Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

生成AIにおける人間(人力)のキュレーター(Human curator)の役割の神髄を明確化した新論文の意義

2024-03-30 14:10:14 | 生成AIとキュレーター

 昨今、生成AIの功罪を巡る議論が高まる中で、消費者保護から見たマーケティング活動の問題に関し重要と考える点を例示する。

(1)テレビ番組等のサプリメント等スポンサー広告の多過ぎ、またインフルエンサー広告は全く無意味、(2)ネット広告・ターゲット広告のしつこさ(場合によっては詐欺広告類似)、(3)なりすまし詐欺メールの氾濫、(4)かつて一般に利用出来た商品テスト(注1)は皆無である。

 このようなマーケィングの在り方に加えて、AI技術の普及は消費者にとってメリットはますます後退している。(3月29日付け読売新聞1面連載特集「情報偏食:AIが回答「多様性減少」第6部 求められる規範五最終回 参照)

  ところで、ブロガー(コンテンツ・クリエイター)である筆者は、最近AIにおける人間のキュレーター(Human curator)の役割の神髄を明確に指摘した海外レポートを読んだ。具体的にはジョーン・ウェステンバーグ(Joan Westenberg )氏のblog「キュレーション(人力で情報を収集、整理、要約、公開(共有)すること)は知的な会話における最後の望みである」およびグレグ.・ブックレス(Greg Buckles)氏(注2)の eDiscovery Journal への最新投稿 「キュレーション : AI の事実の背後にある人間の意味(Curation – the Human Meaning behind the AI Facts)」のうち、今回は内容から見て目から鱗が落ちるといえる前者のみ取り上げる。また、RSSの再評価などもわが国では珍しい点で特記事項にあたる。

Greg Buckles 氏

 さらに、AIに関しコンテンツ・キューレーターやコンテンツ・アグリゲーターの役割等につき、わが国で詳しく解説したものは皆無である。今回のブログの後半でまとめた。

 なお、後段で説明するコンテンツ・アグリゲーターの例について、筆者はこの例示には異論がある。【私見】として長年の筆者の法律ブロガーの経験から補追する。

Ⅰ.AIキュレーションは、知的な会話(discourse)における最後の望みである」

 Joan Westenberg氏のレポート仮訳する。なお、注書き、リンクおよび太字部は筆者の判断と責任で行った。

Joan Westenberg 氏

 ChatGPT のようなツールを使用すると、誰でも、いくつかのプロンプト(コンピューターがユーザーに対して入力を促す記号)を表示するだけで、書き直された Wikipedia の記事、エッセイ、規範(code )、詩などを思いつくことができる。 コンテンツ作成のこの「民主化」は、これまで聞かれなかった声に力を与えるという偉大な約束として宣伝されている。 しかし、ここでいう「民主化」という言葉は間違いなく誤った呼び名といえる。

 これは、コンテンツ作成の力関係における平等主義的な変化を示唆しており、より多様な声を聞くことが可能になるとされている。この視点は、よく言えば盲目的に理想主義的で、悪く言えば冷笑的に操作的であるが、AI が支配するインターネットの根底にある複雑さと潜在的な落とし穴を認識していない。

 これは、さまざまな層にわたってこれらのテクノロジーに平等にアクセスし、理解していることを前提としているが、これは現実とはかけ離れている。デジタル格差(digital divide)は依然として大きな障壁となっており、これらのツールへの公平なアクセスを妨げている。 これらの AI テクノロジーの管理と開発は少数の大手企業や機関に集中しており、(必然的に) 情報のゲートキーピング(門番)、偏見、情報の商業化につながる。

 AI によって生成されたコンテンツが無差別に拡散しても、過小評価されている人々に力を与えることも、知識創造を民主化することもできない。 むしろ、一般に公開されている情報の信頼性と信頼性がさらに薄まり、ますます断片化することになる。

AI の過剰利用により、誤った情報や低品質のコンテンツの問題が大幅に悪化している。

  AI テクノロジーの現状には、AI テクノロジーが生成するコンテンツの正確性と完全性を確保するために必要な微妙な理解と倫理的判断が欠けている。 この能力のギャップにより、誤った情報が野放しに拡散し、言説を分断し、分断を深め、意思決定を妨げる水門が開かれる。

 これは結局、 以下の1 点に集約される。 人間によるキュレーションは、現在これまで以上に重要になっている。 アルゴリズムが精度や品質の程度に応じて膨大な量の情報を量産する中、人間のキュレーターの洞察力のある判断が、誤った情報と平凡さの潮流に対する唯一の防御手段となり、 人間のキュレーターは、(1)微妙な理解、(2)状況認識、(3)倫理的判断をそのテーブルに乗せるが、これらの性質は、現在の状態では AI が基本的に再現することができないものである。

 人間のキュレーターは、アルゴリズムではできない方法で、微妙な議論を区別し、文化的な微妙さを認識し、情報源の信頼性を評価することができる。 この人間味は、情報エコシステムの完全性を維持するために不可欠である。これは、品質のフィルターとしてだけでなくAI システムによって生成される圧倒的なノイズの中で、意味のある信頼できるコンテンツを示す信号としても機能する。

  人間のキュレーターの役割は、コンテンツを選択して提示するだけではなく、人間の洞察力だけが提供できる信頼性と信頼性の感覚をデジタル環境に吹き込むことでもある。 テクノロジーが容易に誤解を与えたり、圧倒したりする時代においては、人間によるキュレーションを信頼することは優先事項ではなく、世界の理解を形作る情報の質を維持するために必須なものとなっている。

 フェディバース(Fediverse)(注3)内外で、尊敬される声が分散型SNSであるマストドン(Mastodon)やその Web サイトなどのプラットフォームを活用して、POSSE モデルに従って個人的に精査されたリンク、分析、創作物を共有している。つまり、自分のサイトで公開し、他の場所でシンジケートする。 これらの人間キュレーターは、高品質で人間中心のコンテンツをソーシャル・ ネットワークに配信する前に、独自の洞察力のレンズを通して渡すことで、出所が疑わしい機械生成コンテンツの海の中に正気の島を作り出す。 さらに、彼らのフォロワーは、これらの洞察の価値ある情報(nuggets)をソーシャル・ウェブ上でさらにシンジケートし、一元化され、アルゴリズムによって強化されたフィードに代わる手段を提供する。

 この分散型分散モデル(distributed, decentralised model)は、Web 自体のアーキテクチャ、つまりネットワーク内のネットワーク、信頼と認識された権限に基づいて他のサイトにリンクするサイトに従う。 これは、利益主導の巨大企業によって後押しされた、いわゆる「インフルエンサー」だけにたよるコンテンツ生成だけでなく、読者の積極的な参加と批判的思考を中心とした情報民主主義の再考である。我々キュレーター全員には、自分の注意を注意深く管理し、共有や推奨を通じて広めるコンテンツに対して責任がある。声が増えるとノイズも増えるが、識別力を高めれば真実の信号を見つける機会も増えるのである。

 この POSSE モデル(注4)は RSS(Rich Site Summary)(注5) と見事に連携しており、加入者は中央プラットフォームによって完全に検閲されていないオープン標準フィードを介して、信頼できる Web サイト、ブログ、ポッドキャストをフォローできるようになる。 RSS は、ソーシャル・ メディアの消防ホースの時代にはほとんど忘れられていたが、壁に囲まれた庭園内のアルゴリズム・ フィードからの重要な出口を提供する。 これにより、読者が自分自身の情報ダイエットを決定できるという主体性が戻り、クリエイターにはサードパーティのネットワークを介するのではなく、視聴者との直接的な関係が与えられる。

 またRSS は、テクノロジー・ エッセイストのヴェンカテシュ・ラオ(注6)氏が「コモンシズム(commonsism」と呼ぶものを可能にする。これは、記事全文を含む Web サイトからの簡単な時系列の更新を通じて、読者が再び自分自身の注意を向けることができるようにするものである。RSS を使用すると、コンテンツ・ ストリームが再び民主的になり、各人が中央のゲートキーパーにフィードを送信するのではなく、さまざまなサイトからフィードを厳選するようになる。これは、情報民主主義を文脈に基づいて再考するものであり、読者が自分の興味や価値観に沿って情報摂取量を決定することにつき信頼を増す。

 RSS と POSSE の復活は、初期のブログ時代に繁栄した個人 Web サイトのエコシステムの復活を示しています。 作家、研究者、技術者などが、公開ノートと洞察を共有するチャネルの両方として、フィードを備えた独立したホームページを再起動している。 個人の Web サイトは、オンライン上の究極の主権領域であり、クリエイターが独自の条件でコンテンツを共有できるようになる。 これらのサイトは、外部情報をフィルタリングして知恵と視点を養いながら、アイデアをデジタル公共広場にエクスポートする。 これらは、サイト所有者の行程に基づいて時間の経過とともに進化する、まさに拡張可能な生きたドキュメントである。

 Large Language Grift (大文字詐欺商法)の時代には、情報源の出所と信頼性のシグナルをさらに可視化する必要がある。クリエイターの個人サイトでは、明確な情報起源のストーリーと背景を通じてこれを提供する。 我われは物語の作者が誰であるかを正確に知っており、それに応じて評価することができる。これらの個人は、個人サイトからリンクし、ソーシャル・チャネルを介してシンジケートすることによって、信頼できるノードを備えたネットワークにシード値を与える。 クリエーターの拠点は、過剰生成による作戦基地や要塞となり、慎重な検討に基づいて、彼らが高い信号とみなしたものだけを情報発信することになる。

 自然界の生態系が繁栄するには、動植物間の注意深いバランスが必要である。 同様に、私たちのAI情報環境も、編集者、著者、記者、アナリスト、熱心な市民など、デジタル公共広場全体にわたる洞察のノードを管理する思慮深い人間の管理者に依存している。注意と洞察力があれば、人間中心のコンテンツを向上させることができ、情報民主主義を、計算上の法定ではなく、信頼できる人間の判断に基づいた共有の協力的なプロセスとして再考することができる。

 一部の企業は、完全な自動化といくつかのプラットフォームの統合を支持し続け、それが増加や拡大する唯一の方法であると信じている。しかし、それは視点の独占を生み出し、モノカルチャーが連鎖的な失敗や濫用により脆弱になる危険を冒すことにつながる。 我われは、主権者の声がより広範な知識生態系に貢献できるようにする相互運用可能なプロトコルを必要としている。 生成アルゴリズム(Generative algorithms)は、既存の厳選された洞察を完全に置き換えるのではなく、強化するように指示できる。我々は、オンラインと自然内のネットワーク間の健全な接続が、どのノードをも超える反脆弱性と集合知にどのように貢献するかを見てきた。

 生態系の多様性がこれらの大規模なAI言語モデル自体に関係している可能性があるという初期の兆候がある。 Anthropic 社の「憲法 AI (Constitutional AI)」(注7)のようなツールは、自動出力で既存のコーパス(corpora)(注8)を上書きするのではなく、既存のコーパスを尊重するように設計されている。本質的に慎重で支援的なシステムは、人間が厳選したノードと調和して動作し、編集の完全性を損なうことなく増幅を提供できる。 人間と機械のハイブリッド・キュレーションを念頭に置いて慎重に構築されたこれらのテクノロジーは、たとえ私が AI 仲間についてどれほど不満や不平を言ったとしても、前向きな力になることができる。

 多くの点で、我われの情報ダイエットのキュレーションを、我われの利益と一致しない遠く離れたプラットフォームに委託してきた。 知識ネットワークをナビゲートする際にたとえ部分的な主体性を取り戻すことは、セルフケアの行為である。 独自の RSS フィードを設定し、個人サイトにリンクし、インスピレーションを与える声を高めることは、健全な情報民主主義の基礎である。 単に無限に生成することではなく、信頼できるガイドを介して思慮深い情報の刈込剪定、編集、文脈設定によって定義されるものである。

 どの庭園でも、成長の季節には、栽培、剪定、さらには土壌を補充するための休閑期間など、手入れの季節が必要であると同様に、単に情報を支配したりコントロールしたりしようとするのみではなく、情報の豊饒のサイクルを私たちが受け入れられるべきで形態にすべきである。

Ⅱ.コンテンツのキュレーターとコンテンツ アグリゲーターの違いの明確化

 TechTargetジャパン(IT製品/サービスの導入・購買に役立つ情報を提供する無料の会員制メディア)の解説から抜粋、仮訳する。

1.コンテンツ・アグリゲーターとは何か?

 コンテンツ・ アグリゲーターは、再利用のためにさまざまなオンライン・ソースから Web コンテンツとアプリケーションを収集する個人、組織、またはツールをいう。 コンテンツ ・アグリゲーターは、独自のオリジナル コンテンツを作成しない。

 コンテンツ・ アグリゲーターには 2 つのタイプがある。(1)内部使用のために表示するコンテンツを収集するものと、(2)顧客に配布するためにコンテンツを収集するものである。 後者のアプローチはシンジケーションとも呼ばれる。 アグリゲーターは、ブログ、ニュース、ソーシャル・メディア投稿など、さまざまな種類のコンテンツを収集する場合がある。

 コンテンツの集約は、インターネット上の膨大な量のコンテンツと情報を整理し、それによって情報過多と戦う方法である。 これは、コンテンツ作成者、消費者、マーケティング担当者にとって役立ち、エンタープライズ・ コンテンツ管理 (ECM) 戦略のコンポーネントでもある。

2.コンテンツ ・アグリゲーターはどのように機能するか?

 コンテンツ・ アグリゲーターは、インターネット上の複数のソースからデータを収集し、単一のリポジトリに入れる。 アグリゲーターは、公開される新しいコンテンツを継続的に収集する。 多くの場合、コンテンツ・ アグリゲーターは RSS フィードを使用してこの機能を自動化したり、特定のトピックを中心としたコンテンツや特定のキーワードを含むコンテンツを検索したりする場合がある。

 一部のコンテンツ・アグリゲーターは、人工知能 (AI) を使用してコンテンツを検索、フィルタリング、収集する、より高度なツールに依存している。 たとえば、AI ツールを使用するニュース・アグリゲーターは、ウェブ上の何千もの記事を自動的に読み取り、最も洞察力のある記事を決定したり、次のような定義された基準に基づいて優先順位を付けたりするアルゴリズムを備えている。

①特定のキーワード

②ハッシュタグ

③トレンド

④トピック

⑤類似のコンテンツ

 類似したコンテンツの場合、ユーザーは、類似したコンテンツを見つけるためのモデルとして機能するコンテンツをコンテンツ・ アグリゲーターにフィードできる。 ユーザーは、どの結果が役に立ったかについて AI アグリゲーターにフィードバックを送信できる。 AI ツールは入力を使用して将来のコンテンツを選択する。

 集約プログラムは多くの場合、アプリケーション・プログラミング・インターフェイスを使用して他の Web アプリケーションに接続する Web アプリケーションである。

3.コンテンツのキュレーションとアグリゲーション

 コンテンツのキュレーションとアグリゲーションは、既存のコンテンツを収集して再公開するプロセスの以下の 2 つの別個の部分である。

(1)コンテンツの集約

 集約とは、バックエンドでのデータとコンテンツの収集と編成を指す。 多くの場合、集計は自動化されたプロセスである。 アグリゲータは、コンテンツ内の特定の特徴 (キーワードなど) を自動的に検索することにより、Web からソースを取得する。 アグリゲーターはコンテンツを頻繁に投稿することで、検索エンジンの最適化にプラスの効果をもたらす。

(2)コンテンツのキュレーション

 キュレーションとは、コンテンツに簡単にアクセスして使用できるようにコンテンツを編成、配置、表示することである。 キュレーターは個人または企業の場合があり、キュレーションは通常、手動のプロセスである。

 コンテンツ・ キュレーターは、さまざまなコンテンツを取得できる複数のソースにアクセスできる必要がある。 理論的には、個人はコンテンツ集約ツールを使用してコンテンツを自動的にまとめ、その後手動でそのコンテンツを調べて、最適なものを選択してキュレートすることができる。 キュレーションを成功させるには、エンド ユーザーのニーズに関する洞察を活用し、コミュニケーション・チャネルを通じて戦略的にコンテンツを共有するかどうかにかかっている。

 コンテンツ・キュレーションの例としては、Twitter や YouTube などのソーシャル・サイトが機械学習を使用して有害なコンテンツを検出して削除する場合等がある。

4.コンテンツ・ アグリゲーターを使用する理由は何か?

 コンテンツ・アグリゲーションの主な利点は、特定のトピックや重点領域に関連する多数のコンテンツが 1 つにまとめられることである。 通常、アグリゲータは情報を効率的に整理し、コンテンツをすばやく見つけられるようにする。

 人々や組織がコンテンツ・ アグリゲーションやコンテンツ ・アグリゲータを使用する理由には、次のようなものがある。

①消費者は、他の方法では見ることのできないさまざまなコンテンツにアクセスできるようになる。 これにより、既存の興味に関する新しいコンテンツを常に把握し、新しい興味を発見することができる。

②コンテンツ・クリエイターは、コンテンツ・ アグリゲーションを使用して、自分の作品をより広範なコミュニティまたは新しいコミュニティに公開し、コンテンツの認知度を高める。

③デジタル マーケティング担当者は、コンテンツ・ アグリゲーターを使用して、コンテンツを複数のプラットフォームに配信してより幅広い視聴者に公開することで、デジタル・ コンテンツ・ マーケティング戦略を改善できる。 また、アグリゲーターを使用して、さまざまなプラットフォームで誰が自社のコンテンツに関与しているかを確認することもできる。

5.コンテンツ・アグリゲーターの種類

 アグリゲーターは、扱うコンテンツの種類とコンテンツの収集元によって異なる。 アグリゲーターは 1 つのソースからコンテンツを収集し、それを 1 か所に整理してキュレーションを容易にすることができる。 たとえば、企業は内部コンテンツを整理するために集計ツールを使用する場合がある。

 アグリゲーターが使用されるコンテンツの種類には、次の 6 つが含まれる。

ブログ: ブログ・アグリゲーターは、複数のソースからニッチなブログ投稿を収集し、中央サイトに表示する。 Blog Engage はブログ・ アグリゲーターの一例である。

ニュース: これらのアグリゲーターは複数の情報源からニュースを収集します。 例としては、Google ニュースや Apple ニュースなどがある。

ソーシャルメディア: Curator などのソーシャル メディア・ アグリゲーターは、Facebook や Twitter などのさまざまなソーシャル・ メデイア・サイトから情報を取得し、その情報をライブ映像として表示する。

Research:リサーチ・アグリゲーターは、専門家からの質問に答えたり、さまざまな業界の動向を把握したりするために、研究ジャーナルから情報を収集する。 Feedly は研究論文を集約するために使用できる。

サービス: サービス ・アグリゲーターは複数のサービス・ プロバイダーを収集し、ユーザーが選択肢を参照して 1 つ選択しやすいように分類する。 たとえば、Airbnb は、特定の場所でユーザーが滞在できる可能性のあるすべての宿泊場所を表示する。

➅ビデオ: ビデオ・ アグリゲータは、特定のトピックに関する最近公開されたビデオをさまざまなサイトから集める。 YouTube はビデオ・ アグリゲーターの一例である。

6.コンテンツ・アグリゲーターの例

 コンテンツ・ アグリゲータは通常、Web ベースのツールまたはアプリケーションである。 一部のツールはさまざまなコンテンツ タイプを集約でき、多くの場合、ユーザーが特定のタイプのコンテンツに集中できるようにカスタマイズ可能である。

 コンテンツ集約ツールの例には、次のものがある。

AllTopはニュース アグリゲーター。

Apple Podcasts  はポッドキャストを集約。

Blog Engageはブログ・ アグリゲーター。

Curatorはソーシャル・メディア・アグリゲーター。

Google ニュースはニュース コンテンツを集約。

Feedlyは、あらゆる種類のコンテンツを対象とした AI を活用したアグリゲーター。

Flipboard は、カスタマイズ可能なフィードを備えたブログ・ アグリゲーター。

Information and Content Exchange (ICE) は、財務データと市場データを集約。

Pandaはニュース・ アグリゲーター。

Rotten Tomatoesは映画レビューを集約。

Reddit は、ニュースおよびソーシャル・ コンテンツのアグリゲーター。

Science News は科学関連のコンテンツを集約。

travel blogger communityは、旅行関連のコンテンツが集約。

Taggboxは、マーケターが自分について投稿している人を確認するために使用するソーシャル ・メディア ・アグリゲーター。

Ⅲ.コンテンツ・キュレーションの取組みから見た新たな提言

 Ⅱ.の内容の最後にコンテンツ集約アグリゲーター・ツールの例を挙げた。しかし、筆者が約18年間かけて築いてきた海外情報ブログ、特に法律、個人情報保護、情報セキュリティにつき原データを正確に理解し、翻訳、追加説明を行うには、コンテンツ集約アグリゲーターのみに頼ることは極めて危険ある。

 すなわち、例えば法律の立法や裁判情報 正確に読むには、まず収集力や執筆陣が優れたロースクールや多くの国際的拠点や異なる言語に習熟した人材をかかえる大手ローファームからの第一次情報の入手が必須である。具体的なこれらの情報源のついてはこれまでの筆者のブログを読まれれば明らかであろう。

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(注1)世界的なオーストラリアの商品テスト機関である消費者保護団体“CHOICE”については、筆者ブログ「オーストラリアの消費者擁護団体やACCCが行った水に流せる使い捨てシートによる下水施設の「ファットバーグ」の原因追及と製造企業の広報活動の在り方をめぐる告発の動向」を参照。

(注2) Greg Buckles 氏は、 eDiscovery(電子情報開示)と Infographic solutionsに重点を置いた独立系コンサルタント。

*米国の民事訴訟においては、当事者は、事件に関連する全情報の開示が求められる。これをディスカバリー(Discovery=証拠開示)制度という。この制度により、訴訟の当事者は、相手の有する証拠と成り得る情報を有利不利に関わらず、広範に取得することができる。

ディスカバリーの方法には

  • 質問書(Interrogatories
  • 文書提出要請(Request for Production
  • デポジション:証言録取(Deposition

などがある。

このうち電子データに関わるものがeディスカバリー(eDiscovery)である。正式にはElectronic Discovery(電子情報開示)といい、米国では2006年12月の連邦民事訴訟規則(FRCP)改定によって義務付けられた。

これにより企業は、原告被告のどちらもが、法的要求に応じてコンピュータなどに保存されているすべての関連データを証拠として期限内に提出する責を負う。 日本企業の場合には、日本に保存されているデータも対象となり、情報は膨大な量になる。開示対象となるべき情報を、その保存場所が発見できずに提示できないなどの場合には、厳しい制裁措置を受けたり敗訴に至る事例が多々あり、注意が必要である。(解説から引用)

(注3) Fediverse (「federation(連合)」と「universe(世界)」の合成語)は、SNSミニブログブログ等を含むWebサイトの公開やファイルホスティングを行う、独立性を保ったまま相互接続されたサーバー群のことを指す。異なるサーバー(インスタンス)それぞれにおいてユーザーがアカウントを作成し、異なるサーバーに属するアカウント同士が各サーバー上のソフトウェアが実装するオープン標準通信プロトコルを通して通信できることが特徴である。(Wikipedia から抜粋)

(注4)「Posse モデル」は学生と大学キャンパスの両方で機能し、慎重に選ばれ訓練された少数の多様な才能のある学生グループ、つまり Posse が個人とコミュニティの発展の触媒として機能できるという信念に基づいています。 米国がますます多文化社会になるにつれ、21 世紀のリーダーはこの国の豊かな人口構成を反映する必要があるとPosseは考えている。 我が国の有望な未来の鍵は、複雑な社会問題に対して合意に達した解決策を開発する、多様な背景を持つ強力なリーダーの能力にかかっている。 Posse の主な目的は、こうした明日のリーダーを育成することである(解説から抜粋、仮訳)

(注5)  RSS(アール・エス・エス:Rich Site Summary)とは、ウェブサイトの要約や記事の見出しなどを配信するためのXMLベースのデータフォーマット。

RSSリーダーと呼ばれるソフトウェアやRSSに対応したブラウザを使用することで、総務省に掲載された新着情報を素早く入手して、興味のある記事を簡単に閲覧することができる。(総務省の解説から抜粋)

(注6) Venkatesh Rao氏は2007年の“ribbonfarm”の創設者でかつチーフ編集者である。

(注7) Anthropic と集合知プロジェクトは最近、AI システムの憲法草案を作成するために、約 1,000 人のアメリカ人が参加する公開入力プロセスを実行した。 これは、民主的なプロセスが AI 開発にどのような影響を与えるかを調査するために行った。 実験の結果、社内の体質に共感できる部分と、好みが異なる部分が分かれた。 この投稿では、その結果として得られた公的に入手された憲法と、憲法 AI を使用して憲法に対して新しい AI システムをトレーニングしたときに何が起こったかを共有する。

憲法 AI (CAI) は、憲法に書かれた高レベルの規範原則を遵守するように汎用言語モデルを調整するために Anthropic が開発した手法である。 Anthropic の言語モデル“Claude” は現在、Anthropic の従業員が厳選した憲法に依存している。 この憲法は、国連世界人権宣言などの外部情報源と、言語モデルをより有益で無害にするために言語モデルを操作したわれわれ自身の直接の経験からインスピレーションを得ている。

憲法 AI は、AI システムの規範的価値をより透明にするのに役立つが、これらの価値を選択する際に開発者としての私たちが果たす大きな役割も強調している。結局のところ、我われは憲法を自分たちで書いたのである。 そのため、この研究では、Anthropic で働いていない多くの人々の好みを使用して憲法を作成することに熱心であった。 われわれの研究は、一般の人々がオンラインの審議プロセスを通じて言語モデルの動作を集団的に指示した最初の例の 1 つである可能性があると信じている。 われわれのごく初期の取り組みと発見を共有することで、他の人が私たちの成功と失敗から学び、この取り組みをさらに発展させるのに役立つことを願っている。(Anthropic社のサイト3/26(54)を仮訳)

 筆者は別の「憲法AI」の解説文を読んだ、参考として以下、仮訳、引用する。(WIREDの解説も併読されたい)

憲法 AI: 基本ガイド

急速に進化する人工知能 (AI) の分野では、倫理とセキュリティが全面的に重視される傾向がますます高まっている。 この状況から浮かび上がってくる顕著なコンセプトが「憲法AI」である。 AI システムが司法、統治、政策立案などの重要な分野で足場を築くにつれて、憲法遵守の要求が最重要になっている。 本解説では、Constitutional AI の世界を明らかにし、AI セキュリティに関心のある技術的に鋭い読者に合わせた包括的な理解を提供する。

(1)「憲法AI」とは何か? 憲法上の AI の定義

本質的に、憲法 AI は、法的枠組み、特に憲法原則と AI システムを融合させたものである。 その目標は、AI の運用を国の憲法やその他の基本的な法的文書に謳われている法的および倫理的原則に組み込んで確実に整合させることである。 これは、社会契約の中心にある権利、特権、価値観を認識するだけでなく、尊重する AI システムを構築することを意味する。

(2)なぜ憲法AIなのか?

