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2024年秋の米大統領選挙や同年3月の一部裁判の最高裁判決等を控えスピードアップするトランプ裁判の動向と争点

2023-12-26 16:24:45 | 国家の内部統制

 12月に入りトランプ前大統領に関する裁判の動向に関する米国メデイアの報道に動きが顕著になっている。筆者は本ブログで一部取り上げたが、やはり断片的メデイア情報では不十分であり、わが国でも本質的かつ正確な裁判解説が必要と考えた。

 その結果、やはり毎日グローバルな裁判動向を取り上げているピッツバーグ大学ロースクールの提供サイト“JURIST”でかつ同スクールの博士課程にあるローレン・バン(Rauren Ban)の解説記事が最も網羅的かつ正確であると判断した。

Rauren Ban 氏

 そこで“JURIST”の記事からRauren Ban氏の解説を3本抜粋し、以下で補足を加えたうえで仮訳した。なお、同氏を初めトランプ裁判の解説は2024年早々より具体的展開が深まることは違いない。筆者なりに引き続きフォローしたい。

 なお、米国のメデイアだけでなくわが国のメデイアも同様に各裁判所の決定につき一喜一憂している節がある。トランプ陣営における特に2024年11月の大統領選をにらみ最高裁の判決の先延ばしを図っている事実を冷静に受け止め、法的争点を正確に報道するのが法学者やメデイアの責務であろう。

1.連邦地裁判事は2020年の米国大統領選挙妨害事件でトランプ大統領の免責特権の主張を否定 

 2023 年 12 月 2 日付けJURIST解説記事を以下、仮訳する。

 ドナルド・トランプ前米大統領の2020年の選挙妨害事件を管轄する連邦地裁判事は12月1日、トランプ氏は大統領免責特権(presidential immunity)(注1)の主張によって係争中の4件の刑事告発を却下することはできないとの判決を下した。

 米国連邦地方裁判所判事ターニャ・チュトカン(US District Judge Tanya Chutkan)氏は、トランプ氏は米国大統領として「公的な責任の『外周』内で行われた行為に対する刑事訴追の絶対的な免除」を享受しているとするトランプ氏の主張に反論した。 チュトカン氏はその代わりに、「元大統領は連邦刑事責任に関して特別な条件を享受していない」と認定した。

Tanya Chutkan 判事

 トランプ氏は当初、10月5日に大統領の免責に基づいて訴訟を却下する申し立てを提出していた。その申し立ての中でトランプ氏は、大統領として行ったあらゆる公式行為について刑事訴追からの「絶対的免責(absolute immunity)」を享受していると主張した。その議論に基づき、トランプ前大統領は、2021年1月6日の自身の行動(筆者注2)は「大統領としての公式責任の中心」にあると主張した。トランプ大統領は、「検察は選挙の公正性を確保し、それを主張する努力が職務の範囲外であったとは主張しないし、主張することはできない」と主張した。 現連邦政府は10月19日の申し立て(motion)でトランプ前大統領の主張に異議を唱え、これに応じた。

 12月1日の決定の中で、チュトカン判事はトランプ前大統領の法律解釈に同意せず、却下の申し立てを拒否した。

 まずチュトカン氏は、合衆国憲法の解釈は大統領の刑事訴追免除を支持しているというトランプ前大統領の主張に言及した。トランプ氏の主張は、部分的には、合衆国憲法の弾劾判決条項に基づき、自身も議会で弾劾され有罪判決を受けた犯罪でのみ起訴される可能性があるという主張に基づいている。

  チュトカン氏はこの主張に反対し、「憲法の条文には(トランプ氏が)主張する免除を与えるものは何もない」と述べた。 チュトカン氏は、「憲法の起草者や批准者のいずれも、弾劾されて有罪判決を受けない限り、前大統領が刑事免責されることを意図または理解していたという証拠はなく、ましてや弾劾判決条項(Impeachment Judgment Clause)がそのような効果を持つという広範なコンセンサスは存在しない」と説示した。

 また、トランプ前大統領は、「個人責任が大統領の意思決定に与える萎縮効果」や、元大統領が連邦、州、地方当局から刑事訴追される可能性について懸念を表明した。さらにトランプ氏は、大統領がそのような訴追の脅威を知った場合、公務の遂行に気を取られたり、躊躇したりする可能性があると主張した。

 しかし、チュトカン氏は事件の状況を理由にこの懸念を一蹴した。 具体的には、「これらの懸念は、元大統領の連邦刑事訴追という文脈では同じ重みを持たない」と彼女は述べた。 チュトカン氏は自身の所見を支持して、ニクソン政権時代の過去の最高裁判所の判決に言及し、「『誠実で適度な毅然とした』大統領なら、合法的な意思決定の義務を遂行することを恐れることはない」と強調した。

 さらにチュトカン氏は、本事件で大統領の免責を否定すればさらなる訴訟への「水門を開く」ことになるというトランプ大統領の主張には何の根拠もないと判示した。なお、 チュトカン氏が論じたように、この事件に対する大統領免責の適用に関する彼女の決定は、この事件およびこの事件だけに適用される。

 最終的にチュトカン氏は「どの大統領も難しい決断に直面するだろう。意図的に連邦犯罪を犯すかどうかはその中に含まれるべきではない。もし彼女がトランプ大統領の罷免要求を認めれば、「法の尊重を促進し、犯罪を抑止し、身を守り、犯罪者の更生を図る」という米国民の利益が妨げられるだろう」とチュトカン氏は論じた。 こうした理由から、チュトカン氏はトランプ氏の却下申し立てを拒否し、202434日の公判期日に向けての審理の推進を再開した。

 この事件は、トランプ氏が直面している91件の刑事裁判に及ぶ4件の刑事裁判のうちの1件である。 同氏は、2020年の米大統領結果を覆す取り組みを共謀し、それに参加したとして4件の妨害罪で起訴されている。 同氏は2023年8月に無罪答弁(pleaded not guilty)を行い、なお容疑を否認し続けている。(筆者注3)

 

2.1211日、連邦検察は連邦最高裁判所に対し2020年の選挙干渉事件におけるトランプ大統領の免責問題を取り上げるよう要請

  2023 年 12 月 11 日付けJURIST解説を以下、仮訳する。

 連邦検察は12月11日、2020年の米大統領選挙中に選挙干渉を行ったとしてドナルド・トランプ前大統領に対する刑事事件への介入を連邦検察当局に要請した。

 ジャック・スミス特別検察官(Special Counsel Jack Smith)は、トランプ大統領が在任中に犯した犯罪に対する刑事訴追からの絶対的免責権があるかどうかを判断するため、コロンビアD.C.連邦控訴裁判所で現在係争中の控訴を取り上げるよう裁判所に要請したが、地方裁判所は以前この訴えを却下した。

Jack Smith 検事

 スミス氏は控訴裁判所への請願の冒頭で、「この訴訟は私たちの民主主義の中心にある根本的な問題を提起している。 そのため、(トランプ氏の)免責の主張が当裁判所によって解決され、被告の免責の主張が却下された場合にはできるだけ速やかに被告の裁判が進行することが極めて重要である」と述べた。

 この訴訟は現在、2024年3月4日に裁判に進む予定である。しかし、米国コロンビアD.C.控訴裁判所がトランプ大統領の控訴を審理している間は、現在保留中である。 この控訴は、大統領特権に基づいて訴訟を却下するというトランプ大統領の要請を却下した12月1日のターニャ・チュトカン地方判事の判決に端を発している。

 トランプ前大統領は、合衆国憲法が大統領在職中に犯した行為に対するいかなる刑事責任も免除していると主張し続けている。 またトランプ氏は、同じ容疑ではないものの、すでに米連邦議会下院で裁判にかけられ弾劾されているため、刑事告訴は二重の危険(double jeopardy)に相当すると主張している。

 通常、この訴訟は米国連邦最高裁判所で取り上げられる可能性がある前に連邦控訴裁判所を経る必要がある。しかし、202434日の公判期日で敗訴する可能性に直面し、連邦検察当局は12月11日、控訴手続きの迅速化を求めた。「米国はこれが異例の要請であることを認識している」とスミス氏は控訴裁判所への請願書に書いた。

 そこで、その理由に関しスミス氏は次のように説明した。

 「以下の決定に対する控訴審理が控訴裁判所で通常の手続きを経て進められた場合、審査のペースによっては最終決定が得られるまでに何か月もかかる可能性がある。 たとえ判決が早く下されたとしても、そのような判決のタイミングによっては、連邦最高裁判所が今会期中に審理し判決を下すことができない可能性がある。」

 すなわち、連邦最高裁判所の会期は2023年10月に始まり、判事は通常、裁判所の判決の大部分が発表される6月か7月まで勤務することが予想されている。

 トランプ大統領は現在、この事件で4つの刑事訴追を受けており、2024年3月4日にコロンビアD.C.控訴裁判所で陪審裁判が行われる予定である。本件は、前大統領が直面している4つの刑事事件のうちの1つであり、その範囲は連邦および州の刑事告訴数が91件に及ぶものである。

3.米連邦最高裁判所、連邦選挙干渉事件におけるトランプ前大統領の免責請求の迅速な審理を否定する決定

 2023年12月22日のJURISTの解説を以下、仮訳する。

 米国連邦最高裁判所は、ドナルド・トランプ前大統領の「大統領の絶対的免除(absolute presidential immunity.)」の主張の審理を促進するよう求めるジャック・スミス特別検察官(Special Prosecutor Jack Smith)の要求を却下した。 この動きは、スミス被告が12月11日にトランプ氏に対する2020年の選挙干渉訴訟でこの問題を取り上げるよう連邦最高裁判所に要請した後に行われた。

 最高裁判所は短い命令の中で、「判決前の裁定令状の申し立ては却下される」と述べた。 判事らは同決定の理由を示さず、反対意見もなかった。 この決定は、訴訟が通常の上訴手続きを通じて進められることを意味する。 現在、米国コロンビアD.C.巡回区控訴裁判所で係争中であり、2024年1月9日に弁論に進む予定となっている。

 以前、スミス氏は最高裁判所に対し、2024年3月4日の公判期日を維持するために事件の審査を迅速化するよう要請していた。 トランプ前大統領がターニャ・チュトカン地裁判事(District Judge Tanya Chutkan)の判決に対して控訴している間、この事件の一審裁判所でのすべての審理手続きは一時停止されている。

  12月1日、チュトカン判事は、トランプ氏がこの件で直面している4つの刑事告発について大統領の免責特権がないことを明らかにした。 スミス氏は最高裁判所への提出文書で、「(トランプ氏の)免責の主張が当裁判所によって解決され、被告の免責の主張が却下された場合には可能な限り迅速に被告の裁判が進行することが極めて重要である」と主張していた。

 スミス氏の申し立てに応じて、トランプ氏は裁判所によるこの問題の審査を迅速化するよう求めるスミス氏の要求に反発した。

 トランプ前大統領は、この事件は公的に重要であるからこそ、「猛スピードではなく、慎重かつ熟慮した方法で解決」されるべきだと主張していた。

 トランプ氏は自身のソーシャルメディアプラットフォーム「トゥルース・ソーシャル」で連邦最高裁判所の12月22日(金)の決定を称賛した。

 今回、スミス特別検事は連邦最高裁判所に対し、トランプ大統領の大統領免責請求の審査を迅速化するよう要請すると同時に、コロンビア特別区巡回裁判(D.C. circuit)に対し控訴手続きの迅速化も要請した。 DC巡回控訴裁判所は12月13日に手続きを迅速化することに合意していた。つまり、この問題に関する両当事者の準備書面(brief)(筆者注4)は2023年12月末までに提出される予定となっている。

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(筆者注1) 大統領免責特権(presidential immunity)につきFind Law の解説を以下、仮訳する。

 合衆国憲法は、刑事訴訟や民事訴訟からの大統領の免除について直/接議論していない。 その代わりに、この特権は、最高裁判所による第 2 条第 2 項第 3 項の解釈を通じて、時間の経過とともに発展してきた。

 大統領は、上院の休会中に発生する可能性のあるすべての空席を、次の会期終了時に期限切れとなる委員会を付与することによって補充する権限を有する。

 トランプ政権の元当局者が議会の調査で召喚されたため、大統領免責の考え方は近年メディアの大きな注目を集めた。 しかし、この法理論は 1860 年代にまで遡る。(以下は 略す)

(筆者注2) 2020年大統領選挙で第45代米国大統領ドナルド・トランプ氏が敗北してから2か月後の2021年1月6日水曜日の午後早く、彼の支持者の暴徒が米国議会議事堂を襲撃した。 ワシントンD.C. 暴徒は、議会合同会議が次期大統領ジョー・バイデンの勝利を正式に認定するための選挙人投票の集計を阻止することで、トランプ大統領の権力を維持しようとした。 この事件を調査した下院特別委員会によると、この攻撃は選挙を覆すためのトランプ大統領の7つの計画の集大成であった。

 事件の直前、最中、あるいは直後に5人が死亡した。1人は国会議事堂警察に射殺され、もう1人は薬物の過剰摂取で死亡、3人は自然死であり、その中には自然死と判断された警察官も含まれていたが、検視官もこう述べた 「起こったすべてのことが彼の状態に影響を及ぼした」と述べた。 警察官138名を含む多くの人が負傷した。 この攻撃に対応した警察官4名が7か月以内に自殺で死亡した。 2022 年 7 月 7 日の時点で、攻撃者による金銭的損害は 270 万ドルを超えている。(Wikipediaを抜粋、仮訳した )

(筆者注3) ドナルド・トランプ前米大統領は8月3日、ワシントンのコロンビアD.C.の連邦裁判所で4件の刑事告発について無罪答弁を行った。この容疑は、トランプ氏が2020年大統領選挙への介入を共謀したとされる8月1日に開封された起訴状に端を発している。

 トランプ前大統領は、4つの連邦刑事告訴の罪状認否のため、個人弁護士とともにモクシラ・ウパディヤヤ連邦地裁判事(Magistrate Judge Moxila A. Upadhyaya)に出廷した。 トランプ氏は、(ⅰ)米国連邦政府に対する詐欺の共謀(conspiracy to defraud the US government)、)(ⅱ)公的手続きの妨害の共謀、公的手続きの妨害と妨害の試み(conspiracy to obstruct an official proceeding, obstruction of and attempt to obstruct an official proceeding)、および(ⅲ)米国の有権者の投票権に対する共謀(conspiracy against US voters’ civil rights)について無罪を主張した。 これらの罪状にはそれぞれ、最高で5年、20年、20年、10年の拘禁刑が科せられる。(JURIST解説から抜粋、仮訳した)

(筆者注4) 裁判のさまざまな段階で提出される、訴訟の論点を明らかにして自らの立場を有利に運ぶための書類を指す。

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二ューヨーク州上訴裁判所は民事詐欺裁判でトランプ前大統領が申し立てた(法廷で審議中の事柄の)発言禁止令を支持

2023-12-19 14:43:45 | 国家の内部統制

 筆者の手元にピッツバーグ大学ロースクールの2024学年度法務博士課程(J.D. Candidate)(筆者注1)ローレン・バン(Lauren Ban)氏のJURISTレポートが届いた。専門家がゆえに原データとのリンクがしっかりできており、わが国でも参考になりうる法律レポートといえる。

Lauren Ban氏

 筆者は、かつてトランプ裁判自身、トランプ氏の身内や一族、支持グループに関する民事、刑事裁判に関して、2022年8月27日のブログおよび同年11月7日のブログで具体的に取り上げた。

 ニューヨーク州上訴裁判所は12月14日、裁判所が行った「発言禁止令(緘口令)」(gag order)を覆そうとするドナルド・トランプ前大統領の申し立てを却下した裁判決定の専門家向け解説である。この決定についてはCNN等が訳文記事で概要を報告している。

 しかし、この問題はそう簡単ではない。例えば、記事に出てくる①「箝口(かんこう)令(または緘口令・接近禁止命令)」とは具体的に何か、②上訴裁判所(ニューヨーク州の最上級審)の同州の裁判制度の構造とは・位置付けは、③トランプ氏の金融詐欺を巡る民事訴訟(筆者注2)の具体的中身とは等である。

