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オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)がGoogleが提案したFitbitの買収に関する予備段階での懸念の概要を声明(その1)

2020-06-25 15:25:11 | 消費者保護法制・法執行

 Last Updated 4 August, 2020 (紫色部が追加箇所)

 6月18日、日本でいうと公正取引委員会や消費者庁にあたる「オーストラリア競争・消費者委員会」(以下「ACCC」という)は、「Googleが提案したFitbit の買収に関する予備段階での懸念の概要を説明し、消費者の健康状態データへのGoogleのアクセスが参入障壁を高めかつその支配的地位を一層高め、いくつかのデジタル広告および健康市場での競争に悪影響を与える可能性がある」と発表した。(発表声明文原文)

 ウェアラブル・デバイスを製造する企業であるFitbitは、ユーザーの毎日の歩数、心拍数、睡眠データなど、10年以上にわたって消費者から健康情報を収集してきた。

 ACCCだけでなく、海外主要国の規制監督機関は,従来から世界的に見たIT巨人であるGoogle 、Facebook等のGAFA (筆者注1)の市場独占的活動や顧客情報の収集に対し、行政訴訟など厳しい姿勢を取り続けてきている。 (筆者注2 )

 これまでのACCCのFacebookに対する予備的問題提起の背景を概略整理すると、以下のとおりである。

(1)2017年12月4日、当時の財務大臣であった Scott Morrison 氏は、デジタル・プラットフォームの調査を行うようACCCに指示した。 この調査では、デジタル検索エンジン、ソーシャルメディア・プラットフォーム、およびその他のデジタル・コンテンツ集約プラットフォームが、メディアおよび広告サービス市場での競争に与える影響について検討した。 特に、この調査では、ニュースやジャーナリズムのコンテンツの供給に対するデジタル・プラットフォームの影響と、メディア・コンテンツの作成者、広告主、消費者に対するこの影響について検討した。

(2)2018年12月10日、ACCCは調査結果として378頁の予備報告書を発表し、関係者からの意見を公募した。(筆者注3)

(3)最終報告書(623頁)は、財務大臣に提供された後、2019年7月26日に公開された

(4)2020年2月27日に ACCCはリリース「Google LLC proposed acquisition of Fitbit Inc」で今後の検討スケジュールも含め検討を開始するとともに競争法上の予備的な懸念を概説する問題の声明を発表し、同時に2020年7月10日までに問題のステートメントに関する意見の提出を公募した。

 その後、関連した動きとして、2019年10月29 日、ACCCは、Google LLCおよびGoogle Australia Pty Ltd(全体として「Google」という)に対して連邦裁判所に訴訟を起こし、Googleが収集、保持、使用する個人の位置情報について、誤解を招く行為を行ったこと、および消費者に対し虚偽または誤解を招く表現をしたと主張した。 

*この連邦裁判所への告訴内容については、第4項で詳しく解説するが、筆者が最も気になったのは、どの連邦裁判所が所管でまた裁判の予定や詳細な裁判資料は何を見ればよいのかといった、法律実務を行う上で重要な情報の入手方法等ある。ACCCが明らかにしているのは” Concise  Statement”のURLのみである。(その真意は不明であるが明らかに訴訟相手および弁護士対策である )

この点の関するオーストラリアの各種メディア情報をあたったが、解説記事は皆無であった。なお、8月4日筆者の手元に Telecompaperの記事「EU confirms in-depth investigation into Google takeover of Fitbit」が届いた。すなわち、欧州委員会は、Googleが提案しているウェアラブルメーカーであるFitbitの買収に関する反独占法に係る詳細な調査が始まったことを確認したとされているが、その背景には今回ACCCが示した懸念があることは間違いなかろう。

そこで、筆者はConcise Statementのキー情報の基づき、連邦裁判所サイト(Commonwealth Courts)で以上で述べた情報の入手を行った。この種の解説は、わが国でも大学内での研究者以外ではまず行っていないと思われる。今回のブログの巻末で詳しく解説する。

なお、ACCCの一連の動きに関し、わが国の公正取引委員会は2018年12月10日、予備報告(全374頁)のリリース文の概要訳)を公表している。また、2019年12月にACCCの最終報告(7月26日公表のもの)のリリース文の概要訳を公表している。(筆者注4)

 一方、これだけ読んで何が問題であるか、また今後、法執行機関であるACCCがどのような法的手段をとるかにつき理解できる人はわが国ではかなり限られよう。(筆者注5)

 そこで、今回のブログはACCCのリリース内容の仮訳に加え、これらGAFA企業がいかに世界的に見て独占的に消費者の機微情報を収集し、さらには広告活動への結び付け活動を行っているかを主要国の動向を中心に検証することにある。

 なお、ACCC報告書は具体的推奨事項として、デジタル・プラットフォームに表示される著作権を侵害するコンテンツの削除に対する権利所有者の要求をより効率的に促進するため、 ACCCは、オーストラリア通信メデイア庁(Australian Communications and Media Authority: ACMA)がコードを開発して施行することを提案している。

 この内容は筆者自身直ちに理解できない点であったが英国の法律事務所Bird&Bird LLP

が解説「オーストラリア通信メデイア庁(Australian Communications and Media Authority: ACMA) のDigital Platforms and the mandatory takedown code」で詳しく論じているので本ブログ3.の最後で仮訳、引用することとした。

1.ACCCはGoogleが提案したウェアラブル・健康デバイスの製造企業であるFitbitの買収に関する独市場独占等への重大な懸念を予備的報告書で表明

(1)ACCCの2020年6月18日付けリリース文の全文を以下、仮訳する。

 ACCCは6月18日、Googleが提案したFitbitの買収に関する予備的な懸念の概要を説明し、消費者の健康データへのGoogleのアクセスが参入障壁を高め、その支配的地位をさらに高め、いくつかのデジタル広告および健康市場での競争に悪影響を与える可能性があると発表した。

 ウェアラブル・デバイスを製造する企業であるFitbitは、ユーザーの毎日の歩数、心拍数、睡眠データなど、10年以上にわたって消費者から健康情報を収集してきた。(筆者注5-2)

 ACCCのロッド・シムズ(Rod Sims)委員長は次のとおり述べた。

「我々の懸念は、GoogleがFitbitを買収することで、Googleがさらに包括的なユーザーデータセットを構築し、その地位をさらに固め、潜在的なライバルへの参入障壁を引き上げることを可能にすることである。

ACCCの“Digital Platforms Inquiry” は、検索と位置データの集中、およびサード・パーテイ(コンピューター本体を製造している企業やその系列企業以外の、ソフトウエアや周辺機器などを作るメーカーの総称)のWebサイトとアプリを介して収集されたデータに基づいて、Googleの実質的な市場力が構築されていることを見出した。

 新興企業であるFitbitのような企業と成熟した企業の両方による合併、すなわちGoogleによる過去の買収により、Googleの地位がさらに強化された。グーグルが利用できるユーザーデータへのアクセスはそれが限られた競争だけに直面するようにそれが広告主にとって非常に価値のあるものにした。」

 さらにACCCの今回の調査は、特定のオンライン広告サービスと初期のデータ依存型健康市場に焦点を当てている。 FitbitのデータがGoogleにもたらす独自性と潜在的な価値、およびこれらの広告と健康市場における競合他社の可能性を探るものである。

 ACCCが問題とする声明で概説したもう1つの重要な問題は、WearOS(筆者注6)、Googleマップ、Google Playストア、Androidスマートフォンの相互運用性などの重要な関連サービスを提供する際に、Googleが競合他社よりも自社のウェアラブル・デバイスを支持する可能性が高いかどうかである。

この点につきシムズ委員長は次のとおり述べた。

「これは急速に進化しているセクターであり、デジタル市場の発展には本質的な不確実性があるが、それは競争規制当局として、将来が不明確だからといって競争が減ることはないと結論づけることができるという意味ではない。

我々の立場は、特にそのような重要な市場を取り巻く不確実性がある点である。ACCCは、買収の可能性を徹底的に調査して、将来の競争を阻害する必要がある。。競争規制当局としての私たちの仕事は、これらのようなトランザクションに続く可能性のあるデータと広告に関する潜在的な問題を慎重に比較検討することである。

我々は、またこのトランザクションを検討している他の管轄区域の他の競争当局と非常に密接に協力する。」

 今回のACCCの問題に関する声明へのフィードバックは、2020710日までに送信可である。

また、ACCCの最終決定は2020年8月13日に発表される予定である。

【本件の背景と問題点】

 2019年11月1日、Fitbitは21億米ドル(約2,237億円)でGoogleに買収される契約を締結したと発表した。

 Googleは幅広い分野で活動しており、Google検索、YouTube、Googleマップ、Gmailなどの消費者向けインターネットサービスを含む、多数のテクノロジーサービスと製品を提供している。 Googleはオンライン広告にも積極的で、健康関連サービスでの存在感を確立している。

一方、Fitbitは、手首に装着可能なウェアラブル・デバイス、スマート・スケール(体重、体脂肪、BMI、除脂肪体重を自動的に記録し、長期的な体の変化を表示)、ソフトウェア、さまざまな健康関連サービス(雇用者、保険会社、ヘルスケアプロバイダー向けの健康ソリューションなど)を開発、製造、配布している。

(2) ACCCの発表声明文(Statement of Issue)(25)の内容

次の3項目である。

① 提案されたGoogleのFitbitの買収から生じる競争問題に関するオーストラリア競争消費者委員会(ACCC)の予備的見解を概説、

② さらに調査を要する領域を特定、

③ 特定の問題に関する利害関係者からの提出を公募する(提出期限は7月10日)。

ACCCの最終決定は2020813日に発表予定である。

2.ACCCのこれまでの世界的なITプラットフォーム企業であるFacebook、Google等の対する予備的報告書とその後の法的告訴等の状況

(1) 2018年12月10日のACCCのリリースと予備報告書

わが国の公正取引委員会の【ACCCリリース文の概要訳】(筆者注4)あるが、ここでその全文を以下、引用する。

 オーストラリア競争・消費者委員会(以下「ACCC」という。)が,Google及びFacebook並びにオーストラリア国内のニュース及び広告に関する報告書について公表したところ,そのうち競争政策に関する主要な部分は以下のとおり。

 Google及びFacebookは,消費者のコミュニケーション方法,ニュースへのアクセス方法及びオンライン広告の閲覧方法を変容させており,市場支配力の集中及びデジタル・プラットフォームの広範な影響によって作り出された潜在的な課題を考慮することは,政府機関及び規制機関にとって喫緊の課題である。

 本日公表された予備的報告書(以下「報告書」という。)には,11の予備的勧告と,調査を続けるに当たって,8分野における更なる分析が記載されている。

 ACCCの見解は,Googleがオンライン検索,検索広告及び関連ニュース表示サービス(News Referral)における潜在的な市場支配力を有し,Facebookがソーシャルメディア,ディスプレイ広告及びオンライン関連ニュース表示サービスにおける潜在的な市場支配力を有している,というものである。

 ACCCは,これらの極めて重要なプラットフォーム事業者が有する市場支配力に懸念を抱いている。報告書によれば,その懸念は,オーストラリアの企業への影響,とりわけ,メディア事業者によるコンテンツの収益化への影響,また,ターゲット広告のために消費者のデータが収集されていることにある。

 ACCCのシムズ委員長は以下のように述べた。「デジタル・プラットフォームは,私たちの暮らしや,互いにコミュニケーションを取ったり,ニュースや情報にアクセスする方法を一変させた。こうした変化の多くが,消費者がニュースや情報にアクセスする手段や,消費者がお互いに,また企業と交流することに積極的に作用したことは賞賛に値する。」

 「他方で,デジタル・プラットフォームは,多くのオーストラリア企業にとって,無くてはならないビジネスパートナーである。Google及びFacebookは,オンラインニュースメディア事業等の企業が消費者に接するにあたって,決定的な役割を果たしている。それにもかかわらず,極めて重要であるコンテンツの表示順序を決定するアルゴリズムの運用については,全く透明ではない。」

 ACCCは,GoogleやFacebookといったデジタル・プラットフォーム事業者がオーストラリアの消費者から収集した膨大かつ多様なデータに関し懸念を有している。このように収集されたデータは,ユーザーがデジタル・プラットフォームを利用する際に能動的に提供している範囲を超えている。

 今回行った調査の一環で,消費者がデジタル・プラットフォームによって収集された情報の量及び範囲について懸念を有していることが判明した。ACCCは,特定の契約や条項において,サービス及びプライバシーについてのオンライン上の条項が長く,複雑であり,曖昧であることについて特に懸念を有している。

 消費者は,十分な情報がなく,限られた選択肢しかない場合に,適切な意思決定ができず,このことは消費者を害し,ひいては,競争を阻害することとなるのである。  

 シムズ委員長は,以下のように述べた。

 「ACCCは,GoogleやFacebookのようなデジタル・プラットフォーム事業者の強力な市場支配力を考慮すれば,規制制度をより強力な水準とすることは正当化されると考えている。」

 「オーストラリアの法律は,企業が強い市場支配力を有すること,競合他社と競争して打ち負かすために能力や技術を発揮することを禁止しているものではない。しかし,市場支配力を有する企業が競争又は消費者厚生を阻害するリスクがあるときには,政府は,消費者及び企業を保護するための行動を採るべきである。」

 報告書では,Google及びFacebookの市場支配力の増大に対処し,消費者の選択肢の増加を促進させるための予備的な勧告をしている。この勧告では,例えば,Googleのインターネットブラウザ(Chrome)を携帯端末,パソコン及びタブレットにデフォルトブラウザとして,Googleサーチエンジンをインターネット・ブラウザのデフォルトサーチエンジンとしてインストールすることを防止するよう提言している。

また,ACCCは,デジタル・プラットフォームが広告及びニュースのコンテンツをランク付けし,かつ,表示する方法に関して,新設又は既存の規制当局が,調査,監視及び報告業務をすべきであると提言している。他の予備的勧告では,企業結合法制についても提言している。

 ACCCは,消費者がさらに情報を入手し,購買力を向上できるようにするために,デジタル・プラットフォーム事業者によるデータ収集に係る特定の規約を設けることについて,更なる勧告を行うことも検討している。

 「今回の調査によって,特定のデジタル・プラットフォーム事業者が競争法及び消費者法に違反しているという懸念が明らかになった。ACCCは,執行活動が必要であるかどうかを決定するために,5件の被疑行為を調査しているところである。」とシムズ委員長は述べた。 

(2) ACCCの予備的報告書の本文(378頁)

公正取引委員会の訳文では言及していないが、予備報告書(Preliminary report)に応じた書面による意見の提出は、2019年2月15日までにplatforminquiry@accc.gov.auに電子メールで送信する必要があった。 

3. ACCCの最終報告書とそのリリース

 ACCCの最終報告書「Digital platforms inquiry - final report」3部で構成」(全623頁)は、財務大臣に提供された後、2019年7月26日に公開された

なお、2018.12.10ACCCリリースでは最終報告書は2019年6月3日予定であったが、実際の公表は6月24日であった。

 ACCCのシムズ委員長の発表時の動画

(1)ACCCのリリース文(仮訳)

 本日発表されたACCCのDigital Platforms Inquiryの最終報告によると、主要なデジタル・プラットフォームの支配とオーストラリアの経済、メディア、社会全体への影響は、重要な全体的改革で対処する必要がある。

 この最終レポートには、デジタル・プラットフォームの成長に起因する問題の交差を反映した、競争法、消費者保護、メディア規制、プライバシー法にまたがる23の推奨事項が含まれている。

ロッド・シムズ委員長は次のとおり述べた

「ACCCの提言は包括的でかつ前向きであり、この調査の過程で特定した多くの競争、消費者、プライバシー、ニュースメディアの問題に対処するものである。重要なことに、私たちの提言は、政府やコミュニティが発生した問題に対処するために必要なフレームワークと情報を提供するという点で動的である。我々の目標は、コミュニティがこれらの問題を最新の状態に保ち、施行、規制、および法的枠組みを将来にわたって保証できるよう支援することである。」

今回の調査の過程で、ACCCはデジタル・プラットフォームに関連する多くの悪影響を特定した。その多くは、GoogleとFacebookの支配によるものである。

具体的には、これらには以下が含まれる。

①GoogleとFacebookの市場支配力は、広告、メディア、およびその他のさまざまな市場で、企業のメリットを競う能力を歪めている。

②デジタル広告市場は不透明で、特に自動化されたプログラマティック広告(筆者注7)の場合、資金フローは非常に不確実である。

③消費者はデータがどのように収集および使用されるかについて十分に知らされておらず、収集された広範囲のデータをほとんど制御できない。

④ニュースコンテンツの作成者は、支配的なデジタル・プラットフォームに依存しているが、そのコンテンツの収益化は困難である。

⑤オーストラリアの社会は、世界中の他の人々と同様に、偽情報(disinformation)とニュースに対する不信や疑惑(mistrust)の高まりの影響を受けている。

 さらにシムズ委員長は次の指摘を行った。

「我々が提起した問題に対する主要なデジタル・プラットフォームの対応は、「私たちを信頼する」と表現するのが最もよいであろう。収益の増加に重点を置き、株主に価値を提供することに何の問題もないし、確かにそれは賞賛されるであろう。しかし、この調査中に明らかになった問題は、企業自身に任せるにはあまりにも重要であると考える。消費者法とプライバシー問題、および競争法と政策に対する行動はすべて、デジタル・プラットフォームの市場支配力と消費者のデータの蓄積に関連する問題に対処するために不可欠である。」

【オーストラリアのメディア企業とニュースの消費者】

ACCCは、オーストラリアのメディア・ビジネスに対するデジタル・プラットフォームの影響と、オーストラリア人がニュースにアクセスする方法に対処するための一連の推奨事項を作成した。

