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英国政府は「2006年消費者信用法」の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表

2011-05-18 09:34:59 | 消費者信用法制



 2006年5月25日に貿易産業省(DTI) (筆者注1)担当大臣イアン・マッカートニー(Ian McCartney)は、2006年3月30日に国王の裁可を得て成立した「The Consumer Credit Act 2006」(1974年消費者信用法の大幅な改正法で、主たる改正点は、①貸手・借手の間の公平性、②与信取引の透明性の確保、③より競争的な信用市場の創造であるとされている)の今後2年間にわたる 具体的施行スケジュールを公表した。

Ian McCartney 氏

 わが国では、消費者金融問題をめぐる自民党の貸金業規制法の改正、新規参入規制論議や金融庁が取りまとめつつある有識者懇談会(正式には「貸金業制度に関する懇談会」)の結論が注目されるところであるが
(筆者注2)、他方でこれらの問題は個人で解決するにはあまりにも社会的影響が大きいともいえる。その意味で5月31日に可決成立した「改正消費者契約法」に基づく適格消費者団体による差止請求や損害賠償請求訴訟の取組みの行方も併せて注目しておく必要があろう。(筆者注3)  

 本ブログは2006年6月に初めて取上げたものであるが、今回
(筆者注1)を追加した関係で日付等を更新した。

1.2006年消費者信用法の主な改正点 (筆者注4)
(1)消費者保護の観点から、旧法(137条から140条)が定めていた「不当(extortionate)な与信テスト」の債務者による立証責任を排除し、主観的不公正さに関するテストの創設により、消費者がより簡単に不当に高い金利を負担していることを証明する「unfair credit test」に基づき提訴できることとした(140条A,B項)。この場合のunfairの事実不存在の立証責任(burden of proof)は貸し手側にある。

(2)消費者信用業者に対する法規制(監督制度)の強化として公正取引庁(OFT)が許認可機関となり、違法業者を消費者信用市場から排除する(24条A項)。また一定額の免許手数料、更新料が課される(6条A項)。

(3)旧法では、消費者金融や労働契約に基づく与信契約(従業員が雇用者からの借入れ)について、その融資目的が事業性と否とに拘らず適用された。改正後も、25,000ポンド(約515万円)以下で全部又は主たる目的が事業性のもののみ旧法が適用される。

(4)旧法は個人向け(個人事業主、権利能力なき社団、2名から3名からなる組合を含む)融資額が25,000ポンド以下の融資のみ適用するとしていた旧法から原則そのキャップを撤廃するとともに、個人(individuals)を定義から個人事業主などを排除し、個人のみの限定した(189条1項 )。すべての借り手が保護対象となる。また欠陥のある契約内容についての法執行のあり方につきより適切な取組みの手段を提供する。

(5)改正法は、債務者に対し定額信用供与契約(fixed-sum credit agreements)に基づき年1回返済額通知(annual statement)の送付を義務付けた(77条A項)。定額与信には①一定の与信期間、②定額、③分割払い、④条件付売買・与信契約が含まれる。このような規定がおかれた結果、この期間内に通知義務が怠った場合、債務者は金利の支払いや返済を強制されることはないことになる(既存契約についても適用される)。

(6)与信業者に2回連続した債務者の未返済後にOFTが制定した督促(arrears)または債務不履行(default)通知( notice)が義務化された(86条A項)。同通知を怠った場合、貸し手は契約に基づく法執行が出来ないし、また債務者は金利の支払い義務が生じない(86条D項)。

(7)金融オンブズマンによる裁判外紛争解決(ADR)が提供される。

2.今後の施行計画
(1)2007年4月以降・・借り手にとって前記「不公正テスト」規定が適用されるため、不公正に対する裁判への取組みが保障されるなど大幅な改善が可能となる。
 また、同月から消費者は金融オンブズマンによるADRが可能となる。

(2)2008年4月以降・・貸し手において与信口座の現状に関する定期的な通知義務が発生し、一方、与信事業者にとっても円滑な免許の取扱いが可能となる。

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(筆者注1)英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている。

(筆者注2) わが国の消費者金融についての法規制を見ておく。(1)金利については現行2つの法律がある。「利息制限法」では、元本の額により年率15~20%の金利を上限に決めている。それを上回る金利は無効だが、罰則はない。一方、出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)では上限金利を29.2%(平成12年6月に40.004%から改定施行)まで認め、違反には罰則(5年以下の懲役若しくは1千万円、法人の場合は3千万円、併科もある。なお、Allaboutで横山光昭氏が法人の出資法違反の罰金額を最高1億円と説明されているが、これは貸金業規制法(貸金業の規制等に関する法律)違反の場合(51条が罰則規定)である。念のため)を設けている。このため実態的に貸金業者は利息制限法を無視し、出資法の上限金利にほぼ張り付いた金利設定を行っている。(2)さらに、問題とされているのは、業法である貸金業規正法43条の「みなし弁済規定」である。同条は①貸主が貸金業登録業者であること、②借主が利息として支払ったこと、③借主が任意に支払ったこと、④17条にいう書面(契約書面)を交付していること、⑤18条書面(受取証書(領収書))交付していること、これらの要件をすべて充たすことを要件として利息制限法を上回っても出資法上限金利以内なら有効なものとされる点である。実際、みなし弁済規定を厳格に守っている金融業者はまずいないといってよく、また他借り手が貸金業者に金利を下げて元本の返済に充てたいといっても簡単に応じることもまれであろう。結局、簡易裁判所への「特定調停申立て」や裁判所を通さずに弁護士や司法書士に債務者との交渉を委任する「任意整理」さらには訴訟にまで及んでいかねばならないケースが多いのが現実である。