  さらに本ブログを執筆中にピッツバーグ大学ロースクールの記事や米国主要メデイア記事で12月15日、米連邦陪審、名誉毀損訴訟でルディ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani)氏に計1億4,800万ドル(約210億1600万円))の支払いを命じる決定という情報を得た。

 今回のブログは、(1)二ューヨーク州上訴裁判所は民事詐欺裁判でトランプ前大統領が申し立てた発言禁止令を支持判決の経緯と内容、(2) 米連邦陪審、名誉毀損訴訟でルディ・ジュリアーニ氏に計1億4,800万ドル(約211億1600万円))の支払いを命じる陪審決定評決の概要を整理する。

1.ニューヨーク州の裁判制度の解説

 筆者は2021年2月27日「わが国および海外主要国の裁判制度および法令・判決等の調べ方・ガイダンス-判例検索システムのAI化を探る-(その3)」でかつて取り上げた。ただし、巻末で「次回以降、DISTRICT COURT、FAMILY COURT、SURROGATE'S COURT、Town and Village Courts 等に続く」と記したが、筆者の都合で中断している。

 機会を見て追加したい。

 2.Lauren Ban氏のJURISTレポートの仮訳

 トランプ前大統領と彼の一族の事業に対する州の民事詐欺裁判において、下級裁判所の判事によって科されたもの。控訴手続きは継続中だが、民事裁判は12月13日に結審した。12月15日、トランプ前大統領は12月14日の判決に対して州の最高裁判所(New York Supreme Court)であるニューヨーク上訴裁判所(New York Court of Appeals.)に控訴する意向を示していた。

 ニューヨーク州最高裁判所の4人の裁判官からなる合議体は、短い命令の中で、トランプ氏の上訴は民事詐欺裁判を監督するアーサー・エンゴロン(Arthur F.Engoron)判事(筆者注3)が発した「緘口令と法廷侮辱命令(Contempt Orders)(筆者注4)に異議を申し立てるための適切な手段」に依存していないと判断した。

Arthur F.Engoron判事

 トランプ氏は、個人が裁判官の作為または不作為に異議を申し立てることを認めているニューヨーク州第 78 条に基づいて控訴していた。すなわちトランプ前大統領は、エンゴロン判事の10月3日の緘口令とその後の追加命令に異議を唱えようとした。この緘口令により、トランプ氏と弁護士らは「法廷内外を問わず、裁判官スタッフに言及するいかなる公的声明」も禁じられた。この命令を出した後、エンゴロン氏は、緘口令の条件に違反したとしてトランプ氏を 2 回侮辱罪で告訴し、また前大統領に総額15,000ドル(約218万円)の罰金を科した。

 トランプ氏は、自身に対する緘口令は 米国憲法修正第 1 および ニューヨーク州憲法第 1 条第 8 節(Article I - Bill Of Rights Section 8 - Freedom of speech and press; criminal prosecutions for libel) (筆者注5)に基づく自身の権利を侵害していると主張した。同法廷は緘口令の重大さについてはトランプ大統領と意見が異なっているようで、この令の限定的な性質がトランプ大統領と彼の言論の自由の権利に害を及ぼす可能性は非常に小さいと説明した。 裁判所はまた、エンゴロン判事の命令は「通常の上訴手続きを通じて検討可能」であるため、トランプ大統領が第 78 条(筆者注6)の手続きに依存したのは見当違いであると認定した。

 トランプ夫妻とトランプ一家等に対する民事詐欺裁判は、11週間と47人の証人(トランプ氏自身を含む)を経て、12月13日についに結審した。 2022年9月、ニューヨーク州司法長官レティシア・ジェームス(Letitia James)は、トランプ夫妻がより有利な融資金利と減税を得るために金融詐欺に関与したと非難した。裁判が始まる前に、エンゴロン判事は、2011 年早い時期にトランプ夫妻がさまざまな事業資産の財務評価について嘘をつき、1980 年代に遡って詐欺を行っていたことを明らかとした。

Letitia James 氏

 エンゴロン氏は、この事件の残りの 6 つの罪状についてさらに評決を下さなければならない。この事件は裁判官裁判(bench trial)として行われたため、エンゴロン氏は裁判官と陪審員の両方を務めた。判決は2024年初めに下される予定である。

 トランプ氏は、91 件の連邦および州法にもとづく罪状に及ぶ、4 件の刑事訴訟に個別に直面している。事件の 1 つは、2020 年米国大統領選挙の結果を覆すために共謀したと主張しており、米国連邦最高裁判所以来注目を集めている。同裁判所は、「大統領の絶対的免責(absolute presidential immunity)」というトランプ大統領の主張を審理することに同意した。12月15日、著名な法学者と「法の支配協会(Society for the Rule of Law)」)関係者のグループは、法廷準備書面を通じてトランプ氏の主張を却下するよう裁判所に促し、「大統領の免責特権が最もしてはならないことは、再選に敗れた大統領を勇気づけて、公的行為その他を通じて犯罪行為に従事させることである」と述べた

3.米連邦陪審、名誉毀損訴訟で元トランプ弁護士ルディ・ジュリアーニ氏に計14,800万ドル(2111600万円)の支払いを命じる

  ピッツバーグ大学ロースクールのセレステ・ホール(Celeste Hall)氏のレポート及びPOLITICO記事を併せ仮訳する。

 米連邦陪審は12月15日、2020年ジョージア州大統領選挙の結果を改ざんしたとして母親ルビー・フリーマン(Ruby Freeman)と娘ワンドレア(シエイ)・モス(Wandrea (Shaye) Moss)を告発した元トランプ弁護士(元ニューヨーク市長)ルディ・ジュリアーニ(Rudy Giuliani)氏に対し、彼女らに計1億4,800万ドル(210億1600万円)の民事損害賠償を評決で支払うよう命じた。

 ワシントンD.C.の住民8人からなる陪審は、ジュリアーニ氏から名誉毀損を受けたとしてルビー・フリーマン氏と娘のシェイエ・モス氏にそれぞれ約1600万ドル(約22億9585万円)、ジュリアーニ氏の申し立てに続いて脅迫や嫌がらせ、専門職による大量の脅迫を受けた後に経験した精神的苦痛に対してそれぞれ2000万ドル(約28億6982万円)の賠償を命じた。

 また同陪審は、ジュリアーニ氏が今後同様の中傷行為に参加するのを阻止することを目的とした「懲罰的」損害賠償金として7,500万ドル(約107億6180万円)を支払わなければならないとの判決を下した。

POLITICO記事から抜粋

 

母Ruby Freeman氏と娘Wandrea (Shaye) Moss氏(MSNBC動画画像から一部抜粋)

 2023年夏、連邦判事はジュリアーニ氏が名誉毀損(defamation)、精神的苦痛を意図的に与えたこと(intentional infliction of emotional distress)、およびそれらの不法行為を行う民事共謀(civil conspiracy)(筆者注7)の罪で有罪と認定した。 ジュリアーニ氏は判決後もフリーマン氏とモス氏に対する軽蔑的なコメントを続け、彼らが不正に選挙結果を改変したとの主張を強めた。 ジュリアーニ氏は、原告側が自身のオンラインでのコメントが損害の「直接の原因」であることを証明しておらず、訴訟を十分に主張していないと主張し、12月初旬までこの判決を争った。今回、 コロンビア地区連邦地裁ベリル・ハウエル(Beryl A.Howell)判事はこれらの上訴のそれぞれを却下した。

Beryl A. Howell 判事

 ジュリアーニ氏は、この決定に対して今後も闘い続けると述べた。 彼の弁護士は損害賠償額の減額を求めて控訴をまとめている。

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(筆者注1) 法務博士、法務博士、または法務博士(Juris Doctor: JD)は、大学院で入学可能な法律の専門職学位です。 JD は、米国で法律実務を行うために取得される標準的な学位です。他の一部の法域とは異なり、米国では実務に学士号は必要ありません。米国では、オーストラリア、カナダ、その他のコモンロー諸国と同様、ロースクールを修了することで法学博士号を取得できます。 これは、米国では(研究博士号とは対照的に)専門職博士号の学術的地位を有しており、米国教育省の国立教育統計センターでは「PhD – Professional Practice」と表現されています。(Academic Acceleratorの解説から抜粋)

 法務博士 (JD) の学位取得を検討しているのはあなただけではない。 米国では毎年何千人もの人々が法務博士号を取得していますが、われわれの調査によると、彼らはさまざまな理由で法務博士号を取得している。たとえば、他者を助けるため、刺激的な分野で働くため、さまざまな職業への扉を開くためなどである。このページには、法務博士号の概要と、法科大学院への進学計画に使用できるリソースが含まれている。

 法務博士の学位は、法律学習における「第一学位」とみなされる。 言い換えれば、米国で弁護士として活動したい場合は、ほとんどの場合、法務博士の学位が必要になる。 しかし、JDは弁護士になりたい人だけが取得するわけではない。 法務博士号を取得して法律図書館司書になったり、学術界に入ったり、コンサルティング業界に就職したりする人もいる。 政治に参入したい場合や、権利擁護の活動をしたい場合にも役立つかもしれない。

 法務博士の学位は、ABA 認定のロースクール、ABA 認定されていない学校、およびカナダおよびその他の世界の多くのロースクールによって提供される。

 米国では、JD プログラムへの入学には学士号が必要であり、 他の国では入学要件が異なる。さらに、各学校には独自の一連の要件がある。効率的に申請できるように、学校が何を要求しているかを必ず理解されたい。

 JD プログラムのほとんどは 3 年間のフルタイム・プログラムであるが、ただし、多くの法科大学院では、修了までに約 4 年かかるパートタイム・プログラムを提供している。(アメリカ・ロースクール入学判定協議会(Law School Admission Council: LSAC)サイトを仮訳)

(筆者注2) 2023.11.7付けのBBC記事(日本語版) (英字版)等が参考になろう。

(筆者注3)アーサー・エンゴロン(Arthur Engoron)判事の略歴

(筆者注4) 法廷侮辱または裁判所侮辱(さいばんしょぶじょく、英: contempt of courtまたは単にcontempt)とは、裁判所またはその職員に対する、反抗的な、または敬意を欠く非違行為であって、裁判所の権能、正義および権威に反抗しまたはこれを毀損する態様で行われるものをいう。(Wikipedia から抜粋)

(筆者注5) 「ニューヨーク州憲法 第 1 条 権利章典 第 8 節 - 言論および報道の自由、 名誉毀損に基づく刑事告訴(Article I - Bill Of Rights Section 8 - Freedom of speech and press; criminal prosecutions for libel )」の仮訳

 すべての国民は、その権利の濫用に対して責任を負いながら、すべての主体について自由に自分の感情を話し、書き、発表することができる。 また、言論や報道の自由を制限したり短縮したりする法律は制定できない。すべての刑事訴追または名誉毀損の起訴では、陪審に対して真実が証拠として提出される場合がある。かつ名誉毀損として告発された事項が真実であり、善意と正当な目的のために出版されたものであると陪審が判断した場合、当事者は無罪となる。 そして陪審は法律と事実を決定する権利を有する。 (2001 年 11 月 6 日の国民投票により修正された)

(筆者注6) 「第 78 条訴訟」とは何か?

 ニューヨーク州民事訴訟法および規則 (New York's Civil Practice Law and Rules :CPLR)第 78 条訴訟は、主にニューヨーク州および地方自治体の当局による行為(または不作為)に異議を申し立てるために使用される訴訟をいう。 第 78 条訴訟は、裁判官、法廷、審議会、さらには法定権限に基づいて存在する民間企業に対しても提起されることがある。

 特に、ニューヨーク労働省の失業保険控訴委員会の決定に対する控訴は例外である。 このような上訴は、ニューヨーク州最高裁判所第三部上訴部に行う必要がある。

 ニューヨーク州では、ほとんどの行政処分に対して第 78 条の手続きが利用可能であるが、特定の上訴手続きがあるかどうかを判断するには、特定の機関または団体を管轄する法律を参照する必要がある。たとえば、不動産法は、固定資産税評価に異議を唱えたい住宅所有者が使用できるプロセスを確立している。(Legal Assistance of Western New York, Inc.の解説を仮訳)

(筆者注7) 民事共謀には 3 つの主要な要素がある。

①個人または団体 (共謀者) のグループが協力して違法行為を行うこと。

② その行為には不法な目的があること。

③他人に危害を加えたり損害を与えたりする行為であること。

 この損害は、経済的損失、人身傷害、または評判の低下として現れる可能性がある。 民事共謀法は、コモンローの原則と法律の規定に由来している。 これらの慣習法の原則は、民事共謀罪の請求の要素、責任、救済を確立する。

 米国の裁判所は、1800 年代後半にこの法的請求を認め始めた。 クランプ対コモンウェルス事件では、バージニア州最高裁判所は、他人のビジネスを弱体化させる計画は有効な法的主張であるとの判決を下した。 この考えは他の州裁判所やその後の連邦地方裁判所でも引用され、広がった。(Find LawのCivil Conspiracyの定義を仮訳)

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米司法機関はバージニア州東部地区地方裁判所でロシアの軍人、ドネツク人民共和国の軍人ら4人に対するロシアによる侵攻後のウクライナでの米国人への拷問等につき米国「戦争犯罪法」に基づく初の容疑で告訴

2023-12-11 13:54:52 | 国防と国家の独立性

 12月6日の連邦司法省リリースは、バージニア州東部地区地方裁判所でロシア軍人やドネツク人民共和国軍人計4人を戦争犯罪容疑で告訴したが、その容疑には、2022年2月のロシアによるウクライナへの全面侵攻後のウクライナでの米国人への拷問、非人道的な扱い、不法監禁が含まれるというものである。

 今回のブログは司法省のリリース内容を概観するとともに、司法省や米国メデイアが詳しく報じていない国際紛争かかる国際人権法問題やロシア議会の決議等に関し、筆者も加盟する国際人権団体であるHuman Rights Watchの解説等について補完する。

  特に、筆者は米国がロシア軍人を国内法で起訴する根拠法は?に強い関心をもったが、その点に関する米司法機関やメデイアの説明は皆無であった。これに関し、本ブログの最後3.(12)に引用する。

 なお、筆者は2022年9月に「ロシア連邦の政治体制、法制度等からみた非民主化の実態:新たな連邦体制崩壊の危機はあるのか!」でロシアの本音を垣間見たつもりである。併せて参照されたい。

 1.連邦司法省報道局のリリース内容   

 以下のとおり仮訳する。 

 

   司法長官等の記者会見(司法省サイト動画から引用)

 被告は、スレン・セイラノビッチ・ムクルチヤン(Suren Seiranovich Mkrtchyan )氏(45歳)、ドミトリー・ブドニク(Dmitry Budnik)氏、ヴァレリーLNU (Valerii LNU )氏(姓は不明)、ナザールLNU(Nazar LNU)氏はそれぞれ、ロシアとウクライナの間の武力紛争を背景とした米国人の不法拘束に関連してとして起訴された。被告らは被害者を尋問し、激しく殴打し、拷問したとされている。また、被害者を殺すと脅迫し、模擬処刑(mock execution)(注1)も行ったという。

  メリック・B・ガーランド司法長官は「世界がロシアの残忍なウクライナ侵略の恐怖を目の当たりにしてきたように、米国司法省も同じだ。それが、司法省が米国「戦争犯罪法(18 U.S. Code § 2441 - War crimes)」に基づき、米国人に対する凶悪犯罪でロシア関連軍人4名を史上初の告訴した理由である。司法省はロシアの侵略戦争に対する責任と正義を追求するために必要な限り努力するだろう」と述べた。

