3.OIGフォローアップ結果報告の概要
2016年10月14日、米国の国土安全保障省の監察総監部(OIG)は、シークレット・サービス(USSS)でIT管理に関する調査結果によると問題がある旨の新レポートを公表した。その監査報告(標題は「合衆国シークレットサービスは機微情報管理システムおよびデータの保護に関し挑戦すべき課題(OIG-17-01)」)は、以前OIGが独立して行ったシークレット・サービスの従業員の不正アクセスおよびOIGの以前に行った独立調査におけるシークレット・サービス・データベースに含まれる連邦議会議員下院議員ジェイソン・シャフィッツに関する情報の公開に関する報告のフォローアップといえるものである。
1.で.前述した2015年9月25日の調査報告において、DHS-OIGは約60の異なる事象において、45人のシークレット・サービスの従業員がジェイソン・シャフィッツ下院議員(米連邦議会下院特別委員会「行政監視・政府改革委員会(House Committee on Oversight and Government Reform)」の委員長)の2003年の求職申し込みに関係するデータベース情報に不正にアクセスしたことを明らかにした。情報にアクセスした大人数といえる45人のDHS・USSSの従業員は、1978年プライバシー法(シークレットサービス・DHSプライバシー・ポリシーだけでなく)に違反した。このエピソードは、DHS OIGにシークレットサービスITシステム上で適所に保護の効果についても監査を実行させた。
監察結果によると、1)不十分なシステム・セキュリティ計画を含むシークレットサービスのIT管理、2)運用の有効期限がきれたシステムの運用、3)適切でないアクセス管理と監査による管理、4)論理的アクセス条件の不遵守、5)不十分なプライバシー保護と記録の過度にわたる長期の保持など、無数の問題が明らかとなった。OIGは、歴史的にみてシークレット・サービスがそれの問題につきプライオリティーを与えなかったため、シークレット・サービスのIT管理が効果がなかったと結論づけた。
また、6)シークレット・サービスの最高情報責任者(chief information officer)は統制権限が欠如しており、不十分な内容の注意はIT方針を更新することのみに配慮されていた。そして、7)シークレット・サービス要員はIT保安とプライバシーに関して十分な教育訓練が実行されていなかった。OIGは全部で11項目の勧告を行ない。そして、シークレット・サービスはOIG勧告に示された改善処置(corrective actions)をとることに同意した。
DHSの監察総監ジョン・ロスは「今回のOIGレポートは、シークレット・サービス・システムの受け入れがたい脆弱さを明らかにした.。シークレット・サービスが昨年後半IT改善を開始する一方で、それら変更、改善は完全に行われた。そして、今回の勧告内容は実行されたが、シャフィッツ委員長の個人情報への違法アクセスに類似の事故の可能性は残る」と述べた。
4.連邦法執行官吏の法令遵守意識や職業上のモラルと俸給水準
筆者の私見を述べる。
(1)上級幹部SESを含むUSSS職員の行動規範、倫理規範や罰則の概要
前述した「1.2015年9月25日のOIG報告の概要」で述べた監察報告を良く読むと、今回浮かび上がったUSSSの諸問題は果たして下級官吏だけでなく上級幹部まで巻き込んだ今回の事件の根は深いと考えるのが一般的であろう。
(2) 俸給水準
シャフィッツ下院議員がチャレンジしたように、USSS職員は連邦の公務員中のエリートであることは間違いない。他方、その処遇は民間部門と比較していかがであろうか。シークレットサービスの要員は大統領をはじめ内外の要人警備が主要任務である。体を張っての警備・警護が主たる任務である。米国の民間ガードマン会社の俸給水準との比較は差し控えるが、決して高いレベルとは思えない。
筆者が調べた範囲で米国の具体的俸給額一覧等を参考までに記しておく。なお、この数字はあくまで年俸レベルの比較であり、福利厚生面や年金等の問題はあえて記していない。
一般俸給表と上級管理職(課長・局長等)の俸給表と比較すると、わが国ほどは差が大きくないといえるかもしれない。