これらには以下の事項が含まれる。

① 指定されたデジタル・プラットフォームにそれぞれオーストラリア通信メデイア庁(Australian Communications and Media Authority: ACMA)に行動規範を提供して、これらのプラットフォームとニュース・メディア・ビジネスの間の交渉関係の不均衡に対処し、コンテンツの価値の共有と収益化の必要性を認識するよう要求する。

② メディア規制フレームワークを調和させることにより、ニュース・メディア・ビジネスとデジタル・プラットフォームの間に存在する規制の不均衡に対処する。

③ 地元のジャーナリズムを支援するための年間約5,000万豪ドル(約36億8,000万円)の助成金を支給する。

④ オーストラリアの公益ジャーナリズムへの慈善資金を奨励するための措置を紹介する。

⑤ ACMAは、信頼できる信頼できるニュースを特定するためのデジタル・プラットフォームの取り組みを監視する。

⑥ 意図的に誤解を招く、有害なニュース記事に関する苦情を処理するための業界コードを作成して実装するためにデジタル・プラットフォームを要求する

⑦ デジタル・プラットフォームでの著作権の執行を支援するための強制的ACMAの削除コードの紹介。

【競争の促進】

 大規模なデジタル・プラットフォームによるスタートアップ(新しいビジネスモデルを開発し、ごく短時間のうちに急激な成長とエクジットを狙う事で一獲千金を狙う人々の一時的な集合体)の買収は、将来の競争の脅威を取り除く可能性を秘めていると問い合わせは述べている。買収により、プラットフォームによるデータへのアクセスも増加する可能性がある。どちらの状況でも、プラットフォームの市場支配力がさらに強まる可能性がある。

 ACCCは、オーストラリアの合併法の変更を提案し、潜在的な競争の影響を考慮することを明示的に要求し、データの重要性を認識させるようにしている。また、ACCCは大規模なデジタル・プラットフォームが、オーストラリアでの競争に影響を与える可能性のある買収案についてACCCに警告する通知プロトコルに同意することを推奨している。

 この最終レポートはまた、Googleに対して、Androidデバイス(新規および既存)のオーストラリアのユーザーが、デフォルトで提供されるのではなく、ヨーロッパで提案されているいくつかのオプションから検索エンジンとインターネット・ブラウザーを選択できるようにすることも求めている。

【消費者に力を与える】

 支配的なデジタル・プラットフォームに関連する問題に対処するには、効果的な消費者保護が不可欠である。この調査を通じて、ACCCは、消費者に危害を及ぼす可能性のあるいくつかの問題のあるデータプラクティスを特定した。

 ACCCは、これらのデータプラクティスのいくつかを調査して、矛盾があったかどうかを判断することで、非常に進んだ。

 最後に目次を以下で引用する。なお、付属書目次は略す。

 なお、42頁にわたる「 Executive Summary」が本文とは別に公表されている。

〇デジタル・プラットホームと強制的削除コードに関する補足説明

 ACMAの「デジタル・プラットホームと強制的削除コード(Digital Platforms and the mandatory takedown code)」の解説文を仮訳する。なお、関係法のリンクは筆者の責任で行った。

 筆者は、英国の大手法律事務所Bird&Birdの弁護士Sophie Dawson氏とJoel Parsons氏の(両氏とも在オーストラリアのパートナーである)共著である。

Sophie Dawson氏

Joel Parsons氏

 ACCCは、オーストラリアで動作するデジタル・プラットフォームの削除プロセスを管理するために、必須とする業界コードを実装することを推奨している。これは、デジタル・プラットフォームに表示される著作権を侵害するコンテンツの削除に対する権利所有者の要求をより効率的に促進するためである。今回ACCCは、ACMAがそのコードを開発して施行することを提案している。

 「勧告8」の内容は、予備報告書(2018.12.10)において「勧告7」として登場した。その最終報告書では、ACCCは再び、強制削除コードには次の2つの主要な利点があると述べている。

  1. コンテンツ作成者とメディアビジネスが迅速かつ効率的に削除を行うのに役立つ。

最大250,000豪ドル(約1,838万円)の民事罰が適用される可能性があり(民事罰制度が他の既存の必須コードに類似している場合)、その遵守(コンプライアンス)が奨励される。

  1. これは、1968年著作権法(Copyright Act 1968:Cth)に基づく認可責任の明確さを改善させる。調査への利害関係者の提出は、著作権法に基づく著作権侵害の承認者としてのプラットフォームの責任の位置に関する曖昧さは、それが有効な抑止力として機能せず、プラットフォームが侵害している素材を削除することを奨励しないことを示唆した。司法の決定は、著作権侵害が発生することを可能にする単なる「施設の提供」が著作権侵害の許可を構成しないことを示しました。著作権法のセクション36(1A)と101(1A)は、侵害の疑いのある権限者が、行為を防止または回避するために他の合理的な手段を講じたかどうかを検討する産業界の行動規範が必要あると述べている。したがって、プラットフォームが必須のコードに準拠していない場合、プラットフォームがコードに準拠していなかった場合でも、理論的には権利所有者がプラットフォームを著作権侵害で告訴するのに役立つ。

 最終報告書は、ACMAが電気通信法(Telecommunications Act 1997 (Cth)(予備報告書で推奨されたとおり)に基づいて関連する必須規格を開発できるようにするために、法改正によって新しい削除手順を実装できると述べている。予備報告書でACCCは、電気通信法の第6部における「電気通信産業」の定義を「プラットフォーム」を含むように修正することを提案したが、最終報告書は埋め込みのメカニズムを自由に残し、コードは「その他の適切な立法改正」を通じて導入した。速報で予告された方法で電気通信法の修正案を起草するには、「デジタル・プラットフォーム」の定義を考案する必要がある。このような定義を作成することは悪名高いことであり、オーストラリア著作権理事会が述べたように、そのような定義では、「オーストラリアのメディア組織を直接的または間接的に捕らえない」ことを確実にするために注意深い草案が必要となる。

 利用される立法メカニズムに応じて、ACMAが必須コードを開発する権限を与えられると、ACCCは、通信法に基づいてACMAが他のコードを開発する場合と同様に、ACMAが利害関係者と協議できると述べている。皮肉なことに、これには、必須の基準の詳細が各州および準州で流通している新聞に掲載されるという要件が含まれる場合がある。

 ACCCによると、最終的なコードには、権利保有者とデジタル・プラットフォームの間の協力のためのフレームワークを含めて、少なくとも以下の点をカバーする必要がある。

1.著作権を侵害するコンテンツのオンラインでの配布を積極的に特定して防止するために、権利者とデジタル・プラットフォーム業者がどのように協力すべきか。

2.オーストラリアの営業時間中や重要なライブイベントの放送中にプラットフォームに人員がいるという要件を含め、権利所有者とプラットフォーム間のコミュニケーションを改善するための対策は如何。

3.生放送の商業放送などの時間的制約のあるコンテンツの場合、権利を侵害するコンテンツと特定のプロセスを削除するための合理的な時間枠をどうするか。

4.権利所有者が繰り返し侵害に対処するために一括通知を行うためのメカニズム。

5.削除アクションが発生する前に、権利所有者が著作権の所有権を証明しなければならないプロセスを合理化するための措置。

 予備報告書の「推奨7」と最終報告書の「推奨8」の間の主要な進化は、プラットフォームと権利所有者間の協力をより重視しているようである。オーストラリアの営業時間中および重要な放送イベント中にプラットフォームを利用できる人がいて、デジタルプラットフォームにそのようなイベント中の時間依存性を遵守する必要があるという提案は、ライブ放送イベントで取引し、保護するための迅速なアクションを必要とする放送局から歓迎される。彼らの知的財産。近年、テレビで放映されたイベントを再放送するデジタル・プラットフォームでホストされている初歩的なライブストリームを使用して、権利所有者のライブ放送コンテンツの価値を下げることができることが明らかになった。

4. ACCCのGoogle LLCおよびGoogle Australia Pty Ltd(全体として「Google」という)に対して連邦裁判所に告訴

 2019年10月29日、ACCCのGoogle LLCおよびGoogle Australia Pty Ltd(全体として「Google」という)に対して連邦裁判所に訴訟を起こし、Googleが収集、保持、使用する個人の位置情報について、誤解を招く行為を行ったこと、および消費者に対し虚偽または誤解を招く表現をしたと主張旨リリースした。検証性が極めて明確であり、わが国の検討に資すると考え、その概要を以下で仮訳する。

 なお、言うまでもないがACCCは裁判所に持ち込む以上、日常的に見たアクセス記録情報を丁寧に保存、管理している実態を見るにつき、わが国の消費者庁や国民生活センターの活動内容と比較せざるを得ない。

 ACCCは、少なくとも2017年1月からAndroidの携帯電話やタブレットで画面に表示したときに、特定のGoogleアカウント設定が有効または無効につきGoogleが収集または使用した位置情報について消費者を騙しており、この点はオーストラリアの消費者法(Australian Consumer Law)に違反したと主張した。

 この問題表示は、Androidの携帯電話とタブレットでGoogleアカウントを設定する消費者、およびAndroidの携帯電話とタブレットからGoogleアカウントの設定に後でアクセスした消費者に対して行われた。

 「これらの画面上の表現の結果として、Googleは情報に基づく選択をせずに、消費者の場所に関する非常に機密性が高く価値のある個人情報を収集、保存、使用したとGoogleに対して訴訟を起こした」とACCC委員長のロッド・シムズは述べた。

(1)データの収集に関する不適切表示問題

 位置データの収集に関するACCCのケースは、2つのGoogleアカウント設定に焦点を当てています。もう1つのラベルは「ウェブとアプリのアクティビティ」である。

 ACCCは、2017年1月から2018年後半にかけて、消費者がGoogleに位置情報データの収集、保持、使用を望まない場合は、両方の設定をオフにする必要があることを消費者に適切に開示しておらず誤解を招くものであったと主張している。

 代わりに、ACCCは、消費者がAndroidフォンまたはタブレットでGoogleアカウントを設定したとき、Googleの指示に基づいて、「ロケーション履歴」がGoogleが収集、保持、またはユーザーが彼らの場所に関するデータを使用した保持に影響を与える唯一のGoogleアカウント設定であると誤って信じていたと主張している。

 同様に、消費者が後でAndroidデバイスのGoogleアカウント設定にアクセスした場合、Googleは「ウェブとアプリのアクティビティ」をオンのままにしておくと、位置情報データを収集し続けることを知らせなかった。

シムズ委員長は次のとおり述べた。

「我々の場合、消費者はこの行動の結果として、「ロケーション履歴」設定をオフにすることで、Googleが位置情報の収集を単純で単純なものにしてしまうことを理解したであろう。我々は、Googleは別の設定もオフにする必要があるという事実について沈黙を守り、消費者を騙したと主張した。

 多くの消費者は位置情報の収集を停止するために設定をオフにすることを意識的に決定しているが、Googleの行為が消費者がその選択をすることを妨げた可能性があると我々は主張する。」

 また、ACCCは2018年半ば頃から2018年後半にかけて、Googleが消費者に、位置情報データの収集、保持、使用を妨げる唯一の方法は、Google検索やGoogleマップなどの特定のGoogleサービスの使用を停止することであると説明したと主張している。ただし、これは「ロケーション履歴」と「ウェブとアプリのアクティビティ」の両方をオフにすることで実現できる問題である。

(2)位置データの使用に係る問題表示・説明

 ACCCはまた、顧客が「ロケーション履歴」と「ウェブとアプリのアクティビティ」の設定にアクセスしたときに位置情報がどのように使用されるかを説明するGoogleの画面上のステートメントが誤解を招くものであったとも主張している。

 Googleは、消費者が「ウェブとアプリのアクティビティ」の設定にアクセスした2017年3月以降、および消費者が「ロケーション履歴」の設定にアクセスした2018年5月以降、Googleは位置情報を収集および消費者によるGoogleサービスの使用するだけであることを表すメッセージを画面に表示していた。

 しかし、Googleは、消費者によるグーグルのサービスの利用に関係のない他の多くの目的のためにGoogleがデータを使用する可能性があることを開示しなかった。

シムズ委員長は次の点を述べた。

「Googleがこのデータの使用を開示できなかったため、消費者は個人の位置情報をGoogleと共有するかどうかについて情報に基づいた選択をする機会を今も奪われていると考えている。「デジタル・プラットフォームと消費者データに関連する透明性と不適切な開示の問題は、ACCCのデジタル・プラットフォーム調査の主な焦点であり、ACCCの最優先事項の1つであり続けている。」

 ACCCは、データ表現を収集して使用することにより、GoogleがAndroidオペレーティングシステム、Googleサービス、Google Pixelスマートフォンの性質、特性、適合性について一般の人々に誤解を与える可能性のある行為にも関与したと主張している。

 ACCCは、Google等に対し、裁判所の是正通知の発行とコンプライアンス・プログラムの確立を必要とする罰則、宣言および命令を求めている。

【問題の経緯と論点】

 Google LLCは米国に設立された多国籍企業であり、本社はカリフォルニア州マウンテンビューにあり、またAlphabet Inc.の子会社である。

 Google Australia Pty LtdはGoogle LLCの子会社であり、Pixelスマートフォンの販売を含む、オーストラリアでのGoogle LLCのビジネスの特定の業務を行っている。

 GoogleマップなどのGoogleサービスを消費者に提供する際の使用に加えて、Googleは次のような広告目的で位置データを使用する。

①他のユーザーの広告をパーソナライズするため。

②人口統計情報を推測するため。

③広告のパフォーマンスを測定するため。

④広告サービスを促進、提供、または第三者に提供すること。および/または

⑤匿名化されて集計された統計(来店コンバージョン統計など)を作成し、それらの統計を広告主と共有するため。

 Google LLCは、オーストラリアの消費者に対し次のようなさまざまなソフトウェア製品とサービスを提供している。

①Google Playストア

②Google検索

③グーグルクローム

④グーグルマップ

⑤Gmail

⑥YouTube

 これらのサービスには、Googleアカウントを使用してアクセスする。 Google Playストアなど一部には、消費者がGoogleアカウントにサインインしている場合にのみアクセスできるが、ユーザーがサインインしていない場合、YouTubeなどの他の機能にはアクセスできない。

 新しいGoogleアカウントのデフォルト設定では、「ロケーション履歴」を「オフ」(または「一時停止」)にし、「ウェブとアプリのアクティビティ」設定を「オン」にする。

「ロケーション履歴」が「オン」になっている場合、Googleはユーザーの位置に関連する個人データを定期的に収集して保持します。ただし、「ロケーション履歴」がオフになっている場合でも、ウェブとアプリのアクティビティ設定が「オン」になっていると、ユーザーのロケーションに関し、Googleのアプリやサービスでのユーザーのアクティビティに関連する個人データを取得かつ保持する。

 ACCCのDigital Platforms Inquiryの最終報告(2019.7.26)では、以下を含むプライバシー法の強化が推奨されている。

①プライバシー法の「個人情報」の定義を更新して、IPアドレス、デバイス識別子、位置データ、および個人の識別に使用できるその他のオンライン識別子などの技術データをキャプチャすることを明確にする。

②通知と同意の要件を強化して、消費者がデジタル・プラットフォームで収集できる個人データについて具体的に情報に基づいた決定を行えるようにする。

ACCCの例示による問題提起:

以下の例はあくまで架空のものであるが、「ロケーション履歴」がオフにされたときに、Googleの行動によりGoogleがデータを収集できた可能性があるとACCCが主張する方法を例示で概説する。

【仮説例A

 ジョンはAndroidスマートフォンのGoogleマップ・アプリを使用して、シドニーのCBDにある彼のオフィスからハイドパークのアーチボルドファウンテンまでのルートを検索する。ジョンはGoogleマップ・アプリを開き、目的地として「アーキバルドの噴水、ハイドパーク」を手動で入力する。ジョンはGoogleマップの指示に従い、モバイルデバイスを持ち、オフィスからアーチボルドの泉まで歩く。

 「ウェブとアプリのアクティビティ」をオンにしておくと、ジョンがGoogleマップを使用してこのデータを保存できるため、「ロケーション履歴」がオフになっていても、ジョンの位置に関するデータはGoogleアカウントに保存される。

【仮説例B

 メアリーはタウンズビルのショッピングセンターにいる。彼女はAndroidスマートフォンでGoogleアシスタントアプリを開き、音声認識機能を使用して「郵便局はどこですか?」と尋ねる。このアクティビティの一部として、「ロケーション履歴」がオフになっている場合でも、「ウェブとアプリのアクティビティ」をオンにすると、メアリーがGoogleアシスタントサービスを使用してこのデータを保存できるため、メアリーのロケーションに関するデータがGoogleアカウントに保存される。

【ローケーション・データ収集に関する端末表示での説明】

 以下の画像は、2018年4月30日から2018年12月19日までの間にAndroidモバイルデバイスでGoogleアカウントを設定する消費者に表示されるロケーション履歴とWebおよびアプリのアクティビティ設定の説明のバージョンを示している。

 

下の画像は、2017年の初めから2018年の終わりまでに、Androidモバイルデバイスを使用してロケーション履歴の設定をオフ(または「一時停止」)にしたユーザーに表示されるステートメントを示している。

【ローケーション・データ使用に関する画面表示での説明】

下の画像は、Androidモバイルデバイスを使用して、2018年後半から現在までのロケーション履歴の設定をオフ(または「一時停止」)にしたユーザーに表示されるステートメントを示している。

以下の画像は、2018年後半から現在までWeb&App Activity設定にアクセスしたユーザーに表示されるステートメントを示している。

以下の添付文書には、この問題に関連してACCCが提起した法廷文書が含まれている。これらの最初のドキュメントが後で修正される場合、私たちはそれ以上のドキュメントをアップロードしない。

