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スイスのインサイダー取引規制に関する2013年から2016年にかけて大胆な法規制、監督規制機関等の内容

2022-02-26 15:00:50 | 金融機関等の法令遵守

 

筆者は2006年12月のブログ(その1)同(その2完)でスイスのインサイダー取引の法規制について詳しく論じた。一般的にスイスの金融の特徴にインサイダー規制の弱さや顧客の機密保護の強さがよくあげられる。

 今回のブログは前者に的を絞り、スイスが2013年から2016年にかけて大胆に法規制、監督規制機関等の内容を見直しており、その経緯も含め内容を詳しく解説するものである。

 なお、筆者は最近「スイスの銀行秘密法が言論の自由と衝突」という記事を読んだ。その内容については機会を改めたい。

1.スイスのインサイダー取締の法規制のこれまでの経緯

  以下に述べるとおり、三段階にわたり法整備が行われた。

(1) 1988年7月1日、刑法第161条で初めてインサイダー取引規制

 米国証券取引委員会(SEC)からの圧力の下で、スイスで最初のインサイダーの罰則規範は1988年7月1日に刑法第161条で明文化され、それ以来「レックス・アメリカーナ(Lex Americana)」というニックネームも付いている。しかし、スイス刑法第161条で当時規制されていた禁止は、インサイダー取引に対する有罪判決を数回しか受け入れられなかったため、インサイダーを取り締る刑法は高い期待に応えたことがなかった。この理由は、繰り返し司法無罪につながった当時のスイス刑法第161条の事実関係判断のあまりにも狭い定式化にあった。

2013年改正前の関係法図

(2) インサイダー取引に関する刑罰法規はスイス刑法(Schweizerisches Strafgesetzbuch :StGB)から「証券取引所および証券取引法(SESTA)」に移管

 2013年1月5日の法改正により、インサイダーに関する刑罰法は刑法(Schweizerisches Strafgesetzbuch :StGB)から「証券取引所および証券取引法(SESTA)」(注1)に移管され、単一の監督権限(スイス金融市場監督局(FINMA))の中心的な能力と、刑事規範の客観的事実の策定に関する調整が行われた。

Marlene Amstad 氏(FINMA 理事長)2021.1.1 就任

 2013年5月1日、インサイダー取引と相場の違法操作に関するスイスの新しい規制法が発効した。 主な規定は、「改正証券取引所法(SESTA)」およびスイス連邦参事会(Swiss Federal Counsel (SESTO)(注2)の(Stock Exchange Ordinance of the Swiss Federal Counsel (SESTO)SESTO)の「改正された施行証券取引所令」に記載された。 さらに、スイス金融市場監督局(FINMA)は、市場行動規則に関する改訂されたFINMA解釈通達(Circular 2013/8 Market conduct rules Supervisory rules on market conduct in securities trading) (注2-2)の協議プロセスを実施した。 改訂されたFINMA解釈通達は、2013年8月1日に発効し、すべての市場参加者に適用された。

 なお、この時点における法解説としてはCAPLAW“Market Abuse and Takeover Law – A New Start under Swiss Law”(https://www.caplaw.ch/2013/new-swiss-rules-on-insider-dealing-and-market-manipulation-entered-into-force-on-1-may-2013/)等がある。

 2013年、改正証券取引所および証券取引法(SESTA;Bundesgesetz über die Börsen und den Effektenhandel (Börsengesetz, BEHG) )とスイス連邦評議会2013年の改正関係法の図解

(3) 2016年1月1日、インサイダー規制法は新たに創設された「金融市場インフラ法(Financial Market Infrastructure Act (FMIA)」に移管

2016年1月1日、インサイダー禁止法は最終的に新たに創設された「金融市場インフラ法(Financial Market Infrastructure Act (FMIA; German:Finanzmarktinfrastrukturgesetz: FinfraG)」 , Loi sur l’infrastructure des marchés financiers, LIMF) : LIMF)」(注3)に移管された。

  FMIA第154条は現在、(1)プライマリー・インサイダー(現在は株主を含む会社に適格な近接性を有する人物または密告者(tippers))、2)二次インサイダー(または密告を受ける人(tippees)、3)ランダム・インサイダー(誤って機密情報を認識した人:一次または二次インサイダーでなくても、誤って機密情報にアクセスした人(たとえば、誤って電子メールを受信した人)を区別している。いわゆるランダム・インサイダーの導入は顕著である:例えば、常連のテーブルや誤った電子メールを介して機密情報の知識を得て、この知識を活用する人は、今では処罰の脅威にさらされている。一方、自社の証券取引の影響を受ける会社はまだカバーされていない(これは「誰も自分のインサイダーになれません」という原則に従って)。

 FMIA第142条によると、「内部情報」の存在は今では十分である(旧刑法(StGB)第161条体制下での「機密事実」と「重大な価格影響の予測可能性」は別規定であった)。しかし、インサイダー情報が実際にインサイダーの性格を持つ時期の中心的な問題は、実際には明確にする必要がある。

 最後に、重要な法革新は、 FMIA第154条2項によると、100万スイスフラン  以上のかなりの財政的優位性が適格な犯罪として設計されており、現在は犯罪であるため、Art. 305bis SCCに従ったマネーロンダリングに適した犯罪を構成しているという事実においても見つけることができる。

2.インサイダー取引と市場濫用(注4)

 WestLawの解説PRACTICAL LAW 「スイスの金融犯罪:概要」からインサイダー取引規制に関する解説文を抜粋、仮訳する。なお、法律名の正式名表示、リンク等は筆者の責任で行った。

(1)規制条項と規制・監督機関

 スイスでのインサイダー取引と市場濫用は、現在、以下の法律によって管理されている。

 2016年1月1日に発効した「金融市場インフラ法(Financial Market Infrastructure Act: FMIA)  」 ;Finanzmarktinfrastrukturgesetz (FinfraG)))

2020年1月1日に発効した「金融機関法(Financial Institutions Act: FinIA)」「Finanzinstitutsgesetz: FINIG

 FMIAとFinIAは、金融市場のインフラストラクチャとデリバティブ取引におけるスイスの規制を、国際基準と進化する市場の状況に沿ったものにすることを目指している。

(2)インサイダー取引の対象

 インサイダー取引には、FMIAの第154条で禁止されているインサイダー情報を次のいずれかの方法で利用することにより、個人的または第三者のために金銭的利益を得ることが含まれる。

①取引所での取引が認められている有価証券またはデリバティブの取得または処分。

②インサイダー情報を第三者に開示する。

③インサイダー情報に基づいて、そのような証券の取得または譲渡を第三者に推奨する。

 FMIAの第154条は、3つのタイプのインサイダーを区別している。

プライマリー・インサイダー(Primary insiders)(または密告者(tippers):インサイダー情報への適格なアクセス権を持っている人(たとえば、取締役会のメンバー)。

二次インサイダー(Secondary insiders)(または密告を受ける人(tippees):一次インサイダーからインサイダー情報を入手したり、一次インサイダーから情報を入手したりする人。

偶然または偶発的インサイダー(Fortuitous or accidental insiders):一次または二次インサイダーでなくても、誤って機密情報にアクセスした人(たとえば、誤って電子メールを受信した人等)。

(3)民事/行政的制裁

 一般的な罰則は、関係者が規制監督の対象であるかどうかに関係なく、誰にでも適用される。

また、特定の制裁措置は、たとえば、市場貿易業者や仲介業者等職業上の禁止(従業員を含む)や事業を行うための免許の取り消しなど、規制監督の対象となる企業内で刑事犯罪が行われた場合にのみ命令される場合がある。

(4)民事罰

 FINMAによって発行された法的強制力のある決定に故意に従わなかった場合、最高10万スイスフラン(約1,240万円)の罰金が科せられる(Financial Market Supervision Act: FINMASA 第48条)。虚偽の情報の提供もFINMASAによって認可されており、最高3年の拘禁刑、または最高540,000スイスフラン(約6,696万円)(つまり、1日あたり180スイスフラン(約22,000円)を超えない民事制裁金)または罰金が科せられる。過失の場合は最大250,000スイスフラン(約3,100万円)(FINMASA第45条)が科せられる。(注5)(注6)

刑事制裁(Criminal Sanctions.):

 インサイダー取引および/または市場の乱用に参加した場合の刑事制裁は次のとおりである。

(a)主なインサイダーおよび市場の濫用。刑罰は次のとおりである。

 最高3年の拘禁刑および/または最高540,000スイスフラン(約6,696万円)の罰金。

(b)100万スイスフラン(約1億2,400万円)を超える金銭的利益を得ているプライマリー・インサイダーへの刑罰は次のとおりである。

 最高5年の拘禁刑および/または最大540,000スイスフランの罰金。

(c)二次インサイダー。ペナルティは次のとおりである。

 最高1年の拘禁刑および/または最大540,000スイスフランの罰金。

(d) 偶然または偶発的インサイダー:

 罰則には、最高10万スイスフランの罰金が含まれる。

(e)保釈される権利:

 被告人は、裁判前の拘禁から保釈される可能性がある。その後、預けられた担保(security)は、金銭的罰金、罰金、手続き費用、または被害を受けた当事者に割り当てられた損害をカバーするために没収される場合がある。

(f)刑罰適用からの例外防御

  FMIAの第142条および第143条(刑法の規定にも同様に適用される)および基礎となる金融市場インフラストラクチャ命令(金融市場インフラストラクチャ令(Ordinance on Financial Market Infrastructures and Market Conduct in Securities and Derivatives Trading (Financial Market Infrastructure Ordinance, FMIOの規定には、「許容される行為」に相当する例外が含まれる。それらは,次のトランザクションに関係する。

(ⅰ)公開入札の準備で実行される場合(つまり、「誰も自分のインサイダーになることはできない」という原則)。

(ⅱ)価格管理を目的として作られた場合。

(ⅲ)買戻プログラムの過程で作成された場合。

(第123条以降、FMIO。)

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(注1) SESTAは2012年9月28日可決、2013年5月1日施行された。

(注2) 内閣(連邦参事会)は、連邦議会によって選出される7人の閣僚で構成される。7人はそれぞれ各省の大臣を務め、その中の1人が大臣兼任のまま、任期1年の大統領となる。スイスの大統領は、閣僚7名が1年ごとに交替で務める輪番制(毎年1月1日に就任)

(注2-2) Circular 2013/8 :Market conduct rules:Supervisory rules on market conduct in securities trading 

(注3) Bundesgesetz über die Finanzmarktinfrastrukturen und das Marktverhalten im Effekten- und Derivatehandel (Finanzmarktinfrastrukturgesetz, FinfraG)

(注4) 「市場濫用(market abuse)」の概念は、通常、1)インサイダー取引、2)内部情報の違法な開示、および3)市場操作で構成される。

(注5) FINMAの監督慣行

FINMAは解釈通達(circulars)を使用して、監督義務を遂行する際に金融市場法をどのように適用するかを説明している。

(注6) 罰金(Fine)

 罰金は、固定金額の形での罰金をいう。罰金に関しては、罰則の執行を一時停止することはできない。これらは常に支払われる必要がある。判決には、最低1日、最高3か月の代替の自由刑がすでに含まれており、過失により罰金を支払わなかった場合に執行される。

民事制裁金(Monetary Penalty )

 民事制裁金は、特定の金額を1日あたりのペナルティユニットの特定の数に分割したものをいう。毎日のペナルティユニットの数は、過失の可能性に応じて決定される。毎日のペナルティ単位に対応する金額は、評決時の犯罪者の個人的および経済的状況(収入、資産、生活費、支援金の支払い義務、最低生活水準)に基づいて計算される。民事制裁金は一時停止または一時停止解除できる。 (一時停止されていない)罰金は通常、一時停止された罰金と一緒に課される(スイス刑法第42条第4項を参照)。

*第42条第4項 本項は、第106条に基づく科料(Busse)と組み合わせることができる。

 特定の条件下では、民事制裁金と罰金は社会奉仕(community service)の形で支払うことができる(スイス刑法第43条参照)。

 有罪判決を受けた者が当局によって決定された期間(1か月から6か月の範囲)に金銭的罰金を支払わず、債権回収手続きを通じて支払いを行うことができない場合、民事制裁金は別の拘禁刑に置き換えられ、その場合 1日の罰則単位は、1日の懲役に相当する(スイス刑法第36条代替拘禁刑(Ersatzfreiheitsstrafe)参照)。

(注7) FINMASAの解説は例えばスイスのローファームpestalozziの解説“Financial Market Supervision Act”がわかりやすい。

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オーストラリア銀行協会(ABA)は、新しい銀行行動規範(Banking Code of Practice)の改定およびそのレヴュー意見書を求めている旨を発表

2021-07-06 17:26:21 | 金融機関等の法令遵守

 オーストラリア銀行協会(Australian Banking Association:ABA)は7月6日、銀行行動規範の独立性をもったレビュー機関に付託したと発表し、そのレビューは現在提出が求められている。

 今回のブログは、(1)ABAリリース内容やABAのCEOのコメントを仮訳、(2).オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)のABA行動規範の改定につき強化すべき点の指摘内容、(3) 一般社団法人・全国銀行協会の銀行役職員の行動規範・倫理規範として定めている「行動憲章」を改定動向等を概観する。

1.ABAリリース内容やABAのCEOのコメント内容

 このレビューは、現在の連邦交付金委員会(Commonwealth Grants Commission) (注1)の委員長であるマイク・キャラハン(Mike Callaghan  ASM (注2)PSM(注3)によって行われている。キャラハン氏は、政府および金融セクターの主導的役割において長く卓越したキャリアを持ち、退職後の所得、税金、保険、および経済規制をカバーするオーストラリア政府の独立したレビューの議長を務めてきた。

 オーストラリア銀行協会のアンナ・ブライ(Anna Bligh)最高経営責任者(CEO)は、銀行業界に関心を持つ個人、企業、消費者団体、その他の団体からのレビューへの参加を奨励し、規範の強さと信頼性をさらに高めるのに役立つという観点から以下のとおり述べた。

Anna Bligh 氏

「1993年以来、この規範は、業界が法律を超えた基準を設定するための手段となっている。

この規範は、顧客の明確な権利を定めた銀行向けのルールブックである。これは法律により執行可能であり、またオーストラリアの金融機関の基準として使用される。オーストラリア 金融苦情対応局(Australian Financial Complaints Authority )は銀行に対する顧客の苦情を考慮しているので、この規範に基づきそれを正しくすることが本当に重要である。

 規範のより最近のバージョンには、ヘイン王立委員会 (注4)および金融業界の他のイニシアチブによって推奨された変更が組み込まれている。重要なのは、これがASICによって承認された最初の金融業界規範という点である。同時にこのレビューは、規範をさらに強化する機会を提供する。

「ABAは、政府および経済の役割において豊富な経験を持つマイク・キャラハン氏を任命することを嬉しく思うとともに、キャラハン氏の調査結果を学ぶことを楽しみにしている。

 今回のレビューの結果に関心のある人は、2021年8月6日までにこの独立したレビューに提出することで自分の考えを聞くことを強く勧める。独立したレビューは、消費者代表、中小企業、農民、政府、規制当局、一般市民を含むすべての利害関係者からの提出を受け入れる」

 マイク・キャラハン氏は、「レビューの焦点は、コードが消費者とコミュニティの期待に応えることを保証することにあり、すべての利害関係者と幅広く協議することを楽しみにしている」と述べた。

〇 オーストラリア銀行協会は、少なくとも3年ごとに行動規範の独立したレビューを促進してきた。

 本レビューは、Bankingcodereview.com.auでアクセスできるコンサルテーション・ノートを公開している。提出期限は2021年8月6日である。さらに、レビューは2021年11月末までに調査結果を報告する予定である。レビューが完了すると、金融業界はABAが行動規範の変更を検討する前に対応する機会があり、その後、ABAは、改定された規範のオーストラリア証券投資委員会(ASIC)による承認を求める予定である。 

【参考】

〇 英国メディアBBCの報告に対する政府財務省の姿勢への批判的レポート記事を参照されたい。その見出しは「銀行王立委員会の勧告報告のほとんど放棄または延期された。分析によると、ケネス・ヘイ委員会の76の推奨事項のうち45はまだ実装されておらず、4つは放棄されている」とある。

2.ACCCはABA行動規範の改定につき強化すべき点を指摘

 2019年9月27日、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC)はABA行動規範の改定案につき更なる保護強化の観点や競争法の適用の観点からの意見書を出している。 

 以下で概要を仮訳する。

〇 ACCCは、オーストラリア銀行協会(ABA)の銀行業務規範に条件を課して、改定された規範では低所得の消費者と干ばつの影響を受けた農家に利益をもたらすべきことを保証するよう提案している。

〇 ABAは、主要銀行を含む23のメンバーを代表して、銀行、年金および金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会の勧告(Hayne Royal Commission)に沿って銀行行動規範を改正する許可を求めている。

 ACCCが提案した改正案は、顧客からの要求がない限り非公式(融通的)な当座貸越と返済料金な手数料(dishonour fees)(注5)を禁止することにより、基本的な銀行口座と低額または無料の口座を改善することを目的としている。またABAは、特定の種類の基本的な銀行口座には、最低預金、無料の直接デビット機能、追加費用なしのデビットカードへのアクセス、無料の無制限の国内取引を提案している。

 さらに、ABAの規範変更により、干ばつの影響を受けた地域の農業ローンにデフォルトの利子が課されるのを防ぐことができる。

 ABAの提案を検討した後、ACCCは、これらの変更を強化するために追加の条件が必要であると考えている。

 ACCC副委員長のデリア・リッカード(Delia Rickard )は「規範の提案された変更内容は、低所得の顧客に手頃な銀行へのより良いアクセスを提供し、干ばつを経験している農民への重大な害の原因に対処することによって、公共の利益をもたらすはずである」と述べた。

Delia Rickard 氏

 ACCCはこれらの目的を強力にサポートしているが、改定・変更が王立委員会の推奨事項に効果的に対応し、実際にこれらの公益を提供できるように、ABAメンバーに追加の条件を設けることを提案している。

 たとえば、ABAの改定案では、状況によっては、顧客の同意なしに基本的な銀行口座が引き落とされる可能性があり、銀行は、引き出された金額に対して、場合によっては20%に近い利息を請求し続ける可能性がある。

 これは、低所得の顧客が同意しなかった当座貸越から債務を負うことにつながる可能性があり、これはまさに、ヘイン王立委員会が対処しようとした種類の問題である。

 ABAが提案した承認条件では、これらの場合に利息を請求することはできないし、または、そのような利息を顧客に返済する必要がある。

 またACCCは、ABAが提案する変更により、銀行が口座の対象となる既存の顧客を積極的に特定したり、基本的な銀行口座を提供し続ける必要がないという消費者グループの懸念を共有している。

〇 これに対処するために、ACCCが提案している条件では、銀行はデータ分析などを通じて、適格な顧客を積極的に特定する必要がある。これらの顧客に適格性を通知し、ABAが無料の銀行口座を提供するために講じた措置についてACCCに報告し、顧客の数を報告するという内容である。

〇 さらにACCCは、現在基本的な銀行商品を提供しているABAのメンバー銀行に認可期間中もそうし続けることを要求する。

 これらの問題と提案された条件について、ACCCに対し2019年10月14日までにフィードバックを寄せられたい。ACCCの最終決定は2019年11月に予定されている。

 以上述べた決定案および承認申請に関する詳細は、オーストラリア銀行協会サイトで入手できる。

【今回のACCCの意見の背景】

 2019年5月22日、ABAは、ヘイン王立委員会に対応して銀行業務規範を改訂するためのACCCの承認を求めた。

 行動規範の改定に伴い、競合する銀行がABAを通じて合意に達する必要があるため、ACCCの承認が必要になる。これは、そうしなければ競争法に違反する行為となる。

 提案された規範の変更は2020年3月1日に発効し、このレビュープロセスとは別に銀行行動規範の2回目の改正がASICによって承認されるまで続く。

3.一般社団法人・全国銀行協会の銀行役職員の行動規範・倫理規範として定めている「行動憲章」を改定

 わが国の銀行の行動規範・倫理規範となる「行動憲章」の具体的内容、オーストラリアのような第三者独立委員会での検討は如何などの検討すべき問題は多く見られよう。

 とりあえず、筆者が現時点で入手可能な範囲で挙げる。

〇 2018年3月15日、「行動憲章」の改定について発表

 一般社団法人全国銀行協会(会長:平野信行 三菱UFJフィナンシャル・グループ社長)は、本日開催の理事会において、銀行役職員の行動規範・倫理規範として定めている「行動憲章」を改定した旨発表した。

 今回の改定は、2015年に「国連持続可能な開発サミット」において採択されたSDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))や、ESG(Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス))の課題に関する視点を反映した投資行動への関心が高まる中、持続可能な社会の実現や社会的課題の解決に向けた取組みや期待される役割等を、行動憲章に明確化したものである。

 なお、当協会は、本日別途、SDGsに関する推進体制、および主な取組み項目を決定している。

【銀行協会「行動憲章」の制定・改正経緯】

平成17年11月22日 制定

(平成9年9月制定の「倫理憲章」を改定)

平成25年2月14日 一部改定

平成25年11月14日 一部改定

平成30年3月15日 一部改定

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(注1) "Commonwealth Grants Commission(CGC)" は、オーストラリア政府に州政府と準州政府の相対的な財政能力についてアドバイスを提供し、物品サービス税(Goods and Services Tax:: GST)は2000年7月に導入された税金で、オーストラリア国内で消費されるほぼすべての商品、サービスに課される。税率は取引価格の10%)の分配を通知している。CGCはより幅広い財務ポートフォリオの一部である。

CGCは、1933年以来、連邦と州の財政関係において中心的な役割を果たしてきた。1973年連邦交付金委員会法(Commonwealth Grants Commission Act 1973 に基づいて運営されている。CGCは、以下を機能を含む小規模な独立機関である。

① CGCは、各州の相対的な財政能力を測定する方法について決定を下す。

② CGCは、データの収集と評価、および委員会に考慮されたアドバイスを提供するための調査の実施を担当する事務局でもある。

 水平的衡平の原則とは、各州政府が歳入増加のために同等の努力をし、かつ同等の効率性をもって財政運営を行った場合に同等の行政サービス提供能力を保持するよう、連邦政府が州政府を財政支援する原則である。

 連邦交付金委員会(Commonwealth Grants Commission)は、毎年この原則に基づき各州の補正係数を算出する。((財)自治体国際化協会「オーストラリアとニュージーランドの地方自治」 P.50以下から一部抜粋)。

 CGCは州政府および準州政府と緊密に協力して、相対的な財政能力を反映したGST収入の分配に関する推奨事項を作成する。 

【CGC組織図】

(注2)オーストラリアの”緊急車両隊員勲章(Australian Service Medal:ASM)”は総督は、適切な連邦、州、および準州の大臣からの推薦に基づいて救急車サービス勲章を授与する。ASMやPSMの受賞者は名前の後に置かれ、個人が保持する地位、学位、資格、任務、軍事褒章や栄典、または修道会やフラタニティもしくはソロリティへの所属等を示す文字列(post-nominal initials)であり、日本語における「肩書き」にも相当する?。

(注3) ”Public Service Medal(PSM)”(公務員勲章) は、優れたサービスに対してオーストラリアの公務員(すべてのレベル)に授与される市民章である。PSMは1989年に導入され、1975年に廃止された帝国賞に取って代わり、同年に導入されたオーストラリア勲章を補完した。

(注4) 「銀行、年金および金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会(Royal Commission into Misconduct in the Banking, Superannuation and Financial Services Industry)」最終報告の概要仮訳する。

「銀行、年金および金融サービス業界における不正行為に関する王立委員会」は本報告をもって終了した。

 本委員会のコミッショナーであるケネス・マディソン・ヘインAC QC名誉委員(Hon Kenneth Hayne AC QC)は、2019年2月1日に総督に最終報告書を提出した。最終報告書は、2019年2月4日に議会に提出された。委員会は、2017年12月14日にオーストラリア総督、ピーター・コスグローブAK MC閣下(Retd)によって設立されている。

Hon Kenneth Hayne AC QC 氏

 なお、同サイトによると公的意見総数は10,323件、その内訳はBanking 業界61%、年金関係12%、Financial advice 関係9%である。

 最後に、王立委員会についてデロイト・トーマツの補足解説を抜粋、引用する。

「乱暴な訳し方をすると「第三者委員会」であり、司法機関に準じた機能をもっている。その調査結果は「報告書」として政策提言も含み発表される。なお「王立委員会」と呼ぶのは、英国王の代理人であるオーストラリア総督が付与する Letters Patent(許可状)をもって設置することに拠るようである。

その正式名称(Royal Commission into Misconduct in the Banking, Superannuation and Financial Services

Industry)が指すとおり、Banking Royal Commission は金融セクターの不適切な行為を調査することを目的としている。野党・労働党を中心に予てから Royal Commission の設置を求めていたものの連邦政府は一貫して反対してきた。しかし政局混乱の収拾のため 2017 年 12 月に Turnbull 前首相・Morison 前財務相(現首相)が設置を発表した。2018 年 9 月に中間報告書が出され、最終報告書は 2019 年 2 月を予定している。

金融セクターは豪州 4 大銀行を中心にコングロマリットを構成しており、保険・リース・退職年金等の事業を傘下に持つ。さらに垂直統合も進んでおり、例えば退職年金では、基金の管理受託、その運用アドバイス、また運用商品の販売などを行っている。中間報告書では金融コングロマリット、とりわけ垂直統合モデルにおける利益相反、また ASIC

(Australian Security and Investment Committee:豪州証券投資委員会)の監督機能の合理性に疑問を投げかけており、現在の金融セクターの「事業のあり方」そのものについて疑義を呈する内容になっている。以下、略す。

(注5) 不名誉な支払い料金とは、返済料金とも呼ばれ、支払いを試みたが、その費用を賄うのに十分な資金がない場合に受け取る料金をいう。

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【本ブログのブログとしての特性】

1.100%原データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

関係者のアドバイスも受け会員制の比較検討を行っている。移行後はこれまでの全データを移管する予定であるが、まとまるまでは読者の支援に期待したい。

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米国の金融消費者保護局が退役軍人省保証住宅ローンの宣伝等にあたり虚偽表示等法律やレギュレーション規則に違反した理由で同意命令を8件発出

2020-09-03 13:09:33 | 金融機関等の法令遵守

 Updated September 10,2020 

 Updated September 14,2020

 米国の連邦金融監督機関の1つである金融消費者保護局(Consumer Finance Protection Bureau:CFPB)は2020年7月下旬から9月初旬にかけて合計8社のモーゲージ・ブローカーによる連邦退役軍人省(United States Department of Veterans Affairs:VA)の保証住宅ローン(筆者注1)を宣伝する際に、金融消費者保護法(CFPA) (筆者注2)の不正行為や慣行に対する禁止、抵当権に違反して、虚偽、誤解を招く、不正確なステートメントを含む、または必要な開示を欠く多数の郵便物を消費者に送信したことに基づき行政機関として和解にあたる同意命令(consent order)を発出した。(筆者注2-2)

 具体的には「住宅ローン法と慣行-広告ルール(Mortgage Acts and Practices—Advertising Rule (the “MAP Rule” or Regulation N))」(筆者注3) (筆者注4)、および「レギュレーションZ」(筆者注5) に違反し、虚偽の、誤解を招く、不正確な声明を含む、または必要な情報開示を欠くVA保証住宅ローンに関する多数の郵送物を消費者に送ったという理由を述べている。

 CFPBは合意命令を発する都度公表しているが、その法冷違反の内容はほぼ共通であるので、本ブログでは重複しない範囲で「リリース文」と「合意命令」のリンクを張るにとどめた。

 なお、このようなモーゲージ・ブローカーが多数、違法なビジネスを行っていること自体がこれまでのCFPBの法執行機能自体に大きな疑問がわいてくる。また、VAは国防総省に次いで連邦政府で2番目の予算規模を有しているとされる。すなわち、2021年財政年度予算要求額合計2,433億ドル(255,500億円)を要求しており、2020年度の制定水準を10.2%上回っている。

 トランプ政権の支持母体である退役軍人に対し、大統領選をにらんだ大盤振舞が行われことを懸念する。

 このような米国の退役軍人省自体の役割自体も見直しが問われる問題といえよう。

 なお、9月2日届いたCFPBのリリースは複数の案件で混乱したのか、表題と内容が異なったり、リンクが完全に張れていなかった。半日たって修正されていた。

1.2020724日のSovereign Lending GroupInc.Sovereign)およびPrime Choice FundingInc.Prime Choice)に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

A.Sovereign is a California corporation that is licensed as a mortgage broker or lender in about 44 states and the District of Columbia

B.Prime Choice is a California corporation that is licensed as a mortgage broker or lender in about 35 states and the District of Columbia.