①倫理的保護:AI が人命に影響を与える意思決定を行う中、憲法を認識した AI は潜在的な倫理上の落とし穴に対する防波堤として機能し、基本的権利の保護を確実にすることができる。

②法令遵守:特に司法や政策決定などの分野における AI の決定の法的影響を考慮すると、憲法ガイドラインの遵守は交渉の余地がない。

③大衆の信頼の強化:AI を広く導入するには信頼が極めて重要である。 AI システムが基本的な社会原則に準拠していることを一般の人々が知ると、受け入れと信頼が強化される。

(3)憲法AIの仕組み

①ルールベースのシステム:1 つのアプローチは、憲法上の原則が明示的なルールとしてエンコードされる、ルールベースの AI モデルを構築することである。 この方法は明確性を提供するが、あいまいなシナリオでは柔軟性に欠ける可能性がある。

②トレーニングデータの拡張:憲法上の原則は、AI トレーニング・ データセットに組み込むことができる。 これにより、機械学習プロセス中に AI システムがこれらの原則を確実に内部化する。

③憲法検証レイヤー:事後検証レイヤーを統合でき、最終的な決定が下される前に AI 出力が憲法上の原則に照らして相互検証される。

④法律専門家とのフィードバック・ループ:AI モデルの継続的な改良は、法律専門家からのフィードバックを統合することで実現でき、憲法の微妙な違いを尊重しながらシステムを確実に進化させることができる。(解説から抜粋、仮訳)

(注8) 「コーパス(Corpus)」とは、自然言語の文章や使い方を大規模に収集し、コンピュータで検索できるよう整理されたデータベースのこと。日本語では「言語全集」などとも呼ばれる。AIが自然言語を扱うためには、膨大な量のデータ学習が必要である。人間が外国語を学ぶときと同じように、AIにも単語の意味や文法上の扱い、用例などを記した辞書のようなデータベースが欠かせない。

コーパスでは、新聞や雑誌、本で使われる文章や、文字化した話し言葉、インターネット上のテキストなどの自然言語を大量に集め、構造化している。辞書を引きながら外国語を読むように、AIはコーパスを参照しながら構造化されていない文章を読むことが可能である。

(AIsmiley解説から抜粋)

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第二次米国政府の責任ある企業行動に関する国家行動計画(U.S Government’s National Action Plan)の概要

2024-03-26 11:09:34 | 国家の内部統制

 3月25日、バイデン・ハリス政権は、(1)人権と労働者の権利の尊重を強化および改善し、(2)グリーンエネルギーの利用を拡大、(3)汚職に対抗、(4)環境を保護、(5) 人権擁護者を保護、(6)ジェンダー平等と平等を推進し、(7)権利を尊重したテクノロジーの使用を促進するというコミットメントを反映した、責任ある企業行動に関する「米国の第二次国家行動計画(NAP)(以下、NAPという)」を発表した。

 11月の大統領選挙を控えたバイデン政権の活動の一環ではあるが、その重要性から見て本ブログではその概要書を注補足の追加を踏まえ仮訳する。

 バイデン大統領は史上最も労働者寄りの大統領であり、ボトムアップとミドルアウトから持続可能な世界経済を構築することに尽力している。 同氏とハリス副大統領は共に、高い労働基準を推進し、意思決定の場に労働者の声を反映させ、ここ米国内だけでなく世界中で不当労働行為に対する規則を執行することに取り組んできた。

 今回の第二次行動計画(NAP)の発表は、複数の利害関係者の調整、会議、経済的インセンティブ、規制、その他の活動を通じて責任ある事業活動を強化するという政府全体の取り組みを反映している。 この NAP は、海外で事業を展開し投資する米国企業の責任ある企業行動 (responsible business conduct :RBC) (注1)に関するあらゆる問題に取り組んでいるが、特に、急速に変化するリスク環境における効果的なデューデリジェンスなどを通じて、人権を尊重するという企業責任への期待に焦点を当てている。

 NAP は、企業が国際基準に基づいてバリューチェーン全体にわたって人権デューデリジェンス (human rights due diligence :HRDD)(注2) を実施することに対する政府の期待を定めている。この報告書は、企業が利害関係者と協力して策定したセクター固有の基準の導入をさらに進める必要があることを強調している。この基準は、バリューチェーン全体にわたる人々に対するビジネスの影響に関する進捗状況を有意義に測定するための信頼できる指標を提供する。

 NAP は、米国政府が RBC を促進および奨励し、企業による効果的な HRDD 実践の実施を加速するために、利害関係者との協議に基づいて以下の 4 つの優先重点分野を定めている。

1.責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会の設置

国務省は、責任ある企業行動に関する連邦諮問委員会(Federal Advisory Committee)(注3)を活用して、民間部門、影響を受ける地域社会、労働組合、市民社会(人権擁護活動家を含む)、学界、およびRBCに関する政策の編成、その他の関連利害関係者との連携や取組みを強化する。

②諮問委員会は、RBC 問題に関する進展を継続し、NAP 実施の追跡を支援することができる。

2.連邦の調達政策およびプロセスにおける人権尊重の強化

① 保健社会福祉省、国土安全保障省、司法省が議長を務める米国政府ホットライン作業部会は、労働者と市民社会が連邦請負業者や下請け業者による人身売買違反を政府に通報できる方法を改善するための選択肢を特定する予定である。

② 国務省は、買収要員と連邦請負業者がプロジェクトの設計、要請、監視中にデューデリジェンスを実施できるよう支援するため、高リスクかつ大量の契約に対する人身売買リスクマッピングプロセスを試験的に実施する。

③ 国土安全保障省の税関・国境警備局( Customs and Border Protection:CBP)は、CBPが関税法に基づいて罰則を課す場合は常に、企業の連邦政府との取引の停止や禁止について、ケースバイケースで積極的な検討を指示するためのガイダンスを草案する予定である。サプライチェーンで強制労働を使用している企業に米国の税金が流れないよう関税法違反やその他の法律の繰り返しによりCBPが強制労働と闘うために施行する。

④ 国防総省は、国際人権に沿って民間セキュリティプロバイダーの監視と認証を提供する複数の利害関係者によるイニシアチブである民間セキュリティプロバイダー協会国際行動規範協会(International Code of Conduct Association for Private Security Providers’ Association :ICoCA)への加盟を奨励または要求するかどうかを評価するための民間セキュリティベンダー向けの人道法基準にもとづく審査を実施する予定である。

3.救済策へのアクセスの強化

 ①国務省は、利害関係者の関与を強化することにより、RBC に関する OECD 多国籍企業ガイドラインのための米国国内窓口 (U.S. National Contact Point :NCP) を強化する。 NCP の改革には以下が含まれる。 1)NCP の新しい諮問機関の創設、2) NCP の機密保持ポリシーの変更を提案し、その手順規則を更新する。3) 刑務所に関するNCPの最初の政策の1つを策定する,4) NCP ウェブサイトのアクセシビリティを向上させる。 NCPを強化するためのオプションを評価する。

②連邦労働省は、労働者主導の社会コンプライアンスを促進し、グローバルバリューチェーンにおける労働者の権利を保護する国際労働機関が実施する200万ドル(約3億200万円)の技術支援プロジェクトに資金を提供することで、救済制度への革新的なアクセスを開発する

米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation :DFC))は、政策コミットメントを更新し、報復疑惑に対応するための内部ガイダンスを開発し、DFC 苦情処理メカニズムでの匿名苦情を可能にすることにより、DFC 苦情処理メカニズムを利用する団体および個人に対する報復からの保護を強化する。

 ④ 連邦財務省は、プロジェクトの影響を受けた地域社会に対して、国際金融公社や多国間投資保証機関を含む多国間開発銀行における効果的な救済システムを提唱する。

米国輸出入銀行(Export-Import Bank of the United States)は、救済手続きの強化について輸出信用庁と協力し、救済へのアクセスとプロジェクトベースの苦情処理メカニズムの有効性を改善する方法について意見を求めるための一般向けの働きかけに取り組む。

4.企業へのリソースの提供

① 連邦労働省は、事業運営とバリューチェーンにおける労働者の権利の成果を推進するための政府全体の視点、アプローチ、および一連のリソースを伝達するオンライン・リポジトリ(オンライン収納庫)である責任ある企業行動と労働者の権利にかかる情報ハブを設立する。

②米国政府は、先住民コミュニティおよび影響を受けるコミュニティとの部族協議および関与に関するベストプラクティスに関する企業向けのガイダンスを発表する予定。

③ 連邦国務省は3月25日の週、1)検索エンジン、2)ソーシャル メディア プラットフォーム、3)その他のデジタル サービスなどのオンライン プラットフォームに対する、人権活動家の保護に関する米国政府のガイダンスを発表した。

④ 国務省は、人権侵害を可能にする、または悪化させる可能性のあるテクノロジーへの投資を検討する際に、投資家が人権デューデリジェンス( HRDD)を実施することを奨励するためのガイダンスの開発を主導する。

⑤ 米国連邦政府は、特定の国および/または分野で事業を行う、またはそれに関わる取引に従事する企業、投資家、その他の利害関係者向けに追加のビジネス勧告を作成する予定である。

***************************************************************************

 本NAPには、前述の4つの優先分野以外にも、特定の優先分野の取り組みを詳述する付則(appendix)が含まれており、技術、気候、公正な移行(just transitions)(注4)、労働者の権利、反汚職などの分野で、米国政府がRBCを推進するために講じる追加の措置を列挙している。

 本NAP の全文は state.gov 参照。なお、 関係者は、RBCNAP@state.gov まで電子メールでいつでもフィードバックや提案を提供可である。

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(注1) 「責任ある企業行動」の国際的なスタンダードに「OECD多国籍企業行動指針」がある。人権問題に対処するための手法として提唱された「デュー・ディリジェンス(DD)」の対象を企業行動全般に拡大させたガイドラインである。

 2023年、OECD多国籍企業行動指針の改訂が検討されている。公表されている改訂案では、DD対象の拡大・明確化が提案されている。環境・科学技術等の分野で、求められるDDの量と質が底上げされ、DD義務化の潮流を加速させる可能性がある。

 欧州では、既に環境DDを義務化した国がある。AIガバナンスの法整備も進んでいる。ハードローのプレッシャーに接している欧米企業に比べ、日本企業のDD義務化への備えは遅れている。

 DDは「責任ある企業行動」を達成するための手段に過ぎない。その義務化の潮流を、受動的な「規制対応」と捉えるのではなく、能動的に「企業文化の改革を求める社会からの要請の高まり」と捉えることが重要だ。

(第一生命経済研究所「企業行動デュー・ディリジェンス拡大への対応~責任ある企業行動のための国際ガイドライン改訂案から読み解く~」から抜粋)

(注2)国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が作成した「人権デュー・ディリジェンス:解釈の手引き」およびビジネスと人権リソースセンター「ビジネスと人権リソースセンター「人権デューデリジェンスと影響評価」参照。

(注3)    連邦諮問委員会は、1972年成立の連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act - PL92-463)に基づき個別法、大統領、議会、機関が設置するものである。総合サービス庁(General Services Administration-GSA)は、他の連邦政府機関の行政サービス改善を目的とした連邦政府機関であるが、その業務の一つに連邦政府諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act-FACA)の管理運営責任がある。

 2019 年 6 月 14 日に、連邦諮問委員会の効用を評価及び改善する大統領令 13875 号(Evaluatingand Improving the Utility of Federal Advisory Committees)が発令された。連邦政府の各省庁に設置され、政策上の助言等を行う諮問委員会は、連邦諮問委員会法(Federal Advisory Committee Act,P.L.92-463: FACA)に基づき設置され活動しているが、その設置の必要性を評価し、不要な諮問委員会の廃止を求めるものである。(外国の立法 No.281-2(2019.11) 国立国会図書館 調査及び立法考査局「連邦諮問委員会の効用を評価・改善する大統領令」他から抜粋)

また、遠藤悟「政府諮問委員会の役割」が詳細に解説している。       

(注4) 「公正な移行(Just Transition)」とは、環境問題の解決や対策を実施するうえで、関係する産業分野に従事する労働者や、産業が立地する地域が取り残されることなく、公正かつ平等な方法により持続可能な社会へ移行することを目指す概念のことです。2015年に開催された気候変動枠組み条約の第21回締約国会議(COP21)で採択された「パリ協定」の前文では、「自国が定める開発の優先順位に基づく労働力の公正な移行並びに適切な労働(ディーセント・ ワーク)および質の高い雇用の創出が必要不可欠であることを考慮」すると言及されています。(朝日新聞デジタル版から抜粋)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その4完)

2024-03-16 07:37:48 | 国家の内部統制

3.議論すべき同裁判判決の法的問題

 ニューヨーク州司法長官の申し立ての闇の中心は、トランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびその他のさまざまな個人被告が、その組織のさまざまな不動産資産の評価額を水増ししたということである。 認められた巨額の不当利得の吐き出し額は主に、トランプ・オーガニゼーションがSFC資産の虚偽表示を通じて達成したとされる利息コストの削減約1億6,800万ドルで構成されており、残り(判決前の利息適用前)は主に「不正行為」に関連している。 トランプ氏らは特定の不動産資産(ワシントンの旧郵便局ビルを含む)の売却を通じて利益を得たことを実感した。

 エンゴロン判事は、同社のD&O保険と保証保険の更新が保険詐欺によって調達されたことを明示的に認定したが、保険取引に関連して授与された不当利得の吐き出し額の一部は存在しない。 エンゴロン判事の判決では、保険申請の虚偽表示により、トランプ・オーガニゼーションが保険を取得できたか、あるいは本来受け取れていたであろうより有利な条件で保険を取得できたことが、明示的ではなく暗黙的に示されている。

 エンゴロン判事の判決は、虚偽報道の疑いによって組織がどのような利益を得たかを、それほど多くの言葉で明確に述べていない。 確かに、保険に関する裁判所の認定は、間違いなく、彼のさまざまな差止命令による救済(例えば、役員の禁止を含む)の裁定を裏付けた。 しかし、この決定は、保険の不当表示の申し立てと差し止め命令による救済との間に直接の関連性を示していない。

 保険の世界を長年観察してきた著者(Kevin M. LaCroix)にとって、保険の調達に関連した重大な虚偽表示が、州の司法長官による訴訟での不正認定の根拠となっているということは、ある意味新鮮なことのように思える。 通常、申請の虚偽表示の申し立ては、誤解を招くとされる保険会社によって主張され、求められる救済は、誤解を招くように調達された保険契約の取り消しである。 確かに、申請の虚偽表示が保険契約取り消しの根拠となる可能性があるというだけで、その虚偽表示が詐欺容疑の根拠となる可能性を排除するものではない。 政策撤回の代替手段の方がより馴染みのあるアプローチであるというだけである。

 少なくとも、エンゴロン判事による公判証言の朗読によれば、トランプ・オーガニゼーションが保険会社の代表者に対する虚偽の説明によってD&O保険と保証保険を調達したという実質的な裁判証拠が存在したようだ。 しかし、ワイセルバーグ氏とマコニー氏が保険会社の代表者に対して積極的な虚偽の陳述を行ったという証言はあるものの、その証拠を拡張して、被告全員が保険詐欺を行う共謀に関与したというさらなる法的結論を導き出すことは、説得力に欠ける。

  さまざまな被告がトランプとトランプ・オーガニゼーションの財務状況を強迫的に虚偽報告する常習的かつカジュアルな方法は、保険詐欺の任務を含む一般的な陰謀を包含するのに十分広範であったと述べている。 確かに、ワイセルバーグ氏とマコニー氏のあからさまな保険詐欺行為は、他の被告の利益のために行われた。 同様に、他の被告に対する保険詐欺陰謀の判決も説得力に欠けるようだ。

 財務状況報告書が水増しされた資産評価を反映しており、さまざまな被告がSFCを利用してトランプ、トランプ・オーガナイゼーション、およびさまざまな関連団体にさまざまな利益を調達したことは、おそらく、実質的な公判証言やその他の証拠によって裏付けられている。 同様に、裁判所の不正行為の認定にも不可解な点がいくつかある。 例えば、被告らが繰り返し指摘したように、被告らがSFCを利用して調達したさまざまな信用枠やローンはすべて意図したとおりに機能した。 すべての債務は期限内に全額返済された。 信用枠と融資は、最終的にはドイツ銀行にとって利益となった。

 エンゴロン判事は意見書でこれらの事実を明示的に認めたが、次のようにも述べた。「適時に全額返済したからといって、虚偽の陳述が市場に与える損害は消えるわけではない…虚偽の陳述にもかかわらず、被告が行ったことは議論の余地がない。 必要なすべての支払いを期限内に行う。 次のグループの貸し手はそれほど幸運ではないかもしれない。」

 市場を保護することは訴訟を正当化するかもしれないが、それが巨額の賠償金を正当化するのだろうか? 巨額の賞金の計算方法には奇妙な点がある。 前で述べたように、賞金総額のうち約 1 億 6,800 万ドルは、トランプ オーガニゼーションが詐欺的な SFC を使用して確保したと想定される利息コストの削減に相当する。 事実上、裁判所は、トランプ・オーガニゼーションがドイツ銀行から1億6,800万ドルをだまし取ったと主張しているようだ。 しかし、ドイツ銀行が一瞬でも 1 億 6,800 万ドルを騙し取られたと考えたとしたら、銀行自体が独自の詐欺救済策を追求するのではないではないか?

 そしてドイツ銀行は結局、どの程度まで騙されたのだろうか? ドイツ銀行関係者らは公判で、富裕層から個人財務諸表を提示されると、銀行は日常的かつ当然のこととして50%のヘアカットを適用していると証言した。 同行自身のやり方は、トランプ氏のような富裕層が定期的に資産を膨らませているという認識を反映しているようだ。 50%のヘアカットを考えると、実際のところ同銀行は誤解さえあったのだろうか? あるいは、別の言い方をすれば、虚偽表示とされる内容を誰も信じず、詐欺の被害者とされる人が被害を受けたと信じていない場合、本当に詐欺はあり得たのであろうか?

 そうは言っても、エンゴロン判事の書面による決定書は、被告たちが定期的かつ日常的にトランプとトランプ・オーガナイゼーションの財務状況を虚偽報告していたという強い印象を与えている。 また、エンゴロン判事は、デゴルジュマン賞の巨額と差し止めによる救済の厳しさを説明する際、被告が誤りを認めようとしないことだけでなく(「悔悟と反省の完全な欠如は病的ともいえる」)、 また、トランプ・オーガニゼーションの広範な「企業不正行為」の歴史についても言及し、とりわけエンゴロン判事は、トランプ大学に対する詐欺容疑と和解について言及した。 トランプ財団に対する詐欺疑惑とその解散。 トランプ大統領の就任に関連してトランプ・オーガニゼーションが過剰な手数料を受け取ったという告発の和解。 そして、事業記録の改ざん疑惑を含む15件の税金詐欺の刑事訴追に対する同社CFO(ワイスルバーグ)の有罪答弁。 これらの考察に基づいて、エンゴロン判事は、「裁判所が大幅な差止め命令を認めない限り、被告は不正行為を続ける可能性が高いと判断した」と述べた。

 被告であるトランプ氏らは間違いなく控訴するだろうが、 控訴がどうなるかはまだ分からない。 控訴裁判所は、公判証言に基づいて、差し止めによる救済の一部または全部が正当であり、適切であると結論付ける可能性が十分にある。 その一方で、控訴裁判所が巨額の不当利得の吐き出し(disgorgement)についてどう判断するかは非常に興味深い。 当該の金額が訴えに耐えられるかどうかを見るのは興味深いことになるであろう。

 なお、エンゴロン判事の判決の保険的側面に注意を促し、判決のコピーを提供してくれた忠実な読者に特に感謝する。

(2)ニューヨーク州司法長官府の解説

 内容的に上記と重複するのでプレスリリース参照。

Ⅳ.ジョージア州府フルトン郡検事がジョージア州RICO(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)違反で起訴

裁判所

ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)(注16)

② 裁判官

Judge :Scott McAfee 氏

Scott McAfee 氏

③起訴者:Fulton County District Attorney Fani T.Willis:

 

 Fani T.Willis 氏

④裁判の概要や経緯につき2023.8.15 JURIST blogを以下、抜粋し、仮訳する。

 ジョージア州フルトン郡大陪審は 2023年8月14日の夜遅くに13件の刑事告訴に関する元米国大統領ドナルド・トランプ氏を起訴した。合計41訴因の起訴状は、トランプが、同じく起訴された他の18人の個人とともに、2020年米国大統領選挙においてジョージア州の選挙プロセス中に干渉するために共謀したと主張している。トランプ氏は第4番目の刑事告発中のおいても、2024年の大統領選挙に向けてキャンペーンを続けている。

 これらの容疑には、ジョージア州での ①「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)(注17)反1訴因、②公務員による宣誓違反)の教唆3訴因、③公務員になりすます陰謀1訴因、④陰謀のコミットにかかる2訴因、⑤ 第一級の文書偽造による陰謀のコミットにかかる2訴因、➅陰謀にコミットした2訴因、⑦実際に虚偽の陳述や書面を行った罪2訴因、⑧虚偽文書提出の陰謀1訴因、⑨虚偽の文書提出1訴因が含まれる。

 98ページにわたる起訴状には、トランプ氏と共同被告らが「(2020年11月3日の)選挙の結果を不法にトランプ氏に有利に変える」ために「関連する様々な犯罪行為に関与」した経緯を詳しく説明している。ジョージア州大統領選挙は接戦となったが、最終的に州内の有権者の過半数が現大統領ジョー・バイデンに投票した。

 起訴状では、被告らの犯罪行為は2020年大統領選挙でジョージア州の選挙人が投票してから約2年後の2022年9月15日まで続いたと主張している。 大陪審はまた、アリゾナ、ミシガン、ネバダ、ニューメキシコ、ペンシルベニア、ウィスコンシンなどの州でも同様の取り組みへの言及があり、ジョージア州以外でも選挙干渉の取り組みの証拠を審問するようである。

 起訴状には、最初の訴因であるRICO法違反だけでも161件の犯罪行為が挙げられている。 起訴状によると、選挙当局が2020年大統領選挙の結果をバイデン有利と認定するのを阻止するために、トランプ氏と共同被告らはジョージア州議会議員、ジョージア州知事ブライアン・ケンプ(Brian Kemp)(共和党:60歳)、ジョージア州務長官ブラッド・ラフェンスペルガー(Brad Raffensperger)(共和党:68歳)に対して影響力を行使しようとしたという。 ブラッド・ラフェンスペルガーは、トランプ前大統領が州選挙当局に対し、同州でのバイデン氏の選挙におけるリードを逆転するのに十分な票を獲得できるよう要求した悪名高い電話( NBC newsのyoutube音声)の受け手であった。

Brian Kemp 氏

Brad Raffensperger 氏

 また、起訴状は被告がジョージア州の選挙運動員に嫌がらせをし、大統領(副大統領)選挙人(有権者)の偽の酷評(slate)を作成して普及させ、州から選挙データを盗んだと主張している, そして起訴につながったまさにその調査を妨害したとある。

 起訴状の公表後、フルトン郡地方検事ファニ・ウィリス(Fani Willis)は記者団に記者会見を行い、そこで彼女は以下のとおり語った。

 「ここにいる皆さんに思い出していただきたいのは、起訴とは、告訴を裏付ける相当の理由(probable cause)(注18)についての大陪審の決定に基づいた一連の告発にすぎないということである。 現在、公判において合理的な疑いを超えて、起訴状におけるこれらの罪状を証明することが私の検事局の義務である」

 起訴に応じて、トランプの大統領選挙キャンペーンは 起訴ステートメント。その中で、彼らはウィリス氏の調査は党派的であると主張し、それが2024年の大統領選挙におけるトランプの選挙入札に干渉する可能性があることを示唆した。起訴ステートメントは次のとおりである。

 「トランプ大統領に対する法的二重基準セットは終了しなければならない。… これらの活動は...アメリカの民主主義に対する重大な脅威を構成し、大統領に投票する正当な選択からアメリカ国民を奪おうとする直接の試みである。それを選挙の干渉または選挙の操作と呼ぶ—それは人々の選択を抑制するための支配階級による危険な努力である。それは反アメリカ人の行動ありで間違っています。

 また大陪審は、トランプの18人の共同被告の起訴を支持するのに十分な証拠を見出した。元トランプの弁護士であるルディ・ジュリアーニ氏やジョン・イーストマン氏などの一部の個人は、他の人物で頻繁に発生した名前である 係争中の訴訟 そして 周囲の放射性降下物 2020年の大統領選挙から。その他は、ジョージア州の選挙干渉のこれらの主張に固有である。さらに、起訴状には、起訴状の発行を担当する大陪審に知られていない30人の起訴されていない共謀者およびその他の個人の追加のキャッシュへの参照がある。

 8月14日の起訴で起訴された19人の個人はすべて、同日の午後12時(EST)まで、逮捕の令状に従って自発的にフルトン郡の役人に引き渡さなければならない。

【補足】Open Caucasus Media 記事「 ジョージア州民・ドリーム、トランプ大統領の選挙法拒否権を「不正に」覆すよう起訴」から抜粋、仮訳する。

 米国のジョージア州が再び大統領選挙を巡る政治的激動の中心にある。

 ファニ・ウィリス(Fani T. Willis)検察官は2023年7月、ドナルド・トランプ氏に対する数年にわたる捜査の一環として、大陪審に証拠を提示する予定だ。

 差し迫った起訴の最も明らかな兆候として、ウィリス氏は2023年8月14日と8月15日の陪審審理で証言するよう証人を呼んでおり、大陪審は同週起訴状を採決する可能性がある。

 ウィリス氏は同州での2020年大統領選挙の結果を覆そうとしたとされるトランプ氏の試みに焦点を当ててきた。

 陪審結果の発表の可能性を前に、司法当局はすでにアトランタのフルトン郡裁判所の外にバリケードを築いている。

 トランプ氏は不正行為を否定し、捜査は政治的動機に基づくものだと攻撃した。 同氏は依然として2024年の大統領選の共和党指名獲得の最有力候補である。

 本記事は2023年8月14日の週に何が起こるかについてのガイドである。

1.トランプ大統領はジョージア州でどのような罪に問われる可能性があるか?

