の拠出を発表した。
・8月19日、NIHはHHSが描く洗浄労働者の長期的健康保全のための研究を含むディープウォーター・ホライズン災害の潜在的健康への影響のより完全な理解のため連邦関係機関との連携的な省庁会合を開催した。
・NTP(National Toxicology Program)は、メキシコ湾で重要な危険物質の関連情報を特定するため既存の資料や文献の編纂や見直しを行っている。

(4)メキシコ湾の作業員の健康研究の重要ポイント
この研究は、呼吸器系、神経行動学(neurobehavioral)、発がん性(carcinogenic)、
および免疫(immunological)状態等の原油や分散化剤の被曝など健康への影響結に焦点を当てたものである。また、同研究ではメンタルヘルスや失業、家族分裂(family disruption)、家計の不確実性など原油流出にかかるストレス要因を査定する。
 以下、省略する。
*****************************************************************************************

(筆者注6) 「コメットアッセイは真核細胞におけるDNA の一本鎖或は二本鎖の切断量を測る上で感度がよく、定量性があり、のうえ簡便、迅速、安価な方法である。今やこの方法は、産業化学物質や環境汚染物質の遺伝毒性評価、ヒト集団における遺伝毒性影響のバイオモニタリング、分子疫学研究、さらにはDNA 損傷と修復の基礎研究などの領域で広く応用されている」
翁 祖 銓、 小 川 康 恭「コメットアッセイ: 遺伝毒性を検出するための強力な解析法」「労働安全衛生研究」, Vol. 3, No.1, pp.79-82, (2010)から抜粋。

 (筆者注7)「 サイトカインとは、免疫細胞(マクロファージやヘルパーT細胞など)から分泌される活性物質で、おもに2つの役割があります。
1.免疫細胞間の情報伝達をして互いの活性化を促し、戦闘能力を高める。
2.細菌、ウイルスや癌細胞を直接、攻撃する。
 主なサイトカインは、5種類あります。IL-1、IL-2、IL-12、TNF、IFN(インターフェロン)です。」(「がんと免疫漢方薬で健康家族」免疫力を高め元気になりましょう」から一部抜粋)
 分かりやすい解説なのであえて引用した。

(筆者注8)コホート研究(cohort study)とは、ある特定集団(コホート)を長期間にわたって追跡調査する研究手法。一定集団内の人々を対象に、長期間にわたり、健康状態と生活習慣や環境の状態など様々な要因(喫煙、運動、食生活など)との関係を追跡調査する研究。異なる点や、その違いでその後の経過がどうなっていくかを見ていく方法を特に前向きコホート研究といい、過去の記録を用いてコホート内の人々を調査する方法を後ろ向きコホートという。(国立環境研究所環境リスクセンター発刊の用語集から引用)

[参照URL]
・JAMA論文
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/extract/304/10/1118
・著者ジーナ・ソロモン自身の注記ブログ
http://switchboard.nrdc.org/blogs/gsolomon/health_effects_of_the_gulf_oil.html
・NIEHSの原油流失問題への取り組み専門ウェブサイト
https://www.niehs.nih.gov/research/programs/gulfspill/index.cfm

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission

 

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第7回)(その1)

2010-09-09 17:55:44 | 国際政策立案戦略

 

 8月16日付けの本ブログで原油流失による健康被害について米国医療専門家の問題指摘の一部を紹介した。

 8月16日付けの米国医学専門雑誌“Journal of the American Medical Association:JAMA”は「メキシコ湾の原油流質の健康への影響(Health Effects of the Gulf Oil Spill)」と題する例証(commentary)論文を公表した。
(筆者注1)

 一般的に米国のメディア情報に大部分を依存しているわが国のメディア情報を見る限り、今回取り上げた内容は米国民だけでなくわが国の一般消費者にとっても健康保持に極めて影響が大きい問題が含まれている。
 たとえば、わが国で一般的に市販されている防虫剤には「パラジクロルベンゼン」や「香料」が成分であると記載されている。

 あらためて、出版時期は1992年2月とやや古いが現在でも十分「合成防虫剤」の危険性を警告している本「暮らしの安全白書」 (学陽書房)を読んでみた。

 そこに記載されているナフタリン、ベンゼン等を成分とする防虫剤と同様の化学物質がメキシコ湾の原油分散化剤として極めて大量(7月下旬までに180万ガロン)に使用され、特にルイジアナ州では清掃作業員の4人中3人が頭痛(headaches)、めまい(dizziness)、吐き気(nausea)、嘔吐(vomiting)、呼吸困難(respiratory distress)等を訴え、病院等で治療を受けている。

 8月4日付けの本ブログでは、石油分散剤の有毒ガス化の危険性や我々自身が安易な化学物質汚染を引き起こしている日常性の怖さを関係レポートやブログに基づき解説したが、今回のJAMAのレポートを読む限り、わが国の合成防虫剤の使用に伴う一般消費者の健康被害問題も「他山の石」として業界指導や消費者教育を厳格に行わないといけないという意味で本ブログをまとめた。

 なお、この一連のブログをまとめる際にコメントしているとおり、筆者は医療・公衆衛生関係者ではない。わが国の専門家による正確な健康リスク分析と消費者への警告レポートを期待したい。

今回は、2回に分けて掲載する。

1.著者による本レポートに関する注記
 著者ジーナ・ソロモン(Gina Solomon)は自身のブログで、本レポートをまとめた狙いや研究のポイント等につき次のように注記している。

Gina Solomon 氏

「我々が求めた目標は次の2点である。
(1)メキシコ湾の医療・公衆衛生関係者に対し地域の重要な問題として認識させるための警告を行うこと
(2)石油流出の健康被害に関する既存の科学的例証を要約し歴史から学ぼうと試みること

 本レポートはJAMAのウェブサイトにおいて「無料」で閲覧可である。(筆者注2)
私と同僚のサラ・ジャンセンはメキシコ湾の地元の情報や関係者の話を数か月間収集し、同時に連邦環境保護庁(EPA)、BP社、商務省全米海洋大気局(NOAA)および他の関係機関の情報が入手可能になり次第データを解析した。また我々は湾で何が起きているかを解明する上で役立つであろう未発表の研究内容の追跡を含む、既存の科学記事を徹底的に検索した。

 その結果、原油流出に関する4つの主な健康被害を特定した。
(1)石油の化学物質や分散化剤の空中への蒸発(vapors)
(2)油塊(tar balls)や汚染海水との直接接触による皮膚の損傷
(3)汚染された海産物の消費に伴う発ガンの潜在的危険性と長期的な健康リスク
(4)ストレスに伴う鬱(depression)、精神不安(anxiety)や自己破壊的行動というメンタルヘルス面の被害

 1つの朗報は原油流出源である穴がふさがれたため湾内の大気質が改善されとこと、その結果長期の呼吸器への人体への被害がなくなるであろうことであり、我々はこの点をまもなく確認できよう。

 海産物の安全性に関する漁業の再開はおそらく我々の最大の関心事である。エビの採取は8月16日に再開されたが、地元の人々はその安全性について知りたがっている。政府機関がそれらのデータをすべて公開していないので、それが安全であるかどうかにつき正直分からない。

 すなわち最も重大な懸念材料は妊婦、子供および生計維持のため魚を消費している人々など弱者である。

 我々はNOAAおよび連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)に対し、8月17日にシーフード・リスク・アセスメントの問題点を意図的に修正していないかにつき正式文書を提出するとともに、両機関に対し海産物の安全性に関するすべてのデータの可能な限りの公開を求めるつもりである。

 我々がJAMAの論文をまとめるにあたり調査結果から明らかとなったことは、原油流出に先立っての研究がほとんど行われていないという点である。この分野に関する科学的文献は明らかにお粗末(threadbare)である。
 我々は、まさに今それを実行し、いかなる人体への影響に関する正確な文書化を行うため必要な健康調査を行うつもりである。

 8月17日午後に連邦国立衛生研究所・国立健康科学研究所(NIEHS)(筆者注3)はメキシコ湾の労働者に関する野心的健康調査結果を発表(筆者注4)する。同研究結果では短期的および長期的な多くの健康問題に関する情報を提供するであろう。そこにはメキシコ湾地域に住む妊婦、子供の研究計画がある。このこれらの調査・研究が行っている内容は極めて重要である。

 私は次回の大規模原油流出事故がないことを願うが、もし可能性があるとすれば我々はその準備を行わねばならない。」

2.JAMA レポート「メキシコ湾の重油流出の健康への影響」(仮訳要旨)
 メキシコ湾における原油流出は、原油や原油分散化剤(dispersant chemicals)の吸引や皮膚接触にもとづく人間の健康への直接的脅威を引き起こし、また間接的には海産物やメンタルヘルスへの脅威をもたらす。

 原油の主な成分は脂肪族化合物(aliphatic hydrocarbons)および芳香族化合物(aromatic hydrocarbons)である。ベンゼン(benzene )、トルエン(toluene)、キシレン等芳香低分子化合物は揮発性有機化合物(volatile organic compounds:VOCs)であり、また原油が表面につくと数時間以内に気化する。

 揮発性有機化合物は呼吸炎症や中枢神経系の鬱症状(central nervous system despression)を引き起こす。ベンゼンは人間に白血病(leukemia)を引き起こし、トルエンは高用量にともない催奇形物質[因子](teratogen)になると理解されている。ナフタリン等高分子化合物はより緩やかに気化する。

 ナフタリンは動物実験によるに嗅神経芽細胞腫(olfactory neuroblastoma )、鼻腫瘍(nasal tumors)、肺癌(lung cancers)発生に基づき「米国毒性プログラム(National Toxicology Program:NTP)」(筆者注5)により合理的に予期される人間にとっての発がん物質リストに上げられる。また、原油は食物連鎖を汚染する不揮発性の多環式芳香族炭化水素(nonvolatile polycyclic aromatic hydrocarbons:PAHs)と同様に硫化水素ガス(hydrogen sulfide gas)や重金属の痕跡を含むとされている。

 この硫化水素ガスは、神経毒性がありかつ急性および慢性の中枢神経疾患に結び付けられている。

 一方、PAHsは当然変異誘発要因(mutagens and probable carcinogens)を含む。燃料油は心臓や呼吸器疾患や若死(premature mortality)につながる粒状物質を発生させる。

今回のメキシコ湾の原油流出は油膜を破壊するため石油分散剤を大量に使用しており、7下旬までに180万ガロン以上の分散剤が使用された。この分散剤は“2-butoxyethanol”、ポリプロピレン・グリコール(propylene glycol)やするフォン酸性塩等呼吸器刺激物質を含む洗浄剤、表面活性剤(surfactants)や石油蒸留物を含む。

***********************************************************************************

(筆者注1) JAMAの解説記事の筆者は、医学学士(MD)・公衆衛生学修士(MPH)のジーナ・M・ソロモン(Gina M.Solomon)。補足すると、Gina Solomon, MD, MPH, senior author, director of (カリフォルニア・サンフランシスコ大学医学部)UCSF's Occupational and Environmental Medicine Residency and Fellowship Program and senior scientist with the Natural Resources Defense Council (NRDC)(環境保護団体NGO:天然資源保護協議会) in San Francisco.
 共著者は、医学博士(PhD)・公衆衛生学修士のサラ・ジャンセン(Sarah Janssen)である。

 なお、本レポートはJAMAの有料会員等一定の条件つきでないと全文は読めない。他関係サイトで引用されている原文をもとに要約文をまとめた。

(筆者注2) ブログからJAMAサイトにリンクできるが、全文を読むためには同協会の会員資格を得るなどしなければならない。

(筆者注3) 国立医薬品食品衛生研究所安全情報部サイトでは米国NIEHS等「国際的化学物質評価文書類の翻訳やGHS健康有害性に関連する資料など、化学物質安全性情報を提供します。」と宣言しているが、今回のブログのようなまさに国民の健康に影響がある問題に関するレポートについての翻訳作業の記録はない。

(筆者注4) 本文でも紹介したとおりNIEHSは「メキシコ湾の原油流出への取り組み」と言う専用ウェブサイトでその住民やボランティアを含む作業員等の健康保護問題につき連邦議会での証言や連邦関係機関との協調検討を行っている。ソロモン博士が指摘した8月17日に開催されたNIEHSのオンライン会議(Webinar)の内容は音声と文書で誰もが利用できる。

(筆者注5) “NTP”は 米国連邦保健福祉省(DHHS)により1978 年に設置された事業。慢性毒性を中心に、米国の国立環境健康科学研究所(NIEHS)等を中心として各省庁が連携して実施する毒性試験の計画、試験計画、物質選択、試験結果を含めて公表されている。評価対象化学物質の選択と発がん性の分類を行う機関である。(日本の環境省の用語解説等から引用)

[参照URL]
・JAMA論文
http://jama.ama-assn.org/cgi/content/extract/304/10/1118
・著者ジーナ・ソロモン自身の注記ブログ
http://switchboard.nrdc.org/blogs/gsolomon/health_effects_of_the_gulf_oil.html
・NIEHSの原油流失問題への取り組み専門ウェブサイト
http://www.niehs.nih.gov/about/od/programs/gulfspill.cfm

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission

 

 

 

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第6回)(その3)

2010-08-16 15:04:13 | 国際政策立案戦略

2.連邦保健福祉省・疾病対策センター(CDC)等の対応
 今回まで特に取り上げてこなかったが、メキシコ湾の周辺州民や清浄作業員の健康に関し、極めて重要な役割機能を担っているCDCや分散剤等毒物被曝への取組みはどのような内容であろうか。
 CDCは“2010 Gulf of Mexico Oil Spill”という専用ウェブサイトを設置している。8月4日付けの最新リリースでは次のような内容の業務に取組んでいる。
 「ガルフ・コーストの各州に配置された11名を含むCDCと「毒性物質・疾病登録管理局(Agency for Toxic Substances and Disease Registry: ASTDR)の計 328名のスタッフが対応している。その主な業務は次のとおりである。

[健康への影響の監視体制]
①沿岸5州の原油流失に基づく健康脅威に関する監視体制
 CDCは2つの確立された国民の健康に関する国家的監視システム「全米毒物データ監視システム(National Poisoning Data System)」および体的な疾病が診断される前に疾病発生の兆候パターンを検知するウェブベースの電子疾病兆候監視情報システム“BioSense”システム (筆者注7)を使用している。これらの監視システムは喘息(asthma)、cough(咳き)、胸に痛み(chest pain)、目の炎症・痛み(eye irritation)、吐き気(nausea)、頭痛(headache)の悪化を含む目、皮膚、呼吸、心臓血管、胃腸神経系システムの兆候の追跡に使用する。これに関し5州とCDCは定期的にデータと概要を交換している(州の調査結果はCDCウェブサイトで公開される)
 これら監視システムがこれらの兆候と合致するグループにつき州や地域の国民健康管理職員はそのフォロ-アップのため兆候と原油流失の相関関係につき調査することになる。
これらの監視システムは異なる方法ではあるがいずれも原油の接触する可能性の高い人々やグループへの健康への影響への兆候を保健当局に提供するよう設計されている。また、CDCの国立労働安全衛生研究所(National Institute for Occupational Safety and Health:NIOSH)は産業界、労働安全衛生局や沿岸警備隊その他連邦や州の機関と情報を緊密に共有している。