Concise statement (全27頁) 表題「 NOTICE OF FILING  」

*********************************************************************************************

(筆者注1) 「GAFA(ガーファ)」とは、Google、Apple、Facebook、Amazon.comの頭文字を並べたもので、2012年ごろからまずフランスで使われるようになった結構古くからある言葉です。今年ヒットしたスコット・ギャロウェイ氏の書籍でタイトルになったこともあり、最近は日本でも取り上げられる機会が増えました。

 GAFAという言葉は、広告や検索(Google)、スマートフォンとそのアプリ(Apple)、SNS(Facebook)、ショッピング(Amazon)というネットの「プラットフォーム」で大きなシェアを持つ「プラットフォーマー4傑」という意味で使われています。また、「個人情報は集めるわ、市場独占で自由競争を阻害するわ、税金はごまかすわ、のずるくて巨大な米国企業」という、あまり良くないニュアンスでも使われている言葉です。(IT mediaから一部引用)

(筆者注2) 2017.9.16筆者ブログ「スペインの個⼈情報保護庁(AEPD)のFacebookに総額120万ユーロ(約1億5,600万円)の 罰⾦刑とEU加盟国の新たな規制強化の動向(その1)」同(その2完)等を参照。

(筆者注3) 「予備報告」という位置づけながら合計374ページにも及ぶこの報告書の中でACCCは「GoogleとFacebookがオーストラリアのニュース業界に大きな影響を及ぼしているため、2014年から2017年の間に新聞などの伝統的な活字メディアの職業ジャーナリストの数は20%以上減少しています」と指摘。「オーストラリアのジャーナリズムにおける、世界的なデジタルプラットフォームの役割について再考すべきである」と結論づけている。

(筆者注4) 公正取引委員会は2019年10月に同年7月26日にACCCが公表したリリース文を概要訳を行っている。その内容はあくまでACCCのリリース文の概要訳文であり、報告書の本体623頁を改めて整理・解析したものではない。

 なお、わが国の公正取引委員会の事務局の情報解析能力を疑うわけではないが、この公開資料は単なる直訳であり、内容的に見てACCCの情報を超えるものではない。これに関し、最近筆者がブログで取り上げた「オーストラリアの消費者擁護団体やACCCが行った水に流せる使い捨てシートによる下水施設の「ファットバーグ」の原因追及と製造企業の広報活動の在り方をめぐる告発の動向」を併せて読まれたい。

 すなわち、ACCCの世界的衛生用品企業である「キンバリー・クラーク(Kimberly Clark )」告発の背景として消費者保護団体(CHOICE)の地道な実証テストがあっては初めてACCCの告発がありえたのである。しかし、ACCCのリリースではこの点につき何ら言及していない。単なる翻訳作業以上の情報でなければ、わざわざ公正取引委員会サイトで紹介する意味がない。

(筆者注5) わが国のデジタル市場競争の在り方についての検討はどうなっているであろうか。

一例として 内閣官房デジタル市場競争会議の開催について令和元年9 月2 7日デジタル市場競争本部決定同会議の議員名簿を見てほしい。なお、第2回同会議資料「豪州の動き」(41頁)においてACCCの2019年7月26日の最終報告書で示された提言内容につき引用されている。

(筆者注5-2) Fitbitはカリフォルニア州サンフランシスコに本社を置く。このため、米国内で最も厳しいといわれる2020年1月1日施行された同州の保護法「(California Consumer Privacy Act of 2018」に準拠すべくプライバシーポリシーで明言している(2019.12.18 改訂New!当社では最近、カリフォルニア州の新しいプライバシー法の下で義務付けられる開示についての項目を含めるために本ポリシーを改訂いたしました。以下の「変更のまとめ」と改訂版ポリシーをご確認ください。以前のポリシーは当社アーカイブに保管されています。)。しかし、その内容を読むとそうではない箇所もあり、この点については別途まとめたい。

 なお、同州の保護法の仮訳としてわが国の個人情報保護委員会サイトがあるが、内容の解説は一切ない。一方、2019.6.6 JETRO「施行が迫る「カリフォルニア州消費者プライバシー法」(米国)」は企業から見た対応上の重要と思われる点をEUのGDPRとの比較も含め網羅しているレポートである。

(筆者注6) Wear OS by Google(旧称Android Wear)は、スマートウォッチ(腕時計型ウェアラブルデバイス)向けに設計されたGoogleのAndroidベースのオペレーティングシステム。Android携帯端末やiPhoneとBluetoothや Wi-Fi、LTEでペアリングすることで、端末で受け取った通知をWear OS by Google側で閲覧や操作をできる。またGoogle Playより、Wear OS by Googleに対応したアプリをインストールすることができる。(Wikipedia から抜粋)。

(筆者注7) 運用型広告(プログラマティック広告)とは、膨大なデータを処理するアドテクノロジーを活用したプラットフォームにより、入札額や広告素材の変更などの広告最適化を自動的かつ即時的に支援する広告手法をいう。

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オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)がGoogleが提案したFitbitの買収に関する予備段階での懸念の概要を声明(その2完)

2020-06-25 11:04:54 | 消費者保護法制・法執行

 

【Appendix】オーストラリアの連邦裁判所の裁判記録の検索手順

専門家でなくても“File Number”さえ判明すれば詳細な資料は検索できる。今回の検索ではConcise Statementで「File Number 」=「NSD1760/2019」を確認できた。

なお、筆者はCommonwealth Courts Portalに登録済であるが。ここでは未登録者のアクセス手順で説明する。実際に試されたい。

 

②まず、連邦裁判所のHPから「Federal Law Search」を選ぶ。

③画面下のacceptをクリック

④File Number*に「NSD1760/2019」を入力→Search by File Numberをクリックする。

⑤裁判所名:Federal Court Australia,Registry; Title:AUSTRALIAN COMPETTITION AND CONSUMER COMMISSION v GOOGLE LLC&ANOR 等を確認する。

⑥ CONSUMER PROTECTION をクリックし、詳細な事件内容を確認する。

⑦Court Events and Order画面から詳細を検索する。

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トランプ大統領やバー司法長官によるニューヨーク州南部地区連邦地検(SDNY)の連邦検事の解任手続きにかかる憲法やこれまでの最高裁判例との関係を検証

2020-06-23 13:10:10 | 国家の内部統制

 多くの米国等メディアやわが国のメディア(筆者注1)が報じた「6月19日の夜遅く、ウィリアム・バー(William P. Barr)司法長官は、トランプ大統領がジェイ・クレイトン(Jay Clayton)SEC委員長をジェフリー・バーマン(Geoffrey Berman)連邦検事(筆者注2)の後任としてニューヨーク州南部地区連邦地検(SDNY)の連邦検事に指名する予定であると発表」やこれに対するバーマン検事の反論など、トランプ政権の混乱する恣意的人事施策につき各種報じられてきた。

Geoffrey Berman氏

 しかし、その中で筆者が最も理解できなかった点はバーマン検事の反論の中で自分は大統領から任命されたのではなくニューヨーク連邦地方裁判所の裁判官から任命されたのであるという点であった。

 その法的根拠は如何という点であり、これにつき筆者が日頃熟読している法律専門解説サイト「The Volokh Conspiracy」の6月20日の解説記事David Post氏(筆者注3) の「Who Can Fire the US Attorney for the Southern District of New York? The answer may surprise you.」」を読んで目から鱗が落ちた気がした。

 しかし、なおバーマン検事の2回にわたる声明を読むと、さらなる疑問がわいてきた。すなわち、6月19日にはトランプ大統領と司法長官の協議にもとづく解任措置に対し、連邦議会上院の承認が出るまでは暫定代理の連邦検事はありえないといっていたのに、翌20日にはSDNYの連邦検事代理(No.2)であるオードリー・シュトラウス(Audrey Strauss )氏に席を譲ると表明した点である。

Audrey Strauss氏

 まさに、法律論では解決できない世界ではあろうが、現SEC委員長が公認候補と指名されている重要なポストだけに連邦議会上院での承認手続きの透明性も含め、いずれにしてもしかるべき専門家による法律的にきちんとした説明をしてもらいたいと考える。

 今回のブログは、(1) David Post氏のレポートの仮訳、(2)SDNYサイトにおけるバーマン検事の声明内容の仮訳、(3)わが国でも検察の独立性の議論があるとおり、米国の専門家の議論の内容を例示的に概観する。

1.David Post氏のReport“Who Can Fire the US Attorney for the Southern District of New York? The answer may surprise you”の仮訳

 本日(6/20)、トランプ大統領は、職務を遂行するために多忙な多くの厄介な監査総監(筆者注4)をまとめて処分したが、SDNYのジェフリー・バーマン氏の連邦検事の地位に十分に任命されたという知らせを持っている。 連邦司法長官のウィリアム・バー氏は、バーマン氏は「辞任」し(「優れた仕事」を成し遂げたが)、SEC委員長のジェイ・クレイトン氏が後任となると語った。

 解任の理由は示されてない。どうやら、バー長官自身のプレスリリースが出るまで、バーマン氏はそれについて何も知らなかった。確かにトランプ大統領とバー長官は、ルドルフ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani)元ニューヨーク市長のバーマン氏の進行中の調査(筆者注5)を抑圧したいという欲望に動機づけられておらず、今回の解任措置がジョン・ボルトン氏が最近出した本で新たに明らかにされた。すなわち、トランプ大統領がニューヨーク州南部地区の連邦検察(SDNY)の検察官にトルコのエルドアン大統領の要請により、トルコの民間銀行(Halkbank)の調査を中止させたというものである。(筆者注6)

エルドアン大統領とトランプ大統領

 トランプ大統領の連邦検事の解任の動機と、それが彼の通常のマフィアのものよりも実際に司法の妨害を構成する可能性についての質問を脇に置いても、少なくともジェフリー・バーマンそれらに関係している限り、それはそれだと考えるかもしれない。大統領が雇い、大統領が解雇するということである。

 しかし、物事はそれほど速くは進まない。バーマン氏は自身はどこにも行かないと言っている。

 これが彼の立場である。彼は2018年1月の当時のジェフ・セッションズ(Jeff Sessions)司法長官(筆者注7)によりプリート・バハララ(Preet Bharara)連邦検事(トランプ氏が解任したばかり)の後任として連邦検事の職に指名された。しかし、何らかの理由で、必要な上院の承認のためにバーマン氏の名前が正式に提案されることは決してなかった。

 そのため、2018年4月、連邦地方裁判所の裁判官は満場一致で投票し、彼を現在の職に任命した。

 これについて読んだときの私の最初の反応は次のとおりであった。どうなっているのか?連邦検事を任命する連邦裁判官とはどういうことか?彼らは本当にそれをすることができるのか?実は、私はマイク・ポンピオ国務長官が連邦議会上院で承認されたのではなく、最高裁判所から国務長官に任命されたということを知った。(筆者注8)

 裁判官が、実際にそれを行うことができることが理解できた。または、少なくとも、裁判官はそれを行うために法令により明示的な許可を与えられているのである。

 以下の合衆国現行法律集第28編第546条( 28 USC 546)を参照されたい。

連邦検事の空席時の取扱い(Vacancies.)

(a)第(b)項に規定されている場合を除き、司法長官は、連邦検事の事務所が空いている地区に連邦検事を任命することができる。

(b)司法長官は、上院が助言と同意を与えることを拒否した大統領によるその役職への任命者を連邦検事に任命してはならない。

(c) 本項に基づいて連邦検事に任命された者は、以下のいずれかまでサービスを提供できる。

   (1)第2編の第541条に基づいて大統領により任命された地区の連邦検事の資格。または

   (2)第541条に基づく司法長官による任命後120日の満了。

(d)第(c)項(2)号に基づいて任命の期限が切れた場合、そのような地区の地方裁判所は、空席がなくなるまで務める連邦検事を任命することができる。地方裁判所による任命の命令は、裁判所の書記官に提出されなければならない。

実は、バーマン連邦検事は546条(d)項の下で任命されたのである。彼の最初の任命は120日の寿命の終わりに来ていたため((c)項(2)号に基づき)、裁判所は彼を「空席がなくなるまで務める」という立場に任命する権限を行使した。

 したがって、バーマン検事は今言っていること、「もともと、大統領が私を任命していないので、裁判官により任命されたので、私は通常の連邦検事のように大統領の喜びには奉仕できない」この任命は「空席がなくなるまで」続くもので、すなわち、それは大統領の新たな連邦検事候補者が議会上院で承認されるまでは解任は起こり得ないといえる。

 バー司法長官が連邦検事の暫定の後任者を指名して(Barr長官がSEC委員長のJay Claytonをその地位に指名したと主張しているが))、次のように言うだけでは十分ではない。法律に基づき次のように言うべきである。「連邦検事の空席が埋まったのであなたのデスクを片付けて立ち去りなさい。」すなわち、法律は連邦検事が空席の時のみ暫定連邦検事を任命する権限を与えているので、それはうまく運ばない。しかし、SDNYの連邦検事の席は現在空いておらず、すなわち、その席はバーマン検事が連邦地方裁判所によって正式に任命されているからである。

2.ニューヨーク州南部地区連邦地検(SDNY)サイトで見るジェフリー・S・バーマン検事の声明内容(仮訳)

(1)2020.6.19 バー司法長官の発表に関するニューヨーク州南部地区連邦地検・連邦検事ジェフリー・S・バーマン氏の声明

「私は今夜、司法長官のプレスリリースで、私が連邦検事として「辞任」させられたことを学んだ。私は辞任していないし、また直ちに辞任するつもりもない。私はニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所の裁判官によって任命された立場にある。大統領に任命された候補者が上院で承認されたら、辞任する。 それまでは、捜査・調査は遅れたり中断されたりすることなく進められる。 私はこのオフィスの男女と協力して、恐れや公正をもって正義を追求することを日々大切にしており、このオフィスの重要な事件が妨げられることなく継続されることを保証するつもりである。」

(2) 6月20日 ジェフリー・S・バーマン検事の声明

「バー司法長官が法の通常の運用を尊重し、地方検事代理のオードリー・シュトラウス副検事(Deputy U.S. Attorney Audrey Strauss)を検事代理に任命するという決定に照らして、私はニューヨーク州南部地区連邦検事局を直ちに辞任する。 この地区の米国連邦検事とその誇り高い遺産の管理人を務めることは一生の名誉であったが、私は地区をオードリー副検事の手にすべて任せることはできなかった。 彼女は私がかつて働いた特権を持っていた中で最も賢く、最も原則的で、効果的な検事である。 そして、彼女のリーダーシップの下で、この検事局に努める比類のない連邦検事補(AUSAs)、調査官、パラリーガル(paralegalは、検事や弁護士の監督の下で定型的・限定的な法律業務を遂行することによって検事や弁護士の業務を補助する者 (筆者注9)、およびスタッフが、南部地区の永続的な伝統の誠実さと独立を守り続けることを知っている。」

3.ジェフリー・S・バーマン氏の解任問題に関する法律専門家の解説例

 時間の関係で、以下で要旨のみ仮訳する。時間を見て改めて内容を解析したい。 

(1)2020.6.20 Volokh Conspiracy:Josh Blackman(南テキサスヒューストンロースクール教授)「DOJ Should Not Let Chief Justice Roberts Decide Anything Concerning the SDNY U.S. Attorney:Generally DOJ is eager to appeal anything, and everything to the Supreme Court. Not during Blue June.」

 この数十年間、法的保守派はモリソン対オルソン(Morrison v. Olson)判決(筆者注10)に対する論争を繰り広げた。スカリア連邦最高裁判事(Justice Scalia)の反対少数意見(7-1)は我々の規範の一部です。従来の知恵は、すべての保守的な司法は、機会があればスカリア判事の見解に同意するというものであった。しかし、今はそうすべきでない。ブルージューン(Blue June)の間ではそうすべきでない。最高裁長官はこの言葉が一人の使命を変えた。彼が最高裁判所を救うために必要だと思うすべてのことをすべきである。

Justice Scalia

 連邦司法省は、SDNYの連邦検事(Geoffrey Berman氏)の人事につききわめて慎重に対応する必要がある (チャーリー・サベージは、役立つ説明を書きました)。下級裁判所は、バー長官によるバーマン検事の解任(実際または事実上)は違憲であると裁定するかもしれない。下級裁判所はまた、トランプによるバーマンの解任は違憲であると私は判断している。そして、裁判所はまた、司法長官もトランプ大統領もバーマン検事の代理を任命することができないと結論するかもしれない。

 もしそうなら、通常の動きは、最高裁に上訴することである。

    しかし、この問題に関する訴訟の可能性が最高裁判所にまで及ぶ場合、裁判官の過半数は、大統領の公務員を解任する能力についての堅固な見解を含むホワイトハウスの権力の保守的なイデオロギーに染まった共和党の選任者である点に留意すべきである。

 しかし、今は違う。最高裁長官ロバーツ氏は、最高裁判所を救うためにモリソンを狭める可能性を放棄することをいとわないであろう。彼は解任に反対し、大統領の権力を制限するであろう。そしてその過程で、長官は間違いなく合衆国憲法第2条の窮屈で曖昧な読みを採用し、何世代にもわたって行政部門を妨害​​するであろう。

 悲しいかな、今日的用語を使用すると、この馬はすでに納屋から出ているかもしれない。 DOJは首長(大統領)への神風任務(kamikaze mission)に向かった。そして、バー長官の後継者はその問題部分を拾わなければならないであろう。

Josh Blackman氏

(2)シアトル大学ロースクール アラスカ校 准教授クリスチャン・ハリバートン(Christian Halliburton)「PUBLIC POLICY FORUM:U.S. ATTORNEYS: ROLES ANDRESPONSIBILITIESINTRODUCTIONThe Constitutional and Statutory FrameworkOrganizing the Office of the United States Attorney」シアトル大学ローレヴューVol. 31:PP.213~218 

