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ブリンケン米国務長官は非公式の中国調整事務所(China House)を発足を主宰―米国の対中国戦略が本質的に変ったのかー

2022-12-17 14:08:41 | 国際政策立案戦略

 11月17日朝、筆者の手元に米国務省からのリリース「ブリンケン国務長官は非公式の中国調整事務所(China House)を発足を主宰」が届いた。

 この“China House(以下、「チャイナ・ハウス」という)”の立ち上げの話は、今年の5月26日、国務長官がバイデン政権の今後のアプローチに関するジョージ・ワシントン大学での幅広いスピーチの中で「中華人民共和国に対するバイデン政権のアプローチ」と強く語った中で、米国の戦略に関する発表を受けたものである。

 筆者の手元には、これ以上に具体的な情報はないが、今後、米国や主要国のメディアが取り上げる中で、わが国の対中国の姿勢を考えるうえで最重要課題としてCNNやフォーリン・ポリシー記事等で補完しつつ、本ブログで取り上げるものである。はたして、米国の対中国戦略が本質的に変ったのか。

1.12月16日の国務省のリリース文(仮訳)

 このチャイナ・ハウスは、米国政府が中華人民共和国(以下、「中国」という)との競争を責任を持って管理し、オープンで包括的な国際システムに対する米国のビジョンを前進させることができることを保証する。チャイナ・ハウスを創設する我々の目標は、中国に対する政権のアプローチの要素を実現するのを助けることである。

 チャイナ・ハウスは、国務長官の近代化課題の重要な要素であり、この課題に対応し、今後10年の機会をつかむために部門を装備することに焦点を当てている。長官と国務省の指導部は、私たちが直面する最も複雑で重大な地政学的課題である中国に対する米国の政策と戦略を成功裏に実行するための人材、ツール、リソースを確保することに尽力している。

 国務長官が12月16日の発言で述べたように、チャイナ・ハウスは、国務省全体および同省外から中国専門家のグループを集めて、すべての地域局の同僚や国際安全保障、経済、技術、多国間外交、戦略的コミュニケーションの専門家と肩を並べて作業する。それは部門全体にサービスを提供するものである。

 両国間の調整の改善は、国務省からのより機敏で一貫性のある政策を意味する。これは、同盟国やパートナーと協力し、国務省が協力するすべての国とさらに深く関与するためのより良い立場にあることを意味する。

 新オフィス(チャイナ・ハウス)に関するお問い合わせは、下記までお願いする。 EAP-Press@state.gov

2.CNN記事での補完

  米国の最新動向をフォローすべく仮訳したが、前述の国務省のリリースとの重複を極力避けた。

 この発表は、ジョー・バイデン大統領が中国の習近平国家主席と会談してから約 1 か月後に行われた。中国を世界秩序に対する「最も深刻な長期的」課題と呼んでいるアントニー・ブリンケン国務長官も、2023年早々に同国を訪問する予定である。

 米国と中国の間の気候協力に関する正式な協議も、バイデン大統領と習近平主席の間のより広範な一連の合意の一環として再開される予定であると、2人の米国当局者は11月CNNに語った。

 また、CIA は2021年、中国に焦点を当てた部隊を立ち上げた。国務省での新たな取り組みは、ブリンケンの省全体にわたる近代化の取り組みの一環である。

 ブリンケン長官は2022年初め、バイデン政権の中国へのアプローチについてスピーチを行った際に、チャイナ・ハウスの打ち上げを予告した。

 その際、ブリンケン長官は「中華人民共和国が提起する挑戦の規模と範囲は、これまで見たことのないようなアメリカの外交を試すだであろう。チャイナ・ハウスは外交官に「正面から彼らがこの挑戦に対処するために必要なツールを与えるだろう」と付け加えた。

 政府高官は、新しいチャイナ・ハウス・オフィスは中国に焦点を当てた外交官の数を拡大すると説明した。また、さまざまな機関からの米国政府職員がチャイナ・ハウスを巡回し、機関間の取り組みとなる。

3.2021.9.21 フォーリン・ポリシー記事「国務省は北京に対抗するために『チャイナハウス』を計画」

 以下、仮訳する。決して平易な内容ではない。しかし、国際戦略に熟知していないわが国メデイアにとって格好の研究材料であろう

 米国務省は、世界の主要国における北京の足跡の拡大を追跡するために、中国の監視に専念する当局者の数を拡大することを計画している。この変更には、20 人から 30 人のスタッフの追加が含まれる可能性があり、中国の地域「監視」担当官の増強が含まれる。これは、国務省の地域支局の下で、世界中の北京の活動を追跡するためにトランプ政権中に最初に作成された担当官のカテゴリである。

 この国務省(Foggy Bottom)の変化は、ジョー・バイデン米大統領の政権が、20年間の費用のかかる中東戦争から中国との長期的な世界的競争へと転換しようとしているときに起こった。国連総会でのデビューである大統領演説で、バイデン大統領は他の大国と「活発に競争する」ことを誓い、ワシントン(米国)は「新しい冷戦や厳格なブロックに分割された世界を求めていないと述べたが、彼は「中国」の名前については言及しなかった。

 国務省の中国監視官の最初の幹部は2019年に配備された。しかし、このプログラムの出現は、トランプ政権の初期に内紛を引き起こしたとある元トランプ政権の高官はフォーリン・ポリシーに語った。中国へのより対立的なアプローチに反対した一部の上級外交官は、「中国の監視官」を指名するという考えを押し戻した。2017年から2018年までアメリカ合衆国国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めたスーザン・ソーントン(Susan A.Thornton)氏(注)は、このプログラムを「悪い考え」と呼んだ。

Susan Thornton氏

 スーザン・ソーントン氏は、このプログラムは「世界中の大使館に配属された人々を連れて行き、中国がその国で何をしているのかを「監視」することを彼らに課している。それは私たちが中国の活動の周りに今見ているような誇大宣伝と歪みを引き起こす。それが私がそれが悪い考えだと思った理由である」とソーントンは語った。

 「これが現在の歪みの唯一の、あるいは主な推進力ではないが、それは貢献者ある」と彼女は付け加えた。

 ソーントンの辞任後、国務省が中国に対する制裁をより効果的に標的とし、中国のスパイ活動を鈍らせるための取り組みを強化していた連邦司法省と同財務省に追いつこうとしたため、このプログラムはますます進んだ。米国メディアであるブルームバーグは8月に、CIAはまた中国のスパイ活動に対処するための独自の特別部隊を設立する計画を検討し、米国の国家安全保障官僚機構が北京との米国の地政学的競争の新時代にどのように適応しているかを明らかにしたと報じた。

 トランプ政権の元高官は「中国の標的に対する制裁パッケージを構築する場合は、それを実行できる必要がある。統一戦線組織がこのように構成されているのか、そのように構成されているのかを伝えるために諜報機関を整理しようとしている場合は、適切な専門知識を持ち、適切なツールを必要とする人々が必要である。国務省の中国デスクは、そのようなために構造化されたことはない」と述べている。

 「これは中国には存在しなかった完全な姿勢である。事実上、歴史的に言えば、昨日まで、私たちはまだ中国が私たちの友人になりたいと思っていたからである」と元当局者は付け加えました。

 新しい国務省のプログラムは、テロ対策の取り組みを調整するための省庁間プログラムを模倣して、さまざまな連邦政府機関で中国に取り組む当局者を牧畜することを目的としている。このプログラムの批評家の中には、国務省に中国に対する近視眼的な見方を与え、中国の影響力を膨らませ、米中の緊張を不必要に誇大宣伝する可能性があると懸念する人もいる。また彼らは、それがすでに面倒なシステムに官僚主義の新しい層を追加する可能性があると心配している。

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(注)スーザン・A・ソーントン氏

イエール・ロースクールのポール・ツァイ・チャイナ・センター客員法務講師兼シニア・フェローである。ユーラシアと東アジアの米国国務省で約 30 年の経験を持つ退職した米国の上級外交官。彼女は現在、イェール・ロー・スクールのポール・ツァイ中国センター(Paul Tsai China Center)で法学のシニア・フェローおよび客員講師を務めている。彼女はまた、全米外交政策委員会のアジア太平洋安全保障フォーラムのディレクターであり、ブルッキングス研究所の非常勤上級研究員でもある)

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米国の国務省ボニー・デニス・ジェンキンス特命大使・軍備管理・国際安全保障担当国務次官とのオンライン記者会見とNPT問題

2022-08-28 14:58:51 | 国際政策立案戦略

 ボニー・デニス・ジェンキンス特命大使(注1)・軍備管理・国際安全保障次官(Ambassador Bonnie Denise Jenkins, Under Secretary for Arms Control and International Security)(注2)は、特にザポリージャ原子力発電所に関連して、軍備管理と不拡散について説明、議論している。

 彼女は国連のNPT問題の米国特命大使であり、当然多くの機会に米国の立場、考え等を表明し、議論の中心人物である。

 彼女は採択の前日という重要な時期にこのようなオンライン記者会見に応じた背景は不明であるが、筆者はジェンキンス特命大使のメッセージの内容が気にいった。すなわち日頃お目にかかる、国務省長官や国務省のプライス報道官の説明よりもより丁寧である点である。

 さらに、わが国のメヂイア記事には出ない点であるが、第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の中で最初の週に、米国と国連軍縮局(UNODA)は、数百人の外交官、政策立案者、市民社会代表を集め、核不拡散・軍縮における多様性、公平性、包摂性の役割について意見交換を行った。

 8月3日に行われたこのイベントは暫定的な参加者リストによると、すべての軍縮・不拡散の意思決定プロセスに女性が平等で完全かつ効果的に参加するというコミットメントにもかかわらず、8月1日から26日まで国連本部で開催されるNPT運用検討会議への代表団長の5人に1人(18%)未満が女性である。比較のために、代表団の長の22%は2015年再検討会議で女性であった点である。

 なお、今回のオンライン記者会見では8月26日にロシア1国の反対で最終文書の採択が決裂結果に終わった国連核不拡散条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons :NTP)の再検討会議の問題は言及されていない。

 この問題については、筆者はLinkedin経由等で個人的にジェンキンス氏に直接照会するつもりである。

 なお、記者等の写真は公表されている範囲で筆者の責任で引用した。

1.オンライン・ブリーフィング(オンライン記者会見)の内容

国務省サイトを引用、仮訳する。

司会者(ジョン氏):皆さん、こんにちは、本日、国務省のブリュッセル・メディア・ハブ(Brussels Media Hub)(注3)のバーチャル・プレス・ブリーフィングにご参加いただいた皆様をお待ちしています。本日は、ボニー・デニス・ジェンキンス軍備管理・国際安全保障国務次官がおいでいただいたことを大変光栄に存じます。

最後に、今日のブリーフィングが記録に残っていることを思い出させ、それでは始めましょう。ジェンキンス次官、本日は、非常にタイムリーなブリーフィングにご参加いただき、誠にありがとうございます。開会の挨拶につき、今、あなたに引き渡します。

ジェンキンス大使:参加してくださった皆さん、そして紹介してくれたジョンに感謝します、ジョン、ブリュッセル・メディア・ハブのディレクターとしてのあなたの新しい役割について、おめでとうございます。このハブは、米国の政策立案者や専門家を欧州のメディアと結びつけるために、米国国務省の不可欠な部分である。またここにお集まりいただき、皆様とお話しできることを大変嬉しく思う。

さて、私は本日、(1)ウクライナのザポリージャ原子力発電所で発展しつつある状況、(2)ロシアの全面的な侵略の結果、そして(3)核兵器国としての無責任な行動のもう一つの例について話すためにここにいる。

ロシア連邦とプーチン大統領は、今年初めにウクライナをさらに侵略して以来、既に二度、核事件の脅威で国際社会を揺さぶってきた。すなわちウクライナ侵略の最初の日にチェルノブイリ原子力発電所(Chernobyl Nuclear Power Plant)を占領し、その後、ロシアの侵略の文脈で挑発的な核に関する美辞麗句(nuclear rhetoric)を使用することによってである。

チェルノブイリ(Chernobyl)は、占領から5週間後、ウクライナの完全な支配下に戻ったが、施設に損傷がないわけではない。そしてもちろん、ロシアの核サーベルのガタガタ音は、2022年の1月上旬に、ロシアが他の4つの核兵器保有国との共同声明で、核戦争に勝つことはできず、決して戦ってはならないという原則を再確認したことを考えると、特に厄介な問題であった。

 ザポリージャ原子力発電所でのロシアの行動は、ウクライナの人々と環境だけでなく、近隣諸国と国際社会全体を脅かす可能性のある核事故(危険な放射線放出)の深刻なリスクを生み出した。

 もしロシアがザポリージャ原子力発電所(Zaporizhzhya Nuclear Power Plant)の支配権をウクライナに返還し、ウクライナの主権領土から完全に撤退すれば、放射能放出のリスクはほぼ排除される可能性がある。ロシアは原発周辺の軍事作戦を直ちに停止し、そこで働くウクライナ人スタッフがロシア軍の強要から解放され、責任を果たせるようにすべきである。またロシアは、国際原子力機関(IAEA)の専門家への安全なアクセスを確保し、原発のあらゆる側面の安全性とセキュリティを評価し、IAEAの「原子力安全とセキュリティの7つの柱(IAEA’s Seven Pillars of Nuclear Safety and Security.)」(注4)を支持することにコミットすべきである。

 ロシアの継続的な無謀な行動は驚くべきことではない。ウクライナを地政学的実体として解体し、世界地図から解体するという彼らの最終目標を受け入れるよう国際社会に強要するのは、彼らの作戦の一部だ。ウクライナは主権国家であり、独立国家であり、ウクライナや他の主権国家にとって、そのような運命を受け入れることはできない。

 アメリカ合州国は、ウクライナと団結し続けている。

 我々は、2021年1月のバイデン・ハリス政権発足以来、135億ドル(約1兆8500億円)以上の軍事援助を提供しており、そのうちの128億ドル以上は、ロシアが2月24日にウクライナに対する計画的で、いわれのない、残忍な戦争を開始して以来である。

 8月24日、バイデン大統領は、ウクライナ安全保障支援イニシアティブ(USAI)の第4トランシェを発表した。これは、ウクライナにこれまでコミットされた安全保障支援の最大の単一パッケージであり、ウクライナが防空システム、砲兵システムと弾薬、C-UAS、レーダーを取得することを可能にする。(注5)

 米国は、ウクライナがその主権と領土を守るために支援するために必要な安全保障支援を提供し続ける。

 また、核兵器不拡散条約(NPT)の190以上の締約国が、核兵器の拡散防止、核軍縮の達成、原子力の平和的利用の促進のために、国際社会がどのように協力していくかについて、ハイレベルかつ激しい議論を行っているニューヨークから電話を差し上げる。ロシアの進行中の行動は、これらの利益を直接損なっている。

 NPTは50年以上にわたり核不拡散体制の礎石として位置付けられてきましたが、8月26日は第10回運用検討会議の最終日を迎える。交渉を終えるにあたり、我々は、この極めて重要な多国間協定を強化するだけでなく、我々を繁栄させ、70年以上にわたって繁栄させてきた国際ルールに基づく秩序が、我々全員が責任を持って協力する限り、平和と調和をもたらし続けることを再び証明する真の機会を得るだろう。

司会者:大使、開会の挨拶をありがとうございました。多くの質問が寄せられていますが、そのうちのいくつかは同じ内容をたどっています。ベルギーのルイーズ・フランシス(原文どおり)から:「大使、IAEAの原発訪問がいつ行われるか知っていますか?その日付はいつか? そして、訪問がどのような条件下で行われるか知っていますか?

ジェンキンス大使:ベルギーのルイーズさん、ありがとうございました。あなたが知っているように、これは非常に流動的な状況であると言いたい。したがって、我々はIAEAの訪問を引き続き強く支持し、それを実現するためにパートナーと協働する。先ほど申し上げたように、IAEAがザポリージャ発電所を訪問することが許されることは非常に重要です。現在、IAEA総局であるグロッシ事務局長は、できるだけ早くチームを率いる意思があると繰り返し述べている。それがいつになるか、そしてその周りの詳細は、もちろん、私は彼らに委ねます。しかし、先ほど申し上げたように、IAEAの原子力発電所訪問の重要性を、私たちは断固として強調したいと思う。

司会者:ありがとう。ブルガリアのモムチル・インジョフ(Momchil Indjov)さんからの次の質問です。「原発からバルカン地域への潜在的な脅威に関する情報をお持ちですか?もしそうなら、その脅威が何であるか、具体的に教えてください。

Momchil Indjov 氏

ジェンキンス大使:はい、その質問もありがとうございます。もし核事故や放射線放出があれば、それはウクライナだけでなく、近隣諸国や国際社会全体でも感じられるだろう。ですから、私が言いたいのは非常に重要なポイントです ― この地域の国々だけでなく、多くの国々への関与と影響ですそして、ご想像のとおり、人道的、経済的影響ももたらします。だから、ロシアは原発の支配権をウクライナに返還し、ウクライナでのあらゆる軍事活動を停止しなければならないのだ。この世界の歴史上、原子力発電所が戦闘地域の一部になった場所はどこにもないので、これは本当にすぐに停止しなければなりません。

司会者:ありがとう。日本の元日本テレビの稲木節子さん(筆者注6)からの次の質問です。「IAEAの使命を実現する上で最も困難な課題は何でしょうか、そして、もしそうであるならば、IAEAは現場の安全とセキュリティを確保するために、より長い期間、現場にいるのでしょうか?

ジェンキンス大使:実際、現時点で最も困難な課題は、IAEAがウクライナの主権を尊重する方法で実際にサイトにアクセスすることです。そしてもちろん、ロシアには、現場でのすべての軍事作戦を停止する必要があります。ですから、基本的な詳細については、もちろん、IAEAについて言及します。

司会者:ありがとう。ウクライナのジャーナリストInter TVのドミトロ・アノプチェンコさんからのいくつかの質問を取り上げます。あなたの視点では、原発施設の周りに非武装地帯を作るという考えはどれほど現実的ですか、そしてロシアはこの計画に同意することをどうして強制されるのでしょうか?

Dmytro Anopchenko氏

ジェンキンス大使:もちろん、原発の近くで戦うことは危険で無責任であり、その点を何度も何度も強調する必要があることは本当に重要だと思います。したがって、我々が見てきたように、我々は、ウクライナの核施設内またはその周辺における全ての軍事作戦の停止及びウクライナへの完全な支配権の返還を引き続き強く求めます。そしてもちろん、これらの原子力発電所の周囲に非武装地帯を作ることは、私たちが強調し続けていることです。

司会者:ありがとう。あなたが気にしないなら、私は - 彼らの手を挙げているジャーナリストのカップルがいます。私はそれらの質問の1つに行きたいと思います。

司会者:ワシントン・ポストのジョン・ハドソン氏につなげますか?

John Hudson氏

質問:こんにちは、ありがとう。ウクライナの国営原子力会社大使は本日、砲撃といくつかの火災の後、発電所が初めてウクライナの電力網から完全に遮断されたというリリースを発表した。これを確認できますか? それが一般的に原発にもたらすリスクについてだけでなく、放射性事象の点でより広いリスクに関しても、私たちに全く教えていただけますか?

ジェンキンス大使:まあ、残念ながら私はそうではありません - 私はそれらの報告が実際に真実であるかどうかを確認できる情報を今持っていません。だから私はこの時点で提供できる情報を持っていません。しかし、私たちは発電所のいずれかをオフにすることについて非常に心配しています。私たちは、実際に何が起こっているのか、そしてそこで起こっていることの直接的な影響となり得るものを見るための適切なアクセスを持っていないので、特に起こっている活動のいずれかについて非常に心配しています。ですから、今、あなたに確認できるものは何もありません。

 つまり、私はそれらの報告のいくつかも聞いたことがあります。私たちはそれに何らかの妥当性があるかどうかを確認しようとしています。しかし、強調すべき重要なことは、物事を遮断するにせよ、物事をオフにするにせよ、ウクライナ国民、近隣の団体に明らかに直接的な影響を与え、あらゆる種類の潜在的な核事故、起こりうる放射性事故を懸念し、ロシアがサイトから撤退し、ウクライナに制御を返還し、IAEAにアクセスすることの重要性を再び強調したいということです。彼らは実際に発電所内で何が起こっているのかを見ることができる。

司会者:今回はイタリアからのQ&Aボックスの質問のいくつかに戻ります。Il FoglioのMicol Flammini氏「ロシアは、核の脅威が食糧危機だったとき、小麦取引でそうであったようなことを達成するためのツールとして核の脅威を使用しているのか?

Micol Flammini氏

ジェンキンス大使:冒頭の挨拶で申し上げたように、ロシアは核兵器国として無責任な行動をとっています。そして残念なことに、彼らがベールをかぶった脅威を使って自分の道を行くのはこれが初めてではありません。ですから、私たちがそこで心配していることです。

司会者:ウクライナに戻って、RBC-ウクライナ通信社のオレクサンドル・キミッチさん:「アメリカ合州国は、原子力発電所で何らかの災害が発生した場合に直ちに取られる制裁と他の反応の具体的なリストを直ちに発表すべきではないだろうか?

ジェンキンス大使:実際、目標は、原発で大惨事を起こさず、ロシアに、全ての軍事行動を終わらせ、ウクライナに完全な支配権を返還するよう要求することで、原発事故件を避けるべきである。

司会者:質問はジェニファー・ハンスラーだと思います。

Jennifer Hansler氏

質問:私はちょうどフォローアップしたかった。核の大惨事を起こさないことが目標であることは承知しているが、もしそうなれば、ザポリージャの最悪のシナリオを緩和する方法について、今、積極的な計画があるのだろうか?そしてまた、もし彼らがウクライナ人に支配権を返還することを拒否し、そのような大惨事を引き起こすのをロシアに負わせる方法についての議論はあるか?

ジェンキンス大使:さて、ご想像のとおり、私たちは議論を続けています。私たちはここ国連安全保障理事会で多くの機会を得ました。私は約2週間前に安保理に出席しました。私たちはこの問題について議論しました。我々全員 - かなりの数の国々が、ロシアが原子力発電所、ザポリージャ原子力発電所から撤退することの重要性を強調したと言える。非武装地帯の重要性、スタッフの安全、IAEAアクセスの重要性を強調する機会がありました。

 ですから、私たちは、私が強調したこれらすべてのことを行うことの重要性をロシアに印象づけ続け、核兵器国として説明責任を果たし、核兵器国として責任を負うために、できる限りの可能性を秘めてきました。

 あなたの最初の質問では、その点で、具体的にどのような行動が起こっているのか、という点では言えません。しかし、明らかにそこには潜在的な問題の認識がある。私たちは皆、潜在的な核事故を心配しています。私たちは皆、ロシアの無責任な行動に基づいて漏れる可能性のある放射線を心配しています。ですから、私たちは皆、そのことを認識しており、それを考慮に入れているとだけ言っておきたい。

司会者:次の質問は、再び、TASS通信社のドミトリー・キルサノフ(Dmitry Kirsanov)(注7)手を挙げている

Dmitry Kirsanov氏

 私は2つの別々の質問があります。第一に、誰がステーションを砲撃しているのか?第二に、我々がここにいる間、新STARTに関するロシア人とアメリカ人の間の、査察再開に関する問題に関する、もしよろしければ、交渉や協議、議論について、我々に最新情報を送っていただけますか?どうもありがとうございます。

ジェンキンス大使:私は、この時点では、砲撃とそれがどこから来ているのかについて、何の確認もできません。しかし、私が言いたいのは、もう一度、心に留めておき、皆さんとここで繰り返し述べておきたい重要なことは、ロシアの撤退の重要性だということです。なぜなら、これらはすべて重要な問題であり、重要な問題だが、もしロシアが単に撤退し、その場所をウクライナに返還するならば、我々はこの状況に陥らないことを覚えておく必要がある。

 新STARTについては、新STARTに続くSTARTに関する米国とロシア間の議論が、我々が対処している状況の結果として、現在行われていないことを、我々は皆認識していると思います。そして、これらの話し合いは、それが起こるのに状況が正しいときに、将来も続くでしょう。

 検査の問題については、私はまだあることを知っていると言うことができます - 私たちはまだそれを実現する方法を見つけようとしています。ロシアからの反発があったことは承知していますが、私たちはまだ、それをどのように実現できるか、どうすればそれを前進させることができるかを考え出そうとしている最中です。

司会者:ありがとう。次の質問は、再び、手を挙げているジャーナリスト、ドイツのFunke Media GroupのMichael Backfischからです。マイケル、どうぞ。

Michael Backfisch 氏

質問:ロシアはウクライナをザポリージャ原子力発電所から切り離し、全電力をクリミア半島に迂回させたがっていると言われている。そのようにお考えですか、そしてこれを防ぐためのアメリカの対策はどうでしょうか?ありがとうございました。

ジェンキンス大使:はい。私は、ロシアの行動に関するそのようなことは不幸なことであり、それは確かにそれを説明する一つの方法であることに完全に同意します。私たちは確かにそれが起こることを望んでいません。もちろん、それがウクライナのカウンターパートにも影響を与えることは分かっています。ですから、私たちはそのようなことが起きることを望んでいませんが、ロシアと、そしてこれらの安全保障理事会の議論を通じて、ロシアにそれをしないように印象づけ続けています。

質問の2番目の部分はどのような内容ですか?