②ディープウォーター・ホライズン対応作業員の「BP作業に係る病気・怪我に関するNIOSH 報告」を設置している。
 NIOSHはまた必要に応じ、原油流失に関する病気や怪我に関し記録の作成や接触するためのメカニズムへの労働者の任意調査への参加も働きかけている。この結果現在までに4万9千人以上の対処作業者(BPの教育を受けた作業員、ボランティア、臨時船舶運行者、連邦機関の作業者等)が回復している。

[データ解析作業]
 CDCの環境健康保護チームは、連邦環境保護庁(EPA)と協力してメキシコ湾から送られてくるデータを検証し続けている。原油、原油の構成物や分散剤が長期短期的に健康被害を引き起こすかどうかを決定するためにデータの標本抽出の検査している。これらのデータには空気、水、土や沈殿物、および実際に海岸や沼地に行き着いた廃油の見本等が含まれる。」

3. 連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)のフロリダ州ミシシッピー州の「安全宣言」に至る経緯と検討課題
(1)FDAの商業漁業海域規制に関する安全性監督面の法的根拠
 FDAは「食品・薬品および化粧品法(Federal Food, Drug, and Cosmetic Act :FD&C Act) 」に基づき、すべての魚類や水産製品につき化学物質や生物学的に見た危険がないことにつき監督責任を持つ。
 この目的の実行のため、各州は海産物の収穫海域の閉鎖や再開煮を行う法的権限を持つ一方でFOAAは連邦の監督海域の開閉の権限を持つ。このためFOAA、FDA、EPAお呼び沿岸諸州はメキシコ湾産の海産物の安全性監督のため包括的、協調的複数機関の共同手順を定め一元的な運用を保証している。

[海への原油流出により消費に不適合となるのはどのような場合か]
①発がん性がある多環式芳香属炭化水素(PAHs)の存在が確認された場合である。
②石油臭いが確認された場合である。海の汚れ(taint)といわれており、規制法の下で不純物混入とみなされ食品として販売することは認められない。

[分散剤により海産物が消費不適合となる場合とはどのような場合か]
 現在の科学レベルにおいてデープウォーター・ホライズン対応のために使用されている分散剤は海産物における食品の生物濃縮(bioaccumulate)の可能性は低く、また人間にとって毒性は低い。それにもかかわらず用心のため政府は分散剤のモニタリングと被曝したかも知れない海産物の検査を続ける。
 分散剤の汚れは有害ではないかも知れないが薬品臭(chemical smell)をもつ海産物の法定基準に不適合とされ、その販売は許可されない。

[標本抽出、検査および閉鎖穫海域の再開に関する共通手順]
1.実際にはまったく原油に汚染された漁業海域の再開手順
2.実際原油に汚染された海域の再開手順
 この試験は魚、エビ、カニおよび二枚貝(牡蠣、イガイ等)に対し行われる。
臭覚試験の評価基準:サンプルは試験される海産物の種の食べられる量により決められる。最低10人の臭覚専門家からなる委員が「生」および「煮た」両サンプルを評価する。再開決定のためには老練な専門家の70%が各サンプルから石油や分散剤の臭いを検出しないことである。

(2)全関係州が安全宣言してはいない
 FDAサイトで見る限り、7月末に再開宣言したのはフロリダ州、ルイジアナ州およびミシシピー州の3州である。

 8月2日のAP通信の記事や7月末にNOAA、FDAが関係州の「漁業・野生動物保護委員会」あて報告しているとおり、その安全宣言の元になる検査は「臭さ検査(smell test)」である。

 なお、8月7日時点のFDAサイトではいつ撮影した写真かは不明であるがFDAのハンブルグ局長がニューオリンズのオクラ料理店(gumbo)でうまそうにシーフード料理を食している写真が載せられている。この写真はあくまで「FDA's Role In Ensuring Seafood Safety」の項目の横に掲載されており、今回の安全宣言とは無関係といえばそれまでであるが、紛らわしい写真である。

4.全米科学アカデミー医学研究所(Institute of Medicine of the National Academies:IOM)が7月22日、23日にルイジアナ州ニューオリンズで開催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価(Assessing the Human Health Effects of the Gulf of Mexico Oil Spill:An Institute of Medicine Workshop)の意義とその内容
 “Bloomberg Businessweek”によると連邦保健・福祉省のシベリウス長官のたっての要請にもとづき開催された研究会である。連邦機関による一方的な情報開示だけでなく、歴史上類を見ない大事故に対し米国の科学者の良識を具体的に体験できる良いサイトであるし、科学者が広く国民に扇情的ではなく、あくまで科学的研究結果に基づき正確に説明する姿勢はわが国の研究機関もこのレベルまで進んで欲しいと考え、やや詳しく紹介する。
 特に、2日間の全発表のプレゼンテーション資料や速記録も読めて専門外の筆者にとっても大変参考になるウェブ・サイトである。
 そこで網羅的ではあるが、現在および将来の取組み課題を整理する意味で”Agenda”をあげておく。なお、速記録を読みやすくするため1日目と2日目に分け、各agendaにつき該当頁を付記した。

第1日目(7月22日)
SESSION I: AT-RISK POPULATIONS AND ROUTES OF EXPOSURE
・Panel Discussion:「実績の調査( Taking Stock)」:「誰がどのように各種リスクに曝されているのか?( Who Is At risk and How Are They Exposed?)」(64頁~)
・「被曝ルートや被曝する人々(Routes of Exposure and At-Risk Populations)」(66頁~)
・「汚染地域の住民(Residents of Affected Regions: General and Special Populations)」(75頁~)
・「清掃担当者やボランティアの職業面からのリスクと健康への危険(Occupational Risks and Health Hazards:Workers and Volunteers)」(82頁~)

SESSION II: SHORT- AND LONG-TERM EFECTS ON HUMAN HEALTH –
Panel Discussion: The Here and Now: What are the Short-term Effects on Human Health?(109頁~)

・「短期的な身体への影響(Short-term Physical Effects)」(111頁~)
・「短期的な身体ストレス(Short-term Psychological Stress)」(119頁~)
・「暑さによるストレスと疲労(Heat Street and Fatigue)」(126頁~)  

Panel Discussion. 「身体への遅れてかつ長期に健康に影響することにつき正確に理解することの必要性(The Need to Know: What are the Potential Delayed and Long-term Effects on Human Health?)」(146頁~)
・「神経性疾患のガンとその他慢性的な症状(Neurological Cancer and other Chronic Conditions)」(147頁~)
・「子供の健康への影響と脆弱性(Impact on Health and Vulnerabilities of Children)」(154頁~)
・「妊婦や子供への影響(Human Reproduction)」(164頁~)
・Stress(176頁~)
・「従来の原油流失事故で学んだこと(Lessons Learned from Previous Oil Spills)」(180頁~)

SESSION III: STRATEGIES FOR COMMUNICATING RISK
・「国民を引き込む一方で健康の保護(Engaging the Public, Protecting Health)」(205頁~)
・「本研究会参加者との対話(Dialogue with Workshop Participants)」(223頁~)

第2日目(7月23日)
SESSION IV. OVERVIEW OF HEALTH MONITORING ACTIVITIES
Panel Discussion. 「各州政府はどのようにメキシコ湾原油流出に人間への影響についてもモニタリング活動を行っているのか(How are State Governments Currently Monitoring the Effects of the Gulf of Mexico Oil Spill on Human Health?)(10頁~)

SESSION V. RESEARCH METHODOLOGIES AND DATA SOURCES
Panel Discussion.「批判的考察 Critical Thinking」: 「どのような調査手法やデータ資源は監視やモニタリング活動に利用できうるか(What Research Methodologies and Data Sources Could Be Used in Surveillance and Monitoring Activities? )」(65頁~)
・Overview of Research Methodologies and Data Collection(68頁~)
・ Surveillance and Monitoring(73頁~)
・Environmental Assessment, Risk and Health(81頁~)
・Mental Health(87頁~)
・「生物医学的情報科学(Biomedical Informatics & Registries)(95頁~)

SESSION VI. FUTURE DIRECTIONS AND RESOURCE NEEDS
Panel Discussion. 「今後の対策:どのようにして我々は効率的監視およびモニタリング・システムを開発するか(Looking Ahead: How Do We Develop Effective Surveillance and Monitoring Systems? )(128頁~)

3.連邦環境保護庁(EPA)のディープウォーターホライズン- BPメキシコ湾原油流失事故(Deepwater Horizon – BP Gulf of Mexico Oil Spill) ウェブサイトの抜粋、仮訳

 2010年4月20日、メキシコ湾のマコンド試掘油田で操業していた石油掘削リグDeepwater Horizo​​nが爆発して沈没し、Deepwater Horizo​​nで11人の労働者が死亡し、海洋油史上最大の石油流出が発生した。損傷したマコンド海底油田から400万バレルの石油が、87日間にわたって流出し、2010年7月15日に最終的に上限が設定された。2010年12月15日、米国はBP Exploration&Productionに対して地方裁判所に申し立てを行った。他の数人の被告は流出の責任があると主張した。 このウェブページは、ディープウォーターホライズン油流出に対するEPAの執行対応、前例のない55億ドルの水質浄化法の罰金、天然資源の損傷、最大88億ドルのBP Exploration&Productionとの記録的な和解を含む、いくつかの被告との和解に関する情報と資料を提供する。 このウェブページは、EPAの執行関連の活動のみに限定されており、BP Exploration&Productionおよびその他の流出に対する法的またはその他の訴訟(医療請求および経済的損害に対する私的当事者/集団訴訟の和解など)、流出の責任者に対する訴訟は網羅していない。ルイジアナ州東部地区の米国地方裁判所は、この目的のためにディープウォーターホライズン油流出事故のウェブサイトを開設した。


4.欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」の意味と改正内容
 EUの食品の安全性に関する規制は米国に比べ厳しいことはいうまでもない。
EUの輸入品目規制 II.農産品輸出入ライセンス制度、動物の獣医学的検査、食品衛生については今回のメキシコ湾の原油流失事故と大きく係わってくる(筆者注8)
 欧州委員会決定(2009/951/EU)は2009年12月時点では米国におけるEUに輸出予定の二枚貝に関し適所な管理システムの評価につき生きた二枚貝については認識していたが、メキシコ湾を除き人体への重大なリスクについては具体的に表明していなかった。そのためメキシコ湾以外については2010年7月1日までの6か月間の相互検査体制の同等性を条件に輸入を認める「暫定決定」を行っていたのである。

筆者注8」で説明したとおり、7月1日以降、結果的にEUの二枚貝や棘皮動物、被嚢亜門動物、海洋性腹足類の輸入が承認される第三国リストから米国は外されたことになり、米国のメキシコ湾だけでなく輸出漁業全般への影響極めて大きいと考える。

*********************************************************************************************
(筆者注7) CDCは2003年、具体的な疾病が診断される前に疾病発生の兆候パターンを検知するウェブベースの電子疾病兆候監視情報システム「BioSense」を開発した。BioSenseは、連邦・州・地方政府機関や病院などの公共衛生関連組織向けのシステムであり、一般公開はされていない。BioSenseは、州・地方の公衆衛生局が管轄区域内の病院から取得したデータや、病院、国防総省(Department of Defense:DOD)や退役軍人省(Department of Veterans Affairs:VA)の医療施設や研究所から直接集めたデータを分析し、経時変化や地理的分布などの分析結果をほぼリアルタイムで表示することができる(NTT データ:米国マンスリーニュース 2009年11月号より一部引用)
 なお、CDCの説明では、5つのメキシコ湾岸州の86の医療施設等を包含しており、その職員は原油流失の関連する特異症候群をチェックできる体制となっており、調査結果は日々関係州に通知される。

(筆者注8) わが国のJETROがEUにおける輸入品国規制につき次のとおり解説(6頁以下)している。(英学名および一般的な名称は欧州委員会決定原文に基づき筆者が補足)
「・二枚貝(bivalvia molluscs:ハマグリ、シジミ、牡蠣)、棘皮動物(echinoderms:ウニ、ヒトデ、ナマコ等)、被嚢亜門動物(tunicates :ホヤ等)、海洋性腹足類(marine gastropods:バイガイ、巻貝等 )ならびに魚製品(fishery products)の輸入が承認されている第三国リストを規定する2006 年11 月6 日付欧州委員会決定2006/766/EC(2006 年11 月18 日付官報L320 掲載)
・食用のいかなる種類の魚介製品の輸入も承認される第三国のリストに関し決定2006/766/EC を改正する2008 年2 月18 日付欧州委員会決定2008/156/EC(2008 年2 月23 日付官報L50 掲載)
・決定2006/766/EC の付属書I およびII を改正する2009 年12 月14 日付欧州委員会決定2009/951/EU(2009 年12 月15 日付官報L328 掲載)

[JETROの解説]欧州委員会決定2008/156/EC(2008 年3 月1 日より適用)により、欧州委員会決定2006/766/EC で規定された二枚貝や棘皮動物、被嚢亜門動物、海洋性腹足類および魚製品の輸入が承認される第三国リストが更新された。
欧州委員会決定2006/766/EC は、食用の動物性製品の公的管理体制に対するルールを規定した規則(EC)854/2004 に基づき、これまで個別に規定されていた2 つの第三国リストを統合したもので、同規則の付属書I には二枚貝や棘皮動物、被嚢亜門動物、海洋性腹足類の輸入が承認される第三国リストが、また付属書II には魚製品の輸入が承認される第三国リストが記載されている。
輸入承認の対象となる個別の製品の変更や要件の変更ならびに第三国リストへの国の追加および削除などを反映し、決定2008/156/EC および決定2009/951/EU が採択された。
なお、日本はこの第三国リストに含まれており、日本からの魚製品の輸入および冷凍または加工した二枚貝等の輸入は基本的に可能となっている。ただし、衛生証明書の添付やEU により認定された施設で生産された製品であることなど、その他の要件も満たす必要がある。」

[参照URL]


・NOAAが発表した科学者の報告「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」
http://www.deepwaterhorizonresponse.com/posted/2931/Oil_Budget_description_8_3_FINAL.844091.pdf
・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
https://www.fda.gov/food/food-safety-during-emergencies/gulf-mexico-oil-spill
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
https://www.gulflive.com/mississippi-press-news/2010/08/mississippi_oysters_are_safe_t.html
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK209920/

・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://www.jpmac.or.jp/img/research/pdf/A201640.pdf

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第6回)(その2)