Christian Halliburton氏

*********************************************************************************************

(筆者注1) わが国では2020.6.20日経新聞「トランプ政権、NY州検事解任を画策 司法介入の疑い」 が比較的に詳しい解説と思う。なお、わが国のメデイアはU.S. Attotrneyを「検事正」を訳している。しかし、米国に連邦検察官の根拠法である「合衆国現行法律集第28編第541条」は以下のとおり定めるのみでわが国のように法律上「検事正」はないが、地区検事長、地方検事::連邦裁判所管轄区の首席検事制度はある。

ただし、本文で述べるとおり裁判所が任命する連邦検事や極端な例では国務長官の例もある。

1)アメリカ連邦検事(合衆国現行法律集第28編第541条)(仮訳)
(a)大統領は、連邦議会上院の助言および同意を得て、各裁判区の連邦検事を任命するものとする。

(b)各連邦検事は、4年間の任期で任命されるものとする。 検事は任期の満了後、連邦検事は、後任者が任命されて適格となるまで、引き続きその職務を遂行するものとする。

(c)各連邦検事は大統領による解任の対象となる。

2)司法制度改革審議会第5回議事録(平成11年10月26日開催)/配付資料「諸外国の司法制度概要」から一部抜粋。

検察官

連邦法にかかわる刑事事件の捜査、起訴及び公判の維持を行うほか、政府が当事者となる民事訴訟で訴訟代理人となったり、政府の法律顧問として法律的なアドバイスを行うなどの職務を行う。

その職名は、 「United States Attorney :U.S. Attorney(合衆国の代理人)であり、政府を法律上代理する法曹有資格者との意味である。州の場合の職名は、「District Attorney」(地区の代理人)である。

大統領が上院の助言と承認を得て任命する連邦検事( United States Attorney)は、連邦地裁の管轄区域ごとに 1 4 名ずつ置かれる。任期は 4年であり、再任も可能である。連邦検事補(Assistant United States Attorney)は、司法長官により任命され、連邦検事を補佐する。

3) 連邦司法省の連邦検事制度に関する歴史的意味も含めた解説サイト“3-2.000 - United States Attorneys, AUSAs, Special Assistants, And The AGAC”が参考になる。

 なお、参考までにわが国の検事正に関する法的根拠を引用しておく。

〇検事正(地方検察庁の長である検事)は,その地方検察庁の庁務を掌理し,かつ,その庁及びその庁の対応する裁判所の管轄区域内にある区検察庁の職員を指揮監督しています。

地方検察庁には,【任命権者の記載が抜けている】検事の中から任命される検事正が置かれています。なお、「検事正」は、職階ではなく職名で、職階は「検事」です。

検察庁法(昭和二十二年法律第六十一号):

第9条 各地方検察庁に検事正各1人を置き、一級の検事を以てこれに充てる。

2 検事正は、庁務を掌理し、且つ、その庁及びその庁の対応する裁判所の管轄区域内に有る区検察庁の職員を指揮監督する。

第十五条 検事総長、次長検事及び各検事長は一級とし、その任免は、内閣が行い、天皇が、これを認証する。

第十七条 法務大臣は、高等検察庁又は地方検察庁の検事の中から、高等検察庁又は地方検察庁の支部に勤務すべき者を命ずる。

(筆者注2) バーマン連邦検事のWikipediaの解説や引用されている司法省のリリースがPost氏の解説内容と合致する。以下で仮訳する。

2018.1.3 連邦司法省のリリース「セッションズ司法長官は計17人の現および元連邦検察官を暫定アメリカ連邦検事に任命」

 司法長官ジェフ・セッションズは本日、合衆国現行法律集第28編第546条に従って計17名の連邦検察官を暫定アメリカ連邦検事に任命すると発表した。全国の多く連邦検事局では、現在、欠員改革法(Vacancies Reform Act.)に基づいて第一次検察官補が代理を務めている。 ただし、2018年1月4日には、代理の米国弁護士の一部が同法に基づいて許可された最大時間を務めたことになる。司法長官が今日発表した任命は、これらの欠員を埋めるものである。

Wikipedia から一部抜粋

 バーマン検事は1990年から1994年までニューヨーク南部地区の連邦検事補を務めた。2018年1月、ジェフ・セッションズ司法長官は、バーマンの暫定連邦検事就任を120日間の法定期間に限定して発表した。その 120日後、2018年4月25日、ニューヨーク南部地区の裁判官は、合衆国現行法律集第28編第546条(d)項にもとづき満場一致で承認した。

 なお、欠員改革につき連邦議会上院によって承認された大統領候補者の指名が含まれる場合とバーマン検事のように含まれない裁判所が任命する場合がある。

(筆者注3) David Post氏は現在ケイト研究所の非常勤所上級研究員である。以前は、テンプル大学のビーズリー・ロースクールの教授である。

David Post氏

なお、ケイト―研究所(CATO institute)は1977年に設立されたワシントンD.C.に本部を置く非営利の公共政策研究機構で、アメリカ保守系シンクタンク。

(筆者4) 監査総監制度は、1980年代はじめ以降、各省を対象として、内部統制システムを整備し、その評価結果を大統領と議会に報告することが法律上義務付けられてきた。・・議会は、執行機関に、独立した客観的な監査・調査機能を付与することを意図して、1978年監察総監法(Inspector General Act of 1978)を成立させた。同法では、12の執行機関27に監察総監室(Office  of  Inspector  General)を設置しその長として、上院の助言と承認に基づいて大統領が任命する監察総監(InspectorGeneral)を置いた(Sec.3(a))(日本銀行金融研究所/金融研究/2006.8 森毅「米国の連邦政府における内部統制について」 から一部抜粋。

(筆者注5) 2019.10.1 BBCnews japan「米民主党、トランプ氏の顧問弁護士ジュリアーニ氏に書類提出命令」

(筆者注6) 2020.6.18 the Guardian 記事から一部抜粋、仮訳する。

「 元米国国家安全保障顧問のジョン・ボルトン氏は、ドナルドトランプがトルコの国営銀行に対する連邦捜査に介入することにより、トルコのレジェップタイップエルドアンを支援することに同意したという彼の新しい本の主張について詳しく説明するよう求められている。

ボルトン氏は、米国のメディアが見た回顧録の抜粋で、トランプ大統領が「好きな独裁者に個人的な好意を与える」ようであると述べた。これはトランプ氏のウクライナでの取引に焦点を当てた弾劾調査に含まれるべきだったとある。

ボルトン氏は、2018年の電話中に、エルドアン大統領がトランプ氏に、スキャンダルの影響を受けたハルクバンクが無実だと主張するメモを送ったと主張した。 「トランプ大統領はエルドアン大統領に事情を話し、[ニューヨーク]南部地区の連邦検事は米国民ではなくオバマ人であると説明した。連邦検事が米国民に置き換えられたときに修正される問題だ」とボルトン氏は自身の本で書いた。

(筆者注7) 2016年11月18日にトランプ次期大統領よりアメリカ合衆国司法長官に指名された。2017年2月8日、米上院はジェフ・セッションズ上院議員のアメリカ合衆国司法長官の就任を52対47の賛成多数で承認した。公聴会では民主党議員らがセッションズの公民権運動への姿勢や大統領からの独立性に疑問を呈した。採決の過程で民主党のウォーレン上院議員は、公民権運動指導者キング牧師の妻がセッションズ氏の判事承認に反対した当時の書簡を朗読した。これに反発した共和党が「同僚議員への非難」を禁じた議会規則に違反したとして発言を封じる動議を可決した。 セッションズ司法長官は指名承認公聴会の際に、ドナルド・トランプ候補(当時)のアドバイザーを務めていた期間にロシア当局との接触はなかったと述べていたが、司法省のサラ・イスガー・フローレス報道官はその時期にシャルヘイ・キスリャク駐米ロシア大使と2回接触していたことを認めた。選挙戦の間にトランプ陣営の誰がロシア政府当局者と接触したかや、何が話し合われたかについて、新たな疑念が生じていると報道された。

・・・2018年11月8日、トランプ大統領からの要請を受け同日付(現地時間7日)で司法長官を辞任。後任には2017年10月に首席補佐官に就任したマシュー・ウィテカー(英語版)が司法長官代理として就任した(Wikipedia から一部抜粋)

(筆者注8) 筆者はDavid Post氏の記事の根拠を改めて調べた。しかし以下のようなPolitico記事はあったがポスト氏が指摘する事実は確認できなかった。

「国務省の報道官ヘザー・ナウアート氏によると、57-42票で承認されたポンピオ氏は、木曜日の午後早くに最高裁判所のサミュエルアリート裁判官によって宣誓された。」票差はギリギリであったが、最高裁の関与は宣誓のみであったと思うが機会を見てポスト氏に直接確認したい。

(筆者注9) より詳しく言うと「事件に関する事実調査や資料収集、法令・判例検索、クライアントとの連絡業務、裁判所への書類作成、契約書の翻訳や調査業務など、法律知識をベースとしたより専門的な業務の担当者をいう」

(筆者注10)モリソン対オルソン判決に関する解説はわが国でもある。例示する。横藤田 誠「アメリカ法(1989巻)」(1990年)、阿部竹松「アメリカ大統領の連邦公務員任命権と上院の承認手続き」

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【本ブログのブログとしての特性】

1.100%原データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

関係者のアドバイスも受け会員制の比較検討を行っている。移行後はこれまでの全データを移管する予定であるが、まとまるまでは読者の支援に期待したい。

                                                                   Civilian Watchdog in Japan & Financial and Social System of Information Security 代表

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FBIクリストファー・レイ長官のバーチャル記者会見におけるジョージ・フロイド氏の押さえつけ死に関する社会不安に関する声明発言や起訴の法的取組みを検証(その2)

2020-06-10 18:27:24 | 国家の内部統制

Last  update 12 June ,2020

ジョージ・フロイド氏を悼む市民デモ

 筆者の手元に連邦司法省FBIの6月4日付けのリース「ジョージ・フロイド氏(George Floyd)の押さえつけ死にかかる社会不安に関する声明発言」が届いた。(筆者注1)この米国だけでなく海外の強い関心とりわけ著しい人種差別が警察等法執行機関でおこなわれている実態と、これに対する連邦政府および法執行機関への批判に応えたものである。

 前回の「ブログ(その1)」で取りあげたとおり、オーストラリア先住民に対する人種差別問題だけでなく、その前提として法執行機関の人権意識の低さは言うまでもなく、今回のFBI長官の声明も前半は迅速な調査と平和的な抗議者を支持する一方で、後段ではアジェンダ—・アンティファに関し、FBIは暴力を扇動し、犯罪活動に従事している個人を特定・調査し、阻止することにも力を注いでおり、さらにFBIが守ろうと誓っているコミュニティの公共の安全を維持することにより、法執行パートナーをサポートすることに注力していると述べている。また全米 56か所のFBIの現地事務所すべてに24時間制の司令部を設置することで、全国の州、地方、連邦の法執行パートナーと緊密に連携するようにしている点等を強調している。

 すなわち、FBIは全国200の「テロ合同タスクフォース」の活動内容や「国家脅威対策運用センター(National Threat Operations Center:NTOC)を通じて、犯罪行為の予兆ヒント、リード、およびビデオによる証拠を求めている等、米国法執行機関の本質的な課題に取り組む姿勢は十分読みとれない内容である。すなわち身内に優しく部下等を鼓舞するのみの内容ともいえる。

 今回は、時間の関係で第Ⅰ項で声明内容につき逐一問題点は指摘せず、記者会見の内容を仮訳するのみで終えるが、機会を改めて検討すべき課題を論じてみたい。

第Ⅱ項で以下の各項目につき、筆者の問題意識をもとに、詳しく解説する。

(1) 元白人警察官デクレ・M.ショービン被告や3名の元警察官の起訴内容とミネソタ州法の適用条文の正確な理解

(2)筆者はジョージ・フロイド氏の警察官4名による不幸な殺人事件の背景には、単なる人種差別や極右や極左集団のかかわりだけでない点に注目し、ミネアポリス市議会においてみられるとおり、警察組織の解散までに至る“Self- Governance”問題に注目した。

 特に、これらの市議会と市長の意見の対立、ミネソタ州司法長官の見解等の混乱の背景には、やはり米国のいまだに続く差別社会の現実にこだわざるを得ないし、ミネアポリスの地元メデイアを見るとその実態は我々が知りえる以上に悲惨である。その現状を理解する。

(3) 今回の事件に関し、筆者はスタンフォード大学法学部の刑事防衛クリニック(指導教授はロナルド・タイラー教授とスザンヌ・ルバン講師)の学生が取り組んでいる、サンタクララとサンマテオ郡の裁判所で犯罪で告発された貧しい人々を法的に裁判での擁護活動の内容に着目した。これらの訴訟には、薬物の使用や所持、暴行、盗難など、さまざまな軽犯罪が含まれる。

(4) 6月8日のハーバード大学JFケネディ行政大学院/科学および国際関係ベルファーセンター(Belfer Center for Science and International Affairs, John F. Kennedy School of Government, Harvard University)の米国の人種差別の根の深さ(システム化された米国の人種差別主義と警察活動(A Historic Crossroads for Systemic Racism and Policing in America)を読んで改めて問題の重要性を認識した。追加的にその要旨を紹介する。(この部分は後日追加更新する)

Ⅰ.6月4日のFBI長官クリストファー・レイ(Christopher Wray)氏の連邦司法省でのウィリアム・.バー司法長官等を伴う仮想記者会見の内容
 2020年5月25日のジョージ・フロイド氏の不幸な死をきっかけに起こった市民の不安に関連する調整努力について、次のように述べた。また、この記者会見では、司法長官ウィリアム・.P・ バー(Attorney General William P. Barr)、ドナルド・W・ワシントン司法省連邦保安官局長(U.S. Marshals Director Donald W. Washington,)、マイケル・カルバハール司法省連邦刑務所局長(Bureau of Prisons Director Michael Carvajal)、テモシー・シエイ麻薬取締局長代行(Drug Enforcement Administration Acting Administrator Timothy Shea)(2020年5月19日就任)、レジーナロンバルド麻薬・アルコール・タバコ・銃器・爆発物取締局の局長代行(Drug Enforcement Administration Acting Administrator Timothy Shea, and Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms, and Explosives Acting Director Regina Lombardo)(同局で初めての女性局長代行である)が同席した。

Christopher Wray長官(中央);後列左からTimothy Shea、Michael Carvajal、William P. Barr、
Regina Lombardo、Donald W. Washington(敬称は略す)(FBIサイトの動画から引用)

 今回の事件は、わが国にとって、また我々が奉仕するすべての市民にとって、非常に困難な時期といえる。まず、亡くなったジョージ・フロイド氏とその家族に心からお見舞い申し上げる。ほとんどの人と同じように、私はフロイド氏の悲劇的な死で終わった事件のビデオ画像に驚き、また深く悩んだ。

 5月25日のフロイド氏の死亡後数時間以内に、FBIは関与した元ミネアポリス警察官の行動が連邦法に違反したかどうかを決定するために犯罪捜査を開始した。我々はその調査を迅速に進めており、我々の正義の追求において、彼らが導く可能性のある場所ならどこでもその事実を追跡する。

 フロイド氏の家族は、ここ数週間で愛する人を亡くした多くの家族のように、現在苦しんでおり、前進する方法を模索している。実際、我々の国全体が前進する方法を模索している。すなわち、この問題は、ジョージ・フロイド氏だけの話ではないからであり、これは、長年にわたって、不当に殺されたか、または保護を委託された人々によって権利が侵害されたすべての人々についてのものである。

 法執行機関が市民、特に少数民族集団(minority community)のメンバーを保護し、奉仕するという最も基本的な義務を果たせなかった場合、すべての人々が身に付けているバッジの価値が損なわれるだけでなく、法執行機関における私たちの構築に懸命に取り組んできた信頼が損なわれることになる。そして、人々が私たちの中に置かれている信頼に応えていないと感じているとき、彼らは発言して抗議したいと思うのは当然である。

 FBIは、合衆国憲法修正第1(筆者注2)の自由を平和的に行使する個人の神聖な権利を保持している。非暴力の抗議行動は、病んでいる民主主義ではなく、健全な民主主義のしるしである。 FBIの使命は、アメリカ国民を保護し、憲法を守ることであり、その使命は二重かつ同時であり、矛盾するものではない。これらの抗議の際にコミュニティと協力する際、法執行機関は、コミュニティの安全とセキュリティを市民の憲法上の権利と市民的自由とバランスさせる必要がある。一方は他方を犠牲にする必要はないのである。

 近年、わが国の一部で見られた暴力、生命への脅威、財産の破壊は、平和的なデモ隊を含むすべての市民の権利と安全を危うくしている。これは止まらなければならない。この状況を悪用して、暴力的で過激なアジェンダ—・アンティファ(ANTIFA)(筆者注3)やその他の扇動者のようなアナキスト—を追求している人々がいる。これらの人々は、平等と正義の追求に加わるのではなく、不和と激動をまき散らすことに着手した。そして私たちを引き離すことによって、彼らは我々を一緒にしようとしているすべての人々、私たちのコミュニティと宗教指導者、選出された当局、法執行機関、そして市民の緊急の仕事と建設的な関与を弱体化させている。多くの人々が、これらの過激派や過激派を通じて引き起こされた暴力に苦しんでおり、我々自身の法執行機関要員の家族の一員を含む。仕事をしている間に殺害されたまたは重大な怪我をした法執行官吏は、すべての人を安全にしようとすることによって公衆への義務を果たした。

 明確にすべきことは、我々は平和的な抗議者を思いとどまらせることを決して試みようとはしていない点である。そして、平和で合法な抗議活動を通じてあなたの声が聞こえるように、そこにいる市民たちに、このことを私に言わせてほしい。

 我々の法執行機関ではあなたの言うことを聞いている。我々は、我々の警察活動(policing)と捜査があなたたち全員にふさわしい平等な正義へのプロフェッショナリズムとコミットメントで行われることを確認する必要がある。しかし、他方で我々は暴力を扇動し、犯罪活動に従事している個人を特定し、調査し、阻止することにも力を注いでいる。