(2)民事罰の金額

A.Sovereign :civil penalty of $460,000.(約4,830万円)

B.Prime Choice :civil penalty of $645,000(約6,773万円)

(3) 同意命令では、ブローカー企業が1)使用前に住宅ローン広告に関する規則他(mortgage advertising laws)を遵守するために住宅ローン広告を見直す必要がある広告コンプライアンス担当者を指定することによって、コンプライアンス機能を強化することを企業に要求するなど、将来の違反を防ぐために差し止めを課します。2)CFPBによって特定されたものと同様の虚偽の表示を禁止すること。3)企業が将来の虚偽(不正)表示を行うことを防ぐために、特定の強化された開示要件を遵守することを義務付けた。

A.Sovereignに対する同意命令

B.Prime Choiceに対する同意命令

2.「Go Direct LendersInc.Go Direct)」に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

California corporation that is licensed as a mortgage broker or lender in about 11 states.

CFPBの捜査・調査の継続的な一層活動は、金融市場がサービス・メンバー、退役軍人、および退役軍人省保証の住宅ローンが利益をもたらすように設計されている生きている配偶者を含むすべての消費者に対して公正かつ正確であることを保証する法律を適用するというCFPBの責任を反映したものである。

(2)民事罰の金額

civil penalty of $150,000.(約1,575万円)

(3)同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

4.2020.8.26 PHLoans.com, Inc. (PHLoans) に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

a California corporation that is licensed as a mortgage broker or lender in about 11 states. Until at least April 2019

CFPBは、調査結果を踏まえPHLoansが虚偽の、誤解を招く、不正確なステートメントを含む広告、または必要な開示を含めていない広告を広めたことを明らかとした。 たとえば、PHLoans広告は、広告された住宅ローンに関連する消費者に宣伝された住宅ローンに適用される支払い金額や利用可能な現金の性質または金額を偽って伝えることを含め、会社が実際に消費者に提供する準備ができていなかった信用条件を記述することによって、宣伝された住宅ローンの信用条件を誤って伝えたことをあきたらかにした。

(2)民事罰の金額

civil penalty of $260,000(約2,730万円)

(3)同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

5.2020.9.1 Hypotec, Inc.( Hypotec) に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

a mortgage broker based in Miami, Florida that is licensed in eight states.

(2)民事罰の金額

civil penalty of $50,000(約525万円)

(3)同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

6.2020.9.1 Service 1st Mortgage, Inc. (Service 1st) に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

based in Glen Burnie, Maryland that is licensed in about 12 states.

(2)民事罰の金額

civil penalty of $230,000.(約2,415万円)

(3)同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

7.2020.9.2 Accelerate Mortgage, LLC (Accelerate) に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

Delaware limited liability corporation that is licensed as a mortgage broker and lender in about 31 states.

(2)民事罰の金額

civil penalty of $225,000.(約2,363万円)

(3)同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

8.2020.9.2 ClearPath Lending, Inc. に対する同意命令

(1)CFPBのリリース要旨

ClearPath is a California corporation with its principal place of business in Irvine, California.  ClearPath is licensed as a mortgage broker or lender in about 22 states.

(2) 民事罰の金額

civil penalty of $625,000(約6,625万円)

(3) 同意命令は差止めによる救済(injunctive relief)他

***********************************************************************:

(筆者注1) 2012.2.28の筆者ブログ(執筆途上)「米国退役軍人省が支援した『第20,000,000件目のホームローンを獲得』に涙する未亡人母と無邪気な息子の報道」は、VA保証住宅ローンをわが国でおそらく初めて取り上げたものである。

(筆者注2) Consumer Financial Protection Act of 2010 (CFPA)

Section 1057 of the Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act of 2010,

12 U.S.C. § 5567

Enacted July 21, 2010

Note: Effective date of July 21, 2011, has been set by the Secretary of the Treasury

pursuant to Sections 1058 and 1062.

(筆者注2-2) 筆者は、CFPBから都度発せられた同意命令を最終的にまとめ本ブログを執筆したが、Ballard Spahr L.L.Pがここで取り上げた全7件の同意命令について9月9日付けブログ「CFPB Issues Additional Consent Orders for False and Misleading Mortgage Advertising」で一括してまとめて解説している。

(筆者注3) 連邦取引委員会(FTC)は、2011年8月19日から施行する「住宅ローンの法律と慣行–広告に関する規則(Mortgage Acts and Practices – Advertising Rules :MAP規則(FEDERAL TRADE COMMISSION 16 CFR Part 321: Mortgage Acts and Practices— Advertising)」旨7月19日に公表した。MAP規則は、住宅ローン商品に関する不実表示を禁止するように設計されている。 不動産業者やブローカーを含む幅広い企業グループによる虚偽の表示(不実表示)を禁止することに加えて、この規則は、多くのRealtors®(筆者注4)の日常業務に影響を与える可能性のある新しい記録保持要件を課す。

FTCの7月19日のリリース文を以下、仮訳する。

新しい連邦取引委員会規則は、広告やその他の種類の商業的コミュニケーションにおける消費者の住宅ローンについての虚偽の表示を禁止することにより、消費者保護を強化した。このルールは、合法的な企業が市場で競争するための平等な競争条件を作り出すことを目的としている。

新しい規則は、以下に関する虚偽の表示を含む、禁止されている虚偽の申し立ての19の例をリストしている。

①住宅ローンに関連する消費者への手数料または費用の存在、性質、または金額。

②住宅ローンに関連する税金または保険に関連する条件、金額、支払い、またはその他の要件。

③金利、支払い、または住宅ローンの他の条件の変動性。

④提供される住宅ローンの種類。

⑤広告またはその他の商業的コミュニケーションの情報源。

⑥住宅ローンの借り換えまたは変更またはその条件を取得する消費者の能力または可能性。

(筆者注4) リアルター(REALTOR)とは、全米リアルター協会の会員である不動産仲介人(broker)をいう。

REALTORⓇという名称は商標登録されており、協会の倫理規定(The Code of Ethnics)に従うことを誓約し、入会が認められた者のみがREALTORと称することができる。

なお、不動産仲介人以外に、不動産の営業に携わる者(salesperson)としてNARに認定された者は「Realttor-Associate」と呼ばれている。

(筆者注5)レギュレーションZについては以下の筆者ブログを参照されたい。

「米国FRBがクレジットカード利用者保護強化に係る改正レギュレーションZの最終段階案を公募(その1)」, 同(その2完)

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1.100%源データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

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 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

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4.内外の閲覧者数の統計数(google blogger and WordPress)

(1)2005.9~2017.8 全期間の国別閲覧数

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、源データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

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【全期間の登録済ブログの一時閲覧不可状態】

(1)有料会員制への移行に準備ならびにDonate 集計等のため、直近のブログ以外はすべて閲覧不可になっています。以下の補足説明をご覧ください。

*キーワード入力して筆者の該当ブログをクリック→ 記事がありません→10秒後にトップ画面に移る→直近の一部公開ブログのみ閲覧可となる。

(2)ご寄付の集計結果

3日間で20件、約13万円が集まりました。ありがとうございました。これらの方々については会員制のご案内や今後取り上げるテーマのアンケート等を優先的に行う予定です。

 

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米国金融監督機関における金融機関等に対する迷惑セールス電話やFAXの規制強化の動き

2011-12-25 16:17:00 | 金融機関等の法令遵守

 

(本ブログは2010年4月9日付けのブログ内容をもとに最近時公表されたFTCのデータブックにより補筆したものである)

 わが国でも休日の朝にけたたましいセールス電話で起こされて不愉快に感じる人が多いと思うが、連邦取引委員会(FTC)および連邦通信委員会(FCC)は2006年4月に「1991年電話利用者の保護に関する法律(Telephone Consumer Protection Act of 1991:TCPA)」および「2005年ジャンク・ファクシミリ禁止法( Junk Fax Prevention Act of 2005:JFPA)」 (筆者注1)に適用に関する規制強化に関するFCC規則の改正を行った。(筆者注2)

 その内容は、2003年6月に開始した「Do-Not-Call」の登録制度の範囲を銀行、保険会社、信用組合、貯蓄組合等まで広げるとともに、これらの金融機関からの委託に基づきマーケティング活動を行うテレマーケッター等の第三者にまで適用の範囲を広げるというものである。


これを受けて2005年11月に「消費者保護の法令遵守に係る連邦金融機関検査協議会・作業部会(Task Force)」は、TCPAに関する監督機関共通の検査手順書(Examination Procedures )および検査シート(Worksheet)
(筆者注4)を承認した。通貨監督庁は、今後「検査ハンドブック」の改訂を行うが、それまでの間、監督官はこれら手順書等に基づき検査を行うこととなる。
 その後、連邦財務省通貨監督庁(OCC)は2007年6月14日に改訂検査手順書改訂検査シート公表した。

 「National Do Not Call Registry:NDNCR」(筆者注5)についてはFTCのサイトで詳しく説明されているが、これら2法の用語の定義・基本的な内容について概要を述べる。なお、2011年11月30日、FTCは「2011会計年度NDNCRデータブック」を発表した。本ブログではその最新情報についても概要を紹介する。


1.共通用語
(1) abandoned call:自動ダイアリングで電話での呼出し後、2秒以内に生のオペレーターにつながない電話呼出しを指す。電話口に出た人は無言電話としか理解できず迷惑セールス電話の典型とされる。消費者による“National Do Not Call Registry”の登録対象である。
(2) Automatic Telephone Dialing System and Autodialer:ランダムまたは順次電話番号を保存または制作する能力および当該電話番号に基づきダイアリングする能力を持った装置をいう。
(3)既存のビジネス取引関係(Established business relationship)::①電話がかかる18か月以前において個人・企業が電話セールス元企業から買物や取引を行っていた場合、②3か月以内に商品やサービス内容について質問や適用に関する行為が行われていた場合、③当事者間であらかじめそれらの関係を遮断していなかった場合をいう。
これらの場合、受信する個人は製品・サービスに関し、関係を持つと合理的に判断される。
(4)本人の同意なき電話による勧誘(Telephone solicitation):消費者に伝達する買物、レンタル、財産や商品投資、サービスを勧める目的の電話による手引き。Telephone solicitationは本人の同意がある場合、発信者が受信者と一定のビジネス関係がある場合ならびに免税NPOに代って電話する場合はTCPAは適用除外となる。

2.TCPAの一般的要求要件
(1)FCCの定める規則のもとにおいて、売り手やテレマ-ケッターは次の内容を遵守しなくてはならない。
 ①文書の手順書の作成、②オペレーター等担当者の研修、③接触対象から除くべき電話番号のリストの維持、④架電に先立つ3か月前以内に作成された全米do-not-call 登録の バージョンの使用義務、⑤販売レンタル、リース、購入、等にあたり、いかなる方法においても諸規則に準じない手続きは行わない。
(2)企業はテレマーケティングの対象から除くべき要求が出されている既存の取引先顧客名リストの維持を行うこと。
(3)すべてのテレマーテッターは、abandoned callを用いるか自動ダイアリングを利用する場合は、消費者に優しい方法によらねばならない。すなわち15秒以内または4回呼び出しに受け手が電話に出ない場合は遮断しなくてはならない。
(4) すべてのテレマーテッターは、「caller ID information」の送信が義務付けられる。
(5)希望されないFAXの送信は、電話のように既存の取引関係による適用除外はないので留意する。すなわち受け手の同意の記録が必要である。

3.金融検査に検査おけるTCPAに関する検査目的
 金融機関が適正なポリシー、手続き、その他の内部統制が確立されていることのチェックを行う。

4.検査手順(筆者注4)
(1)初期手続き
()検査対象金融機関が直接または外部の第三者を利用したテレマーケティングを行っていない場合はTCPAに関する検査は終了する。
()対象金融機関において、TCPAに準拠した内部統制が適切に行われているか否かについて検査する。具体的には次の項目等が対象となる。
①TCPAについて金融機関においての責任者を含む組織図の作成。
②TCPAの遵守にかかる計画、評価、実践についての手続きのフローチャートの作成。
③受信拒否登録者の電話番号の5年間のメンテナンスの有無等。
④NDNCRに関する行内規則等についての研修内容。
⑤受信拒否者名の登録手順。
⑥NDNCRのデータべースへのアクセス手順。
⑦行内のチェックリスト、作業表、その他関連文書の内容。
(2)検証手続きおよび(3)総括については省略する。

5.FTCの「2011会計年度NDNCRデータブック」(筆者注5)の概要
本データブックが毎年度公表された始めて3年目を迎える。
(1)主なデータ項目
①同制度が開始された2003年度以降有効なDNC(Do Not Call)登録件数およびスパム・テレフォンに関する消費者からの苦情件数
②月次苦情件数と苦情タイプ別に集計した数値
③全50州およびコロンビア特別区の登録、苦情の数値
④会計年度別のマーケテイング業者等の登録データへのアクセス件数
⑤州別およびエリアコード別の登録件数と苦情件数をまとめた別表

(2)2011会計年度ブックの特徴とFTCの基本姿勢
2011年9月30日現在の有効登録件数は2億971万2924件で1年前比で約4%増加した。また、同日までの苦情件数は1年前の163万3,819件から227万2,662件と39.1%増加した。このように毎月の苦情件数の増加に加え、とりわけ予め録音した音声による自動架電(いわゆる“robocalls”)に関するものやテレマーケッターに電話自体を止めさせるべきとする強い要望件数等が含まれる。
この“robocalls”は2009年9月1日以降違法とされており、これらの見掛け倒し(deceptive)、誤解を招く(misleading)、その他の違法な“robocalls”行為を繰り返す事業者に対して、FTCは自身の「テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule:16 CFR Part 310)」に基づき断固たる行動をとる。

 *****************************************************************************************

(筆者注1)“TCPA”も限定的ではあるが、すでに取引関係(EBR)があるなど例外を除いて 企業や住民に対し迷惑FAXの送信を禁止していた。その後、2003年にFCCは既取引先であっても事前に受手が書面による同意がないかぎり禁止する旨に規則を強化した。さらに2005年12月にFCCは「2005 年迷惑ファクシミリ禁止法(Junk Fax Prevention Act of 2005)」に則した規則改正を行い、その実施時期は2006年1月とした。(米国ダイレクトマーケテイング協会の解説から一部引用)

(筆者注2)FTCやFCCの資料でみるとおり、米国のテレマーケテイングのほとんどは自動式コールでわが国のような人海戦術でない。それがゆえに、スパム的な大量の呼び出しが昼夜を問わず行われ、社会問題化したことから、その規制策として「National Do Not Call Registry 」制度が出来た点を念頭に入れておく必要がある。

(筆者注3) FTCは、テレマーケティング販売規則(Telemarketing Sales Rule)、関連規制法(Telemarketing and Consumer Fraud and Abuse Prevention Act)および取扱事業者に対する遵守ガイダンス(FTC消費者保護局作成)を用意している。なお、連邦規制機関であるFTCによる告訴に基づく罰金額は1違反行為につき最高16,000ドル(約121万6,000円)である。

(筆者注4) 検査手順および検査シートのURLは次の通り。
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15a.pdf
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15b.pdf

(筆者注5) NDNCRの登録手続き等については次のURL(Q&A)に詳しい。
http://www.ftc.gov/bcp/conline/pubs/alerts/dncalrt.htm

〔OCCのBulletin2006-15のURL〕
http://www.occ.treas.gov/ftp/bulletin/2006-15.doc

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米国の株価大暴落の背景にあるインサイダー取引事件や住宅ローン・バブル等の懸念材料

2011-06-08 08:58:23 | 金融機関等の法令遵守




(本ブログは2007年3月12日に掲載したものであるが、米国の証券投資に関する投資家保護や情報提供機関である全米証券業協会(NASD)が7月30日に金融取引業規制機構(FINRA)に改組されたことが反映されていないこと、また連載3回目は オーストリアにおけるインサイダー取引法の規制強化(公平性、効率に向けた)、および(3) 米国の住宅ローン・バブルの懸念と金融規制・監督の強化に向けたガイドライン(案)の公表の概要等を報告する予定が延期したままになっていることから今回 改めて書き直した。)

 2007年2月末から3月上旬に続く世界連鎖型株価低落については、テレビ等でいわゆる国際金融アナリストが勝手な根拠の薄い論説を縷々述べている。株価自体日々または一定の周期で高騰や低落を繰り返すものであり、本来の金融アナリストは世界経済または個別国の深部のある経済・金融の問題点をより分析し、十分な予見をもって指摘するのが本来の役目であろう。
(筆者注1)

 同年3月1日に米国証券取引委員会(SEC:読み方は「エス・イー・シー」である。くれぐれも「セック」と呼ばないように。海外では誤解や恥をかく)、FBIおよびニューヨーク南部地区連邦地方検察庁当局
(筆者注2)は、大規模なインサイダー取引きに関与したとしてUBS証券(UBS Securities LLC(筆者注3))の法人担当専務取締役・調査部門の幹部やベアーズ・スターンズ( Bear Starns & Co., Inc)の従業員兼ヘッジファンドの運用マネージャー、モルガン・スタンリー(Morgan Stanley & Co.,Inc)の担当弁護士夫婦2人、2人のブローカー兼ディーラー、ディ・トレーダー会社(筆者注4)、高額の違法利益を得た3ヘッジファンド等による1,500万ドル(約17億5,500円)以上に上る違法な利益を得たことを理由として14人(うちに3ヘッジファンド会社(法人)を含む)を逮捕、告訴した。(筆者注5)

 これらの犯人13人は刑事責任(criminal charge)および11人の個人と3法人は民事責任(civil charge)を問われることになったが、刑事責任容疑者のうち9人は逮捕され、また主犯格以外の4人は大陪審(grand jury)において証券詐欺罪(securities fraud)、証券詐欺にかかる共謀罪(conspiracy)および収賄罪(bribery)について有罪答弁(pleaded guilty)を行っている。
(筆者注6)

 また、SECの訴状内容は監督権にもとづき、独自に①恒久的な差止請求(permanent injunctive relief)、②判決前の保持利益に関する不当利得返還請求(disgorgement of illicit profits with prejudgement interest)、③民事制裁金(civil money penalties )を求めている。筆者なりに今回の監督・司法当局がとった行動の背景にある事件の特徴(多くの容疑者がヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャーであり、米国の連鎖的株価低落はこれらを放置(またはいたちごっこ)している米国の証券投資制度そのものの信頼性が問われている)とコンプライアンス強化等監督規制面からの問題点についても概観する。
(筆者注7)

 なお、オーストラリアの財務省政務次官であるクリス・ピアス(Chris Pearce)は3月2日に「インサイダー取引に関する立場および諮問書(案)」に関するパブリック・コメントを6月2日を期限として求めている。世界の主要国の金融監督機関は証券取引の規制強化に向けて取組んでいる中、その法規制強化に向けた具体的内容の検討は、わが国でも業界関係者や司法関係者に重大な課題を投げかけているといえる。特に「2007年問題」は米国でも同様であり、1948年から1964年の17年間に生まれた約7,800万人のベビー・ブーマーは2008年以降毎年約400万人ずつ退職期に入る。年金や医療等の社会保障制度の大半が民間に委ねられている米国では老後のための貯蓄に関心が高く、また証券会社は従来の投資サービスから資産の活用、維持等を目指すラップ口座(投資一任勘定、分離管理口座)の残高を伸ばしている。今回の事件は、このような多大な顧客の信頼を失う事件としても注目すべきであろう。
(筆者注8)

 

1.証券取引委員会等による大規模インサイダー犯罪告訴
(1)SEC等による捜査の結果判明した犯罪グループの存在
 今回の非公開情報にもとづくインサイダー取引の犯罪グループは2つに大別できる。容疑者によってはこの両者に関与している。
①UBS証券関連詐欺グループ(UBS scheme):2001年以降行われたもので、8人(うち1人は日本人(31歳)である)の証券投資プロ、3つのヘッジファンド、ディ・トレーダー会社1社、2ブローカー兼ディーラーによる数千の違法取引と1,400万ドルにのぼる違法利益容疑である。

②モルガン・スタンリー関連詐欺グループ(Morgan Stanley Scheme):数名の証券プロや企業買収に関する機密情報の漏洩を行った弁護士によるインサイダー取引である。60万ドルにのぼる違法利益容疑である。
主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳:大証券会社であるUSBの株式調査部門の代表権を持つ役員兼登録代理人)は、共犯者たちとニューヨークの有名な牡蠣(かき)料理店で秘密の会合を続け、そのやり取りは使い捨て携帯電話、暗号、現金リベート(cash kickbacks)というものであった。

(2)SECの訴状における各容疑者の違法行為の概要
①ミシェル・グッテンバーグ(Mitchel S. Guttenberg 41歳)UBSが保有する非公開情報を機密裡に内報、株式取引きに違法な利益を得た。

②エリック・フランクリン(Erik R. Franklin 39歳)ベアー・スターンズの従業員でありかつ、Lyford CayおよびQ Capitalのヘッジファンドのポートフォリオ・マネージャー、Chelsey Capital ヘッジファンドのアナリストである。UBSおよびモルガンから非公開情報を入手、違法取引を行った。

③デビッド・タヴィ(David S. Tavdy 38歳)私設取引トレーダー(proprietary trader) (筆者注9)でありかつ登録代理人である。ディ・トレーダー会社であるジャスパー・キャピタルのトレーダーである。UBS詐欺に関与した。

④マーク・レノヴィッツ(Mark E. Lenowitz 43歳)Chelsey Capitalファンドのポートフォリオ・マネージャーでかつQ Capitalの有限責任パートナーである。UBS詐欺に関与した。

⑤ロバート・バブコック(Robert D. Babcock 33歳)サントラスト・キャピタル・マーケット社およびベアー・スターンズの登録代理人であり、またLyford Cay ヘッジファンドの共同事業者である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。

⑥アンドリュー・スレブニック(Andrew A. Srebnik 35歳)ジェフリーズ・アンドカンパニー社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。
⑦Ken Okada(岡田 謙? 31歳)キャセイ・フィナンシャル社およびベアー・スターンズの登録代理人である。UBSおよびモルガン詐欺に関与した。

⑧デビッド・グラス(David A. Glass 32歳)Jasper CapitalのオーナーでありかつAssent LLCの登録代理人である。UBS詐欺に関与した。

⑨ランディ・コラータ(Randi E. Collotta 30歳)弁護士であり、ガーデン・シティグループ社の証券運用部長である。またモルガンのグローバル法令遵守部門(global compliance department )の弁護士である。モルガンの機密情報を漏洩し違法な利益を得た。

⑩クリストファー・コラータ(Christfer K. Collotta 34歳)個人開業弁護士。妻であるランディから得た非公開情報にもとづき違法な利益を得た。

⑪マーク・ジュルマン(Marc R. Jurman 31歳)マリンズ・キャピタル LLCおよびファイナンス500社の支店の登録代理人である。モルガン詐欺に関与した。

⑫Q Capital Investment partners, LP

⑬DSJ International Resources Ltd.,

⑭Jasper capital LLC

(3)今回の大規模インサイダー取引犯罪の背景にある投資証券取引規制および投資一任勘定の規制強化
 米国におけるオープンエンド型投資信託(mutual fund)やヘッジファンドをめぐるトラブルは極めて多い。株式市場の不安定さによることも1つの原因といえようが、米国の連邦議会行政監査局(GAO) は、2004年1月27日付で「投資信託の受託手数料やその他の販売推進活動についてより一層の公平性・透明性」を求める報告書を連邦議会上院「国家財政管理、予算および国際証券取引に関する小委員会」あて提出している。

 SECや金融取引業規制機構(FINRA)(筆者注10)による厳しい規制監督や投資家保護に関する詳細な情報提供にもかかわらず、SECによる投資顧問会社(アドバーザー)やヘッジファンドの告訴があとを絶たない。ちなみにSECの法執行部(Division of Enforcement)サイトを見てみよう。SECの法執行行為は、①連邦裁判所への民事告訴(Federal Court Actions)、②行政手続き(Administrative Proceedings)、③行政審判官による第一次審決(Administrative Law Judges Initial Decisions & Orders )、④委員会の意見(Commission Opinions)に区分されるが、連邦裁判所への民事訴追も本事件後だけでも13件起きている。一方、FINRAのヘッジファンドに関する投資家向け情報(自信のある向きは投資に関する金融クイズ(18問)にチャレンジされたい)提供も継続的に行われている。

 SECサイトでは「あなたの投資資金を分散投資(Hedging Your Bets)―ヘッジファンドの有利な運用、ヘッジファンドのヘッジファンドとは―」(筆者注10)や2002年8月23日付の「ヘッジ・ファンズによるファンズ(Funds of Hedge Funds)-高い潜在的収益のための高いコストとリスク」を読んで欲しい。ヘッジファンド・マネージャーがいかに高度な?投資戦略と技術を用いているか、その違法すれすれの手法を紹介している。

(A)米国のおける投資家間の重要な企業情報へアクセスの公平性確保策(筆者注11)
 米国やわが国の企業において、投資家の信頼確保面の最大の問題は証券アナリストや機関投資家さらに個人投資家の間の情報格差の是正である。そのような点を背景として米国SECは2000年8月に「選択的情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則(Selective Disclosure and Insider Trading)」を採択、同年10月23日に施行した。

 本規則の主な狙いは、①発行者による未公開情報の選択的開示(レギュレーションFD(Fair Disclosure))、②インサイダー取引の責任問題は未公開情報のトレーダーの使用または意図的占有に基づく(同規則10b5-1)、③家族やその他ビジネス外の関係の基づくインサイダーにおける横領理論(misappropriation theory)(同規則10b5-2)の3つの問題に帰結するため、本規則は債券発行者による完全・公正な情報開示の徹底とインサイダー取引きに対する既存の禁止処分の一層の強化を図ったのである。
すなわち、SECは従来のインサイダー取引規制とは別に情報を保有しうる立場にある人間の選択的な情報開示自体を禁止することで、証券アナリストを通じた情報の漏洩の禁止策をとったのである。

 この開示義務が課されるのは、債券発行者(規則101条b項)および発行者に代って行動する発行者の上級幹部やIR担当役員やブローカー兼デイーラー、投資顧問業者、証券アナリスト等(規則101条c項)である。

