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情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

日本における血糖値監視デバイスの利用を巡る米国食品医薬品局(FDA)の警告文書とその意義および健康監視デバイスの新規参入動向

2024-02-24 09:26:17 | 海外の医療最前線

 わが国のメデイアでは毎日のように生活習慣病である高血圧や高血糖値の予防が報じられている。その中で、スマートウオッチによる血圧、心電図(注1)等の健康状態のモニタリング機能を宣伝するサイトが多くなっている。

 今回のブログは、2018年ころからApple Watch等により活発になりつつある血糖値のモニタリング機能付きスマートウオッチに注目し、先手を打った米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)のFDA の安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)の意義を明らかにするため、以下の項目につき解説を試みるものである。なお、今のところこの問題につき、わが国厚生労働省の具体的対応は見えてこない。

  (1)高血糖値のリスクの概要の説明、(2)FDAの警告内容のわが国のメデイアの記事概要、(3) 今回のFDAの警告は厚生労働省の安全サイトでは取り上げられていない、(4) ネット広告では、スマートウォッチ(Smartwatches)やスマートリング(Smart Rings) のうち特にスマートウォッチの血糖値モニタリング機能広告での使用例、(5) わが国では、まだ普及がいまいちである健康管理スマートリングの機能の概観とFDAのスマートデバイスの認可動向である。

1.高血糖値のリスクの概要の説明例

(1) Kyowa Kirin Co., Ltd. 「糖 尿 病 っ て ど ん な 病 気 ?」から一部抜粋する。

糖尿病の診断には、血液検査が必要です。次の4項目を測定します。

①HbA1c(ヘモグロビンA1c)

②早朝空腹時血糖値

③75gOGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)

④随時血糖値

(2) 2022.2.10 NHK 東京慈恵会医科大学 主任教授 西村 理明「血糖値を24時間モニターできる装置で隠れた高血糖・低血糖を発見」参照。

2.Apple Watch等も目指す血糖値測定機能についてFDAがスマートウォッチの非穿刺型(注2)血糖値測定機能を使用しないでと警告を報じるわが国のメディア記事例

(1)2024年2月22日、Forbes japan記事「 Apple Watchも目指す血糖値測定機能について規制当局のFDAが「スマートウォッチの非穿刺型(注2)の血糖値測定機能を使用しないで」と警告

 AppleはApple Watchの新機能として血糖値測定機能を計画していると長らくウワサされている。しかし、スマートウォッチなどで非穿刺的な方法で血糖値を測定する機能について、アメリカの規制当局であるアメリカ食品医薬品局(FDA)が反対の姿勢を表明した。

(2) 2024年2月22日、Gigazine.net記事「Apple Watchも目指す血糖値測定機能について規制当局のFDAが「スマートウォッチの非侵襲的な血糖値測定機能を使用しないで」と警告」 この記事はFDA Communication等にリンクを貼っている。

3.FDAの警告文書

 (1)今回のFDAの警告は厚生労働省の安全サイトでは取り上げられていない

 現時点で厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報」には出てこない。

(2)  FDAの安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)の意義の警告内容

2024.2.21 FDA「血糖値の測定にスマートウォッチやスマート リングを使用しないでください: FDA Safety Communicationを以下、仮訳する。

■米国連邦保健福祉省・食品医薬品局(FDA)は、消費者、患者、介護者、医療提供者に対し、非穿刺型の血糖値(血糖値)を測定できると広告等で主張するスマートウォッチやスマートリングの使用に関連するリスクについて警告する。

 これらのデバイスは、持続血糖モニター(continuous glucose monitoring devices :CGM) デバイスなど、穿刺型 FDA 認可の血糖測定デバイスからのデータを表示するスマートウォッチ ・アプリケーションとは異なる。

FDA は、血糖値を独自の方法で測定または推定することを目的としたスマートウォッチまたはスマートリングは正式認可(authorized)、認可(cleared)、承認(approved)していない。

■糖尿病患者の場合、不正確な血糖値測定(モニタリング)は、インスリン(insulin)、スルホニルウレア剤(sulfonylureas)(注3)、または血糖を急激に下げる可能性のあるその他の薬剤の誤った用量の摂取など、糖尿病管理における誤りにつながる可能性がある。すなわち これらの薬を過剰に摂取すると、すぐに危険な低血糖状態に陥り、誤って数時間以内に精神的混乱、昏睡、または死に至る可能性がある。

■消費者、患者、介護者への推奨事項

① 血糖値を測定すると宣伝・主張するスマートウォッチやスマートリングを購入または使用しないでください。 これらのデバイスは、医師の診断を介せずオンライン マーケットプレイスを通じて、または販売者から直接販売される場合がある。

 ②これらの機器の安全性と有効性は FDA によって審査されていないため、これらの機器を使用すると血糖値が不正確に測定される可能性ならびに過剰な薬の投与があることに注意されたい。

 ③医療ケアが正確な血糖値測定に依存している場合は、あなたのニーズに合った適切な FDA 認可の機器について必ず医療提供者に相談されたい。

■医療提供者への勧奨事項

①消費者、患者、介護者向けの推奨事項を読んでそれに従ってください。

② 未承認の血糖測定装置を使用するリスクについて患者と話し合ってください。

③必要に応じて、患者が適切な FDA 認可の血糖測定装置を選択できるように支援してほしい。

■デバイスの使用説明上の重要事項

 これらのスマートウォッチやスマートリングの販売者は、自社のデバイスが穿刺で穴を開けたりすることなく安全・確実に血糖値を測定できると主張し、かつ 彼らは非穿刺的な技術を使用していると主張している。しかし、これらのスマートウォッチとスマートリングは、血糖値を血液採取により直接検査するものではない。

 これらのスマートウォッチとスマート リングは数十の企業によって製造され、複数のブランド名で販売されている。 このFDA の安全性に関する伝達文書(FDA Safety Communication)は、メーカーやブランドに関係なく、穿刺方式の血糖値を測定すると広告・主張するスマートウォッチまたはスマートリングすべてに適用される。(注4)

FDAの医療機器の監視行動

 FDA は医療機器市場を定期的に監視しており、無許可の製品が消費者に販売されていることを認識している。 同庁は、メーカー、流通業者、販売業者が、血糖値を測定すると称する未承認のスマートウォッチやスマートリングを違法に販売しないように取り組んでいる。 さらに、FDAは消費者にこの問題について警告し、スマートウォッチやスマートリングを血糖値の測定に使用すべきではないことを一般に周知させている。

 FDA は、重要な新しい情報が入手可能になった場合には、常に国民に情報を提供する。

 ■デバイスの問題を報告する

 不正確な血糖測定に問題があると思われる場合、または未承認のスマートウォッチまたはスマート リングの使用により有害事象が発生したと思われる場合、FDA は MedWatch 自主報告フォームを通じて問題を報告することを推奨している。

 FDA のユーザー施設報告要件の対象となる施設に雇用されている医療従事者は、その施設が定めた報告手順に従う必要がある。

 迅速な報告は、FDA が医療機器に関連するリスクを特定し、より深く理解することで患者の安全性を向上させるのに役立つ。

■本件の質問窓口

 質問がある場合は、産業消費者教育部門 (DICE) (DICE@FDA.HHS.GOV) にメールでお問い合わせいただくか、800-638-2041 または 301-796-7100 までお電話ください。

■本通達の影響を受けるデバイス

 ブランド名に関係なく、血糖値を測定すると主張するスマートウォッチまたはスマートリング。

(3) 今回のFDAの警告はCGM(持続グルコースモニタリング技術)デバイスは対象外である。

 持続グルコースモニタリング技術に関する解説例

①TERUMO の解説「CGMはContinuous Glucose Monitoringの略で、SMBGで測定している血液中のグルコース濃度(血糖値)ではなく、間質液中のグルコース濃度を測定している。一般的に、間質液中のグルコース濃度は血糖値よりも遅れて変化することが知られている」

Dexcom の「CGM を理解する」から抜粋引用:

1 型または 2 型糖尿病 (T1D/T2D) の患者は、食事の決定がグルコース濃度に与える影響、インスリンを効果的に調整する方法、運動やその他の活動のタイミングが治療に与える影響を理解するのに苦労している。

 持続グルコースモニタリング技術は、これらの問題などの対処に役立つ。Dexcom G6 CGM システムなどのリアルタイム CGM (RT-CGM) システムは、Bluetooth を介して、ウェアラブル センサーから近くのモニターまたは互換性のあるモバイル機器*に定期的にグルコース測定値を送信する。

4.ネット広告でのスマートウォッチ(Smartwatches)やスマートリング(Smart Rings) の現状

  特にわが国ではスマートウォッチの広告がこのような使用例が跡を絶たないが、今後FDA通達を受けた対応が注目される。

 (1)わが国で血糖値のモニタリング機能を謳うスマートウオッチ

(2) 指輪型ウェアラブルのOura Health 製スマートリングの広告サイト

5.スマートリングの有用性による新規利用形態

 米国でもスマートリングは2018年8月2日、FDAから避妊用基礎体温モニター・デバイスとして認可されている

 「高精度なデータ入手において指は、心拍数、体表温、血中酸素飽和度など、20以上の生体情報を最も正確に測定できる部位である。(Ouraの広告サイトから抜粋)

 一例として指輪型ウェアラブルのOura Healthと避妊アプリのNatural Cyclesとの提携記事がある。

指輪型のヘルストラッカー「Oura Ring」を提供するOura Healthは8月2日、FDA承認済みの避妊アプリ「NC° Birth Control」の開発企業であるNatural Cyclesと提携したことを明らかにした。これにより、Oura Ringが計測した体温データはNC° Birth Controlアプリに同期され、毎朝基礎体温をマニュアルで計測する煩わしさからユーザーを解放した。(一部抜粋)

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(注1)2018年9月11日、Apple Watch Series 4が心電図(electrocardiogram (ECG) )測定機能につきFDAの認可(clearnce)を得たと報じられている(Apple社の記事)。 一方で、日本でApple Watch Series 4の販売が始まった時、国内展開されるApple Watch series4からはApple Watch ECG appの機能が取り除かれていた。理由は、「心電図測定」「脈の不整通知」という機能が医療機器に該当するため、国内での医療機器として認可を得る必要があり、当時その過程をApple社が取っていなかったためである。(Digital Health Times 記事から抜粋)

(注2)わが国メデイアはほとんどがFDAの伝達文書中の“without piercing the skin”.を「非侵襲的」と訳している。これは誤訳であり、「非穿刺」が正しい。

(注3) 厚生労働省「医薬品・医療機器等安全性情報 No.275:新規作用機序の糖尿病治療薬(DPP-4 阻害剤及びGLP-1 受容体作動薬)の安全対策について」

スルホニルウレア系経口血糖降下薬の解説

(注4) 米Movanoが現地時間2022年5月12日、非穿刺(針を刺さない)血糖値測定と、カフ(空気袋)を用いない血圧測定が可能なウェアラブルデバイスを実現するためのセンサーの開発が完了、機能試験が成功したと発表した。同社は2022年2月に、非穿刺型ウェアラブル血糖値測定器に関し、米食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)での医療機器承認取得に向けた、臨床治験の第2段階が終了したことも発表済みである。 (iphon mania 記事から抜粋。この記事の信ぴょう性は如何。同社のリリース文参照)。

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米国CDCが2021年冬の嵐(winter storm)時の—一酸化炭素(CO)中毒に関する臨床医向けガイダンスをネットワーク発布し、警告

2021-02-19 11:40:20 | 海外の医療最前線

 約半年間、本ブログの新規の掲載は中断していた。別の分野のブログの原稿執筆に時間を割かれたいうことも理由の1つであるが、約14年間本ブログの執筆を通じ、海外情報の入手や検索方法等につきひと区切りしたいという気持ちもあった。

 今回、あらためて新規情報を提供する機会をあえて作った。

 1月から2月にかけてわが国の主に日本海に面した地域で暴風雪被害のニュースが連日のように続く。一方、この現象は米国でも同様である。厳しい冬の嵐は、米国全土で電力のない何百万もの家や企業を残している。電力を失った人は、ガソリン発電機などの代替電源に変わり、家庭の調理や暖房にプロパンや炭火焼きを使用する可能性があり米国連邦保健福祉省の感染症研究機関にあたる「疾病管理予防センター(CDC)は、一酸化炭素(CO)中毒の疑いの高い兆候対応し、維持するために、最近の冬の嵐の影響を受けた地域の患者を見る上で医療従事者2月17日に注意喚起ている。同じCOソースにさらされる可能性のある他の人々を特定し、評価する必要があるためである。

  今回のブログは、わが国でも無関心ではいられない重要な問題であることから、その概要を補足しながら仮訳するものである。

 1.概要

 CDCは2021年冬の嵐:一酸化炭素(CO)中毒の臨床医向けガイダンスを発布

(1) CO暴露の徴候と症状は可変的で非特異的である。緊張型頭痛(tension-type headache )は、軽度のCO中毒の最も一般的な症状2/18④である。CO中毒の他の一般的な症状は、めまい、衰弱、眠気、胃の不調、嘔吐、胸痛、および精神混乱である。

 (2) 重度のCO中毒の臨床症状には、心臓血管および神経学的影響が含まれる。まず、:頻脈(tachycardia)、頻呼吸(tachypnea)、低血圧(hypotension)、代謝性アシドーシス(metabolic acidosis) (筆者注1)、不整脈(dysrhythmias)、心筋虚血(myocardial ischemia)または心筋梗塞(myocardial infarction)、非心原性肺水腫(noncardiogenic pulmonary edema)、過敏性、記憶障害、および意識障害、運動異常、変化または意識障害、発作、昏睡、および死亡の任意の器官が関与する可能性がある。

 (3) CO中毒は致命的であり得るが、小児、妊婦、胎児、鎌状赤血球病の人、高齢者、および慢性疾患(例えば、心臓または肺疾患)を有する人は、特に高いリスクである。

 2.今回のCDC警告の背景

 厳しい冬の嵐は、米国全土で電力のない何百万もの家や企業を残している。電力を失った人は、ガソリン発電機などの代替電源に変わり、家庭の調理や暖房にプロパンや炭火焼きを使用する可能性があります。使用または不適切に配置された場合、これらのソースは、建物、ガレージ、またはキャンピングカー内のCOの蓄積につながり、内部の人々や動物に毒を与える可能性がある。

  患者の活動や健康症状の焦点を絞った歴史を得ると、CO発生源への暴露が明らかになる可能性がある。適切かつ迅速な診断検査と治療は、罹患率を減らし、CO中毒による死亡率を防ぐために重要である。CO発生源を特定して軽減することは、他の中毒事件を防ぐ上で非常に重要である。

 3.臨床医のための推奨事項

 (1) 冬の嵐の影響を受ける患者、特に現在停電により電力のない地域の患者のCO中毒を考慮してほしい。

 (2) CO暴露の可能性を示す症状と最近の患者活動を評価してほしい。その評価には、煙の吸入、外傷、医療疾患、または中毒を含む他の状態の検査も含まれるべきである。

 (3) 患者が無症状になるまで、またはCO中毒の診断が除外されるまで、100%酸素を投与すること。

 (4) CO中毒が疑われる場合は、カルボキシヘモグロビン(COHgb)試験 (筆者注2)を行う。静脈または動脈血は検査に使用することができる。指先パルス複数波長分光光度計、またはパルスCOオキシメータは、現場の心拍数、酸素飽和度、COHgbレベルを測定するために使用できますが、CO中毒の疑いは、複数波長分光光度計(COオキシメータ)によってCOHgbレベルで確認する必要があります。COHgbが存在する場合、従来の2波長パルスオキシメータは正確ではありません。詳細については、CDCの災害後の一酸化炭素中毒に関する臨床ガイダンスを参照されたい。

 (5) 非喫煙者のCOHgbレベルが2%以上、喫煙者が9%以上のCOHgbレベルが高く、CO中毒の診断を強く支持している。COHgbレベルは、患者が暴露から取り除かれると徐々にレベルが下がるように、患者の暴露履歴とCO暴露から離れた時間の長さに照らして解釈されなければならない。また、ヘム代謝の副産物として内因的にCOを生産することができる。鎌状赤血球病の患者は、血中貧血または血糖分解の結果として高いCOHgbレベルを有することができる。COHgbレベルの解釈に関する追加情報は、臨床医向けガイダンス内で見つけることができる。または(800)222-1222であなたの地域の毒物管理センターを呼び出してほしい。

 (6) 高圧酸素(HBO)療法(Hyperbaric oxygen (HBO) therapy) (筆者注3) については、毒物学者、高圧酸素施設または毒物管理センター(800)222-1222と協議して検討すべきである。その他の管理上の考慮事項については、医療毒性学者、毒物管理(800)222-1222)または高圧酸素施設に相談してほしい。

 (7) CO暴露は、患者と同じ環境内または近くで時間を過ごす他の人のために進行中である可能性があることに注意してほしい。これらの個人は、このアドバイザリに記述されているように評価され、テストされる必要がある。

 (8) CO中毒の人々を治療する医療従事者は、緊急医療サービス(EMS)、消防署、または法執行機関に連絡して、情報源を調査して軽減し、安全に戻ったときに人々に助言する必要がある。

 (9) 患者に関するアドバイス発電機に関する安全な実践:発電機 、グリル、キャンプストーブ、または他のガソリン、プロパン、天然ガス、または炭燃焼装置。これらのデバイスは、密閉されたスペース、自宅、地下室、ガレージ、キャンピングカーの中で、あるいは開いている窓や窓のエアコンの近くの外でも使用してはならないことを強調されたい。

  なお、詳細については、次の情報を参照してほしい。

災害後の一酸化炭素(CO)中毒に関する臨床医向けガイダンス(Clinical Guidance for Carbon Monoxide (CO) Poisoning)

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(筆者注1) 代謝性アシドーシスは重炭酸イオン(HCO3−)の一次性の減少で,通常は二酸化炭素分圧(Pco2)の代償性の低下を伴う;pHは著明に低下するか,またはわずかに正常範囲を下回る。代謝性アシドーシスは,血清中の未測定陰イオンの有無に基づいて高アニオンギャップまたはアニオンギャップ正常に分類される。原因には,ケトン体および乳酸の蓄積,腎不全,薬物または毒素の摂取(高アニオンギャップ),消化管または腎からのHCO3−喪失(アニオンギャップ正常)などがある。重症例の症状および徴候には,悪心・嘔吐,嗜眠,過呼吸などがある。診断は臨床的に行い,動脈血ガスおよび血清電解質の測定も用いる。基礎にある原因を治療し,pHが極めて低いときには炭酸水素ナトリウムの静注が適応になることがある。(MSD プロフェッショナル版~抜粋) 

(筆者注2) カルボキシヘモグロビン(COHgb)試験

一酸化炭素(carbon monoxide;CO)はヘモグロビンとの結合性が酸素(O2)の200~300倍も高く、血液中では一酸化炭素ヘモグロビン(COHb)となり、酸素化ヘモグロビン(O2Hb)から酸素の解離を妨げることで組織への酸素供給を低下させ、頭痛、めまい、嘔吐などの中毒症状を引き起こします。その状態を一酸化炭素中毒(CO中毒)と呼び、COHbはその血中濃度により重症度を図る指標です。(看護rooサイトから一部引用)

(筆者注3) 私たちは通常、大気圧の下で酸素濃度約21%の空気を吸って生活しています。呼吸によって取り込んだ酸素のほとんどは血液中のヘモグロビンと結合し、全身に運搬されています(結合型酸素)。一方HBOは大気圧よりも高い気圧の状態で、空気よりも高い濃度の酸素を吸入する治療法です。これにより結合型酸素とは別に、血液中に直接溶け込む酸素が大幅に増加します(溶解型酸素)。溶解型酸素はヘモグロビンを介さずに酸素が運搬されますので、貧血(ヘモグロビン量の低下)などに影響されることなく全身の酸素不足が解消されます。熱傷、凍傷、難治性創傷やスポーツ外傷などの治癒促進にも効果が期待されます。

HBOは、一人用の第1種装置と多人数用の第2種装置があります。(慈恵会 新須磨病院サイトから一部抜粋)

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このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

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                                                                           Civilian Watchdog in Japan & Financial and Social System of Information Security 代表                                                                                                                   

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米国のファミリー・ファースト・コロナウイルス対応法に基づく財務省、内国歳入庁(IRS)等の新型コロナウイルス関連の従業員や家族等の休暇を提供等に関する具体的措置内容(新型コロナウイルス対応:その6)

2020-03-21 13:31:17 | 海外の医療最前線

 3月21日に筆者の手元に米国連邦内国歳入庁(IRS)(財務省の外局)から3月18日に成立した「ファミリー・ファースト・コロナウイルス対応法(Families First Coronavirus Response Act (以下、Act)」に関し、中小企業の雇用主に対する労働者と税額控除のための新型コロナウイルス関連の有給休暇を実施する具体的な実施計画の内容にかかるリリースが届いた。

 今回のブログは、その概要を仮訳するとともに、わが国ではあまりなじみのない米国の非常事態時の中小企業の雇用者の税額控除や従業員家族のため特別有給休暇支援の施策例の内容を解説するものである。

 なお、米国を中心とするローファーム“McDermott Will & Emery”が新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックに対応して、米国政府がここ数週間で行ったパンデミックとその放射性降下物によって不釣り合いに影響を受ける可能性のある中小企業を救済するための重要な立法措置等に関し、現在中小企業が利用できる救済制度の概要をまとめている。併せて読まれたい。

【概要】
 3月20日、米国の財務省、内国歳入庁(IRS)、労働省は、中小企業が直ちに完全に設計された2つの新しい払い戻し可能な給与税額 (筆者注1)控除を利用し始めることができると発表した。新型コロナウイルス関連の休業に伴う従業員に提供する費用と同額を政府が減税措置や支給するものである。2020年3月18日にトランプ大統領が署名したファミリー・ファースト・コロナウイルス対応法(Families First Coronavirus Response Act (以下、Act)に基づき、従業員等や中小企業への救済が行われることになる。

 この法律は、従業員自身の健康ニーズや家族の世話のために、従業員に有給休暇を提供するための500人未満の従業員を持つすべてのアメリカ企業に資金を与えることによって、米国がCOVID-19と戦い、敗北の回避を助けるものである。すなわち、この法律は、雇用者が労働者の給与を維持すると同時に、労働者が給与とウイルスに対抗するために必要な公衆衛生措置のどちらかを選択することを余儀なくされないようにすることを可能にするものである。

1.重要事項
(1) 労働者のための有給病欠措置
 COVID-19関連の理由から、従業員の児童養護学校が閉鎖されたり、保育を受けられなくなったりする場合、従業員は最大80時間の有給病欠権を受け取り、有給育児休暇を拡大しうる。

(2) 完全なカバレッジ
 雇用主は、法律に従って有給休暇に対して100%の払い戻しを受ける。これには健康保険費用もクレジットも含まれる。また、雇用者は給与税の責任を減免され、自営業者も同等のクレジットを受け取れる。

(3) 迅速な給与税の還付
 還付は迅速かつ簡単に取得できる。給与税に対する即時の税還付が提供される。この払い戻しが行われる場合、IRSはできるだけ早く還付金を送金する。

(4) 中小企業の保護
 従業員数が50人未満の雇用主は、学校が閉鎖されているか、事業の実行可能性が脅かされている場合は育児を利用できない子供の育児休暇を提供する要件を免除される。

(5) コンプライアンスの緩和
 誠実なコンプライアンス努力のための30日間の責任免除期間の対象となる要件。
有給休暇のクレジット(筆者注2)を即座に活用するために、企業は給与税に関しIRSに支払う資金を保持し、アクセスすることができる。 これらの金額が有給休暇の費用を賄うのに十分でない場合、雇用主は来週IRSが発表する合理化された請求フォームを提出することにより、IRSからの優先支払いを求めることができる。

2.今回の措置の背景
 同法は、COVID-19関連を理由とする有給の病気休暇、家族や医療休暇の拡大を提供し、払い戻し可能な有給疾病クレジット制度と適格雇用者の有給育児休暇クレジット制度を作成した。対象となる雇用主は、500人未満の従業員を抱える企業や非課税組織・団体で、同法に基づき、緊急有給の病気休暇、緊急有給の家族と医療休暇を提供する必要がある。対象となる雇用主は、有効日から2020年12月31日の間に提供する適格休暇に基づいてこれらの控除を請求することができる。同等の控除は、同様の状況に基づいて自営業者も利用できる。