 また国土安全保障省長官アレハンドロ・N・マヨルカス(Alejandro N. Mayorkas)は、国土安全保障省調査局と司法省の連邦法執行官のたゆまぬ前例のない働きのおかげで、アメリカ国民に対する考えられない、容認できない人権侵害で告発された4人のロシア兵が戦争犯罪で起訴され、連行されることになった正義の味方だ 本日封印が解かれた起訴状は、ロシアに対して明確なメッセージを送っている。我が国政府は、アメリカ人の基本的人権を侵害した人々の責任を問うためにいかなる努力も資源も惜しまない」と述べた。

 

 Alejandro N. Mayorkas 氏

 クリストファー・レイFBI長官は「ウクライナへのいわれのない侵略を開始して以来、ロシアは人権侵害を武器にして想像を絶する悲劇を引き起こしてきた。本日の起訴は、米国の「戦争犯罪法」に基づく初めてのことであり、FBIが国際法執行機関の全面的な協力を得て、これらの残虐行為の犠牲者に正義をもたらすことを明らかにした。ウクライナ紛争による人的被害はFBIの心に重くのしかかっており、我々は戦争犯罪者がどこにいても、どれだけ時間がかかったとしても、責任を追及する決意をしている」と述べた。

Christopher Wray 氏

 また、司法省刑事局のニコール・M・アルジェンティエリ司法次官補(Acting Assistant Attorney General Nicole M. Argentieri)は、「保護された人物に対する拷問や不法な監禁は深刻な人権侵害であり、処罰を免れることはできない。これらの歴史的な刑事告訴は、米国の戦争犯罪法の下で提起された初めてのことであり、ウクライナで戦争やその他の残虐行為を犯した人々に対するあらゆる手段で責任を追求するという司法省の継続的な取り組みにおける重要な一歩である」と述べた。

Nicole M. Argentieri 氏

 起訴状の申し立てによると、ムクルチャン氏とブドニク氏はロシア軍やいわゆるドネツク人民共和国の軍事部隊の指揮官で、ヴァレリー氏とナザール氏は下級軍人だった。被告らは戦争犯罪を犯したとされる当時、ウクライナでロシアのために戦っていたとされる。

 2022年4月、ムクルチアン氏とその指揮下の兵士らは、被害者の米国人をウクライナ南部ヘルソン州マイラブ村の自宅から誘拐、拉致し、少なくとも10日間不法に監禁したとされる。誘拐の際、ムクルチヤン、ヴァレリー、ナザールらは被害者を裸のまま地面にうつぶせに投げつけ、両手を後ろ手に縛り、頭に銃を向け、彼らの銃の銃床などで激しく殴打したとされる。その後、ムクルチヤン、ヴァレリー、ナザールらは被害者をマイラブにある即席の軍事施設に移送したとされる。

 バージニア州東部地区のジェシカ・D・アバー連邦検事(U.S. Attorney Jessica D. Aber)は、「これらのバージニア州の告発は、被告らの行為が戦時の文民保護に関するジュネーブ条約(ウクライナとロシアは共に1949年のジュネーブ諸条約、及び同法ジュネーブ諸条約第一追加議定書の締約国である)の重大な違反であるだけでなく、米国法にも違反していることを反映している。我々は、ウクライナにおける戦争犯罪加害者の責任を追及する司法省の取り組みの最前線にいることを誇りに思っており、今後も追及を続けていく。我々は、この事件の捜査パートナーである戦争犯罪責任チーム、FBIワシントン現地事務所、国土安全保障省捜査局のこれらの容疑に必要な証拠を収集するための傑出した努力に感謝する」と述べた。

  

  Jessica D. Aber 氏

 また同起訴状は、ムクルチヤン氏とブドニク氏が少なくとも2回の尋問を主導・参加し、その間に被告ら4人が被害者を拷問したと主張している。ある尋問中、ムクルチヤン氏、ヴァレリー氏、ナザール氏は被害者の服を脱いで写真を撮ったとされる。その後、被告らは被害者を激しく殴り、後頭部に銃を突き付け、撃つと脅したとされる。ブドニク容疑者は被害者を殺すと脅し、最後の言葉を求めたという。その直後、ナザールらは模擬処刑を行ったとされる。容疑者らは被害者を地面に押し倒し、後頭部に銃を突き付け、銃をわずかに動かして被害者の頭のすぐ上に弾丸を発射したとされる。

さらにFBIワシントン現地事務所のデビッド・サンドバーグ担当次官補は、

「これらの歴史的な容疑は、FBIと世界中に広がる我々のパートナーによる複雑な捜査の集大成である」と述べた。「FBIは今後も国内外のパートナーと協力して正義を追求し、他者に対してこのような残虐行為を行った者の責任を追及していく。」と述べた。

 国土安全保障調査局(HSI)のカトリーナ・W・バーガー(Executive Associate Director, Homeland Security Investigations :Katrina W. Berger)副局長は、「ロシア軍といわゆるドネツク人民共和国を代表して、これら4人はアメリカ国民の人権を侵害したとされる」「容疑によると、彼らはアメリカ国民を不法に拘束して拷問し、さらには模擬処刑まで行った。これらの戦争犯罪容疑の封印を解くことは、責任ある当事者に裁きを受けさせるための重要な一歩である。HSIは今後も、国内外を問わずアメリカ国民の人権を侵害する者を積極的に追及していく」と述べた。

Katrina W. Berger 氏

 被告らは不法監禁、拷問、非人道的扱いという3件の戦争犯罪と、戦争犯罪共謀1件で起訴されている。有罪判決が下された場合、被告はそれぞれ最高で終身刑に処されることになる。

*米国の人権侵害者に関する情報、またはこの起訴状で名前が挙がっている被告の所在地に関する情報を持っている一般の人々は、1-800-CALL-FBI (800-225-5324) または FBI を通じてオンライン チップ フォームまたは HSI(1-866-DHS-2-ICE)、または ICE オンライン チップ フォームを通じて FBI に連絡することを勧める。すべてに 24 時間スタッフが常駐しており、ヒントは匿名で提供される

*本起訴は単なる申し立てに過ぎない。すべての被告は、法廷で合理的な疑いを超えて有罪が証明されるまで、無罪と推定される。

起訴状原本参照。

2.ロシアのプーチン大統領は2022224日にウクライナに対する宣戦布告とロシア議会下院の決議

 Human Rights Watchの解説を、以下、抜粋する。

 (キエフ)ロシア連邦議会下院(国家院)は2022年2月15日、ウラジーミル・プーチン大統領に対し、ウクライナ東部の2地域を独立国家として承認するよう求める決議を採択した。なお、両地域はロシアが支援する武装組織が支配している。

 プーチン大統領は2月22日の記者会見で、ロシアが独立として認める領土は、ウクライナ政府の支配下にあるドネツク(ドネツィク)とルハンスク(ルハーンシク)両州のかなりな部分に及ぶと述べた。

 ウクライナ東部のドンバス地方では、ロシアが国境沿いの軍隊を空前な規模で増強しており、戦闘が激化している。欧州安全保障協力機構(OSCE)特別監視団によると、2月中旬以降、接触線沿いの紛争地域で、2014年の停戦合意への違反行為が日々大幅に増加している。

 いかなる名目でも、ウクライナにいるロシア軍は、ジュネーブ条約を含む国際法上の占領軍と見なされる。ロシア軍が正式にウクライナ東部に侵入した場合、後述するように、ジュネーブ第4条約における「占領」行為に該当することになる。「LNR」または「DNR」と自称する地元「当局」の主権主張、またはロシア政府による両者の独立承認は、占領に関する国際法の適用に影響を及ばさない。

3.ロシアとウクライナの武力紛争に関連する国際法

 Human Rights Watchの解説を、以下、抜粋する。

 ロシア軍とウクライナ軍との敵対行為は、国際武力紛争として、国際人道法(主に1949年のジュネーブ諸条約(Convention (I) for the Amelioration of the Condition of the Wounded and Sick in Armed Forces in the Field. Geneva, 12 August 1949)(注2)1977年のジュネーブ諸条約第一追加議定書((Protocols Additional to the Geneva Conventions of 12 August 1949, and relating to the Protection of Victims of International Armed Conflicts (Protocol I))1907年のハーグ条約(陸戦の法規慣例に関する条約)および慣習国際人道法の諸規則によって、規則が規定されている。

*ウクライナとロシアは共に1949年のジュネーブ条約、及び同法第一議定書の締約国である。

(1)戦時国際法の基本原則とは?

 国際人道法(または戦時国際法)は、武力紛争の危険から、民間人などの非戦闘員を保護するための法律である。国際人道法は、紛争の全当事者による敵対行為(戦争の手段および方法)に適用される。前提として、紛争当事者はつねに戦闘員と民間人を区別しなければならない。民間人が攻撃の意図的な標的になることは決してあってはならない。後述するように、紛争当事者には、民間人および民用物への被害を最小限に抑えるため、実行可能なあらゆる予防措置を講じる義務がある。戦闘員と民間人を区別しない攻撃や、民間人に不均衡な被害を与えるような攻撃を行ってはならない。

(2)国際人権法はウクライナにも適用されるのか?

 国際人権法は、ウクライナにも適用される。国際人権法はつねに有効であり、あらゆる状況に――戦時国際法が同時に適用される武力紛争中や占領下も含めて――当てはまり続ける。そして、人道法の規範が、特別法(lex specialis)、すなわち特定の状況に対するより具体的な規範として、人権規範に優先する場合がある。

 また、ウクライナとロシアはともに、欧州人権条約(ECHR)、市民的及び政治的権利に関する国際規約(ICCPR:自由権規約)、拷問及び他の残虐な、非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(CAT:拷問等禁止条約)など、多くの地域的または国際的人権条約を締結している。これらの条約は保障される基本的権利を要点を述べたもので、そのうちの多くの権利は、国際人道法下で定められた戦闘員や民間人の基本的権利とも一致する(例:拷問や非人道・品位を傷つける扱いの禁止、差別の禁止、公正な裁判を受ける権利の保障)。

 なお、前述の欧州人権条約と自由権規約は、戦時下や公式に宣言された「国民の生存を脅かす公の緊急事態」(欧州人権条約第15条)の期間中、特定の権利に対し一定の制限を課すことを認めている。しかし、このような権利の削減は、例外的かつ一時的なものでなければいけなく、また「事態の緊急性が真に必要とする程度」でのみ容認される。また、一部の基本的権利(生命に対する権利、拷問など虐待から保護を受ける権利、不当な拘束の禁止、拘束の合法性に関する司法審査の保障義務、公正な裁判を受ける権利など)は、たとえ公の緊急事態下においても、つねに尊重されなければならないとされている。

(3)合法的軍事攻撃の対象とは?

 戦時国際法のもと、攻撃の目標は「軍事目標」に限定される。軍事目標とは、軍事行動に効果的に資する物であることを示し、またその全面的または部分的な破壊、奪取または無効化が明確な軍事的利益をもたらすものを指す。敵陣の戦闘員、武器、弾薬、建物や車両など、軍事目的で使用されている物などが該当する。国際人道法は、武力紛争中、民間人の犠牲がある程度避けられないことを認識してはいるが、紛争当事者には依然、戦闘員と民間人の区別義務、及び戦闘員など軍事目標のみを標的とする義務が課される。ただ、民間人は、戦闘中の戦闘員を支援するなど、「敵対行為に直接参加している」間は、攻撃対象から除外されない。

 戦時国際法はまた、軍事目標とみなされないもののすべてを「民用物」として定義し、戦時国際法の下保護されている。民用物(家屋、集合住宅、企業などのビジネス、礼拝所、病院、学校、文化財など)への直接攻撃は、それらが軍事目的に使用されていたり、軍事目標になっていない限り、禁止されている。しかし、通常民用物とされる施設に軍隊が配備されている場合、攻撃は禁止されない。だだ、対象物の性質に疑義の余地が存在する場合、戦争当事者はそれを民生用と見なさなければならない。

(4)禁止されている軍事攻撃とは?

 上述したように、民間人や民用物への直接攻撃は禁止されている。また、戦時国際法では、無差別攻撃も禁止されている。無差別攻撃とは、軍事目標と民間人、または民用物を区別なく攻撃することを示す。無差別攻撃の例として、対象を特定の軍事目標のみとしない攻撃や、特定の軍事目標のみを対象とすることのできない兵器を用いる攻撃が考えられる。

 禁止されている無差別攻撃に、「区域砲撃」が含まれる。区域砲撃とは、民間人または民用物が集中している地域に、多数の軍事目標が明確に分離されている状況下で、全地域を単一の軍事目標とみなし、砲撃、またはその他方法手段で攻撃をすることを示す。司令官は、軍事目標に向けて攻撃を行う際、巻き添えによる民間人の被害を最小限に抑えることができる手段を選択しなければならない。兵器がきわめて不正確で、民間人に被害を及ぼすことなく軍事目標を標的とすることができない場合、その兵器を配備すべきではない。

 また、均衡性の原則に反する攻撃も禁止されている。均衡性の原則に反する攻撃とは、予期される具体的かつ直接的な軍事的利益との比較において、巻き添えによる民間人の死亡、負傷、または民用物の損傷などが過度であると予測できる攻撃のことを示す。対人地雷やクラスター弾は国際条約で禁止されており、その本質的な無差別性から、決して使用してはならない。

(5)人口密集地帯での戦闘における、紛争当事者の義務は?

 国際人道法は、都市部での戦闘を禁じていない。しかし、多くの民間人がいるするため、紛争当事者は民間人の被害を最小限にする措置を講じる義務を負う。戦時国際法は紛争当事者に対し、軍事行動を行うに際しては、民間人に対する攻撃を差し控えるよう不断の注意を払い、巻き添えによる民間人の被害及び民用物の損傷を防止し並びに少なくともこれらを最小限にとどめるため「すべての実行可能な予防措置をとる」ことを求めている。これらの予防措置には、攻撃対象が軍事目標であって民間人または民用物でないことを確認するためのすべての実行可能なことを行うこと、状況が許す限り攻撃について「効果的な事前の警告」を与えることが含まれる。

 人口密集地に展開する部隊は、人口の集中している地域またはその近傍に軍事目標を設けることを避けるとともに、また民間人を軍事目標の近傍から移動させるよう努めなければならない。交戦国は、軍事目標または軍事行動を攻撃から守る手段として、民間人を「盾」として使用してはならない。「盾」とは、民間人の存在を故意に利用して、軍隊または地域を、攻撃の対象とならないようにすることとされる。

 ただ、攻撃を行う側に、民間人に危険が及ぶリスクを考慮する義務が免れることはない。攻撃を行う側は、相手勢力が居住地内、またはその近傍に正当な軍事目標を設けたという理由で、責任は相手勢力にあると考えてはならない。

(6)人口密集地帯での爆発性兵器(通称EWIPA)の使用は?

違法である無差別・不均衡な攻撃にあたる可能性が高いと懸念される。重砲、空爆(爆発半径が広い兵器)、またはその他の適切な照準のない間接砲(まったく見えない標的に用いられる兵器)での、人口密集地に位置する軍事目標への攻撃は、民間人へ及ばす深刻な脅威から、現代の武力紛争において最も懸念される攻撃である。

 市町村への爆撃や砲撃は、多数の民間人に殺傷をもたらし、また心理的被害を与える。また、長期的には、民間建物や重要なインフラ設備の被害、医療や教育などの基本的サービスの中断、地元住民の避難などがあげられる。爆発性兵器は、人道上のリスクをさらに高める可能性があり、特に低い精度、広い爆発半径、多数の弾頭の同時投下などの要素で、より広範囲に影響を及ぼすと考えられる。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、武力紛争の当事者に対し、居住地に広範な影響を及ぼす爆発性兵器の使用を避けるよう求めてきた。

(7)「人間の盾」の使用とは?

 「人間の盾」とは、特定の場所・地域または軍事勢力が、軍事攻撃の対象とならないよう、民間人の存在を意図的に利用することと定義されており、この行為は戦争犯罪である。ただ、「人間の盾」とされるのは、民間人を攻撃を阻止するために利用するという特定の意図がある場合のみ。居住地内、または近傍に軍隊、武器、弾薬を配置する前述の行為も、違法なものとなりうるが、「人間の盾」には該当しない。敵対勢力は、「人間の盾」を利用する軍事目標を攻撃することは国際法上可能である。しかし、その攻撃が均衡的であるかどうか、すなわち、民間人の生命・財産の予期される損失が攻撃によって予期される軍事的利益を上回るかどうかを、見極める義務を負う。

(8)紛争当事者による空港、道路、橋などのインフラへの攻撃は?

