Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

米国の大手金融サービス機関のCEO等からなるNPOの最近の取組テーマと活動概要

2006-06-03 15:40:19 | 海外のNPO・NGO

Last Updated: Febuary 21,2022 

米国BITS(正式にはThe Financial Services Roundtable)は、米国の大手金融機関 (筆者注1) (筆者注2)97機関の最高経営責任者(CEO)およびCEOが指名した最高技術責任者(CTO)、最高情報責任者(CIO)、副社長等からなる諮問委員会、諮問協議会により活動を行っている。特に、国内の金融機関やその他重要な企業・機関、政府機関、技術提供企業、第三者サービス機関との協力関係に力を入れている。
 以下述べるとおり、BITSの現下の優先課題や取組みテーマは金融界全般ならびに金融監督機関・政府機関にとっても共通的重要項目であり、実際BITSは①FDIC,ICANN、DHS等関係機関への意見書(Comment Letters)の提出、②連邦議会での証言(Public Testimony)、③消費者への情報開示等その活動振りは注目に値するといえる。
また、技術提供事業者と金融サービス機関の相互協力により金融サービス産業において確立された最小安全基準評価基準をもとに公認商品評価テストを実施している点も、特徴的な活動といえよう。

1.BITS理事会からの基本的負託事項(基本方針)
(1)エレクトロニック・バンキングと金融サービスの成長への協力
(2)市場主導型の技術開発を優先することへの協力
(3)電子商取引に取り込まれる決済システムの中心となる産業界の役割・任務の維持
(4)金融取引における安全性、健全性、プライバシー保護に対する消費者の信頼の維持
(5)産業界全般にわたる資源とインフラの活用

2.2006年の主体的行動の優先取組み政策課題
(1)情報セキュリティ(なりすまし詐欺、情報漏えいおよびインターネット詐欺)
(2)生命保険会社の許認可における連邦監督法制化問題 (筆者注3)
(3)年金受給者向け証券サービス(30年もの国債 (筆者注4)、投資アドバイス、年金)
(4)マネロン対策
(5)証券取引委員会(SECのヘッジファンド、市場構造、SOX法404条問題 (筆者注5))
(6)大規模災害対策
(7)郵便制度改革
(8)恒久減税(permanent tax cuts)、「経済成長及び減税調整法:EGTRRA (筆者注6)」の在り方)、「sub-part f」の在り方 (筆者注7)、Business Activity Tax法案 (筆者注8)
(9)バーゼルⅡ対応
(10)連邦通貨監督庁(OCC)、連邦預金保険公社(FDIC)による金融先買い(preemption)、高利貸し規制対策の統一基準化

3.目下の委員会での優先検討課題
次のような委員会で検討を進めている。都度テーマを見直しつつ追加などを行う
(1)セキュリティとリスクアセスメント(委員長:リー・ウィリアムズ(フィデリテイ投信会社))
(2)金融詐欺阻止対策(委員長:ワコビア社)
(3)ITサービスプロバイダー(委員長:バンク・オブ・アメリカ)
(4)決済戦略(委員長:コメリカ社)

4.BITSセキュリティ公認商品テスト・プログラム
(1)概要
 金融機関が提供するシステムは取り扱うデータの安全性と健全性を保証しなくてはならない。本プログラムは、一般産業界が利用できる安全性を持ったソフトウェアのテスト機能を供給するとともに、技術面の各リスクや国家の重要インフラの保護に寄与する自己規制手段である。
(2)セキュリティ基準
 セキュリティ基準は、各種商用ソフトウェアの最小限の基本となる特性と機能を代表する。この基準はテスト目的で作成される一方で、BITSメンバー企業内で技術調達、提案や内部開発計画に用いられる。
①マスター・セキュリティ基準(MSC)
NSCは、製品について次のような一連のセキュリティ特性の要件を提供する。
識別、否認防止(nonrepudiation)、オーソリ、信頼性、データ及びシステムの高品質性、監査、認証、セキュリティ管理、文書化ガイダンス等。
②製品のプロフィール
 同プロフィールでは、次のような項目について説明される。
適用可能機器、認証システム、アクセス・コントロール、セキュリティ製品への適用、モニタリング等。

5.BITSの公認製品
①Pointec PC 4.3(ポンテック・モバイル・テクノロジー社製)
②Archer Smartsuite Framework Version 3.0(アーチャー・テクノロジー社製)
③VirtualVault(ヒューレット・パッカード社製)
これら製品テスト報告書はBITSのメンバー企業に請求できる。

