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情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

香港の暗号資産交換プラットフォームBitzlatoの閉鎖やその中核人物の起訴を巡る関係機関の取組みを暗号資産、マネーローンダリング、ロシア制裁等の観点から解析する(その1)

2023-01-30 12:16:35 | マネーローンダリング

 ロシアとウクライナ戦争における西側諸国のウクライナ支援は単に戦車や武器等の提供にとどまらない。筆者はかつて個人や法人の金融制裁の実態を「ロシア連邦のウクライナ軍事進攻にかかる各国の制裁の内容、国際機関やEU機関の取組等から見た有効性を検証する!」ブログ(その1その2その3完 )で論じた。

 今回は、さらに金融面の厳しい制裁特に暗号資産交換所やダークネット・マーケットを巡るマネーローンダリング、違法性の高い取引実態にもとづく違法な犯罪者に対するEUROPOL、米国、ドイツの詳しい法執行を内容の解析を試みる。

 Ⅰ.2023.1.28 ユーロポール(EUROPOL)等の暗号資産プラットフォームBitzlatoの閉鎖

 EUROPOLのリリース「ビッツラート(以下、Bitzlatoという)上級管理職が逮捕された」が手元に届いた。以下でその要旨を仮訳する。

 フランスでは犯罪資産の資金洗浄容疑で暗号資産プラットフォーム・インフラが閉鎖され、キプロス、スペイン、ポルトガル、米国で6人が標的になった。

 フランスと米国の当局が主導し、EUROPOLが強力に支援している作戦は、暗号交換プラットフォームBitzlatoを標的にしている。この世界的に運営されている香港で登録された暗号通貨取引所は、大量の犯罪収益の洗浄を促進し、それらをルーブルに変換した疑いがある。法執行当局は、フランスに拠点を置くサービスのデジタル・インフラストラクチャを停止し、プラットフォームの管理者の主要メンバーを尋問した。この作戦には、ベルギー、キプロス、ポルトガル、スペイン、オランダの法執行機関と司法当局も関与した。

共同作戦機関のサイト

(1)犯罪活動に関連するすべてのビッツラート取引のほぼ半分にあたる

 暗号交換などの重要な犯罪ファシリテーターを標的にすることは、サイバー犯罪との戦いにおける重要な優先事項になりつつある。Bitzlatoは、ビットコイン、イーサリアム、ライトコイン(Litecoin)ビットコインキャッシュ(bitcoin cash)ダッシュ(dash)ドージコイン(dogecoin)Tether (USDT) などのさまざまな暗号資産をロシア・ルーブルに迅速に変換することを可能にした。暗号交換プラットフォームは、合計2億ユーロ(BTC(ビットコイン) 119000)相当の資産を受け取ったと推定されている。

 暗号資産の法定通貨への変換は違法ではないが、サイバー犯罪者のオペレーターの調査では、大量の犯罪資産がプラットフォームを通過していることが示された。分析によると、Bitzlatoを通じて交換された資産の約46%(約1億ユーロ(約140億円)相当)が犯罪活動に関連していることが明らかとなった。

 暗号解読により、疑わしい取引の大部分は米国連邦財務省・外国資産管理局(OFAC)によって認可された事業体にリンクされており、他の事業体はサイバー詐欺、マネーローンダリング、ランサムウェア、児童虐待資料に関連していることが明らかになった。たとえば、調査によると、2022年4月に閉鎖削除されたBitzlatoユーザーとHydramarketの間で2022万件のBTCトランザクションが直接行われた。

 ロシア語と英語の両方で利用可能なこの暗号資産交換プラットフォームは、フランスのホスティング会社から専用サーバーをレンタルしていた。さまざまな関係国の司法当局と法執行当局の調整された行動は、プラットフォームの削除、現在の金融資産の差し押さえ、およびさらなるテクニカル分析につながった。

(2)法執行の全体的な結果

①これまでに5人が逮捕された(キプロスで1人、スペインで3人、米国で1人)。

②ポルトガルで1人が尋問された。

③主な管理者は米国で逮捕された。

④CEO、財務ディレクター、マーケティングディレクターがスペインで逮捕された。

⑤8件の家宅捜査(スペインで4件、キプロスで1件、ポルトガルで2件、米国で1件)。

⑥サービスのデジタルインフラストラクチャを削除し、さらなる分析と調査を可能にした。

⑦押収物には、執筆時点で約1800万ユーロ(約11億2000万円)相当の暗号通貨、車両、電子機器が含まれる。

⑧他の暗号資産交換にかかる100以上のアカウントが凍結され、合計5000万ユーロがそれに関与した。

(3)犯罪行為とのリンクを明らかにするための暗号分析と国際協力

 調査活動の最初の段階では、EUROPOLは情報交換を促進し、利用可能なデータをEU内外のさまざまな刑事事件にリンクする分析サポートを提供し、数百万の暗号通貨取引の分析を通じて調査をサポートした。

 作戦行動当日、EUROPOLはその場で13人の専門家(フランスから10人、キプロスから1人、スペインから1人、ポルトガルかに1人)を派遣し、作戦活動に参加する他の国での国家調査官の配備を支援した。EUROPOLは、暗号通貨分析に関連する調整、EUROPOLのデータベースに対する運用情報のクロスチェック、および運用分析に関与する法執行当局を支援した。現時点では、すでに3,500を超えるビットコイン・アドレスと1 ,000を超えるBitzlatoユーザーの詳細が、Europolのシステムで報告されたさまざまな刑事事件とのリンクを示している。このデータやその他の関連事例の分析は、さらなる調査活動のきっかけとなることが期待される。

(4) 関係する法執行機関のリスト

・キプロス:キプロス警察(ΑστυνομίαΚύπρου)

・ベルギー:連邦警察( Belgium: Federal Police (Federale Politie/Police Fédérale)

・フランス:国家憲兵隊( France: National Gendarmerie (Gendarmerie Nationale)

・米国:連邦捜査局(United States: Federal Bureau of Investigation)

・スペイン:市民警備隊(グアルディア市民)( Spain: Civil Guard (Guardia Civil)

・オランダ:国家警察( Netherlands: National Police (Politie) 財政情報調査局  (The Fiscal Information and Investigation Service FIOD)

・ポルトガル:司法警察 ( Portugal: Judicial Police (Policia Judiciaria)

(5) 関係する司法当局

ベルギー:連邦検察庁(Parquet fédéral)(Belgium: Federal prosecutor office (Parquet fédéral)

フランス:パリ検事局( France: Paris Prosecutor / JUNALCO (Parquet de Paris / JUNALCO)

米国: 米国司法省 (US DOJ)( United States: United States Department of Justice (US DOJ)

*オランダのハーグに本部を置くEUROPOLは、テロ、サイバー犯罪、その他の深刻で組織的な犯罪形態との戦いにおいて、27のEU加盟国を支援している。まら またEUROPOLは、多くの非EUパートナー国や国際機関と協力しており、さまざまな脅威評価から情報収集および運用活動まで、EUROPOLはヨーロッパをより安全にするために必要なツールとリソースを有している。

Ⅱ. 米国の連邦司法省やFinCENの法執行行動

1.2023.1.18 FinCENリリース「FinCENは、仮想通貨取引所のBitzlatoをロシアの違法金融に関連する「主要なマネーロ-ンダリングの懸念」対象として特定した」

 FINCenのリリース文を仮訳する。

 1月18日、米国財務省の金融犯罪執行ネットワーク(FinCEN)は、暗号資産取引所のBitzlato Limited(Bitzlato)(注1)をロシアの違法金融に関連する「主要なマネーロンダリングの懸念」として特定する命令を発布した。

 これは、改正されたロシア等のマネーロンダリング対策強化法(H.R.6343 - Illicit Finance Improvements Act)のセクション9714(a)に従って発行された最初の命令であり、ロシアの違法な金融を促進および支援する事業運営が米国の国家安全保障と米国の金融セクターの完全性にもたらす深刻な脅威を強調している。この命令は、対象となる金融機関によるBitzlatoを含む資金の特定の送金を禁止するものである。

 命令の中で、FinCEN は、Bitzlato が米国外で活動している金融機関であり、ロシアの違法な金融に関連して主要なマネーロ-ンダリングの懸念があると判断した。 Bitzlato は、ロシア政府とつながりを持つサービスとしてのランサムウェア グループである Conti(注2) を含む、ロシアで活動するランサムウェア アクターの違法取引を促進することにより、Convertible Virtual Currency (CVC) のロ-ンダリングにおいて重要な役割を果たしている。

 FinCENのヒママウリ・ダス(Himamauli Das)部長代理は「Bitzlatoは、ロシアのサイバー犯罪者やランサムウェアアクターが盗難の収益を洗浄できるようにすることで、世界的な脅威をもたらす。犯罪者や犯罪支援者が進化するにつれて、これらのネットワークを混乱させる能力も進化する。我々は引き続き、これらの機関が米国の金融システムにアクセスし、ロシアの違法な資金を支援するためにそれを使用することを禁止するために、当局の全範囲を活用していく」と述べている。

 命令文に記載されているように、Bitzlatoは交換とピア・ツー・ピア(P2P)サービスを提供する仮想通貨取引所である。Bitzlatoは、ロシア関連のランサムウェアグループまたは関連会社による預金および資金移動の促進、およびロシアに接続されたダークネット市場との取引を通じて、ロシアおよびロシアの違法金融に関連する重要な事業を維持している。FinCENの調査によると、これらの接続には、Contiとロシアの接続されたダークネット市場Hydraが関与する預金、資金移動、および取引の促進が含まれるが、これらに限定されない。後記Ⅲ.で述べるとおり、2022年4月にHydraが閉鎖された後も、BitzlatoはBlackSprut、OMG!OMG!、そしてMega を含むダークネット市場を支援する取引を行っている。

 捜査の過程で、FinCENは、Bitzlatoがサービスの違法な使用と乱用を特定して混乱させるための意味のある措置を講じていないことを発見した。Bitzlatoは、マネーロンダリングや違法な金融と戦うために設計されたポリシー約款と手順を効果的に実装しておらず、そのようなポリシー約款、手順、または内部統制の欠如を堂々と宣伝している。その結果、Bitzlatoは、他の仮想通貨取引所と比較して、ロシアの違法金融に関連するマネーロンダリング活動の割合を大幅に拡大しています。Bitzlatoが、ダークネット市場を標的とした公的措置の後でも、ロシアに接続されたダークネット市場を継続的に促進していることは、違法行為者との継続的な関与と適切な管理の欠如をさらに示している。本命令に記載されているように、2023年2月1日施行より、対象となる金融機関は、Bitzlatoとの間で、またはBitzlatoによって、またはBitzlatoに代わって管理される口座またはCVC(Convertible Virtual Currency)アドレスとの間で資金の送金を行うことを禁じられる。

 本日の法執行行動は、透明性の向上を通じて米国の国家安全保障と米国の金融システムの完全性を強化し、CVCを含むデジタル資産を含む違法な金融活動の検出を促進することを目的としている。この行動は、財務省が利用可能なツールを使用してロシアの違法な金融活動を標的にし、ランサムウェアの脅威に対抗する例である。

 ロシアはサイバー犯罪者の天国であり、政府は独自の悪意のある目的でサイバー犯罪者を参加させることがよくある。2021年後半にFinCENに報告されたランサムウェア・インシデントの大部分は、ロシア関連のランサムウェアの亜種によって実施されており、Bitzlatoがロシアで免責されて活動することが許可されているロシアのサイバー犯罪者のより大きなエコシステムの一部であることを示している。

 さらに今回の行動は、違法行為を促進する責任を負う関係者に責任を負わせ、デジタル資産の乱用と戦うための財務省の世界的なリーダーシップを再確認するものである。「2022年から2026年度の財務省戦略計画(President’s Fiscal Year 2023 Budget and Treasury Strategic Plan for Fiscal Years 2022-2026)」(注3)に示されているように、財務省は国内および国際的な金融システムの透明性の向上に取り組んでいる。これには、デジタル資産の違法資金調達リスクに対処するための行動計画で特定されているように、財務省のツールを使用して、違法行為に関与したり促進したりするエコシステム内の説明責任のある関係者を拘束し、国際金融システムから切り離すことが含まれる。

連邦財務省・FinCenの命令文(Imposition of Special Measure Prohibiting the Transmittal of Funds Involving Bitzlato)原本 はここで見れる。

 このFinCENの行動に関するよくある質問(FAQs Bitzlato)は、こちらにある。

2.2023.1.18 連邦司法省リリース「7億ドル以上の違法資金の処理で起訴されたCryptocurrency ExchangeたるBitzlatoの創設者および過半数所有者たるロシア国民のアナトリー・レグコディモフ(Anatoly Legkodymov)をマイアミで逮捕」

 連邦司法省のリリース文を仮訳する。

 暗号通貨取引所のBitzlato Ltd. (以下、Bitzlato)の創設者であり過半数の所有者である中華人民共和国の深圳に住むロシア国籍のアナトリー・レグコディモフ(Anatoly Legkodymov(以下、Legkodymov という(40歳)を1月17日夜マイアミで逮捕した。容疑者は違法な資金を輸送および送金する送金ビジネスを運営していた疑いがあり、アンチ・マネーローンダリングの要件を充足せずに米国の規制上の保護措置を満たしていなかった。

 中華人民共和国の深圳に住むロシア国籍のアナトリー・レグコディモフ( Anatoly Legkodymov :40 歳) は、1月18日の午後、フロリダ州南部地区連邦地方裁判所で罪状認否を受ける予定である。フランス当局と米国財務省の金融犯罪取締ネットワーク (FinCEN) は、同時に取り締まりを行っている。

Anatoly Legkodymov被告

 DOJ司法次官補長リサ・O・モナコ(Deputy Attorney General Lisa O. Monaco.)は「1月18日、連邦司法省は暗号資産犯罪のエコシステムに重大な打撃を与えた。DOJは一夜にして、国内外の主要パートナーと協力して、暗号通貨等犯罪のハイテク軸を助長した中国を拠点とするマネーローンダリング推進役であるBitzlatoを妨害するとともに、その創設者であるロシア国民のAnatoly Legkodymovを逮捕した」と述べた。

 今日の行動は、明確なメッセージを送っている。すなわち、中国やヨーロッパから私たちの法律を破るか、熱帯の島から私たちの金融システムを悪用するかどうかにかかわらず、米国の法廷内で犯罪に応えることが期待できる。

Deputy Attorney General Lisa O. Monaco

 司法省司法次官補ケネス A. ポライト(Assistant Attorney General Kenneth A. Polite, Jr.)は「主張されているように、被告は、必要なアンチ・マネーロンダリング保護策を実装せず、犯罪者がランサムウェアや麻薬密売などの不正行為から利益を得ることを可能にした暗号資産取引所の運営を支援した。Bitzlatoの違法業務を妨害し、被告を逮捕するための National Cryptocurrency Enforcement Teamの途方もない努力は、たとえ国境を越えたとしても、暗号資産を利用した犯罪と戦うために、国内外のパートナーと協力し続けることを示している」と述べた。

Kenneth A. Polite, Jr.

 裁判所の文書によると、Legkodymovは香港で登録され、グローバルに運営されている暗号資産取引所であるBitzlatoの上級管理職であり、また過半数を有する株主である。Bitzlato は、「自撮り写真もパスポートも必要ない」と明記して、マネーローンダリングにかかるユーザーに最小限の身元確認を要求するものとして自社を売り込んできた。Bitzlato がユーザーに身元を特定する情報を提出するように指示した場合でも、ユーザーが「架空名義(straw man)」の登録者に属する情報を提供することを繰り返し許可してきた。

 ニューヨーク東部地区担当のブレオン・ピース(Breon Peace)連邦検事は「暗号資産を取引する機関は法を超越しているわけではなく、その所有者は私たちの手の届かないところにない。主張されているように、Bitzlato は質問を受けない仮想資産取引所として自らを犯罪者に売り込み、結果として数億ドル相当の預金を獲得した。被告は現在、彼の会社が暗号通貨のエコシステム(注4)(注5)で果たした悪意のある役割の代償を払っている」と述べた。

 これらの不十分な顧客確認 (know-your-customer (KYC)) 手順の結果として、Bitzlato は、犯罪行為に使用することを目的とした犯罪収益と資金の避難所になったと言われている。暗号資産取引における Bitzlato の最大の取引相手は Hydra Market (以下、Hydraという) であった。これは、麻薬、盗まれた財務情報、不正な身分証明書、マネーローンダリング サービスのための匿名の違法なオンライン市場であり、世界で最大かつ最長のダークネット市場である。Hydra のユーザーは、2022 年 4 月に米国とドイツの法執行機関によって Hydra が閉鎖されるまで、7 億ドル(約910億円)以上の暗号通貨を Bitzlato と直接または仲介者を介して交換した。

 FBIのブライアン・ターナー副局長(Associate Deputy Director Brian Turner)は、「FBIは、犯罪行為をキーボードで隠蔽し、暗号資産などの手段を使用して法執行機関から逃れようとする攻撃者を追跡し続ける。FBIは、連邦機関および国際的なパートナーとともに、この種の犯罪組織を混乱させ、解体するために絶え間なく働く。本日の被告の逮捕は、FBIがこれらの活動に従事する人々にリスクと結果を課すことを思い出させるものとなるはずである」と述べた。

Associate Deputy Director Brian Turner

 FBIニューヨーク現地事務所のマイケルJ.ドリスコル(Charge Michael J. Driscoll)担当副局長は「本日主張されているように、Legkodymovは、Bitzlatoがさまざまな犯罪活動に使用され、その結果として生じる資金の安全な避難所と見なされることを故意に許可した。FBIと私たちのパートナーは、あらゆる金融市場と同様に、暗号通貨市場を違法行為から守るという確固たるコミットメントを維持している。本日の FBI等の行動は、Legkodymovが我々の刑事司法制度で彼の行動の結果に直面することになるため、このコミットメントの例として役立つはずである」と語った。

 訴状で主張されているように、Bitzlato の顧客は、同社の顧客サービス ポータルを日常的に使用して、Hydra との取引のサポートを要求し、Bitzlato の担当者とのチャットで想定された身元で取引していることを認めた。

 さらに、Legkodymov と Bitzlato の他の管理者は、Bitzlato のアカウントが違法行為に満ちており、そのユーザーの多くが他人の ID で登録されていることを認識していた。たとえば、2019 年 5 月 29 日、Legkodymov は Bitzlato の内部チャット システムを使用して同僚に、Bitzlato のユーザーは「詐欺師であることが知られている」と書き、他人の ID 文書を使用してアカウントを登録した。Legkodymovは同僚から、Bitzlatoの顧客ベースは「Hydraでドラッグを購入する常習者」と「麻薬密売人」で構成されていると繰り返し警告された。ある上級幹部は、Bitzlato は、会社の利益を損なうことを避けるために、「名目上」のみに麻薬の売人と戦うべきだとさえ強調した。Bitzlato の共有管理フォルダに保存された内部スプレッドシートには、「積極的にKYCを回避し(Positives: No KYC(No Know Your Customer(顧客の本人確認を行わない))・

・・「消極的に汚れたお金(Negatives: Dirty money)」等同社の独自の見解が要約されていた。

 訴状で主張されているように、Bitzlato は米国からのユーザーを受け入れないと主張していたが、実際は米国を拠点とする顧客と実質的な取引を行っており、その顧客サービス担当者は、米国の金融機関から資金を送金できることをユーザーに繰り返しアドバイスしていた。さらに、2022 年と 2023 年にマイアミから Bitzlato を管理していた Legkodymov は、2022 年 7 月に 2 億 5000 万ドル(約325億円)を超える訪問を含む、米国ベースのインターネット プロトコル アドレスから Bitzlato の Web サイトへのかなりのトラフィックを反映するレポートを受け取った。

 Legkodymov は、無認可の送金事業を行った罪で起訴されており、有罪判決を受けた場合、彼は最高で 5 年の拘禁刑に処せられる。

 本ブログの第Ⅰ項で紹介したとおり、18日発表された逮捕と同時に、フランス当局は、EUROPOLおよびスペイン、ポルトガル、キプロス等のパートナーと協力して、Bitzlatoのデジタル インフラストラクチャを解体・閉鎖し、ビツラートの暗号通貨を押収し、その他の法執行措置を講じた。

Ⅲ.2022.4.5ドイツ連邦刑事庁(BKA)リリース「違法なダークネットマーケット:であるハイドラマーケット(Hydra Market)を閉鎖させた」

 BKAのリリース文を仮訳する。

 世界最大のダークネット・ マーケットプレイスのサーバーが押収され、総額約 2,300 万ユーロ(約9億2000万円)の 543 ビットコインが押収された。

 2022年4月5日、フランクフルト中央検察庁(サイバー犯罪対策中央局(ZIT)) (注6)連邦刑事警察局(BKA)は、ドイツにある世界最大の違法ダーク34ネットマーケットプレイス「ハイドラ・マーケット(Hydra Market)」のサーバー・インフラストラクチャを押収し、閉鎖した。現在約23万ユーロに相当するビットコインが確保されており、これはHydra市場に起因している。

 この点に関してZITで継続中の調査は、前述のHydraプラットフォームのこれまで知られていなかったオペレーターと管理者に向けられている。とりわけ、インターネット上の犯罪取引プラットフォームの商業的運用、商業的調達、または麻薬の不正な取得または供給の機会の付与、および商業マネーローンダリングの疑いがある。

 本日実施された押収に先立って、2021年8月からBKAとZITによって実施され、いくつかの米国当局が関与した広範な捜査が行われた。

 違法なダーク市場は、少なくとも2015年以降、匿名通信であるTor(トーア)(注7)ネットワークを介してアクセス可能なロシア語のダークネット・プラットフォームであった。その焦点は違法麻薬の取引にあり、Hydraプラットフォームは世界的にスパイされたデータ、偽造文書、デジタルサービスも提供していた。