 民用の空港、道路、橋は民用物ではあるが、軍事目的に使用されていたり、軍事目標がそれら施設に設けられていたりする場合には、攻撃されうる軍事目標となる。その場合にも、均衡性の原則が適用される。紛争当事者は、攻撃によって予期される軍事的利益と、民間人が被る短期的及び長期的な損害を比較考慮しなければならない。つまり、紛争当事者は、民間人への影響を最小限に抑えるあらゆる方法を検討しなければならない。民間人へ予測される被害が、予期される軍事的利益を上回る場合、攻撃を行うべきではない。

(9)戦時国際法とサイバー攻撃の関係は?

 コンピュータネットワークへの攻撃、すなわち「サイバー戦争」は、ジュネーブ条約で特に取り上げられていない。しかし、サイバー攻撃にも、戦争の方法と手段に関する基本原則や規則が同様に適用される。サイバー攻撃は軍事的目標のみを対象とし、無差別的でも不均衡的でもあってもならない。例えば、民間人に長期的な損害を与える電力網への攻撃は、空爆であれサイバー戦争であれ、不均衡で違法なものとなる恐れが高い。民間人への背信行為、集団処罰、報復措置の禁止は、サイバー戦争でも引き続き適用される。

 また、政府がサイバー攻撃やサイバー戦争に関わる行為は、基本的権利との抵触が懸念される。2015年、国連総会は、政府専門家グループ(UN GGE)による報告書を承認し、国際法のサイバー空間への適用可能性に関する合意見解を採択した。これにより、国家行動の規範に対するコミットメントが定められた。具体的には、インフラを故意に損傷させたり、公衆サービスの使用や運用に妨害を生じさせたりする情報通信技術(ICT)への軍事行動を実施しないか、それを故意に支援しないこと、また、ICT技術を用いた国際的不法行為に自国領土が使われることを故意に見逃さないことなどが含まれる。また、最近提出された国連政府専門家グループによる報告書では、病院のみならず、エネルギー施設、水道などの衛生施設、教育施設、金融サービス用設備などが、国民に不可欠なサービスを提供する重要インフラの例として挙げられている。

(10)国際人道法違反の責任を問われるのは誰か?

 犯罪の意図をもって――すなわち故意または結果を顧みずに――なされた国際人道法の重大違反行為は、戦争犯罪となる。戦争犯罪は、ジュネーブ諸条約が定める「重大な違反行為」、および国際刑事裁判所議定書などに慣習法として記載されている。中には幅広い犯罪が含まれていて、民間人に対する意図的かつ無差別的な不均衡な攻撃、人質の利用、人間の盾の使用、集団処罰の実行などが挙げられる。また、個人も、戦争犯罪の未遂、幇助、促進、援助、教唆で、刑事責任を問われる可能性がある。

 また、戦争犯罪を計画、または扇動した者にも責任が及ぶことがある。指揮官や民間人指導者は、戦争犯罪の実行を知りながら、あるいは知るべき立場でありながら、それを防止する措置を十分に講じなかった場合(例:責任者への処罰)、指揮責任を問われ、戦争犯罪で訴追されることがある。

(11)国際法の重大な違反行為に対する説明責任を確保する上で、誰が第一義的な責任を負うのか?

 重大な違反行為に対し法の正義を確保することの第一責任は、その違反に関与した国民が属する国家の責任にある。政府は、職員またはその法的管轄下にある人びとが関与する重大な違反行為を調査する義務を負う。政府は、軍事法廷や国内裁判所などの機関が、重大な違反行為の有無を公平に調査し、国際的な公正裁判基準に従い、それらの違反行為の責任者を特定・起訴し、有罪とされた個人に対して、その行為に見合った処罰を与えるようにしなければならない。非国家武装勢力は、その内部における戦時国際法の違反者を訴追する同様の法的義務を負わないものの、戦時国際法を遵守する責任があり、裁判を行う場合には、国際的な公正裁判基準に従って実施する責任を負う。

(12)ウクライナで起きた戦争犯罪や人道に対する罪を国際刑事裁判所で裁くことは可能か?

 国際刑事裁判所(ICC)は、2002年7月1日以降に行われた大量虐殺、人道に対する罪、戦争犯罪の容疑者を調査し、起訴し、裁判にかける権限を持つ、常設的国際裁判所である。

 ただし、これらの犯罪に対して管轄権を行使できるのは、次の場合に限られる:

・犯罪がICCローマ規程の締約国の領域内で発生し、

・犯罪の容疑者がローマ規程締約国の国民であり、

・ローマ規程の締約国でない国が、裁判所書記に正式な宣言を行うことにより、問題となる犯罪について裁判所の管轄権行使を受諾し

・国連安全保障理事会がICC検察官に事件を付託した場合

 ロシアとウクライナはICCに加盟していない。しかし、ウクライナは2013年11月以降に自国領内で生じた犯罪について、同裁判所の管轄権を受諾したため、これによって裁判所への協力義務も負うことになった。2020年12月、ICC検事局は予審を終え、ICCの根拠となるローマ規程の定める基準が満たされているので、正式捜査を開始すると発表した。しかし、正式な捜査を開始する許可を、裁判官に対してまだ求めていない。また、ICCは最終手段としての裁判所であるため、国内の捜査・訴追がなされれば、ICCの活動を補完するものとなりうる。

(13)ウクライナで起きた国際犯罪を他国が起訴することは可能か?

 戦争犯罪や拷問など、国際法に違反する一部の重大犯罪は、「普遍的管轄権」適用の対象となる。これは、ある国の国内司法制度が、たとえその国の領土、あるいはその国の国民によって、あるいはその国民に対して行われなかったとしても、その犯罪を捜査し、起訴する能力を有することを意味する。1949 年のジュネーブ諸条約や拷問等禁止条約などの条約は、自国の領土内または管轄権下にある犯罪容疑者の身柄引き渡し、または起訴を、国家に義務付けている。また、国際慣習法では、その他の犯罪(たとえばジェノサイドや人道に対する罪)の責任者について、犯罪の発生場所を問わずに国家が起訴してもよいことが一般的に合意されている。

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(注1) 「模擬処刑」は、対象者に自分が処刑に導かれていると信じ込ませる拷問方法である。 これには通常、対象者に目隠しをしたり、最後の願いを語らせたり、墓穴を掘らせたりすることが含まれるが、場合によっては対象者の後頭部に空砲を発砲することまで行われることがある。(Academic Kidsから抜粋、仮訳した)

(注2) 1949年のジュネーヴ諸条約(ジュネーヴ4条約)は、 武力紛争が生じた場合に、傷者、病者、難船者及び捕虜、これらの者の救済にあたる衛生要員及び宗教要員並びに文民を保護することによって、武力紛争による被害をできる限り軽減することを目的とした以下の4条約の総称。日本は、1953年4月21日に加入。

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北朝鮮のサイバー脅威対策に関する日米韓三極外交作業部会の初会合の意義とわが国の外務省のリリース内容の在り方を検証する

2023-12-09 14:01:18 | 北朝鮮への国際的戦略

 12月7日、2023年8月のキャンプデービッドでの日米韓三か国首脳会議に引き続き、日本は朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)によるサイバー脅威に対抗するため、「日米韓三極外交作業部会」の初会合を主催した旨米国務省からのリリースが筆者の手元に届いた。 その出席者(筆者注1)は、米国の北朝鮮担当特別代表代行のジョン・H・パク博士(U.S. Deputy Special Representative for the DPRK Dr. Jung H.Pak)

Dr. Jung H.Pak氏

日本の石月英雄外務省サイバー政策担当大使兼総合外交政策局審議官(Japanese Ambassador for Cyber Policy Ishizuki Hideo)

Ishizuki Hideo 氏

韓国外務省の李埈一(イ・ジュンイル)韓国外交部北朝鮮核外交企画団長

李埈一(イ・ジュンイル)氏

が主導したこの会談は、悪意のあるサイバー活動、暗号資産の盗取、そして違法な大量破壊兵器や弾道ミサイル計画に資金を提供するために利用するIT労働者を通じて、北朝鮮が収益を生み出す能力を破壊するための世界的な協力につき緊密な三者間の緊密な関係の必要性を強調したものである。

 はたして、この会合の具体的課題等について調べたところ、以下述べるとおり、わが国外務省や韓国の主要メデイアを読んだが、あえてブログで取り上げるような内容ではなかった。しかし、筆者なりに今回の国務省のリリース内容やそこに盛り込まれた「朝鮮民主主義人民共和国の情報技術労働者に関する追加ガイダンス」をつぶさに読むと、まさに北朝鮮のIT労働者の雇用を具体的に進めるにあたっての具体的デュー・デリジェンス(筆者注2)措置の内容が見えてきた。

 一方で、ガイダンスやファクトシートの内容はわが国の読者にとってはかなりの米国の金融基礎知識がないと理解できないといえるものであった。

 今回のブログは筆者なりの解説で補完しながら、問題の本質に迫ってみたいと考えた。なお、12月8日筆者に届いた国務省リリースに「米国、ロシアのサイバー活動をさらに妨害するための措置を講じる」があることに気づいた。別途、本ブログで取り上げたい。

. 日米韓三極外交作業部会の初会合に関するわが国の外務省の報道内容

 12月7日のわが国の外務省のリリースは、そのまま引用するが、以下のとおりである。まさに内容がないとしか言いようがない。

「12月7日、午後4時から約2時間、東京において、第1回北朝鮮サイバー脅威に関する日米韓外交当局間作業部会が実施されたところ、概要は以下のとおりです。

今回の作業部会においては、石月英雄外務省サイバー政策担当大使兼総合外交政策局審議官、ジュン・パク米国国務省北朝鮮担当特別代表代行、李埈一(イ・ジュンイル)韓国外交部北朝鮮核外交企画団長が共同議長を務めた。

今年8月18日に行われた日米韓首脳会合において、三か国の首脳は、北朝鮮による不法なサイバー関連活動に対処し、サイバー関連活動によって可能となる制裁回避を阻止するための日米韓三か国間の協力を推進することに合意した。今回の作業部会はこうした合意を踏まえて開催されたものである。

 今回の作業部会において、三か国は、北朝鮮の不法な大量破壊兵器及び弾道ミサイル計画の資金源となる、北朝鮮の不正なサイバー活動に対する懸念を改めて表明した。その上で、北朝鮮IT労働者を含む北朝鮮のサイバー脅威に対する各国の取組や今後の日米韓協力等について意見交換を行った。今回の議論は、日米韓で北朝鮮のサイバー活動に関する協力を進める政府全体の取組の一環として、外交的な取組に焦点を当てて行われたものである。

 三か国は、国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化に向け、サイバー分野における対応を含め、引き続き緊密に連携することを再確認した。」

2.米国務省の日米韓三極外交作業部会のリリース文の内容

 12月7日の国務省のリリース文を本ブログの前文との重複を避けたうえで、以下、仮訳する。

 12月7日、日本は、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)によるサイバー脅威に対抗するため、2023年8月のキャンプデービッド三国首脳会議を受けて、米国・日本・韓国(韓国)三極外交作業部会の初会合を主催し、会議で発表された三国間パートナーシップのあらためて確立した。

 この作業部会を通じて、米国、韓国、日本は北朝鮮のIT労働者の違法なネットワークを破壊するための幅広い三国間行動を追求した。すなわち、① 北朝鮮のサイバー脅威に対して民間産業を関与させる、② 三国間の能力構築支援を調整する、③作業部会の会議では、グループが戦略的に重点を置くさらなる分野を決定することにも焦点が当てられた。

 北朝鮮の IT 労働者が世界中の企業から不正に雇用を獲得するために使用する戦術に関する最新情報については、2022年5月16日の「DPRKの IT 労働者勧告に関するガイダンス(Publication of North Korea Information Technology Workers Advisory)」を提供する最新の公共サービス発表を読まれたい。 詳細については、LinkedIn および Twitter (@StateCDP) で「サイバースペースおよびデジタル政策局(Bureau of Cyberspace and Digital Policy)」サイトの内容をフォローされたい。

なお、FBIの同ガイダンスの公表リリース文を以下、筆者なりに仮訳する。

 本日、米国連邦国務省と連邦財務省、および連邦捜査局は、朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)とIT 労働者が非北朝鮮国民を装いながら雇用を得るという北朝鮮の情報技術による試みについて、国際社会、民間部門、国民に警告する勧告を発表した(この勧告は、企業が北朝鮮のフリーランス開発者を雇用することを回避し、フリーランスおよびデジタル決済プラットフォームがサービスを悪用している北朝鮮のIT労働者を特定するのに役立つよう、北朝鮮のIT労働者がどのように運営されているかに関する詳細情報を提供し、危険信号を特定するものである。 同時に第一次ファクトシート「朝鮮民主主義人民共和国情報技術労働者に関するガイダンス(Guidance on the Democratic People's Republic of Korea Information Technology Workers)」も発行した。

3.第一次 朝鮮民主主義人民共和国情報技術労働者に関するガイダンスのファクトシート(2022516)の仮訳

 米国政府は、国際社会、民間部門、国民が朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)のテクノロジー (IT) 労働者の不注意な募集、採用、促進をよりよく理解し、防止するための包括的なリソースとしてこの勧告を発行している。 この勧告は、企業が北朝鮮のフリーランス開発者を雇用することを回避し、フリーランスおよびデジタル決済プラットフォーム・サービスを悪用している北朝鮮のIT労働者を特定できるようにするために、北朝鮮のIT労働者がどのように運営されているか、採用の危険信号の指標とデュー・デリジェンス措置を特定する方法に関する詳細な情報を提供するものである。

 北朝鮮の IT 労働者の活動を支援することは、知的財産、データ、資金の盗取から風評被害、米国と国連 (UN) 当局による制裁を含む法的影響に至るまで、多くのリスクをもたらす。

 北朝鮮は数千人の高度な技術を持ったIT人材を世界中に派遣し、米国と国連の制裁に違反した兵器開発計画に貢献することで収入を得ている。これらの労働者の活動内容は次のとおり。

①フリーランスの仕事プラットフォームのエコシステム全体を悪用して、世界中のクライアント企業から密かに IT 開発契約を取得し、また多くのソーシャル・ メディア・ プラットフォームを悪用して、クライアントや支払いプラットフォームと通信して仕事の対価を受け取る。

②ビジネス、暗号資産、健康とフィットネス、ソーシャル・ ネットワーキング、スポーツ、エンターテイメント、ライフスタイルを含むがこれらに限定されない、さまざまな分野にわたるアプリケーションとソフトウェアを開発している。

③多くの場合、仮想プライベート ネットワーク (VPN)(筆者注3)、仮想プライベート サーバー (VPS)、購入した第三国の IP アドレス、プロキシ・ アカウント、偽造または盗難された身分証明書や書類等を使用するなどして、自分自身を外国 (北朝鮮以外) または米国拠点のテレワーカーであると偽る。

④他の DPRK 関係者による悪意のあるサイバー侵入を可能にするなど、請負業者として得た特権アクセスを違法な目的に使用する。

(1)北朝鮮の IT 労働者の活動の可能性を示すいくつかの危険信号は次のとおり

① 特に IP アドレスが異なる国に関連付けられている場合、比較的短期間にさまざまな IP アドレスから 1 つのアカウントに複数のログインが行われる。

② 支払いプラットフォーム、特に中華人民共和国 (PRC) を拠点とする銀行口座を通じた頻繁な送金、または暗号資産での支払いの要求。

③名前のスペル、国籍、要求されている勤務地、連絡先情報、教育歴、職歴、および開発者のフリーランス・プラットフォーム プロファイル、ソーシャル メディア・プロファイル、外部ポートフォリオ Web サイト、支払い決済プラットフォームのプロファイル、調査された勤務場所と勤務時間にわたるその他の詳細の不一致。

