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情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

ドイツのGeldKarte / girogo機能の廃止と電子マネー等金融界の最新動向

2022-02-23 15:36:44 | 電子マネー

 

   筆者は2006年11月18 日付けブログの更新作業を行う中で大幅に内容を更新する必要を感じ、改めて関係資料を調べてみた。さらにこれと関連し、ドイツの金融機関の構成、機能、ドイツの預金保険や投資家保護法制に関し, EU指令の改正動向やこれを受けたドイツの国内法の改正などについても加筆せざるを得ないと感じた。

 時間の関係で網羅した内容ではないが、わが国では専門的に読める解説が極めて少ないことから、あえてチャレンジした。

1.2020年7月1日にGeldKarte / girogo機能を廃止

 貯蓄銀行Sparkassサイトの解説を引用、仮訳する。

 ドイツ貯蓄銀行協会(Deutscher Sparkassen- und Giroverband:DSGV)はGeldKarteとプリペイド支払い機能カードgirogoに別れを告げた。2020年7月1日以降、貯蓄銀行は、GeldKarte / girogo機能とロゴなしのSparkassenカード(デビットカード)のみを発行する 。すでに発行されているSparkassカードは、カードの用語に沿って徐々に新しいカードに置き換えられている。2025年以降、計画によれば、この機能を備えたSparkasseカードはなくなる。

 このGeldKarte / girogo機能を廃止する理由は、市場の状況の変化と、顧客にますます人気が高まっている新しい支払い方法である。これまで、GeldKarte / girogoで支払うには、事前にクレジットを補充する必要があった。 Sparkasseカード(非接触型girocard)Sparkasseクレジットカードスマートフォンを使用した非接触型決済など、技術的に新しい支払い方法では、この作業は不要になる。

2.ドイツの金融システムの概要と各銀行協会等の構成とカードシステム等主な機能面の役割

(1)概要

 一般財団法人自治体国際化協会ロンドン事務所の「ドイツの公営銀行制度の動き」から、主要部を抜粋する。

 ドイツでは、銀行などの金融機関を三つに大別することができる。民間銀行、公営銀行及び共同組合銀行(Genossenschaftsbank)である。

  公営銀行は、州立銀行(Landesbank)(注1)及び自治体が関連する貯蓄銀行(Sparkasse)が主である。

  特に貯蓄銀行は自治体にとって重要な役割を果たしている。地方自治体が貯蓄銀行を通して、借り入れをしたり、さまざまな事業を開始したりし、また銀行があげた利益の一部も自治体に入る。また、貯蓄銀行はその地域の住民及び中小企業にとって主な金融機関である。というのは、公共の福祉を促進することが貯蓄銀行の任務でもあるので、住民の全てにサービスを提供し、そして中小企業に貸付を行うことなどで支援することで民間銀行より地元に根付いた金融機関となっている。このような公共の福祉の促進の原則とともに、地域内営業の原則により、営業区域がある地域内の活動に制定されていることも貯蓄銀行の特徴である。

 民間銀行は以前より公営銀行を不平等な競争相手と見ており、国際的な比較でも、ドイツの銀行制度は特に英米方式の銀行制度に立脚する立場、つまり公営銀行が存在しない立場から批判を受けてきた。

 数年前より、ドイツの民間銀行は経営が悪化し、公営銀行が競争で不平等な利点を持つという立場に基づき、EUの競争担当委員にクレームを申し立てた。2002年、EU競争委員会、ドイツ連邦政府及びドイツの民間銀行の間に、妥協が成立した。その結果として、公営銀行そのものは存在し続けることとなったものの、2005年までに、不平等な利点と批判された州や自治体が公営銀行の資金力に対して行っている最終的保証制度(Gewährträgerhaftung)が廃止された。

 このような制度改革の影響と効率を高めることを目的にして、2003年2月に初めての州立銀行の合併が実施された。ハンブルク州立銀行とシュレースヴィヒ・ホルシュタイン州立銀行がHSH Nordbank となった。現在、ラインラント・プファルツ州とバーデン・ヴュルテンベルク州の州立銀行間でも合併の話がある。旧西ドイツの州(11州)は全て独自の州立銀行を持っていたが、旧東ドイツ地域の州(5州)は全てがそうではない。メックレンブルク・フォアポンメルン州とザクセン・アンハルト州は、90年のドイツ統一で州の組織を設立する際、自身の銀行を設立することよりも、すでに存在したニーダザクセン州立銀行に加盟することを選択した。(以下、略す)。