 元連邦検事のニーマ・ラフマニ(Neama Rahmani)氏は、トランプ氏は不正投票や選挙不正など、詐欺や陰謀関連の罪に問われる可能性ならびに司法妨害の可能性もあると指摘している。

Neama Rahmani 氏

 ジョージア州の法律専門家も、ウィリス氏が前大統領をRICO法により恐喝容疑で告発すると予想している。この法律は組織犯罪に適用されることで有名である。しかし、ウィリス氏は、他の広大な事件でもそれを使用しているという評判を築いている。

 トランプのホワイトハウス時代の首席補佐官マーク・メドウズ(Mark Meadows)氏、弁護士ルディ・ジュリアーニ–(Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III)氏は、主張されているように、カリフォルニアの弁護士と政治家は、起訴された人々の中におり、すべてが不正行為を否定している。

Mark Meadows 氏

Rudolph William Louis "Rudy" Giuliani III 氏

 RICO法としても知られる同州の「恐喝・腐敗組織取締法」は、検察官が共通の目的や目的によって結びついたさまざまな犯罪を告発することを認めている。 また、首謀者と疑われる人物を指摘することも可能になる。

 エモリー大学の法学教授モーガン・クラウド(Morgan Cloud:Charles Howard Candler Professor of Law Emer)氏)(注19)は、「恐喝とは、州法か連邦法、あるいはその両方で違法とされている特定の行為を行うことと定義される。一つの犯罪だけでなく、相互に関連した一連の犯罪を行うことだ」と述べた。

 この場合、裁判の具体的な共通の目的はジョージア州の選挙結果を覆すことであるとクラウド氏は述べた。

2.ドナルド・トランプ裁判の法的問題はどれくらい大きいのか?

 米国の大陪審とは何か?トランプ氏がこの件で起訴されるのは初めてではない。

 2週間前、連邦司法省は複数のレベルでの大統領選挙干渉でトランプ氏等を起訴し、起訴状ではジョージア州での同氏の行為に多くの時間を割いた。

3.トランプ氏が起訴されたらどうなるのか?

 大陪審がトランプ氏の起訴を可決した場合、同氏は罪状認否手続きのため数日以内にフルトン郡裁判所に出廷する可能性がある。

 ある意味で、このプロセスは日常的なものとなっており、これは2020年の選挙介入、不正な口止め料の支払い疑惑、フロリダ州の政府機密ファイルの保管をめぐる連邦告発に加えて、トランプ氏にとって4度目の刑事告発となる。

 しかし、ジョージア州アトランタでの起訴はいくつかの重要な点で目立つ可能性がある。

 過去3回の起訴では、連邦裁判所の規定によりテレビカメラの使用が禁止されたが、マンハッタンの法廷ではフォトジャーナリストの入場が一時的に許可された。

 ただし、この件は地方裁判所の規則によりテレビで放送される可能性がある。 NBCニュースの報道によると、最終決定権は裁判長にあるが、申請は認められることが多いという。

1)トランプ氏が勝つのが最も難しいと思われる刑事事件はいずれか?

 3 つの全く異なるトランプ裁判について法廷研究者が語る。

 元連邦検察官のパトリック・コッター氏は、この呼び出しはおそらく今後のトランプ氏らの起訴の「最高の宝石」になるだろうと述べた。

 この被告らの電話による会話のニュースを受けて、ウィリス氏は2021年2月に捜査を開始した。

 起訴状によると、トランプ氏は司法長官やブライアン・ケンプ州知事など、州内の他の共和党幹部らにも支援を求めたというが、彼らはその事実を拒否した。

2)議員へのプレゼンテーション

 トランプ氏の仲間、特に弁護士のルディ・ジュリアーニ氏も、ジョージア州で不正投票やその他の陰謀論について虚偽の主張を広めた。

 連邦政府の起訴状によると、これにはジュリアーニ氏がジョージア州議員らに行ったプレゼンテーションにも含まれており、その中で彼は根拠のない主張を数多く行った。

 これらには、何千人もの死者が州内で投票したという主張が含まれていた。 ジョージア州の世論調査員が投票に干渉し、議員が同州の正当な選挙人団の結果を認定を取り消す権限を持っていたことを主張した。 トランプ氏はソーシャルメディア上でこうした主張を拡大した。

 さらにジュュリアーニ氏は、フルトン郡の捜査の対象であることも明らかにした。

3) 偽の選挙人団計画

 また前大統領の同盟者らは、選挙人団(技術的に米国大統領を選出するシステム)の偽選挙人に、ジョージア州で同州で勝利し支持を得たバイデン氏ではなく、トランプ氏に投票させる計画を調整したとされる。 その選挙人団の投票計画は失敗した。

 連邦特別検事のジャック・スミス氏とジョージア州検察官のファニ・ウィリス氏はともに捜査において偽の選挙計画に焦点を当ててきた。

4) 選挙データの違法侵害

 最後に、トランプ陣営の弁護士がデータ会社と協力して、ジョージア州コーヒー郡の選挙システムから機密データをコピーしたと伝えられている。

 ワシントン・ポスト紙の調査によると、この事件はトランプ氏の弁護士らによる複数の州で投票機器にアクセスしようとする試みの一環だった。 ウィリス氏はこの事件に注目していると言われている。

5)元大統領はすべての不正行為を否定した。

 同氏の弁護士らはおそらく、同氏がジョージア州当局に投票の改ざんを明示的に依頼したことはないと主張するだろう。

 同氏は2020年4月、ラフェンスペルガー氏との電話会談は「まったく完璧」であり、電話に応じた弁護士の誰も不適切な指摘をしなかったと述べた。

 「何も間違ったことは言われなかった。実際、電話の終わりに、特にジョージア州における選挙不正について話し合いを続けることで合意したのみである」

米国大統領選挙の本来の争点とは?社会保障費に注目?(2024.3.17補筆分)

  米国の社会保障支援事業団体である“Social Security Works”と連邦社会保障庁(Social Security Administration)(注20)の説明等から引用、仮訳する。

1.社会保障予算を巡る民主党・共和党の対立

 米国社会保障団体であるSical Security  Works (注21)の予算案関係サイトから抜粋、仮訳する。

 3月11日、ドナルド・トランプ元大統領が社会保障の削減を呼びかける一方、ジョー・バイデン大統領は社会保障の保護と拡大を求める2025年度予算案を発表した。

 以下は、ソーシャル・セキュリティ・ワークスの理事長、ナンシー・アルトマン(Nancy Altman)氏の声明である。

Nancy Altman 氏

 3月11日朝、ドナルド・トランプはテレビに出演し、メディケアとメディケイドとともに社会保障の削減を要求した。これは、大統領候補としてあらゆる予算の削減を提案し、社会保障専用の資金を永久に廃止しようとしたトランプ大統領の記録と一致している。 さらに、社会保障の民営化と退職年齢の引き上げを求めるトランプ氏の過去の主張や、それを「ねずみ講」と中傷したことと一致している。

 これは、密室での社会保障とメディケアを削減することを目的とした委員会の創設を提案している下院共和党の2025年度予算案とも一致している。

 ジョー・バイデン大統領は本日、社会保障の将来について全く異なるビジョンを掲げた2025会計年度予算案を発表した。 バイデンの予算案では、社会保障の保護と拡充が求められており、億万長者や億万長者に応分の拠出を義務付けることでその費用を支払うことが求められている。

(2) 1月18日、下院予算委員会(House Budget Committee : Chairman Jodey C.Arrington (テキサス州選出・共和党)は、いわゆる 「2023年財政委員会法(Fiscal Commission Act of 2023)」を進めることを投票した。出席したすべての共和党員委員が賛成に投票した。

Jodey C.Arrington 氏

 *ビデオ: 公聴会中に、Social Security Worksのアレックスローソン事務局長は、委員会に反対する50万件を超える請願書を提出した。ジョディ・C・アーリントン委員長は、ローソン氏を逮捕することで対応した。

 「共和党は、社会保障とメディケアを削減するために設計された非公開の委員会を進めている。共和党員の多くはそれが彼らの目標ではないと主張しようとしたが、彼らは民主党の修正案を投票してそれらのプログラムの削減を除外し、代わりに億万長者に公平な分配を支払うことを要求した。

 委員会の民主党の大多数は委員会に合法的に反対した。ただし、少数の例外に民主党委員3人Scott Peters(D-CA)、Jimmy Panetta(D-CA)、Earl Blumenauer(D-OR)は賛成した(彼らはアメリカ人を後ろから突き刺し、ジョー・バイデン大統領を弱体化させた)。

 3月7日、ジョディ・アリントン委員長が仕切る下院予算委員会は、下院共和党の「2025会計年度予算決議案(House Republican FY2025 budget resolution)」の審議を行った。 予算決議案は出席した共和党員全員の支持を得て委員会外で報告されたが、民主党員全員が反対票を投じた。

以下は、ナンシー・アルトマン氏の声明である。

 「この予算にはいわゆる『財政委員会』が含まれており、ホワイトハウスはこれを正確には社会保障とメディケアのための委員会と呼んでいる。 この委員会は、共和党が政治的責任を回避できるようにすることを目的とした、迅速かつ非公開のプロセスを通じて、重要な獲得利益を削減することを目的としている。この予算案に賛成票を投じた共和党議員全員が社会保障とメディケアの削減に投票した。法案上程の際、民主党は社会保障とメディケアを保護するための多数の修正案を提案したが、共和党はそれらすべてを否決した。」

2. 大統領選挙で大きな争点となると考える米国の公的扶助制度

 わが国と大きく制度が異なるので補足する。厚生労働省の解説[2014 年の海外情勢]第2節 アメリカ合衆国(United States of America)社会保障施策から以下、抜粋(P.7以下)する。なお、SSIについては、野田 博也「アメリカの補足的保障所得(SSI)の展開― 就労自活が困難な人々に対する扶助の在り方をめぐって ―」を参照されたい。

(1)米国の公的扶助制度

 日本の生活保護制度のような、連邦政府による包括的な公的扶助制度はない。高齢者、障害者、児童など対象者の属性に応じて各制度が分立している。また、州政府独自の制度も存在している。

  主 要 な 制 度 は、 貧 困 家 庭 一 時 扶 助(Temporary Assistance for Needy Families:TANF)、補足的所得 保 障(Supplement Security Income:SSI)、 メディケイド、補足的栄養支援(Supplemental Nutrition

Assistance Program: SNAP(2008年10月より 食料スタンプ(Food Stamp)から名称変更))、一般扶助(General Assistance:GA)の5つである。

(2)特に筆者は補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)に注目し、SSAの2025年予算案に関する部分を仮訳する。

 連邦社会保障庁(SSA)では、2025バイデン・ハリス大統領予算案は次のことを行う。

(A)アメリカ人が自ら稼いだ社会保障給付を保護する。主管庁(SSA)は社会保障の保護と強化に力を注いでおり、社会保障給付を削減しようとするあらゆる試みや社会保障を民営化する提案に反対している。

①社会保障の保護は、最高所得のアメリカ人に公平な負担を払うように求めることから始めるべきであると信じている。

②高齢者や障害を持つ人々、特に目的を達成するための最大の課題に直面している人々のために、社会保障給付とSSI給付を改善する取り組みを支援し、サービス提供を改善する。

③ SSAは、600万人を超える退職者、生存者、およびメディケア請求者のサービス提供を改善することを約束し, また、毎年200万人を超える個人が障害と補足的所得保障(SSI) (注22)を申請している。

④予算では、SSAの現地事務所、州の障害決定サービスでの退職者、障害のある個人、およびその家族のためのテレサービスセンターでのカスタマーサービスを改善するために、154億ドル(約2兆2,946億円)の裁量予算権限—  13億ドル(約1937億円)または9%の増加を2023年の制定レベル—に要求し、また,予算は、待ち時間を短縮することにより、SSAのサービスへのアクセスを改善する。

(B)事前資本とアクセシビリティの改善。

 この予算により、社会保障プログラムの厳格な管理と監視を維持しながら、対象となるすべての個人にアクセス可能な社会保障サービスを提供できる。SSAプログラムは、サービスが行き届いていないコミュニティや、サービスへのアクセスの障壁に直面している人々(低所得、限られた英語能力、精神的および知的障害を持つ個人、ホームレスに直面している人々など)に到達する必要がある。

 また予算案は、SSI申請プロセスを簡素化および更新し、特にサービスが行き届いていないコミュニティのためのアウトリーチ活動を通じてSSAプログラムおよびサービスへのアクセスを拡大するためのSSAの取り組みをサポートする。さらにITシステムを改善して、顧客により一貫性があり、公平で、アクセス可能な体験等を提供する。

 さらに従業員の面倒な手動プロセスを削減させる、すなわち National 800番号のセルフサービスオプションを増やし(注23); サイバー・セキュリティ・プログラムを拡張する。さらに、予算案は不適切な支払いの防止と解決を優先させる。

(C)全米規模で包括的な有給家族および医療休暇を提供

①アメリカの労働者の大多数は、民間部門の労働者の73%を含む、雇用主が提供する有給の家族休暇を利用できていない。不釣り合いに女性と有色労働者である最低賃金の労働者のうち、94%は雇用主を通じて有給の家族休暇を利用できない。

 さらに、5人に1人の退職者が退職計画よりも早く退職し、国家の労働供給と生産性に悪影響するだけでなく、病気の家族の世話させるなど家族に悪影響を与える。

②予算案は、SSAが管理する全国的な包括的な有給家族および医療休暇プログラムを確立することを提案している。プログラムは次のことを行う。

1)家族や医療上の理由で休暇を取るために、労働者に進歩的で部分的な賃金交換を提供する。堅牢 な管理資金を含めるため、包括的な家族の定義を使用させる。

2)予算案は、適格な労働者が休暇を取ることができるように、最大12週間の休暇を提供する。重病の愛する人の世話; 彼ら自身の深刻な病気から癒させるとともに、愛する人の軍事展開から生じる状況に対処する。

3)家庭内暴力、性的暴行、またはストーカー行為からの安全を見つける—それ以外の場合は“安全休暇”として知られている。

4)予算案は、愛する人の死を悲しむために最大3日間を提供する。

 3.2025年予算案のファクトシートのポイント

 バイデン氏の予算案はSSAのスタッフ、情報技術、その他の改善にも資金を提供し、同局の資金を2023年に制定された水準から9%増加させると述べている。

 また社会保障庁長官のマーティン・J・オマリー(Martin J.O’Malley)氏(民主党)は3月11日、声明で「政権は高齢者や障害者、特に家計のやりくりに大きな困難に直面している人たちに対する社会保障給付やSSI給付金を改善する取り組みを支援する」と述べた。一方、トランプ大統領「予算削減に関してはできることはたくさんある」と述べた。

Martin J.O’Malley氏

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(注16) ジョージア州フルトン郡上位裁判所(Superior Court of Fulton County)

(注17) Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Actにつき  Poole Huffman 弁護士事務所の解説から抜粋、仮訳する。

 ジョージア州(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations (RICO) Act)法は、州の恐喝者および腐敗組織取締法を作成する際、州議会は連邦の RICO 法をモデルとして使用した。 ただし、ジョージア州 RICO 法 (OCGA 16-14-4) にはいくつかの相違点があり、連邦法に比べてはるかに広範である。

  最も重要な 2 つの違いは、連邦 RICO 法では継続性と企業の証明が必要であることです。 対照的に、ジョージア州 RICO 法は、短期間しか活動していない個人や計画を訴追するために使用できる。

 民事訴訟において、RICO法 は被害を受けた企業や個人が損害を回復するために使用できるツールである。 すなわち、RICO 請求を提起する場合、当事者は私設司法長官または公益弁護士(private attorneys general)になる。 彼らは3倍(原告の損害賠償額の3倍)を回収でき、場合によっては弁護士費用も回収できる。

 残念なことに、RICO 法は訴訟で乱用されており、単純な契約事項違反がしばしば持ち込まれています。 本質的に被告は犯罪行為で告発されているため、これらの問題を弁護することは困難であり、賭け金も高くなる。

 通常、ジョージア州 RICO 法に基づいて起訴される犯罪の種類は、数千件の取引または複数の被害者が関与する複雑な犯罪計画です。 ジョージア州RICOに基づいて起訴されるためには、その基礎となる犯罪が恐喝行為である必要があります。 恐喝行為として認定される犯罪類型は、OCGA 16-14-3 にリストされている。

 RICO法 は当初は組織犯罪と闘うためのツールとしてスタートしたが、今日の検察は従業員の横領事件、ポンジスキーム(ねずみ講詐欺)、クレジットスキーム(credit schemes)、複雑な投資スキーム、または総額 10 万ドルを超える一連の窃盗事件を起訴するために RICO を使用している。 この法律は、商業賭博事件、鎮痛剤(オピオイド)クリニック(または丸薬製造所)(pain management (opioid) clinics (or pill mills)、公務員の訴追にもよく使用されている。

 RICO 法は OCGA 16-14-4で成文化されている。 RICO 犯罪には最高 20 年の拘禁刑と、25,000 ドルまたは金銭的不当利得の 3 倍のいずれか大きい方の罰金が科せられる。両罰の併科もある。

(注18) 推定原因(probable cause)は、警察が逮捕、捜索を行う、または令状を受け取る前に通常満たされる必要がある憲法修正第 4 条にある要件である。 裁判所は通常、犯罪が行われたと信じる合理的な根拠がある場合(逮捕の場合)、または捜索する場所に犯罪の証拠が存在する場合(捜索の場合)に相当原因を認定する。緊急の状況では、推定の原因によって令状のない捜索や押収が正当化される場合もある。令状なしで逮捕された者は、推定原因の迅速な司法判断のため、逮捕直後に管轄当局に連行されることが義務付けられている。

(コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳

 合衆国憲法修正第4条(仮訳)は、「不合理な捜索および押収に対し、身体、家屋、書類および所有物の安全を保障されるという人民の権利は、これを侵してはならない。令状は、宣誓または確約によって裏付けられた推定原因(probable cause)に基づいてのみ発行され、かつ捜索すべき場所、および逮捕すべき人、または押収すべき物件を特定して示したものでなければならない。」 本条は直接には捜索・押収(Search and Seizure)についての規定であるが、ここにいう押収には、「人の押収」すなわち逮捕(Arrest)が含まれるとするのが米国における判例・通説である」(Weblio 辞書から抜粋)

Amendment IV

The right of the people to be secure in their persons, houses, papers, and effects, against unreasonable searches and seizures, shall not be violated, and no warrants shall issue, but upon probable cause, supported by oath or affirmation, and particularly describing the place to be searched, and the persons or things to be seized.

(注19)クラウド教授のサイトでは、ファニ・ウィリス検事のトランプ氏等の起訴にかかる各種報告等をリンクさせている。

(以下は、2024.3.17補筆分)

(注20)  社会保障庁(Social Security Administration:SSA)は、アメリカ合衆国連邦政府の独立機関の1つ。社会保障(ソーシャルセキュリティ)および社会保険プログラム(年金・障害者保険・公的扶助)を扱う。これらの福祉を支えるため、アメリカの労働者のほとんどが所得から社会保障税を支払っている。(Wikipedia から抜粋)

(注21) Social Security Works(社会保障事業団)のHPから仮訳する。

 社会保障事業の任務・使命は、以下のとおり。

①恵まれない人々やリスクにさらされている人々の経済的安全を保護し、改善する。

②現在または将来、社会保障に依存している人々の経済的安全を守る。

③社会正義の手段として社会保障を維持する。

 社会保障事業団の資金は、一般からの寄付と、オープン ソサエティー財団、退職研究財団、CREDO、市民参加活動基金などの財団からの助成金によって賄われている。 社会保障事業団 は、Atlantic Philanthropies からの寛大な助成金を受けて設立された。

(注22) 補足的所得保障(Supplement Security Income:SSI)は、連邦政府による低所得者に対する現金給付制度であり、65歳以上の高齢者又は障害者のうち資産及び所得に関する受給資格要件を満たす者が対象となる。新規無資産受給者に対する連邦の所得保障の給付上限月額は、710ドル(2013年)である。なお、他からの収入がある場合やOASDIなど他から給付所得がある場合には、補足的所得保障の給付額は減額される。また、多くの州において連邦所得保障に州独自の上乗せ支給を行っている。2013年12月現在のSSIの受給者は約840万人であり、約54億ドルが給付されている。

(注23) SSA現地事務所とNational 800 番に関する社会保障計画に関する解説仮訳する。

 月曜日が来ると、社会保障庁の現地事務所ほど忙しい場所はない。 多くの人が週末後にやって来て、給付金について問い合わせたり、新しい社会保障カードを申請したり、保険請求に関して社会保障に必要な情報を提供したりする。 現場事務所でのサービスの待ち時間は非常に長い場合がある。

 社会保障のNational 800番 から情報を入手しようとすることは、多くの人が実際の人と話すまでに電話で 1 時間以上待つのと同じくらい難しいことである。 現地事務所やNationall800番への電話での待ち時間に応えて、社会保障庁は、2019年度予算で提供される以下の情報により、これらの問題を是正するという目標を発表した。(以下、略す)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その3)

2024-03-15 19:10:38 | 国家の内部統制

⑨今後の裁判予定

 2024.2.26 The Hill記事「トランプ前大統領はストーミー・ダニエルズ、マイケル・コーエンがニューヨークの静けさのお金刑事裁判で証言することをブロックしようとしている」仮訳する。

 2024年2月26日の元トランプ大統領の口止め料審理(hush-money trial)でトンプ氏の弁護士は、ニューヨークの連邦裁判所の裁判官がトランプの最初の刑事裁判で証言することから主要な目撃者をブロックすることを要求した。

 トランプ氏の弁護士であるトッド・ブランシュ(Todd Blanche)氏は、トランプの元フィクサーであるマイケル・コーエン(Michael Cohen)とポルノ女優 ストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels) 元プレイボーイモデルのカレン・マクドゥガル(Karen McDougal)につき、トランプとの申し立てについて口止め料に支払った2人の女性からの証言を阻止するために移動した。

 トランプ氏のコーエン氏への賠償金の支払いは、マンハッタン地方検事アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)(民主党)によるトランプ氏の刑事訴追の推進策でもある。ブラッグ氏は同事件を否認し、業務記録文書偽造の34件の容疑でコーエン氏や他の証人につき無罪を主張した。

 トランプ側の47頁にわたる動議(motion)は、証人の信頼性を徹底的に攻撃し、コーエン氏を「嘘つき」と非難し、ダニエルズが「虚偽」で「卑劣な」証言をするだろうと示唆している。

 またトランプ氏の弁護士らは、検察が口止め料の支払いを、2016年の大統領選挙前にトランプ氏に関する否定的な情報を隠蔽するための「捕まえて殺す」計画であると述べたことにも焦点を当てた。

  2月26日の検査官へのmotionの提出は、トランプ氏が裁判で特定の証言を導入することを阻止するため行われた。これには、トランプ氏が選択的に起訴されている主張や、コーエンの信頼性に疑問を投げかける司法省の提出書類が含まれていた。

 弁護人は、トランプ氏の民事詐欺裁判で、1月に終了したコーエン氏の証言内容を指摘し、コーエンは詐欺裁判で、彼とワイセルバーグ“リバースエンジニアリング”元大統領が好む数に到達するためのトランプの資産であると証言しましたが、反対尋問では、彼の発言を取り上げた。