質問:はい。それなら、これを防ぐためのアメリカの対策は何ですか?。

ジェンキンス大使:まあ、私は、明らかに、私たちが外交努力をしようとしているほど多くの対策を講じるつもりはありません。しかし、私が申し上げたいのは、これは多くの点で、エネルギー源に頼るという点で疑わしいプロセスと努力を持っている国々に頼らない必要性を理解することの重要性を高めたと思う。そして、私たちが見ていることの1つは、エネルギー源を多様化し、ロシアに大きく依存している国々と協力することである。

 そして、これはウクライナの文脈だけでなく、より大きな文脈においてもそうである。だから私は、それがその点を提起し、米国が疑わしい慣行を持つ国への依存という点で国々と協力することを非常に熱望していると思います。それでは、よろしくお願いいたします。

司会者:大使、ありがとうございました。あと5分ほどしか残っていないので、もう一つ質問します。朝日新聞の清宮亮(筆者注8)の質問を取ってみましょう。

質問:そこで私の質問は、NPT運用検討会議と最終文書についてです。当事者の間では、特にザポリージャ原子力発電所の問題について、ロシアと大きな意見の相違があった。では、米国はこれまでの再検討会議での議論をどのように評価し、妥協し、コンセンサスを作る必要性をどのように見ているか?

ジェンキンス大使:私が言ったように、ここには会議のためにもう1日ありますが、米国代表団がレビュー会議を成功させ、コンセンサス文書を持つ方法を見つけるために非常に懸命に働いていることを知っています。我々は,核不拡散,軍縮及び原子力の平和的利用に対する全てのNPT締約国の永続的なコミットメントを反映したコンセンサス結果に向けて引き続き取り組む考えである。

 だから私は詳細、特に結論にそれほど近いところに本当に入ることはできませんが、私たちは言うつもりです - 私たちはまだ私たちが話すように24時間体制で働いています。我々は、明日の終わりにコンセンサス文書が提出されることを希望し続けている。ですから、私たちは皆、その時どこにいるのか、すぐにわかるでしょう。しかし、我々は、成功裡の結論に達するよう、全てのNPT締約国と緊密に協力し続けている。だから尋ねてくれてありがとう。

司会者:大使、どうもありがとうございました。そして残念なことに、それは私たちが今日持っているすべての時間です。ご質問ありがとうございます、そしてジェンキンス大使、ご参加いただきありがとうございます。閉会に先立ち、さらにいくつかの行政上の問題を取り上げる前に、大使、グループについて最後の発言があるかどうか見たいと思います。

ジェンキンス大使:ジョン、もう一度私を招待して、すべてのジャーナリストに話をさせてくれてありがとう。皆様のご参加、そしてこれらの本当に重要な問題への関心に改めて感謝申し上げます。

我々は、もちろん、明日のNPTが成功裡に妥結することを期待するとともに、ロシアに対し、ザポリージャ原子力発電所からの撤退を改めて求める。私たちは、明らかに、それがこれらの潜在的な問題のすべてに対する最良の答えであると感じています。しかし、我々はまた、明らかに、起こっているすべてのことをフォローアップし続け、すべての国、特にロシアとウクライナに、IAEAがすることを許可する方法を見つけるよう奨励する - ウクライナの主権を尊重する方法で工場に行く。

 ですから、皆さん、これらの重要な問題に耳を傾け、関心を持ってくださり、ありがとうございました。ありがとう、ジョン。

司会者:大使、本当にありがとうございました。それに感謝します。他の皆様には、このブリーフィングの音声録音を参加ジャーナリスト全員にまもなく送付し、利用可能になり次第、トランスクリプトも提供します。皆様からのフィードバックをお待ちしております。あなたはいつでも私達に連絡することができます The Brussels Hub、1つの単語、@state.govです。ご参加いただきありがとうございます、そして、近い将来、別のブリーフィングにご参加いただければ幸いです。以上で本日の記者会見を終了いたします。

2.NPT運用検討会議でのダイバーシティ、公平性、包摂性の強化

2022年 8月 24日付けの国連サイトの解説(Stepping it up for diversity, equity and inclusion at the NPT Review Conference)を一部、抜粋し、仮訳する。

 第10回核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議の最初の週に、米国と国連軍縮局(UNODA)は、数百人の外交官、政策立案者、市民社会代表を集め、核不拡散・軍縮における多様性、公平性、包摂性の役割について意見交換を行った。

 8月3日に行われたこのイベントはタイムリーであった。暫定的な参加者リストによると、すべての軍縮・不拡散の意思決定プロセスに女性が平等で完全かつ効果的に参加するというコミットメントにもかかわらず、8月1日から26日まで国連本部で開催されるNPT運用検討会議への代表団長の5人に1人(18%)未満が女性である。比較のために、代表団の長の22%は2015年再検討会議で女性でした。

上記ハイレベル・パネルは、多様性が核軍縮・不拡散の議論と意思決定をどのように強化するかについての見解と個人的な経験を共有した。左から、グスタボ・ズラウヴィネン(Gustavo Zlauvinen)NPT運用検討会議議長、マリツァ・チャン(Maritza Chan)国連コスタリカ常任代表、アン・リンデ(Ann Linde)スウェーデン外務大臣、ボニー・ジェンキンス米国軍備管理・国際安全保障担当国務次官、中満泉国連軍縮担当上級代表(注9)、ノマサ・ミシェル・ンドンウェ(Nomsa Michelle Ndongwe)国連軍縮担当事務次長 司会者とホルヘ・バルデラバノ(Jorge Valderrábano)ユース代表。

 この会議の発言者は、核不拡散と核軍縮は、会話が人々と包摂性の中心に置かれるときにより成功することに同意した。外相は,NPT運用検討会議及びそれ以降における女性の平等な参加,若者の関与及び障害者の包摂を確保するよう求めた。その後のディスカッションセグメントでは、聴衆とスピーカーは、軍縮と不拡散を他の平和、開発、人権、環境アジェンダとよりよく結びつける必要性を認識しました。そのような道の一つは、若者、平和と安全(YPS)と女性、平和と安全(WPS)のアジェンダを核軍縮と統合することである。

 核軍縮における多様性と包摂性の意味についての議論は、ソーシャルメディアで続いている。

 イベントの全記録はこちらからご覧いただける。(https://www.un.org/disarmament/update/stepping-it-up-for-diversity-equity-and-inclusion-at-the-npt-review-conference/)

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(注1)Ambassador Bonnie Denise Jenkinsと紹介される理由を知らべてみた。彼女はこれまでの国務省内でのキャリア、国連との関係などまさに特命大使といえよう。

(注2)国務省の組織図のURLは以下参照。

https://www.state.gov/department-of-state-organization-chart/

見ずらいのでU.S. Government Information: State Dept Organization から抜粋する。

(1),SECRETARY’S OFFICE:REPORTING DIRECTLY TO THE SECRETARY

(2) UNDER SECRETARY FOR ARMS CONTROL AND INTERNATIONAL SECURITY

*この部門のトップがAmbassador Bonnie Denise Jenkinsである。同氏のDOS内で重要ポストであることが明白である。

(3) UNDER SECRETARY FOR ECONOMIC GROWTH, ENERGY AND ENVIRONMENT

(4) UNDER SECRETARY FOR MANAGEMENT

(5) UNDER SECRETARY FOR POLITICAL AFFAIRS

(6) UNDER SECRETARY FOR PUBLIC DIPLOMACY AND PUBLIC AFFAIRS

(注3) ブリュッセル・ メディア ・ハブは、米国国務省のグローバル パブリック アフェアーズ局の一部であり、米国の政策立案者や専門家をヨーロッパのメディアと結び付けるために活動している。また、同ハブはビデオ技術を使用して、ソーシャル メディアや放送メディアを通じて、米国の外交政策に関する情報をヨーロッパ人に伝えている。 米国国務省の国際メディア エンゲージメント オフィスの一部として、同ハブはヨーロッパ中の米国大使館の広報オフィスと緊密に連携している。

* テレビまたはマルチメディア/オンライン ジャーナリスト向け: 放送品質のビデオ インタビューを撮影し、アップロードして、さまざまな形式と解像度でダウンロードできる。 私たちのスタジオには、完全な衛星リンク機能もある。

* ラジオ ジャーナリスト向け: 放送品質のラジオ インタビューを録音し、音声ファイルを電子的に転送できる。

* 活字ジャーナリストの場合: この地域またはワシントン DC を旅行する米国政府の政策立案者との対面またはリモート インタビューを手配できる。

(注4) IAEA 「原子力安全とセキュリティの7つの柱(IAEA’s Seven Pillars of Nuclear Safety and Security.)を以下、仮訳する。

(1)原子炉(reactors)、燃料貯蔵施設(fuel ponds)、放射性廃棄物貯蔵庫(radioactive waste stores)のいずれであっても、施設の物理的完全性を維持する必要がある。

(2)すべての安全とセキュリティのシステムと機器は、常に完全に機能する必要がある。

(3)運用スタッフは、安全とセキュリティの義務を果たすことができ、過度のプレッシャーから解放された意思決定を行う能力を備えている必要がある。

(4)すべての原子力サイトに対して、送電網からの安全なオフサイト電源が必要である。

(5)中断されることがない事業計画によるサプライ・ チェーンとサイトへのおよびサイトからの輸送手段が必要である。

(6)効果的な発電所内外の放射線監視システムと、緊急時の準備および対応措置が必要である。

(7)規制当局などとの信頼できるコミュニケーションが必要である。

(注5) ジョー・バイデン米大統領は8月24日、29億8000万ドル相当のウクライナへの新しい武器と防衛支援を発表した。

(注6) 稲木せつ子(いなき・せつこ)/元日本テレビ、在ウィーンのジャーナリスト。退職後もニュース報道に携わりながら、欧州のテレビやメディア事情等について発信している。

(注7)TASS通信社のドミトリー・キルサノフ(Dmitry Kirsanov)氏はWashington Bureau Chief at TASSアメリカ合衆国 コロンビア特別区 ワシントンD

 (注8) 朝日新聞の清宮亮:ワシントン特派員。主に外交や安全保障を取材。政治部、エルサレム支局長などを経て2022年4月より現職。米ハーバード大日米関係プログラム客員研究員。

(注9) 中満泉氏 日本人女性初の国際連合事務次長として軍縮担当(UNODA)上級代表、かつて国連平和維持活動(PKO)局 政策・評価・訓練部長 

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米国ブリンケン国務長官のモルドバ共和国訪問の本当の目的とは?東欧の3か国のEU加盟申請と更なるロシアの拡大戦略に要注意すべき

2022-03-07 20:49:16 | 国際政策立案戦略

 3月6 日、ロイター通信(日本語版)は「米国務長官がモルドバ共和国訪問、ウクライナ避難民の受け入れ称賛」したとある。しかし、その最大の目的はジョージア、ウクライナに続いてEU加盟申請したモルドバ共和国(以下、モルドバという)を米国としていかに後押しするかである。

 ウクライナ以外は旧ロシア連邦の一部をなす経済的・政治体制的にも小国である。以下で述べるとおり、これら3か国のEU加盟について、EU内の議論の進展は極めて弱い。すなわち、これら3か国の加盟はドイツやフランスなどと異なり、今後EU加盟国にとって足かせになることはいうまでもない。

 つまり、米国のロシアとの対峙はEUの将来にとって極めて重要な意味を持つ点をわが国としても十分理解しなければならないのである。

 今回は、ウクライナ戦争が仮に停戦合意に至ったとしてもこれら2か国の動向がさらに大きな世界的不安定を招くという問題を改めて取り上げるものである。

 また、ウクライナ戦争に関し、米国は独自にポーランドへの軍事支援(ロシア製MiG-29戦闘機(注1)、Su-57第5世代ステルス戦闘機(注2)をウクライナに譲渡する)承認すると明言していたが、ウクライナ空軍は3月1日 facebookで、EU加盟国のブルガリアからMiG-29×16機とSu-25×14機、ポーランドからMiG-29×28機、スロバキアからMiG-29×12機を受け取ると発表、これはEU外務・安全保障政策上級代表のボレル氏が「ブリュッセルの資金でウクライナに戦闘機を提供する」と27日に発表したことを受けての措置だ。

  しかし、実際は、ポーランド、ブルガリア、スロバキアはこの考えを拒絶し、ウクライナのパイロットはMiG-29を得ることなく手ぶらで去ったという記事もある。

 また米国政府は3月1日、ロシアが隣国ウクライナに侵攻した後、欧州連合(EU)とカナダによる同様の動きを受けて、アメリカ領空からのロシア便の禁止を発表した。米国運輸省連邦航空局の命令は水曜日の終わりまでに発効し、ロシア市民である人物が所有し、認定、運用、登録、チャーター、リース、または管理されているすべての航空機の運航を停止した。ただし、ロシアは当然のことながら対抗措置を取った。

 今回のブログは泥沼化するウクライナ戦闘問題と、周辺国のEU加盟の動き、さらにNATO軍の最新動向等を概観する。

1.モルドバ共和国の現状

(1)国勢

* 面積:3万3,843平方キロメートル(九州よりやや小さい)

* 人口:264万人(2020年:モルドバ国家統計局。トランスニストリア地域の住民を除く)

モルドバ(ルーマニア系)人(75.1%)、ウクライナ人(6.6%)、ロシア人(4.1%)、ガガウス(トルコ系)人(4.6%)等(2014年:モルドバ国勢調査)

マイア・サンドゥ大統領(任期4年)(Maia Sandu)ルーマニア語 )首相:ナタリア・ガブリリツァ(Natalia Gavrilița)

*トランスニストリア問題(注3)

 ロシア系住民が入植し、ロシア軍の駐留するトランスニストリア地域が1990年9月に「独立」を宣言し、1992年には本格的な武力紛争に発展(トランスニストリア紛争)。現在は停戦状態にあるが、モルドバ政府の実効支配が及んでいない。問題解決に向けた枠組として、当事者・仲介者であるモルドバ、トランスニストリア地域、ロシア、ウクライナ、OSCEに、オブザーバーの米国、EUを加えた「5+2」協議があり、教育、運輸、電話通信、環境等の分野での協力に関する合意文書が署名され、日常的に生じる問題解決に取り組んでいるが、根本的な問題解決の目処は立っていない。

* GDP: 119億ドル(2020年:IMF):日本50,451億ドル

* 一人当たりGDP:4,523ドル(2020年:IMF);日本 40,089 USドル

* 経済成長率:-7.0%(2020年:IMF)

*失業率:8.0%(2020年:IMF) 農業・食品加工業以外の基幹産業に乏しい。市場経済移行中であり、IMFと協調して構造改革に取り組んでいる。

(2)EUの加盟申請

 モルドバは3月3日(木)に正式にEU加盟を申請し、ロシアのウクライナ侵攻が始まってから1週間後に、いわゆるアソシエイテッドトリオのパートナーであるウクライナとジョージアに加わった。

 隣国のウクライナでの戦争をきっかけに、モルドバのマイア・サンドゥ大統領、首相、議会議長は、3月3日に自国がEUに加盟するための正式な申請書に署名した。

 

カタールのメディア「Al Jazeera」から引用写真

 「我々は平和と繁栄の中で生き、自由な世界の一部になりたいと思っている。時間がかかる決定もあれば、変化する世界に伴う機会を利用して、迅速かつ断固として決定しなければならない決定もありうる」と彼女は語った。さらに、申請書は数日中にブリュッセルに送られるであろうと大統領は言った。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は今週初め、キエフが ロシアの侵略から身を守るために特別な迅速な手続きの下で「即時」EUのメンバーシップを取得することを許可する公式の要請を提出したときの道を示した。

 モルドバの動きは、東方パートナーシップのメンバーであるジョージアが正式にブロックのメンバーシップを申請したのと同じ日に行われた。

2.ジョージア国(共和国制)

(1)国勢

* 面積:6万9,700平方キロメートル(日本の約5分の1)

* 人口:400万人(2021年:国連人口基金)

*ジョージア系(86.8%)、アゼルバイジャン系(6.2%)、アルメニア系(4.5%)、ロシア系(0.7%)、オセチア系(0.4%)(2014年、ジョージア国勢調査)

* GDP:157.3億米ドル(2020年:IMF推計値)

* 一人当たりGDP 4,248ドル(2020年:IMF推計値)

* 経済(実質GDP)成長率:-6.1%(2020年:IMF推計値)

*失業率:18.5%(2020年:ジョージア国家統計局:)

主要産業は、茶、柑橘類、果物、たばこ、ブドウ栽培を中心とする農業及び畜産業、紅茶・ワインを中心とする食品加工業、マンガンなどの鉱業。

(2) 軍事力

総兵力20,650人(陸軍19,050人、国家警備隊1,600人)準兵力5,400人(ミリタリー・バランス2021)

(3)首相 イラクリ・ガリバシヴィリ(ირაკლი ღარიბაშვილი:Irakli Garibashvili)

(4)ロシアの強い影響

ジョージアは国内に分離独立を主張するアブハジア南オセチアを抱え、両地域には中央政府の実効支配が及んでいない。2008年8月、ロシアは両地域を「共和国」として独立承認したが、現時点でロシア以外に独立を承認したのは数か国のみ。

3.EUのこれら3カ国の加盟に関する最新動向

 本ブログでは詳しく論じないが、EURACTIVEドイツのメディアDWが詳しくEU加盟国内の動きを論じている。

4.NATO軍の対ロシア対応

 筆者の手元にNATO本部から届いた3月2日付けニュースがあるので一部抜粋し、仮訳する。

  NATO即応部隊は、月曜日と火曜日(2022年2月28日から3月1日)にルーマニアに到着し、同盟の東部でのNATOの防御態勢を強化した。 ルーマニアに配備する前に、500人のフランス軍が南フランスのイストルに集まった。

 NATOが集団的防衛と抑止のためにNATO即応部隊を活性化したのはこれが初めてである。 これは、ロシアの大規模な軍事力増強とウクライナへの侵攻によって引き起こされた、ヨーロッパで過去数十年で最大の安全保障危機の中で、NATOが防衛対応計画を活性化したことに続くものである。

 フランスは、NATO即応部隊の今年の最も準備の整った要素をリードしている。これは、NATOが必要に応じて急いで配備できる、最大40,000人の陸、空、海、特殊作戦部隊で構成される多国籍部隊である。

 NATO事務局長のイェンス・ストルテンベルグ(Jens Stoltenberg)は、この展開を歓迎し、「フランス軍はこの部隊の主要部隊としてルーマニアに到着した。 EUの集団的防衛条項である第5条に対する我々のコミットメントは、鉄壁である。 我々はNATOの領土の隅々まで保護し、防御する」と述べた。

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(注1) ロシア製MiG-29戦闘機(ポーラン空軍の飛行動画

(注2)Su-25  旧ソビエト/ロシアのスホーイ設計局で開発された亜音速攻撃機(シュトルモビク)。ロシアでの非公式の愛称は「グラーチュ*1」、NATOコードはFrogfootフロッグフット。

(注3) 日本ルーマニアビジネス協会(以下、「JRBA」)の「もうひとつのモルドバ共和国~トランスニストリア」を参照されたい。なお、JRBAのHPを抜粋する。「日本ルーマニアビジネス協会 (JRBA) は、日本ルーマニア経済または文化交流に興味をお持ちの企業・個人のための社団法人です。ルーマニア及び日本の企業や個人で構成され、両国間のネットワーキングを応援し、会員共通の利益を守る混合的な団体です。日本ルーマニアビジネス協会はビジネスの発信、交流、技術、知的交流、両国の文化及び言語教育の推進など、より多くの企業、そして人々との豊かなパートナーシップを築く為の、会員サポート向けのさまざまな事業を行っております。」

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イラクのウクライナ機撃墜事故は起こるべくして起きたことの問題とわが国のP3C哨戒機や護衛艦の派遣問題

2020-01-16 12:35:59 | 国際政策立案戦略

 

 1月8日(水)にテヘラン空港(Tehran Imam Khomeini International Airport :IKA))(筆者注1)を離陸したウクライナ国際航空のPS752便が離陸直後に墜落した事故について、イランの地対空ミサイルが撃墜した可能性が高いと発表し、その後、11日にはイランのロハニ大統領が米国からの攻撃から自国民を守る厳戒態勢下での人的ミスによる撃墜を認めるとともに哀悼の意を表した。

 このような国際的な緊張下での地対空ミサイルによる民間旅客機の撃墜事故としては、2014年7月17日のMH17事件(筆者注2)、また古くは1988年7月3日、アメリカ海軍のミサイル巡洋艦ヴィンセンス(USS Vincennes) (筆者注3)はウィリアム・C・ロジャーズ三世艦長の指揮の下、ホルムズ海峡においてイラン航空655便のエアバスA300B2に対してSM-2ブロックII艦対空ミサイルを2発誤射し、これを撃墜した。この事故により乗員乗客290名全員が殺害されたという事件がある。 

 今回のブログの目的は、(1)イラクやイラン上空は米国やイラン革命防衛隊や国軍などの制空下にある点で民間航空機の安全対策である。また、(2)世界の湾岸国を含む主要国が従来から力を入れている中東海域の安全対策である「合同多国籍海上部隊(Combined Maritime Forces (CMF)」の実態、とりわけオーストラリアを中核とするマニトウ作戦(Operation MANITOU)の概要等を正確に理解することにある。

 なお、EUのイランの核問題に関する最終合意(包括的共同作業計画)(JCPOA:Joint Comprehensive Plan of Action)について今回の紛争激化がどのような影響を与えるかなど、わが国としても看過しえない重要な問題であるが、この問題自体特別に取り上げるべきテーマであることから、別途まとめる。

1. イラクやイラン上空は米国やイラン革命防衛隊や国軍などの制空下での民間航空機の安全対策

(1)米国・イラン紛争の拡大と民間航空機の安全対策

 今回の事故の背景には国際紛争下の危険地域の民間航空機の航空路の安全措置の一環であり、例えば米国連邦運輸省傘下の連邦航空局(Federal Aviation Administration:FAA)は1月7日、米国の民間航空機に対してイラク、イラン、オマーン湾およびペルシャ湾上空の運航を禁止すると発表した。イランがイラクの米軍駐留基地をミサイルで攻撃したことを受けた措置である。

 また、ロイター通信等は8日以降、次のような民間航空機の迂回ルート措置を報じた。(1)大韓航空(Korean Air Lines)とタイ国際航空(Thai Airways)は、イランによるミサイル発射の前からイランとイラクの上空を避けていたと表明、 (2) カナダ運輸省(Transport Canada)は、自国民が57名が死亡するなど中東情勢を巡りFAAと緊密に連絡を取り合っているとしたほか、エア・カナダがルート変更1/13⑫を行っていると明らかにした、(3) インドの航空規制当局は航空会社に正式な指示は出していないが、当事者企業と会合を開き、引き続き警戒するよう助言した、(4) シンガポール航空(Singapore Airlines)はイランによるミサイル発射後、同社のすべての航空機がイラン上空を避けて運航すると明らかにした、 (5) マレーシア航空(Malaysia Airlines)はイラク上空を通過する便は運航していないが、イラン空域を通過する便についてはルート変更を行う方針を示した。(6) 台湾のチャイナエアライン(中華航空)はイランとイラクの上空飛行は自粛するとした、(7) 豪カンタス航空は、当面イラクとイランの上空を避けるためにルートを調整すると表明、(8)ドバイに拠点を置くエミレーツ航空(Emirates)とフライドバイ(flydubai)は8日、イランのミサイル攻撃を受け、バグダッド行きの帰路のフライトを欠航とした、(9)カザフスタンのエア・アスタナ(Air Astana )とSCAT(SCAT Airlines)はイラン上空の飛行を中止あるいはルート変更を検討、(10) エールフランスとオランダのKLMオランダ航空のグループは、安全を確保するためとして、イランやイラク上空でのすべての飛行を取りやめることを決め、東南アジアなどとを結ぶ便は別のルートで運航することなった、(11) ドイツのルフトハンザ航空も当面の間、周辺空域での飛行を取りやめる、(12) ノルウェーLCCであるエアシャトル(Norwegian Air)もUAEのドバイ便のルートを変更することを明らかにしている等、世界に影響が広がっている。一方、(10) イランと米国の間の緊張のため、半民・半政府のトルコ航空は当分の間、イランとイラクへのフライトを停止した. 他方、(11)カタール航空(Qatar Airways)はイラク行きの便は通常通り運航している。