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(筆者注1) BITSは1996年に設立されたNPOで97社の業種は多岐にわたる。銀行グループ以外では例えば、保険持株会社(ACE INA Holdings,Inc.等)、株式投資会社(Affiliated Managers Group,Inc等)、クレジットカード会社(American Express Company等)、自動車系決済融資業務会社(Ford Motor Credit Company,Toyota Motor Credit Corporation等)、電気製品メーカー系個人法人向け融資業務会社(General Electronic Company等)、社債発行受託会社(Allied Capital Corporation等(筆者注2))、リスク管理・再保険、人材開発会社(Avon Corporation等)、オンライン証券会社(The Charles Schwab Corporation等)が上げられる。なお、同メンバーには関係機関としてアメリカ銀行協会、その他米国の銀行協会、カナダ銀行協会(CBA)、カナダ決済協会(CPA)、英国決済サービス協会(APACS)等が参加している。

(筆者注2) アライド・キャピタルの取扱商品は、投資社債(debt investment:特定の目的にため投資を募るもので、株式投資と異なり投資家は自ら資産を所有しないし利益の配分にも与からない。この融資のために担保を差し入れていた場合は、貸し手は借り手が返済を怠った場合は当該資産による返済を請求できる)、優先社債(Senior Debt:清算時に優先的に返済を受けられる社債)、劣後社債(Junior Debt又はSubordinated Debt)等である。


(筆者注3)Optional Federal Charter問題」は、保険会社の規制・監督に関する現行法制は州ごとに免許を受けなければならず、銀行や証券に比較して不利益であるというのがそもそもの問題指摘であった。各州法も統一性にかけており、1990年代末頃から銀行・証券と同様に連邦法による監督制度を設けるべきか否かをめぐってNAIC(全米保険監督官協会)の働きかけや連邦議会での法案が出され、なお議論が続いている。


(筆者注4) 米国では30年国債(あるいはそれ以上の長期国債)は2001年を最後に発行が停止されている。米国財務省が30年といった長期の債券はコストがかかると判断したこと、また当時の財政事情を考慮するとこのような長期の債券発行は必要ないと判断したことなどが理由であった。しかし、2005年5月に市場の様々な思惑に対して、前スノウ米財務省長官は同省が30年物の米国債の発行を検討していると述べており、その背景には、世界の主要国で長期国債に対する需要が高まりつつあることや、米国自身が社会保障制度改革などのための財源確保の必要に迫られたこと等があるといわれている。


(筆者注5) 米国企業改革法(Serbenes-Oxley Act:SOX法)404条とは、企業側に対し、財務報告に関する内部統制が有効に機能しているかどうかを毎年評価するよう要求する条項である。これにより企業は、独立した監査人から内部統制について監査を受ける必要がある(上場会社監視委員会(PCAOB)は、同法に基づき、会計監査業務の質を監視するために設立された機関である)。米国証券取引委員会(SEC)とPCAOBは本年5月10日に米国企業改革法(Serbenes-Oxley Act:SOX法)の404条について、意見聴取する公聴会を合同で開催したが、企業幹部と会計監査人は、同条項により会計業務が強化されたことを評価しつつも、莫大なコストを要する苦しい現状を訴えている。

(筆者注6) EGTRRA(Economic Growth and Tax Relief Reconciliation Act 2001)は、2001年にブッシュ政権が選挙公約に基づいて議会に提出し同年6月に成立した。主な内容は、①個人所得税率の引下げ、②子女税額控除の拡充、③婚姻による税負担の軽減策、④教育貯蓄勘定への拠出限度額の引上げ、⑤遺産税の段階的廃止・贈与税率の引下げ、⑥IRA(個人退職勘定。米国の個人年金積立て制度。確定拠出年金型の個人年金))および401K制度の拡充等である。

(筆者注7) タックス・ヘイブンとは一般に 所得または特定の所得に対し税が全く課されないか、または課されても極めて低率であるような国や地域を指す)。このタックス・ヘイブンでは、 親会社がベース・カンパニーとなる子会社等を設立し、海外における企業活動の利益を当該子会社に帰属させることにより、企業グループ全体としての税負担の回避ないし軽減を図る租税回避が行われている。このタックス・ヘイブンの利用による租税回避に直接対抗する立法的対策として、サブパートF立法といわれており、この種の立法の代表例が1962年に導入された米国のサブパートF条項(subpart F provisions, Internal Revenue Code(内国歳入法典)951条-964条)である。この規定は, 米国株主に保有されている被支配外国法人(controlled foreign corporation)の特定の留保所得を,実際に分配額として受領していなくとも, その持分割合に応じて米国株主の総所得に合算して課税するもので、 日本も1978年にこのサブパートF条項に類似した合算課税方式によるタックス・ヘイブン対策税制を導入している。


(筆者注8) 筆者は2005年に109回連邦議会下院に提案された法案「Business Activity Tax Simplification Act of 2005(H.R.1956)」を指すと理解した。
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