①米国人事管理局(OPM)サイトの俸給表:わが国人事院の「諸外国の国家公務員制度の概要(平成27年10月更新)」もデータが更新されている
②米国連邦人事管理局(OPM)の国家公務員の一般給与の俸給表の計算サイト
(3) 上級幹部の責任範囲の下級職員の責任範囲の格差
前記1.の監察報告の結論部分でロス監察総監がいみじくも指摘している通り、USSSの報告・管理、教育体制の不備の最大の責任は、局長を始めとする上層幹部(SES)であろう。USSSのイメージは屈強な大統領等要人のガードマンであるだけでなく、法執行官であることを改めて理解すべきであるし、そのような観点から改めての綱紀の見直しを行うべき時期にあろう。
2015年7月17日のUSSS局長の書面証言の「添付資料A:シークレット・サービス罰則一覧」である。わが国ではほとんど紹介されているものはないと思われるのでここで仮訳する。
A.はじめに
「アメリカ合衆国シークレット サービス (シークレット サービス) 罰則一覧(United States Secret Service’s (Secret Service) Table of Penalties)」は、一般的な犯罪のための適切な矯正(corrective)、懲罰(disciplinary)、または不利益な人事措置(adverse actions)の決定におけるガイドとして機能するものであり、すべての以前の政策や懲罰対象犯罪と罰則に関する規定に優先される。.
B.罰則表に記載されている「犯罪分類コード(Offense Codes)」は、すべての可能な犯罪をカバーしていないが、USSSの従業員による犯したり義務違反により処罰の対象となる違法行為に関する一般的説明を定める。
このような違法行為をカバーする特定の犯罪分類コードの欠如は、それらの行為が大目に見たり(condoned)、容認されたりすることを意味せず、あるいは懲罰(disciplinar)や不利益な人事措置(adverse action)が与えらる結果とはならない。
犯罪分類コードに記載されない犯罪は別に特定され、適切な懲罰や不利益な人事措置がなされる可能があり、違法行為と従業員のサービスの効果を結合した統合評価が行われる。
C.従業員は、彼らの指揮系統(chain of command)またはDHS監察部ホットライン(Inspection Division Hotline) またはDHS・OIGホットライン(DHS Office of the Inspector General hotline への他の従業員による罰則一覧に記載される違法行為が行われたことを示す情報の報告義務と期待が示されている。
D. 監督者は違反を含む従業員の定められた罰則一覧に記載された違法行為につき、命令系統を通じて報告する義務がある。このポリシーに必要な情報を報告する監督者責任の懈怠は懲罰を受ける可能性がある。犯罪分類コード 5.6 参照。
E.罰則を決定する際に考慮される処罰範囲と要因
シークレットサービスの罰則ガイドラインは、標準刑罰(刑の軽減された範囲および刑が加重された範囲内)に関して定められる。適切な処罰の選択は、確実に各々のケースにおける関連した要因とバランスをとることが必要である。
罰則ガイドラインに記載されている処罰の軽減と加重の要因は、特定のケースの状況に応じて上げられたり、下げられることに起因するある特定の要因についての一般的な説明である。罰則ガイドラインに記載されている要因は、例示的で包括的ではない。
これに加え、以下に掲げる1981年に「メリットシステム保護委員会(Merit Systems Protection Board:MSPB) 」 (筆者注14)が定めた「ダグラス要因(Douglas Factors)」 (筆者注15) 、は罰則を決定する前にあらゆる場合に考慮される。これらの要因の全てがあらゆるケースに適用できるというわけではなく、また決定る責任者は関連者の処罰とのバランスをとる必要がある。
F.「ダグラス要因」は以下のとおりである。
1)罪が意図的だったか技術的だったか不注意だったか、悪意をもっていたか、または、稼ぐ目的を持っていたか、頻繁に繰り返しているかなどにつき、罪の性格と重大性および従業員の仕事上の立場ならびに責任。