 ここで、わが国の対応を見てみる。国土交通省の赤羽一嘉国土交通相は10日の閣議後記者会見で、イラン情勢の悪化を受け、船舶・航空輸送事業者に安全運航に関する注意喚起を行ったと明らかにした。旅行会社に対してもツアー客に適切な情報提供を行うよう要請したほか、イランやイラクへのツアーについては企画中止を含めた慎重な判断を求めた。

 また、外務省海外安全ホームぺージでは「中東地域における緊張の高まりに関する注意喚起(その2):民間航空機の運航について」という警告を行っている。

 

(2) 中東地域の戦闘状態拡大における民間航空機の誤撃墜の例

 代表的かつ大規模なものは、①1988年7月3日、アメリカ海軍のミサイル巡洋艦 (USS Vincennes, CG-49)はウィリアム・C・ロジャーズ三世艦長の指揮の下、ホルムズ海峡においてイラン航空655便のエアバスA300B2に対してSM-2ブロックII艦対空ミサイルを2発誤射し、これを撃墜し290人が死亡した事故である。② マレーシア航空(MH17)便撃墜事件は、2014年7月17日にオランダのアムステルダム・スキポール空港からマレーシアのクアラルンプール国際空港に向かっていたマレーシア航空の定期旅客便であるマレーシア航空17便が、巡航飛行中の17時15分頃(現地時刻)、何者かの発射した地対空ミサイル「ブーク」によって撃墜され、ウクライナ東部のドネツィク州グラボヴォ村に墜落した航空事故である。ボーイング777の5番目の全損事故であり、撃墜による航空事故として298人という死者数が史上最多の事故である。(筆者注2) 

  今般のPS752便の墜落事故に関連して、1月10日のABC news  Analysis「Iran should pay attention to claims of Ukraine Airlines PS752 missile attack, with lesson to be learned from MH17 disaster」が興味深い記事を載せているので以下で、一部抜粋のうえ仮訳する。

「イラン軍が数次にわたるイラクの米軍基地にミサイル攻撃を仕掛けたばかりのなので、テヘランは米国の対応に対して厳重な警戒態勢を敷いていただろう。つまり、イランの防衛中隊(Missaile Bettery)の司令官が突然空港の近くで予期せぬレーダーの読み取りを提示された場合、彼は応答するわずかな秒を持っていたかもしれない。今回のミサイル攻撃は起こるべき出来事ではないが、これらの決定は即時分析と応答に依存するのが現実である。

 この航空機は、そもそも飛ぶこと自体が間違いだったのか? もちろん、PS752便がそもそもテヘラン空港から飛ばないことを決めていたら、こんなことは起こらなかったであろう。確かに、PS752便はキエフからカナダへの運航途上であったが、次の(3)の写真のとおり彼らは非常に緊張した空域を飛んでいたことも事実である。」 

(3) ウクライナ国際航空PS752便の具体的飛行航路

 1月11日のBBC NEWSは「Iran plane crash: What we know about flight PS752」と題する関係する情報を集約した記事を載せている。筆者は、すでにflightrader 24.comサイトにて今回のPS752の航路につき確認を行っていたが、BBCがこの航路の確認を改めて行ったことは筆者が抱いていた問題意識と共通性があると判断し、ここで詳しく引用する。

 上記地図で見るとおり墜落場所は飛行場から約13kmすなわちイラン国内であることは間違いない。同時にイラク軍の管理下にある空域であろう。

Flight PS752 on flightradar24 から引用 (筆者注4)

  ここで飛行計画を変更する時期であったが、慎重さよりもスケジュールを優先するという運命的な決定が下された。一部の人々は、イラン革命防衛隊(IGRC)の「コッズ部隊(Al Quds Force)」のガゼム・ソレイマニ(Qasem Soleimani)司令官の暗殺で不必要に緊張を高したことで米国ドナルド・トランプを非難するであろう。また、他の人々は、地域全体の攻撃と代理挑発の長い歴史のためにイラン政権に対する国内の非難をはっきりさせよう。 

 いずれにしても176人の犠牲者を取り戻したり、取り返しのつかないほど人生が変わった家族や愛する人たちの耐え難い痛みを和らげるものはない。PS752便には乗員9人乗客167人が搭乗していた。(筆者注5)

  多くのオーストラリア人はかつて38人の死者を出したMH17事故を通してその恐怖を知っている。この損失は間違いなく深く痛みを伴う感情を引き起こすであろう。

 しかし、今回のフライトPS752便の被害者すべての人のための迅速で包括的かつ正確な調査結果および裁判のチャンスはほど遠いといえる。 

【MH17事故裁判に関するブログ筆者の補足】

 CNNによると2019年6月20日、マレーシア機(MH17)撃墜に関し、国際合同捜査チームは起訴されるのはロシア人のイゴーリ・ギルキン、セルゲイ・ドゥビンスキー、オレグ・プラトフの3容疑者と、ウクライナ人のレオニド・ハルチェンコ容疑者を殺人罪で起訴すると発表した。(筆者注5)

 また、ネザーランドのメデイアである“NLTimes”は、2019年11月29日付け記事で「マレーシア航空MH17便の墜落事故の刑事責任を調査する裁判は、2020年3月9日にスキポール空港の厳重に確保された裁判所の複合施設で始まる。ハーグの地方裁判所に正式に割り当てられたこの事件は、裁判所の審理のライブストリームと、最大500人のジャーナリストと300の職場を収容するプレスセンターも提供される。以下、略す。」と報じている。

 

2.中東海域の安全性と日本の船舶の安全のためのわが国のとるべき課題

 わが国の海上自衛隊のP3C哨戒機2機、護衛艦「たかなみ」を中東のオマーン湾、アラビア海北部、バブルマンデム海峡東側のアデン湾の3海域の公海に派遣することは多くのメデイアが報じたとおりである。

 この中東の基地一覧は米国のワシントンDCに拠点を置く非営利、非党派の公共政策および研究機関である“American Security Project”が公表している「U.S. Military Facilities in the Middle East Region」からの抜粋である。ちなみに「星マーク」はキャンプ、「飛行機マーク」は空軍基地、「錨マーク」は海軍基地、「トラックマーク」は搬送基地であり、それぞれをクリックする各基地の概要が確認できる。

  上記の2つの地図を比較したら、今回の防衛省や内閣が派遣を行う目的が「調査・研究」のみで紛争に巻き込まれないで済むと思えないのは筆者だけではなかろう。 

 ところで、わが国のメディアが本格的に報じていない中東海域の合同多国籍海上部隊(Combined Maritime Forces (CMF))の実態を改めて検証するのが、今回のブログの2番目の目的である。 

 この問題を改めて理解するうえで参考となるのは、最近時のオーストラリアの公共放送である「ABC news」や関連する同国の国防省の「マニトウ作戦(Operation MANITOU)」サイトを一部仮訳する。 

 (1)マニトウ作戦(Operation MANITOU)の概要

 ルールに基づく安定したグローバルセキュリティへの貢献は、オーストラリアの国家目標の一つである。1990年以来、オーストラリア海軍(Royal Australian Navy :RAN)は中東地域で海上警備活動を行っており、オーストラリアの経済的、貿易上の利益にとって戦略的に重要なままである。

 MANITOU作戦は、中東地域(Middle East Region:MER)の海洋の安全保障、安定、繁栄を促進するための国際的な取り組みを支援するオーストラリア政府の貢献の現在の名称である。強化されたセキュリティ環境は、貿易と商業を促進しながら、オーストラリアの安全でオープンな同地域へのアクセスを保証する。

 マニトウ作戦は、中東地域のオーストラリア国家本部である統合任務部隊633(JTF633)の指揮下にあり、オーストラリア海軍は、日常的に主要艦隊(MFU)を中東地域に派遣し、日本を含む33か国からなる合同多国籍海上部隊(Combined Maritime Forces (CMF) に割り当てられている。 

(2) 合同多国籍海上部隊(Combined Maritime Forces (CMF) (筆者7) (筆者注8)

 合同多国籍海上部隊は33カ国で構成され、以下の3つの原則的な合同任務部隊を持っている。

①  テロ対策と海上安全保障活動を行う合同任務部隊150(Combined Task Force 150)

 CTF 150の使命は、海洋領域での機動作戦(maneuver)の自由を制限することにより、テロ組織とその関連する違法行為を混乱させることである。CTF 150の活動は、テロ組織が活動を行ったり、人員、武器や収入を生み出す麻薬や炭を移動するリスクのない方法を否定することになるため、世界的なテロ対策の重要な部分である。そのメンバー国はAustralia, Canada, Denmark, France, Germany, Italy, Republic of Korea, Netherlands, New Zealand, Pakistan, Portugal, Singapore, Spain, and Turkey, United Kingdom and United Statesである。 

② 反海賊取締行為を行う合同任務部隊151(Combined Task Force 151)

 CTF 151は多国籍軍である。この部隊は、3~6ヶ月単位で参加国間で入れ替わる。CTF 151の部隊の機能、任務の流れは、様々な国が任務部隊に船舶、航空機、人員を割り当てるにつれて絶えず変化する。 

③アラビア湾の海上保安活動を行う合同任務部隊152 (Combined Task Force 152 )

 2004年3月に設立されたCTF 152は、合同多国籍海上部隊(CMF)が運用する3つのタスクフォースのうちの1つである。CTF 152は、アラビア湾、特に湾岸協力会議(GCC)(筆者注9)諸国間の地域海軍協力を強化する。

 CTF 152はアラビア湾で活動し、任務は、戦域安全保障協力機構(Theater Security Cooperation、TSC)の活動を調整し、ペルシア湾中部およびホルムズ海峡南端からイラン・イラク領海線におよぶ南部一帯での海上治安活動を実行し、テロ対策や湾岸地域諸国の安全保障の補完を行う。海上保安業務(MSO)を実施し、発生する可能性のある危機に対応する準備を整えている。また、同部隊は石油プラットフォームを含む主要な海洋インフラをテロの脅威から保護するために活動しています。CTF 152作戦は、海上の安全保障を損なったり、その他の違法行為を行おうとするテロリスト集団やその他の人々が、その原因をさらに引き起こすために活動を行う自由を否定され、陸上の出来事に影響を与える。

 CTF 152は、サウジアラビア、バーレーン、ヨルダン、カタール、クウェート、アラブ首長国連邦、英国、米国を含む様々な国からの船、航空機、人員で構成され、また、イタリアとオーストラリアからの参加が含まれる。CTF 152の部隊は、3〜12ヶ月ベースで参加国間で入れ替わる。 

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(筆者注1)テヘラン空港:テヘラン中心から約30km

(筆者注2) マレーシア航空17便撃墜事件は、2014年7月17日にオランダのアムステルダム・スキポール空港からマレーシアのクアラルンプール国際空港に向かっていたマレーシア航空の定期旅客便であるマレーシア航空17便が、巡航飛行中の17時15分頃(現地時刻)、何者かの発射した地対空ミサイル「ブーク」によって撃墜され、ウクライナ東部のドネツィク州グラボヴォ村に墜落した航空事故である。ボーイング777の5番目の全損事故であり、撃墜による航空事故として死者数が史上最多の事故である。

 当時、ウクライナ東部では政府軍と親ロシア派による内戦が勃発していた。直後の2014年7月23日、ウクライナ東部のマレーシア航空17便が墜落した現場近くで、親ロシア派武装勢力がウクライナ軍の戦闘機2機を撃墜している。ロシア国防省は、ウクライナ側の戦闘機が、ロシア領からの攻撃で撃墜されたとの主張について否定した(Wikipedia から抜粋)

 (筆者注3)  ヴィンセンス (USS Vincennes, CG-49) は、アメリカ海軍のミサイル巡洋艦。1988年7月3日、ヴィンセンスはウィリアム・C・ロジャーズ三世艦長の指揮の下、ホルムズ海峡においてイラン航空655便のエアバスA300B2に対してSM-2ブロックII艦対空ミサイルを2発誤射し、これを撃墜した。この事故により乗員乗客290名全員が殺害された。(Wikipediaから抜粋)

(筆者注4) flightradar 24”(フライトレーダー24)とは、2006年、2名のスウェーデンの航空ファンが、ヨーロッパ北部・中部のADS-B受信ネットワークの構築をスタートし、2009年に公開した。希望するユーザーは、誰でも受信したADS-BのデータをFlightradar24のサーバに送信できるシステムとして公開されたため、世界各国の航空ファンの協力によってレーダーの対応範囲が拡大し、現在はヨーロッパ、アメリカをはじめとしてアジアやオセアニア、アフリカの一部に対応している。 従来は、航空管制官やパイロットしか知ることのできなかった、航空機の位置情報・飛行経路が手軽に取得できるため、航空事故発生時にマスメディアの情報源として用いられている。(Wikipedia から引用)

 ちなみに、“flightrader 24”で見た2020115()840分現在のわが国の周辺の航空機の飛行ライブ情報を引用する。

 

(筆者注5) PS752便の死者の国別内訳は、イラン人が82人、カナダ人が63人、ウクライナ人が11人、スウェーデン人が10人、アフガニスタン人が7人、イギリス人が3人であった。カナダ人がイランの次に死者が多かったのはイラン系カナダ人やイランからの留学生が多く含まれていた点がその背景にある(110日付 CBC news Canada's victims of Flight PS752は州別家族の写真を具体的に掲示している)

(筆者注6) 2019620日、マレーシア機撃墜に関し、国際合同捜査チームは起訴されるのはロシア人のイゴーリ・ギルキン、セルゲイ・ドゥビンスキー、オレグ・プラトフの3容疑者と、ウクライナ人のレオニド・ハルチェンコ容疑者を殺人罪で起訴を発表した。、ギルキン容疑者はロシア連邦保安庁(ФедеральнаяслужбабезопасностиРоссийскойФедерации:FSBの元大佐で、ドゥビンスキー容疑者はロシア連邦軍参謀本部情報総局(лавное разведывательное управление:GRU)に雇われていた。プラトフ容疑者はロシアの特殊部隊「GRUスペツナズ」の元兵士である。 

(筆者注7) 世界経済は、広大な海洋を横断する物資の移動を確実にするために、国際海域を航行する自由に依存している。世界の海軍は、地域が安全であることを保証するために、互いに協力し、協力し、外部機関と協力して取り組む必要がある。合同多国籍海上部隊(CMF)は、国際テロの脅威に対抗するために2001年に創設されたが、その後、海賊対策活動を含むように任務が拡大された。もともと12か国の同志国の海事軍の集団であったCMFは、現在、湾岸協力会議(GCC) (筆者注7)からの積極的な支援と東南アジア諸国からの関与の高まりを受け、世界中からの33カ国で構成されている。なお、33か国とは次の国をいう。日本を含む33か国( Australia, Bahrain, Belgium, Brazil, Canada, Denmark, France, Germany, Greece, Italy, Iraq, Japan, Jordan, Kuwait, Malaysia, Netherlands, New Zealand, Norway, Pakistan, Philippines, Portugal, Qatar, Republic of Korea, Kingdom of Saudi Arabia, Seychelles, Singapore, Spain, Thailand, Turkey, UAE, UK, USA, Yemen). (CMFHPから引用、仮訳) 

(筆者注8) Combined Maritime Forces (CMF)”の訳語につき、わが国では防衛省等は「連合海上部隊」あるいは「合同任務部隊」を使うのが一般である。しかし、平成29年度版防衛白書中で“Task Force 150”等の具体的な説明の中では「米中央軍の隷下で海洋における安全、安定、繁栄を促進することを目的として活動する多国籍部隊。33か国の部隊が参加しており、CMF司令官は米第5艦隊司令官が兼任している。海洋安全保障のための活動を任務とする第150連合任務部隊(CTF-150)、海賊対処を任務とする第151連合任務部隊(CTF-151)、ペルシャ湾における海洋安全保障のための活動を任務とする第152連合任務部隊(CTF-152)の3つの連合任務部隊で構成されており、CTF-151には自衛隊も部隊を派遣している。」と注記している。したがって、従来の防衛省の訳語は、この内容に即して筆者が使う本文や(筆者注6)で引用したWikipedia の訳語である「合同多国籍海上部隊」等と比較しても具体性に欠けると思われる。 

(筆者注9)湾岸協力会議(Gulf Cooperation CouncilGCC、アラビア語:مجلسالتعاونلدولالخليجالعربية)は、中東・アラビア湾岸地域における地域協力機構である。正式名称は「Cooperation Council for the Arab States of the Gulf(湾岸アラブ諸国協力会議、CCASG)」。日本政府での呼称は湾岸協力理事会(GCC)1981525日にアブダビで設立。本部はリヤド。現在の事務局長はバーレーンのアブドゥッラティーフ・ビン・ラーシド・ザイヤーニー。(Wikipedia から抜粋) 

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中国のサイバーセキュリティ法の施行と重大な情報インフラ等の保護に関する規制草案等の公表と今後の課題(その4完)

2017-08-01 09:52:45 | 国際政策立案戦略

(4)重要データの国境を越えた移転

 しかし、重要なデータの国境を越えた移転は、異なって評価される。 CACは、「重要なデータ」を完全には定義していないが、それは中国の「中华人民共和国国家安全法」 (筆者注9)の下で徹底した概念である中国の国家安全保障に関するデータとして一般に理解されている。 (筆者注10) 

  他の2つの分野における中国の法律および規制は、どのデータがその範囲に入るかを明確に判断することは困難であるが、当局がこの用語をどのように解釈するかについての手がかりを提供する可能性がある。 「重要なデータ」の適用範囲の近い将来の評価は、ケースバイケースで行われなければならない。 

 最初の関連する法律は、国家秘密を守るための中国の法律(中华人民共和国保守国家秘密法、以下「国家秘密法」という)である。(筆者注11) この法律およびその実施規則の下で、「国家の秘密」は中国を離れることが禁じられている。国家秘密法は、例えば、国防建設と軍隊の活動、外交・外交活動、国家安全保障に関連する活動を含む「国家の秘密」とみなされるカテゴリーの非排他的リストを提供する調査を定める。過去において政府が「国家の秘密」と考えた情報の例としては、特定の政府統計、インフラストラクチャーに関する地理的データ、特定の法執行活動および特定の天然資源に関する情報が含まれる。 

 第2番目の規則は、中国の輸出管理制度に関するものである。他の多くの国と同様に、中国は、軍需品、軍事用品、その他の二重使用品や技術の輸出を管理するシステムを維持している。 輸出管理制度が対象とする製品や技術に関連するデータの移転は禁止される予定であり、厳格な監視の対象となる予定である。 

(5)グローバルなデータ転送にかかるコンプライアンス戦略(対中国においてどのように法的に適合させるか?)

 中国が国境を越えたデータの流れを規制する国のグループに加わったことで、法律第37条の対象となる可能性のある企業のコンプライアンスの問題がさらに深刻化する。 

 ケースバイケースの評価を受ける可能性が高い「重要なデータ」の移送を除いて、中国市民のデータを定期的に中国内外に転送する企業は、我々が中国の国家機関からの公式なガイダンスがまだ不足しているにもかかわらず、潜在的な中国政府の要件を守らねばならない。

  例えば、企業が最初にデータ収集と中国内外への流入をよく理解していることが重要である。次に、中国の新しい要求要件を見越して、特定の側面で既存のデータ保護コンプライアンス・プログラムを補完する必要があるかどうかを評価すべきである。 

 中国を越えて、グローバルなデータ転送戦略の実施を検討する際にも、潜在的な中国の要求事項を考慮に入れることを勧める。将来の中国の移転メカニズムと他の制度との間に(重要な)相違がある可能性を排除することはできないが、そのようなメカニズムは、BCR(Binding企業規則)やCBPR(Cross Borderプライバシールール)のような「現代の」データ移転制度の特定の原則と特徴をよく共有するかもしれない。 したがって、外国企業は同時に、中国および他の管轄地域の規制要件を同時に満たす単一のグローバルなデータ・ガバナンス・プロセスを展開すべきである。 オフショア処理のために中国のデータを後で転送する必要が生じた場合には、中国人のために複雑なデータ保護ポリシーを採用することを余儀なくされるよりも、事前の投資がより良い戦略になる可能性がある

Ⅴ.中国のサイバースペース管理局(CAC)等がネットワーク製品の第一次バッチをリリース 

 CAC( 国家互联网信息办公室)、産業・情報・技術部(中华人民共和国工业和信息化部)、公安部(中华人民共和国公安部)、中国国家认证认可监督管理委员会 (筆者注12)連名のカタログ公告の内容につき、Dechert LLPの解説文「中国のサイバースペース管理局(CAC)がセキュリティレビューの対象となるネットワーク製品の第一次のバッチをリリース」が詳細に内容を引用しているので仮訳する。なお、言うまでもないがカタログ内容はIT専門用語が頻繁に出てくる。筆者が理解している範囲で備考欄に注記を加えた。

 

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中国のサイバーセキュリティ法の施行と重大な情報インフラ等の保護に関する規制草案等の公表と今後の課題(その3)

2017-08-01 09:32:09 | 国際政策立案戦略

Ⅳ.サーバーセキュリティ法の規則案(CCII Regulation)の内容と問題点

(1) Norton Rose Fulbright LLP のCII Regulationの解説China Seeks Comment on Draft Regulation on Critical Information Infrastructureが”7月10日付けCII Regulation”の内容を体系的に解説しているので、以下、仮訳する。 

① CIIの規制当局 (Regulatory Authorities of CII)

 CIIの下では、CACは重要情報インフラストラクチャ(CII)のセキュリティ保護の計画と調整を担当する。公安部(Public Security Authority)国家安全部(National Security Authority) (筆者注3)、国家保密局( State Secrets Authority )(筆者注4)、国務院の 国家密码管理局(.State Cryptography Administration, i.e. the Office of the Central Leading Group for Cryptography Work (中央密码工作领导小组办公室) Wikipedia) (筆者注5)は、CIIの規制当局となる。 郡レベル以上の地方自治体の関連部門は、CIIに関連してセキュリティ保護業務を実施する責任を負う。  

② CIIの範囲 

 CII規制に含まれるCIIの範囲は、サイバーセキュリティ法上のCIIの範囲に比べて広い。 以下の部門は、CII規則案で具体的に言及されている。 

  1. 政府機関、エネルギー、金融、交通、水質保全、医療、教育、社会保障、環境保護および公益事業。
  2. 通信ネットワーク、ラジオおよびテレビネットワーク、インターネットおよびその他の情報ネットワーク、クラウドコンピューティング、大容量データおよびその他の大規模な公共情報ネットワークサービス。 
  3.  国防科学技術、大規模機器、化学薬品、食品および薬物。
  4.  ラジオ局、テレビ局、通信社(news agencies)。 

 上記の多くのセクターは、ヘルスケア、教育、環境保護、クラウドコンピューティング、ビッグデータなどのサイバーセキュリティー法では言及されていなかった。CII規則の下でのCIIの広範な範囲は、中国の一部の事業が次のような適用可能性を高める可能性がある。(1)CII事業者とみなされるもの、(2)中国法に基づくCII事業者の厳しい法的要件に従う。  

 重要な点は、CAC、通信当局および公安当局は、CIIの識別のためのガイドラインを共同で作成し公表する点である。産業監督当局は、これらのガイドラインに基づいて各部門のCIIを特定し、その結果を関係当局に報告する。各業界の専門家はこれらのプロセスの途上で相談を受ける。  

③ II事業者が購入する製品やサービスの追加要件  

  CII規則は、中国の国家安全保障に脅威を与えるとみなされるCII事業者が購入した製品やサービスのサイバーセキュリティレビューの観点から、サイバーセキュリティ法の要件に繰り返し言及している。 これらの製品・サービスは、5.で述べる 2017年6月1日付け(カタログ)のCACおよび他の当局によって発行された主要なネットワーク機器および専用ネットワークセキュリティ製品のカタログ(最初のバッチ)に掲載される。 サイバーセキュリティレビューは、2017年5月2日にCACが発行したネットワーク製品およびサービス(トライアル実施)のセキュリティ評価に関する措置に基づいて実施されるべきである。 

  CII規則では、CII事業者は、オンラインアプリケーションに先立ってCII事業者が使用するアウトソーシングされたシステム、ソフトウェア、および寄贈された/贈与されたネットワーク製品に関するセキュリティ検査とテストを行う必要がある。これにより、カタログの範囲が拡大され、カタログに掲載されていないネットワークシステムや製品がサイバーセキュリティレビューの対象となる可能性がある。CII事業者は、ネットワーク製品/サービスの使用に関して実質的なリスクが特定されている場合には、是正措置を講じ、管轄当局に報告することが求められる。  