 約 1,700 万人の顧客と 19,000 を超える販売アカウントが同マーケットプレイスに登録されていた。

 ZITとBKAによると、「Hydra Market」は世界で最も売上高の高い違法市場であった可能性がある。その売上高は、2020年だけで少なくとも12億3000万ユーロ(約172億2000万円)に達した。特に、デジタル取引を難読化するサービスであるプラットフォームが提供する「ビットコイン・バンク・ミキサー(Bitcoin Bank Mixer)」(注8)は、法執行機関にとって暗号調査を非常に困難にする。

 ドイツでは次のセキュリティ(市場閉鎖)・バナー解説が18日、ZIT, BKAのWebサイトで公開された。

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(注1) 米国の複数当局は1月18日、香港で登録した暗号資産(仮想通貨)取引所Bitzlatoの創業者でロシア国籍のAnatoly Legkodymovを起訴した。不正資金の移動事業を行い、マネーロンダリング防止要件に準拠していなかった疑いがある。

Legkodymov容疑者は17日にフロリダ州マイアミで逮捕されており、まもなく連邦地裁で罪状認否が行われる予定だ。

捜査には米司法省、ニューヨーク州東部地区連邦検事局、連邦捜査局(FBI)など様々な機関が参加している。また、司法省は、フランスの法執行当局や米財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)とも連携しているところだ。

フランス当局は、欧州警察およびスペイン、ポルトガル、キプロスの当局とも協力して、Bitzlatoのデジタルインフラを解体し、強制措置を講じたとされる。

訴状の内容

 訴状によると、Legkodymov容疑者は、香港で登録された国際的な仮想通貨取引所「Bitzlato」の幹部で大株主である。Bitzlatoは、「自撮りもパスポートも必要ない」として、身分証明書をユーザーにほとんど要求しないことを宣伝していた。

 このように、顧客身元確認(KYC)の不備のため、Bitzlatoは犯罪資金の温床になっていた。Bitzlatoの最大の取引相手は、大規模ダークネット市場Hydraだった。Hydraは、麻薬、盗難された個人データ、マネーロンダリングサービスなどを扱う、不正なオンライン市場である。

 Hydraは2022年4月に米国とドイツの法執行機関によって閉鎖されたが、それまでにBitzlatoを通じて約900億円(7億ドル)以上の仮想通貨を取引していた。

 訴状は、同取引所がランサムウェア収益約19億円(1,500万ドル)以上を取り扱っていたとも指摘している。(CoinPost記事「米当局、国際協力で仮想通貨取引所を取り締まり」から抜粋)

(注2) Contiは、2020年5月に初めて確認されたランサムウェアの一種。 ダークサイドなどこれまでのランサムウェアグループは医療機関などは標的にしない事を明言しているグループが多かったが、Contiは多数の医療機関を問答無用で標的にするなどその凶悪さが注目を集めている。Contiを開発しているのは、ロシアのサンクトペテルブルクとウクライナを拠点にしていると推測されるハッカーグループのウィザード・スパイダーで、同グループはランサムウェアRyuk(英語版)も運用している。(Wikipediaから抜粋、引用 )

(注3)2022年3月28日 、 バイデン・ハリス政権は2023 年度の大統領予算を連邦議会に提出し、財務省は 2022 年度~ 2026 年度の戦略計画を発表した。大統領予算は、現在が昨年達成した歴史的な進歩を拡大し、大統領が一般教書演説で示した議題を実現するという大統領のビジョンを素直に反映している。予算は、今後の世代のために成長と成長を共有するためのより強力な基盤を認識するのに役立つ重要な投資をアメリカ人が行い、財務省戦略計画の目標を実施するためのリソースを調整したもので財務省の連邦予算項目は次のようになる。

①納税者の経験を改善し、公正な税制をサポートする。

②大統領の歴史的な気候変動資金に関する誓約を前進させる。

 ③ 国際開発における米国のリーダーシップを回復する。

④有利でないコミュニティへの融資を拡大し、手頃な価格の住宅供給を増やす。

⑤企業の透明性を高め、金融システムを保護する.財務省は、汚職マネーローンダリングテロリストの資金調達、および国内の悪意のあるアクターによる金融システムの使用を監視し、妨害する上で主導的な役割を果たしている。これら技術的能力への投資は、不正なアクターが精査を企業回避し、取引を阻止し、説明の責任を解明することを可能にする財務報告の抜け穴を埋めることを含め、これらの取り組みにとって重要である。

⑥予算は、高価値資産として指定されたものを含み、財務省の機密システムと情報を保護および防御するために2億1,500万ドルを提供する。

⑦重要機関の能力を回復する。

(2022.3.28米国連邦財務省Janet L. Yellen長官の声明から抜粋、仮訳)

(注4) 新しい暗号エコシステムはどのように機能しますか?

 暗号エコシステム(cryptocurrency ecosystem)は、参加者のネットワークが目的を達成し、シームレスな運用を確保するための特定のニーズを満たす、十分に油を注がれたシステムである。暗号エコシステムのコア機能は、ブロックチェーン開発者がブロックチェーン技術を使用する暗号通貨を構築するブロックチェーン・ プロトコルから始まる。このレベルでは、開発者は機能を作成し、役割を設計し、暗号通貨が動作するパラメーターを設定する。特定の暗号の開発者は通常、社内にいるが、複数の開発者が協力してサービスを提供したり、ボランティアをしたりすることもある。

 暗号通貨が立ち上がると、マイナー(miners:ビットコインの取引が正常に行われたことを承認する作業(マイニング)を行う人)またはステーカー(stakers:仮想通貨を保有して報酬を得る仕組みつくり人)は、ブロックチェーンへのトランザクションを更新および検証するという重要な役割を果たす。設計された合意メカニズム (プルーフ オブ ワークまたはプルーフ オブ ステーク)(注11) に応じて、マイナーまたはステーカーはトランザクションを迅速かつ安価に処理できるようにする。

 暗号エコシステムのもう 1 つの重要な側面は、投資家が暗号交換を使用してコインを購入、販売、または交換することである。すべての参加者に情報プラットフォームを提供する暗号メディアにより、エコシステムはすべての利害関係者に利益をもたらすように機能する。

(注5) 合意メカニズムという用語は、ノードのネットワークがブロックチェーンの状態に合意することを可能にするプロトコル、インセンティブ、考え方のすべてを指す。

 「プループオブワーク」と「プルーフオブステーク」は、二大合意形成メカニズムです。暗号資産はこれらのメカニズムを使って、新たなトランザクションを認証し、それらのトランザクションをブロックチェーンに追加し、トークンを作ります。ビットコイン(Bitcoin)が最初に開発をしたプルーフオブワークは、マイニングを使ってこれらの目標を達成します。カルダノ(Cardano)やETH2ブロックチェーンなどが採用しているプルーフオブステークは、ステーキングを使って同じことを実現します。(coinbaseの用語解説から抜粋,引用)

(注6) サイバー犯罪対策中央局(ZIT)は、ギーセンに拠点を置くフランクフルト・マイン.検事総長事務局の支部として、2010年1月1日に設立された。2019年11月以降、セントラルオフィスはフランクフルト・マインに拠点を置いている。現在、長としての上級検察官、上級検察官、および11人の検察官から構成されている。

 ZITは、ドイツの領土管轄権がまだ不明確な場合、または全国の多数の容疑者に対する大量訴訟におけるインターネット犯罪に関する連邦刑事庁の最初の連絡先である。ZITは、運用中央オフィスとして、以下のような犯罪の分野で特に複雑で広範な調査を処理する。

①インターネットに関連する児童ポルノおよび児童の性的虐待

②ダー.ネット犯罪(犯罪ダークネットプラットフォームとの戦い、ダークネット上の武器、麻薬、偽造品の密売)

③狭義のサイバー犯罪(ハッカー攻撃、データ盗難、コンピューター詐欺)

④インターネット上のヘイトスピーチ

また、裁判官、検察官、警察官の訓練も担当している。なお、ZITは、サイバー犯罪と戦うための司法当局のヨーロッパのネットワークである欧州司法サイバー犯罪ネットワーク(European Judicial Cybercrime Network (EJCN)の創設メンバーでもある。(ZITサイトから抜粋、仮訳)

(注7) 通常、ウェブサイトにアクセスしたりメールを送信したりするとサーバーにアクセス元のIPアドレスが残ります。これを元に「誰がウェブサイトにアクセスしたのか?」や「誰がメールを送信したのか?」を特定することが可能なわけですが、そういった情報を一切残さずに完全に匿名で通信を行えるというシステムが「Tor(トーア)」。Torの仕組みは、コンピューターから目的地(例えばgoogle.comなどのウェブページ)までの通信経路に、他のコンピューターなどの中継地点(リレーエージェント)を追加するというもの。通信時に多くのリレーを経由させ、リレーにはログを残さず、さらにはアクセス経路の出口以外は全て暗号化されているため、発信源が不明になり匿名性が保たれるというものである。(GIGAZINEの解説から抜粋)

(注8) ビットコイン のブロックチェーンは完全に公開されている。ブロックチェーン エクスプローラーにアクセスすると、2009 年初頭の仮想通貨のローンチ以降に処理されたすべてのビットコイン トランザクションの完全な記録を見つけることができる。

 一部の人にとっては、これはコア機能であり、問​​題ではない。 しかし、もう少し匿名性が必要な人にとっては、Bitcoin ブロックチェーンの公開性はプライバシー上の重大な欠陥である。

 ビットコイン取引を完全に非公開にする方法がある。 誰が誰に何を送ったかを曖昧にする. 最も一般的な方法の 1 つは、タンブラーとも呼ばれるビットコイン ミキサーを使用することである。これらは、意図した受信者にビットコインを吐き出す前に、プライベート プールで大量のビットコインをごちゃまぜにするツールである。

 ブラックボックスを介してビットコインをシャッフルすることによって、A が 10 ビットコインを B に送信したことを突き止めることは困難であるという考えである。一般の探検家が示すのは、A がビットコインをミキサーに送信したことだけである。その人物 B はミキサーからビットコインを受け取り、他の十数人も同様であった。(CoinDesk解説を抜粋、仮訳)

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カリフォルニア州連邦裁判所は自動車メーカーが設置したデバイスに関するGPSデータ追跡にかかるCIPA違反請求に対するファースト・インプレッション判決で暫定クラス・アクション申し立てを却下

2023-01-24 10:06:21 | クラス・アクション・ADR

 

 筆者は、2014.8.19 のブログで「カリフォルニア州連邦地裁はYahoo!の「暫定クラス・アクション」の棄却申立てを一部認め、一部却下」を論じた。

 この(1)暫定クラス・アクション(Putative Class Action )の最新かつ正確な解説はわが国ではほとんど見られない点から強い関心を持った。また、自動車メーカーと提携しているデータ・ブローカーであるOtonomoと同州のプライバシー保護法特にわが国ではほとんど解説がない(2)「プライバシー侵害法 (California Invasion of Privacy Act :CIPA)」との関係、さらに(3)原告の主張内容や論戦内容は裁判戦略上、極めて参考になるものといえる。

 今後のジオロケーション(ユーザの位置情報を扱う技術)追跡のためのCIPA訴訟の違法なエクスポージャーを制限するために、本訴訟が何を意味するのかについてもっと学ぶために本ブログをまとめた。なお、Squire Patton Boggs (US) LLPの解説の内容を中心に述べるが、適宜別のローファームの解説も引用した。

【本裁判の概要】

 先週、カリフォルニア州サンフランシスコ郡の連邦地方裁判所は、ファースト・インプレッション判決(注1)(注2)として自動車メーカーと提携しているデータ・ブローカーであるOtonomo(注3)が「[ドライバーの]車の電子機器を使用して、リアルタイムのGPS位置データを[被告]に直接送信し」、Otonomoがドライバーの位置をリアルタイムで追跡できるようにしたというプライバシー侵害法 (California Invasion of Privacy Act :CIPA)違反を理由に2022年4月11日に起こされたクラス・アクション申し立て2022年4月11日に関する告訴を却下した。原告はサマン・モラエイ(Saman Mollaei)氏が代表。

 9ページの訴状によると、被告Otonomoはドライバーの追跡について同意を求めたり受け取ったりすることはなく、BMW、ゼネラルモーターズ、フォード、トヨタを含む少なくとも16の自動車メーカーとのパートナーシップを通じてアクセスを取得した。さらに、インストールされたデバイスは、「秘密の(常時オン)のセルラーデータ接続を介して」データを受信していると報告されている。

 Otonomoは一部の自動車メーカーと車両から位置データを調達する契約を結んでいる。2021年2月のOtonomoのプレゼンテーションによると、同社は16のOEMと合計4,000万台以上の車両と提携しており、Otonomoは1日に43億のデータポイントを収集している。同社はまた、通常は車内に配置されているため、車両の位置のプロキシとして使用されるナビゲーションアプリや衛星ナビゲーションからデータを調達している。これらは、テレメトリ・ サービス・ プロバイダー (TSP) と呼ばれる。

1.カリフォルニア州の消費者保護法の概観

 Tauler Smith LLPの解説から抜粋、仮訳する。

 カリフォルニア州には、カリフォルニア州プライバシー侵害法 (California Invasion of Privacy Act :CIPA)、カリフォルニア州消費者プライバシー法 (CCPA)等、国内で最も強力な消費者保護法がある。CCPA は 2018 年に制定され、国内初の州のプライバシー法となり、企業がオンラインで収集した顧客データの保護を強化した。CIPA の歴史はより古く、消費者を含むすべての州住民のプライバシー権をより広範に保護する目的で、1967 年にカリフォルニア州議会を通過した。CIPA の下では、すべての参加者が録音に同意しない限り、企業が会話を盗聴または録音することは違法であり、これは、電話での会話(カリフォルニア州刑法第631条:盗聴(Wiretapping))とオンライン通信(カリフォルニア州刑法第632条:電子機器による盗聴(Eavesdropping))に適用される。

〇携帯電話の扱い

 盗聴法は当初、固定電話での通話をカバーすることを目的としていたが、携帯電話の使用は法律によって対処されている。カリフォルニア刑法第632.5条および第632.6条は、2台の携帯電話であろうと1台の携帯電話と1台の固定電話であろうと、通話に携帯電話が関係する場合の録音デバイスの使用を明確に禁止している。

〇ウェブサイト&セッション再生ソフトウェア

 多くの企業は、電話での会話を録音するだけでなく、会社のWebサイトにアクセスした顧客とのやり取りやコミュニケーションの記録も保持している。これは、会社がセッション・リプレイ・ソフトウェア(Session Replay Software)(注4)を使用して訪問者とWebサイトとのやり取りをキャプチャーする場合に問題となり、おそらく違法になる。これは、このタイプの追跡ソフトウェアの使用は、カリフォルニア州の盗聴に関する刑法で定義されているように、通信の違法な傍受を構成する可能性があるためである。

 つまり、セッション・リプレイソフトウェアを使用すると、Webサイト運営者は、ユーザーがWebサイトとどのようにやり取りするかを監視できる。次に、このツールは、ユーザーが入力した内容、スクロールした場所、テキストを強調表示したかどうか、特定のページに滞在した時間などユーザーの操作を示すビデオ録画を再現する。企業がこのソフトウェアを使用する場合、機械が顧客の通信を傍受するために使用されているという事実自体がCIPA違反を構成する。

2.カリフォルニア州のプライバシー保護法制とクラス・アクション多発を巡る裁判問題

 Ellis Law Group LLPの解説(A Brief Overview of Call Recording In California)から抜粋、仮訳する。

(1)情報収集業者に対するクラス・アクションの多発傾向

 カリフォルニア州および全米の企業は現在、顧客または潜在顧客との電話通信を定期的に記録または監視している。彼らは、品質保証とトレーニング (「サービス監視」とも呼ばれる)、顧客保護と資格、リスク管理など、さまざまな正当な理由でこのビジネス慣行に従う。企業間で増加するこの傾向は、回収機関業界にも波及している。現在、多くの債権回収機関は、債務者や他の人との電話によるやり取りのすべてではないにしても、その一部を日常的に記録している。 

 しかし、これらコレクターが録音技術を採用するこの傾向に加えて、別の増加傾向がある。カリフォルニア州のプライバシー侵害法(CIPA)に違反ししたとして、カリフォルニア州のコレクターに対して提起された訴訟の増加である。債務者との通話を不正に録音および監視につき刑法第630条以下で見いだせる。  2022年、消費者専門弁護士は文字通り数百件の訴訟の波を起こし、その多くは暫定クラス・アクション(Putative Class Action )(注5)(注6)であった。これらの訴訟は、多数のカリフォルニア州の企業、および多くの州外の企業にも名前を付けており、多くの訴訟は、多数の電話消費者保護法 ( Telephone Consumer Protection Act:. TCPA: 47 U.S.C. § 227 )(注7)のクラス・アクション猛攻撃からすでに動揺している徴収機関に対して提起されている。

(2) CIPA は客観的に合理的なプライバシーの権利を保護

 CIPA は、個人通信の電子的盗聴を罰することを目的とした刑法である。とりわけ、CIPA は、通信のすべての関係者の同意なしに、「メッセージ、レポート、または通信の送信中または通過中にその内容または意味」を読むことを禁じている。違反は罰金または拘禁刑によって罰せられるだけでなく、私的訴訟権も生じる。つまり、違法な盗聴の被害者は、民事裁判所で違反者を訴えることができる。

   CIPA は、カリフォルニア州刑法第 630条から638条に記載されている。「この州の人々のプライバシーの権利を保護する」という明確な目的のために、1967年に制定された(刑法 第 630条)。  カリフォルニア州議会は、「私的な通信を傍受する目的で」使用される新しいデバイスと技術の出現により、「そのようなデバイスと技術の使用によるプライバシーの侵害は、個人の責任を自由に行使することは、自由で文明化された社会では許されないことを明記」し、CIPA のさまざまな条文で、「盗聴 ( 第631条 )」(注8)(盗聴 (監視)、「電話通信の記録( 第632条 )」(注9) などを違法としている)または同意なしに携帯電話通信を記録すること(§632.7)も禁止している。

 CIPA は、会話のすべての関係者の同意なしに、さまざまな形態の意図的な録音または盗聴を禁止している。具体的には、刑法第 632(a)条は次の責任を課している。

 機密通信のすべての関係者の同意なしに、意図的に電子増幅または記録装置を使用して、機密通信を傍受または記録するすべての人」の行為を禁止

刑法 第 632(c)条は、「機密通信」を次のように定義している。

 通信のいずれかの当事者が、通信の当事者に限定されることを望んでいることを合理的に示す可能性のある状況で行われた通信。ただし、行われた通信は除外される。・・. 通信の当事者が、通信が傍受または録音される可能性があると合理的に予想できるその他の状況。

 CIPA は機密通信のみを保護する。

(3) カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)とCIPAの準拠問題

 カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)に準拠していれば、この種の盗聴訴訟からビジネスを保護するのに十分であると考えるのが妥当であるが、必ずしもそうとは限らない。どちらも同じ中心的な問題 (つまり、情報のプライバシー) を扱っているが、CIPA はその内容が十分に異なるため、企業は CCPA 準拠のみで十分であると想定すべきではない。

 その主な理由は、「同意」の問題である。CCPA によって要求される広範なプライバシーの開示は、Web サイトの訪問者に通知するのにおそらく十分である。 (あるケースでは、会社のプライバシー ポリシーに「お客様の個人情報を代理店、代表者、請負業者、およびサービス プロバイダーと共有する場合があります」という簡単な声明で十分であることが明らかとなった)

 ただし、訪問者がこれらの条件に同意したとみなされる場合にのみ十分であり、同意は通常、CCPA の要件ではない。企業が未成年者の個人情報を販売または共有していない限り、CCPA はプライバシー ポリシーへのリンクのみを要求する。前述のように、プライバシー・ ポリシーへのリンクを提供するだけで CIPA の目的に十分かどうかは明確ではない。

(4)クラス・アクションへの防御対策

  被告は、次の通りその主張の本質的な要素のいずれかを否定すること、または積極的な抗弁を主張して証明することによって、CIPA 事件で勝つことができる。

① プライバシー侵害を期待させない

②実害なし

③時効の援用

④同意 (明示的/黙示的)の存在

⑤過大な罰金額

3.本裁判の起訴事実と経緯

 この訴訟の原告はカリフォルニア州の居住者であり、彼女のデータが「Otonomoによって追跡および悪用されている」と主張した。訴状の核心的な主張は、Otonomoが「カリフォルニアの数万台を含む世界中の5,000万台以上の車からリアルタイムのGPS位置情報を密かに収集して販売するデータ・ブローカーである」という原告の主張に関するものである。より具体的に言うと、原告は、Otonomoが製造する車両に電子機器を搭載する自動車メーカーであるクライアントと協力していると主張した。原告は、Otonomoが自動車メーカーと提携して、「車内の電子機器を使用して、秘密の「常時オン」のセルラーデータ接続を介してリアルタイムのGPS位置データをオトノモに直接送信した」と主張した。

 原告は、「Otonomoは、車内の消費者の位置を密かに追跡し、同意なしに「人の位置または動きを特定するための電子追跡装置」の使用を明確に禁止するカリフォルニア州プライバシー侵害法(「CIPA」)に違反しており、違反し続けている」と主張した。原告の申立書は、第637.7条の違反についてCIPAに基づく単一の請求を誓約した。原告は、「車両を所有またはリースし、GPSデータがOtonomoによって収集されたすべてのカリフォルニア居住者」で構成される推定クラスを代表しようとした。

〇参考までに、CIPA第637.7条は次のように規定している。

(a)この州のいかなる個人または団体も、人の位置または動きを決定するために電子追跡装置を使用してはならない。

(b)本条は、車両の登録所有者、賃貸人、または借手がその車両に関する電子追跡装置の使用に同意した場合には適用されない。

(c)本条は、法執行機関による電子追跡装置の合法的な使用には適用されないものとする。

(d)本条で使用される「電子追跡装置」とは、車両またはその他の可動物に取り付けられた装置であって、電子信号の送信によってその位置または動きを明らかにするものをいう。