④ 必要な営業時間内に業務を遂行できない、特に「即時」通信手段を通じて従業員にタイムリーに連絡を取ることができない。

(2)北朝鮮の IT 労働者の不注意または無意識の雇用を防ぐために民間部門が検討できるデュー・デリジェンス対策には、次のようなものがある

① 提案レビューまたは求人応募の一環として提出された書類を、上場企業および教育機関に直接確認する (提出書類に記載されている連絡先情報は絶対使用しない)。

②提出された本人確認書類を偽造がないことをチェックするために厳重に精査する。

③ 潜在的なフリーランス労働者の身元を確認するためにビデオ面接を実施する。

④ 雇用前の身元調査および/または指紋/生体認証によるログインを実施して身元を確認するとともに要求された勤務地を精査する。

⑤ 暗号資産での支払いを避け、他の識別書類に対応する銀行情報の確認を要求する。

➅ 採用候補者の名前のスペル、国籍、要求されている勤務地、連絡先情報、学

歴、職歴、その他の詳細が開発者のフリーランス全体で一貫していることを確認する。

⑦プラットフォームプロファイル、ソーシャルメディア・プロファイル、外部ポートフォリオWebサイト、決済プラットフォームアカウント、評価された場所と労働時間などの精査。

⑦ 開発者が身分証明書に記載された住所で商品を受け取れない場合は疑ってほしい。

Overview of DPRK IT Worker Operations

4.「朝鮮民主主義人民共和国の情報技術労働者に関する追加ガイダンス」の内容

 2023 年 10 月 18 日「朝鮮民主主義人民共和国の情報技術労働者に関する追加ガイダンス」を仮訳する。

 米国(U.S.)と韓国(ROK)は、民主主義人民共和国(北朝鮮:DPRK) の情報技術 (IT) 労働者の数につき、不注意にかかる採用募集、雇用、促進をよりよく理解し、警戒するために、国際社会、民間部門、国民に対する以前の警告と指針を更新している。 2022年5月、米国と韓国政府は、北朝鮮のIT労働者がどのように業務を行っているかに関する詳細な情報を提供するための公開勧告(public advisories)を発布し、企業が北朝鮮のフリーランス開発者の雇用を回避し、フリーランスおよびデジタル決済プラットフォームが北朝鮮のIT労働者がサービスを悪用することを特定できるように支援するための危険信号指標とデュー・デリジェンス措置を特定した。

(1)北朝鮮の IT 労働者の活動の可能性を示す追加の危険信号の例示:

①時間、場所、外観など、カメラに映るときの矛盾の証拠を残すようなカメラに映ることを望まない、またはビデオインタビューやビデオ会議を行うことができない(故意に避ける)。

②薬物検査や対面での面会が必要であるにもかかわらず、それができないことについて過度の懸念を抱かせる。

③コーディングテストや就職アンケートや面接の質問に答える際の不正行為の兆候がある。これらには、過度に一時停止したり、時間稼ぎしたり(staling)、目をスキャンして読んでいることを示したり、不正確だがもっともらしい答えをしたりする動作が含まれる場合がある。

④採用された個人が提供した履歴書と一致しないソーシャル・メディアおよび同じ ID で写真が異なる複数のオンライン・プロファイルまたは写真のないオンライン・プロファイル。

⑤ラップトップまたはその他の会社資料を提供するための自宅の住所は、貨物運用会社専用住所(freight forwarding address)であるか、または採用時に急に変更させる。

 ➅彼らの履歴書の学歴は、中国、日本、シンガポール、マレーシア、またはその他のアジア諸国の大学としてリストされており、ほぼ独占的に米国、韓国、カナダで雇用されている。

⑦賃金の前払いの繰り返しの要求を行い、さらにその要求が拒否されたときの怒りや攻撃的行動をとる。

 ⑧ 追加の賃金の支払いが行われない場合、雇用主の独自のソースコードを公開すると脅迫する。

 ⑨さまざまなプロバイダーでのアカウントの問題、アカウントの変更、他のフリーランサー会社または別の支払い方法の使用を要求する。

 ⑩使用言語の優先は韓国語であるにもかかわらず、本人は韓国語を話さない国または地域の出身であると偽って主張する。

(2)フリーランスの労働者を求めるクライアントが、北朝鮮の IT 労働者の不注意または無意識の雇用を防ぐために考慮できる追加的デュー・デリジェンス措置:

①第三者の人材派遣会社やアウトソーシング会社を利用している場合は、その会社の身元調査プロセスにかかる文書を要求すべきである。これら企業がこれをすぐに提供できない場合は、企業が身元調査を実施していないと想定し、独自に身元調査を実施すべきである。

② IT 業務に人材派遣会社またはサードパーティのソフトウェア開発者を利用している場合は、その会社が仕事のために提供した個人に対してデュー・デリジェンス・ チェックを実施すべきである。企業の身元調査を行ったとしても、その企業の身元調査プロセスを完全には理解していない可能性がある。

③信頼できない、または不明な当局から提供された身元調査文書を受け入れるべきでない。 地元当局に身元調査を依頼する代わりに、雇用主は彼らに代わって身元調査を実施できる同意書を彼らに提供すべきである。

 ④ 口座情報を加え、無効になった小切手または証明書類を金融機関に請求する。

⑤小切手番号と銀行コードが実際の銀行と一致し、マネー サービス事業に属していないことを確認する。 マネー・ サービス・ ビジネス(筆者注4)においては、実際の銀行情報を反映したチェックおよびルーティング情報を提供する受取保管金融機関 (RDFI)(筆者注5) を使用する。

➅ビデオ面接の録画など、潜在的なIT従業員とのすべてのやり取りを記録する。

⑦会社のすべてのデバイスでリモート ・デスクトップ・ プロトコル(筆者注6)が使用できないようにし、仕事でのリモート・デスクトップ ・アプリケーション(筆者注7)の使用を禁止する。

⑧すべての管理権限をロックダウンし、社内デバイスに内部脅威監視ソフトウェアを必ずインストールする。

⑨ 会社のデバイスには署名の配信を要求し、指定された職場以外の住所にデバイスが郵送されないようにする。

⑩公証された身元証明を必須とする。

⑪ ビデオ認証中は、運転免許証、パスポート、または身分証明書をカメラに物理的にかざすよう個人に要求する。カメラを屋外に向けて自分の位置を表示させることを検討されたい。

⑫定期的に会社のラップトップの地理的位置を特定し、従業員の現住所のログイン情報と一致することを確認する。

 ⑬フリーランサーに対し、企業ネットワークにアクセスする際には商用 VPN を停止するよう義務付ける。

⑭ゼロ・トラスト・ポリシー(筆者注8)と Need-to-Know ポリシー(筆者注9)を使用する。 可能であれば、機密情報へのアクセスを許可しない。

⑮フリーランス労働者の身元と資格を確認するための強力な手段を提供する、信頼できるオンライン・ フリーランス・ プラットフォームのみを使用する。

⑯オンラインの IT コンテストを通じてフリーランス労働者を直接採用することは避け、身元確認を強化する措置を講じる。

(3)米国や韓国における不審なIT従業員にかかる報告先

①米FBI は、北朝鮮の IT 職員の被害者、または被害を受けたと疑われる人に対し、不審な行為を「 FBI インターネット犯罪苦情センター (IC3) ( ic3.gov )」 に報告するよう呼びかけている。

②韓国政府は、不審な活動を国家情報院 ( www.nis.go.kr) および警察庁サイバー捜査局( ecrm.police.go.kr)に報告するよう求めている。

【参照】サイト

 「朝鮮民主主義人民共和国の情報技術労働者に関するガイダンス」というタイトルの元の勧告文は、ここでご覧いただける。

 韓国政府が発行した勧告の原本は、英語版はこちら、韓国語版はこちら(リンクは不可)からご覧いただける。

 米国家情報長官室(ODNI)の「サイバー脅威インテリジェンス統合センター(OFFICE of the DIRECTOR of NATIONAL INTELLIGENCE)」からの追加情報については、「収益創出のための北朝鮮の戦術、技術、手順(North Korean Tactics, Techniques, and Procedures for Revenue Generation)」も参照。

 なお、この問題に関し、北朝鮮からのIT技術者の雇用者数は少ないものの、わが国の報告、連絡、照会部署はどこになるのか?

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(筆者注1)各代表の写真は筆者が独自に加工、引用した。

(筆者注2) Due Diligence とは、M&AでDue(当然行われるべき)Diligence(義務・努力)という意味に直訳される言葉で、「DD」「デューデリ」と略され、日本語では「買収監査」ともいわれている。一般的にデュー・ディリジェンスとは、譲渡企業に対して企業の価値、将来の収益性、リスクの調査および分析を行う事前調査のことを指す。日本語では売却対象企業の財務・営業状況、IT環境などさまざまな角度から徹底的に調査すること等を指す。

(筆者注3) VPN(Virtual Private Network)とは、通信事業者の公衆回線を経由して構築された仮想的な組織内ネットワーク。また、そのようなネットワークを構築できる通信サービス。企業内ネットワークの拠点間接続などに使われ、あたかも自社ネットワーク内部の通信のように遠隔地の拠点との通信が行える。(IT用語辞典から抜粋)

(筆者注4) 「マネー・ サービス・ ビジネス(MSB)」という用語には、定期的かどうか、または組織的な事業として、以下の 1 つ以上の立場でビジネスを行うあらゆる個人が含まれる。

(1) 通貨ディーラー(Currency dealer)または両替業者(exchanger).

(2) 小切手換金業者(Check casher.)。

(3) トラベラーズチェック、郵便為替(money orders)、またはプリペイドカード(stored value)の発行者。

(4) トラベラーズチェック、郵便為替、または保管価値の販売者または引き換え業者。

(5) 送金業者(Money transmitter)。

(6) 米国郵便公社(U.S. Postal Service.)。

 1 つ以上の取引で 1 人あたり 1 日あたり 1,000 ドルを超える活動基準は、以下の定義に適用される。通貨ディーラーまたは為替業者。 小切手レジ係。 トラベラーズチェック、郵便為替、または保管価値の発行者。 およびトラベラーズチェック、郵便為替、または保管価値の販売者または引き換え業者。

 各しきい値は各アクティビティに個別に適用される。特定のアクティビティでしきい値が満たされていない場合、そのアクティビティに従事している人は、そのアクティビティに基づいて MSB ではない。

 送金者の定義にはアクティビティのしきい値は適用されない。したがって、資金移動を業として行う者は、送金活動の量にかかわらず、送金者としてのMSBとなる。

 (米連邦財務省の金融犯罪取締ネットワーク(FinCEN)サイトから抜粋、仮訳した)

(筆者注5)わが国ではACH, 電信送金につき詳細な解説は専門書以外には皆無といえる。ACH 決済や電信送金の基本的な仕組みについて2つの解説を引用する。

〇ACH 送金リクエストを発行する金融機関は、Originating Depository Financial Institution (ODFI) と呼ばれる。またACH 送金リクエストを受け付ける金融機関は、Receiving Depository Financial Institution (RDFI) と呼ばれる。

ACH 決済は、RDFI のアカウントから ODFI のアカウントまでの送金に関するリクエストを ODFI が RDFI に送信した時点で開始される。

ACH 送金のフローはどちらの方向からも実行できるため、ODFI が RDFI に送金することも、ODFI が RDFI からの送金を要求することも可能である。ODFI や RDFI といった用語は、必ずしもどちらの金融機関が送金側または受領側であるかを示すものではなく、どちらの金融機関が送金リクエストを開始するかを示している。

〇【ACH と電信送金の仕組み】

ACH 送金および電信送金では、電子ネットワークを介して送金が行われる。これらの EFT では、現金や紙媒体の小切手、物理的なクレジットカードやデビットカードは使用されない。ACH 送金と電信送金では、利用するネットワークがそれぞれ異なり、それらの業務規定もわずかに異なりますが、それらの全体的なプロセスはほぼ同じである。

1.元の銀行による送金の開始

ACH 送金では、Originating Depository Financial Institution (ODFI) は送金リクエストを発行する銀行です。ACH 送金は、入金先の銀行の口座または資金が引き落とされる銀行の口座のどちらからも開始できるため、どちらの銀行も ODFI となり得ます。

2.受け取り側の銀行によるリクエスト処理

Receiving Depository Financial Institution (RDFI) は、送金リクエストを受け付ける側の銀行です。ODFI と同様に、「RDFI」は必ずしも入金先の銀行であるわけではなく、送金を開始しなかった方の金融機関を指します。RDFI はリクエストを受け取り、その口座のいずれかから ODFI 側の口座に送金することが可能です。

3.残高の確認

ODFI と RDFI はリクエストされた送金額が残高にあることを確認するために通信する。

(筆者注6) リモート・デスクトップ・プロトコル (RDP) は、デスクトップ・コンピューターをリモートで使用するためのプロトコルまたは技術的な規格です。リモート・デスクトップソフトウェアは、RDP、Independent Computing Architecture (ICA)、仮想ネットワークコンピューティング (VNC) など、いくつかの異なるプロトコルを使用できますが、最も一般的に使用されるプロトコルはRDP です。(CLOUDFRAREの解説から抜粋)

(筆者注7) リモート・デスクトップは、別のコンピューターから遠く離れたデスクトップコンピューターに接続して使用する機能です。リモート・デスクトップを使用するユーザーは、実際にデスクトップコンピューターの前に座っているかのように、デスクトップにアクセスし、ファイルを開いたり編集したり、アプリケーションを使用したりできます。従業員が、出張時や在宅勤務時に、リモート・デスクトップ・ソフトウェアを使用して職場のコンピューターにアクセスすることがよくあります。(CLOUDFRAREの解説から抜粋)

(筆者注8) ゼロ・トラストとは、組織のネットワークの内外を問わず、すべてのユーザーを認証、承認し、セキュリティ設定とセキュリティポスチャについて継続的に検証したうえで、アプリケーションやデータへのアクセスを許可または維持するセキュリティフレームワークのことです。ゼロ・トラストは、従来のネットワークエッジがないことを前提としています。ネットワークには、ローカル、クラウド、または任意の場所のリソースや任意の場所の作業者とを組み合わせたものや、それらの混在するものが考えられます。(CLOUDSTRIKEの解説から抜粋)

(筆者注9) Need-to-knowの原則とは、企業などの組織における情報管理の基本原則の一つで、その情報を必要とする人にのみ情報に接する権限を与えるというもの。機密漏洩などを防ぐために適用される。(IT用語辞典から抜粋)

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米国防総省(DOD)の緊急リリース:米国の対ウクライナ安全保障支援に関するファクトシートの内容と新たな現代戦争軍事装備の変化を見る

2023-12-08 08:01:19 | 国際紛争

 筆者は、ロシアのウクライナ侵攻に関し軍事面から「フィンランドとスウェーデンの軍事同盟NATO 加盟問題と両国のわが国の軍事面の関わり、さらにNATO事務総長来日の真の目的は?を2回((その1)(その2完)にわたりを取り上げた。

  今回のブログは、筆者の手元に届いた12月6日付けの国防総省の速報ロシアのウクライナ侵攻に関し最新情報Fact Sheetを読んだ。米国のバイデン政権発足以来、ウクライナに448億ドル(約6兆5,785億円)以上の安全保障支援を約束しており、その中には2022年2月24日にロシアによるいわれのない残忍な侵略が始まってからの442億ドル(約6兆4,905億 円)も含まれる。

 ここで、筆者が問題視するのは、その金額ではない。無人ドローン兵器の多様化とそれに伴う対ドローン兵器の開発や駆動手段の小型化、携帯性兵器の強化、戦車に代わる一般車両の改良型ミサイル発射装置等である。

 最近、これらを集約した解説サイト“Anti-drone “gun trucks,” a Patriot Battery, Stinger missiles – Ukraine’s modern air defense”を読んだことも影響して改めてDODのニュースを仮訳するとともに、これらの情報をより詳細に補足、整理した。