 このような新たな観点からSEC規則を定めた背景には、企業の内部者が業務を通じて知りえた内部情報に基づいて証券売買を行った場合ならびに外部者がこれらの内部情報に基づいて売買を行った場合は当該内部者は共犯者として米国証券取引所法等に基づき罰せられる可能性が大であった。

 しかし、近時の取引きの実際は、証券アナリストが顧客である機関投資家等に内部情報を提供し、これら情報に基づいて不当な売買行為が行われることが多くなってきた。
 これに関し、司法機関の解釈は「1934年証券取引所法」10条(b)項SEC規則10b-5条に関し限定的であり、例えば1983年の連邦最高裁判所判決(DIRKS v. SEC)は「証券アナリストがインサイダー取引きの共犯として処罰されるためには、①企業の内部者が個人的な利益を得るために証券アナリストに対し重要な情報を選択的に開示し、②その結果、企業に対する信認(fiduciary)義務」に違反した場合で、③情報を受け取ったアナリストもその義務違反の事実を知っていたかあるいは知るべきであった場合に限る」と判示している。 

(B)わが国の投資顧問業法にいう投資一任勘定(ラップ口座)に関する情報提供不足問題
 2003年10月に国民生活センターは「投資取引きにおける消費者向け情報に関する調査研究結果(英米日比較)」を公表している。前述のNASDのサイトも照会されているが、個人投資家が被害に会わないためのノウハウ提供が最も重要であろう。ちなみに、わが国の投資顧問業界の窓口である「投資顧問業協会」サイトで「投資一任勘定」見ると「お任せ」の一言である。これではまったく投資家保護にならない。一方、金融庁等のサイトも専門家向け以外の情報はない(2007年3月に金融庁は「ヘッジファンド調査(2006)の結果」を公表している。その中で米国でも問題となっている「ファンズ・オブ・ヘッジファンズ」おける運用手数料の二重徴収に言及している。それなりのパーフォーマンスを出すのであれば問題ないとする機関投資家も少なくないと述べているが、具体的な比率(20%プラス5%等)までは述べていない。個人投資家の場合はその評価は異なるはずである。そこが米国では問題になっているのである)。

(C)証券アナリストの利益相反行為と企業改革法( Sarbanes –Oxley Act of 2002 )の機能強化の必要性
 利益相反行為の制限・規制のポイントとなる点は証券アナリストによる利益相反行為である。大手証券会社は証券アナリストをかける市場リサーチ部門と投資銀部門が共存している。証券アナリストは大口顧客の証券会社に厳しい評価をつけづらく、その独立性の確保が課題となる。企業改革法501条(登録証券アナリストに関する利益相行為規制 15 U.S.C.§78o-6(a)では、この点について1934年証券取引所法の改正、新設(15D)が行われている。(筆者注12)

 すなわち、① 投資銀行業務に従事するブローカーもしくはディーラーに雇われる者または投資リサーチに直接責任を負わない者は、法務または法令遵守部門を除きアナリストのリサーチ報告書を公表前に審査または承認することを制限される。② 証券アナリストの監督または給与査定については、投資銀行業務に従事しないブローカーまたはディーラーにより雇われた職員が行わなければならない。③ 証券アナリストのリサーチ報告書がブローカーまたはディーラーの投資銀行取引に悪影響を及ぼしたとしても、アナリストに報復してはならない。④証券アナリストがリサーチ報告書の対象とする企業に対し、債券または株式を有しているか否か、リサーチ報告書で推薦の対象とされた企業が、その1年内にブローカーまたはディーラーの顧客であったか否かといった事実を、SEC 規則に従って開示しなければならない。

 

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(筆者注1) 本ブログを書いている間にも、わが国のインサイダー取引事件が発覚した。2007年3月9日に証券取引等監視委員会は総理大臣および金融庁に対し小松製作所に関する証券取引法175条7項、1項に基づく課徴金(4,378万円)納付命令勧告を行った。

(筆者注2)マイケル・ガルシア・ニューヨーク南部地区連邦地方検察庁検事(MICHAEL J. GARCIA: United States Attorney for the Southern District of New York)の記者会見ビデオ(MSNBC)は、次のURLで見れる。この記者会見で同長官は後方に今回の容疑者の関係図を示しながら説明している。関係図は残念ながらこの画面でしか見れない。なおこのビデオの前に宣伝が入るが我慢して欲しい。http://www.msnbc.msn.com/id/17401254/

(筆者注3)平成18年5月に施行されたわが国の「新会社法」では有限会社が廃止され、新たに日本版LLC(合同会社:Limited Liability Company)制度が認められた。LLCの特徴は社員(出資者)が経営に参加しながら(人的会社)、会社の債務に対する責任は出資額が限度(有限責任)である点や内部組織や定款を自由に定めることができる。合同会社に関する規定は、合同会社固有のものとしてではなく、会社法上は「持分会社」というタイトルの下で、合名会社・合資会社と共通するものとして規定された。すなわち、合名会社・合資会社・合同会社の3種の会社は、その社員が有する会社に対する割合的地位のことを「持分」とし、内部関係において組合的規律がなされる点で共通する。そこで、会社法では、それら3種の会社をまとめて「持分会社」と称し(会社法575条1項)、会社法第三編で「持分会社」という独立の編を設けて規定がなされた。つまり、合名会社、合資会社および合同会社において、共通に適用すべき規律については、同一の規定が適用される(会社法575条~675条)。それらの会社形態のうち各会社のみに適用される内容については、特則という形で会社形態が明示されて規定される。

 なお、LLCに類似した経営形態にLLP(有限責任事業組合:Limited Liability Partnership)がある。LLPはLLCのように会社ではなく組合であり根拠法も「有限責任事業組合契約に関する法律」である。その最大の特徴は税金が組織に対して課されるのでなく出資者に対して課税される点である(構成員課税、出資者の事業所得との損益通算が可)

(筆者注4)被告David A. Glassはディ・トレーダー会社(Jasper Catital LLC)のオーナーである。会社の証券を1日のうちに売ったり買ったりして、目先の値ザヤ稼ぎをすることを「日計り商い」(day trading)というが、「ディ・トレーダー」とは、この日計り商いを行う投資家のことで、それら顧客向け商売にしているのが「ディ・トレーダー会社」ある。1990年代後半、アメリカではインターネットに開設された証券会社のホームページを通じて、低コストで取引をする個人投資家のディ・トレーダーが急増した。インターネットをはじめとするハイテクのおかげで、個人投資家がこの取引に参入しやすくなったが、損失を被る被害者も増加し、それが問題となっている。(スペースアルクより引用、一部変更)

(筆者注5)本事件についてワシントンポストやニューヨークタイムズ、フィナンシアルタイムズその他多くの世界のメディア(もとはAP、AFP通信等)が取り上げたのに拘らず、わが国のメディアでこの件を取り上げたのは朝日新聞(3月3日付)のみである。日頃海外情報に熱心な日本経済新聞といった専門紙はどうなったのか。

(筆者注6)これだけの大規模インサイダー事件となると裁判管轄も各州にまたがる。証券詐欺等容疑等に基づき最高25年の禁錮刑が科せられる主犯格のミシェル・グッテンバーグ(Michel S.Gutteberg )は無罪を主張しニューヨーク連邦地裁で50万ドルの保釈金、弁護士のランディ・コラータ(Randi Collotta)とクリス・コラータ(Chris Collotta)は無罪を主張し25万ドルの保釈金で釈放されている。デビッド・タヴィ(David S.Tavdy )はマイアミの連邦地裁に出廷予定とされている。エリック・R フランクリン(Erik R. Franklin )やその他の容疑者はいずれも釈放されている。

(筆者注7)米国の証券ブローカー・ディーラーの資格に関する登録制度等について簡単に見ておく。主たる証券取引の責任者は取引所法および全米証券業協会(NASD)規則に従いブローカー・ディーラーを運営する知識および経験を有していることについて、全米証券業協会の条件を満たす必要があり、また、SECに登録されているブローカー・ディーラーは、原則として取引を行っている証券の販売もしくは買付のための募集を行っている各州において登録を行わなければならない。さらに、各州や地域(provincial)の監督機関は、北米証券行政協会(North American Securities Administration Association:NASAA)のもとで一元的に管理され、証券取引業を営んでいるブローカー・ディーラーの従業員が、販売代理人として登録されることを要求するとともに、証券取引所法の15条(b)項に基づき登録され米国内で事業を行うブローカー・ディーラーは、証券投資家保護公社(Securities Investor Protection Corporation:SIPC)に加盟することが要求されている。

 SECは、証券関連法違反、とりわけ相場操縦、詐欺、マネー・ローンダリング、インサイダー取引、または横領を含む重大な違反がある場合には、ブローカー・ディーラーに対し、中止および停止命令または一時的ないし恒久的な差止命令の措置を取ることができる。また、SECからブローカー・ディーラーの監視権限の委託を受けている全米証券業協会(NASD)は、ブローカー・ディーラーが所定の資本要件を充足しなくなった場合や、全米証券業協会の規定に違反した場合、ブローカー・ディーラーの会員資格を取消すことができる。

(筆者注8)野村総研のレポート「変貌したアメリカのリテール証券市場(上)」(2005年11月)が参考になる。http://www.nri.co.jp/opinion/chitekishisan/2005/pdf/cs20051102.pdf

(筆者注9)取引所外で私設取引を行うトレーダーとは、クライアントを拠点とするビジネスに関して働くのではなく投資銀行の自己資金(自己勘定部門の資金)を運用するトレーダーのこと。そのようなトレーダーは、さまざまな資産における市場取引きにおいて、広範囲な戦略(技術的分析手法や統計的手法を含む)を利用する。なお、最近では、私設取引システム(Proprietary Trading System またはPTS)といった取引所外の新たな取引方法の導入等により、有価証券の売買の場が拡大してきている。

〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

(筆者注10) 全米証券業協会(National Association Of Securities Dealers:NASD) とニューヨーク証券取引所(NYSE)が合併し、2007年7月30日に新たに金融取引業規制機構(Financial Industry Regulatory Authority :FINRA)が発足した。この件については星野英二ブログ(2011年1月22日)(注4)で概要を説明しておいた。

(筆者注11)米国のヘッジファンド規制(設定、運用、販売)についての法制度面の解説はSECサイトより金融庁の解説(平成17年2月「ヘッジファンド調査の概要とヘッジファンドをめぐる論点」)の方が分かりやすいので以下引用する(SECの投資管理部サイトの最新情報を含め一部加筆、補足した)。以下の関係法の詳細を検索しようとするとSECサイトから「シンシナティ大学のサイト」に行き着く。米国らしい。

(1)ヘッジファンドの「設定」に関する法規制
 1934年証券取引所法(Securities Exchange Act of 1934)において、国法証券取引所上場会社のみならず、発行済証券の保有者が名簿上500人以上で、かつ100万ドル超の資産を有する証券発行者は、その発行する証券をSECに登録しなければならない。証券を登録した発行者には、継続開示義務(年次・四半期報告書等)、大量保有報告義務(5%超保有報告)および短期売買報告義務(10%超保有するファンド内部者の取引報告)が課せられている。なお、多くのヘッジファンドは、発行済証券の保有者が500人未満であることから、本登録を免除されている。
 また、1940年投資会社法(Investment Company Act of 1940)は、原則、すべての投資会社のSECへの登録、投資会社およびその関係者に対する行為規制、SECによる制裁等を規定している。ただし、証券の実質所有者が100人以下で、かつ公募を行っていない証券発行者は、本法上の投資会社とはみなされない。多くのヘッジファンドはこの規定により、SECによる規制が免除されている。なお、多くのヘッジファンドは、適格購入者を無制限に受け入れていることから、SECによる規制が免除されている。
 
(2) ヘッジファンドの「運用」に関する法規制
 SECは、2004年10月に1940年投資顧問法(Investment Advisors Act of 1940)を改正し、投資顧問の登録義務を強化する新ルールを追加するとともに、関連規則の一部改正を行った。
 本改正法は2005年2月10日に施行、登録義務の開始は2006年2月1日からとなっている。
A. 登録の対象
 米国に本部を置き、営業を行う投資顧問48のうち、①米国内に15人以上の顧客を有し、②2,500万ドル以上の資産運用を行う者は、投資顧問業者としてSECに登録する義務が生じる。米国に本部を置かないオフショア投資顧問も、米国に15人以上顧客を有する場合は、運用資産額に関係なくSECに登録する義務が生じる。なお、従前、直近12か月間の顧客が15人未満であることなど一定の要件を満たす投資顧問業者は、SECへの登録義務が免除されていたが、法改正により、顧客数の計算方法が変更となり、ヘッジファンドに投資している投資家の数も顧客の数に算入されることとなり、多くのヘッジファンドの投資顧問が規制の対象となった。

B. 開示義務
 投資顧問業者は、投資顧問業者登録様式により、ヘッジファンドの数・運用資産総額・従業員の数・顧客の種別等を含む情報をSECに登録しなければならない。また、登録された情報は投資家に開示される。投資顧問は、顧客利益に奉仕する旨書面で約し、その方針・手続に関する情報を顧客に開示する必要がある。また、業務方法・処分歴・財政状況等を含む書面の開示も必要となる。

C. 法令遵守(コンプライアンス)関連義務
 登録投資顧問業者は、SECによる定期的な検査や法令遵守に関する方針・手続を書面で採用し、毎年見直すとともに、それを管理する最高コンプライアンス責任者を任命しなければならない。また、職員の行動基準等を含む倫理規範を作成しなければならない。

D.その他の義務
 その他の義務として、成功報酬を徴収する投資家を、最低150万ドルの純資産か75万ドルの預入資産を有する者に限定、顧客資産の維持・管理、業務に関する帳簿・記録の5年間の保存が課される。

(3)ヘッジファンドの「販売」に関する法規制
 1933年証券法(Securities Act of 1933)は、原則すべての公募証券をSECに登録することおよび勧誘に当たり投資家に目論見書を交付すること等を義務付けている。
ただし、これらの義務は、①私募の場合ならびに②適格投資家に対して募集を行う場合および③募集の額が少額である場合には適用除外となることから、多くのヘッジファンドは当該規定の適用を受けているようである。ただ、適格投資家への販売除外規定および少額免除を利用したヘッジファンドを投資家に勧誘する際には、新聞・雑誌・手紙・テレビ・ラジオ放送等を利用した不特定多数への勧誘が禁止されるほか、購入者が当該証券を転売しないよう、証券発行者は必要な措置を講じなければならない。

(筆者注12)SECの「公平情報開示およびインサイダー取引の規制に関する最終規則」についての解説は、一般的に読めるものとしては平松那須加「知的資産創造」2001年9月号24頁以下が上げられる。特に証券アナリストを介した内部情報の入手事件として有名な1983年7月1日連邦最高裁「DIRKS v. SEC事件(463 U.S.646)」におけるインサイダー取引規制(証券取引所法、SEC規則違反)の適用制約を回避することが同規則制定の背景にある点の解説が参考となろう。

 ただし、同稿は米国におけるインサイダー取引規制の経緯については十分言及していない。その点についてはやや古くなるが、1998年9月ケンブリッジ大学で開かれた第16回「国際経済犯罪シンポジューム」においてSECの法執行部次長トーマス・ニューキーク氏(Thomas C. Newkirk)が歴史的な流れについて分かりやすく解説している。また、同氏が言及している「EUにおけるインサイダー取引および市場操作に関するEU指令(2003/6/EC)」(2004年4月12施行、2004/72/EC指令で改正済)についてはEUの公式サイトで確認できる。
 また、家田崇「アメリカ証券流通市場における選択的情報開示および内部者取引の新規則(1)(2)」(甲南大学会計大学院)もよりSEC規則の内容について詳しい。
http://www.nucba.ac.jp/cic/pdf/njeis462/03IEDA.PDF

(筆者注13)国立国会図書館「外国の立法215(2003.2)」88頁以下から 引用した。

〔参照URL〕
SEC: http://www.sec.gov/news/press/2007/2007-28.htm
ニューヨークタイムズ:http://www.nytimes.com/2007/03/02/business/02inside.1.html?ex=1330491600&en=b8f2c508e96155e3&ei=5088&partner=rssnyt&emc=rss
ワシントンポスト:http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/03/01/AR2007030100853.html
フィナンシャルタイムズ:
http://www.ft.com/cms/s/84f0e2ba-c81f-11db-b0dc-000b5df10621.html

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米国FRBがクレジットカード利用者保護強化に係る改正レギュレーションZの最終段階案を公募(その1)

2010-03-06 15:52:46 | 金融機関等の法令遵守



 米国の金融監督金機関かつ中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、3月3日に法外な遅延利息や罰則的手数料からのユーザー保護ならびに適用金利の再考を求める「レギュレーションZ(「貸付真実法(Truth lending Act)」の適用規則)」の改正案を公開し、ひろく意見を公募した。

 今回の「レギュレーションZ」の改正は2009年5月22日に成立し、2010年2月22日に大部分が施行された(残りは8月22日施行) 「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Accountability Responsibility and Disclosure Act of 2009)H.R.627(以下、“Credit Card Act”という)」 (筆者注1)を受けた2009年7月、2010年1月に続く同規則改正の第三段階に当たるものである。

 筆者は、米国のクレジットカード利用方法の詳細や貸手の規制強化に関する2008年12月の4つのレギュレーション改正の動向について、2009年5月5日付けの本ブログ「米国FRB,OTS等によるクレジットカード規制の厳格化等に係るレギュレーション等の改正」で言及した。

 しかし、同時点のレギュレーションZは“Credit Card Act”法が成立する以前の状況下で策定されたものであり(施行時期は4規則とも2010年7月1日)、同法に基づき新たなカード発行者の義務が多数追加された。

 筆者は、同ブログ執筆時点では同法(H.R.627)が2009年末以降具体化している米国の金融監督制度改革(消費者金融保護庁(CFPA)の新設等)の一環であることまでは理解していなかった。そのため法律の具体的内容についてはほとんど言及しておらず、またわが国の同法に関する金融機関系のシンクタンクのレポートを読んでも今一ポイント・問題点が理解できなかった (筆者注2)(連邦議会調査局の「法案summary」は詳細すぎて使えない)。

 これは米国のシンクタンクのレポートでも同様であり、筆者なりに調べた結果、ホワイトハウスの解説が最も具体的で法案に忠実であったことから、その概要および今回FRBが公開した規則改正案を含む3つの「レギュレーションZ」の改正内容をまとめて解説する。

 なお、同法の最も重要な施行内容が集中する第二段階である2月22日付けの連邦議会下院「金融サービス委員会」フランク委員長の声明が筆者宛に届いた。その中でJPモルガン・チェース・アンド・カンパニーのCredit Card Actによりどのような点が変わるのか顧客宛に送付した「お客様ニュース」の紹介や本文2.で述べるFRBの解説サイトのリンクが行われている。

1.米国の「2009年クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法(Credit Card Act)」の背景とその内容
(1) 制定の背景
 わが国のシンクタンクの解析では「従来、米国の金融機関はリスクの変化に応じてクレジットカードの返済金利を柔軟に変更してきた。例えば、返済金利をいつでも変更できるとしているカードは93%に上る(Pew Charitable Trust調査)。景気後退下の現在も、クレジットカードに対する融資姿勢が大幅に厳格化するなかで、延滞など顧客に非がある場合に加えて、不動産不況が深刻な地域に住んでいる、借入残高が高水準である、などの理由から金利が引き上げられるケースが多発。」とする。(筆者注3)

(2)“Credit Card Act”の主な立法事項
A.不公正な金利引上げの禁止
①遡及効を持った金利引上げの禁止(Bans Retroactive Rate increases)
 「いつでもいかなる理由でも(any time,any reason)」や「一般的債務不履行条項(universal default)」(筆者注4)を理由とする既存口座の金利の引上げや支払い遅延に基づく遡及効を有する引上げは極めて限定する。

②カード口座開設初年度の優遇金利の6か月以上の適用(First Year Protection)
 カードの契約条件は明確に記載・説明されかつ初年度中において安定的に遵守されねばならない。発行会社は新規口座や既存口座につき優遇金利を継続して申出ることができるが、この適用金利は明確に開示されかつ最低6か月間は継続して適用しなければならない。
 
B.不公正な手数料体系の罠の禁止(Bans Unfair Fee Traps)
①支払期限の罠にもとづく遅延手数料徴求の禁止(Ends Late Fee Traps)
 発行者は毎月のカード代金の支払につき郵送時期から暦日で最低21日の支払の準備期間を消費者に与えなければならない。また、“Credit Card Act”は週末、毎月変更するものやさらに昼の時刻を支払期限とする遅延手数料規定を禁止する。

②公正な利息計算の強制(Enforces Fair Interest Calculation)
 発行者は消費者が当然期待するように初めに最も高い金利の口座残高を支払いに適用することになる。“Credit Card Act”は発行者が当月の利息計算につき前月の残高を使用する不公正な慣行(double-cycle billing)を止めさせるものである。

③利用限度手数料の設定につき消費者の事前同意を義務化(Requires Opt-in to Over-Limit Fees)
 この結果、消費者は発行者が予め口座の限度額設定時に本人の許可を得ることから限度額超過によりペナルティ手数料が課さることを避けることがより容易に理解出来ることになる。

④不公平なサブプライム連動・限度額が低いクレジットカード手数料の限定(Restrains Unfair Sub-Prime Fees)

⑤ギフトカードやプリペイドカード(stored value cards)の手数料の制限
“Credit Card Act”はギフトカードやプリペイドカードの手数料についての開示と12か月の間休眠でない限り当該休眠手数料の徴求を制限する。

⑥契約条件の見易さ、理解しやすさ、平易な言語の使用義務化(Plain Sight/Plain language Disclosures)

⑦発行者への消費者が融資決定を行うにあたり必要な正しい情報開示が義務化
・発行者は消費者が最低支払額で支払い続けたとした場合、現在の既存の口座残高で支払完了までに要する「期間」および「金利コスト総額」の表示を毎月の請求通知で行わねばならない。また発行者は、30か月間で既存の残高での総支払額および利息額を表示しなければならない。

C.発行者および監督機関による説明責任(Accountability)と責務
 “Credit Card Act”は、発行者および不公正な取引慣行を阻止しかつ消費者保護責任監督機関に対し説明責任を保証させるべく支援する。
①クレジットカード契約に関する一般的な公開
 従来のクレジットカード契約は紙媒体でのみ交付されまた平易な用語では書かれていない。今後、発行人はインターネットでの利用可能な形式で契約が作成が義務化される。

②監督機関は、毎年議会に対しクレジットカードの実施状況等につき報告が義務化される。

D.カード発行者に対する罰則の強化(increases penalties)
 カード発行者は従来の法立が違反の予防であったのに対し、これらの法に定める義務違反を行った場合は極めて重い罰則が科されることになる。

2.「レギュレーションZ」の改正段階別策定状況
 各段階別に改正内容と施行時期についてまとめておく。(筆者注5)
 なお、FRBは2010年2月22日から施行する新レギュレーションにつきクレジットカードの消費者向けに基づき具体例で解説するサイトWhat you need to know :New Credit Card Rules」を開設した。中央銀行が消費者向けにここまで具体的かつ平易な解説を行うことは欧米でも珍しいような気がする一方で消費者保護の難しさを感じた。少なくとも参考になるサイトといえよう。

(1)第一段階
 2009年7月15日に暫定最終規則(interim final rule)を公布、2009年8月20日施行した。FRBのリリースによると三段階でレギュレーションZの改正を行うことも明記している。今回の改正主目的は、カード発行者に対しカード保有者に対しクレジットカード口座の金利引き上げや口座の利用条件について重要な変更通知の早期化を求め、あわせて実際条件更実施前の消費者の拒否権を明記したものである。具体的な規定内容は次のとおりである。

①発行者は、クレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更を行うときは、書面によりその実施の45日前に消費者に通知しなければならない。

②発行者は、①の通知においてクレジットカード口座の金利(APR)の引上げおよび利用条件の重要な変更に基づく消費者のカード口座の取消権について通知しなければならない。
 消費者が取消を行うときは、一般的に発行者は金利引上げや条件変更を行うことが禁止される。

③発行者は、一般的に支払期限の21日前までにクレジットカードや一定額限度内での返済型クレジット(open-end consumer credit accounts) (筆者注6)について周期的な通知を郵送または交付しなければならない。

(2)第二段階
 2010年1月最終規則が公布、2010年2月22日施行した。具体的な規定内容は次のとおりである。

①一般的にカード利用口座開設の初年度の予期せぬカード金利の引上げや既存カード残高に応じた予期せぬ金利の引上げから消費者を保護する。

②21歳以下の若者に対するカード口座開設は、本人に必要な支払能力があるとき、または支払につき親や連帯保証人(cosigner)の署名があるとき以外は禁止する。

③発行者に対しクレジット限度額を超えた取引に対する手数料を課す場合は、消費者の同意を得ることを義務化する。

サブプライム・クレジットカード(subprime credit cards)に関連する高額手数料の適用を制限する。

⑤発行者が金利を課すにあたり、”two-cycle billing method” (筆者注7)の使用を禁止する。

⑥発行者に対し最高金利の配分適用による支払いを禁止する。

(3)第三段階
 2010年3月3日、修正規則案が公開され、2010年8月22日施行予定。具体的な規定内容は次のとおりである。
①カード発行者は消費者に対し返済遅延手数料や限度額超過手数料を含むペナルティ手数料を課す場合、消費者の口座利用条件違反の場合に課すべき金額を越えた金額を課すことを禁じる。例えばカード発行者は今後、支払遅延の場合の最低ペナルティ金額が20ドルの時に39ドルのペナルティを請求することは出来なくなる。

②消費者が口座により新しい買物を不履行の場合いわゆる睡眠口座に対する手数料の課金を禁ずる。

③発行者が支払い遅延または口座の利用条件違反に基づき複数のペナルティ手数料を課すことを禁ずる。

④発行者に金利改定の理由につき消費者に通知することを義務付ける。

⑤発行者に2009年1月1日以降金利引上げ変更の理由の再検証を行うよう求め、仮に適正である場合でも金利の引下げについても検討するよう求める。

**********************************************************************************
(筆者注1) Credit Card Actの立法目的は法案(H.R.627)の前文にあるとおり” To amend the Truth in Lending Act to establish fair and transparent practices relating to the extension of credit under an open end consumer credit plan, and for other purposes.”
である。

(筆者注2) わが国の代表的な金融機関系シンクタンクのCredit Card Actの解説でも、「①正当な理由なくクレジット金利を引き上げることの禁止、②金利や手数料引き上げは45 日前までに通知、③新規発行時の勧誘金利の6 か月間維持、④請求書送付は支払期限の21 日前(従来は14 日前)などの措置が盛り込まれている。」程度である。