3.有給休暇
 この法律は、対象となる雇用主の従業員が、従業員が隔離されているために働くことができない従業員の給料の100%で2週間(最大80時間)の有給病欠を受け取り、COVID-19症状を経験し、医学的診断を求めることができると規定している。検疫対象者の介護を必要とし、学校が閉鎖された子供の世話をしたり、あるいはCOVID-19に関連する理由で保育を受けられない子供を介護したり、米国保健福祉省が指定したのと同様の状況が発生したり、2週間(最大80時間)の有給病欠を受け取ることができる従業員の給与についても同様である。学校が閉鎖されている子供の介護が必要なために働くことができない従業員、またはCOVID-19に関連する理由で保育提供者が利用できない場合、従業員の賃金の2/3で最大10週間の拡張有給家族と医療休暇を受け取る場合も同様である。

4.有給病欠に伴う貸付
 新型コロナウイルス検疫や自己検疫のために働くことができない従業員、またはコロナウイルスの症状があり、医学的診断を求めている従業員の場合、適格な雇用主は従業員の定期的なレートでみて1日あたり511ドル(約56,210円)、総額で5,110ドル(約562,100円)(合計で10日間)で病気休暇の払い戻し可能な病気休暇手当を受け取ることがある。
 新型コロナウイルスの誰かの世話をしている従業員、または子供の学校や保育施設が閉鎖されているために子供の世話をしている従業員、または新型コロナウイルスのために保育事業者が利用できない場合、適格な雇用主は従業員の通常の賃金の3分の2(1日あたり200ドル、最大2,000ドル)の手当を請求することができる。対象となる雇用主は、休暇期間中に適格な従業員の健康保険の適用範囲を維持するための費用に基づいて決定された追加の税額控除を受ける権利がある。

5.育児休暇手当
 前記病欠の手当に加えて、学校や保育施設が閉鎖されている子供の世話をする必要があるために働くことができない従業員、またはコロナウイルスのために保育者が利用できない場合、適格な雇用主は払い戻し可能な育児休暇クレジットを受け取ることがある。このクレジットは、従業員の通常の賃金の 3 分の 2 に相当し、1 日あたり 200 ドル(約22,000円)、集計で 10,000 ドル(約110万円)に制限されている。最大10週間の資格休暇は、育児休暇のクレジットにカウントすることができる。対象となる雇用主は、休暇期間中に適格な従業員の健康保険の適用範囲を維持するための費用に基づいて決定された追加の税額控除を受ける権利がある。

6.休暇を提供する費用の迅速な支払い
 雇用主が従業員に支払うとき、従業員の給与小切手連邦所得税と社会保障およびメディケア税の従業員の分担を源泉徴収する必要がある。雇用主は、これらの連邦税と社会保障税およびメディケア税の割合をIRSに預け、四半期ごとの給与税申告書(Employer's Quarterly Federal Tax Return)(Form 941シリーズ)をIRSに提出する必要がある。

 来週発表されるガイダンスの下で、資格のある病気や育児の休暇を支払う資格のある雇用者は、IRSに預けるのではなく、支払った資格のある病気や育児の休暇の金額に等しい給与税額をそのまま保持することができる。

 この保持可能な給与税には、源泉徴収された連邦所得税(federal income taxes)、社会保障税とメディケア税(Social Security and Medicare taxes,)の従業員負担分、および全従業員に関する社会保障税とメディケア税の雇用者負担が含まれる。

 有給の病気や育児の休暇の費用を賄うのに十分な給与税がない場合、雇用主はIRSからの迅速な支払いの請求を提出することができるが、 IRSは、これらの請求を2週間以内に処理する予定であり、この新しい迅速な請求手順の詳細は、来週IRSから発表される。

7.具体例
 適格な雇用主が病気休暇で5,000ドル(約55万円)を支払い、それ以外のすべての従業員から源泉徴収された税金を含む給与税に8,000ドル(約88万円)を入金する必要がある場合、雇用主は適格休暇を取得するために入金する予定だった8,000ドルの税金のうち最大5,000ドルをクレジットに使用することができる。雇用主は、次の通常の預金日に残りの3,000ドル(約33万円)を入金する法律の下でのみ要求される。

 もし適格な雇用主が10,000ドルの病気休暇を支払い、8,000ドルの税金を入金する必要がある場合、雇用主は8,000ドルの税金全体を使用して適格な休暇の支払いを行い、残りの2,000ドルの加速クレジットの要求を提出することができる。

 同等の育児休暇と病気休暇のクレジット額は、同様の状況下で自営業者も利用できる。これらのクレジットは所得税申告書で請求され、推定納税額が減額される。

8.中小企業の免除
 従業員数が50人未満の中小企業は、学校の閉鎖や育児の利用不能に関する休暇要件の免除を受ける対象となります。この免除は、雇用者のビジネスの存続可能性を危険にさらす状況で利用可能にする簡単で明確な基準に基づいて利用可能になる。労働省は、この基準を明確にするための緊急指導とルールを作り提供する。

9.雇用主に対する非法施行期間
 労働者は、雇用者が法律を遵守するための期間を提供する一時的な非法執行政策ポリシーを発行する。このポリシーの下で、労働者は、雇用主が法律を遵守するために合理的かつ誠実に行動している限り、法律違反に対して雇用主に対して執行措置を取らない。労働は代わりに30日間のコンプライアンス支援に焦点を当てる。

 これらのクレジットやその他の救済の詳細については、IRS.govの新型コロナウイルス税の軽減措置を参照されたい。また、クレジットの前払いを受け取るプロセスに関する情報はIRSサイトで来週掲載される。
       
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(筆者注1)   給与税とは、雇用主もしくは従業員に課される税であり、通常は雇用者から支払われた給与を基準に課税される。一般的に給与税は、従業員給与からの控除(天引き)と、従業員給与に基づいて雇用主が支払う税の二種類に分類される。 
 前者については、雇用主が従業員給与から源泉徴収しなければならない税であり、一般的に所得税、社会保障拠出金、社会保険料などといった名前である。後者については、雇用主自身の資金から支払われる税であり、それは労働者雇用に直接関係しており、雇用者の人頭割であることもあれば、給与比例課税であることもある。   (Goo Wikipedia から抜粋 )

(筆者注2) 米国の米国税法上の居住者(Resident)にかかるクレジットについて、米国公認会計士若菜雅幸氏の解説から一部引用、補足する。

Credit とは控除のひとつですが税額から直接控除するため非常に大きな効果がある。例えば、Credit として100ドル控除するということは、税金が100ドル減額されることを意味する。その対象となるには次のものがある。
① Earned Income Credit (EIC)
米国税法上居住者(Resident)の低所得者に対する還付可能なCredit です。還付可能というのは、税金の支払いがたとえなくても、Refund を受けることができる、つまりお金がもらえるということです。独身、既婚で合算申告、子供がいる場合など状況によって条件がかわってきます。子供をEICの対象とするためには、ソーシャルセキュリティナンバーを持っている(ITINは不可)など条件があります。税法上 非居住者(Non Resident)であると、このCredit を受けることはできません。
② Child Tax Credit
17歳未満(年度末時)の子供(Qualified Child)一人につき最大2,000ドルの控除が可能になります。ここでいう子供 (Qualified Child)は、米国税法上居住者(Resident)もしくは米国市民である必要があり、申告書上で扶養者として扱われている必要があります。なお一定額以上の高額所得者はこの控除に制限が生じます。
③  Credit for Child and Dependent Care Expenses
13歳未満の扶養者に対するベビーシッター、デイケアなどの費用のうち、最大3,000ドル (2人以上の場合は6,000ドル)×所得に応じた割合(20%~35%)まで、税額控除が可能になります(2018年)。 また、13歳以上の扶養者や配偶者でも特別な介護が必要な方には適用される場合があります。この控除を得る場合、夫婦の場合は共働き (または、フルタイムの学生)である必要があります。
④ Credit for Child and Dependent Care Expenses
13歳未満の扶養者に対するベビーシッター、デイケアなどの費用のうち、最大3000ドル (2人以上の場合は6000ドル)×所得に応じた割合(20%~35%)まで、税額控除が可能になります(2018年)。 また、13歳以上の扶養者や配偶者でも特別な介護が必要な方には適用される場合があります。この控除を得る場合、夫婦の場合は共働き (または、フルタイムの学生)である必要があります。
⑤  Education Credits
・Hope Scholarship Credit (現在は、American Opportunity Tax Credit となる)
この適用を受けるためには納税者は米国税法上居住者(Resident)でなければいけません。Hope Credit は、大学や 職業訓練学校などの最初の2年間(the first 2 post-secondary education years)の授業料及び関連費用に適用され、Credit として税額から直接控除できるため、大きな節税になる控除方法です。生徒一人当たり1800ドルまで(最初の1,200ドルまで100%、次の1,200ドルまで50%)控除が可能になります。 ただし、少なくとも1学期間、ハーフタイムで就学している必要があります。調整後総所得(AGI)によって段階的に控除額が減額されます。 なお大学院は対象にはなりません。
・American Opportunity Tax Credit
2009年以降、上記 Hope Credit の適用範囲が拡大され、生徒一人当たり最大2,500ドルまで(最初の2,000ドルまで100%、次の2,000ドルまで25%)控除が可能になります。また、Hope Credit が大学や 職業訓練学校などの最初の2年間(the first 2 post-secondary education years)であるのに対し、American Opportunity Tax Credit では、最初の4年間(the first 4 post-secondary education years)の授業料及び関連費用に適用されます。
・Life Time Learning Credit
Life Time Learning Credit は、Hope Credit に比べて条件が緩くなりますが、最大2,000ドル(最初の10,000ドルのうち20%分)がCredit として税額から直接控除できます。これも調整後総所得(AGI)によって段階的に控除額が減額されます。 例えば、支払った適格授業料の総額が10,000ドルを超える場合などは、Life Time Learning Credit を使うのが最も有利になる場合が多くなります。
⑥ Foreign Tax Credit
米国市民、または米国税法上居住者(Resident)は全世界での所得が課税対象となります。従って、米国外から所得があるとき、米国外の国と米国からの両国で課税対象となり、いわゆる二重課税が発生してしまいます。この問題を解消するために、外国で支払った税金分を一定の計算に基づき控除の対象とすることができます。この場合、Credit として控除するのか、Itemized Deduction として控除するのか選択ができ、毎年どちらを使うかは状況によって変更することが可能です。

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「オーストラリア連邦政府の新型コロナウイルス感染症のパンデミック対策としての福祉面等からの経済刺激策の具体的内容」(新型コロナウイルス対応:その5)

2020-03-20 15:38:50 | 海外の医療最前線

 筆者の手元に、オーストラリア連邦政府のスコット・モリソン(Scott Morrison)首相は、新型コロナウイルスに対応すべく総額176億豪ドル(約11兆3,274億円)の福祉面からの経済刺激策を発表した旨の3月12日付けのABCニュースが届いた。

Scott Morrison首相

 一方、わが国の取組みを見ると現金給付などの直接的な家計支援を実施すべく検討に入ったと報じられている。わが国では2008年にリーマンショックで起こされた世界金融危機の時に政府は全世帯を対象に1人1万2千円(子供と高齢者は2万円)の定額給付を行った例が報じられている。
 今回のブログは、オーストラリアで準備が進められている個人では社会的弱者対象、また中小企業向けの具体的施策について同記事をもとに解説を試みるものである。なお、同記事によると、240万人の年金受給者を含め、合計で650万人(オーストラリアの全人口2,499万人(2018年6月現在))が受給者となる見込みである。


1.誰が弱者を対象とする刺激金を受け取るのか?
 このパッケージは、5つの主要なグループを対象としている。それぞれが受け取るものは次のとおり。

① 福祉年金受給者(Welfare recipients):1人あたり750豪ドル(約48,270円)以上
② 見習い訓練制度を持つ中小企業:賃金補助金(wage subsidies)を通じて見習い訓練で仕事を保持するために最大21,000豪ドル(135万2,000円)
③ 中小企業:キャッシュフローを支援するための2,000豪ドル(約12万8,700円)から25,000豪ドル(約160万9,000円)
④ 一般的なビジネス(最大規模を除く):資産の即時償却しきい値が150,000豪ドル(965万4,000円)に引き上げられ、投資を促進するための追加の減価償却割引
⑤ 影響を受ける企業:新しい10億豪ドル(約634億6,000万円)のファンドへのアクセス可とする。

2.誰が現金で750豪ドル(約4兆8,270億円)を受け取るのか?
 世帯または個人を対象とする唯一の支給手段は、社会福祉[生活保護]受給者への750豪ドル(約4兆8,270億円)の現金支給である。

 この受給資格者には、失業給付(Newstart)、障害者支援年金(disability support pension)、介護者手当(carers' allowance)(筆者注1)、若年者給付金(youth allowance)(筆者注2)、退役軍人支援金の支払い、子供手当(family tax benefits)の給付、連邦のシニア医療カード保有者(Commonwealth senior health card-holders)および高齢の年金受給者が含まれる。
240万人の年金受給者を含め、合計で650万人(オーストラリアの全人口2,499万人(2018年6月現在))が支払いを受けると予想される。
 既にこれらの支払いを受け取っている人は現金を受け取り、3月12月末までに適格な支払いの1つを請求し、その請求が許可された人も受け取れる。

3.なぜその他の人はお金を得られないのか?
 モリソン首相は、刺激策の焦点は企業であると述べた。個人への支払いは使われず、代わりに普通預金口座に入金されるかもしれないという懸念があった。
 首相は、これらの人々への支払いを望んでいる既に福祉をしている人々にお金を与えた-仕事と多分より良い財政を持っているオーストラリア人ではなく-経済を通して循環させることにある。
 「オーストラリア経済への現金注入であり、小規模企業を支援し、中規模企業を支援する」と彼は述べた。
彼はまた、すべての措置が一時的なものであることを確認した。つまり、福祉の受給者は短期の現金増額を受けるが、支給率は固定されたままである。

4.給付金は早い時期に支払われるか?
 連邦政府は、福祉年金受給者への支払いは2020年3月31日に開始することを約束した。
その支払いの90%以上は、4月中旬までに「行われる予定」である。
 法律は3月後半に議会に導入され、これらの措置を実施し、すべての法律は可決される予定である。
連邦財務大臣のジョシュ・フリデンバーグ(Josh Frydenberg)は、176億豪ドル(約11兆3,274億円)のパッケージのうち110億豪ドル(約7,079億6,000万円)が2020年6月末までに支払われると述べた。

5.企業は支払いを受けるために何をしなければならないか?
 企業のキャッシュフローサポートは、4月28日から事業活動明細書または分割払い活動明細書の50%の支払いで届き、14日以内に払い戻しが行われる。
 企業は4月2日から見習い訓練賃金補助金に登録することができるが、この13億ドル(約836億6,800万円)の措置のうち10億ドル以上は来年度まで予算化されない。

 また、税額控除を請求する企業は、次に税金が計算されるときに恩恵を受けるが、減価償却控除の恩恵は2021年6月30日まで延長される。

6.この費用にかかる納税者の負担はいくらか?
 全体として、刺激策パッケージは176億豪ドル(約11兆3,274億円)の価値がある。
中小企業への現金支払いは、パッケージの最大の構成要素であり、約80億豪ドル(約5,146億4,000万円)の価値がある。
 資産の即時償却と減価償却費の変更は、約40億豪ドル(約2,573億2,000万円)である。
 福祉年金受給者への支払いは、合計で50億豪ドル(約3,216億5,000万円)に達する。

7.さらなる給付額に増額の可能性はあるのか?
 世界的な金融危機(Global Financial Crisis :GFC)に対応したラッド前政府(筆者注3)の最初の刺激策は100億豪ドル(約6436億円)の価値があり、さらに3か月後は420億豪ドル(約2兆7,031億円)の価値があった。
 モリソン首相は今週初め、コロナウイルスの経済的影響は世界的な金融危機よりも悪化する可能性があると指摘した。

 同首相は本年5月の予算により多くの支出があるかもしれないと警告したが、3月12日の発表に関連して、「これらの措置は仕事をすることができる措置であり、今後もイベントを監視し続けると信じている」と述べた。
 また、南オーストラリア州は、建設事業に焦点を合わせた3億5,000万豪ドル(約2,252億6,000万円)の経済刺激策を発表した。

 各州および各準州の指導者は3月12日の夜に首相と会談しており、さらなる措置について議論する予定である。


8.働くことができない人々のために他にどのような支援策があるか?

 政府は、政府の疾病手当(sickness allowance)(筆者注4)と失業給付(NewStart)の待機期間を放棄している。(筆者注5)
コロナウイルスの影響を受け、医療上の理由でコロナウイルスに感染したり、実際にコロナウイルスに感染したり、仕事ができなくなったりした従業員は、現在病気の支払いと呼ばれるものにアクセスできる」とモリソン氏は述べた。

 モリソン首相はまた、適格性の変更が行われないことを確認した。つまり、5,500豪ドル以上の「流動資産」に設定された病気手当の資産テストが引き続き適用されることを意味する。

 同首相は、申請者は5日間で処理されると期待できると主張した。しかし、連邦議会上院の推定に提供された最近の数字は、病気手当の申請者は通常、1ヶ月以上の処理時間に直面していることを示している。
 社会サービス省のスポークスマンは、「個々の申し立てや季節的要求の複雑さにより処理時間が異なる可能性があることに注意すべきである」と述べ、経済的困難に直面している人に対する申し立てが優先されると述べた。

 同省は、コロナウイルスに関連する特別な例外に関する以下述べるガイダンスを提供した。

 ・隔離のため相互義務要件を満たすことができない現在の収入サポートの受給者は、オーストラリアのサービスに電話し、14日間の主要な個人的危機免除を付与することができる。ただし、診断書などの証拠を提供する必要はない(ただし、14日間の延長要求証拠が必要)。

 ・オーストラリアに住んでいるがCOVID-19が原因で研究に参加できない若年者給付金(学生)またはその他の研究関連の支払いを受ける学生は、支払いの研究活動要件を満たしていないことについて合理的な言い訳をする必要がある。この状況にある個人は、サービスオーストラリアに連絡して、状況を通知する必要がある。
 

 ・COVID-19のために働くことができない22歳未満の若者は、若年者給付金を請求し、相互義務要件の免除が認められる。

***********************************************************************:

(筆者注1) 認知症介護情報ネットワーク「オーストラリアの認知症ケア動向 Ⅰ オーストラリアの高齢者ケアの状況」から一部抜粋する。

「オーストラリアでは介護者支援についても積極的に取り組んでおり、在宅介護で仕事に出ら れない介護者に対して国は介護者手当(Carer Payment と Carer Allowance)の仕組みを用意しているほか、レスパイトケアサービスなどを充実させている。 
 (1) 介護者手当 <介護者手当(Carer Payment)> 16 歳以上の障害を有する人の在宅ケアを行う介護者が対象。受給額は以下の通り。ミー ンズテスト(インカムとアセットの双方)の対象。週 25 時間までは、就労につくことも 認められている。2006 年末現在で 11 万人の介護者が受給しているが、多くが 45~64 歳 の年齢層となっている(レスパイトケア中は年間 63 日まで手当てが制限される)。この 手当を受給するためには、継続的な介護が必要なことについての医師の証明と、適切な 介護が行われていることについての登録介護者の証明が必要である。 
対象 2 週間当たりの最大額 単身 $562.10(39,347 円) 夫婦 $469.50(32,865 円、それぞれ) 
 <介護者手当て(Carer Allowance)> 16 歳以上の障害を有す人の在宅ケアを行う介護者が対象。ミーンズテストの非対象。
 対象 2 週間当たりの大額 1 人当たり $100.60(7,042 円) ※ 本レポート記載時 1豪ドル≒70円

(筆者注2) 海外職業訓練協会「オーストラリアの雇用労働関係布法令」(2008.12.30)から一部抜粋する。
「オーストラリアには雇用保険制度はなく、“センターリンク (Centrelink) ”として知られる政府機関を通じて、失業者は直接給付金を受け取る。受給資格のある申請者は、まず全員が初期失業給付を受ける。この初期失業給付には成人向けには再出発給付金 (Newstart Allowance) 、21歳以下の若者あるいは25歳以下でフルタイムの学生向けには若年者給付金 (Youth Allowance) がある」

 (筆者注3) ケビン・マイケル・ラッド元首相(Kevin Michael Rudd)在任期間は第一期2007年12月3日~2010年6月24日、第二期-2013年6月27日~ 2013年9月18日。

(筆者注4)わが国では2020.3.6 厚生労働省・厚生労働省保険局保険課の事務連絡「新型コロナウイルス感染症に係る傷病手当金の支給について 」を参照されたい。

(筆者注5) 
2009.2.28 福田平治「オーストラリア政府の生活支援ボーナス(Tax bonus)」支給の実施について」参照。

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わが国の医療関係者や政治家は果たして「新型インフルエンザ等対策特別措置法」や「新型インフルエンザ等対策ガイドライン」等の内容を正確に理解して行動しているのか? (新型コロナウイルス対応:その3)

2020-03-06 13:00:17 | 海外の医療最前線

 最近、やっとこれらの問題がTV等でも正面から取り上げられ始めた。
 筆者は、これらの立法措置やその背景にある当時のパンデミックの想定外の拡散問題、さらにはわが国の医薬品備蓄の国際比較、また、平成17年11月から平成29年9月までの間、数次にわたり改正を行ってきた内閣官房 「新型インフルエンザ等対策政府行動計画等」が十分に機能していないという問題である。同行動計画の中身は具体的には、(1) 新型インフルエンザ等対策ガイドライン(平成30年6月21日 一部改定))、② 新型インフルエンザ等発生時等における初動対処要領(平成29年8月4日一部改正)、③ 新型インフルエンザ等対応中央省庁業務継続ガイドライン(平成26年3月31日)である。 特に重要なものは新型インフルエンザ等対策ガイドラインであろう。

 そこで筆者は、その内容を中心にチェックしてみた。
そこで、見られた重要な対策の欠落例えば、新型インフルエンザ対策ガイドライン(新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議 平成21年2月17日)の新型インフルエンザ流行時の日常生活におけるマスク使用の考え方 (新型インフルエンザ専門家会議 平成 20 年 9 月 22 日)につき「5.家庭における備蓄について: 家庭において不織布製マスクを備蓄することは、新型インフルエンザ対策と して推奨される。その他の感染予防行動や日用品の備蓄と共に行われることが 望ましい。 不織布製マスクのほとんどは諸外国で生産され、輸入されているため、新型 インフルエンザ流行前に準備しておくことが推奨される。流行期間(8 週間を想定)に応じたある程度のマスクの備蓄を推奨する。 例えば一つの目安として、不織布製マスクを、発症時の咳エチケット用に 7-10 枚(罹患期間を 7-10 日と仮定)、健康な時の外出用に 16 枚(やむを得ず週に 2 回外出すると仮定して 8 週間分)として、併せて一人あたり 20-25 枚程度備蓄 することが考えられる。」とある一方で、国家備蓄については何ら言及していない。

 以下で、その内容を概観するが、これまでの国会での議論が野党を含め政府や専門家会議委員が述べてきた内容が、これまでの反省をふまえた検討や結果と著しく乖離していることが明らかとなろう。

 また、わが国メディアの対応は、従来から肺炎の疫学的重症度の解析解説が中心である。しかし、一定の期間ごとにグローバルに発生する新たな新型インフルエンザの対応のための普遍的な法律や医療制度の向けた議論が必須な時期にあることも明らかであり、その分野の専門家会議による立法議論が急務と考える。まさに。3月5日付け朝日新聞朝刊の社説の最後にあるように政府の政策発議の内容の議論は感染症のみならず、法律、経済、社会保障などの専門家の意見等に基づく国民が理解できる丁寧な説明が必要な時期である。

 さらに、わが国に関し言及すべき点は、前回オーストラリアの国家医療備蓄の最新情報と比較して、いったいわが国の対応はどうなっているのか?
 パンデミックになってからマスク等生産者に納品を促すといった後手後手の対応ではなく、インフルエンザ・ワクチンのきわめて高い目標備蓄率(45%)がある一方で、マスクや消毒剤などが流通パイプが細くなっている間は国家また地方自治体で備蓄でカバーするといった対応がなぜ考えられないのか、一国民としてますます不安、不信感が募る毎日である。

 ところで、わが国の厚生労働省の「新型インフルエンザ専門家会議」サイトや官邸サイトの「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(第1回)議事概要」を読んだリ、その前身である新型インフルエンザ等対策閣僚会議の下に位置づけられた「新型インフルエンザ等対策有識者会議」の委員構成や議事録等についてチェックしているメデイアはいかほどであろうか。