  CII規則は、またCIIの運用と保守が中国の領土内で行われることを要求している。 事業上の理由で遠隔保守が必要な場合、遠隔保守に着手する前にCII事業者はこれを産業監督官庁及び公安機関に報告しなければならない。CII規制が現在の形態で発行されている場合、このローカリゼーション要件は、中国内で実施されなければならないため、外国企業(クラウドサービスプロバイダーなど)がCIIの運営にサービスを提供することを禁止する可能性がある。しかし、現在言及されているように、この条項は完全には明確ではなく、その意味合いはまだ残っている。 

 CII規則は、CACと国務院の関連部門が、CIIに対して以下のサービスを提供する事業者に特定の要件を共同で発行することを想定している。 

① サイバーセキュリティ検査、テストおよび評価

② システム脆弱性、コンピュータウィルス、サイバー攻撃を含むサイバーセキュリティ脅威情報のリリース

③ クラウドコンピューティングサービスと情報技術アウトソーシングサービス。なお、これらの要件がどのようなものになるのか、いつ公開されるのかは不明である。

④ CIIのサイバーセキュリティ保護担当者  

 CII規則の下では、CIIオペレータの責任者がCIIのセキュリティ保護の第一の責任を引き受ける。CII事業者は、CIIのサイバーセキュリティ保護の責任者を任命することができ、その職務には次のものが含まれる。 

① サイバーセキュリティ・ルールとシステム、運用手順の策定を組織し、同じ手順の実施を監督する。 

② 主要職種の職員の技能評価を調査する。 

③ サイバーセキュリティ教育及び訓練プログラムの策定及び実施を組織する。 

④ サイバーセキュリティ検査と緊急訓練を組織し、サイバーセキュリティ・インシデントを処理する。

⑤ 重要なサイバーセキュリティの問題と事件・出来事を関係当局に報告する。  

 CII規則は、またCIIのサイバーセキュリティの主要職の技術職員にライセンス要件を導入する。CACと中国の人事・社会保険局は、これらの免許要件に関する特定の規則をさらに発行する。  

 CIIのモニタリング、緊急事態対応および検査の枠組み  

 CII規制は、セキュリティ保護CIIのための以下の3つの主要システムの枠組みを概説している。

① モニタリング、早期警告、情報共有 

② 緊急時対応と処分

③ 試験、試験、評価 

  CACは、産業規制当局または他の監督当局と協力して、CIIの保護のためにこれらの3つのシステムを確立し、実施する。 

  CII規則は、工業監督当局がCII事業者に対して以下の点を評価するための恣意的な査察を行う際の措置との関連で、より詳細な情報を提供している。(1)CIIに関連するセキュリティリスク。(2)CII事業者による法令遵守(サイバーセキュリティー法第39条に規定)に関す次の点を明記する。

① CII事業者の関係者に説明を要求する。

② サイバーセキュリティの保護に関する文書と記録を見直し、入手し、コピーする。

③ サイバーセキュリティ管理システムの策定と実施、CIIのサイバーセキュリティ技術措置の計画、構築、運用を検証する。

④ 検査ツールを利用するか、サイバーセキュリティサービス・プロバイダーに技術検査を実施する権限を与える。

⑤ CIIの運営者と合意した他の必要な措置を実施する。 

⑥ 国家の秘密と暗号化法規を遵守 する。 

  CII規則は、CIIの国家秘密情報の保管と処理が中国の国家秘密法を遵守しなければならず、CIIの暗号の使用と管理は中国の暗号法律( Cryptography Lawが公表された2017年4月13日に国家商用暗号管理局の官報によって公表された)。 さらに、軍事CIIの保護のための規制は、中国中央軍事委員会によって別途発行される。 

*潜在的な示唆すべき点 

  CII規制は、CII関連の規定に関する更なる詳細を提供することによりサイバーセキュリティ法を実施するためのもう1つの重要なステップである。  

 しかし、CII規制の下では、CIIの範囲は広範な分野に及んでおり、CII規制は具体的には次のようなものを指す。(1)中国当局によって策定され発行されるCII識別ガイドライン。  (2)産業規制当局またはその他の監督当局によって実施されるCII識別プロセス。 そのような詳細を後でこのように残すと、CIIを構成するものを決定する際にあいまいさや不確実性が生じる可能性があります。 また、CIIの識別プロセスが完了するまで、サイバーセキュリティー法のCII規制およびCII関連の規定が実際に実施されることは考えにくい。  

  CII規則はまた、CII事業者が購入した製品/サービスに一定の追加要件を課している。これは、CII事業者のサービスプロバイダに大きな影響を与える可能性がある。 したがって、中国の企業は、現在の製品、サービス、中国の顧客を見直し、CII規則の下でこれらの追加的な義務/要件を受けるリスクを評価することが推奨される。 

(2) 前述したCovingtonBurling LLPの特別弁護士(special counsel) Yan Luo が、新サイバーセキュリティ法で提案された変更点を説明するとともに、海外の企業が新しい中国のデータ移転要件に準拠するために取るべきデータ移転に関する法令遵守戦略について2017214日 付けEURObizで以下のとおり解説を加えているので、以下、一部抜粋のうえ仮訳する。((1)から(2)の内容は割愛する) 

(3)中国国民の個人情報の国境を越えた移転

 CACは、外国人、組織または個人が中国市民の個人情報を「喜んで守る」能力を持っているかどうかをどのように評価するかについての詳細はまだ述べていない。CACが、近い将来、特定の国が適切な水準の保護を提供し、自動的にそのような国へのデータの移転を許可できることをCACが認識することも示していない。 

 CACは、中国以外の他の国のデータ保護体制を認識していないため、CII事業者の約束や契約上の義務に依拠したデータ転送メカニズムを考案して、中国以外での個人情報の保護を十分に確保する可能性がある。現在のところ具体的な内容が不明であるにもかかわらず、このメカニズムの少なくともいくつかの要素は、「欧州連合(EU)のモデル契約条項」 (筆者注6)および「Binding企業規則 (BCR)」 (筆者注7)またはアジア太平洋経済協力(APEC)の「Cross Borderプライバシールール (CBPR)システム」 (筆者注8)等との比較することとなろう。 

 また、CACは、企業が中国国外の中国人の個人情報を堅固に保護する必要がある場合、どのような契約や会社の社内規則や手続きが政府認証機関の要件を満たすことができるかについての詳細を提供していない。 1つの潜在的な認証基準(ベンチマーク)は、CACによって提案された新しい国家規格である情報セキュリティ技術 個人情報セキュリティ規格仕様 ( 以下基準(Standard)という )である 。この基準は、情報の収集、保管、使用、移転(中国内での)および個人情報の開示を規制する包括的なデータ保護の枠組みを確立し、 経済協力開発機構(OECD)のプライバシーに関する原則 。 法的拘束力はないが、そのような国家基準は、中国の規制当局が個人情報保護のベストプラクティスと考えるかもしれないものについて、企業に有用な洞察を提供することができる。 企業が中国以外の個人情報の取り扱いが規格に明記されている要件を満たしていることを確実にするならば、データが処理される場所であれば、中国人の個人情報の保護が適切であると主張することは容易である。

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 (筆者注3) 国務院を構成する行政機関の1つ。 

(筆者注4) 中华人民共和国保守国家秘密法の本文

同法は、1988年9月5日第7回全国人民代表大会常任委員会第3回会合で採択され、1988年9月5日に中華人民共和国首相令第6号によって公布、1989.年5月1日施行)、改正法(中华人民共和国保守国家秘密法(2010修订))が2010年4月29日公布、2010年10月1日施行。 

(筆者注5) 中国の認証・認定業務の統一的な指導と監督管理を行う国家機関で、マネジメントシステム認証機関、製品認証機関等の認定を行う主管機構。 

(筆者注6) EUのモデル契約条項に関する詳しい解説としては、欧州委員会・司法・情報保護担当の解説Model Contracts for the transfer of personal data to third countries、②2010年3月7日筆者ブログ「欧州委員会が非EU/EEA国のデータ処理者への個人情報移送に関する改正標準契約条項を決定(その1)同(その2完)」、③マイクロソフトの「EU標準契約条項」の日本語解説等があげられる。 

(筆者注7) Binding企業規則 (BCR)に関する詳しい解説としては、2015年11月8日の筆者ブログ「欧州委員会はEU司法裁判所のシュレムス事件判決(セーフ・ハーバー協定の無効)を受けたガイダンス等を発布」を参照されたい。 

(筆者注8) About the APEC CBPR system 参照。なお、わが国は2014428日「日本国政府は、米国、メキシコに次いで、APEC越境プライバシールールシステムへの参加が認められた」旨リリースした。また、これを受けて2016年12月20日にわが国初のAPEC越境プライバシールールシステム(CBPRシステム)認証取得事業者が誕生した旨報じた。経済産業省「APEC-越境プライバシールール(CBPR)システム」図解参照。

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中国のサイバーセキュリティ法の施行と重大な情報インフラ等の保護に関する規制草案等の公表と今後の課題(その2)

2017-08-01 09:23:01 | 国際政策立案戦略

Ⅲ.中国の国境を越えたデータ移転にかかる新しいサイバーセキュリティ―立法等による法規制のあり方の大きな変化を概観

 1.Morgan、Lewis&Bockius LLPのReport

 2017年7月17日Morgan、Lewis&Bockius LLPは「中国、国境を越えた個人情報の移送に関する立法諸ルールを制定(China Drafts Legislative Rules Regarding Cross-border Data Transfers)」と題するレポートを公表している。

 このレポートは、CSLと(1)国境を越えた個人情報の移転と重要なデータの安全性評価のための措置(協議草案) (具体的評価の尺度)、(2)国境を越えたデータ移転のセキュリティ評価のためのガイドライン(協議草案) (評価ガイドライン)、(3) 重要情報インフラの安全保障のための規則(協議規則案)(CII Regulation)を比較しながら実務面からみた検討課題を整理している。 

 同レポートを以下、仮訳する。 

 2017年6月1日施行の中国が最近制定した「サイバーセキュリティー法(中华人民共和国网络安全法:CSL」は、中国の重要情報インフラストラクチャー(CII)事業者が収集、生産する重要な個人情報とデータを中国内に保管することいわゆる「ローカル・ストレージ(データ・ローカリゼーション)」を要求し、また CSLは個人情報および重要なデータが中国国外の企業または個人(国境を越えたデータ移転)に提供される前に、セキュリティ・アセスメントが実施することを要求している(CSL:37条)(筆者注2-2)。国は、CSLとともに、個人情報の国内保持(local storage)および国境を越えた個人データ移送の要件とパブリックコメントに対応するその他の法案を公表している。 CSLを受けた新しい3つの実施規則・ガイダンスとしては、以下が挙げられる。

 ① 国境を越えた個人情報の移転と重要なデータの安全性評価のための措置(協議草案) (具体的評価の尺度)。

② 国境を越えたデータ移転のセキュリティ評価のためのガイドライン(協議草案) (評価ガイドライン)。 

③ 重要情報インフラの安全保障のための規則(協議規則案) (CII Regulation)。 

  これらの草案は、国境を越えたデータ移送に必要なセキュリティ評価に関する詳細と同様に、CSLの下での主要概念の定義と範囲を提供する。 中国からデータを収集、移転する多国籍企業は、法案が発効した時点でデータの保管と移送に関して実施しなければならない具体的な措置を準備するために、この法律等の草案を検討し、立法動向を理解する必要がある。このレポート(LawFlash)では、以下のとおり、この規則案やガイドラインのハイライトを述べ、CL法と比較する。 

(1) ローカル・ストレージおよびセキュリティ評価要件の対象者とは? 

 CSLはCII事業者に「個人情報」と「重要データ」の国境を越えたデータ移送に必要なローカル・ストレージとセキュリティ評価の要件のみを適用するが、評価尺度の現在の草案ではすべての「ネットワーク事業者」は一般的に義務付けられている。データに「個人情報」または「重要なデータ」が含まれている場合は、国境を越えたデータ転送のセキュリティ検証を実施する。 そのようなデータは中国国内に保存されなければならないとされる。アセスメント・ガイドライン草案は、アセスメント手続きに続き、すべての「ネットワーク事業者」に適用されるセキュリティ評価プロセスを提供する。 

 しかし、2017年5月に、CSLの実施に関する公式報道ブリーフィング中、CACのネットワークセキュリティ調整室長によると、国境を越えたデータ移転のためのローカル・ストレージとセキュリティ評価の要件は、CII事業者評価尺度が確定して公表されるまで、これは不確実なままであると述べた。 

(2) CIIの定義

 CSL第31条は、CIIを「損害、機能の喪失またはデータ漏洩の場合に、国家の安全保障、国家の福祉または国民の生計または公益を重大に危険にさらす可能性のあるインフラ」と定義している。またCSLは、CIIの例として公共サービス、情報サービス、エネルギー、交通、水道、金融、公共サービス、電子政府の分野のネットワーク事業者を含むとしているが、CIIの特別な定義は国務院による規則に委ねている。 

 CII規則(CII Regulation)は、CIIの範囲を次の特定の産業と明記している。

① エネルギー、金融、運輸、水質保全、医療、教育、社会保障、環境保護、公共事業部門の政府機関および団体 

② 通信ネットワーク、放送テレビネットワーク、インターネットなどの情報ネットワーク、クラウドコンピューティング、大規模データなどの大規模な公共情報ネットワークサービスを提供する事業体(entities)

③  国防、大型機器製造、化学工業、食品医薬品分野の科学技術などの分野の研究および製造事業体 

④ 放送局、テレビ局、報道機関などのプレス・ユニット 

 規制当局が、情報システムのデータ漏えいや機能不全が国家の安全保障、国家の福祉、国民生活および公益に影響を及ぼす可能性があると判断した場合、製造業、IT、食品、医療、医療分野の多国籍企業はそのような広い定義に含めることができる。(CII Regulation 第18条)  

(3) 「ネットワーク事業者」の定義 

 CSLにいう「ネットワーク事業者(CII Operator)」の定義は、CII事業者の定義に比べてはるかに広い。 ネットワークオペレータには、「ネットワークの所有者と管理者、ネットワークサービスプロバイダ」が含まれる。(CSL第76条) インターネットや電子メールなど、オフショアでデータを送信する中国の特定のネットワークを使用する多国籍企業は、潜在的に「ネットワーク事業者」とみなすことができる。 

(4) 個人情報と重要なデータ

 CSLの下での国境を越えたデータ転送のためのローカル・ストレージおよびセキュリティ評価要件は、「個人情報」および「重要なデータ」を保護します。継続的な法的努力は、次のとおりさらに「個人情報」および「重要なデータ」を定義する。 

i.「個人情報」の定義

 CSLの「個人情報」の定義には、名前、生年月日、ID番号、個人の生体識別情報、住所、および自然人の電話番号が含まれるが、これらに限定されない。アセスメントガイドラインは、具体的にアカウントとパスワード、財務ステータス、位置情報および行動情報をCSLの定義に追加する。 CSLの定義が記載されている種類の個人情報に限定されていないことを考慮すると、評価ガイドラインの定義はCSLと一貫しているため、規制当局は将来、位置情報および行動情報を「個人情報」として扱う可能性がある。 

ⅱ.クロスボーダーの個人情報および例外の移転に必要な同意

 評価尺度は、ネットワークオペレータが国境を越えた情報の転送に関連する目的、範囲、内容、受信者、および受領者の国について個人情報を所有者に通知することを要求し、ネットワーク事業者は、国境を越えた情報伝達が行う。 

 アセスメント・ガイドラインは、データ主体の同意を得ることの原則に例外を設けている。市民の生活や財産の安全を脅かす緊急事態が発生した場合、同意を得る必要はない。 

 特に、CSLは、特定の人が特定されないように不可逆的に処理された個人情報の例外を提供する。CSLは、そのように処理された情報を、所有者の同意を得ずに他人に開示することができる。 コメント要求は、この例外が中国における大規模データおよびクラウドビジネスの開発の便宜のために設計されたことを示唆している。 

 企業は、国際電話が行われた場所、電子メールやインスタントメッセージが海外の個人や組織に送信され、国境を越えた電子商取引やその他の活動が開始されるなど、評価措置の特定の状況下で推論されたデータ主体の同意が認識されるよう要求している。ただし、そのような例外が評価尺度に含まれるかどうかは不明である。 

ⅲ.「重要なデータ」の定義

 CSLは「重要なデータ」を具体的に定義していない。①国境を越えた個人情報の移転と重要なデータの安全性評価のための措置(協議草案)は、「重要なデータ」を国家の安全保障、経済発展、そして公益に密接に関連するデータと定義する。 ②評価ガイドラインは、「重要なデータ」につき次のとおり具体的な定義を提供する。 

 国家の秘密を伴わないが、国家の安全保障、経済発展、または公益に密接に関連している、中国の領土内の中国政府、企業、および個人によって収集された(元データと派生したデータを含む)紛失、濫用、不正使用、破壊、または集計、統合および分析後に開示された場合、国家安全保障、国家経済および財政保障、社会的公共利益、および正当な権利と利益に関連する重大な結果を引き起こす可能性がある。 

 評価ガイドラインは、27業種および部門の重要なデータの包括的な例と、中国の平和、繁栄、または社会的福祉に影響を与える可能性がある他の地域のその他のデータの包括的なカテゴリを提供している。 アセスメントガイドラインは、これらの27業種の業界規制当局を規定し、これらの主要産業における重要なデータの定義、範囲、および識別基準が、業界の規制当局によってさらに規定されることを規定している。

  たとえば、「人口統計的健康」カテゴリの下では、評価ガイドラインには次の8つの重要なデータが含まれている。 

① 特定の公衆衛生サービスの管理で得られた患者およびその家族の個人情報(薬物および避妊装置の副作用の監視、公衆衛生緊急事態、流行状況など)

② 電子的医学の履歴

③ 医療機関および保健管理サービス機関が保有する健康記録およびその他の診断およびヒースデータ

④ ヒト臓器移植医療サービスを通じて得られたヒト臓器移植者の受診者および応募者の個人情報

⑤ 精子および卵子提供者の個人情報ならびに人間支援繁殖技術サービスの利用者および応募者

⑥ 家族計画サービスを通じて得られた個人情報

⑦ 個人および家族の遺伝情報

⑧ 人生の登録情報 

ⅳ.セキュリティ評価

 評価尺度および評価ガイドラインによれば、CACではなく業界の監督当局が国境を越えたデータ転送のセキュリティ評価を担当する。 CACは、セキュリティ評価の努力を導き、調整する。 

 評価尺度および評価ガイドラインに従って、業界監督当局の定期的な試験の対象となるネットワーク事業者がセキュリティ評価を実施することができる。 しかし、以下の移転については、業界監督当局によってセキュリティアセスメントを実施すべきである。 

① 50万人以上の中国人市民の個人情報を含むデータ

② 海外に送信される1,000ギガバイト以上のデータ量

③ 「核施設、化学生物学、国防または軍隊、人口および医療など」に関するデータ

④ 「大規模な工学的活動、海洋環境、および敏感な地理情報」に関するデータは、システムの脆弱性やセキュリティ対策など、中国のCII事業者のサイバーセキュリティに関する情報

⑤ CIIオペレータが個人情報と重要なデータを海外に提供する場合

⑥ 中国の国家安全保障と公共の利益に潜在的に影響を与えるかもしれないその他の移転 

 評価尺度はまた、データを海外に転送することができない以下のような状況を提供する。 

① 国境を越えた移動が、個人情報の所有者によって承認されない場合、またはそのような移転は個人的利益を危険にさらす可能性がある。

② 国境を越えた移転は、国家の安全に影響を及ぼし、社会的および公共的利益を危険にさらす可能性のある場合、国家の政治、経済、技術、および/または防衛に対する安全保障上のリスクを引き起こす場合。

③ 国のサイバースペース管理、公安当局、または他の関係機関は、データが海外に送信されることを禁じている。  

 評価ガイドラインは、評価プロセス、主要な評価要因、評価手法などの自己評価と業界規制当局による評価の両方に使用される手順の詳細を提供する。 ネットワーク事業者が考慮しなければならない要因には、情報の機密性のタイプと程度、 情報の量と範囲であり、 情報が減感されたか否かに関わらず、 その移転の可能な影響; 国家の安全保障と公益への影響があるとき、送付者がとった安全上の予防措置、レシピエントの安全機能; 受取人の現地の法的風土が含まれる。 

 中国国民の個人情報と重要なデータを中国国外に移転しようとする企業は、国境を越えたデータフローを積極的に自己評価し、中国政府のセキュリティ評価に対処すべく準備をすることを検討すべきである。 

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中国のサイバーセキュリティ法の施行と重大な情報インフラ等の保護に関する規制草案等の公表と今後の課題(その1)

2017-08-01 08:39:47 | 国際政策立案戦略

 2017年7月11日、中国サイバースペース管理局(国家互联网信息办公室:Cyberspace Administration of China (以下「CAC」という) は、 「サイバーセキュリティ法(中华人民共和国网络安全法:以下「CSL」という)」 (筆者注0)第31条にもとづき重要情報インフラストラクチャーの保護に関する規則草案(draft Regulation on the Protection of Critical Information Infrastructure (以下「規則草案:CII Regulation」という)に対するパブリックコメントの公募を行った。このコメント期間は、2017年8月10日に終了する。 

 もともとCACは、2017年6月1日の、サイバーセキュリティ法の施行日に合わせて2017年4月11日に個人情報および重要データの国外移転におけるセキュリティ評価にかかる規則草案(Draft circulated by the Cyberspace Administration of China (CAC) on April 11, 2017.)を、パブリックコメントに付した。この規則草案は、国際社会から激しい批判を受けたが、大きな変更がないまま2017年6月1日に発効する見込みであった。注目すべきは、この規則草案によって、データ・ローカリゼーション要件(筆者注1)が適用される企業の範囲がさらに拡大し、中国においてコンピュータシステムを用いる企業に広く適用される可能性があるという点である。第一次のパブリックコメントの提出期限は2017年5月11日と、新法の施行のわずか3週間前という問題も指摘されていた。

 このような立法手続きの不手際問題はもとより、保護法の立法内容がわが国はじめ海外企業にとっていかなる影響があるかを考えるのが今回のブログの主な目的である。

 なお、サイバーセキュリティ法の内容についての解説は企業実務的にみると、本文で述べるとおり日本語解説としてはデロイト・トーマス事務所のものが参考になるし、またCII Regulationの内容については、Norton Rose Fulbright LLP のCII Regulation解説文「China Seeks Comment on Draft Regulation on Critical Information Infrastructure」、さらに法律および規則・ガイダンスの内容面からの問題指摘はCovington&Burling LLPの特別弁護士(special counsel)  

罗嫣 Yan Luo 氏 (同弁護士のプロファイルの中国語版 )が2017年7月17日付けInside Privacy「China Seeks Public Comments on Draft Regulation on the Protection of Critical Information Infrastructure」などで多くを述べており、本ブログでも積極的に引用した。 

 一方、中国の個人情報保護法制、個人情報保護評価認証(PIPA)ガイダンス、運用の理解いたが実務的にはもっとも重要な点であり、それには大連ソフトウェア産業協会サイト (筆者注2)の日本語解説がもっとも有用であり、本ブログでも適宜引用した。同時に、中国のサイバーセキュリティ法と緊密な関係にある個人情報保護法体系についても筆者が知りうる範囲で中国内に拠点をもつ海外の主要ローファーム(DWT)の解説をも引用した。 

 さらに重要な点は、中国が取り組んでいる重要視している点が規則案の策定にとどまらず、中国の新しいサイバーセキュリティー法の下で審査された特定のネットワーク製品のリストである「カタログ」の第一次のバッチ・カタログをリリースした点である。CACが中国のサイバーセキュリティ・レビュー・メカニズムの特定の規定に関する最新情報を提供し続けているため、これらの新しい機器の規定内容を理解することが企業実務にとって最も重要であることから、わが国では皆無といって良いこの問題の解説を試みた。 

 最後に多くのレポートを各観点から取り上げ引用、紹介したため、内容に一部重複が生じた。機会を改めて整理したい。 

 今回は、4回に分けて掲載する。 

Ⅰ.中国の「サイバーセキュリティ法(中华人民共和国网络安全法)」の概観

 翻訳した網羅的逐条解説資料としては、20174デロイトトーマツ「中国サイバーセキュリティ法の概要と日本企業に望まれる対応:季刊誌「企業リスク」(第4320174月号)「研究室」のサイトから資料をダウンロードのうえ参照されたい。 