〇カリフォルニア州刑法637.7条をめぐる論点と裁判官の判断

 CIPAは、最近の多くの追跡関連の請求および技術を含むプライバシークラスアクションにおいて原告によって最近信頼、利用されている、非常に訴訟が起こされることが多い法律である。しかし、原告がCIPAの第637.7条を(スタンドアロン・デバイスとは対照的に)車両の組み込みコンポーネントに適用したことは、第一印象の1つである。

 被告たるOtonomoは、原告の主張に3つの根本的な欠陥があるとされるものを提起して、訴状を却下するように動いた。

 第一に、原告は、CIPAで使用されている用語のように、彼の車に「取り付けられた」「電子追跡装置」を主張しなかった。

 第二に、原告は、Otonomoが原告の「場所または移動を決定する」と主張しなかった。そして最後に、原告は追跡されることに同意しなかったと主張しなかった。

 裁判所は、被告Otonomoの主張に説得力があると判断し、確定力のある決定として退け(その事件ではもう訴えることができない。実質的に被告の勝訴),訴状を却下した。

 被告Otonomoの最初の主張に関して、CIPA第637.7条に違反すると、人の場所または動きは「電子追跡装置」によって決定される必要がある。さらに、「電子追跡装置」は、「車両に取り付けられた装置」として定義される。 それはその場所や動きを明らかにする」 (カリフォルニア州刑法第637.7(d)条)。

 同裁判所は、CIPAの立法経緯を調査した他のCIPAの判例に注目し、「法律は車両やその他の可動物に配置された電子追跡装置を管理している」と判断した。そのため、裁判所は、「デバイス」は、不正行為者とされる人物によって自動車に取り付けられる、または配置される別のデバイスでなければならない」との判決を下した。これに基づいて、原告のCIPA請求は却下されなければならなかった。裁判所は、この結果は、口頭弁論での原告の弁護人による譲歩と一致しており、問題となっているデバイスは「原告が取り外しできない原告の車両の構成要素であり、原告は[それ]なしで彼の車両を入手することができなかった」と述べた。

 また裁判所は、せいぜい被告Otonomoは車両の位置に関するデータを受け取っただけであるというOtonomoの主張に説得された。これは、「人の位置または動きを決定するための電子追跡装置」の使用を禁止するCIPAの第637.7条の下では理由として不十分であった(カリフォルニア州刑法第637.7(a)条参照)。

 これは、裁判所が「法令の文言は、車両ではなく人の位置または動きを追跡することを明示的に禁止している」ためであると説明したためである。この場合、告訴文には、Otonomoがこれらの車両の運転手の個人情報を取得したという主張はなかった。さらに、原告は、Otonomoがこの情報を所有する製造業者から原告の個人情報を受け取ったと主張しなかった。この原告の主張は独立して却下された。

 最後に、さらに裁判所は、被告が彼の車に取り付けられたデバイスが彼を追跡するために使用されることに同意しなかったと主張しなかったことに関するOtonomoの主張を採用した。特にCIPA第637.7条 は、「車両の登録所有者、賃貸人、または借手がその車両に関する電子追跡装置の使用に同意した場合」に違反しない。 (カリフォルニア州刑法第637.7(b)条参照)。

 この場合、申立書には、原告が彼の車の製造業者によって追跡されることに同意しなかったという主張は含まれていなかった。これは告訴上、根本的な欠陥であり、CIPA第637.7条は「追跡されている車両に同意が与えられていれば違反されない」ため、申立書の却下も必要であった。これは、認識可能な主張を主張するために、原告がOtonomoと彼の自動車メーカーの両方に関して同意の欠如を主張しなければならなかったことを要求した。その判決において、裁判所は、同意は積極的抗弁(affirmative defense)(注10)であるため、同意を誓約する必要はないという原告の主張を却下し、代わりに「同意」は「制定法の要素」であるとの判決を下した。

 裁判所は、原告が問題となっているデバイスがCIPAの意味における電子追跡装置であるという他の事実をもっともらしく主張することはできないと判断したため、原告の主張は確定力のある決定(prejudice)として退け、却下された。

 本件において、原告のCIPA解釈が裁判所によって採用されていれば、本件裁判所は、本法の適用範囲を劇的に拡大していたであろう。さらに、訴訟リスクが認識されているため、ドライバーに日常的に提供されるサービスが制限される可能性もあった。

 被告Otonomoの、申し立てが指摘したように、「Otonomoは自動車メーカーや艦隊マネ―ジャーとの契約を通じて車両のGPSデータを受信している。 ロードサイドアシスタンス、緊急ロケーション、車両盗難防止、リアルタイムの気象および危険通知、交通流管理などに使用されていた。」

 最後に、本裁判の原告は、自動車メーカー自身が車両に組み込んだ機能から派生した自動車メーカーからGPSデータを受信する事業者に対して、CIPAに基づく責任を負わせようとした。本件裁判所は、この場合、CIPAのそのような拡大を却下することが賢明であった。しかし、将来提起された訴訟で提起された同様の請求がどのように扱われ、この最初の判決が他の訴訟で採用されるかどうかはまだわからない。

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(注1) first impression caseの意義の仮訳

 ファースト・ インプレッション・ケースとは、管轄区域によって決定されたことのない法的問題を提示するケースをいう。例としては、1978 年の最高裁判所の事件「モネル対ソックサービス省」がある。これは、1871 年の公民権法の下で、地方自治体が「人」と見なされるかどうかを決定したものである。

 ファースト・ インプレッション・ケースは、先例を制御することを欠いている。言い換えれば、ファースト・ インプレッション・ケースを決定する裁判所は、以前の決定に依存することはできず、裁判所は凝視決定に拘束されない。 最も説得力のある法の支配を採用するために、裁判所はさまざまな情報源に指針を求める。これらの情報源には、以下のものがある。

①立法の歴史と立法者の意図、②約款ポリシーの内容、③実務習慣、④リステイトメント(Restatements)(注2)の表現内容、および⑤他の法域の法律など。

(注2) Restatements は、特定の法律分野の原則または規則を明確にする一連の論文である。これらは、法律を明確にするために、 American Law Institute (ALI)によって作成および発行された法律の二次情報源である。現在、契約、法律準拠弁護士、および不法行為など、20 の分野の法律の修正が存在する。

 ALI は、裁判所が現在の慣習法を理解し解釈するのを助けるために、Restatements を作成した。このように、Restatementは、さまざまな法域からの既存の判例法および法令を統合し、再表明するものである。

(注3) Otonomoは、データ通信機能を持つ車両のデータをメーカーから直接入手して管理、提供する自動車情報専用プラットフォームである。より具体的に引用する。

「イスラエルのスタートアップ最前線(2)Otonomo」から抜粋する。

 自動車メーカーなどが収集する自動車関連データのマーケットプレイスを構築し、急成長を遂げている企業である。そもそもコネクテッドカーとは、インターネットに常時接続する機能を備えている自動車である。自動車のIT化は、自動運転や安全管理等、社会的にも非常に関心を集めている分野だ。

 ここで収集される車両やドライバーに関するデータは、GPS、燃料、オイル、バッテリー、加速度、スピード、シートベルト、エアバッグ、ラジオ等、多岐にわたる。これらの大量のデータは自動車向けのアプリを作成したり、ドライバーの特性を把握することに活用できる。

 Otonomoは、自動車メーカーから直接データを取得しており、自動車側に専用の機器を接続する必要はない。各社ごとのフォーマットで取得したデータを変換し、統一化した状態で提供できるようにしているため、購入者がそのまま活用できるという点も魅力である。

 データの提供元となるのは自動車メーカー数社で、マーケットプレイス上でデータを買い取る取引先は自治体や企業、団体まで幅広く、すでに100社を超える。コネクテッドカーの飛躍的な普及により、今後もさらに幅広い業界での利用価値が高まることが見込まれている。

(注4) ユーザー操作を視覚的に忠実再現するソフトウエア:「セッション・リプレイ」機能とは、実ユーザーの行動データをベースに、画面遷移や文字入力などのブラウザ表示 / マウス操作 / クリック・タップ操作など、ユーザーの行動を忠実に記録して即座に再現するものである。一般的にセッション・リプレイはユーザーがどのようにウェブサイトを使用しているのかを把握するためのものであるが、どのようにブラウザを操作したのかを完全に記録することも可能である。全てのページにセッション・リプレイが埋め込まれているとまではいかないものの、医療記録やパスワードといった繊細な個人情報を扱うページでも使われていると研究者らは発表している(https://gigazine.net/news/20171121-website-record-keystroke/参照)

(注5)「暫定クラス・アクション」の定義

  弁護士がクラスアクションを起こしている場合、裁判所に最初の苦情を申し立てる前に、すべての原告または潜在的な原告を知っているとは限らない。この良い例は、複数の人に販売された製品によって負傷した原告である。同じ製品を購入し、同じ怪我を経験したが、訴訟を起こしていない人が他にもいるかもしれない。

 このような場合、弁護士は「暫定クラス・アクション」を起こす。暫定とは、信じられている、または主張されていることを意味するため、最初の原告によってすべての未知の原告に代わって暫定クラスアクションが提起される。

 最初の原告は、通常、クラス・アクションの代表者であり、訴訟が提起された時点で既知および未知のすべての原告の利益を代表することを要求される。訴訟のこの段階では、まだクラス・アクションとは見なされていない。

〇暫定クラス・アクションが提起された後はどうなるのか?

 最初の暫定クラス・アクションの苦情または訴訟が裁判所に提出された後、原告と被告は訴訟のディスカバリー(注6)段階に進む。ディスカバリー中、原告と被告の両方がお互いに質問をし、文書を共有し、証言録取をスケジュールして出席し専門家と話し会う。

 ディスカバリーの目的は、訴訟の勝利または解決に役立つ、事件に関連する事実と証拠を特定および確認することである。またディスカバリーは、弁護士がクラス・アクションの認定をサポートし、原告のクラスを特定するのに十分な情報を収集することを可能にする。

〇クラスはどのようにして「暫定」から「認定」に移行するのか?

 原告または被告のいずれかが、暫定クラス・アクションを実際のクラス・アクションに変換するのに十分な証拠があると信じる場合、彼らは裁判所にクラスを認定し、訴訟を原告の「クラス」に代わって最初の原告によって代表されるクラス・アクションにするよう求める。

 クラスを認定すべきかどうかを決定するために、裁判官は以下に基づいて決定を下す。

①原告または被告のいずれかが、暫定上のクラス・アクションを実際のクラス・アクションに変換するのに十分な証拠があると信じる場合、彼らは裁判所にクラスを認定し、訴訟を原告の「クラス」に代わって最初の原告によって代表されるクラス・アクションにするよう求める。クラス・アクションとして認定すべきかどうかを決定するために、裁判官は以下に基づいて決定を下す。

①クラスに含まれる原告の人数。

②原告のグループが同じ損害を共有しているかどうか。

③個々の原告が同じまたは実質的に類似した事実を持っているかどうか。

④クラス代表がすべての潜在的な原告の利益を適切に代表するかどうか。かつ原告が勝訴した場合、被告が潜在的な原告に補償できるかどうか。

 これらすべての要因を考慮した後、裁判官が訴訟がクラス・アクションとする正当な理由があると信じた場合、彼らはクラスを認定し、事件はクラス・アクションになる。(Legal Match:暫定クラスアクションの定義から抜粋、仮訳した)

(注6) 「ディスカバリー」とは、米国民事訴訟において、トライアル(本審理)に移行する前のプレ・トライアル段階で、相手方当事者に対し、関連情報や資料を開示したり、開示を要求したり、証言録取(デポジション)を行ったりする手続のことをいう。

(注7) 電話消費者保護法(「TCPA」)では、同意なく ファックスを送信することが禁止されている。また、 事前の同意のない自動音声通話にもこの禁止が適用さ れる。TCPAで認められている約定損害賠償による と、損害額はかなりの高額となり得るため、TCPAは クラス・アクション(集団訴訟)で利用されることが多 い。

(注8) CIPA 第631条の仮訳

 (a)機械、器具、または工夫によって、またはその他の方法で、物理的、電気的、音響的、誘導的、またはその他の方法で、電信または電話線、回線、ケーブル、または機器(内部電話通信システムの有線、回線、ケーブル、または機器を含む)を意図的にタップまたは不正な接続を行う者、または通信のすべての当事者の同意なしに故意に、または通信のすべての当事者の同意なしに、 または不正な方法で、メッセージ、レポート、または通信が転送中またはワイヤー、回線、またはケーブルを通過している間、またはこの州内の任意の場所で送受信されている間に、メッセージ、レポート、または通信の内容または意味を読んだり、読んだり、学んだりすること。または、何らかの方法、目的、または通信を使用する、または使用しようとする者 このようにして入手した情報、またはこのセクションで上記の行為または事柄を違法に行う、許可する、または行わせるために個人を支援、同意、雇用、または共謀する者は、2,500ドル以下の罰金、または1年以下の郡刑務所での拘禁刑に処せられる。

または、第1170条のサブディビジョン(h)に基づく投獄、または郡刑務所での罰金と拘禁刑の両方、または第1170条のサブディビジョン(h)に基づく刑罰が科せられる。

その者が以前に本条または第632条、第632.5条、第632.6条、第632.7条、または第636条の違反で有罪判決を受けた場合、その犯罪は1万ドル以下の罰金、または1年以下の郡刑務所での拘禁刑によって罰せられる。

(b) 本条は、以下のいずれにも適用されないものとする。

(1) 通信サービス及び設備を提供する事業に従事する公益事業または電話会社またはその役員、従業員若しくは代理人 本規約で禁止されている行為が、公衆のサービスおよび施設の建設、保守、実施または運営を目的としている場合の公益事業会社または電話会社。

(2)公益事業の料金に基づいて提供および使用される機器、機器、施設、またはサービスの使用。

(3) いずれか 州、郡、市と郡、または市の矯正施設内でのみ通信に使用される電話通信システム。

(c) 本条の目的上、「電話会社」とは、第638条第(c)項第(3)項で定義される。(d) 本条の違反に対する訴訟または起訴の証拠を除き、本条に違反して得られた証拠は、司法、行政、立法、またはその他の手続きにおいて認められないものとする。

(注9) CIPA 第632条の仮訳

(a)秘密通信のすべての当事者の同意なしに、故意に、電子増幅装置または記録装置を使用して、通信が当事者間で相互に立会って行われるか、電信、電話、またはその他の装置によって行われるかにかかわらず、機密通信を盗聴または記録する者、 ラジオを除いて、違反ごとに2,500ドル以下の罰金、または1年以下の郡刑務所、州刑務所、またはその罰金と拘禁刑の両方によって罰せられる。

その人が以前に本条または第631条、第632.5条、第632.6条、第632.7条、または第636条の違反で有罪判決を受けた場合、違反ごとに1万ドルを超える罰金、または1年を超えない郡刑務所への投獄、州刑務所、またはその罰金と拘禁刑の両方が科される。

(b)このセクションの目的上、「個人」とは、個人、企業団体、パートナーシップ、企業、有限責任会社、またはその他の法人、および連邦、州、または地方を問わず、政府またはその下位区分のために行動する、または行動すると称する個人を意味するが、機密通信のすべての当事者が通信を盗聴または記録していることが明らかな個人は除外される。

(c) 本条の目的上、「機密通信」とは、通信の当事者が当事者に限定されることを合理的に示す状況で行われる通信を意味するが、公開で行われた通信は集会、または一般に公開されている立法、司法、行政、または行政手続き、または通信の当事者が通信が盗聴または録音される可能性があることを合理的に期待できるその他の状況では除外される。

(d)本条の違反に対する訴訟または起訴の証拠を除き、本条に違反して機密通信を盗聴または記録した結果として得られた証拠は、司法、行政、立法、またはその他の手続きではその効果は認められない。

(e) 本条で禁止されている行為が公共のサービスおよび施設の建設、保守、実施、または運用を目的としている場合、本条は、以下のいずれにも適用されないものとする。

(1)通信サービスおよび設備ユーティリティを提供する事業に従事する公益事業、またはその役員、従業員または代理人には適用されない。

 (2)公益事業の料金に従って提供および使用される機器、機器、施設、またはサービスの使用、または

(3)州、郡、市および郡または市の矯正施設内でのみ通信に使用される電話通信システム。

(f) 本節は、聴覚障害のある者が、人間の耳に通常聞こえる音を聴くことができるようにするために、聴覚障害を克服する目的で補聴器およびこれに類する装置を使用することには適用されない。

(注10) (a)積極的抗弁とは、訴訟において、請求の根拠として一方の当事者が主張されている事実を前提とした上で、他方の当事者が新しい事実を主張して反論を行うことを言います。

(b)積極的抗弁は、通常、新事実を主張する側に証明責任(burden of proof)があります。

(c)積極的抗弁には、例えば次のものがあります。

・禁反言

・過失寄与(contributory negligence)

・危険引受(assumption of risk)

・詐欺

・錯誤

・契約の更改

・債務不履行の免責事由

・不可抗力

・時効

・不法行為に対する免責事由

(今岡憲特許事務所の解説から抜粋、引用)

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証券取引委員会(SEC)が連邦地方裁判所に対し大手国際法律事務所Covington & Burling LLPへの調査召喚状申請を行った真の目的とその背後にあるサイバー集団犯罪対策の重大問題性

2023-01-18 16:47:59 | サイバー犯罪と立法

 

 1月12日、米国の証券取引委員会(以下、SECという)は、大手国際法律事務所Covington & Burling LLP(以下、Covingtonという)(注1)に文書の調査召喚状の狭い部分に従うよう指示するコロンビア特別区連邦地方裁判所に求める申請書を提出したと発表した。

 SECが連邦地方裁判所に提出した召喚申請書類によると、SECは、Microsoft Exchange Server に対する防衛請負業者、法律事務所、および感染症研究者等に対するHafnium集団(以下、「ハフニウム」という)のサイバー攻撃に起因する連邦証券法の潜在的な違反を調査している。申請に伴う提出書類によると、2020年11月頃、Microsoft Hafniumサイバー攻撃に関連するハッカー集団は、SECによって規制されている298のCovingtonクライアントの非公開ファイルへのアクセスを含む、Covingtonのコンピューター・ネットワークおよび特定の個々のデバイスへのアクセスを悪意を持って違法に取得した。SECは2022年初頭にCovingtonへのサイバー攻撃を知り、その後すぐに召喚状を発行した。

 この問題につき、主要メディアは国際的ローファームの顧客情報管理権とSECのサイバー集団被害の実態調査権の行使問題として取り上げられている。

 しかし、筆者から見るとその論点はより国際ハッカー集団によるサイバー犯罪、被害の予防・防止等大きな社会、経済問題であり、さらにわが国の関係機関や事業者等として無視できない重要なリスク対策問題を抱えていると思える。

 このため、本ブログでは、(1) ハフニウム・ハッカー集団の犯罪手口の実態、(2) Microsoft がとったセキュリテイ対策の具体的対応、(3)SECが行った対応措置、(4) Covingtonの対応、反論主張につき、各論点をつぶさに解説のうえ論ずることとした。

1.中国国家が支援するサイバー・ハッカー集団「ハフニウム」の実態

Microsoft Blog およびThe Registerの解説記事を補足しつつ仮訳する。

(1)マイクロソフト社の脅威インテリジェンス センター (MSTIC) によって特定されたハッカー集団「ハフニウム」 と呼ばれる中国国家が支援するサイバー犯罪集団に関する情報を共有している。ハフニウムは中国国家が支援しており、その活動について議論するのはこれが初めてである。それは非常に熟練した洗練された技術を有するサイバー集団である。

 顧客のセキュリティと信頼を守る Microsoft のCorporate Vice President, Customer Security & Trustである Tom Burt氏はこの悪党集団を「ハフニウム」と名付け、彼らは中国で活動しているが米国ベースのサーバーを使用していると述べ、サイバー スパイ チームを国家が後援する「非常に熟練した洗練された犯罪者」であると分類した。

Tom Burt氏

 これまで、歴史的に、ハフニウムは、感染症研究者、法律事務所、高等教育機関、防衛請負業者、政策シンクタンク、NGOなど、多くの業界セクターからの情報を盗み出す目的で、主に米国の事業体、組織、団体等をターゲットとしている。ハフニウムは中国に拠点を置いているが、主に米国のリースでの仮想プライベートサーバー(VPS)(注2)から業務を行っている。

 最近、ハフニウムは、オンプレミスのExchange Serverソフトウェアを標的とした、これまで知られていなかった不正行為を使用して多数の攻撃を行っています。現在まで、ハフニウムはこれらの不正に利用しているのを見る主要な犯罪者であり、MSTICによって詳細に説明されている。これを詳細を見る攻撃には3つのステップが含まれている。まず、1)盗まれたパスワードを使用するか、以前に発見されていない脆弱性を使用して、アクセスする必要がある人物になりすますことにより、Exchange Serverにアクセスする。次に、2)侵害されたサーバーをリモートで制御するためのWebシェル(注3)と呼ばれるものを作成する。3)第三に、米国を拠点とするプライベートサーバーから実行されるリモートアクセスを使用して、事業体、組織のネットワークからデータを盗む。

2.ハッカー集団に対抗するマイクロソフトの具体的措置

 マイクロソフトは、これらの攻撃を実行するために使用される悪用からお客様を保護することに重点を置いている。2021年3月2日、マイクロソフトは Exchange Server を実行している顧客を保護するセキュリティ更新プログラムをリリースした。マイクロソフトは、Exchange Server (注4)を利用する顧客に、これらの更新プログラムを直ちに適用することを強く勧めた。Exchange Server は主に法人のお客様によって使用されており、ハフニウム の活動が個人の消費者を標的にしたという証拠や、これらの不正利用が他のマイクロソフト製品に影響を与えるという証拠はない。

 マイクロソフトはハフニウムの悪行に対抗すべくアップデートを迅速に展開したが、多くの国民国家の攻撃者や犯罪グループがパッチが適用されていない脆弱性のあるシステムを利用するために迅速に行動することを知っている。本日のパッチを迅速に適用することは、この攻撃に対する最善の保護である。

3.連邦議会の要請を受けたSECの調査の取組み

 「Covington は、外国の犯罪者が、委員会によって規制されている企業を含む、Covington のクライアントのファイルに意図的かつ悪意を持ってアクセスしたことを認めた」と召喚状申請状で記されている 。「この報告された違反に照らして、 SECは、悪意のある活動が連邦証券法に違反して投資家に不利益をもたらしたかどうかを判断しようとしている」

 2022 年3月、SEC は Covington に対し、影響を受けた298のクライアントすべての流出についてのクライアントの名前、アクセスまたは盗まれた情報の量、法律事務所間の通信など、セキュリティ侵害に関する情報を引き渡すよう求める召喚状を発行した。

 裁判所の文書によると、Covington は召喚状のほとんどに応じたが、期限までに影響を受ける組織の完全なリストを作成することはできないだろうとSEC に語った。

 SEC はその後、申請対象をCovingtonへの攻撃中にデータが閲覧、コピー、変更または盗み出されたSEC の規制下にあるクライアントの名前と、それらの上場企業とその弁護士との間の通信に要求を絞り込んだ。

 訴訟文書によると、ハフニウムはSEC によって規制されている298を含む、Covington の一部のクライアントに属する個人情報にアクセスしたため、SECは連邦議会から被害、侵害を調査し、「悪意のある活動が連邦証券法に違反して投資家に損害を与えたかどうかを判断する」という命令を受けている。

 一方、当然のことながら、Covingtonは物事の見方が異なる。

 Covington の広報担当者は、SEC の訴訟を「クライアントの信頼と弁護士の守秘義務とクライアントの特権を侵害する不当な試み」と呼んだ。

 2021 年、セキュリティ侵害に気付いた後、Covington は影響を受ける可能性のあるクライアントに通知し、FBI と協力して調査を支援したと広報担当者はThe Register に語った.