2010-08-16 14:50:34 | 国際政策立案戦略

[分析結果の補足説明]
 非常時指令官(National Incident Command:NIC)を中心とした緊急時対応: 原油流失に対処するための関係機関の努力は極めて積極的であった。 円グラフ(図1)に示されているように、人為的対処の努力は流出原油の33%を回収することに成功した。 これには油井パイプ挿入チューブとトップ・ハット・システム(17%)による回収、燃焼(5%)、すくいとり(skimming)および化学的分散(8%)が含まれる。 直接採取、燃焼、およびすくいとり水から油を完全に取り除くが、以下で議論するようにそれが生物的に分解されるまで、化学的に分散している油は水中に残っている。

 化学処理剤による分散: 見積りに基づくと、自然に原油の16%は海洋の鉛直構造の水柱(water column)の中で自然分散し、また8%は海面の上および海面の下の化学分散剤の散布で分散された。 自然分散は高速でライザー管から油がわずかな小滴状態で水中にスプレーされた結果で起きた。 そのこの分析の目的のために、‘分散された原油'は人間の髪の直径に相当する100ミクロン未満の小滴と定義された。 ごく小さいこれら油滴は、自然に浮揚性があって、その結果、次にそれらが生物分解し始めるところで水柱に残っている。 化学的分散では、またそれが大きい表面油膜が浜に上がるのを妨げるためにわずかな小滴に油を壊れさせるため、それは生物分解のために容易により利用可能になる。 化学分散剤は海面およびその下で適用された。 したがって、化学的に分散された原油は水柱における深部みと表面のすぐ下では作業は終わった。 分散剤は減油が水柱と表面で生物分解される可能性を広げる。分散剤は少量な量でさえ、それが生物分解されるまで自然的または化学的に分散された油は弱い生物には毒性がある。

 蒸発(Evaporation)と分解(dissolution): 流失原油総量の25%がすぐに自然気化したか、または水柱に溶けたと見積もられている。 蒸発と分解割合の推定は、ディープウォーター・ホライズン事故の間に行われた科学的研究と観測データに基づいている。

 「溶解」は「分散」と異なる。「溶解」は油からの個別炭化水素分子(Hydrocarbon Molecules)がちょうど水で砂糖を溶かすことができるように水の中に分離して溶ける過程である。一方、「分散」は油のより大量が油のよりわずかな小滴へ砕ける過程である。

 残余部分の問題: 直接測定するか、または見積もることができるカテゴリー(すなわち、直接回収、分散、蒸発、および分解)を計算した後におよそ26%が残る。 [図1]はそれのすべてが測定するかまたは見積もることが難しいカテゴリの組み合わせである。 それはいくつか海面上、または海面下でまだ軽い輝き物またはタールの塊の形のもの、岸に漂着したりまたは岸で集められた原油、さらに砂と沈殿物の中に埋められ時代を通して再浮上されるかもしれないいくつかの原油を含んでいる。 また、この原油は自然回復過程の中で分解し始めた。

 生物分解(微生物分解): 水柱における分散油と水面の油は自然に生物分解する。 湾の中の生物分解のレートを定量化するために行われるより多くの分析がある一方で、多くの科学者からの早期の観察と予備研究の結果は、BP Deepwater Horizon流出からの原油がすぐに生物分解しているのを示している。 NOAA、EPA、DOE、および科学アカデミーの科学者は、この分解率のより正確な推計について計算するために働いている。 原油の溶解や分散については表面油を破壊するバクテリアが機能することはよく知られており、メキシコ湾は大部分が温水、好ましい栄養物および酸素レベルが豊富であることから自然を通して定期的にメキシコ湾に流入する原油の掃除機能があるという事実になじむ。

[分析方法と推定に関する説明]
 流速(flow rate): 原油の結末推計計算(Oil Budget Calculator)は流出の過程の上で放出された油の総量の推計からは始めた。 最も新しい推計は米国地質調査所の(USGS)ディレクターのマーシャ・マクナットが率いるNICの”Flow Rate Technical Group:FRTG”、およびでエネルギー省長官スティーブン・チュウによって導かれたエネルギー省(DOE)のチームとによる科学者と技術者による議論と共同作業を反映したものである。 このグループは、約490万バレルの原油が2010年4月22日から原油流失が一時中断した7月15日の間にBP Deepwater Horizon現場から流失したと見積もった。この見積りの不確実性は10%+である。 図1の円グラフはこのグループの490万バレルの原油流失量の見積りに基づいている。

 直接的流失測定と最高の推定: 原油の結末計算はどこでも可能な方法でありまた計測が不可能なときは科学的に可能な推定に基づいている。 直接回収量や燃焼量は、毎日の調査作業上の報告で直接測定され報告されたものである。 毎日のすくい取りの量もまた報告に基づき推計下ものである。残りの数値は過去の科学的分析や入手可能な情報ならびに広い科学的専門知識に基づいている。 これらの数値は、追加情報と継続的な解析に基づいて精製され続けるであろう。 これらの計算方法の詳細については、2010年8月1日から”Deepwater Horizon Incident Budget Tool Report”の中で2010年8月1日からオンラインで利用可能である。同 ツールは国土安全保障省合衆国沿岸警備隊、NOAA、およびNISTとの共同作業に基づき連邦地質調査局によって作成された。

[今後の継続的モニタリングと調査]
 原油、分散剤、生態系の影響および人間への影響に関する我々の知識は発展し続けるであろう。連邦機関と多くのアカデミックで独立した科学者が活発に原油の最終的運命のより良い理解や搬送および影響について追求している。 連邦政府は定期的に活動、結果およびデータを広く国民に報告し続ける。 www.restorethegulf.gov で最新内容の情報を見つけることができる。また、www.geoplatform.gov では対処とモニタリングに関するデータを見ることができる。

 DOI、NASA(航空宇宙局)およびNOAAは、ガルフ湾の表面で油のままで残る量の理解を精緻化し続けている。 NOAAの対応チームはタールの塊や水面下の原油の監視戦略につきの統一指揮官(Unified Command)と共に働いている。研究者はそこで原油の集中、分配、および影響等をモニターするために水面下のスキャンと標本抽出を続けている。 EPAとNOAAは、慎重に湾における分散剤のBP社の使用所状況をモニターして分散剤と原油成分の存在のために特別な注意を払い、空気、水および沈殿物をモニターし海岸線の近くで人々の健康影響への特別な注意を行っている。 多数のNOAA、全米科学財団(NSF)によって資金を供給された学術研究者、およびNOAA専属科学者は生物的分解、生態系(ecosystem)および野生生物への影響の割合を調査している。 DOIとDOEの対応チームは、環境に自然に残る油の正確な測定方法のコントロールすることを保証できる適切な方法に開発について働いている。 DOIは原油の地域的な野生動物、天然資源や公有地における影響を最小限化するためのリーダー的役割を担っている。

 BP社の油井流失個所のキャピング作業により海岸線、魚、生態系への脅威は減少しているにもにもかかわらず、連邦機関専属科学者によるメキシコ湾の生態系への重大な懸念は依然残されている。その意味で引き続きのこれらの問題に関する完全な理解を得るためのモニタリングと調査が重要である。」

 なお、NOAAの具体的BP社の原油流失事故へのresponseについては6月29日の本ブログで詳しく紹介したので参照されたい。

(2)同報告の批判的考察
 連邦機関(NOAAやNIST(筆者注5)に所属する科学者を中心にまとめたものであり、一方、日常的に陸海空にわたる多面的な日々の調査活動から得られた結果をもとに書かれたものであることから科学的根拠に基づくものであることは間違いない。
 しかし、かえってその結論部分には説得力が乏しいように思える。すなわち微生物による自然分解や気化により41%が消失したと言うくだりになると全体の推計計算の信頼性に疑問がわいてくる。

①現地での正確な情報を巡るメディアの視点と読者の参加
 メキシコ湾およびその周辺湾岸、河川等における原油の流失状況を定点観測しているメディアも多い。例えば、CNNの“Gulf Coast beaches update”や読者の投稿専用サイトである“iReport”を斜め読みしてみた。一般向にまとめられており、素人にも分かりやすい内容や図解があり、そこでの紹介される写真やレポート・ビデオの各閲覧数は数千とかなり多い。

 そこで見られる特徴を掻い摘んで紹介する。
“Depths of the disaster” :日々の原油流失量(総量490万バレル)の推移やメキシコ湾地域の3年以上にわたる潜在的経済的損失227億ドル、BP社の文書苦情受付件数85,923件などキーとなる数値が読みとれる。
“Map: Impact of the oil disaster”:湾岸9箇所の拠点からの漁業禁止海域や撤去作業の画像報告等が見れる。

②後述するEHAのメルビン・クレーマー博士の問題指摘やIOMが開催した7月の研究会等でも指摘されているとおり、2002年11月19日、スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の影響はスペインやフランス等近隣国の清浄作業員や地元住民の健康や自然環境への影響の分析は数少ない研究成果として貴重なものであるにもかかわらず、そのフォロー研究は決して十分ではない。

③米国の地球温暖化や核エネルギー、クリーン・エネルギー施策等を提言している先進的科学者グループ(NPO)で、最近筆者も参加した「米国憂慮する学者連盟(Union of Concerned Scientists:UCS)」(筆者注6)によるエネルギー政策提言
 5月5日付でUCSは「原油流失対策は表面的油井のセメント固定という取組だけではなく米国の石油依存体質を見直す石油節減政策でなくてはならない」と論じている。環境問題の根本的な解決なくして今回のような原油深海掘削施設の爆発事故や老朽タンカーの海難による原油汚染は後を絶たないといえよう。

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(筆者注5)“NIST”は米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)であり、1901年に設置された連邦商務省傘下の物理科学技術部門の最先端研究機関であり非規制・監督(non-regulatory )機関である。

(筆者注6) “UCS”が専門分野として専門家を擁している分野は次の8分野である。
①科学的公平性(scientific integrity)(この用語のもととなる理念はどのようなものであろうか。あくまで推測であるがオバマ大統領が2009年3月9日に連邦機関のトップ管理者に宛てたメモ「タイトル: Scientific Integrity」との関連を探ってみた。目指すところは同一なのであろう。大統領は「国民は公共政策の決定に当たっての科学と科学的過程を知らねばならないし、公務員は科学的・技術的な調査結果と結論を抑圧・変更すべきでない。また連邦機関は科学技術に関する情報の開発・使用するなら広く国民も利用できるものとしなければならない。この連邦政府は連邦機関の科学・技術過程の完全性につき最高レベルを保証するため「科学技術政策局長(Office of the Science and Technology Policy)」にその責を持たせた。」と述べている。)
 一方、この点でUCSサイト(Scientific Integrity)では連邦機関の科学情報の政治干渉により米国の直面する難問への対応能力を弱めている(まさに今回にBP社の原油流出への対応がその例にあげられよう)。連邦や議会の政策立案者は情報に基づく決定を行うため詳細な情報に依存する。このため我々はこれらリーダーたちが自身の健康、安全や環境を完全に守るため改革を後押しするのである。UCSサイトでもオバマ大統領に対する連邦政府の政策立案に関し具体的な科学的公平性勧告を行っている。

②地球温暖化(Global Warming)
③クリーンな乗り物(Clean Vehicles)
④クリーンなエネルギー(Clean Energy)
⑤原子力(nuclear Power)
⑥核兵器およびグローバルな安全性(Nuclear Weapons & Global security)
⑦食物と農業(Food & Agriculture)
⑧侵入生物種(Invasive Species)

 なお、余談であるが最近UCSからどのような研究分野で協力できるかについて照会メールが届いた(筆者はオブザーバ参加であるのであるが)。
内容文は次のとおりである。
“I want to personally extend a warm welcome, and tell you a little more about all that is available to you on our website and via e-mail.

First, I want to make sure you know that your involvement is helping UCS work for a cleaner, healthier environment and a safer world. Your
action supports and amplifies our independent voice for change that is
based on solid scientific analyses. And finally, your passion about the
issues helps motivate policy makers and business leaders to take
positive steps toward addressing some of the most critical environmental and security challenges of our time.

But beyond saying thanks, I want to let you know about the variety of
ways you can keep informed about our work together and take action on
the issues you and I both care so deeply about.”

Sincerely,

Kevin Knobloch
President

 ここまで読まれた読者は気が付くであろうが、筆者に対する「かすかな期待?」がうかがえる。さて、筆者は東大「サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)」等にもオブザーバーとして協力・参加しているのであるが、元々社会科学系の人間である筆者としてはどのように返事を書いたらよいのやら、誠意を持った対応は当然であるが、悩ましい限りである。


[参照URL]
・NOAAが発表した科学者の報告「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」
http://www.deepwaterhorizonresponse.com/posted/2931/Oil_Budget_description_8_3_FINAL.844091.pdf
・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220843.htm
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220841.htm
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」
http://www.iom.edu/Activities/PublicHealth/OilSpillHealth/2010-JUN-22.aspx
・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/reprint/176/6/610

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第6回)(その1)

2010-08-16 14:23:43 | 国際政策立案戦略

 

 6月29日付けの本ブログで、本年4月20日に発生した歴史的海洋汚事故である米国メキシコ湾「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig)爆発事故とその後の「MC252鉱区」の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心にとりあげた。

 その際、連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況や連邦内務省(DOI)による鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」の機能の抜本的機構改革とトップ人事について説明した。

 一方、わが国のメディアでも報じられたとおり、オバマ大統領は8月4日、NOAAが発表した政府および独立系専門家の25人の科学者の報告「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」を引用し、NOAAやDOIが8月4日付けで発表した流失原油の74%が回収または自然分解・蒸発により海中に残った原油は26%と推定する調査結果を述べた。
 また、泥等を油井に注入するMC252鉱区Macondo 海底油田におけるBP社の封鎖作業につき「完全封鎖(static kill)」工法(static kill技法とは海上から泥を詰め、その後セメントで固める。目標は全ての 原油を海底数マイル下の溜め池(reservoir)に戻し、油井を完全封鎖するというもの)
(筆者注1)につき8時間にわたり行われた同作業は望ましい結果が得られたと述べた。(筆者注2)

 これと時期を合わせ8月2日、連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)は漁業が認められる海域の海産物につきフロリダ州ミシシッピー州の「安全宣言」
(筆者注3)を行った。

 ここまでであれば、今回のブログをあえて書く意味は極めて薄い。筆者は「安全宣言」に関しNOAA等の資料を改めてこれまでの経緯を含め整理し、同時にNOAA・DOIがまとめた科学者報告の内容につき原資料の内容を検証してみた。