 筆者は両者の委員構成を比較してみた。その比較の目的は、国民の厳しいチェックの在り方についての問題意識である。例えば、新型インフルエンザ等対策有識者会議は医療・公衆衛生に関する分科会及び社会機能に関する分科会を開催し、第8回有識者会議に出された「新型インフルエンザ等対策政府行動計画(案)の概要」を読んだ。特に国民生活および国民経済の案例の確保の項目を注視されたい。本文で詳しく述べるが、例えば買い占め、緊急物資の運送等、以下のとおり一般論で終始している。

【国内発生早期】
・消費者としての適切な行動の呼びかけ、事業者に買占め・売惜しみが生じないよう要請
★指定公共機関は業務の実施のための必要な措置を開始★緊急物資の運送★生活関連物資等の価格の安定

 【国内感染期】
・消費者としての適切な行動の呼びかけ、事業者に買占め・売惜しみが生じないよう要請・★緊急物資の運送★生活関連物資等の価格の安定★物資の売渡しの要請★新型インフルエンザ等緊急事態に関する融資★権利利益の保全

また、最も国民の生命を守るための新型インフルエンザ・ワクチンの備蓄率が目標である45%を大きく下回っていることなどが有識者会議の議事録で見るしかないのが現実である。(筆者注1) 

1.「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の内容と問題点
 内閣官房が同法の概要を掲載している。しかし、非常事態宣言の根拠となりうる同法につき、改めて詳細な検討が必要な時期にある一方で、数年おきにグローバルに発生する新型インフルエンザ」の対応としては前述した通り、類似の立法措置をとることは当然といえるが、その理解にはまず新型インフルエンザ等対策特別措置法に関する都道府県担当課長会議資料 資料2 新型インフルエンザ等対策特別措置法 について~的確な危機管理のために~(全32頁)平成24年6月26日 内閣官房新型インフルエンザ等対策室を丁寧に読むべきである。

 この資料は都道府県担当課長向けにまとめられたものであることから、筆者の限られた時間であるが比較的に重要な点を網羅していると感じた。
 同法や今後提示されて来るであろう改正法案についての論述は機会を改めたい。

2.内閣官房 「新型インフルエンザ等対策政府行動計画等」の内容と問題点
 (1) 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の委員構成

 延べ18回にわたる新型インフルエンザ等対策有識者会議での検討がなされている一方で、その成果を広く国民に公表し、同時に関係する分野たる法律、社会政策、福祉政策、経済・財政等の専門家からの意見を求めるべきであったと考える。
 その意味で前述した通り有識者会議の顔ぶれを見ても理解できよう。
ここで、有識者会議の委員と今回組成された新型コロナ専門家会議委員の氏名、所属、専門分野を列記しておく。比較されたいが、この人選は極めて横滑りであるといえるし、3で述べる問題に関する検討すべき問題が山積しているといえる。

 この名簿比較で読者はすぐに気が付くであろうが、医療、感染症などの専門家が多いことは言うまでもないが、問題は法律家、公共政策学が各1名である点であり、さらに言えば財政、経済の専門家は皆無である。この顔ぶれで果たして新型コロナウイルス対策、具体的国家施策を総合的に検討できる諮問内容を内閣に真正面から提言できるであろうか。

 ちなみに、弁護士 中山ひとみ氏(霞ヶ関総合法律事務所所属)は元日本弁護士連合会常務理事で医療関係のかかる問題に詳しいことは言うまでもない。また、武藤香織氏(東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)は生殖補助医療や生体臓器移植、遺伝性疾患など、家族と縁の深い医療や医学研究の現場や政策に関する調査研究を行ってきている。

武藤香織氏

 (2) 新型インフルエンザ等対策政府行動計画の概要

3.医療・公衆衛生、電気・水道・ガス・公共交通などの社会インフラへの影響と事業継続性の確保問題
 新型インフルエンザ等対策ガイドライン(中間報告)では、以下の記述があるのみである。
そこでの本格的な検討がないがゆえに今日の消費者パニックを生み、またこの医療品不足状態が長期化した段階で医療機関だけでなく基幹インフラの事業継続につき、だれがどこまで実際の責任や運営を担うのか、疑問がさらに湧く。

4.バイオテロ対策の取り組みへの言及は皆無
  わが国内では筆者のようなサイバー犯罪の専門家でも、この問題指摘は極めて少ない。その中で厚生労働省研究班がまとめた「厚生労働省研究班 バイオテロ対応ホームページ」が炭疽 (anthrax)等につき詳しく論じている。(筆者注2)

5.その他政府や自治体が取り組むべき課題
  新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正法の内容に係る問題でも関連する問題として、消費者庁や公正取引委員会等監視機関は便乗値上げ、買い占めなどに厳格に取り組む姿勢を直ちに見せるべきである、そのことが直接的に国民や民間企業の安心感を与えるし、まさにそれらの機関の本質的任務である。
 さらに言えば、わが国では例がない公的ならびに民間「オンブズマン」の役割が重視されるべきであろう。この問題自体は政策論として大きな問題であり、機会を改める。

***********************************************************
(筆者注1) 新型インフルエンザ等対策有識者会議(第11回)資料1-6 「ワクチン、抗インフルエンザ薬等について」でわが国におけるワクチン、抗インフルエンザ薬等であるタミフル、リレンザに関する備蓄に関する詳細な解析を行っている。

(筆者注2) 厚生労働省研究班 バイオテロ対応ホームページから引用する。
 バイオテロ対応ホームページは、平成 20 年(2008 年)に医療機関向けにバイオテロ関連疾患の臨床診断や検査方法の情報を提供するためのものとして整備され、平成 26 年からは「バイオテロに使用される可能性のある病原体等の新規検出法の確立,及び細胞培養痘そうワクチンの有効性,安全性に関する研究」班(西條政幸班長:国立感染症研究所)が担当しており、国際情勢や日本のマスギャザリングのイベントを想定し、平成 28 年からは一般向けに公開しております。本ホームページではバイオテロ対策の総論、及びバイオテロ関連疾患について、ショートサマリー、バイオテロが疑われる時の対応のフローチャート、疾患の詳細について紹介しており、専門家の意見を取り入れながらアップデートを行っております。また国内には常在しないものの輸入感染症やバイオテロとして海外から持ち込まれうるその他の関連疾患についても記載しておりますので、診療にお役立ていただければ幸いです。
また、具体的には天然痘(smallpox)、野兎病(Tularemia)、ウイルス性出血熱(Virus hemorrhagic fever)、ボツリヌス症( botulism)、ペスト( plague)等である。

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11年前(2009年)に世界的にパンデミックとなった新型インフルエンザA(H1N1)発生時のわが国の反省はどうなったのか?(新型コロナウイルス対応:その1)

2020-03-01 09:28:58 | 海外の医療最前線

 新型コロナウィルス感染症が世界的かつ急速に拡散が進む中で、わが国政府をはじめ関係機関の対応は極めて遅々とした内容で、さらには在宅勤務、全国一斉の休校措置による混乱、また流通面ではマスクやトイレットペーパーの店頭からの消滅現象など上げれば切りがない。

 ところで、筆者は2009年6月以降の新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミック時に米国や海外関係機関の取り組み内容を専門外ではあるが、できる限りフォローすべく、本ブログで取り上げた(その関係もあり、アクセス数が2月中旬以降、急増している)。

 そこで見られた注目すべき点をピックアップすると、例えば、1)米国では連邦議会調査局(CRS)は2009年10月29日に「2009年新型インフルエンザに関する主な法的問題の概要報告(CRS報告7-5700)」を公表(筆者注1)した。


  その他、筆者ブログでは、2) WHO事務局長マーガレット・チャン氏が新型インフルエンザ大流行について再度の警告、3)米国の新型インフルエンザの第二波への準備状況やワクチン開発の最新動向、4)海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向や新たな研究・開発への取組み、5)WHOの第3回国際保健規則緊急委員会の動向、6)EUのおける新型インフルエンザA(H1N1)の疫学面の研究動向等を取り上げた。

 なお、特記すべきは3)である。記憶の良い方は覚えておられるであろうが、新型インフルエンザA(H1N1)の世界レベルの拡散は約半年続いたのである。その筆者ブログ連載の最終回(全16回連載)は2009年11月24日の最終回の前文で「わが国の優先者への新型インフルエンザ・ワクチン接種が11月から始まり、一部では死亡事例の報告が聞かれるが(当時の厚生労働省の発表では死者198人(死亡率0.15))、前倒しスケジュールも発表されるなど、具体的な対応は進んでいる。」(以下は略す)と述べている。

 特に、わが国の死者数は本年2月28日現在で11名(クルーズ6名、国内5名)であり、H1N1の時と比較して決して致死率が低いとは言えないきわめて危険な肺炎であることを念頭に置き、かつ長期戦を覚悟で取り組まざるを得ない点を、政府・関係機関だけでなく国民も理解すべきである。

 今回の新型コロナウィルスの世界的拡散について、米国疾病対策センター(CDC)はほぼ毎日更新しているサイト「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Situation Summary」(筆者注2)で取り上げるとともに、検査キットの開発やワクチン開発動向を積極的に行っている。

 今回のブログは、前段で2009年に筆者が取り上げたブログのテーマに即してリンクを張った。なお、時間の関係で各ブログのリンクは100%メンテナンスできていない。時間を見てメンテナンスを行う予定ではいる。また。後段でCDCの「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Situation Summary」の重要項目を仮訳する。

 なお、2009年の時と同様に、今後とも筆者の理解できる範囲で海外の関連する動き等を連載でフォローアップしたいと考える。

1.2009年6月以降の新型インフルエンザA(H1N1)のパンデミック時に米国や海外関係機関の取組み内容
(1) 連邦議会調査局(CRS)の 2009年10月29日に「2009年新型インフルエンザに関する主な法的問題の概要報告(CRS報告7-5700)」(その1)同(その2完)

(2)米国の新型インフルエンザA(H1N1)の第二波への準備状況とワクチン開発の最新動向(その1)同(その2完)

(3) 海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(その1)同(その2)同(その3)同(その4)同(その5)同(その6)同(その7)同(その8)同(その9)同(その10)同(その11)同(その12-1)同(その12-2)同(その13)同(その14)海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな課題などへの疫学・臨床戦略(その15)同(その16完)


(4) WHO事務局長マーガレット・チャン氏が新型インフルエンザ大流行について再度の警告(その1)同(その2完)

(5) WHOの第3回国際保健規則緊急委員会の動向

(6) EUのおける新型インフルエンザA(H1N1)の疫学面の研究動向

2.CDCの「Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Situation Summary」の重要項目(仮訳)
 CDC(筆者注2-2)の各研究所は、以下を含むCOVID-19対応をサポートしている。
CDC laboratories have supported the COVID-19 response, including:

 CDCは、臨床検体からの呼吸サンプル中のCOVID-19を診断できるリアルタイム逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(real time Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction (rRT-PCR) )(筆者注3)テストを開発した。 1月24日に、CDCはこのテストの試験プロトコルを公開した。 

 2月26日に、CDCと保健福祉省・食品医薬品局(FDA)は、オリジナルのCDCテストキットの3つのコンポーネントのうち2つを使用してCOVID-19を引き起こすウイルスを検出するプロトコルを開発した。 これにより、少なくとも40の公衆衛生研究所がテストを開始できるようになる。
 CDCは、シーケンス(sequencing) (筆者注4)が完成したときに、米国で報告された症例からGenBank(筆者注5)にウイルスのゲノム全体をアップロードした。
 CDCは、細胞培養(cell culture)でCOVID-19ウイルスを増殖させた。これは、追加の遺伝的特性評価を含むさらなる研究に必要であり、 細胞増殖ウイルスは国立衛生研究所(NIH)のBEIリソースリポジトリ(倉庫)( Biodefense and Emerging Infections Research Resources Repository (BEI Resources) に送られた。

3.CDC の新型コロナウィルスの検査キットの使用開始に関する米国のメデイア情報
 CNNによると、CDCは新型コロナウイルスに関し、感染を診断する検査キットを開発し、国内外の検査機関2月6日に配布を始めたと発表した。検査キットは通常のインフルエンザの診断で使用する機器で利用でき、4時間で結果が出ると報じた。
 しかし、2月13日CNNは新型肺炎の検査キットに不具合、作り直しへといった情報を報じている。

4.新型コロナウィルスの治療薬の開発動向
 わが国では、エボラウイルス治療薬アビガン錠を開発した富士フィルム富山化学の例が取り上げられている。

 一方、米国ではどうであろうか。
米国衛生研究所(NIH)に属する米国アレルギー・感染症研究所(NIAID)は、新型コロナウイルス感染の治療薬としての効果と安全性を調べるため、抗ウイルス薬の「レムデシビル(Remdesvir)」のランダム化二重盲検比較試験を、ネブラスカ大学医療センターで開始した。 

 現時点では新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)の治療薬として、米食品医薬品局(FDA)承認を受けた薬はなく、COVID-19の治療に関する臨床試験はこれが初めて。 
 レムデシビルは、米バイオ医薬品大手のギリアド・サイエンシズにより開発された治験薬。これまでエボラ出血熱の治療で試験的に使用されたほか、動物実験ではコロナウイルスが原因の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)で有望な試験結果を示している。Yahoo Japan news~抜粋
 より詳細は、NIHリリース「NIH clinical trial of remdesivir to treat COVID-19 begins Study enrolling hospitalized adults with COVID-19 in Nebraska.」等を参照されたい。
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(筆者注1)  米国連邦議会調査局(CRS)が新型インフルエンザにかかる主要法律問題の概括報告の具体的な内容は2010年2月1日の筆者ブログで確認されたいが、わが国の政府、関係機関、研究機関等は以下掲げる項目につき11年前の大混乱の実態を踏まえ整理されているはずと考えるのは筆者のみであろうか。
[目次]
1.序論
2.非常時の措置 
(1).非常時担当政府機関 
・公衆衛生担当局 
・国家非常時事態宣言 
・スタッフォー法に基づく宣言
・社会保障法1135条の国民の受診権放棄または制限措置
・緊急使用認可(Emergency Use Authorizations(承認していない対策のための)
(2)国際保健規則(International Health Regulations:IHR)
・IHRの概観
・「国際的懸念発生時における公衆衛生緊急事態」宣言 
(3)患者の隔離と孤立措置担当の当局
・連邦機関
・連邦と州の調整機関
・連邦規則案
(4)国境入国問題 
・感染した在留外国人の非容認措置
・国民や在留外国人の隔離措置 
・国境の封鎖 
(5)航空と旅行制限
・ 航空会社の緊急時対策ポリシー 
・公衆衛生上の「国境または航空禁止者リスト(“Do Not Board” List)」
・連邦領空局(Federal Airspace Authority)
(7)学校閉鎖
3.ワクチン接種(Vaccinations)
(1)接種実施の背景
(2)ワクチンの配分
・概観
・2009年に先立つ選別的連邦の活動
・インフルエンザA(H1N1)緊急事態後の連邦の活動
・法的問題
(3)強制的ワクチン接種
・歴史と先例
・医療機関受持者と強制的ワクチン接種
・公衆衛生緊急事態時のワクチン接種命令
・モデル州非常事態における保健管理法(The Model State Emergency Health Powers Act)
・連邦政府の役割
4.公民権(Civil Rights)
(1)はじめに
(2)適正手続(Due Process)および保護の平等(Equal Protection)に関する憲法上の権利
(3)連邦無差別保証法(Federal Nondiscrimination Laws)
 ・「1973年リハビリテーション法(Rehabilitation Act)」504条(筆者注8)
 ・「1990年米国障害者法(Americans with Disabilities Act of 1990 :ADA)」
 ・「1986年航空バリアフリー法(Air Carrier Access Act )」
5.民事損害賠償責任問題
(1)「2005年災害危機管理および緊急事態準備法(Public Readiness and 
Emergency Preparedness Act :PREP Act)
(2)一般ボランティアおよび医療専門家ボランティアの民事責任問題
・「1997年ボランティア保護法(VVolunteer Protection Act of 1997)」
・緊急事態時における責任制限
・州等における災害相互応援協定(Emergency Mutual Aid Agreements)
6.雇用問題
(1)はじめに
(2)公共政策に違反する不当解雇(Wrongful Discharge)
(3) 「1993年介護休暇法(Family and Medical Leave Act of 1993:FMLA)」
(4)従業員保護法に関する州および連邦法

(筆者注2) COVID-19の世界的感染情報はジョンホプキンス大学のリアルタイムコロナのブレイク状況リアルタイム地図も参考になる。
Johns Hopkins Center for Systems Science and Engineering
Mapping 2019-nCoV
By Lauren Gardner, January 23, 2020

(筆者注2-2) CDCには1,700人を超える科学者、医師等がおり、アトランタからスポケーン、フォートコリンズ、シンシナティ、ピッツバーグ、モーガンタウン、アンカレッジ、サンファンに至るまで、米国中の200以上の最先端の研究所で働いている。 CDCの研究所は、その機能と専門知識が多様ですが、重要な役割を果たしアメリカの国民の生活と健康を24時間365日保護するという1つのミッションによって統一されている。(CDC laboratoriesのHP仮訳)

職種:医師(感染症専門医)、歯科医師、インフェクションコントロールドクター、薬剤師(感染制御専門薬剤師)、獣医師、看護師(感染症対策看護師)、臨床検査技師(感染制御認定臨床微生物検査技師)、診療放射線技師、臨床工学技士、歯科衛生士(感染管理歯科衛生士(感染制御歯科衛生士))、滅菌技士(第一種・第二種)、歯科技工士、農学者、生化学者、遺伝子学者、病理学者、法医学者、疫学者、気象学者、統計学者、理学者、微生物学者、細菌学者、事務職、プログラマ、官僚、軍人など多種多様。本部7,000人、支部8,500人(Wikipedia~抜粋 )

CDCの2020年予算額は65億9,400万ドル(約7,253億4,000万円)

(筆者注3) 細胞内において、遺伝情報であるDNAからタンパク質が合成される過程では、まずRNAと呼ばれるDNA配列のコピーが作製され(転写)、このRNAを基にタンパク質が合成される。DNAを大量に複製するにはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)が汎用されるが(詳細はPCRを参照)、PCRではRNAを直接複製することができない。そこで、一度RNAからDNAへと変換する逆転写と呼ばれる反応を行い、得られたDNAを鋳型としてPCRを行うことで、RNAをDNAとして大量に複製する。このRNAからDNAへの逆転写反応、それに続くPCRという一連の過程を、RT-PCR(Reverse Transcription Polymerase Chain Reaction、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応)と呼ぶ。本手法により、細胞内でどのような機能を持つRNAがどのくらい発現しているのかを調べたり、rRNAを標的として高感度で細菌を検出したりすることができるようになった。

(筆者注4) シークエンシング◆DNAを構成しているヌクレオチドの塩基配列の決定(gene sequencing)、またはタンパク質のポリペプチド鎖内のアミノ酸配列の決定(protein sequencing)を行う手続き。(英辞郎から抜粋)

(筆者注5) GenBank(ジェンバンク)は、米国立生物工学情報センター(NCBI; National Center for Biotechnology Information)が提供している、塩基配列データを蓄積・提供している世界的な公共の塩基配列データベースである。(Wikipediaから一部抜粋 )

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オランダで急速に広がるウィルスや寄生虫を媒介するヒトスジシマカ問題

2013-04-13 14:13:40 | 海外の医療最前線



 中国の「鳥インフルエンザH7N9型」問題が騒がれる一方で、筆者の手元にオランダの主要都市で急速に拡大する東南アジアで収穫した竹(bamboo plant)や車のタイヤを介してオランダに移ってきたといわれる「タイガー・モスキート(ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)」がオランダのアムステルダム、ロッテルダムやユトレヒト等で見つかった。ただし、コロニー(筆者注1)は見つかっていないとのニュースが届いた。

 この問題は米国やヨーロッパだけでなく、起源をたどるとわが国とのかかわりが深い問題でもある。筆者はこの分野ではまったくの門外漢であるにもかかわらず、あえてレポートするのは生態学と感染症問題に対する理解を改めて訴えることが目的である。

 さらに、この問題はわが国でも従来から国立感染症研究所感染症情報センター等が取り上げ、警告を鳴らしている問題であることも再認識した。今回のブログはオランダのメディア記事(Dutch News .nl)をもとに、欧州感染症研究センター(ECDC)の解説やわが国の国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)のレポート等を適宜引用、補足説明を加えながら、ここでまとめて紹介するものである。

 なお、門外漢ついでに引用すると筆者は、本ブログで2009年4月30日から同年11月24日まで計16回にわたり「海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み」を書いた。自分なりに独学で勉強したり、海外の主要疫学専門サイト等をつぶさに読んだことは現在でも意義のあることと考える。誤解や正確性を欠く点については専門家の指摘を期待する。


1.オランダのメディアの記事概要
 ECDCによれば、この攻撃的かつ日中に刺す蚊は約20のウィルスや寄生虫(parasites)を運ぶ「ヒトスジシマカ」がオランダでも居を構えた(筆者注2)。タイガー・モスキートは東南アジア固有のもので中国の観賞竹材や中古タイヤ(筆者注2)等を介してオランダに到達し、その範囲が拡大している。すなわち、アムステルダム南北部、ロッテルダム近くのウェストランドやさらにユトレヒト州、北ブラバント州の一部やリンブルグ州で検出されているが、コロニーはまだ特定されていない。

 RTL Nethrtland(筆者注3)ニュースの取材に対し、ECDCのスポークスマンであるウィルフリード・ラインホルド(Wilfried Reinhold) (筆者注4)は、「オランダの保健・福祉・スポーツ相であるエディス・スヒッペルス(Edith Schippers)は中国からの輸入品でのヒトスジシマカの自由な浸入はなく、スポット検査で十分であるとしたが、その取組みは失敗に終わった」と述べた。

2.ECDCのヒトスジシマカ(Aedes albopictus)解説部分の仮訳 (筆者注5)

Aedes albopictus:

 蚊の一種である「ヒトスジシマカ」 は東南アジアを起源とし、 北アメリカ・中央アメリカ・南アメリカ、アフリカの一部、北オーストラリア、その他ヨーロッパの数ヵ国で 継続して30~40 年の間に広がった。1979 年の アルバニア、また 1990 年の イタリア での 初めての出現以来、ヒトスジシマカ は15ヵ国以上のヨーロッパ諸国で報告されている 。それは侵略的外来種専門家グループ(Invasive Species Specialist Group:ISSG、2009)によると、トップ100の侵入性の高い種の1つと指定され、世界で最も侵入性の高い蚊の一種であると考えられている。
 
 ヨーロッパ 諸国への 浸入 は、域内の道路車両網の 更なる分散により「万年竹・開運竹(Lucky Bamboo)」の流行や 使い古した タイヤ 取引 と 輸入 を通して 主に 起こった。異なる気候 にも適応出来る能力 のため、ヒトスジシマカは新しい地理的な位置 であるより 北の 緯度 でも 寒い冬 を通して 生き残ることが できることから 、この蚊の変種は、冷さに抵抗力を持つ 卵 を生みだした。ヨーロッパに侵入する 蚊 種 の 多くと同様に 、タイヤ のような 容器の生息場所と家屋周辺での 花瓶等の 選択拡大は人間 との 接触が 高まる可能性をもたらした 。

 ヒトスジシマカ は、チクングンヤ熱 ウイルス の重要な 既知の 媒介生物である。それ は、2005~2007年 のフランスのレユニオン島(La Reunion)、 2007年の イタリア と 2010 年の フランス の 「チクングンヤ熱(Chikungunya)」の 媒介生物であった 。

 ヒトスジシマカ は、レユニオン島R1977~1978年 (2009 年6月 の モーリシャスも同様 )の大発生をもたらしたものとして 、 「デング熱」の媒介生物 で も ありえる。それ は、2010年のフランスやクロアチアの デング熱 ウイルスの媒介生物でもある。

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(筆者注1)「コロニー」とは、生態学にて同一種の生物が形成する集団。繁殖のための群れである。

(筆者注2) 「国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)レポート(Vol. 32 p. 167-168: 2011年6月号) 「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」から一部抜粋「ヒトスジシマカの生態と東北地方における分布域の拡大」からの一部抜粋。「この蚊は古タイヤの国際的な流通で、オーストラリア、北米、中南米、ヨーロッパの国々へ輸出され、イタリアのヒトスジシマカは、米国から輸入された古タイ ヤによって運び込まれたことが確認されている。米国の系統は日本から古タイヤによって輸出されたことから、ヨーロッパと日本のヒトスジシマカは同じ系統で あることが強く示唆される。」

(筆者注3) RTL NederlandはRTLグループの子会社の商業放送で、ルクセンブルグに本拠を有し、4系統のチャンネル(RTL4,RTL5,RTL7,RTL8)を保有し、オランダ市場を視聴目標としている。