 そのため、FBIでは、我々が守ろうと誓っているコミュニティの公共の安全を維持することにより、法執行パートナーをサポートすることに注力している。全米 56か所のFBIの現地事務所すべてに24時間制の司令部を設置することで、全国の州、地方、連邦の法執行パートナーと緊密に連携するようにしている。
 すなわち、我々は全国200の「テロ合同タスクフォース」(筆者注4)に対し、平和的な抗議活動をハイジャックしている暴力的な扇動者を逮捕し、告発することで地元の法執行機関を支援するよう指示した。全国レベルでは、「国家脅威対策運用センター(National Threat Operations Center:NTOC)を通じて、犯罪行為の予兆ヒント、リード、およびビデオによる証拠を求めている。そして過去数日間、私は米国のさまざまな地域の法執行機関のリーダーと話し合って、必要なサポートを確実に提供し、すべてのコミュニティでFBIがどこにいても支援する準備ができていることを彼らに知らせている。法執行機関やコミュニティ・パートナーとの関係は、これまで以上に重要になっている。なぜなら、アメリカ国民の信頼なくして我々の仕事はできないからである。

 最後に、FBIはアメリカ国民を保護し、憲法を守るという使命を堅持し続けることを改めて表明したいと思う。米国は公民権運動の時代以来、市民の自由と公民権の保護は我々の使命の一部であり、これらのFBIの捜査は、市民的自由と公民権が私たちアメリカ人としての私たち自身の中心であるという単純な理由で、私たちの活動の中心にある。

 「1964年公民権法(Civil Rights Act of 1964)」の前では、連邦政府は公民権の保護を州政府と地方政府に委ねていた。ミシシッピ州バーニング事件と連邦政府とFBIの公民権法が、傍観者から脱却し、有色人すべての公民権を完全に保護し始めた。それ以来、ヘイト犯罪の特定と防止、権力と権限の乱用の調査に努めてきた。FBIの公民権訴訟(civil rights suit)が行う最も重要な作業の1つであり、決して変わることはない。

 本日、私は法執行機関に勤める男性と女性について長い間信じてきたことを繰り返す。完全に見知らぬ人のために彼または彼女の人生を進んで受け入れるには、信じられないほど特別な人が必要である。そして、毎日起きること、そしてそれを行うことは並外れたことといえる。激動の時代にあって、私たちは、生命と安全を危険にさらしている法執行機関のメンバーの勇気を忘れないのである。

Ⅱ.元警察官の起訴とその具体的訴因および州の警察活動をめぐる議会との対立の内容
1.被告たる元警察官4名の起訴と罪状
 被告たるミネアポリスの白人警察官デクレ・M.ショービン被告(Derek Michael Chauvin )は懲戒免職となる一方で、ミネソタ州司法長官のキース・エリソン(Keith Ellison)は6月3日に、ジョージ・フロイドの殺害でショービン被告に対する起訴訴因につき、同州法にもとづき「第3級殺人」(筆者注5)に「第2級殺人」を追加・変更した旨報じた。

Keith Elliso司法長官

 なお、この起訴状の内容につきより正確性を期すため、ヘネピン郡の地方裁判所に出された起訴状にもとづき筆者の責任で条文を引用すべく、補足、仮訳した。(残念ながら、わが国や米国メディアでここまで正確に説明している記事はなかった)。

 訴因は3つである。正確を期するため条文(原文のまま)を併記する。

第一訴因(COUNT Ⅰ)は「第2級殺人:殺意を持った意図的な殺人であるが、事前に計画または計画されていない(Any intentional murder with malice aforethought, but is not premeditated or planned in advance)」:40年以下の拘禁刑
2019 Minnesota Statutes
609.19 MURDER IN THE SECOND DEGREE.
Subd. 2.Unintentional murders. Whoever does either of the following is guilty of unintentional murder in the second degree and may be sentenced to imprisonment for not more than 40 years: 
(1) causes the death of a human being, without intent to effect the death of any person, while committing or attempting to commit a felony offense other than criminal sexual conduct in the first or second degree with force or violence or a drive-by shooting; or
(2) causes the death of a human being without intent to effect the death of any person, while intentionally inflicting or attempting to inflict bodily harm upon the victim, when the perpetrator is restrained under an order for protection and the victim is a person designated to receive protection under the order. As used in this clause, "order for protection" includes an order for protection issued under chapter 518B; a harassment restraining order issued under section 609.748; a court order setting conditions of pretrial release or conditions of a criminal sentence or juvenile court disposition; a restraining order issued in a marriage dissolution action; and any order issued by a court of another state or of the United States that is similar to any of these orders.

第二訴因(COUNT Ⅱ)第3級殺人:著しく危険な行為を行いかつ堕落した気持ちを蘇らせた殺人Perpetrating Eminently Dangerous Act and Evincing Depraved Mind」:25年以下の拘禁刑
609.195 MURDER IN THE THIRD DEGREE.
(a) Whoever, without intent to effect the death of any person, causes the death of another by perpetrating an act eminently dangerous to others and evincing a depraved mind, without regard for human life, is guilty of murder in the third degree and may be sentenced to imprisonment for not more than 25 years.

第三訴因(COUNT Ⅲ)第2級殺人:重度の過失に基づく法外な危険を生じる殺人(Culpable Negligence Creating Unreasonable Risk):10年以下の拘禁刑または2万ドル以下の罰金、またはその併科あり
609.205 MANSLAUGHTER IN THE SECOND DEGREE.
A person who causes the death of another by any of the following means is guilty of manslaughter in the second degree and may be sentenced to imprisonment for not more than ten years or to payment of a fine of not more than $20,000, or both:

(1) by the person's culpable negligence whereby the person creates an unreasonable risk, and consciously takes chances of causing death or great bodily harm to another; or

2.地元メディアの報道内容
  

J. Alexander Kueng, from left, Thomas Lane and Tou Thao.
Hennepin County Sheriff's Office via AP
 

 2020.6.3 Minnesota Public Radio(MPR)「Floyd killing: 2nd-degree murder count for Chauvin; 3 other ex-cops charged」記事他から主要部を抜粋、仮訳する。

 ミネアポリスのジェイコブ・フレイ市長は5月27日、男性を押さえつけた警官を訴追すべきだとの認識を示した。(5/28 CNN日本語版)

 司法長官はショービン被告に対し2度目の殺人容疑を加えた。彼はまた事件で解雇された他の3人の警官を起訴した。

 ヘネピン郡の刑務所の記録によると、上記3人全員が6月3日の午後に拘留されている。

ショービン被告は週の初めに逮捕された。 4人の元警察官全員の保釈金は100万ドルに設定されている。ショービン被告の最初の公聴会は6月8日である。

 エリソン長官は6月3日の記者会見で「捜査は進行中である。 私たちはすべての証拠の道をたどっているが、ショービン被告に対するアップグレードされた殺人容疑のほかに、検事総長は、また他の3人の元ミネアポリスの警察官であるトーマス・レーン(Thomas Lane)、トゥ・タオ(Tou Thao)、J.アレクサンダー・キュング(J. Alexander Kueng)に対する殺人を支援および禁ずる罪で起訴した」と 各被告の容疑を発表し、捜査の忍耐力を国民に訴えたため、記者団に語った。

 3.ミネアポリス市議会は警察組織の解体を誓う動きと今後の検討課題
2020.6.8 のBBCは次の記事を報じた。
 「13人の議員のうち9人は、法執行機関である警察が人種差別で非難されている都市で「公安の新しいモデル」が作成されるべきと語った。ジェイコブ・フレイ市長は以前、この動きに反対し、群衆からブーイングを引き寄せた。
何年にもわたってそのようなステップを要求してきた活動家たちは、それを転換点と呼んだ。

 しかし、ミネアポリス市は現在、警察活動に関する長くて複雑な議論を予想することができ、構造改革がどのような形をとるのかは不明確なままであると解説者は述べている。

 フロイド氏の警察官の拘束中の死は、人種差別と警察の残虐行為に対する大規模な抗議を引き起こした。」

 ところで、極めて困難な問題に取り組もうとする市議会の中心にあるリサ・ベンダー議長(Risa Bender)は5月31日、ARE.tv (バーチャルおよびVHFデジタルチャンネル11(米国ミネソタ州ミネアポリスにライセンスされているNBC系列のテレビ局)に「我々のコミットメントは、ミネアポリス警察との私たちの市の有毒な関係を終わらせることである」と語った。(注6)

Risa Bender氏

 警察組織の解体や改組問題につき6月8日、同議長がナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)の取材記事「ミネアポリスの警察の解体はどのようになるか?」で詳しく解説している。(注7)短い記事であり、感心のある読者は読まれたい。

 なお、同議長のキャリアや市議会議員としての活動内容を公式サイトWikipedia 等で見ておくべきである。

4.ジョージ・フロイド氏の死亡事件に関連し米国のマイノリティ裁判支援に関する米国の大学の取り組み例

 今回の事件に関し、筆者はスタンフォード大学法学部の刑事防衛クリニック(指導教授はロナルド・タイラー教授(Ronald Tyler)とスザンヌ・ルバン(Suzanne A. Luban)講師)の学生が取り組んでいる、サンタクララとサンマテオ郡の裁判所で犯罪で告発された貧しい人々を法的に裁判での擁護活動の内容に着目した(これらの訴訟には、薬物の使用や所持、暴行、盗難など、さまざまな軽犯罪が含まれる)。

Ronald Tyler氏

 ところで、筆者は日頃、同大学からのレポートやニュースなどを読んでいるが、去る6月4日にタイラー教授などの刑法や刑事裁判の専門家であるタイラー教授等が本裁判につきどのように具体的解析を行っているかについての座談会記事「警察の武力行使、訓練、およびジョージ・フロイドの死後の新たな前進の道(Use of Force, Training, and a Way Forward After the Death of George Floyd)」を読んだ。

 さらに、強い関心を持ったのはロナルド・タイラー教授とスザンヌ・ルバン講師の監督のもと、Criminal Defense Clinicの学生は、捜査、証人へのインタビュー、裁判での答弁取引( Plea bargain;Plea negotiation とは、刑事手続において被告側の有罪答弁等と引き換えに訴えの対象を一部の訴因あるいは軽い罪のみに限る合意)、専門家との共同作業、抑止申立て(suppression motions )抑圧運動 (注7)裁判など刑事訴訟のすべての段階でクライアントを代表する。 同クリニックのメンバーは、犯罪で告発されることは個人とその愛する人にとって困難な状況であることを認識しており、裁判のあらゆる段階で、クリニックの目標は、熱心でクライアント中心の表現を提供することといえるとの解説を読んだ点にある。

 後者の問題については機会を改めて論じたいと考え、今回は前者に関する座談会の内容を重要部と思われる部分を抜粋、仮訳するにとどめる。きわめて時間の専門的な内容であり、筆者の翻訳力不足もあり、後日見直したい。

〇ショービン被告に対する刑事訴訟はどれほど強力か?

タイラー:デレク・ショービン被告に対して証明するのが最も簡単なのは、過失殺人(negligent homicide)に関する第2級殺人(609.19 MURDER IN THE SECOND DEGREE.)規定の適用問題である。

 確かに陪審は、妥当な疑いを超えて、ジョージ・フロイド氏の手首を下向きにして歩きながら顔を下にしてジョージ・フロイド氏の首に自身の膝を約9分間押し込むことにより、その時間のかなりの部分で他の2人の警察官を胸と脚に乗せたと結論付けることができる。ショービン被告は、ジョージ・フロイド氏が死んだり、大きな身体的危害を被るという不合理なリスクを不注意に作り上げた。ビデオの証拠、おそらく目撃証言、公式および私的検死に基づく医学的証言はすべて、フロイド氏が最終的に心停止になり、これらの行動のために死亡したという結論を支持する。

 しかし、検察官は実際にははるかに深刻な容疑についての有罪判決を求めているであろう。第3級殺人という事件の当初の容疑は残っている。ここでも、陪審員はショービン被告を有罪とする十分な証拠を持っているであろう。ミネソタ州は、州法上で第3級殺人罪を定めるほんの一握りの州の1つである。

 ショービン被告は、陪審員が人命にとって極めて危険な行為を行ったと判断し、人命を危険にさらしていることを認識し、その危険性を無視した場合に有罪判決を受ける。ショービン被告の行為は人間の生活にとって危険であり、彼はそれを認識していたことは確かに明らかであり、フロイド氏の絶望的な嘆願や見物人の嘆願にもかかわらず、彼はそのリスクを無視した。ニューヨークタイムズのビデオはこれを示している。

〇ショ―ビン被告に対する第2級殺人のより重大な告発と、他の3人の元警察官に対するより軽度の告発について話してもらいたい?
タイラー:明らかに、新しい検察の目玉は第2級殺人容疑である。州のエリソン長官は、それを証明できると思わなければ、自分は刑事告訴を起こさなかったであろうと述べた。確かに、請求は正当化される。
 ショービン被告が重罪殺人の罪を犯していることを証明するために、検察は彼がフロイド氏を殺害するつもりであったことを証明する必要はない。代わりに、彼らはショービン被告が重罪を犯したことを証明しなければならず(この場合、フロイド氏を襲撃した)、彼がその暴行を犯している間、彼はフロイド氏を死に至らせた。現在利用可能な証拠は、暴行(首の圧迫)、その結果としての意識の喪失、そして彼の悲劇的な終焉を示している。

 他の3人の元警察官に対する援助と教訓も同様に強いようである。結局のところ、キュング被告とレーン被告は、足と胴体を押し下げてジョージ・フロイド氏を舗装路に押し付けることに積極的に参加した。タオ被告は警備員として立ち、傍観者がフロイド氏の援助に来るのを防ぎ、彼らの嘆願を無視したのである。

 先週、ウィリアム・バー連邦司法長官が、フロイド氏の死に対する並行した連邦公民権調査の実施を発表したことにも注意することが重要である。ミネソタ州地区の米国弁護士はその努力に責任があります。明確にするために、連邦の告発は行われていない。検察が起訴された場合、それは法のもとで行動していた元警察官がジョージ・フロイド氏を米国憲法によって保護されている権利、この場合は明らかに彼の生命の権利から奪ったという告訴に基づいている。行為が個人の死をもたらした場合には、終身刑または死刑の可能性を含め、刑罰が高まる可能性がある。現時点では、連邦政府の告発が確実に行われるとは限らない。連邦公民権訴訟は現在のトランプ政権ではまれであることに気づくであろう。

〇有罪の確信はどのくらいありそうか?
タイラー:これらすべての有罪を証明する証拠があるに関わらず、また私の告発を切り抜けたにもかかわらず、実際には、多くの人々が知っているように米国でこれら4人の元警官の有罪判決の可能性は薄い。多くの人が抗議して通りに行った元警官に対する告訴は一般的ではなく、有罪の可能性はさらに少ない。有罪になる可能性が少ない理由の1つは、警官が自分たちの人生を恐れていたために合理的に行動したと首尾よく主張したことである。その防御は確かにこれら4人の元警官には利用できないように見えるであろう。また、有罪判決を得るにあたりもう1つの障害は、警察が通常の被告よりも疑いのはるかに高い利益を彼らに与えている多くの陪審員の心の中に保持されている高い地位である。

〇警察の訓練と武力行使の関係について話してもらえるか?

ルバン:警察官の訓練における重大な欠陥問題は、求められる力の程度が「警察が不本意な主体による遵守を強制するために必要とする努力の量」(筆者注8)であるという哲学である。 [https://nij.ojp.gov/topics/articles/overview-police-use-forceで引用された国際警察署長協会の定義による]
 警察は、容疑者の犯罪の性質や不遵守の種類によって保証されるよりも、より深刻なまたは有害な力を使用してしまう可能性がある。このような政策のもう一つの重大なリスクは、警察が抵抗のために容疑者を「処罰」するために力を行使することができるということである。 ジョージ・フロイドが閉所恐怖症を訴えた後、警官が彼をパトカーに押し込んだ後、警官は彼を車から引きずり出し、彼を路上にうつ伏せに押し付けた。3人の警官がひざまずいてフロイド氏の気道と胸に圧力をかけた。フロイド氏が叫ぶと、別の警官が彼を「起きろ。車に乗れ」と挑発したが、警官の首と背中への圧力が続き、彼は立ち上がることができなかった。

〇ショービン被告が使用したフロイド氏の「首の拘束」は、フロイド氏が手錠をかけられていたにもかかわらず、合法であったか?
 ショービン被告は膝を使って「頸動脈拘束」を行い、血管静脈に圧力をかけ、脳への血流を一時的に遮断し、意識を失った。フロイドがぐったりした後、彼がこのプレッシャーを3分近く続けたのをみんな見ている。NBCニュースによると、2015年以来、ミネアポリスの警察官は少なくとも237回首の拘束を使用し、人々を44回意識不明にしていた。ミネアポリス警察当局はNBCに、このホールドは制裁も教えもされていないと語った。

 この種の制御技術は、特に手錠をかけられ、したがって警官に重大な危険を及ぼす場合には、普遍的に合法でなければならない。そのホールドが合法であるかどうかの問題は陪審員によって決定されるが、我々は「ノー」と言うであろう。それは合法ではなかった。この拘束を呼吸を許可するよう懇願する手錠をかけられた男に対して使用することは、公民権侵害、捕虜の命を守る役員の厳粛な義務の違反、および米国憲法に基づく正当な手続きの違反であった。
 この殺害を受けて、多くの警察機関が独自の政策を再検討しており、いくつかのサンディエゴ警察機関など、のど輪攻め(chokehold)と頸動脈拘束の両方を禁止しているところもある。

〇ミネアポリス警察組合は、警察官の発砲を争う予定であることを示している。それは標準的な慣行であるか?
ルバン:はい、警察組合は、検察官が起訴された不正行為が殺人のレベルが上がると判断した場合でも、メンバー警官の熱心な代表者としての役割を見ている。過剰な武力で起訴された警官に代わって組合が擁護、介入することはしばしば成功する。

〇ミネアポリスは公民権調査を開始した。それは重要であるか? またそれはどういう意味か。
タイラー:実は、ミネソタ州人権局がミネアポリス警察の調査を開始した。彼らの目標は、警察署の大きな変更を強制することである。ミネアポリス・スター・トリビューンによると、同州のレベッカ・ルセロ人権委員は、この調査は、部門が全身差別に従事しているかどうかを判断するための過去10年間の政策、慣行、手続きをカバーしていると述べた。人権局は、裁判所によって執行可能な同意命令を交渉したいと考えています。驚くべきことに、ミネアポリス市議会は全会一致でこの調査を歓迎した。

〇フロイド事件は特に特別なものでなない。私たちは、警察がおもちゃの銃と非武装の男女を持つ子供たちを射殺したという報告を読んだ。有色人種に対して使用される過度の力のこのパターンに対処するための推奨事項があるか?