(筆者注3) 今回の消費者契約法の一部改正の検討の前提として、例えば平成16年9月に内閣府国民生活局は「諸外国における消費者団体訴訟制度に関する調査」を公表している。今般のわが国の団体訴訟制度自体、米国におけるクラスアクション制度やEU各国における消費者団体訴訟制度が下敷きになっていることは間違いなかろう。 http://www.consumer.go.jp/seisaku/cao/soken/file/kaigaihoukoku.pdf

(筆者注4) 改正法の内容についてはDTIのサイトの解説については、Q&Aも含め今一説明内容が抽象的である(金融庁の有識者懇談会の第7、9、15回資料でも説明不十分)。したがって英国書簡局(内閣府の1機関で以前は「Her Majesty’s Stationery Office」であった。公的部門の法律等情報を統括的に管理する中央機関)が作成した以下の改正内容の解説資料が最も正確で 旧法との関連が正確に説明されている。
http://www.opsi.gov.uk/acts/en2006/ukpgaen_20060014_en.pdf

〔参照URL〕
(1) http://www.dti.gov.uk/consumers/Finance/consumer-credit-bill/index.html
(2)Q&A; http://www.dti.gov.uk/consumers/Finance/consumer-credit-bill/FAQs/page24450.html

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英国における過重債務者に関する信用情報機関と銀行等の口座情報の共有化問題

2006-10-29 10:37:54 | 消費者信用法制

 

Last Updated: Febuary 21,2022

 わが国で個人情報保護法が全面施行されて約1年半が経過し、最近時では国民生活審議会個人情報保護部会が2006年9月21日に公開した「個人情報保護に関する主な検討課題」について、内閣府国民生活局企画課個人情報保護推進室が10月27日を期限としてパブリック・コメントに付していた。(筆者注1)

 一方、海外に目を向けると英国の貿易産業省(DTI)が10月11日に過重債務者問題(筆者注2)の対応を目的として金融界や個人信用情報機関(Credit Reference Agencies(Experian等))、消費者保護団体に対して銀行と個人信用情報機関との間における預金名義人の口座情報の共有に関する諮問書(コメント期限は2007年1月11日)を公表している。

 EUの個人情報保護指令(1995 EC Data Protection Directive)に基づき改正された同国の「1998年データ保護法(Data Protection Act 1998)」は個人情報のダイレクト・マーケティングの利用につき「オプト・アウト権」を明記しているが、共有について明確な規定はない。ただし、エクスペリアン(大手信用情報機関)等に見られるとおり個人信用情報機関と加盟金融機関等における相互利用主義原則(Principles of Reciprocity)や信用情報の公正取得条項(Fair Obtain Clauses)については同国の個人情報保護委員(ICO)や英国不正防止サービス(CIFAS)の校閲に基づく詳細な取決めがある。(筆者注3)
 

 英国の取組みは社会的弱者保護を政府全体の施策といえるものであるが、法律専門家からはDTIの提案内容につきデータ保護法に抵触するといった異論もある。他方、エクスペリアン自身も自らのサイトでDTIの提案に意見を述べている。(筆者注4)
 わが国における過重債務問題は貸出金利の引下げや消費者信用団体生命保険等金融の仕組みの見直しだけでは解決しない問題であり、わが国の取組課題を考える上で無視し得ない重要な問題点を示唆しているといえよう。

1.対象銀行口座
 DTIの考えた案は次のような内容である。過重債務者対策として考えた4案のうち2つがこの共有方法の導入を取込んでおり、関係金融機関や信用情報機関等にコメントを求めている。銀行が取引口座情報について信用情報機関と共有するにつき口座名義人の同意を取る方法を導入する以前、すなわち1990年以前に利用されていた約4千万(現在も利用されている口座数はうち約3,300万と見込まれている)の銀行口座が対象になるとされている。このままでは、これらの口座名義人は信用情報からの一般的な信用調査を受けることがないという理由である。

2.政府の説明
 DTI大臣イアン・マカートニー(Sir Ian McCartney )は諮問書において、これを実行することは貸手にとって貸し倒れリスクを最小化し、他方、借り手を過重債務禍から救う唯一の手段と考えると述べている。

Sir Ian McCartney(2006年当時)

3.口座情報の共有命令に関する提案内容
 1つ目は口座名義人にデータの共有について「オプト・アウト」権(登録拒否権)を認めるもの、もう1つは名義人にそのような選択権を一切認めないものである。
 しかし、この諮問書にはDTIに都合のよい方式として第三案(オプション3)がある。すなわち、すべての口座情報の共有を認めるものの、名義人にオプト・アウト権を認めるもので、諮問書では当該オプションについて法的に認められるためには立法上の手当てが必要であるとしている。