(筆者注4) ウィルフリード・ラインホルド氏は 、オランダNPOで異国からの動植物の生物種の侵略阻止活動団体である「Platform Stop invasive exoten」 (Dutch organisation to stop the introduction and spread of invasive alien species)の議長である。

(筆者注5) “Aedes albopictus”に関する解説としては、(1)米国疾病対策センター(CDC):Information on Aedes albopictus 、(2) 欧州感染症研究センター(ECDC)2012年作成 Technical Report「Guidelines for the surveillance of invasive mosquitoes in Europe」(PDF 全100頁)、 (3)ECDC:2009年5月公表「Technical Report:Development of Aedes albopictus risk maps」(ECDCサイトからリンク可) 、(4)厚生労働省検疫所最新ニュース2012.11.20 「チェコでヒトスジシマカが発見されました2012年10月25日日付けEurosurveillanceの訳文」等を参照されたい。

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警察庁が死因究明・検視体制の強化策の検討動向とわが国のフォレンジック体制整備への取組み問題

2011-03-09 12:52:53 | 海外の医療最前線



 2月26日、筆者は英国法務省の検死官規則(Coroners Rules 1984)の一部改正の背景と司法改革の観点からみた意義について解説した。(筆者注1)
 また、FBIが現在稼動させている「統合自動指紋認証・検索システム(Integrated Automated Fingerprint Identification System:IAFIS)」の次期システムである「次世代生体認証システム(Next Generation Identification System:NGI」の構築計画の概要について、2007年12月27日の本ブログ(その1 ,その2 )で簡単に紹介した(“NGI”については3月8日、FBIは初期動作能力確認が成功した旨リリースしており、筆者は米国政府の本格的な生体認証データベース戦略につき別途取りまとめ中である)。

 今回のブログの執筆にあたり、わが国の警察庁関係の資料を読んでいたところ、2010年1月から検討を行っている警察庁「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」の検討資料の中で英国(イングランド&ウェールズ)の報告資料(4頁)での2009年「コロナー法改正」に関する解説が目にとまった。
 同研究会の検討状況についてはあまり知られていない問題であるが、「不審死」をめぐる問題意識が捜査・司法関係でも高まっていることは興味深い点であり、検討状況と課題につき概要をまとめた。

 一方、検視や死因究明問題と極めて深くかかわる法科学問題として「フォレンジック科学(Forensic Science)」への取組み問題がある。
 筆者は日頃から米国NIJ(連邦司法省・司法研究所)
(筆者注2)(筆者注3)“Forensic Sciences”、FBIの“Forensic Science Communications” 、大学(米国マーシャル大学の“Marshall University Forensic Science Center”等)の発信情報にも目を通すことが多いが、わが国として本格的な研究をすべき時期はとっくに過ぎているように思える。


1.警察庁「犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度の在り方に関する研究会」の検討概要
(1)設置目的および今後の検討予定
 2010年7月に行った「研究会中間とりまとめ」から以下の点を抜粋する。なお、筆者として気になるのはこのような死因究明制度の整備について法医学や刑事法関係者等による検討は極めて望ましいことといえるが、(3)で述べるとおり、本来の研究成果や今後の実施線表が見えてこない研究は意味がない。まさに税金と時間の無駄である。

「犯罪死を見逃さない死因究明制度の確立を図るべく、中井洽国家公安委員会委員長の発案により、本年1月、警察庁に、法医学者、刑法学者等により構成する「犯罪死の見逃し防止に関する死因究明制度の在り方に関する研究会」が設置された。本研究会は平成22年度末に一定の結論を出すことを目指して議論を進めているが、凶悪犯罪の放置に直結する犯罪死の見逃しを防止するための施策を充実させることが喫緊の課題であるとの認識の下に、早急に対応策を講ずる必要がある事項については、可能な限り、平成23年度予算から着手することが望ましいと判断した。
 中間とりまとめは、このような判断に立って、関係当局における来年度予算の検討に資することを目的として、今後5年間を目途に、犯罪死の見逃し防止に資する死因究明制度を確立するに当たり必要となる施策や実現すべき目標値等についてこれまでの議論を整理したものであり、より具体的な内容や、その実現のための方法等については、現在行っている死因究明についての先進的な国々の制度についての実地調査の結果等も参考にしつつ、今後さらに議論を深めて、研究会としての結論を出すこととしている。(以下略す)」

(2)これまでの検討内容と海外の調査資料
第1回(2010年1月29日)
第2回(2010年2月19日)
第3回(2010年3月19日)海外調査対象国として、フィンランド、スェーデン、ドイツ、オーストラリア、英国を候補にあげた。
第4回(2010年4月16日)
第5回(2010年5月28日)フィンランドの報告
第6回(2010年7月2日)オーストラリア(ビクトリア州)の報告
第7回(2010年7月30日)英連邦(イングランドおよびウェールズ)およびドイツ(ハンブルク州)の報告中間取りまとめ
第8回(2010年9月16日)
第9回(2010年10月15日)スェーデン王国の報告
第10回(2010年11月19日)今後の検討課題の整理
第11回(2010年12月17日)最終取りまとめに向けた論点整理
第12回(2011年1月28日)

(3)同研究会の審議経過や論点整理を読んでの感想
 第11回の議事要旨等を読んでみた。同研究会は初めから平成23年度予算の確保目的の研究会という側面が強いものであり、期待していなかったこともあるが、今後の課題を整理しただけで約1年間の研究成果というには程遠いと感じた。ここでは具体的な問題点の指摘は行わないが、今後の進むべき行程表(progress schedule)が見えてこない。研究会は専門家の勉強会や単なる意見交換会の場ではないはずである。

 事務局の体制(筆者注4)も含め、この程度の内容で本当に先進国並みの制度に生まれ変われるのか疑問が大である。

(4)いわゆる先進国の死因究明研究の実務や体制実態は本当に進んでいるのか
 各国の実態は、中間報告で指摘されている「実地調査」に基づき研究会で配布された資料程度のものであろうか。
 筆者の専門外のテーマではあるが、先進国として調査報告がなされているドイツやその他EU加盟国の情報等に基づき最近時に見た課題の要旨のみまとめておく。なお、不審死問題は薬物、アルコール等依存症、メンタルヘルス、児童虐待(child abuse)等とも極めて関係が深い問題である点を再認識した。
 なお、オランダやアイルランドについては参照すべき論文のテーマとURLのみ記した。

①ドイツ
「ドイツ医師会雑誌(国際版)(Deutsches Ärzteblatt International))の2010年8月の公表論文「死後の外表検案:死亡原因と死亡の種類の決定(The Post Mortem External Examination:Determination of the Cause and Manner of Death)」 の内容を一部引用する。死亡原因の詳細な解析実施国の例としてその内容は参考となろう。

1)著者はボン大学付属病院・法医学研究所(Universitätsklinikum Bonn):医学博士 Burkhard Madea とケルン大学付属病院・法医学研究所(Universitätsklinikum Köln):医学博士 Markus Rothschild である。

2)検討の背景
 死後外表検案は医師が患者に出来る最後の医療サービスである。その目的は医学的な診断書の作成だけでなく、司法過程の公益に対し「事実」を提供することにある。主な任務は、死亡の厳密な確認、死亡原因の決定および死因の種類の調査である。

3)研究目標
①ドイツにおける死亡原因に関する基礎データに基づき、死亡認定における医学的な外表検案のコア項目を形成する。すなわち、死亡原因の決定と死因の種類の調査について正確に説明する。
②不審死についてどのように認定するかについて、具体的解決策を提供する。
③死亡証明の目的に関し医師の診断の法的要件および義務について説明する。

4)死亡統計により示された死亡原因
・2007年中にドイツ国内で報告された死亡件数は818,271件である。連邦政府統計局によるとうち784,962件は自然死であった。ドイツには全国ベースの死亡場所の統計はない。しかし、50%の死亡場所は病院(病院自身のデータによると)で、残り25%が自宅、残り約15%が介護施設(care home)である。残りの10%は移送中や労働災害である。

・2007年中の入院患者の入院数17,178.573件のうち6092,198件が内科で、2番目に多かったのが外科で3,592,386件であった。内科部門のうち、最も多いのは心臓病(cardiology)で続いて、胃腸系病(gastroenterology)、血液系病(hematology)、老人化病(geriatrics)の順である。死者総数818,271件のうち258,684件は心臓疾患で、最も共通的な原因は虚血性心疾患(ischemic heart disease)(148,641件)で、2番目に多かった原因は悪性新生物(malignant neoplasms)(211,765件)である。

・年齢別に見ると40歳以下において変死は病気による死亡内因より頻繁である。40歳以上についても悪性新生物疾患や虚血性心疾患による死亡は急増しない。

 これらのデータは、ドイツ連邦統計局は基礎疾患および死亡証明に基づく死亡証明書に基づきエントリーによるコード化したデータから導き出す。

 それとは対照的に、州(land)の統計局においては、基礎疾患を自動的に死因に結びつける統計を使用しない。すなわち、コード入力者は各死亡証明書の記載内容を検証し、基礎疾患の有無を決定し、ICD(疾病および関連保健問題の国際統計分類)規則に基づきその基礎疾患のコードを入力する。
 しかしながら、多様化する死亡原因過程を背景として、唯一死亡原因の表示において死亡原因統計のニーズや健康の指数から導き出すデータを部分的に充足するのみである。
(以下略す)

②オランダ
1998年7月、オランダ・トリンボス・メンタルヘルス・依存症研究所:Trimbos Institute Netherlands Institute of Mental Health and Addiction
REITOXサブ任務3.3に関する最終報告書で与えられた提案の実現の実行可能性調査―医薬関連の報告に関するデータの品質と比較可能性を向上させるためにー(Feasibility study of the implementation of the proposals given in the final report of REITOX sub-task 3.3 - to improve the quality and comparability of data on drug-related deaths―Final report―)」

③アイルランド
 「アイルランド・医学ジャーナル2011年1月(104巻1号)(Irish Medical Journal:January 2011 Volume 104 Number 1)
「法医学設定時の致命的な外傷性頭部外傷へのアルコールの貢献度問題(The Contribution of Alcohol to Fatal Traumatic Head Injuries in the Forensic Setting)」

④EUの法医学問題の公的専門機関
 EUの公的機関として、ドイツのケルンに本部を置く「欧州法医学評議会(European Council of Legal Medicine:ECLM)」が加盟国における法医学とりわけ「不審死」等に関する科学、教育および専門的な問題に取組むため重要な機能を担うと考える。
 設置準備途上ということもあり、各国の情報サイト内容も含めほとんど“under construction”な事項が多い。(筆者注5)

 ECLMのHPから、基本的な内容のみ紹介するにとどめる。
1)正式名称および登録場所
・EU加盟国の代表からなる評議会は、「欧州法医学評議会(以下“ECLM”という)」と称する。
・ドイツ連邦共和国のケルン(Cologne)を本部の登録場所とする。
2)設置目的およびその範囲
・“ECLM”は、EUにおける法医学に関する規律・統制を扱う公的機関とする。
・“ECLM”は、EU内における科学、教育および専門的な事項に関する規律規制機関とする。
・本規律・統制にかかわる専門家は、法システム(およびその専門的教育)の枠組内で不審死や身体への危害にかかる捜査(investigation)、その評価(evaluation)および解明(elucidation)についての高度な医学的能力を持つ者とみなす。
3)加盟資格
“ECLM”は、EU加盟国および欧州自由貿易連合(EFTA)加盟国の関係機関が指名した代表で構成され、そこでは法医学にかかる規律を完全に理解し、またそこではアカデミックな普遍性を構築し、かつ慎重な検討ののち対等な立場から意見を提供する。
・EU加盟国は前記1)につき最大3名を代表とできる。また希望する国については追加の代表の選任は出来るが、その場合は「オブザーバー」資格であり投票権は持たない。
4) “ECLM”には、執行委員会(Executive Board)を置く。
(以下略す)

2.わが国における「フォレンジック科学(Forensic Science)」に関する総括的な体制整備の重要性
 わが国の「フォレンジックス問題」は、「デジタル・フォレンジック」や「コンピュータ・フォレンジック」等ベンダー企業が都合が良い範囲で訳語を使い分けていることが混乱のもとになっていると思える。
 例えば、情報漏洩を中心としたセキュリティ・インシデント発生時、原因究明や再発防止策としてのデジタルデータに対する「フォレンジック調査」といったサイトがある現状を見ると本質的な整理が遅れているといえる。一般的にいえば確かにまだ定義自体が明確化されているとは言いがたいが「フォレンジック科学(Forensic Science)」という包括的な言葉で統一の上、内容整理を行うべきであると考える。

(1)“Forensic Science”の要素を細分化したらどのような分野に整理できるのか。
 あくまでドイツの影響を受けた医学分野から見た例示的な内容と思えるが、「名古屋市立大学大学院医学研究科」の整理内容を基に、以下の分類と英訳語をまとめてみた。
①法医学(Forensic Medicine):頻繁に使われる名称ではあるが、そのさし示す範囲は若干曖昧である。 一般的にはForensic Pathology,Forensic Toxicology、 および医療活動のmedico-legalな側面の三者を含むと考えられる。また、Forensic Sciencesの一分野として扱われることが多い。

②Forensic Pathology(法病理学):死体現象,損傷・窒息その他の外因死および内因死を扱う。 したがって米語では狭い意味での法医学にはこの語が用いられる。

③Forensic Toxicology(法中毒学):法的問題を有する事例から得られた試料の薬毒物分析・評価を行う。

④Forensic Genetics(法医遺伝学):従来は法医血清学と呼ばれ、血液型等の遺伝的多型による個人識別を目的としていた。また本邦ではドイツの影響や、国内の歴史的経緯から法医学の一主要分野を形成していた。その後1985年JeffreysによるDNAフィンガープリント法の開発や、1987年MullisらによるPCR法の発表を契機に、DNA多型が検査・研究対象の主流となり現在に至っている。

⑤Forensic Odontology, Forensic Dentistory(法歯学):歯科所見をもとに個人識別等を行うのが主たる目的である。 わが国では従来法医学の一分野とされていたが、近年は独立した分野を形成しつつある。またDNA多型も主要な研究領域となっている。

⑥Forensic Anthropology(法人類学):主たる対象は骨検査であり、歴史的試料も扱う。欧米では Physical Anthropology の一分野として位置づけられており、本邦においてもその傾向はある。この分野においてもDNA多型検出技術が導入されている。

 わが国の医科大学における法医学の系統講義の内容として扱われるのはおおむね上記の分野である。
 同サイトでは、その他にこれに関する法医学分野として次のものが列記されている。

⑦Legal Medicine(法医学):この語は Forensic Medicineよりも広い意味で用いられる場合とMedical Jurisprudence (medico-legal aspects of medical practice)の意味で用いられる場合がある。本邦の法医学教室の英語名称はDepartment of Legal Medicineであるところが多いが、これは主としてドイツ法医学の影響によるものと考えられる。

⑧Forensic Entomology(法昆虫学):主に死体を蚕食する昆虫の生活環(life cycle)と死体昆虫相の遷移(succession)を指標として、死後経過時間の推定を行う。

(2) “Forensic Science”から見たその他の分野
 あくまで筆者の個人的見解であり、詳細な内容は省略するが、犯罪捜査やサイバー犯罪捜査上で欠かせないもので広い意味から見た主要な分野をあげておく

①コンピュータ・フォレンジックス(Computer Forensics)およびデジタル・フォレンジックス(Digital Forensics)
②犯罪捜査学(Criminalistics)
③DNA鑑定とタイピング(DNAを元に遺伝子型を決定する手法)(DNA typing)
④指紋認証学(Fingerprints)

(3) “Forensic Science”の体系化
 前記の多様な分野について、その内容をいかように整理すべきか。前述した米国マーシャル大学はNIJの資金支援による研究の連携が顕著な大学であり、そのマスターコース用サイト(Master of Science Degree Program)では次の4つに取組み分野をカリキュラムとして整理している。捜査実務的な面等も踏まえており、参考になろう。

①DNA分析に関し司法関係者のための無料のフォレンジックス検査を提供している。そこでは性的暴行(sexual assault)、近親相姦(incest)、身体特性の識別(body identification)、殺人等の検査も支援する。
②フォレンジック化学(薬物分析、毒物、物証等)
③デジタル・フィレンジックス・
④犯罪現場の捜査(Examining the Scene of the crime)

(4)更なる検討課題
A.広く国民や関係者の関心を集める情報提供のあり方の研究の必要性
 例えば、米国は連邦ベースでDNAや指紋鑑定等の重要性に鑑みて、法執行者・捜査官、法科学者、裁判所事務官、鑑識管理者、研究者、政策立案者や議員、犠牲者擁護団体のメンバー等の参加を目的とする政策専門サイト“DNA initiative”を設置して、広く国民の関心を集めている。
 同イニシアティブの本来の目標とする点は、次のようにまとめられている。わが国でも共通的な課題の部分もあると考える。
①重大な暴行犯罪(レイプ、殺人や誘拐)や鑑定・検査を要する有罪判決を受けた罪人に関する分析が的確に行われていないDNAサンプルの現下の未処理分の削減
②DNA鑑定等に関し、時宜に合致した犯罪捜査研究機関の能力向上
③あらたなDNA技術の開発や全ての法科学分野の研究・開発の振興
④刑事司法専門家のために、より広範囲のDNA証拠に関する教育内容の開発や支援の提供
⑤公判で検証されなかった犯罪現場における有罪判決後におけるDNA検査へのアクセスを提供
⑥DNA法科学技術が行方不明者や人骨の識別問題を完全に解決するのに利用されることを保証
⑦無実の人の保護

B.同サイトでまとめられている米国連邦フォレンジック関係法とその目的について参考として列記しておく。
「2004年万人のための司法手続法(Justice for All Act of 2004)」:犯罪被害者の権利を確立し、DNA 検査の充実を図るなど、刑事司法制度に関わる人の権利および保護を強化することを目的とする。(筆者注6)

「2000年DNAサンプル未処理削減法(DNA Backlog Elimination Act of 2000)」:FBIの「統合DNAインデックス・システム(Combined DNA Index System:CODIS)」の利用に関し、各州に助成金を提供するとともに一定の暴力犯罪や性犯罪におけるDNAサンプルの収集や解析を提供する。

「1996年犯罪情報技術支援法(Crime Information technology Act of 1996)」:州際における刑事司法の同一性、情報、伝達およびフォレンジックスに関する改善施策を提供する。
「1994年DNA鑑定法(DNA Identification Act of 1994)」:DNA鑑定の品質保証を進めるため、解析研究機関への資金供与およびDNA記録やサンプルのインデックスの収集につき承認する。

3.認定研究機関や民間サービス・ベンダーのDNA鑑定の品質保証問題
(1)わが国の品質や基準問題
 わが国における「DNA型データベース・システムの問題点」に関し、2007年(平成19年)12月21日、日本弁護士連合会は「警察庁DNA型データベース・システムに関する意見書」を公開している。そこで指摘されており、米国のDNAデータベースの信頼性比較で重要と思った点は、「品質保証」(同意見書17頁以下)である。(筆者注7)

 法医学等関係者の報告内容で確認したが、わが国ではDNA鑑定の品質に関する法律はない。あえて言えば、1997年(平成9年)12月5日に日本DNA多型学会・DNA鑑定検討委員会が発表した「DNA鑑定についての指針」、1999年6月12日に 日本法医学会・親子鑑定についてのワーキンググループが発表した「親子鑑定についての指針」、2001年に文部科学省・厚生労働省・経済産業省がまとめた「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針(その後、3回改訂されている)」があるのみである。(千葉大学大学院医学研究院法医学教室サイト等から引用) (筆者注8)

(2)米国のDNA鑑定認定研究機関(DNA Testing Laboratory)の認定や格付け機関等による品質保証の取組み (筆者注9)

A.認定基準とその表示
米国の場合、厳格な認定基準がある。民間ベンダーの例として米国“DNA Diagnostics Center:DDC”サイトで見る具体的な認定(Accreditations)基準のクリアー状況を確認してほしい。

B.「DNA諮問委員会(DAB)」、 「米国AABB」(筆者注10)および「米国病理学会(CAP)」等の認定基準策定や格付け米国におけるDNA鑑定研究機関における品質保証の査定基準等について、歴史的な経緯を概観しながら振り返る。(2005年2・3月発刊“Forensic Magazine”第2巻第2号「DNA研究室のための品質保証文書の進化」および同誌2007年4月「フォレンジックDNA研究室の進化と直面する課題」から抜粋、引用した。このマガジン・サイトは専門的でありかつ良く整理されている。)

 1988年、FBIはバージニア州カンチコ(Quantico)のFBIにDNA分析手法に関する技術作業グループ(Technical Working Group on DNA Analysis Methodes:TWGDAM)を設置した。DNA検査に関する品質保証ガイドラインWGDAMの成功は、DNA鑑定に水準を引上げただけでなく、すべてのフォレンジックの規律の水準を引上げた。その技術が成熟した時点で“SWGDAM”または“Scientific Working Group on DNA Analysis Methods”という名称に改められ、その包括名称は“Scientific Working Group:SWG”となった。
 これを受けて、フォレンジックの規律につき科学的な基準の改善を行うため特定の分野ごとに品質保証の必要性の記述と最善の実践内容(bestpractices)に関するガイドラインを詳述するため、次のとおり新たなグループが設置された。FBIの解説では、現時点で20のワーキング・グループがある。うち主要なものをあげる。
①SWGDAM:DNA Analysis Methods
②SWGDE:Digital Evidence(www.swgde.org)
③SWGDQC:Questioned Documents
④SWGDRUG:Analysis of Seized Drugs(www.swgdrug org)
⑤SWGFST:Latent Fingerprints
⑥SWGGUN:Firearms and Toolmarks(www.swggun.org)
⑦SWGIBRA:Illicit Business Records
⑧SWGIT:Imaging Technologies(www.swgit.org)
⑨SWGMAT:Materials Analysis(www.swgmat.org)
⑩SWGSTAIN:Bloodstain Pattern Analysis(www.swgstain.org)
⑪SWGDOG:Dog and Orthogonal Detector Guideline(www.swgdog.org)

 1995年、DNA諮問委員会(DAB)が「1994年DNA鑑定法」のもとでの議会の命令に基づき、FBIによる明確に分離した形で設置された。
 同委員会の当初の目標は基礎的な検査の実現可能性への勧告を行うとともにDNA鑑定認定研究室の品質基準およびDNA有罪犯罪者データベースの構築であった。
 TWGDAMおよびSWGDAMのガイドラインや各種フォレンジックや規格設定機関の情報を使用して、DABはFBI長官宛「フォレンジック鑑定研究室の品質保証基準」を提示した。これらの基準は1998年7月15日に承認され、1998年10月1日に施行された。

 前記基準においてDNA鑑定認定研究室は試験活動にとって適切な文書化された品質保証システムの構築が義務化され「本質保証マニュアル」は最低限、次の記述が義務付けられた。
(a)達成目標、(b)組織および管理、(c)人的な資格認定、(d)施設、(e)証拠の統制(evidence control)、(f)検証(validation)、(g)分析手順(analytical procedures)、(h)検定(calibration)およびその維持(maintenance)、(i)習熟度試験(proficiency testing)、(j)修正措置(corrective action)、(k)報告、(l)再点検(review)、(m)安全性、(n)監査(audits)

C.品質保証基準
①「1994年DNA鑑定法」に基づき「DNA諮問委員会(DNA Advisory Board:DAB )」は、1998年10月に「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準(Quality Assurance Standards for Forensic DNA Testing Laboratories:Forensic Standards)」、1999年4月に「犯罪者DNAデータベース化を行う研究室の品質保証基準(Quality Assurance Standards for Convicted Offender DNA Databasing Laboratories :Offender Standards)」を策定、公開した。
 この2つの品質保証基準についてはFBI長官に、2000年7月に報告が行われた。

②「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準」等の改定
 FBI長官は2009年に「統合DNA インデックス・システム(Combined DNA Index System:CODIS)」に参加するための最小基準の改定を行った。なお、“CODIS”は、1990年に14の州及び地方の犯罪研究所によるパイロット・プロジェクトとして運用が開始されたシステムであり、「地方DNAインデックス・システム(Local DNA Index System:LDIS)」、「州DNA インデックス・システム(State DNA Index System:SDIS)」および「全米DNA インデックス・システム(National DNA Index System:NDIS)」の三層の階層から構成されている。

 「犯罪DNAテストを行う研究室の品質保証基準」および「DNA データベース研究室の品質基準(QUALITY ASSURANCE STANDARDS FOR DNA DATABASING LABORATORIES)」の改定を行い、これら改定基準は2009年7月1日施行された。