 「さらに最近、SEC は本事件に関連してCovingtonに召喚状を発行し、それに応じて、攻撃と FBI との協力に関する詳細な情報を委員会に速やかに提供した。

 しかし、「同時に、影響を受けるクライアントの身元や弁護士とクライアントのコミュニケーションなど、クライアントの機密情報を取得しようとする当局の試みに自発的に応じることはできないこともSECに明らかにした。このような背景に対して、SECの召喚令状執行措置に対し、Covingtonは異議を唱えるつもりである。」とスポークスパーソンは述べた。

4.1月12日、米国の証券取引委員会(以下、SECという)は、Covingtonに文書の調査召喚状の狭い部分に従うよう指示する命令を求める申請書を提出

  1月12日、SECのリリース文を抜粋、仮訳する。

 SECがコロンビア特別区連邦地方裁判所に提出した召喚申請書類によると、SECは、Microsoft Exchange Server に対するハフニウム集団のサイバー攻撃に起因する連邦証券法の潜在的な違反を調査している。起訴状に伴う提出書類によると、2020年11月頃、Microsoft Hafniumサイバー攻撃に関連する脅威アクターは、SECによって規制されている298のコビントンクライアントの非公開ファイルへのアクセスを含む、Covingtonのコンピューター・ネットワークおよび特定の個々のデバイスへのアクセスを悪意を持って違法に取得した。SECは2022年初頭にCovingtonへのサイバー攻撃を知り、その後すぐに召喚状を発行した。

 SECは、召喚状の執行措置を通じて、脅威アクターによってファイルが表示、コピー、変更または盗み出されたクライアントの名前のみを求めている。提出書類によると、SECは、脅威アクターまたはそれらの顧客の証券における他の人による疑わしい取引を特定し、脅威アクターがサイバー攻撃の一部として表示または盗み出した重要な非公開情報(material non-public information:MNPI)(注5)に基づいてそのような取引が違法であったかどうかを特定するのに役立つこの情報を求めている。

 さらに、この情報は、影響を受けたクライアントがサイバー攻撃に関連する重要なサイバーセキュリティイベントについて投資家に必要なすべての開示を行ったかどうかをSECが判断するのに役立つ。現在までに、Covingtonは2人を除くすべてのクライアントの名前を提供することを拒否しており、これら2人のクライアントはSECに名前を提供することに同意した。

 SECの申請は、裁判所が召喚状で要求されているように文書を提出することを強制すべきではない理由を示すようにCovingtonに指示する裁判所からの命令を求めている。申請はさらに、原因を示す命令に関する判決に続いて、裁判所からの命令を求め、Covingtonに召喚状に従うように指示している。申請は裁判所の判決の対象となる。SECは事実調査を継続しており、これまでのところ、個人または団体が連邦証券法に違反していると結論付けていない。

5.Covingtonの立場の難しさ

 2023 年 1 月 13 日Bloomberg Law「SEC、法律事務所 Covington がサイバー攻撃調査を妨害したと非難 (1)」から一部抜粋、仮訳する。

 Covington は、SECの裁判所への提出書類によると、問題となっている 298 のクライアントのうち、「脅威アクター」がアクセス、変更、または取得した「重大な非公開情報(MNPI)(注5) を持っていたのは7人だけであるとSECに語った。SECはその情報を確認できず、MNPI とは何かという会社の決定に同意しなかった。

「大手ローファームが抱える重大なクライアント情報管理リスク」

 「何百もの上場企業のクライアントを持つ大規模な法律事務所として、Covingtonは定期的に MNPI を所有しており、その盗難は投資家を重大なリスクにさらす。サイバー攻撃の犠牲者としてのCovingtonの立場も、法律事務所であるという事実も、CovingtonをSECの正当な調査責任から切り離すものではない」とSECは裁判所への提出書類で主張した.

 一方、Covington は声明の中で、法廷で召喚状を執行しようとする SEC の努力に対抗すると述べた。同社は、情報をSECに「速やかに」提出し、連邦捜査局に協力したと述べたが、「我々は、SEC が影響を受けたクライアントの身元と弁護士とクライアントのコミュニケーションにつき、顧客の機密情報を取得しようとするいかなる試みにも自発的に応じることはできないことを SEC に明らかにしている。すなわち、Covingtonは声明で、「SECの措置は、弁護士の基本的な倫理的義務であるクライアントの秘密と弁護士とクライアントの特権を侵害する不当な試み」と見なしている。

ローファームの中国政府への関心

 これらの攻撃は後に、中国政府に関係するハフニウムと呼ばれるアクターによるものであることが判明した。しかし、Microsoftの欠陥のニュースが公になると、他のハッキング グループが Microsoft の電子メール ソフトウェアの欠陥を攻撃することに加わった。

 SECの法廷文書に含まれるギブソン・ダン法律事務所の弁護士による 2022 年のメモによるとCovington は以前、SEC に対し、独自の調査により、ネットワークへの侵害は、「次期バイデン政権に照らして中国が特に関心を持っている政策問題について学ぶ」ために、同社の特定のメンバーを標的にしたことが判明したと語った。

 SEC は、提出書類の中で、侵害の影響を受ける可能性のある特定の企業を特定しなかった。その弁護士は、どの上場企業が「重要な」情報を公開したかを知ることで、他のツールを使用して「疑わしい取引」を探し、それらの企業が投資家や一般に必要な開示を確実に行うことができるようになると主張し、SECは企業と協力して情報提供の要求の範囲を狭めようとしたが、合意に達することができなかったと述べた。

 Covington の2022年6 月のメモは、SECの「投機的な必要性」は、当事務所の保護された弁護士と依頼者の関係に対する結果を上回らなかったと主張した。

ブルームバーグ・ニュースへの声明・SEC法執行責任者グルビル・S・グレワル(Gurbir S. Grewal:Director, Division of Enforcement)氏は、

Gurbir S. Grewal 氏

「この召喚請求が唯一の情報源であり、ハッカーや証券法違反の可能性を特定するために必要であると述べた。彼は、規制当局が、「厳密に調整された単一の文書要求に応じるように」Covingtonに指示する裁判所命令を求めている。また、裁判所への要求は、弁護士とクライアントの特権またはその他の機密情報によって保護されている情報までを求めていない。むしろ、Covington に対するサイバー攻撃の一環として悪意を持って違法にデータが侵害された、SECによって規制されている事業体の名前のみを要求するものである」と付け加えた。

********************************************************************************:

(注1) Covington は、ワシントンに本拠を置く最大かつ最も権威のある多国籍法律事務所の1つであり、元司法長官エリック・ホルダーそのパートナーや、ジョー・バイデン大統領の 2020 年の大統領選挙戦などの政治的クライアントも擁している。同社は証券および規制業務を行っており、いくつかの大規模取引の法律顧問・代理人も務めている。例えば2021年9月 Merck & Co .Inc.の115 億ドルのAcceleron Pharma Inc.の買収1/18(16)、2021年2月のルネサス エレクトロクスのDialog Semiconductorを約49億ユーロ(約6157億円)で買収する等の代理人となっている。

(注2) VPSの特徴としては、「ユーザごとに(仮想ではあるものの)丸ごと1台のサーバが貸し出される」という形になります。すなわち、管理者権限もユーザに託されます。Webやメールのみ使える「レンタルサーバー」と、物理サーバーを丸ごと利用できる「専用サーバー」の中間的なものとして提供されています。

 管理者権限が渡されるということは、利便性は大変高いといえます。他のユーザのシステムと分離されているため、ユーザの必要なソフトウェアをインストールすることができます(制限がある場合もあります)。一方、管理者権限が渡されるということは、当然責任が大きくなります。IPアドレスもグローバルIPアドレスが渡されますので、インターネットから直接攻撃されることも普通に起こります。ここでサーバを乗っ取られて、データ流出などが起こった場合には当然ユーザの責任となります。(LinuC解説から抜粋))

(注3) ウェブシェル(webshell)とは、任意のコマンドをWebサーバーに対して実行しWebサーバー上でファイルをアップロード、削除、ダウンロード、システムコマンドなどを実行させるプログラム。Web バックドアとも呼ばれる。

(注4) Microsoft Exchange Server は、マイクロソフトの開発したグループウェア / 電子メール製品。Microsoft Serversの一部であり、マイクロソフト製品を採用している企業で広く使われている。対応しているオペレーティングシステムはWindows Serverのみである。Exchangeの主な機能は、電子メール / 予定表 / 連絡先などの共有と携帯機器やウェブからの情報アクセスサポート、さらにデータ格納サポートである。(Wikipedia から抜粋)

(注5) 重要な非公開情報(Material Nonpublic Information)とは、企業のニュースや、まだ公開されておらず、株価に影響を与える可能性のある情報を指す。この種の情報を株式やその他の証券の取引で有利に使用することは違法です。法的には、重要な非公開情報がどのように取得されるか、またはそれに基づいて行動する人が会社に雇用されているかどうかは関係ない。インサイダー取引は、非公開の重要情報の使用を伴う場合、違法である。(investopediaから抜粋、仮訳)

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米国連邦通信委員会(FCC)がデータ侵害にかかる規則の改訂案告示を提案, パブリックコメント期間に入る

2023-01-16 13:11:07 | 個人情報保護法制

  筆者は2016年11月2日付けブログ「FCCはブロードバンド・インターネット接続サービス・プロバイダーのプライバシー規則を制定」でFCC規則につき詳しく論じた。

 このほど、筆者の手元にAngela Y. Kung, Jonathan P. GarvinやPaul Besozzi氏から連邦通信委員会(FCC)は、1月6日、電気通信事業者および相互接続されたボイス・オーバー・インターネット・プロトコル・プロバイダーに適用されるデータ侵害報告要件に関連する要件を改訂するために、規則制定案告示(Notice of Proposed Rulemaking: NPRM)案(注1)を全会一致で採択した旨の解説記事が届いた。

 以下、より詳しく論じているAngela Y. Kung, Jonathan P. Garvin氏のレポートを中心に関係法等補足しながら仮訳する。

Angela Y. Kung氏

Jonathan P. Garvin氏

 なお、この問題はわが国ではCPNI等正面から論じたものが極めて少ない。電子ネットワーク運営における「個人情報保護に関するガイドライン」(解説付き暫定版)平成9年12月3日 電子ネットワーク協議会等が参考になろうか。

1.連邦通信委員会(FCC)の 規則制定案告示(Notice of Proposed Rulemaking: NPRM)NPRM)案を全会一致で採択

 連邦通信委員会(FCC)は、電気通信事業者および相互接続されたボイス・オーバー・インターネット・プロトコル・プロバイダー(注2)に適用されるデータ侵害報告要件に関連する要件を改訂するために、規則制定案告示(Notice of Proposed Rulemaking: NPRM)NPRM)案を全会一致で採択した 旨リリースした。

 この提案は、「顧客固有のネットワーク利用情報(CPNI)(注3)の侵害を顧客と連邦法執行機関に通知するための通信委員会の規則を強化する」ことを目指している。CPNIは、通信法第222条(SEC. 222. [47 U.S.C. 222] PRIVACY OF CUSTOMER INFORMATION.)で最初に定義された加入者の電話使用量に関するデータである。FCCの規則改訂の目的は、「他のセクターを対象とする連邦および州のデータ侵害法の最近の進展と規則をよりよく一致させること」である。

 現在のFCC規則では、電気通信事業者およびボイス・オーバー・インターネット・プロトコル(「VoIP」)サービスプロバイダー(総称して、通信事業者という)は、顧客が電話をかける番号、通話の頻度または持続時間、モバイルデバイスの場所など、CPNIと呼ばれる特定の顧客独自のネットワーク情報に関連するデータ侵害について、顧客および連邦法執行機関に通知する必要がある。

 FCCは、特定の種類のデータ侵害、具体的には、顧客のふりをして通話データやその他の個人記録にアクセスする慣行である「プリテキスティング(pretexting)」(注4)に対処するための現在のルールを開発した。しかし、プリテキスティングが最近のデータ侵害の原因になることはめったにないため、FCCは、今日より頻繁に発生しているより高度で多様な侵害に対処するための新しい要件を提案し、コメントを求めている。とりわけ、FCCは、(1)「違反(Breach)」の定義を拡大して「不注意による(Inadvertent)」違反を含めること、(2)データ侵害の連邦法執行機関に加えてFCCに通知することをキャリアに要求すること、および(3)通信事業者が顧客に違反を通知するまでの特定の待機期間をなくすことを提案している。

(1)「違反(breach)」の定義の見直し

〇不注意による開示(Inadvertent Disclosures)

 現在のFCC規則では、「違反」は「許可なしに、または許可を超えて、CPNIに意図的にアクセス、使用、または開示した場合」に発生する。今回のNPRMは、この定義を拡張して、CPNIの不注意による不正アクセス、使用、または開示を含めて、「フィッシング」攻撃など、CPNIを盗むために使用されるますます多様化する違法な方法に対処することを提案している。

 FCCは、通信事業者への負担やコストなど、偶発的な違反報告を要求することの影響についてコメントを求め、情報が不適切に使用または開示されていない場合、従業員または代理人によるCPNIの誠実な取得を違反の定義から免除すべきかどうかを尋ねている。またFCCは、違反の定義をさらに拡大して、CPNIエクスポージャーに合理的につながった可能性のある行為を含める必要があるかどうかについても疑問を呈している。

〇被害ベースの通知のトリガー(Harm-Based Notification Trigger)

 現在のFCC規則では、違反のすべての事例で通知が必要であるが、FCCは、違反によって顧客への危害が発生しない可能性が合理的であると判断した場合に、通信事業者が通知を差し控えることを許可する、多くの州で使用されている「危害ベースの通知トリガー(harm-based notification trigger)」を採用する必要があるかどうかを尋ねる。

 FCCは、金銭的および/または身体的または感情的な危害などの「危害」をどのように定義すべきかについてコメントを求め、顧客が危害を受ける可能性が合理的に高いかどうかを評価するためにキャリアが使用すべき要因または基準について尋ねる。

 ただし、NPRMは、FCCが危害ベースの通知トリガーを採用したとしても、危害の合理的な可能性を判断できない場合、通信事業者の通知義務は引き続き有効であると指摘している。

 またFCCは、危害ベースのトリガーを顧客と法執行機関への通知の両方に適用する必要があるかどうかを尋ねる。危害に基づく通知トリガーが採用されたとしても、運送業者が危害の合理的な可能性を判断できない場合、通知の義務は引き続き有効であると指摘している。

さらにFCCは、社会保障番号や財務記録など、他の情報キャリアが所有する報告義務を確立する通信法に基づく権限があるかどうかについてもコメントをもとめる。

(2)FCCおよび法執行機関への通知

〇FCCへの通知(FCC Notification.)

 現在、通信事業者がCPNIに関連する違反があったと合理的に判断した場合、米国シークレットサービス(U.S. Secret Service)および連邦捜査局(FBI)にのみ通知する義務がある。

 FCCは、このアプローチが(i)他の連邦セクター固有のプライバシー報告規則と一致しており、(ii)犯罪以外の違反に関する重要な情報をFCCに提供し、より広範なネットワークセキュリティの脆弱性を調査および修正できるようにするため、法執行機関と同時にCPNIに関連する違反をFCCに通知するよう通信事業者に要求することを提案している。

〇通知の方法(Method of Notification)

 FCCの違反通知に関する規則では、通信事業者は、そのWebサイトからアクセスできる「中央報告機能」を通じて法執行機関に通知する必要がある。

 この通知プロセスを合理化するために、FCCは、法執行機関とFCCの両方に違反を報告するための一元化されたポータルを作成および維持することを提案し、たとえば、サイバーセキュリティインシデントに使用される最近作成されたサイバーセキュリティおよびインフラストラクチャ・セキュリティ・エージェンシー・インシデント報告システムを活用できるかどうかキャリアの負担を最小限に抑えるとしている点につきコメントを求める。

〇通知内容(Notification Contents).

 通信事業者は現在、シークレットサービスとFBIへの違反通知に、連絡先情報、違反の説明、侵害の方法、違反の日付範囲、影響を受ける顧客のおおよその数、通信事業者と顧客への経済的損失の見積り、影響を受ける顧客の住所など、特定の情報を含める必要がある。FCCは、FCCへのキャリア通知で同じ情報を要求することを提案している。

〇報告の時間枠(Timeframe)

 今日の通信事業者は、違反の合理的な判断から7日以内に法執行機関に違反を報告する必要があるが、FCCは、通信事業者の負担を最小限に抑え、報告義務に関する混乱を減らすために、違反を発見した後、「実行可能な限り早く」FCCおよび法執行機関に通知することを通信事業者に要求することを提案している。ただし、FCCは、「7日以内」の期限を維持するか、24時間以内や72時間以内などの新しい期限を採用するべきかについてもコメントを求めている。

〇通知に関するしきい値トリガー(Threshold Trigger)の要否

 既存のFCCルールでは、通知要件は重大度に関係なく、すべての違反に適用される。ただし、FCCは、少数の顧客のみに影響を与える侵害は、大規模な違反と同じレベルの注意を必要としない可能性があると述べている。

 したがって、管理上の負担と過剰な報告を減らすために、FCCは、その代わりに、影響を受ける個人250人、500人、または1000人など、キャリアの通知義務をトリガーする影響を受ける顧客のしきい値レベルを採用する必要があるかどうかを尋ねる。

(3)顧客への通知

 不当な遅延せずにデータ侵害を顧客に通知する。

 FCCの規則は現在、顧客への即時かつ回復不能な損害を回避するためにいくつかの例外を除いて、法執行機関に通知してから7営業日後まで、通信事業者が顧客に通知したり、データ侵害を一般に開示したりすることを禁じている。

 FCCの案は、この待機期間を廃止し、法執行機関が遅延を要求しない限り、違反を発見した後、「不当な遅延なしに」顧客に通知することを提案している。特定の通知期限に関するガイダンスを提供する必要があるかどうかを尋ね、多くの州が違反の発見後30日、45日、60日など、消費者に通知する必要がある時間に外部の時間制限を課していることを指摘している。

 またFCCは、採用した通知期限をすべての通信事業者に等しく適用すべきか、それとも異なる報告期限を小規模通信事業者に適用すべきかを尋ねる。FCCは、連邦政府機関は、その通知が調査を妨げる場合、FCCの規則で現在許可されているように、最大30日間顧客通知を遅らせるように運送業者に指示することが引き続き許可されているか質問している。

〇顧客違反通知の内容(Method of Customer Breach Notification.)