1.防空兵器(Air Defense)

パトリオット防空砲台と弾薬 1 基(One Patriot air defense battery and munitions)

② 12 基の国家先進地対空ミサイル・システム (NASAMS) と弾薬(12 National Advanced Surface-to-Air Missile Systems (NASAMS) and munitions)

NASAMS(National/Norwegian Advanced Surface to Air Missile System)は、ノルウェーとアメリカが開発した中高度防空ミサイル・システム。AIM-120 AMRAAM空対空ミサイルを地上発射化したシステムとしては初のものであり、分散・ネットワーク化されている。ミサイル本体の名称はSL-AMRAAM(Surfaced Launched AMRAAM)。

NASAMS の発射機(Wikipediaから抜粋)

開発:

 ノルウェーの企業コングスベルグ・ディフェンス&エアロスペース社がレイセオンと開発チームを編成し、ノルウェー軍と協力して開発が開始された。最先端のネットワーク中心対空防衛システムであるNASAMSは1998年に正式に実戦配備されたが、初期型は早ければ1995年には配備可能だったとされる。

③ HAWK 防空システムと弾薬(HAWK air defense systems and munitions)

 ホーク(Homing All the Way Killer, HAWK)は、アメリカ合衆国のレイセオン社が開発した地対空ミサイル。アメリカ軍での名称はMIM-23。1950年代末に開発され、現在でもNATO各国で運用されている。アメリカ陸軍はホークの配備を推進する一方で、1964年には低空目標への対処能力向上を主眼とした近代化改修として、HAWK/HIP(HAWK Improvement Program)計画を開始した。これはミサイルを更新するとともに、地上側のレーダーや情報処理装置なども更新・強化するものであり、ミサイル本体はI-HAWK(Improved Hawk)、形式名はMIM-23Bとなった。この形式は1971年に承認され、1978年までにアメリカ陸軍・海兵隊の全ての部隊のミサイルがこちらに更新された。(Wikipediaから抜粋 )

ホワイトサンズ・ミサイル実験場博物館に展示されるMIM-23 HAWK:Wikipedia から抜粋

 ③防空用の AIM-7(Sparrow)、RIM-7(Sea Sparrow)、および AIM-9M (短距離空対空ミサイル)の各ミサイル

*スパロー(Sparrow)は、米国レイセオン社製の中射程空対空ミサイル。アメリカ軍における正式名はAIM-7で、誘導にはセミアクティブ・レーダー・ホーミング(SARH)方式を採用しており、視程外射程(BVR)が可能である。

アメリカ空軍・海軍、日本の航空自衛隊など、西側諸国の空軍を中心とした軍事組織で広く使用されるが、現在ではAIM-120 AMRAAMや99式空対空誘導弾などといった、アクティブ・レーダー・ホーミング(ARH)誘導方式が可能な新型の空対空ミサイルへの更新が進んでいる。

AIM-7 スパロー(Wikipedia から抜粋)

RIM-7(Sea Sparrow)は、空対空ミサイルであるスパローを元に開発された個艦防衛用の艦対空ミサイル。順次に改良が重ねられており、最新発展型の発展型シースパロー(ESSM: Evolved Sea Sparrow Missile; RIM-162)では僚艦防空・近接防御が可能なまでになった。またシステムとしても、もっとも初期に配備された応急的なBPDMS(Basic Point Defense Missile System)、改良型のIBPDMS(Improved BPDMS)がある。

旧西側諸国でもっとも一般的な個艦防空ミサイル・システムであり、アメリカ海軍を始め、NATOなど複数の西側諸国で採用され、海上自衛隊や韓国海軍でも運用されている。

RIM-7 Sea Sparrow

AIM-9M サイドワインダー (「AIM」は「Air Intercept Missile」の略) は短距離空対空ミサイル。航空迎撃ミサイル (AIM)-9 サイドワインダーは、1950 年代にアメリカ海軍によって開発された超音速短距離空対空ミサイルです。 1956 年に就役し、派生型とアップグレード型は 50 年経った今でも多くの空軍で現役で使用されています。 海軍がカリフォルニア州チャイナレイクでミサイルを開発した後、米空軍はサイドワインダーを購入した。

サイドワインダーは米軍で最も広く使用されているミサイルで、海軍/海兵隊のF/A-18A-D、F/A-18E/F、AV-8B、AH-1、空軍のF-16で採用されている。 F-15、F-22、A-10 航空機。 さらに、サイドワインダーは 30 名以上の海外顧客によって 12 種類以上の異なる航空機に搭乗されています。(米国海軍サイトから抜粋、仮訳)

④ 2,000 発を超えるスティンガー対空ミサイル(FIM-92 スティンガー(FIM-92 Stinger)は、携帯式防空ミサイルシステムである。アメリカのジェネラル・ダイナミクス社が1972年から開発に着手し1981年に採用された。FIM-92 スティンガー(FIM-92 Stinger)は、携帯式防空ミサイルシステムである。アメリカのジェネラル・ダイナミクス社が1972年から開発に着手し1981年に採用された。

 FIM-92 スティンガーは、FIM-43 レッドアイ 携行地対空ミサイルの後継として1967年に開発が始まったもので、開発においては、どのような状況下でも使用できる全面性と、整備性の向上、敵味方識別装置(IFF)の搭載に主眼が置かれた。

 主目標は、低空を比較的低速で飛行するヘリコプター、対地攻撃機、COIN機などであるが、低空飛行中の戦闘機、輸送機、巡航ミサイルなどにも対応できるよう設計されている。このため、誘導方式には高性能な赤外線・紫外線シーカーが採用され、これによって目標熱源追尾能力(発射後の操作が不要な能力)を得ている。

FIM-92 Stinger (Wikipediaから抜粋 )

AN/TWQ-1 アベンジャー防空システム(AN/TWQ-1 Avenger Air Defense System)は、アメリカ合衆国の近距離防空ミサイル・システム。軽車両からFIM-92 スティンガー地対空ミサイルを発射できるようにしたもので、従来の自走式対空ミサイルより軽便で機動性に優れている。アメリカ陸軍・海兵隊の近距離防空用地対空ミサイルシステムとして開発・配備された。主契約社はボーイング社。

AN/TWQ-1 アベンジャー防空システム(Wikipedia およびUnited States Army Acquisition Support Center (USAASC)から抜粋)

VAMPIRE は対無人航空機システム (c-UAS) :この L3Harris社の スーツケース タイプの APKWS ランチャーおよびデジグネーター キットは、特殊作戦や軽部隊が通常携行する兵器の射程を超えて地上部隊や空軍目標と交戦する能力を地上部隊(SOF)に提供する。 これはモジュール式で持ち運びが可能で、現場に取り付けることができ、オペレーターが隠れたり、移動したり、連続して発砲したりしながら、広範囲の航空範囲と防御を提供する。 先進精密殺害兵器システム (APKWS) やその他のレーザー誘導兵器を発射するための荷台を備えたほとんどの車両に取り付けることができるポータブル キットである。

 ヴァンパイアの特徴として、あらゆるピックアップまたは荷台付き車両に適合するように設計されており、設置は一般的な工具を使用し、2人で約2時間で完了できる。

L3Harris’ Vehicle-Agnostic Modular Palletized ISR Rocket Equipment (VAMPIRE)(同社サイト12/7⑤から抜粋)

⑦ c-UAS(対無人航空機)用ガントラックと弾薬(c-UAS gun trucks and ammunition)。

* c-UASガントラックは,主にM230リンクFed 30 mm兵器システム*と近接弾薬で武装する。C2のネットワークソリューションの一部として、およびM-ACEシステムC2機能を使用して動作できる。M-ACEプラットフォーム(Mobile, Acquisition, Cueing and Effector System)がUASを識別すると、正確なターゲットの位置がガントラックと共有される。一緒に使用されるC-UAS機能は、移動する無人システムを正確に識別、追跡、および倒す。(Ukraine will operate Northrop Grumman M-ACE C-UASから抜粋、補足のうえ仮訳)

c-UAS gun trucks

*M230 砲は 30 mm (30×113 mm) の単銃身電動機関砲で、発砲と発砲の間に武器に動力を供給するために (カートリッジの発射によって生成される反動や膨張ガスではなく) 外部電力を使用する。(M230チェーンガン M230 Chain Gunから抜粋)

⑧ 移動式c-UASレーザー誘導ロケットシステム。

航空機に搭載される無誘導ロケット弾に、セミ・アクティブ・レーザー誘導装置を追加した精密誘導兵器。

 例として、APKWSは、米攻撃ヘリコプター・無人攻撃機の主な武装である、ヘルファイア・ミサイルと全長はほぼ同じだが、重量は約3分の1と軽量で、高い命中精度を有し、周辺部への被害も限定できる。APKWSとは昔から戦闘機等が多連装ロケット弾ポットに搭載していた70mmロケット弾に簡易なSAL誘導装置を取り付けた安価なシステムである。

APKWS IIは、無誘導のHydra 2.75インチロケットとレーザー誘導キットの設計変換であり、精密殺傷機能を提供する。 これは、接近戦での付随的な被害を制限しながら、ターゲットを破壊する安価な方法として意図されている。 APKWS IIガイダンスセクションは、レガシー10ポンド高爆発性弾頭とMk66 Mod 4ロケットモーターの間にある。 生産は2011年に始まった。 初期運用能力(Initial Operational Capability :IOC)は、AH-1WおよびUH-1Yヘリコプターで2012年に宣言された。2014年3月、APKWS IIはMH-60SおよびMH-60Rへの統合に成功した。 2016年、APKWS IIはAV-8B、F-16、およびA-10航空機に配備された。(DOD 海軍サイト解説を抜粋、仮訳)

DOD 海軍サイトから抜粋

米バイデン政権が2023年8月に発表したウクライナ支援にVAMPIRE C-UAVシステムが含まれていたが、VAMPIREはピックアップトラックにAPKWSなど4発とEO/IRトラッカーを装備を搭載したシステムと言われていた。(解説解説から抜粋)

⑨その他の c-UAS 機器。

⑩対空砲と弾薬。

⑪西側の発射装置、ミサイル、レーダーをウクライナのシステムと統合するための機器。

⑫ ウクライナの既存の防空能力を支援し、維持するための装備。

⑬ 重要な国家インフラを保護するための設備。

⑮ 21 基の航空監視レーダー。

⑯ 39 高機動砲兵

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スタンフォード大学ロースクールの法支配影響研究所のグアテマラ憲法裁判所に対し元グアテマラ米国大使に代わり法廷準備書面で民主主義を保護するよう要請問題とグアテマラの憲法裁判所の実態(その1)

2023-12-04 16:57:44 | 独裁国家問題

2023.12.5更新

 かつて筆者は米国大学やロ―スクールの先進性や特徴を取り上げた。例えば、「米国のトップレベル大学の統治ガバナンスの特徴を踏まえたわが国大学の先進的改革の在り方を考える」「スタンフォード・ロー・スクールはCOVID-19による住宅賃借人の立ち退き要求の津波危機に対処する司法長官の呼びかけに応える」等を取り上げた。

 最近、筆者の手元に届いたスタンフォード大学ロースクールのニュースは、丁寧に読むとかなり興味深い内容であった。その内容は、「元グアテマラ米国大使のスティーブン・ジョージ・マクファーランド(Stephen George McFarland)は、スタンフォード大学ロースクール(SLS)の「法の支配影響研究所(Laboratorio de Impact on the rule of law of Stanford Law School)」所長アムリット・シン(Amrit Singh)氏が11月30日に提出した準備書面の中で、グアテマラ憲法裁判所(Corte de Constitucionalidad de Guatemala)に対し、民主主義と法の支配を保護するよう要請したというものであった。

Stephen George McFarland氏

 それだけでなく、筆者が独自に調べた結果、とくに、①米国大学の学生向けのロースクール進学に向けた適正ガイダンスの独自性、② SLSの「法の支配影響研究所(Amrit Singh:former U.S. Ambassador to Guatemala Executive Director, Laboratorio de Impact on the rule of law of Stanford Law School)」の活動内容や2022 年に設立されたSLS「ノイコム法の支配研究センター(Neukom Center for the Rule of Law)」は、学際的な内容を有し、グローバルな研究、教育、コラボレーション、公開討論、政策研究室、実践的な取り組みの拠点であり、そのすべてが共通の目標を共有し、その活動内容はわが国のロースクールとは大きく異なる点、③戦略的人権訴訟やその他の法律業務を通じて、その広範な使命と価値観に対する専門的な法的サポートを提供するために、2003 年に設立され国際拠点を持つ「オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアティブ(Open Society Justice Initiative:OSJI)」の活動内容、④グアテマラ議会の協力主義とNGOに関する委員会に検討のために提出され、現在検討中であるグアテマラ司法部控訴裁判所判事クラウディア・パレデス・カスタニェダ(Claudia Paredes Castañeda)氏の動向報告、⑤同大学のマーク・テシエ・ラヴィーン(Marc Tessier-Lavigne)学長ほかの人事面の国際性、重要な側面等に言及したいと考えた。

Marc Tessier-Lavigne氏

 今回のブログは、まずグアテマラ憲法裁判所に対し、元米国大使に代わって法廷準備書面で民主主義を保護するよう要請した文の内容を仮訳、概観し、続いて関連テーマとして前述の①〜⑤につき解説付きでまとめた。

  なお、筆者はグアテマラ法の専門家でもないし、スペイン語も不得手である。専門家による補完説明を期待したい。

 今回のブログは2回に分けて掲載する。

1.グアテマラ憲法裁判所に対し、同国の元米国大使に代わって法廷準備書面で民主主義を保護するようとした要請文作成の経緯とその内容

(1)グアテマラの大統領選挙と現大統領や体制派の抵抗

 元グアテマラ駐米国大使のスティーブン・ジョージ・マクファーランド(Stephen George McFarland)氏は、11月30日スタンフォード・ロースクール(SLS)の法の支配影響研究室が同元大使に代わって提出した弁論趣意書(brief )の中で、グアテマラ憲法裁判所に対し民主主義と法の支配を保護するよう要請した。 2023年8月、反汚職活動家のセザール・ベルナド・アレバロ・デ・レオン(César Bernardo Arévalo de León) 氏と彼の政党セミーリャ(Semilla)党がグアテマラの大統領選挙で最終的に勝利した。 しかしそれ以来、現政権による法的策略により、明らかに彼と彼の政党の就任を阻止しようとしている。

César Bernardo Arévalo de León 氏

 マクファーランド元大使の弁論趣意書(amicus brief)は、民主主義への権利が危険にさらされていると主張したグアテマラ国民が起こしたグアテマラ憲法裁判所の係争中の訴訟で提出された。憲法裁判所は、訴訟を4つに分割し、1部分を保持し、残りの3部分を他の裁判所に付託したため、弁論趣意書は最高裁判所、第一控訴院、第一審第9刑事裁判官にも提出されることになっている。

 2008年から2011年の間、駐グアテマラ米国大使を務めたマクファーランド氏は、2011年「グアテマラに関連する問題に長年取り組み、国民や制度を知り尽くしてきたことから、グアテマラ憲法裁判所には民主主義を守る能力があると信じている。裁判所はグアテマラ国民だけでなく世界の他の国々に対して、裁判所が法の支配を支持していることを示す機会を持っており、それはグアテマラの有権者の明白な意思を尊重し、次期大統領への平和的な政権移行を確保することを意味する。 賭け金は非常に高いです。 民主的な選挙を無効にすれば、グアテマラはベネズエラやニカラグアと同じ道を歩むことになるだろう」と語った。(注1)

 アレハンドロ・ジャンマッテイ(Alejandro Giammattei)大統領の現政権とそのパートナーたちは、アレバロ氏とセミーリャ党の大統領就任を阻止することを目的としているとみられるいくつかの法的工作に取り組んできた。

Alejandro Giammattei 氏

 コンスエロ・ポラス司法長官(Attorney General Consuelo Porras )(現在、自身も米国から汚職関連の制裁を受けている)