(2)ドイツの各銀行協会等の構成とカードシステム等主な機能面の役割

 ドイツ貯蓄銀行協会(Deutsche Sparkassen- und Giroverband :DSGV)の解説を仮訳する。なお、法律名やリンクは筆者の責任で補足した。

 ドイツ貯蓄銀行協会(DSGV)は、367の貯蓄銀行、州立銀行Landesbankenグループ、DekaBank(貯蓄銀行金融グループの中央資産管理組織でありドイツの大手金融サービス機関のひとつ)のほか、8つの住宅貯蓄組合( Landesbausparkassen)、9つの貯蓄銀行の主要保険グループ、その他多数の金融サービス会社の利益を代表している。

 DSGVは、Sparkassen-Finanzgruppe (注2)内の意思決定プロセスと、その市場および運用戦略の方向性を整理する。製品の開発と処理、リスク管理、銀行全体の管理から、カード支払いのトランザクション、およびすべての顧客セグメントに対する総合的なコンサルティング・アプローチまでを扱う。

 さらに、DSGVは、州立銀行LandesbankenとGirozentralenのセキュリティ保護、および「1998年預金保険及び投資家補償法((Einlagensicherungs- und Anlegerentschädigungsgesetz – EAEG: The German Deposit Guarantee and Investor Compensation Act)」(注3)に基づき、10万ユーロ相当額(2014年4月現在)を上限として保護される)に基づいて承認された機関関連のセキュリティスキームの一部であるLandesbausparkassenのセキュリティ・ファンドを管理している。

3.ドイツでの預金保護や投資家補償の法整備の経緯

 欧州レベルでの預金保保険制度と投資家補償の調和の法的根拠は、もともと、2013年の預金保険制度と投資家補償制度に関する欧州議会と理事会の規則(REGULATION (EU) No 575/2013 )と指令(DIRECTIVE 2013/36/EU )である。これらの指令は、加盟国における国家預金保険および投資家補償制度の最低要件を導入した。ガイドラインの仕様は、1998年に「預金保険および投資家補償法(EAEG)」によってドイツで実施された。それ以来、すべての銀行は法定の補償制度に属することによって預金を保護する義務を負っていた。

 ドイツでは、2015年7月3日以降、EAEGによる法定預金保険のシステムは、独立した預金保険法(Einlagensicherungsgesetz :EinSiG)に移行した。

 したがって、新しい欧州預金保険指令の要件は、ドイツの法律で実施された。預金保護および投資家補償法(EAEG)は、その後、投資家補償の問題に限定されていたが、投資家補償法(Anlegerentschädigungsgesetz :AnlEntG)として保持されている。(証券経済研究 第98号(2017.6)EU の銀行同盟における欧州預金保険制度の動向―2015年の欧州委員会による EDIS 規則案とドイツ銀行業界の反応)から一部抜粋した、なお、預金保険研究第18号ドイツにおける預金保護・危機対応の制度― 市場経済に立脚した金融システムの維持 も参考になる)

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(注1)ドイツのLandesbankenは、ドイツ独自のタイプの公営銀行のグループである。彼らは地域的に組織されており、彼らの事業は主にホールセールバンキングである。また彼らは、地方および地域の拠点であるSparkassen(=貯蓄銀行)のヘッドバンキング機関でもある。。LandesbankenとSparkassenは、ドイツの銀行システムの3つの柱の1つで、他の2つの柱は、民間商業銀行(Bank)と協同組合銀行(Genossenschaftsbanken)である。それぞれに異なる法的目的、所有権構造、およびガバナンスモデルがある。LandesbankenとSparkassenは、公営企業として、「öffentlichenAuftrag」または公的目的を追求するために、国および州の銀行法によってチャーターされている。(Landesbank(https://www.asianprofile.wiki/wiki/Landesbank)から抜粋, 仮訳)。

(注2) 欧州貯蓄銀行金融グループ( Sparkassen-Finanzgruppe)は、ヨーロッパ最大の金融グループであり、ドイツの市場リーダーである。貯蓄銀行に加えて、州立銀行(Landesbanken)、住宅貯蓄組合( Landesbausparkassen)、保険会社、その他多くの金融サービスプロバイダーで構成されている。その傘下組織はドイツ貯蓄銀行協会(DSGV)である。DSGVは貯蓄銀行グループの利益を代表し、その戦略的方向性を担っている。