(筆者注3) 当時の大和住銀投資顧問のエコノミストである大中道 康浩氏は次のとおり指摘し、米国のクレジットカード業界の貸し渋りと個人消費の低迷が続くとの見通しを述べている。
 「カード会社や商業銀行はリテール戦略の重要な柱としてカード事業を位置づけており、きめ細かな与信管理、金利設定、手数料徴求などを通じて大きな収益を上げている。滞りなく返済する消費者に対しては、与信枠を増やしたり、金利を引き下げるなどして一段の利用を促す一方で、延滞した消費者には与信額を即座に減額し、金利を引き上げたりしてきた。
 規制強化により、こうしたきめの細かい与信管理ができなくなる。2009年5 月の法案成立後、カード会社は先を見越してリボルビング金利の引き上げ、請求書送付への課金、クレジット未利用者に対する休眠手数料の設定などを行い、延滞などの事故を起した先については口座の強制解約やクレジット限度額の引き下げといった対応を行ってきた。」
 なお、大中道氏は法律の正式名を「クレジット・カード責任・責務及び開示法」と訳されている。この点について“accountability”は「説明責任」と訳すべきであり、内閣府のサイトも「説明責任」と訳している。さらに言えば意訳になるが本文のとおり「クレジットカード発行者の説明責任、責務および開示法」とすべきであろう。

 また、日本総研リサーチ・アイ岩崎氏「米国でクレジットカード業界への規制強化法が成立~個人消費回復の抑制要因に~」も同様な指摘を行っている。

(筆者注4) “universal default”とは、クレジットカード約款に書かれていて、多くのクレジットカードで採用されている「一般的債務不履行条項」である。カード会社は顧客の信用を定期的にチェックし、顧客の信用度やリスクをめぐる環境が変化したら、カード会社は適用する金利を引き上げられるという条項。支払い遅延とか、限度額超過、債務超過、信用供与の過享受、複数会社を同時に過剰に利用といった顧客の行為が該当する。

(筆者注5) FRBの規則策定や改正の経緯は専用サイトで確認できる。

(筆者注6) 米国金融機関が扱う“open-end credit consumer credit”とは、「銀行、貯蓄貸付組合やその他の他の貸し手によって消費者に提供された融資限度額内で回転させる消費者信用を言う。 融資限度額は一定の限度額内で設定されると、消費者は限度額内でクレジットカード、小切手またはキャシングを使用することができる。 購買やキャシングするときはいつも、与信額は消費者に代り拡大される。 消費者は毎月全体の債務残高を全部支払って利息に負担を避けることができるし、または、未払い残高に生じた利息のみの支払を行うこともできる」ものである。

(筆者注7)  “two-cycle billing method”とは、「通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、“Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。」(本ブログ参照)

[参照URL]
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20100303a1.pdf(レギュレーションZ:改正第三段階の原本)
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/20100303a.htm(レギュレーションZ:改正第二段階の原本)
http://edocket.access.gpo.gov/2009/pdf/E9-17195.pdf(レギュレーションZ:改正第一段階の改正案の原本)
http://www.govtrack.us/congress/billtext.xpd?bill=h111-627(Credit Card Actの原本)

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 




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米国やEU加盟国における銀行上級役員や職員の高額報酬問題の現状と課題(NO.2完)

2009-09-12 16:41:13 | 金融機関等の法令遵守

2.EU委員会の高度専門家グループ(ラロズィール・グループ:議長Jacques de Larosière)による立案政策や金融監督等の改善勧告報告書
 本報告書(全文)は4章全86頁からなるが、次のとおりの構成である(筆者注15)。わが国の政策立法者(policy maker)や金融関係者は、世界中の金融危機をめぐる日々のメデイア情報を悲壮感をもって単に眺めるのではなく、本報告書の持つ意義を改めて分析し、真の原因の探求と長期的観点に立った政策のありかた、見直し項目について早急に研究を進めることが、金融システム全体の安定化と底の見えない不況からより早い段階での脱出につながるのではないか。

第Ⅰ章 金融危機の原因(causes of the financial crisis)
(1)マクロ経済面の原因(例:過剰流動性、低金利―極めてルーズな金融政策―特に米国);大規模かつ世界的な不均衡の累積;リスクの過大または過小な価格付け(mispricing of risk)、レバレッジ金融機関(低い自己資産比率で巨額な資金を動かす金融機関)の大規模な増加)
(2)リスク管理(金融機関、監督機関、規制機関のリスク管理および透明性の欠如-影のバンキングシステムの集積、証券化(the originate to distribute model))およびほとんど理解不可能な複雑性を導いた。)
(3)信用格付け機関
仕組み商品(structured products)や主要な利益の対立に関する大規模な失敗
(4)企業統治
 弱い株主と企業管理の弱さ(間違った動機づけをもたらす役員報酬計画)
(5)規制・監督
 誤った景気循環誇張作用(Procyclicality)(筆者注16)
(以下略す)筆者注9を参照されたい。

3.スイス、オランダや英国における報酬問題と政府の姿勢
(1)スイス
 3月4日にスイス金融最大手のUBSは、4月15日の株主総会で現取締役会議長のピーター・クラー(Peter Kurer)は再任せず、スイス連邦政府の元財務相(元連邦議会議員)であるカスパル・フィリガー(Kaspar Villiger:68歳)が議長に就任する人事内定を発表した。EUのメデイアによると、UBSのトップ経営者は1週間ごとに変わるという不安定な経営を続けており、2月28日に前任CEOマルセル・ローナー(Marcel Rohner)が退任したばかりであり、さらにUBS自身、昨年来米国の連邦内国歳入庁(Internal Revenue Service:IRS)から約17,000人のUBSに口座を有する米国の富裕層の氏名の公表を刑事訴追のかたちで迫られており、同行は顧客名の公開は銀行秘密保護法違反と反論しつつも最終的には2009年2月18日に課税回避幇助(ほうじょ)の疑いを認め、7億8,000万ドル(約760億5,000万円)を米国政府に支払うことで合意するなど、多難な経営を問われている。
 このような状況下でUBSは2008年11月27日の臨時株主総会において、①既存の報酬体系の見直し(Review of existing compensation systems)(UBSグループは臨時株主総会に先立ち11月17日に役員報酬報告(Compensation Report-)—新報酬モデル(UBS’s New Compensation Model)-を公表している)、②報酬制度の変更(Changes to compensation programs)、③付与済インセンティブ・アワーズ(報奨報酬)の返還に関する事項(筆者注17) (Issue of repayment of previously granted incentive awards)を決定した。
 新報酬モデル(全15頁)の柱となる項目は、(1)UBSの報酬改定の主要要因(key facts)、(2)2008事業年度における可変的役員報酬(variable compensation for 2008)、(3)2009年度以降における報酬計画(compensation 2009 and beyond)、(4)UBSのコーポレート・ガバナンスと報酬ポリシー(corporate governance and compensation policy)である。以下、各項目の要旨のみ説明するが、その透明性の徹底性を理解するために、わが国の関係者による詳細な分析は必須と考える。
(1) UBSの報酬改定の主要要因
①2008事業年度について、UBSのトップ経営者にはボーナスは支給しない。取締役会議長(Chairman of the Board )、CEOおよびUBSグループ執行役員会のメンバーは固定基本給のみ受け取る。さらに全上級管理職(all members of the senior management)に対し2008年度は変額報酬部分を減額する。
②2009事業年度以降については、今回定めた新報酬モデルをトップ経営層に適用
する。新報酬モデルは次の3つの要素からなる。
1.固定基本給(A fixed base salary)
2.変額現金報酬(variable cash compensation)
3.変額株式付与報酬(variable equity compensation)
 変額現金報酬は、プラスボーナスまたはマイナスボーナスというシステムに基づき、最大年間変動現金報酬の3分の1は積極的な事業展開結果に従い事業年度末に支給される。また残りはボーナス計算上、第三者預託(escrow)により保持される。
同様の概念が株式付与報酬にも適用され、数年以上のUBSの積極的な業績に基づき支給される。当該株式数およびその価値はUBS株式の長期的価値の醸成と価格実績に依存する。支給された株式は、3年経過後のみ完全に確定し(vest)、トップ経営層はこれら株式をさらに長期に保有することが義務付けられる。会長およびUBSグループ執行役員会に関する2009年報酬モデルはすでに改定された。同様の報酬改定は以下の役員クラスやいわゆる「進んでリスクを取った特定の従業員(specific employees,the so-call “risk takers”)」に対し同様の方法で行なわれる。また、それ以外の従業員に関しては、変額報酬の現行システムは基本的には変わらない。
(2) 2008事業年度における可変的役員報酬
 会長およびUBSグループ執行役員12名のボーナスはない。非常勤役員等は2008年度に関しては引続き固定報酬を受け取るが、その半分は現金で残り半分の株式は4年間保有が固定され売却はできない。また、変額報酬の一般原則として、2008年度に関しては銀行の業績悪化を反映し減額する。2009年1月末までに年間の金融業績が確定したときは変額報酬の規模、組成およびその割当についてスイス連邦銀行委員会(Swiss Federal Banking Commission:SFBC)と協議のうえ決定することになる予定である。
 UBSは、マルセル・オスペル元会長など旧経営陣が受け取った役員報酬のうち約7,000万スイスフラン(約58億3,000万円)の返還を決定しており、またピーター・クラ-会長等現経営陣も2008年のボーナス返上を決定している(前記インセンテイブ・アワーズの返還)。
 
(2)オランダ
 オランダ銀行協会(加盟銀行数87)の諮問委員会が2009年4月7日に行った「信頼を回復するために(Restoring Trust)」と題する報告書への対応として作成したのが今回の「行動規範(Code Banken:Banking Code)」である。英国「フィナンシャル・タイムズ」が報じたところ行動規範の前書きの最後にもあるとおり、本規範(全16頁)は銀行協会が監督機関である財務省への強い配慮があり、また内容面でも本ブログで述べたとおり国際的な監督当局等の動向も十分に配慮したもので今後他国への影響も視野に入れた内容といえる。
 本ブログでは、その前書きの内容および目次からその主旨と全体構成を見る。
A.前書き
・行動規範はオランダ金融監督法(We op het financieel toezicht:Wft)に基づき銀行免許を持つ銀行のオランダ国内およびEU加盟国内の支店活動を含むすべての活動に適用する。銀行が金融グループの一部の場合や連結ベースの場合でも適用し、また本規範の諸原則は銀行グループの関係機関にもすべて適用する。
・2008年12月10日制定した「オランダ・コーポレートガバナンス規範(De  Nederlandse corporate governance code )」は加盟銀行に適用され、非加盟銀行に対しても任意ではあるが時として適用され、本規範もガバナンス規範の基本原則を取り込んでいる。特に本規範は取締役会、監査役会や銀行におけるリスク管理や監査に焦点を当てている。また規範は報酬(beloning)に関する基本原則を含むものである。
・行動規範は自らよって立つものではなく国内、欧州および国際法や規則、判例
法や規範すべてを視野に入れたものである。国内、欧州および国際事情、個々の銀行(銀行グループの場合はグループ)の活動や特性は本規範の適用時に考慮されなければならない。年次報告において各銀行は規範を適用また適用しなかった場合はその理由の全部または一部を含め説明を行わねばならず、またウェブ上でその報告を行わねばならない。
・リスク選考(riscobereidheid)は、銀行が目標の追求に向け合理的に予見できる量を参照せねばならない。
・金融商品承認手順(Product Goedkeuringsproces)は、特定の商品が銀行の支出とリスクにおいてあるいは顧客の利益に則して作成、配分されるよう参照されなければならない。この手順は注意義務とリスク管理において大規模な試験を包含するものである。
・本規範は2010年1月1日施行予定である。
・国際的な規範の導入や策定を状況に応じタイミングを見て、将来本規範の改定が必要となろう。
・本規範の遵守状況については、財務省と協議のうえ任命する独立監視委員会が毎年モニタリングする。

B.規範の目次
1.行動規範の遵守(NALEVING CODE)
2.監督委員会(RAAD VAN COMMISSARISSEN)
2.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
2.2 任務と活動方法(Taak en werkwijze)
3. 常務会(RAAD VAN BESTUUR)
3.1 メンバー構成と専門知識(Samenstelling en deskundigheid)
3.2任務と活動方法(Taak en werkwijze)
4. リスク管理(RISICOMANAGEMENT)
5.監査(AUDIT)
6.報酬方針(BELONINGSBELEID)
6.1 基本原則(Uitgangspunt)
6.2 統冶(Governance)
6.3 取締役会メンバーの報酬(Bestuurdersbeloning)
6.4 可変報酬(Variabele beloning)

(3)英国の主要金融機関の役員報酬の見直しの論議
A.破綻・国有化銀行のトップ経営者の報酬問題と政府・議会の論争
 英国の代表的な銀行の経営破たんの状況はわが国でも日々伝えられるが、ドイツやスイスの大銀行のトップであるCEO等がボーナス受給を放棄したのに比べ、ブラウン首相を始めとする政府の姿勢も必ずしも明確でなかった。筆者も昨年秋以降状況を主要メデイアによりフォローしていたが、議会の公聴会をはじめ閣内、労働組合会議など閣外の関係者を巻き込んだ論議が行われ、その間に大手金融機関はますます損失額が膨らむといった英国金融システム自体がマイナス・スパイラルに陥っていたことは間違いない。
 最近の話題では、3月20日付インデペンデント紙はでダーリング財務相が国有化が進んでいる金融機関のトップ経営者のボーナスや報酬にキャップをかけることを拒否したと報じている。同相は、19日の下院特別財務委員会(Treasury Select Committee)において議員(MP)に対し、政府は金融部門の過度な報酬支給に対し行動をとることを強く希望するが、一方でキャップによる規制は英国の税収入面でブラックホールを作ることになり「両刃」の手段と考えると述べている。すなわち、政府の所得税および国民保険の12%が伝統的に金融部門からの収入に依存しており、仮に役員報酬にキャップをかけるとしたら税収面で痛手を受けるし、また税金で尻拭いした金融機関の(bailed out banks)トップ経営者はより高い報酬を求めて海外の金融機関に移るであろうと証言している。
 他方で、同相は将来の報酬支給に対する要請のために報酬に関する強制規範を設けることにより、経営を失敗した銀行員(元RBSのCEOのフレッド・ゴッドウインに対する70万3000ポンド(約2,320万円)の報酬支給を含む)を活性化させることに対する国民の怒りに政府として応えることが不可欠であると述べている。なお姿勢が曖昧である。

B.金融サービス機構(FSA)が金融機関向け「報酬実施基準(remuneration code of practice)」を策定・施行
 FSAは2009年8月12日に銀行、住宅金融組合(building society)およびブローカーデーラーのための「報酬実施基準(Reforming remuneration practices in financial services)」公表し、その施行は2010年1月1日である。(筆者注18)英国のメディア情報等によると、次のような内容である。
・施行時期までに各機関は報酬基準の策定やリスク管理強化と調和のための適用および維持に関する手続・実施方法を定めなくてはならない。
・本基準は報酬方針の声明の作成を金融機関に義務付けるもので、「8原則」とその詳細なガイダンスからなる。FSAは近々金融機関の報酬委員会の委員長に関する文書を作成する予定である。
・本基準は賞与報酬の仕組みに関しては、当初FSAが公表した基準案に比べ詳細な記述はないが、8原則の中で上級行員(senior employees)や大きなリスクを扱う担当者(risk takers)に関する記述を置き、リスク管理を強化している。
・「8原則」は次の分野をカバーしている。
①報酬方針とそのメンバー(例えば報酬委員会(remuneration committee)、報酬方針声明)の役割
②報酬とリスク問題および法遵守の設定手順(Procedure for setting
remuneration and risk and compliance function)
③従業員の報酬に関するリスクと法遵守効果
④収益ベースの測定とリスク調整(Profit-based measurement and risk-
adjustment)
⑤長期業績測定(Long-term performance measurement)
⑥非財務面の業績測定基準(Non-financial performance metrics)
⑦長期的奨励計画の業績測定方法(Measurement of performance for long-term
incentive plans)
⑧報酬の仕組み

C.金融監督機関であるFSAの役職員の報酬問題
 FSAの副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しておりFSAの役職員の報酬問題は英国のメディア度も時々取り上げられている。
*********************************************************************************************************

(筆者注15)31の勧告を含め、本報告書の内容の重要点を理解するには、別途公表された要旨(18頁)を読むことをすすめる。

(筆者注16)「プロシクリカリティ(procyclicality)」とは金融機関の貸出を通じた信用膨張と信用収縮の景気循環への増幅効果をいう。2008年11月15日に米国ワシントンで開催されたG20金融サミットでの「金融・世界経済に関する首脳会合宣言」などで使用されてから一般的になった言葉と思っていたが、実は「景気悪化時には貸出の信用度が低下するので、バーゼルⅡの下では自己資本賦課が増加するため、金融機関の貸出姿勢が後退して景気の悪化を増幅する、という主張である。」と2004年11月に「新BIS 規制案の特徴と金融システムへの影響」において日本銀行信用機構局参事役 宮内 篤氏が紹介されている。

(筆者注17)「 付与済インセンティブ・アワーズ」という訳語はUBSの日本語サイトから直接引用した。日本の株主は、言葉の意味がほとんど理解できないであろうから、補足しておく。役員や従業員に対するインセンテイブ・アワーズとは、いわゆる報奨型報酬である。欧米の企業では株式関連報酬が一般的であり、代表的なものとしては、①ストック・オプション、②譲渡制限付株式、③パフォーマンス株式、④パフォーマンス・ユニット、⑤SAR(Stack Appreciation Rights:株価連動型報奨受給権)などがある。報酬に支払方法で区分すると①と⑤は値上がり利益型、②と③は株式の価値そのものが報酬となる、④は金額固定型である。

(筆者注18) FSAは2009年3月18日に経営リスクが集中する大銀行やブローカーデイーラーのほか連結自己資本価値(consolidated regulatory capital worth)が10億ポンド(約 1,490億円)または同価値が20億ポンド(約2,980億円)の国際金融グループの支店およびFSAが監督下におく金融機関や住宅金融組合向けの「報酬実施基準(案)」を公式に発表した。約45の金融機関が対象となるがFSAこの基準は報酬の絶対額を定めるものではないと述べている。

〔参照URL〕
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TreasuryAnnouncesNewRestrictionsOnExecutiveCompensation/
http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/pdf/statement_20090225_en.pdf
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/banking_and_finance/article5721401.ece?&EMC-Bltn=MLWE7A
http://www.ubs.com/3/e?pg=1&or=r&lo=t&qt=2008+compensation+ceo
http://www.nvb.nl/scrivo/asset.php?id=291492
http://www.fsa.gov.uk/pubs/policy/ps09_15.pdf

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米国やEU加盟国における銀行上級役員や職員の高額報酬問題の現状と課題

2009-09-12 16:18:00 | 金融機関等の法令遵守

【はじめに】
 去る9月9日にオランダ銀行協会が銀行上級役職員の固定給や賞与についてコンプライアンスを前提とする行動規範を策定した旨公表したとわが国のメデイアも報じた。筆者は実は2009年春にこの問題につきブログ原稿の下書きを作成していたが多忙のため棚上げになっていた。
 しかし、今回のオランダ銀行協会等の動きの背景にある金融先進国の動向はわが国の金融監督機関行政や金融機関としても無視しえない経営上重要な問題を含んでおり、そのためには正確な情報提供が不可欠と考え急遽取り纏めたものである。後日あらためて最新情報に基づきより詳細なレポートをまとめるつもりである。


【要旨】
 2009年2月5日付日本経済新聞は、米国オバマ大統領とガイトナー財務長官が資本注入など公的支援を受けている金融機関の経営者層の年間総報酬を50万ドル(約4,500万円)に制限する旨報道した。
 筆者の手元の資料に基づき正確に言うと、2月4日に連邦財務省およびホワイトハウスは金融危機のため政府から支援の内容により2つに区分した「役員報酬規制ガイドライン」(筆者注1)を発布した旨リリースしている。米国の「2008年緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008:EESA)」に基づく財務省を中心とする各種施策のうち、同省は2008年10月30日に不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program)下における資本注入プログラム(Capital Purchase Program) (筆者注2)の適用金融機関の経営責任を問うため役員報酬制限に関する連邦暫定最終規則(October Interim Final Rule:31 CFR Part 30)を公表した。さらに本年1月16日には、役員報酬に関する報告および記録に関する規定等を同規則に追加している。

 その後、AIGが連邦政府から総額約1,735億ドル(約16.7兆円)巨額の公的資金を投入、その見返りとして政府は同社の株式の8割を保有するという状況下でニューヨーク州のクオモ司法長官(Andrew M. Cuomo)が調査した結果、破綻原因を作った金融子会社の上級幹部等にボーナスを計1億6,500万ドル(約158億円)支給していた事実が明らかとなった。

 さらに銀行の役員報酬に関しガイトナー長官は2009年5月20日連邦議会の銀行委員会において証言「Statemnt by Timothy F. Geithoner U. S. Secetary of the Treasury before the Sanate Banking Committee May 20,2009」を行っている。

 同年6月10日財務省は「役員報酬およびコーポレートガバナンスに関するTARP暫定基準規則(Interrim Final Rule on TARP Standards for Compensation and Corporate Governance)」を公表した。

 わが国では欧米金融機関の役員報酬規則やガイドラインの詳しい内容はほとんど報じられていないが(筆者注3)、納税者(taxpayer)たる国民を納得させるには必須のものと言えよう。また、3月3日付けのウォールストリート・ジャーナルはバンク・オブ・アメリカが2009年1月1日にメリル・リンチの買収の直前にメリル幹部に現金や株式で約10億円以上のボーナスを受けとった上級役員が11人、約3億円以上が149人いると具体名をあげて報じている。(筆者注4)
 一方、米国以上に金融危機の深刻化が進んでいるEU主要国とりわけ英国やドイツ、オランダ、フランス、スイスの役員報酬問題はどうなっているのか。手元の資料で見る限り米国に比べ政府自体の姿勢も曖昧な点が気になっていたが、2月25日に欧州委員会は金融機関と市場の監督強化による金融危機の再来を防止するため、専門家グループによる31項目からなる勧告(recommendations)をとりまとめ公表した。同勧告は、(1)EU加盟27か国のための投資ファンドに関する共通ルールの策定、(2)株主保護およびEUの金融部門の危機管理システムの確立という観点に則し銀行員のボーナス支給額に上限(キャップ)を設けるといった内容が含まれている。
 さらに9月4日、5日にロンドンで開催された20か国国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が金融持株会社やグローバル金融グループ、金融機関の上級経営者、インベストメント・バンカーやトレーダー(筆者注5)に対する長期的視点に立った業績報酬といった報酬規制の国際的基準の必要性を共同声明に盛り込んだ。
 これと時期を同じくして9月9日にはING等金融大国であるオランダ銀行協会、財務省が銀行上級役員等の固定給や賞与について銀行免許に従い、オランダ国内だけでなく、EU加盟国等における具体的行動規制を盛り込んだ全役職員が遵守すべき行動規範(Banking Code)を公表した。(筆者注6)
 また、英国では個別金融機関の役員報酬問題から金融監督機関である金融サービス機構(FSA)(筆者注7)(筆者注8)の経営層や事務スタッフの報酬引上げ問題も話題となっている。
 わが国でも、地域金融機関等の経営悪化の状況は今後より具体的なかたちで問題視されるであろうが(3月13日に金融庁が公表した第二地銀3行に対する資本参加等)、国民の多くが生活の危機的状況下にあるなか、政府や監督機関はより透明な経営を実現すべくその機会を積極的に広げるべきであろう。(筆者注9) 
 今回のブログは、(1)米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要、(2)EU、スイス、オランダや英国の主要金融機関における役員やスタッフの報酬プログラムの具体的見直しの状況、および(3)各国政府の取組み姿勢等について最新資料に基づき解説する。

1.米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要
〔2月4日付財務省リリースの要旨〕
(1)2月4日、財務省は現在の金融危機の解決を目指して米国政府から公的支援を受けている金融機関の役員報酬に関する新たな規制ガイドラインを公表した。そこに盛り込まれた諸施策は、公的資金が不適切に個人の所得に向けられることなくわが国の金融システムを安定化させることにより経済全体を強化するという公益目的のみに向けられるよう設計されている。すなわち、これら諸施策は金融界のトップ経営者の報酬が密接に株主や金融機関の利益と調整されるだけでなく、公的支援の最終的スポンサーである納税者との調整を行うものである。
(2)本ガイドラインは「一般的に利用される資本入手プログラム(generally available capital access program)」と特に金融機関が必要とする場合の「例外的支援プログラム(exceptional assistance)」の2つに区分する。前者は金融機関が受け取る金額限度と納税者への特定の返還方法はすべて同一である。また、本プログラムの最終目標は、中小企業や家庭等への融資において重要な役割を果たす比較的小規模の地域銀行に資金を提供することで、経済回復に必要な信用供与の支援を金融システム全体に保障するものである。従来、政府が発表してきた金融安定化策資本注入計画(不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program:TARP )がその例である。
 一方、後者は標準的な支援以上のものを必要とする金融機関に対するものであり、同支援基準のもとで支援を受ける銀行は特に財務省との間で交渉結果を踏まえた協定を結ばなければならない。後者の例としてはAIG、バンクオブアメリカ、シティとの取引を含む。

Ⅰ.役員報酬規則の遵守とCEOによるその証明義務
 政府の支援を受ける全金融機関は、役員報酬規則の遵守を確実なものとしなければならない。いかなる形式であれ支援を受ける全金融機関のCEOは、法令、財務省、契約上の役員報酬を厳格に遵守していることについて毎年証明することが義務づけられる。さらに政府支援を求める金融機関の報酬決定委員会(compensation committee)は上級役員報酬の調整について過剰かつ不要なリスク負担を負わないよう説明した資料の提出が義務化される。

Ⅱ.役員報酬に関する今後(筆者注10)強制される条件
A.例外的資金支援を受ける金融機関の場合
①従来の規制プログラムは、支援を受けている金融機関における上級役員に対する譲渡制限付株式以外の総年間報酬が50万ドル以上の者に対し、税控除措置(tax deduction)(必要経費としての計上)を禁止している。改正ガイドラインは、同制限を発展的に撤廃し、譲渡制限株式(Restricted Stock)(筆者注11)以外(cashによる報酬)について50万ドル以下に制限するという内容である。具体的には次のような内容が新たに課される。

②上級役員への追加的支給は、如何なる場合でも譲渡制限株式によるものでなければならず、当該株式は、政府支援債務を完済した場合にのみ譲渡制限が解除される。例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員に対する50万ドルを超える報酬は、譲渡制限株式または他の類似の長期的奨励手段によらなければならない。譲渡制限株式を受取る上級役員は、政府に支援金を返済した後(この返済には、契約に基づく配当金の支払いを含み、当該配当金で納税者の現在価値が保証される)か、または一定の期間(金融機関が、どの程度返済義務を果たしているか、納税者の利益がどの程度保護されているか、また貸出・安定化の基準がどの程度満たされているか等について検討のうえで定められる一定の期間)が経過した後のみ現金化することができる。
 譲渡制限株式を利用することによって、例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員には、納税者にかかるコストを最小化するとともに、株主の長期的利益になるように努めようとする動機が働くことになろう。

③役員報酬の体系と戦略は、完全に情報開示されなければならず、また「法的拘束力のない投票権(“Say on pay” resolution)」に従うものとする。この“Say on pay”とは、経営者の報酬を株主総会の議案として株主の「賛否」を問うものである。 上級役員の報酬体系およびその報酬が健全なリスク管理と連動しているかについての合理性を説明した資料が、拘束力のない株主決議において承認されなければならないとするものである。ただし上記の通り、この決議は“advisory voting”つまり勧告的決議で可決したとしても経営者を法的に拘束しない(現在の制度には、株主の拘束力のない決定権条項はない)。(筆者注12)