 専門外の筆者にとってこのような作業に意味はごく限られた科学的意味しかないことは十分承知しているが、内外のメディアが正確に分析していない2009年12月に欧州委員会が行った米国からの貝類(molluscan shellfish)および一定の水性無脊椎動物(marine invertebrates)等の本年7月1日以降の全面的輸入禁止措置決定や、米国の食品の安全性問題の専門家の意見についても正確に反映しなければ「真実」は永久に見えてこないし、消費者の健康は誰も保証できないと考えあえて本ブログをまとめた(オバマ大統領がミシシッピーを訪問した際、現地でシーフードを食したというAP通信やBP社の幹部がメキシコ湾産の魚介類を家族にサービスするというコメントを鵜呑みしてはいけない)。

 また、これらの作業を通じて筆者は連邦機関と州機関によるメキシコ湾沿岸の商業漁業の再開に向けた連携の内容と、そこから見える今回の安全宣言は決して十分な科学的根拠に基づく手法といえるのか、BP社の被用者が本当の被害の訴えを出来るのか、さらにわが国の海底開発や食品安全関係者による専門的検討やその公開が重要であるという確信が得られた。
 その意味で本文で紹介する全米科学アカデミー医学研究所(Institute of Medicine of the National Academies)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」の各アジェンダは網羅的かつ専門的であり、その内容は極めて興味がある。

 さらに補足すると「スペイン・ガリシア海岸沖のタンカー流失原油清浄作業者の長引く呼吸器系疾患(Prolonged Respiratory Symptoms in Clean-up Workers of the Prestige Oil Spill)」は2002年11月19日、スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故によるスペインやフランス等近隣国の清浄作業員や地元住民の健康や自然環境への影響の分析は数少ない研究成果として貴重なものであるが、米国行政・研究機関がどれほど重要視しているかは定かではない。

 今回は、4回に分けて掲載する。


1.NOAA・DOIが発表した「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか( BP Deepwater Horizon Oil Budget: What Happened To the Oil?)」の内容と意義
(1)本報告(全5頁)の要旨
 ここで報告書の内容についてあえて詳しく紹介する意義を述べて置く。
本報告のポイントは2点であり、4月20日のrig爆発から流失の封じ込めが成功したとされる7月15日の間の原油流質量は490万バレル(約78万キロリットル)と推計したこと、油膜など流失原油の海中に残っているのはそのうち約26%であるというものである。
わが国のメディアも報じているとおり、74%の内訳はBP社等による直接回収(17%)、海上での燃焼処理(5%)、手作業等によるすくいとり(3%)、処理剤による分散(8%)である。
また、バクテリアによる自然分解や気化で41%が消失したという内容である。
関係機関による今後のモニタリングや調査活動の重要性は継続するとともに連邦機関専属科学者によるメキシコ湾の生態系への重大な懸念は依然残されているという表現も残している。
筆者は報告書から次のような米国の大規模災害時の全米非常時指令官(National Incident Command:NIC)(筆者注4)を中心とする関係機関による具体的な活動内容に注目した。長くなるが、メディア報告以上にダイナミックに理解するため、以下のとおり仮訳する(専門外の訳文作業なので誤訳等があればコメントいただきたい)。

「全米非常時指令官(National Incident Command:NIC)は、BP 社のデープウォーター・ホライズンの原油が油井から流失した際、原油とその最終結果を見積るために多くの省庁の専門家による科学者チームを組成した。 これらのチームのメンバーとなる連邦機関専属科学者の専門的技術は、流失量の推定計算と流失結末を見直す民間および政府の専門家によって補完された。
 第一のチームは、原油の流速と総流失量を推定計算した。 連邦エネルギー長官スティーブン・チュウ(Steven Chu)連邦地質調査局(USGS)局長のマーシャ・マクナット(Marcia McNutt)によって指揮されたこのチームは、2010年8月2日に合計490万バレルの石油がBP Deepwater Horizon掘削パイプから流失したと見積もったと発表した。
 2番目の省庁チームは、連邦商務省・海洋大気保全庁(NOAA)と連邦内務省(DOI)によってリードされ、最終的に何が流出原油に起こったかを確定するために「流失原油の最終結末(Oil Budget Calculator)」と呼ばれる推計計算ツールを開発した。同ツールにより何が流失原油に起っているかを決定するとともに490万バレルの流失量の見積りを行った。 以下の関係省庁共同科学報告書は、同計算結果に基づき、これまでの原油の状況をまとめたものである。

 結論を要約すると、油源から流失されて、海上燃焼処理 (burning)、海面でのすくいとり(skimming)、および原油の直接回収により源由井からの流失源油の四分の一(25%)を取り除いたと見積もられた。 総油の四分の一(25%)が、自然に気化(evaporated)したか、または溶けた(dissolved)。そして、自然または清浄部隊の作業の結果、ちょうど四分の一(24%)未満は顕微鏡大の小滴としてメキシコ湾の水域に分散した。 残りの量とちょうど四分の一(26%)以上は 海面の上または海面のすぐ下で軽い輝く物(light sheen)として残り、乾燥タールの塊(weathered tar balls)となったり、岸に漂着するか、岸で集められるか砂と沈殿物の中に埋れた。 残余物や分散化カテゴリーに含まれる原油は分解された。 以下でのレポートは、それぞれのこれらのカテゴリーとその計算根拠について説明する。 これらの推定見積りは、追加情報が利用可能になるかぎり精査され続ける。
**********************************************************************************:

(筆者注1) 7月15日に油井にキャップを取り付け、ラムを閉めて原油流出を止めた以降、噴出につながる漏れがないか確認するため油井の圧力や周辺の海底を調査しているが、漏れは見つかっていない。作業は2段階で行われる。まず8月3日から、キャップの下部から泥を流し込んで油井を封じる「Static Kill」(静的封じ込め)と呼ばれる作業を実施する。
 1ガロン当たり30ポンドの泥を低速、低圧力で井戸に流し込み、原油を油層に押し戻す。
その5~7日後にリリーフ井戸の完成を待ち、リリーフ井戸からセメントを流し、油井を下から密封する。(7月29日現在で、流出油井から数フィートの位置まで掘削が進んでいる)
 BPは前回、同様に油井に泥やセメントを流し込む「Top Kill」を試み、失敗したが、この時は原油が流出している場面で実施した。
今回はキャップで流出は止まっており、成功の可能性は強いという。(8月2日付「化学業界の話題」から引用。)
 なお、連邦関係機関は直ちにセメントによる油井の完全封鎖を行うか、8月中旬までのリリーフ井の調査結果の基づき行うかを決定しなくてはならない。これには「リリーフ井(Relief Well)」(リリーフ井は現在原油流出が続く油井(本油井)から離れた場所(今回の場合は800m離れている)から斜めに井戸を掘り進み、本油井と交差する場所まで堀り、そこへセメント等を流し込み原油流出を遮断する方法である。この方法は原油フローを遮断する方法としては一番確実な方法とされている。― 2010 年 6 月10 日JPEC 海外石油情報(ミニレポート)より一部抜粋引用。)に漏れがないかどうかの調査が必要である。

(筆者注2) BP社のメキシコ湾原油流で事故専門ウェブサイト“gulf of Mexico Response”は8月5日付けで「BP Completes Cementing Procedure on MC252 Well 」と題してセメント注入作業は完全に遂行できたと報じている。また、BP社の探査・生産担当COOのデューク・シュトル氏(Doug Suttles)はMC252鉱区の今後について「BP社はメキシコ湾の流失完全停止が現下の最大の課題であり、reservoirの将来の活用については考えていない。またセメント注入がうまく行った元々掘削した穴(wellbore)や2つのリリーフ井については今後の油田開発の一部として使用することはない」と強調している。
 なお、BP社は流失封じ込め作業手順についての動画解説サイトで解説している。

(筆者注3) 確かにフロリダ州の商業的漁業海域の再開時のFDAのハンブルグ局長の声明は確かに「安全宣言」といえる内容である。しかし、本文で紹介したNOAA・DOIが発表した「ディープウォーター・ホライズンの結末:原油流失事故で結果的に原油に何が起きているか」の原文を再度読んでほしい。ここでは原油や分散剤の気化や処理がすすんでいる証拠は記載されているが魚介類等の安全性について直接は言及していない。

 また、8月5日付け朝日新聞夕刊は「FDAは2日、漁業が認められる海域の海産物について「安全宣言」を出した。」と報じているが本文で説明したとおり、商業的漁業許可海域は連邦管理海域と州の管理海域があり、またすべての漁業が再開されたわけではない(8月2日にFDA局長であるMargaret A. Hamburg氏が安全宣言したのはルイジアナ、ミシシッピー、フロリダの3州のみであり、7月30日時点でフロリダ州漁業・野生動物保護委員会宛送った通知でも漁業・またカニ(crab)やエビ( shrimp)についての検査結果は出ていない旨明記している)。朝日新聞が米国のどのメディア報道を元に書いたのかは不明であるが、このようなミスリードを招く報道は言うまでもなく「No」ある。

(筆者注4) NICは、地方自治体から州政府、連邦政府までの各行政レベルに散在する各種の資源を有機的に動員するため平時は別々の組織であっても、緊急時には相互が連携して統制のとれた活動ができるよう、あらかじめ災害対応手順、指揮命令系統、さらには用語を統一させておくといったもの。その管理システムを”National Incident Management System (NIMS)”という。


[参照URL]

・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
https://www.fda.gov/food/food-safety-during-emergencies/gulf-mexico-oil-spill
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
https://www.gulflive.com/mississippi-press-news/2010/08/mississippi_oysters_are_safe_t.html
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK209920/

・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://www.jpmac.or.jp/img/research/pdf/A201640.pdf

http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm220841.htm
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」
http://www.iom.edu/Activities/PublicHealth/OilSpillHealth/2010-JUN-22.aspx
・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://ajrccm.atsjournals.org/cgi/reprint/176/6/610

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第5回)(その2完)

2010-08-04 17:23:22 | 国際政策立案戦略

(2) 6月26日、アラバマ南部地区連邦地方裁判所に対するBP社とCorexitの製造メーカーであるNalcoに対し、2人のガルフコースト住民や資産所有者によるBPが多量に使用した原油化学処理剤(chemical dispersant)Corexit9500に関するはじめての吐き気(nausea)、めまい(dizziness)、息切れ(shortness of breath)等直接的身体疾患を理由に基づくクラス・アクション請求

・原告はGlynis H. Wright(19歳) と Janille Turner(19歳) の2人であり、事件番号「1:2010cv00397」である。

・原告側弁護士事務所はアラバマ州都モントゴメリーの大手法律事務所である「ビーズリー・アレン・ロー・ファーム(Beasley, Allen, Crow, Methvin, Portis & Miles, P.C.)」である。
なお、本事件の起訴状につき筆者なりに調べてみたが、見出しえなかった。しかし、同事務所のサイトでは簡単に見つけられた。同裁判所の電子有料検索サイトである“PECER”によることも考えたが時間と手間を惜しんだ。起訴状原本の検索方法としては、弁護担当のロー・ファームのウェブサイトに当たるのが一番近道であるという良い経験であった。

・訴因(causes of action)の内容は次のとおりである。
第一訴因は「過失(negligence)および危険性の放置(wantoness)」
第二訴因は「私的生活妨害(private nuisance)」(筆者注4)
第三訴因は「過去および現在継続する不法侵害(trespass)」(筆者注5)
本件では原告は“trespass to land”に 関しては「違法な土地リースまた恐喝的リース」および「原告の身体や合法的に占有する財産への有害な化学物質の分散剤の被曝(exposure)」である。
第四訴因は「過去および現在継続する暴行(Battery)」(筆者注6)

3.6月8日、ルイジアナ東部地区連邦地方裁判所に対するBP社の株主によるBP社や同社「安全性・倫理・環境保全委員会」等に対するクラス・アクション
・原告代表は、Lore GreenfieldとAlan R. Higgsの2人である。
・事件番号:「10-cv-1683」(告訴状原本は本件に関するlexisnexisの解説記事からリンク可)

・本訴訟の意義と内容(nature of the action)
本訴訟はクラス・アクションであり固有の手続が必要となる。その一例が“nature of the action” である。連邦民事訴訟規則第23条はクラス・アクション固有のルールを定めている。(筆者注7)
・わが国ではクラス・アクションの起訴状自体を直接読むケースが少ないので参考までに概要を紹介する。

1.本クラス・アクションは、2008年2月27日から2010年5月12日の間(クラス期間)、BP社の普通株式(BP sahares)および「米国預託証券(American Depository Receipts:ADR)」(筆者注8)の全購入・取得者を代表して被告の連邦証券法の違反に基づく包括的損害の回復をもとめるものである。
2.各ADRは6つのBP社株からなる。
3.本訴は、被告の安全性や運営の完全性とりわけ深海での原油掘削の取組みについての説明により誤った情報を得たBP社株やADRの購入した投資家を含む。
4.クラス期間を通じて証券取引委員会(SEC)、鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」に記録された資料およびその他の公的文書によると、被告はBP社について(a)メキシコ湾での原油探査や生産につき安全かつ信頼性がある方法を用い、(b)深海掘削技術を持ち、(c)深海掘削にかかる周知の流失などリスクその知識、手続を持つと述べてきた。
5.本起訴状の申立にかかわらず、被告はBP社の事業運営はとりわけ原油流失やその結果の関するリスクに関し不適切かつ安全性に欠くことを認識していた。

・被告:
BP社、BP explorastion & production inc.、CEOのAnthony B. Hayward、CFOのBryone E.Grote、探査・生産担当執行役員のAndy G. Inglis、BP社の「安全性・倫理・環境保全委員会(BP environmental assurance committee of the board :SEEAC)のメンバーであるCarl-Henrie Svanberg、Paul M.Anderson、Anthony Burgmans、Cynhia B.Carroll、William Castell、Erroll B.Davis、Tom Mckillop、およびBP社の日々の運営監視担当役員であり、連邦議会で証言したH.Lamar Mckay等である。

 特にBP社の「安全性・倫理・環境保全委員会(BP environmental assurance committee of the board :SEEAC)の現メンバー全員(非常勤役員)が被告となっている点で世界的企業における名目だけでない対外的責任の重さが理解できよう。
また、その法的責任を問う根拠として起訴状ではBP社の「2009年度年次報告書(BP annual Report and Accounts 2009)」の中の“Board performance and biographies”の2頁目に記載されている「BP社のガバナンス概要図(BP governance framework)」を起訴状に転記している。このことからもSEEACの責任を重要視していることは間違いない。

・クラス・アクションの対象となる申立内容
A.BP社の米国における刑事事件における安全面の過失
今回の申立内容は、本年4月20日に発生した爆発事故やその後の原油流失だけでなく2005年テキサス市で発生、15人が死亡(170人が負傷し、10億ドル以上の救済費用)した事故や2006年アラスカ州プルドー湾(Prudhoe Bay)の操作パイプラインからの流失事故等、過去のBP社の掘削施設等における原油流失、火災、爆発事故等についても対象としている。