(注3) 1998年7月16日のドイツ投資家補償法(AnlEntG )は、ドイツの信用機関の預金保護システムの最低要件、特に顧客および機関ごとに100,000ユーロの保護を規制していた。同法は、1994年の預金保険指令と1997年の投資家補償指令を1998年8月1日に発効したドイツの法律に置き換えられた。

 EU では、2014年7月2日、新しい欧州預金保険指令が発効し、1994年の指令を廃止し、加盟国の最大限の調和を目指した。

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米国SECが詐欺的仮想通貨ICO業者に対する予備的差止命令、資産凍結命令等を得た

2018-06-11 08:16:09 | 電子マネー

 

 米国・証券取引委員会(以下、”SEC”という)は、2018年5月22日にカリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に詐欺的仮想通貨業者に対する正式訴状を提出し、5月30日に、同裁判所は、1)予備的差止命令(preliminary injunction)(筆者注1) を発令、2)被告会社の資産凍結を命令、3)米国内外の投資家に対する2,100万ドル(約22億8900万円)にのぼる「イニシャル・コイン・オファリング(ICO(筆者注2)を含む救済を命じた旨公表した。また同裁判所は、告訴されている計画の背後にあるとされる被告会社である”Titanium Blockchain Infrastructure Services Inc.”(以下、”Titanium”という) (筆者注3)の恒久的管財人(permanent receiver)を任命した。予備的差止命令は、被告の同意を得て行われた。

 SECは、5月30日の前記リリースに続き6月7日付けリリースでSECの告訴状の詳細、根拠法の規定、SECの担当部署・担当者等、詳しい内容を報じている。 

 ブロックチェーン自体、多くの法的・技術的課題、コンプライアンス問題等を残したまま見切り発車しているわが国の実態を見るにつけ、早めの警告という意味で本ブログで取り上げた。

 なお、わが国の金融庁もいわゆる仮想通貨業者の登録につき厳しい姿勢(筆者注4)を取り始めているが、一方で投機対象としてのICO勧誘サイトは野放しである点は否定しがたい。 (筆者注5)  

 今回のブログでは、SECのリリース内容を統合のうえ仮訳を中心に述べるが、従来のブログと同様に補足説明と必要に応じリンクを張った。 

 いわゆる仮想通貨の法規制、罰則の在り方特に詐欺的投資勧誘を予防する法的手段としてSECの既存の証券関係の法令を駆使する方法は現実問題として、わが国でも監督、規制策を考える上で参考となりうると考えられよう。

1.2018年5月22日に提出されたSECの正式訴状及び連邦地裁が下した各種命令の概要

 Titanuumのオーナーで自称「ブロックチェーンの伝道者(blockchain evangelist)」と名乗るマイケル・アラン・ストーラー(Michael Alan Stollery:別名Michael Stollaire)は、連邦準備制度理事会やPayPal、Verizon、ボーイング、ウォルト・ディズニー・カンパニーなどとのビジネス関係を構築していると唱えていた。 (筆者注6)

Michael Alan Stoller のツイートの写真。2015年10月登録 :Thechnology Consultancy Owner, Senior Enterprise Management and Security Expert, Blockchain Evangelist, Patriot, and at times, a Singer/Songwriter.と自己紹介している。

  訴状には、Titaniumのウェブサイトに法人顧客からの声明が掲載されており、 Stollaire”は公然とかつ不正に 多くの法人顧客との関係を持っていると偽りの主張を行った。また訴状では、 ”Stollaire”がビデオやソーシャルメディアを通してICOを宣伝し、それを「IntelまたはGoogle」への投資と比較したと主張している。連邦地方裁判所は、SECが一時的な差止命令を申請し、5月23日に凍結資産およびその他の緊急救済を命じた。訴状および一時的差止命令は、5月29日に公式に発令された。 

2.SEC法執行幹部の法執行に関するコメント 

 SECの法執行部のサイバー・ユニット(Cyber Unit)のロバート・A・コーエン(Robert A. Cohen)チーフは、「このICOは、ビジネスの見通しを純粋に架空の主張で投資家に騙したとされるソーシャルメディア・マーケティングの成果に基づいていた。不正なICOと関連した複数の訴訟を提起したため、これらを投資とみなす際に投資家が特に慎重になるよう、再度奨励する」と述べた。  