④賭け的経営行為に関与した経営トップの役員について、ボーナスといった報酬を条件付で減らす「条件付回収条項(clawback provision)」(筆者注13)の制定を求める。例外的支援の下での現行の制度では、 上位5人の上級役員にしかボーナス条件付回収条項は適用されない。今後は、例外的資金支援を受けている金融機関は、ボーナスに関し条件付回収条項を設けなければならず、また、当該機関の財務情報や自分自身の成功報酬を計算する上で必要な数値実績につき不正確な情報を提供したと後日判明した場合には、上位5人以下の20名の上級役員からも回収するという条項を設けなければならない。

⑤上級役員についてのゴールデン・パラシュート(Golden Parachutes)の禁止拡大
 金融機関に例外的資金支援を認める現行制度は、解任に際し支払われる多額(平均年収の3年分)の割増退職金であるゴールデン・パラシュート(筆者注14)の受取りを、上位5人の上級役員について禁止しているが、それを上位10人の役員にまで拡大する。さらに、それ以下の25名の役員については、最低1年分の報酬を超える退職金を受け取ることを禁止する。

⑥金融機関の取締役会による特別に贅沢な支出の承認に関するポリシーを採択の義務化
 政府から例外的資金支援を受ける金融機関は、航空旅客サービス、オフィスや事務所の改修、娯楽、休日のパーティおよび会議やイベント等に関し、すべての全社的ポリシーを策定しなくてはならない。なお、このポリシーは、会社の通常の業務に関係する販売会議や職員の教育、報奨金等企業の通常の業務運営上に必要な合理的支出を対象としたものではない。
 こうした新しい規則は、これまでのガイドラインの規定範囲を超えるものであり、過度な支出や贅沢な支出と認められるものについては、CEOによる支出証明を求めることになる。また、金融機関は、ホームページ上でこれらの経費の支出に関するポリシーを公開しなければならない。

B.一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合
 財務省は、将来の一般的に利用可能な資本入手プログラムに関連して求められる役員報酬について、パブリックコメントに付すこと条件として以下のような「ガイダンス(案)」を提案する予定である。
①上級役員の年間総報酬は、完全かたちでの一般公開し(Full Public Disclosure)また株主の投票により承認された場合を除き50万ドルを上限とする。
 一般に利用可能な資本入手プログラムに参加する金融機関は、報酬内容の開示による50万ドルに加え譲渡制限株式の取得に関する規則につき、また要求された場合には、「法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)」に基づきその放棄をなしうる。
 将来の資本入手プログラムに参加するすべてに金融機関は、上級役員およびその他の従業員について過度のかつ不要な危険負担を行わないよう、報酬協定(compensation arrangements)の理由を見直し、かつ開示しなければならない。
 なお、現行の資本入手プログラムの下では、金融機関は上位5人の上級役員の報酬協定のみ過度かつ不要な危険負担を回避するための見直しや承認するのみでよかった。

②欺まん的不公正な慣行を行っているトップ経営者がいる場合のボーナスの「条件付回収条項」の適用
 例外的資金支援を受ける金融機関に適用される「条件付回収条項」は、一般的資本支援を受ける金融機関にも等しく適用される。資本買取プログラム(Capital Purchase Program)の下で上位5人の役員に適用されていた「条件付回収条項」はさらに奨励金の支払計算に使用する財務諸表(financial statements)や業績評価指標(performance metrics)に関し、故意に不正確な情報を流したと認められる場合は5人に続く上位20人の上級役員に対しても適用される。

③上級役員に対するゴールデン・パラシュートに基づく支給の禁止
 一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合においても、ゴールデン・パラシュートに基づく支給禁止は強化される。すなわち現行は解任時に3年分の年間報酬が認められているのに対し、今後は上位5人の上級役員に対し1年分の報酬額以上のゴールデン・パラシュートに基づく給付は認められなくなる。

④贅沢な支出に関する取締役会の承認ポリシーの採択
 本ポリシーは例外的資金支援を受ける金融機関向けのものであるが、同様のことが一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関にも適用される。現行の資本買取プログラムには贅沢な支出に関するガイドラインはまったく決められていない。

C.長期的観点に立った規制改革
 報酬戦略は適切なリスク管理、長期的価値および企業の成長と並ぶものでなければならない。そのためには次のステップを踏まなければならない。

①公的金融機関は自身の報酬決定委員会において健全なリスク管理のための戦略の見直しとその開示が求められる。
 財務省長官と証券取引員会委員長は、政府による支援を受けていない金融機関も含め、報酬決定委員会に対し、役員や一定以上クラスの従業員の関する報酬協定の見直しや開示について、健全なリスク管理の推進や自社および株主にとって長期的価値の創造との調和をいかに行うかにつき協調して取組なくてはならない。
②トップ経営者の報酬は長期的見通しを奨励するという観点が求められる。

 この10年間、金融機関のトップ経営者はますます株主や経済全体のために長期的経済的価値の創造を見通すことに努めてきたというコンセンサスがある。
 真剣に考慮すべき価値がある1つの考え方として、金融機関のトップ経営者は数年間株式を維持しさらに企業の長期的観点から経済的利益が得られると判断できるときに初めてそれを現金化すべきであるというものがある。

③役員報酬に関する法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)の行使
 金融面の回復支援を受ける金融機関を以上に、金融機関の所有者である株主はいかに報酬報奨的な構造がリスク管理を推進させるというのと同様の意味で、役員報酬のレベル設定および経済全体としての長期的な価値の創造の双方の視点から法的拘束力のない投票権を行使すべきである。

④ ホワイトハウスと連邦財務省による長期的役員報酬のあり方に関するカンファレンスの開催
 財務省長官は、役員報酬の改革問題につき、株主の擁護者、主な公的年金、機関投資家のリーダー、政策立案者、役員、学識経験者、その他を交えた会議のホストを務める予定である。また、金融機関の役員報酬に関し良き実践例やガイドラインの確立のためのモデル役員報酬発議に関する証言、コメントおよび白書を求める。

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(筆者注1)「経営者報酬ガイドライン」自体わが国ではなじみが薄い概念である。一方、わが国の銀行も含め経営の透明性の見る上で必須の要素であろう。その意味で本ブログの執筆中に見出した同ガイドラインに関する報告書「2007年度経営者報酬ガイドライン-報酬ガバナンスの確立を-」日本取締役協会(ディスクロージャー委員会)は海外と日本の役員報酬比較や動向も含め大変参考になった(内容から見て米国人材コンサルティング会社タワーズぺリンの寄与度が高いように感じられたが)。
 なお、2007年10月1日の第一版経営者報酬ガイドラインは2021.3.12現在で見ることはできない。現時点では「2016 年度 経営者報酬ガイドライン(第四版)――経営者報酬ガバナンスのいっそうの進展を―― 」のみが閲覧可である。

(筆者注2) 米国経済・金融の課題は毎日報道されているとおり、実際、行政における混乱の程度はかなりひどいといえる。従って、財務省等による「役員報酬規制」問題に特化して見ても、連邦規則の内容は刻々と変化しており、次のような経緯・内容を正確に理解しておく必要がある。
(1)2008年10月14日連邦財務省は2008年緊急経済安定化法(EESA)に基づくその支援適用金融機関が遵守すべき「役員報酬」および「コーポレート・ガバナンス」に関する次の3基準を「財務省通達」のかたちで公表した。
①不良資産競売プログラム(Troubled Asset Auction Program):EESAに基づき財務省に3億ドル(約290億円)以上で不良資産を競売する金融機関は、ゴールデン・パラシュート条項を含む新たな上級役員との雇用契約の締結を禁止する。(財務省通達2008-TAAP)
 さらに、EESA下で金融機関は50万ドル以上の役員の役員報酬の税控除措置(tax deduction)が禁止され、また一定のゴールデン・パラシュート報酬についても同措置を禁止、さらにゴールデン・パラシュート支給額に対し20%の消費税(excise tax)が課される。(内国歳入庁通達2008-94)
②資本買取プログラム:適用金融機関は、(ⅰ)金融機関自身の価値を脅かす不要かつ過度のリスクを行うことを上級役員に奨励するような報奨報酬を行わないこと、(ⅱ)後日実質的に不適切と判断された損益計算書等に基づく上級役員に支払われたボーナスや報奨の返還義務、(ⅲ)内国歳入庁規則に基づくゴールデン・パラシュート支給の禁止、(ⅳ)50万ドルを超える役員報酬の税額控除を行わない合意が求められる。
③業績悪化金融機関へのケースバイケースに応じたプログラム:前記②と同様であるが、ゴールデン・パラシュート支給に関してはより厳格な禁止規定が、設けられる予定である。
(2)2009年1月16日財務省は、役員報酬に関する報告および記録保存義務を追加した暫定最終規則を公表した。なお、財務省は役員報酬に関する連邦規則についてFAQを作成し公表している。
 今回の規則により金融機関のCEOは、毎年、事業年度終了後135日以内に今回の役員報酬基準を遵守しているかにつき認証を行うことが求められ、さらに買取対象金融機関と財務省の間で結ばれる証券買取契約の手続完了日後、120日以内にCEOは報酬決定委員会がリスク担当役員とともに上級役員報奨報酬契約において不要かつ過度のリスクを勧めていないことを保証すべく見直したことについて認証することが求められる。CEOは、これらの結果を毎年TARPの主席法遵守担当官(TARP Chief Compliance Officer)に報告しなければならない。
 また、当該金融機関はこれらの各認証後6年間実証結果の記録を保存するとともにTARPの主席法遵守担当官に当該記録を提供しなければならない。

(筆者注3)米国財務省のガイドラインについて、経済コラムニストの小笠原誠治氏が2009年2月5日のブログで翻訳されており、本ブログでも参考にさせていただいた。ただし、同氏のブログでは英国やドイツ等についての報告は行われていない。

(筆者注4)ニューヨーク州司法長官アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)は、今回のメリル幹部に対するボーナス支給が証券取引法違反に該当する点につき捜査を進めており、これに対しバンクオブアメリカ(BOA)は3月5日にマンハッタンのニューヨーク州最高裁判所に対しボーナス支給に関する元メリルリンチCEOジョン・セイン(John Thain)の内部通報に基づく証言について、その機密性に関する緊急機密性保護命令(temporary confidentiality order)を求めた。一方、同長官はこの申立を却下するよう同裁判所に申し立てている。

(筆者注5) “investment banker”とは「インベストメント・バンク」においてその主要業務につき各種ファイナンス、金融工学や運用技法および証券・法律・税等の知識・経験を用いた財務相談やM&A、法人・公的機関・資産家等に運用アドバイスを行う金融のプロを言う。「インベストメント・バンク」は「投資銀行」と訳されて「銀行」という言葉が入ってはいるが、個人向けの融資は行わない。“Investment Bank”という呼称は、個人などから預かった預金を元手に企業に融資を行う“ Commercial Bank”と区別するための用語である。商業銀行はその収益の大部分を主に企業に融資することにより発生する利息に依るのに対し、投資銀行の収益は株式や債券の資本市場における発行時に発行額に応じて徴収する手数料に依ることが特徴で、自らはバランスシート上に大きなアセットを有さないので「銀行」と訳されているが、むしろ「法人向け証券会社」にイメージが近い。主に、株式市場を通じた企業の資金調達や、M&Aコンサルティングを手がけている外資系の金融機関を指す言葉で、インベストメント・バンクには預金の受入れ等の商業銀行業務の兼業は、法的には認められていない。なお、日本にも、このような事業を営んでいる企業は数多く存在しており、その多くは証券会社が担っている。
 歴史的にみると1990年代には高度な金融工学技術を駆使して複雑な企業合併や巨額の資金調達アドバイスを行えるゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような米系投資銀行に対して、日本の大企業や政府系機関が相談するようになり、日本で「投資銀行」「インベストメント・バンク」などの名称が知られはじめた。その後、不良債権処理やM&A仲介、債権の証券化などを手がけながら存在感を強め、2000年代に入るとインベストメント・バンクは一般的に認知されるようになった。
 インベストメント・バンクの主要業務は、顧客企業に対する有価証券の発行による資本市場からのファイナンス、M&Aコンサルティング、財務分野では、各種保有資産の流動化による資金調達(不動産やローン債権の証券化等)、金利や為替等のデリバティブ(スワップやオプション取引等金融商品の価格変動リスクを回避し、低コストでの調達や高利回りの運用といった有利な条件を確保するために開発された取引)を用いた財務リスクヘッジなどがある。また、ノンリコースローンやプロジェクトファイナンス等の、企業やプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローに依拠した融資判断を行う先進的な融資も行っている。
 一方、インベストメント・バンクは、有価証券やデリバティブのトレーディング等も行う。投資顧問先やヘッジファンドなどのように、クライアント企業のために行うトレーディングや、自己勘定のために行うトレーディングがある。その責任担当者を”trader”と言う。
(SITE BANKのM&A辞典「インベストメント・バンク(Investment Bank)」解説から一部抜粋・追加。)

(筆者注6) オランダ銀行協会等が定めた規範の英文の原語は“Provisional Banking Code”である。わが国のメディアは行動規範と訳しているが正確には「倫理規範」の要素も含まれるといえよう。ちなみに世界的金融グループである“Deutche Bank”経営方針(日本語)を読んで欲しい。そこには倫理規範や行動方針の考えが明示されている。

(筆者注7)わが国では英国FSAは比較的多くの機会の紹介されている割には、その内容は正確でない。すなわち本文で述べたとおり、FSAの役員報酬がなぜ問題になるかはFSAの機能・組織論の理解なしには語れないのである。FSAは「2000年金融サービス市場法」に基づき設立された独立非政府機関たる保証有限責任会社(company limited by guarantee)である。「保証有限責任会社」とは営利を目的としない社団が法人格を取得する際に用いられる会社形態であり、Chairman(会長) が議長を務める取締役会があり、また業務執行の最高責任者CEOが置かれるなど民間事業会社と類似の組織を持つ。実際FSAサイトを見ると財務省が任命するFSAの取締役会のメンバーは会長(Adair, Lord Turner)、CEO(Hector Sants)、常務取締役3名(Sally Dewar、David Kenmir,Jon Pain)、非常勤役員(non-executive member)9名(Carolyn Fairbairn,Peter Fisher,Brian Flanagan,Karin Forseke,Sir John Gieve,Professor David Miles,Michael Slack,Hugh Stevenson,なお副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しており、現状は8名である)

(筆者注8) Sir James Crosbyの辞任報道に対する国民の関心は高い。彼は2008年9月18日にロイズ・TSBが買収した英国住宅金融最大手HBOSのCEOであった人物である。ガーデアン紙(電子版)、タイムズ・オンライン等によるとHBOSの世界的リスク管理部門長であったPaul Moore氏による内部通報に基づく議会下院特別委員会(select committee)の論議が辞任の引き金になったようであり、英国ゴードン・ブラウン政権はこのままでいくとますます混迷の度合いを深めていくようである。

(筆者注9) 最近時、わが国の金融機関においても役員退職慰労金を廃止し、株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の導入が行われ、各金融機関のホームページへも掲載されている。しかし、UBS等の例に見るとおり、欧米の企業ではさらにストック・オプションから譲渡制限付株式報酬への移行も行われ始めている。

(筆者注10) 前記小笠原誠治氏もブログ(追記)で指摘されているとおり、「将来の(going forward)」という用語は問題である。この規制ガイドラインは今後の新たに適用される金融機関への規制ルールであってAIG、バンクオブアメリカ、シティには適用されないと読める。それでは、今回の規制強化は世論を無視した骨抜き対策としか言いようがなかろう。

(筆者注11) “Restricted Stock(RS)”とは、譲渡制限期間付きの株式を付与する報酬プランである。RSを付与された役員や従業員は、譲渡制限期間中に配当を受け取ったり、議決権を行使することができる。ただし、譲渡制限期間が終了する前に退職するとRSの権利を失う。・・・・・RSは、一般に役職員の引留め効果が高いといわれる。ストック・オプションでは、権利確定時の株価が行使価格を上回らないと無価値になるのに対し、RSでは株価が下がってもゼロにならない限り報酬金額はゼロにならない。(野村総合研究所「資本市場クォータリー2004年冬」より引用)

(筆者注12) “Say on Pay”の意義は大和総研の吉川満氏や鈴木裕氏のレポートを参考にした。このような新語については必ずしも法的に見た適切な訳語がないことが一般的であり、レポート作成者はその辺を慎重に配慮した内容の精査が求められよう。また米国企業の動向で内容を精査することも大事である。例えばアップルは2009年4月28日付けで「アップル、Form 10-Qを修正」と題するリリースを行い、その中で「アップル取締役会の報酬委員会は、これまでSay on Pay問題の動向を注視してきましたが、近い将来、新しい法律または規則によって、すべての上場会社において何らかのSay on Pay投票が必要とされるようになるものと予想しています。また、仮にそうならない場合でも、アップルは来年度、Say on Pay 勧告的決議の導入をいたします。」と述べている。
 この点についてわが国のシンクタンクの解説例で見ると、みずほ総研『みずほ米州インサイト』2009年8月11日号西川珠子氏「米国における役員報酬規制強化~政府による金融支援対象企業から全上場企業に適用拡大へ~」2頁の“Say on Pay”の説明は「役員報酬に関する株主承認決議の義務付け」とのみで法的拘束力問題については言及していない。この新制度論議は十分米国内での議論されていないことも事実であるが、読者に正確なイメージを提供することが調査担当者としては必須であろう。特に西川氏のレポートはわが国では貴重なレポートだけに残念である(本注は筆者のこれまでの研究論文の査読経験から見た感想である)。

(筆者注13) “clawback provision”について、わが国では的確な訳語やまともな解説はほとんどない。筆者なりに解説を行っておくが、今回の金融危機を背景に欧米の金融機関における“clawback provision”の取組みや研究は進むであろう。
 “Clawback Provision” とは、 日本語にすると「条件付回収条項」であり、ボーナスの一部は「人質」として差し押さえられていて、将来、会社にとって不利になるような取引に手を染めたり、会社の風評に傷つけたり、業績悪化を招くような仕事をした場合は、人質になっているボーナスは没収されるという条項である。“clawback provision”に合意しないとボーナスは払って貰えなくなる。

(筆者注14)“Golden Parachutes”に関する人事・経営面の解説を読んだのは経団連経済本部経済政策グループ?の藤原清明氏の論文が専門外の筆者にとって大変参考になった。
 ただし原稿が未定稿と記されており気になって直接本人に照会したが、その後見直しは行っていないとのことであった。ここで補足すると、「ゴールデン・パラシュートとは、敵対的買収の標的にされた会社の経営陣が経営の座を譲り渡す代わりに多額(解任前の5年間の課税対象期間の平均年間報酬の3倍)の割増退職金を受け取る取り決めをさす。ハイジャックされた旅客機からパイロットだけが落下傘で脱出、そしてその落下傘は100ドル札を無数に貼って作られたものだった・・・。そんなイメージが浮かびやすい見事なネーミングである。」http://blog.livedoor.jp/blue_monday_777_3/archives/54860726.html他


〔参照URL〕

https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/tg139.aspx
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TreasuryAnnouncesNewRestrictionsOnExecutiveCompensation/
http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/pdf/statement_20090225_en.pdf
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/banking_and_finance/article5721401.ece?&EMC-Bltn=MLWE7A
http://www.ubs.com/3/e?pg=1&or=r&lo=t&qt=2008+compensation+ceo
http://www.nvb.nl/scrivo/asset.php?id=291492
http://www.fsa.gov.uk/pubs/policy/ps09_15.pdf

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米国FRB、OTS等によるクレジットカード規制の厳格化等に係るレギュレーション等の改正

2009-05-06 08:05:30 | 金融機関等の法令遵守

Last Updated: March 6,2021

〔前書き〕
 本ブログの原稿は、2008年12月20日に一部書き上げていた。しかし、仕事の関係で棚上げになっていたが、2009年4月30日に連邦議会下院でクレジットカード・ユーザー保護法案(HR 627)が通過、近々上院も通過する旨のニュースが入ってきた。

 約半年遅れでありニュース価値としてはいかがかと思うが、念のため同時期のブログを検索してみた。やはり米国のクレジットカードの金利に関する専門的なものは見当たらなかった。筆者はHR 627をめぐる原稿を書き始めていたが、FRB等のレギュレーションを正確に理解していないと今回の法案そのものの意義が理解できないであろうから、あらためて取りまとめることとした。

〔本文〕
 2008年12月18日に米国連邦準備制度理事会(FRB)、財務省貯蓄金融機関監督局(OTS)および信用組合管理庁(NCUA)は、「サブプライム・クレジットカード」等の被害拡大阻止や金利内容の表示等透明性確保について、クレジットカード利用者保護強化の観点から関係行政規則の最終案を承認、公表した(筆者注1)各最終案は連邦取引委員会法(Federal Trade Commission Act:FTC Act)に基づくもので、ほぼ同様の項目・内容である。したがって、今回はFRBの4つのレギュレーションについて規則改正の経緯および内容について説明する(4つのレギュレーションの施行日はいずれも2010年7月1日である)。 (筆者注2)(筆者注3)

 特に12月18日のFRBのプレス・リリースや最終案を丁寧に読むと理解いただけると思うが、消費者がいかに複雑な取引スキームを理解できるか、「消費者テスト」や「実証研究」の結果や顧客への各種通知文書様式やサンプルモデル例(連邦官報5426頁以下)を同時に公表している。関係規則(レギュレーション)の改正だけでないこのような実践的対応が、今後わが国の金融監督行政のあり方にも影響が出てくることを期待したい。

 また、これと時期を同じくして、12月19日付で連邦預金保険公社(FDIC)および連邦取引委員会(FTC)は今回取り上げた「サブプライム・クレジットカード」の取扱い業者である“CompuCredit Corporation(アトランタ本部)”、と他2行に対し、240万ドル(約2億3,520万円)の連邦財務省に支払う民事制裁金(civil money penalty))を含む1億1,400万ドル(111億7,200万円)(欺まん的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への資金返還による原状回復(restitution) (筆者注4)和解(settlement)した旨発表した(筆者注5)。この問題は2008年6月10日にFTCがCompuCredit Corporation(その100%子会社の債権回収会社を含む)、また連邦預金保険公社(FDIC)とが同社と他2銀行(“First Bank of Deraware(デラウエア本部)”および“First Bank & Trust(ブルッキング本部)”)を同時期に監督機関としての法執行行為を起こした結果である。米国流の「一罰百戒」主義の結果という見方もあろうが、与信金利のあり方をめぐり不動産融資(サブプライム・ローン)だけでなく、クレジットカードという消費者にとって極めて重要かつ日々の生活に影響する問題が放置されてきた米国の金融の実態が垣間見える。この問題についても併せて解説する。

 いずれにしても今回制定されたレギュレーションは、従来の米国のクレジットの業界ルール・常識を根本から変更する内容が含まれており、わが国の監督機関や関係業界においても十分かつ慎重な検討が必要となろう。

1.FRB等によるクレジットカード取引の不公正な実務や無理な口座貸越サービスから消費者を保護するための政策方針策定および行政規則改正案の提案
(1)FRB、OTSおよびNCUAによるレギュレーション(行政規則)改正案の公表およびパブリックコメントの徴求
 FRB、OTSおよびNCUAは2008年5月2日付で連邦取引委員会法5条(a)および同法18条(f)(1)に基づき、レギュレーションの改正案を発表した。その社会的背景については(筆者注2)に概要を述べたが、抜き差しならぬところに行き着く前に手を打つ考えが強く打ち出されていた。
 改正の対象となるレギュレーションはこの時点では次の「3つ」である。今回の改正の中心は“Regulation AA(12 CFR 227)(FTC Actが根拠法)”および“Regulation Z(12 CFR 226)(1968年貸付条件真実開示法( Truth in Lending Act of 1968)が根拠法)”で、“ Regulation DD(12 CFR 230)(the Truth in Saving Actが根拠法)”はその補完的な改正であり、また2008年12月の最終案ではRegulation E(12 CFR 205)(the Electronic Fund Transfer Actが根拠法)の改正案が追加され、連邦官報(Federal Register)発行後60日間のパブリックコメントに付されている。

(2)Regulation AA (不公正・欺瞞的な行為(unfair deceptive act)またはその実践(Practices))の禁止にかかる最終規則(2010年7月1日施行)
 その主な内容は次のとおりである。

(A)カードユーザーの支払にかかる時間的猶予提供の義務化(Time to Make Payments)
 金融機関が、ユーザーに支払準備のための合理的な時間を与えずして支払遅延扱いとすることを禁止する。

(B)異なる残高に適用される場合に高い利率の優先適用または比例配分適用の義務化(Allocation of payments)
 通常金利(APR)と異なる年利(APRs)が異なる残高に対し適用される場合(すなわち、キャッシング(cash advances)、買物(purchases)、別口座からの資金振替(balance transfers) (筆者注6))金融機関は次の3つのいずれかの方法によるかまたはユーザーにとって同様に有利な方法により最小支払額を越える金額を支払いに当てなくてはならない(従来のカード実務は最も低い金利を適用するのが通例であった)。
(i)初めに最高金利を全残高に対し適用する。
(ⅰ)各残高に対し同等額を支払に当てる。
(ⅱ)残高間において比例割合で支払に当てる。
 仮に、当該口座が営業推進的な金利割引残高または金利の支払が延期されていた場合、金融機関は一定の例外の場合を除き、まず初めに割引でないか延期されていない最小支払額を超える金額を支払に当てなければならない。

 金融機関は、割引金利または延期でない支払と言う理由のみでユーザーからの延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period)の申出を拒否してはならない。

(C)金融機関は、次の場合を除き口座開設時にすべての適用金利を開示しなければならず、未払残高に対するこれらの金利の引上げ変更は禁止される(Increasing Interest Rates)。
(ⅰ) 推進的優遇金利期間が満了した場合
(ⅱ) 金利変更がLIBOR等インデックスの運用(変動金利)に従った場合
(ⅲ) レギュレーションZが求める45日前の通知後のみで認められる新取引の場合
(ⅳ) 最小支払額を支払期限後30日以内に受領できなかった場合

(D)金融機関は、現行の通常の支払方法である1か月支払から2か月または3か月にまたがる期間に対しても前月の金利を適用する上乗せ支払すなわち2サイクル請求 (筆者注7)や3サイクル請求という支払い方法が禁止される(Two-cycle Billing or Three-cycle Billing)。

(E)最終規則は、サブプライム・クレジット・カード (筆者注8)といった高手数料と低貸出枠のカード・ビジネスに対する懸念を示している。金融機関は最初の12か月の費用請求額が最初に設定した信用枠の50%を超えるような口座開設手数料やメンバー会員手数料といった決済担保預金や高額手数料(Financing of Security Deposits and Fee) (筆者注9)を課すことが禁じられる。また、カードの信用枠に最初に設定した信用枠の25%~50%という決済担保預金や手数料を課すとともに追加的に少なくとも次の5回の請求時期の間に拡げるような要求は禁止される。

(3)Regulation Z(1968年貸付条件真実開示法の徹底)
 本規則はクレジットカード口座およびその他のリボルビング利用計画(自宅を担保としない)に関し効果的な情報開示が受けられるよう見直しを行うものである。

(A)申込と提案書文言(Applications and solicitations) G-10(B)
 最終規則は消費者にとってより意義がありかつ使い勝手が良いクレジットカードの申込や提案書の様式(シューマー・ボックス:Schumer Box)(筆者注10)や内容を定めるべく改正を行ったものである。
(ⅰ)様式の改訂(format revisions):新様式は金融機関に対し、文字の大きさ、重要事項の太字体表示、当該情報の表示箇所等に関する簡易表の準備を要求する。
(ⅱ)内容の改訂(content revisions):金融機関は罰則的金利が適用される場合、変動金利に関する簡易な開示内容および買物に関する支払猶予がどのような場合に認められまたは認められないかについて内容の改訂が義務付けられる。