C.ISO 17025など国際基準への対応
 DNA鑑定認定研究室などDNA鑑定をビジネスとする研究所等は米国の基準のみでなく、国際基準である“ISO 17025”(ISOのHP でアクセスできるが具体的な規格内容は有料である)をクリアーしなければならない。

(3)EUの「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」におけるDNA鑑定の国際フォレンジック鑑定評価基準認定
わが国では一部専門家でしか報じられていないようであるが、FBI以外のフォレンジック法科学の先進的研究ネットワークとして紹介すべきは「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」であろう。(筆者注11)

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(筆者注1 )筆者自身ブログ原稿を書きながら「検死」に関する法概念を整理してみたが無理であった。とりあえずWikipediaの「検死」説明から引用する。
「検死(Autopsy))は、死体を検分すること。日本では「検死」という法律用語は無いので明確な定義はない。一般に以下の3つの概念を包括した用語。
①検視(External examination on Forensic autopsy)
検察官またはその代理人として検察事務官や司法警察員(検視官)が、異状死体に対し犯罪性の有無を捜査する作業を指す。刑事訴訟法第229条に基づいて実施される。この時、解剖はせず、視覚、触覚、嗅覚を使い、着衣や所持品を調査し判断する。
②検案(External examination on Clinical autopsy)
医師が死体に対し、臨床的に死因を究明する作業を示す。医師法第19条に基づいてこれにより死体検案書を交付する。犯罪性の有無に関わらず、外傷性なのか、病死なのか死因を医学的臨床的に評価することである。画像検査・血液検査等も含めて臨床的に判断する。
③解剖(Internal examination on autopsy)
医師・歯科医師等が死因究明のために解剖を施行して死因を特定する作業を示す。日本の法律上では司法解剖・行政解剖・病理解剖と分類される。刑事訴訟法第168条に基づいて司法解剖が、死体解剖保存法第8条に基づいて行政解剖が、死体解剖保存法に基づいて病理解剖が行われる。

(筆者2) このブログ原稿を執筆している間にも、NIJから同研究所がスポンサーとなるフロリダ国際大学(Florida International University)で2011年4月、5月、7月、12月にわたり開催する「研究ワークショップ」の案内が届いた(参加は無料である)。
今回の一連の研究テーマは、「犯罪現場の担当者向け有益な微物証拠分析(Instrumental Trace Evidence Analysis)」分野に関する実践教育と説明されている。参考までに、NIJがスポンサーとなる「フォレンジックに関する教育プログラムの主要分野」を列記しておく。
①法廷でのプレゼンテーション手法と法廷官吏への対応
②犯罪現場の調査(Crime scene investigation)
③爆発物(Explosive)および「化学・生物・放射性物質・核兵器(CBRN)」への対応
④指紋採取や保存
⑤火器の検査
⑥フォレンジックDNA/生物学
⑦痕跡証拠(Impression Evidence)*
⑧フォレンジック研究室の管理と経営
⑨法医学的死亡検査(Medicolegal death investigation)
⑩顕微鏡検査(Microscopy)
⑪質問書面類
⑫毒物(Toxicology)および規制物質検査
⑬微物証拠(Trace Evidence)*

 なお、*「痕跡証拠」とは、犯人が犯罪現場に残す、あるいは犯罪現場から持ち帰る物的証拠のうち、ある物体がその他の物体と接触することにより、接触された物体に残される形状が解析対象となる証拠物。痕跡証拠は、その痕跡の元になった「ある物体」が何であるかを明らかにすることを目標に鑑定が行われる。痕跡証拠には、指紋、発射痕、工具痕、歯型(バイトマーク)、足跡、タイヤ痕、血痕飛沫パターン、筆跡等が含まれる
また、*「微物証拠」とは、犯人が犯罪現場に残す、あるいは犯罪現場から持ち帰る物的証拠のうち、残存物そのものが解析対象となるものをいう。それらの多くが微細物であることから、微物証拠と呼ばれるが) 微物証拠には、毒物、塗膜片、ガラス片、土壌、花粉、種子、麻薬・覚せい剤、血液、体液、唾液、毛髪、油類などがある。微物証拠の鑑定では、分析機械の精度や分析法によって結果が変化することはあっても、同種の機械や分析法を用いた場合には、同一の結論が導かれることが期待される。
(「工具痕鑑定用語集」から抜粋した)。

(筆者注3) 3月9日、筆者に連邦司法省司法研究所(NIJ)から届いたメールで、定期的に発刊している雑誌「NIJ Journal No. 267, Winter 2010」が発刊された旨が記されていた。雑誌そのものは後日手元に郵送されてくるのであるが、とりあえず内容を確認したところ、今回のブログに関係する小論文があったのでその概要を紹介する。米国における死因調査の課題がまとめられている。

①表題「死亡原因調査につき監察医と検死官に分断化されている現状改善に向けた課題(Improving Forensic Death Investigation)」
②この問題については、米国では2009年8月に米国科学アカデミー(National Academy of Sciences :NAS)がまとめた「米国における法科学の強化に向けた政策方針(Strengthening Forensic Science in the United States:A Path Forward)」が米国の死因調査の監察医(medical examiner)と検死官(coroners)のパッチワーク作業による「分断化」「不十分さ」ならびに「寄せ集め」が原因で、その調査の標準化を難しくしている点を指摘した。
 また、この問題は2010年6月7日~9日にNIJと全米法科学センター(National Center for Forensic Science:NCFS)の共催で開催された「フォレンジック死因調査シンポジューム(Forensic Death Investigation Symposium)」でジョージア州捜査局沿岸部地方監察医であるアッショウ・ダウンズ(Upshaw Downs)氏も多くの点で共通の問題があると指摘した。
 NAS報告の特に第9章「監察医と検死官のシステム統合化:現状と今後の必要性」はメディアの関心を集めたが、結果的にはその調査結果は目新しいものはなかった。このため、前記シンポジュームが開催され、検死官、監察医、法病理学者(forensic pathologists)、検視官(death investigators)、法執行官等が集まり、①法的ならびに倫理面からの問題、②教育・トレーニングおよび認証プログラム、③技術、および④死因調査に関する今後の研究領域等の分野の情報の緊密化に取組んだ。

④NAS報告第9章において最も多くの論議を呼んだのは「検死官システムの排除」である。
(以下、省略する)

(筆者注4) 公的検討研究会でありながら、資料面や審議内容が具体的に見えてこない。中間取りまとめ資料はPDF化されていないし、海外の先進国の報告資料の内容も具体的な制度改革のための参考とするには情報不足である。
 この程度のものであれば、「山口大学医学部法医学教室」「日本の検視・司法解剖の問題を斬る!」等と大差がない。

(筆者注5) “ECLM”のサイトでは一部の国の情報のみは閲覧が可能となっている。ドイツノルウェーである。特にノルウェーはEU加盟国ではないがEEA(欧州経済領域)の国として参加しており、現時点では最も詳しい法医学の研究体制に関する解説を行っている。

(筆者注6) 国立国会図書館 中川かおり「2004年万人のための司法手続法―犯罪被害者の権利を確立し、DNA 検査の充実を図るための米国の法律―」が詳しく解説している。

(筆者注7) 「(1) 現在, 日本の警察においては、第三者機関によるDNA 型鑑定の品質保証がなされていない。しかしながら、品質保証は、DNA型鑑定の信頼性を保つ上で不可欠であり、米国及び欧州では,このような方策が採られている。
ア まず、米国においては、1994(平成6)年に米国DNA鑑定法(DNA Identification Act of 1994)が可決され、連邦捜査局(FBI)長官は、DNA品質保証の方法に関する諮問委員会を任命しなければならないとされ、諮問委員会は、品質保証の基準(DNAの分析を必要とする際の犯罪科学研究所や分析官の技術・技能検定の基準も含む)を作成し、必要に応じて定期的に改正し、勧告を行わなければならないとされている。
そして、同法により設置されたDNA諮問委員会は、1998(平成10)年に「犯罪DNA テストを行う研究室の品質保証基準、1999(平成11)年に「犯罪者DNAデータベース化を行う研究室の品質保証基準」を設けている。
また、FBI長官は、勧告された基準を考慮した後、品質保証の基準(DNAの分析を実施する際の犯罪科学研究所や分析官の技術・技能検定の基準も含む)を発しなければならないとされている。
その結果、米国では、これらの基準を守ることが、DNA鑑定の法廷での信頼性の前提とされている。」

(筆者注8) 海外の動向も含めDNA鑑定そのものについては、国立国会図書館レファレンス(2006年1月号) 岡田 薫「DNA 型鑑定による個人識別の歴史・現状・課題」、またDNA鑑定の証拠性の法的考察に関しては、一橋法学第1巻第3号(2002年11月) 徳永 光「DNA証拠の許容性―Daubert判決の解釈とその適用―」等参照。

(筆者注9) 米国におけるDNA鑑定の品質保証基準問題を含む“Forensics”全般にわたる専門的な解説が充実している雑誌として“Forensic Magazine”を推奨する。同サイトは、多様な分野につき実務面から整理する上でも参考になり、今回のブログの執筆にあたり基礎的な解説を参照させてもらった。“e-Newsletters”も無料で読める。

(筆者注10)  “AABB”の名称は、1947年に設置された当時の名称「米国血液銀行協会(America Association of Blood Banks:AABB)」を続いて使用してきていたが、その機能の多様化などもあり2005年に改称問題を議論した。しかし、歴史的な意義や知名度から従来の名称である“AABB”を引き継いだ。ただし、サイトでも表示されているとおり、キャッチフレーズは「世界的な輸血と細胞療法の推進(Advancing Transfusion and Cellular Worldwide)」で統一した。
 “AABB”は、輸血学(transfusion medicine)と細胞療法分野にかかわる個人および機関を代表するNPO団体である。患者やドナーのケアや安全性を最適化する目的で、基準の策定、認定および教育プログラムの開発ならびに提供を行う。世界中の80カ国以上、会員は約2,000の団体と約8,000人の個人会員からなり、医師、看護師、科学者、研究者、行政官、医療技術者および健康管理サービス業者等から構成されている。

(筆者注11) 「欧州フォレンジック科学ネットワーク研究所(European Network Forensic Science Institute:ENFSI)」については、そのワーキング作業部会についての解説を含め、科学警察研究所「法科学技術、13(1),2008年」5頁:勝又義直「裁判所における科学鑑定の評価について」が紹介している。
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米国疾病対策センターの職場等での完全禁煙法実施州の最新情報発表と副流煙に関するIOM等報告書

2010-06-01 03:29:54 | 海外の医療最前線

 
Last Updated:February 25,2021
 

 2009年12月30日、米国疾病対策センター(CDC)はノース・カロライナ州が南部の州で初めてとなる2010年1月2日からレストランと酒場(bar)における完全喫煙禁止法を施行する旨発表した。

 ノース・カロライナ州の場合、個人的な職場での喫煙を禁止していないためCDCの「禁煙やタバコの使用のコントロールに関する州レベルでの最新データおよび過去のデータを含むデータベース(State Tobacco Activities Tracking and Evaluating(STATE)System)」
(筆者注1)の定義に該当する22州(ワシントンD.C.を含む)とは異なるものの前向きの取組みを評価している。

 今回は、わが国でもやっと最近その健康被害問題が強く叫ばれてきた「副流煙(secondhand smoke)」対策の米国の最新動向を紹介する。

 本文で述べるとおり、米国の保健に関する研究機関の健康リスク問題の取り上げ方はかなりセンセーショナルであり、時として医療専門家から非科学的であると反発を招くことが多いが
(筆者注2)、この副流煙問題は間違いなく二次喫煙者への重大な健康被害を招く問題であり、迅速かつ的確な規制を行うべき重要課題であることは間違いない。

 なお、わが国の職場における受動喫煙防止対策については、厚生労働省は2009年7月より有識者による「職場における受動喫煙防止対策に関する検討会」(座長:相澤 好治 北里大学医学部長)を8回にわたって開催し、その結果を報告書としてまとめ2010年5月26日に公表した。
 
 
1.副流煙の健康リスク
 副流煙は米国では毎年46,000人の心臓発作死(heart attacks)や3,400人の肺癌死(lung cancer deaths)を引き起こす原因とされているが、さらに米国では1億2,600万人の非喫煙者がその危険にさらされている。
 2006年、公衆衛生総監(Surgeon General) (筆者注3)は非喫煙者が被るこれら副流煙リスクから考えて、すべての室内での禁煙の徹底が必要であるとの結論 (筆者注4)づけている。すなわち、非喫煙者と喫煙者の完全切り離し(分煙)や空気清浄やビル換気向上策は副流煙から人々を保護する効果的な方法とはいえないとしている。

 また、米国全米アカデミーの医学研究所(Institute of Medicine:IOM) (筆者注5)は2009年10月15日、副流煙被爆が心臓発作に引き金となり、州等による完全禁止法の制定と心臓発作による入院患者の減少のための政策の強力な実行の必要性を理解させるべきであるとする報告書を発表した。(筆者注6)

 これら2つの最近時の副流煙に関する科学的調査報告書は、完全喫煙禁止法の施行後1年目に、心臓発作入院件数を平均して8%~17%低下させたことを証明している。

2.米国における完全禁煙法実施済の州
 CDCの“State Tobacco Activities Tracking and Evaluating(STATE)System”によると「職場」、「レストランオ」および「酒場」での完全禁煙禁止を実施している州は現時点で以下の22州である。
アリゾナ、コロラド、デラウェア、ワシントンD.C.、ハワイ、イリノイ、アイオワ、メリーランド、メイン、マサチューセッツ、ミネソタ、モンタナ、ネブラスカ、ニュージャージー、ニューメキシコ、ニューヨーク、オハイオ、オレゴン、ロードアイランド、ユタ、バーモント、ワシントン

 なお、2010年中に仕事場、レストランおよび酒場での100%禁煙法が施行されるのはミシガン州(2010年5月1日)、ウィスコ州(2010年7月5日)である。
*******************************************************************************************:

(筆者注1) 米国の州政府および地方政府の多くは、学校、病院、空港、バスターミナルなどの公共施設を禁煙にする法律を通過させている。企業の雇用者に非喫煙者をタバコから守る社内方針を立てるよう命じる州や非喫煙者の権利を述べた法律を制定している地方自治体もあり、そのほとんどは州法よりも厳しいものになっている。州レベルでのタバコの規制に関する情報は米国国立疾病対策センター(Centers for Disease Control and Prevention、CDC)のState Tobacco Activities Tracking and Evaluating(STATE)Systemのウェブサイトを参照されたい。STATE Systemは、禁煙やタバコの使用のコントロールに関する州レベルでの最新データおよび過去のデータを含むデータベースである。

(筆者注2)フジ虎ノ門健康増進センター長の齊尾武郎(さいお たけお)氏が、「IOMレポート『人は誰でも間違える』の真実」と題する小論文で医学から見た健全なる批判精神(healthy skepticism)の重要性について改めて問題提起を行っている。その批判の対象となっているのが1999 年12 月にIOMが公表した“To Err is Human:building a safer health system”であり、このレポートが衝撃を与えたのは,米国では投薬ミスや医師の過労による医療過誤(medical error)で年間44,000 ~ 98,000 人もの入院患者が死亡しており、その数は標準的な処置の基準を定めたり、医療ミスを報告するシステムを作ったりするなど、正しい対策を取ることで減らせると指摘したことである点を紹介されている。
 齊尾氏が指摘する問題点は、わが国の医療専門家がIOMレポートが出たときに、レポート自身を批判的に吟味し,IOMレポートの根拠となっているデータを深く読み込もうとするのが当然であるにもかかわらず、行われていない点である。
 この点は、筆者が本ブログの執筆に当り単に海外メディア記事の翻訳ではない客観的な事実の検証に常に心掛けている点であり、専門分野は異なっても共通的な重要なテーマであるのでここで紹介した。

(筆者注3)「連邦公衆衛生総監 (Surgeon General of the United States:Surgeon General)」はわが国では比較できるものがなく、定訳もない。また総監が運用責任上のヘッドとなる「米国公衆衛生特別任命団(U.S.Piublic Health Service Commissioned Corps)(以下「任命団」という)」についても、その組織や運用実態に関する説明は皆無である。そこで、筆者の判断で以下のとおり解説を行うが、関係者による正確な補筆を期待したい。

 連邦保健福祉省次官補(Assistance Secretary for Health)は任命団の戦略および政策命令を監督する。Surgeon Generalは公衆衛生総監局(Office of the Surgeon General)を通じて約6千人にのぼる任命団全体を監督する。

 Surgeon General(現総監は2009年11月3日に宣誓したRegina Benjamin)は米国における主たる保健教育責任者であり、健康の増進ならびに病気や怪我の危険をいかに減少させるかにつき可能な限り最善の科学的情報を提供する責務をもつ。任期は4年間で連邦議会上院の助言と同意に基づき大統領が任命する。

 また、任命団の多様なカテゴリーを代表する責任者が“Chief Professional Officers:CPOs”である。各CPOsは自らの専門カテゴリーについて総監局および連邦保健福祉省に対するリーダーシップや協調を提供す。また、団員の募集、保持やキャリアー開発に関しガイダンスの策定や総監や管理委員会(administrative committees)への助言を行う。

 CPOsは以下のカテゴリーに区分されている。括弧内はカテゴリー別の2008年5月現在の要員数である。
①歯科(376)、②栄養士(dietitian)(92)、③医療技術(404)、④環境衛生(365)、⑤検眼士、ソーシャルワーカー、医師助手(physician assistant)等の公共医療(1,010)、⑥医学(988)、⑦看護(1,405)、⑧薬剤士(949)、⑨科学/研究者(247)、⑩作業療法(occupational therapy)、物理療法(physical therapy)、音声言語病理学(speech-language pathology)および聴覚学(audiology)等のセラピスト(140)、⑪獣医(veterinarian)(85)

 では、具体的に団員資格を得るには要件が求められるのか。
①米国民であること。
②44歳未満。
③一定の医学上の資格を有すること。
④該当する場合、現在かつ無制限の免許を有していること。
⑤認定機関の資格または上級資格を有していること(qualifying degree or a higher degree from an accredited institution)(職業により異なる)

 最後に、最大の問題である特別任命団になることはどのような処遇上のメリットがあるのであろうか。簡単にまとめておく。
①努力とキャリアの積み重ねで引上げられる初任給
②健康管理や歯科治療の無料化
③住宅・食事手当ては非課税
④初年度1年当り有給休暇が30日
⑤有給病欠(Paid sick leave)
⑥有給産休(Paid maternity leave)
⑦連邦祝日の休暇
⑧医療過誤保険適用
⑨勤続20年以降個人退職年金プラン計画適用
⑩従業員貯蓄プラン(Thrift Savings Plan)(従業員が自ら選択して、給与の一定割合を拠出する確定拠出プラン。低コストで退職プラン導入が可能である。事業主もマッチング(上積み)拠出でき、将来引き出しを行うまで拠出金には課税されない。資産運用収益についても、引き出し時まで課税が繰り延べされる。従業員の拠出には税引き後拠出と税引き前拠出があるが、税引き後拠出は税制優遇措置を受けられない。1978年に401条(k)が追加されてからは、税引き前拠出は401(k)プランと同義になった。このプランは古くから存在し、最大の加入者を持つ連邦政府職員用のFERS Thrift Planの加入率は2000年3月現在で86.2%にも上っている。)ジオシティーズの解説から引用。
⑪保険料負担が少ない生命保険
⑫家族の保険料負担が少ない

(筆者注4) 2006年米国公衆衛生監査総監報告「認識しない(受動)喫煙による被爆健康侵(The Health Consequences of Involuntary Exposure to Tobacco Smoke: A Report of the Surgeon General)」は、本文のみでも全709頁にわたるものである。従って本ブログでは、第1章から全体的な結論部分のみを抜粋、紹介する。
1. 副流煙は煙草を吸わない子供や大人の早死に(premature death)と疾患を引き起こす。

2. 副流煙にさらされた子供は、乳幼児突然死症候群(sudden infant death syndrome :SIDS)、急性呼吸器感染症(acute respiratory infections)、耳の病気および激しい喘息(acute respiratory infections)によって増加するリスクを負う。 両親が喫煙する場合は、子供の呼吸不全(respiratory symptoms)を引き起こしたり肺の成長を遅くする。

3. 副流煙の大人への被爆は、即座に心臓血管系(cardiovascular system)に悪影響を及ぼし、冠状動脈性心臓病(coronary heart disease)と肺癌(lung cancer)を引き起こす。

4. 科学的な証拠は、禁煙により副流煙への被爆リスクが全くないことを示している。

5. タバコ規制における具体的進展にもかかわらず、何百万人ものアメリカ人(子供と大人の両方)が彼らの自宅と仕事場でまだ副流煙にさらされている。

6. 屋内で喫煙禁止は副流煙への被爆から非喫煙者を完全に保護する。 非喫煙者と喫煙家を分離、空気清浄機の設置やビルに通気向上によっても、副流煙への非喫煙者の被爆を回避できない。

(筆者注5) 米国アカデミー医学研究所(Institute of Medicine:IOM)は1970年に全米科学アカデミーの一部機関として設立され、政府から独立したNPO団体であり、中立的な立場からメーカーや国民の政策決定への助言を行う。現在は、「全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)」、「全米技術アカデミー(National Academy of Engineering)」、「全米研究評議会(National Research Council)」とともに「全米アカデミー(National Academy)」の構成機関である。

(筆者注6) IOM報告の正式タイトルは「副流煙被爆と心臓血管系への副作用: 証拠に基づきそれを理解する(Secondhand Smoke Exposure and Cardiovascular Effects: Making Sense of the Evidence)」である。別途、簡潔に要旨がまとめられており、参照されたい。

〔参照URL〕
http://www.cdc.gov/media/pressrel/2009/s091230.htm
http://www.surgeongeneral.gov/library/secondhandsmoke/report/
http://www.iom.edu/Reports/2009/Secondhand-Smoke-Exposure-and-Cardiovascular-Effects-Making-Sense-of-the-Evidence/Report-Brief-Secondhand-Smoke.aspx
http://www.surgeongeneral.gov/

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米国連邦議会調査局(CRS)が新型インフルエンザにかかる主要法律問題の概括報告を発表

2010-02-01 18:58:45 | 海外の医療最前線

 

 このほど米国連邦保健福祉省の主要部門である疾病対策センター(CDC)から届いたリリースで、大分時間がたった話しではあるが、2009年10月29日、米国連邦議会調査局(CRS)は新型インフルエンザA(H1N1)に連邦政府等が関係法に基づきどのように取組んだかについて速報的な報告書を発表した旨報じた。

 筆者はこの報告書の件は当時知っていたが、なお感染拡大が拡がる中でその有効性に医療分野の素人ながら疑問があり、あえて紹介を留保していた。しかし、パンデミック対策の重要性は今なお変わっていないはずであり、やや落ち着いた時期に整理しておくことが重要であると考え、その概要紹介を行うこととした。

1.「2009年新型インフルエンザに関する主な法的問題の概要報告」
 連邦議会調査局は2009年10月29日に「CRS報告7-5700」を公表した。全体で50頁ものであるが、ここではその要旨と報告書も項目について紹介する。

 2009年6月11日、世界保健機関(WHO)は新しいインフルエンザ種の世界的な感染拡大に対応し「フェーズ6」(実質的に世界的大流行(パンデミック)の始まりを示す)に警戒レベルを引上げた。
このフェーズの変更は、新型インフルエンザA(H1N1)ウイルスの感染拡大を反映したものである。 現在のパンデミックは、患者の大部分が軽度の症状で収まり、急速に完全な健康回復をしている中庸の厳しさのものであるが、このような感染経験は今後変化する可能性がある。 本報告は新型インフルエンザに応じた関係機関の緊急措置、市民の人権や責任・義務 問題および雇用問題を含む主要な法律問題につき簡潔な概観を提供するものである。

 米国には、伝染病の大発生や改善を支援するための多くの緊急措置法等がある。「1944年公衆衛生法(Public Health Service Act)>、「1938年連邦食品医薬品化粧品法(Food,Drug,Cosmetic Act)」、 「1976年国家緊急事態法(National Emergencies Act)、および「1988年スタッフォード法(Robert T.Stafford Disaster Relief and Emergency Assistance Act)」は連邦保健福祉省長官または大統領に、緊急事態や災害の時にある一定の行動を取らせる権限規定を含む。 米国の住民に対する隔離を優先する一方で、連邦政府は州際や国境隔離を管轄する。  また、連邦政府は学校閉鎖のような活動とワクチン接種プログラムに関して推奨(recommendations)を発布する。 州と地方政府は、強制的なワクチン接種命令やある薬剤投与によらないが伝染病の感染拡大の予防効果をもつ学校閉鎖等の緊急措置を率先する権限をもつ。 2005年にWHOによって採択した「国際保健規則(International Health Regulations) (筆者注1)は、伝染病の脅威に対する国際協力の枠組みを提供する。