タイラー:特定の推奨事項は、何年もの間、改革者たちによって支持されてきた。リストの一番上にあるのは、警察官に対する市民の苦情を調査し、起訴された警察官に対して、公開の開示と制裁を含む意味のある行動を取り、削除と検察への紹介まで、独立機関に実質的な権限を与えることである。

 明示的な偏見に従事している警官を根絶することは重要であるが、暗黙の偏見に対処することも重要である。

 以下、略す。

5.ハーバード大学JFケネディ行政大学院/科学および国際関係ベルファーセンターの「米国の人種差別の根の深さ:システム化された米国の人種差別主義と警察活動(A Historic Crossroads for Systemic Racism and Policing in America)論文」の概要
後日、追加して更新する。                  

********************************************************************
(筆者注1)2020.6.1付けのWedgeがBBC記事(2020.5.31 「Antifa: Trump says group will be designated 'terrorist organisation'」)を翻訳、引用している。事実関係の箇所のみ引用する。
「ミネソタ州ミネアポリスでは25日、武器を持たない黒人男性ジョージ・フロイドさん(46歳)がデレック・チョーヴィン警官(44歳、5月29日に殺人罪で起訴)に膝で首を9分近く押さえつけられて亡くなった。この事件を受け、アメリカ各地でアフリカ系アメリカ人に対する警察の対応に怒りの声が上がっている。
抗議活動では暴力行為も多発し、各地の大都市で夜間外出禁止令が敷かれた。また、これまでに15州で、州兵が鎮圧に投入されている。アメリカ各州の州兵は、国内の緊急事態に対応するのが任務。
ミネアポリスではフロイドさんの死後、5日にわたって放火や盗難などが横行している。」

(筆者注2) 合衆国憲法修正第1につき米国大使館/国務省の訳文と原文を併記して載せる。
修正第1条[信教・言論・出版・集会の自由、請願権][1791年成立]
連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。

Amendment I
Congress shall make no law respecting an establishment of religion, or prohibiting the free exercise thereof; or abridging the freedom of speech, or of the press; or the right of the people peaceably to assemble, and to petition the government for a redress of grievances.

なお、憲法の修正条項(Amendments)とは、アメリカ合衆国憲法本文第5章にもとづき、合衆国議会が発議し諸州の立法部が承認した、合衆国憲法に追加されまたはこれを修正する条項をいう。

(筆者注3) ANTIFAに関しては欧米主要国で大きな問題とされている。ここでは米国の場合をWikipedia から一部引用する。
アメリカ合衆国で最初のANTIFAグループとされているのは、2007年にオレゴン州 ポートランドで結成されたRose City Antifa (RCA)である。RCAは2016年アメリカ合衆国大統領選挙後に、治安当局やドナルド・トランプ大統領の支持者と衝突した。
2020年5月31日、ジョージ・フロイドの死に端を発する騒乱(2020年ミネアポリス暴動など)にANTIFAが関与しているとしてアメリカ合衆国大統領のドナルド・トランプは自身のTwitterで「アメリカ合衆国は、ANTIFAをテロ組織として認定するだろう」とツイートしたが、CNNは「クレイジーな判断であり合衆国憲法に違反している」との同局の国家安全保障アナリストピーター・バーゲンの見解を掲載し、ロイター通信は、破壊・略奪などの行為は大半が騒ぎに便乗した一般人によるもので特定の政治的勢力が煽動したものは限定的と報じ、FBIは今回の暴動でANTIFAが関与していると発言した。以下略す。
 なお、ANTIFAのこれまで経緯や白人極右によるヘイトクライム(憎悪犯罪)との関係、主な活動については2018年8月22日ニューズウィーク日本版「アメリカで台頭する極左アンティファとは何か──増幅し合う極右と極左(3回連載)」が詳しく参考になる。一部抜粋すると「アンティファとはアンチファシスト(anti-facist)の略称で、人種差別や性差別などに反対する団体である。アメリカには白人警官による黒人容疑者への暴力を批判し、抗議デモで世論を喚起する「ブラック・ライブズ・マター」などの社会運動があるが、これらとの決定的な違いは、アンティファが暴力を辞さない点にある」とある。要するに米国の現状は極右と極左の激しい対立に政治や社会が巻き込まれていることは間違ない。」

(筆者注4) 共同テロタスクフォース(Joint Terrorism Task Forces)を通じて、FBIはテロリスの活動またはテロ活動準備行動等の疑惑活動報告の受取と解決に対する主たる責任を持つものである。

(筆者注5)米国の州で第3級殺人罪を定めている州は、ミネソタ州以外ではフロリダ州、ペンシルバニア州のみである。

(筆者注6)リサ・ベンダ-議長の考えの一端を見ておく(6/8 CNN記事)
「ベンダー氏はミネアポリスの街で知っているように、私たちは警察組織を解体し、コミュニティとともに実際にコミュニティを安全に保つ新しい公共安全モデルを再構築することを約束した。
 ベンダー氏によると、9票の投票で、市議会は市議会議員の13名のメンバーの拒否権を証明する過半数を持つことになる。すなわち、5月31日の誓約は、現在の警察システムが機能していないことを認めたものだという。
 特に、黒人の指導者や、警察が機能していないとするコミュニティの声に耳を傾け、解決策を私たちのコミュニティに実際に存在させるようにする必要がある。解体がどのように見えるかについての詳細を求めて、ベンダー氏はCNNに、警察の資金を地域密着型の戦略にシフトすることを検討しており、市議会は現在の警察署を置き換える方法について話し合うと語った。
 この問題は、警察署を持たないという考えは確かに短期的ではないと彼女は付け加えた。
 ベンダー氏と他の市議会のメンバーは、有権者による911コール(日本でいう110番)の性質を分析したが、そしてほとんどがメンタルヘルスサービス、ヘルスとEMTと消防サービスのためであることが分かった。
 9人の評議員がミネアポリスでの集会で発表を行い、発表のニュースは最初に控訴審により報告された。
 フロイド氏の死と警察の残虐行為に対する全米的な抗議の結果として、警察署を非難するか完全に廃止するよう求める声が一部で高まっていることは事実である。

(筆者注7) 2020.6.8 ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)のリサ・ベンダー議員への取材記事(transcript)「ミネアポリスの警察の解体はどのようになるか?」)の内容も読んでおくべきである。
なお、NPRの概要をWikipedia から一部引用する。
 「ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)は1971年4月にアメリカ公共放送社 (CPB)によって設立された。前身はNERN(National Educational Radio Network)。本部はワシントンD.C.にあり、現在はNPRを正式名としている。約900の加盟局に番組を配信、組織化するとともに独自編成によるインターネット放送や、加盟局のストリーミングサービスの代行を行っている。加盟局そのものが独自の組織体であり、編成権は各放送局に委ねられている。加盟局はNPR以外の公共ネットワークから番組の配信を受ける事も出来る(日本語でいうクロスネット局)。
 配信する番組はNPR独自制作のほか、加盟局制作の番組も配信する。独自番組はニュース・文化系が中心であり、通勤時間帯に放送されるワイド番組『Morning Edition』及び『All Things Considered』がある。クラシックやジャズなどの音楽番組も制作している。
 NPRの予算は12%が政府からの交付金、50%が聴取者とスポンサーからの寄付金、残りは財団や大学などから提供される」。明らかに大手民放メディアと異なる。

(筆者注8) 原文は"amount of effort required by police to compel compliance by an unwilling subject"である。

なお、この定義もわかりにくい。参考までに該当箇所を仮訳、補足する。

法執行官が使用しうる力の量

法執行官(警察官)は、出来事・事件を緩和したり、逮捕したり、自分や他人を危害から保護したりするのに必要な力だけを使用すべきである。警察力の使用のレベル、または力の連続体(continuum)としては、基本的な口頭および肉体的拘束、致死的でない力および致死的な力が含まれる。

力の連続体の詳細を参照されたい。

警察官が使用する力のレベルは状況によって異なる。このバリエーションがあるため、武力行使のガイドラインは、警察官の訓練や経験のレベルなど、多くの要因に基づいている。

警察官の法執行の目標は、コミュニティを保護しながら、できるだけ早く管理された状態を取り戻すことである。武力の行使は、警察官の最後の選択肢である。他の慣行が効果がないときのみコミュニティの安全を回復するために必要な行動方針である。

武力行使事件では、対象者が怪我をする可能性があり、警察官は、けが人が医療援助を受け、けが人の家族に通知されるようにする必要がある。

過度の力の行使
正当化または過度と定義される可能性のある警察の武力行使事件の頻度を推定することは困難である。これまで警察が過度の武力を行使した、警察による銃撃や事件の全国データベースはない。このため、2019年1月1日、FBIは全国的な力の使用実績データ収集サイトを運用開始した。

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オーストラリアにおける“Black Lives Matter protect”運動の高まりと連邦政府や裁判所のCOVID-19対策のはざま問題(その1)

2020-06-09 11:21:58 | 国家の内部統制

2020.6.5 ABC news記事(主催者の発表では1万人以上が参加)

 筆者の手元に6月6日付けのABC news記事が届いた。表題は“NSW Supreme Court bans Sydney Black Lives Matter protest”というもので連日、関連記事が載っている。
 実は、この問題は米国で大社会問題となっている「George Floyd氏のピッツバーグ警察官による殺害事件」と深くかかわる問題でもあり、わが国も明らかな人種差別はないものの、より本質的には「ヘイトクライム社会(ヘイトクライム [憎悪犯罪]の 規正法とその問題点等の問題は、わが国でも無視しえない重要な課題でもある。
 特に、最近、わが国でもSNSなどを使った匿名の誹謗中傷規制の在り方が総務省、国会議員やSNS事業者団体である「ソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)」(筆者注1)でも具体的な検討が始まるとのことである。

 今回のブログは、これらの問題に関し、連載で(1)オーストラリアの最新情報、(2)米国のFBI長官のバーチャル記者会見の内容と米国の歴史上なお多くの課題を残す米国の人種差別問題につき課題を論じる。
 なお、わが国でもオーストラリアの州裁判所の“Black Lives Matter protest”に関する決定が引用されるが(注1-2)、残念ながらオーストラリアの州の裁判制度全般(筆者注2)および控訴裁判所(筆者注3)についての正確な解説が皆無と言ってよい。併せて補足説明を加える。

1.ABC newの“Black Lives Matter protest”に関する一連の記事
 おそらく記事の初めは6月5日の記事であろうが、関係者の意見も含め詳しい記事は“NSW Supreme Court bans Sydney Black Lives Matter protest ”であろう。以下で仮訳する。なお、デモの様子はメデイアのMSN動画記事を参照されたい。

 抗議者は、警察がイベントを禁止するために最高裁判所(supreme court)の命令で勝ったにもかかわらず、シドニー・ブラック・ライブ・マター集会(Black Lives Matter rally)が6月5日の午後に進むと述べた。

【記事のキーポイント】
・国際的な抗議行動がオーストラリア先住民の警察による扱いに光を投げかけている
・デビッド・エリオット警察/ 非常事態担当大臣(Police and Emergency Services Minister David Elliott)(注4)は地元の抗議を「私の担当すべき種類の理由ではない」と呼んだ。
・政界の長老は、パンデミックの中で公衆衛生面の悪化を懸念していると述べた。

 NSW警察は主催者を裁判所に連れていき、この集会事件が社会的距離に関するCOVID-19公衆衛生命令に違反することを懸念した。しかし、禁止が最高裁で認められたにもかかわらず、抗議者たちは計画通り集まる意思を表明している。すなわち、集会「Stop All Black Deaths in Custody」のFacebookページで、支持者は前進する決意を表明した。

「抗議するための許可は必要ない」と参加者の一人は主張し、また別の人は「NSW州の高等裁判所の判決は人々の力を止めることはできない」と別の人は述べた。

 Facebookで約12,000人が集会に「行く」をマークし、さらに18,000人が「関心がある」をマークした。

 NSW州のコロナウイルスの社会的距離法(coronavirus social distancing laws) (筆者注5)は、500人以上の集会が違法であると規定している。
警察は、500人を超える人が参加した場合、移動命令を発布する権限を持ち、社会的距離のルールを破った場合は、1,000豪ドル(約77,000円)の罰金を課すこともできる。

 この集会の元主催者である「先住民社会正義協会(Indigenous Social Justice Association)」「反植民地アジア同盟(Anticolonial Asian Alliance)」、「人種差別に対する自律的集団(Autonomous Collective Against Racism)」は、現在、このイベントから公的に撤回している。


「いかなる集会も…私たちが公式に組織するものではなく、NSW警察の介入を受けやすい」とデモの主催者はFacebookの投稿で述べた。

 6月5日金曜日に、NSW州の最高裁のデズモンド・フェイガン(Desmond Fagan)裁判官は公の集会の承認された権利と健康リスクとのバランスをとっていることを認めたが、最終的には現在の健康上のアドバイスを考えると5,000人の集会は「非常に望ましくない考え」であると述べた。さらに次の意見を述べた。
 「集会の基本的権利の行使は、現在のコロナによる公衆衛生秩序によって奪われることはなく、延期される。この集会の目的は、数ある問題の中でもとりわけ、拘留中の先住民族の死についての意識を高めることであることは認められ、その原因が地域社会で広く支持されており、大きな力と感情を持っていることが疑いの余地がない。
 しかし、集会を許可する裁判所命令を与えることは、政府の大臣と彼らに助言する公衆衛生当局によってなされた判決に反抗することになる。」

 一方、NSW州の最高保健責任者(主席医務官)であるケリーチャント博士(Dr. Kerry Chant)は、証拠を提出する証人の一人であり、NSWでコミュニティへの伝染が低レベルである一方で、大きなリスクが高まるという出来事があったと法廷に告げた。

Dr. Kerry Chant

 また、現時点では、高いコロナウイルスの検査実施率にもかかわらず、コミュニティでケースが見落とされている可能性がある」とChant博士は語った。

 さらに、バリスタのエマニュエル・ケルキャシャリアン(Barrister Emmanuel Kerkyasharian)(筆者注6)は、デモの主催者の立場で、「より安全なコース」は社会的距離を隔てた措置で集会を許可することであると意見書を提出し、人々が姿を現し、より密集し、コミュニティー感染のリスクが高まるだろう」と述べた。

 しかし、ファガン判事はその議論を拒否した。

 また、本事案は、集会に関して主催者が警察に与えた通知、予想される数が急増した場合のその通知の修正、および警察が行進を進めるための推測された同意を与えたかどうかにも左右された。
さらに最高裁判所は、デモ主催者が必要な7日前の通知を提供しなかったと判断した。そのため、イベントを進めるための警察長官の同意なしに、彼らはそれを合法であると見なすよう裁判所命令を求めた。

 警察は抗議者たちに家にいるように促す。

 NSWの警察副長官(NSW Police Assistant Commissioner)であるマイケル・ウィリング(Michael Willing)氏は、抗議者たちに家にいるように要請し、「発生したあらゆる状況に対処する」ために市内には警察の重要な資源があると述べるとともに以下のコメントを述べた。

Michael Willing氏

「6月6日[土曜日]には集会に出席しないようお願いしたい。現時点では、主張すべき意見や意見を別の方法で表現してください。
 警察は、法律が確実に遵守されるように[土曜日]に強い存在感を持つであろう。もし人々が最高裁判所の判決に従わずに、計画された抗議に参加することを選択した場合、彼らは違法であることを知っている必要があり、警察はそれに応じて対応するであろう。」

 オーストラリア緑の党のデービッド・シューブリッジ(David Shoebridge)氏は、この裁判所の決定は「明らかに残念な結果だった」と語り、それが「できるだけ安全」であることを保証するために引き続き集会に出席すると述べた。

David Shoebridge氏

 6月6日、かなりの数のファースト・ネーション(注7)の人々がまだ出て来ることを私は期待するだろう[土曜日]…そして彼らは依然として連帯を要求するだろう。
その連帯を示すかどうか、出席するかしないかは個人の判断次第だ。

 彼は人々に社会的距離のルールを守るように要請し、そしてあらゆる集会が安全と同じくらい安全であることを保証するためにできる限りのことをするように警察に要請した。

 最高裁の決定が伝えられる前の記者会見で、5人の刑務所の警備員に拘束されたままロングベイ刑務所で拘禁中に死亡したデイビッド・ダンゲイ(David Dungay)氏の母親であるリートナ・ダンゲイは、土曜日の集会で彼女が行進することを止めるものはないと語った。(注8)

ダンゲイ女史は「矯正サービスの官吏達は…息子を地面に入れて、米国の警官から殺されたジョージ・フロイド氏やブラック・ライブズ・マッターと同じように、私は行進のために歩く。私たちはこの土地を所有しており、先祖と共に過去から現在に至るまで何が起こっているのかを見る必要がある。人種差別は今もオーストラリアで存在しており、そして、それが私の息子を殺したのである。」