 すなわち、「マイケル・コーエン 嘘つきである」トランプの弁護士が書いた。「彼は最近、トランプ大統領を含む民事裁判で、証言台と宣誓の下で偽証を犯した。彼の公式声明が何らかの兆候である場合、彼はこの刑事裁判で再びそうすることを計画している。裁判所は、この裁判所の完全性と正義のプロセスを保護するために、コーエンの証言を排除する必要がある」と述べた。

 トランプ氏の口止め料審理(hush-money trial)裁判は、3月25日にニューヨークで開始される予定である。これは、彼が直面する最初の刑事裁判—であり、元大統領がこれまでに直面したことのないものである。

 ブラッグ氏は2023年春、当時トランプ氏のフィクサーだったマイケル・コーエン氏への支払いに関連し、業務記録を改ざんした34件の罪でトランプ氏を起訴した。 コーエン氏は複数の女性に対し、トランプ氏との不倫疑惑について沈黙を守るよう報酬を与えていた。

 トランプ氏はこの事実を否定し、無罪を主張した。

 起訴直後、トランプ氏には秘密保持命令(protective order)が出され、証拠開示によって受け取った資料を公に開示することが禁止された。

 しかし、トランプ元大統領の証人らの言論制限要求は、トランプ氏が2024年3月25日に裁判に臨む数週間前に大きなエスカレーションを示している。

 トランプ氏は他の2件の事件でも自身に課されたgag orderを攻撃している。 同氏の弁護士らは法廷で、これらの制限はトランプ氏の核心的な政治的演説を抑圧し、大統領候補としての地位を強調するものだと説明し、依頼者の合衆国憲法修正第1条の権利を侵害していると主張した。

 NY裁判の陪審の選考は2024年3月25日に行われる予定。

 「そのような保護の必要性は切実である」と検察側は申し立ての中で書いている。 「被告には、陪審員、証人、弁護士、裁判所職員など、被告に対するさまざまな裁判の参加者について、公の場で扇動的な発言をしてきた長い歴史がある。これらの発言は、被告の追随者や同盟者から誘発される避けられない反応と同様に、この刑事訴訟の秩序ある運営に重大かつ差し迫った脅威をもたらし、重大な偏見を引き起こす可能性がかなり高い」と付け加えた。 gag orderは事件を監督するフアン・メルチャン判事の承認が必要となる。

-2. ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所の民事裁判

 ドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細とりわけD&O 保険および保証保険の調達詐欺裁判について、筆者の手元に弁護士Kevin M. LaCroix氏のブログ「The Insurance Part of the Massive Trump Civil Fraud Verdict」が届いた。

 その内容は、2月6日のニューヨ―ク州最高裁判所(注14-2)のドナルド・トランプ前大統領の民事詐欺裁判判決の詳細内容と、有罪判断の根拠である不正行為の疑いのある行為の中で、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことの注目した点である。

 わが国メデイアでは詳しい判決内容は言及されていないことから(1) Kevin M. LaCroix氏のブログを仮訳、(2)は司法長官府の解説を引用する。

(1) Kevin M. LaCroix氏のブログの仮訳

 本ブログの読者は間違いなく、2024年2月16日、ドナルド・トランプ氏に対するニューヨーク民事詐欺裁判を主宰する判事、トランプ・オーガニゼーション(The Trump Organization)およびその関連団体、そしてさまざまなオーガニゼーションの幹部(トランプの息子2人を含む)が、被告に対して次のような裁判後の評決を下したことを知っているであろう。

 最終判決前の利息(pre-judgment interest )(注15)と合わせると、その価値は4億5,000万ドル(約670億5,000万円)を超える。 裁定の際、判事はトランプ氏と他の被告が銀行、保険会社、公務員に対し組織とトランプ氏の財務状況を不正に虚偽報告したと結論づけた。

 本ブログの読者にとって興味深いのは、不正行為の疑いのある行為の中に、不実表示の疑いによる D&O 保険および保証保険の調達があったことである。

 以下で説明するように、裁判所の判決の保険に関する部分には興味深い点がいくつかある。 2024 年 2 月 16 日のニューヨーク州 (ニューヨーク郡) 最高裁判所判事アーサー F. エンゴロン判事による判決および命令のコピーは、ここでご覧いただける。

1.事件の背景

  ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームス(Letitia James)は、2022年9月21日にドナルド・トランプ氏と他の被告に対して初めて民事訴訟を起こした。訴状では、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法な金融活動の疑いを含む7つの訴訟原因が主張されていた。) (1)業務記録の意図的な改ざん(intentional falsification of business records)、(2) 業務記録を改ざんに関する共謀(conspiracy to falsify business records)、 (3)虚偽の財務諸表の提出に関する共謀(conspiracy to submit false financial statements.)。

 訴状の第6訴因は、被告のアレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏とジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏(それぞれトランプ・オーガニゼーションのCFOと管理者(controller))が、ニューヨーク州司法長官法執行法第63条第12項ニューヨーク刑法第176.05条に違反して保険詐欺を犯したと主張した。 第 7 訴因では、被告全員に対する保険詐欺の共謀を主張した。

Allen Weisselberg氏(76歳) (左)

Jeffrey McConney 氏(69歳)

 保険詐欺疑惑は、トランプ・オーガニゼーションによる2017年1月のD&O保険の買収(ちょうどトランプが大統領に就任しようとしていた頃)と、2017年から2020年の期間中の保証保険の買収に関連していた。

 2023年9月26日、アーサー・エンゲロン(Arthur F. Engoron)判事は、訴状の最初の訴因(つまり、被告がニューヨーク州司法長官法執行法第63条(12)に違反する詐欺的または違法行為に従事したと主張する最初の訴因)に対する略式判決を求める司法長官の申し立てを認め、他の6件の訴因については2023年10月2日から裁判が始まった。

Arthur F. Engoron 氏

 エンゲロン判事が最近の判決で述べたように、司法長官は公平な救済(不当利得の吐き出し(disgorgement)  :差止命令(injunction)の付随的命令による救済の形で)のみを求めていたため、被告には陪審裁判を受ける権利がないと裁判所は述べた。 この事件はエンゲロン判事によって審理された。 法廷は最終的に43日間の公判で40人の証人の証言を聞いた。 裁判は2023年12月13日に結審し、裁判所は2024年1月11日に最終弁論を行った。

2.エンゴロン判決の概要

 エンゴロン判事の判決に要約されているように、公判証言の多くはトランプ大統領の財務状況報告書(SFC)の財務情報に関連していた。 ニューヨーク州の司法長官は基本的に、被告らはトランプ・オーガニゼーションのさまざまな不動産資産の高騰評価を反映してSFCを利用して、有利な金利での不動産ローンやその他の利益を得るため利用したと主張した。

 エンゴロン判事が要約した裁判証言の多くは、不動産資産の評価の問題に関連していた。 裁判証言の朗読は興味深い読み物となる。 多くの例の中で、さまざまな裁判証言によると、ブライアクリフ・ゴルフ・クラブの潜在的な付属ユニット71戸の評価額は4,350万ドル(約64億8,150万円)から4,500万ドル(約67億500万円)の範囲であったが、その資産は2016年、2017年、2018年のSFCに1億100万ドル(約150億4,900万円)強で引き継がれていたことが示されている。 トランプ ナショナル ゴルフ クラブ LA の評価額は 1 億 700 万ドル(約159億4,300万円)でしたが、2015 年の SFC では資産が 1 億 4,000 万ドル(約208億6,000万円)と評価された。 セブン・スプリングスの特定の建設用地の潜在的な建設地役権は、総合的に550万ドル(8億1,950万円)と評価されたが、2014年のSFCのバックアップデータでは、資産は「驚異的な」1億6,100万ドル(約239億8,900万円)とされていた。

 トランプの不動産資産に関する誇張の中には、本当に情けないものもあった。 トランプ氏はトランプタワーにある高級アパートの広さを水増ししたようだ。 2015年と2016年の財務諸表で、トランプ氏は自身のトリプレックス・アパートの広さは3万平方フィートを超え、評価額は3億2,700万ドル(約487億2,300万円)だと主張した。 アパートの実際の広さは10,996平方フィートであった。 トランプ大統領またはトランプ・オーガニゼーションがトランプ大統領の特定のオフィスビルの階数を誇張したとする裁判証言もあった。 例えば、トランプ大統領は、マンハッタンにある58階建てのトランプタワーは68階建てであると主張したと伝えられている。 判決の裁判概要には、他にも多数の同様の例が挙げられている。

 SFC で使用される資産評価が重要だったのは、SFC が、ドイツ銀行やその他の貸し手がトランプ・オーガナイゼーションへの信用供与と不動産融資を行うことに合意し、より有利な条件でそうすることに同意したための基礎だったためであり、信用と融資は延長された トランプ氏の個人保証に基づいてより有利な金利での支払いであったが、SFCに基づいて十分であると受け入れられた。 裁判所は最終的に、トランプ・オーガニゼーションがこの方法で確保した金利コストの削減は相当なものであったと結論付けた。 実際、エンゴロン判事が認めた巨額の金額のかなりの部分は、この方法で同社が確保した想定される利息コストの削減額を反映している。

 司法長官はまた、トランプ・オーガニゼーションが財務上の不正表示の疑いに基づいてD&O保険と保証保険を取得したと主張した。裁判所は、国際的な専門保険グループである HCC Global (「HCC」) の従業員マイケル・ホール(Michael Holl )氏と、2010 年から 2020 年までチューリッヒ保険の引受人を務めてたクラウディア・マルカリアン(Claudia Markarian)氏の証言を聞いた。

 ホール氏は、2016年12月にトランプ・オーガニゼーションの保険ブローカーから、同社のD&O保険の更新に関して連絡を受けたと証言した。 どうやら、トランプ大統領の就任式が近づいていることを考慮して、同社はD&O保険プログラムの責任限度額を500万ドルから5,000万ドルに引き上げたいと考えていたようだ。 ホール氏は、組織の財務諸表を見るためには、トランプタワーにある同社のオフィスで財務諸表を見る必要があったと証言した。 同氏のメモには、「財務資料はほとんど見ていなかった」が、2015年の貸借対照表は見たことが記されている。 貸借対照表には1億9,200万ドル(約286億800万円)の現金が反映されており、ホール氏はこれが「流動性の尺度」として意味があると証言した。 ホール氏のメモには、「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」と言われたことも反映されていた。 ホール氏は、財務情報と表明に基づいて、HCC が補償範囲を更新することを決定したと証言した。

 一方、マルカリアン氏は、トランプ会社の保証保険を引き受けるために、彼女も会社のオフィスを訪れて財務諸表を見る必要があったと証言した。 アレン・ワイセルバーグ(Allen Weisselberg)氏と同社のCFO兼監査役のジェフリー・マコニー(Jeffrey McConney)氏に会った。

 また彼女は、ワイセルバーグ氏がマルカリアン氏に代理した不動産保有物件が外部の評価会社によって毎年決定されたものである2018年と2019年のSFCも見せられた。 (エンゴロン氏は、トランプ・オーガニゼーションが専門の評価会社を一度も雇っていないことを明らかにした。)マルカリアン氏のメモには、彼女が会社の流動性の指標として手元現金の額を具体的に調べたことも反映されている。 ワイスルバーグ氏が公判で、トランプ・オーガニゼーションが不動産評価に専門の鑑定士を雇っていないと証言したことを知らされると、それが更新を承認するための分析に「重要」になっただろうと彼女は述べた。 彼女はまた、現金の額についての虚偽の表示が更新を承認するという彼女の決定に「大きな影響を与えた」だろうと証言した。

 エンゴロン判事はその調査結果と結論の中で、特に「チューリヒは、トランプ・オーガナイゼーションの保険契約の引受を決定する際に、ワイセルバーグ氏とマコニー氏による虚偽の表明と、SFCにある手持ち現金の額に関する意図的に虚偽で誤解を招く情報に依存した」と認定した。

 D&Oの更新に関して、エンゴロン判事は、2017年1月10日の会合の時点では捜査が進行中であったため、ホール氏に対する「重大な訴訟や誰からの連絡もなかった」という陳述は「虚偽」であると明示的に認定した。 司法長官室は、トランプ財団とトランプ家族のドナルド・トランプドナルド・トランプ・ジュニアイヴァンカ・トランプエリック・トランプに捜査を依頼した。彼らは全員トランプ・オーガニゼーションの理事および役員であり、捜査を知っていた。 エンゴロン判事は、更新方針が拘束される以前には、トランプ・オーガニゼーションの誰もが調査の存在をHCCに知らせていなかった、と認定した。 しかし、トランプ・オーガニゼーションは2年後、司法長官の捜査に起因する執行措置を求める申し立てを保険会社に提出した。

 エンゴロン判事の意見書には、「HCCが請求を認識したとき、引受会社はリスクのエクスポージャーが価格設定よりも大幅に高いと判断し、既存の保険料の5倍を超える更新保険を提示した」と述べられている。 また、エンゴロン判事は、2015年のSFCに反映されているように、HCCがドナルド・トランプが手元に1億9,200万ドルの現金を持っているという虚偽の表示にさらに依存していたと認定し、「これは、SFCが約款にSFCを書くべきかどうかについてのHCCの分析に重要な役割を果たした」とエンゴロン判事は結論づけた。

 エンゴロン判事は法的結論の中で、ワイセルバーグ氏とマコニー氏がそれぞれ第6の訴因に基づき、「ニューヨーク行政執行法第63条(12)およびニューヨーク州刑法第176.05条(保険詐欺)に違反して、繰り返しかつ執拗に保険詐欺を行った」として責任を負っていると認定した。 エンゴロンによれば、ワイセルバーグ氏とマコニー氏は、両氏とも保険会議に参加し、「彼らはドナルド・トランプ氏のSFCについて、保険代理店に対し、彼の現金資産の価値を偽るなどの虚偽の説明を行った。 SFCは外部の評価から来ており、トランプ・オーガニゼーションに対する潜在的な請求権の存在について嘘をついていた。」 これらの行為のそれぞれにより、保険申請書に「保険会社を誤解させる目的で重大な虚偽の情報が含まれる」ことになった。

 エンゴロン判事は、保険金詐欺の公然行為を行ったのはワイセルバーグ氏とマコニー氏だけであると認定したにもかかわらず、保険金詐欺の共謀の第7の訴訟原因に基づいて被告全員が責任を負うと認定し、法的権限を引用して、公然行為は1人のみであると主張した。 陰謀を促進した共謀者の実態を明らかにする必要がある。 さらに同判事は、「各被告は事業記録や評価額を改ざんするという個々の行為によって、保険詐欺の陰謀を幇助し教唆し、実質的に詐欺的なSFCを意図的に保険会社に提出させた」と付け加えた。

 エンゴロン判事は、被告らが保険詐欺を犯した(または保険詐欺を共謀した)と結論づけたが、認められた救済は主に不動産ローンに関する虚偽表示の疑いに関連していた。 したがって、授与された巨額のうち約1億6,800万ドルは、トランプ・オーガナイゼーションが偽のSFCの使用を通じて確保した金利コストの節約に関連したものであった。 残りの裁定額のかなりの部分は、被告らがワシントンの旧郵便局ビルなど、特定の実質的な不動産資産の有益な売却を通じて確保した「不正に得た利益」に関係する。(資産売却益の返還に関する理論は、財務上の虚偽の表示がなければ、被告には資産を購入する余裕も、売却から利益を得る立場にもいなかったであろうということのようである)

 エンゴロン判事は、不当利得の吐き出し(disgorgement)という形での金銭的救済に加えて、さまざまな形での差し止めによる救済も認めた。トランプ氏、ワイスルバーグ氏、マコニー氏は、ニューヨーク企業の役員を3年間禁止される。 ドナルド・トランプ・ジュニアとエリック・トランプは2年間、ニューヨークの企業の役員または取締役としての勤務を禁止される。 トランプ大統領はニューヨークの金融機関からの融資申請を3年間禁止される。 トランプ・オーガニゼーションに内部統制と財務報告義務を確立し、遵守することを保証するために、新しい独立コンプライアンス担当ディレクターがトランプ・オーガニゼーションに設置された。 そして、エンゴロン判事が以前に命じた現在の監視員は引き続き同社の財務取引を監督することになる。

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(注14-2)ニューヨーク州最高裁判所の詳細については筆者ブログ(注1)を参照。

(注15) 最終判決前の利息(pre-judgment interest ); prejudgment interest: 裁判で勝訴が決定された時点から、最終判決が下される時点までの金銭の使用の損失の補償として、訴訟の勝訴当事者に与えられる利息(Marriam -Websterを仮訳)

(筆者ブログ(注2)参照)。

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その2)

2024-03-15 14:55:14 | 国家の内部統制

■4つのトランプ裁判につきアクターも含め法的な意味で争点を整理する。

. フロリダ州での連邦政府機密文書の違法な収集と保管裁判

1.裁判概要 (刑事事件)

裁判所:フロリダ州南部地区連邦地方裁判所

裁判官:US District Judge :エイリーン・キャノン(Aileen Cannon)

Aileen Cannon 氏

検事:ジャック・L.スミス連邦特別検事(Special Counsel :Jack L.Smith)(注2)

Jack L.Smith 氏

②事件の概要

政府機密文書の違法収集と保管問題

 当初のDOJ起訴状(全49頁)は、トランプ氏が大統領として米国が所有する何百もの機密文書を収集し、それらをホワイトハウスの段ボール箱に保管したと主張している。一部の文書には、米国と外国の両方の米国の核計画含む米国とその同盟国の軍事攻撃に対する潜在的な脆弱性、そして外国からの攻撃に対応して報復の可能性を計画している防衛および兵器能力に関する情報が含まれていた、と述べている。

Mar-a-Lagoのトランプ邸内の機密文書の山(起訴状に添付されている)

 2023年6月8日、ドナルド・トランプ元大統領と彼の補佐官であるワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏はフロリダ州 Mar-a-Lagoのトランプ邸での機密文書の取り扱いの誤りに関連する容疑でフロリダ州南部地区の連邦大陪審により起訴された。取って代わる 起訴 2023年7月27日に封印が解除され、追加の被告カルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)が起訴され、トランプに対する証拠の改ざんに対する国防情報を故意に保持し, そして捜査官に嘘をついたとする3つの追加告発が含まれる。(2023年7月27日付け最終起訴状(全60頁))

 なお、起訴状によると計36訴因のうち主たる訴因1~31は「全米の国防に関する故意の保管(Willful Retention of National Defense Information:18 U.S.C.§793(e))」(注8)である。

 より具体的に言うと2021年1月から、トランプがホワイトハウスを去る準備をしていたので、 連邦検事は、トランプ氏がホワイトハウスのスタッフに、“数百の機密文書[。] ”を含む、彼の出発を見越してさまざまなアイテムを箱に入れるように個人的に指示したと主張している トランプ氏の共同被告のボディーマン、元米国海軍メンバーのウォルティン・T.ナウタ(Waltine Torre Nauta Jr.)氏は、この文書の転送を支援するよう指示されたグループの一部であった。

(機密資料の保管が明らかになった理由については、起訴状の他に2023.6.9付けLawFare記事2/6(42)を参照されたい。

 共同被告

Mar-a-Lagoの不動産マネージャーであるカルロス・ド・オリベィラ(Carlos De Oliveira)氏、ワルティン・T .ナウタ Jr. (Waltine Torre Nauta Jr.)氏

Carlos De Oliveira 氏

Waltine Torre Nauta Jr.氏

2.フロリダ州南部地区連邦地方裁判所アイリーン・キャノン連邦判事は機密文書裁判でトランプ前大統領の起訴棄却申し立てを却下(2024.3.17 追記分)

 3月14日のJURIST解説を仮訳する。一部、筆者の判断でリンクを追加した。

 ドナルド・トランプ前大統領の機密文書不当拘留容疑に関する刑事訴訟を管轄する米連邦判事は3月14日、2ページにわたる短い命令で前大統領の棄却申し立てを却下(rejected)した。 トランプ前大統領は、この事件で係争中の自身に対する刑事告発40件のうち32告発の却下を求めていた。 しかし、アイリーン・キャノン判事は、32件の刑事告発は違憲でかつ曖昧であるとするトランプ氏の主張を否定した。

 キャノン氏は最終的に、「提示された問題全体の解決策は、法定用語や語句の法定用語や語句の依然として変動する定義についての、争点となっている指導上の質問に大きく依存している」と結論付けた。 また判事は、トランプ前大統領の却下動議はいくつかの事実上の問題を提起したが、それらは本件の「事実認定者(finder of fact)」である陪審によって最もよく解決されるべきであると判示した。

 キャノン氏は3月14日初め、この却下動議に関して連邦検察官とトランプ氏の弁護士から3時間半に及ぶ弁論(arguments)を聞いた。 トランプ氏の弁護士は、トランプ氏が起訴されている刑法規定内のいくつかの文言に異議を唱えた。 これらの文言の中には、「不正所持」「国防に関する」「受け取る権利がある」などの文言が含まれていた。

 2月22日に裁判所に提出された棄却を求める動議の中で、トランプ前大統領は刑法の文言が「曖昧さの原則を生む適正手続きの原則や権力分立の懸念と矛盾している」と主張した。 彼の主張は、トランプ前大統領が「大統領記録・連邦記録法2014年改正」(Presidential and Federal Records Act Amendments of 2014, 法令番号113-187)に基づいて私的使用のために文書を保持し、機密解除したと主張したが、この訴訟の以前の提出文書のエコーであった。

 曖昧さの原則は、刑法が処罰される行為の種類を明示的に規定し、定義することを要求する憲法の原則である。 該当する刑法規定(18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information)のあいまいな文言は法律の過度に広範な適用と恣意的な執行につながる可能性があるという懸念があるため、過度に曖昧な法律は適正手続きの懸念に基づいて廃止されるべきである。

 しかし、ジャック・スミス特別検事が率いる連邦検察当局はトランプ前大統領の主張を拒否した。 トランプ氏の棄却動議に対する返答の中で、連邦検察当局はトランプ氏の主張を「理由がない」として却下した。 検察側は、トランプ氏の行為は刑法で禁止されている明確に定義された行為に完全に該当すると主張した。 すなわち、連邦検察官は次のように主張した。

    「 [A] 元大統領であるトランプ氏が、国防情報を不正に取得したり故意に保持したりしない義務を含む、国家安全保障と軍事機密を保護することの最も重要性を理解していないはずがない。」

 トランプ氏に対するこの訴訟での40件の刑事告訴は、元大統領が2021年1月20日にホワイトハウスを出発する際に政府の機密文書を不当に持ち出したという主張に端を発している。これらの文書には、米国と外国の同盟国の防衛兵器能力、核情報、米国の潜在的な脆弱性、報復計画や防衛に関する機密記述と分析が含まれていた。起訴状には、トランプ前大統領が2021年1月20日に米大統領としての任期を終えた後、これらの機密文書を所有または保持する権限がなかったことが明確に述べられている。しかし、この文書は2022年8月のトランプ大統領のフロリダ州にあるア・ラーゴの私邸の捜索中にFBIによって発見された。

 キャノン氏がトランプ前大統領の訴えの棄却動議を偏見なく拒否したことは注目に値する。 これは、トランプ前大統領が後日の裁判で憲法の曖昧さに対して再び同じ異議を唱える可能性があることを意味する。

 キャノン氏は3月4日、前大統領の大統領特権(presidential immunity.)の主張に基づくトランプ氏の棄却動議についての弁論も聞いた。 しかし、キャノン氏は、この件におけるトランプ前大統領の免責の可能性の問題についてはまだ決定を下していない。

 米国連邦最高裁判所は2024年4月に、連邦検察によるトランプ氏に対する2020年の選挙干渉事件における別の免責請求に関する弁論を審理する予定である。 機密文書事件をめぐる事実と状況は2020年の選挙妨害事件とは異なるが、最高裁判所の判決はトランプ大統領の免責主張に関するあらゆる決定に影響を与える可能性がある。

Ⅱ.ワシントンD.C.連邦議会議事堂攻撃の陰謀および2020年の大統領選挙の結果を覆そうとした刑事裁判

1.裁判概要

裁判所;Wasington D.C連邦地方裁判所

事件の概要

 2023年8月1日、ワシントンD.C.の大陪審(grand jury)は、2021年1月6日の米国連邦議会攻撃に関連して元トランプ大統領を起訴することを投票した。また2020年の大統領選挙の結果を覆そうとする彼の主張された試みにつき起訴した。

裁判官

連邦地方判事ターニャ・S・チャッキン(US District Judge Tanya S. Chutkan)氏

起訴検察官

連邦特別検事ジャック・L.スミス(Jack L. Smith)

起訴状原本

➅ワシントンD.C. 巡回区控訴裁所判決(以下、「D.C.控訴裁判所」という)(judgment)(3裁判官:Karen LeCraft Henderson, J.Michelle  Child, Florence  Pan)

C-SPAN画像から引用

 2024年2月6日、D.C.控訴裁判所は、ドナルド・トランプ前大統領が2021年1月6日の連邦議会議事堂攻撃での彼の役割について彼に対する政府の訴訟で起訴から免除されないことを決定した。(米政治専門ケーブルチャンネルC-SPANで裁判内容は動画で音声とテキストで確認できる)

 トランプ氏は以前に持っていた 解任に移動 彼の起訴は 元大統領の刑事責任追及が大胆かつ公平に行動する大統領の能力を阻害すると主張し、検察からの行政免責を主張し、併せて大統領特権、特にデリケートな義務と大胆で躊躇しない行動の必要性を引用した。