 FCCは現在、通信事業者が顧客通知に特定の情報を含めることを要求していないが、次のような最小限の情報を必要とするかどうかについてコメントを求めている。

①違反の日付

②使用され、開示され、またはアクセスされた顧客情報の説明

③障害のあるお客様を含むお客様が通信事業者に連絡して違反について問い合わせる方法に関する情報

④FCCおよびその他の関連する連邦および州の規制当局への連絡方法に関する情報

⑤信用報告に関する情報と、違反が個人情報の盗難のリスクをもたらす場合に個人情報の盗難を防ぐために顧客が実行できる手順。

⑥漏洩した特定の情報に基づいて、侵害による危害のリスクを軽減するためにお客様が実行する必要のあるその他の手順

〇顧客違反通知の方法

 同様に、FCCは、電子メール、物理的な郵便、電話などの特定の通知方法を必要とするかどうかを尋ねている。

(4)電話リレーサービスの要件(Telephone Relay Service Requirements)

 FCCは、電話リレーサービス(TRS)(注5)およびビデオリレーサービス(VRS)(注6)を介したポイント・ツー・ポイントビデオ通話(聴覚、言語、視覚障害のある人が電話で通信できるように設計されたサービス)に関する現在の違反通知規則は、通信事業者に一般的に適用されるものと同じであると説明している。したがって、TRSおよびVRSユーザーに対して同等のレベルの保護を維持するために、FCCは、TRSおよびVRSデータ侵害規則を改訂して、キャリアに対して上記で提案および説明したものと同じ要件を含めることを提案している。

(5)法的権限

 FCCは、通信事業者によるCPNIの使用、開示、保護を規定する通信法第222条に基づく提案を採用する法的権限があると暫定的に結論付けているが、その暫定的な結論についてコメントを求めている。

*************************************************************

(注1) ボイス・オーバー・インターネット・プロトコル(VoIP)は、通常の(またはアナログの)電話回線の代わりにブロードバンドインターネット接続を使用して音声通話を発信できるようにするテクノロジーである。VoIP サービスによっては、同じサービスを使用して他のユーザーにしか電話をかけることができない場合があるが、市内番号、長距離番号、携帯電話番号、国際電話番号など、電話番号を持っている人なら誰でも電話をかけることができるサービスもある。また、一部の VoIP サービスはコンピューターまたは特別な VoIP 電話でのみ機能しますが、他のサービスでは、VoIP アダプターに接続された従来の電話を使用できる。(FCCサイトを仮訳)

(注2)NPRMは、FCCサイトからリンクすること。

 FCCは、1934 年通信法(The Communications Act of 1934, 47 U.S.C. § 151 et seq.)に反しない限りにおいて、任務を遂行するために必要な一切の行為を行い、規則を制定し、命令を発することができる(§154(i) The Commission may perform any and all acts, make such rules and regulations, and issue such orders, not inconsistent with this Act, as may be necessary in the execution of its functions.)。このうち、公衆等を拘束する法的な権利義務を創出する規則の制定には、公表とコメントの手続を経ることを要する。具体的には、制定に先立ち、「規則制定案告示(Notice of Proposed Rulemaking: NPRM)」を発出し、パブリックコメントの募集が行われる。提出されたパブリックコメントの分析の結果、委員の投票を経て、最終的に FCC は、「報告と命令(Report and Order)」を発し、これに基づき規則の改正が行われる。(神足祐太郎「アメリカにおけるネットワーク中立性政策の展開」国立国会図書館 調査及び立法考査局:21 世紀のアメリカ 総合調査報告書」から抜粋のうえ、条文の原文を追加した)。

(注3) 顧客が契約している通信サービスに関する情報「Customer Proprietary Network Information(CPNI)」という説明がある。ただし不十分な説明である。

顧客独自のネットワーク情報(CPNI)とは、消費者の電話に関して電気通信会社が収集するデータ。 これには、各通話の時刻、日付、期間、宛先番号、消費者が加入しているネットワークの種類、および消費者の電話料金に表示されるその他の情報が含まれる。(Wikipedia を仮訳)

(注4) 筆者ブログの(注2):「pretexting」とは本人を装い、電話会社に電話してうその口実を使って電話代の請求のコピーを要求し、かけた電話の宛先、支払いのための銀行口座の明細等を違法に入手する行為をいう。個人のプライバシー侵害という観点で従来から問題視されている。

(注5) 電話リレーサービスとは、きこえない・きこえにくい人ときこえる人を、オペレーターが "手話や文字" と "音声" を通訳することにより、電話で即時双方向につなぐサービス。

(注6) VRS(ビデオリレーサービス)は、テレビ電話を通じてオペレーターに手話で伝えると、オペレーターは相手先に音声で同時通訳します。相手の音声はオペレーターが手話で伝えてくれる。

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米メリック・B・ガーランド連邦司法長官は1月12日、バイデン大統領の機密文書問題の特別顧問としてメリーランド地区の元米国検事ロバート・ハー氏を任命したと発表

2023-01-15 15:49:47 | 国家の内部統制

 ジョー・バイデン大統領が政府の機密文書を不適切に処理したかどうかを調査する特別顧問に任命されたロバート・K・ハー(Robert K. Hur)氏は、機密漏洩調査の経験を持つ元司法省の高官である。

 この司法長官による特別顧問に任命は、今回が初めてではない。2022年11月18日、連邦司法省の元検事であり、ハーグの国際刑事裁判所の元主席検事であるジョン・L・スミス(JOHN L. SMITH)氏を、進行中の2件の犯罪捜査を監督する特別顧問として任命した。この人事発表は後述するとおり、トランプ前大統領の2020年の大統領選挙後の権力の移譲、または2021年1月6日前後に行われた選挙人団の投票の認証を違法に妨害、機密文書やその他の大統領の記録を含む進行中の調査およびその調査の妨害の可能性等である。

Robert K. Hur 氏

 今回のブログは、基本的な点で不正確な情報記事が出回っている点を反省する意味で以下をまとめた。なお、言うまでもないが、米国メディアの情報収集力には頭が下がる。

(1) 米国司法長官メリック・ガーランドによって任命されたハー氏(50歳)とは?ならびに任命に至る経緯

(2) ジョン・L・スミス特別顧問の任命とその後の動向

(3)“special counsel”の正確な訳語とは、わが国メディアが100%「特別検察官」と誤訳している。正しい訳語解説、根拠法等を明記する。

(4) アメリカの大統領図書館制度〔Presidential Libraries〕につき根拠法を含め正確な解説を試みる。

 なお、今回筆者は改めてトランプ・シンパの顔ぶれを眺めてみた。詳細を逐一点検したわけではないが、なかなか各主張は個性的かつ極めて攻撃的アジテーターまたはキャリア―の捏造等であり、米国の政治論を学ぶには絶好の材料である。

1.米国司法長官メリック・ガーランドによって任命されたハー氏(50歳)とは?ならびに任命までの経緯

 1月12日に米国司法長官メリック・ガーランドによって指名されたハー氏は、トランプ政権時代に任命されたメリーランド州の米国連邦検事であり、最近ではギブソン・ダン・アンド・クラッチャー(Gibson, Dunn & Crutcher)法律事務所の訴訟パートナーを務めていた。

 ガーランド長官は、ハー氏がバイデン氏の副大統領時代の機密記録がデラウェア州の民主党員邸とワシントン州のシンクタンクに不適切に保管されていたかどうかを判断する準独立検察官たる特別顧問として行動すると述べた。

左:ラウシュ連邦検事 右:ガーランド司法長官

 ハー氏は、「個人または団体が法律に違反しているかどうか」を調べるだろうと、ガーランドは述べた。

 ハー氏は2018年にトランプ前大統領からメリーランド州の最高連邦法執行官(chief federal law enforcement officer)に任命され、2021年初めに共和党大統領の任期が終了したことでその地位を離れた。

 ハー氏は、今回、特別顧問の就任後に発表された声明で、「公正、公平、冷静な判断で、割り当てられた捜査を遂行する、恐れや好意を持たずに、迅速かつ徹底的に事実に従う」つもりであると付け加えた。

 一方、ホワイトハウスは、特別顧問の調査に協力することを約束した。

2.司法長官メリック・B・ガーランドは2022年11月18日ジョン・L・スミス(JOHN L. SMITH)氏をトランプ全大統領に関し進行中の2件の犯罪捜査を指揮・監督する「特別顧問]として任命

(1)2022.11.18 米連邦司法省広報室 「特別顧問(special counsel)の任命」リリース文を仮訳する。

 司法長官メリック・B・ガーランドは2022年11月18日、司法省の元検事であり、ハーグの国際刑事裁判所の元主席検事であるジョン・L・スミス氏(注1)を進行中の2件の犯罪捜査を監督する特別顧問として任命したことを発表した。任務の1つ目は、コロンビア特別区の裁判所への提出書類に記載されているように、2020年の大統領選挙後の権力の移譲、または2021年1月6日前後に行われた選挙人団の投票の認証を違法に妨害した個人または団体の有無に関する調査である。 2つ目は、機密文書やその他の大統領の記録を含む進行中の調査、およびその調査の妨害の可能性であり、フロリダ州南部地区の係争中の問題で提出された裁判所の提出書類で参照および説明されている。

 ガーランド司法長官は「トランプ前大統領が次の選挙で大統領候補であると発表したことや、現職の大統領も候補者になる意向を表明したことなど、最近の進展に基づいて、私は、特別な人物をと特別顧問として指名することは公共の利益にかなうと結論付けた。このような任命は、特にデリケートな問題における独立性と説明責任の両方に対する国務省のコミットメントを強調するものである。また、このことで検察官や捜査官は迅速に仕事を続け、事実と法律のみに基づいて決定を下すことができる。」と述べた。

 また司法長官は、「特別顧問は司法省の職員の日常的な監督を受けることはないが、彼はDOJの規則、手順、および方針を遵守しなければならない。私は、特別顧問がこの仕事を迅速かつ完全に遂行するためのリソースを確実に受け取るようにする。これまでの仕事とスミス氏の検察官としての経験を考えると、この任命がこれらの捜査の完了を遅らせることはないと確信している。これらの捜査を追求している男性、女性は、最高水準のプロフェッショナリズムに従って行動しており、この部門の通常のプロセスがすべての調査を誠実に処理できると強く信じている、しかし、彼らのみで得意になるのは危険であり、現時点で特別顧問を任命することは正しいことだと思う。ここに提示された異常な状況はそれを要求する。したがって、スミス氏の任命は、公平かつ緊急にこれらの問題を完了するための正しい選択である。」と述べた。

(2) ジャック・スミス特別顧問の活動内容

 NBC news記事を仮訳する。

 ジャック・スミス特別顧問は、ドナルド・トランプ前大統領、彼の選挙運動、および2020年の選挙を覆すための彼の努力を支援した一連の補佐官と同盟者に関係するすべての通信について、主要な大統領激戦州の地方当局責任者を大陪審召喚した。

 ミシガン州ウェイン郡、ウィスコンシン州ミルウォーキー郡とデーン郡、アリゾナ州マリコパ郡であるの選挙当局のトップに召喚状が発行された。これらの郡には、デトロイト、ミルウォーキー、マディソン、フェニックス、ピッツバーグがある。

 召喚状の存在は、2022年12月6日にワシントンポスト紙によって最初に報告された。

 同召喚状は、偽の選挙人が関与する計画をスミスが調査していることを示している。

 ミルウォーキー郡書記のジョージ・クリステンソンのスポークスパーソンは、スミスの事務所が召喚状を送ったと認めた。 NBC ニュースが入手し、11 月 22 日に発行された召喚状のコピーは、トランプ元大統領、彼のキャンペーン、および 19 人の側近と同盟者のリストとの、または関与する通信のすべての記録を要求しました。召喚状は、2020 年 6 月 1 日から 2021 年 1 月 20 日までの連絡を求めていた。

 これらの補佐官や支持者には、ジャスティン・クラーク(Justin R. Clark)氏(48歳)

シドニー・パウエル(Sidney Katherine Powell (68歳)氏 (注2)

ルディ・ジュリアーニ(Rudolph William Louis Giuliani:79歳 )氏 (注3)

ビクトリア・トーシング(Victoria Toensing:82歳)氏

ジョン・チャールス・イーストマン(John Charles Eastman ( 63歳)

クレタ・ミッチェル(Cleta B. Deatherage Mitchell ) (注4)

ジェナ・エリス(Jenna Lynn Ellis :39歳)氏

 など、2020年の選挙での敗北を覆すためのトランプの努力に密接に取り組んだ選挙運動弁護士や他の弁護士が含まれていた。トランプの2020年のキャンペーン・マネージャーであるビル・ステピエン(Bill Stepien)氏もそのリストに載っていた。

3.ガーランド司法長官や米国メデイアによるこれまでの経緯に関する補足説明

 ガーランド長官や米メデイアのCBS等は、バイデン大統領の機密文書が調査の中心になるようになった経緯について、これまで知られていた以下のことを説明、報じた。

 調査に詳しい2人の情報筋がCBSニュースに対し、約10の文書は、センターにあるバイデン大統領の副大統領事務所からのものである、と情報筋は述べた。CBS ニュースは、FBIも米国の弁護士の調査に関与していることを知った。

 中間選挙直前の2022年11月2日、バイデン氏の個人弁護士が資料を特定したと、大統領特別顧問のリチャード・ザウバー(Richard Sauber)氏は確認した。

Richard Sauber 氏

 ザウバー氏はCBSニュースへの声明で、バイデン氏の個人弁護士が「ワシントンDCのペンシルベニア大学の「ペン・バイデン外交およびグローバル関与センター(Penn Biden Center for Diplomacy and Global Engagement):以下、「ペンバイデンセンター」という」は、米国の第46代大統領であるジョーバイデンにちなんで名付けられたシンクタンクである。

 ペン・バイデン・センターのオフィススペースを空ける準備をするために、施錠されたクローゼットに保管されていたファイルをまとめていたときに発見されたと述べた。同文書は、他の機密書類と一緒に箱に入ったフォルダに含まれていた、と情報筋は語った。情報源は、文書の内容も分類レベルも明らかにしていない。この件に詳しい情報筋は、CBSニュースに、文書に中核となる秘密文書は含まれていないと語った。

 また、ザウバー氏は、資料が発見された同日たる11月2日にホワイトハウスの弁護士事務所が国立公文書館に通知し、国立公文書館は翌朝資料を入手したと述べた。

 さらにザウバー氏は、「これらの文書の発見は大統領の弁護士によってなされた。同文書は、国立公文書館による以前の要求または調査の対象ではなかった。その発見以来、大統領の個人弁護士は、オバマ・バイデン政権の記録が適切に保管されていることを確認するプロセスにおいて、国立公文書館の所有権および司法省と協力してきた」と述べた。

 一方、ガーランド長官は、イリノイ州北部地区連邦検事ジョン・ラウシュ(John R. Lausch,Jr.)氏に、極秘扱いの資料がどのようにしてペン・バイデン・センターにたどり着いたかを調査するよう命じた。この調査は予備的なステップと見なされ、司法長官は特別顧問を任命する可能性を含め、さらなる調査が必要かどうかを判断する材料であった。

 ラウシュ氏は、ドナルド・トランプ前大統領から米国連邦検事に指名されており、現在もトランプ時代の米国の連邦検事を務めている2人のうちの1人である。もう一人は、大統領の息子であるハンター・バイデンの捜査を主導しているデラウェア州の連邦検事デビッド・ワイス(David C. Weiss)である。

David C. Weiss氏

 Lausch 氏は最近、司法長官に説明を行い、最終的に司法長官に最終報告書を提出する予定であった。

 2022年11月4日の夜、国立公文書館の監察官は連邦司法省に連絡し、ホワイトハウスがバイデンが副大統領を辞任した後、バイデンの個人事務所であるペン・バイデン・センターで機密扱いマークの付いた文書が特定されたことを国立公文書館(National Archives and Records Administration, NARA)に通知したと述べた。

 ガーランド長官によると、11月9日、FBI捜査官は機密情報が誤って取り扱われたかどうかを理解するための評価を開始した。その後、ガーランド氏は、トランプ氏が任命者であるラウシュ氏に、特別顧問を任命するかどうかについて初期調査を行うよう依頼したと述べ、ガーランド氏は1月12日に任命を行った。

4.Special Counselの正確な訳語とは?

A.キャノングローバル戦略研究所の主幹である宮家邦彦氏が的確に以下のとおり説明している。

(1)訳語「特別顧問」の意義

そもそもこの官職、英語名だけでも3種類ある。

(1)special prosecutor

(2)independent counsel

(3)special counsel

(1)は文字通り「特別検察官」。1875年にグラント大統領が某スキャンダル捜査のため任命したのが最初だ。この官職名は1983年まで使われたが、1978年に議会が法制化するまでは司法省内部規則などに基づき任命されていた。

(2)は「検察官」なる用語をあえて避けた「独立顧問」だ。ウォーターゲート事件を踏まえ、78年にそれまでの特別検察官の地位を法律で定める「政府内倫理法」が時限立法で制定され、83~99年にはこう呼ばれていた。

(3)は現行の官職で司法省の「特別顧問」。99年の政府内倫理法失効後、連邦規則28章600条に基づき司法長官が米政府外から弁護士を任命して設置できる常勤職だ。

(4)これとは別に1924年、上下両院特別決議に基づき、クーリッジ大統領が「特別顧問」を任命した例がある。

B.前記(3)説の法的根拠

 宮家氏の指摘のとおりロバート・K・ハー氏はガーランド司法長官から特別顧問として任命されたのである。

 さらに正確さを高めるため米国の「特別顧問」の法的根拠を、以下あげる。

Code of Federal Regulations(連邦行政規則集)

 第28編 第6章 パート600 1/13

パート600-特別顧問の一般的な権限

権限: 5 U.S.C. 301;28 U.S.C. 509, 510, 515-519.

§600.1特別弁護士を任命する理由

  司法長官、または司法長官が解任された場合、司法長官代行は、人または事件の犯罪捜査が正当化されると判断した場合に特別弁護士を任命し、(ある)米国検事局または司法省の訴訟部門によるその人物または問題の調査または起訴は、司法省またはその他の異常な状況に利益相反をもたらすであろう。そして

(b)このような状況下では、問題の責任を負うために外部の特別弁護士たる特別顧問を任命することが公共の利益になる。

§600.2司法長官が利用できる行動案

特別顧問の選任を検討すべき事項が司法長官の注意を喚起された場合、司法長官は以下を行うことができる。

(a)特別顧問を任命する。

(b)司法長官が適切と考える事実調査または法的調査からなる初期調査を実施し、決定をより適切に通知するよう指示する。

(c)問題の状況下では、部門の通常のプロセスから調査を削除することによって公共の利益は提供されず、部門の適切なコンポーネントが問題を処理する必要があると結論付ける。司法長官がこの結論に達した場合、彼または彼女は、特定の役人の解任などの利益相反を軽減するために適切な措置を講じるよう指示することができる。

§600.3特別顧問の資格

(ある)特別顧問として指名された個人は、誠実さと公平な意思決定に定評があり、捜査が適切、迅速、徹底的に実施されること、および捜査および起訴の決定が刑法および司法省の方針に関する情報に基づいた理解によって裏付けられることの両方を確保するための適切な経験を持つ弁護士でなければならない。特別顧問は、合衆国政府外から選出されるものとする。特別顧問は、特別顧問としての責任が職業生活において最優先されること、及び、調査の複雑さ及び段階によっては、調査に全時間を割く必要があることに同意する。

(b)司法長官は、適切な任命方法を確保し、特別顧問が倫理および利益相反の問題の適切な身元調査および詳細なレビューを受けることを確実にするために、行政担当司法次官補と協議するものとする。特別顧問は、合衆国法典第5編第7511条(b)(2)(C)1/13(22)に定義される「機密従業員」として任命されるものとする。

§600.4特別顧問の管轄権

(ある) 元の管轄:特別顧問の管轄権は、司法長官が定める。特別顧問には、調査されるべき事項の具体的な事実陳述が提供される。特別検察官の管轄権には、偽証、司法妨害、証拠隠滅、証人への脅迫など、特別検察官の捜査の過程で犯された連邦犯罪(偽証、司法妨害、証拠破壊、証人脅迫など)を捜査し、かつ、これを妨害する意図で犯された連邦犯罪を捜査し訴追すること、調査および/または起訴されている問題から生じる上訴を実施すること権限も含まれる。

(b) 調査の過程で、特別顧問が、割り当てられた問題を完全に調査して解決するため、またはコースで明らかになった新しい問題を調査するために、元の管轄で指定されたものを超える追加の管轄が必要であると結論付けた場合 彼または彼女の調査の結果、彼または彼女は司法長官と相談し、司法長官は追加事項を特別検察官の管轄内に含めるか、別の場所に割り当てるかを決定する。

(c) 民事および行政管轄:特別顧問は、捜査の過程で、行政上の救済措置、民事制裁又は刑事司法制度外のその他の政府の措置が適切であると判断した場合には、必要な措置をとるための適切な構成要素について司法長官と協議するものとする。特別顧問は、司法長官によって特に管轄権を付与されない限り、民事上または行政上の権限を持たないものとする。

 

§600.5特別顧問の補助スタッフ

 特別顧問は、特別顧問を補佐するために適切な部門の従業員の配置を要求することができる。部局は、特別顧問を集め、詳細が入手可能な適切な人員の名前と履歴書を提供するものとする。また、特別顧問は、特定の従業員の詳細を請求することができ、指定された従業員が勤務する事務所は、その要請に対応するために合理的な努力をしなければならない。特別顧問は、特別顧問に配属されている間、その職務を分担し、その業務を監督する。必要に応じて、特別顧問は、省外から追加の人員を雇用または配置するよう要求することができる。部局のすべての職員は、特別顧問と可能な限り最大限に協力しなければならない。

 

§600.6特別顧問の権能(Powers)と法的権限(Authority)

 特別顧問は、次の段落の制限に従うことを条件として、その管轄権の範囲内で、合衆国検事のすべての捜査および訴追機能を行使する完全な権限および独立した権限を行使するものとする。本編に規定されている場合を除き、特別顧問は、司法長官または司法省内の他の者に、その義務および責任の遂行について通知または協議するかどうか、およびどの程度まで通知するかを決定するものとする。

§600.7行動範囲と説明責任

(ある)特別顧問は、司法省の規則、規制、手続き、慣行および方針を遵守するものとする。彼または彼女は、倫理およびセキュリティの規制と手順を含む、部門の確立された慣行、方針、および手順に関するガイダンスについて、部門内の適切なオフィスと相談するものとする。特別顧問は、特定の決定の異常な状況により、指定された部門コンポーネントによる必要なレビューおよび承認手順の遵守が不適切になると結論付けた場合、司法長官に直接相談することができる。