Ⅱ.新サイバーセキュリテイ法成立前の中国の越境データ移転にかかる規制内容

 CovingtonBurling LLPの特別弁護士(special counsel) Yan Luo が、新サイバーセキュリティ法で提案された変更点を説明するとともに、海外の企業が新しい中国のデータ移転要件に準拠するために取るべきデータ移転に関する法令遵守戦略について2017年2月14日 付けEURObizで以下のとおり解説を加えている。

 (1) 中国が2016年11月7日に新しいサイバーセキュリティー法を制定する以前は、国境を越えたデータ移転は政府によってほとんど規制されていなかった。多くの中国の法律や規則がデータの収集、使用、保管(データ・ローカリゼーションを含む)に適用されていたが、拘束力のある法律や規制に適用される法的要件や中国国境を越えたデータ移送の制約はなかった。

 (2)サイバーセキュリティー法の立法の前後に見る中国の施策の大きな変化

 2017年6月1日にサイバーセキュリティ法が施行されれば、国境を越えたデータ移転の規制状況は完全に変わるであろう。中国は国際的なデータ移転空間でとるべき別の重要な法的管轄概念を取り込んだ。

  法律が公布される前にも、中国はすでに業界固有の多くの規制においてデータのローカリゼーション要件を課すことにより、データに対する管轄権の統合を開始した。しかし、国境を越えたデータフローを規制する包括的な枠組みは存在しなかった。

  2012年に「公共および商業サービス情報システム (GB / Z 28828-2012)( 以下「ガイドライン 」という)(筆者注2)における個人情報保護のためのガイドラインが自主的で拘束力のない国家規格として発布された。  

 このガイドラインは、「個人情報主体の明白な同意、明示的な法的または規制上の許可がない場合、または権限のある政府機関の承認がない場合、個人情報の管理者(administrator of personal information)は、個人情報を海外に所在する個人または海外に登録された組織または機関への個人情報の移送を禁止する」と規定していた。しかし、このガイドラインは法的強制力がなく、実際には解釈上の牽引力をもっていなかった。 

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(筆者注0) 中国日本商会(The Japanese Chamber of Commerce and Industry in China)のサイトが「中国サイバー セキュリティ法」仮訳(仮訳作成:JEITA/JLMC(電子情報技術産業協会 北京事務所 )でCLの全条文を仮訳している。 

(筆者注1) 2017年5月11、 ジョンズ・デイ法律事務所の東京事務所の解説文から「データローカリゼーション」に関する解説を以下、抜粋する。

「データローカリゼーション:新法でおそらく最も議論を呼んでいる規定は、中国で収集または生成された「国民の個人情報および重要データ」を中国国内で保管することをCII事業者に要求している第37条(筆者注2-2)である。「重要データ」という用語は、新法において定義されていないが、第76条では、「個人情報」を、電子的にまたはその他の手段で記録された、単独でまたはその他の情報とともに、自然人の身元を特定するのに十分なあらゆる種類の情報と広範に定義しており、個人名、生年月日、身分証明書番号、個人生体認証情報、住所、電話番号等を含むが、これらに限定されない。

 新法ではさらに、「正当な業務上の理由」により、かかる情報を中国国外に移転する必要がある場合には、CII事業者は、国務院および国のサイバースペース部門が共同で制定した「セキュリティレビュー」(定義されていない用語)を行わなければならないと規定している。規定に従わなかった場合の罰則としては、所得の没収、罰金(違反した組織および担当者個人の両方)ならびに業務の停止が挙げられる。

 これらのデータローカリゼーションの新たな要件は、世界でも最も厳しいデータローカリゼーション要件に属する。後で「規則案によりデータローカリゼーションおよび国外移転の要件を拡大」で説明するように、中国のサイバースペース部門による2017年4月11日の規則案では、データローカリゼーションの要件がさらに拡大され、この義務が他のネットワーク事業者にも適用されている。・・・・・」

 (筆者注2) 2012年11月5日、中国の品質監督検疫総局と中国の標準化管理総局が共同で公的商業サービス情報システム(GB / Z 28828-2012)で公表した「2013年個人情報保護ガイドライン」をさす)。大連ソフトウェア産業協会の「中華人民共和国国家標準化指導性技術書GB/Z 28828—2012 发布时间:2015-8-7 作者:PIPA管理事務室 点击次数:876

情報セキュリティー技術の公共・商用サービス情報システムにおける個人情報保護ガイドライン」の日本語解説参照。 

(筆者注2-2 第37条の英訳・原文・和訳(和訳は筆者が仮訳した)をchina law translate .comサイトから引用する。

Article 37: Personal information and other important data gathered or produced by critical information infrastructure operators during operations within the mainland territory of the People's Republic of China, shall store it within mainland China. Where due to business requirements it is truly necessary to provide it outside the mainland, they shall follow the measures jointly formulated by the State network information departments and the relevant departments of the State Council to conduct a security assessment; but where laws and administrative regulations provide otherwise, follow those provisions.

*第三十七条  关键信息基础设施的运营者在中华人民共和国境内运营中收集和产生的个人信息和重要数据应当在境内存储。因业务需要,确需向境外提供的,应当按照国家网信部门会同国务院有关部门制定的办法进行安全评估;法律、行政法规另有规定的,依照其规定。

*第37条 中華人民共和国の本土内での業務中に重要な情報インフラストラクチャ事業者によって収集または作成された個人情報およびその他の重要なデータは、中国本土内に保管しなければならない。ビジネス要件のために本土外に提供することが本当に必要な場合は、国家ネットワーク情報部門と国務院の関係部門が共同で策定した施策に従って、セキュリティ評価を実施しなければならない。法律および行政上の規定に別段の定めがある場合は、それらの条項に従う。

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「米連邦航空局の商用ドローン使用規則の施行とわが国の実態から見た新たな検討課題」(その2完)

2016-09-05 07:26:25 | 国際政策立案戦略

⑤警察庁「小型無人機等飛行禁止法について」 (筆者注11)

 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号。以下「本法」という。)第8条第1項の規定に基づき、以下の地図で示す地域(対象施設の敷地又は区域及びその周囲おおむね300メートルの地域:「対象施設周辺地域」)の上空においては、小型無人機等の飛行を禁止される。 

⑥日本産業振興協議会(JUIDA)が2016年1月26日から5月までの間、実証実験(β版)「ドローン専用飛行支援地図サービス(SoraPass)」を提供した。筆者はもちろん参加した。  

【実証実験の背景の説明】

ドローン産業の発展を支援するわが国最大の団体である一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)は、 株式会社ゼンリンとブルーイノベーション株式会社とともにドローン専用飛行支援地図サービスの共同開発に着手しました。 このサービスはドローンに特化したわが国でも初めての飛行支援地図サービスで、1月26日から実証実験版の利用開始、サービス開始は来年度を予定しています。 

 

 なお、同サービスはその後も引き続き利用はログインにより可能である。

   

(2) 日米の比較表を作成 大きく異なる点を中心に整理

  追加予定

 

 

 

(3)プライバシー問題は少なくとも国土交通省、警察庁、市町村条例レベルでは問題視されていない?

 3.わが国においてさらに検討すべき優先課題 

(1)技術面からみた安全性への課題 

 欧州では、ドローンは「遠隔操縦航空機システム(Remotely  Piloted  Aircraft  Systems:  RPAS)」と呼ばれ、EUROCONTROLEEASAが中心となってルールづくりが進んでいる。2014年4月、欧州委員会(European Commission)が民生ドローン(Civil Drones)のルールづくりを要求し、2015年3月、欧州航空安全機関(European Aviation Safety Agency: EASA「ドローン運用のコンセプト(Concept of Operations for DronesA risk based approach to regulation of unmanned aircraft(12))を公表した。同文書ではドローンの飛行形態等に応じて、「オープン(Open)」「特定(Specific)」「認証(Certified)」の3分類でルールづくりを進めている。

(EUの民間ベースのドローンへの取り組みの詳細は、専門サイト等参照) 

 わが国における同様の検討が急がれよう。また、電波ののっとりいわゆるハッカー対策等の問題に関し、「ドローンによる自動配送実現に重要な制御通信の改ざん・盗聴防止 NICTらが実証実験に成功」等、実務的な観点にたった実証実験の進展も期待されよう。 

 さらに電波法の関係で見ると、日本国内で「技適マーク」が付いた機種以外を操縦すると、電波法違反になる可能性があるという問題もある。(筆者注12)

 (2)プライバシー保護

 総務省は2015年9月11日に「「ドローン」による撮影映像等のインターネット上での取扱いに係るガイドライン」(案)に対する意見募集の結果の公表した。住宅地にカメラを向けないなどの注意点を定義し、軽犯罪法は個人情報保護法に抵触するケースについても紹介してる。その詳しい内容は省略するが軽犯罪法で取り締まることでよいのか、そもそもわが国の個人情報保護法は事業者の保護規制法であることから、当然ドローン飛行運用についても飛行場所や航空機の安全性のみの観点からの規制だけでない、広く規制のあり方が喫緊の課題と考えられよう。

 ********************************************************************* 

(筆者注11) その内容を見ておく。

警察庁「小型無人機等飛行禁止法について」から一部抜粋する。

 国会議事堂、内閣総理大臣官邸その他の国の重要な施設等、外国公館等及び原子力事業所の周辺地域の上空における小型無人機等の飛行の禁止に関する法律(平成28年法律第9号。以下「本法」という。)第8条第1項の規定に基づき、以下の地図で示す地域(対象施設の敷地又は区域及びその周囲おおむね300メートルの地域:「対象施設周辺地域」)の上空においては、小型無人機等の飛行を禁止されています。 

○本法の規制の対象となる小型無人機等とは、次のとおりです。

① 小型無人機(いわゆる「ドローン」等)

② 特定航空用機器(操縦装置を有する気球、ハンググライダー、パラグライダー、回転翼の回転により生ずる力により地表又は水面から浮揚した状態で移動することができ、かつ、操縦装置を有する機器であって、当該機器を用いて人が飛行することができるもの航空法(昭和27年法律第231号)第2条第1項に規定する航空機に該当するものを除く。) 

○ただし次のものについては、適用されない。

①対象施設の管理者又はその同意を得た者が当該対象施設に係る対象施設周辺地域の上空において行う小型無人機等の飛行

②土地の所有者若しくは占有者(正当な権原を有する者に限る。)又はその同意を得た者が当該土地の上空において行う小型無人機等の飛行

③国又は地方公共団体の業務を実施するために行う小型無人機等の飛行

 この場合、小型無人機等の飛行を行おうとする者は、国家公安委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、その旨を当該小型無人機等の飛行に係る対象施設周辺地域を管轄する警察署を経由して都道府県公安委員会に通報する必要があります。 

○警察官等は、本法の規定に違反して小型無人機等の飛行を行う者に対し、機器の退去その他の必要な措置をとることを命ずることができます。

また、一定の場合には、小型無人機等の飛行の妨害、破損その他の必要な措置をとることができます。 

○なお、上記に違反して、

・対象施設及びその指定敷地等の上空で小型無人機等の飛行を行った者

・法第9条第1項による警察官の命令に違反した者

は、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処せられます。 

(筆者注12) DRONE MDIAの電波法との関係を解説した例「技適マークのついていない機種を所有しているだけなら違法ではないのですが、電源を入れてしまうと違法になってしまいます)。電波法では「技適マーク」がついていない無線を使用する機械を使う=国が定めた電波の利用ルールに違反してしまう(法律違反)と、規定されています。(電波の強さ等に応じて例外となる機械も一部あります)」

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「米連邦航空局の商用ドローン使用規則の施行とわが国の実態から見た新たな検討課題」(その1)

2016-09-05 06:51:16 | 国際政策立案戦略

 米国や英国の小型無人航空機システム(「UAS:Unmanned Aircraft Systems)UAV(Unmanned aerial vehicle」または「ドローン(drones)」)につき、これまで筆者のブログ(筆者注1)で数回にわたりとりあげてきたが、その商用利用に関する連邦航空局(FAA)の待望久しい規則が、2016年8月29日に施行された。(正確に言うと、筆者ブログでも紹介したとおり、2015.2.15付けでFAAは連邦官報で新規則全文「Operation and Certification of Small Unmanned Aircraft Systems」(全文152頁)を掲載した。その中で官報掲載後、60日目に施行すると明記されており、今回のFAAの実施通達は、まさにそのスケジュールに即したものである)。 

 これは、営利目的のために小型のドローンを操作したいと考える何人も包括的でかつ一般に適用できる一連の規則が与えられたことを意味する。 

 しかし、従来言われていたように、この利用についてはかなり多くの制約があることも事実である。今回のブログは、1)FAAの規則内容を「適用免除(waivers)」を含めあらためて概観するとともに、2)UAS規制の主な日米比較、3)わが国の規制の実態からみた更なる課題とりわけプライバシー保護面からの課題等を取り上げる。 

 今回は、2回に分けて掲載する。 

1.FAAの新Small UAS規則(New mall UAS Rule)(連邦航空規則第107編:Part 107)の内容

 筆者は、前記のとおり、すでにブログでFAA, OST(連邦運輸省・事務総局(Office of the Secretary of Transportation)および連邦運輸省(DOT:Department of Transportation)の検討内容につき概略(日本エレベータユースの解説記事を引用)を述べた。なお、新規則の詳しい翻訳は、社団法人ドローン操縦士協会のFAA規則の翻訳文を参照されたい。 (筆者注2)

  今回は、従来取り上げていない事項をInside PrivacyのブログFAA Drone Rules Take Effect; Commercial Use of Drones Permitted with Certain Conditionsを中心に仮訳するとともに補足的な解説を加える。 

(1)基本原則

 新規則は、あなたが営利目的のためにドローンをすぐに使用できるということを意味しない。新しい規則の下で、あなたはドローンの操縦を行うためには、1)遠隔操縦証明書(Remote Pilot Certificate)を持っていなければならない、2)申込者は少なくとも16才であること、3)英語の読み書きに習熟していること、4)FAAが認可したテスト・センターで初級の航空知識テスト(Initial Aeronautical Knowledge Test) (筆者注3) にパスしたこと、5)TSA身元調査(筆者注4) (筆者注5)に合格したこと、等である。FAAは、この適用過程に完了するには6~8週がかかると見積もる。FAAは、承認されたこのテスト・センターに関する情報とともに、FAAは知識テストに関する予習用データをウェブサイト (筆者注6) に掲示した。 

 ドローンが使用されることができる前に、営利目的のためにも使われるすべてのドローンはFAAオンライン登録されなければならない。

 (2)ドローンの新規則の下で定められるその他の使用条件: 

①規制されない自由な(クラスG)空域(空港の近くの一般に低い高度空域でない空域) (筆者注7)で飛ばされなければならない。

②パイロットまたはもう一人の監視者(observer)(「目視見通し内(“Visual Line-of-sight”))」と呼ばれる) (筆者注8) により常に見える状態で飛行しなければならない。 (筆者注9)

• 400フィート未満(約122m)で飛ばさなければならない。

• 時速100m以下で飛ばさなければならない。

• 日中のUASが見通せる時間帯に飛ばなければなりません(夜間の飛行は原則禁止:called “Visual Line-of- sight”)

• 先行権を有人の航空機に譲渡しなければならない。

• 人々(ドローンの運行に参加している人々を除く)の上を飛び越えてはならない。

• 走行中の車両(人口のまばらな地域の上にあること以外は)の上を飛んではならない。 

(3) 適用免除と免除・承認証明書の扱い

 新規則は、飛行申込者が安全な飛行を実行できることを証明するならば、上記の大部分の必要条件に対する「適用免除(waivers)」を求めることができることとし、FAAは 第333条の適用除外と免除・承認証明書(COA)」 (筆者注10)を公表した。 

 FAAは、1)適用免除を要請できるオンライン・ポートを準備するとともに、2)クラスG以外のどんな空域にでも飛行するために、承認(Authorization)はこのオンライン・フォームを使用して航空交通管制から得なければならない。概説される適用免除や承認要請に関し、どれくらいの期間を要するかは明らかでない。しかし、それは予想されたUAS使用の少なくとも90日前に適用することが勧奨されている。

  すでに、伝えられるところでは、UASのオペレーターが前記で概説した状況を踏まえ、FAAは2016年8月29日現在で76件の適用免除申請を受け付けた。 FAAは、それらの適用免除のうち72件は夜間飛行希望でかつ適切な安全予防措置をとりたいというオペレーターであると述べた。 

(4) 8月29日のFAAの記者会見

 FAAは人々の上で飛行するドローンに関する規制機能を持ち、新規則が今年末までには完全な内容で実施されると見込んでいる、また新規則は衛星通信などを利用した見通し外(beyond line of Sight:BLOS)の長距離の飛行を許していると述べたが、その具体的規則がいつ準備ができているかについては言及しなかった。 

 ドローンを利用するために第333条の適用免除を得たオペレーターにとって、それらの免除はまだ効力を有しており、彼らの個々の有効期限の間は有効である。このため、オペレーターは、彼らが第333条の適用免除(その中で含まれるすべての規則も含む)の下で動き続けるか、新しい規則の下で動くかを選択可能である。 

(5) 新規則への評価

 各種の規制にもかかわらず、新規則はアメリカ合衆国でドローンの商用利用のために大きな前進を意味する。新規則(それは55ポンド(25kg)未満のドローンにも適用される)が、なお①ニュースの収集もののための空中ビデオ、②パイプラインや電波塔の点検、③空中写真測量(aerial surveying)、④土地や建設サイトの監視のための航空写真、⑤災害対応と他の用途を含む各種営業運転のためにドローンの広範囲にわたる利用が展開されることを我々は期待する。 

(6) 連邦商務省・電気通信情報局(NITA)取り組み

 筆者なりに米国の民間ドローンのプライバシー保護の透明性や説明責任につき調べた。2015.4.24 Comments on Privacy, Transparency, and Accountability Regarding Commercial and Private Use of Unmanned Aircraft Systems 

が参照すべきものである。 

2.わが国のUASの各規制の実態

 一般的に米国FAAのUAS規則とわが国の規制との比較を見てみる。 

 これまで述べたように、FAA規則は、(1)UASの飛行運用上の制限(Operational Limitations)、(2)UASのオペレーター(Operators)の認定とその責任

(Operator Certification and Responsibilities)、(3)Aircraft Requirements(耐空性等UASの飛行機として要件)、(4)模型飛行機(Model Aircraft)へのUAS規則の適用の4分野につきFAAが定める小型UASの飛行承認規則は明記している。 

 一方、わが国のこれをわが国の無人飛行機施行規則にあたるものは、2016.7.29 国土交通省「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」最も基本となる解説」のみである。 

 あまり明快な解説ではないと思えるが、少なくとも注意深く読めば理解できる内容である。 

 一方、わが国のドローンの法規制の概要をまとめると次の通りである。 

(1)航空法等の改正

 ドローンに対応する航空機のカテゴリーとして「無人航空機」を設け、①航空の用に供することができる飛行機、回転翼航空機、滑空機、飛行船その他政令で定める機器であって、②構造上人が乗ることができないもののうち、③遠隔操作または自動操縦により飛行させることができるものと定義した。具体的にはドローン(マルチコプター)、ラジコン機、農薬散布ヘリコプター等が想定されている。

 他方、規制対象外に該当するもの(改正航空法2条)の基準として、「無人飛行機本体の重量とバッテリーの重量の合計(バッテリー以外の取り外し可能な付属品の重量は含まない)で、200グラム未満のもの」と定めた。(航空法施行規則5条の2) これはおもちゃを適用除外とする意図である。 

①飛行場所を特定した申請で利用可能な航空局標準マニュアル:無人航空機飛行マニュアル(制限表面・150m以上・DID・夜間・目視外・30m・催し・危険物) 

②飛行場所を特定しない申請のうち、以下の飛行で利用可能な航空局標準マニュアル(空港周辺の飛行と150m以上の飛行では利用できません)

 ○人口集中地区上空の飛行

 ○夜間飛行

 ○目視外飛行

 ○人又は物件から30m以上の距離を確保できない飛行

 ○危険物輸送又は物件投下を行う飛行

 ○催し物上空での飛行

③国土交通省・無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール:技術的な問題のガイドライン 

④無人飛行機の飛行禁止空域

 次の1).2)の区域は、国土交通大臣の許可を受けた場合を除機、飛行が禁止される。(改正航空法132条) 

 1)無人航空機の飛行により航空機の安全に永久を及ぼすおそれがある者都として国土交通省令で定める空域(航空布施行規則236条)

 2)236条1号に掲げる空域以外で、国土交通省令で定める人または家屋の密集している地域の上空 

*********************************************************************

(筆者注1)2015.3.22 筆者のブログ「ホワイトハウスの無人航空システム使用時のプライバシー権等に関する覚書と法 制整備等の最新動向(その1) 、「同(その2) 「同(その3)

 また、英国については2015.3.17 筆者のブログ「英国の運輸省民間航空局によるUAS規制の現状と航空安全面やプライバシー面からの新たな課題 を参照されたい。 

(筆者注2) 米国のドローンに関する連邦のプライバシー保護法制は比較的遅れている。一方、州レベルでは2015年8月現在、26州で独自の法律が成立している。例えば、アーカンソー州とミシシッピ州ではドローンによる「のぞき」を禁止、フロリダ州は私有地の建物や人を許可なく撮影することを禁止している。

  プライバシー保護は、オバマ政権にとっても優先課題の一つに位置付けられている。2015年2月には、オバマ大統領は「ドローンの国内利用時における経済的競争の促進とプライバシー、人権、自由権の保護」と題する大統領覚書を発表し、国家電気通信情報庁(NTIA)に対して、政府機関や民間ドローン事業者がドローンを通じて収集する情報のプライバシーを保護するためのガイドラインを策定するよう指示した(高橋 幹「諸外国におけるドローンを巡る規制の動向」)

 (筆者注3) USA運用の前提となる初級の航空知識テスト(Initial Aeronautical Knowledge Test) については 、2016.7 FAA: Flight Standards ServiceRemote Pilot – Small Unmanned Aircraft Systems Airman Certification Standards

が詳しく解説している。またわが国ではやや古いがエアーアコード・フライングスクール校長 脇田祐三「飛行訓練および操縦資格取得要領」が参考になる。 

(筆者注4) 米国運輸保安局(TSA)「TSA Background Checksのサイト」から、その概要とチェック項目を見ておく。これだけ見ても米国の航空運輸システムにおける身元調査時のテロ対策の力の入れ方が理解できよう。 

9/11のテロ攻撃と運輸保安局(TSA)の編成後、より厳しい身元調査は、制限された地域への出入りを必要とする人々のために必要とされた。より多くの規則が改正され、我国の航空運輸システムをテロリズムから守るための挑戦に対処するために追加された。また、

NATA(NATA Compliance ServicesNATAS) (筆者注5)は、新しい規則の遵守を確実にすることを要求されるデータの収集と伝送を合理化する専門的手順を開発した。あらゆる段階で、我々は、あなたが所定の個人の各種の身元について知っている必要があるものを慎重に特定し、確かめ、保証する。あなたの顧客やと従業員の安全とセキュリティが危なくなっているときに、失敗の余地はない。 

①A Criminal History Records Check (CHRC)

A Criminal History Records Check (CHRC) is a TSA-defined process for taking and checking fingerprints against the FBI database. NATACS takes this process one step further by also screening information against the FBI Terrorist Watch list.