(B)口座開設時に係る費用の開示(Account-opening disclosures)
 最終規則は、口座開設時の費用についてより目立ちかつ読みやすい情報提供を行えるようにすることが義務付けられる。一定の重要な条件は、口座開設時に申込と提案書文言と実質的に同様の簡易表形式で表示するものとする。

(c)定期的通知文書における開示の改善(Periodic statement disclosures)
 最終規則は定期的通知文書においてより理解しやすく手数料や金利負担に関する説明のグループ化行うべく様式の変更に関する規定を設けた。主な変更点は次のとおりである。
(ⅰ)金利費用と諸手数料(Interest Charges and Fees)
 金利費用と諸手数料は月ごとに別々にグループ化して表示しなければならない。金利費用は買物、キャッシングと言うタイプに分けて項目化しなくてはならない。
過去1年間の手数料と金利費用は別々に表示する必要がある。
(ⅱ)実質年利(Effective APR)
 開示の要件として同条件に関する消費者の理解を欠くため廃止する。新たな要件としては、与信総額として月別および過去1年間の手数料と金利費用が効果的に表示されなければならない。
(ⅲ)最小支払額の開示(Minimum Payment Disclosure)
「2005年破産濫用防止および消費者保護法( Bankruptcy Abuse)Prevention and Consumer Protection Act of 2005」が定めるとおり、現時点の返済残高にとって必要な最小支払金額が開示されなければならない。

(D)消費者の金利やそのた口座の利用条件の変更
 最終規則は金利の引上げ等口座の利用条件に関する書面による通知を受け取る環境を拡大するとともに、変更が実施される前に通知されるべき回数を増やした。
(ⅰ)利用条件の変更にかかる事前通知の増加(Increase inAdvance Notice for Change in Terms)
 最終規則は消費者が代替的資金手当てや口座の使用方法を変更するなど対策が撮りやすくするため従来の15日前から45日前に変更した。
(ⅱ)罰則的金利引上げに関する事前通知(Requiring Prior Notice for Penalty Rate Increase)
 与信者は支払延滞(delinquency)、支払不能(default)または罰則としての金利引上げの45日前に事前通知を行わなければならない。
(ⅲ)簡易表(Summary Table)
最終規則は定期的通知に添えて条件変更または罰則的金利適用通知を行うときは、重要な条件が変更される旨定期通知の表面に一覧形式で開示内容を表示することを求める。

(E)追加的消費者保護(Additional protections)
 最終規則は次の追加的保護規定を定める。
(ⅰ)固定金利(Fixed Rates)
 広告において固定金利と表示する場合は、金利が固定される期間を明記しかつその期間中においていかなる理由でも金利変更は行わないことを明記しなくてはならない。
(ⅱ)受付時間や郵便為替の締め切り時間(Cut-off Times and Due Dates for Mailed Payments)
 貸付者は締切日のタイミングを考慮し合理的な郵便為替の締め切り時間を設定しなければならない。最終規則では同時刻を午後5時とみなす。週末や休日にあたり、仮に郵便為替が締め切り期日の受け付けられなかったときは貸付者は翌営業日に受け付けたものとしなくてはならない。

(4)Regulation DD (貯蓄真実法の徹底)
最終規則は貸越に関する開示内容を定める。
(A)合算した貸越手数料の開示(Disclosure of Aggregate Overdraft Fees)
 最終規則は全金融機関に対し定期的通知文書において通知期間および過去1年間の貸越手数料(overdraft fees)および残高不足手数料(returned item fees)の合計額をドル表示で開示しなくてはならない。現状は、貸越やその推進・広告中の金融機関のみ表示が義務化されている。

(B)残高情報の開示(Disclosure of Balance Information)
 最終規則は金融機関に対し自動通知システムによる貸越限度額という追加的資金を除く口座残高情報の提供を義務付ける。

(5)Regulation E (電子資金振替)
 本レギュレーションは消費者に対して課す貸越手数料について次のとおり一定の保護を定める。
(A)貸越サービスに係る消費者の選択の機会(Consumer Choice Regarding Overdraft Services)
 改正案は取引金融機関によるATMやオンラインデビットカード利用時の貸越について2つの選択についてコメントを求める。
(ⅰ)オプト・アウト:第一のアプローチとして、金融機関は消費者が初めの通知で貸越手数料について説明されていないでまた消費者が当該金融機関の貸越サービスを受けることをオプト・アウトする合理的な機会があり、かつ消費者がオプトアウ権を行使しなかった場合は手数料の徴求は禁じられる。
(ⅱ)オプト・イン:第二のアプローチとして、消費者が金融機関に対し明らかに貸越手数料につき同意している場合を除き手数料の徴求が禁止される。

(B)債務額の保持による貸越手数料を課すことの制限(Debit Holds)
 改正案は、実施のカード利用金額を越える口座残高がある場合は貸越手数料を課すことを禁ずるものである。この改正案は取引承認後短時間に取引額が確定するデビット・カード取引の場合に限定される。

2.連邦預金保険公社と連邦取引委員会によるサブプライム・クレジット・カード推進金融機関に対する法執行行為および連邦地方裁判所への提訴とその和解結果

(1)FDICによる行政法執行行為(enforcement action)の発動
(A)2008年6月10日連邦預金保険公社は“CompuCredit Corporation”に対し連邦取引法違反となる問題とされるサブプライ・クレジット・カードの営業推進活動について監督機関としての法執行行為を取ることを公表した。
 法執行行為の内容は、FTC法違反の是正および欺罔的マーケティング活動から生じた消費者の支払った手数料や費用の原状回復を求めるもので、その総額は約2億ドル以上になると推定される。またFDICはCompuCredit に対しては6,200万ドル(約60億8千万円)、“First Bank of Delaware”と“First Bank of Delaware”に対しては総額431,000ドル(約4,200万円)の現状回復を求めたのである。

 その欺罔的クレジットカードのマーケティングとはどのようなものであろうか(問題となる点はFTCのリリースとほぼ同様であり、FDICのリリースに基づき説明する)。
①カード利用計画書において重要な前払い手数料(upfront fee)に関する適切な開示を怠るとともに当初の与信限度額について事実を偽った。すなわち、計画書では与信限度額は300ドル(約29,000円)とされているのもかかわらず、消費者は直ちに不適切に開示された185ドルの費用を請求され、実質的な与信限度額は115ドルに据え置かれた。

②わずかにクレジットスコアが高い消費者に対し、3,250ドル(約319,000円)を上限とする与信限度額は実は最初の90日間のみという点の開示を怠り、さらにユーザーの買物の状況をモニタリングするなどして潜在的に与信限度を引き下げた。

③あらかじめの費用差引額は、新カード口座にただちに振り替えられ信用情報機関には完全に支払がなされた旨報告がなされると計画書に表記されており、実際ユーザーは25%~50%を支払ったにもかかわらず費用差引き額を12か月以上支払っていないとしてVisaカードが入手できなかった。

(B)FDICは2008年12月19日、欺罔的カードのマーケティング行為を行った“CompuCredit Corporation”、“First Bank of Delaware”、“First Bank & Trust”に対し240万ドル(約2億3,500万円)の財務省に払う民事制裁金(civil money penalty:CMP))を含む被害顧客への資金返還による原状回復(restitution)を和解(settlement)した。また、被害を受けた顧客のうち適格者には総額370万ドル(約3億6,300万円)の現金がCompuCreditから返還される。 (筆者注11)

 なお、FDICは今回和解した3社以外に“Columbus Bank and Trust Company:CBT”に対しても法執行行為を行っているが、CBTは行政手続訴訟(litigation)に入る前に当初の与信限度に関するすべての手数料や制限について開示するという業務停止命令(Cease and Desist Order)と240万ドル(約2億3,500万円)の民事制裁金に合意している。また、CBTはCompuCreditが仮に現状回復に応じなった場合でも750万ドル(7億3,500万円)のバックアップの現状回復(back-up restitution)に同意している。

(2)FTCによる連邦地方裁判所への提訴と和解結果
(A) 連邦取引委員会は、2008年6月10日に“CompuCredit Corporation”およびその100%子会社の債権回収会社である“Jefferson Capital Systems,LLC”に対し、比較的所得の低い(クレジットスコアが低い)サブプライム利用者層に向け欺罔的クレジットカードの販売を行った行為は、連邦取引法および子会社の行為は「公正債権回収実施法(the Fair Debt Collection Practices Act:FDCPA)」に違反とするとの苦情申立を4-0で採択後、ジョージア州北部地区連邦地方裁判所に提訴した旨公表した。

(B) FTCは、2008年12月19日“CompuCredit社”および“Jefferson Capital Systems,LLC”との間でFDICの説明で述べたとおりの連邦法違反に基づく現状回復と民事制裁金について合意した。

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(筆者注1)FRB等3機関の規則改正の背景、検討経緯、パブコメの分析、GAO(連邦議会行政監察局)等政府関係機関の分析結果等内容はすべて12月18日付の連邦官報(Federal Register)に掲載されているので、関係者はぜひ正確に読んで分析してみて欲しい。

(筆者注2)今回のFRBやOTSの措置については、2008年12月19日の日経新聞朝刊が報じている。しかし、同社が2008年2月18日「NBonline」で報じた記事は米国のクレジットカード業界へのサブプライムの波及という問題を正面からは取り上げていない。さらに言えば、朝刊記事では「米連邦準備制度理事会(FRB)と貯蓄金融機関監督局(OTS)は18日、クレジットカードに関する規制を強化することで合意した。」とある。しかし、法的な説明としては曖昧な内容である。すなわち、第一に本ブログでも紹介したとおり、FRB、OTSおよびNCUAが金融機関監督権限にもとづき、連邦取引委員会法18条(f)(1)[15 U.S.C.§57(a)]および5条(a)[15 U.S.C.§45(a)](筆者注3)を根拠として所管の行政規則改正を行った点について言及していない。また当然であるが、本文に述べたとおり2008年5月2日にパブコメに付しており行政手続に則ったものである。単なる監督機関の合同緊急対策ではない。第二に、米国の住宅ローンに始まるクレジット・クランチ(信用収縮・金融収縮による金融システム機能の危機的状況)が、最大の融資市場である米国のカード業界まで巻き込んできた危機的な状況を正確に伝えていない。米国の個人の借り手は先般の日経新聞も報じられているとおり、年金や保険を取り崩したり、ペイデー・ローン(米国で行われている給料を担保に金を借りることができる短期のローン。ペイデーは、給料日のこと。米国の給料の支払いが原則2週間周期のため、返済期限は2週間がメインとなっており、低所得者層が生活のために利用するケースが多い。それぞれの州で規定している上限金利に違反して高金利で貸し付けたり、違法な取立てなどで訴訟が発生しているため、州によっては利用が規制されている。)や質屋といった高金利への避難が極めて目立ち始めているのである。

 この点は、米国弁護士山本寿賀氏のサイトでも「給料日ローン」として具体的に紹介されている。
 わが国で景気低迷がこのまま進んだら、個人レベルで同様に大きな社会問題化することは間違いないといえる。

(筆者注3)アメリカの連邦制定法を検索する場合、「法律名」と「合衆国法典」の2つの検索方法があり、専門外の人は混乱している例が多い。簡単に両者の相違を説明しておく(本文中ではあえて両者を併記した)。なお、より米国以外の国も含め法律や判例その他裁判制度等について本格的に勉強されるのであれば、東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター)京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター 東北大学大学院法学研究科・法学部(国際法サイト)などを散策すると理解度が高まろう。
 「米国では、連邦議会で法律が制定されるとまず"Public Law(例えばPub.L.108-159と表示)"として発行されます。これは、議会に提出された法案の名称(例えば、the Fair and Accurate Credit Transactions Act of 2003)を踏襲しています。その後、分野別に体系化された「合衆国法典“United States Code(U.S.C)”」として編纂されます。U.S.C.は、合衆国憲法及び連邦議会が制定した法律で現在有効であるものを系統的に編集した法律集。50の編(Title)で構成され、さらに章、節に分かれています(同法の場合は、15 U.S.C. 1601)。
 従って、名称で検索する場合、Public Law ファイルを利用します。一方、修正や変更を経た現在有効である法律を参照する場合は、“United States Code”を利用します。」(LexisNexisサイトから引用。筆者が一部補足的に変更した。)

 なお、米国の法律名は上記のとおり法案の名称をそのまま引き継いでいることから内容を正確に反映していない場合がある。例えば“Bank Secrecy Act”は、内容に即して言うと 「銀行等に対する機密性が高くまたは不審な現金払いおよび海外との金融取引等に関する報告義務に関する法律」である。直訳的な「銀行秘密法」で引用される例が多いが、これでは読者には法律の内容はかいもく理解できない。ただし、これに類似する例がわが国でもある。「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(平成13年法律第95号)」を経済産業省や地方自治体等多くの説明が同法の略称を「電子契約法」とする例が目立つ。しかしながら、同法は正式名のとおり、(1)電子消費者契約における顧客の操作ミスによる要素の錯誤無効制度に関する民法95条の特例  (2)電子契約の成立時期の明確化(発信主義から到達主義に転換)に関する民法97条1項および同527条1項の特例を定めた法律である。

(筆者注4) 欺まん的マーケティング行為を行った企業に対する被害顧客への現状回復(restitution)という民事的制裁方法については、わが国でも研究が行われているが専門的なものは少ない(あえて言えば「独占禁止法における違反抑止制度の在り方等に関する論点整理」平成18年7月21日内閣府大臣官房独占禁止法基本問題検討室取りまとめ等であろう)。なお、“restitution”を「不当利得返還」と訳しているレポートがあるが、そうであるなら“restitution of unjust enrichment”が正しい原語であろう。

(筆者注5)連邦預金保険公社の3行に対する提訴や和解の記事はわが国でほとんど報じられていない。その理由の1つ米国のクレジットカードの利用の実態について解説できる関係業界も含め専門家が極めて少ない点があげられ、また消費保護面から取組んでいるメディアも少ないことがあげられよう。
“First Bank of Deraware”および“First Bank & Trust”はすでにFDICと和解済である。

(筆者注6) “Balance Transfer”について解説しておく。クレジットカードを作る際に、他のクレジットカードの口座残高をそのまま新しいカードに振替ることができる。この際、キャンペーン等で0%金利などが適用されるので、有利だと思ってしまう場合がある。しかし、実際にSchumer’s Boxで詳細を読むとそうでないことが分かる。まず、残高を振替る際に手数料(transaction fee for balance transfer)が取られる。Citi Simplicityの場合でみると振替金額の3%と決まっているが、金額が決まっている場合もある。いずれにせよ、手数料が取られては0%金利でも有利にならない。また、振り替えた残高に対する金利は0%であるが、そのカードを使って新しくできた残高に対しては通常の金利(10.49%)が適用される。そして一番大きな問題点であるが、毎月の支払いは金利の低い分から先に返済されるため次のような問題が生じる。例えば$1,000の残高を別のカード残高から振替し、0%金利が適用されたとする。しかし、新たに$500の買い物をして、通常金利が10.49%だったとすると、その月に$1,000を返済しても、それは0%金利の分として返済され、残った$500は金利10.49%が適用される債務残高ということになる。つまり、0%だと思って移しても、そのメリットはほとんどないということになる。なお、この説明は今回のレギュレーションAAの改正により、解決されたといえる。

(筆者注7) 通常1か月ごとに決済するカード決済が2か月や3か月にわたる返済になるもので、最終的な定期月額金利(Periodic Interest Charge)が高くなるためこれを禁止する。興味のある方は“Single –cycle billing”と“Two-Cycle billing”との比較ウェブサイトで実際比較計算してみよう。なお、“Periodic Interest Charge”とは何を言うのか。通常金利の表示は「年利(APR)」であるがクレジットカードの金利は頻繁に変動することもあり、1か月あたりに換算した金利表示のことを言う。すなわち、APRが8%であるならば“Periodic Interest rate” は0.08/12=0.666%となる。

(筆者注8) サブプライム・クレジット・カードとは不動産担保ローンより社会的影響が大きい問題である。ボストン連銀が“Communities & Banking” 2008年秋号で“Subprime Credit Card Business Model”として紹介している。住宅担保による借入や差押さえが懸念される「サブプライム」利用者層だがそれでも消費資金が必要という人を対象とするPredatoryなクレジット・カードが売られているというものである。どこがPredatory(暴利を貪る)かというと、250ドルの信用枠(credit availability)を設定すると、初期費用(1回のみ)として124ドル、年間の使用料等として132ドルをとられる。また250ドルの枠を設定すると、カード会社は利用者から初年度に256ドルを徴収する。この違法性の高いビジネスの特徴は、他の借入の返済は劣後されても、クレジット・カードの返済は生活資金枠確保のために優先される、したがってとりっぱぐれも少ないという点であり、まさに大きな社会問題といえる。

(筆者注9)“security deposit”とは、カード請求時に決済用に使用できないクレジットカード決済用担保預金である。与信限度額を悪用する顧客対策として一般的に設定されており、スイスの銀行の例でみると毎月の与信限度額の最大1.5~2倍を同預金として口座開設銀行に預けることが義務付けられ、同資金は別口座で管理され投資会社にファンドとして運用される。

(筆者注10) いわゆるクレジットカード利用に関する「シューマー・ボックス」とはいかなるものか。実は貸付真実法に基づきクレジットカード利用者に向けた表形式の表示の義務に関する規則化(レギュレーションZ:2000年施行)を働きかけたニューヨーク選出の上院議員の名前(Chuck Schumer)を取ったものである。

 わが国では、米国生活をする日本人が多い割にはクレジットカードの利用方法を正確に説明しているウェブサイトが皆無である。本ブログの目的の1つに「消費者保護」を掲げている以上、多少詳しく解説しておく。
 参考にした逐条的な情報は約3年前のものであり、そこで引用しているシティバンクのクレジットカード“Citi Simplicity”は現在利用できないが、「シューマー・ボックス」の説明自体には影響がないのでそのまま引用する。今回のレギュレーション改正に伴い「シューマー・ボックス」の表示方法も変更されるはずである。

 なお、クレジットカードの利用に関する一般人向けの用語解説が

FTCサイトで閲覧できる。
(1)年利(Annual percentage rate:APR):口座開設から12か月の導入期間は0%で、以降は10.49%(変動)である。

(2)その他の年利(Other APRs):他のカード口座からの残高の振替やキャッシングに係る金利である。前者については最初の残高が口座開設後12か月以内に行われた場合は12か月間は0%で以降は10.49%(変動)である。後者については、22.49%(変動)である。その他遅延損害および与信限度額超過金利(default rate)は、31.49%である。

(3)変動金利に関する情報(Variable rate information)
あなたのAPRは各請求期間ごとに変更される。買物や資金振替(balance transfer(筆者注6参照)については、プライム・レートプラス2.99%、キャッシングの場合はプライムレートプラス14.99%等となる。

(4) 延滞金利がかからない支払猶予期間(grace period)
支払期日までに各請求期間に完全に新残高を支払ったときは少なくとも20日間とする。

(5)新しく買物できる平均残高の自動計算結果(method for computing balances)
この方法はカード発行人がユーザーのファイナンス・チャージを計算する最も一般的な方法であり、あなたが毎月クレジット残高を全額支払わない場合に適用される。

(6)年会費(annual fee)
適用がなければ”None”と表示される。

(7)最小ファイナンス費用(minimum finance charge)

(8)外国通貨による買物を行う場合の取引手数料(Transaction Fee for Purchase ,ade in a Foreign Currency)
 米国ドルに変換後外国通貨で買物をしたときは3%の交換手数料がかかる。

(9)キャッシングの場合の手数料は各キャッシングにつき3%(最小5ドル)、資金振替額の3%(最小5ドル、最大75ドル)である。

(筆者注11) FDICのリリースによると適用されるべき現在残高が与信金額を下回る適格ユーザーは具体的な請求行為は不要であり、CompuCredit社からの通知に基づき、現金の返却を受けることになる。その他の適格ユーザーは正当な与信額が通知される。なお、これらの通知や現金の返還内容はFDICが認めた独立会計事務所により検証される。


〔参照URL〕
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20081218a1.pdf
http://www.fdic.gov/news/news/press/2008/pr08142.html
http://www.ftc.gov/opa/2008/12/compucredit.shtm

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ルクセンブルグ大公国の金融機関における法令遵守課題への取組に関する影響度調査結果

2007-01-02 13:41:50 | 金融機関等の法令遵守

Last Updated:March 12,2021

 ルクセンブルグ銀行協会は、監査法人トーマツ(Deloitte Touche Tohmatsu)の協力の下に標記調査を行い、2006年12月5日にその内容を公表「ABBL,DELOITTE-Reglementation:Quel impact sur le secteur financial a Lexembourg, Luxembourg, Deloitte,2006」した。詳細編と要約編とで構成されているが、今回のブログでは要約編を元に紹介する。なお、関心のある向きは詳細編(全28頁)を参考とされたい。

 これらのテーマについては、わが国の業界新聞等でも随時取り上げられているが、人口は約465,000人という極めて小国ながら、一方で極めて豊かな国であるルクセンブルグ(Grand Duchy of Luxemburg)(筆者注1)の金融機関がこれらの遵守項目について過去および今後3年間どのように点に重点を置きながら取組んでいるか、また膨大なIT投資や法令遵守にかかる費用の評価等、国際化するわが国の金融機関の今後を見据えた経営面の研究材料として参考になるものと判断し、取り上げた。

 なお、今回の調査対象項目として、例えば「バーゼルⅡとEU資本要求指令(the Capital Requirements Directive:CRD)(筆者注2)、「EU投資信託指令Ⅲ(Undertaking for Collective Investment in Transferable Securities :UCITS Ⅲ)」(筆者注3)、「貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(Council Directive 2003/48/EC )」(筆者注4)、および「金融商品市場指令(MiFID)」(筆者注5)等といったEU加盟国固有の課題が含まれている。EU加盟国の金融機関が取組んでいるこれらの課題についての概観・改正経緯・関連法令を理解するには「EurActiv .com」サイトの「financial services」が良く整理されているので、関心のある向きは併せて参照されたい(わが国では一覧性をもってこのレベルに達している資料はない)。

1.調査目的
 過去3年以上にわたり、ルクセンブルグの金融部門はその堅確性の強化を目的とした新たな規制強化のうねりを経験した。銀行等信用機関や金融部門の専門家はこれらの新たな法令遵守要求に対し、①組織的な対応、②IT技術力等の強化、③資源や投資の結集を行わねばならなかった。したがって、金融機関はこれらの規制強化要求に対する率先性を優先し、また要員の新規採用、新手続き、新システムといった繰り返されるコスト負担を負った。
本調査は、これらの金融機関における法令遵守にかかる全体的な影響度を測定することにある。

2.調査対象金融機関および個人
2006年3月時点でルクセンブルグに拠点を有する153金融機関およびその他金融専門家を対象に調査を行い、うち37機関等(30機関はルクセンブルグ銀行協会会員銀行、その他の金融機関の従業員の10%に当る7名)から回答を得た。個人の意見も十分に配慮するとともに、匿名の調査を確保、調査対象金融機関の規模、業務の種類、本拠地国について区分を行った。

3.調査対象項目
 本調査では以下の8項目に限定した。
(1)マネーローンダリングとの戦い(Anti-Money Laundering:AML)
(2)適正資本(バーゼルⅡとEU資本要求指令)
(3)EU投資信託指令Ⅲ
(4)貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令(UCITS Ⅲ)
(5)法令遵守機能の適用(The ≪Compliance≫Function Implementation)
(6)企業改革法(Sarbanes Oxley Act:Sox)
(7)新国際会計基準(IAS/IFRS)(筆者注6)
(8)金融商品市場指令(MiFID)(筆者注7)

4.本報告の構成
第一部:銀行における高いレベルの取組内容を調査した。
第二部:前記3.の各項目について金融機関の貢献度について調査した。
第三部:遵守内容について、金融市場たるルクセンブルグの今後について予測される法令遵守による影響とともにその経費負担について回答者から意見を集約するという質的な分析調査を行った。

5.調査に基づく分析結果
(1)過去3年および今後3年間の投資額
1機関あたりの過去3年間の平均投資額は、440万ユーロ(約6億8,200万円)でうち人事採用投資額はその約10%の47万1,000ユーロ(約7,300万円)である。さらに今後3年間に要する費用は過去3年間分の約半分にあたる201万5,000ユーロ(約3億1,200万円)と予想している。
(2)法規制に関する優先課題は次の降順である。
①AML対策
②法令遵守機能の適用(高度な知識と実行力を持った役職員教育等)
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
回答者の60%はこれらにかかる費用は地方予算でまかなうとしている。
(3)法令遵守で最も経費がかかるのは次のものとしている。
①新会計基準対応
②バーゼルⅡ対応
③貯蓄利子課税に関する閣僚理事会指令
(4)非技術的な計画(UCITSⅢおよび法令遵守機能の適用)
構造的な対応課題として毎年度負担すべき経費であり、金融機関に高いレベルの影響を与える。
(5)AML対策は中規模金融機関にとって極めて重い費用負担となっている。
(6)AMLとそれに対する消費者の理解は、消極的なイメージを誘発するがゆえに最も銀行がその強化に取組んでいる。
(7)バーゼルⅡ対応は、ルクセンブルグの上位10金融機関が頻繁に投資を行っている。
(8)法規制の遵守のためには専門要員の増加が必要となり、3年前に比べ87%増となっている(法令遵守専門要員として1行平均4名の正職員の追加)。
(9)MiFID対応は、銀行の遵守計画のうち現在・今後で最も注目すべき課題である。
(10)ルクセンブルグにおける現在の法規制・監督に対する見方
①3分の2の銀行は金融センターとして同国は他のEU加盟国と比べ、過剰規制に陥っていないと見ている。しかし、回答者の63%はEU以外の国と比べ規制が厳しいと見ている。
②同国は、アイルランドやスイスに比べ金融機関にとって不利益さはないと見ている。
③大銀行は、規制強化計画はビジネスの開発に活用可能と見ている。
④68%の銀行が、AMLが最も規制に関してコストをかけるべきと考えている。
⑤3分の2の銀行が、銀行の機密保持(bank secrecy)は、最も厳格な法規制に関し両立しがたいと見ている。
(11)今後の法規制の在り方
①全回答者が法規制に関する要求に対応する費用は、今後3年以上増加すると見ている。
②62%の銀行がこれ以上の法規制は不要と見ている。
③法規制についてEU加盟国との協調については、87%、EU以外の国とは67%が必要と見ている。
③回答者の88%は、規制強化の影響は金融部門の集中化が今後進むと見ている。
④61%の銀行は、ルクセンブルグで提供されるべき金融商品やサービスは特にプライベート・バンキング分野で発展すべきであろうと見ている。
************************************************************************************
(筆者注1)ルクセンブルグの2005年の1人当たり国内総生産(GDP名目)は80,288米ドル(約924万円)で依然世界第1位である。また2006年3月の失業率はやや高くなっているが4.8%(EU加盟国平均が8.1%)である。ちなみに、米国CIAの2003年調査によるとわが国のGDPは世界第15位(34,510米ドル:約397万円)である。