2) 従業員は、監督または被受託者たる役割を含むか、大衆との接触や地位が卓越した位置をもつかどうかという仕事上のレベルとタイプ
3) 従業員の過去における懲罰記録
4) 従業員の勤務年数、勤務中の実行能力、同僚とうまくやっていく能力などの過去の労働記録
5) 従業員の満足度レベルにかかる遂行能力に対する処罰の効果および指定された従業員の遂行能力に対すると監督者の実行する従業員の能力に対する監督の信頼効果
6)同一あるいは類似した犯罪を犯した他の従業員に科した罪との一貫性
7) 適用できる機関におけるあらゆる罰則表との一貫性
8)罪の悪評度または当該連邦機関の評判への影響
9)従業員が罪を犯した際に違反されたいかなる規則の通知の上にあったか、または問題となった実行行為について警告されたか否かについての明快さ
10) 従業員がリハビリテーションを受ける可能性
11) 異常な仕事上の緊張、個人的な問題、精神的欠陥、いやがらせまたは不誠実、問題に関係する他の者への悪意または挑発のような罪を囲んでいると酌量すべき情状
12)従業員またはその他の者によって将来そのような実施を阻止する他の制裁内容の適切性と効果
G.不正行為に対する処罰は、すべての利用できる情報の完全で公平な考慮の後のみ軽減または加重される。罰則表は、類似した罪に対する類似した処罰の一貫したアプリケーションを確実にするのを手伝うガイドである。罰則の選択が、常に事実にふさわしくなければならないの。犯罪分類コードや罰則ガイドラインで引用される、制定法、規則やポリシーは厳格な点でユーザの便宜性を提供する。
制定法や規則やポリシーの特定の参照は、犯罪分類コードや罰則ガイドラインまたはペナルティ・ガイドラインの法規、規制または方針の違反行為を特定する唯一のものであることを意味しない。刑事法令や行為が参照されるとしても、犯罪の法規または行いがあげられるかもしれないが、懲罰目的のために必要とされる証明のレベルは刑事告発のために必要とされるレベルまでは上らない。
「停職処分(Suspensions )」は暦日で(仕事日でない)に課され、他の処分と並行して取り扱われることを目的とする。たとえ彼らが特に罰則ガイドラインの罰で指定されないとしても、「降格(Demotions)」も適切な懲罰処分と思われうる。(さらなるガイダンスのために指定されたシークレット・サービスの従業員関係当局(人事部)と相談されたい。)
H.各罰則の組み合わせ
複数の罪が従業員に対して科される場合、処罰は合計されるかもしれない。しかし、実証された容疑が基本的に同じ不正行為の場合、懲罰処分を提案する際に、提案する当局者は、複数の罰則を評価しない。
さらに、従業員が1つ以上の複数の種類の罪を犯した場合、1つの罪が単独でより高い処罰または解任に必ずしも終わるというわけではないときでも、従業員は解任を含むより高い処罰の対象となる場合がある。
I.違法行為と業務遂行効果のと結合
地位や肩書きに関係なく、ここにリストされた罪はすべてのシークレット・サービス要員に適用される。法執行官、監督官吏は、他の従業員より高い行為基準を保持されうる。
従業員は、非番時に起こる不正行為のために処罰されるかもしれない。そのような状況では、結合関係が従業員の不正行為とシークレット・サービスの効率化の間になければならない。
シークレットサービスの任務に係る不正行為の不正行為、完全性、正直度または従業員の判断、さらに他の類似して関連する要因につき、シークレットサービスの違法行為から生じた広報または悪評の任務に対する効果によって、その統合が確立されるかもしれない。
H.上級管理職(Senior Executive Service :SES)の処分
連邦行政規則集第5卷752節601条(Title 5 of the Code of Federal Regulations, section 752.601)は、SESメンバーの違法行為に対し15日未満の不利益な人事処分((adverse actions))を受け得ないと明記する。したがって、罰則ガイドラインでは違法行為に対し、SES従業員には制裁処分を科せないため、1日~14日間の停職処分を定める。処分決定権を有する官吏は処文案作成並びにその決定を行う時に、3日間以上の停職処分を結論づけるが、15日未満の停職処分も適法であり、一般的に最低15日間の定職処分を受ける。