 6月2日の夜、何百人もの人々がシドニーの街を行進し、ジョージ・フロイドの死をめぐって抗議行動が全米で続いたことなどもあり、オーストラリア先住民のより良い待遇を呼びかけた。

***************************************************************

(筆者注1) Facebook Japan, Twitter Japan, ByteDance, LINEなどのネット事業者が参加するソーシャルメディア利用環境整備機構(SMAJ)が、名誉毀損や侮辱などを意図する投稿に関する緊急声明を発表した。

(筆者注1-2)日本人向けの“Black Lives Matter protect”運動についての解説は2つある。いずれもNSW州の裁判制度が理解できていないと混乱しよう。
(1) 2020.6.6 日豪プレス(オーストラリア生活情報サイト)「国内主要都市で「Black Lives Matter」抗議行動」
シドニーでの抗議行動は、6月5日にNSW州警察が州最高裁に差し止め請求を出して認められ、警察は、「抗議行動を強行すれば主催者の逮捕もあり得る」と発表していた。しかし、6日朝には主催者が差し止め請求を不当として控訴裁判所に持ち込んで認められたため、シドニーの抗議行動も合法とされた。
 また、SA、WA州のように抗議行動に対して特別許可を出したり、VIC州のように「コロナウイルス社会規制違反があれば取り締まる」という手段だけを採用したりして対応している。
  オーストラリアの抗議行動はアメリカの黒人の死よりもオーストラリア先住民族の人々が警察や刑務所などに勾留されている間に死亡する事件に対して行われており、「勾留中の黒人の死に関する特別調査委員会が報告書を提出して改善を勧告した1991年以来432人のアボリジニ、トーレス海峡諸島の人々が亡くなっていることを大きく掲げている。
(2) 2020.6.6 生活情報誌「チアーズ」判決が一転、『Black Lives Matter』抗議デモは開催
シドニーの『Black Lives Matter』抗議デモは、違法であるという最高裁判所による昨夜の判決が、NSW州控訴裁判所によって覆された。

(筆者注2) わが国でオーストラリアの裁判制度につき連邦司法制度の解説はあるが、州および連邦の裁判制度の全体像かつ新しい解説は最高裁、国会図書館も含め皆無に近い。NSW州の司法制度を民亊事件と刑事事件に分けてdiagramで表記されているサイトがあり、以下で引用、補足するとともに、在日オーストラリア大使館のHPから一部抜粋する。ここで注意すべきは州の最高裁は一般的には最高裁であるが、州によってはさらに上告法廷(Court of Appeal)がある。
 また、オーストラリア「High Court of Australia 」は、同国における最上級裁判所として、高等裁判所が第一審として下した判決、他の連邦裁判所(オーストラリア連邦裁判所、オーストラリア家庭high Court of Australia裁判所及びオーストラリア連邦微罪裁判所)の判決、州最高裁判所の判決及び連邦法に係る州裁判所の判決に対する上訴について審理する。高等裁判所への上訴には特別の許可が必要とされる。

「各州と準州および特別地域における裁判所の制度 は、それぞれ独立して運用されています。すべての州と 準州には、最高裁判所があり、州によっては、州レベ ルでは最高の上告法廷である民亊事件および刑事事件の上告法廷 があります。「地方」または「郡」裁判所として知られる 法廷では、判事が法廷で法の解釈や決定を行って、 より重要な事件を審理します。さらに重大な容疑に対 しては、陪審員 (通常 12 名) が被告の有罪か無罪 かを決定するのが普通です。殺人、性的暴行および 武装強盗のような重い犯罪は、通常それより上級の 法廷で裁かれます」(在日オーストラリア大使館のHPから一部抜粋、筆者が補足した(青色箇所)。

(筆者注3) NSW州の控訴裁判所に関するNSW州の最高裁サイトの解説文仮訳する。
 控訴裁判所はニューサウスウェールズ州の最終的な控訴裁判所である。控訴裁判所は、最高裁判所の単一の裁判官および他のニューサウスウェールズ州の裁判所および裁判所からの控訴および控訴の申請を審理する。それは、国家システムの他のすべての裁判所に関して上訴管轄権と監督管轄権の両方を持っている。

 控訴裁判所は、最高裁長官、控訴裁判所の長官、および9人の控訴裁判官で構成されています。さらに、各裁判部門の裁判長は裁判所のメンバーである。必要に応じて、控訴審の代理人も控訴裁判所に座り、場合によっては、最高裁判所の裁判部の裁判官が特定の訴訟の期間中、控訴の追加裁判官を務めることがある。

 控訴裁判所は、通常3人の控訴裁判官によって構成されるパネルに置かれます。裁判官が同意しない場合、多数意見が優先される。
場合によっては、5人の裁判官のベンチが、裁判所の以前の2つの決定の間に認識された矛盾がある場合、または当事者が控訴裁判所の以前の決定で設定された法的原則に異議を申し立てる場合に召集される。

(筆者注4) Ministerial Matters (Police and Emergency Services)はモリソン内閣の大臣である。自由党員である。

(筆者注5) ABC new記事では500人の集合が禁止の根拠法は、“NSW coronavirus social distancing laws”とある。筆者なりに同法の原本を探した。実は、その根拠法は“Public Health (COVID-19 Gatherings) Order (No 2) 2020”の“Part 2 Mass gatherings 5 Definitions” である。

(筆者注6) バリスタのエマニュエル・ケルキャシャリアン(Barrister Emmanuel Kerkyasharian)
エマヌエル・カークアシャリアン(Emmanuel Kerkyasharian) はForbes Chambersバリスター法律事務所のバリスターである。

(筆者注7)オーストラリアの先住民文化に対する理解は、観光サイト等においても極めて広く紹介されている。その一部を抜粋する。
「オーストラリアの先住民は、この国の広大な土地に数万年以上も居住しています。彼らは世界で最も古い生活文化を持ち、その独自のアイデンティティと精神は国のいたるところに存在し続けています。
「アボリジニ(Aboriginal)」や「先住民(Indigenous)」という言葉は、オーストラリア先住民(First Peoples)を表すのに用いられることがありますが、彼らは違う見方をしています。「私たちは一つであり、それぞれ違うのです。そして、たくさんの種族がいるのです」とリッジウェイ博士は言います。
クイーンズランド州の一部であるトレス海峡諸島(Torres Strait Islands)の先住民は、オーストラリア本土やタスマニア州のアボリジニの人々とは区別されます。以下略す」

(筆者注8) この犯罪行為に関し英国メデイア“The Guardian”は、5月31日記事“Family of David Dungay, who died in custody, express solidarity with family of George Floyd:Aboriginal man said ‘I can’t breathe’ 12 times before he died while being restrained by five guards in Sydney jail”で容疑者5名(刑務所の警備員)の動画も含め詳しく論じている。

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米国の2020年大統領選挙の予備選や本選における全面的な不在者投票や郵送投票の導入の是非問題点を問う(米国大統領選挙の重要課題―その1)

2020-06-05 15:39:53 | 国家の内部統制

 5月27日の朝日新聞の記事「トランプ氏『郵便投票は不正につながる』」を読まれた読者の中でおそらくトランプ大統領は何を問題視しているかを理解できた人は朝日新聞の特派員等(サンフランシスコ支局長:尾形聡彦;ワシントン:岡田耕司)も含め、何人いるであろうか、筆者も同様であった。
 しかし、5月29日、筆者の手元に米国大手保守系Think Tankの1つであるヘリテージ・ファンデーション(Heritage Foundation)(筆者1)からきわめて興味深いレポート「Why the Push for an All-by-Mail Election Is Unwise—And Unnecessary」が届いた。
 この記事のwriterはヘリテージ・ファンデーションの上級法務研究員・選挙法改革イニシアティブ部部長であるハンス・ヴァン・スパカフスキー氏(Hans von Spakovsky)である。このレポートはワシントンポストやCNN、youtube(筆者注2) 等でも大きく取り上げられている。

Hans von Spakovsky氏

 実は、この問題は2016年の大統領選挙時にロシアのサイバー攻撃やハッカーに関し、「アメリカ中央情報局(CIA)は、アメリカ大統領選で共和党候補ドナルド・トランプ氏が勝利するように、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けたという分析結果をまとめたとワシントンポストが12月9日に報じた件に始まる。
大統領選期間中に民主党全国委員会(DNC)や民主党候補ヒラリー・クリントン氏の選挙陣営が不利になるような情報がハッキングされ、再三にわたって内部告発サイト「ウィキリークス」を通じてメールが暴露された。情報筋は、この暴露は、アメリカ人の政府に対する信頼を失わせる意図でロシア側が仕掛けたものだと指摘してきた。(以下、略す)」(2016.12.10 ハフィントンポスト日本語版から抜粋)などと深くかかわってくる問題である。

 また、連邦議会の共和党議員やこれに与するシンクタンクは、2016年カリフォルニア州で成立した「2016年California Voter's Choice Act」は明らかに違法な法であると、5月13日、連邦議会下院議員(CA-42)のケン・カルバート(Ken Calvert)は、下院「議会運営委員会」ランキングメンバーであるロドニー・デイビス( Rodney Davis)委員が発行した「カリフォルニアでの投票による収穫の政治兵器化」の報告に応じて、声明を発表した。

Rodney Davis氏

 わが国ではほとんど取り上げられていないが、この問題はまさに現下の重大問題であり、共和党と民主党の対立だけでなく州と連邦政府間等、米国を二分する大問題となっているのである。

 この問題につき、わが国では平易かつ正確な解説が少ない米国大統領選挙について、筆者なりの改めて関係ブログなどをあたってみたが、もっとも正確かつ平易な説明といえるのは、シアトル最大の日本語情報サイト“junglecity”の「2020年アメリカ合衆国大統領選挙 仕組みと日程をざっくり解説」であったが、本ブログでは筆者独自に作成した図解をもって引用することとした。さらに、このサイトを詳しく読むと、これまでの選挙制度の見直しの経緯は別としても本来の米国憲法が目指してきた「国民の投票権を含む平等、民主主義」が本当に実現されているか、大いなる疑問がわいてきたが、この疑問について米国大使館サイトで答えてくれる論文5/31⑥に巡り合った。(筆者注3)
 
 一方で、同時にわが国では国民投票法改正論議すなわちインターネット上の広告規制やネット上の自由な発言の規制問題が国会「衆議院憲法審査会」(筆者注4)の中心問題となっている。

  筆者としては、この問題の重要性からみて複数回に分けて連載し、わが国でもいずれ同様の検討がなされるうえでの投票制度の基本的問題すなわち単に投票率を向上させるだけでなく、ディサビリティのある人や高齢者などが等しく投票に参加できるためにはどのような制度や投票システムが必要かなどの問題について予備研究レポートとして取り上げるものである。

 なお、連載の予定テーマとしては、第1回目である今回、第2回目は投票システム改革の例として、カリフォルニア州サンタクララ郡選挙管理計画(日本語版)等や郵便投票制度を所管する連邦選挙支援委員会、および同委員会の動向を検証、第3回目はスパカフスキー氏が本年4月12日に公表している「COVID-19 Must Not Push U.S. to Dangerous Online Voting」の内容および米国商務省・国立標準技術研究所(NIST)のUOCAVA Voting Systems(海外在住者および軍人の投票)に係るオンライン投票の脅威問題のこれまでの検討経緯、第4回はあまりにも複雑な米国の選挙制度の改革論議の中身、第5回目はやや論点が離れるが、わが国が本年9月から10月にかけ実施する「令和2年国勢調査」の電子調査の在り方問題について論じてみたいと考えている。(筆者注5)

1.「2020年大統領選挙の全面郵送方式の導入はあまりにも危険かつ不当な方法である( Why All-Mail Elections Are Too Risky and Unwarranted) 」
  極力、原文に即して仮訳する。なお、このレポートも含め、わが国の読者は米国の連邦や州・郡・自治領等の選挙制度やシステムの複雑さに戸惑うことが多かろう。したがって、筆者の責任で必要な範囲で補足注やリンクを行った。

 連邦議会および多くの州で、11月3日の大統領選挙の本選および全州での予備選挙(予備選挙と党員集会の2種類があり、州等により異なる)で全面的な郵送投票選挙を強制するよう求めることは、賢明ではなく、かつ不必要である。

 不在者または郵送による投票用紙は、選挙管理官等の監督および監視の範囲外で投票されるため、このような1世紀以上に渡るアメリカの選挙の重要な特徴である「秘密投票」(筆者注6)の投票用紙制度を破棄することは賢明ではない。投票用紙は、盗まれたり、改ざんされたり、強制されたりする可能性があり、投票用紙は有権者の脅迫と不適切な圧力につながりうる。

 また、郵便システムによって誤って送付されたり、配達されなかったりするという誤りに起因する伴う脆弱性や気まぐれを見落とさないようにすべきである。

 最後に付け加えると、有権者の不在者投票を受け取るために結果に利害関係を持つ候補者、キャンペーン・ワーカー、党員、政治コンサルタントによる合法化した州での「意図的投票獲得システム(“ballot harvesting”いわゆる“vote harvesting”) 」(筆者注7)は、選挙詐欺や有権者の違法な「援助」の可能性を劇的に高める。

 今回の2020年大統領選挙は西アフリカのエボラ流行の真ん中にある2014年のリベリアでのように、はるかに厄介な条件下で成功裏に行われたため、“vote harvesting”は不要である。

 食料品店、薬局、その他の小売店に行くことができるのと同じ安全プロトコルをすべて使用して、私たちが近隣の投票所で同じことを行えない理由はない。

 1998年、フロリダ州で不在者投票詐欺に関連する一連の事件が発生した際、同州の法執行部(Florida Department of Law Enforcement) (筆者注8)は州選挙における永続的な詐欺に関する報告を発表し、不在者投票を「選挙詐欺に従事している人々」の「選択の道具」と呼んだ。

 この決定は、1997年のマイアミ・デイド郡での市長選挙が含まれるが、2012年の同郡の大陪審が「広範囲にわたる不在者投票詐欺はなかった」と呼んだために覆された。

 これらの事案は古代史的であると思われる場合は、Heritage Foundationの「選挙詐欺データベース」に記載されている最近の事例を参照されたい。このデータベースには、全国の約1,300件の選挙詐欺の事例が含まれている。

 また、これには、アラバマ州ゴードン市長が、16票で勝利した選挙で不在者投票詐欺で有罪判決を受け、2019年に解任されたことが含まれる。

 さらに、もう1つの最近のケース:ノースカロライナでの2018年の議会選挙レースである。有権者から不在者投票用紙を収集していた政治コンサルタントによる不法な投票獲得、および変更、変更、または場合によっては選挙管理人に配布されなかった投票用紙が原因で、それは覆された。

 このように、不在者投票プロセスの脆弱性とそれが選挙を確保するためにもたらす危険をまだ疑っているか?次に、インディアナ州イーストシカゴにある民主党の市長の予備選挙を見てみよう。これは、不在者投票が関与する「蔓延する」および「大量の、広範囲にわたる」詐欺のため、2004年にインディアナ州最高裁判所によって覆されました。

 これには、「投票プロセスに関する知識が不足している、または知識が不足している人、弱者、貧しい人、および英語のスキルが限られている人」を含む、初めての有権者を捕食することが含まれる。

 これらのケースでは、投票用紙は有権者の代わりに選挙運動員によって記入された。人々は特定の方法で投票するよう圧力をかけられたか、彼らの投票に対して支払われた。実際は、市内に住んでいない、または空き地が住所として登録されている個人も、不在者投票用紙を使用して違法に(しかも簡単に)投票した。

 我々の選挙の管理、および非常に貴重な商品である投票用紙を米国郵政公社に引き渡すことについてはどう思うか?何人の読者があなたの住所に誤って配達された誰かにメールを送ったことがあるか?または、あなたの住所にかつて住んでいた人にメールが届いたか?