 全会一致の57ページの意見書(opinion)同裁判所判決で、同裁判所はトランプ氏と他の元大統領—が在職中に犯した犯罪容疑で起訴できると裁定した。裁判所は、免責に関するトランプの主張は説得力がなく、元大統領が無益な連邦刑事訴追によって過度に嫌がらせを受けるリスクはわずかであると結論付けた。

 さらに、同裁判所は、「この刑事事件の目的のために、トランプ元大統領が他の刑事被告のすべての抗弁とともに市民たるトランプになったと決定した。しかし、彼が大統領を務めている間に彼を保護したかもしれないいかなる大統領の行政免除も、もはやこの起訴から彼を保護しない」と述べた。(注8-2)

 トランプ氏は2024年2月12日までに連邦最高裁判所に対し、D.C.控訴裁判所判決につき上訴できることとなっていた。

連邦最高裁判所SCOTUSの解説から抜粋、仮訳

 ジャック・スミス特別検事は連邦最高裁判所に対し、トランプ前大統領が起訴された犯罪は「我が国の民主主義の根幹を揺るがす」ものであり、これらの容疑が「速やかに解決」されることには「国益がある」と述べ、ターニャ・S・チャッキン判事らに求めた。 2020年大統領選挙の結果を覆す共謀の罪でトランプ氏が裁判を受ける道を開くため、2月14日の夜に開かれた。

 スミス氏の申し立ては、トランプ氏が裁判所に対し、自身の免責請求を却下するD.C.控訴裁判所の決定を一時的に差し止めるよう要請してからわずか2日後、ワシントン地裁がスミス氏にトランプ氏の要請に応じるよう設定した期限の6日前に提出された。

 米国連邦地方裁判所判事のターニャ・S・チャッキン氏は当初、トランプ氏の訴訟の公判期日を34に設定していた。2023年 12月初旬、彼女は、大統領としての公務の一部である行為については訴追を免除されるとして、トランプ氏に対する告訴却下を求める動議を拒否した。

 その時点で、スミス氏は連邦最高裁判所に出向き、D.C.控訴裁判所がトランプ氏の上訴に対する判決を下すのを待たずに、判事らに免責問題について早急に検討するよう求めた。

 連邦最高裁判所はその時点では介入を拒否し、D.C.控訴裁判所は2月6日に判決を下した。3人の裁判官からなる合議体は全員一致の意見でチャッキン判決を支持し、「トランプ前大統領はトランプ国民となった」と強調した。 彼が大統領を務めていた間に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない」と述べた。

 トランプ前大統領側は2月5日に連邦最高裁判所に出廷し、最高裁判所の審査を申し立てる時間を与えるためにD.C.控訴裁判所の判決を一時的に差し止めようと求めた。 同氏は判事に対し、「刑事訴追からの免除がなければ、我々が知っている大統領職は消滅するだろう」と語った。

 しかし、連邦最高裁判所で100件以上の訴訟を弁論してきた連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当してきた元法務長官代理(Deputy Solicitor General)マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏(注9)署名した提出文書の中で、スミス氏は、トランプ氏は単に自分の事件の裁判を遅らせようとしているだけだと反論した。「これらの容疑の解決の遅れは、迅速かつ公正な判決に対する公共の利益を挫折させる恐れがある。これはあらゆる刑事事件における切実な利益であり、犯罪容疑による前大統領に対する連邦刑事告訴を伴うものであるため、ここでは国家的に独特の重要性を持っている。公権力の行使を含め、大統領選挙の結果を覆そうとする努力を行っているのみである」とスミス氏は記した。

 スミス氏は、既に弾劾され議会で有罪判決を受けていない限り、大統領としての公式行為の一部である行為に対する免責を求めるトランプ氏の主張は「過激な」もので、仮に受け入れられれば「大統領の責任についての歴史を通じて広く浸透してきた理解を根底から覆すことになり、民主主義と法の支配を損なうものだ」と述べた。 実際、スミス氏は、大統領が「選挙を覆し、後継者への平和的権力移譲を妨害しようとする犯罪計画とされるものは、連邦刑法からの新たな形の絶対免除を認める最後の場所であるべきだ」と示唆した。

 スミス氏は、裁判の続行を認めれば、将来の大統領が退任後の自らの行為で起訴されるのではないかと懸念することになるというトランプ氏の提案に激しく反発した。同氏は、刑事訴追の可能性が過去に大統領の行動を妨げてきたという「証拠はない」とし、将来的には構造的安全策によって純粋に政治的な理由による訴追は阻止されるだろうと強調した。

 他に米国大統領に対する刑事訴追がないことは、トランプ大統領の主張を裏付けるものではないとスミス氏は述べ、トランプ大統領は「前例のない」犯罪容疑の「前例のない」規模、性質、重大さ、つまり有権者の意志に反して大統領職に留まろうとする不正な取組みを見逃していると述べた。

 そしてスミス氏は、トランプ元大統領が自身の事件の公判前手続きを延期することにどのような関心を持っていても、彼に対する刑事告発の解決を延期することによる「政府と国民への深刻な損害」の方がはるかに大きいと続けた。スミス氏は、裁判を予定通り進めることに対する国民の関心が最も高まるのは、「今回のように、元大統領が大統領職に留まるために選挙プロセスを破壊する共謀の罪で起訴されたとき」であると示唆した。

 スミス氏はチャッキン判事に対し、トランプ氏の執行猶予申請と、その後に起こる可能性のあるD.C.巡回控訴裁判所の判決の見直しを求める申し立てを却下するよう求めた。しかし、別の選択肢として、裁判所はD.C.巡回裁判所の判決を保留するというトランプ大統領の要請を審査請求として扱い、紛争が迅速に解決されるよう、3月下旬に口頭弁論に向けて迅速に手続きを進める必要があると同氏は続けた。

刑事および民事訴訟に対する大統領の免責に関する論文例

 なお、Find Law 解説サイト「刑事および民事訴訟に対する大統領の免責(Presidential Immunity to Criminal and Civil Suits)」に関する論文を一部抜粋、仮訳する。

 合衆国憲法は、刑事または民事訴訟からの大統領の免責については直接規定していない。代わりに、この特権は、1860年代の連邦最高裁判所による第II条、セクション2、第3項(Article II, Section 2, Clause 3)の解釈を通じて、時間の経過とともに以下のとおり、発展してきた。

〇大統領は民事責任から免除されるか?

 大統領は、公務に関連する訴訟から生じる訴訟について、民事責任から免除される。これには、これらの職務の「外周」でのすべての行為が含まれる。しかし、大統領は非公式な行為から生じる行動から免除されない。

〇元大統領は責任から免除されるか?

 裁判所は、在職中の公式行動の「外周」で取られた措置について、元大統領に免責が及ぶかどうかはまだ決定していない。しかし、現職の大統領と同様に、元大統領は在職中の非公式な行為から生じる行動から免除されない, 就任前に発生した行為および退社後に発生した行為につき免除されない。

〇大統領の免責は何をカバーしているか?

 大統領の免責は、大統領の公務に関連する行動をカバーする。これには、それらの職務の「外周」にあるものも含まれる。免責は、非公式な行為、犯罪行為、および就任前に発生する行為には適用されない。

-2.ワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所での決定

 2024年2月6日、米国のワシントンD.C.連邦巡回区控訴裁判所は、トランプ氏が2020年の連邦選挙干渉事件で起訴から免除されないことを決定

US appeals court rules Trump not immune from prosecution in federal 2020 election interference case

 JURIST解説から、抜粋、仮訳する。

 米国ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所(以下、「D.C.控訴裁判所」という)の3人の裁判官からなる合議体は、2月6日、2020年の連邦選挙干渉事件でドナルド・トランプ前大統領には訴追の免除権がないと判示(No. 23-3228)した。

 裁判所は全会一致の判決で、トランプ氏が米国大統領としての公務中に行ったと主張する行為について「絶対的な」大統領訴追免責を受ける権利はないとの判断を下した。 この裁判所の判決は、「元大統領は連邦刑事責任に関して特別な条件を享受していない」としたコロンビア地区タニヤ・チュトカン連邦地方裁判所判事の2023.12.2判決を支持した。

 さらに巡回控訴裁判所は以下の点を明らかとした。

「この刑事事件の目的のために、トランプ前大統領は他の刑事被告の弁護をすべて引き受けてすなわちトランプは一市民となった。 しかし、大統領在任中に彼を守っていたかもしれない行政特権は、もはや今回の訴追から彼を守ってくれない。」

 D.C.控訴裁判所の3人の裁判官の合議体での控訴の訴えにおいて、トランプ氏は彼の免責主張を支持して次の3つの主要な論点を主張した。

①三権分立の原則により、裁判所は大統領が行った公式行為を審査することができない。

②三権分立の原則に根ざした機能政策の考慮事項では、行政府の機能への侵入を防ぐために免責が必要である。

③元大統領は、弾劾判決条項に基づいて連邦議会によって最初に弾劾され、有罪判決を受けた場合にのみ起訴される可能性がある。

 しかし、2月6日の判決では、D.C.控訴裁判所はトランプ側の3つの主張の根拠すべてを拒否した。

 トランプ前大統領の最初の主張に関して、裁判所は「正しく理解されているように、三権分立の原則は合法的な裁量的行為を免責する可能性があるが、あらゆる公的行為について前大統領を連邦刑事訴追することを妨げるものではない」と認定した。

 3 人の裁判官からなる合議体は、2024年1 月 9 日の口頭弁論中で、特に 1803 年の米国連邦最高裁判所のマーベリー対マディソン事件(Marbury v. Madison, 5 U.S. 137 (1803))に関連して、権力分立の問題も提起した。この画期的な訴訟において、裁判所は、裁量的行為(discretionary)と羈束行為(ministerial:行政の執行に、自由裁量の余地がないこと)という 2 つのタイプの公的行為を概説した。 裁量的行為は裁判所によって決して審査されることはないが(政治的プロセスを通じて対処するのが最善であるため)、同裁判所は、羈束行為を遂行する義務が法律によって課されているため、羈束行為は審査の対象となる可能性があると認定した。

 トランプ氏は、この訴訟で問題となっている行為は公的行為であるため、免責を受ける必要があると主張したため、合議体はトランプ氏の弁護士にマーベリー事件の先例について話すよう求めた。 最終的に同裁判所は判決の中で、トランプ前大統領の行動は、もし公式行為とみなされるのであれば、行政行為(ministerial.)であると結論づけた。このため裁判所は、トランプ氏は連邦刑法に従って行動したとして起訴されたが、それを怠ったと推論した。したがって、裁判所は、「トランプ前大統領の行為は連邦刑法に反するいかなる法的裁量権も欠如しており、その行為については法廷での責任がある」と認定した。

 次に裁判所は、政策上の懸念に関するトランプ前大統領の2番目の主張に焦点を当てた。 裁判所は、この訴訟で争点となっている2つの政策上の懸念につき、(1) 行政府の権限と機能に対する侵害の可能性、(2) 大統領選挙の完全性と有権者の民主的に大統領を選ぶ能力の維持問題であると述べた。

 裁判所は「国民と行政府の双方が抱く刑事責任への関心は、大統領の行動を萎縮させ、厄介な訴訟を容認するという潜在的なリスクを上回る」と結論付けた。 トランプ大統領は、こうした責任は将来の大統領が危険な決断を下す意欲を抑制するだろうと主張したが、裁判所はそのような責任は「権力乱用や犯罪行為の可能性を阻止する」ことで政府に利益をもたらすと認定した。 裁判所は、合衆国憲法の下では、大統領が米国の法律を忠実に執行することを求めるテイク・ケア条項(Take Care Clause)(注10)の対象となると指摘した。「もし大統領が…処罰されずにこれらの法律に反抗できる唯一の役人だったとしたら、それは顕著な矛盾となるであろう」と裁判所は述べた。 そうすることは、「個々の国民が投票し、投票を数えてもらう権利」を損なう可能性があることになる。

 トランプ氏の3番目の主張を検討した結果、裁判所は弾劾判決条項(注11)が実際に「前大統領に対する最も強力な証拠」を提供したと認定した。トランプ元大統領は、この条項は大統領の責任は議会弾劾によってのみ問われることを意味していると主張したが、裁判所はその文言が「『法律に従って』弾劾された当局者の刑事訴追の選択肢を明示的に保持している」と認定した。

 D.C 控訴裁判所は、トランプ氏側の主張を却下し、「トランプ前大統領の解釈では、容易に弾劾の対象に分類されない犯罪(すなわち、「反逆罪、贈収賄、またはその他の重罪および軽罪」)の犯行も許可されることになり、上院議員30人が正しければ」犯罪は大統領が退任するまで発見されない」と述べた。同裁判所は、このような条項の解釈は、大統領が国王になることを阻止するという法制定者の目的と根本的に矛盾していると認定した。

 また裁判所は、この事件でのトランプ氏に対する告発は二重の危険(double jeopardy)(注12)に相当するというトランプ氏の主張も棄却した。 トランプ氏は以前、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件での役割を理由に下院(民主党が多数)で裁判にかけられ弾劾されたが、上院は弾劾罪で同氏に有罪判決を下さなかった。 たとえ弾劾があったとしても、裁判所は、そのような弾劾は同一または類似の事実に基づく将来の訴追を妨げるものではないと認定した。 裁判所は次のように書いている。

 「二重危険条項の先例の解釈によれば、トランプ前大統領の弾劾無罪は、次の 2 つの理由により、その後の刑事訴追を妨げるものではない。(1) 弾劾は刑事罰をもたらさない。 (2) 起訴状は、弾劾決議の単一の罪状と同じ罪を告発していない。」

Ⅲ-1.ニューヨーク州ニューヨーク郡裁判所係属の刑事事件

1.裁判概要

裁判所:

 ニューヨーク州ニューヨーク郡最高裁判所(supreme court)

起訴者

Manhattan district attorneyニューヨーク州マンハッタン地方検事(連邦裁判所管轄区の首席検事DA)アービン・L・ブラグ(lvin L.Bragg)

lvin L.Bragg氏

③事件の概要

  トランプ氏は2023年3月、2016年のアダルト映画スター(ストーミー・ダニエルズ(Stormy Danielss)氏 との不倫疑惑への13万ドル(約1950万円)の秘密保持契約(non-disclosure agreement )にもとづく口止め料(hush money)支払いや関連した重罪容疑等でマンハッタン地方検事によって刑事事件で初めて起訴された。すなわち検察は、トランプ氏が2016年の選挙の公平性・健全性を損なう違法な陰謀(Conspiring)に参加していたと主張した。 さらに、同検事は違法な業務・財務記録の改ざん等情報を隠蔽する違法な計画に参加していたと主張している。 一方、トランプ氏側は無罪を主張した。

 statement of facts URL:https://www.documentcloud.org/documents/23741577-read-trump-indictment-related-to-hush-money-payment

 ④裁判官

ファン・メルチャン(Juan Merchan)New York Supreme Court Judge(元検察官)

 

 Juan Merchan 氏

⑤トランプ側弁護士(Trump’s legal team)    

Todd Blanche 氏(Blanche Law com設立者 )(注13)

Susan Necheles 氏(Necheles Law LLP代表)

Joe Tacopina 氏(Tacopina Seigel & DeOreo代表)

 ⑤証人

Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士:2018年)(注14)

 

David Pecker氏  (右)

Stormy Danielss氏(45歳)

Karen McDougal 氏 (53歳)(右)

 ➅刑事責任

ニューヨーク州刑法第175.10に基づく第一級の業務記録等の改ざん等(FALSIFYING BUSINESS RECORDS IN THE FIRST  DEGREE Penal Law § 175.10)起訴状原本

*ニューヨーク州刑法第175.10第一級業務記録偽造罪は、第二級業務記録改ざん罪を犯し、かつ、その詐欺の意図に別の犯罪を犯したり、その行為を幇助したり隠蔽したりする意図が含まれている場合に有罪となる。

第一級の業務記録の改ざんはクラス E の重罪である。

合計訴因数 34

 JURISTの法事実の詳細解説        

根拠法 

(ⅰ)Conspiring to defraud the US (18 U.S. Code § 371 - Conspiracy to commit offense or to defraud United States)                             

(ⅱ)Conspiring to corruptly obstruct and impede the US Congress (18 U.S. Code § 1512 - Tampering with a witness, victim, or an informant)                            

(ⅲ)Conspiring against US citizens’ right to vote (https://www.law.cornell.edu/uscode/text/18/241)                                       

 

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(注8) 18 U.S. Code § 793 - Gathering, transmitting or losing defense information

(e)Whoever having unauthorized possession of, access to, or control over any document, writing, code book, signal book, sketch, photograph, photographic negative, blueprint, plan, map, model, instrument, appliance, or note relating to the national defense, or information relating to the national defense which information the possessor has reason to believe could be used to the injury of the United States or to the advantage of any foreign nation, willfully communicates, delivers, transmits or causes to be communicated, delivered, or transmitted, or attempts to communicate, deliver, transmit or cause to be communicated, delivered, or transmitted the same to any person not entitled to receive it, or willfully retains the same and fails to deliver it to the officer or employee of the United States entitled to receive it; or

(注8-2) 2023.9.15 米特別検察官がコロンビア地区連邦地裁「政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることの超法規的措置を確保するための政府の要請申立て:本声明はこれらの訴訟を不利にするものではない(GOVERNMENT’S OPPOSED MOTION TO ENSURE THAT EXTRAJUDICIAL :STATEMENTS DO NOT PREJUDICE THESE PROCEEDINGS)」(全19頁)から一部抜粋、仮訳する。

 この事件で大陪審が起訴状を差し戻して以来、被告(ドナルド・J・トランプ)はコロンビア特別区の住民、裁判所、検察官、証人候補者を攻撃する公式声明を繰り返し広く広めてきた。 被告は供述を通じて、我が国の司法制度において陪審の評決は「公開法廷での証拠と弁論によってのみ導かれる」という「逸脱の原則」に反して、これらの訴訟手続きの健全性を損ない、陪審員に偏見を与えると脅している。 外部からの影響によるものではない」 シェパード対マクスウェル、384 US 333, 351 (1966) (引用は省略)。

 「外部からの不利な干渉からプロセスを保護する」という裁判所の義務に従って、同上。 第 363 条で、政府は裁判所に対し、司法の適正な運営と公正かつ公平な陪審を確保するために以下の即時措置を講じることを要請する: (1) 地方刑事規則 57.7(c) に従って、特定の不利な超法規的判決を制限する、厳密に調整された命令を下すこと。 声明。 (2) いずれかの当事者がこの地区の住民との接触を伴う陪審調査を実施する場合、陪審調査が裁判員に不利にならない方法で実施されることを裁判所が保証できる命令を締結する。 政府は被告の弁護士から被告の立場を聴取しており、被告はこの動議に反対している。」

(注9) マイケル・ドリーベン(Michael Dreeben)氏は、米国連邦司法省の法務長官室に 30 年以上勤務し、そのうち 24 年間は連邦最高裁判所で政府の刑事事件を担当する法務長官代理(Deputy Solicitor General)を務めた。現在O’Melveny & Myers LLP.のパートナー、ハーバード大学ロースクール講師、ジョージワシントン大学ロースクール名誉講師を任務。

(注10)テイク・ケア条項(Take Care Clause)

 合衆国憲法ArtII.S3.3.1は大統領が「法律が忠実に執行されるよう配慮しなければならない義務」と規定している。 この義務には、少なくとも 5 つのカテゴリーの行政権が含まれる可能性がある。(1) 第 2 条の冒頭および後続の条項によって、憲法が大統領に直接与える権限、 (2) 議会の法律によって大統領に直接与えられる権限、 (3) 議会法によって連邦政府の各省およびその他の執行機関の長に与えられる権限、 (4) 米国の刑法を執行する義務から暗黙のうちに生じる権力、 (5) いわゆる「公務」を遂行する権限。これに関して連邦政府最高幹部は、解任の機会や方法に関して限られた裁量権を行使できる。

 以下の解説では、1)憲法や法令が大統領に与えている権限を大統領がどのように行使するのか、2)テイク・ケア条項と大統領の罷免権ひいては監督権との関係、3) 誰が彼に代わって行政権を行使するのか、そして4)議会が行政府職員の行動をどこまで指示できるのか等、これらの行政権によって提起される疑問のいくつかを検討する。(以下は略す。)(コーネル大学ロースクールの解説から抜粋、仮訳)

(注11) ドナルド・トランプ大統領に対する弾劾手続の経緯

 合衆国憲法第2章第4条は、「第 4 条 [弾劾]大統領、副大統領および合衆国のすべての文官は、反逆罪、収賄罪その他の重大な罪または軽罪につき弾劾の訴追を受け、有罪の判決を受けたときは、その職を解かれる」と規定している。

 同憲法の第1章第2条第5項は、下院は、議長その他の役員を選任する。弾劾の訴追権限は下院に専属する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 これを受けて下院は2019年12月18日、権力乱用と議会妨害の2項目について大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党による弾劾調査は、情報機関の匿名告発者が2019年9月に、トランプ氏とウクライナ大統領との電話会談に問題があったと議会に報告したことを機に始まった。

 ホワイトハウスが公表した通話記録によると、トランプ氏は7月25日にウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との電話で、2020年の大統領選で対立候補になるかもしれない民主党のジョー・バイデン前副大統領とその息子について捜査するよう働きかけていた。

 民主党が進めた調査で複数の関係者が証言したところによると、トランプ氏は政敵に対する捜査要求と引き換えに、すでに米議会が承認していたウクライナへの軍事援助4億ドルの凍結解除を提示したほか、ホワイトハウスでの首脳会談の実現を提示したとされている。下院本会議をこれを権力乱用と認めて、大統領を弾劾訴追した。

 下院民主党が2019年9月に、トランプ氏がウクライナ大統領に何を働きかけたのか調査を開始すると、トランプ氏はホワイトハウス関係者の証言を次々と阻止した。下院本会議はこれを、議会妨害と認めて、大統領を弾劾訴追した。

【上院の弾劾権限】とは

 弾劾に関する合衆国憲法の規定はあいまいで、第1章第2条第5項では下院が「弾劾の権限を専有する」とのみ規定している。つまり、下院が弾劾の罪状について大陪審の役割を果たし、調査・起訴する。

 そして、憲法は第1章第3条第6項は「すべての弾劾を裁判する権限は、上院に専属する。この目的のために集会するときには、議員は、宣誓または宣誓に代る確約*をしなければならない。合衆国大統領が弾劾裁判を受ける場合には、最高裁判所長官が裁判長となる。何人も、出席議員の 3 分の 2 の同意がなければ、有罪の判決を受けることはない。」

*宗教上の理由などから宣誓できない場合に、これに代えて行う宣誓同様の陳述

 第1章第3条第 7 項は「弾劾事件の判決は、職務からの罷免、および名誉、信任または報酬を伴う合衆国の官職に就任し在職する資格の剥奪以上に及んではならない。但し、弾劾につき有罪判決を受けた者が、法にもとづいて、起訴、公判、判決、または処罰の対象となることを妨げない。

 1868年2月に始まった当時のアンドリュー・ジョンソン( Andrew Johnson, 1808年12月29日 - 1875年7月31日)は、アメリカ合衆国の政治家。第16代副大統領および第17代大統領を歴任)に対するものがアメリカ建国史上、大統領への初の弾劾裁判となり、この時に定まった手続きがその後も総則として引き継がれている。しかし、究極的には、今回の弾劾裁判で証拠や証人をどう扱うか、審理の期間や弁論をどうするかなどを決めるのは、共和党幹部のアディソン・ミッチェル・マコーネル Jr.(Addison Mitchell McConnell, Jr.)上院院内総務(2024年11月退任予定: 82歳)と、民主党のチャック・シューマー(Charles Ellis "Chuck" Schumer)民主党:72歳)上院院内総務ということになる。

(注12)米国の二重の危険(double jeopardy):同一の行為に関して民事制裁金と刑事処分を課すことは、一般に二重の危険には当たらないとされている(1997年Hudson vs. United States連邦最高裁判例)

(注13)トッド・ブランシュ(Todd Blsnche) :トップクラスのホワイトカラー刑事弁護人で元連邦検察官。

(注14) Michael Cohen(元トランプ氏の顧問弁護士)

 アメリカ人の元弁護士で、2006年から2018年までドナルド・トランプ元大統領の弁護士を務めた。コーエン氏はトランプ・オーガニゼーションの副社長およびトランプ氏の個人顧問を務め、しばしばトランプ氏のフィクサーと言われている。 コーエン氏はトランプ・エンターテインメントの共同社長を務め、子供の健康慈善団体であるエリック・トランプ財団の理事も務めた。 2017年から2018年まで、コーエン氏は共和党全国委員会の財務副委員長を務めた。

 トランプ元大統領は、2016年の米選挙へのロシア介入に関する特別検察官の捜査が始まった1年後の2018年5月までコーエン氏を雇用していた。 2018年8月、コーエンは選挙資金違反、税金詐欺、銀行詐欺など8つの罪状で有罪を認めた。 コーエン氏は、2016年の大統領選挙に「影響を与えることを主な目的として」トランプ大統領の指示で選挙資金法に違反したと証言した。 2018年11月、コーエン氏はモスクワのトランプ・タワー建設の取り組みについて米連邦議会委員会に虚偽を述べたとして有罪を認めた。(Wikipedia から抜粋し、仮訳)

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米国内外でのトランプ裁判の全体像について鳥瞰図かつ法的に詳しい解説に挑戦(その1)