B.BP社の業務運営の安全性に関する誤った一般イメージ

C.BP社の沖合いの原油掘削に関するリスクの無視
噴出防止バルブの安全性等に関する懸念の無視、掘削にあたり十分なセメンチング(cementing)やパイプ保護のためのケーシング(casing)の無視 (筆者注9)

D.被告CEOやCOO等のBP災害発生後の被害拡大の容認

E.市場に対する詐欺的情報提供
「2008年度BP社の戦略成果発表」「2008年度年次報告」および「BP社行動規範」等における株式市場を故意に(scienter)騙す行為を行ったことは「1934年証券取引法」に違反する行為である。

F.BP社の株主やADR購入者に対する損失の原因発生責任
その結果、事故発生時に60ドルしていたBP社の株価は7月初めには約30ドルと約半分に下がり株主やニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所の普通株主やADR購入者に多大な損失を生じさせた。

・本訴の原告代表の届出締め切りは、2010年7月20日である。
**********************************************************************************

(筆者注4) 米国法に詳しくニューヨーク州弁護士でもある平野晋中央大学教授の説明「アメリカ不法行為法の研究」は次のとおりである。「ニューサンス」(nuisance)の典型事例は、隣地の被告の運営する家畜飼育場からの悪臭や、空気や水の汚染により、近隣の土地に居住する原告が権利侵害を受けたと主張するものである。損害賠償を請求するのみならず、当該活動の差止を求めるインジャンクション請求が伴う場合も多い。すなわち「 ニューサンス」とは、近隣の土地使用および享受に於ける利益へのアンリーズナブル(理不尽)な侵害である。

(筆者注5) 不法侵害(trespass)は、①trespass to land(土地への不法侵害)は、土地の「占有権」(possession)の排他性を保護法益とすると、②「動産」(trespass to chattels)即ちpersonal property(人的財産・動産))の侵害の両者を含む概念である。前述の平野論文参照。

(筆者注6) 人を殴り、または唾を吐き掛けた場合のような、他人への違法な接触を対象とする類型が、「battery」(暴行)である。前述の平野論文参照。

(筆者注7) 連邦民事訴訟/規則第23条の仮訳を日弁連の消費者問題対策委員会が2007年6月にまとめた「アメリカ合衆国クラスアクション調査報告書」「資料1」として、弁護士の大高友一氏が仮訳されている。

(筆者注8) “ADR”とは「外国企業・外国政府あるいは米国企業の外国法人子会社などが発行する有価証券に対する所有権を示す、米ドル建て記名式譲渡可能預り証書」である。ADRの預かり対象は、通常は米ドル以外の通貨建ての株式であるが、制度的にはあらゆる種類の外国有価証券でも可能である。」野村證券「証券用語解説集」から抜粋。
 
(筆者注9)「 セメンチング」や「ケーシング」の石油や天然ガス掘削における安全性や生産性向上面での重要性について、東京大学エネルギー・資産フロンテアセンター長縄成実氏「最新の坑井掘削技術(その11)」(石油開発時報No.158(2008年8月号))が素人にも分かりやすく解説されている。

[参照URL]
[石油分散剤の有毒ガス化の危険性]に関するもの
https://www.nite.go.jp/nbrc/industry/other/bioreme2009/knowledge/accident/accident_3.html

[メキシコ湾の牡蠣業者による損害賠償請求(クラス・アクション)]
https://www.noaa.gov/explainers/deepwater-horizon-oil-spill-settlements-where-money-went
[原油化学処理剤Corexit9500に関するはじめての吐き気、めまい、息切れ等直接的身体疾患を理由に基づくクラス・アクション]
http://www.beasleyallen.com/newsfiles/07%2026%202010%20-%20Wright%20Complaint.pdf (告訴状の原本)

[BP社の株主等によるクラス・アクションの解説レポート]

BP Oil Spill Lawsuits and Legal Issues | Nolo

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第5回)(その1)

2010-08-04 17:05:47 | 国際政策立案戦略

 

 6月24日付けの本ブログで米国連邦環境保護庁(U.S.Environmental Protection Agency:EPA)は「メキシコ湾原油流失に対するEPA対応」サイトを立ち上げ、同サイトでは、まず「BP社による原油分散化剤(dispesants)の安全性、環境面から見た解説」を行っている旨紹介した。
 その際に、EPAはBP社が使用する原油分散化剤は「2-Butoxyethanol」 および「2-Ethylhexyl Alcohol)」と説明していた点につき、筆者もまったくの専門外ではあるとはいえ、その危険性についてほとんど認識せずにEPAの情報開示は十分に行われているとコメントしていた。

 しかし、為清勝彦氏が主催・翻訳する2010年6月11日付けのブログ(Beyond 5 senses)「メキシコ湾に撒かれている分散剤コレキシット(Corexit)の有毒性」(筆者はマイク・アダムス(米国のヘルス・レンジャー)や6月14日付けのプロジェクト綾氏のブログ「原油流出:懸念される『分散剤』の環境汚染」を読んで唖然とした。

 後者によると、米国連邦環境保護庁(EPA)は「コレシキット(Corexit) 9500 およびCorexit 9527」の化学成分につき6月8日に公表している。そもそも薬品の化学成分の内容は最もレベルの高い企業秘密であり、EPAもやっと聞き出したようである。

 その大規模な環境汚染問題とともに(1)2010年6月8日、BP社の株主2名によるメキシコ湾のディープウォーター・ホライズン原油流失事故発生前における株主への情報開示を意図的に怠ったとして、BPグループのCEOであるAnthony  Bryan "Tony" Hayward 等を被告とする告訴(クラス・アクション)が行われ、また(2)ルイジアナ州の牡蠣(かき)採取業者グループ(oystermen)は2010年6月16日、ルイジアナ東部地区連邦地方裁判所に「実質的損害賠償(actual damages)」および「金額不特定の懲罰的損害賠償(unspecified amount of punitive damages)
(筆者注1)」の告訴(クラス・アクション)を行った(身体的被害訴訟ではない)。

 さらに(3)6月26日にはBP社とCorexitの製造メーカーであるNalcoに対し、2人のガルフコースト住民や資産所有者によるBPが多量に使用した原油化学処理剤(chemical dispersant)によるはじめての「吐き気(nausea)」、「めまい(dizziness)」、「息切れ(shortness of breath)」等直接的身体疾患を理由とする申立がアラバマ南部地区連邦地方裁判所(クラス・アクション)に起こされた。

 今回のブログは、(1)日常生活の中で、わが国の一般メディアではほとんど報じられていない石油分散剤の有毒ガス化の危険性や我々自身が安易な化学物質汚染を引き起こしている日常性の怖さを関係レポートやブログに基づき解説し、(2)前記3つのクラス・アクション裁判の訴状の内容を中心に解説する。
 なお、6月中旬で州および連邦裁判所への原油流失事故に伴うBP社等の告訴は230件以上あるとされており、アラバマ南部地区連邦地方裁判所だけで見てもBP社関連の訴訟は環境破壊、土地への不法行為、財産物への損害賠償事件が数多く係属されており、その意味で裁判籍問題も含め裁判上でも多くの課題を生じさせているといえる。
(筆者注2)

 今回は、2回に分けて掲載する。


1.3つのメキシコ湾原油流対策の人体への直接的影響を論じた小レポート」
レポート1「メキシコ湾のBP石油噴出の有毒ガスから身を守る方法(2010年7月10日)」、レポート 2「メキシコ湾の石油漏出対策に関する17の疑問(2010年6月19日)」、レポート3「石油分散剤コレキシット(Corexit)の有毒性(2010年6月11日)」のインパクトについて述べておく。
これらの小レポートは、いずれも為清勝彦氏が米国の関係者のレポートを訳したものである。同氏のメキシコ湾の原油流失事故に関するブログはこの他にもあるが、ここでは代表的なものを取り上げる。
 とりわけ、[レポート1]によると「今回関係者が焦点を当てている有毒ガス発生のメカニズムは1989年3月24日アラスカ州プリンスウィリアムサウンドにおける「エクソン・バルディス号」座礁事故においてエクソンが使用したもので何千人もが被害を受けた。当時の清掃作業に直接関わった人で、今も存命している人はいない。平均死亡年齢は51歳だった。エクソンは、苦しむ人々に医療費を払わずに済ませている。
このあまり役に立たないが非常に有毒な分散剤は、イギリスでは禁止されているが、BPはEPA(環境保護庁)の求めにもかかわらず、使用中止を拒んでいる。・・
汚染物質としては、硫化水素、ベンゼン、塩化メチレンである。かなり有毒だ。・・
2つの防護手段がある。活性炭粉を塗布したマスクと、室内用の空気フィルターである」と説明されている

 また、[レポート2](筆者は米国のヘルスレンジャー:マイク・アダムス)では、訳者は次のような極めて現代資本主義社会の根本的問題を投げかけている。「マイク・アダムズが訴えているのは、企業による政府の支配の問題である。我々は、国営など公共事業は非効率であり、「自由競争」の私企業こそが素晴らしいという思想を刷り込まれてきた。確かに公共事業の職員には態度の悪い人が多いため、実感的にも受け容れやすい発想だった。だが、一方で、厳しい競争にある私企業は「お客様は神様」と態度は柔らかいが、笑顔で消費者を騙す。つまり、エラそうな態度に嫌な思いをするのと、おだてられて騙されるのと、どっちが良いかという究極の選択に過ぎず、実は問題の本質は、民営か公営かではなく、競争の有無でもない。」
本文で紹介されている米国政府等の対応の問題点は、米国の先進的とされるメディアの視点をさらに超えた批判的内容といえよう。

 なお、英国海洋管理機関(Marine Management Organisation:MMO) (筆者注3)は2010年5月18日に「英国における石油流失時処理剤の使用認可一覧」を公表している。その最終10頁で“Corexit 9500”は1998年7月30日に本一覧から削除されている。これに基づき欧米の関係者が英国では“Corexit 9500”の使用が禁止されていると述べているのである。

[レポート3]は、まさに今回取り上げている「石油分散剤コレキシット(Corexit)の有毒性」についての危険性問題である。
 その中で特徴的に感じた点は「住まいの洗剤、化粧品、園芸用品など、全般的にアメリカの大企業では日常製品に含まれる有毒化学薬品は危険な秘密のままである」と言うくだりである。わが国との比較において訳者の為清氏は「日用消耗品の危険物質の日本国内における表示義務については、よく調べたわけではないが、例えば「化学物質等の危険有害性等の表示に関する指針」という労働省の告示に次のような条項がある。その第5条では「前2条の規定は、主として一般消費者の生活の用に供するための容器又は包装については、適用しない。」とある。
第3条(譲渡提供者による表示)は「 危険有害化学物質等を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、当該容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供する場合にあっては当該容器。次条において同じ。)に、当該危険有害化学物質等に係る次の事項を表示するものとする。以下略」
第4条(譲渡提供者による表示)「危険有害化学物質等以外の化学物質等を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、当該容器又は包装に当該化学物質等の名称を表示するものとする。」

 この点につき、為清氏いわく「確かにシャンプーや歯磨きに髑髏マークの警告が付いていると不快な思いをするので、一つの「やさしい」心遣いであろう。」と皮肉られている。

 また「ヘルスレンジャーの指摘する通り、有害化学物質で髪を洗いながら、メキシコ湾の石油災害を心配するのも変な話である。確かに、家庭排水から下水道を通じて河川や海を汚すことと、飛行機で空中から有害物質を散布することに、本質的な違いは無いだろう。」と言う言葉が強く印象に残った。

 とりわけ筆者自身、石油分散剤の気化による有毒ガス問題についてはほとんど認識がなかった。

2.牡蠣業者による損害賠償請求(クラス・アクション)および原油化学処理剤
(chemical dispersant)による身体被害者からの告訴(クラス・アクション)

(1)2010年6月16日、ルイジアナ東部地区連邦地方裁判所への実質的損害賠償(actual damages)および金額不特定の懲罰的損害賠償(unspecified amount of punitive damages) 請求
・原告はスコット・パーカー(Scott Parker)、スコッチ M.デュファレン(Scottie M. Dufrene) )、ジェス・ランドリィ(Jesse Landry)、レオン・ブルネ(Leon Burunet)は個人およびクラス・アクション代理人として告訴した。

・起訴状によると“actual damages”として、「原告の経済的ならびに補償(economic and compensatory damages)として500万ドル(約4億3,500万円)以上」とある。

・訴因(cause of action )は過失(negligence)である。項目23(起訴状8頁以下)の内容に基づき補足する
 原告が集めた情報および確信にもとづき、全被告は次のとおり直接または間接的に「Corexit® 9500」の空中散布を行った。
a.原油そのもの以上に有毒な(toxic)化学物質を散布した。
b.メキシコ湾の浄化と原油の除去にかかる財政負担の軽減化を図るため100万ガロンになる大量の有害化学物質を散布した。
c.海底に有害物質を取り込ませることでメキシコ湾の生態系システムを恒久的に変えた。
d.化学物質により数百人の湾内の清掃作業員に疾患を引き起こさせた。
e.被告のその他の原因となる行為については証拠開示手続および審理公判で明らかにする。

  **********************************************************************************
(筆者注1) 6月18日付けの“Bloomberg Businessweek”の記事では“unspecified punitive damages ”と記載されているが専門用語としてはおかしい。筆者は独自に関係サイトで調べてみたが起訴状原本の以下の記述等から見て“unspecified amount of punitive damages”が正しいと思う。
JURISDICTION AND VENUE:This Court has jurisdiction over this class action pursuant to 28 U.S.C. §1332 (d) (2) because the matter in controversy exceeds the sum or value of $5,000,000, exclusive of interest and costs and it is a class action brought by citizens of a state that is different from the state where at least one of the Defendants is incorporated or does business.