②Criminal History VerificationIn 

In order to give you added confidence in your hiring decisions, NATACS searches for any criminal convictions, whether felony or misdemeanor, at the County, State and Federal level.(5検査と10検査がある)

③FAA Records Check

④Air Carrier Records Check

⑤Drug and Alcohol History Check

⑥Motor Vehicle Registry Check

⑦National Driver Registry Check

⑧Social Security Trace/ Verification

⑨Professional License/Certificate Verification

⑩10-Year Application Review

⑪Worker's Compensation History

⑫Professional Reference Check 

(筆者注5) NATA の事業内容を見ておく。

 NATA(NATAS)は、航空業界を専門としている国の唯一のフルサービスの従業員の身元調査(background checks)と検証行う会社である。全米航空運輸協会の子会社として、アメリカ合衆国の「航空の声(Voice of Aviation)」と考えられており、他の同様の企業チームも、「輸送の番犬」の役割を満たすために、NATACSよりよく適したものはない。

 身元調査、社員IDチェック(badging)、指紋鑑定から完全な薬物管理プログラムまで、あなたは真実を得て、我々が生む結果を信頼することを期待できる。調査、検証とコンプライアンス・プログラムの60年の航空界での経験を全体的に捧げたプロとして、我々はNATACSがあなたのセキュリティマネジメントの必要性の論理的な唯一の源であると考える。 

(筆者注6) 「クワッドコプター」の定義を見ておく。

「ドローン(Drone)とは無人航空機を意味するもので、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)と同じ意味です。要するに固定翼機(飛行機)でも回転翼機(ヘリ)でも無人飛行が可能な機体はドローンと呼んでもいいということです。

マルチコプターは2枚を超えるローター(テールローターは除く)を搭載した回転翼機のことです。ローターの回転速度の差異によってヨー角(左右回転)を制御する関係で通常は偶数枚のローターを持ちます。

マルチコプターは2枚を超えるローターを搭載した回転翼機の総称であり、4枚ローターの物は「クワッドコプター(クアッドコプターとも言われる)」、6枚ローターを「ヘキサコプター」、8枚ローターを「オクトコプター」とも言われます。

※3枚ローターは「トライコプター」と言います。 

つまりドローンは無人飛行機、マルチコプターは形状を示す名称です。実際には同じような意味で使われることが多いようです。」 

(筆者注7) FAが指定する空域の「class G」とは規制空域である「class A」から「class E」以外の飛行につき規制されない自由な空域である。米国のAirspace (空域)」class Aclass Eにつき平易に解説している。 

(筆者注8) 「visual-line-of-sightは「VLOS」と略されることもありますが、ドローンなどの遠隔操縦による無人航空機の運用における視界の定義では、遠隔地にいる操縦者から飛行物体が裸眼(あるいはメガネなどの矯正)だけで完全に視認できていることを意味します。たとえ一瞬でも何らかの遮蔽物によって視認できなくまった時点でVLOSではなくなります。また、望遠鏡などの装置を使っての視認も対象外とされます。当然ながら、ドローンにカメラを搭載してそのカメラ視点で操縦するといった手法や、GPS連動等による自動操縦などもVLOSではありません。(山本一郎「ドローンの商業利用ルール案が米国で発表されましたがこのままでは宅配に使えないようです」から抜粋) 

(筆者注9) 国立研究開発法人情報通信研究機構・ワイヤレスネットワーク研究所 三浦龍「小型無人機(ドローン)の安全運航に不可欠なワイヤレス技術」は安全運行におけるワイヤレス技術問題を詳しく論じている。 

(筆者注10) わが国のドローンメーカーであるDJIのサイトが次のように解説している。

「米連邦航空局(FAA)が初めてセクション333条項(Section 333)の適用除外をDJI Phantomに対し認めたのは今年1月のことで、これによりPhantomに米国内で商業利用する資格が与えられました。6か月後、これまでに商業用ドローンオペレーターに認可されたSection 333の免除は、700件以上になりますが、その圧倒的多数はDJIのクワッドコプターを使用している企業です。 

 無人航空機(UAV)を含む新たな規制ができるまで、米国内でドローンを商業利用するためには、現在はSection 333適用除外と免除・承認証明書(COA)が必要です。」

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UAS・ドローン問題は模型飛行機の飛行規制や商用ビジネス規制にとどまらない軍事面も含む大型化の最新情報

2015-05-05 15:51:55 | 国際政策立案戦略

(予告編)

 筆者は、本年3月にかけて米国、英国を中心にUAS問題を取り上げた。その際、この問題をグローバルな視点から改めて、取り上げる旨予告した。

 筆者なりに整理した段階では米国(その1)の前書きの最後に述べたとおり、カナダ、オーストラリア、フランス等を中心とした規制機関等における規則内容やガイダンスの整理でまとめられると考えていた。

 ところが、実はスペインの取り組みの調査の段階からカナダや北欧諸国の意外な展開が見えてきた。商用ビジネス使用規制や娯楽的なUASの規制ではとどまらない、ビッグビジネスすなわちフィンランドで見るとおり、最大500kgのUASの発射システム企業が注目され、軍事的な利用も含めUAS企業連合はより大規模なUASの実用化実験に取り組んでいる。

 本ブログは正規の本文の執筆に先立って、これらの国々の概要をリンク情報とともにかいつまんで解説する。

 1.カナダ:ADLANS UAS Committee (筆者注1)

(1)ADIANSの企業概要

 わが国ではほとんど着目されていないカナダ・ノヴァスコシア州の中小企業グループである。同グループのHPの企業概要部分の一部を仮訳する。 

 「 ADIANSは、開発とプロモーションの機会の特化を通じてノヴァスコシアの活力ある航空宇宙、防衛およびセキュリティ産業の拡大を推し進めている。ADIANSは供給者、パートナーおよび共同事業者を求める政府、政府機関、より大きい航空宇宙や防衛企業をそれらに加えるべく内部事業化リンケージを手助けする。

 同州の軍事費へ10億ドル(約990億円)以上の直接的な衝撃を与え、航空宇宙、防衛および関連するセクターの強い産業ベースは、毎年の収入において5億ドル(約495億円)以上の販売を実現させている。多様な側面で高い技能をもつ従業員6,000人を雇っている。

 カナダ国防費支出について、ADIANSメンバー企業の年間売上高の合計金額は、ノヴァスコシア州のGDPのおよそ7%を占める。ノヴァスコシアの航空宇宙と防衛産業には、グローバルに共鳴する品質に関する良い評判がある。」

 ADIANS UAS Committeeのサイトで確認できるとおり、これらグループの意図するところは、高度な技術に支えられた遠隔軍事兵器や軍事システムの構築にあるのかもしれない。 

2.英国ウェールズ:West Wales UAV Centre,Parc Aberporth 

(WWUAS) 

 

安全面からの運用環境の概観

(1)地上設備とオプション設備

 1,200mの舗装滑走路(tarmac runway)のほか発射台式発射装置(zero-point launch systems)や 芝滑走路や格納庫、燃料施設へのアクセスを可能とする。

 (2)技術支援

 WWUASは、国際的に見た安全性、耐空性および環境専門技術に基づく包括的な助言を提供する。また、必要に応じ試験環境や電気通信施設とともに安全性解析や安全性規格保証サービスを提供する。民間航空局(CAA)に対する例外申立の詳しい説明やUASの操縦上の輸送省管轄の航空規則(Air Navigation Order)適用除外についての支援を行う。

 英国空軍研究所から民営化した研究開発企業QinetiQ社グループ会社である”Qinetiq Flying Organisation”を通じて、WWUASは民間および軍事飛行規則

に即してすべての顧客のために飛行監視や行動監視を行う。また、ユーザ-のニーズに即してUASの操縦者、パイロットおよび整備員を提供できるし、デモ飛行計画や飛行サービスとともに、システム・トレーニングや試験飛行方法の助言等を行う。

(3)試験設備や離着陸設備へのアクセス支援

 WWUASは、環境および電磁両立性(environment, electro-magnetic compatibility:EMC) (筆者注5)、電気通信およびデータリンク試験を含む広範囲にわたる離着陸試験能力へのアクセス可能とする。また、航空業務の支援、運行システムの有効化とするため、追跡レーダーや電子光学追跡機器(electro-optical tracking instruments)等の設備を可能とする。 

3.フランス:Bordeaux Aeroparc 

 ブルドウ・ハイテク企業団地の構成企業であるBordeaux Technowest Technopoleは航空、宇宙、防衛分野において革新的なプロジェクトをサポートする。

 この中でdrone専門企業はThales(タレス)である。(筆者注6)企業概要を訳しておく。 

「タレスは、航空産業のための電子機器で市場に出ている世界的リーダー企業の1社である。 ハイテク団地Aeroparcで2,000人以上の従業員を雇用して、タレスは世界の主要な航空機メーカーのために、コックピット表示システム(ヘッドアップ式またはヘッドダウン式のディスプレイ、ヘルメット搭載の射撃照準器、航空機指標とコントロール・ステーション)と航空電子機器(Avionics suites)を設計、開発する。また、タレスはレーダーとシステム工学と建築専門知識のセンターであると認めら、また戦闘装置とシステム関連の活動を統合する事業に取り組んでいる。最近では、タレスはAeroparc団地内ですべてのドローン・システム関連の活動を行っている。」

 

 4.フィンランド:RATUFC 

 前記英国のWWUASで述べたUAS Zero-Point Launch発射台を初期に開発したのはフィンランドのUAS企業 Robonicが開発したUAS発射台システム”Tactical UAS”とイタリアのフィンメッカニカ(Finmeccanica S.p.A.:イタリアの機械産業持株会社である世界的規模の軍事産業グループである)の子会社”SELEX Galileo”が2008年12月11日にブルガリアの空軍基地でデモを行った旨の記事がある。

 

(1)Robonicの企業概要と戦略 

 

 

 

(2)米国子会社SELEX Galileoの企業概要と戦略

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5.ノルウェイーのUAS Centre NOROS 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6.デンマークのUAS Test Center Denmark

 同センターのプロジェクトマネージャーの マイケル・ラーセン氏は次のとおり語っている。

「2011年にボーイング機のテスト飛行に始まり優れた施設、インフラなどからUAS試験飛行センターとしての基礎が作られた。また同時に、UASデンマークの空域確保だけでなく、約60社からなる革新的ビジネスネットワークを構成している。

 

 2015年5月28日ボーイング機の予定テスト飛行案内予告(BVLOS-flight at NORDIC UAS EVENT MAY 28:Boeing will conduct a BVLOS flight with its Insitu ScanEagle in cooperation with UAS Denmark and the Danish Transport Authority.)

  「このUAS飛行空域の拡張や写真測量コースを導入するための計画が急速に進んでいる。我々は、緊密の提携関係にあるデンマーク航空管制(ACC)とともに、UASの試験飛行ト運用訓練のためにオーデンスのハンス・クリスチャン・アンダーセン空港出の空域を開発した。このことから、我々は効率かつ短期の飛行承認手続を提供できる。」

 7.NATO

 

    **********************************************************

(筆者注1)ADLANS UAS Committee”の真実性について注記する。同サイトの最後のCopyright文言をチェックしてほしい。普通では”Copyright ©2010-2015 ADINS UAS Committee”と記するであろうが、”2010-2013”のままである。チェック漏れでは済まされない問題であろう。

 (筆者注2)

 

 

(筆者注3)

 

 

(筆者注4)

 

 

(筆者注5)電磁両立性(英: electromagnetic compatibility、EMC)とは、電気・電子機器について、それらから発する電磁妨害波がほかのどのような機器、システムに対しても影響を与えず、またほかの機器、システムからの電磁妨害を受けても自身も満足に動作する耐性である。電磁共存性、電磁的両立性、電磁環境両立性または電磁(環境)適合性とも呼ばれる。Wikipediaから一部抜粋。

 

 

(筆者注6)タレスジャパン株式会社(Thales Japan Kabushiki Kaisha(TJKK)のHPは次のとおり述べている。

「航空宇宙、防衛、セキュリティ、および交通システムの世界市場にサービスを提供している、エレクトロニクス技術およびそのシステムを専門とするフランスの国際的なリーディンググループ「タレス」の一員です」

 

 

 

(筆者注7)

 

 

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フィンランドの国を挙げての世界的な産業ビジネス戦略の中身を解析する

2013-04-17 11:40:45 | 国際政策立案戦略



 筆者の手元には毎日、欧米やアジア等多くの国から政府、議会(議員)、各種産業団体、シンクタンク、NPO、大学等が発するメールが届く。
 時間の関係でそれらの内容を逐一読むわけには行かないが、注目に値すると思われるテーマについては丁寧に解析するように努めている。

 今回紹介するフィンランド政府からのニュースを詳細に解析し、また関連するとサイトを注意深く読むと、軽く読み飛ばすにはもったいないと思える内容である。すなわち、人口約550万に満たない小国がこれだけの経済力(GDPは49,350万ドル)と教育水準が維持できている本当の理由が垣間見えたと思えたからである。

 わが国はなおGNPが世界第3位といっているが、中長期に見た場合、果たしていつまで過去の貯蓄を食いつないでいけるのであろうか。国際ビジネスだけでなく、教育を含めたわが国の更なる喫緊の検討課題を考えるヒントが見える気がした。

 また、わが国のメディアや行政機関だけでなく研究機関を含めEUの小国の解析は極めて貧弱といえる。筆者なりに補足しながらフィンランドの初歩的研究を試みる。


1.フィンランド政府の大型中国ビジネス訪問団に関するリリースの概要仮訳(中国語版 )

 欧州外交・外国貿易大臣であるアレクサンデル・ストゥブ相(Alexander Stubb, Minister for European Affairs and Foreign Trade)は、フィンランドの会社の輸出と国際化の一層の促進を図る狙いで、中国への大規模チームによる訪問旅行を4月10~12日に実施する。

 この旅行の間、代表団は江蘇省・上海や四川省・成都を訪問する。江蘇省・上海近郊では約200のフィンランドの会社が、また江蘇省では約40の会社が営業活動を行っている。急速に発展している成都は、特にITテクノロジー・セクターのための面白い市場エリアである。フィンランドのビジネス代表団(フィンランドの全国的な貿易および国際的な投資開発推進団体である“Finpro”(筆者注1)によって集合された)は、全部で31社からなる。これらは、クリーン化技術、電気通信、IT技術、造船、金融、都市計画、観光旅行や幸福増進部門等を代表する企業である。

 中国は、アジアにおけるフィンランド最大の取引相手国である。わが国と間の貿易総額は、2012年には 72億ユーロ(約8,928億円) (筆者注2)に達した。今回の訪問目的は、フィンランドの会社の商機を進めることとともに、高度かつクリーンな技術を持つ国としてフィンランドのイメージを強化することにある。

 上海を訪問するとき、ストゥブ大臣は中国の各地方自治体代表に会い、ビジネス・フォーラムに参加し、また上海の復旦大学(Fudan University)で講演を行う。江蘇では、大臣はコーン・エレベーター・エスカレーター設備会社(KONE Corporation)の工場開設式に参加予定である。成都の旅程では、ハイテク工業団地地域(ChengDu Hi-Tech Industrial Development Zone)、ビジネス・フォーラムや市当局との会議への参加訪問を含む。

 ストゥブ大臣は、上海、江蘇および成都を訪問する前の4月8~9日に、北京でのファンランド共和国大統領サウリ・ニニースト(Sauli Niinistö)の公式訪問に参加する。

 訪問に参加している会社名は、以下の通りである。(筆者注3)

ABB Oy (筆者注4)AFT- Aikawa Fiber Technologies OyCaprice Ltd、Capricode Oy DigiEcoCity Ltd

Enoro Oy

FIAC Invest Ltd、Finnish Onnovative Architecture and Consulting Ltd Finnair Plc/Finnair Cargo OyFinnish Tourist Board FluidHouse Oy GreenStream Network Oyi Oy HacklinLtd Honkarakenne Oyj Jyväskylä Regional Development Co.Jykes Ltd Oy Oy Lunawood Ltd Machine Technology Center Turku Ltd MPS China Management Consulting Neste Oil Corporation Nokia Siemens NetworksNormet Trading Ltd Pohjola Bank PlcRaute(Shanghai) Machinery Co.Ltd Runtech Systems Oy Santa’s Hotels Takoma Oyj TWS Shipping Line Ltd Oy ShipbuildingVaconPlc 、Vahterus Oy ja Valkee Oy

2.フィンランドのグローバル戦略の中身
(1)経営者団体の取り組み
 ここでは、それ以外に今回のブログ原稿を執筆時に気がついた点をまとめてあげておく。

フィンランド産業会議(Elinkeinoelämän keskusliitto :EK)のサイトを見よう。ホームページ画面の左側を見ると、フィンランド産業界の主要取組み課題の3本柱が、(1)経済と貿易問題、(2)エネルギーと気候変動問題、(3)教育と改革能力問題が挙げられている。筆者はこのうち(3)の内容を詳しくチェックしてみた。
 特に「全国教育委員会」のうち“PISA - Programme for International Students Assessment”、“Study in Finland”等の内容は十分に研究に値するものといえよう。
 
②今回は時間の関係で詳しくは論じないが、機会を見て改めて解析したい。

(2)際立つ対中国戦略
 前述したとおり、官民国を挙げての取り組みの活動が見られる

  *******************************************************************:::********
(筆者注1)“Finpro”の概要を、同サイトの仮訳文を筆者なりに補足のうえまとめる。
・Finproは、フィンランドの全国的な貿易、企業の国際化および開発支援団体である。Finproはクライアントの国際的な背長や競争的な概念や申し出をもって適時に正しい市場内で彼らが成功することを支援する。Finproネットワークは、地域内とグローバルの両面でクライアントやパートナーの利益を支援する。これら企業のための我々の任務と同様に、Finproは“Cleantech Finland”“Future Learning Finland”などいくつかの国際的なプロジェクトを運営している。

・Finproは1919年にフィンランドの複数の会社により設立され、現在、フィンランド産業会議(フィンランド産業会議(Elinkeinoelämän keskusliitto :EK)は、フィンランドの最も主要な事業者団体で、その主要な任務はフィンランドで営業している会社ための国際的に魅力的で競争的ビジネス環境をつくることである会社法務、税金問題、貿易政策、革新的な環境つくり、中小企業の企業家精神や気候変動政策等のテーマに関し対話と協力に携わっている。加盟協会は27、全ビジネス界横断的な加盟会社数は16,000社、フィンランドのGDPの70%以上、また輸出の95%以上を稼ぎ、従業員数は95万人である。160人以上の各分野の専門家を擁しており、ヘルシンキが本部でブルュッセル等4つの地域事務所を設置している。欧州最大の経営者団体である「欧州経営者連盟(Business Europe)」4/17(22)に属すとともに、OECDやILOでも積極的な活動を行っている))、「フィンランド企業連合(Yrittäjät:会員116,000社以上)」、「フィンランド技術産業連合(Teknologiateollisuus:従業員数29万人)」等、約550がメンバー団体、会社である。
 Finproは370人の各分野の専門家を擁し、また世界50カ国に69の事務所を設けている。

(筆者注2) 日本の2012年の対中国の総貿易額は総額3,336億6,442万ドル(約32兆352億円)(前年比3.3%減)である。(2013年2月19日 ジェトロ発表)

(筆者注3) 各企業名はあえて和訳していないが企業等のサイトにリンクさせて事業内容が一目でわかるようにした。

(筆者注4) フィンランド語で株式会社は osakeyhtiö で、“Oy”と略す。

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ドイツBNETZAが電力ネットワーク開発計画枠組案(NEP),2014年オフショアー・ネットワーク計画案で意見公募

2013-04-15 15:28:31 | 国際政策立案戦略


Last Updated: Feburary 16,2021
 

 わが国の原発問題の行方は極めて不透明な展開が続く中、脱原発を政府の政策目標として掲げ、世界中から注目を集めるドイツの標記問題につき、広く国民の「信を問う」行動が始まった。

 ドイツの脱原発の具体的な取り組みについては、わが国では今一正確な情報が少なく、また情緒的な指摘も多いことから、今回のブログは連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur:BENETZA)が4月5日にリリースした資料の具体的な内容につき法的側面を中心に斬新的なエネルギー政策のポイントを紹介する。

 また、今回のレポートは10年、20年という長期スパンで取り組んでいるドイツの現状を踏まえ、中長期的なエネルギー政策の中核をなすわが国として検討すべき課題を整理する意味で、専門外ではあるが参考情報としてまとめてみた。法的整備も含め、論ずべき点が多い課題であるが、エネルギー政策は当該国を取り巻く自然環境を100%配意したものでなければならないといえる。

 なお、ドイツの代替エネルギーの取組みに関しては、わが国において紹介している資料・データにつき限られた範囲であるが併せて紹介する。本文で引用する国会図書館のレポートも限定した法律のみ言及しており、特に法的側面から関係法につき広く解説したものが少ないだけに今回の作業の意義はあると感じた。


1.BENETZAのコンサルテーション・リリースおよび諮問文の概要
(1)連邦ネットワーク庁は4月5日、「電力ネットワーク開発計画枠組案(Netzentwicklungsplan Strom:NEP)」および2014年に新規導入した「オフショアー・ネットワーク開発計画(Offshore-Netzentwicklungsplan:O-NEP)」のシナリオの枠組みを公表した。ドイツ国民は、2013年5月17日を期限として態度を決めることになる。

 NEPおよびO-NEPの年度ごとの準備内容は法律で求められている。これは、ネットワークの拡大に伴い条件が変更されたときに適切な対応をとりうるよう確実性を保証するものである。

 これら手順は2024年、2034年にかけてのネットワークの拡大に必要を決する上で推定されるものである。4つの送電系統運用者(Übertragungsnetzbetreiber :ÜNB,英語: Transmission System Operato:TSO) (筆者注1)の下での本シナリオは、再生可能エネルギーを組込む能力の可能な開発の範囲、従来型の発電所および今後10年から20年先の電力消費の進展等に関する検討結果に基づき、3つのシナリオをまとめたものである。

 連邦のエネルギー強化に関する法律である、(1)「送電線網の強化に関する法律(Gesetz zum Ausbau von Energieleitungen:EnLAG)」(2009年8月31日施行)、(2) 「電気およびガスの供給に関する法律(エネルギー産業法)( Gesetz über die Elektrizitäts- und Gasversorgung (Energiewirtschaftsgesetz - EnWG) 」(2005年7月7日 施行)、および(3)「グリッド拡張加速ネットワーク送電に関する法律(Netzausbaubeschleunigungsgesetz Übertragungsnetz:NABEG)」および(4)「環境影響評価に関する法律(Gesetz über die Umweltverträglichkeitsprüfung :UVPG))」により、4つの送電系統運用者(ÜNB)は、今後本シナリオに基づく「ネットワーク開発計画と環境調査(Netzentwicklungsplan und Umweltprüfung)」策定が義務付けられる。

 この第3番目のシナリオ枠組みの基本デザインは2013年3月に承認されたもので、2014年3月3日に承認予定のNEPの基本となるものである。NEO/O-NEPの全文はサイトでリンク可である。

 国民は同案につき書面による承認またはボンで開催される研究会に参加が可能である。本シナリオ枠組みは送電ネットワークの拡大の必要性を決する手続きの初めとなるものである。この手続きの参加者はすでにエネルギー政策の好転に対する寄与者である。

(2)法的な枠組み
 基本となる法律を個別に説明する。
①「送電線網の強化に関する法律(Gesetz zum Ausbau von Energieleitungen:EnLAG)」
 同法は、エネルギー・経済面からのアセスメントの第一ステップとして2009年に施行され、すでに実施されている。

②「電気およびガスの供給に関する法律(エネルギー産業法)( EnWG) 」
 本シナリオ案に先行する形で送電系統運用者により送電網の拡張の必要性の決定は国民に問われ、最終的に連邦ネットワーク庁により承認された。この承認されたシナリオ枠組みに基づき、既存のオフショア・グリッド計画やコミュニテイ全体にわたる開発計画が考慮された。
 10年間の「汎欧州10年間(2020年)までのグリッド拡張ネットワークおよび地域投資計画(The Ten-Year Network Development Plan and Regional Investment Plans:TYNDP)」 (筆者注2)が同法12b条に基づきÜNBにより加盟国共通の国家開発計画として策定された。同計画は広くインターネットを介して諮問に付され、最終的にネットワーク庁の公的関係者の意見具申に付された。

 これらの検討は、ネットワーク庁は連邦ネットワーク開発計画につき少なくとも3年ごとの同法12c条に基づき提案された専門的な観点から、ネットワークの拡大に伴う環境影響評価義義務付けられる。そのレポートはUVPGの要求条件に合致するものでなければならない。
 ネットワーク開発計画は同法12e条に基づきネットワーク庁の連邦としての要求条件にかかる青写真として連邦政府により確認された。この段階でネットワーク庁は、越境プロジェクトやオフショア風力発電会社との電線ケーブル問題を強調した。

③「グリッド拡張加速ネットワーク送電に関する法律(NABEG)」
 連邦の要求計画に含まれるこれらのプロジェクトに関し、ネットワーク庁はÜNBに対し連邦技術計画の下での適用を許可した。連邦取引計画(Bundesfachplanung)は地域計画手順に置き換わるもので、多くが高圧送電線(Höchstspannungsleitungen)やそれに関するものである。NABEGの4条~17条の文脈上、500~1000メーターの深さの推論を持っ経路の回廊地帯を決定しなければならない。その手順は同法17条により連邦官報が定めるネットワークを包含される。
 連邦取引計画の一部として、同法5条2項に定めるとおり、環境影響評価に関する法律の定める戦略的環境評価を行う。これはネットワーク拡大に伴う受け入れがたい反対効果がないことを保証するものである。この計画手順は、一般的に原則責任を有する州によりリードされるが、同法は政令またはネットワーク庁が委譲するプロジェクトのみ連邦政府が行う可能性を認める。

④「環境影響評価に関する法律(UVPG))」
 環境評価報告は戦略的環境評価の結果であり、UVPG14a条の求めに合致するものでなければならない。

(3)エネルギー供給のシナリオ策定から最終的なルート確定にいたる手順
 次のとおりの行程が前提とされている。すなわち、①シナリオ策定、②ネットワーク開発計画策定および環境評価、③連邦政府の要求計画策定、④ネットワーク網の回廊の決定、⑤最終的ネットワーク・パス