(筆者注2)EU資本要求指令(the Capital Requirements Directive)は、2006年6月14日に採択されたもので、2007年1月1日施行、全面施行は2008年とされている。この指令の採択の背景には2004年6月に採択された「Basel Ⅱ」があることは言うまでもない。これを受けて欧州委員会は2004年7月に域内の全銀行、信用機関(credit institution:CI)、投資会社を対象とする「新資本要求指令」案を策定していた。本指令の特徴は、①リスク問題により機敏な内容になっており、金融機関は3つの対応レベルを選択できることとなっている。②小規模銀行や小規模金融会社のコスト負担に配慮するためEUは他地域と異なり実施を遅れさせる、③破綻リスクに関するモラルハザードの懸念に関しては、保険会社が中央銀行により最終的に保護されるの対し、保険会社や銀行に部分的に転嫁させうるとするものである。

 その後のCRDの改正経緯をJETROの解説から抜粋する。

銀行の資本規制

 EUは2013年6月、金融危機の再発を防ぎ、国際金融システムのリスク耐性を高めることを目的に改定された新しい国際決済銀行(Bank for International Settlements)の自己資本比率に関する国際統一基準(BIS規制)「バーゼルⅢ」の本格導入に向け、「CRD Ⅳ(資本要求指令Ⅳ)」と呼ばれる資本要件パッケージを採用した。CRD Ⅳは、金融機関および投資会社の財務健全性の監督を目的とする欧州議会・理事会指令2013/36/EUおよび、財務健全性の要件を規定する欧州議会・理事会規則575/2013で構成され、2014年1月に適用が開始された。

 指令2013/36/EUは、「バーゼルⅡ」に準拠した2つの先行指令(欧州議会・理事会指令2006/48/ECおよび2006/49/EC)を一本化するとともに、財務健全性の確保に向けた域内共通の要件を定めている。規則575/2013は、加盟各国が同指令を国内法に反映する際にばらつきが生じることを防ぐため、拘束性の高い、より直接的なルールを規定しており、域内の「シングル・ルール・ブック」としての役割を果たす。

 EUでは、CRD Ⅳの対象を「バーゼルⅢ」が定める国際的に事業を展開する銀行だけでなく、域内で営業するすべての銀行と投資会社に広げている。また、金融機関の健全性維持に向け、資本のほか、流動性やレバレッジ比率の要件に重点を置くほか、ボーナスの上限を年間給与と同額とする賞与規制や、リスク管理の強化に向けたコーポレートガバナンス(企業統治)に関するルール、複数の司法管轄にまたがり事業を展開する金融機関の営業活動の透明化に関する要請、一連の資本バッファーの定義などを盛り込んでいる。欧州委員会はCRD Ⅳの施行に当たり、「シングル・ルール・ブック」を補完・強化するため、規制技術基準(Regulatory Technical Standards:RTS)や実施技術基準(Implementing Technical Standards:ITS)を定めている。これらは、CRD Ⅳに関する委任規則や実施規則として発行されている。

 さらに、CRD Ⅳを改正する資本要件パッケージ「CRD Ⅴ(資本要求指令Ⅴ)」が2019年6月に発効した。CRD Ⅴは、欧州議会・理事会指令2019/878および欧州議会・理事会規則2019/876からなる。指令2019/878により、EUで活動する大手外資系金融グループは、EU域内に持株会社を設置し、グループでの健全化要請を満たすことが求められる。また、報酬に関するルールの追加規定や適用免除、自己資本要件等の調整・明確化が図られている。加えて、自己資本要件等の健全性の確保要請に関して、規則2019/876が、更なる比率規制や追加要件を導入している。(以下、略す)

 なお、EUの金融監督規制に新体制に係る指令は本指令と「信用機関における新ビジネスの採用と事業の継続に関する指令(Directive 2006/48/EC)」 (2006年6月14日付)である。後者は加盟国における異なる法律による障害を排除することで信用機関の域内における自由な設立やサービスの提供を可能とすることを目的とするものである。

(筆者注3) EU投資信託指令Ⅲは、正式には2001年1月22日に採択され、2004年2月施行の「Directive 2001/107/EC」(Official Journal L 041 13/02/2002)である。本指令(最初のUCITSは1985年)の目的は、越境的投資信託(across border collective investment fund )による信託規模の拡大並びにEU全体としての投資の潜在能力の最大化を図るとするものである。

(筆者注4)本指令はEUの住民が越境による貯蓄収入を得た場合、脱税を阻止する目的で加盟国間に自動的にその情報交換を行う法律制度の導入を義務付けるものである。2005年7月1日施行されることになっていたが、当初から対応できなかったEU加盟3カ国(オーストリア、ベルギー、ルクセンブルグ)については開始から情報交換に代る措置として「源泉徴収」を適用する。
また、英国とオランダの属領(dependent territories)や関連領(associated territories)並びに特定のEU外の第三国については情報交換または源泉徴収を課すことになっている。
なお、英国の例で見ると「2003年財政法(2003 Finance Act)」において、財務省に海外居住者に関する情報収集に関する規則等の制定権を定めている。
http://www.hmrc.gov.uk/esd/paper-11-final.htm

(筆者注5)「the Market in Financial Instrument Directive :MiFID」は、2004年4月に採択された(2004/39/EC)。本指令は1993年に採択された「投資サービス指令(Investment Service Directive :ISD)」に代るものとして採択されたが、その目的は①投資家がEU域内において一層容易に越境投資を行えるようにする、②証券会社がEU域内の単一免許を得る際の障害を除去する、③EUにおける証券取引所間の競争を促進し取引き分野を拡大する、④EU全域における投資家・サービスの利用者の適切な保護等である(詳細は日本証券経済研究所大橋 善晃氏「EU の「金融商品市場指令(MiFID)と最良執行義務」を参照されたい。)。なお、当初EUは2006年4月30日までに国内法化を求めていたが、実施細則案の公表が遅れたことなどからEUは2006年4月27に修正指令(2006/31/EC)を発出し、前記期限を2007年11月1日に延長している。

(筆者注6)国際会計基準(IAS)および国際財務報告基準(IFRS)を巡るわが国の金融監督・司法機関、経済・金融団体等の意見・対応は監査法人、研究者等から多くの報告がなされており、それぞれ参照されたい(しかしながら、長期間にわたりかつ国家間の多くの調整がなされてきた問題だけに全体的な動行を鳥瞰できる資料がないのが素人の筆者としては気にかかる)。

(筆者注7)EUのCESRは2006年12月15日付けで「The Passport under MiFID」と題するパブリック・コンサルティング・ペーパーを発している。その内容は、①MiFID3章「投資会社の権利」31条(投資サービス・活動に関する自由性)、32条(支店の設置)に関する通知手続き、②越境投資活動に関する効率的かつ継続的な監督を保証するのに必要な母国および受入国間の今後の協調についての共通的な取組についてである(前記筆者注5で紹介した大橋氏の論文ではMiFIDの31条は「実施期限」、32条は「指令の宛先」なっているが、これは誤りではないか)。意見の提出期限は2007年1月31日である。

〔参照URL〕
http://www.abbl.lu/informations/actualites/

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スイスの銀行合併に端を発したインサイダー取引疑惑と年金基金運用の金融監督のあり方論議(その2完)

2006-12-02 16:00:00 | 金融機関等の法令遵守

4.筆者の私見
(1)スイスにおける業界自主規制の在り方と限界論
 前述の通り多様な自主規制ルールが定められているが、自主規制相互間の整合性は誰がどのようなかたちで行うのかと言う点が不明確である。不正が発生すると国家による法規制の強化が論議されるという対応自体は短絡的であるが、一方で責任回避的な業界自主ルールはかえって顧客にとって透明性を欠くことになりはしないか。
スイスの法律事務所解説を読むと、スイスSFBC等の最近の動きについて、米国のSEC(証券取引委員会)を意識した内容が目立つ。同国の伝統的経済自由主義(laissez-faire)と主要国における国際的な法規制の強化の取組みの整合性は避けて通れない課題と思われる。
 後記(3)に述べるようにスイスもEU加盟国や米国や豪州等、アジアの金融市場改革の流れは無視しえなくなっている。また、スイスが世界の金庫番であり続けるための大きな課題が他国から求められている。代表的なものは顧客の厳格な機密情報保護(the principle of confidentiality)の見直しであろう。昨今のマネロン対策強化の世界的な流れの中で、孤立せずまた優良顧客の強い信頼を維持するための具体的な施策改善が求められている。

(2)証券取引関係者向けの教育教材の内容はわが国(東京証券取引所)と比較して一見分かりやすく、自主規制(行動規範)を謳うに値すると思えた。
 しかし、一方で法律の内容の不明確性が気にかかる。刑法の関係条文に一部のみで評価を行うのは危険であるが、透明性確保、年金基金管理者の経営責任の明確化といった基本的課題のクリアは一層必須となろう。

(3)近年スイスの連邦政府が取組んでいる金融市場改革プロジェクトの評価
 2006年6月に連邦政府が発表した金融市場改革プロジェクトの概観と重要プロジェクトの進捗状況について項目のみ挙げておく(2006年6月7日現在)。同プロジェクトには企業年金基金制度改革や保険契約法改正等も含まれており、各課題ごとに担当省庁や進捗状況が一覧になっている(詳しい内容は各テーマごとに調べる必要がある)。詳細な分析は機会を改めたいが、いずれにせよスイスはEU加盟国との協調、米国等との関係強化を図りながら更なる金融改革を進めて行くものと思われる。
①統合的金融市場における監督体制改革:連邦参事会は2006年2月1日に連邦金融市場監督法(Finanzmarktaufsichtsgesetz, FINMAG(筆者注15)の制定に関する議会報告書を通過させた。
②2005年9月に連邦参事会は連邦議会において合同運用型ファンドに関する連邦法(CISA)および関連報告書を通過させた。同法案は2006年3月に国民院(National Council)および全州院(Council pf States)の両院において承認され、2006年夏会期において法案は集中討議される予定である。
③連邦会社法における監査義務に関する法案は、2005年12月16日に議会で可決された。同法案には監査役に対する承認と監督に関する規定が含まれる。同法は2007年後半に施行される予定である。
④連邦参事会は2005年12月2日に信託に関するハーグ条約の批准ならびに信託に関する規定を含む国際私法に関する連邦法改正案につき報告書を承認させ、議会での審議が始まり、2006年3月23日に全州院は全会一致で法案を採択、また国民院では2006年秋の会期において法案の審議を行う予定である。
⑤企業統治(保護預り株式の付随する投票権等)に関する現行規定の改正、会社の資本構成の弾力化(capital bandの導入等)、会計報告に関する法令の改正案について2005年12月から約6ヶ月間パブコメに付され、現在査定が行われている。
⑥保険契約法の全面改正については2003年2月に専門家委員会により構想がまとめられていた。委員会では、当然民間の保険や社会保険間の連携を図るとともに、保険契約の国際化に向けた検討を行った。法案の予備草稿と説明報告は2006年半ばまでに行われる予定である。
⑦2006年3月に連邦参事会は企業年金基金(occupational benefits)に対する
監督強化を求める専門家委員会による報告書を承認した。その中における最優先課題は、企業年金基金に対する州や地域から独立した実質的最高監督機関の創設である。同時に連邦参事会は2006年夏までに適切な年金基金に関する草案作成を行うよう内務省に命じている。
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(筆者注15)同法の草案は連邦財務省金融局サイトで確認できる(ただし独、仏、伊語のみ)

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【筆者補追】2024.4.30

 2013年の刑法改正と「連邦証券取引所及び証券取引法(Bundesgesetz über die Börsen und den Effektenhandel :BEHG)の新たな刑罰規定につき、2012年6月1日Blum&Grob Rechtsanwälte AG 弁護士事務所の解説「インサイダー処罰に関する刑法等の改正:すべての市場参加者への引き締めと拡大仮訳する。なお、一部条文(青字)につき筆者の責任で仮訳した。

 約 25 年前に施行されたインサイダー取引の刑罰規範である StGB 刑法第 161 条と、価格操作罪である StGB 第 161 条 はいずれも、あまりにも限定的で弱すぎることが証明されている。市場参加者に影響を与えるには曖昧すぎ、スイスの金融センターの競争力を効果的に保護するには不十分である さらに、この規制はほとんどの EU 加盟国の法律に矛盾していた。 2012 年 6 月 14 日、第 2 回評議会としての国家評議会の承認により、長らく待ち望まれていた改正案がついに実現した。

 この改正により、インサイダー取引と価格操作に対する刑罰規定が強化され、「連邦証券取引所及び証券取引法(Bundesgesetz über die Börsen und den Effektenhandel :BEHG)」に移管されることになる。 また、以下に説明する犯罪が州検察局ではなく連邦検察局によって起訴されるようになったことも重要である。 第一審での司法的評価はベリンツォーナの連邦刑事裁判所によってのみ行われる。 さらに、それぞれの判決に対して異議を申し立てるには、ローザンヌの連邦裁判所に刑事訴訟を提起する必要がある。

(1)インサイダー情報ヘの刑罰的使用

 BEHG の新たな刑罰規定により、インサイダー情報を持っているあらゆる自然人が加害者とみなされ得るまで、インサイダー関係者犯罪の加害者の輪が拡大した。 このような背景から、新しい BEHG 第 40 は、犯罪の重大さを個人がインサイダー情報を知った理由に依存するものとしている。

 いわゆる「主要インサイダー関係者(Primärinsider)」は最も重く処罰される可能性があり、つまり3年以下の自由刑または罰金が科せられる。 これは、発行者の管理または監督機関のメンバーなど、インサイダー情報に直接アクセスできる人物である。 主要なインサイダー関係者のサークルには、経営陣レベルに限定されず、研究責任者、法律サービス責任者など、機密情報にアクセスできるすべての人々が含まれるが、これらの人々によって任命された人々や内部情報を持っている株主も含まれる。

*第 40 条 インサイダー情報の悪用(仮訳)

第1 項 発行者または発行者を管理または管理される会社の経営陣または監督機関の役員またはメンバーとして、またはその参加またはその活動により、以下のインサイダー情報を持っている場合、インサイダー情報を持っていることによって自分自身または他の誰かが経済的利益を得る場合:

a. スイスの証券取引所または取引所に類似した機関で取引が認められている有価証券を悪用したり、そこから派生した金融商品を使用したりする。

  1. 他の人に通信する。
  2. スイスの証券取引所または証券取引所に類似した機関での取引が認められている有価証券のそこから派生した金融商品の取得または売却、または有価証券の使用を他人に推奨するために使用する。

第2項 第 1 項に基づく行為により 100 万フラン((約1億6981万円.))を超える経済的利益を得た者は、最高 5 年の自由刑または罰金に処せられる。

第3項 第 1 項に従って人から伝えられたインサイダー情報、または犯罪もしくは軽犯罪を通じて入手したインサイダー情報を悪用して、自分自身または他人の経済的利益を得た者は、1 年以下の自由刑に処せられるものとする。スイスの証券取引所または証券取引所に類似した機関で取引が認められている有価証券を取得または売却すること、またはそこから派生した金融商品を使用することには罰金が科せられる。

第4 項 第 1 項から第 3 項で言及されている人物ではなく、インサイダー情報を悪用して自分自身または他人に経済的利益を得た者は、そこから派生した金融商品の取得、販売、または使用に対して罰金が科せられる。

(2)スイスの新しいインサイダー刑罰法の概要:

①「インサイダー情報の悪用」(新法(BEHG)第 40 条)の加害者として、「一次インサイダー」(特に一般的には発行者の団体)とは別に、「二次インサイダー」や、2013年以前の StGB 条第 161 条とは異なり、偶然的発見者も含まれる可能性があり考慮された。

②「主要なインサイダー関係者」が 100 万フラン(約1億6981万円.)を超える経済的利益を獲得した場合、その状況は変化する

③犯罪に対する違反

. この適格形式では、新 BEHG 第 40 条はマネーロンダリングの前提犯罪となる可能性がある (StGB 第 305 条)。

 新しい BEHG 第 40a 条の意味における「価格操作」の犯罪は、100 万フランを超える金銭的利益がある場合には犯罪となり、したがってマネーロンダリングの前提犯罪となる。

 新しい BEHG の刑法犯罪、特に第 40 条および第 40a 条は、連邦検察庁によって独占的に訴追され、ベリンツォーナの連邦刑事裁判所によって第一審で判決が下される。

 いわゆる「二次的なインサイダーラー」は、1年以下の自由刑または罰金を覚悟しなければならない。 彼は主要な内部関係者から情報を受け取るか、CEO のオフィスから情報を盗むなどの犯罪的手段によって情報を入手した者である。

 いわゆる„偶然発見者(„Zufallsfinder) “は、偶然に情報しか得られないため、罰金のリスクがある。

. 法改正により、犯罪の描写がより正確になった。 最も広い意味では、インサイダーがインサイダー情報を悪用して経済的利益を得るということを意味する。 この悪用には、許可された証券の取得または売却、または証券に関する推奨の作成が含まれる場合がある。

 そのようなアプローチ。 デリバティブや標準化されていないOTC商品との取引も記録されるようになった。

(3)価格および市場操作に対する制裁

 価格操作の刑事犯罪を BEHG に移管する場合(第 40a 条)、以前の規定はほぼそのまま維持される。 操作的な人物との実際の取引は依然として処罰されない。 市場操作という新たに創設された規制違反がここに適用されるようになった(新 BEHG 第 33 条 f)。 この広範な規範に違反すると、新しい BEHG 第 34 条に基づいてスイス連邦金融市場監督機構(FINMA)に基づく制裁が科せられる。

 ただし、どのような行為が禁止されるのかはまだ明確に言えないため、一般的には注意が必要である。

*BEHG第 40a 条 価格操作(仮訳)

第1 項 自分自身または他人の利益のために、以下のとおりスイスの証券取引所または証券取引所に類似した機関で取引が認められている有価証券の価格に重大な影響を与えようとする者は、経済的に有利になるに関係なく、最高 3 年以下の自由刑に処せられる。

a. 自社のより良い判断に反して、虚偽または誤解を招く情報を広める。

  1. かかる有価証券の売買は、両当事者によって、この目的に関連する同一人物の口座に対して直接的または間接的に実行される。

第2項 第 1 項に基づく行為により 100 万フランを超える経済的利益を得た者は、5 年以下の自由刑または罰金に処せられる。

(4)マネーローンダラーとしてのインサイダー

  インサイダー取引と価格操作に対する刑事犯罪は、犯罪行為により 100 万スイスフランを超える金銭的利益が得られた場合に犯罪となる。 その結果、対応する資産は現在、マネーロンダリングの対象となっており(StGB第305条)、これにより、インサイダーなどの以前の加害者もマネーロンダリングの刑事犯罪を犯す可能性がある。

StGB第305条資金洗浄(マネーローンダリング)(英語版)(仮訳)

第1項 犯罪または適格な税務違反に起因することを知り、または想定しなければならない資産の出所の特定、発見または没収を妨げる可能性のある行為を実行した者は、3年以下の自由刑または罰金に処せられるものとする。

 直接連邦税に関する 1990 年 12 月 14 日の連邦法第 186 条、および州および地方自治体の直接税の調和に関する 1990 年 12 月 14 日の連邦法第 59 条第 1 項の最初の補題に基づく刑事犯罪課税期間あたりの脱税額が 300,000 フランを超える場合、適格租税犯罪とみなされる。

第2項 重大な場合には、5 年以下の自由刑または罰金が科せられる。

特に加害者が次のような場合に重大な事件が発生するとされる。

a.犯罪組織またはテロ組織の一員として行動したとき(第 260 条の 3)。

b.マネーロンダリングを続けるために結集したギャングの一員として行動したとき。

c.商業マネーロンダリングを通じて多額の売上高または多額の利益を得たとき。

第3項 主犯が海外で行われた場合、加害者も処罰され、犯行地でも処罰される。

(5)インサイダー規制法

   インサイダー情報の悪用に対する刑事上の禁止措置に加えて、現在では、新 BEHG 第 33e 条 (新 BEHG 第 34 条と併せて) に規定されているインサイダー犯罪も規制される。 この広範な基準はすべての市場参加者に適用される。これは、特に、インサイダー情報であることを知っている、「フロント」「パラレル」「アフター走行」に収録するまたは知るべき情報を悪用して証券取引を実行する場合に適用される。これらの禁止事項は、社内および社内向けの改訂された 年金基金の外部資産運用会社(BVV 2) にも記載されている。

 新しい BEHG はこれらの禁止を大幅に拡大する。

(6)申し出義務に違反した場合の刑事責任

 申し出義務違反はまだ刑事罰には至っていない場合につき、これは、新しい BEHG 条項 41a の発効により変更される。 この刑罰規範によれば、公募を行うという法的に定められた義務を故意に遵守しない者は、最高1,000万スイスフランの罰金に処せられる。

(7)法遵守的行動の必要性

 改正インサイダー法により、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA ) の監督責任が非金融セクターにも拡大された。 金融仲介業者にとって、マネーロンダリングの前提犯罪としてのインサイダー犯罪には、さらなるデューデリジェンスと報告義務が伴う。 組織化された市場参加者(上場企業、銀行、ファンド、プライベートエクイティ会社、年金基金、資産運用会社、受託者など)は、内部行動規範を発行または適応させる必要がある。

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スイスの銀行合併に端を発したインサイダー取引疑惑と年金基金運用の金融監督のあり方論議(その1)

2006-12-02 15:32:02 | 金融機関等の法令遵守

 

Last Updated:April 30,2024

  スイスの年金基金業界は、2005年9月12日に公表された民間投資銀行スイス・ファースト銀行(Swissfirst Bank)とベルヴュー銀行(Bellevue Bank)の合併に伴うインサイダー取引を巡るスキャンダルは、連邦議会、連邦金融監督委員会(Eidgenössischen Bankenkommission EBK)(筆者注1)、規制監督機関(連邦財務省金融局:Eidgenössisches Finanzdepartement: EFD )(筆者注2)証券取引所(SWX Swiss Exchange)、州検察当局、株主、金融業界団体(スイス銀行協会:Schweizerische Bankiervereingungスイス・ファンド協会:Schweizericher Anlagefondsverband:SFA)等の動きや、この問題に関するメディアの過剰反応(有罪・無罪か、利害関係者が得た金額の大きさ等)をも巻き込んで依然、混沌とした状況にある。

 筆者は2006年8月末に「swissinfo」(筆者注3)でこの記事を読んでいたが、CEO等による個人的なスイス刑法等の違法行為(インサイダー取引)の問題と理解していた。しかし、①Swissifirst BankのCEOのトーマス・マター氏(Thomas Matter)(筆者注3-2)

Thomas Matter氏

の2006年10月末の辞任、②合併公表前にスイスの世界的有名企業が管理していた年金基金のファンド・マネージャーが同行の株式をマター氏に売却したことから、これらマネージャー自体に対しても州検察当局の捜査が行われていること、③EBKや連邦議会(筆者注4)が法規制の強化を明言していること、④基金の監督機関であるチューリッヒ州(canton)やバーゼル州も独自に調査を行っていること、⑤スイスの法制度や伝統的に強固な基盤をもつ関係業界の自主規制ルール(行動規範)ではどのように考えられまた教育が行われているか、等につき個人的な関心が強まった。

 詳しく調べてみると、これらの問題について各メディアの取り上げ方、視点、関係者の意見等まさに「百科騒乱」である。これでは何が本質的な問題か良く分らないように思えて、素人ながら①スイスの証券取引に関する規制・監督法制の現状、②業界の自主規制の現状と在り方、③本件についての関係者の意見の整理を試みる次第である。
 このような問題は世界中どこの国でもありうるし、英米等ではきっとこのような不公平な株主の扱いはクラス・アクションを引き起こすであろうし、また今話題の米国企業改革法(SOX法)における法令遵守に抵触する問題と言える。

 一方、さる11月21日に、わが国の金融庁は「金融商品取引法(通称:日本版SOX法)」で求められている「財務報告にかわる内部統制の評価及び監査」に関する実施基準の公開草案(筆者注5)を発表し、12月20日を期限として同草案に対するパブリック・コメントを受け付けている。この実施基準は、日本版SOX法に基づいて企業が内部統制を実施する際に留意すべき事項を取りまとめた実務上のガイドラインとでも言うべきものであるが、以下紹介するスイスの金融機関の役職員の行動規範や業界自主ルールの評価と立法強化を巡る議論の内容は、無視しえない重要な課題を提起していると言えよう(特に4.(3)⑦参照)。

 なお、関係する問題が多く、1回でまとめ切れなかった。2回に分けて登載するので通しで読んで欲しい。

【2022.2.22 補追】

 このグループは、2006年12月にBellevue GroupAGとなった旧SwissfirstAGで構成されていた。 メディア報道の結果として既存および潜在的なスイス・ファーストに対する顧客が失ったという信頼は、この名前で銀行を運営し続けることを不可能にした。
 同じくグループに所在する旧スイス・ファースト銀行AGは、スイス・ファーストAGの旧プライベートバンキング部門であり、2006年12月にBanque Pasche SAに売却され、2007年5月に解散した。
以前はスイスファーストバンクAGのプライベートバンキングで活動していた旧スイスファーストバンクAGバーゼル支店は、2006年11月にアドラーアンドカンパニーに売却された。(Wikipedia(https://de.wikipedia.org/wiki/Swissfirst)から 抜粋、仮訳する )

1.事実関係
①2005年9月12日にスイスの上場企業であるSwissfirt bankとBellevue bankの合併が公表された。この合併では新株の発行が行われていない。このため株価は必然的に上昇するのである。
②スイスの世界的企業(名前が上っているのは、ジーメンス(Siemens AG))、Roche(製薬会社)、Coop(大手スーパー)、リーター(Rieter:繊維機器メーカー)等が管理していた年金基金がSwissfirst銀行株を株価上昇前の9月8日、9日にかけてマター氏に売却した。(筆者注6)
③同行の株価は2005年9月から2006年3月にかけて約50%値上がりしたが、他方各基金合計で約2,000万スイス・フラン(約18億8,500万円)の得べかりし利益に対する損失が発生した。
④一方、マター氏が得た株価上昇による利益は5,000万スイス・フラン(約47億1,300万円)といわれている。なお、マスコミに対し同氏は「合併時の株取引の問題についてインサイダー取引の問題が生じないよう予めチューリヒ州当局から許可を得ていた」と述べているが、チューリヒ州検察当局の検察官は明らかにこの点を否定している。
⑤チューリヒ州の検察当局は刑事訴訟手続きに入るため、2006年8月以降マター氏や前記大手企業のファンド・マネージャー(リーターの基金運用マネージャーであるユルグ・マイヤー (Jürg Maurer)、ジーメンスの運用マネージャー等)はいったん逮捕され事情聴取を受けていたが、その後、釈放されている。また司法省関係者は、8月17日にマター氏に関する捜査(筆者注7)のため同行に警察の家宅捜査が行われた旨公表している。

2.スイスのインサイダー取引を巡る法的な規制
(1)スイスのインサイダー取引と刑法の規定
 インサイダー取引の処罰規定はスイス刑法(1987年12月18日改正法成立、1988年7月1日施行)第161条(筆者注7-2)である。同条は証券取引におけるディーラー等関係者が知りうる特権を悪用して利益を得たり損失の発生を回避する行為を犯罪行為として処罰するものである(筆者注8)。証券専門用語も含まれ、わが国や欧米ではあまり紹介されない条文の内容なので、ここで同条原文(スイス連邦政府サイトを含め公式な英語バージョンはない)を仮訳しておく(わが国を始め欧米主要国の法律を読み慣れた人は、同条の極めて文学的な内容に戸惑うであろう。したがって、ここではあえて内容は変えないが一部意訳した)。なお、2009年時点のスイス刑法第161条のローファームの解説論文「 Revised Swiss Insider Rules—A Change of Paradigm   」が参考になる。