 SEC投資家教育・擁護局(Office of Investor Education and Advocacy )は、イニシャル・コイン・オファリングに関する投資家向け啓蒙情報や「偽のICOウェブサイト」を見極める掲示板を発行した。 ICOに関する追加情報はInvestor.gov およびSEC.gov / ICOサイトにある。 犠牲者である可能性があると考えられるTitanium ICOの投資家は、www.SEC.gov/tcrを通じてSECに連絡し、あわせて「SEC対チタニウム・ブロックチェーン・インフラサービス、その他事件」(カリフォルニア州中央地区ロスアンゼルス連邦地方裁判所:民事訴訟(Civil Action)第18-4315号)を参照。  

 カリフォルニア州中央地区ロサンゼルス連邦地方裁判所に5月22日付けで提出されたSECの訴状は、個人であるStollaireと法人”Titanium”に対し、連邦証券法の詐欺不正行為および登録規定に違反したことを理由に告訴している。また訴状では、Stollaireが保有する別会社「EHIインターネットワーク・アンド・システムズ・マネジメント(IHI Internetwork and Systems Management Inc.)」に対し、詐欺不正防止規定に違反した旨請求している。 同訴状は、予備的および恒久的的な差止め命令、不当利得や利益の返還ならびに罰金、および将来的にStollaireにデジタル証券の募集に参加することを禁じることを求めている。 同裁判所が予備的差止命令束を発動した後、Stollaireとその会社は予備的差止命令の登録力とTitaniumに対する恒久管財人の任命に同意した。  

 SECの調査は、なお継続中であり、David S. Brownの指揮およびMarket Abuse Unit Joseph G. SansoneDiana K. TaniおよびSteven A. Cohen SEC 委員長の共同監督下で行われている。この調査を支援するのは、SEC法執行部Cyber UnitのMorgan Ward DoranとLos Angeles Regional OfficeのRoberto Grassoである。本訴訟は、SEC法執行部のDavid VanHavermaatならびにSECのLos Angeles Regional OfficeのAmy Jane Longoの監督下で行われている。 

3.SEC告訴の法的根拠 

 今回のStollaire とTitaniumuに対するSECの訴えは、1933年証券法第5条(a)項、第5条(c、および同法第17条(aおよび1934年証券取引法第10条(b)およびSEC規則10b-5a)、10b-5c違反の基づくものである(筆者注7) 

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(筆者注1) preliminary injunction :,予備的差止命令と仮制止命令は,中間的・暫定的に発令されるものであり,講学上の整理概念として,中間的差止命令(interlocutory injunction)と呼ばれる(1)。連邦民事訴訟規則は,中間的差止命令として,予備的差止命令(65条⒜項)と仮制止命令(65条⒝項)の2つを規定している(2)。各州においても,連邦裁判所の中間的差止命令に相当する差止処分を利用することができるが,その要件,手続は連邦及び州間において異なる。(吉垣実「アメリカ連邦裁判所における予備的差止命令と仮制止命令の発令手続 ⑴──わが国の仮処分命令手続への示唆」から一部抜粋  

(筆者注2) ICOとは、投資家からビットコインやイーサなど既存の有力な仮想通貨の払い込みを受けて、トークンと呼ばれる独自の電子的な証票(あるいは仮想通貨)を発行して資金調達(クラウドファンディング)を行うこと。 

(筆者注3) 筆者はためしに”Titanium Blockchain Infrastructure Services Inc.にアクセスしてみた。違法サイト表示がなされる。  

(筆者注4) 金融庁「仮想通貨交換業者の新規登録の審査内容等 」2018.6.7 ロイター記事「金融庁、仮想通貨みなし業者1社の登録を拒否」 参照。

(筆者注5) Titanium Blockchainで大儲けしたと題するツイッターの例を見ておく。

(筆者注6) ここでいうビジネス関係とTitanium サイトの以下のロゴ表示の関係は、不明である。しかし、古今東西をとわず詐欺師がもっとも利用する権威づけの手口であることは間違いない。

 