Consuelo Porras氏

が率いる検察庁は登録不正の疑いでセミーリャ党に対する捜査を開始し、その後、刑事裁判所判事のフレディ・オレリャノ(Fredy Orellano)氏がパーティーの出場停止処分を下した。

Fredy Orellano氏

 2023年9月、検察庁は選挙事務所への強制捜査で投票用紙を押収し、最高選挙裁判所の中央事務所への強制捜査で選挙結果記録を押収した。 11月17日、ポラス長官の事務所は、国内唯一の公立大学の学生占拠を奨励した疑いでベルナルド・アレバロ次期大統領らを捜査するため、免責特権を剥奪するよう正式に要請した。

 法廷準備書面は、セミーリャ党に対する組織的かつ選択的な攻撃、および政治的目的を達成するための刑法の利用は、選挙権と民主主義に関する国際法基準、ならびに独立性と公平性や正義を確保する義務に違反していると主張している。

(2) グアテマラ憲法裁判所(Corte de Constitucionalidad de Guatemala)(注2)

 筆者なりに、①Constitutional Court of Guatemala (Wikipedia )、②Hauser Global Law School Program, New York University School of Law「グアテマラの法制度概観」GlobalLex :UPDATE: Legal Research in Guatemala:英語版解説、③グアテマラ憲法の英語訳版、④「憲法上の個人、団体の権利侵害からの保護、根拠と手続、憲法裁判所や控訴裁判所の権限に関する法律(Ley de Amparo, Exhibición Personal y de Constitucionalidad)」を以下、仮訳する。

 グアテマラ憲法裁判所は、民主化プロセスと、既存の政治的および法的領域を代表する自由選挙による憲法議会によって承認された新憲法の施行により、1985 年に設立された。憲法裁判所はもともとヨーロッパで誕生したが、グアテマラは、1965 年憲法を通じて憲法裁判所をその地域内で法制度に組み込んだ先駆的な国であった。

 憲法裁判所は司法府の一部ではあるが、権限は限られており、常設ではなかった。その役割は法の合憲性を審査することに限定されており、一般の裁判官がアンパロスの責任を負っていた 。 この期間中、憲法裁判所は 12 人の判事で構成されていた。 最高裁判所の大統領と4人の判事が役職に就き、残りの委員は控訴院と行政院から選出された。今日知られている憲法裁判所は、1985 年に司法権から独立した。

 憲法裁判所の組織に関して、憲法には、第 268 条から第 272 条まで同裁判所の構成を規定する規定が含まれている。同裁判所の裁判官は 、5 人の正規裁判官(Titular Magistrate)及び5人の判事補(Substitute Magistrate)で構成されている。任期は5年で、それぞれに最高裁判所、議会、大統領と閣僚、サンカルロス大学の大学評議会、および弁護士会によって指名される。なお、当然ながら憲法第Ⅳ編第Ⅳ章において司法機関にかかる規定を定め、最高裁判所や控訴裁判所の判事にかかる規定がある。

 グアテマラの政府機構の最高権威は憲法裁判所であり、憲法裁判所は憲法上の司法を執行する責任を負っている。同法廷は憲法全体の解釈について最終決定権を持つ。

 「憲法上の個人、団体の権利侵害からの保護、根拠と手続、憲法裁判所や控訴裁判所の権限に関する法律(Ley de Amparo, Exhibición Personal y de Constitucionalidad )の第 43 条によると、同裁判所が特定の事項の憲法解釈について 3 回の判決を下すと、その解釈は司法府のすべての裁判官に対して拘束力を持つことになる。 裁判所がその解釈から逸脱することを選択した場合、その理由を提示しなければならない。

 同裁判所は、上記の 3 つの手続きに対する管轄権を有するだけでなく、憲法第 171 条( Other Attributions of the Congress)から第 177 条に規定される 3 つの部門に利用可能な諮問管轄権も有する。ただし、勧告的意見には拘束力はなく、裁判所の権限の下にある事項のみに関係する。 この種の帰属の一例は、ローマ国際刑事裁判所規程の批准が検討されていた際の合憲性の評価に見られる。

 最後に、憲法秩序を守ることは憲法裁判所の義務であり、憲法裁判所はこれまで何度も熱心に履行してきたと述べられている。 ただし、批判的な評価を受け入れることは問題外ではない。

2.米国主要大学に見るロースクール進学に関する指導ガイダンスの内容

 ペンシルバニア州立大学Pre-Law Adviser Division of Undergraduate Studies 「法科大学院への進学に興味がありますか? そうすればあなたは法学部の学生です」を抜粋、以下、仮訳する。

 Pre-Law Advising は、ペンシルベニア州立大学のすべての専攻およびキャンパスの学生の進学を支援するサイトである。

 ペンシルバニア州立学生は法科大学院の進むにあたり熟慮すべきポイントが次のとおりまとめられている。

①法律実務はどのようなものか?

 法律実務は選択した分野によって大きく異なるが、どの弁護士もかなりの量の法的調査を行い、裁判所や依頼者の文書の草案を作成します。法律分野は、多くの場合、訴訟 (法廷で訴訟を提起する弁護士) と取引実務 (不動産、商法、不動産計画などのさまざまな取引で顧客の代理を務める弁護士) の 2 つの大きなカテゴリに分類される。

 法科大学院への入学を決める前に、法律実務の文化、労働時間、福利厚生を調査し、可能であればこの世界を実際に観察したり、実際に体験したりすることが重要である。個人事務所の弁護士(法律事務所に勤務する弁護士は、小規模から大規模まで)は、クライアントに資金を請求する必要があり、これらは「請求可能時間」と呼ばれる。この用語に詳しくない場合は、Web ブラウザでこの用語を検索し、法定請求可能時間に関する記事を確認されたい。多くの事務所では、従業員 (事務所のパートナーではない弁護士) に対して、年間 1800 ~ 2200 時間の請求可能時間要件を設けている。これらの時間は、弁護士がクライアント関連の問題に取り組むために事務所で一日または週に何時間を費やさなければならないかを決定する。一般に、企業が大規模であればあるほど、必要な請求対象時間は長くなります。

②法律実務について詳しく知る方法は次のとおりである。

現役の弁護士と情報面談を実施する(次に弁護士が誰と話をすることを勧めるか必ず尋ねられたい)。

③法律インターンシップを確保する(法科大学院では必須ではないが、実務を理解するのに役立つ)。

④弁護士に 1 日または 1 週間付き添う (観察するだけでも多くのことを学ぶことができる)。

⑤現役の弁護士とペアになるメンタリング プログラムに参加されたい。

➅法廷を 1 日訪問する (ほとんどの法廷手続きは公開されている)。

⑦弁護士を招いて実務について話すキャンパス内のイベントに参加されたい。

現役弁護士とのインタビューについては、  LST ラジオ「I am the Law」のポッドキャストにリストされたい。

 ポイントは、法科大学院が自分の目標に最も適しているかどうかを判断し、法科大学院と法律実務について学び、申請するかどうかについて情報に基づいた決定を下す強力な応用材料を開発し、目標を達成するために最適な法科大学院を選択する必要がある点である。

3.SLSの「法の支配影響研究所(Amrit Singh:former U.S. Ambassador to Guatemala Executive Director, Laboratorio de Impact on the rule of law of Stanford Law School)」の活動内容や2022 年に設立されたSLS「ノイコム・法の支配研究センター(Neukom Center for the Rule of Law)」の活動内容

 両者とも、以下述べるように開発途上国の政権の非民主化活動等の支援を行っている。概要を仮訳する。

(1) SLSの「法の支配影響研究室(Amrit Singh:former U.S. Ambassador to Guatemala Executive Director, Laboratorio de Impact on the rule of law of Stanford Law School)」の活動内容

〇本研究室の焦点テーマ

民主主義の衰退と闘うために、地元の法律実務家や学者と協力して法的戦略(訴訟と法的研究、文書化、権利擁護)を開発および展開するとともに、民主主義の衰退と闘うための法的ツールの使用に関する体験学習に学生を参加させる。すなわち、さまざまな状況における民主主義の衰退と闘う最善の方法についての法的知識を広め、共有する。

〇SLSの学際的なアプローチ(Interdisciplinary Approach)

 スタンフォード大学は、伝統的な学問の境界を越えた学習とイノベーションの中心地として知られている。法律実務の影響に関する研究室は、キャンパス全体のリソースを活用し、「ノイコム法の支配研究センター(Neukom Center for the Rule of Law)」、人文科学部、フリーマン・スポッリ国際問題研究所(Freeman Spogli Institute for International Studies)など、幅広い分野にわたる大学の専門知識を活用することで力の相乗効果を生み出している。さらに、スタンフォード・ロー・スクールの経験学習における専門知識は、将来のリーダーが権威主義に抵抗するために法的ツールを使用できるように準備するためのすぐに使えるモデルを提供する。 この取り組みで学生を訓練することにより、本ラボは国内外で民主主義の原則を支持し、擁護する立場にある。すなわち、Rule of Law Impact Lab は、大学全体のスタンフォード インパクト ラボ モデルに触発されており、さまざまな分野にわたる研究者と政策立案者が協力して、世界で最も差し迫った課題のいくつかに取り組むことに重点を置いている。

(2) SLS「ノイコム・法の支配研究センター(Neukom Center for the Rule of Law)」の活動内容

 2022 年に設立されたノイコム・ センターは、ワールド・ ジャスティス・ プロジェクト法の支配インデックス(WJP Rule of Law Index)12/2(22)を含む数多くの研究によって世界中で法の支配が低下していることが明らかになっている重要な時期にその扉を開いた。この学際的なセンターは、研究、教育、コラボレーション、公開討論、政策研究室、実践的な取り組みの拠点であり、そのすべてが共通の目標を共有している。それは、独裁主義へ向かう世界的な傾向を逆転させ、利用しやすい公平な正義と開かれた政府へと流れを変えることである。

 同センターは学際的なプロジェクトに重点を置いており、スタンフォード大学の民主主義・開発・法の支配センターや世界中の学術機関を含め、スタンフォード大学全体の法の支配問題を高めている。 特に、センターは、「ワールド ジャスティス・ プロジェクト」や「ダートマスのコンピュータ化と公正なコミュニティに関するライト センター(The Susan and James Wright Center for the Study of Computation and Just Communities)」など、ノイコム家によって設立された他のプログラムと緊密に連携している。

4.「オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアティブ(Open Society Justice Initiative:OSJI)」の活動内容

「オープン・ソサエティ・ジャスティス・イニシアティブ(Open Society Justice Initiative:OSJI)の教員、研究員

〇アムリット・シン(Amrit Singh)氏 Professor of the Practice of Law and founding Executive Director of the Rule of Law Impact Lab at Stanford Law School.写真の左上

ロンドン・キングスカレッジの渉外法の客員研究員でもあるアムリット・シン氏は、過去 20 年間にわたり人権弁護士として活動してきた。 彼女の研究は、世界中の現代の権威主義に抵抗するための法的手段の有効性に焦点を当てている。彼女は以前、後記(2)のニューヨークの Open Society Justice Initiative (OSJI) で責任部門のディレクターを務めていた。 OSJI 在職中、彼女は、米国の法廷、欧州人権裁判所、およびアフリカ人権・人民の権利委員会において、幅広い人権に関していくつかの人権報告書を執筆し、権利擁護活動を行い、権威主義に関連する問題を含む戦略的訴訟に従事した。アムリット氏はイェール大学ロースクールとニューヨーク大学ロースクールで教鞭をとった。 また、彼女はイェール大学ロースクールで法学博士号(J.D.)を取得し、オックスフォード大学で経済学の修士号を取得し、英国で学士号を取得し、さらにケンブリッジ大学で経済学の博士号を取得した。 彼女はニューヨークの法律事務所のメンバーでもある。

  オープン・ソサエティ財団(Open Society Foundtion)は、戦略的人権訴訟やその他の法律業務を通じて、その広範な使命と価値観に対する専門的な法的サポートを提供するために、2003 年にオープン・ジャスティス・イニシアティブ(OSJI)を設立した。同事務所の弁護士は、国内外の裁判所や世界中の法廷で多数の個人や団体の代理人を務めてきた。 これらの訴訟は、個人の主張を正当化するだけでなく、法の保護を確立し強化するための前例を設定することを目的としている。

 また、パートナーと協力して、違反を文書化し、解決策を提案および試行するとともに、政策立案者と連携し、世界的な法的経験を活用して、誰もが司法にアクセスできるようにしてきた。

Society Justice Initiativeの世界の拠点

5.スタンフォード大学のマーク・テシエ・ラヴィーン(Marc Tessier-Lavigne)学長の経歴概要

 2016 年からスタンフォード大学の第11代学長を務めるマーク・テシエ・ラヴィーン(Marc Tessier-Lavigne)氏はカナダ生まれ。カナダのマギル大学で物理学、オックスフォード大学で哲学と生理学で学位を取得し、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン (UCL) で生理学博士号を取得した。 テシエ・ラヴィーン氏の研究は、脳変性疾患(degenerative brain diseases)の原因と治療に焦点を当ててきた。 彼と彼の同僚は、神経細胞間の接続の形成を指示する分子を特定することにより、胎児の発育中に脳の神経回路がどのように形成されるかを明らかにした。 彼の貢献は、全米科学アカデミー、全米医学アカデミー、アメリカ哲学協会の会員としての選出や、英国王立協会、カナダ、医学アカデミー(英国)、米国科学進歩協会、および米国芸術科学アカデミーのフェローとしての選出など、数多くの賞や栄誉によって認められている。

6.グアテマラの新たな法改革の動向

 米国海外協同組合開発評議会((US Overseas Cooperative Development Council:OCDC))は、世界的な所得格差を緩和し、協同組合の組合員にとって大規模な人類の繁栄を可能にするためOCDCのレポート「2019年、パレデス博士はグアテマラの協同組合一般法(政令82~78号)の明確な分析を共有し、その結果、2020年から2021年にかけてグアテマラの協同組合指導者らを訓練し、協力して改革問題に優先順位を付け、指導者向けの改革提案を作成した」を読んだ。改革案はグアテマラ議会の協力主義とNGOに関する委員会に検討のために提出され、現在検討中であるという内容である。

 2019年、筆者のパレデス博士はグアテマラの協同組合一般法(政令82~78号)の明確な分析を共有し、その結果、2020年から2021年にかけてグアテマラの協同組合指導者らを訓練し、協力して改革問題に優先順位を付け、指導者向けの改革提案を作成したとのことである。

Claudia Paredes Castañeda 氏

 筆者のパレデス(Claudia Paredes Castañeda)氏は、グアテマラ司法部の控訴裁判所の判事としての勤務に加えて、サン・カルロス・デ・グアテマラ大学の法学部教授でもあり、ダ・ヴィンチ大学の講師としても支援・協力している。

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ペンシルバニア州の介護資格管理人に対し死亡発作につながった患者の薬の更新を怠ったと過失による起訴事件と同州のパーソナル・ケア・ホーム管理者教育等の実態

2023-12-01 15:50:35 | 介護責任者の民事責任問題

 ペンシルバニア州のミシェル・A・ヘンリー(Michelle A. Henry)司法長官は、ローレンス郡のパーソナル・ケア・ホーム管理者(注1)が住民に対し、薬を適切に提供しなかったため、発作を引き起こし、2021年に当該男性が死亡したことを告訴すると発表した。

Michelle A. Henry司法長官

 一方、そもそも同州のパーソナル・ケア・ホーム管理者の任務と責任、資格内容を知らないとこの被告裁判の正確な理解ができないこととなろう。このため筆者は、まず同州の医療認定資格内容やトレーニング・プログラム等の内容を調べた。

 今回のブログは、初めに同州の医療認定資格とトレーニング プログラム等を取りまとめ、後段で司法長官府のリリース内容を米国刑法の解説を踏まえ概観する。特に、前者はその内容はわが国の介護者教育内容の更なる課題、また介護資格者の語学教育の在り方、自殺予防等学ぶべき点が多く含まれる。