 2009年新型インフルエンザA(H1N1)パンデミックを含むこれらの緊急措置の使用は、伝統的な公民権の侵害問題、すなわち 公益を優先させるため個人の自由をどのような範囲まで縮小できるかといった問題を提起するかもしれない。 そのような場合において、合衆国憲法や連邦公民権に関する法律はプライバシーの権利と同様に個人に対する独特の適正手続き(due process)や平等的な保護規定を有するが、一方でこれらの権利は共同体の緊急措置ニーズと均衡をとらねばならない。

 不法行為賠償責任(tort liability)にかかる民事責任問題は2009年のインフルエンザ・パンデミック発生時の間に特に重要となりうる。 「2005年災害危機管理および緊急事態準備法(Public Readiness and Emergency Preparedness Act :PREP Act: Pub. L. No. 109-148)」(筆者注2)は、パンデミック・インフルエンザや他の公衆衛生に対する脅威発生時における対応手段の使用を限定する。(筆者注3) 一般に、連邦のパッチワーク立法と州法は特定の状況下でボランティア(特定の場合ボランティア医療専門家(VHPs)(筆者注4)を含む)を保護する。

 また、関係法は特にVHPsに責任制限(liability protection)を提供する。インフルエンザ・パンデミックによる提示される中で最も重要な点として雇用問題がある。社会的孤立や隔離措置などの公衆衛生への遵守は患者個人の失業や賃金収入を失うといった恐れにつながる。
 裁判所が、パンデミックがひどい間の個人の孤立や隔離が公益に役立つもので、隔離されるか、または孤立するため個人の解雇は公共の政策に違反するという結論を下すかも知れない。 また、従業員は「介護休暇法(Family and Medical Leave Act of 1993:FMLA)」(筆者注5)に基づき何らかの仕事の保障を持てるかも知れない。

[目次]
1.序論
2.非常時の措置
(1).非常時担当政府機関
・公衆衛生担当局
・国家非常時事態宣言
・スタッフォー法に基づく宣言
・社会保障法1135条の国民の受診権放棄または制限措置
・緊急使用認可(Emergency Use Authorizations(承認していない対策のための)
(2)国際保健規則(International Health Regulations:IHR)
・IHRの概観
・「国際的懸念発生時における公衆衛生緊急事態」宣言
(3)患者の隔離と孤立措置担当の当局
・連邦機関
・連邦と州の調整機関
・連邦規則案
(4)国境入国問題
・感染した在留外国人の非容認措置
・国民や在留外国人の隔離措置
・国境の封鎖
(5)航空と旅行制限
・ 航空会社の緊急時対策ポリシー
・公衆衛生上の「国境または航空禁止者リスト(“Do Not Board” List)」(筆者注6)
・連邦領空局(Federal Airspace Authority)
(7)学校閉鎖
3.ワクチン接種(Vaccinations)
(1)接種実施の背景
(2)ワクチンの配分
・概観
・2009年に先立つ選別的連邦の活動
・インフルエンザA(H1N1)緊急事態後の連邦の活動
・法的問題
(3)強制的ワクチン接種
・歴史と先例
・医療機関受持者と強制的ワクチン接種
・公衆衛生緊急事態時のワクチン接種命令
・モデル州非常事態における保健管理法(The Model State Emergency Health Powers Act)(筆者注7)
・連邦政府の役割
4.公民権(Civil Rights)
(1)はじめに
 (2)適正手続(Due Process)および保護の平等(Equal Protection)に関する憲法上の権利
 (3)連邦無差別保証法(Federal Nondiscrimination Laws)
  ・「1973年リハビリテーション法(Rehabilitation Act)」504条(筆者注8)
  ・「1990年米国障害者法(Americans with Disabilities Act of 1990 :ADA)」
  ・「1986年航空バリアフリー法(Air Carrier Access Act )」
5.民事損害賠償責任問題
(1)「2005年災害危機管理および緊急事態準備法(Public Readiness and
Emergency Preparedness Act :PREP Act)
(2)一般ボランティアおよび医療専門家ボランティアの民事責任問題
・「1997年ボランティア保護法(VVolunteer Protection Act of 1997)」
・緊急事態時における責任制限
・州等における災害相互応援協定(Emergency Mutual Aid Agreements)
6.雇用問題
(1)はじめに
 (2)公共政策に違反する不当解雇(Wrongful Discharge)
 (3) 「1993年介護休暇法(Family and Medical Leave Act of 1993:FMLA)」
 (4)従業員保護法に関する州および連邦法

2.連邦社会保障法1135条に基づく連邦政府の国民の受診権放棄措置または適用制限措置
 わが国ではあまり正確に紹介されていない項目であり、ここで改めて公的資料に基づき補足する。

(1) 連邦社会保障法1135 条にもとづく連邦保健福祉省長官の宣言の発布
 連邦社会保障法1135 条[42 U.S,C. §1320b–5]では、連邦保健福祉省長官(Secretary of Health and Human Services)(以下「長官」という)は緊急時に対応して緊急時における医療機関に対する特別に法的に認められている監督権にもとづく要求事項を放棄させることができる。 長官がそのような「1135条の権利放棄」を発布するには、2つの条件が満たされなければならない。 まず最初に、長官は、公衆衛生緊急事態宣言(Public Health Emergency)を宣言しなければならない。 2番目に、大統領は「1988年ロバート・T・スタフォード緊急災害支援法(Robert T. Stafford Disaster Relief and Emergency Assistance Act: PL 100-707)」に基づく宣言または「1976年国家緊急事態法(National. Emergencies Act)」に基づく宣言を行なわなければならない。 これら2条件が満たされたとき、医療機関は特別な必要性に応じた非常事態に基づく「1135条の保健プログラム受診権利放棄措置」につき地理的かつ時限的制約のもとで請願できる。

(2) 社会保障法1135条の適用条件
 長官は、特定の状況により異なるニーズに合致させるために同法1135条にもとづきすすんで当局の対応を指定できるが、受診権利放棄の対象となるプログラム要件には、高齢者医療保険制度(Medicare)か低所得者医療扶助制度(Medicaid)または子供医療保険プログラム(Children's Health Insurance Program :CHIP) (筆者注9)「1986年緊急医療措置および分娩法 (emergency medical treatment and active labor Act:EMTALA)」(筆者注10)に関連するもの、「医療保険の相互運用性と説明責任に関する法律(Health Insurance Portability and Accountability Act:HIPAA)」に関するものを含む。 これらの保障要件は通常の日々の運用において重要な保護を患者に提供するが、一方それらは医療機関が緊急非常時に適切な介護を可能にする災害運用計画を完全に実行する能力を妨害するとことになるかも知れない。 例えば、「緊急医療措置および分娩法」の定める要件は、病院に対し緊急患者の選択やソーティング活動を禁じたり、また現場外で救急患者を処置できる代替的医療機関の設置を阻害することになろう。

・ 政府による受診権の放棄は、十分な健康管理項目やサービスが非常時の期間、非常時の領域で老人医療健康保険制度、低所得者医療扶助制度、およびCHIP受益者の需要を満たすために利用可能であることを確実にするという範囲だけにおいて認められる。 「非常時領域」と「非常時期間」という地理的領域および期間に関する二重の宣言が併存する。

・ 認められる活動内容は、次のものなどである。①参加者の権利放棄や状態の変更、他の認証要件のまたは変更を含む。プログラムへの参加要件、医療者機関(health care provider)のための事前承認要件(pre-approval requirements)。② 特定の方向または患者の移送に関するEMTALA違反による制裁の権利放棄、③ 制裁の権利放棄は、スターク法 (筆者注11)の医師の自己紹介禁止規定違反の制裁処分に該当する。すなわち、 締め切りへの変更と必要な活動の性能のための予定表の修正、④HIPAAのプライバシー規定の不遵守に基づく制裁権と刑罰権の放棄。

過去における政府による受診権放棄発令の使用例
・ 病院がEMTALAの権利放棄規定に基づき、主たる病院のキャンパスから離れた場所に患者のための代替予備検査施設を設置する要求した。
・ 病院がEMTALAとHIPAAの両方の権利放棄器規定にもとづき病院の緊急外来棟(ERs)と入院患者病棟の間の患者の移送を容易にするよう要求した。
・ Critical Access病院が25ベッド数の限界および平均96時間未満入院に関し「連邦行政規則集42CFR485.620」の権利放棄を要求した。
・高度熟練看護施設(Skilled Nursing Facilities) (筆者注12)が、予め高齢者医療保険制度(Medicare)および低所得者医療扶助制度(Medicaid)認定を規定する“42CFR483.5”にもとづき、部分的に公認されたベッドの数を増加させる前に権利放棄を要求した。

[政府が1135条に基づき受診権利放棄措置を行った最近の災害の例]
・ハリケーン・カトリーナ(2005年)
・第56代オバマ大統領就任式(2009年)
・ハリケーンズのイケ、グスタフ(2008年)、
・ノースダコタの大洪水(2009年)

   ***************************************************************************************

(筆者注1) 2009年6月5日に世界保機関(WHO)は、世界的にみた新型インフルエンザの感染状況を踏まえ、WHOとして今後パンデミックフェーズ(フェーズ6)変更という重大性調査の導入提言について助言を求めることを目的として、第3回「国際保健規則(International Health Regulations:IHR)」緊急委員会を開催し、同月11日にフェーズ6への引上げを決定した。

(筆者注2) “PREP Act”では、まず、保健福祉省が、疾病の流行などの措置に関するクレームや損害賠償請求についての不法行為賠償責任(Tort Liability)からの免責についての「PREP Act宣言」を出す(意図的な違法行為(willful misconduct) の場合は免責されない)。同時に、連邦政府は直接的に被害者に与えた損害に対して、これらの損害賠償を行うため政府に偶発損失準備金(emergency fund) を準備し、対応する。

(筆者注3) HHSサイトによる2009H1N1に関するPublic Readiness and Emergency Preparedness (PREP) Actに基づく通告例

(筆者注4) ボランティア医療専門家(VHPs)は、緊急非常時に迅速な対応が出来かつ必要な医学の専門的技術を提供する上で不可欠である。 いくつかのVHPsはよく組織化されて訓練されている一方で、他のものは災害場所に自然体で到着する。 組織化、訓練や個人識別を欠いているときは、実際に非常時の各種努力を妨害するかもしれない。 ニューヨーク市で起きた2001年9月11日テロ以降、医療のボランティアの複雑さにより、連邦議会は連邦当局が、州と領土でのボランティア医療専門家(ESARVHP)の事前登録による緊急支援システムを開発するのを支援するように働いた。

(訳者注5) FMLAにより、従業員の出産、養子縁組関係、養育のために時間が必要な時、または従業員の配偶者、子供、または両親が重病でその世話のため時間が必要な場合、または従業員自身が重病にかかった場合、従業員の請求に応じ、計12週間までの休暇を認め、また雇用保障と保険継続は行われるが、休業中は無給である。

(筆者注6) Do Not Board” Listの具体例について補足しておく。連邦保健福祉省の機関である感染症対策センター(CDC)が発刊する週報(MMWR)の2007年6月~2008年5月の間のDo Not Board” Listの実施状況について報告している。これは公衆衛生から見た感染症対策としての渡航規制であるが当然のことながらテロ対策でも使われる規制措置であり、実際「テロ対策および緊急事態対応調整局(Coordinating Office for Terrorism Preparedness and Emergency Response :COTPER)」の「科学諮問委員会(Board of Scientific Counselors :BSC)」の機能・メンバーは権威がありそうである。審議内容は公開されている。

(筆者注7) 2009年6月11日、WHOのフェーズ6警告発令によって、米国、EUを始めとする2005年の国際保健規則(IHR2005)に調印した194カ国すべてが、戒厳令体制に入った。これら調印国は、流行病管理計画等の形で、IHR2005を各国の法律に組み込んでおり、わが国では2005年に議会による投票なしに、厚生大臣によって承認されている。米国はこの「モデル州非常事態における保健管理法」にもとづき承認している。

(筆者注8)リハビリテーション法504条は、連邦政府の補助を受けている基金やプログラムにおける障害を持つ人に対する差別の禁止規定をおく。なお、以下のURLは同条の訳文である。
http://it.jeita.or.jp/perinfo/committee/accessibility/uslaw/report0208/frame/012_siryou/12_004.html

(筆者注9)「州子供医療保険プログラム(State Children’s Health Insurance Program(一般的には「州」はとられて呼ばれている))」は、連邦貧困レベル(Federal Poverty Level:FPL)(保健社会福祉省が設定する基準で、2009年は1人所帯で年間収入$10,830(約964,000円) 、5人所帯のFPLは$25,790(約230万円)である)にもとづき、 FPLの200%以下の収入家庭の19 歳以下の医療保険を持たない子供に提供される医療補助制度。1997 年超党派の議員グループによって承認された公的医療保険支援プログラムである。

(筆者注10) 1986年に成立した連邦法「緊急医療措置および分娩法 (emergency medical treatment and active labor Act:EMTALA)」により、メディケア(高齢者医療保険制度:Medicare)の対象病院に対して、次のとおり救急患者と急な出産の受け入れと、病状が安定するまでの治療が義務付けられた。
①患者は、救急処置が必要かの判断を保険や支払いに関係なく速やかに受ける権利がある。
②緊急外来(Emergency Room:ER)は、症状が改善されるまで処置する義務があり、もし設備等の関係で無理なら’適切に’転送する義務がある。
③高度救命センターは転送を依頼されたら断ってはいけない。

(筆者注11) 「1993年医師等の自己関係施設紹介規制法(スターク法)」は、1935年社会保障法(Social Security Act)1877条(Sec. 1877. [42 U.S.C. 1395] )で規定された。同法は、指定公共医療(DHS)に関し高齢者医療保険制度(Medicare)や低所得者医療扶助制度(Medicaid)等対象患者を、医師または医師の父母兄弟等近親家族(immediate family)が財政的な関係を持つ施設を紹介する行為は例外が適用される場合を除き禁止する。 また、禁止された結果、当該施設が提供された公共医療に関するDHSのための請求書等の提示や原因となる行為を行うことも禁止する。
 「スターク法」は1993年に連邦議会で可決、1995年1月1日に施行されたが、最終的な施行規則は何年も後まで発表されなかった。 同法により当該施設との財政的な関係を持つ医師(または、肉親兄弟)は、そうでなければ老人医療健康保険制度(メディケア)や低所得者医療扶助制度(メディカイド)により支払われる指定公共医療(designated health service:DHS)を提供するためにその施設を紹介することは出来ない。 DHSの対象となる医療内容は同法律により次のとおり明記されている。 (1) 臨床検査室(clinical laboratory)。 (2) 物理療法(physical therapy)(音声言語病理学治療サービス(speech-language pathology services)を含む)。 (3) 作業療法(occupational therapy)。 (4) 磁気共鳴画像診断法(magnetic resonance imaging )、コンピュータX線体軸断層撮影法(computerized axial tomography scans)や超音波診断含む放射線医学、 (5) 放射線治療サービスとその供給、 (6) 耐久医療機器(durable medical equipment )とその供給、 (7) 非経口(parenteral)および腸内(enteral)栄養物、器具およびその供給、 (8) 人工装具(prosthetics )、矯正器具(orthotics )、人工器官(prosthetic )器具およびその供給、 (9) 在宅介護サービス(home health services)、 (10) 外来通院患者処方薬(outpatient prescription drugs)、 (11)入院患者と外来通院患者の病院業務である。
連邦議会は、この禁止規定の多くの例外に備えて、追加的例外を策定する権限を連邦保健福祉省のメディケア&メディケード・サービス庁(Centers for Medicare and Medicaid Services:CMS )に与えた。

(筆者注12)「高度熟練看護施設」とは、病院を退院して入る施設で、看護師や医師が常駐する。日本の老人ホームと老人病院を合わせたような医療施設も含まれる。

[参照URL]
http://www.fas.org/sgp/crs/misc/R40560.pdf
http://www.hhs.gov/disasters/emergency/manmadedisasters/bioterorism/medication-vaccine-qa.html
707.pdf (house.gov)
http://uscode.house.gov/download/pls/50C34.txt
http://www.cms.hhs.gov/emtala/

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海外における新型インフルエンザ感染拡大阻止に向けた最新動向と新たな取組み課題等(N0.16)

2009-11-24 17:31:08 | 海外の医療最前線

 Last Updated: March 3,2021

 わが国の優先者への新型インフルエンザ・ワクチン接種が11月から始まり、一部では死亡事例の報告が聞かれるが(11月20日現在の厚生労働省の発表では13例)、前倒しスケジュールも発表されるなど、具体的な対応は進んでいる。
 一方、海外も同様に優先者への接種が進んでいるとされるものの、カナダでは11月20日に世界的に見ても最大手のワクチン・メーカーであるグラクソ・スミス・クライン(GlaxoSmithKleine;GSK)が製造した新型インフルエンザ・ワクチン“Pandemrix TM”について同社から「アナフィラキシー反応(anaphylactic reactions)」(筆者注1)のリスクに鑑みて各州の保健機関への接種の中止要請およびカナダ国内での同社のワクチンの回収が行われている旨のニュースが報道された。

 わが国のメディアではその内容についてあまり詳細には報道されていないため、来年に入ってのわが国の輸入ワクチン接種開始にかけての不安感もあり、改めてカナダ連邦や各州の保健機関の対応状況について正確と思われる情報を集めてみた。(筆者注2)
 この接種の緊急中断要請についてカナダ政府の保健機関サイトでは特段具体的に報じていない。また、保健機関というより公安機関であるカナダ公共安全省(Public Safety Canada)サイトで見てもワクチンの適格性・接種拡大計画が順調に進んでいる旨の情報が中心である。

 しかし、一方ではカナダ国内の疫学関係者が10月21日の連邦保健省が発表したGSK製“Arepanrix”の販売承認に関する暫定決定は拙速であると指摘するなど(カナダの承認の前提となった治験結果はベルギーで行った結果に基づくものである)、また州保健当局の対処にも混乱があるようである。

 世界的に見て、ワクチンの安全性はWHOの世界的接種状況や重度の副作用(side effect)に関する報告にもかかわらず、引続き世界中で強い関心事項となっていることも事実である。また、欧州連合の分権化機関である欧州医薬品庁(European Medicines Agency)は、11月20日に接種拡大勧告を再度行っている。
 世界的なパンデミックの中でH1N1ワクチン接種に係る緊急承認に伴うリスクは過去の臨床試験の経験を超えるものであり、承認緊急承認措置を行うのはカナダだけでなくわが国も同様(特例承認)である。


 その意味で、改めて厚生労働省のワクチン専門サイト「 新型インフルエンザワクチンQ&A」「7.海外産ワクチンについて」の説明を読んだ。しかし、今のところそのリスクについては情報収集に努め、Q&Aの改訂は改めて行うといった説明があるのみである。
 いずれにしても国民への不安に応えられるワクチン接種に関する情報開示体制が緊急の課題であろう。

1.カナダの「2009H1N1ワクチン」の承認状況 やワクチン緊急回収の対応状況
(1) 「2009H1N1ワクチン」の承認状況
 カナダ連邦公衆衛生庁(Public Health Agency of Canada:PHAC)は、11月13日にGSK製造の免疫補助材使用(アジュバンテ)ワクチンの①“Arepanrix”と②非使用ワクチンの2種を承認するとともに、妊婦への早期接種を実施するためオーストリアの③「CSLバイオセラピー社」製“Panvax H1N1”の使用を承認した旨発表した。(筆者注3) (筆者注4)

(2)ワクチン接種開始後の副作用報告とGSKのワクチン回収(筆者注4-2)
①GSKからカナダの各州の衛生当局に対し発せられた回収通知の内容は次のようなものであった。
 「GSKはカナダへ出荷した10月分のワクチン(October batch)の接種時に、重大かつ即時的アナフラキシー反応が見られた。同反応は通常10万回の接種で1回なのであるが今回は2万回に1回見られたためその調査のため回収要請を行う。」
 なお、メディア記事によるとアナフラキシー反応は短期的なもので患者は全員回復したとある。
②州別の対応は記事によると次のとおりである。
・マニトバ州:GSKからの警告前にワクチンの接種が終了しており、未使用回収済ワクチンは出荷63,000投与分のうち地方の保健所にあった630であった。
・オンタリオ州:1,500投与分を保有する保健当局は接種を開始しておらず、調査結果が明らかになるまで接種は棚上げとする。
・アルバータ州:同州の保健当局はワクチン配布を中止したが同州においてアレルギー反応の報告は行われていない。

2.カナダにおけるワクチン接種によるアレルギー反応の具体例
 以下の情報はあくまで医療専門メディア情報であるが参考にはなろう。
 なお、連邦公衆衛生庁の主席管理官であるデビッド・バトラー・ジョーンズ博士はカナダ国民向けのワクチン660万回投与分を準備しているが、現時点の重大な副作用報告は36件であると述べている。
(1)アレルギー反応の大部分はワクチン接種時の数分間に始まる。
(2)吐き気(nausea)、ひりひりする痛み(soreness)、頭痛(headaches)、発熱(fever)など温和な副作用が見られた(これらは季節性インフルエンザ・ワクチンでも見られる)。
(3)これらの症状を訴えた患者は、直ちに接種場所に待機していた医療関係者により処置された。なお、ワクチン接種後1人が死亡したと信じられているケースについてバトラー博士は死亡は最終的にワクチン接種によるものと関連づけられない点を強調している。

3.“Pandemrix”の特性とワクチン承認のあり方
 メデイアの記事から簡単に紹介する。
(1) “Pandemrix”は不活性化したウイルス・ワクチン種(A/California/7/2009(H1N1)v-like strain(X-179A))を一部含む。

(2) “Pandemrix”は1投与量ごとに肩の筋肉の注射される。2回目の投与は少なくとも3週間後に行われ、2回目の接種は6か月から9歳以下の子供に投与される。

(3) “Pandemrix”は現在のパンデミックを引き起こしている“A(H1N1)v”ウイルスのヘマグルチニン(赤血球凝集素(haemagglutinins):表面タンパク) (筆者注5)を極少量含んでいる。しかし、はじめに不活性化されているので症状を引き起こさない。

(4) “Pandemrix”接種で最も共通的(10回の投与で1回程度見られる)に見られる副作用は次のようなものである。
 副作用:頭痛、関節痛(arthralgia)、筋肉痛(myalgia)
 反応:硬化(hardening)、膨張(swelling)、痛み、赤らむ(redness)、熱やだるさ

(5)欧州委員会(EMEA)は、2008年5月20日にH5N1ワクチンとしてGSKの“Pandemrix”を承認したもので、その後2009年9月29日にH1N1ワクチンとして承認したものである。

 最後に筆者はまったくの門外漢であるが、カナダ保健省自身が“Arepanrix”の暫定承認決定書において同ワクチンをH1N1パンデミック開始以前の段階で開発された試作品(prototype)または“mock”(模擬)vaccineと説明している。
「H5N1ウイルス」と「H1N1ウイルス」の疫学的に見た相違はよく分からないが、少なくとも将来「人」使った実験台といわれないようメーカーだけでなく内外の規制当局の慎重な取組みを期待する。

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(筆者注1) 「アナフィラキシー」はⅠ 型アレルギーに分類される全身性疾患であり,時に生命を脅かすようなショック状態(アナフィラキシーショック)に陥ることがある。(川崎医療福祉大学「川崎医療福祉学会誌」vol.17、No.1 2007 71頁以下から引用)

(筆者注2) 筆者自身疫学専門家ではないため輸入ワクチンの安全性について関係者のブログを参考までに調べた。輸入ワクチンでも免疫補助材使用のものと使用しないもの、さらに製造メーカー、国により免疫補助材を認めない国(米国)等について平易に説明されている「Sasayama’s Weblog」は参考になった。特に主要国で複数のワクチン開発の方法を採用している米国等の取組みの違いなどが明確に理解できた。