 ここでは、ネットワーク庁の説明内容に即して概観する。

(A)エネルギー供給のシナリオ
 何人も今後10年後のドイツや欧州の送電線網に求められる正確な要件は知りえない。いうまでもなく、現時点で可能となる新しい電力網につき拡張する手段については早い時期から先導的に取り組んできた。今我々は恒久的な供給体制を構築すべく検討を行わねばならない。
 EnWGはÜNBに対し、毎年、エネルギー供給の将来につき考える責務につき次のような主な疑問を投げかけてきた。
・電力消費量は減少するか、増加するか。
・様々な再生可能エネルギーはより早く安定的に進むのか、ゆっくり進むのか。
・石炭、ガス、水力等、個々のエネルギー源を取り込めるのか。
・どのように電力は近隣欧州諸国と共有できるのか。

 これらへの回答として例えばネットワーク庁のエネルギー工場一覧(Kraftwerksliste der Bundesnetzagentur)は少なくとも1000キロワット以上のものを一覧化し、またルクセンブルグ、フランス、スイスやオーストリアから持ち込まれる支援電力につても一覧化している。その他の専門研究レポートや法的要件がまとめられている。これらのデータはシナリオ枠組みやÜNBの運用に含まれ、今後10年間にかかる少なくとも3つのシナリオが含まれる。
 適切な協議プロセスを通じ、すでに承認された各シナリオにかかる開発計画や環境影響評価は次のURL で確認できる
2013年現行ネットワーク開発計画(Netzentwicklungsplan Strom 2013)
2012年ネットワーク開発計画および現行環境報告(Netzentwicklungsplan Strom 2012 und Umweltbericht 2012)
2014年ネットワーク開発計画のシナリオ(Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2014)
 内容は略す。
2013年ネットワーク開発計画のシナリオ枠組み(Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2013)
2012年ネットワーク開発計画のシナリオ枠組み( Szenariorahmen für den Netzentwicklungsplan Strom 2012)

(B) ネットワーク開発計画策定および環境評価、
 4つのÜNBは、今後来るべきネットワーク拡大のニーズの計算上、承認されたシナリオの枠組みを使用しなくてはならない。シナリオは供給能力、エネルギー需要、エネルギー工場といった空間分布(Versorgungskapazitäten)にかかるその他の推定を考慮している。これらは、例えば、地方で行われる風力(Windenergie)、太陽電池(Photovoltaik)などの電力をさす。

 これらのシナリオは、「新しいエネルギーのための新しいネットワーク(Neue Netze für neue Energien)」ポータルで共通的に要約されている。 

 ÜNBは必要な手段のためいわゆるNOVA原則(Netz-Optimierung vor Verstärkung vor Ausbau):拡大・補強前のネットワークの最適化)に従い、決定する。ÜNBはネットワーク開発計画案を公的な議論の場に提供・諮問する。

(C)環境評価結果の考慮
 ネットワークの拡大にかかるすべての決定において環境評価はすべての初期段階に含まれる。EnWGは、いわゆる「戦略的環境評価(Strategische Umweltprüfung (SUP)」を定める。SUPにおいてネットワーク庁は、架空送電線(Freileitung)や地下ケーブル(Erdkabel, Erdverkabelung)の建設において、人間、動物や環境に対する影響につき必要なプロジェクトを検証する。多くの場合、この早い段階においてどのラインが運輸されるかが知られていない。それゆえ、SUPに関する影響評価に付き特別なコメントは少ない。しかし、あなた方は克服できない障害がゆえにラインの拡張場所をすでに見出だすであろう。SUPの結果は環境報告で要約される。

(D)2014年シナリオ枠組みに関する研究会
 4月3日、国民は「電力ネットワーク開発計画枠組案(NEP)」および「オフショアー・ネットワーク開発計画(O-NEP)」に関する討議を通じ、研究会に参加できる。申込先はネットワーク庁宛である。

2.わが国で公表されているドイツの代替エネルギーの取組み、法制整備に関するレポート
 注記したもののほかに、以下にあげるものが参考になると思われる。

(1) ドレスデン情報ファイル(更新:2013.03.12)「ドイツのエネルギー政策,新時代へ: 新・エネルギー政策の概要」

(2) 2012年5月 日本貿易振興機構(ジェトロ)「ドイツの電力・エネルギー事情とビジネスチャンス」

(3) アレバ・ドイツ社・研究&イノヴェーション事業本部長 シュテファン・ニーセン(Stefan Nießen)「ドイツにおける新エネルギー政策:その成果と課題」2012年4月 JAIF(日本原子力産業協会)講演資料 

○アレバ:フランスに本社を置く世界最大の原子力産業複合企業で、傘下に複数の原子力産業企業を有する。フランス共和国政府の原子力政策の転換によって誕生した持株会社である。
○フランスの原子力開発は、1945年のフランス原子力庁(CEA)の設立から始まる。当初から軍事利用と民生利用が視野にあり、1973年の第一次石油危機以降は民生利用が急展開された。CEAは2000年に4部門(国防、原子力、技術利用、基礎研究)に分割再編成された。2001年に民間企業フラマトムはドイツのシーメンス社の原子力部門を買収し、同年フラマトムとコジェマが合併し政府の持株会社アレバ(AREVA SA)が誕生した。当アレバ社は原子力部門(Areva NP)、原子燃料部門(Areva NC)及び送電設備部門(Areva T&D)を包含する。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の解説)

(4) 平成21年4月「新エネルギー大量導入時の系統安定化に向けた取り組みに関する欧州現地調査概要」資料3参照

  ****************************************************

(筆者注1) 国立国会図書館 渡辺富久子(外国の立法 252号(2012年6月)「ドイツの2012 年再生可能エネルギー法」から一部抜粋、なお本文中に関係図解がある。
「ドイツの再生可能エネルギー法の中核は、再生可能エネルギーによる電力の固定価格買取制度にある。この制度は、系統運用者(Netzbetreiber)に対し、再生可能エネルギーによる発電施設(以下「施設」)を優先的に送配電網(以下「系統」)に連系し(第5 条)、その電力を買い取って、送電及び配電すること(第8 条)、並びに施設管理運営者(Anlagenbetreiber)に法律で定められた補償金額を支払うこと(第16 条)を義務付けるものである。系統運用者は、さらに上位の送電系統運用者(Übertragungsnetzbetreiber)にこの電力を転売し(第34 条)、送電系統運用者は、系統運用者が施設管理運営者に補償した金額を系統運用者に補償する義務を負う(第35 条)。送電系統運用者は、再生可能エネルギーによる電力を電力市場で差別なく販売しなければならず、補償のために必要な支出と再生可能エネルギーによる電力を販売して得た収入との差額(以下「賦課金」)を、最終消費者に電力を供給する電力供給事業者(Elektrizitätsversorgungsunternehmen)対して要求することができる(第37 条)」

(筆者注2)「 汎欧州10年間(2020年)までのグリッド拡張ネットワークおよび地域投資計画」の概要は次のとおりである。ジェトロのユーロトレンド 2011年2月号「EUのエネルギー新戦略の概要」から一部抜粋。
「2010 年11 月10 日に欧州委員会が発表したエネルギー新戦略「Energy 2020」は、今後10 年間のEU のエネルギー計画の端緒となるもので、2020 年のエネルギー・気候変動の目標達成を軸に策定されている。EU の近年のエネルギー政策は、「競争力」「持続可能性」「供給安全保障」という相互補完的な3 つの要素を柱としており、特に2007 年末に採択された「エネルギー・気候変動政策パッケージ」では、下記のいわゆる「3 つの20(20 20 20)」の目標が掲げられた。
・温室効果ガス排出削減を2020 年に1990 年比で20%削減する(条件が揃えば30% に引き上げる)。
・最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を20%に引き上げる。
・エネルギー効率を20%引き上げる。

 また2012年のジェトロ・レポート「ENTSO-Eが今後 10 年の送電設備増強計画ドラフト版を発表」を一部抜粋する。
「欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は2012年3月1日、今後10年間の欧州域内の送電設備増強計画(TYNDP:Ten-Year Network Development Plan)のドラフト版を公表した。ENTSO-Eによれば、今後10年間に欧州域内において合計5万1,500kmの送電線の新設あるいは改修が必要で、約1,040億ユーロ(約11兆円)の投資が必要であるという。1,040億ユーロのうち、約301億ユーロが2022年までの原子力完全廃止を決めたドイツ、約190億ユーロが北海に大規模洋上ウィンドファームの建設を計画する英国における設備増強に関する投資で、両国で全体の半分程度を占めている。TYNDPは、今回発表されたドラフト版に対する意見募集(4月26日締切)を経て、今夏にも正式版として公表される予定である。」

 さらに風力発電に関するEUの取組みにつき詳しく解説したものとしては、欧州風力エネルギー協会「風力発電の系統連系~欧州の最前線~(Powering Europe:wind energy and the electricity grid)」(全128頁)があげられる。

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英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R&D能力につき警告的報告書を発表(その2完)

2011-12-05 10:32:35 | 国際政策立案戦略

5.11月22日上院特別委員会「科学・技術委員会」のリリース文
 概略次のような内容である。原文に忠実に仮訳しておく。
・政府は英国のR&D能力につき過度に楽観的過ぎ(too complacent)、かつ政府のアプローチの基本的変更が行われないと失われてしまう程度の専門的技術といえる。ただし、今回公表した報告書「第3次報告書(Science and Technology Committee - Third Report)」の見解は本委員会の結論の1つである。

・本委員会の主要な勧奨内容は次のとおりである。
①2025年以降を展望した原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定、すなわちR&Dのロードマップを介したR&Dの支援、原子力に関する英国の現時点での強さについて商業ベースでの営利的な開発の支援の重要性。
 この点は、英国が原子力エネルギーの選択肢の公開性を維持する上で重要なことである。
②R&Dロードマップの開発、適用および調査における脆弱的な分野の保護や能力面でのギャップを埋めるため、R&D活動の共同化の改善を補助すべく、産業界、アカデミック分野、政府のパートナーにより構成する「原子力R&D委員会(Nuclear R&D Board)」を設置する。

クレブス委員長(Committee Chairman Lord Krebs)のコメントは以下のとおり。
・原子力エネルギーのR&Dに関する専門家の多くが定年年齢に近づいている。英国の専門技術は過去の投資による研究により構築してきた。 最近の20年間の新規投資の欠如は、英国がこの専門技術を失うという危険性を意味する。その結果、我々自身が2050年までに安全かつ安全性を持ったエネルギー供給が保証できないといった危険性におかれることになる。
・政府は、将来原子力が電力供給において重要な役割を果たすと述べてきた。政府が、この取組が重要であるとするなら、R&Dとともに原子力産業分野、政府およぶ規制機関が依存できる若い専門家の存在が欠かせない。今、行動を起こさなければ、政府の原子力政策は真実性を欠くものというのが我々の意見である。

6.報告書の要旨
(1)序論
 本委員会の取上げた問題点の背景は、将来において安全、手頃かつ低炭素の電力供給が可能となる混合エネルギー源の提供にかかる政府の取組み方である。政府は、原子力がこれらの目標を達成する上で重要な役割を果たすと述べた。英国の現在の原子力エネルギーは、英国全体の電力(10-12ギガワット:GW)の16%を供給している。未来の電力発電量需給のシナリオでは、現在と2050年の間で原子力発電依存度は15%から49%に上昇する(英国全体の電力使用量は12GWから38GWを想定)。2050年までに1990年のレベルまで地球温暖化(温室効果)ガス放出量を削減するという法的な拘束目標を達成するには、原子力発電量は20GW~38GWが必要となろう。

(2)委員会が勧奨を行った中心事項
 我々の議論の目標は、原子力発電の議論や反対ではない。しかしながら、政府が言っている将来において英国のR&D能力が維持できるとする点に関しては反対の結論を下した。我々はR&Dのためには根本的な変革を行うべく行動開始を強く勧奨する。

(3)「原子力政策の立案、R&DのロードマップおよびR&D委員会」の設置提案として次の具体的項目をあげる。
①原子力エネルギーに関する長期的戦略の策定
 政府によると英国の原子力の今後の供給は市場により決定されるであろう。他の決定要因となる証拠としては、電力市場改革が2025年までに必要なインセンティブを与えるにもかかわらず、より長期的な視点にたてば必要な原子力のR&Dにかかる能力と関係する専門技術の維持が困難であることを示す。
 原子力業界、政府やエネルギー規制機関は核専門家の次世代要員の育成支援につき研究機関をあてにしているが、いったん失ったこれらのR&D能力の回復はきわめて困難である。さらに、長期戦略がなければ各企業は英国内での長期的な核投資に対するインセンティブを持たなくなろう。

②核の研究開発ロードマップの策定
 核の長期戦略のためには、特に次のような英国のR&Dにおけるギャップを埋めるための施策を織り込んだ「R&Dロードマップ」を策定すべきである。
・照射後物質(post-irradiated materials)、深層核廃棄物処理の研究(deep geological disposal)、余剰プルトニウム(Plutonium stockpile)の廃棄処分、先進的核燃料リサイクルや再処理および第4世代原子炉技術(Generation Ⅳ technologies) (筆者注15)を実行できる施設である。
 また、ロードマップは英国の国際協力にために信頼できるパートナーの設立、すなわち政府による第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)への積極的参加体制や国立原子力研究所(National Nuclear Laboratory:NNL) (筆者注16)が取組んでいる国際的な重要なフェーズ3施設化を確保することにある。

③独立機関「原子力R&D委員会」創設の勧奨
④長期的に見た英国の原子力R&Dの資金源問題
⑤核R&D能力向上に向けたNDA、NNL等特定機関の責務

7.報告書の構成とその特徴的内容
 第3次報告書自体は116頁にわたる大部なものである。その言わんとする内容はこれまで述べてきたとおりである。最後にその検討の範囲や問題意識を理解するため、目次のみであるが列記する。

(1)構成
要旨
第1章 序論
○検討範囲
・2050年およびその後の問題
・本レポートの構成
・確認事項

第2章 英国の原子力R&D-過去と現在
○歴史的背景
囲み記事1:原子炉技術
図1:英国の公的部門の核分裂(fission)のR&D
図2:英国のR&Dの要員
○英国の核部門
○調査部門の支出
表1:政府出資によるエネルギー研究と核分裂研究の比較
○英国における原子力R&Dおよび協力専門機関の強さ
図3:民間核分裂研究の鳥瞰
図4:核分裂研究の鳥瞰:技術準備面レベルからの概観た
○原子力R&Dの資金面および実行を担う組織
・民間事業者
・研究会議(Research Councils)
表2:核分裂に関する研究の機関の年次支出
・大学
・その他公的研究機関
・国際的な研究共同活動

第3章 2050年および以降のエネルギー配分における原子力の役割
○適正配分アプローチ
・エネルギー適正配分において核はどのような貢献が可能か?
囲み記事2:未来のエネルギーシナリオにおけるエネルギー混合において原子力はいかなる貢献が可能か
・異なる原子力技術の役割と核燃料のサイクル
囲み記事3:核燃料サイクル

第4章 エネルギー政策
○背景
・低炭素技術開発に力を入れた長期的計画
・原子力R&Dや関係専門機関による商業化の機会(ビジネスチャンス)
・新建設計画におけるサプライチェーンの開発
・商業的開発の強化に向けた枠組みの構築
・エネルギーの安全性問題

第5章 現在の英国のR&D能力や関連専門能力は原子力エネルギーの選択肢を明らかにしているか?
現在の取組み内容の適合性:2050年およびそれ以降の12-16GW発電能力に向けた既存の原子力施設や新たな発電施設計画はR&D能力や関係専門能力のニーズに合致しているか
○労働力の高齢化
○研究労力における追加的なギャップ
・照射物質研究の研究施設
・核廃棄に関する遺産および現存するシステム
○核燃料のリサイクルと再処理
・国際的な人材採用機関(Skills Provision )12/1⑧の役割
 
第6章 原子力エネルギーの選択肢を維持するために
○異なる原子力の未来のかかるR&D能力や関係専門能力をいかに維持するか
・R&D計画とそのロードマップ
・全英べースのR&Dロードマップの必要性
・全英べースのR&Dロードマップの呼びかけに対する政府の反応
・全英ロードマップの策定
・研究のための資金源
○国際的な研究プログラムへの参画
(以下、略す)

8.英国のエネルギーや環境専門家や団体の議会報告に対する評価や見方
 明確な解説レポートは見出しえなかった。第3次報告の紹介記事を引用するにとどめる。
(1)EAEM「Government "lacks credibility" on nuclear policy, waste and safety」

(2)原子力推進派の「Nuclear Engineering International」の記事「UK's nuclear plans 'lack credibility' without greater R&D spend」
 11月22日記事で、第3次報告の要旨を詳しく取上げているが、特にコメントはない。

9.英国メディアに見る原発問題の裏交渉の実態
 わが国の業界新聞の記事で次のような記事を読んだ。
「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認:
 英国の原子力規制機関(ONR)は2011年10月26日、政府の原子力新設計画の一環として実施している包括的設計審査(GDA)の進捗状況について9月末までの四半期報告書を公表し、ウェスチングハウス(EH)社のAP100、および仏電力(EDF)とアレバ社の欧州加圧水型炉(EPR)の両方について、年末までに少なくとも暫定的な承認を与えられる見通しだと発表した。」
 これだけをよめば、わが国の読者は政府とともに安全宣言が出されたと読むであろう。なお、ONRは正確にいうと「安全衛生庁(HSE)・原子力規制局」である。(筆者注17)

 一方、わが国のWatchdogであるブログ「もうひとつの暮し」で次のような英国メディア記事(抄訳)を読んだ。
「イギリス政府と原子力企業の共謀:
ガーディアン紙の電子版は2011年6月30日、イギリス政府関係者と原子力企業とのメールのやりとりを暴露した。
ガーディアン紙が入手した内部メールはネットで公開されている。
日本をおそった地震と津波の2日後に、イギリス政府は原子力企業に「原発の安全性」をアピールするPR作戦の協力を迫るメールを送っていた。
イギリスの経済省とエネルギー省が、フランス電力公社(EDF)、アレバ、ウエスチングハウスといった多国籍原子力企業と秘密裏に連絡をとっていたのがわかる。政府のこうした働きかけは、福島第一原発によってイギリスでの新世代原子炉建設計画が延期されるのを危惧したため。(以下略す)」

10.わが国の原子力問題は今行動すべきとき(私的メモ)
 本ブログの執筆にあたり、英国を中心とする関係機関の情報にあたった。しかし、いずれもその内容はまず核開発ありきという大前提に立ったもので、わが国が日々危機的状況とその対応に追われている現状からは当然承諾しがたい内容であった。
 専門外の筆者はこれ以上の客観的かつ専門的な解析は困難と考え、機会を改めてドイツやスイスの問題を取り上げたいと考える。なお、わが国の核問題を国際的な視野から取上げているNGO「アクション・グリーン(Action Green):代表はアイリーン・美緒子・スミス」のHPサイトを紹介しておく。このNGOは国際化がすすんでおり、多くの支援者がいることもうかがえる。
*********************************************************************************::

(筆者注15) 第4世代原子炉(Generation IV:GEN-IV)とは、「第1世代」(初期の原型炉的な炉)、「第2世代」(現行の軽水炉等)、「第3世代」(改良型軽水炉、東電柏崎刈羽のABWR等)に続き、米国エネルギー省(DOE)が2030年頃の実用化を目指して2000年に提唱した次世代の原子炉概念で、燃料の効率的利用、核廃棄物の最小化、核拡散抵抗性の確保等エネルギー源としての持続可能性、炉心損傷頻度の飛躍的低減や敷地外の緊急時対応の必要性排除など安全性/信頼性の向上、及び他のエネルギー源とも競合できる高い経済性の目標を満足するものである。

2)第4世代原子炉及び国際短期導入炉概念の選択経緯
 このプログラムを国際的な枠組みで推進するため、米国、日本、英国、韓国、南アフリカ、フランス、カナダ、ブラジル、アルゼンチンの9か国が2001年7月に第4世代国際フォーラム(Generation IV International Forum:GIF)を結成し、その後スイスも参加して2002年9月には参加国は10か国となった。さらに2003年にはユーラトムが、2006年には中国とロシアがGIF憲章に署名している。憲章への署名は協力への関心を表明したものであり、実際の協力活動は枠組協定(Framework Agreement)への署名をもって行われる。2005年2月に、日本、米国、フランス、カナダ及び英国は、枠組協定(第4世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定)に署名し、締約国となった。その後、スイス、韓国及びユーラトムが加入、2007年12月に中国、2008年4月に南アフリカが加入書を寄託した。なお、英国は後に枠組協定から抜けている。枠組協定参加国は6つのGIF対象システムのうち、少なくとも1つの研究活動に参加する。
(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)

(筆者注16) 原子力の利用・開発に不可欠な技術力を保存・利用・発展させるため、エネルギー・気候変動省(DECC:Department for Energy and Climate Change)の下に、国内外への技術提供事業に重点を置いた国立原子力研究所(NNL)が2009年に発足した。当所は、原子力廃止機関(NDA)、ウェスチングハウス社、英国健康安全省、防衛省、英国原子力公社(UKAEA)、燃料・材料研究や廃棄物処理研究を進める大学等が当面の主な顧客である(高度情報科学技術研究機構(RIST)のATOMICA用語解説から抜粋)。

(筆者注17)“ONR”については、本ブログでは詳しく説明しなかったが、英国における原子力政策と安全性問題を見る上で欠くことが出来ない規制機関である。原子力問題に関する「電子告示(Nuclear e-Bulletin)」については適時に出るので要注意である。


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英国議会上院「科学・技術特別委員会」が英国の長期的な核開発R &D能力につき警告的報告書を発表(その1)

2011-12-05 10:19:29 | 国際政策立案戦略



 本ブログでは英国の原子力エネルギー関連問題につき4月19日「英国の日本の原子炉メルトダウン直前の緊張等によりウラン・プルトニウム混合酸化物燃料売却計画凍結問題」、8月5日「英国は日本の電力各社や政府の原子力問題慎重化によりMOX燃料製造工場の閉鎖を決定」で取上げてきた。

 さて11月22日、英国議会上院特別委員会(UK Parliament :House of Lords:Select Committee)の「科学・技術委員会(Science and Technology Committee )」が英国の長期的な核研究および核開発能力につき警告的内容の報告書「科学・技術特別委員会第3次報告書(Science and Technology Committee-Third Report)」を発表した。
(筆者注1)最も特徴的な部分は、政府の核問題R&Dの取組みは長期的にみて楽観的すぎるという批判的な内容である。

 本特別委員会が、2050年までを見据えた英国の核エネルギー問題を取り上げた背景は言うまでもなく2011年3月11日のわが国の福島第一原発の悲惨な事故である。
 すなわち、英国議会自身が2050年を目標とする長期的核研究・開発能力(R&D)につき、2011年4月28日を期限とする「根拠を明示した意見具申(Call for Evidence)」の結果を受けて検討を開始したのである。議会は「政府」に対し、英国の核問題の将来を考え、この問題を正面からとりあげるべき立場から検討を開始したといえる。

 なお、筆者自身最も興味を抱いた点は、この問題に関する特別委員会の審議・証言内容を議会自身が公開していることである。議会の委員会ビデオ・サイトで確認することが出来る。特に、2011年7月6日、上院科学・技術委員会においてわが国の原子力安全委員会副委員長である鈴木辰二郎氏が証人として発言している。その内容は逐一確認したわけではないが、前述した意見具申と重なる部分が多いと思われるのでここで引用した。
 一方、わが国の原子力委員会、専門審査会や部会の速記録は従来から「原子力安全委員会・会議資料」サイトで公開されている。他方、衆議院や参議院の審議内容はインターネットで完全中継や録画が閲覧できると謳っているが、重くてほとんど利用できない。この点も今回の情報収集を通じて筆者が学んだ点である。

 さらに、注目すべき点は議会の具申に対し、「証拠書面意見(Written Evidence)」して提出された証言者の範囲と多様性である。本文で詳しく述べるが、その内容の科学的に見た正当性評価等は別としても短時間にこれだけの関係者・関係機関等の意見を集約する関係者や議会の熱意と姿勢に筆者は強く心を打たれた。

 今回のブログは、このようなEU加盟国において核問題と2050年に合わせた脱炭素問題に積極的に取り組んでいる国の例として英国議会や政府に関する最新情報を体系的かつ時系列にまとめて整理したいと考えてまとめた(わが国の今後のR&D能力問題も気になる)。また、国際原子力協会(WNA)がまとめている英国の原子力政策概観(“Nuclear Power in the United Kingdom”)は都度内容が更新されており併用されたい。