2024-03-15 12:05:20 | 国家の内部統制

Last Updated:March 17 ,2024

 すなわち内外のメデイア記事の多くがトランプ裁判につき、誹謗中傷合戦を紹介しているものの、一部の米国のロースクールを除き法的点からの詳しい解析はほとんど行っていない。

 メデイアではトランプ氏やトランプ・オーガニゼーションに関する裁判数は民事、刑事事件で計4つと書いているのが多数である。しかし、例えば、本ブログの第Ⅲ-2章で述べるとおりニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズは、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領・オーガニゼーションに2億5,000万ドル(約3,725億円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。その裁判は2023年10月に始まった。この関連でR&D保険詐欺問題も取り上げられている

 筆者はこのような背景にうんざりしつつ、改めて厳秘な意味で法解釈を試みようと考えた。例えば、本ブログで取り上げるジョージア州フルトン郡の検事が組織犯罪取締法である「同州RICO法(威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(Georgia Racketeer Influenced and Corrupt Organizations :RICO) Act)」をもとにトランプ・オーガニゼーションを刑事起訴に持ち込んでいる。この起訴・裁判方法は従来のトランプ裁判法理では見られなかっただけに興味深い点が多い。これに関し、2021年1月6日の連邦議会議事堂占拠犯人らの起訴を含む裁判の一括審理の法的の有罪化の可能性等についても研究したい。(RICO法の問題点は本文や(注1)で述べた)

 また、トランプ前大統領は英国では逆に原告となった裁判で、英国高等法院(High Court of Justice)はクリストファー・スティール(Christopher Steele)氏の会社に対する風評被害とデータ保護の権利侵害に対する訴えを却下し、スティール氏に訴訟費用として30万ポンド(約2,670万円)を支払わなければならないとの判決を2024年2月1日に下した。(この裁判で原告側が前述の米国RICO法を援用をして、却下されている点が興味深い)

 さらにいうと大統領選挙と並行して進められるトランプ裁判特にスーパー・ロイヤーをうたい文句にトランプ元大統領の弁護士となった弁護士各位の弁論技術を見極めたいというのも本音である。また、司法取引後 トランプ氏から離反した多くの著名な弁護士らはどこに行ったのか。

 最後にもう1点、11月の大統領選挙に絡んで両候補の社会保障費の考え方の差をあえて取りあげる。この問題は司法判断以上にきわめて重要な投票判断材料となろう。

 これまで筆者ブログで取り上げたトランプ裁判について、以下のとおり整理する。その都度の断片的解説という問題があるが、少なくとも一般メデイア記事に比べ読むに堪えられよう。

 さらに2019年12月以降の連邦議会のトランプ前大統領に対する弾劾裁判の失敗もなおトランプ氏裁判に大きな影を投げかけていることは間違いない。((注11)参照)

2022.8.27 「フロリダ州連邦地裁の治安判事がドナルド・トランプ氏の領地マー・ア・ラーゴでのFBI捜査宣誓供述書の公開を命じた」

2022.11.7「ニュ―ヨーク州最高裁判所裁判官はニューヨーク州司法長官の要請に基づくトランプ一家(Trump Organization)の財務報告等を監督する独立した監視人(monitor)の任命を承認」

2023.1.15「米メリック・B・ガーランド連邦司法長官は1月12日、バイデン大統領の機密文書問題の特別顧問としてメリーランド地区の元米国検事ロバート・ハー氏を任命したと発表」

2023.12.19「二ューヨーク州上訴裁判所は民事詐欺裁判でトランプ前大統領が申し立てた(法廷で審議中の事柄の)発言禁止令を支持」

2023.12.26「2024年秋の米大統領選挙や同年3月の一部裁判の最高裁判決等を控えスピードアップするトランプ裁判の動向と争点」

 今回は4回に分けて掲載する。

トランプ裁判の鳥瞰レポート

Ⅰ.国際法曹協会(International Bar Association) 米国特派員たるフリーランスの記者ウィリアム・ロバーツ氏のレポート「裁判中のトランプ–と法の支配–」(2023年12月日)仮訳する。

 元米国大統領ドナルド・トランプ氏は、大統領再選挙に立候補している一方で、4つの刑事訴追と民事詐欺裁判に直面している。IBAグローバルインサイト は法の支配への影響を評価するレポートをまとめた。

 2023年11月中旬に米国ニューハンプシャー州で行われた選挙集会で、ドナルド・トランプ前大統領は、「アメリカを破壊するために嘘をつき、選挙で不正行為をする」敵対者を「害虫」のように「根絶する」と約束した。この文言は、トランプ大統領が再選されれば司法省を利用して現米国大統領ジョー・バイデン氏らを追及するという脅しに不気味な光を投げかけた。

 これは、2024年の大統領選の共和党候補を獲得しようとしているトランプ前大統領の最新の攻撃路線だ。アイオワ州とニューハンプシャー州では期日前投票が2024年1月に予定されており、米国大統領選挙まで1年を切っている。 刑事訴追と民事訴訟に直面し、トランプ前大統領の選挙戦での発言はますます過激になっている。 例えば、彼は自分を起訴したワシントンD.C.の米国連邦特別検事(US special Counsel )ジャック・スミス(Jack J.Smith)氏を「気が狂っている人物」と呼んだ。(注2) 

 トランプ氏は現在、合計4つの刑事訴追と連邦および州当局によって提起された1つの民事詐欺事件で裁判にかけられている。事件は広範囲に及び、元大統領の内外の行動に移る。トランプ氏は全面的にこれら告訴に異議を唱えた。これら組み合わせで、トランプ氏の主張は民主主義の規範と法の支配を公然と無視する危険な扇動者の絵を描いている。

(1)わが国の司法・政治システムは、ここ米国でいくつかの重要な方法で失敗した

 クリス・エデルソン(Chris Edelsons)(ワシントンD.C.アメリカ大学・政治学部・有期助教)Assistant Professor of Government, American Universityは次のとおり述べた。

Chris Edelsons氏

 「ここ米国では、私たちのシステムはいくつかの重要な点で失敗した。わが国が機能し健全な自由民主主義が行われていれば、ドナルド・トランプ氏が1月6日の連邦議会議事堂襲撃を奨励し称賛し、その後、下院で弾劾されたとき、彼は罷免されていただろう。しかし、彼はそうならなかったので、我われに残されたのは、彼の責任を問う方法としての裁判訴追だけである。」

 さらのエデルソン氏は「米国の選挙制度では、ドナルド・トランプ氏がまだ大統領選に立候補することが認められていることが一つの理由だが、次に何が起こるかは不透明だと(トランプ氏が)望んでいるのは、選挙に勝って、これらの刑事事件での責任を回避できることだ」と彼は言う。 「彼は刑務所から逃れるために戦うだろう。彼は刑務所から出ないための最善の道は選挙に勝つことだと期待しており、それができる可能性はある」と付け加えた。

 ニューヨーク州では、トランプ大統領がアダルト映画スターのストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels)氏とプレイボーイのモデル、カレン・マクドゥーガル(Karen McDougal)氏への口止め料の支払いを隠蔽するために業務記録を改ざんした疑いで州により起訴されているが、トランプ氏はこれを否認している。この裁判は2024年3月下旬に開始される予定である。

 一方、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームズ(New York State Attorney General Letitia A.James)氏は、不動産価値を不当に水増ししたとしてトランプ前大統領に2億5000万ドル(約372億5,000万円)の損害賠償と州内での事業の禁止を求めている。 その裁判は2023年10月に始まった。

Letitia A.James 氏

 ジョージア州では、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani Taifa Willis)氏が、同州の「威力脅迫および腐敗組織に関する取締法(RICO Act)」に基づき、トランプ氏とその他18名を告発した。 トランプ元大統領の元法律顧問のうち3人目と4人目の被告が罪状を軽減して有罪を認め(司法取引)、国を代表して真実を証言することに同意した。 トランプ氏と他の被告(全員が無罪を主張)の公判期日はまだ設定されていない。

 スミス連邦特別検事はトランプ氏に対して2つの別々の告訴を提起しており、1件目は機密文書の取り扱いに関わるフロリダ州南部地区で、2件目は2020年大統領選挙を覆そうとするトランプ氏の試みに関連してワシントンD.C.で行われている。

 機密文書事件の裁判は2024年5月に始まる可能性があるが、延期される可能性がある。 選挙不正問題の裁判は3月上旬に始まる可能性がある。 トランプ前大統領は両方の疑惑を否定している。

(2) 無駄のない卑劣な起訴

 2020年の大統領選挙結果を覆そうとするトランプ元大統領の試みに関連した2つの事件(1つは連邦レベル、もう1つは州レベル)は、おそらくアメリカ国民にとって最も政治的に爆発的な事件である。 2020年の全米一般投票ではジョー・バイデン大統領がトランプ大統領の7,420万票に対して8,130万票の差で勝利したが、米国の選挙制度の古風な18世紀の構造により、実際の選挙戦はさらに狭かった。

 米国大統領は直接選出されるのではなく、1789 年に合衆国憲法に基づいて設立され、選挙人団(United States electoral college)内の「選挙人」を人口に基づいて各州に割り当てる機関である選挙人団によって選出される。2016年にトランプ氏が勝利したミシガン州、ペンシルベニア州、ウィスコンシン州で勝利し、バイデン氏は選挙人獲得数306人、トランプ氏の232人で勝利した。バイデン氏は、これまで共和党に投票していたアリゾナ州とジョージア州でも勝利した。これら5つの激戦州ではバイデン氏が僅差で勝利し、合計27万7,000票を獲得した。もしこれら5州のうち3州が逆の方向に進んでいたら、トランプ氏は一般投票で敗れたものの、ホワイトハウスを維持していたかもしれない。

 トランプ氏と彼の政治的同盟者は、州と地方レベルでの選挙結果に異議を唱える76の訴訟をもたらした。2人を除くすべてが証拠の欠如のために解雇されたか、またはメリットに失敗した。成功した2人は未成年であり、詐欺を主張しなかった。

 それにもかかわらず、トランプ氏は選挙が不正に決定されたという根拠のない主張を展開した。彼は、連邦議会が選挙人投票の集計と検証を行うための正式な議会を開会する予定だったその日に、ワシントンD.C.で支持者の大規模な集会を組織した。 数千人の暴力的な親トランプデモ参加者が国会議事堂の警察のバリケードを突破し、議会議事堂に侵入し、議事は数時間の遅延を余儀なくされた。 2022年夏の米下院1月6日委員会に提出された証言によると、同氏のチームは主要州の偽の選挙人を代用しようとしたという。

 元米国大統領が数多くの重大な容疑で刑事告発され、係争中であることは米国歴史上、本当に異常なことだ。

 (3) ジョン・T.ショー(John T. Shaw) (南イリノイ大学ポールサイモン公共政策研究所(Paul Simon Public Policy Institute)所長)の発言

John T. Shaw 氏

 1年に及ぶ議会調査でトランプ氏の行為に関する忌まわしい証拠が山ほど明らかになった後、特別検事スミス氏は2023年8月1日に元大統領に対して4件の訴追を行った。 トランプ氏は米国に対する詐欺を共謀し、有権者の権利を剥奪し、公式手続きを妨害しようとした罪で起訴されている。

「最も重要な容疑は選挙人投票の認証を阻止する陰謀行為だ」とワシントンD.C.の法律事務所カールトン・フィールズの株主で元米国司法省検事のジーン・ロッシ(Gene Rossi)氏は述べた。

 

 Gene Rossi 氏

「ロッシ氏はこの起訴はドナルド・トランプ個人に対するものである。 これは無駄がなく卑劣な起訴であり、彼は非常に深刻な結果に直面している。2024年11月に行われる大統領選挙前に、トランプ氏が陪審によって有罪とされる可能性がある。元大統領がこれほど重大な罪に問われていること自体、歴史的で注目すべきことであり、まったく衝撃的だ」と述べた。

 2021年1月6日の連邦議会暴動からほぼ3年間で、議事堂侵入に関連した罪で1,200人以上が起訴された。400人以上が暴行や法執行妨害の罪で起訴された。右翼団体「プラウド・ボーイズ(Proud Boys)」(注3)(注3-2)や「オース・キーパーズ(Oath Keepers)」(注4)の主催者や国会議事堂を襲撃した暴徒の先兵らに10年以上の長期拘禁刑が言い渡された。 「彼らの主な目的は、議会、つまり下院と上院が(1月6日)に任務を遂行するのを阻止することであった」とロッシ氏は言う。「あの日、元大統領の指示と彼の激励と熱烈な支援を受けて国会議事堂に押し入った人々は、彼らがしたかったことは[…]議員たちに危害を加えるまではいかなくても、議員たちを脅かして白昼の光を奪うことだった」

 デモ参加者が国会議事堂に侵入したとき、マイク・ペンス元副大統領は選挙人集計を主宰していた。 大統領のツイートに反応して、親トランプ派の群衆は「マイク・ペンスを吊るせ」と叫んだ。 国会議事堂の敷地内には間に合わせの足場が建てられた。 約114人の警察官が負傷し、中にはクマよけスプレー、野球バット、盾、槍を振り回したデモ参加者との白兵戦で重傷を負った人もいた。

Former Vice President Mike Pence氏

 現在、ワシントンD.C.でのトランプの連邦裁判は、連邦地方判事のターニャ・S・チュトカン(US District Judge Tanya S Chutkan.)氏が主宰している。 バラク・オバマ前大統領によって任命されたチュトカン氏は、トランプ大統領に対し、「顧問弁護士」による弁護(被告が専門家の弁護に従ったと主張する、有罪を回避するための危険な戦略)につき、申し立てられた犯罪の実行につながる法的アドバイスを利用するつもりかどうかを2024年1月15日までに裁判所に通知するよう命じた。同裁判は、米国の15の州と2つの準州で共和党大統領候補の予備投票が行われる「スーパー・チューズデー」の前日である3月4日に始まる予定である。

Tanya S Chutkan氏

 重要なことは、またトランプ氏は、2020年の大統領選挙を覆そうとする試みに関連して、ジョージア州フルトン郡で非常に深刻な恐喝罪に直面していることである。同州の大陪審が提出した41件の広範囲にわたる起訴状は、偽の選挙人投票を連邦議会に提出し、選挙を不正に覆そうと共謀した罪でトランプ氏と他の18人を起訴した。 おそらくこの事件は今後の大統領選挙戦で大きく取り上げられることになるだろう。トランプ氏はこの不正行為を否定している。

 つまり、ジョージア州には連邦法以上に広範なRICO法があり、フルトン郡地方検事のファニ・T・ウィリス(Fani T.Willis)氏に対し、州の選挙結果を取り消すためにトランプ大統領に加わった多数の共謀者容疑者を起訴する裁量権を与えている。 RICO法では、ウィリス被告が他の州で被告がとった可能性のある行為を含め、幅広い事実を証拠として提出することが認められている。

(4) 権力を握る(Going to stay in power)

 トランプ裁判の重要な進展として、元トランプ弁護士のケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) (注5)、シドニー・パウエル(Sidney Powell) (注6)、ジェナ・エリス(Jenna Ellis) (注7)へのインタビュー’の検察官のビデオ録画の抜粋が、3つの司法取引に達した後、オンラインで公開された。

Kenneth John Chesebro 氏

Sidney Powell 氏

Jenna Ellis 氏 (右)

*ジョージア州検察局は去る2023年10月20日、トランプ前大統領らが選挙結果を覆すために共謀したとされる事件で、起訴対象者の一人、ケネス・チェスブロ弁護士(62歳)が有罪を認め、今後の裁判でトランプ氏らにとって不利な証言をすることに同意したと発表した。

 エリスは、2020年12月にホワイトハウスのクリスマスパーティーでトランプ大統領補佐官のダン・スカヴィーノ Jr.( Daniel Scavino Jr.)との出会いを語った。エリスはバイデンの勝利に対する法的挑戦が失敗したことをスカヴィーノに後悔を申し出た。スカヴィーノ氏は、トランプは関係なくホワイトハウスに滞在するつもりだったと答えた。

Daniel Scavino Jr.氏

 ジョージア州の刑事訴訟におけるトランプ裁判の主任弁護士であるスティーブ・サドウ(Steven H.Sadow)氏は、エリスが‘絶対に意味のない’を詳述した‘のプライベート会話’を呼び出した。

Steven H.Sadow 氏

 残りの15人の被告の1人を代表する主任弁護人は、報道機関にビデオを提供したことを認めた。ウィリス検事は事件の保護命令を求め、裁判官はこれに同意した。

 ハーバード大学ロースクールで憲法を学んだチェセブロ弁護士は、16人のジョージア共和党がトランプ氏が同州で勝利し、自らを宣言したと主張する計画を考案し、調整したとされている。

 チェセブロ氏は州の当初の陰謀容疑を認めず、代わりに虚偽の文書を提出したことによる単一の重罪の容疑で有罪を認めた。チェセブロ弁護士は、検察官との契約では、彼がいかなる種類の偽の選挙人計画やそのようなものの構築者でも決してなかったことを証明していると述べた。

 パウエル氏は、2020年のトランプの敗北後、外国の行為者がトランプからバイデンに電子投票システムへの投票を反転させる方法を設計したという陰謀論を促進した。彼女はトランプの法務チームに参加し、トランプとのホワイトハウス会議に参加し、トランプの誤った主張を推進する上で重要な役割を果たした。

 ジョージア州フリントン郡地方検事ウィリス氏は、裁判が2024年半ばまで開始されないと予測しており、大統領選挙の最中に裁判が継続されることを意味し、2024年後半または2025年初頭までは結論が出ないと考えている。

 仮にトランプ氏が共和党の指名を獲得し、2024年の総選挙に勝利した場合、彼は2025年1月20日に大統領になる。その場合, トランプ氏は、州検察官が選出または現職の大統領に対して起訴することにより米国政府の事業に干渉することを許されるべきではないという強い憲法上の議論を利用できるであろう。

 特に珍しいのは、トランプ氏が対立する当事者間の平和的な権力の移転を阻止しようとする罪で起訴されていることある。そしてその後、彼の検察は共和党の有権者の間で彼を助けたように見えるがが、彼の裁判の結果は彼の立候補と総選挙での党のための災害を意味するかもしれない。

 トランプ氏は、大統領選挙の干渉があったことを明示的に主張しており、自身の裁判にかかる裁判官、検察官、書記官を政治的に偏っているとして攻撃している。2023年6月、彼はバイデン大統領を米国連邦司法省を兵器化していると非難した。それは本当に私たちの民主主義の本質、民主主義の核心、つまり平和的な権力の移転に行く。それは250年の間アメリカのシステムの魔法の1つあった、とジョン・T.ショー(John T. Shaw)氏は以下のとおり述べた。

 「米国には、行政機関が司法省と検察官を使用して政治的反対者を追いかけることができないことを明確にする法律がある」とフIBAのフォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)ロバート・バーンスタイン氏は個人的な立場でコメントする。現職の大統領が司法省を武器にしていると誰かが言ったときはいつでも、それは私たちの司法制度の公平性、そして私たちの法執行機関全般に対する信頼を損なう, これは法の支配に対する脅威である」

(5)トランプ裁判はフロリダからニューヨークへ

 一方、トランプ氏は他の理由で法的措置に直面しています。元大統領, 元大統領が取った何百もの機密文書を不適切に処理した罪で、2023年8月に個人補佐官とMar-a-Lagoのボデーマンが起訴された–政府が違法に– ホワイトハウスはフロリダ州パームビーチのマール・ア・ラゴ(Mar-a-Lago)にに向かい、全員が無罪を主張した。2017年から2021年まで大統領として、トランプは定期的な諜報ブリーフィングから受け取った秘密資料を含め、数十箱の紙資料と記念品を蓄積していた。

 大統領の記録を保持する責任を負う米国の機関である国立公文書館が資料を要求したとき、トランプはいくつかを返却した, しかし、他の人々を守り、彼自身の弁護士による彼が持っていたものをカタログ化して返却するためのフォローアップの試みを回避したとされている。

 FBIは2023年8月にマール・ア・ラゴを捜査のため襲撃し、102の秘密の米国文書を押収した。明らかに、国家安全保障文書について話しているとき、それは大きなノーノーです’、現在ワシントンDCで実務訴訟担当者である司法省の元最高検察官であるポールペルティエは言います。

 IBA 法の支配フォーラム共同副議長(Secretary, IBA Rule of Law Forum)のロバート・ステイーブン・バーンスタイン(Robert Steven Bernstein)氏は以下のとおり語った。

 「現在起こっているように、法的プロセスの信頼性と正当性が疑われるとき、それは私たちの司法制度全体への信頼を損なう風土を作り出す。」

 Mar-a-Lagoの文書事件は2024年5月までに裁判にかけられるとは予想されておらず、おそらくさらに遅れるであろうし、選挙後まで遅れる可能性は十分にある。大統領であった2020年にトランプによってベンチに指名された米国地方裁判所のエイリーン・キャノン(Aileen Cannon)裁判官が事件を処理している。彼女は、トランプの弁護側に、事件の根底にある機密文書を検討する十分な時間を与える意欲を示した。これは、別個の複雑な一連の米国の証拠手続きを呼び起こす。他の裁判の場合と同様に、トランプは不正行為を否定した。

 一方、ニューヨークでは、トランプの民事詐欺事件で非陪審裁判を監督しているアーサー・F・エンゴロン州裁判官が, これはトランプ側から控訴されているが、トランプ・グループが銀行や保険会社に虚偽の財務諸表を提出したことをすでに決定している。訴訟で問題となっているのは、どのような救済策と罰則を適用すべきかである。

 トランプ氏と彼の3人の大人の子供たちは、事件の裁判で証言するために裁判所に呼ばれた。公判では、トランプ氏は裁判官に偏見があると非難し、ニューヨーク州司法長官ジェームズ氏を攻撃し、彼女を「政治的ハック(political hack)」と呼んだ。特に、裁判官はトランプがソーシャルメディアで彼の法務書記官を攻撃することを禁止する「ギャグ命令(裁判にかかわった参加者による情報またはコメントを制限する裁判所命令)」を出した、そしてそれはトランプがそれに違反した場合、10,000ドル(約148万円)の罰金を引きだした。(注7-2)

(6)権威主義対民主主義

 トランプ氏が2024年に共和党の大統領候補になるかどうかの最初の実際のテストは、1月15日にアイオワ州中西部で行われる。共和党員は、州全体のコミュニティセンターや地元の講堂で‘コーカサス’として知られる党会議に出席する。世論調査では、トランプ氏がアイオワ州で最も近いライバルであるフロリダ州知事のロンデサンティスと元サウスカロライナ州知事および国連大使のニッキーヘイリー氏よりも強いリードを示している。

 これは、ドナルド・トランプが提示する多くの前例のない状況の1つである。アイオワ州デモインにあるドレイク大学の政治学部教授兼共同議長であるレイチェル・ペイン・コーフィールド(Rachel Paine Caufield)氏は、トランプ氏はこれまでに見たことのない’とは別の大統領候補者である。彼はまさにこのノミネートフィールドのフロントランナーである。

Rachel Paine Caufield氏

 コーフィールド氏は「トランプ氏に対する起訴状は、少なくとも最初は、ドナルド・トランプ氏を助けているようである。ニューヨークでの最初の起訴により、彼は世論調査で批判を跳ね返ったという。彼の後に来る設立エリートがいるという考えに彼はよく仕えているようで、彼らは政治的に動機付けられており、彼らは悪意を持っている。これらの犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」がジョージア州フルトン郡から出てきたとき、それはドナルド・トランプを傷つけなかったと彼女は付け加えた。すなわち、それはドナルド・トランプを助け、彼は犯罪容疑者の顔写真(mug shot)」で選挙資金を調達した」

 世論調査では、共和党の有権者の最大70%が、トランプが2020年の大統領選挙に勝利したとまだ信じており、2024年に再びそれを実行できると考えている。その理由の1つと米国の政治情勢の厄介な側面の1つは、トランプ氏と彼の基地の間のフォックス・ニュース・テレビや、彼の方針を踏襲し続けている政治家などの支持メディアの自己強化フィードバックループである。ジョン・T.ショーショー氏は、2021年1月6日に米国議会議事堂にいて、事件を目撃したが、それでもトランプを支持している主要な政治家がいると語った。彼らは中世の戦闘が展開するのを見て、誰がそれを引き起こしたかを正確に知っている’とショーは述べた。‘彼らの即時の反応は非常に批判的で非常に内臓的でした。しかし、彼らは最も重要なことは、基地がどこにあるかを理解することであると決定した。そして共和党の基地がトランプを許すことをいとわないとき,この神聖な規範の違反でさえ、議員たちは一列に並んだ。

 アン・ランバーグ(Anne Ramberg)氏は、IBAの人権研究所評議会の共同議長である。法の支配に基づいて構築された民主主義は、米国では深刻な[危険]である。これまでのところ、チェックとバランスは司法府によって支持されている。しかし、トランプ氏は民主主義と法の支配を妨害するためにできる限りのことをしている。その結果はもちろん、米国と民主主義世界全体にとって壊滅的なものである。[...]より多くの独裁者が大規模で重要な国で権力を握るようになることを踏まえると、それは危険な進展である。いくつかの国で民主主義が弱体化しているという明らかなパターンがある。

 アイオワの後、共和党の大統領指名コンテストはすぐに展開される。有権者は、2024年1月23日にニューハンプシャー、2月8日にネバダ、2月24日にサウスカロライナの投票に行く。コロンビア特別区、アイダホ州、ミシガン州、ミズーリ州、ノースダコタ州が3月の第1週に投票する。3月5日までに– ‘として知られるスーパー・チューズデイ共和党の指名大会への代表のほぼ半分が決定される。

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(注1) 川崎友巳「アメリカ経済刑法における RICO 法違反の罪の意義」(同志社法学 71巻6号[通巻409号](2020))参照。なお、同論文は、ジョージア州RICO法(注17)参照)には言及していない。

(注2) On November 18, 2022, Jack Smith was appointed by Attorney General Merrick B. Garland to serve as the Special Counsel by Order No. 5559-2022.