(筆者注3)  連邦保健省(Health of Canada)は、2009年10月21日に「食品・医薬品法(Food and Drug Act)」30.1条に基づき“Arepanrix”(AS03-Ajuvanted H1N1 Pandemic Influenza Vaccine)の暫定承認命令(Interim Order)を発した。その通知決定書では、今回の承認は緊急的な対処目的で限定的治験に基づくもので、同省は販売開始後においても同省および公衆衛生庁はワクチンの品質、非臨床・臨床データに基づく継続的モニタリングを行うと明記している。
 なお、PHACサイトではH1N1ワクチンの承認発表とあわせ、従来から指摘されているワクチンの安定化・保存材である水銀物質「チロメサール(thimerosal)」の健康上の問題指摘に対する説明や安全性や効果等に関する解説を行っている。しかし「チロメサール」とワクチンとの関係については横浜市衛生研究所が専門的な視点で次のとおり解説している。「チメロサール( thimerosal )は、殺菌作用のある水銀化合物で、以前はワクチンに保存剤として、よく添加されていました。しかし、最近では、日本でも、チメロサール( thimerosal )を添加しないワクチンや、チメロサール( thimerosal )を減量したワクチンが増え、チメロサール( thimerosal )をワクチンの保存剤としてできるだけ添加しない方向にあります。」
 このような説明を読むにつけ、輸入ワクチンのリスク問題は解決していないように思う。

(筆者注4) EU加盟国におけるワクチン市販後の監視体制とはいかなるものであろうか。専門家の解説を探してみた。
「英国では、MHRAのVRMMが国内の集計を実施:①ワクチン・メーカーからの情報、②臨床医が発行するイエローカード(予防接種証明書)を用いる。ドイツではPEIのpharmacovigilance部門が、全国の臨床医とワクチン・メーカーからの情報をon lineで収集。メーカーからのものが大部分で10~15%が臨床医から入手。
これらEU各国の情報がEMEAに集められ、相互にデータの把握が可能。一部のデータはインターネット上で公開されている。
 一方、わが国ではメーカーの副作用情報は「独立行政法人医薬品医療機器総合機構健康被害救済部」、臨床医情報は「厚労省医薬食品局総務課医薬品副作用被害対策室」ということでその情報統合化が課題である」と説明している。(富山県衛生研究所 倉田毅:2008年12月5日に筆者が一部加筆)
 なお、英国のイエローカード制度(正確には「イエローカード副作用報告システム(Yellow Card Scheme)」)についてはアポネット研究会が詳しく解説している。わが国でもサリドマイド事件等多くの薬害被害問題が起きているのであるが、国民の理解向上策をいまだに模索しているのが現状である。

(筆者注4-2) COID-19の関係で改めて2009年H1N1パンデミック問題を振りかえるべく当時のデータにリンクを張るべく調べなおした。しかし、この分野の門外漢である筆者にとっては約10年前のデータを探し当てるむずかしさをつくづく感じた。しかし、その中で筆者が見出したデータとしてARCHIVED - Lessons Learned Review: Public Health Agency of Canada and Health Canada Response to the 2009 H1N1 Pandemicがあった。このサイトの注意書きにはカナダ政府はこの資料はアーカイブしたものでその内容は今後更新しないとある、あくまで調査や参照に使用されたいとある。

(筆者注5)ワクチン効果と「 ヘマグルチニン」についてはわが国でも多くの解説があり参照されたい。筆者は愛知県薬剤師会のサイトを読んでよく理解できた。なお、現在このサイト解説はないが、大幸薬品サイトで分かりやすく解説されていた。

〔参照URL〕
http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/h1n1/vacc/rec-h1n1-eng.php
http://www.dancewithshadows.com/pillscribe/glaxosmithkline-recalls-a-lot-of-h1n1-vaccine-pandemrix-from-canada-due-to-side-effects/
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/briefing_20091119/en/index.html
http://www.who.int/csr/disease/swineflu/notes/briefing_20091119/en/index.html

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海外の新型インフルエンザ感染拡大阻止に向けた最新動向と新たな課題等への疫学・臨床戦略(N0.15)

2009-09-01 02:03:07 | 海外の医療最前線

 本ブログ連載NO.12(2009年8月7日)で紹介してきたとおり世界の主要国では製薬会社による新型インフルエンザ・ワクチンの治験やその準備が始まっている。
 AAP通信等によると、オーストラリアの製薬会社2社が7月22日までに、新型インフルエンザ・ワクチンの南部のアデレード(Adelaide)で、成人治験ボランティアによる投与治験を開始した。メルボルンの製薬会社CSL社は、240人が参加する7か月間の治験を7月初旬に開始し(筆者注1)、またアデレードのVaxine社は、300人の参加者による治験を開始した。これらの製薬会社によると、新型インフルエンザワクチンの治験は世界で初めてであり、最低6週間かかって有効性が確かめられれば、10月にも接種供給が可能だとしている。(筆者注2)
 一方、8月27日時点で英国(イングランド)の累計確認感染者は254,947人、入院患者数は218人、死者は少なくとも57人と発表されている。BBCが報じるところではこの両社は英国政府とは契約していないが、Vaxine社の研究者はブタ由来インフルエンザは過去経験したウイルスに比べ独特の野生的性格(peculiar beast)をもっており、新ワクチンに期待してはいるが十分機能するという保証はないと述べているそうである。
 その英国は感染拡大策として7月23日から病院や国民健康保健サービス(National Health Service:NHS:英国全域の保健医療サービスを提供する政府組織)の指定家庭医(General Practitioner:GP)の負担軽減と患者の混乱阻止策として新型インフルエンザ専用サイト“National Pandemic Flu Service”または専用電話回線を通じて症状を確認するサービスを始めた。また国民自らの感染状況を監視・報告するモニタリング・システム”FluSurvey”に基づく調査結果を公的保健機関の調査結果と並行して公表している。
 また、わが国ではなお結論が不透明なワクチン接種の費用負担の問題につき、ドイツ連邦内閣は8月19日に民間保険会社の団体である疾病保険協会(Der Verband der Privaten Krankenversicherung:PKV)、疾病保険会社との間での費用負担協議がまとまり、9月末か10月初めに予定されている接種実行に関する規則につき合意した旨発表した。


 今回のブログはこれらの動向を中心に解説する。

1.オーストラリアの新型インフルエンザ・ワクチンの準備状況
 連邦保健高齢者担当省(DHA)によると、8月28日現在の同国の累計確認感染者は 34,467人、入院者数は417人(うち集中治療室(ICU)は83人)、累計死者数は150人である。ワクチンの治験開始から約1か月経過したがオーストラリア連邦保健高齢者担当省(Department of Health and Ageing:DHA)は8月20日にCSL社から世界で初めての大人に関する予備治験結果(preliminary trial data)報告を受けた旨公表している(専門家によると安全性を確認するには十分なデータではなく数週間後の追加報告を求めている)。DHAは2,100万人投与分のワクチンを発注しており、各人に1回接種するとすればオーストリアの全人口(2,100万人)に接種可能な量を確保している。従って、DHAは十分な治験結果の報告を受けた後、8月末には連邦政府は第一次分となる200万投与分バッチを受け取り、ワクチン接種プログラムとして優先接種グループ(詳細な治験結果が出ていない子供を除く)を対象に10月中に実施するとしている。(筆者注3)

2.英国の最新坑ウイルス・ワクチン対策と医師の責任問題
 英国における新型インフルエンザの感染拡大はやや落ち着いた傾向を見せている。しかし、秋以降季節性インフルエンザの感染時期と重なり、さらに今は耐性ワクチンの検出は世界的にみても限定的ではあるが、さらなる変異の危険性を指摘する疫学専門家は多い。
 従って、英国は医療体制に不安のある地域を限定しつつ次のような新たな感染拡大策を取り始めたというのが正直な見方であろう。なお、以下紹介する内容について在英国日本大使館は英国在住の日本人向けの“Q&A”を作成、公開している。英国の保健医療サービス制度であるNHS(GP)のことを知らないと分かりづらい点もあるが、説明内容は正確で参考になる。(筆者注4)

(1) “National Pandemic Flu Service”へのアクセス
 英国政府は、現在3,300万人の坑インフルエンザ薬(タミフル等)を備蓄しており、また今後5,000万人分まで増やす予定である。現時点で本サービスを利用できるのはイングランドだけで、北アイルランド、スコットランドおよびウェールズは公共医療体制の対応能力が十分と考えているようである。
 前記接種の優先順位に該当しないインフルエンザ様患者がこれら坑インフルエンザ薬を入手するためには専用サイト“National Pandemic Flu Service”や専用電話回線を通じた症状の報告が必要である。政府の方針として公衆衛生上の観点から、感染者の国籍、居住・非居住にかかわらず治療薬が届くことになるが、国民健康医療サービス(NHS)を利用するためには原則登録が必要となるのでまずその手続が必要である。

(2)坑ウイルス薬タミフル投与に関するWHOのガイドラインと英国の実績の相違問題
 8月21日、WHOはパンデミック(H1N1)2009“briefing note 8”において本来合併症を持たない健康なインフルエンザ様患者に対し坑ウィルス薬を投与すべきでないとするガイドラインを公表した。その仮訳は国立感染症研究所感染情報センターが行っており、詳細はそちらで確認して欲しいが、今までのWHOの坑ウイルス薬投与の取組み方針から見てどう受け止めるか微妙な点が気になる。その点はわが国の疫学専門家の意見を聞いてみたいが英国でもこの点が問題となった。また、WHOのガイドラインは5歳以上の健康な児童への坑ウイルス薬の投与も不要であるとしている。(最新のWHOのアドバイスでもほとんどの患者がインフルエンザの症状を訴えたが、その大部分が1週間以内に回復したとしている)
 一方、英国メディアによると英国では従来EU加盟国最大の感染拡大国として、最初の2週間でタミフル(oseltamivir) 50万以上のパックを健康なNHS登録者に投与している。感染拡大の割合が低下傾向を示した8月中旬においても45,986治療単位(courses)が投与された。このようなタミフルの大量使用がウイルス耐性をもたらす危険性問題があり、実際、英国でも体調不調(sick)、脱水(dehydration)のリスクを伴う嘔吐(vomiting)、悪夢(nightmares)、不眠等418件の副作用(side-effects)報告が出ており、2件の死亡例がタミフルに関連している。
 英国のオックスフォード大学の研究チーム等は緩やかな新型インフルエンザ症状の場合に、坑ウイルス薬の投与方針の再考を促している。
 また、一方で、重症化問題に関し8月20日にランカシャー州プレストンの55歳の男性(Godfrey Armstrong)が健康体にもかかわらず新型インフルエンザで死亡したことから、医師(GPであろう)が重症化していたことを故意に隠蔽したとして家族がNHSの担当省である保健省の健康保護局長を訴えるなど問題が広がっている。(筆者注5)

3.ドイツ連邦政府のワクチン接種の優先順位問題と疾病保険機関・団体との接種費用の負担問題が決着
(1)ワクチン接種の優先順位
 本ブログでも紹介しているとおり、ドイツの感染者数は8月27日現在で英国を上回る15,567 人となり、連邦政府はその対処に力を入れている。連邦保健省は10月以降国民の80%に予防接種することを検討中であると報じられているが、優先的に接種を受けられるのは妊婦、慢性疾患を持つ人、医師・看護師、警察・消防士等である。
(2)ワクチン予防接種にかかる政府・関係機関による費用負担問題の閣議決定
 ワクチン接種は2回行うとして28ユーロ(約3,700円)かかる。今回の決定内容は疾病保険協会が加入者の費用50%を負担し、残りの費用を政府が負担する形をとり、追加予算として2009年度約6億ユーロ(約786億円)、2010年度約2億ユーロ(約262億円)を確保するとしている。なお、連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)のリリースによると保険契約者の保険料率の引上げは行われないとしている。
*********************************************************************************************
(筆者注1) CSL社は2009年6月29日に次のようなリリースを行っている。
「7月中旬以降行われる治験ボランティアは18歳から64歳の健常者が対象で6か月間4回の指定接種を受ける。3週間の間をあけて2回ワクチン注射を打ち投与量の増加による変化結果を見るとともに、ウイルスへの適正な免疫性を生じているか血液検査結果等を見る予定である。」

(筆者注2) 新型インフルエンザ(パンデミック2009)ワクチンの製造過程やその今回のスケジュール(time-line)とはどのようなものであろうか。専門外であるため筆者も勉強方々関係サイトを調べてみた。これだけ疫学・臨床上重要な問題であるにも拘らず、公的保健機関、研究機関、(社) 細菌製剤協会等や製薬メーカー(あえてあげるとすれば、2004年5月28日 厚生労働省感染症分科会感染症部会新型インフルエンザ対策に関する検討小委員会におけるわが国の製造メーカーである財団法人化学及血清療法研究所の後藤修郎氏の説明や「緊急研究 事後評価『新型インフルエンザ・ワクチンの生産に関する緊急調査研究』研究)(研究代表者名:国立感染症研究所板村繁之氏)等であろう」を調べてみた。残念ながら、一般的ワクチンに関する啓蒙教材のみであった。海外で見た場合は8月7日付け本連載NO.12で紹介したWHOの“briefing note 7” がこれに匹敵するものである(従来からWHOの参考重要データを仮訳している国立感染症研究所が今回note7を訳していないのはなぜか)。
 ここで、わが国のワクチンの開発・製造・使用段階に関する薬事法や同施行規則、省令について整理してみる。専門外の筆者が理解できる範囲でまとめてみた。専門家による正確かつ分かりやすい解説を期待したい。

・基礎調査
・スクリーニング・テスト
・製剤・製法研究及び薬学的研究
(1)開発段階
①非臨床試験(GLP省令) 「医薬品の安全性に関する非臨床試験の基準に関する省令」(2008年8月15日施行)
②治験届
③臨床試験(GCP省令) 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP)(1997年3月27日省令第28号)
(注)②、③は「治験薬の製造管理、品質管理に関する基準」(治験薬GMP)(2008年7 月9 日薬食発第0709002号)に基づく。

(2)製造段階(販売承認、製造許可)
①品質管理(GQP省令) 「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」(2004年12月24日省令第179号)
②安全管理(GVP (Good Vigilance Practice)省令)「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の製造販売後安全管理の基準に関する省令」(2004年9月23日省令第135号)

(3)流通・使用段階
初めの段階で国家検定(承認申請・審査)が行われる。
①再審査
②再評価
(注)医薬品の市販後の品質、有効性及び安全性の確保を図るためのPMS(Post-marketing Surveillance)は、副作用・感染症情報の収集・処理制度(以下、副作用報告制度)、再審査制度及び再評価制度の3つの制度で構成されている。その根拠はGPSP省令(「医薬品の製造販売後の調査及び試験の実施の基準に関する省令」2004年12月20日厚生労働省令第171号)である(同省令により「新医薬品等の再審査の申請のための市販後調査の実施に関する基準:GPMSP省令」は廃止された)。
 なお、GPSP(Good Post-Marketing Study Practice)は、製造販売業者等が行う製造販売後の調査及び試験に関する業務が適正に実施され、また、再審査及び再評価の申請を行う際の資料の信頼性を確保するために、遵守すべき事項を規定した基準である。

(筆者注3) 8月26日の新聞報道によると「厚生労働大臣のワクチン接種への早期取組みに関し、海外製ワクチンの輸入は、緊急時に国内での臨床試験(治験)を省略して承認できる薬事法上の「特例承認」を初適用する方針だ。舛添厚労相は、国内で簡略化した臨床試験を実施し、安全性を確認してから承認する意向も示した。」とある。これを正確に言うとこの考え方は平成20年4月16日開催の第7回新型インフルエンザ専門家会議配布資料4「新型インフルエンザワクチンの国家検定について(案)」において示されている。
 すなわち、次の考え方である。
(1)新型インフルエンザワクチンは、薬事法第43条に基づき、検定を受け、かつ、これに合格しなければ、販売、授与等をしてはならないものとされている。
(2)しかし、新型インフルエンザの発生時、健康被害の拡大を防止するため、新型インフルエンザワクチンが緊急に使用されることが必要である。ワクチンの備蓄原液を製剤化し、出荷するまでに、製剤化作業や規格試験の期間に加え、さらに上記の検定を受ける期間を要するため、ワクチンの迅速な供給が困難となることが懸念される。
従って、緊急に使用される必要があると認められる場合には、フェーズ4A以降、新型インフルエンザ専門家会議の議論を経て、直ちに国家備蓄しているプレパンデミックワクチン原液の製剤化を行うよう、ワクチン製造会社に要請した時点をもって、薬事法第43条の規定にかかわらず、当該新型インフルエンザワクチンの販売、授与等を行うこととする。

(筆者注4)英国日本大使館が提供するサイトでは、英国のNHS(GP)を初めとする医療制度、診療の流れ、NHSの加入方法等NHSの専門サイト“NHS Choices”を使った説明を行っている。大変わかりやすく正確かつ実践的である。現地の専門家によるアドバイスがあったと思うがわが国でも参考になろう。

(筆者注5) 8月21日付“Mail Online”は、WHOの発表(briefing note 8)によればかならずしも基礎疾患が重症化の要件ではなく、世界的に見て従来健康であった子供や50歳未満の成人の約40%が重症化しており、英国の医師も息切れ (shortness of breath)、呼吸困難(breathing difficulties)、胸痛(chest pain)や3日以上にわたる高熱といった症状をチェックできるはずであったと指摘している。


〔参照URL〕
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/health-swine_influenza-index.htm
https://www.pandemicflu.direct.gov.uk/
http://www.bmg.bund.de/cln_091/nn_1168278/sid_32BA346D0590283B0BA985CF5C577CB3/nsc_true/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2009/Presse-3-2009/pm-19-08-09-leistungsVO.html?__nnn=true

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海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(No.14)

2009-08-25 16:46:28 | 海外の医療最前線

 Last Updated: March 5, 2021

わが国のメディアも欧州疾病対策センター(ECDC)が毎日更新・発表している新型インフルエンザの世界的な感染拡大情報に注目している。本ブログのN0.12で紹介したとおり、WHOが7月22日以降各国別の感染確認件数統計の公表を中止し、WHOの世界6つの地域事務局(regional office)(アフリカ、アメリカ、東地中海、欧州、東南アジア、西太平洋)からの累計確認数と死者数の集計方式に改定したことが、ECDCの個別国情報の意義があらためて浮かび上がった理由の1つといえよう。


 しかし、ECDCも従来独自に集計してきたEUやEFTA加盟国以外の各国の確認済累計感染者数の公表につき「8月9日」をもって中止している。その最大の理由は、ECDCの説明によるとわが国と同様世界の主要国が感染数の公表が出来ていないという最悪の状況になったことであろう。さらに疫学上の重要課題といえる監視情報の混乱の実態は、ECDCの独自の統計とWHOの集計時の誤差の解釈のあり方の問題も浮かび上がってきた。例えば、8月13日現在のWHOの世界統計では累積確認感染者数は182,166 人、死者は1,799人である。一方、ECDCが8月22日に公表したEU加盟国(EFTAを含む)感染者数は42, 099人(うち死者は80人)、その他の国々の感染者数は208,496人(うち死者は2,459人)である。世界全体では累計確認感染者は250,595人、死者は2,539人である。(筆者注1)

 一方、わが国の厚生労働大臣のコメントを待つまでもなく、新型インフルエンザの本格的な流行は本年秋以降といわれていたが、実際は夏から始まっている。都道府県ごとの集計でみた感染発生事例の累計疑似症患者数は8月16までの2009年第33週は1.69(患者報告数:7,750)となり季節性インフルエンザの全国的流行開始指数値(1.00)を上回った。第33週の受診患者数は約11万人と推計され、そのほとんどが新型インフルエンザであると国立感染症研究所は推定している。8月18日までの累計入院患者数は230人である。
 本文で述べるとおり、世界的な感染拡大傾向はこの数週間は従来拡大が続いていた北半球の北米や英国等は低下傾向にあり、わが国の増加傾向はアジア地域や中南米の傾向に近いともいえる。

 このような本格的感染拡大への対応として、一層の医療体制の強化や学校等の集団感染対策が必要でありことはいうまでもないが、筆者が従来から懸念していたとおり新型インフルエンザ接種ワクチンの不足問題も具体化してきた。(筆者注2)(筆者注3)

 今回のブログは、グローバルな情報源として注目を集めている一方で、閲覧・検索が困難となっているECDCの最新感染情報の見方や特徴的情報公開を行っている個別国について紹介する

1.感染主要国における最新情報
(1)WHOの地域別累計感染者・死者数
 WHOが8月21日の公表したupdate62(8月13日現在)によると、累計確認感染者は182,166人以上、死亡者数は1,799人である
 なお、WHOは地域別の動向をモニタリングしており、この1週間の傾向を次のように分析している。
A.世界的傾向:南半球の温和な地域では遅れて感染が報告されている南アフリカを除き他の国では引き続き感染者数は減少傾向にある(オーストラリア、チリ、アルゼンチン等は国全体では減少しているものの一部地域で増加がみられる)。
B.インド、タイ、マレーシア等熱帯アジア地域は雨季に入るため拡大傾向にあり、香港も同様である。中米の熱帯地帯のコスタリカ、エルサルバドルは急激な増加傾向が見られる。
C.北米や欧州の北部温帯地域(northern temperate zones)では米国の3州や西欧州の数カ国での増加を除くと感染拡大率は減少傾向にある。
D.抗ウイルス薬タミフルの耐性ウイルスの報告は世界全体(累計)で12例報告(日本4例、米国・香港特別自治区各2例、デンマーク・カナダ・シンガポール・中華人民共和国各1例)されている。この分離された耐性ウイルスはノイラミニダーゼ(neuraminidase) (筆者注4)(H275Yという)によりタミフル耐性を持つ変異を検出している。(筆者注5)

(2)ECDCの新ポータルサイトのアクセス方法
 8月17日にECDCのポータルサイトが新しくなった。おそらく世界中の関係機関や個人からのアクセスが集中し、サーバーの管理上等で問題が出てきたのかもしれない。Pandemic(H1N1)2009を選択、閲覧しようとすると、IDやパスワード入力が求められエラーとなる。これは、欧州委員会の公衆衛生専門ポータル“Public Health”や米国CDCの“2009 H1N1 Flu:International Situation Update”からアクセスしても同様である。それを避けるには次の手順を参考までに薦めたい。
ECDCのホームページにアクセスする。
②“Press Centre”を選択する。
③画面右“STAY UP TO DATE”の“RSS Subscribe to the Daily Update-Pandemic
2009”を使ってRSSフィードを利用する。
 また、EU加盟国における新型インフルエンザの取組みに関する最新情報は前記“Public Health”でも確認できる。
また、EUの個別国の担当省等の原データの見方について説明しておく。
①“Public Health”の“Influenza A(H1N1)”を選択する。
②“Information and Advice”の“Information from Member States,Candidate and EEA countries”を選択する。
 ただし、この場合各国の言語が正確に理解できることおよびリンク先が外務省等必ずしも国を代表する保健機関でないこともあり、あまり薦められない。

2.個別国情報で情報内容につき特徴がある事例紹介
 米国等主要国や国際機関であるWHOの公表内容が入院患者数と死亡者数の推移等に移る中、疫学的に感染拡大情報を詳細にウォッチしまた国民の不安を解決すべく個人的な対応を行なっている国やあまりわが国では紹介されない国々もあり、今回はそれらの国の情報をあらためて紹介する。

A.カナダ
 公衆衛生庁(Public Health of Canada)の専門サイトは“FluWatch”である。8月15日に終わる週(第32週)で見るとインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率(consultation rate)は全国ベースで見て1,000分の15で前週と同様である。一方、陽性結果の割合は4.2%と前々週の9.9%,前週の5.5%からさらに低下した。
 累計感染者数7,083人のうち入院患者数は1,420人、うち集中治療室で治療中が275人である。累計死亡者数は70人である。アルバータ、マニトバ、オンタリオおよびケベックの4州だけで見ると入院率は90%以上、死亡率は約85%である。年令層別に見ると15歳未満の入院率が最も高いが、死亡率について見ると45歳以上の比較的高年齢層が最も高い。

B.オーストラリア
 連邦保健高齢者担当省サイトで見てみる。同国は毎日更新しており、8月25日現在の累計確認感染者数は33,844人、累計死亡者数は132人である。25日現在の入院者数は440人(累計入院患者数は4,198人)で、うち100人は集中治療室(Intensive Care Units)に入る重症患者である。