(筆者注7) Secutities Exchange act 1934の第10(b)SEC規則10b-5との関係についてInvestpedia が簡単に解説しているので、以下、仮訳する。 

SEC規則10b-5は、1934年証券取引所法の下で作成された、端末・手段を用いて操る又は欺く欺瞞的な証券取引慣行の採用の禁止を定めた規則として正式に知られているものである。この規則は、誰かが直接的または間接的に詐欺行為、虚偽記載の措置を用いることは違法であると見なす。 関連する情報を省略するか、または株式その他の有価証券に関する取引を行うことに関して他人を欺く事業の運営を行うことも同様に違法とする」 

コーネル大学ロースクールサイトから原文を以下、引用する。 

§ 240.10b-5 Employment of manipulative and deceptive devices. 

 It shall be unlawful for any person, directly or indirectly, by the use of any means or instrumentality of interstate commerce, or of the mails or of any facility of any national securities exchange,

  (a) To employ any device, scheme, or artifice to defraud,

  (b) To make any untrue statement of a material fact or to omit to state a material fact necessary in order to make the statements made, in the light of the circumstances under which they were made, not misleading, or

  (c) To engage in any act, practice, or course of business which operates or would operate as a fraud or deceit upon any person,in connection with the purchase or sale of any security. 

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  Copyright © 2006-2018 芦田勝(Masaru Ashida)All rights reserved. You mayある display or print the content for your use only. You may not sell publish, distribute, re-transmit or otherwise provide access to the content of this document.

 

 

 

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ドイツにおける電子マネー(e-money card)の多機能化に向けた最新動向

2006-11-18 21:26:16 | 電子マネー


Last Updated:April 30,2024
 

 ドイツの金融界全体の取組みとしてGeldKarte.deがICカードによるプリペイド電子マネー(筆者注1)の本格的な導入計画が稼動し始めたのは、1996年4月であった。民間金融機関からなるドイツ銀行協会(Bundesverband deutscher Banken;BdB)、非営利金融機関である信用協同組合連合会(Bundesverband der Deutschen Volksbanken und Raiffeisenbanken;BvR)ドイツ連邦公営銀行協会(Bundesverbandes Öffentlicher Banken Deutschlands;VöB)

(筆者注2)の3団体に属する約3,800の金融機関と郵政事業(Deutsche Postamtamt)の金融事業体である郵政事業会社(Deutschae Postbank AG)が、官民金融機関の約52,000支店とポスト・バンクの約17,000の郵便局窓口のほとんどが電子マネーの取扱いを始めた。当時、わが国から多くの視察団がドイツを訪問し各種報告書が公表されたが、最近はあまり見かけない。どちらかと言うと英国の地下鉄カード(Oyster card)のe-money拡大計画の挫折といった失敗が目につく(筆者注3)。なお、後述するとおり、プリペイド式電子マネーGeldKarteは2024年末をもってgirogo カードに切り替わる。そのせいかどこのサイトを見てもGeldKarteの機能性に関する説明がない。かろうじてドイチェバンクの概括的解説(Payment behaviour in Germany in 2017)が参考になろう。

 一方、わが国のプリペイド式電子マネー・カードについてもsuicaの利用範囲拡大や銀行との提携による決済カード機能強化が図られているが、単一カードによる多機能性については、なお各関係業界の思惑もあり、難問が控えている。最近、筆者が気になっている点は家電量販店等のレジに並ぶ端末の多さである。このような現象は決して消費者や販売店の歓迎することではなかろう。

 今回は、ドイツのプリペイド式電子マネーの現状を紹介するが、約6,400万枚
(筆者注4)のGeldKarteが発行され、ドイツの全銀行が発行するカード枚数の70%を超えたものとされている。また、多機能性だけでなく、未成年者の年齢登録によるタバコ自販機での販売規制といった工夫も見られる。その他、セキュリテイ面の配慮を含め、ICカードの多機能性に着目した新規サービス拡大が目立つ。

 なお、欧州中央銀行(ECB)が2000年のデータをもとに非現金手段による決済方法に占める電子マネー・カードの利用件数割合を作成した比較表を見ると、ベルギー、ルクセンブルグ、デンマークなどが3%から5%程度であり、そのほかの国はまだまだこれからといった感じがするが、割合の高い手段は国内外の送金(credit transfer)、口座振替(direct debit)や小切手(cheques)等比較的大口の決済方法であり、クレジットカードやデビットカードと並ぶ第三の小口決済手段としての注目度は依然高いと言えよう。

https://www.sparkasse.de/unsere-loesungen/firmenkunden/electronic-banking/geldkarte.htm