連邦司法省のJack J.Smith特別検事に関するリンクサイト

(注3) プラウド・ボーイズ( Proud Boysとは、アメリカ合衆国およびカナダの男性のみによって構成されるネオ・ファシズム思想を有するオルタナ右翼団体。カナダ公安省によりテロ組織登録されている。

アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」の元リーダー:ヘンリー・"エンリケ"・タリオ(Henry "Enrique" Tarrio,Henry:40歳)に2023年9月5日、扇動共謀罪などで拘禁刑22年が言い渡された。同国の民主主義の中枢を襲ったこの事件の首謀者に対する量刑としては、これまでで最も重い。(2023年9月6日BBC news日本語版から抜粋)

*2023.5.5 BBCnews: 2021年1月6日の米連邦議会襲撃事件について、首都ワシントンの連邦地方裁判所の陪審は5月4日、極右団体プラウド・ボーイズの4人に対して扇動共謀の罪で有罪の評決を下した。同じ罪で起訴されていた5人目についても、同罪では無罪評決を出したものの、他の複数の重罪で有罪と評決した。

連邦議会襲撃事件では、2020年米大統領選でジョー・バイデン氏の当選を認めず、選挙結果を覆そうとしたドナルド・トランプ氏の支持者らが、バイデン氏の当選認定手続きを阻止しようと議事堂に乱入した。プラウド・ボーイズは当日、100人以上がこの襲撃に参加し、大きな役割を果たしたとされる。

*2023.9.1 BBCnews:および米連邦司法省のリリース

 アメリカで2021年1月にあった連邦議会襲撃事件をめぐる裁判で、極右団体「プラウド・ボーイズ」のリーダーのジョー・ビッグス(Joe R.Biggs 39)は2023年8月31日、拘禁刑17年の刑と監視付き釈放36か月の判決を受けた。また共同被告ザカリー・レール(Zachary Rehl)被告( 38歳)は拘禁刑15年と監視付き釈放36カ月の判決を受けた。

 2人は2021年1月6日の連邦議会議事堂侵入に関連した扇動陰謀およびその他の容疑であり、彼らの行動は、2020年大統領選挙の認定に必要な選挙人票の確認と集計の過程にあった米国議会の合同会議を混乱させたというものである。

 首都ワシントンの連邦地裁で開かれた裁判で、検察側は陸軍退役軍人で陰謀論サイト「インフォウォーズ」の特派員だったビッグス被告について、議会襲撃の「扇動者」だったと主張していた。同被告は2023年5月、扇動共謀罪(18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy(注3-2)などで有罪評決を受けていた。

Joe R.Biggs ジョー・ビッグス被告(BBC new から抜粋)

(注3-2) 扇動共謀罪(18 U.S. Code § 2384 - Seditious conspiracy): いずれかの州または準州、あるいは米国の管轄下にある場所で、二人以上の人物が、米国政府を打倒、鎮圧、武力破壊すること、または米国政府に対して戦争を起こそうと共謀した場合、 またはその権限に武力で反対すること、または米国法の執行を武力で阻止、妨害、遅延させること、あるいはその権限に反して米国の財産を武力で押収、奪取、占有したときは 、彼らはそれぞれ、本編に基づいて罰金を科されるか、20年以下の拘禁刑、あるいはその両方が科せられる。(コーネル大学ロースクールの解説2/6(109)を仮訳)

(注4) Oath Keepers:護憲派(を自称する極右団体)。“oath”(誓い)は、アメリカ合衆国憲法に記された国民の権利、とりわけ「政府の横暴に対して実力で抵抗する権利」への誓いを意味する。彼らの目には、オバマ政権による医療保険改革も金融業規制も「政府の横暴」と映っている。(Imidas  から抜粋)

(注5) ケネス・j・チェセブロ(Kenneth John Chesebro) 

(注6) テキサス州の弁護士、シドニー・パウエル氏(68歳)は 2020年の選挙で敗北した後、ドナルド・トランプ前大統領の法務チームに加わった, ジョージア州の選挙干渉事件でいくつかの軽犯罪につき有罪を認めた。

 フルトン郡フルトン郡上位裁判所のスコット・マカフィー裁判官の前に現れ、彼女は6年間の保護観察を行い、 6,000ドル(約88万8,000円)の罰金を支払うこと、 2,700ドル(約39万9,600円)をジョージア州国務長官の事務所に支払うこと、ならびに共同被告たる裁判で誠実に証言することに同意した。

 パウエル氏は選挙詐欺に関する陰謀論を広めるのを助けた。当初、パウエル氏はジョージア州の訴訟で7件の重罪容疑に直面した。これには、選挙詐欺を犯すための威力脅迫および腐敗組織に関する陰謀が含まれ。検察官との交渉により、パウエル氏は元の容疑で有罪とされた場合に直面したよりもはるかに低い罪で判決が下された。

 パウエル氏は、彼女の裁判のための陪審員の選択が始まる予定の1日前に有罪の嘆願書に入った。彼女は起訴状で指名されたトランプ氏を含む19人の被告の1人であり、司法取引を受け入れた2人目である。

(注7)元トランプ氏キャンペーン弁護士ジェナ・エリス(Jenna Ellis) 氏は ジョージア州の選挙転覆事件で2023年10月23日に有罪を認め、フルトン郡の検察官–過去1週間で3番目の有罪の嘆願に協力した。

 アトランタ裁判所での予定外の公開審理で、エリス氏は虚偽の発言を支援および禁ずる1カウントにつき有罪を認め, 選挙に起因する重罪の背景は、エリスと他のトランプ氏の弁護士が2020年12月にジョージア州の議員に売り出したことである。

 彼女は5年間の保護観察の判決を受け、 5,000ドル(約74万円)の賠償金を支払うよう命じられた。

 エリス氏は10月23日に有罪を認めながら裁判官に涙の声明を発表し、2020年の選挙を覆そうとするトランプ氏の前例のない試みへの彼女の参加を否定した。

 エリス氏、チェセブロ氏、パウエル氏はすべて、将来の裁判で検察に代わって証言することに同意した。裁判ではじきだされたこれらのかつてのトランプ弁護士は現在、主要なトランプ氏の悪の元凶になるために軌道に乗っている。彼らはすべて弁護士であり、起訴側に2020年に舞台裏で起こっていたことに光を当てることができる。

 検察官にとって、もともと19人を請求するという 広大な裁判ケースで。これまでのところ、4人が有罪を認めている。(2023.10.24 CNN new から抜粋、仮訳)

(注7-2) 2023.9.16 BBC news 「米特別検察官、トランプ前大統領による裁判関係者の威圧や中傷を禁止するよう裁判所に請求」

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わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUのAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その2完)

2024-03-06 11:27:29 | EUのAI規制法

Latest Updated:March  16, 2024

4.IMCO およびLEBEのリリース文「Artificial Intelligence Act: committees confirm landmark agreement

 以下、要旨仮訳する。

【要旨】

①汎用型人工知能に関する保護措置が合意された。

②法執行機関による生体認証システムの使用の制限を加えた。

③ユーザーの脆弱性を操作または悪用するために使用されるソーシャル・ スコアリングにつき AI の禁止。

④消費者が苦情を申し立て、意味のある説明を受ける権利を保障する。

 欧州議会の議員は、安全性を確保し基本的権利を遵守する人工知能法に関する暫定合意(provisional agreement) (注11)を委員会レベルで承認した。

 2月13日、域内市場委員会(IMCO)と市民的自由委員会(LIBE)は、人工知能法に関する加盟国との交渉結果を71対8(棄権7)で承認した。

 この規則法案は、基本的権利、民主主義、法の支配、環境の持続可能性を高リスクの AI から守ることを目的としている。 同時に、イノベーションを促進し、ヨーロッパを AI 分野のリーダーとして確立することを目指している。 この規制法案は、AI の潜在的なリスクと影響のレベルに基づいて AI に対する義務を定めている。

(1)禁止されるAIアプリケーション(Banned applications

 この暫定合意では、①機密特性に基づく生体認証分類システム、②顔認識データベース用のインターネットまたは監視カメラ映像からの顔画像の対象外のスクレイピング、③職場や学校での感情認識(emotion recognition )、社会的スコアリング、予測ポリシングに基づく警察など、国民の権利を脅かす特定の AI アプリケーションが禁止されている。これらAIアプリは 人間のプロファイリングや特性の評価のみを目的としており、AI は人間の行動を操作したり、人々の脆弱性を突いたりする。

(2) 法執行機関へのAI法適用除外(Law enforcement exemptions)

 法執行機関による生体認証識別システム (Remote Biometric Identification:RBI) (注12)の使用は、網羅的にリストされている狭義の状況を除き、原則として禁止される。「リアルタイム」RBI は、厳格な保護下でのみ展開できる。 事前の司法または行政の許可があれば、時間と地理的範囲が制限される。このような用途には、例えば、行方不明者の捜索やテロ攻撃の防止などが含まれる。 このようなシステムを事後的に使用する (「ポスト・リモート RBI」こともリスクが高いと考えられており、司法の許可が必要であり、刑事犯罪と関連付けられる必要がある。

(3) 高リスクAIシステムに対する義務の明確化

 健康、安全、基本的権利、環境、民主主義、法の支配に重大な影響を与える可能性がある他の高リスク AI システムについても、明確な義務が合意されたた。 高リスクの用途には、重要なインフラ、教育および職業訓練、雇用、必須サービス(医療、銀行など)、法執行における特定のシステム、移民および国境管理、司法および民主的プロセス(選挙への影響など)が含まれる。 国民はAIシステムについて苦情を申し立て、自分たちの権利に影響を与えるリスクの高いAIシステムに基づく決定について説明を受ける権利を有することになる。

(4) 透明性の要件

 汎用 AI (GPAI) システムとそのベースとなるモデルは、トレーニング中に一定の透明性要件を満たし、EU 著作権法に準拠する必要がある。 システミックリスクを引き起こす可能性のあるより強力な GPAI モデルには、モデルの評価、リスク評価、インシデントのレポートの実行など、追加の要件が必要になる。 さらに、人工または操作された画像、音声、またはビデオ コンテンツ (「ディープフェイク」(注13) には、そのように明確にラベル付けする必要がある。

(5)イノベーション・中小企業(SMEs)支援策

 AI規制のサンドボックス(AI Regulatory Sandboxes)と現実世界でのテストが国家レベルで確立され、中小企業や新興企業に市場投入前に革新的な AI を開発およびトレーニングする機会が提供される。

 AIサンドボックスにつき新旧規則案も含めた法案逐条解説サイトである「EU AI ACT」サイトから抜粋、仮訳する

第53条 AI 規制サンドボックス

‍ 2024年2月2日にCoreper Iによって承認されたバージョンに基づいて、2024年2月6日に更新された‍。

1.加盟国は、管轄当局が国家レベルで少なくとも 1 つの AI 規制サンドボックスを設立することを保証し、発効後 24 か月以内に運用を開始するものとする。このサンドボックスは、他の 1 つまたは複数の加盟国の管轄当局と共同で設立される場合もある。欧州委員会は、AI 規制サンドボックスの確立と運用のための技術サポート、アドバイス、ツールを提供する場合がある。

 前の段落で定められた義務は、EU参加加盟国に同等レベルの全国範囲を提供する限り、既存のサンドボックスに参加することによっても履行することができる。

1a. 追加の AI 規制サンドボックスが、地域レベルまたは地方レベルで、または他の加盟国の管轄当局と共同で設立される場合もある。

1b. 欧州データ保護監督者は、EU の機関、団体、機関向けに AI 規制サンドボックスを確立し、本章に従って国内管轄当局の役割と任務を遂行することもできる。

1c.EU 加盟国は、第 1 項および第 1a 項で言及されている権限ある当局が、本条を効果的かつ適時に遵守するために十分な資源を割り当てることを確保するものとする。必要に応じて、国の管轄当局は他の関連当局と協力し、AI エコシステム内での他の関係者の関与を許可する場合がある。

この条項は、国内法または連合法に基づいて確立された他の規制サンドボックスには影響を与えないものとする。EU加盟国は、他のサンドボックスを監督する当局と国内の管轄当局との間で適切なレベルの協力を確保するものとする。

1d. 本規則の第 53 条(1)に基づいて設立された AI 規制サンドボックスは、第 53 条および第 53a 条に従って、市場での配置または使用開始に当たりイノベーションを促進し、革新的な AI システムの開発、トレーニング、テスト、検証を促進する制御された環境を提供するものとする。

将来のプロバイダーと管轄当局の間で合意された特定のサンドボックス計画に従われたい。 このような規制サンドボックスには、サンドボックス内で監視された現実世界の条件でのテストが含まれる場合がある。

1e. 所管当局は、リスク、特に基本的権利、健康と安全、検査、緩和策、およびこの義務と要件に関連したそれらの有効性を特定することを目的として、本規則、および関連する場合には、サンドボックス内で監督されるその他の連合および加盟国の法律に基づきサンドボックス内で必要に応じて指導、監督、および支援を提供するものとする。

1f. 所管当局は、プロバイダーおよび将来のプロバイダーに、規制上の期待および本規則に定められた要件および義務を履行する方法に関するガイダンスを提供するものとする。

AI システムのプロバイダーまたは将来のプロバイダーの要請に応じて、管轄当局はサンドボックス内で正常に実行されたアクティビティの書面による証拠を提供するものとする。また管轄当局は、サンドボックス内で実施された活動、関連する結果および学習成果を詳述した終了報告書を提供するものとする。 プロバイダーは、そのような文書を使用して、適合性評価プロセスまたは関連する市場監視活動を通じて本規則への準拠を証明することができる。 この点に関して、国内所轄官庁が提供する出口報告書と書面による証明は、適合性評価手続きを合理的な範囲で迅速化することを目的として、市場監視当局と通知機関によって積極的に考慮されるものとする。

1fa. 法案 第 70 条の機密保持規定(Confidentiality)に従い、サンドボックスプロバイダー/プロバイダー候補者の同意を得た上で、欧州委員会と理事会は出口レポートにアクセスする権限を与えられ、本条に基づく任務を遂行する際には、必要に応じて出口レポートを考慮するものとする。プロバイダーと将来のプロバイダーの両方、および国の管轄当局がこれに明示的に同意した場合、終了レポートは、この記事で言及されている単一の情報プラットフォームを通じて公開できる。

1g. AI 規制サンドボックスの設立は、以下の目的に貢献することを目的とする。

a本規則、または関連する場合には他の該当する連合および加盟国の法律への規制遵守を達成するために法的確実性を向上させる。

b.AI 規制サンドボックスに関与する当局との協力を通じてベスト プラクティスの共有をサポートする。

c.イノベーションと競争力を促進し、AI エコシステムの開発を促進させる。

d.証拠に基づいた規則の学習に貢献する。

e.特に新興企業を含む中小企業 (SME) が提供する場合、AI システムの欧州連合市場へのアクセスを促進および加速させる。

2.国の管轄当局は、革新的な AI システムが個人データの処理に関係する場合、またはその他のデータへのアクセスを提供またはサポートする他の国内当局または管轄当局、国のデータ保護当局、およびその他の管轄当局の監督上の権限に該当する限り、これらの他の国家当局は、AI 規制サンドボックスの運用に関連しており、該当する場合、それぞれの任務と権限の範囲内でそれらの側面の監督に関与する。

3.AI 規制サンドボックスは、地域レベルまたは地方レベルを含む、サンドボックスを監督する管轄当局の監督および是正権限に影響を与えないものとする。 かかる AI システムの開発およびテスト中に特定された健康と安全および基本的権利に対する重大なリスクは、適切に軽減されるものとする。加盟国の管轄当局は、一時的にまたは定期的に次のことを行う権限を有するものとする。

(以下、略す)

(6)AI法の最終成立に向けた次のステップ

 この法案文書は、今後の欧州議会の本会議での正式な採択と最終的な理事会の承認を待っている。このAI法は発効後 24 か月後に完全に施行、適用されるが、(ⅰ)発効後 6 か月後に適用される禁止行為の禁止、(ⅱ)行動規範(発効後 9 か月に適用される)を除き、 (ⅲ)ガバナンスを含む汎用 AI ルール (発効後 12 か月)、(ⅳ)高リスクシステムに対する義務 (36 か月)を除く。

(2024.3.15 補追分)

5.3月14日、AI法案は、今後の欧州議会本会議での正式な採択

2024.3.15 Lexblog「EU Parliament Adopts AI Act」を以下、仮訳する。

 3月14日、欧州議会議員(MEP)が待望のAI法に賛成票を投じた。 賛成523票、反対46票、棄権49票というこの投票は、欧州委員会が初めて同法の提案を公表した2021年4月に始まった取り組みの集大成となる。

 今後には次のようなものが予定されている。

 (1) 言語の最終決定: この法律が正式に法律となる前に、弁護士兼言語学者によるレビューが行われる (訂正手続き(corrigendum procedure)と呼ばれる)。 このステップは、本文が EU 官報 (Official Journal of the EU:OJ) に掲載される前に、本文内の誤りを特定して修正し、(内部情報源と外部情報源の両方への) 数値と参照が正しいことを確認することを目的としている。

(2) 欧州連合理事会(Council of the EU)の承認:この法律は次に正式な最終承認を得るために4月に欧州連合理事会に提出される予定である。

  (3) 法律の施行・適用と影響: AI 法は、OJ に掲載されてから 20 日後に正式に発効する。 禁止されている AI 行為に関する同法の規定は発効後 6 か月後に適用され、汎用 AI モデルに関する規定は 6 か月後に適用される。他の規定は、その後、主に法律の発効後 2 年および 3 年後に適用される。

 AI 法の採択は、AI テクノロジーを規制する最善の方法についての世界的な議論における重要な瞬間を表している。これは、バイデン政権の人工知能に関する大統領令(2023.12.22筆者ブログ参照)中国における一連の規制イニシアチブなど、安全な AI の開発を支援する他の法域での取り組みと一致している。

 この法律の正式な採択は規制プロセスの終わりではない。 加盟国は、自国の管轄区域内でのその実施を監督する国内の管轄当局を任命する必要がある一方、欧州委員会は、規制対象者が多数の規定を解釈し適用するのを支援するためのガイドラインを発行する必要がある。 AI 法が最終段階に進むにつれて、さらなる最新情報に注目されたい。

****************************************************************:

(注11) PROVISIONAL AGREEMENT RESULTING FROM INTERINSTITUTIONAL NEGOTIATIONS暫定合意の原本(全245頁)

暫定合意の主題:人工知能に関する調和のとれたルールを定める規則案の提案(人工知能法案) および特定の欧州連合の立法行為の改正(Proposal for a regulation laying down harmonised rules on Artificial Intelligence (Artificial Intelligence Act) and amending certain Union legislative acts) 2021/0106(COD)

(注12) 許容できないリスクをもたらすため、禁止されているAIシステム(第5条)

公的にアクセス可能な空間における法執行の目的での「リアルタイム」リモート生体識別システムの使用。ただし、そのような使用が以下の目的の1つに厳密に必要な場合を除く。

欧州基本権機関(European Union Agency for Fundamental Rights:FRA)のRemote biometric identification for law enforcement purposes: fundamental rights considerations参照。

(注13)ディープフェイクとは、「ディープラーニング」と「フェイク」を組み合わせた造語で、AI(人工知能)を用いて、人物の動画や音声を人工的に合成する処理技術を指す。もともとは映画製作など、エンターテインメントの現場での作業効率化を目的に開発されたものである。しかし、あまりにリアルで高精細であることから、悪用されるケースが増えたことで、昨今ではフェイク(ニセ)動画の代名詞になりつつある。(docomo busuiness Watchから抜粋)

(2024.3.8 追加)米国連邦取引委員会は2 年以上にわたる協議と検討を経て、2024 年 2 月 15 日、連邦取引委員会 (以下、「FTC」 または「委員会」という) は、「商業に関わる、または商業に影響を及ぼす」問題において政府機関または企業のなりすまし(impersonation)を禁止する規則を最終決定した。なお、AIの進歩により、最終決定された規則では不十分になったという。 そこでFTCは、「直接的または暗示的に、商取引において、または商取引に影響を与える個人を実質的かつ虚偽に装うこと」、または「直接的または暗示的に、重大な虚偽の表示をすること」をFTC法違反とする補足規則案を提案している。

 AI を利用したなりすましは、多くの場合、「ディープフェイク(deepfakes)」、つまり、個人が実際に言ったり行ったりしていないことを言ったり行ったりしているかのように見せる加工された画像、ビデオ、または録音の作成を通じて行われる。 最近の AI ツールの普及により、ディープフェイクの作成はかつてないほど簡単になり、規制当局や専門家は、ディープフェイクがすでにリベンジポルノの作成、誤った情報の拡散、消費者への詐欺に使用されているのではないかと懸念している。

(米国FTCの政府機関または企業のAIなりすまし(impersonation)を禁止する規則については、別途取りまとめる予定)

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わが国のAI立法の在り方を見据える観点からEUのAI規則案(AI法案:Artificial Intelligence Act)の最終段階を改めて探る(その1))

2024-03-06 10:24:35 | EUのAI規制法

Last Updated:March 14, 2024

 EU欧州議会は3月14日、史上初の人工知能(AI)法を可決した。 この法案は議員の85%の賛成多数で可決された。 AI システムがプライバシー、人間の尊厳、基本的権利を確実に守りながら、AI に関連するリスクを軽減することを目的としている。(2024.3.14 補追)

 ChatGPTなどの汎用人工知能(General-purpose AI models )テクノロジーは、AIシステムの構築と展開の方法を急速に変革している。これらのテクノロジーは今後数年間で大きなメリットをもたらし、多くのセクターでイノベーションを促進することが期待されているが、一方でその破壊的な性質は、プライバシーと知的財産権、責任と説明責任に関する政策問題等を提起する。

 そして、偽情報と誤った情報を広めるこれら技術導入の可能性についての大きな懸念も生じている。

 EU議会の議員は、適切な保護手段が整っていることを確認しながら、これらのテクノロジーの導入を促進することの間で微妙なバランスをとる必要があり、2018年以降取り組んできたAIに関する史上初の法的枠組みにつき、欧州議会は213 日、欧州議会の「域内市場および消費者保護に関する委員会IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (LIBE)」は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決、本年4月の最終可決段階に入る。

 本ブログは最終段階の法案の修正内容を改めて整理する目的でまとめた。また、ブログの執筆のあたり、欧州議会や委員会の公式資料だけでなく、EUの主要AI研究者の顔ぶれ等についても補足、言及した。(その他、欧州 AI 事務局(European AI Office)の青写真問題(注0)などがあるが、別途整理する)

 なお、本ブログで引用するとおり、わが国のAI法案の検討は2月中旬に自民党が「党AIの進化と実装に関する社会推進本部の下にあるプロジェクトチーム(PT、座長・平将明衆院議員)は、責任あるAI利活用を推進するための法制度の在り方について検討を進めている」という。

 また、文化庁は「公開時点において議論・検討中である AI と著作権に関する論点整理の項目立て及び記載内容案の概要」等を公開しているのみである。

  今回のブログは、2回に分けて掲載する。

1.EU委員会の AIに関する史上初の法的枠組み検討経緯(European approach to artificial intelligence Milestones)サイト解説

 欧州委員会サイト“European approach to artificial intelligence”から一部抜粋、仮訳する。

 同委員会はAIに関する史上初の法的枠組みを提案しており、これはAIのリスクに対処し、欧州が世界的に主導的な役割を果たす立場を確立するものである。

  AI 法は、AI の開発者、導入者、ユーザーに、AI の特定の用途に関する明確な要件と義務を提供することを目的としている。 同時に、この規則は企業、特に中小企業(SME)の管理的および財政的負担を軽減することを目指している。

 AI は、より広範な AI パッケージの一部であり、AI に関する最新の調整計画も含まれています。 規制の枠組みと調整計画が連携することで、AI に関して人々と企業の安全と基本的権利が保証される。 そして、EU全体でAIの導入、投資、イノベーションを強化することになる。

2.2021年以降のAI規則案(AI法案)の検討経緯

  前述のとおり、欧州委員会が2021年4月21日にAI規則案(AI法案)の検討開始を公表しているが、主要なAI規則案の検討経緯をまとめたレポートがあるので、以下引用する。

 2023年 7月 6日国際社会経済研究所 小泉雄介氏「EUのAI規則案の欧州議会修正案と顔識別システム等に対する規制動向」から以下、一部抜粋する。

◎AI規則案の審議状況

  • 欧州委員会が2021年4月21日にAI規則案(AI法案)を公表。
  • Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council Laying Down Harmonised Rules onArtificial Intelligence (Artificial Intelligence Act) and Amending Certain Union Legislative Acts」
  • EU理事会では2022年12月に合意案(general approach)を採択済み。
  • 欧州議会傘下のIMCO委員会とLIBE委員会で議会修正案に対する投票が2023年5月11日に行われ、賛成多数。 欧州委員会案に対する修正箇所が771件
  • 欧州議会は2023年6月14日の総会で議会修正案を採択。
  • 上記IMCO委員会とLIBE委員会が可決した議会修正案がそのまま採択された。
  • 中道右派のEPPはリアルタイムリモート生体識別の禁止から「犯罪被害者の捜索」や「テロ攻撃等の防止」の例外を残そうとしたが、失敗。
  • 今後、欧州委員会・欧州議会・EU理事会で非公式な三者協議(trilogue)が行われ、2023年内の合意が目指されている。早ければ、2024年春にAI規則(AI法)が制定される見込み。同規則の適用(施行)はその2年後。