 重要な点は、これら一連の政府や公的機関およびエネルギー供給企業(多国籍原子力企業)の述べていることが真実かどうかである。海外メディア特に英国メディアの記事例を最後に挙げた。英国における安全性問題についての議論が明らかに少ないと感じた。

 最後に、わが国政府は2012年4月に発足させる「原子力安全庁」について、放射線被害を防ぐための基準を検討する「放射線審議会」を文部科学省から移すなど組織の骨格を固め、2012年の通常国会に必要な法案を提出する予定である。わが国のエネルギー政策と核の安全問題につき長期的戦略を考える上で英国の例を取上げた。

 今回は、2回に分けて掲載する。


1. 英国の電力脱炭素化政策と原子力発電への取組みの基本方針と具体的な取組み内容の概観
 わが国の原子力問題の研究機関が解説しているとおり、英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。
 このような説明自体は間違いではないが、このような極めて重要な政策転換の説明としては不十分であろう。
 ここでは2008年1月のエネルギー政策方針返還の具体的内容およびその後の政府や議会等関係機関の対応について概観する。
 
(1)2008年1月、ビジネス・企業・規制改革省(BERR) (筆者注2)「核エネルギー白書(A White Paper on Nuclear Power :Meeting the Energy Challenge)」を公表し、その中で次の3点の新政策が明確に表明された。
①新たな原子力発電所は、英国の将来のエネルギー混合施策として低炭素資源とともに役割を負うべきである。
②エネルギー開発会社に対し、新たな原子力発電所に対する投資を認めることは公益にかなうことになる。
③政府は、これらの施策を容易にするため積極的な手段をとるべきである。

(2)2009年4月、社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC)がまとめた「コンサルテーション結果報告書」を公表

(3)連立政権(Coalition Government)は、2010年6月にエネルギー供給会社は主要な計画につき通常の計画手続をとり、かつ公的助成金を受けることがない場合は新たな原子力発電所の建設が認められるというビジョンをまとめた計画を公表した。
 2010年6月27日、政府は議会に対して行った報告「第1次エネルギー政策声明(Annual Energy Statement 2010:AES)」 (筆者注3)において、核エネルギーは将来エネルギー混合施策として「再生可能エネルギー(Renewable Energy)」および「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage)」(筆者注4)とともに重要な役割を担うことを確認した。(エネルギー・気候変動省(Department of Energy & Climate Change:DECC)のサイト解説参照)

(4)DECCサイトで見る新原子力エネルギー政策への新たな前進に向けた諸活動(最新情報に更新されている)
 DECCサイトの説明によると、政府は規制と投資家の計画リスクの削減に向け、具体的に次のような前向きな行動をとる旨明言している。
国家政策声明文書(National policy Statements):国家戦略レベルに合致する新施設の構築に向けた潜在的な可能性を調査する。同声明は、後述するとおり2011年7月19日に指定され、新たな原子力発電所の建設に適するとして8用地がリストアップされた。

EU法(筆者注5)に適合する健康リスク等から見た英国の核規制の正当化(Regulatory Justification)
 EU法(EU指令)が求める健康侵害リスク査定を上回る新たな原子力開発のメリットの有無に関する明確化問題。2010年10月18日、DECC大臣はAP100(改良型加圧水型原子炉)やEPR(欧州型加圧水型炉)の構造・設計が正当化できるもので、かつ健康侵害リスク査定を上回るメリットがあるという決定を行った。

核廃棄物および廃棄費用にかかる保証合意(Wastes and Decommissioning Financing Arrangement)
新たな原子力発電所の運営会社が将来の発電所の廃棄および生産した廃棄物につき十分な基金を確保(put aside)することを保証させる。

④一般的発電所の構造・設計にかかる評価審査(Generic Design Assessment:GDA)と型式認可 (筆者注6)
 英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(Generic Design Assessment:GDA)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。(中略)・・今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(Infrastructure Planning Commission)が「2008 年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008) (筆者注7)に基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。
 なお、DECCサイトの解説では、福島第一原発事故を反映してまとめられた「Weightman report」の検討経緯を踏まえ、新たな原子炉設計は安全性および環境問題をクリアすべく問題に対処する形で纏められたと記されている。

 DECCは、前向きな規制に向けた効率化に挑戦に取組むべく原子力監督・規制
改革プログラム作成の任務を引き受けた。その一環として2011年4月に「原子力規制局(Office for Nuclear Regulation:ONR)」が稼動を開始した。また、DECCはグローバルな競争力を持った原子力のサプライチェーン管理グループ、原子炉提供事業者、運営会社の創設およびその支援を行うべく機能を始めた。また、英国内での新たな原子炉建設に向けた適切な技術を持った労働力を保証すべく役割を担った。
 これらの目的は、2018年頃から最初の新たな原子力発電所を稼動させることである。

(5)DECCが新原子力発電所の建設、稼動に向けた指標スケジュール(Indicative timeline for new nuclear)公表
 DECCは2011年11月14日、2010年8月に策定した指標スケジュール線表を見直し新線表を公表した。線表改定の要旨は別途まとめられている。

(6)英国の核開発問題に関する意見公募と査定評価報告書
 ここでDECCサイトから英国の核開発の未来にかかる査定評価報告書の取りまとめ経緯を概観する。
・2007年5月、政府は「原子力エネルギーの開発の未来:英国の低炭素経済下における原子力エネルギーの役割(The future of nuclear power:the role of nuclear power in a low carbon UK economy )」を取りまとめ、意見公募を行った。この意見公募原案および付属資料(annexes)にかかる評価最終報告書「英国における将来の民間原子力エネルギーにかかるBERRの公的取組みおよび他の関係機関の査定評価(Evaluation of BERR’s engagement of the public and other interested parties in the future of civil nuclear power in the UK:
Final report)」は政府が委託したダイアン・ウォーバートン(Diane Warburton)が責任者として取りまとめ、2009年10月に公表された。
 なお、ダイアン・ウォーバートンは“Sciencewise-ERC:Sciencewise Expert Resource Centre for Public Dialog in Science and Innovation”のプログラムチームのメンバーでEvaluation Managerである。(筆者注8)

2.2011年年初以降の具体的な取組み内容
 前述した内容と一部重複するが、ここで英国の標記問題への取組みを全体的にまとめたレポートがあるので抜粋する。そのレポートは独立行政法人 日本原子力研究開発機構「 原子力海外ニューストピックス 」2011年 第4号 須藤 收「英国の電力脱炭素化政策と原子力発電 」である。筆者が英国のエネルギー政策機関から得た情報にも合致する内容であり、専門的な解説部分も含め正確であると判断した。このレポートを予め読んでおかないと今回のブログの意義は半減する。(筆者注9)なお、下記の引用文のうち正式名やリンクについては筆者の責任で行った。

「 英国の保守党と自由党の連立政権は、電力の脱炭素化のためのエネルギー源として原子力を重要な柱の1つとする政策を変更せずに着々と新規原子力発電所建設に向けた環境づくりを進めている。 (筆者注10)
 2011年7月18日、下院議会で6件のエネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6までの6つの文書1))が承認された。これ等の文書は、2050年までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルの80%減まで削減するとともに将来のエネルギー供給保障を確立するための政策に関するもので、将来のエネルギー構成としては再生可能エネルギー、原子力、化石燃料(ただし将来は排出する炭酸ガスを回収、貯蔵するCCS(Carbon Capture and Storage)システムの導入が条件)の3つとし、各々のエネルギー関連施設の導入政策及び施設の建設に当たっての国の審査の技術規定を定めたものである。福島第一原子力発電所の事故後に、将来のエネルギー源として原子力の必要性を再確認し、新たな原子力発電所の建設促進を国家政策として議会で決定したのはイギリスが初めてである。

英国のエネルギー政策の基本は、エネルギー供給保障を確保しつつ、2050年までに温室効果ガス(GHG: Greenhouse Gases)の排出量を1990年レベルの80%減まで低減することで、この目標達成に当たっては国民の負担を最小になるような政策を選択するとしていて、原子力発電を選択する理由としては、低炭素排出で既に技術的に証明された発電技術であること、そして、燃料供給の安定性、燃料価格の安定性、資源の安定性などを挙げている。
(以下中略)

3)原子力発電所建設計画
(1)英国政府の取り組み
 英国の電力市場の発電分野は、国営電力会社の分割民営化と市場の自由化によって海外企業による企業買収が進み、現在は、フランスの国営電力会社EDF、ドイツの大手電力会社のE.ON(ドイツ第1位)とRWE(ドイツ第2位)、スペインの大手電力会社イベルドローラ(Iberdrola)、国内企業のSSE(Scottish and Southern Energy)の大手5社に集約されている。これらの5社全てが原子力発電所の建設を計画している。
 英国政府の原子力発電所建設への推進政策としては、建設サイトの事前審査、原子炉の型式承認に当たる包括的設計審査(GDA)により許認可期間の短縮を推し進めている。
原子炉の設計に関する審査は、AREVAのEPRとWestinghouseのAP1000についてのGDAが2011年6月に終了する予定であったが、2011年9月末に予定されていた原子力規制局(ONR )の局長Mike Weightmanの福島第一原子力発電所についての最終事故報告書の内容を審査に反映するため、審査が延びていたが、2011年10月11日に最終報告書「日本の大地震および津波:英国の原子力産業へ適用(Japanese earthquake and tsunami: Implications for the UK nuclear industry)」が提出された。
 報告書の最終的結論は、英国の原子力発電所は基本的に安全であり、また新規原子力発電所建設に関するエネルギー国家政策文書NPSのEN-1及びEN-6を変更するような大きな問題はないとの結論であった。ただし、2011年5月に報告された暫定報告書で指摘されたように非常用電源や洪水対策等に関する改善が必要であり、GDAにおいても反映する必要があるが2011年末までには審査は終了するとONRは発表している。(以下略す)」(筆者注11)
 なお、12月1日、政府はマイク・ウェイトマン最終報告書で示された福島第一原発の調査結果を踏まえた問題指摘に対する政府の回答(Government response to Dr Mike Weightman's final report on 'Lessons Learnt' from Fukushima for UK Nuclear Industry)を公表した。

(2)政府のプルトニューム再利用やMOX燃料加工に関する新たな戦略内容
 12月1日、英国政府(DECC)は「民間部門が保管するプルトニュームの長期的観点からの利用に関する意見公募結果を踏まえた政府の方針(Management of the UK’s Plutonium Stocks :A consultation response on the long-term management of UK-owned separated civil plutonium)」を公表した。この件についてはわが国のメディアも取り上げているが、内容は英国メディアの受け売りで正確性を欠く。別途、経緯も含め本ブログでまとめる。

3.2011年7月18日、下院議会 (筆者注12)で討議、承認された「エネルギーに関する国家政策文書(NPS: National Policy Statements for Energy Infrastructure,EN-1からEN-6)」を受けた政府等の具体的動き
 7月18日、下院議会は次の6つの「エネルギーに関する国家政策文書」を討議、承認した。また、7月19日クリス・ヒューン(Chris Huhne)エネルギー・気候変動相は「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」(筆者注13)の下で“NPS”を指定した。

「エネルギーNPS」は、主要なエネルギー計画に関する提案につき独立機関「IPC」が査定の上決定した国家政策である。今回発表した「エネルギーNPS」は次の6つからなる。
①EN-1 包括的エネルギーNPS(Overarching Energy NPS)
②EN-2 化石燃料発電インフラストラクチャーャーNPS(Fossil Fuel Electricity Generating Infrastructure NPS)
③EN-3 再生可能エネルギー・インフラストラクチャーNPS(Renewable Energy Infrastrucure NPS)
④EN-4 ガス供給インフラストラクチャーおよびガス・石油パイプラインNPS(Gas Supply Infrastructure & Gas and Oil Pipelines NPS)
⑤EN-5 配電網インフラストラクチャーNPS(Electricity Network Infrastructure NPS)
⑥EN-6 原子力発電NPS(第Ⅰ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅰ)
⑥EN-6原子力発電NPS(第Ⅱ巻)(Nuclear Power Generation NPS-Volume Ⅱ)

 今回のNPSの指定に先立ち、エネルギーNPSは2回りの議会による精査(Parliamentary Scrutiny)および公開意見公募を受けた。過去の政府によるエネルギーNPS草案に関する第一次公開意見公募は2009年11月から2010年2月の間に行い、第二次公募は2010年10月18日から2011年1月24日の間に実施した。具体的な、公開意見への政府回答( The Government Response to Consultation on the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)議会への政府回答(The Government Response to Parliamentary Scrutiny of the Revised Draft National Policy Statements for Energy Infrastructure)インパクトアセスメント(Impact Assessment)についてそれぞれアクセスが可である。

4. 2011年11月21日委員会が公表した関係者からの提出された「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」の概観 (筆者注14)
(1) 「証拠書面意見(Written Evidence)および議会宛メモ(Memorandum )」
短期間に関係機関や個人等から多くの意見が寄せられた。出された意見は全部で70件である。提出者をカテゴリー分類すると概略次のグループに区分できる。
(1)大学教授等の原子力開発研究者
(2)大学等の調査研究機関
(3)エネルギー監督行政機関
(4)原子力エネルギー関連開発企業
(5)原子力エネルギー業界団体

(2)わが国の意見メモ
 この中に(NRD58)として、わが国の原子力委員会鈴木辰二郎委員長代理が提出したものが含まれている。専門外のこともあり国内での意見陳述の内容もフォローしていないので正確なコメントは差し控えたいが、少なくともドイツの日本大使館で行ったスピーチ内容に関しては批判等が多い。
 また、同委員会での証言記録の中で鈴木代理の証言は前記証拠書面意見ビデオのみで、書面記録(Committee publications)には同氏の7月6日の発言記録は含まれていない。
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(筆者注1) 上院「科学・技術特別委員会」は、2011年5月25日に「技術革新の支援ツールとしての公的調達のあり方(Public procurement as a tool to stimulate innovation)」 (要旨)、また、7月19日に「国民の行動変化と国家の成功への道(Behavior Change)」 (要旨)を取りまとめ、公表している。

(筆者注2) 英国の産業界育成の中心的である貿易産業省(DTI)は1983年に設置され、2007年6月まで機能してきたが、翌7月17日に「ビジネス・企業・規制改革省(BERR:Department for Business, Enterprise & Regulatory Reform)」に改組され、さらに2009年6月5日に内閣改造に伴い「イノベーション・大学・技能省(DIUS:Department for Innovation, Universities and Skills)」とBERRが統合した「ビジネス・イノベーション・職能技能省(BIS:Department for Business,Innovation and Skills)」が創設されている(2011年5月18日本ブログ「英国政府は『2006年消費者信用法』の今後2年にわたる具体的施行の総合計画を公表」(筆者注1)参照)。

(筆者注3)エネルギー・気候変動省のサイトでは、政府としての「年次エネルギー声明」を過去2回公表しており、その内容やエネルギー価格や法案等への影響については同省サイトで確認できる。

(筆者注4) 駐日英国大使館サイト「二酸化炭素回収・貯留 (CCS: Carbon Capture and Storage) 」の解説サイト(英国は、2010年3月17日 二酸化炭素回収・貯留のための専門部署、エネルギー・気候変動省・二酸化炭素回収・貯留局(Office of Carbon Capture and Storage :OCCS)を設立した)参照。なお、同大使館サイトの「ダウンロード」サイトは、英国のエネルギー・気候変動政策に関係する文書の一部について、概要(executive summary)等の翻訳を行っている。

(筆者注5) ここでいう「European Law」とは、具体的には「EU指令2009/71」等を指す。6 年の歳月を要して成立したのが2009 年に公布された「原子力施設の原子力の安全性確保のための欧州共同体枠組みを制定する2009 年6 月25 日の「閣僚理事会指令(2009/71/Euratom)」である。この指令は、先に紹介した「96/29/Euratom 指令」が一般的な放射線防護の指令であるのに対し、原子力施設に特化して安全性を確保するための枠組みを決めたものである。特に記すべき点としては、各構成国に対し、安全性に関する国内管轄統制機関を確保し、これを、原子力推進や電力関係者などの外圧から独立したところに確保することを各構成国に義務付けていることである。( 「EU における原子力の利用と安全性」から一部抜粋、リンクは筆者の責任で行った)
 なお、EUのローファーム等におけるEU指令等をめぐる原子力規制に関する解説レポートのURLを一部引用しておく。

(1) 2009年6月25日 世界原子力協会(World Nuclear Association:WNA)の報告レポート「EU原子力安全指令(European nuclear safety law)」

 なお、WNAが発する世界の原子力問題の最新情報サイト“WNN”は、わが国の原発事故対応に極めて強い関心を持ち、最新の情報提供を行っている(論評はない)。例えば、11月30日「 New analysis of Fukushima core status(東京電力福島第一原子力発電所 1~3号機の炉心損傷状況の推定について)」、12月2日「Earthquake not a factor in Fukushima accident(福島原子力事故調査 中間報告書)」
 参考までに東電が発表した説明資料にリンクさせておく。
「東京電力福島第一原子力発電所 1~3号機の炉心損傷状況の推定について(2011.11.30)」
「福島原子力事故調査 中間報告書(2011.12.2)」

(2) 2009年3月 英国のローファームBurges Salmon解説レポート「Nuclear Law」
(3) Journal of Energy & Natural 146 Resources Law Vol 28 No 1 2010 
Ana Stanič著「EU Law on Nuclear Safety:EU指令2009/71」

(筆者注6) 英国の新規原子力発電所建設に伴う事前設計認可は、包括的設計審査(GDA:Generic Design Assessment)と呼ばれ、現在2つの炉型が申請されている。炉型はフランス・アレヴァ社製EPR(160万kW)と米ウェスチングハウス社製AP1000(110万kW)である。GDA対象炉型選定の初期評価は、2007年8月から開始され、米国原子力規制委員会(NRC)やフランス原子力安全機関(ASN)など諸外国の規制当局の知見も活用するとしている。今後、国家の重要な基盤施設建設計画について総合的な判断を下す独立機関IPC(IPC:Infrastructure Planning Commission、2008 Planning Actに基づいて2009年10月に設置された)が設置者の申請に対して建設の許可を判断することになる。(高度情報科学技術研究機構(RIST)の“ATOMICA” イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)から抜粋)

 また、「型式認可」では、同一形式の新型炉の建設計画が多数ある場合には、許認可に係る業務量の削減が見込める。英国では新規原子炉を対象に、「一般設計評価(GDA:Generic Design Assessment)」プロセスを策定し、EPR やAP1000 について評価を開始している。(2009年5月7日 経済産業省 総合資源エネルギー調査会原子力安全・保安部会基本政策小委員会(第2回)配付資料5「原子力安全規制制度の国際動向(米国の例)」から引用。

(筆者注7) わが国では「Planning Act 2008」を100%といってよいほど「2008年計画法」と訳している。 しかしこれでは、何のための計画法なのかが理解できないし、またその適用に当たって解釈を行う際にミスリードが発生する。本ブログではこの誤りをさけるため「2008年土地開発・社会資本整備計画法」と意訳した。

(筆者注8) イノベーション・大学・技能省(DIUS)は、2009年5月29日、「サイエンスワイズ事業・科学・イノベーション国民対話専門家センター(Sciencewise-ERC)」の創設を公表した。“Sciencewise-ERC”は新興する科学技術による社会への影響に関する議論について、国民との対話をより促進するため、政策立案者に対して面談による情報共有等のサービスを提供する情報ハブである。複雑で論争になり得る科学的な問題について、大臣や官僚が国民の視点や関心を理解するため非常に重要な手段となり得る。
 具体的活動は、①専門家空なるチームを整備して、省庁および政府関係機関等のサービスを提供するほか、②省庁および政府関係機関等による国民対話のためのプロジェクトに対して助成を行う。その他イベント・展示会やニュースレターの発行等も行う。(日本学術振興会(Japan Society for the Promotion of Science(JSPS)ロンドン支部の解説から抜粋)
 なお、北海道大学も“Sciencewise-ERC”を「科学技術コミュニケーション 第9号( 2011) 「科学と社会をつなぐ組織の社会的定着に向けて : 英国からの教訓」において取上げている。

(筆者注9) 最近時の英国政府の原子力政策の解説としては、2011年11月9日の社団法人・日本原子力産業協会の記事「英国の原子力新設計画が前進 年末までに暫定設計承認」がある。ただし、ごく概要のみの解説である。

(筆者注10) 英国の原子力政策の基本方針の転換に関する解説として以下の点を補足しておく。わが国の高度情報科学技術研究機構「イギリスの原子力開発体制 (14-05-01-03)」から一部抜粋する。
「英国政府は2008年1月、新規原子力発電所の建設はしないとする従来の政策を転換し、「民間事業者が競争市場で原子力発電所を建設できるよう環境整備を行う」という新たな原子力政策を発表し、以降、新規原子力発電所建設促進のための様々な制度改革が進められている。」

(筆者注11) 結論部分では本文で引用した以上の内容が含まれている。ここでは、その紹介は略す。

(筆者注12) 英国の従来の原子力政策、DECC大臣の首席原子力施設検査官に対する報告要請、議会下院の審議等につき纏めたレポートとして国立国会図書館:外国の立法 (2011.5) 河島 太朗「特集 福島原発事故をめぐる動向 :【イギリス】 政府の対応と議会の審議」が詳しく参考になる。

(筆者注13) 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)」につき、駐日英国大使館サイトの解説から引用(関係データへのリンクは筆者が行った。なお、同サイトでは「環境とエネルギー」と題する一連の解説があり、体系的理解には参考になる)
「2008年11月26日に、英国「エネルギー法(Energy Act 2008)(c.32)」 が発効しました。この法律は、2007年のエネルギー白書に基づいて、二酸化炭素回収・貯留(CCS)などの新たな技術や再生可能エネルギー技術の発展・導入、洋上ガス貯留などエネルギー供給におけるニーズの変化、エネルギー市場の変化に対する国民および環境の保護、といった視点から、既存のエネルギー関連法案を更新するものです。 「2008年気候変動法(Climate Change Act 2008)(c.27)」 「2008年土地開発・社会資本整備計画法(Planning Act 2008)(c.29)」とともに、英国の長期的なエネルギー・気候変動戦略の根幹をなします。」

 特に、「2008年土地開発・社会資本整備計画法」に関しては英国のエネルギー政策を含め国家政策の立案、事業計画化等の全体の計画化に関わる法であり、具体的な立法目的や制度の概要をここで引用しておく(東京工業大学 屋井鉄雄「計画の法制度化に基づく行政裁量の適正化に向けて」から一部抜粋、ただし、原文がスライド原稿のため具体的に説明していない部分があり、引用データの正式名称やリンクは筆者が独自に行った)。

(1)新制度のねらい
1) 国家的重要インフラストラクチャ(Nationally Significant Infrastructure:NSI)を対象:
2)計画段階を3つに分離:
①政府による国家政策書(NPS)の策定段階(積極的な市民参加,議会の関与が今後の課題)
②事業主体(官または民)によるプロジェクト開発段階(Environmental Impact Assessment:EIA)実施,社会資本計画委員会(Infrastructure Planning Commission:IPC:Planning Act第1編で定義されている)との協議,計画案の申請),
③社会資本計画委員会による計画決定段階(市民参加の評価,公開審問,意義申立)
3)新制度の効果:
①単一の承認体制
②手続きの同時進行による効率化
③決定機関の独立性
④国家政策の明確化

(2) 新制度の概要
1)国家政策書(National Policy Statement: NPS)の作成
○国が策定・決定
○20年程度の長期を対象(概ね5年ごとの改定)
○NPSの内容や策定機会は分野ごとに異なる
(滑走路1本の場所決定から地域に拠らない方針決定まで)
○幅広く積極的な市民参加を採用
(特にNPSが事業位置を特定する場合は会合方式等採用)
2)事業計画の策定段階
○計画・事業主体は市民協議(PC:Planning consultation) を実施し,計画案を作り上げ,IPCに計画案を申請する(計画策定の途上でIPCと協議実施)
○小規模な事業計画は従来方式
3)事業計画の決定段階
独立第三者機関である社会資本計画委員会の設立(2009年10月1日)
○IPCが計画・事業主体の申請した計画案を審査・決定
(Public InquiryはIPCが決定手続きと並行して実施)
○IPCは常勤委員を抱え,省庁から独立した機関
○年間10件程度(交通,廃棄物施設,エネルギー施設など)
○IPC委員(任期8年,罷免なし)
(最高レベルの中立性,信頼性,客観性が要求される)

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(筆者注14) 英国議会の委員会の公式記録としては、審議記録や証拠書面意見(Written Evidence)、口頭証拠証言(Oral Evidence)、無修正口頭証拠証言(Uncorrected Oral Evidence)、修正証言(Corrected Evidence)や議会メモ(Memorandum )がある。

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