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Last Updated:April 30,2024 Geld Kartenサイトの解説を抜粋、仮訳

 少額決済のための新しいソリューションである”girocard  は 2024 年末までに Geld Karten と girogo のプリペイド機能を置き換えられる。小銭セグメントとしての「電子ウォレット」は、現在ではジロカードまたはデジタル ジロカードによる迅速かつ安全なカード支払いを当然のこととする多くの開発への道を切り開いた。 girocard はドイツで最も人気のある支払い媒体であり、物理カードまたはデジタルカードとして少額の支払いによく使用される。 現在のニーズに応じて、2024 年末までにプリペイドの Geld Karten および girogo 機能が段階的に市場から廃止される予定である。 従来の決済の利便性と共通手続きへのスムーズな移行を実現するため、既存カードのGeldkarteおよびgirogo機能は、それぞれのカードの有効期限が切れるまで引き続き利用できる。 必要がある限り、クレジットの積み下ろしも引き続き現場で可能である。 ただし、オンライン充電サービスは直ちに利用できなくなる。 この機能を提供するには、非常に複雑な技術システムが必要であり、継続的な開発と、増え続けるコンピューター プログラムとプログラムの更新への適応が必要である。

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   これらプリペイド・カードのEUにおける法的根拠の現状とわが国の法制度の現状比較、ならびにドイツ銀行協会のサイトで見るEUの統一決済システムに向けた決済カードの最新動向等を紹介する予定である。

1.電子マネー・カード(電子財布)の現状
2005年中の電子財布への資金の移替え件数;450万回、資金の支払件数;約4千万件、移し替え金額平均25ユーロ、平均支払い金額は2.40ユーロである。

2.主な機能拡大の項目
(1)有料駐車場、公共交通機関、郵便局での切手販売の窓口・自動販売機での利用
 約400以上の市町村での有料駐車場での利用が可能となっている。バスや列車の切符の購入が可能であり、また、ドイツ全国で約13,000の郵政事業会社の窓口や6,000台の切手自動販売機でも利用できる。
(a)公共交通機関であるバス、電車での利用
現在約330社のバス、地下鉄、路面電車等の公共交通機関が同カード利用を認めており、また一部の会社は電子財布の利用者は割引サービスが受けられる。なお、ドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の近距離(blue automat)の利用が可能である。(筆者注5)
(b)郵便局の葉書・切手販売機や窓口での利用
ドイツ国内約6千以上の切手・葉書・テレホンカード自動販売機ならびにドイツ郵政事業会社の現在約13,000支店で利用可能である。なお、ドイツ郵政会社の顧客は「キャッシュ・グループ」(郵政事業会社、Deutsche Bank 、Dresdner Bank、Commerzbank 、HypoVereinsbank)のATMで無手数料でキャッシングが受けられる。

(e)受取人払い式宅配便の決済での利用
約1,700人の宅配業者の担当者は、GeldKarteの利用可能なモバイル決済端末を保持している。

(f)公衆電話での利用
全国約14,000台の公衆電話での通話のほかにSMSの送信にも使える。

(g)自動販売機等での利用
飲み物の自販機は約20万台、菓子類の自販機が約6万台でGeldKarteが利用できる。その他、大学、美術館、スイミング・プール等でも利用できる。

(h)オンライン・ショッピング時のインターネット端末での利用
ショッピング・カートが決済額を表示後、小さなポップアップウィンドウが開くのでGeldKarteを専用リーダーに差込み、「OK」ボタンを押す。次にリーダーで金額を確認して再度「OK」ボタンを押す(この場合、暗証番号の入力は不要)。引落し後、リーダーにカード利用可能残高が表示される。

(i)コインランドリーでの利用

(2)特徴的利用:未成年者へのタバコ自動販売機の販売規制
ドイツではわが国(20歳以下)と異なり16歳以下の者に対し、法律(2007年1月1日施行)でもってタバコの販売が禁止されている。この年齢チェックについて、①販売窓口の場合は16歳以上の者が保持(常時持ち歩くことまでは義務付けられていない)するIDカード(Personalausweis)またはパスポートの提示が求められる、②自動販売機で利用する場合は、まず信用協同組合、貯蓄銀行やHypoVereinsbank、comdirect bank銀行の窓口に行って「年齢証明メルクマール」情報を、カードのICチップに記録する必要(ec cardのGeldKarte化)がある(筆者注6)