(b)特別顧問は、省の職員の日常的な監督を受けないものとする。ただし、司法長官は、特別検察官に捜査または起訴のステップについての説明を提供するよう要求することができ、検討後、その行動は確立された部門の慣行の下で非常に不適切または不当であり、追求されるべきではないと結論付けることができ。その審査を行うにあたり、司法長官は特別顧問の見解を大いに重視する。司法長官が特別顧問による提案された措置を追求するべきではないと結論付けた場合、司法長官は§600.9(a)(3)に指定されているように連邦議会に通知するものとする。

(c)特別顧問および職員は、司法省の他の職員と同じ基準および範囲で、不正行為および倫理的義務違反について懲戒処分を受けるものとする。そのような問題に関する問い合わせは、司法長官の承認を得て、部門の適切な事務所を通じて処理されるものとする。

(d)特別顧問は、司法長官の個人的な行動によってのみ懲戒処分または解任することができる。司法長官は、不正行為、職務怠慢、無能力、利益相反、または部門の方針違反を含むその他の正当な理由により、特別顧問を解任することができる。司法長官は、特別弁護士に対し、解任の具体的な理由を書面で通知するものとする。

§600.8特別弁護士による通知と報告。

(a) 予算

(1)特別顧問は、司法省からすべての適切な資源を提供されるものとする。特別検察官は、任命後60日以内に、司法長官の審査と承認のために司法管理部門の支援を受けて、今会計年度の予算案を作成するものとする。この提案に基づき、司法長官は特別検察官の運営のための予算を定める。予算には、必要な資格の説明とともに、人員の配置の要求を含めるものとする。

(2)その後、特別顧問は、各会計年度の開始の90日前に、司法長官に調査の状況を報告し、翌年度の予算要求を提供するものとする。司法長官は、調査を継続すべきかどうかを決定し、継続する場合は、次年度の予算を確定するものとする。

(b) 重要なイベントの通知:特別検察官は、緊急報告に関する省のガイドラインに従って、調査の過程での出来事を司法長官に通知するものとする。

(c) 機密報告書ドキュメントの提出:特別検察官の業務の終了時に、特別検察官は、特別検察官が下した起訴または不起訴の決定を説明する機密報告書を司法長官に提供するものとする。

§600.9司法長官による通知と報告。

(ある)司法長官は、各議会の司法委員会の委員長および少数派議員に、各行動の説明とともに通知する。

(1)特別顧問を任命したとき。

(2)特別顧問を解任したとき。

(3)特別顧問による調査の終了時に、適用法と一致する範囲で、司法長官が特別顧問による提案された措置が確立された部門の慣行の下で非常に不適切または不当であり、追求されるべきではないと結論付けた事例の説明と説明(もしあれば)。

(b)このセクションのパラグラフ(a)(1)の通知要件は、正当な調査またはプライバシーの懸念が機密性を必要とすると判断した場合、司法長官によって請求される場合がある。機密保持が不要になった時点で、通知が提供される。

(c)司法長官は、これらの報告書の公開が、適用される法的制限に準拠する範囲で、公共の利益になると判断することができる。特別顧問および職員を含む司法省職員による特別検察官が取り扱う事項に関するその他のすべての情報開示は、犯罪捜査に関するパブリックコメントに関する一般的に適用される司法省のガイドラインおよび関連法に準拠するものとする。

5.アメリカの大統領図書館制度〔Presidential Libraries〕の概略

1 アメリカの大統領図書館制度〔Presidential Libraries〕から一部抜粋した。なお。リンクは筆者が行った。

(1)日本にはないが、アメリカの国立公文書記録管理局( National Archives and Records Administration:NARA) にある機能の1つに大統領図書館部門がある。

 1978 年に Presidential Library Act が制定されるまでは、大統領記録は大統領個人に帰属していた。この法律以後、大統領在職中の記録は連邦政府の財産となり、NARA の大統領図書館部の管理下にある。機密関係の審査〔security review〕を受けた後に公開され、資料目録〔finding aid〕が作成され一般市民の利用に供される。

(2) 根拠の法律

1978年の大統領記録法(合衆国法律集USC 44 Chapter22)を基本とする。

その§2203 において、大統領による大統領記録処分に関する規定、大統領任期終了後の合衆国アーキビストによる大統領記録の管理、監督、保護、公開に対する責任を定める。

(3) その機能

  名称は図書館〔library〕であるが、博物館の機能も多分に持っている。各図書館では常設展示のほかに年に1、2回の特別展を開催しており、文書資料だけでなく、展示にふさわしいモノ資料も数多く所蔵。大統領の子供時代から在職時代まで、執務関係記録だけではなく家族や全人的な紹介を目的としている。

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(注1) スミス氏はコソボ戦争中に犯された 戦争犯罪の調査等を行っていた。

(注2) Sidney Katherine Powell氏は、ノースカロライナ大学のロースクールを修了後、連邦検察官としてテキサス州やバージニア州に赴任。1993年にダラスで弁護士事務所を開業し、エンロンの会計不正で法的責任を問われたアーサー・アンダーセンやメリルリンチの元重役の代理人を務めた。これを切っ掛けとして共和党関係の知己を得た。ロバート・モラー特別顧問による2016年アメリカ合衆国大統領選挙におけるロシアの干渉に関する捜査でマイケル・フリンの偽証容疑が捜査された際には、フリンはディープステートの犠牲者として徹底抗戦の構えを見せた。結果としてフリンは司法取引で有罪を認めたものの、このことでQアノン信奉者を始めとした陰謀論者を含むトランプ支持者との関係を深めた。(Wikipedia から抜粋)

(注3) 1994 年から 2001 年までニューヨーク市の第 107 代市長を務めたアメリカの政治家および弁護士です。彼は以前、1981 年から 1983 年まで米国司法長官、1983 年から 1989 年までニューヨーク州南部地区の米国司法長官を務めていた。・・・ 2020 年の大統領選挙に続いて、彼は選挙結果を覆す試みで提起された多くの訴訟でトランプを代表し、不正投票機、投票所の詐欺、および国際的な共産主義の陰謀。ジュリアーニは、2021年1月6日のアメリカ合衆国議会議事堂攻撃の前の集会で演説し、不正投票の虚偽の主張を行い、「戦闘による裁判」を求めた。その結果、彼の弁護士免許は 2021 年 6 月にニューヨーク州で停止された。(Wikipediaから抜粋、仮訳)

(注4) リンド アンド ハリー ブラッドリー財団の事務局長である。その略歴を見る限りトランプ・シンパとは思えない。

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米国連邦取引委員会(FTC)が健康製品に関する新しい拡大コンプライアンス・ガイダンスを発行

2023-01-11 10:34:40 | 消費者保護法制・法執行

 2022年12月20日、米国連邦取引委員会(以下、FTCという)は、以前の1998年のガイダンスである栄養補助食品:業界向け広告ガイド(全32頁)を改定および置き換える健康製品等コンプライアンス・ガイダンスの発行を発表した。

Libbie Canter氏

Laura Kim氏

 筆者の手元にCovington & Burling LLPの解説記事が届いた。筆者はLibbie Canter氏、Laura Kim氏他である。日頃、わが国の各種メディア、SNS、 チラシ等健康製品に関する広告があふれている一方で、わが国の広告規制は一体どうなっているかと疑うことが多い。

 FTCの対応は、時宜を得たものであり、取り急ぎ補足を加え、解説記事を仮訳して紹介するものである。

1.改定健康製品コンプライアンスガイダンスの意義

 FTCは、ガイドの基本的な内容はほとんど変更されていないと述べているが、このガイダンスは、以前のガイダンスの範囲につき栄養補助食品を超えて拡大し、食品、市販薬、デバイス、健康アプリ、診断テストなど、すべての健康関連製品に関する主張を広く含めている。今回改定されたガイダンスでは、1998年以降にFTCが提起した多数の法執行措置から引き出された「主要なコンプライアンス・ポイント」を強調し、①広告側の主張の解釈、②立証その他の広告問題などのトピックに関連する関連する例について具体的に説明している。

(1) 広告側の主張の特定と広告の意味の解釈

 改定されたガイダンスでは、まず、広告主の明示的主張と黙示的主張の違いを含め、主張の識別方法と解釈方法について説明する。改定ガイダンスでは、広告の言い回しとコンテキストが、製品が病気の治療に有益であることを暗示する可能性があることを強調しており、広告に病気への明示的な言及が含まれていない場合でも、広告主は有能で信頼できる科学的証拠で暗黙の主張を立証できる必要がある。

 さらに、改定されたガイダンスでは、広告主が適格な情報を開示することが予想される場合の例が示されている(商品が人口のごく一部をターゲットにしている場合や、潜在的に深刻なリスクが含まれている場合など)。

 欺瞞やだましを避けるために適格な情報が必要な場合、改定されたガイダンスには、その適格な情報の明確で目立つ開示を構成するものについての議論が含まれている。具体的には、改定ガイダンスでは、主張と同じ方法で開示を提供する必要があると述べている(つまり、主張が視覚的に行われる場合は、その開示が視覚的に行われる必要がある)。視覚的な主張は目立つ必要があり、①そのサイズ、②契約内容、③開示する場所、および④表示される時間の長さに基づいて、簡単に気づき、読み、理解する必要がある。また、可聴開示の場合は、聞き取りやすく理解しやすいように、音量、速度、リズムで行う必要がある。

 さらに、改定ガイダンスはソーシャルメディアでは、開示条件は「避けられない」べきであると述べているが、FTCはハイパーリンク(注1)を含まないことを明確にしている。対象となる情報には、製品に利点が「ある可能性がある」、または利益の達成に「役立つ」など、あいまいな修飾条件を含めるべきでないとしている。

(2) 製品等にかかる主張の立証の根拠

 次に、改定ガイダンスでは、製品と主張の種類、真実の主張の利点、立証を開発するコスト/実現可能性、虚偽の主張の結果、および分野の専門家が合理的であると信じる立証の量など、有能で信頼できる科学的証拠を構成するために必要な立証の量と種類を決定するために使用されるいくつかの要因を示している。

 改定ガイダンスでは、主張の証拠の裏付けの量、種類、または強さは正確でなければならないと述べている(たとえば、広告は、それが正確でない場合、科学者がコンセンサスに達したことを示唆してはならない)。

 改定ガイダンスは、ランダム化比較試験(randomized controlled trial:「RCT」)(注2)の使用を強調し、RCTは「最も信頼できる証拠の形式であり、一般的に専門家が健康上の利益の主張に必要とするタイプの立証である」ことを強調している。このガイダンスによると、有能で信頼できる科学的証拠の基準を満たすために特定の数のRCTは必要ない。研究の質は量よりも重要である。

 またガイダンスは、研究は統計的に有意な結果をもたらし、臨床的に意味のあるものでなければならないと述べている。さらに、事後分析の結果である統計的に有意な結果は、データマイニング(注3)または「p-hacking 」(注4)の疑いを引く可能性がある。一方、改定ガイダンスは、疫学または観察研究は限られた状況、すなわち(1)この分野の専門家がそれらを許容可能な代替物であると考える場合にのみ受け入れられることを示唆している。(2)RCTはそれ以外の方法では実行不可能である。同様に、動物および人工的に作られた環境の中(in vitro)研究、消費者の個々の経験に関する事例証拠、および公衆衛生上の推奨事項は、健康強調表示を立証するには不十分であると説明されている。

(3) その他の広告に関する問題

 最後に、改定ガイダンスでは、消費者の声や専門家の推薦代替医療に基づく主張FDA(アメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration)承認に関する主張など、健康関連の広告における他の一般的な問題として説明している。

 公式承認ガイドを強化するために、改定ガイダンスは、劇的な結果を描写する広告は、「典型的ではない結果」と述べることによって治癒することはできないことを強調している。また、専門家の承認者は適切な資格を持っている必要がある。

 改定ガイダンスの例によると、専門家が免許を受けておらず、製品とクレームに関連する分野で実践していない場合、専門家は広告で医師と呼ばれるべきではない。改定ガイダンスは、伝統的な使用/ホメオパシー(注5)製品の立証基準に例外がないことを強調している。—伝統的な使用について主張することはできるが、これらの製品は有能で信頼できる科学的証拠で立証されなければならない。

 今回改定されたガイダンスは、ビジネスガイダンスとしてのみ役立つことを目的としており、法的な強制力または効力はない。

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(注1) ハイパーリンクとは、文書データなどの情報資源の中に埋め込まれた、他の情報資源に対する参照情報。また、そのような参照が設定された、文字や画像など文書内の要素のこと。単に「リンク」(link)と略して呼ぶことが多い。(IT用語辞典から抜粋)

(注2) ランダム化比較試験(RCT) randomized controlled trial:ある試験的操作(介入・治療など)を行うこと以外は公平になるように,対象の集団(特定の疾患患者など)を無作為に複数の群(介入群と対照群や,通常+新治療を行う群と通常の治療のみの群など)に分け,その試験的操作の影響・効果を測定し,明らかにするための比較研究をいう。群分けをランダムに行うのは,背景因子の偏り(交絡因子)をできるだけ小さくするためであるが,コンピュータで乱数を発生させ,割り付け表を使用する方法が適切だとされている。ただし、くじ引きやサイコロの使用,患者番号などでの割り付けは準ランダム化となってしまい,真の意味でのランダム化とはならない。(EBPT用語集から抜粋)

(注3) データマイニング (Data mining)とは、大量のデータを統計学や人工知能などの分析手法を駆使して、「知識」を見出すための技術である。データマイニングという言葉の示す通り、情報(データ)から有益なものを採掘(マイニング)できる。

 ITビジネスの分野では、近年「ビッグデータ」が注目を集めている。それに従い、ビッグデータを有効に活用するための手段として、データマイニングにも注目が集まっている。他にも(Customer Relationship Management、つまりは顧客との関係性を管理(CRM)で顧客情報を管理する際にも利用されている。

 データマイニングを行うことで得られる知識とは、どんなものか。情報を分類すると以下の4つに分けられる。

■データ(Data):整理されていない数値

■情報(Information):「データ」を整理・カテゴライズしたもの

■知識(Knowledge):「情報」から得られる傾向・知見

■知恵(Wisdom):「知識」を利用して人が判断する力

 これはDIKWモデルと呼ばれており、下に行くほど有用性の高いものと判断される。

 データマイニングで行えるのは「知識」を見出すところまでであって、実際にその「知識」に有用性があるのか、どう活用するのかは『人』の判断力にかかって来る。また、このデータの蓄積から分析を生かして課題を解決するのが、データサイエンスの領域になる。(ITトレンドの解説から抜粋)

(注4) 教育・経験・先入観など,何らかの影響を受けて偏ってしまうことを「バイアスがかかる」と言う。

そして,p-hackingはバイアスの1つである。

 具体的には,研究者が複数の統計解析を試し,有意な結果が得られたものを選択的に報告する行為を指す。

 加えて,研究者が複数のデータを吟味し,有意な結果が得られるものを選択的に採択する行為もp-hackingとされている。

(注5) ホメオパシー医療としても知られるホメオパシーは200年以上前にドイツで確立された医療体系で異なる2つの理論を基にしている。

 一つは「類似したものは類似したものを治す(同種の法則)」で、ある物質を健康な人に投与すると起こる症状に関して、その症状がある人にその物質を投与すると治るという考えである。

 もう一つは「超微量の法則」という考えで、薬剤が微量であるほど、その有効性が高くなるという考えである。多くのホメオパシー製品は、元の物質の分子が残らないほど非常に希釈されている。

 ホメオパシー製品には、植物(赤タマネギ、アルニカ[山岳地帯の薬草]、ツタウルシ、ベラドンナ、イラクサ)、鉱物(ヒ素など)、動物(蜂を丸ごと潰したものなど)がある。ホメオパシー製品は、砂糖玉にしたものを舌下に置いて服用する。他には、軟膏、ゲル、点滴、クリーム、タブレット錠などの形状がある。治療は人それぞれに「個別化」または最適化されている。同じ症状のある人たちが、異なる治療を受けることはよくある。(厚生労働省『「統合医療」に係る 情報発信等推進事業』解説から抜粋)

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https://www.investopedia.com/terms/m/materialinsiderinformation.asp

 

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スペインのデータ保護機関は臨床試験と医薬品安全性監視のEUのGDPRへの準拠を可能にする業界初の行動規範を承認、さらにEFPIAの提案との間の相互作用に関する声明を発表

2023-01-09 15:36:14 | 個人情報保護法制

 2022年2月25日、スペインのデータ保護機関 (Agencia Española de Protección de Datos):AEPD)(注1)はEUの一般データ保護規則(GDPR)に基づく最初の業界行動規範を承認した。さらに、同年12月28日、AEPDは、最近承認された製薬業界向けのスペインの行動規範と、臨床試験と医薬品安全性監視(pharmacovigilance)」に関するEUの行動規範に関する欧州製薬団体連合会(European Federation of Pharmaceutical Industries and Associations :EFPIA)(注2)の提案との間の相互作用に関する声明を発表した。

 このように、EUの医薬品業界の情報保護の動向を読む一方で、わが国の製薬業界の取組みを見てみた。

一例として日本製薬団体連合会編集・日本製薬団体連合会個人情報委員会「製薬企業における個人情報の適正な取扱いのためのガイドライン」を読んでみた。

 そこで見た内容は、わが国の個人情報保護法に解釈の範囲で検討問題を取り上げているのみである。最後に治験データの米国移転についての中で「被験者に説明及び同意取得を行う時点で個人データを提供する国を特定することができる場合、法第28 条第2項に従い、当該外国における個人情報の保護に関する制度、当該第三者が講ずる個人情報の保護のための措置その他当該本人に参考となるべき情報を当該本人に提供しなければならない。」とある。

 しかし、はたしてこれが米国でなくEU加盟国であったらどうなるか。GDPRの適用問題が具体的に取り上げられることになることは間違いないがGDPR問題がは全く言及されていない。

 また、(注2)のとおりEFPIA Japanサイトも行動規範に関する言及はない

1.スペインのデータ保護機関 (Agencia Española de Protección de Datos:AEPD)はEUの一般データ保護規則(GDPR)に基づく最初の業界行動規範の概要

 Global Compliance Newsの解説ならびにAEPDサイトの解説等を併せ仮訳する。

 2022年2月25日、スペインのデータ保護機関(AEPD)はEUの一般データ保護規則(GDPR)に基づく最初の業界行動規範を承認した。この業界規範は、Farmaindustria(スペインで設立された革新的な製薬会社を代表する業界団体)によって推進されており、スペインで実施される場合、臨床試験やその他の臨床研究および製薬業界の分野における個人データの処理を管理するものである。

左がAEPDのウェブサイトの最後に個人データ保護に関する行動規範解の解説リンクする

 EUのGDPRは、GDPRに定められた一般規定を補完および調整するために、データ管理者または処理者のグループを代表する協会による自主規制システムの設定を奨励している。この自主規制システムの一部として採用された行動規範の遵守は、GDPRへの準拠の十分な保証の存在をサポートするために使用できる。

 その意味で、Farmaindustriaは、AEPDの承認後、臨床試験およびその他の臨床研究および製薬業界分野における個人データの処理を規制する新しい行動規範(以下、「行動規範」という)を採択した。(AEPD行動規範の非公式英文訳)

 この行動規範は、2009年にFarmaindustriaが以前のデータ保護規則に基づいて採用した以前の規範(注3)に代わるものであり、Farmaindustriaのメンバーに自発的に遵守するために提示されたものである。実際、行動規範の附属書1には、遵守の適用のテンプレートが含まれている。

 とりわけ、スペインの行動規範は、このデータを処理するために信頼できるいくつかの法的根拠をリストし、スポンサーと調査員を独立した管理者として定義している。AEPDは、規範に定められた法的根拠は、EDPBの意見 3/2019(臨床試験規則とGDPRの間の相互作用に関して)に定められた基準と一致していると述べている。

 この行動規範の内容については、以下の点に留意する必要がある。

①行動規範は、臨床試験のスポンサーがFarmaindustriaに関連しているかどうかにかかわらず、スペインの医薬品開発業務受託研究機関(Contract Research Organization:CRO)に適用される。ただし、これは、行動規範が完全に発効する前に開始された研究には適用されない。

②行動規範は、臨床試験および関連研究のための標準操作手順(SOP)(注4)を定めている。参加者が臨床試験への参加に同意すると、データ保護の同意は必要ないことが証明される。ただし情報提供義務は残る。このSOPは、とりわけ、特にセキュリティ違反に関して、参加者の同意または積極的な責任の義務なしに、さらなる調査のための個人データの二次使用を規制する。SOPには、スポンサーと他の研究プレーヤーとの間の契約で使用されるデータ保護条項のテンプレートも組み込まれている。

③医薬品安全性監視(pharmacovigilance)に関しては、行動規範は、個人データが識別データであるか、逆に成文化されたデータであるかに基づいて、異なる規則を定めている。さらに、行動規範は、チャネルと通知を行う人に基づく具体性、およびソーシャルメディアを通じて副作用が会社の知識に来た場合の特別な規則を備えた医薬品安全性監視に関する統一プロトコルを定めている。

④行動規範は、遵守企業の行動規範へのコンプライアンスを監視し、Farmaindustriaに代わってAEPDと連携するために、いわゆる行動規範統治機関(Code of Conduct Governing Body :OGCC)を指定する。OGCCはFarmaindustriaから独立したままである。

⑤行動規範は、GDPRおよびスペイン・データ保護法3/2018(LOPDGDD)に定められた法的規定を損なうことなく、付着した企業に適用される特定の懲戒制度を予見している。

⑥行動規範は、データ主体が遵守企業のいずれかによるデータ保護権の侵害について請求を提起できる自発的で自由な紛争解決システムを確立している。

⑦AEPDまたはスペインの裁判所が審理している場合、侵害請求は認められない。

⑧行動規範は必要に応じて見直される。いずれの場合も、行動規範は4年ごとに見直され、(該当する場合は)更新されるものとする。

2.2022年12月28日、スペインAEPDは臨床試験と医薬品安全性監視(pharmacovigilance)」に関するEUの行動規範に関する欧州製薬産業協会連盟(「EFPIA」)の提案との間の相互作用に関する声明を発表