 連邦選挙支援委員会は、州から情報を収集し、不在者または郵送による投票を含むすべての全国選挙の後に議会に報告を提出する。

2016年には、ドナルド・トランプとヒラリー・クリントンを分離する票の数字の差よりも多くの郵送投票(650万)が誤って送信されたか、それに関し不明のままであった(unaccounted)。

「不明(unaccounted)」とは、州当局は有権者への配達のために要求された不在者投票用紙を郵政公社に引き渡したが、それについて別の言葉を聞いたことがないことを意味する。
そのため、選挙管理担当者は何が起こったのか、投票用紙が適切に配布されたか、有権者が結局投票しないことを決定したのか、又は投票者が返送したときに封筒が紛失したかどうかを知りえなかった。

 ウィスコンシン州では、今年4月7日の予備選挙の後、郵便処理施設を含め、何千人もの不在者投票用紙が見つかり、配達されなかったかまたは不明のままであった。

 一方、この春、投票所で30万人のウィスコンシン州民が投票所で「直接投票」した。

 州選挙管理委員会は、推奨されるすべての安全プロトコルについて投票所で働く人々を訓練した。そして、投票所での社会的な距離から使い捨てのペンや投票用紙の使用、投票場所を含むすべての注意深い衛生管理まで、すべてを実装するために投票所が慎重に設定された。

 選挙の成功に関する最近発表された医学研究の表題はそれをすべて語っている。「2020年4月7日ウィスコンシン州予備選挙において新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染拡大で検出可能な急拡大はなかった」そして3月の議会は、同州がCOVID-19のために選挙を安全に管理するために負担する追加費用に資金を供給するために4億ドル(約432億円)を充当した。

 同様に、韓国は本年4月15日に全国選挙を行い、選挙投票からの感染は報告されておらず、2,900万票が投じられた。

 米国では多くの州がすでに経済を再開しており、他の州も間もなくそれに続くであろう。
投票所に行くことができない人は、病気または身体障害者のため、または海外で私たちの国に奉仕しているため、不在者投票用紙が必要ですが、投票する唯一の方法ではない。このCOVID-19の大流行の真っ只中でさえ、私たちは安全かつ確実に選挙を実行できるのである。

2.2020年4月17日 ハンス・ヴァン・スパカフスキー氏「COVID-19 Must Not Push U.S. to Dangerous Online Voting」の概要
 前記第1項で引用したレポートの目的は、インターネット投票に評価について具体的に論じ、また引用している論点の根拠としている範囲がより広い。併せて、引用、仮訳する。なお、ここであえて論じないが、このレポートは引用するレポート等の原典へのリンクがほとんどない。筆者の責任でリンクを張った。

【重要なポイント】
①  オンライン投票は実行可能または受け入れ可能なソリューションではなく、検討のテーブルについてはならない。
②  現在、安心、安全で、かつ信頼できるインターネット上で投票する方法はない。
③ 我々はこの困難な時期を乗り切るでしょう。そして、我々の選挙がすべての有権者に信頼できる安全な投票用紙を投じる機会を提供することを前進させることが重要である。


 COVID-19等エピデミックの時代に選挙を行う最善の方法は何か? 最も簡単で明白な答えは、一見、電子メール、ファックス、ブロックチェーン、スマートフォンアプリを介してインターネット上で投票することであると見えるかもしれない。

 これは確かに我々が社会的に距離を置くように我々のインターネット依存の生活に合致しているように見えるが、オンライン投票は現時点で実行可能または受け入れ可能な解決策ではなく、直ちに検討のテーブルの上にあってはならないのである。

 すなわち、インターネット上で投票用紙を投じる方法は、現在において、安心、安全、かつ信頼できるものではない。オンライン投票は、ハッキング、ウイルス、トロイの木馬、その他の種類のマルウェアを通じて、操作または変更、記録、スパイ、削除、または不正に行うことができる。さらに大きな危険性は、このような攻撃が成功し、完全に検出されずに行われ、選挙プロセスの完全性を妨げてしまう可能性があるということである。

 コンピュータセキュリティの専門家は、オンライン投票は公の選挙に使用するにはあまりにも安全でないと主張している。2011年、国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology)は、「有権者のパーソナルコンピュータ上のマルウェアは、有権者の投票の秘密や完全性を損なう可能性のある深刻な脅威を引き起こす。さらに、米国は安全な電子有権者認証のための公共インフラを欠いている」と警告した。(筆者注9)

 同報告書は、プライバシーに対する実質的な課題とオンライン投票の完全性を克服することはできなかったので、安全なオンライン投票を実現不可能にしていると結論づけた。(筆者注10)

 その5年後2016年5月、国土安全保障省の当局者は、大規模なオンライン投票は「有権者の機密性、説明責任、投票の安全に対する期待を脅かすことによって、選挙制度に大きなリスクを導入する」と述べ、この警告を繰り返した。また、「悪意のあるアクターが投票結果を操作する道」も提供するだろう、と彼らは警告した。

 さらに2年後、全米アカデミー(科学アカデミー、工学アカデミー、医学アカデミー(National Academies of Science, Engineering, and Medicine)は状況の改善を見つけ出しえなかった。「既知の技術は、インターネット上で送信されたマークされた投票用紙の秘密性、セキュリティ、検証可能性を保証することはできません」と、そのレポートは結論付けた。

 オンライン投票の導入支持者は、我々は定期的にオンラインバンキングやショッピングを行うので、我々はオンラインで投票する必要があると主張することがよくある。しかし、オンラインバンキングとショッピングの歴史は、オンライン投票がどれほど危険であるかを証明するだけである。毎年数十億ドルは、これらのシステムを保護するために投資された巨額にもかかわらず、オンライン盗難、サイバー詐欺、悪意のあるハッキングにより失われる。金融機関は、予想されるレベルの詐欺をビジネスのコストに組み込むことができるが、選挙ではできない。一定の割合の詐欺に悩まされた選挙結果を受け入れることはできないといえる。

 さらに、不正な銀行手数料が発生した場合、消費者は銀行やクレジットカードの明細書を通じてそれを見つける機会がある。誰かがあなたの口座からお金を取り出したかどうか、またはあなたが注文または受け取ったことがないアイテムに対して請求されたかどうかを知ることができる。

 しかし、有権者が秘密投票がインターネット上で送信された後に正しく投じられ、正しく記録されたことを確認するための信頼できるメカニズムはない。逆に、選挙当局は投票が変更されたかどうかを尋ねるために有権者と再び確認することはできない。オンライン投票が特に検出不能なハッキングに対して脆弱であるのはこの理由である。投票が転送中または投票者の自宅のコンピュータ上の検出不能なマルウェアを通じて破損している場合、知る方法はない。

 最後に、犯罪者やボットが不正な票を投じないように、インターネット上で有権者を認証する信頼できる方法を提供することは不可能ではないにしても極めて困難である。

 我々はこの困難な時期を乗り越え、すべての有権者に信頼できる安全な投票を行う機会を提供するために、我々の選挙が前進することが重要である。投票に関する他の多くのポリシーには同意しないかもしれませんが、オンライン投票は答えではないという点は同意できる。

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(筆者注1)Wikipedia で見ると「アメリカ合衆国ワシントンD.C.に本部を置く保守系シンクタンク。企業の自由、小さな政府、個人の自由、伝統的な米国の価値観、国防の強化などを掲げ、米国政府の政策決定に大きな影響力を持つ。ヘリテージ財団の活動はこれまでのシンクタンクの概念を変化させた。・・・」とある。また、トランプ政権とヘリテージ・ファンデーションとの関係については、日本国際問題研究所(JIIA) 研究員である宮田 智之「第6章 トランプ時代の保守系シンクタンク」は、わが国のメディアではほとんど論じられていない独自の調査結果に基づき書かれており、ぜひ読まれたい。

(筆者注2) 最近youtubeでもスパカフスキー氏が頻繁に出てくる。筆者が見た例でも5月28日にアップされた以下のyoutubeを見た。特筆すべき点はこの動画に対する市民の反応であり、この3日間で閲覧数が428, いいねボタンが36である。今回の大統領選挙の動向や世論への影響は極めて大きかろう。」

(筆者注3) 米国大使館サイトで国務省出版物の日本語仮訳版が公開されている。米国の選挙制度の問題点を的確に論じている。その最後の部分を以下で引用する。
「財産要件も人頭税も廃止されたし、有色人種、女性、18歳以上の市民に参政権が付与されて、投票権を求める戦いで、やっと勝利を収めた、と考える人がいるかもしれない。しかし、しばしば指摘したように、民主主義とは常に進化するプロセスであり、民主主義国家における個人の権利の定義も時間の経過とともに変わる。1820年代と21世紀の初めでは、米国市民の投票の仕方にも大きな違いがある。しかもこれは、民主主義の味方の英雄が選挙権の拡大を求め、反民主主義的な悪魔がそれを狭めようという、そんな単純な話ではない。

米国の歴史を通じて、いわゆる賢者たちは、衆愚政治を恐れてきた。これは、建国世代の人々の著作に広く見られるテーマである。今日でも、それが形を変えたものを、選挙プロセスの「浄化」を求める人々の間に見受けることができる。例えば、選挙登録を簡素化することは、制度の中に腐敗を招きかねないとして、しばしば非難される。読み書き能力の基準を緩和し、英語を話すことも、読むこともできない市民にも投票権を拡大することは、一部の人々には民主主義の勝利として歓迎されている。しかし、いろいろな論争に関する知識がほとんどない人々は扇動に乗せられやすいと心配して、これを非難する人もいる。

しかも、依然として奇妙な現実が存在する。選挙権の拡大にあれほど努力したにもかかわらず、米国の大統領選をはじめ各種選挙での投票率は、先進諸国の中でも最低の水準にとどまっている。例えば、2000年大統領選で投票したのは、有権者の50%に満たなかった。投票率が常に85%以上を維持していた19世紀後半から、ここまで数字が落ち込んだ理由については、学者によって意見がまちまちである。一部の歴史学者は、国民の日常生活の中で、政党の重要性が低くなったことを、投票率低下の理由に挙げる。あるいは資金が豊富な利益団体の肥大化がもたらした、テレビや新聞の広告を中心とする選挙戦に、人々が関心を失った結果とみる学者もいる。投票に行かなかった人々にその理由を尋ねると、さまざまな回答が返ってくる。自分が1票を投じたからと大勢に影響がないと思う人もいれば、自分に影響する争点はなかったと考えた人もいた。そして単に、関心がないという人もいた。これは、普通選挙を求める国内の長い歴史的な運動のことを考えると、嘆かわしい言葉ではある。

技術上、手続き上の問題も残っている。2000年大統領選では、フロリダ州の選挙管理人が、5万枚もの投票済みの票を廃棄してしまった。その主たる原因は、投票用紙の穴の開け方がまずかった有権者が大勢いて、誰に投票したのかはっきりしなくなったことにあった。この時、大統領選全体の行方は、フロリダ州の数百票にかかっていた。選挙人団という古めかしい制度を使っていたためである。民主党も共和党も、手続きの有効性に異議を申し立てるため、すぐに裁判所に提訴した。連邦最高裁は、最終的に、フロリダ州の票を、ひいては選挙の勝利を、ジョージ・W・ブッシュ側に与えたのである。

この2000年大統領選で選挙人団は、一般投票の得票数で過半数を取れなかった大統領を誕生させた。これは初めてのケースではなかった。米国民は選挙人団の仕組みを熟知している。この制度は、米国の民主主義の中で、必ずしも、最も効率がいいとか合理的だとは言えぬ側面の1つであり、直接、大統領選出を任せられるほど、国民が信用されていなかった時代の遺物である。しかし、選挙人団制度は、連邦制度の中で小さな州の地位を確保するという意味で、今日でも貴重であり、実際問題としては、これが改められる可能性はほとんどない。

2000年大統領選での投票集計の問題は、いくつかの非常に重要な問題をあいまいにした。民主党も共和党も、票の公正な集計を望んでいた。両党はともに、合法的に投票され、投票用紙に(きちんと穴が開いていなくても)パンチした跡がついた票は、すべて集計することを求めたが、それを決めるための技術的な判断基準について意見が違っていた。メディアの中には、フロリダ州は問題の処理にあたり、少数派グループの有権者を差別している、と大きく報道したところもあった。だが、最終的に無効とされた票の大多数は、中流階級の年配の白人有権者が投じた、というのが事実だった。しかも、そのほとんどの人は、投票用紙のパンチの仕方が、よく分からなかったのである。当時も今も、これが数万に及ぶ票を無効にするための策略だった、などと言い出す人は1人もいない。また、実際に集計が始まる時まで、この投・開票システムが完璧でないことに気がついた者は、誰もいなかった。そしてフロリダ州は、このような大失敗が二度と起きないようにするため、州議会の次の会期に選挙システムの改革を行った。

このような選挙、つまり、一般投票で最多の票を得た候補者が敗北するというような選挙は、米国ではまれである。そして、米国民がジョージ・W・ブッシュを勝利者として問題なく受け入れたことは、国民が米国の選挙制度の正常な機能に信頼を寄せていることの証しの1つである。この間、街頭で暴動が起きることもなかったし、バリケードが張られることもなかった。民主党のアル・ゴア大統領候補は、票の集計方法に関する連邦最高裁の決定を受け入れた。

しかし多くの国民は、2000年選の接戦ぶりによって、各人の1票が重要であることを再認識させられた。5つか6つの州で、得票率がわずか数%変動するだけで、選挙結果が逆になる可能性もあるのだ。こうしたことから、将来の米国国民は、「被統治者の同意」という概念のまさに根幹にあるこの重要な権利を、以前ほど、当たり前とは思わなくなるだろう。

(筆者注4) 国民投票法改正案は2018年7月に議論されたままであった。その目的は、2016年に改正された公職選挙法の内容を、憲法改正の手続きに関する国民投票にも適用するというもの。
具体的には、
・駅や商業施設などへの共通投票所の設置
・期日前投票の理由に「天災又は悪天候により投票所に到達することが困難であること」を追加
・投票所に同伴できる子供の範囲を「幼児」から「児童、生徒その他の18歳未満の者」に拡大
などの7項目である。

(筆者注5) 筆者の国政調査員は今回で3 回目である。特筆すべきは前回2017年から導入されたオンライン調査の結果である。市町村のオンライン調査におけるインターネット回答世帯数及び回答率を見てもわかるとおり、40%近い回答率である。一方、筆者のこれまでの経験で見るとおり、調査員は担当エリアの1軒1軒を訪問しながら、昼間はほとんど不在の家に投函、オンライン回答への協力要請を残暑の中で行うのである。気が遠くなる作業で書面の回収郵送による回収率は極めて低いのである、
 これに関し、筆者は英国の統計局(ONS)の国勢調査の効率化等状況を見てきた。英国では現在調査票による伝統的な調査が行われているが、次回2021年に実施する国勢調査において、行政記録情報のさらなる活用促進を行うことを掲げている。特に英国では、個人や企業の情報を紐づける統一のIDが存在しない。このため、英国における国勢調査への行政記録情報活用に向けた新たな試みや課題は、現時点では複数の行政記録情報を個人や企業のIDをキーとしてリンクすることが難しいわが国でも役立つものと考えられる。(2017.4 .18 NTT DATA 経営研究所「国勢調査をとりまく新たな動き~英国における行政記録情報の活用に向けた検討~」を読んだ。そこでは、英国における「行政記録情報を活用した国勢調査」に関する詳しい解説が行われている)。

 (筆者注6) 米国の「秘密投票(secret ballot)」の意義は憲法に保障された投票権の行使内容の秘密性保護である。なお、“secret ballot”につき、別の定義がある。オーストラリア式投票としても知られている。候補者名の印刷されている投票用紙に、印をつけて投票する方式である。オーストラリアでは、世界に先立って、この投票方法を導入した。ヴィクトリア、南オーストラリアが、1856年に両院の選挙で初めてこの方法を採用した。その後、1858年にタスマニアが両院で、ニューサウスウエールズでは下院で、さらに1859年にはクィーンズランドの下院で、1877年には西オーストラリア立法評議会で次々に導入された。連邦の議員選挙では、初めから全ての選挙でこの秘密投票方式が行われている。

(筆者注7) “Ballot Harvesting” または“Vote harvesting”の訳語は、我が国ではまだ定訳語はない。:アメリカ合衆国連邦下院管理委員会ランキングメンバー:ロドニー・デイビス氏のレポート「カリフォルニア州での投票の政治的兵器化」の冒頭で以下の通り定義している。
「投票ハーベスト」とは、文書化された一連の厳密な保管なしにまたは適切な州の監視なしで、個人が無制限の数の郵便または不在者投票を収集、返却することを許可する選挙慣行である」
したがって、本ブログでは「意図的投票獲得システム」という訳語を暫定的に用いた。

(筆者注8) フロリダ州の法執行機関(Florida Department of Law Enforcement:FDLE)とはいかなる機関であろうか。直接FDLEにアクセスを試みたが不可であった。Wikipediaを仮訳する。

フロリダ州法執行機関(FDLE)は、フロリダ州内にある州全体の捜査法執行機関である。FDLEは、8つの理事会、評議会、委員会を正式に調整する。 FDLEの義務、責任および手続きは、フロリダ州法令集5/30(49)第943章、およびフロリダ行政法典第11章により義務付けられている。 FDLEは、総督、検事総長、最高財務責任者、農業局長で構成されるフロリダ州内閣に報告する委員会(執行理事)が率いる。 同委員会は州知事と内閣によって彼の地位に任命され、フロリダ議会上院によって承認される。
FDLEの本部は州都タラハシーにあり、全州には約2,000人の従業員がいる。 FDLEは、7つの地域オペレーションセンター、12の現地事務所、7つの犯罪研究所を維持している。

(筆者注9) NIST報告(全71頁)の結論部分を引用、仮訳する。
この論文は、リモート電子投票システムの望ましいセキュリティ特性、個人所有のデバイスからのインターネット上の投票の脅威、およびそれらの脅威の一部を軽減することができる可能性のある現在および新しい技術を特定した。現在のコンピュータセキュリティと投票技術の機能に基づいて、次の3つの問題は、リモート電子投票システムが直面する重大な課題のままである。
第一に、個人所有のデバイスからの遠隔電子不在者投票は、有権者や有権者のパーソナルコンピュータに対する様々な潜在的な攻撃に直面している。有権者のパーソナルコンピュータは選挙当局の管理下にないので、投票の秘密や完全性を侵害したり、有権者の認証資格情報を盗んだりする可能性のあるソフトウェア攻撃から保護することは非常に困難である。これらは、今日のインターネット上ですでに一般的な深刻な脅威である。第二に、リモート電子投票者認証は困難な問題である。現在のテクノロジーでは、高度にセキュリティ保護された投票者認証方法のソリューションが提供されているが、展開が困難またはコストがかかる可能性がある。個人所有のコンピュータは、共通アクセス・ カードまたは個人 ID 検証カードを使用した暗号化認証に必要なスマート・ カード・ リーダーを使用するなど、これらの方法とのインターフェイスを使用できない場合がある。第三に、遠隔電子不在者投票システムが投票所システムに同等のレベルの監査性を提供できることは明らかではない。リモート電子投票システムサーバーやパーソナルコンピュータ上でソフトウェアを検証および検証することは困難であるため、リモート電子投票システムの監査可能な状態を確保することは、現在または提案された技術が実行可能な解決策を提供していないため、依然として困難な問題である。
この報告書で特定された現在および新興の技術の多くは、積極的な研究開発を行っている分野である。パイロット プロジェクトでは、ヘリオス投票システム(筆者注9) などの投票固有の暗号プロトコルを使用する場合も含め、奨励されるべきである。これらの分野の新たな動向と発展は、引き続き研究され、監視されるべきである。

(筆者注10) “NIST Activities on UOCAVA Voting”は、2008年からこれまでの研究経緯を解説している。興味のある読者は原本にあたられたい。

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