4.英国の弁護士の見解例
 政府が金融取引の詳細情報の共有化に伴い、同国のデータ保護法との抵触を避けるため、制定法上の規定の根拠を確立しようとしているとしている。特にオプション3は政府に都合のよい文言である(ウインドウの中だけで着飾るようなもの:見栄えだけ)。
************************************************************************************
(筆者注1) パブリック・コメントに関するURL(10月27日が期限)
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=095060570&OBJCD=100095&GROUP=
なお、内閣府国民生活局のサイトを見ると、最近の海外向けの施策としてわが国の個人情報保護法の関係省庁や認定団体の施行状況(概要)について英語版を公開している。従来公表済のわが国の保護法令の英語版(この英語訳の内容については筆者として一部異論があるが)とともに好ましい方向ではあろう。

(筆者注1-2)個人情報保護に関する取りまとめ(意見)(平成 19 年(2007年) 6 月 29 日国民生活審議会)から一部抜粋する。

国民生活審議会個人情報保護部会では,平成 17 年 11 月に個人情報保護に関する検討を開始し,事業者,民間団体,関係省庁等からの個人情報保護の実態に関するヒアリングを経て,平成 18 年7月には,「個人情報保護に関する主な検討課題」を整理・公表した。

(筆者注2)英国のDTIの過重債務者問題への取組み(Tackling Over-Indebtedness Task Force(過重債務問題作業部会))については、わが国大手消費者金融会社から構成される「消費者金融連絡会(tapals.com)」サイトで同国が2001年7月から2003年1月の間に公表された報告書の内容につき早稲田大学金融サービス研究所が詳しく紹介している。

 しかし、過重債務者問題は、英国がかかえる社会問題の一部である。すなわち、DTI、OWP(Department Work and Pensions:雇用年金省)およびDCA(Department for Constitutional Affairs:憲法事項省)の3省が中心となって、同国政府の「過重債務者問題」への取組みをまとめた「政府2006年度報告書(第3次報告)」(全108頁)が公表されている。

 すなわち、英国政府は特に低所得者世帯が銀行口座の開設、低利与信等主たる金融サービスを受けられないという社会問題に対して社会共同体として問題を共有し、解決すべく(社会目的の共有化と財政面の包含(支援):Promotion Financial Inclusion)、具体的優先分野として、①銀行取引へのアクセス、②手ごろに入手可能な与信サービスへのアクセス、③無料の対面による金融アドバイスサービスへのアクセス権の確保を確約した。このため同政府は3年以上にわたり1億2千万ポンド(約261億6千万円)の基金を用意するとともに、その推進役として2005年2月21日に「財政支援作業部会(the Financial Inclusion Taskforce)」を設置、関係機関との調整、勧告などを行っており、また政府全体の取り組みを推進するため2006年4月20日には財務省副大臣、DTIやDWPの事務次官級による会合を開催している。
http://www.financialinclusion-taskforce.org.uk/default.htm
 また、議会の動きとしては下院財務委員会(House of Commons, Treasury Committee)が2003年12月10日に公表した報告書の第3編で「過重債務問題と責任ある貸出(責任ある借金もふくまれる)」について論じられている。

(筆者注3) http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html
 英国では、信用情報機関(現行、①the Experian CAIS database、②the Equifax Insight database、③the Callcredit SHARE databaseである)と銀行等特定の範囲の貸し手グループ間の信用情報の共有について「相互利用原則(Principle of Reciprocity)」のガイドラインを定めている。このガイドラインを作成、監督するのが前記3情報機関(英国での免許を得た信用情報機関:CRA)および英国銀行協会(the British Bankers Association)、金融・リース業協会(the Finance and Leasing Association)、不動産抵当ローン融資業協議会(the Council of Mortgage Lenders)、メールオーダー取引業者協会(the Mail Order Traders’ Association)、消費者信用取引協会(the Consumer Credit Trade Association)から構成される「相互利用運営委員会(the Steering Committee on Reciprocity:SCOR)」である。この運用ルールは適宜改訂されており、Q&Aとともに確認が出来る。
http://www.experian.co.uk/downloads/compliance/scorrules_101204.pdf
(Q&AのURL)Principles of Reciprocity (experian.co.uk)

(筆者注4)エクスペリアンの主張は次の通りである。基本的に公益の立場ならびに貸し手の正当な利益保護の観点から共有を肯定するものであり、また貸し手が借り手に対して過去にさかのぼって同意を得ることを義務付けることは実際的でない、つまり通知による同意の取得方法としては、毎月の月次計算書によって同意を得る方法をすでに憲法事項省が十分と認めているのであり、「公正かつ合法的」方法として認められるべきである。

https://www.experian.co.uk/downloads/compliance/porVersion29.pdf
http://www.experian.co.uk/corporate/compliance/datasharing/index.html

〔参照URL〕
http://www.out-law.com/page-7393-theme=print
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Copyrights @ 2006 芦田勝(Masaru Ashida ) All rights Reserved


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