AEDPサイトの解説を補足しつつ、以下で仮訳する

 一部の手続き上の側面を除き、2022年12月4日の勅令1090/2015(注5)の承認を通じて、ヒト用医薬品の臨床試験に関する欧州委員会実施規則(EU)503/2014(注6)の効果的な適用を予想するスペイン政府のイニシアチブにより、現在の規則(EU)2016/679:GDPRの枠組み内での個人データの処理に関連する当該規範の影響に関する実践的な経験を積むことができた。 EU一般データ保護規則(GDPR)、およびCOVID-19パンデミック時の臨床試験開発のための革新的なソリューション、特にその中で、パンデミック後の使用の基礎として経験が役立った臨床試験のリモートモニタリングプロトコルが際立っている。

  これらの影響は、とりわけ、臨床試験におけるデータ処理の法的根拠、それらに関与する保護監督機関の法的立場、データ処理の様式、積極的責任の原則の保証、および第三国へのデータの国際転等、一般データ保護規則の本質的な問題に関連する。

 この経験は、Farmaindustriaの行動規範を精緻化するための出発点として役立った。スペイン・データ保護機関(AEPD)による行動規範の承認、欧州データ保護会議(EDPB)の意見3/2019 (注7)の基準に従った利害関係者に通知するための取り決め等データ処理の法的根拠に関する規定を組み込んでいる。臨床試験の参加者の法的立場、スポンサー、研究者、保健センターを治療の共同管理者ではなくそれぞれの管理者として認定し、データ処理者として参加するその他の者の法的立場、彼らの選択と活動の発展に対する適切な保証を組み込んでいる。スポンサーによる再識別を回避することを保証する識別データをコーディングするための手順を定義している。特にデータ保護の影響評価とセキュリティ違反に関する積極的な責任の原則の遵守の保証、および第三国への国際的なデータ転送の実現の保証する。

  また、一般データ保護規則(GDPR)に従って行動規範に組み込まれた場合、実用的かつ透明な方法でその正しい適用に貢献する付加価値を組み込むそれらすべてを規定し、遵守された事業体による当該基準の規定への準拠の推定をサポートする。

 このAEPDのイニシアチブに続いて、欧州データ保護会議によって有利に統治され、管轄のEU加盟国の保護監督当局によって承認された後、欧州連合のすべての加盟国に適用される、ファルメインダストリアの行動規範を遵守することの有用性について疑問を投げかけたかもしれない状況においてこの分野における欧州レベルまたは国境を越えた行動規範の精緻化が促進された。

 これら2つのイニシアチブの相互関係に関する情報を提供するために、欧州行動規範の提案の議論において、AEPDはFarmaindustriaの行動規範に組み込まれた基準を維持し、必要に応じて欧州データ保護会議の意見に従って採用される最終承認まで、その適用を独自の条件でサポートすることに注意すべきである。

 また、欧州法典(GDPR)が、上記の欧州委員会の意見3/2019の基準に従ってFarmaindustria行動規範に含まれるもの以外の臨床試験の他の法的根拠を選択した場合、欧州データ保護会議がスペインの健康研究の規制は行動規範の基準への適応を可能にする、それに適用される幅広く柔軟な法的根拠を検討していることを示したい。この場合、それが発生した場合、AEPDは、Farmaindustriaによる行動規範の適応に関連する基準を、行動規範自体に規定されているように発生する可能性のある解釈上の新規性を促進する予定である。

 これとは別に、EFPIAは過去数年間、臨床試験と医薬品安全対策(pharmacovigilance)に関するEUの行動規範に取り組んでおり、現在、監督当局と欧州データ保護会議(European Data Protection Board:EDPB)によって検討されている。この規範はEU全体に適用されるため、EU加盟国で活動している製薬会社はこの規範を遵守することになる。

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(注1)AEDPについて筆者ブログの注2参照。

(注2) EFPIA 行動規範から抜粋、仮訳する。

 「EFPIA 行動規範は、医療従事者 (HCP) への医薬品の販売促進、および HCP、医療機関 (HCO)、および患者団体 (PO)とのやり取りについて、EFPIA メンバーによって合意された倫理規則の集まりであり、以下を保証することを目的としている。これらの活動は、プロフェッショナリズムと責任に関する最も厳格な倫理原則を尊重しながら実施される。

 また、COVID-19: EFPIA および IFPMA-PhRMA の倫理ガイダンスにつき次のとおり、引用している。

COVID-19 パンデミックの間、EFPIA とそのメンバーは、EFPIA 行動規範要件に完全にコミットし続けた。我々は、競争法、データ保護法、贈賄禁止条項(Anti-Bribery)法、汚職防止(Anti-Corruption)法など、適用される法律や規則だけでなく、最高の倫理基準を実施し、適用し続けてきた。

贈収賄防止法、腐敗防止法など、適用される法律や規則だけでなく、最高の倫理基準を実施し、適用し続けてきた。」

  なお、欧州製薬団体連合会(EFPIA)Japan サイト(2002 年 4 月に設立された EFPIA Japan には、日本で事業展開している欧州の研究開発志向の製薬企業24社が加盟)を読んだが、行動規範に関する解説はなかった。

(注3) 17 June 2009 the Farmaindustria Standard Code on Personal Data Protection in Clinical Research and Pharmacovigilance (the “Standard Code”) was published and entered in the General Register of the Spanish Data Protection Agency (Agencia Española de Protección de Datos).

(注4) SOPとは、標準操作手順書のこと(標準作業手順書ともいう)。すでに確立した製品仕様と同等の品質の製品を恒常的に製造することを目的に、作業が常に同じように実施されることを保証するために文書化され、承認された手順を指す(ニコン細胞×画像ラボ用語集から抜粋)。

(注5)2022年12 月 4 日の保健・社会サービス・平等省の勅令 1090/2015。薬物を使用した臨床試験、薬物を使用した研究倫理委員会およびスペインの臨床研究登録機関を規制に関するもの。

(注6) 欧州委員会実施規則 (EU) No 503/2014 of 8 of 2014 May 2014 は、原産地呼称保護および地理的表示保護 (Muscat du Ventoux (PDO)) の登録簿に登録された名前の仕様に対する軽微な修正を承認する。

(注7) 臨床試験規則 (CTR) と一般データ保護規則 (GDPR) の間の相互作用に関する質問と回答に関する意見書 3/2019である。

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アイルランドのデータ保護委員会がMeta Irelandに対する2件の調査の終了および計3億9000万ユーロの罰金や事前同意義務化等を発表

2023-01-08 13:19:24 | 個人情報保護法制

 筆者は2022年12月7日のブログ(その1, その2完 )で2021年9月3日のブログでアイルランドのデータ保護委員会(Data Protection Commission :an Coimisiún um Chosaint Sonraí :以下、DPCという)がEUデータ保護会議(EDPB)の仲裁を経て“Whatsapp”に2億2,500万ユーロ(約325億900万円)の罰金を科す決定を行った旨報じた。同時にDPCが2022年9月15日、Meta Platforms Ireland Limited (Instagram) に4億500万ユーロ(約579億1500万円)の罰金とさまざまな是正措置を課した件、さらに2022 年 3 月 15 日Meta Platforms Ireland Limitedに1,700万ユーロ(約24億3100万円)の罰金を課す決定を採択した事案についても解説した。

 2023年1月4日、DPCはMeta Platforms Ireland Limited(以下、Meta Irelandという)のFacebookおよびInstagramサービスの提供に関連するデータ処理業務に関する2件の調査の終了すなわち合計3億9,000万ユーロ(約549億円)や3か月以内のユーザーの事前同意を得るための施策コンプライアンスを発表した。

 この決定については、わが国メディアでも取り上げられているが、各解説を読む限り欧州メディアの受け売りである。筆者が注目するDPCのみならず原告代表であるプライバシー活動家(オーストリア)のマックス・シュレムス(Max Schrems)氏からの情報等は引用していない。

Max Schrems氏

 筆者なりに調べた結果、具体的に追加すべき重要項目をあげると以下のとおりである。

(1)Meta Irelandに2億1,000万ユーロ(Facebookサービスに関連するGDPR違反)と1億8,000万ユーロ(Instagramサービスに関連する違反)の罰金を科す。

(2)GDPRに基づく苦情のうち1件の告訴は、オーストリアのデータ主体(Facebookに関連して)によってなされた。もう一つは、ベルギーのデータ主体によって作成された(Instagramに関連して)もの。2人のユーザーに代わって、プライバシー活動家(オーストリア)のマックス・シュレムス氏がEU一般データ保護規則(GDPR)の施行時2018年に行った告訴によって引き起こされた。

 本件は、GDPRのワン・ストップ・ショップ(OSS)に基づく国境を越えた告訴の処理問題である。(注)

(3) DPCから付託を受けたEDPBの指示が、EDPB側の行き過ぎを伴う可能性がある限り、DPCは、EDPBの指示を無効にすることを求めるためにEU司法裁判所に取消訴訟を起こすことが適切であると考えている。

(4) 今後3カ月以内にMeta Ireland はユーザーに対し、はい/いいえ (「オプトイン」) の同意オプションを提供する必要がある。ユーザーが同意しない場合、Meta はパーソナライズされた広告にユーザーのデータを使用できない。ただし、この決定は、他の形式の広告 (ページのコンテンツに基づくコンテキスト広告など)を禁止していない。

(5)留意すべき点は、罰金は、原告2人noyb 、または EDPBではなく、アイルランド国に支払われることである。また、DPC は以前の決定草案で 罰金額は2,800万から 3,600万ユーロを要求しており (アイルランドDPCの「2021年10月6日決定草案」 87ページを参照)、現在の最終的な EDPB 決定額の10% にすぎない。

1.2023年1月4日のDPCのMeta Platforms Ireland LimitedのFacebookおよびInstagramサービスの提供に関連するデータ処理業務に関する2件の調査の終了を発表

 以下で、DPCのリリース文を仮訳する。

 アイルランドのデータ保護委員会(DPC)は2023年1月4日、Meta Platforms Ireland Limited(Meta Ireland)のFacebookおよびInstagramサービスの提供に関連するデータ処理業務に関する2件の調査の終了を発表した。(Meta Irelandは以前はFacebook Ireland Limitedとして知られていた)。

 DPCは現在、最終決定を下し、Meta Irelandに2億1,000万ユーロ(Facebookサービスに関連するGDPR違反)と1億8,000万ユーロ(Instagramサービスに関連する違反)の罰金を科した。

 また、DPCはMeta Irelandに対し、3か月以内にデータ処理業務をコンプライアンスに準拠させるよう指示した。

 DPCに対する審問は、FacebookとInstagramのサービスに関する2つの告発に関するもので、それぞれが同じ基本的な問題を提起している。1件の告発は、オーストリアのデータ主体(Facebookに関連して)によってなされ、もう一つは、ベルギーのデータ主体によって作成された(Instagramに関連して)。

 本告訴は、GDPRが施行された2018年5月25日に行われた。

 2018年5月25日より前に、Meta IrelandはFacebookおよびInstagramサービスの利用規約を変更した。また、ユーザーの個人データの処理を正当化するために依存する法的根拠を変更しているという事実にもフラグを立てた(GDPRの第6条1/6(23)に基づき、データ処理は、特定された6つの法的根拠のいずれかに準拠している場合にのみ合法である)。以前は、FacebookおよびInstagramのサービス(行動ターゲティング広告を含む)の提供に関連して、個人データの処理について利用者の同意に依存していたが、Meta Irelandは、処理業務のほとんど(すべてではない)について「契約」の法的根拠に頼ろうとした。

 GDPRの施行後もFacebookおよびInstagramのサービスに引き続きアクセスしたい場合は、既存の(および新規の)ユーザーが[同意する]をクリックして、更新された利用規約に同意することを示すよう求めた。このため、仮にユーザーが同意を拒否した場合は、ユーザーはサービスそのものにアクセスできなくなった。

 Meta Irelandは、更新された利用規約に同意した時点で、Meta Irelandと利用者の間で契約が締結されたと見なした。また、FacebookおよびInstagramサービスの提供に関連するユーザーのデータの処理は、パーソナライズされたサービスおよび行動広告の提供を含む、その契約の履行に必要であり、GDPRの第6条(1)(b)(処理の「契約」法的根拠)を参照して、そのような処理操作は合法であるという立場をとった。

 告訴の申立人は、Meta Irelandの表明された立場に反して、Meta Irelandは実際には、ユーザーのデータ処理の合法的な根拠を提供するために同意に依拠しようとしていると主張した。Meta Irelandは、利用者が更新された利用規約に同意することを条件として、サービスのアクセシビリティを条件とすることで、行動ターゲティング広告やその他のパーソナライズされたサービスのための個人データの処理に同意するよう「強制」していると主張した。これをもって申立人は、これはGDPRに違反していると主張した。

 包括的な調査の後、DPCはMeta Irelandに対して多くの調査結果を行った決定草案を作成した。特に、次のことが判明した。

(1)透明性に関する義務に違反して、Meta Irelandが依拠する法的根拠に関する情報が利用者に明確に記載されていなかったため、利用者は、個人データに対してどのような処理操作が行われ、どのような目的で、GDPR第6条で特定された6つの法的根拠のどれを参照するかについて、十分に明確ではなかった。DPCは、そのような基本的な事項に関する透明性の欠如は、GDPRの第12条および第13条(1)(c)に違反すると考えた。

また、ユーザーの個人データは合法的、公正、透明な方法で処理されなければならないという原則を明記したGDPR第5条(1)(a)の違反にも相当すると考えた。DPCは、これらの規定の違反に関連してMeta Irelandに非常に多額の罰金を提案し、定義された短期間で処理業務を遵守するよう指示した。

(2)Meta Irelandが、個人データの処理の合法的な根拠として利用者の同意に依拠していないことが判明した場合、苦情の「強制的な同意」の側面を維持することができなかった。そこから、DPCは、Meta Irelandの「契約」への依存を、パーソナライズされたサービス(パーソナライズされた広告を含む)の提供に関連してユーザーの個人データを処理する法的根拠を提供するものとして検討した。ここで、DPCはMeta Irelandが同意に依存する必要はないことを発見した。原則として、GDPRは、Meta Irelandが契約の法的根拠に依存することを排除するものではなかった。

GDPRで義務付けられた手続きの下で、DPCによって作成された決定草案は、EU加盟国の関係監督当局(以下、「CSA」)としても知られるEU/EEAの規制当局に提出された。

 Meta Irelandが透明性義務に違反して行動したかどうかという質問について、CSAは、DPCによって提案された罰金を増やすべきであると考えたものの、DPCの決定に同意した。

 EUの47機関のCSAのうち10機関は、DPCの決定草案の他の要素に関して異議を唱えた(そのうちの1つは、Facebookサービスに関連する決定草案の場合、その後取り下げられた)。特に、このCSAのサブセットは、(FacebookおよびInstagramサービスの一部として提供されるパーソナライズされたサービスのより広範なスイートの一部として)パーソナライズド広告の配信が、はるかに限定された契約形態であると言われているもののコア要素を実行するために必要であるとは言えないという理由で、Meta Ireland が契約の法的根拠に依存することを許可されるべきではないという見解を示した。

 DPCは、FacebookとInstagramのサービスには、パーソナライズされた広告または行動ターゲティング広告を含むパーソナライズされたサービスの提供が含まれており、実際に前提となっているように見えるという見解を反映して、同意しなかった。事実上、これらはパーソナライズされた広告も備えたパーソナライズされたサービスである。DPCの見解では、この現実はユーザーと選択したサービスプロバイダーの間で締結された取引の中心であり、ユーザーが利用規約に同意した時点で締結される契約の一部を形成するというものであった。

 CSAとの協議プロセスの後、コンセンサスに達することができないことが明らかになった。このためGDPRに基づく義務に従い、DPCは次に、係争中のポイントをEUデータ保護会議(EDPB)に付託した。

 EDPBは2022年12月5日にその決定を発表した。

 EDPBの決定は、CSAによって提起された異議の多くを拒否した。彼らはまた、メタアイルランドによる透明性義務の違反に関するDPCの立場を支持し、追加の違反(「公平性」原則違反)の挿入と、DPCが課すことを提案した罰金の額を増やすという指示のみを条件とした。

 EDPBは、「法的根拠」の問題についてDPCとは異なる見解を示し、原則として、Meta Irelandは、行動広告を目的とした個人データの処理に合法的な根拠を提供するものとして「契約」の法的根拠に依存する権利がないと判断した。

 2022年12月31日にDPCによって採択された最終決定は、上記のEDPBの拘束力のある決定を反映している。したがって、DPCの決定には、(1)Meta IrelandがFacebookおよびInstagramサービスの一部としての行動ターゲティング広告の配信に関連する「契約」の法的根拠に依存する権利がないこと、および(2)「契約」の法的根拠に依存していると主張するこれまでのユーザーデータの処理は、GDPR第6条の違反に相当するという調査結果が含まれる。

 さらに制裁強化の観点から、そしてこのGDPRの追加違反に照らし、DPCはMeta Irelandに科せられる行政罰金の額を2億1000万ユーロ(Facebookの場合)とInstagramの場合は1億8000万ユーロに増額した(これらの罰金の改訂されたレベルは、利用者の個人データの公正かつ透明な処理に関するMeta Irelandの義務違反に関するEDPBの見解も反映している)。

 Meta Irelandは、3か月以内に処理業務をGDPRに準拠させる必要があるというDPCの既存の要件は維持された。

 これとは別に、EDPBはDPCに、FacebookとInstagramのすべてのデータ処理操作にまたがる新たな調査を実施し、それらの操作のコンテキストで処理される場合と処理されない場合がある特別なカテゴリの個人データを調査するように指示したと主張している。DPCの決定には、当然のことながら、拘束力のある決定においてEDPBによって指示されたすべてのFacebookおよびInstagramのデータ処理操作の新たな調査への言及は含まれていない。

 EDPBは、国内の独立当局に関して国内裁判所のような一般的な監督の役割を持たず、EDPBが当局に自由で投機的な調査に従事するように指示および指示することは開かれていない。その場合、方向性は管轄権の観点から問題があり、GDPRによって定められた協力と一貫性の取り決めの構造と一致していないようである。EDPBの指示がEDPB側の行き過ぎを伴う可能性がある限り、DPCは、EDPBの指示を無効にすることを求めるために、EU司法裁判所に取消訴訟を起こすことが適切であると考えている。

2.noyb (Max Schrems氏が代表)が公表した重要な事実と法解釈問題:

 noybサイトの解説文の主要部を仮訳する。

 2018年5月25日(GDPRが適用された日)にオーストリアとベルギーのユーザーに代わってnoybによって提出された2つの告訴状は、2023年1月4日最終決定された。アイルランドDPC の電子メールによると、ドイツのユーザーに代わって WhatsAp に寄せられた 3人回目の苦情は、2023年1月中旬に延期された。

 そもそもMeta Irelandは、広告の利用規約に条項を追加することで、GDPR の同意要件を「回避」しようとした。2022年12月、欧州データ保護委員会(EDPB)は、Meta Irelandによる GDPR の回避は合法であるという見解を示したアイルランドの DPC による以前の決定草案を覆した。

 今回のDPC最終決定では、Meta Ireland が「契約」に基づく広告に個人データを使用してはならないことが求められてる。したがって、Meta Irelandはユーザーに対し、はい/いいえ (「オプトイン」) の同意オプションを提供する必要がある。同意しない場合、Meta はパーソナライズされた広告にユーザーのデータを使用できない。ただし、この決定は、他の形式の広告 (ページのコンテンツに基づくコンテキスト広告など) を禁止していない。

 2018 年 5 月以降、Metaの個人データの使用は違法状態であった。Facebook と Instragram に対する罰金は合計3億9000万ユーロであるが、並行処理中の WhatsApp に対する追加の罰金が予想される。

 留意すべき点は、罰金は、原告2人 noyb 、または EDPBではなく、アイルランド国に支払われる点である。また、アイルタランドDPC は以前の決定草案で 罰金額は2,800 万から 3,600 万ユーロを要求しており (アイルランドDPCの「2021年10月6日決定草案」 ページを参照)、現在の最終的な EDPB 決定の 10% にすぎない。

 DPCと Metaは協力したが、EDPBによって却下された。手続きの過程で、Meta はDPCとの延べ10回の機密会議に依存しており、DPC は Metaにこの「バイパス」の使用を許可した。後に、DPC がMetaの利益のために、関連する EDPB ガイドラインに影響を与えようとしたことさえあることが明らかになった。それにもかかわらず、他のEU加盟国のDPA(CSA)は、2018年に内部で、2019年のガイドラインで、そして 2022 年 12 月の最終的な EDPB 決定において単純な法律問題としてDPCの見解を拒否した。

DPC最終決定の結果・影響:

 パーソナライズされた広告がなくなり、Metaの収益が減少する。この決定は、Metaが、広告に個人データを使用しないすべてのアプリのバージョンをユーザーが3か月以内に使用できるようにする必要があることを意味する。今回のDPC決定により、Meta は非個人データ (ストーリーのコンテンツなど) を使用して広告をパーソナライズしたり、「はい/いいえ」オプションを介して広告への同意をユーザーに求めることが引き続き許可されるが、ユーザーはいつでも同意を撤回できることとする必要があり、ユーザーが「いいえ」を選択した場合、Meta はサービスを制限することはできない。これにより、EUでの Meta の利益は大幅に制限されるが、広告を完全に禁止することにはならない。

 DPC は、原告と一般市民からの決定を検閲し、Meta と DPC がメディアの記事内容を制御することを保証する。驚くべき動きとして、DPC は2023年1月4日、noybに対し、手続きの 2つの当事者の 1人であるにもかかわらず、DPC 決定を正式にnoybに公開しないと通知してきた。その理由としてDPC は突然、今回の決定の「守秘義務」を理由として挙げた。今回の決定は後の段階で原告に通知されるべきであり、上訴の期限が過ぎた後でも可能である。このDPCの行為は、DPC による公開前に当事者が決定を受け取るという DPC による以前の情報原則に反するものである。

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(注) 筆者ブログの(注1)がOSS の詳しい解説: GDPRの個人データの越境処理のワンストップ・ショップ(OSS)・メカニズム(ワンストップ・ショップ条項)の解説参照。また、アイルランドDPCのOSS解説も詳しい。

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アメリカの成人教育制度は壊れているのか、教育専門家がそれを修正できるのか、各州が取り組むその具体的方法とは!