(筆者注2) アラバマ南部地区連邦地方裁判所に現在係属しているデイープウォーター・ホライズン・リグ事故に関する訴訟については、筆者は米国訴訟検索サイトの“Justia .com”で調べた。

 また、米国連邦裁判官会議(U.S. Courts)が8月3日に発表した連邦裁判所の裁判管轄を決める「広域係属訴訟司法委員会(Judicial Panel on Multi-District Litigation)に関し、メキシコ湾原油流失事故に伴う大規模裁判移送・統合等に関する意見書(証拠開示手続(discovery)の重複、無節操な正式事実審理前手続(pre-trial rulings)の防止、訴訟当事者・弁護士や司法関係者の人的資源の節減の働きかけ)や7月29日付けの Bloomberg.co.jpの記事「BPと米政府や原告:流出事故関連の裁判、最初の審理場所めぐり対立 」を参照されたい。

(筆者注3) わが国の海洋政策研究財団の論文「 平成21年度総合的海洋政策の策定と推進に関する調査研究各国および国際社会の海洋政策の動向報告書」(2010年3月)37頁以下で同法制定の経緯や海洋管理機関の活動内容につき次の通り解説している。英国の海洋開発や環境戦略が鮮明に書かれており、米国の取組みと比較する上で貴重な論文である。
「海洋管理機関は、今回制定される海洋法に基づいて設立され、イギリス海洋管理において主導的な立場をとり、環境・食糧・農村地域省大臣を通して議会への報告任務を持つ機関である。また、環境・食糧・農村地域省大臣は、海洋管理機関が持続可能な開発の達成に寄与する様、管理局に対し指針(guideline)を出し、大臣はこの指針の準備において、海洋管理機関の機能と資源を勘案して、海洋管理機関と協議する義務がある。
海洋及び沿岸アクセス法は、すでに競合する海域利用の調整と今後の新たな海域、および海洋資源利用の実施を戦略的また包括的に行う事を目的として制定された。 単一の法制は、海洋における活動を管理する為これまで重層化していた開発に関する手続きを環境アセスメント等の管理制度の質を下げることなく効率化する。さらに、同法制の利点として、今後気候変動等の環境変化によって生じる海洋の利用・管理への影響とその対策に、政府の柔軟な対応を促す事が可能になる。また、沿岸域管理と直接関連する事項として、同法制において「沿岸へのアクセス」という項目を新たに加え、散歩等による国民の沿岸地域環境への触れ合いを促す事を政策の重要な目的として提示している。

 なお、為清氏の訳ではMMOを「海務局」とされている。しかし、MMOのHP“About us”では「2009年海洋および沿岸アクセス法(Marine and Coastal Access Act 2009)」に基づく特定の省庁の直下には属さない無所属公的行政機関(NDPB: Non Departmental Public Body:NDPB)として運営され、政府から一定の距離を保った自律的組織であるのが特徴」とされている。
 NDPBの意義ならびにその法的解説や訳語につき、わが国では正確なものが少ない。
「独立行政組織」、「独立行政法人」「非省公共団体」等と正確な意義も含め遅れている。


[参照URL]
[石油分散剤の有毒ガス化の危険性]に関するもの
・http://tamekiyo.com/documents/healthranger/toxicair.html
・http://tamekiyo.com/documents/healthranger/bp17q.html
・http://tamekiyo.com/documents/healthranger/corexit.html
・http://eco-aya.info/energy-news/67-2010-06-14-06-58-23

・FDAのフロリダ州沖の海産物の安全宣言
https://www.fda.gov/food/food-safety-during-emergencies/gulf-mexico-oil-spill
・FDAのミシシピー州沖の海産物の安全宣言
https://www.gulflive.com/mississippi-press-news/2010/08/mississippi_oysters_are_safe_t.html
・全米科学アカデミー医学研究所(IOM)が7月22日、23日に主催した研究会「メキシコ湾原油流失による人の健康被害に関する科学的評価」

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK209920/

・欧州委員会の輸入品目規制のうち「第三国リスト」に関する決定
http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=OJ:L:2009:328:0070:0075:EN:PDF
・2002年スペインのガリシア海岸沖で発生した老朽タンカー「プレステージ号」の海洋汚染事故の人体への影響検査報告
http://www.jpmac.or.jp/img/research/pdf/A201640.pdf

[メキシコ湾の牡蠣業者による損害賠償請求(クラス・アクション)]
・http://www.courthousenews.com/2010/06/17/Disperse.pdf(告訴状原本)

[原油化学処理剤Corexit9500に関するはじめての吐き気、めまい、息切れ等直接的身体疾患を理由に基づくクラス・アクション]
・http://www.beasleyallen.com/newsfiles/07%2026%202010%20-%20Wright%20Complaint.pdf(告訴状原本)

[BP社の株主等によるクラス・アクションの解説レポート]
・http://www.lexisnexis.com/Community/emergingissues/blogs/gulf_oil_spill/archive/2010/06/13/shareholders-pursue-class-action-suit-in-eastern-district-of-louisiana-for-misleading-investors-over-deepwater-horizon-gulf-oil-spill-by-bp.aspx(告訴状原本へのリンク可)

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第4回)

2010-07-16 14:12:23 | 国際政策立案戦略


 Last Updated:February 23,2021


 2010年6月24日付けの本ブログ6月29日および7月9日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応や欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員の証言を中心に3回にわたりとりあげた。

 今回は引き続き、ルイジアナ連邦地裁判決が出した連邦政府が発布した6か月間の掘削猶予モラトリアムに対する仮差止命令の意義や国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG)、連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)の対応等について解説するつもりであった。

 しかし、ここに来てこの問題が長期化し米国経済に大きなマイナス材料となることを予想させる情報が筆者の手元に入ってきたので急遽取り上げる。

 すなわち、7月14日に連邦金融監督機関である連邦準備制度理事会(FRB)、連邦預金保険公社(FDIC)、財務省通通貨監督局(OCC)、財務省貯蓄金融機関監督庁(OTS)、全米信用組合管理機構(NCUA)および州銀行監督機関協議会(CSBS)が連名でディープウォーター・ホライズン事故で影響を受ける金融機関やその顧客保護のための支援策を表明したことである。

 連邦機関が、大規模災害時にこのような金融支援策を打ち出すことは今までも珍しくない。また、本文で紹介するとおりその内容は決して即効性があるとは思えない。金融監督機関の姿勢を表明する程度かも知れないが、逆にこのような定型的な施策しか打ち出せないことが米国の悩みの証左といえるかも知れない。


1.取組みの背景
 金融監督機関は金融機関が顧客とともに行動し、この状況下で影響を受ける借り手を支援し、あわせて結果的に地域コミュニティに良い影響をあたえる手段を検討することを強く促す。ガルフ・コーストに沿った地域ではかなりのビジネスに混乱や損害が発生した。この大規模災害に対応して、金融機関は顧客やコミュニティの重要な金融ニーズに合致すべく各種手段をとりうる。

 この点で、金融監督機関は金融機関に対し、今回の大規模災害により影響を受けたと証明する顧客に代替手段を配慮するよう奨励するものである。その代替手段とは次のようなことを含む。

2.金融機関が取るべき顧客支援策例
①貯蓄性定期預金(CD)の満期前解約に対するペナルティ処分(early withdrawal of savings)、ATM手数料および住宅ローンの返済遅延に対して課される遅延支払金(late payment charge)の自主的撤回。

②融資希望者において安全性および健全性に合致する場合、可能な限り貸付決定の実行。

③BP社への損害賠償請求を見越した融資債務者に対する融資実行や融資契約の再設定。

④良識的な銀行の行動に合致する一定の借り手に対する与信条件の緩和や手数料の引下げ。

3.これらの対応による金融経営面の影響に関する金融検査官の検査内容
 これらの手段は顧客が財政的に回復に寄与するかも知れないし、また彼ら自身債務を履行する上で良い立場におくことになるかも知れない。被害を受けている地域では、これらの努力が地域社会の健全性や金融機関とその顧客にとって長期的利益に貢献するといえる。
 債務契約の修正や返済条件の緩和措置を考慮して、金融検査官は金融機関が出来る限り迅速に損失を推計し、適切に与信損失を認識するよう期待するであろう。

 その上で、検査官は金融機関が内部の融資に当たっての融資格付け方法の完全性を保持しつつ、影響を受ける与信の保持、適切な未収利息計上の地位、影響を受ける与信を保持しているかを検査するであろう。

 もし影響を受ける金融機関の自己資本比率において重大な低下が起こることが見込まれるときは、金融検査官は金融機関の取締役会が時宜にあった資本増強を実行させる十二分な資本回復経計画をたてるかにつき考慮することになろう。

[参照URL]
http://www.fdic.gov/news/news/press/2010/pr10155a.html

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第3回)

2010-07-09 16:58:55 | 国際政策立案戦略

 6月24日付けの本ブログ6月29日のブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失について連邦監督機関の対応を中心に2回にわたりとりあげた。

 今回は、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している状況を反映するため、さる7月7日、欧州委員会エネルギー担当委員のギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏(ドイツ)が欧州議会総会で行った「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチの内容を仮訳で紹介する。

Günther Oettinger

1.欧州議会総会での欧州委員会エネルギー担当委員のスピーチ
 2010年7月7日、欧州議会総会で欧州委員会エネルギー担当委員ギュンター・エッテインガー(Günther Oettinger)氏は「沖合い(offshore)の原油探査や採取についてリスク、責任および規制強化」と題するスピーチを行った。欧州委員会の域内の関係大手企業へのアンケート調査の実施や加盟国の規制監督機関や法制度のあり方につき対策の考えが明示されているので、ここでその要旨を紹介する。(筆者注1)

2.要旨
・本年5月の本総会において私が初めて本件につきスピーチを行った時は、域内の沖合いの原油掘削大手企業の代表者を召集した時期であった。私は各企業の安全政策の精査に関するアンケートの回答を要請した。

 我々は来週7月14日開催の会合で、潜在的な弱点を特定するため適用すべき基準と手続の双方を見直すつもりである。私は、その翌15日に欧州議会環境委員会(European Parliament environment committee)を開催し、その結果を踏まえたエネルギー委員としての提案を行うつもりである。これと並行して関係する委員会事務局で既存の法律を詳しく調査している。

 エネルギー委員会の調査の中間結果で、沖合い採掘の安全性に関し多くの複雑な法律が関わっていることを示している。しかしながら、法律の数自体はあまり多くはない。重要なポントは以下の点である。

①これらのすべての法律は損害発生後のフォローアップと同様、リスク管理とその予防のために十分完全な形で適用できるであろうか?
 この答えは簡単ではない。これは私が最も関係が深い委員会の仲間であるクリスタリナ・ゲオルギエヴァ(Kristalina Georgieva (EU International Cooperation, Humanitarian Aid and Crisis Response Commissioner) (筆者注2)マリア・ダマナキ(Maritime affairs and fisheries Commissioner) (筆者注3)ヤネス・ポトチュニック(Janez Potočnik (Environment Commissioner) (筆者注4)と緊密に働いている理由である。

 我々の考えは、手続のすべての過程で被害の予防から対処や責任問題についてカバーできる体制にもっていくことであり、この意味で本日、私の次にスピーチするマリア・ダマナキ氏は、我々が直面している海事問題に関しメキシコ湾大事故を文字通り潜在的再生可能な海洋エネルギー(renewable ocean energy)の確保の機会としてどのように変えうるかにつき言及するであろう。

 いかなる適切な規制制度がありまた監督されていても、第一に取組むのは産業界であり個々の企業である。彼らが完全に責任を持つべきことを理解しているがゆえに安全問題は最大の関心事であらねばならない。彼らは彼らの側から100%安全第一主義政策を維持しなくてはならない。安全には抜け道はない(Safey is not negotiable)。
 運用方法と労働者の安全性に関し、我々はEUの法律が定める基準や諸原則は高いレベルを提供していることを確認した。

 企業の責任に関し、「汚染実行者が支払う」と言うのが環境賠償責任の基本原則である。全体的に見て欧州の適用法は、この種の産業活動に伴うさまざまな危険と挑戦について記述しており役に立つといえる。
 しかしながら、改善の余地があることも見出している。現行法制をより明確化し最新の内容にすることが出来よう。今後数ヶ月以内に我々は必要と判断するなら立法上のイニシアティブをとることに躊躇しないので安心していただきたい。

 また、このことは私が7月14日に加盟国の規制や監督当局のとの会合を開く理由である。ポトチュニックやダマナキ委員とともに安全性強化のための具体的措置につき論議する予定である。規制上の問題と同様に運用面の問題が議論されるであろう。規制面の問題について、私はEU基準が世界で最も厳しい体制を維持するため可能な限り最高に高いレベルに設定したいと考えている。
 同様にコントロールが有効であるという確証を得たいと思う。この点につき、私は必要なら「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」ための欧州の枠組み造りを提案することも辞さない。

②7月中旬に私はEUの行政機関や立法担当者とともにワシントンに出向きディープウォーター・ホライズン原油流失事故の最も最近時の対応につき論議する予定である。
 私は、このような対話が国際基準強化を確実にする上で重要であると信じる。状況の正確な調査結果を持つためにはメキシコ湾における原油流失の正確な真の原因を知る必要があることは明らかである。しかしながら一方で、正確な原因を知る予防対策(precautionary principle)が優先されるべきである。この点につき米国やEUでない国のいかなる監督機関も予防措置を実行するよう助言を受けるであろう。

③最後に、EUの安全と環境を維持するため取るべき行動につき重要な5つの点につき概観する。これは事故の予防、救済および責任と関係する。

1.迅速な対応行動
 さしあたりあらたな油田掘削につき最大の警告を発しなければならない。一般的にいわれているとおり、現在の状況下ではいかなる責任ある政府も実際あらたな掘削の許可は凍結させるであろう。このことは事実上事故原因が判明し、ディープウォーター・ホライズンによって実行される最先端の運用のための是正手段が取られるまではモラトリアムが発動することを意味する。

 各国政府は産業界がより安全性を改善のため、取りうるすべての手段を立上げ、極端な天候や地球物理学状況下で適用可能な最も高いレベルに合致する災害阻止を実行できることを確認する必要がある。緊急対策計画を見直し、もっとも良い実践結果に基づき強化しなくてはならない。許可手続において現場の重大な事故発生時に担当オペレーターが特定の操作能力についてデモンストレーションを必要とすべきである。これと同様に、企業には引き起こされた損害に対し完全に責任を持てる財務力も必要である。我々はこのことにつき特別な欧州基金やその他の適切な堅固たる付保義務にかかわらず、何が最もよい道具となりうるかを良く考えなければならない。

2.強固な認可体制を通じるだけでなく徹底した調査と管理により既存の事故予防レベルを再強化すべき
 各国の監督機関と欧州レベルの機関の分業はもはや十分でない。相乗効果を育て相互の協調効果を高め、かつ「企業の管理者を管理する(controlling to controllers)」といったあらたなモデルを必要とする。我々は産業界の安全実績と産業界を監督する公権力の警戒にとって透明性を増す必要がある。

 国民には知る権利があり、かつあらゆる許された情報にアクセスできる権利を持つ。透明性は最大の法遵守と予防措置を確実にする上で強い同盟者である。

3.既存の法令に基づく「負荷試験(stress test)」の完全実施
 遅滞なく我々は現行法令の分析と完全実施し、改善のための可能な弱点・ギャップ・改善の余地を特定するための適用基準を完全に実施しなければならない。我々の法律制度の枠組みは、最善の業界実践と明確な責任体制に対し、安全に関する最高の水準を保証することにある。

 最終的な分析結果において示される正確な弱点が何かによって、我々は既存法の改正または沖合いの掘削活動に関する特別な立法であれ、それに対応する立法案を提示することに躊躇はしない。