 【補追】2022.2.26

刑法第161条は2013年に廃止(Re­pealed by No II 3 of the FA of 28 Sept. 2012, with ef­fect from 1 May 2013 (AS 2013 1103BBl 2011 6873).)され、その後、スイスはインサイダー取引につき数次にわたり抜本的な法改正を行っている。単なる補追ではできない作業なので2022.2.26に新規ブログをアップした。

【第161条第1項】取締役会(Verwaltungsrates)、執行役員会の構成員、監査役(Revisionsstelle)または会社等の代表権を有する者ないし子会.社に対し経営管理権を行使できる者または官庁や公務員ならびにこれらの者を支援する立場にある者が、有する機密性の高い情報を利用した事実(Tatsache)の提供行為を行った場合は、禁錮または罰金に処す。 
① 自己または他人の利益を得る目的で、スイス証券引所の取引時間内または時間外を問わず株価(Kurs)を公開すること。


② 特定の会社の証券(Wertschriften)または相当する有価証券報告書(Bucheffekten)の内容の公表すること。
③ 取引に影響する重要な予測手段となる株価やオプション情報を第三者に知らせること。
【第161条第2項】第1項に挙げた事実(Tatsache)に関する情報を直接または間接において得た者または違法に情報を得るため、金銭的利益の提供を行った者は、1年以下の禁錮または罰金に処す。(筆者注9)(筆者注10)
【第161条第3項】第1項および第2項の規定する事実(Tatsache)について、直前の新出資権(Beteilingungsrechte)の発行または会社の合併または同等の事実についても同一の犯罪の事実とみなす。
【第161条第4項】合併する両株式会社の計画されている場合において、その両社について第1項から第3項を準用する。
【第161条第5項】第1項から第4項の規定は、出資証明書、その他証券、有価証券報告書または会社に関するオプションまたは外国会社に関する情報の誤用について準用する。

(2)スイス刑法第161条に解する法律専門家の意見
筆者は同条に関するスイスの弁護士の見解を調べてみた。限られた時間しかなかったので方向感のみ参考としてもらいたいが、おおよそ正しい内容と言えよう。
① 161条が制定される以前は、スイスの関係者は外国の捜査当局のインサイダー容疑捜査手続きを支援することはなかった。これは、スイスではインサイダー取引きに関する捜査対象行為が犯罪とはみなされなかったことによる。本条は、外国(米国を意識した)に対しインサイダー捜査の相互協力について法的根拠を与えることになる。しかしながら、連邦最高裁判所(Federal Tribunal)の解釈を始め、本規定の適用範囲は極めて狭い(機密情報の範囲や金融取引上の利益を得ること、株式市場への影響等の意義の判断等)。
② 同条に基きインサイダー取引で捜査を受けた人の数は少なく、最終的に有罪となった者もいない。
③インサイダー取引と関連して「スイスの銀行の機密保持義務(Banking Secrecy)」
について補足しておく。銀行法第47条がその根拠条文であるが、顧客との委任契約(contract of mandate)に基づくものであり、その違反行為者(取締役会等経営機能を有する機関の構成員、従業員、代理人、清算人およびコミッション・エージェント(第三者たる銀行に代って証券の売買を行うディーラーを言う))は民事責任を負うが刑事責任は問われない。

(3)スイスの証券取引に関する主な法令
 以下の法令が中心となるが、スイスではあくまで自己規制(self-regulation)原則が働いている。(筆者注11) 証券取引所のサイトでは連邦法、連邦規則、証券取引規則(指令)等の相関関係のスイス連邦議会サイトで一覧を見ることができる。なお、スイスでは公式には英語版はしようできないので、以下のリンクはドイツ語版で行った。またスイス連邦議会法令サイトで関連法にあたられたい。(筆者注11-2)

1995年3月24日証券取引所および証券取引に関する連邦法(証券取引所法、BEHG) (RS954.1)

・1996年12月2日証券取引所及び証券取引に関する政令(証券取引所令:BEHV(SR 954.11)

・1997 年 6 月 25 日証券取引所および証券取引に関するスイス連邦銀行委員会規則 (証券取引所条例- EBK、BEHV-EBK)(SR 954.193)

 また、EU独自の対応として次の4つのEU指令がスイスでも重要である。特に③および④指令が重要である。
Directive 79/279/EEC(上場に関するEU指令)
Directive 82/121/EEC(中間暫定報告に関するEU指令)
Directive 2003/71/EC(EU規制市場への発行目論見書に関するEU指令)
Directive 2003/6/EC(インサイダー取引と相場操作に関するEU指令)
 なお、スイス以外の国でも一般的に「front running」は違法行為である。これは
株式ブローカーが債券市場が動くことを予想して(その結果、株価に影響する)、顧客の注文の受ける前に自分の注文を先に執行する非倫理的な違法行為である。front runningは「買い」(その場合ブローカーは自分の勘定で買って顧客が買い注文を出す前に株価を押し上げる)また「売り」(その場合ブローカーは顧客が売り注文を出す前に自分で売って株価を引き下げる)が含まれる。これらの行為は
インサイダー取引または市場操作(market manipulation)とされる。他方、ブロカーが顧客勘定に関し買いと売り同時に行う「parallel running」取引もスイスでは違法とされる。(スイス金融アナリスト協会のベスト・プラクティス・ハンドブック(Handbook of Best Practice)第4編12~13頁参照。ただし、この解釈はメディアでは一般的でない。)
 
(4)スイスにおける金融機関の自主規制の在り方と内容
①スイス金融アナリスト協会(SFAA)は、2004年6月に「Handbook of Best Practice」をまとめ公表している(筆者注12)。5編からなるものであるが、これは金融機関そのものと言うよりアナリスト個人が自ら役職員や従業員として遵守すべき基本行動原則をまとめたものである。特に参考になると思われるのは、第3編「スイスにおける金融アナリストに関する法的枠組み(Legal Framework)」と第5編「スイス銀行協会、証券取引所、スイス経済団体連合会(Economiesuisse)(筆者注13)、スイス・ファンド協会、スイス年金基金協会(Association Suisse des institutions de prévopyance:ASIP、)の定めた行動規範サイトの言語別URL一覧」である。
②前記ハンドブックでは、各業界団体の代表的自己規制ルールの概要を紹介している
・ スイス銀行協会:現在、銀行・証券会社とともに働くファィナンシャル・アナリスト、投資アドバイザーおよびポートフォリオ・マネージャーに関する自己規制については次の3つの文書が定められている。
「2003年金融調査の独立性に関する指令」、「1997年証券ディーラーのための行動規範」、「2003年ポートフォリオ・マネジメント・ガイドライン」
・証券取引所:「コーポレート・ガバナンスに関する情報統治指令」
・スイス・ファンド協会:「スイス・ファンド業界における行動規範」

3.関係機関の動向と意見
 前述した通り、各機関が今回のインサイダー取引問題についてそれぞれの立場から意見を述べている。なお、スイス銀行協会やスイス社会保障基金は連邦政府が進めようとしているより厳格な規制監督立法については両者とも否定的である。

(1)金融監督委員会および財務省金融監督局
現在検査中と言うこともあり対外的なコメントはない。しかし、銀行監督委員会の強力な監督権限に基づく銀行や基金の法執行行為への懸念は、民間金融機関のすべてが持っているといえる。

(2)銀行協会
スイス銀行協会やスイス・プライベート銀行協会(筆者注14)は、本件についてメディア等に対し冷静な対応を求めている。スイス銀行協会の事務局長であるミシェル・Y・デロベール(Michel Y. Dérobert)氏は次のように述べている。
「スイスの年金基金分野は従来行動規範により規制されてきたが、銀行がすべての分野で規制されているのと比較すると、厳しい規制は行われていないと言える。年金は、個人が退職時にその後の生活に必要な資金確保が目的であり年金基金の運用等取扱いは極めて重要である。一方、銀行はどちらかといえばより資産家が余裕資金を再投資することを前提に運用している。その意味で、同様の規制が年金基金に適用される必要があろう。」

(4)ファンド協会
ハンスペーター・コンラッド(Hanspeter Konrad)部長は、「基金は銀行や保険会社と異なり、目下政府が考えているような法執行にあたる中央機関の設置は不要である、各基金は、自己規制原則に基づく行動規範のより厳格化を目指すべきである」と述べている。

(5)独立機関であるスイス社会保障基金(Swiss Social Security Fund )の理事長ユーリッヒ・グレーテ(Ulrich Grete)はスイスの基金運用部門に対する監督が、連邦社会保障局(Federal Office for Social Security )と各州の機関とに二元化している点が問題であると指摘している。
 さらに、「現行の連邦による法令の規制は複雑すぎ柔軟性がなく、また基金にとって非生産的であり、国の干渉を範囲の限定を求めるべきであり、あるべき論としては、年金基金の運用責任者の選任並びに運用が外部から干渉されないという意味の厳格なガイドラインを設定すべきである。すなわち、現在の制度的基本問題を解決するためには、基金におけるトップレベルの管理責任者として企業の雇用者側と従業員の双方からなる代表により構成するといった法的な根拠を明確化すべきである。」旨述べている。

***************************************************************************************

(筆者注1)EBKは2000年1月1日に施行された1999年4月18日の連邦憲法第98条において、EBKの監督活動に関する憲法上の枠組みがある。

EBKの活動とその実施規定を支配する最も重要な法的規律は、連邦法に記載されており、EBK自体も通達回状ニュースレターを発行している。

また、EBKの監督活動に関連する他の機関の特定の規制がある。さらに、EBKは、連邦財務局と連邦民間保険局と共に、規制プロセスに組み込まれた効果的な金融市場規制に関するガイドラインを策定した。(EBKのHPを仮訳)

  EBKは邦行政機関であるが、連邦参事会(Schweizerischer Bundesrat:大統領をトップとする連邦行政執行機関:わが国ではいわゆる内閣)から個別の支持を受けず独立性を持ち、また中央行政政府の一部でもない。しかしながら、行政機能上は連邦財務省に統合されており、金融部門に対する独立した幅広い監督機能を有している。具体的には次の業務を行っているが、わが国で言うと金融監督庁の機能に近いと言えよう。

 EBKの機能強化はこれだけに止まらない。EBKが発した「金融機関監督および内部統制に関する回状(circular:法令の内容に関するに基づく立法・行政機関の解釈通達のことである)」の施行日は2007年1月1日である。同回状の施行によりその内容が取り込まれたため、スイス銀行協会は自ら定めていた「内部統制に関するガイドライン」を廃止した。
 EBKは2006年10月4日に銀行、証券取扱事業者およびこれらの金融コングリマリットに対し、効果的企業統治(とりわけ法令遵守条項や説明義務条項)の重要性を強調した。しかし、一方で世界的に法制度化されている「内部通報者保護(whistlebrowing)」について、連邦議会が支持したにもかかわらず同ガイドラインではその取込みを否定している点である。

① 銀行・債券ディーラーに対する監督
② 銀行・債券ディーラー・投資ファンド業者に対すると同程度の監査法人に対する監督
③ 投資ファンド(基金)に対する監督
④ 担保付債券業務(mortgage bond business)の監督
⑤ 証券取引所と債券市場の監督
⑥ 上場企業の持株と公的な株式公開買付けの開示
⑦ マネロンに関する銀行監督、債券ディーラーおよびファンド・マネージャーの監督
⑧ 銀行および証券ディーラーの倒産と再建に関する決定

以上の関係から、SFBCは財務省金融局とともに中央銀行であるスイス銀行(Schweizerische Nationalbank)との連携を保っている。


【補追】2022.2.23

  スイスの銀行は連邦金融市場監督機構(Eidgenössische Finanzmarktaufsicht FINMA)によって規制を受ける。2007 年 6 月22日に成立した「連邦金融市場監督機構法」(Federal Act on the Swiss Financial Market Supervisory Authority, FINMASA)に基づき、2009 年 1 月に FINMA が設立され、前身の連邦銀行委員会(Swiss Federal Banking Commission)が実施していた銀行監督業務を継承した。
同時に、連邦民間保険局(Federal Office of Private Insurance)、マネーロンダリング取締機構(Anti-Money Laundering Control Authority)も FINMA に統合され、ここに銀行、保険会社、証券取引会社、投資信託会社等の金融仲介機関及びマネーロンダリング等を横断的に規制・監督する体制が構築された。FINMA は規制対象の金融機関へ免許の発出権限を有し、法律、命令等の遵守状況を監督する。また、組織的、機能的、財政的にも連邦政府から独立し、連邦議会に直接報告を行う。(FINMAのHPを仮訳)

FINMAサイトの注書き連邦憲法、連邦法規制、SFBCガイドラインの公式テキストに関する限り、英語では入手できない。したがって、ドイツ語またはフランス語で相談することができる。英語は公用語ではないため、SFBCは英語で公式翻訳を行っていない。

(筆者注2)連邦財務大臣のハンス・ルドルフ・メルツ(Hans-Rudorlf Merz)氏は、インサイダー取引・情報管理に関する規則強化を明言している。また、スイス連邦財務省の組織図を掲げる。

(筆者注3)Swissinfoニュースは世界的な観点で比較すると珍しいことに日本語バージョンがある(ドイツ系のメディアでは比較的日本語バージョンが多い)。ただし、同ニュースでは、法律や金融制度に関する専門的な解説はない。誰がいくら儲けたといった偏ったメディアの視点がぬぐいされないといった方が正確か。

(筆者注3-2)トーマス・マター氏はその後政界に移り、すなわち2011年5月、チューリッヒ州のスイス国民党(SVP)の代表者から国民評議会の候補者として指名され、選挙では25位から14位に上がることができた。2014年5月末にクリストフ・ブロッチャーが驚くほど辞任したため、私は2014年6月2日に国民評議会のメンバーとして宣誓され、2015年10月に再選された。2016年4月からは、スイスの党指導部の一員であり、財政担当も務めている。(トーマス・マター氏のHP から抜粋)。

(筆者注4)連邦議会(下院)は、2006年8月末に行った年金基金のファンド・マネージャの銀行口座内容に対する年次監査において、基金の運用管理面のより厳格な透明性確保を求めている。

(筆者注5)http://www.fsa.go.jp/news/18/singi/20061121-2.html

(筆者注6)スイス連邦年金協会(Pensionkasse des Bundes:PUBLICA)はインサイダー騒ぎの中、保有していたスイス・ファースト銀行株を2005年2月28日から同年9月7日までにすべて売却しているが、株価の下落を予想した取引きかどうかについては否定している。なお、PUBLICAは分かりやすく言うと「連邦公務員等共済年金基金協会」である。連邦司法機関・行政機関・議会の官吏、その他政府関係機関の従業員が加入している年金基金である。
http://www.publica.ch/publica/de/news/artikel/00095/index.html
PUBLICAの年金は3本柱からなっている。詳しくは以下のURL(独語、仏語のみ)を参照されたい。
http://www.publica.ch/publica/fr/unternehmen/versichertenkreis/index.html

(筆者注7)新聞記事によれば、家宅捜査により押収された文書は、詐欺、着服、不適切な商取引およびインサイダー取引に関する立件証拠となりうるものとされている。

(筆者注8)http://www.admin.ch/ch/d/sr/311_0/a161.html

(筆者注9)わが国では第194回国会で「証券取引法等の一部を改正する法律」が成立し、2006年7月4日から施行された。この改正によりインサイダー取引は5年以下の懲役、500万円以下の罰金(併科もある)が科されることとなった。また、行為者が法人の業務や財産に関してインサイダー取引を行った場合は、当該法人に対し5億円以下の罰金が科されるといった罰則強化が行われた。特に上場会社に関する重要情報や株価に影響を与える各種内部情報(内部者情報)に接しうる人間が公表前にそれら情報を基に株式の売買を行うケース等が要注意であろう。

(筆者注10)罰則の内容について証券取引所の研修テキストや法曹家による解説では、インサイダー取引の情報提供者(insider)は禁錮3年以下または罰金(併科もある)、情報を得た者(tippee)は禁錮1年以下または罰金と説明している。正確を期す意味でスイス刑法におけるインサイダー取引の罰則規定に関し連邦政府に直接確認するつもりである。

(筆者注11) 金融規制機関であるFINMA  (スイス連邦金融市場監督機構)が、「Self-regulation in Swiss financial market law」と題して詳しく解説している。

(筆者注1-2) 参考として主な金融法名称とコードをあげる。

950 金融業務

951 スイス国立銀行

951.2 公法に基づくその他の信用機関

952 銀行および貯蓄銀行

954 証券

954.1 連邦金融法(FINIG)

954.11 金融機関法施行規則(FINIⅤ)

955 資金洗浄

(筆者注12) http://web.sfaa.ch/web/gw_svfv.nsf/TreatAsHTML/id_8820CCBD040D476FC1256FC000402976/$File/Handbook_of_ethics_binder_version_june_04_final.pdf

(筆者注13) http://www.economiesuisse.ch/d/webexplorer.cfm?ms_sid=0&ddid=BDE0BDCE-5B22-46B8-ADF77B91E1AE597E&id=351&lid=1

(筆者注14) スイスのプライベート・バンクは小さい銀行を含めると400位あるといわれているが、現在も吸収合併が進んでいる(同協会のサイトでは加盟行数は14行である)。老舗プライベートバンクとして有名なのが、ピクテ(Pictet & Cie)とダリエ・ヘンチ(Lombard Odier Darier Hentsche & Cie)等であるが、いずれも200年以上の歴史を持つ。
 スイスのプライベート・バンクは顧客の資産に対してどこまでも責任を負う(無限責任)パートナー・シップ形態をとっている。このパートナー・シップ形態のプライベート・バンクの顧客は顧客資産の3分の2は銀行に運用を任せる一任勘定業務が占めている。資産の保全にも力を入れて何世代にもわたる顧客を持ち、非居住者の利益収入に税金がかからない。スイスのプライベート・バンクのサービスが通常の銀行業務と違う点は一任勘定業務も含め、トラスト(信託)、ファンデーション(財団)の設立、管理、運営の一切を委託可能なことと、銀行名義で取引ができることが挙げられる。

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米国連邦証券取引法に基づく電子メールの保存規則違反で和解金1500万ドルを支払う

2006-06-17 18:40:52 | 金融機関等の法令遵守

 

Last Updated: Febuary 21.2022

 6月10 日付の本ブログでも紹介した米国企業改革法(SOX法)の対応問題に関連する課題として、内部統制強化に欠かせない「文書化作業と保存・管理対策」が昨今話題となっている。(筆者注1) とりわけインターネット・トレードの普及がわが国でも個人投資家を中心に急速に拡大する一方で、米国では電子メール・データの保持を義務づける米国証券取引委員会(SEC)規則17条a-4 (筆者注2)や全米証券業協会(NASD)運営規則3010条(筆者注3)等の遵守義務が厳しく監督機関から求められており、最大手証券会社モルガン・スタンレー社が去る5月19日にSECとの民事裁判(コロンビア連邦地裁)で和解に応じた。
 わが国では、電子メールのみによる注文取引は行われていないため、電子メールの保存にかかる実務レベルの厳格な規則はないようであるが (筆者注4)、金融取引における一般原則としては取扱いルールの明確化は今後重要な課題となろう(筆者注5)

1.原告と被告
原告;証券取引委員会(ワシントンD.C.)、被告;モルガン・スタンレー社(ニューヨーク州)

2.起訴理由
 (1)被告は少なくとも、2000年12月11日から2005年7月の間になされた原告における2つの調査(新規株式公開における株式割当ての実施状況、②同社の調査結果と投資銀行間の利益相反の実施状況)に関し、召喚状(subpoena)その他の請求に反し数万件の電子メールの作成を怠った。その結果、連邦証券規制法に基づき証券仲介業者・売買業者に課されるところの原告に適時に提出すべき文書の作成義務規定に違反した。

(2)被告は、前記の2つの調査に関し、2005年までの約4年間にわたり顧客とのやり取りを記録した電子メールを記録すべきバックアップ用磁気テープの作成を真摯に行わなかった。その結果、数千本のバックアップ用テープに記録されるべき電子メールの適時の作成を怠った。これら磁気テープは遠隔地保管業者(off-sight storage provider)となる被告の事務所又は関連会社において読み取り可能なものでなければならないものであるが、今日まで記録されるべきであった1,430万件の電子メールが保管されずに放棄された。

(3)原告の調査の間、被告は一定の電磁的記録文書の作成およびその完全性ならびに一定の文書の使用不可について誤った説明を行った。例えば、原告の調査の際に1999年分電子メール用バックアップテープは保管していないと述べたが、事実は同年以降のの電子メール用の数本のテープは存在した。被告は2005年からテープの作成を始めたのである。

(4)被告は投資分析調査(Research Analyst Investigation)において請求された電子メールの提出が遅らした。その原因は「検索可能電子メール・システム(the E-MAIL Archive)」へのローデイングが遅延し、その結果応答済(responsive)の電子メールの検索が行なかったことにある。被告の担当者は原告に対し電子メールの作成は完全であると述べていたが、同社の「the E-MAIL Archive」対応の優先度は低く、完全でなかった。

(5)被告の担当者は磁気テープの書き込み過ぎにより、2001年1月に約20万件の電子メールを破壊してしまった。その一部は原告の召喚状の対象となるものであった。

(6)以上の被告の作成義務違反行為により、原告の連邦証券取引法違反に関する効率的調査および法律遵守状況調査ならびに違反性の判断を遅らせた。

(7)本民事告訴状(Complaint)に記述のとおり、被告は「1934年連邦証券取引法(15 U.S.C.§78q(b)」(筆者注6)および「証券取引委員会規則(17 C.F.R. §240)17a-4条(j)」に定める作成義務違反が本裁判所において支持されることを希望する。原告は、被告の今後の違反行為の恒久的差止めと民事制裁金処分(civil Monetary Penalties)を求めるものである。

********************************************************************************

(筆者注1) IT化の取組みの中で今後規模にかかわらず各企業が最も悩む点の1つが電子化された法定書面の保管システムや膨大な量にのぼる電子メール等の保管問題やさらにはコンピュータ・フォレンジックス対応であろう。内部統制の有効性を担保するため文書が電子化されるとともに当該文書のデータの有効性の要件としては、①原本性の証明(改ざん・偽造のないこと、)、②盗難・盗聴対策、③保存データの変化・消失防止、④なりすまし対策・否認対策等の脅威対策がとられていることが挙げられる(NTT DATAの資料より引用)。なお、わが国の文書の電子化に関する法制整備の推移と概要もここで整理しておく。
(1)1998年(平成10年)7月1日施行「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」(平成10年3月31日公布法律第25号)
:納税者等の国税関係帳簿などの保存負担軽減のための、所得税法等に関する特例を定めた法律。その後7回にわたり改正されており、最新の改正は2005年3月31日の一部改正(施行は2005年4月1日)
(2)2001年(平成13年)4月1日施行「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(IT書面一括法)」(平成12年11月27日公布法律第126号)
:電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法に関する法制整備
(3)2001年(平成13年)4月1日施行「 電子署名及び認証業務に関する法律」(平成12年5月31日公布法律第102号)
:電磁的記録の真正性な成立の推定、特定認定業務に関する制度などを定める法律。最新の改正は2006年3月31日の一部改正(施行は2006年4月1日)
(4)2005年(平成17)年4月1日施行「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(e-文書法)」(平成16年12月1日公布法律第149号)
:政府の代表的なIT政策であるe-Japan戦略II加速化パッケージにおいて提言された「e-文書イニシアティブ」すなわち「法令により民間に保存が義務付けられている財務関係書類、税務関係書類等の文書・帳票のうち、電子的な保存が認められていないものについて、近年の情報技術の進展等を踏まえ、文書・帳票の内容、性格に応じた真実性・可視性等を確保しつつ、原則としてこれらの文書・帳票の電子保存が可能となるようにすることを、統一的な法律の制定等により行う」というものである。この統一的な法律が「e-文書法」である(NTTデータ経営研究所レポートから引用)。前述の法律等により、これまで電子文書(最初から電算機を使って作成した文書データ)は文書と認められてたが、紙文書をスキャナで取込んだ電子化文書(イメージ化文書)は文書と認めておらず、そのため紙文書を廃棄できなかったが、この法律によって電子化文書も一定の要件で認められ、紙文書の廃棄が促進されると予想される。なお、2005年5月に経済産業省は「文書の電磁的保存等に関する検討委員会の報告書(文書の電子化を促進するためのガイドライン)」を公表している。http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-doc/kentouiinkai_houkokusyo.pdf
また、同法施行規則(平成17年3月29日付経済産業省令第32号)のURLは次のとおり。
http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/e-doc/syourei.pdf

(筆者注2) や米国においても極めて一般的に引用されるSEC規則17a-4であるが、その内容についての法的な意味での正確な解説はあまり見ない。どちらかと言うと電子文書のバックアップやアーカイブ技術の必要性を説く企業サイト(シマンテック、ベリサイン、ヴェリタス等)の情報が中心である。本来的には、比較金融制度、比較法の観点からは欠かせない作業と考えるが、今回は同項に関するSECの解釈集条文を紹介しておく。

 なお、SEC規則等に内容について要約した資料がヴェリタスの日本語サイトにあるので参考にされたい。
http://eval.veritas.com/ja/JP/downloads/pro/ev_wp_compliance_ostermanresearch.pdf

(筆者注3) NASDの運営規則(Supervision)3010条は、加盟証券会社に対する米国証券取引法など規制・監督法の遵守内容を確認する際の最低条件を定めるものとしてある。また、監督に当たってあくまで最終責任は個々の証券会社にあると明記されている。なお、遵守義務の強化を図る目的で同規則同条C項の改正が行われ、本年7月3日から施行される。

(筆者注4)わが国のインターネット・トレードのサイト例で見ると以下のような説明がある。
「電子メールは、補完的な連絡手段として利用します。電子メールによる注文は受付けていません。登録した電子メールアドレス宛に、当社から新規公開株式、セミナー等の案内に関する電子メールを送信する場合があります。」
なお、日本証券業協会が2005年12月に取りまとめたガイドライン「インターネット取引において留意すべき事項について」において、①取引公正性の確保および顧客との紛争の未然防止のため、ホームページ又は電子メールによる交信内容について一定期間、記録することが望ましい、②法令により記録の保存義務がある法定帳簿書類のほか、ホームページ又は電子メールによる交信の内容についてもその重要性等必要に応じ保存(改ざん防止策も含め)することが考えられる、と記されているのみである。

(筆者注5)金融商品のオンライン広告、例えば「ミューチュアル・ファンド(オープンエンド型投資信託)」の商品性からみた複雑性に対する証券取引法等法規制のあり方について「デューク・ロー・スクール」論文がある。http://www.law.duke.edu/journals/dltr/articles/2001dltr0019.html

(筆者注6) 同条文のURL;15 U.S. Code § 78q–2 - Automated quotation systems for penny stocks | U.S. Code | US Law | LII / Legal Information Institute (cornell.edu)

〔参照URL〕
SECのコロンビア連邦地裁に対する告訴状;http://sec.gov/litigation/complaints/2006/comp19693.pdf
解説記事;http://www.out-law.com/page-6931http://www.law.com/jsp/article.jsp?id=1147251933246
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