C.英国
 健康保護局(HPA)は毎週最新情報を公表している。英国の各地域の感染拡大傾向はこの時期として予想より盛んではあるが、収まりつつあり、8月16日までの第33週のイングランドやウェールズのインフルエンザ様疾患 (ILI) )診察率は季節性インフルエンザの率を下回る水準まで下がっている。なお、本ブログでたびたび紹介しているHPAの“Weekly pandemic flu media update”の分析内容は分かりやすいし、毎週公表している“Weekly epidemiological updates archive”は疫学的研究には必須のデータであると思う。
 一方、英国保健省の専門サイト“NHS NHS choices”を8月21日時点で見ると、2週間前の1週で約25,000人が、前週には11,000人になり急速に減少傾向が見られたと分析している。累計死亡者数は59人である。
 英国の保健省サイトは8月13日には、2009年-2010年のブタ由来インフルエンザについてワクチンのグラクソスミス・クラインやバクスターという製薬メーカーに対す発注済である点や、欧州薬品審査庁(European Medicines Agency)により9月末または10月までの検査承認段階に入っており、10月中旬には接種がはじめられると公表している。また、英国「ワクチン接種および免疫合同委員会(Joint Committees for Vaccination and Immunisation:JCVI)」において健康弱者に対する本年10月に供給予定のブタ由来インフルエンザワクチン第一陣の接種の優先順位について次の順序とする考えが示されている。
①その時点で季節性インフルエンザの治療をうけている生後6か月から65歳の者。
②欧州薬品審査庁の承認条件に従い、全妊婦または一定の期間(trimsters)
の妊婦。
③免疫システムに影響をもつ個人と接触せざるを得ない家族。
④65歳以上でかつ現時点で季節性インフルエンザで高い医療リスクを負っている人。
 さらに、保健と社会医療の最前線従業者へもワクチンを提供する。今後の予定について、豚インフルエンザワクチン接種プログラムの実現の更なるガイダンスがPrimary Care Trust(PCT)免疫のコーディネータ宛に送られるとしている。
なお、特記すべき記事として英国のNational Pandemic Flu Service”について簡単に解説しておく。わが国では基本的に厚生労働省の新型インフルエンザサイトに個人がアクセスできるとすれば「インフルエンザかな?症状がある方々へ」くらいであろうし、その他には地元保健所等ということになろう。
 一方、“National Pandemic Flu Service”の利用方法の詳細は詳しく見ていないが「本サービスの利用目的」から読み取る限り高い熱がある患者がまず一定の個人医療情報を整理した上で本サイトに直接アクセスするほか、イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドの各地区情報の入手も可である。

D.ニュージーランド
 保健省サイト(Update 142)の情報を見る。8月16日までの第33週で見ると、ILI診察率は前年同週比でなお高い水準にある(特に0歳から19歳の年齢層が最も高い)。
 8月24日現在の確認累計感染者数は3,106人、死亡者数は16人である。

F.香港特別行政区(The Government of the Hon kong Special Administrative Region)
 環境衛生局(Center of Health Protection:衛生防護中心)が担当部署である。最新情報は8月21日現在の情報である。累計確認感染者数は8,535人で、この24時間で326人が新たに感染(うち男性174人、女性153人)しており、感染傾向の分析は別途チャート化したデータサイト(流感速遞)を作成、公表している。

G.ドイツ
 累計感染者数が英国(12,957人)を上回る(8月21日現在で14,325人)。ECDCの情報によるとドイツの感染情報は連邦機関である連邦保健省(Bundesministerium für Gesundheit)と、ロベルトコッホ研究所(Robert Koch Institute)が対外窓口になっている。
 後者の情報の方が詳しいのでその概要を紹介する。
 8月21日(第33週)現在の累計確認感染者数は14,325人である。第33週の感染者数増は1,947人で第32週の2,279人、第31週の2,847人から低下傾向にある。また、インフルエンザ様患者の陽性結果の割合については第31週が8%、第32週が15%であったのに対し第33週は18%に上がっている。

3.ECDCに見るEU加盟国の新型インフルエンザ・ワクチン接種の優先順位決定状況
 この問題に関するわが国の取組み状況 (筆者注2)で紹介するとおりであるが、世界の政府・保健関係者の最大の関心はワクチン接種の優先順位であるといっても言いすぎでないかもしれない。
 本ブログでも米国の状況等一部紹介してきたが、その他の国々はどうであろうか。わが国メディアではあまり出てこないEU加盟国の最新情報をECDCの情報等によりスェーデンの例を最後にまとめておく。前記英国の情報と合せ読んで欲しい。
○ECDCの“DC DAILY YPDATE” 8月24日号記事:スェーデンの全国保健福祉委員会がワクチン接種の優先順位に関する勧告を採択した。2グループに分れるが並列的に位置づけている。
1)重症化するリスクのある者
a.3歳以上全員および6か月以上で次の基礎的疾患を病んでいる者
① 慢性肺疾患(Chronic lung disease)
② 極端な肥満または神経疾患により呼吸困難を引き起こす者(Conditions that cause breathing difficulties like extreme obesity or neuromuscular
③ 循環器疾患(高血圧症を除く)(Chronic cardiovascular diseases(excluding hypertension))
④ 免疫抑制(HIVを含む)(Immune suppressed(incl HIV))
⑤ 慢性肝不全(Chronic liver)または腎不全(renal failure)(GFR<30ml/min)
⑥ 糖尿病(発熱性疾患の合併症を引き起こす)(Diabetes mellitus ,when a febrile illness can lead to complications)
⑦ 過去3年以内に喘息治療をうけた(Asthma under medication for the past three years)
b.妊婦(Pregnant women)
2)医療従事者(Health care personnel)

********************************************************************************************::

(筆者注1) ECDCもEU以外の国々が累計確認感染者数の統計を中止したことから、8月9日を最後にEU以外の国の情報公表は中止し、死者数のみ公表している。また、EU加盟国については独自に入院患者者数(hospital admission)、集中治療対象者(intensive care)を集計、公表している。

(筆者注2) 新聞でも報じられているとおり、新型インフルエンザ用ワクチンの接種の優先順位の問題が厚生労働省の主催による公開意見交換会が8月20日と同月27日に開催されている。(筆者注3)で説明するとおり、世界中の国でワクチン不足は現実のものである。本ブログ連載No.12(8月7日付け)3.で述べたとおり、米国CDCはワクチン接種の優先該当者を明示した推奨文書を公表し広く世論の支持を仰いだ。今回報道されているわが国の意見交換会の結果もその推奨文書とほぼ同じ内容であり、仰々しく意見会の名目で関係者の意見を聞いたかたちのこだわるより、世界のワクチンの受給体制の現状分析に注力すべきではないか。わが国の場合、準備にかかる体制・時間的余裕は極めて限られている。

(筆者注3) 8月19日の AFP通信は、次のように報じている。「世界保健機関(WHO)は新型インフルエンザA型(H1N1)のワクチンについて、北半球の各国からの発注がすでに10億回分を超えたことを明らかにするとともに、ワクチン不足が発生する可能性を警告した。
 ギリシャやオランダ、カナダ、イスラエルなど一部の国は、全国民に必要な接種分の2倍にあたるワクチンを発注。一方、米英仏独などの発注量は、それぞれ国民の30-78%分にとどまっている。こうした状況に専門家は、需要の急増と製造の遅れが重なって今後ワクチン不足が発生する可能性があると警告。死亡率が高まると見られている流行の第2波に備え、各国政府がワクチン接種対象者の優先度を決める難しい選択を迫られることになるかもしれないと指摘している」。

(筆者注4) 「ノイラミニダーゼ(neurminidase)」とは、ウイルス、微生物、動物の種々の臓器に存在する酵素の1種。シアル酸(ニイラミン誘導体)を糖タンパク質や糖脂質から切り離す作用をもつ。特にインフルエンザウイルスのもつノイラミニダーゼ(NA)はウイルスの標的細胞への侵入に重要な働きをし、ウイルス抗原としても重要である。精製されたノイラミニダーゼは糖タンパク質や糖脂質の機能や構造の研究に用いられる。(株式会社AMBiSサイトから引用)

(筆者注5) 米国における坑インフルエンザ薬への耐性変異についての詳細はCDCの「疫学週報(MMWR)(8月21日号第58巻32号885頁~912頁)に載せる情報が8月15日に筆者に直接届いていた。専門的に調べたいと思う方は是非原文を読まれたい。なお、“MMWR”について、わが国では(財)国際医学情報センターが毎週「抄訳」を発表(最新で8月7日号が訳されている)しているので、しばらく待つのも手かと思う。

〔参照URL〕
http://ec.europa.eu/health/ph_threats/com/Influenza/novelflu_en.htm
http://www.who.int/csr/don/2009_08_21/en/index.html
http://www.dh.gov.uk/prod_consum_dh/groups/dh_digitalassets/documents/digitalasset/dh_104315.pdf
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海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.13)

2009-08-16 06:54:38 | 海外の医療最前線

 Last Updated:March 5,2021

 新型インフルエンザの感染リスクは、わが国においても8月15日に沖縄県での57歳の基礎疾患を持つ男性の初の死亡例、複数の年少者の急性脳炎重症化例、坑ウイルス薬タミフル耐性さらに学校が再開される秋以降の不安材料が引続き出始めている。
 特に9月になるとすぐ現実の問題となる「新型インフルエンザと休校・学年閉鎖等の対応」である。本ブログでもしばしば指摘しているとおり、わが国の国立感染症研究所等の分析結果を待つまでもなく、年齢別に見た感染拡大の年齢層の特定化や幼稚園から少中高等学校等における集団感染が大きなリスク要因であることは言うまでもない。
 この問題の保健分野の責任機関である厚生労働省から関係する事務連絡は、本年6月19日付けの「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」のみであり、また文部科学省の関連事務連絡は保健所と学校との報告・連絡体制 (筆者注1)であって、学校管理者がどのような判断基準に基づいて生徒、職員や父兄に接したらよいか、その具体的指針となるものは一向出て来そうにもない。
 今回のブログは、米国疾病対策センター(CDC)が本年秋以降の準備として公表した「米国の公的無償教育機関(K-12 grades(幼稚園から高校)(筆者注2)の管理者向け対応ガイダンス」等の要旨を紹介する。
 これらの新型インフルエンザの拡大阻止に向けた具体的な対応上の参考情報として、わが国の「国立感染症研究所」は従来からサイト上で「CDCによる情報―各ガイダンス・ガイドライン」を公表している。いずれ本件についても公表すると思われるが、時間的余裕もないので急遽取り上げる。
 なお、米国政府の新型インフルエンザ専門サイト“Flu.gov”は「学校の新型インフルエンザ対応」問題を“School Planning”として取り上げて関係者の取組み課題を整理し、かつ本年秋以降の季節性インフルエンザの流行とも抱き合わせで内容更新を図っており、今回その更新項目も併せて紹介する。いずれにしても国民・関係者への包括的な情報提供は欠かせない点を改めて強調したい。(筆者注3)

1.“Flu .gov”サイトの教育関係者向け事業継続計画更新の主要項目
 今回のサイト内容の更新は、連邦政府が2009―2010学年度用に策定したもので、①CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための対応・報告ガイダンス、②州および地方行政機関に対するCDCガイダンスに基づく疫学技術や戦略面の具体的適用に関する報告書、および③学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の両親間の基本的情報内容とその具体的コミニケーション・ツールを提供することにある。
 なお、電子政府サイトである“Flu .gov”の構成を参考までにあげておく。ここで筆者が言いたい点は常に状況が変化しつつある「新型インフルエンザ」対応について、最新関係情報が一覧性をもって閲覧・アクセスできることが「電子政府」の基本機能と考えるからである。
(1)教育関係者向け新型インフルエンザの予防ワクチン接種ガイダンス(Novel H1N1 Vaccination Guidance)(CDC)、学校閉鎖(School Dismissal)状況モニタリング・システム(CDCおよび連邦教育省(U.S.Department of Education))、連邦教育省の新型インフルエンザ情報、日帰り・泊込みキャンプ時の留意ガイダンス(CDC)、高等教育(Higher Education)・中等後教育(Post-Secondary Education)機関向けガイダンス(CDC)
(2)地方教育機関が新型インフルエンザの準備計画の策定等を行う際のチェック・リスト(幼稚園、中等教育機関、大学に分れている)(CDC、連邦保健福祉省(HHS)、連邦教育省の協同作成)
(3)各種ガイドライン、ツールおよび関係報告:緊急時の明確な学校閉鎖権限に関する法的見解(ジョージタウン大学およびジョンホプキンス大学の法律・公衆衛生センター作成)他

2.CDCの州・地方行政機関および学校管理者のための2009―2010学年度対応・報告ガイダンスの要旨 (筆者注4)
 CDCガイダンスの推奨内容は、2009年春以降に見られた新型インフルエンザの集団感染の経験に鑑みかなり具体的であり、また直裁的な言い方をしている。しかし、教育現場の責任者としては曖昧な形で責任を負わされるより運営しやすいとも言えよう。また、インフルエンザ様感染者の学生や事務職員について自宅待機原則を打ち出す一方でその間の学習プログラムの遅れ等を解決すべく取組むべき手段や項目を具体的に示した内容となっている。
(1) 2009―2010学年度において学校に要請すべき内容
①インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の時、熱が下がっても自宅にいる:インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生は、解熱剤を使用せずに熱が下がったり熱がなくないと判断されても24時間は自宅内にいること。坑ウィルス薬を使用した場合でも同様である。
②インフルエンザ様疾患(flu-like illness)の学生や職員を自宅まで送る際、速やかに別室に隔離し、関係者は可能であれば医師用マスク(surgical mask)等、防護用具(protective gear)等の使用を推奨している。
③頻繁に手を水と石鹸で洗浄し、咳やくしゃみをするときはテッシュで覆うかワイシャツの袖で覆う。
④学校の清掃担当者は定期的に学生や職員が頻繁に使用するエリアを清掃する。
その際、漂白剤(bleach)や非洗剤型クリーナー(non-detergent based cleaners)の使用した特別な清掃は不要である。
⑤妊娠、喘息(asthma)、糖尿病(diabetes)、免疫不全(compromised immune systems)、神経性疾患(neuromuscular diseases)をもつインフルエンザ様疾患患者は、速やかに自分のかかりつけ医師に相談し、坑ウイルス薬による早期措置を行うことが重症化や死を回避することになる。

(2)この秋以降の感染状況は春以上に厳しいものである前提下での対応策
①インフルエンザ様感染者の積極的選別
 学校は毎朝学生や職員について熱やその他の症候がないかチェックし、また1日中チェックを適時行い、可能な限り隔離し、自宅に送りつける。
②高いリスクを持つ学生や職員は自宅待機を指示
 地域内でインフルエンザが循環始めたときは感染併合症のリスクの高い学生については担当医と相談の上自宅待機させる。その際、学校は授業の継続性を確保するため自宅にいる間の教育方法について電話指示、宿題(home pachets)、インターネット・レッスンやその他の適宜の手段を用いた教育の継続計画をたてるべきである。
③感染者を家族に持つ学生等の自宅待機
 家族がインフルエンザに感染した学生はその感染第1日目から5日間(感染する可能性が高い期間)は自宅待機させる。
④一定期間の自宅待機
 インフルエンザの感染拡大が広がったとき、インフルエンザ様の病人は仮にそれ以上の症状がまったくなくなっても少なくとも7日間は自宅に居るべきである。
⑤学校閉鎖(School Dismissals)
 学校および保健機関の担当者は学校閉鎖が教育や地域の混乱拡大を引き起こさないよう緊密に行動すべきである。学校閉鎖の期間はカレンダーでいう5日から7日間とすべきであり、正常に戻すときはこの期間のどこかにかかわらず再評価すべきである。先生と職員はその他の手段が取れるよう学校閉鎖実施時でも学校は開けたまま残るべきである。

(3)具体的行動過程における決定事項
 CDCや関係機関の意思決定者は次の1つ以上項目について特定のうえ伝達しなければならない。州や地域レベルで議論を行いまた決定に至るためには次のような疑問点を明確化する必要がある。
A.すべての正当な意思決定者と利害関係者が関与しているか、すなわち州や地域の保健機関、教育担当機関、治安担当機関、知事や市長等統治機関、保護者や学生の代表、地元企業、宗教団体(faith community)、先生の組合や地元のコミュニティ団体、教師、公的医療機関や病院、学校の看護婦、学校給食の責任者、学校の用品供給業者が関与しているか。
B.州や地域の保健担当者は次の情報を共有し、同情報に基づき決定を行っているか。
・インフルエンザ様疾患の通院患者数
・同入院患者数
・同入院・死亡者数の傾向
・集中治療室に入った患者数の割合
・同死者の情報
・地域医療機関の対応能力と緊急対応機関の需要拡大時の対応能力
・入院用ベッド数、ICUの余裕、インフルエンザウイルス感染者用人工呼吸器(ventilators)の供給力
・病院職員の供給力
・坑ウイルス薬の供給力
C.地域教育機関や学校が次の情報を共有しそれに基づき決定しうるか。
・学校の欠席率
・学校の保健担当者への生徒の訪問数
・授業日においてインフルエンザ様学生を自宅に送りつけた件数
D.実行可能性(Feasibility)の検証
 意思決定者は検討すべき戦略の適用のための次の資源を持っているか。
・資金
・要員
・設備
・スペース
・時間
・法的権限または政策面からの要求
E.関係者等の受容性(Acceptability)
 意思決定者は戦略を具体的に適用するにあたり、以下の解決すべき課題をどのように取組んでいるか。
・インフルエンザに関する社会的な関心
・治療介入(intervention)についての公的支援の不足
・自分自身を自ら守ろうとしない人々
・同戦略実行時の副次的効果(学校閉鎖実施時の小児の栄養確保
(child nutrition))、学校関係者の仕事の確保(job security)、公共医療機関へのアクセス、教育の進捗の遅れ等)

3.学校管理者がCDCガイダンスを適格に実践するため教師、生徒の保護者間の基本的共有情報内容とその具体的コミニケーション・ツール
 このようなかゆいところに手が届くような行政サースがうらやましいと見るか、やりすぎと見るかは意見が分れるといえようが、いずれにしても「2009年パンデミック」のリスクがなお不透明な現時点での準備としては、このような対応は関係者としては不可欠と思うのが当然であろう。
 同ツールの主な内容を紹介する。
(1)学校管理者のためのCDCガイダンス理解のためのQ&A
(2)インフルエンザ感染拡大阻止のための行動ステップ
(3)学校が保護者に向け子供が感染した場合の早期チェックや学校閉鎖等休校実施時の保護者への自宅待機を指示する際の説明内容
(4)インフルエンザ感染拡大阻止に関するCDCのポスター
(5)学校が感染拡大時に保護者に通知する手紙や電子メールのテンプレート
******************************************************************************************:

(筆者注1) 文部科学省は、6月26日付事務連絡で「各都道府県・指定都市教育委員会宛 新型インフルエンザに関する対応について」において「学校における新型インフルエンザ・クラスターサーベイランス」の具体的な協力要請を行っているのみである。

(筆者注2) K-12(Kindergarten to 12th grade)とはウィキペデイアによると、次のとおりである。米国、カナダ、オーストラリア、英国の初等・中等教育無償の教育機関を指し、さらに“K14”はコミュニティ・カレッジ(大学の初めの1,2年目)、“K16”はその後の4年間の学位取得者を指す。 

(筆者注3) “Flu.gov”のパンデミック対応計画はサイトで見るとおり、①連邦政府機関、②州・地域行政機関、③各家庭、④職場、⑤教育関係機関、⑥医療・保健機関、⑦地域、の7分野に分類し、その都度内容更新を行っている。一方、わが国でこれに該当するのは首相官邸「新型インフルエンザへの対応」である。最新時のサイトで確認したが、前文で述べた6月19日付け「『医療の確保、検疫、学校・保育施設等の臨時休業の要請等に関する運用指針』の改定について」に言及しているのみである。

(筆者注4) 2021年3月時点で確認できるCDCガイダンスは以下の「Guidance for School Administrators yto Help Reducethe Spread of Seasnal Infuruenza in K-12 Schools」のとおりである。


〔参照URL〕
http://www.flu.gov/plan/school/schoolguidance.html
http://www.flu.gov/plan/school/k12techreport.html
http://www.flu.gov/plan/school/toolkit.html
http://www.flu.gov/plan/school/index.html

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海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.12-2)

2009-08-07 10:45:12 | 海外の医療最前線

Last Updated : March 5, 2021

4.世界の大規模感染拡大国の最新発表情報
 欧州疾病対策センター(ECDC)や 汎米保健機関(PAHO)および各国の保健機関が公表している累計確認感染者数および死者数の最新情報を紹介する。また、各国の関連サイトで特記すべき点も併せて記した。なお、今回の数値は引続き急速な感染拡大している現状を理解できるよう7月6日のWHOの公表値との比較を行った。しかし、ECDCは毎日更新データを公表しているが、PAHOは週間ベースでの更新であるなど各機関によって比較方法が異なるため、基準日の設定が難しく、今後は本ブログでは各機関の比較方法に準拠することとした。

(1)米国
 7月24日をもってCDCは各州からの報告に基づくH1N1の確認感染者数の公表を停止し、その代りに新型インフルエンザと季節性インフルエンザの感染状況を追跡する監視システムを導入した。その詳細についてはCDCサイトの“H1N1 Monitoring Question & Answers”で確認できるが、主な新型インフルエンザ監視システムは次のとおりであると説明されている。
 なお、次に述べる全米的モニタリング体制の原型はすでに1999年CDCが発行した「あらたなインフルエンザの世界的流行(パンデミック)の発生に備えて地方当局が対策を立案するための指針(Pandemic Influenza :A Planning Guide for State and Local Officials) 」で出来上っている。パンデミック時を想定し、ウイルスの検査体制の効率化といった理由だけでない米国らしい長期的かつ本格的な取組み姿勢があると判断するのは筆者だけであろうか。(筆者注8)
A.次の内容のモニタリングによるウイルスの監視
①インフルエンザの陽性について試験を行った標本の割合
②循環型インフルエンザの原型と亜型
③坑ウイルス薬への耐性
④新ウイルス種の出現
B.疑似インフルエンザに関する見張り役ボランテア医師(外来患者数当りの新型インフルエンザ様疾患患者を各年齢層別に報告)ネットワーク
C.成人と子供に分けて実験室で確認されたインフルエンザ感染者の入院者の監視
D.インフルエンザの地理的な感染拡大
E.全米122都市の死者の原因をインフルエンザと肺炎(pneumonia)とに分けてコード化し報告する(人口動態統計局が担当)
F.子供の実験室で確認された死亡者数
なお、インフルエンザの監視情報は“FlueView”サイトで専門的な分析を行うこととなった。
7月24日現在の累計確認感染者43,771人(+9,869人)、死者302人(+132人)
(2)オーストラリア
 8月5日現在の累計確認感染者24,114人(+18,816人)、死者174人(+164)
オーストリアのメディアはクイーンズランド州北部のタウンズビルの北65km沖の先住民約4000人が住んでいるパームアイランド では7月21日に36週の胎児が新型インフルエンザで死亡し、母親(19歳)は重症で集中治療室で治療中であると報じられている
 なお、オーストラリア在住の日本人向け危機管理情報サイト「青空ニュース」が新型インフルエンザA(H1N1)の感染拡大に関する最新情報を随時提供しているので、詳しくは同サイトを参照されたい。なお、同サイトでも紹介されているとおり、連邦政府(保健・高齢者担当省)は7月20日以降州別の累計感染者の公表は中止し、従来から行っている州別の入院者数、集中治療室収容者数、死亡者の公表に切り替えている。また、「青空ニュース」では累計感染者数の公表を中止していると記載されているが、これはあきらかに「誤り」であり、同サイトの“Update bulletins for Pandemic (H1N1) 2009” では毎日累計確認感染者数を公表している。
(3)メキシコ
同17,416(+7,154人)、同146人(+27人)
(4)英国
同11,912人(+4,465人)、同30人(+27人)
(5)チリ,
同11,860人(+4,484人)、同96人(+82人)
(6)カナダ
同10,449人(+2,466人)、同62人(+37人)
(7)タイ
同10,043人(+7,967人)、同81人(+74人)
(8)ドイツ
同7,963人(+7,458人)、同0人(+0人)
(9)日本(7月24日現在)
同5,022人(+3,232人)、同0人(+0人)
(10)ペルー
同4,889人(+3,973人)、同96人(+96人)
(11) 中華人民共和国香港特別行政区政府(Hong Kong SAR China)
同4,749人(+?人)、3(+?人)
(12)フィリピン
同3,207人(+1,498人)、同8人(+7人)
(13)ブラジル
同2,959人(+2,222人)、同96人(+95人)
(14)スペイン
同1,538人(+762人)、同8人(+7人)

5.新型インフルエンザの感染リスクに関する国際研究機関における新たな研究成果
“Eurosurveillance”の2009年7月30日付第14巻30号を参照されたい。


(筆者注8) CDCの立案ガイドは、実は2002年秋に公立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウィルス・センターが完訳している。米国の1999年のサーベイランス事業の骨格は訳文17頁を是非参照されたい。なお、訳文作業に協力したCDCインフルエンザ室、疫学セクションのチーフが現WHO事務局長副代行の福田桂治博士である。


〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_07_27/en/index.html
http://ecdc.europa.eu/en/files/pdf/Health_topics/Situation_Report_090805_1700hrs.pdf
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