4.我々は欧州レベルでどのように災害をコントロールし、災害介入メカニズムで強化できるかにつき考えたい。
 これらの仕事は、現在欧州委員会のモニタリング・情報センターを介した支援を含む総合的なEU災害対応能力の一層の強化問題として進行中である。
 リスボンに本部のある「欧州海保安庁(European Maritime Safety Agency)」は、すでにそのような施設の原油流失事故において有意義な介入を行っている。他方で、査察や検証活動等の予防的責任は現在のEMSAとは完全に異なる能力が必要となる。我々はそのような能力をどこの機関がどのように開発するか、陸地での掘削と海での掘削とで分けるべきかという問題も含め十分に反映すべきと考える。

5.既存の国際または地域の安全基準の強化のため国際的な協力を行いましょう

***********************************************************************************:
(筆者注1) 筆者は7月7日のスピーチの件は 7月7日付けのブルームバーグの記事で読んでいた。念のためEUの公式リリース“Pressrelease RAPID”で確認したところ公表されており、また欧州委員会の取組みの基本姿勢が明記されていたので急遽仮訳した次第である。

(筆者注2) クリスタリナ・ゲオルギエヴァはブルガリア出身(新任)で欧州委員会の国際協力・人道援助・危機対応担当委員である。

(筆者注3) マリア・ダマナキはギリシャ出身(新任)で欧州委員会の漁業・海事担当委員である。

(筆者注4) ヤネス・ポトチュニックはスロヴェニア出身(再任)で欧州委員会の環境担当委員である。

[参照URL]
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/10/368&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://www.bloomberg.com/news/2010-07-07/eu-energy-chief-urges-ban-on-new-offshore-drilling-until-bp-probe-finished.html

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その3完)

2010-06-29 12:55:48 | 国際政策立案戦略

Ⅲ.連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)機能と役割の取組み
 わが国では一般的に知られていない“NOAA”の役割とはいかなるものであろうか。「大型タンカーなどからの油流出事故は深刻な海洋環境汚染を引き起こし、漁業や観光産業、海上交通などに大きな被害を及ぼす。大規模な油流出事故が発生した場合、被害を最小限に食い止めるには、初期の段階での適切な漂流予測に基づいた防除活動が重要である。(中略)
海上保安庁水路部海洋調査課は本分野に長年の経験を有する米国(NOAA)の危険物流出対応室(HAZMAT)を訪問して、災害発生時の漂流予測及びその精度向上について情報収集及び意見交換を実施して、今後の漂流予測体制の強化を図る。(以下略)(平成11年「漂流予測の高度化に関する交流育成」 海上保安庁水路部海洋調査課の報告)より引用。

 実際、その提供するメキシコ湾の図は分かりやすく、ディープウォーター・ホライゾンの連邦政府専門サイト“Deepwater Horizon Response”でもNOAAの解析図等を多用している。

 では、今回の原油流失に関しNOAAの対応はいかなる内容であろうか。専用サイトの解説内容を見ておく。
(1)NOAAとニューハンプシャー大学の海岸線対応調査センター(the Coastal Response Research Center)が共同開発した“Environmental Response management Application”によるウェブベースの“Geographic Information System (GIS) tool”プラットフォームである“GeoPlatform.gov/gulfresponse” は、リアルタイムで原油流失やBPや関係機関の対応状況を把握できる。

(2)毎日の更新情報(6月22日現在)
①連邦政府の指示で、BP社は封じ込めドームの技術(containment dome technique)を利用した原油の捕獲と水面上のガスの燃焼を継続している。
②トランス・オーシャン社が保有する大型海洋深海油田掘削船「ディスカバラー・エンタープライズ(Discoverer Enterprise )」による原油回収に加え、政府の指示により導入された原油排出部のライザー管につないだ「Q4000」による閉鎖線(choke line)から吐き出された追加的な原油とガスを燃焼し続けている(この状況は写真参照。上がQ4000で、中央が「ディスカバラー・エンタープライズ」であり、燃焼の炎が見れる)。

 この24時間で25、836バレル (筆者注7)の原油が回収できた。この数日は天候が比較的よくガス等の燃焼運用は成功裡に行われている。合計275箇所のガス燃焼作業の結果、932万ガロン以上の原油の撤去が行われた。

(3)NOAAの取組み
 NOAAは、連邦、州および地方政府に対し連携した科学的気象や生物学的取組みに関する情報を提供する。各関係機関の専門家は原油の流失を阻止し、またメキシコ湾の多くの海洋哺乳類(marine mammals),海がめ(sea turtles)、魚、貝等海中の生物の命を助けるため動き回った。NOAAは天候がよければ毎日上空飛行による観測を行い、原油のモデル拡散軌道(model trajectories)の検証を行っている。

(4)原油拡散軌道(Trajectories)予想
 メキシコ湾では水曜日(6月23日)は圧倒的に陸に向かって5~12ノットのスピードで南東の風が、また木曜日(6月24日)は東北東の風が吹くと予想される。拡散軌道はミシシッピー湾内の西向きの流れが東に向けた油膜の更なる動きが始まることを示している。ミシシッピー州のホーンアイランドとフロリダ州のパナマシティはこの予測期間中に海岸線は危険にさらされると見込まれる。また、しつこい南東の風によりルイジアナ州沖のシャンドルール諸島やブレトン・サウンド(Breton Sound)やミシシッピーデルタ地域が危険にさらされると予想される。

 FOAAは、上空飛行、船舶による観測および衛星解析で当該地域をモニタリングし続ける。

(5)漁業活動閉鎖地域指定
 本日(6月22日)、NOAAは現行の漁業閉鎖海域の変更を行っていない。現行の閉鎖海域は6月21日に施行された内容である。魚等の捕獲、放流やレジャーでの魚釣りは禁止されるが、同海域の運航は認められる。閉鎖海域の広さは8万6,985平方マイル(22万5,290平方キロ)であり、メキシコ湾案の排他的経済水域の約36%である。

(6)海ガメと海洋哺乳類のアセスメント結果(2010年6月21日有効)
 4月30日から6月21日の間、テキサス・ルイジアナ州からフロリダ州のアパラチコーラ(Apalachicola)の範囲で計527匹の海ガメが確認された。6月20日(日)と21日(月)の間で13匹のカメが浜に打ち上げられて死んでいるのが見つかった(ミシシッピーでは10匹、アラバマ州で2匹、ルイジアナ州で1匹である)。
 10匹の生きているカメは沖合いの鳥類やカメの調査を行っている間、ルイジアナ州漁業省に集められたがそのうち2匹は明らかに原油に汚染されていた。
 4月30日以降、合計92匹の海岸に打ち上げられたり捕獲されたカメには明らかに外的な原油に汚染された形跡が見られた。

Ⅲ.NIHの取組み
 連邦国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH))は、連邦保健福祉省(HHS)の下部機関であり、国民の健康や生命の安全性等に関する多くの調査研究を行い、具体的リスクに対しては警告を鳴らす機関である。当然、今回のディープウォーター・ホライゾン事故の住民の健康への影響調査結果を網羅できる専門サイトを立ち上げている。
NIHには「国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)」が設置されており、そこには「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」を設置、今回の事故対応として「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」という専門サイトが用意されている。
 同サイトは“crude”とは言いながら、主要連邦機関には見られない網羅的内容であり参考となるのでやや詳しく説明しておく。

①特徴的サイト:連邦政府の一元的ディープウォーター・ホライゾン対策専門サイト(Deepwater Horizon Response) (筆者注8)やNOAAの取組み
②概観:連邦環境保護庁(EPA)やNOAA、保健福祉省・疾病対策センター(CDC)の取組み
③保健情報:HHSやCDCの取組み
④流失した原油の拡散状況、全石油炭化水素(Total Petroleum Hydrocarbons :TPH )の状況(Crude Oil)
⑤石油分散剤(Disperants)の使用と影響
⑥海産物等への影響(seafood and fisheries contamination)
⑦対応と復旧対策
⑧関係州の専用サイトとのリンク
⑨Facebook 、Twitter、Youtube等SNSとのリンク

*********************************************************************************************:
(筆者注7) 1日あたりの原油回収量 25,836バレルの量はどれくらいか、イメージが浮ばないであろう。1バレル = 159リットルであり、4,108キロリットルとなる。この数字は関係機関の当初の予想を上回っているようだ。

(筆者注8) 連邦政府のdeepwater Horizon対応の統合サイト“Deepwater Horizon Response”の内容は国民の理解度向上面から見て日々充実してきていると思われる。6月23日時点のサイトの特徴点をあげておく。(本文で述べた大規模災害情報管理センター(he Disaster Information Management Research Center)」の「原油流失と健康への影響概観(Crude Oil Spill and Health) 」サイトの内容と比較して欲しい)。

①News/Info:NOAAの航空写真と比べ分かりやすい図解地図、関係州の対応最新情報、Deepwater Horizonに関する非公開合同事故原因聴聞会(joint Investigation )の模様の一部記録写真(この委員会の目的は4月20日に起きたDeepwater Horizon 可動原油掘削装置(mobile offshore drilling unit :MODU))の爆発と作業員の死亡等に関する結論と勧告の策定である。5月下旬に行われたその結果は、承認を得るため沿岸警備隊本部および連邦内務省の石油掘削認可機関「海洋エネルギー管理、規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)に送付されその承認後、広く国民やメディアに公開される。それまでの間は分析結果や結論の内容は非公開である。
②Area Plan:4州の専門サイトとのリンクによる最新情報
③Health and Safety:大気、海岸線、水質検査結果および現地労働者やボランティアの健康・安全性問題


[参照URL]
http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・https://www.doi.gov/sites/doi.gov/files/migrated/news/pressreleases/upload/OCS-Safety-Oversight-Board-Report.pdf

(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
https://response.restoration.noaa.gov/about/media/where-find-noaa-information-deepwater-horizon-oil-spill.html
NOAAの「Where to Find OR&R and other NOAA Information on the Deepwater Horizon Oil Spill」ディープウォーター・ホライズン解説サイト

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その2)

2010-06-29 12:45:14 | 国際政策立案戦略

(2) 内務省の「MMS改革プログラム10原則」の内容
①新しい倫理基準の設置
Salazar長官は2009年1月、MMS役職員のための新倫理ガイドラインを発布した。MMSの全従業員は倫理教育を受け、また2009年3月に倫理綱領の遵守が要求される。

 なお、MMSは極めて莫大な石油利権に関わるため、原油掘削企業等からの収賄・賄賂等不正行為が横行し、2009年8月連邦議会行政監査局(GAO)報告やIGの指摘の概要を理解するために米国の主要メディア(New York Times、Bloomberg)を読んでみた。わが国では正確に紹介されていないこの問題につき記事等で補足する。
 ブルームバーグは、サラザール長官の連邦議会下院「天然資源委員会(Committee on Natural Resources)」での証言中でGAO報告(筆者注5)等を引用し、米国のPIKプログラムの監査、会計、および従業員のモラルの低下等失敗を認めたと述べている。筆者は特に前述した倫理観の欠如がなぜここで出てきたのか、初めは理解できなかったが、IGの報告すなわち、MMSの従業員の「薬物乱用と乱交の文化」石油会社からの賄賂、セックス、コカインやメタフェタミン(ヒロポン)の乱用に事実が報告されたとある。議会もこの問題は放置せずに従来からこの問題に取組んでいる Nick J.Rahall委員長(ウェスト・バージニア州選出:民主党)等による改正法案の動きを紹介している。なお、ブルームバーグの記事は石油会社の対応等にも言及しており、参考になる。

(3)MMS業務執行プログラムの改革
①原油・ガスという現物による掘削権利用料支払方式(Royalty –in-Kind(PIK) Program)の廃止
1982年以来が行ってきた戦略的石油備蓄(Strategic Petroleum Reserve:SPR)を含む“Royalty –in-Kind Program”とはいかなるものか、上記のとおりわかりやすい訳語も含めこの言葉だけでは理解できないし、米国メディアも丁寧に解説していない。

 MMSに“Royalty –in-Kind Program”専門サイトがある。サラザール長官の改革基本原則の優先課題である。その冒頭にGAOの勧告で指摘され議論を呼んだ “Royalty –in-Kind Program”について従来のGAOの見解を否定し効率的な財政収入手段として前向きの評価が次のとおり述べられている。(2007年2月時点の見解である)

「1982年以来、MMSは連邦保有の土地や先住民にかかる鉱物資源における連邦財務省最大の財政収入源として責任を持ち支払い受取り機関の任に当たってきた。収入額は年度ベースで平均70億ドル(約6,300億円)である。
“Royalty –in-Kind Programは財政収入活動の重要な側面を持ち、同プログラムを通じてエネルギー開発企業はMMSに現金でなく石油やガス(現物)のかたちで権利使用量を支払ってきた。MMSは石油やガスを市場で販売して財政収入に当るか、または戦略石油備蓄のためにエネルギー省に石油を提供してきた。
 2005年財政年度で見てRIKプログラムは、連邦財務省の収入として約320億ドル(約2兆8,800億円)を生み、現金(市場での商品価値:value)での支払い受取による方法よりも多くの財政収入を得た。現物納付方式であるRIKの方式は2004財政年度で比較しても価値で受け取る方法に比べ約3分の1の費用で済むし、さらに財務省の会計システムの効率性も評価できる。」

(4)沖合いの風力や再生可能なエネルギー源に関する連邦機関の権限とのバランス
(5)内務省監査総監や独立性のある評論者の勧告内容への対応
(6)沖合いの諸施設に対するMMS査察プログラムの見直しを国土安全保障省合衆国沿岸警備隊(USCG)/MMS海洋委員会に指示
(7)英国ブリストル湾(Bristol Bay)および北極海(Arctic Ocean)の沖合い開発のリース計画の取消
(8) 連邦大陸棚(Outer Continental Shelf) (筆者注6)のどの地域が石油・ガス開発に最適であるか明確、秩序だったかつ科学的基礎に基づく決定手続の確立

 なお、同長官令リリースではMMSの歴史的・経済的役割につき解説しており、参考に記しておく。
・1982年1月19日、内務省長官ジェームス・ワット(James Watt)は長官令に基づき連邦地質調査所(U.S.Geological Survey)、内務省・土地管理局(Bureau of Land Management)および同省・先住民局(Bureau of Indian Affairs)の鉱物収入管理部門を統合しMMSを創設した。

 以降、MMSは石油、ガス、石炭、金属、カリ(potash)および再生可能エネルギー資源を中心とする収入を管理(1982年以来その総収入は2,100億ドル(約18兆9,000億円)以上となる)し、他方でその収入を州、部族(tribes)、群および連邦財務省に配分している。MMSは年間137億ドル(1兆2,330億円)の収入を上げ、これは内務省の収入の約95%となっている。

・MMSはまた連邦大陸棚の天然ガス、石油や他の鉱物資源の連邦管理機関でもある。MMSは従来型および再生可能なエネルギー資源のリース計画を開発・実行する。他方、沖合いのエネルギー開発の運用や関係法令の遵守について監督権限を持つ。