3.GeldKarteの具体的利用方法
(1)GeldKarteは新たにカード発行が不要である。
多くは大手銀行が発行しているec card 、bank card または貯蓄銀行が発行しているSparkassenCardの機能追加である。

(2)カードへの残高のローデイング
①銀行窓口やATMまたは専用端末を探す。
②カードを挿入する。
③「Load」を選択する。
④暗証番号を入力する。
⑤ロード金額を入力する。
なお、この資金のローディング取引の仕組図および販売者・カード発行銀行間の決済の仕組図は別途詳しく記されている。
http://www.geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/facts_and_figures.php
http://geldkarte.de/_www/en/pub/geldkarte/press/technical_procedure.php

(3)顧客の利用時の操作
自動販売機の場合を除き、原則利用後に残高を確認する必要があるが、わが国と同様暗証番号入力等認証手続きはない。

4.GeldKarteの利用約款
(1)カードの不具合
カード自体の場合はカード発行銀行が対処する。加盟店の端末の不具合による時は、販売店の取引銀行が損害を負担する。

(2)カードの偽造・盗難・過失の問題
 わが国と同様、現金に準ずるものであり、不正コピーや偽造は偽金とみなされる。損害の補償についてはGeldKarte全体の問題として銀行が100%保証する。カード偽造につき本人が無過失の場合は、銀行がカード残高の範囲で100%補償する。なお、顧客側に過失のある場合、約款に基づき100%顧客の責任とするのが基本であるが、実際は「重過失」の場合に顧客の責任問題が生じよう。なお、カード発行銀行の倒産問題、取引内容の加盟店等によるトレースと個人データ保護の問題については1997年11月に行ったわが国調査団により詳しい報告がなされている。GeldKarteのサイトのQ&Aでは上記の点(現金類似)が簡単に説明されているのみである。

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(筆者注1)決済手段は通常、①プリペイド方式、②ペイ・ナウ方式、③ペイ・レイター方式に大別される。伝統的なもので例示すると、①テレホンカード、JRオレンジカード、メトロカード、ふみカード、バスカード、図書カード等、②現金、デビットカード、③クレジットカード、送金(credit transfer)等である。海外で見られる新たな手段として、ハードウェアを基礎とするものとして「Quick 」、「GeldKarte」、その他ソフトウェアーを基礎とするものもある。

(筆者注2)貯蓄銀行(Sparkassen)、州立銀行(Landesbank)が該当する。

(筆者注3) http://www.silicon.com/financialservices/0,3800010322,39158733,00.htm

(筆者注4)ドイツでは「電子マネー(elektronischen Geldes )」と言う言葉も1990年代の大学の論文等では多用されたが、最近では一般的でなくなりつつある。言葉だけの問題かも知れないが「e-payment」が一般的になりつつあるようである。
この数字は、ドイツ銀行協会の発刊雑誌「die bank」(2006年9月号)が公表している数字6,200万枚に近く正しい数字であろう。各家庭に1枚と言う数字である。http://www.die-bank.de/index.asp?issue=092006&art=322

(筆者注5)たまたま読んだ記事で、今月16日にカシオがドイツのメーカと協力してドイツ鉄道の車掌用決済端末を開発、採用された記事が出ていた。GeldKarteについては言及されていないが。

(筆者注6)ドイツの民間大手銀行であるドイチェバンク、コメルツバンクやドイツSEBバンクの顧客の場合は、これら銀行がEU域内での国際化も含め進めている「ec card」(ATMやデビットカードとしての利用が可能な銀行発行カード)にGeldKarte機能の追加を求めないと、自動販売機で利用できなくなる。ドイツのキャッシュカードのIC化(実質国際標準であるEMV仕様)対応は他のEU加盟国に比べ、①カードの切替率40%、②加盟店端末の切替率5%以下、③ATMの切替率5%と低く(フランスのIC金融カード推進グループであるカルト・バンケールが2004年末に取りまとめた結果)、ドイツにおけるこれらのカード戦略に見直しについては次回以降詳しく述べる。


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