2023-01-05 18:30:44 | 国家の内部統制

 筆者の手元にプロ・パブリカ(Pro Publica)(注1)からきわめて興味深いニュースが届いた。筆者はAnnie Waldma; Aliyya Swaby; Anna Clarkの3氏。

Annie Waldma 氏

Aliyya Swaby 氏

Anna Clark 氏

 米国の成人教育問題につき公的メデイアかつ世界的に著名なプロ・パブリカらしい優れた解析力のあるレポートである。

 米国の義務教育問題の現状と学習障害等の取組課題等を広く各州等の専門家から取材するなど鋭くえぐった内容であるが、これらはわが国でも解決すべき重要課題でもある。

 これに類したわが国のレポートがないがゆえに、本ブログで取り上げた。

(1)米国の成人教育制度は壊れているのか

 米国の教育専門家は、国家システムを改善するためにはより多くの資金が重要であると言う。多くの州は、限られた資金にもかかわらず、創造的な解決策を開発した。

 要救済者は彼らは学習障害でも必要な助けを得ることができなかった。また、彼らは英語を読む能力なしに、この国(米国)に来た。さらに、国は彼らに最も重要なスキルを教えることに失敗したまま学校を卒業させた。

 国立教育統計センター(National Center for Education Statistics)によると、時には重複する多くの理由で、4,800万人のアメリカ人成人が基本的な英語を読むのに苦労している。それは、1)彼らがまともな仕事を見つけて維持すること、2)街の通りの看板をナビゲートすること、3)医学的指示に従うこと、そして、4)投票することができないままにするかもしれない。さらに、5)彼らは詐欺に対して脆弱であり、汚名と恥に直面している。

 利用可能な主な救済策は無料の成人教育クラスである。 そこでは彼らが彼らの読書力を改善し、高校卒の資格を得ることが可能となる。

 しかし、成人教育のためのインフラは非常に不十分であり、プロ・パブリカの調査によると、米国の識字率が一貫して低いことが明らかになっているように、政府の努力は問題に対処するのに十分ではない。全米の約500の郡は、成人の3分の1近くが基本的な英語を読むのに苦労しているホット・スポット(犯罪多発地区)である。これは不均衡な不完全雇用の一因となる。識字率の低いコミュニティでは、多くの場合、経済投資が少なく、課税ベースが小さく、公共サービスに資金を提供するためのリソースが少ない。

 「なぜ人々が最初に教育を受けなかったのかに関係なく、今すぐ教育を受けられるようにすることが我々の最善の利益である」と、成人教育と労働力政策に焦点を当てている全米技能(National Skills Coalition)の上級研究員であるアマンダ・ベルクソン・シルコック(Amanda Bergson-Shilcock)氏は述べている。

Amanda Bergson-Shilcock 氏

 プロ・パブリカは、成人教育を改善するための最良のアイデアのいくつかについて、専門家、学生、教育者にインタビューした。多くの専門家は、国のシステムを改善するためにより多くの資金が重要であると述べているが、多くの州は限られた資金にもかかわらず革新的方法を開発した。成人が識字率の低さを克服するのを助ける方法はあり、その助けをより広く利用できるようにすることは、個人と彼らのコミュニティの両方にとって、より大きな問題を解決するであろう。

(2)識字能力が最も低い大人にもっと注意を向けるべきである

 厳格な連邦基準により、州は成人学生にできるだけ早く高校卒の資格を取得するように促している。より多くの時間を必要とする学生は、そのようなシステム下で「もがき苦しむ(flounder)」になる可能性がある。「学生を基本的なレベルに導くのはとても難しい。彼らは非常に多くの課題を抱えている」と、ミシシッピ-州のランキン郡学区の成人教育を指揮するアンドリュー・ストレロー(Andrew Strehlow)氏は述べた。

Andrew Strehlow氏

 着実な学業成績の期待は、成人学生、特に10年以上教室で学んでいない学生にとって難しい場合がある。「義務教育6年生のレベル(sixth-grade level)(日本の小学6年生)で読んでいて、高校生までの残り6年間で3か月の荷造りをしていると誰かが言った場合、それは義務教育プログラムの終わりだからである。(注2) 現実的に、何人がそれを達成しているか? 誰も達成していない」と、デトロイトのセント・ビンセント・アンド・サラ・フィッシャーセンター(St. Vincent and Sarah Fisher Center in Detroit)を率いるダイアン・ルノー(Diane Renaud)氏は指摘した。調査によると、一部のプログラムは、苦労している生徒をクラスから追い出すことにさえ行っていた。

 また、一部のプログラムは、学生により多くの1対1のサポートを提供することに重点を置いている。例えば、ラスベガスのクラーク郡図書館地区は、各生徒に、高校の資格に向けて取り組むときに電話をかけ、励ますコーチと協力する機会を提供していた。図書館の識字サービス・マネージャーであるジル・ハーシャ(Jill Hersha)氏は、プログラムの学生の多くはホスピタリティ業界で何年も働いていて、職を失ったと述べた。「しかし、彼らは永遠に学校にいなかった」と彼女は述べた。コーチは、彼らが目標を定義し、一歩一歩前進するのを助けた。

(3)特に農村部での成人教育クラスの可用性と柔軟性を高める

 プロ・パブリカは、国の大部分に成人教育クラスがなく、住民はプログラムに登録するために数十マイル移動する必要があることを発見した。ミシシッピー州では、5郡に約1郡が州が運営するプログラムを欠いていた。ネバダ州の農村部の一部の地域では、人々は仮想クラス(virtual classes)を受講するか、最大70マイルまで運転する必要があった、とエルコのグレートベイスン大学(Great Basin College in Elko)で成人教育を指揮するミーチェル・ラサール・ウォルシュ(Meachell LaSalle Walsh)氏は述べた。都市部でも、授業のスケジュールが合っていないと、参加そのものが難しくなる可能性がある。

 アクセシビリティを高めるために、一部の州では、プログラミングが広大な地域で利用できるようにするためのパートナーシップを開発している。10年前、州の報告書で広大な成人教育システムが調整されておらず、断片化されていることが判明した後、カリフォルニア州はそれを地域のニーズをより適切に評価し、コミュニティグループと協力できる地域コンソーシアムに再構成した。71の地域のそれぞれで、地元のコミュニティカレッジと学区が協力して教材を調整し、プログラム全体で学生に関するデータを収集し、個別のサービスを確実に提供できるようにした。新しい構造は、学生が住んでいる場所に関係なくプログラムにアクセスできるようにするのに役立つ。「アイデアは、その地域内の学生と労働力のニーズを満たすために協力することである」と、同州の成人教育部長であるキャロリン・ザクリー(Carolyn Zachry)氏は述べた。

Carolyn Zachry 氏

(4) 学習障害を持つ成人と協力する方法について教育者を訓練する

 専門家は、成人学生の半数が学習障害を持っていると推定しているが、診断されていない場合もある。多くのプログラムには、これらの学生と協力するためのリソースがない。「彼らは極めて十分なサービスを受けていない」と、アメリカ学習障害協会(Learning Disabilities Association of America)の教育ディレクターであるモニカ・マクヘイル・スモール(Monica McHale-Small)氏は語った。連邦政府のデータによると、全国的には、成人教師の5%未満が特殊教育の認定を受けている。2021年、テネシー州全体で、特殊教育の認定を受けた成人向けの教師は1人だけであった。

Monica McHale-Small氏

 一部の州では、障害を持つ成人と協力する方法を教師に示すための集中プログラムを開発した。ミネソタ州は、ワークショップを提供し、ベストプラクティスに関するプログラムに相談する身体的および非明白な障害支援プログラムに資金を提供している。組織を管理するウェンディ・スウィーニー(Wendy Sweeney)氏は「障害を持つ個人、特に隠れた障害は、開示しない限りわからないし、診断されたことさえないかもしれない。教師がクラスの生徒と協力し、学習を支援するためのいくつかの戦略を持っていることを確認することが重要である」と述べた。

(5)成人教育プログラムにより多くの資金を投資する

 連邦政府は2021年、成人教育のために州に約6億7500万ドル(約891億円)を提供したが、インフレ調整後の数字は20年以上停滞している。また、州も最低額の寄付を義務付けられているが、プロ・パブリカは支出に大きなギャップがあることを発見した。資金が少ないと、リーチの少ない小規模なプログラムにつながる:適格な成人の3%未満がサービスを受けている。「州または連邦レベルでこれらの議員による認識がない場合、彼らは余分なお金を入れないだけである」と、非営利団体の“ProLiteracy”のプログラム・ディレクターであるミシエル・デーケッチ(Michele Diecuch)氏は述べている。

Michele Diecuch氏

 2022年、バージニア州選出の連邦議会下院・民主党ボビー・スコット(Robert C. Scott)氏は、アクセスを拡大し、今後5年間で連邦成人教育予算を3億ドル増やす法案を提出した。下院は2022年春に法案を可決したが、上院で審議されており、すぐに法律になる可能性は低い。

 一部の州では、近年、成人教育への資金提供も増やしている。

 2021年に成人教育から100万ドル以上を削減した後、ジョージア州は次の州予算でその資金を回復することを選択した。また、フルタイムの州職員の給与を5,000ドル引き上げ、すべてではないが一部の成人教育教師を支援している。州議会議員は、資金を増やすために支持者や教育者からの大きなプッシュを必要とすることが多いと、成人基礎教育連合(Coalition on Adult Basic Education)の最高経営責任者であるシャロン・ボニー(Sharon Bonney)氏は述べた。

 さらに「あなたが行う仕事の価値について州知事と話してください。なぜなら、知事がそれに資金を提供する可能性がはるかに高いことを理解しているからである」と彼女は語った。

Sharon Bonney氏

(6) 教員の給与を引き上げ、常勤教員を増やす

 ほとんどの成人教育教師はパートタイムで働くか、ボランティアであるため、離職率が高く、指導に一貫性がない。テネシー州では、スタッフ教師の3分の1以上が認定されておらず、80%以上がパートタイムでしか働いていない(州の労働・労働力省(labor and workforce department)によると、認定されていない教師は成人教育に関するトレーニング・モジュールを受講する必要がある。テネシー州マクミン郡アセンズのテネシー応用技術大学(Tennessee College of Applied Technology)の成人教育コーディネーターであるレスリー・トラビス(Leslie Travis)氏は、より多くのフルタイムの教師と何ができるかを夢見ている。「もっとたくさんのクラスを開くことができた」と彼女は語った。「今すぐ少なくとも6人の教師を雇う必要がある」トラビス氏は、順番待ちの学生を避けるために理想的とは言えない解決策にたどり着いた:25人以上の学生を教室に詰め込んだ。

Leslie Travis氏

 同様に、ネバダ州では、ほとんどすべての成人教育教師がパートタイムで働いており、その半数は認定されていない。「リノとラスベガスでさえ、彼らは人員配置に問題を抱えている」と州の成人教育プログラムの監督者であるナンシー・オルセン(Nancy Olsen)氏は述べた。

 マサチューセッツ州ミネソタ州には、経験豊富な教師が新しい教師を訓練する「トレーナーのトレーニング」プログラムがある。他の州よりも多くの資金を投入しているアーカンソー州では、すべての教師が教育の認定を受け、フルタイムの教師は成人を教えるか、ライセンスに向けて取り組むために特別に認定されている必要があり、非伝統的な学生をサポートする能力を磨く。「さまざまなレベルの成人学習者を教える方法のトレーニングを受けた教師がいる場合、それは本当に違いを生む」とアーカンソー州の成人教育ディレクター、トレニア・マイルズ(Trenia Miles)氏は語った。

(7)生徒がクラスに出席するのを妨げる障壁を克服できるように支援する

 ミシシッピー州出身のロロンダ・マクネア(27歳)は、生まれたばかりの娘の世話をするために11年生で高校を中退して以来、高校の資格を取得したいと考えていた。「あなたはそれを持たずに高給の仕事を得るつもりはありません」と彼女は語った。しかし、仕事と育児の合間に、彼女はクラスに出席するのに十分な時間を確保することができなかった。この夏、教育を再開するために、マクネアはフルタイムで働くのをやめ、学校にいる間子供たちを見ることができる母親と一緒に引っ越さなければならなかった。多くの成人学習者は、安定した育児や交通手段の欠如から仕事の柔軟性の欠如まで、同様の障壁に直面している。教育者は、これらの障害に対処することの重要性をますます認識している。

 ミシシッピー州MIBEST(Mississippi Integrated Basic Education and Skills Training )イニシアティブを作成し、一部の学生に育児、交通機関、食事支援、受験料の支援、キャリアカウンセリングなどのサポートを提供している。しかし、このプログラムは一時的な慈善資金に依存しており、主に最高レベルで入学する学生への支援を指示している。(注3)州の成人教育を監督するミシシッピー・コミュニティ・カレッジ理事会(Mississippi Community College Board)のアシスタントディレクターであるニキナ・バーンズ(Nikitna Barnes)氏は「私たちは、すべての人にそのレベルのサポートを提供するのに十分な資金を持っていなかった」と語った。

(8)教室に戻るために大人を支援する

 キャスリン・イスキ(Kathryn Iski :56歳)さんは、2021年、テネシー州ナッシュビルの成人教育プログラムに、読書と数学の両方の初心者として参加した。子供の頃学校に通っていなかったイスキさんは、何ヶ月も勉強し、読書の複数の学年レベルを上げた。しかし、2022年の6月、ターゲットデリでの宅配仕事で残業が必要になったため、彼女はやめなければならなかった。3か月以上後、彼女は勉強に遅れを取り戻し、追いつくために一生懸命働かなければならなかった。イスキさんのような大人の学生は、仕事のスケジュールと矛盾するとクラスをスキップしなければならないことがよくある。彼らは遅れて、目標を達成するのに時間がかかるかもしれない。

 最も革新的なプログラムのいくつかは、成人教育と実際の仕事を組み合わせて出席を促している。専門家は、連邦および州の資金が不十分なため、これらの機会はまれであると言う。プロ・パブリカの記事は、デトロイトのスキル・フォー・ライフ(Skills for Life)を強調しており、住民に週2日学校に戻るように支払い、残りの3日間は市の仕事をするために住民に支払う。2021年、ジョージア州では、デカルブ郡の衛生部門が、高校の卒業証書を持たない従業員に、会社の勤務時間に仮想クラスを受講する機会を提供した。同部門はまた、資格試験の受験費用をカバーした。「私たちは100%の保持率を持っていた」と、ジョージア・ピードモント・テクニカルカレッジで成人教育を主導し、職場プログラムの開始を支援したメーガン・マクブライド(Meghan McBride)氏は述べた。

Meghan McBride氏

リテラシー ミッドサウスを通じて、1 対 1 の個別指導セッションで読書を上達させる生徒。 申請者は、しばしば何ヶ月にもわたる待機リストに直面する。

(9)移民ステータスに関係なく、すべての学生に教育プログラムを開く

 アリゾナ州やジョージア州を含む少数の州は、成人教育プログラムが文書化されていない人々にサービスを提供するために州の資金を使用することを妨げている。

アリゾナ州は、2006年に有権者によって可決された法律で義務付けられているように、市民権または合法的な居住地の証拠を提供しなかったため、毎年何百人もの人々の登録を拒否している。2010年に申請者が合法的に国内にいることを確認するプログラムを要求する法律を可決したジョージア州では、主に移民と難民にサービスを提供する3つの連邦資金によるグループは、文書化されていない学生を許可しているため、州の資金提供を拒否されている。アリゾナ州の教育省は、この政策が登録やプログラムに与える影響についてコメントすることを拒否した。

 ジョージア州の成人教育副長官であるカヤンナ・グッド(Cayanna Good)氏は、彼らにサービスを提供するプログラムのない文書化されていない移民は亀裂を通り抜けていると述べた。

Cayanna Good氏(前列右)

 これらの州では、英語を学びたい、高校の資格を取得したい、または読解力を向上させたい文書化されていない移民には、選択肢がほとんどなく、無料の選択肢はさらに少なくなる。成人教育の専門家(National Skills Coalition (NSC)の上級研究員)であるアマンダ・ベルクソン・シルコック(Amanda Bergson-Shilcock)氏によると、この決定には代償が伴う。「この場合の『代償』は、教育水準の低い労働者からの収入と税収の損失だけでなく、一部の人々が自分たちの生活や願望は投資する価値がないと明確に言われている二層社会を作り出すための人的コストである。人を教育するための当面のコストは、教育しないことの長期的な社会的コストよりもはるかに安価である」と述べた。

(10) 技術的および学術的な指導を織り交ぜて、人々を仕事に備えさせる

 2000年代、ワシントン州の成人学生はせいぜい高校の資格を取得していたが、生活賃金を支払うさらなる教育や仕事に進んでいなかった。「私たちはパイプラインの上下で人々を出血させていた」と州の成人教育ディレクターであるウィル・ダーデン(Will Durden)氏は語った。そのプログラムは、大学のクラスや就労資格プログラムとのつながりが不十分であった。「あなたはこの間ずっと、関連性がないと思われる数学を学ぶことに費やしている。それはあなたが人生で前進するのを助けるようには見えない。だから学生は中退する」と彼は述べた。

ウィル・ダーデン(Will Durden)氏

 ワシントン州は、高校の卒業証書を持たない成人が学業スキルと職業訓練を同時に追求できるようにする「I-BESTプログラム」を開拓した。2人の教師(1人は読解力と数学のスキルを提供し、もう1人は職業訓練を提供する)が連携して働き、レッスンを文脈に入れ、大人がより早く進歩できるようにする。最近の研究によると、I-BESTの学生は、プログラムを受講しなかった成人の学生よりも技術的な資格を取得する可能性が高かった。ミシシッピー州を含む他の場所で複製されている。

 (11)学童の識字権を保護する

 専門家は、識字率を向上させる最善の方法は、大人になる前に子供たちに上手に読むように教えることだと言う。すべての州憲法には教育を受ける権利が含まれているが、合衆国憲法には含まれていないが、他の170か国が憲法でその権利を確認している。このコミットメントがなければ、子どもたちとその家族は、学校に恐ろしい習熟率の責任を負わせるのに苦労してきた。

 近年、子どもたちに識字能力があるかどうかを争う訴訟がいくつかある。2016年、ミシガン州デトロイトの学生のグループが州を訴え、適切な教育を提供できなかったため、合衆国憲法修正第14条に違反して、有色の低所得の子供たちにほぼ独占的にサービスを提供する地区が読むのに苦労していると主張した。「識字能力は公的および私的生活への参加の基本であり、アメリカの教育の伝統の中核的な要素である」と原告は訴状で述べた。

 連邦判事は当初、「識字へのアクセスは基本的権利ではない」という州の立場に同意して、訴訟を却下した。2年後の2020年、米国第6巡回区控訴裁判所は判決の一部を覆し、学生は「基本的な最低限の教育、つまり基本的なレベルの識字能力を提供できる教育を受ける基本的権利」を持つべきであると宣言した。ミシガン州は約1か月後に事件を解決し、デトロイトの学校の識字プログラムに9,400万ドル(約124 億800万円)の支払いを約束した。

(12)アメリカの成人の5分の1は読むのに苦労している。なぜ我々は彼らに教えないのか?

 全米の学生は、州に憲法上のコミットメントに対する説明責任を負わせるために戦っている。2017年のカリフォルニアでは、学生は識字権を求めて訴訟を起こし、民主主義に参加する人の能力に不可欠であると主張しました。彼らは最終的に州と和解した。ミネソタ州ノースカロライナ州での最近の訴訟も、質の高い教育へのアクセスを主張している。

 「子供たちに読み方を教えられないシステムの弁護はありえない」と、デトロイトとカリフォルニアの両方の訴訟で学生の弁護士であるマーク・ローゼンバウム(Mark Rosenbaum)氏(University of California, Irvine School of Lawの非常勤教授)は述べた。「あなたは学生に識字能力へのアクセスを拒否する。それは皮肉にもコミュニティの権利を剥奪するために開発できる最も効果的な戦略である。」

Mark Rosenbaum氏

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(注1) 米国ニューヨーク・マンハッタンに拠点を置く非営利(NPO)の報道組織。サンドラー財団の設立提案を受けたポール・スタイガー(「ウォールストリート・ジャーナル」の元編集長)が中心となり、2007年10月に発足した。最初の記事発信は2008年6月。

プロパブリカは、長期間にわたる独自取材によって行政や企業の不正・腐敗を明らかにする「調査報道」を専門とする。当局の発表や権力サイドの情報に依存しない調査報道は、古くは「ワシントン・ポスト」によるウォーターゲート事件(1972~73年)が代表で、米ジャーナリズムの真髄と言われてきた。(知恵蔵から一部抜粋)

(注2)「アメリカの教育制度を徹底解説!学校の種類や日本との違い」が詳しく日米比較を行っている。

(注3) ミシシッピー州のコミュニティカレッジ:ミシシッピ州には、15のコミュニティカレッジがあり、年間10万人の学生に250以上のプログラムを提供している。ミシシッピ・コミュニティ・カレッジ理事会(Mississippi Community College Board:MCCB)は、州内のコミュニティカレッジのための支援や調整を担う機関で、専門能力開発センター(Center for Professional Development Center)を通じて、コミュニティカレッジの教職員や管理者向けの様々な研修プログラムを提供している。

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