2.「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」からBOE等への改組・監督権限等の見直しと新人事に関する内務省サラザール長官令の発布
(1)「5月19日付:海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」
第1条では、「本令の目的として(1)連邦大陸棚開発の監督および責任の明確化、(2)国民へのロイヤルティに関する財政収入による納税者への公平な配当、および(3)沖合いの開発にかかる独立した安全性・環境保護と法執行を行うため任務の分離と再割当てを行うことである。」と述べており、その内容につき次のとおり説明している。
 
A.「MMSの倫理基準、」
前記(2)を参照されたい。

B.「MMSの再構築および独立性を持った任務を担う3部門の設置構想」
今回の組織改革の中心となる点である。
「海洋エネルギー管理局」:土地・鉱物資源担当副長官監督下で天然資源の評価、開発計画およびリースに関する活動を含む従来型や再生可能なエネルギー資源に係る連邦大陸棚の継続的開発問題を担当する。

「安全・環境保護執行局」:土地・鉱物資源担当副長官監督下で米国沖合いのエネルギー開発活動に関する安全、環境保護面の包括的監督機関として担当する。

「天然資源財務収入・資産管理局」:政策・管理および予算担当副長官監督下で財政収入、監査と法遵守、財務管理および資産管理を担当する。

(2)「6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」
 6月21日付け長官令(Secretarial Order)」で元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)等の任命が発せられた。なお、BOE自体6月24日の午前中、まだ正式なウェブサイトが出来ていない(まだ旧MMSにリンクする)。その理由は、後述するとおり5月19日発令の長官令のうち人事が決まったのみであり、「有効な法執行」、「エネルギー開発」、「自然エネルギー資源収入管理」というホワイトハウスや連邦議会との間で3部門の組織構想の調整協議がまだまとまっていないことがその理由であろう(令公布後、30日以内が実施期限である)。

 その意味でDOIのリリース内容を読んだが、後半でこの数週間サラザール長官が取組んでいる米国沖合いの原油・ガス開発の管理、監視を巡る改革を含む内務省の業務改革やMMSの独立性強化策を公表している。これらの内容は5月19日の長官令の内容と重なるので略す。
**********************************************************************************************
(筆者注5) 2009年8月、GAOが行ったMMSに関する報告書「Royalty –in-Kind(RIK)-Program:MMSは本来権利行使すべき(forgone revenue)大陸棚RIKガス収入に関する適切かつ時宜を得た方法の改善勧告」(全45頁)の概要を引用したが、いうまでもないが本ブログではGAO報告を比較的多く引用する。その意義はまさに「連邦議会の連邦行政機関のWatchdog」が的確に機能し、その透明性重視の姿勢を始め、また行政機関自身もその勧告内容への対応を積極的に行っているという、本来の「三権分立」の原型を見るように思えるからである。

(筆者注6) 米国の大陸棚のうち、連邦政府の管轄する部分。石油を始めとする地下資源は土地所有者に帰属するという法理が適用されている米国では、所有関係が特定されない大陸棚における海底の土地の所有権と海底下の石油資源の帰属を明確にする必要が生じ、米国では 1953 年の Submerged Lands Act および Outer Continental Shelf Lands Act によって、海岸線から 3 マイル(テキサス州およびフロリダ州のメキシコ湾岸では 3 海洋リーグ=約 10.5 マイル)まで各州、その外側は連邦の所管と規定された。(独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構サイト「石油天然ガス用語辞典」から引用)


[参照URL]

http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・https://www.doi.gov/sites/doi.gov/files/migrated/news/pressreleases/upload/OCS-Safety-Oversight-Board-Report.pdf

(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
https://response.restoration.noaa.gov/about/media/where-find-noaa-information-deepwater-horizon-oil-spill.html
NOAAの「Where to Find OR&R and other NOAA Information on the Deepwater Horizon Oil Spill」ディープウォーター・ホライズン解説サイト

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米国史上最大規模の原油流出事故を巡る連邦規制・監督機関やEU関係機関等の対応(第2回―その1)

2010-06-29 12:24:05 | 国際政策立案戦略

 

Last Updated:February 25,2021


 6月24日付けの本ブログで、世界的に注目されている歴史的海洋汚染事故である米国「ディープウォーター・ホライズン(Deepwater Horizon)」 の半潜水型海洋掘削装置(rig )爆発事故とその後の大規模な原油流失についてとりあえず第1回目の報告を行った。

 今回は、6月20日記載時に時間の関係で十分言及できなかった、(1)連邦内務省の下部機関で石油やガス施設の掘削認可・監督機関である「海洋エネルギー管理、規制、執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)(同局は6月17日即日施行で従来の「鉱物資源管理局(Minerals Management Service:MMS)」から職員等の倫理面強化や権限の細分・明確化による監督強化のため改組・改革・改称し、連邦内務省長官ケン・サラザール(Ken Salazar)
(筆者注1)は元連邦司法省監察官(former Justice Department Inspector General)のミシェル・ブロムウィッチ(Michael Bromwich)を局長に任命するといった取組みの背景、(2)連邦商務省・海洋大気保全庁(National Ocean and Atmospheric Administaration: NOAA)の取組状況について解説する。

 特に、今回、ディープウォーター・ホライズンの司法省、内務省(BOE)、エネルギー省を除く環境、保健、食品連邦関係機関や関係州の取組みについて網羅したサイトが、連邦保健福祉省・国立衛生研究所(The National Institutes of Health :NIH)) NIH・国立医学図書館(The National Library of Medicine :NLM)の「大規模災害情報管理センター(the Disaster Information Management Research Center)」サイトであることが分かった。
(筆者注2)

 次回以降、USCG、FDA といった連邦環境調査や沿岸安全保持機関、食品安全保障機関や漁業規制機関等の取組状況について解説する。

 また、EU等国際的石油掘削メジャーの監督にあたる国々の対応にも厳しさが増している。さらに、当然のことながら環境保護団体はBP社のコンプライアンスや労務管理態勢につき重大な指摘を行っており、その内容も合わせて解説する予定である。

 今回は 3回に分けて掲載する。


Ⅰ.「海洋エネルギー管理・規制・執行局(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation,and Enforcement:BOE)への組織改組・改革と新人事を巡る課題

1.連邦内務省のMMSの抜本的機構改革の背景と内容
 内務省(DOI)のサラザール長官は5月19日、6月21日にMMSの改組に関する長官令と人事発令を行った。

 その内容を理解する上で、同長官が2009年1月に行ったMMSの独立性強化、改組のための連邦議会行政監査局(GAO)や内務省監査総監(Inspector General:IG)が指摘したMMS職員倫理基準、資源収入の支払方針やプログラムについて監視機能強化と納税者への公平な還付を保証、さらに積極的な沖合いのエネルギー構成施設の更新についての連邦関係機関のバランスを取るといった「MMS改革プログラム10原則」を理解しておく必要がある。

 これまでの経緯やその内容は、わが国ではほとんど解説されていないが、米国のオバマ政権のエネルギー戦略に関する重要な内容であり、以下、概要をまとめておく。

(1) 2009年8月31日にGAOが行った厳しいMMS改善勧告報告
 GAOが行った報告「Royalty –in-Kind(RIK)-Program:MMSはロイヤルティ収入の権利者としての当然の権利を的確に行使しておらず、結果として当然受けるべき数百万ドルにわたる 財務収入利益受領権行使を合理的に保証していない(MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Recieves Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue)」の内容は概ね次のとおりである

・MMSは2008年財政年度でMMSは“Royalty –in-Kind(RIK)”方式でガス販売収入として24億ドル(2,160億円)を得た。GAOが重要視するのはMMSが当然の権利を持つ範囲でRIKガスを受け取っていることを納税者に対し保証する義務がある点である。「MMSがRIKに基づき所有するガス量」、「MMSのガス占有割合」、および「ガス生産不均衡調整(gas imbalance)」(筆者注3)として実際にMMSが受け取るガス量の相違が重要な点である。
 すなわち、次のとおりMMSにおいて十分なチェック機能が働いていない問題点をあげている。

①MMSが天然ガスの不均衡量として2,100万ドル相当を所有していると推定している一方で、同金額が適切であるか確認するすなわちRIKガス収入の100%が収入として計算できているか否かを確認する十分な情報がないーすなわちもっとMMSが得るべき金額が多いのではないかーという問題

②MMSは、RIK支払ガス会社の自主的作成報告書や割当データ(allocation data)について承認手続きが十分であるとして部分的に独自に監査しないので、RIKガスの正しい量に見合う金額を受け取っているか否かの確認が出来ない。

③仮に不均衡量を見出したとしても、PKIプログラムの担当官はその不均衡の調整や解決を行うための適切な方針や手続を持たない。

④MMSは効率的にPIKプログラムを管理する監督するスタッフと教育体制を欠いている。

⑤MMSはRIKガス不均衡によるデータ修正のための時宜に合いかつ適切なデータ提供のITシステムを持たない。2003年にMMSは民間ソフトウェア・ハウスから既製のソフトを購入してカスタマイズしたデータベースを利用している。この目的は全データを1つのデータベースにまとめデータの追跡も含め一元管理するというものであった。しかし、RIKガス不均衡データの提供能力はない。

 GAOが石油会社からの不均衡報告につき2007年1月から2008年6月の間のRIKプログラムを追跡した結果、MMSの集計表(spreadsheets)では少なくとも35%が同報告が遅延し、10%は完全に集計表がなくなっていた。この点に関し、GAOはMMSが必要な情報をすべて入手したとしても頻繁に報告の変更を手作業で行う点に注目した。すなわち、MMSは石油会社が不均衡報告をどのように提出すべきかにつき標準化した方針をもっていないのである。

 MMSが保有する利益権(royalty)の決定時にエラーが発生する機会の増加だけでなく、標準化された方針の欠如は不均衡の有無のチェックする時間がかかることにつながる。

 また、GAOは次のような事例でMMSへの石油会社の支払の遅延は納税者の還付金を受け取る機会を奪っていることを証明している。

・「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条 (筆者注4)は月次での不均衡報告を義務付けているためMMSのモニタリングは日次ではなく月次である。しかし、一方、石油会社は比較的原油価格が高いときはMMSの保留量を低く計算し、他方書くが低いときは保有量を多く計算する。この結果、本来価格が高い時期にMMSが得られるべき収入が少ないという問題がある。なお、この指摘に関しGAO報告では日次のモニタリング方式の採用については内務省は同意していないと記している。
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(筆者注1) 2009年12月17日、オバマ政権は内務省長官に新しくコロラド州出身の連邦議会民主党上院議員ケン・サラザール(Ken Salazar)を内務長官に任命、2010年1月20日、上院本会議で正式に承認された。米国内務省は他の欧米諸国の内務省とはかなり機能が異なる。すなわち、環境政策、エネルギー政策、連邦政府所有地の管理・利用、野生生物の保護等の関する政策管理機関である。
 また、サラザール長官の環境問題の考え方であるが、上院議員在職中(2005年1月-2009年1月)は、車やトラックの排気ガス基準引上げのためのCAFÉ 改善法案に反対投票したり、エクソン・モービルや他の大手石油会社の税優遇措置の撤廃法案の廃止修正に投票した。また、2006年には、フロリダ州沖の沖合いの原油・天然ガス掘削を禁じる保護措置に終止符を打つ内容の法案に共和党議員とともに少数の民主党員とともに賛成しており、環境保護団体から批判を受ける投票行動をとっている。今回のMMSからBOEの改称やトップ人事がオバマ政権のエネルギー政策の変化にどのようにつながるのかまさに注目の的とすべき点である。ただし、この点について分析しているメディアは米国でも少なく、わが国では皆無である。

(筆者注2) H1N1の新型インフルエンザに関する情報収集をきっかけとしたものであるがピッツバーグ大学の公衆衛生危機管理センター(Center for Public Health Preparedness)のサイトは最新情報を整理するうえで貴重なサイトである。今回、メキシコ湾の原油流失事故についても基本的な観点から現状と回復のための施策について平易に解説を加えており、関係者は是非参照されたい。

(筆者注3) 「ガス生産不均衡(gas imbalance)」:この用語を理解できる日本人は石油関係者以外では少なかろう。筆者も専門家でないので米国の関係サイトで調べてみた。GAOの問題指摘のキーとなる言葉であり、その正確な理解には欠かせないためである。筆者なりに解説してみるが、関係者による正確な解説を期待したい。

 石油生産の過剰生産と過少生産のための生産調整といったところであろう。油源の開発事業者が競合した場合、当然生産性が高い油田と低い油田がありうる。これを放置すれば油田が枯渇するといった資源開発の根本問題だけでなく、事業者の権利・義務の調整のための業者間開発協定(operating agreement)は、この問題を根本的かつ完全に解決できるであろうか。
 なお、開発業者間の生産調整協定に関し、欧州エネルギー監督機関協議会(the Council of European Energy Regulators:CEER)は「生産量均衡原則(Balancing Priciples)」を定めている。

参考:2005年12月23日「Gas Balancing Rules in Europe (EU加盟国におけるガス開発均衡協定に関するレポートでCEERの生産調整原則について解説」(英国シンクタンクNERA Economic ConsultingとTPA Solutions Ltdの共同レポート)は参考になる。
http://www.tpasolutions.co.uk/documents/050128_Final_Report_on_gas_balancing_for_the_CEER.pdf

(筆者注4) 「連邦石油・ガス利益受領権管理法(Section 115 of the Federal Oil and Gas Royalty Management Act of 1982)」の第115条は、「1996年連邦石油およびガスのロイヤルティの簡素化と公平性に関する法律(FEDERAL OIL AND GAS ROYALTY SIMPLIFICATION AND FAIRNESS ACT OF 1996)」に基づき追加された条項である。


[参照URL]

http://www.gao.gov/new.items/d09744.pdf
(2009年8月、GAO報告「ROYALTY-IN-KIND PROGRAM:MMS Does Not Provide Reasonable Assurance It Receives Its Share of Gas,Resulting in Millions in Forgone Revenue」(全45頁)
・https://www.doi.gov/sites/doi.gov/files/migrated/news/pressreleases/upload/OCS-Safety-Oversight-Board-Report.pdf

(5月19日付「海洋エネルギー局、安全・環境法執行局および天然資源収入管理局の設置に関する内務省長官令(No.3299)」)
・http://www.doi.gov/deepwaterhorizon/loader.cfm?csModule=security/getfile&PageID=35872
(6月21日付:BOEの局長等人事に関する長官令(No.3302)」)
・http://www.mms.gov/ooc/PDFs/TheMMSRoyalty-in-KindProgram.pdf
(MMSの“Royalty-in-Kind Program”の解説サイト)
https://response.restoration.noaa.gov/about/media/where-find-noaa-information-deepwater-horizon-oil-spill.html
NOAAの「Where to Find OR&R and other NOAA Information on the Deepwater Horizon Oil Spill」ディープウォーター・ホライズン解説サイト

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