3.2024 2 13 日、欧州議会の「域内市場および消費者保護に関する委員会(IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (LIBE)」は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決

 2024.2.28 Inside privacy blog EU AI : 侵害本文からの重要なポイントから抜粋、仮訳する。なお、必要に応じ筆者はリンクや注書きを追加した。

 2024 年 2 月 13 日、欧州議会の「域内市場および消費者保護に関する委員会(Committee on the Internal Market and Consumer Protection:IMCO)」と、「市民的自由・司法・内務委員会 (Commission des libertés civiles, de la justice et des affaires intérieures:LIBE)」 (以下、「議会委員会」という) は、EU が提案した AI 法案の採択を圧倒的多数で可決した。 これは、2月初めに閣僚理事会の常任代表委員会(Council of Ministers’ Permanent Representatives Committee (以下、「Coreper委員会」という)による文書承認の投票に続くものである。これにより、この法案は最終版に近づきつつある。 立法プロセスの最後のステップは欧州議会全体による投票であり、現時点では2024年4月に行われる予定である。

 Coreper 委員会と議会委員会によって承認された暫定合意法案には、以前の法案と比較して多くの重要な変更が含まれており、このブログでは以下のとおり、いくつかの重要なポイントを説明する。

(1) 汎用 AI モデル(General-purpose AI models)多くの議論の結果、最終法案は「汎用 AI (「GPAI」) 」モデルを規制することになるようである。 他の要件の中でも、GPAI モデルのプロバイダーは、特定の最小限の要素を含むモデルの技術文書を作成および維持し、これらのモデルを自社の AI システムに統合するプロバイダーに詳細な情報と文書を提供し、EU 著作権法を尊重するポリシーを採用し、GPAI モデルのトレーニングに使用されるコンテンツの「十分に」詳細な概要が公開されている。

(2) システミックリスクを伴う汎用 AI モデル: この法律は、「システミックリスクを伴う」GPAI モデルの提供者に高い義務を課している。 これらには、モデルの敵対的テストを含むモデル評価を実行し、起こり得る EU レベルのシステムリスクを評価および軽減し、適切なサイバーセキュリティ保護を確保するための要件が含まれる。

(3) 高リスク AI システムの適格性の例外: 本文の以前のバージョンと一致して、この法案の最も広範な義務は「高リスク」 AI システムに適用される。 この法律では、リスクの高い 2 種類の AI システムが特定されている。(注1)(1) 法案の附属書 II P.243以下 にリストされている特定の EU 法の対象となる製品 (または製品の安全コンポーネント) として使用されることを目的とした AI システム、および (2)  遠隔生体認証システムの特定の用途や法執行に使用される特定の AI システムなど、法案の附属書 IIIP.248以下に記載されている目的に使用される AI システム。 ただし、合意案にはこの要件の例外も含まれている。

 附属書 III の範囲内にある AI システムが「自然人の健康、安全、または基本的権利に危害を及ぼす重大なリスクを引き起こさない」場合、プロバイダーは文書化することができる。

 これに基づき、そのシステムをそのようなシステムに対するAI法の義務から除外される。EU加盟国の市場監視当局(注2)には、誤って分類されたとみなす理由があるシステムを評価し、是正措置を命令する権限が与えられている。

  また、プロバイダーが高リスク AI システムに対する義務の適用を回避するために AI システムを誤って分類したと市場監視当局が判断した場合、当該プロバイダーは罰金の対象となる。

(4) 銀行、保険会社、政府に対する顧客の基本的権利の影響評価(impact assessment): 公法に準拠する機関である派遣会社、公共サービスを提供する民間事業者、および (一部の例外を除く) 自然人の信用力を評価するために高リスクの AI システムを導入する事業者、または個人の信用スコアを評価したり、自然人の生命保険や健康保険に関連するリスクと価格を評価したりするには、P.247以下の附属書 III (ANNEX III High-risk AI systems referred to in article 6(2))(注1)にリストされている高リスク AI システムを導入する前に、基本的権利への影響評価を実行する必要がある。これには、これらの事業体は、以下を評価する必要がある。

①高リスク AI システムが意図された目的に沿って使用される導入者のプロセス。

②高リスク AI システムが使用される予定の期間と頻度の説明。

③特定の状況での使用によって影響を受ける可能性のある自然人およびグループのカテゴリー。

④法案第 13 条(P.108以下)に基づく透明性義務に従ってプロバイダーによって提供される情報を考慮した、影響を受ける可能性が高いと特定された個人または個人のグループのカテゴリーに影響を与える可能性がある危害の具体的なリスク。

⑤使用説明書に従った人間による監視措置の実施の説明。

➅内部ガバナンスおよび苦情メカニズムの取り決めを含む、これらのリスクが現実化した場合にとるべき措置。

(5)透明性義務: AI 法は、(1) 合成音声、画像、ビデオ、またはテキスト コンテンツを生成する AI および GPAI システムのプロバイダー、(2) 感情認識(注3)(注4)の導入者を含む、特定の AI システムおよび GPAI モデルのプロバイダーおよびユーザーに透明性義務を課している。 (3) ディープフェイクを構成する画像、音声、またはビデオ コンテンツを生成または操作する AI システムの導入者、および (4) 問題について公衆に知らせることを目的として公開されたテキストを生成または操作するシステムの導入者 公共の利益(この法案は、特定の附属書 III 高リスク AI システムの導入者に追加の透明性義務を課している。 場合によっては、コンテンツが人工的に生成または操作されたものであることを識別できるように、コンテンツに機械可読な方法でラベルを付ける必要がある。 AI 法案では、AI システムが芸術、風刺、創造、または同様の目的で使用される場合など、一部の状況では例外が規定されている。

(6)AI法の発効日: AI 法は EU 官報に掲載されてから 20 日後に発効し、通常、発効から 2 年後に組織に適用され始めるが、一部の例外がある。特定の AI 慣行の禁止は 6 か月後に適用される。GPAI モデルに関する規則は 12 か月後に適用される (この日より前に市場に投入された GPAI モデルを除き、これらはさらに 24 か月後に適用される)。法案附属書 II の高リスク AI システムに適用される規則は36 か月後に適用される。

3.EUのシンクタンクがEUの急速なAI技術の進展に対する一方でその破壊的な性質は、プライバシーと知的財産権、責任と説明責任に関する政策問題を提起するとともに偽情報と誤った情報を広めるAI技術者の取組みの可能性についての大きな懸念を表明

 2023.3.30「汎用人工知能のAt Glance」から一部抜粋、仮訳する。なお、ここに紹介されるAI研究者の論文等については別途本ブログでまとめたい。

EU AI法案における汎用AI(基礎モデル)

 EU議会の議員らは現在、「高リスク」AIシステムにEU内の一連の要件と義務を課す、AIに関するEU規制枠組みを定義するための長期交渉に取り組んでいる。 提案されている人工知能法案 (AI 法案) の正確な範囲は議論の骨子である。 欧州委員会の当初の提案には汎用 AI 技術に関する具体的な規定は含まれていなかったが、EU理事会はそれらを検討する必要があると提案した。 一方、科学者たちは、次のようなことが起こると警告している。

 将来の AI 法では、AI アプリケーションの特定の用途は規制されるものの、その基礎となる基盤モデルは規制されないため、意図された目的に応じて AI システムを高リスクかそうでないかに分類するアプローチは、汎用システムの抜け穴を生み出すことになる。

 これに関連して、Future of Life Institute などの多くのAI関係者は、汎用 AI を AI 法の範囲に含めるよう求めている。このアプローチを支持する一部の学者は、それに応じて提案を修正することを提案した。アムステル大学法学部教授Natali Helberger 氏と米国ノースウェスターン大学Communication Studies and Computer Science 教授Nick Diakopoulos 氏は、汎用 AI システム用に別のリスク カテゴリーを作成することを検討することを提案している。これらは、その特性に合った法的義務と要件、およびデジタルサービス法 (DSA) に基づくものと同様のシステミックリスク監視システムの対象となる。

Natali Helberger 氏

Nick Diakopoulos 氏

 フィッリプ・ハッカー(Philipp Hacker)氏(European New School of Digital Studies, European University Viadrina, Germany)、アンドレア・エンゲル(Andreas Engel)氏(Faculty of Law, Heidelberg University, Germany)、マルコ・マウアー(Marco Mauer)氏(Faculty of Law, Humboldt-University of Berlin)は、AI法は汎用AIのリスクの高い特定の用途に焦点を当て、透明性、リスク管理、非差別に関する義務を含めるべきだと主張している。 DSA のコンテンツ ・モデレーション(注5)・ルール (通知とアクションのメカニズムなど)および信頼できるフラッガーなど)を、そのような汎用 AI をカバーするように拡張する必要があると主張している。「Regulating ChatGPT and other Large Generative AI Models 」(注6)参照。

  1. 6.12 公表「ChatGPTおよびその他の大規模生成AIモデルの調整」参照。

Philipp Hacker 氏

Andreas Engel 氏

 サブリナ・キュスパール(Sabrina Küspert)氏(German tech think tank Stiftung Neue Verantwortung)(注7)、ニコラ・モエ( Nicolas Moës)氏(注8)、コナー・ダンロップ(Connor Dunlop)氏は、特にバリューチェーンの複雑さに対処し、オープンソース戦略を考慮し、コンプライアンスとポリシー施行をさまざまなビジネスモデルに適応させることによって、汎用AI規制を将来にわたって使用できるものにするよう求めている。 アレックス・エングラー(Alex Engler)氏(注9)とアンドレア・レンダ(Andrea Renda)氏(注10)にとって、この法律はリスクの高いAIシステムでの汎用AI利用のためのAPIアクセスを阻止し、汎用AIシステムプロバイダーに対するソフトコミットメント(自主的な行動規範など)を導入し、バリューチェーンに沿ったプレーヤーの責任を明確にするべきであると指摘している。

Sabrina Küspert 氏

Nicolas  Moës 氏

Connor Dunlop氏

Alex C.Engler 氏

Andrea Renda 氏

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(注0)2024.3.7 追加 3月7日欧州委員会は以下のリリースを行った。仮訳する。

2024.3.7 欧州委員会「欧州連合 AI オフィスでの雇用機会活動開始」

  欧州委員会は、欧州連合AI事務局の新しいメンバーを募集するための関心表明の募集を2分野で開始した。 信頼できる AI を形成するユニークな機会を得るために、テクノロジー スペシャリストまたは管理アシスタントとして今すぐ応募されたい。

 欧州連合 AI オフィス(European AI Office)は、最初の雇用活動を開始した。 EU の AI 専門知識の中心地として、欧州連合AIオフィスは、AI 法の施行、特に汎用 AI(general-purpose AI) に関して重要な役割を果たし、信頼できる AI の開発と使用、および国際協力を促進する。今回の最初の採用ラウンドでは、(1)テクノロジーのスペシャリストと(2)管理事務補助スタッフ(administrative assistants)を募集している。

 関心表明の申込期限は、2024 年 3 月 27 日の 12:00 CET である。 テクノロジースペシャリストと管理事務補助スタッフのそれぞれの応募フォームを通じて興味を表明できる。

我われの協力は、情熱を持った個人にとって、ヨーロッパやその他の国で信頼できる AI の形成に大きく貢献できる、ユニークでスリリングな機会を提供する。 我われは、AI に関する世界初の包括的な法的枠組みとして AI 法を施行し、信頼できる AI への世界的なアプローチに向けて取り組んでいく。 AI オフィスは、コミュニケーションネットワーク・コンテンツと技術総局(DG-CONNECT)の一部として欧州委員会内に設立され、世界的な AI 政策とイノベーションの最前線に立っている。(以下、略す)

(注1) AI法案第 6 条 (2) に基づく高リスク AI システムとは、以下のいずれかの分野にリストされている AI システムをいう。

ANNEX III High-risk AI systems referred to in article 6(2)(P.222以下)を仮訳する。

1.関連する欧州連合法または参加国の国内法で使用が許可されている限り、生体認証:

 (a) 遠隔生体認証識別システム。 これには、特定の自然人が本人であると主張する本人であることを確認することを唯一の目的とする生体認証に使用することを目的とした AI システムは含まれないものとする。

 (aa) 機密属性または保護された属性または特性の推論に基づく、生体認証の分類に使用することを目的とした AI システム。

 (ab) 感情認識に使用することを目的とした AI システム。

2.重要なインフラストラクチャ: (a) 重要なデジタル・インフラストラクチャ、道路交通、水道、ガス、暖房、電気の供給の管理と運用における安全コンポーネントとして使用することを目的とした AI システム。

3.教育および職業訓練

(a)あらゆるレベルの教育および職業訓練機関へのアクセスまたは入学を決定する、または自然人を割り当てるために使用されることを目的とした AI システム。

 (b) 学習成果を評価するために使用することを目的とした AI システム。これには、あらゆるレベルの教育機関および職業訓練機関における自然人の学習プロセスを導くためにその成果が使用される場合も含まれます。

 (ba) 教育および職業訓練機関内で、またはその内部で、個人が受ける、またはアクセスできる適切な教育レベルを評価する目的で使用されることを目的とした AI システム。

(bb) 教育および職業訓練機関内でのテスト中の学生の禁止行為を監視および検出するために使用することを目的とした AI システム。

4.雇用、労働者の管理、および自営業へのアクセス:

(a) 自然人の採用または選択、特にターゲットを絞った求人広告の掲載、求人応募の分析とフィルタリング、および候補者の評価に使用することを目的とした AI システム。

 (b) 仕事関連の関係条件、仕事関連の契約関係の促進と終了に影響を与える決定を下し、個人の行動や個人の特性や特性に基づいてタスクを割り当て、従業員のパフォーマンスと行動を監視および評価するために使用されることを目的とした AI そのような関係にある人。

5.必須の民間サービスおよび必須の公共サービスおよび給付金へのアクセスおよび享受:

(a) 必須の公的扶助給付金およびサービスに対する自然人の適格性を評価するために、公的機関または公的機関に代わって使用されることを目的とした AI システム。 ヘルスケア サービス、およびそのような特典やサービスの付与、削減、取り消し、または回収を含む。

 (b) 金融詐欺を検出する目的で使用される AI システムを除く、自然人の信用度を評価したり、信用スコアを確立したりするために使用することを目的とした AI システム。

 (c) 自然人による緊急通報を評価および分類することを目的とした AI システム、または警察、消防士、医療援助や救急医療を含む緊急初期対応サービスの派遣、または派遣における優先順位の確立に使用することを目的とした AI システム 患者トリアージシステム。

 (ca) 生命保険や健康保険の場合、自然人に関するリスク評価と価格設定に使用することを目的とした AI システム。

6.関連する連合法または加盟国の国内法で使用が許可されている場合の法執行機関:

(a) 自然人が被害者になるリスクを評価するために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、代理店、事務所もしくは団体によって、または法執行機関に代わって使用されることを目的とした事犯罪の AI システム 刑。

 (b) 法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、団体、機関によって、ポリグラフや同様のツールとして使用されることを目的とした AI システム。

 (d) 刑事犯罪の捜査または訴追の過程で証拠の信頼性を評価するために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、あるいは法執行機関を支援する連合の機関、機関、事務所もしくは団体によって使用されることを目的とした AI システム

 (e) 法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関、代理店、事務所もしくは団体によって、単独ではなく自然人の犯罪または再犯のリスクを評価するために使用されることを目的とした AI システム 指令 (EU) 2016/680 の第 3 条(4) に記載されている自然人のプロファイリング、または自然人または集団の性格特性および特性、または過去の犯罪行為を評価すること。

 (f) 指令第 3 条 (4) に記載されている自然人のプロファイリングのために、法執行機関によって、または法執行機関に代わって、または法執行機関を支援する連合機関の機関、機関、事務所、または団体によって使用されることを目的とした AI システム (EU) 2016/680 刑事犯罪の発見、捜査、または起訴の過程において。

7.関連する連合法または国内法で使用が許可されている場合に限り、移住、亡命、および国境管理の管理:

(a) 管轄の公的機関によってポリグラフおよび同様のツールとして使用されることを目的とした AI システム。

 (b) 自然災害によってもたらされる安全上のリスク、不規則な移住のリスク、または健康上のリスクを含むリスクを評価するために、権限のある公的機関、またはその代理として、または連合の機関、事務所、団体によって使用されることを目的とした AI システム。 加盟国の領土に入国しようとする、または加盟国の領土に入った人。

(d) 庇護、ビザ、居住許可の申請および資格に関する関連する苦情の審査のために管轄の公的当局を支援するために、管轄の公的当局によって、またはその代理として、または連合の機関、事務所、団体によって使用されることを目的とした AI システム。 証拠の信頼性に関する関連評価を含む、ステータスを申請する自然人の情報。

 (da) 移住、亡命、国境管理の文脈において、以下の症状を有する自然人を検出、認識、または識別する目的で、連合機関、事務所、または団体を含む権限のある公的機関によって、またはその代理として使用されることを目的とした AI システム。 渡航書類の確認を除く。

8.司法の管理と民主的プロセス:

(a) 司法当局による、またはその代理として、司法当局が事実と法律を調査および解釈し、法律を一連の具体的な事実に適用するのを支援するために使用することを目的とした AI システム または裁判外紛争解決において同様の方法で使用されます。

 (aa) 選挙や国民投票の結果、あるいは選挙や国民投票における自然人の投票行動に影響を与えるために使用されることを目的とした AI システム。 これには、管理上およびロジスティック上の観点から政治キャンペーンを組織、最適化、構築するために使用されるツールなど、自然人が出力に直接さらされない AI システムは含まれない。

(注2) 市場監視当局の役割につき欧州委員会サイトから抜粋、仮訳した(加盟国の市場監視当局詳細内容は、EUサイト参照)

 市場監視は、市場にある製品が適用される法律や規制に準拠し、既存の EU の健康と安全要件に準拠していることを確認するために当局によって実施される活動である。 欧州市場の安全を維持し、消費者と経済運営者間の信頼を育むことが重要である。また、準拠する企業に対して平等な競争条件を維持し、不正なトレーダーによる市場シェアの損失を回避するのにも役立つ。

 市場監視には、市場の監視と制御、必要に応じて是正措置や罰則の賦課を含むあらゆる範囲の行為が含まれる。 これには、当局と経済事業者(メーカー、輸入業者、流通業者、オンラインプラットフォーム、小売店)、および消費者および消費者団体との密接な接触が含まれる。

 EU では、各国の市場監視当局が市場監視を実施する責任を負う。 また、危険な製品を発見した場合には適切な措置を講じる責任もある。この目的を達成するため、検査用のサンプルを採取したり、実店舗だけでなくオンライン市場からサンプルを集めて専門の研究所でテストしたりすることもある。

 さらに市場監視当局は税関と緊密に連携しており、安全でない製品や規格に準拠していない製品が EU 市場に流入するのを防ぐことができ、輸入品を管理する最初のフィルターとなる。

(注3) EUのAI規則案の定義

・ 「感情認識システム(emotion recognition system)とは、生体データに基づいて自然人の感情または意図を識別または推測することを目的としたAIシステムを意味する。」(AI規則案第3条(34):  ‘emotion recognition system’ means an AI system for the purpose of identifying or inferring emotions or intentions of natural persons on the basis of their biometric data;

 ・感情認識技術は比較的新しい技術として、様々なサービスへの応用が期待されており、日本でも人事採用やドライバーモニタリング、マーケティング、パブリックセキュリティ等の分野で実用化されつつある。

 ・しかし欧米では、感情認識技術に対して様々な懸念・批判が専門家・市民団体・メディア等から提示されている。

・EUのAI規則案など、感情認識技術の使用を法令やガイドラインで規制しようとする動きが2021年になって顕著になりつつある。(2022年5月(株)国際社会経済研究所 小泉 雄介氏の鋭い分析「海外における感情認識サービスと規制の動向」から抜粋)。

 (注4) 感情認識技術に対する主な懸念・批判は、以下の4点にまとめることができる。

(1)個人に対する透明性の欠如。

(2)感情認識技術は科学的根拠が薄弱である。

(3)内心の自由・表現の自由などの基本的権利を侵害する

(4)感情認識技術における偏見・先入感

(注5) 不正・不適切な投稿内容監視(content modulation)とは、誤った情報であると判断された音声やコンテンツの配信を制限、制約、削除する、または誤った情報であると判断された音声やコンテンツに対して発言者を制裁するための、ソーシャル メディア プラットフォームによるあらゆる行為を意味する。(Law Insiderから抜粋、仮訳)

(注6) この論文につき機械翻訳を読んでみた。

「ChatGPTと他の大規模生成AIモデルの調節【JST・京大機械翻訳】」を一部抜粋する。特に専門用語については注記がないととても理解できない。ちなみに、筆者なりに赤字で補足した。

抄録/ポイント:

ChatGPT,GPT-4または安定拡散(画像生成AI(Stable Diffusion)とは、ユーザーが入力したテキストを頼りに、AIがオリジナルの画像を数秒~数十秒程度で自動生成するシステムを指す。日本でよく知られている画像生成AIには「Stable Diffusion(ステーブルディフュージョン)」や「Midjourney(ミッドジャーニー)」があり、デザイン業界の常識を覆す存在として注目を浴びている)のような大規模生成AIモデル(LGAIM)は,著者らが通信し,説明し,創造する方法を迅速に変換する。しかし,EUとそれ以上(以外の地域)におけるAI調節は,LGAIMではなく,従来のAIモデルに主に焦点を合わせている。本論文は,信頼できるAI規制に関する現在の議論において,これらの新しい生成モデルをin situ化し(据えて),その法則がそれらの能力にいかに調整できるかを問う。技術的基礎を敷設した後,論文の法的部分は,(1)直接規制,(2)データ保護,(3)コンテンツ・モデレーション(ウェブサイトまたはSNSに投稿されたコンテンツをチェックし、不適切なものを削除する作業),(4)政策提案をカバーする4段階で進行する。それは,LGAIM開発者,展開者,専門的および非専門的(家)ユーザー,ならびにLGAIM出力のレシピエントを区別することにより,LGAIM設定におけるAI値チェーンを捉える新しい用語を示唆する。(以下、略す)

Large generative AI models (LGAIMs), such as ChatGPT, GPT-4 or Stable Diffusion, are rapidly transforming the way we communicate, illustrate, and create. However, AI regulation, in the EU and beyond, has primarily focused on conventional AI models, not LGAIMs. This paper will situate these new generative models in the current debate on trustworthy AI regulation, and ask how the law can be tailored to their capabilities. After laying technical foundations, the legal part of the paper proceeds in four steps, covering (1) direct regulation, (2) data protection, (3) content moderation, and (4) policy proposals. It suggests a novel terminology to capture the AI value chain in LGAIM settings by differentiating between LGAIM developers, deployers, professional and non-professional users, as well as recipients of LGAIM output. We tailor regulatory duties to these different actors along the value chain and suggest strategies to ensure that LGAIMs are trustworthy and deployed for the benefit of society at large. Rules in the AI Act and other direct regulation must match the specificities of pre-trained models. The paper argues for three layers of obligations concerning LGAIMs (minimum standards for all LGAIMs; high-risk obligations for high-risk use cases; collaborations along the AI value chain).

(注7) 2023.2.10 Blog  Sabrina Küspert , Nicolas Moës , Connor Dunlop共著「The value chain of general-purpose AI」:A closer look at the implications of API and open-source accessible GPAI for the EU AI Act

(注8) ニコラス氏は、地政学、経済、産業に対する汎用人工知能 (GPAI) の影響に焦点を当てたトレーニングを受けたベルギーの経済学者です。 彼は 独立系NPO“The Future Society” のエグゼクティブ・ ディレクターを務めており、組織の管理、戦略、ステークホルダーとの関わりに取り組んでいる。 彼は以前、AI を取り巻く法的枠組みにおけるヨーロッパの発展を研究および監視しており、EU AI 法の起草とその施行メカニズムの構築に積極的に取り組んでいる。

 ニコラス氏は、国際標準化機構の SC42 および CEN-CENELEC JTC 21 の人工知能委員会のベルギー代表として、AI 標準化の取り組みにも携わっている。 ニコラス氏は、OECD.AI 政策監視機関の AI インシデントおよびリスクと説明責任に関する作業部会の専門家である。 The Future Society に入社する前は、ブリュッセルに本拠を置く経済政策シンクタンク、ブリューゲルで EU のテクノロジー、AI、イノベーション戦略に携わっていた。 彼の出版物は AI と自動化の影響に焦点を当てていますが、世界貿易と投資、EU と中国の関係、大西洋を越えたパートナーシップに関する研究も行っている。

(注9) Alex C. Engler氏 は、Senior Policy Advisor, AI @ White House Office of Science and Technology Policy

ブルッキングス研究所のガバナンス研究フェローであり、人工知能と新興データ技術が社会とガバナンスに与える影響を研究している。

(注10)Andrea Renda氏はSenior Research Fellow and Head of Global Governance, Regulation, Innovation and the Digital Economy (GRID) - Centre for European Policy Studies.

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