プロポーズしていて決めている決定権のある官吏が1日から3日間の定職処分が適切であると結論するとき、SES従業員は15日間の最低限の定職処分よりもむしろ懲戒文の手紙を受け取るかもしれない。
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(筆者注14) 「メリットシステム保護委員会」の役割は次のとおり。
○法令で定められた事項(不利益処分、勤務評等)の審査、判定及び最終処分
○行政機関又は職員に対して、委員会が発する 命令又は決定を遵守するよう命じること
○行政部門内のメリットシステムに関する特別調査の実 施及び大統領・議会への報告
○人事管理庁の規則及び細則の審査
○宣誓させ、証人を調べ、証言を得、証拠を収集 すること
○大統領又は議会に対し、委員会の職務に関する立法についての勧告
委員は3名、大統領の任命、上院の助言と同意。委員長(1名)及び副委員長(1名)は委員の中より大統領の指名。委員の任期は7年。特別顧問は司法官の中より大統領の任命、上院の助言と同意。特別顧問の任期は5年。
(行政改革推進本部専門調査会・第13回 平成19年9月7日(金)参考1「主要先進国(米、英、独、仏)における中央人事行政機関の状況」から一部抜粋)。
なお、MSPBのHP の任務の解説を原文で読むと次のとおりである。上記の専門委員会資料の説明と異なる点もあり、あえて仮訳する。
メリットシステム保護委員会は、連邦公務員の処遇の公平性などの保護者となる行政執行機関内の独立した準司法機関である。同委員会は1978年の再建計画No.2にもとづき設けられ、1978年連邦公務員法改革法(CSRA)(公法No.95-454)によって成文化された。
①委員会に持ち出された人事機関からの上訴である場合の差別の申立事案を除き、差別の申立に関する聴取と決定を行う。その責任は、平等雇用機会委員会 (Equal Employment Opportunity Commission :EEOC) に帰属する。
②不公平な労働慣行に関する苦情、仲裁裁定の例外事案の交渉および紛争を仲裁する。その責任は、連邦労働関局 (FLRA) に属する。
③雇用、検査、配属、退職および雇用利点等に関するアドバイスを提供する。その責任は、人事管理事務所 (OPM) に帰属する。
④ 公務員法、規則または規則によって禁止される活動の申立の調査を行ない、その責任は、特別顧問局(Office of Special Counsel :OSC)に属する。
⑤ 連邦捜査局(FBI)とともに、従業員からをファイルされる内部通報の報復措置の主張または採用申立の事実の調査と決定。その責任は、米国司法省の、弁護士採用・管理局(U.S. Department of Justice, Office of Attorney Recruitment and Management (OARM)に属する。(OARMは、高い能力のある多様な人材を引きつけることを目的として、法科学生と弁護士のために司法省の援助活動と新人募集運動を監督する機関である)
⑥ 民間企業、地方、市、郡または州の従業員からの非連邦裁判所以外の控訴に対する司法権を持つ。
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(筆者注15) ダグラス要因(Douglas Factors)の意義
ダグラス処罰考慮要因とは、1981年ダグラス対復員軍人庁事案で決定されたルール(5 MSPR 280 (at 305-6), 1981])で、連邦政府の従業員の不正行為と機関が行うサービスの効率化の間でその関係または結びつきを考慮した職員に対する適切な処罰を決定するため、MSPB(メリットシステム保護委員会)によって特定された12の関連要因をいう。.
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