1.ペンシルバニア州の医療および福祉の研修プログラム

 同州は、成長を続けるヘルスケアおよび福祉サービスのさまざまな分野で新しいキャリアを始めるため、主に以下の利便性のある各管理者育成クラスにつき教育プログラムを提供する。

①生活介護管理者(Assisted Living Administrators)

②介護老人ホーム管理者(Nursing Home Administrators)

③パーソナル・ケア・ホーム管理者(Personal Care Home Administrators)

④医療専門家向けの継続教育の承認(Approved Continuing Education for Healthcare Professionals)

⑤PCHの能力試験(有資格者対象)(Competency Exam for Personal Care Home Administrator (PCHA) (for those that are qualified))

(1)15時間の生活介護管理者(Assisted Living Administrator 15-Hour Training (for PCHAs))教育プログラム

 生活支援管理者は、食事、入浴、服薬、その他の基本的な機能に支援が必要な高齢者を対象としたサービスを管理、概要とりまとめ、調整等を行う。このプログラムの資格を得るには、認定パーソナル・ ケア・ ホーム管理者 (PCHA) である必要がある。

 生活介護管理者は、介護施設の日常業務を監督し、すべてのスタッフが可能な限り最高のサービスを提供できるようにする。

 このパーソナル・ケア・ホーム管理者が生活支援管理者として認定されるには、ペンシルバニア州の生活支援管理者 15 時間トレーニング (1.5 CEU) などの州が承認したコースを受講し、試験に合格する必要がある。

(2) 化学物質依存予防およびカウンセリング教育研究

 化学物質依存、その予防と治療、および化学物質依存に関連する問題を抱える人々の支援に関連する内容、モデル、理論、研究を行う。

①薬物、行動、健康 (BBH 143)

 合法および違法薬物の使用と乱用、および関連する社会問題と予防の健康面。BBH 以外の専攻向けに設計されている。

②職業としてのカウンセリング入門 (RHS 301)

 福祉サービスやリハビリテーションの実践でよく使用されるカウンセリング理論の概要。

③指導およびカウンセリングにおけるグループ手順

 (RHS 303 または CN ED 404)

教育および政府機関の設定におけるグループの性質と機能。カウンセラー候補者にグループプロセスの経験を提供する。

前提条件: カウンセラー教育で 6 単位を取得していること。心理学、社会学、または個人および家族研究の 6 単位を取得していること。

④化学物質依存カウンセリングの基礎 (CN ED 401)

 診断と評価の概要。化学物質依存の予防、カウンセリング、回復のためのモデル。そして化学物質依存症の治療の背景につき学習。

⑤化学物質依存を防止するためのカウンセリング戦略(CN ED 421)

 薬物乱用および非行、自殺、妊娠などの関連問題の一次および二次予防における支援専門家の役割を学習。

➅対人関係とアルコールおよびその他の薬物 (AOD) 依存症 (CN ED 416)

 薬物依存者がいる家族、ダイナミクス、適切な介入、および治療を調査する。

 前提条件: CN ED 401 または RHS 301

*米国の多くの州および準州では、雇用するために専門家免許/認定が必要である。このプログラムを完了した後、資格のある専門職への就職を目指す場合は、 州別の専門家ライセンス/認定開示の インタラクティブ マップにアクセスされたい。

(2) 中核となる医療通訳士資格®

 成長を続ける医療分野の言語通訳の分野に参入しよう!

 Core Medical Interpreter Training Program ® は、成長し競争が激しい医療市場における課題に備えるための集中トレーニングを学生に提供する。Core Medical Interpreter Training ® は、新たに推奨された国家研修ガイドラインに準拠した、フィラデルフィア地域で唯一の 100 時間の医療通訳者研修プログラムである。

 このプログラムは、現在医療業界で働いているか、この分野の入門レベルの資格の取得に興味があるバイリンガルまたはマルチ・リンガルの個人に提供される。このトレーニングでは、役割、モード、倫理、現在の専門ガイドラインや規制ガイドラインなど、医療分野での通訳の基本的な側面をすべて網羅する。我々の目標は、支援を必要とするすべての英語能力に制限のある (LEP) 患者(注2)に対して、専門的な医療通訳における国家ベスト プラクティス基準を推進することである。

詳細ルート

配信: Zoom によるオンライン、ペンシルベニア州立リーハイバレーおよびペンシルバニア州ヨークの協力による

費用:  $995.00(約147,000円)

(3) 心肺蘇生と応急処置コースの概要

①応急処置(First Aid)

 応急処置とは、病気や怪我をした人の最初の治療のことである。負傷者や病気の人を評価し、限られた量の物資を使って介入する方法を学ぶ。

②大人/子供/幼児のための心肺蘇生法(Cardiopulmonary Resuscitation:CPR)

 このCPRおよびAEDコースでは、成人/子供/幼児の犠牲者の心停止や窒息など、生命を脅かす緊急事態を認識して治療する方法を一般救助者に教える。 学生はまた、成人の心臓発作や脳卒中、子供の呼吸困難の危険信号を認識する方法も学ぶ。

③このコースに誰が出席すべきか

 このクラスは、応急処置、心肺蘇生法、AEDに関する一般向けコースで、デイケア提供者、警備員、ベビーシッター、フィットネス専門家、マッサージセラピスト、コーチ、次のような医療専門家以外の学生を対象としている。突然の心臓の緊急事態の危険にさらされている人、および応急処置の病気や怪我に備えたいと考えており、一般的な資格を探しているその他の人々が対象である。

(4) パーソナル・ケア・ホーム管理者 (PCHA) 100 時間トレーニングコースの概要

 このコースは、継続教育要件を満たすことを希望する、現在および将来のパーソナルケア管理者、または看護師、介護士、医療専門家を対象とする。

 ペンシルベニア州立パーソナル・ケア・ホーム管理者 100 時間トレーニング プログラムは、ペンシルベニア州福祉省が標準化および承認したカリキュラムを特徴としており、2 時間から 9 時間まで長さが異なる 19 のコースで構成されている。

(5) パーソナル・ケア・ホーム管理者能力試験(Personal Care Home Administrator Competency Exam)概要

 この試験を受ける前に、認定老人ホーム管理者であるか、100 時間の PCHA トレーニング プログラムを完了している必要がある。 また登録前に有効な書類が必要となる。

  これはペンシルバニア州立アビントン校が管理する監督付き試験である。 試験はオンラインで受験するか、PSU アビントン キャンパスで直接受験するかを選択できまる。 オンライン受験オプションの場合は、登録時に選択できるテスト日のオプションが表示される。日付が確認されたら、電子メールでリンクとログイン手順を受け取る。 オンライン試験では、ビデオ カメラと音声を常にオンにしておく必要があり、オンライン試験セッションは録画される。 PSU アビントン キャンパスでの対面試験の日程は予約制である。質問がある場合は、Randy Ingbritsen (rxi3@psu.edu) までご連絡ください。

(6) QPR( Question Persuade Refer)による自殺予防トレーニング

 自殺予防のための質問・説得(QPR)方法(注3)を学ぶ。

 自殺は予防可能な死因となる可能性がある。わずか 2 時間で、証拠に基づいた質問・説得 (QPR) メソッドを使用して命を救う方法を教える。自殺の危機の危険信号を認識する方法と、誰かに質問し、説得し、助けを求める方法を学ぶ。

 毎年、あなたと同じように何千人もの人々が、家族、友人、同僚、隣人の命を救うことに「イエス」と答えている。オンラインクラスの空き状況を確認されたい:

 この自殺予防プログラムの即時利用可能なオンライン版は、「QPR Institute」で29.95ドルで入手可能。クーポン コード「QPRO」を使用すると 10 ドル割引になり、その価格は 19.95 ドルになる。

2.ペンシルバニア州司法長官府のリリース文の概要の仮訳

 ケリー・ゴンザレス(Kelly Gonzales)氏(48歳)は、ニューキャッスルにある介護施設「ローレンス郡ARC」のパーソナル・ケア・ホーム管理者であったが、患者の抗発作薬の処方箋を更新しなかった。さらにその後、ゴンザレス氏は医療記録を改ざんして、医療提供者が投薬を中止したと主張したが、これは事実ではなかった。なお、ここで引用されている事実関係は一部であり、詳細は「New Castle News(online版)」が報じている。

 ゴンザレス氏は11月28日(火)、要介護者の放置と記録改ざんによる重罪(felony counts)、および過失致死の軽犯罪(注4)(注5)(注6)(注7)で起訴された。ゴンザレス氏は28日に降伏し、罪状認否を受け、本人の誓約書(裁判所への出廷などの行為を義務付ける書類)により釈放された。

 ヘンリー司法長官は「被害者たる住民は、この被告のケアとプロフェッショナリズムに依存しており、彼の人生はそれにかかっていたが、被告はその義務を怠り、悲劇的な結果につながった。私の事務所は、注意義務に違反し、最も弱い立場にある住民を危険にさらす医療提供者を容認しない。」と述べた。

 ゴンザレス氏はパーソナル・ケア・ホームの管理者として、入居者の健康、安全、幸福を含むホームの管理と管理に責任を負っていた。これには、住民の書類が完全に揃っていること、すべての医療予約に出席していること、処方された薬を適時に受け取っていることを確認することが含まれる。

 訴状によると、この入居者は発作障害と診断され、発作を抑えるために抗発作薬を処方されたという。彼は10日以上薬を受け取らなかった後、2021年12月2日にケアホームで亡くなった。解剖の結果、発作障害が彼の死の原因であり、体内の抗発作薬のレベルが治療レベルをはるかに下回っていたことが判明した。

 この事件はクリストファー・R・シャーウッド司法副長官が起訴することになる。すべての容疑は告発である。有罪が証明されない限り、被告は無罪となる。

 ペンシルベニア州によると、ペンシルベニア州メディケイド詐欺取締局は、2024 年度連邦会計年度 (会計年度) に総額 1,063 万 2,312 ドルの助成金として米国保健社会福祉省から資金の 75 パーセントを受け取っており、残りの 25 パーセント、合計 3,544,100 ドルが 2024 会計年度に資金提供される予定。

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(注1) パーソナル・ケア・ホーム管理者は、老人ホームや介護施設の入居者と協力する。 このキャリアでは、スタッフと協力して施設の臨床面と管理面の両方を監督する。 その職務には、①財務問題の処理、②食事のサービスや清掃などの基本的なニーズの監視、③患者が処方薬や治療を受けられるようにすること、④医療スタッフが定めた運動や活動のガイドラインに患者が従うようにすることが含まれる。このキャリアの資格には、ヘルスケア関連分野の学士号または修士号が含まれるとともに。 管理スキルとタスクを委任する能力が必要とされる。

(注2) 論文「米国における医療通訳と LEP 患者」日本通訳翻訳学会( JAITS)を参照されたい。一部抜粋する。

・・米国では英語能力が十分でない(話せない、読めない、書けない、理解できない)状態を LEP(Limited English Proficiency)と称し、医療の場では “A limited ability or inability to speak, read, write, or understand the English language at a level that permits the person to interact effectively with health care providers or social service agencies.” と定義している。米国ではどのようにして LEP 患者への言語サービス、医療通訳制度が発展し、定着したのだろうか。・・・

(注3) 欧米では自殺リスクに関する心理教育やコミュニケーション・スキルを高めることを目的とした、Question, Persuade, and ReferQPR)プログラムや、周囲の自殺のサインに気づいて対応する Signs of SuicideSOS)プログラムがあげられる。(太刀川 弘和「SOS の出し方教育」と自殺予防教育)」から抜粋。

(注4)  重罪殺人(Felony Murder)とは何か? 軽罪過失致死事件は、重罪殺人事件とよく比較される。

一般的に、次の場合には重罪殺人罪を構成する。

    重罪の実行中に行為を犯し、その行為は結果として誰かの死につながる。

  ただし、この犯罪をどのように定義するかは州によって大きく異なることに注意されたい。多くの人は次のように言って攻撃を制限しようとしました。

    特定の根本的な重罪のみが犯罪を引き起こすことができ、 重罪が直接または直接の死因でなければならない、そして重罪は殺人とは独立していなければならない。

 つまり、重罪殺人は、第一級殺人罪や第二級殺人罪とは別個の罪状である。

(注5) 法に基づく自発的過失致死および非自発的過失致死につき、法律情報の検索に特化したアメリカ合衆国のウェブサイト“Justia ”から引用、筆者なりに以下、仮訳する。

1.法に基づく自発的過失致死(Voluntary Manslaughter Under the Law)

 自発的過失致死は、計画性、検討性、または事前の悪意なしに発生する殺人(homicide)の一形態である。これは、挑発(provocation)から生じる「情熱の熱(heat of passion)」(注6)によって行われる意図的な殺人と定義されている。殺人は法律上十分に誘発されたものであるため、刑事罪は殺人から過失致死に減軽される。挑発は殺害を正当化するのに十分なほど重大なものでなければならない。そうでない場合は、被告は第二級殺人罪(注7)で起訴される可能性が高い。

挑発

 犯罪が「情熱の熱」で起こったことを証明することは、満たすのが難しい基準です。被告は被害者が怒りを引き起こしたと単純に主張することはできない。まず、自発的過失致死の罪には、その挑発が、同様の状況にある理性的な人間でも自制心を失い、抗えない衝動に駆られるようなものであったことを証明する必要がある。これは非常に事実に特化した判断ですが、多くの州の裁判所は、特定の行為が適切な挑発に当たると判断しています。例えば、ほとんどの州では、不倫行為で配偶者を捕まえれば十分であり、それが深刻な場合には暴行も同様であるとしている。しかし、裁判所はまた、それ以上の言葉がなければ言葉だけでは決して十分な挑発とは言えず、軽度の場合は暴行も不適切であると判示した。

 第二に、その挑発は実際に被告を挑発したに違いない。他人を殺害したときに実際に「情熱の熱」に陥っていない被告は、被害者の行為が殺人へと駆り立てられたと後から主張することはできない。

【自発的殺人における具体的な挑発の要素】

1.その挑発は、理性的な人でも自制心を失うようなものであったこと。

2.その挑発は実際に被告を挑発したこと。

3.被告には殺害前に落ち着く十分な時間がなかったこと。

 第三に、殺害は被告が落ち着く時間がないほど挑発後合理的な時間内に行われなければならない。理性的な人であれば、この 2 つの行動の間に長い時間が経過して正気に戻るはずはない。たとえば、夫が早く帰宅し、妻が別の男とベッドに寝ているのを発見した場合、「情熱の熱」を主張する夫が家を出て、一区画の周りを長く散歩し、その後戻って他の男を殺害したはずはない。挑発(不倫の目撃)から実際の殺害までの時間が長すぎるため、過失致死罪を裏付けることができず、殺人罪で起訴される可能性が高い。

不完全な自己防衛

 一部の州では、不完全な正当防衛にも自発的過失致死罪の軽減が適用される。不完全な自己防衛は、状況下では致命的な自己防衛が正当化されると個人が正直に信じているが、その信念が不合理である場合に発生する。もし正当防衛が合理的で比例していれば、殺害は正当化されたであろう。むしろ、その信念は不合理であるため、その個人は自発的過失致死罪で起訴される可能性がある。カリフォルニア州は、不完全な正当防衛に対して減刑を認めている州の一つである。

刑罰と防御(Punishment and Defenses)

 自発的殺人罪に対する量刑は州によって大きく異なるが、通常は第一級殺人や第二級殺人の量刑よりも軽い。連邦刑法は被告に罰金または拘禁刑を科すことを認めているが、拘禁刑は10年を超えることはできない。同様に、ミシガン州法は、自発的過失致死に対する刑罰を 15 年以下の拘禁刑に限定している。

意図

 自発的過失致死の弁護には殺意の欠如が含まれる可能性が高く、それが減刑や過失致死の罪状の軽減につながる可能性がある。

 自発的過失致死は、被告が殺人を意図したことを証明する必要があるため(第一級殺人と第二級殺人も同様)、被告は、犯罪を犯す意図がなかったことを示す任意の過失致死に対する弁護を行う権利を有する。たとえば、被告は、その犯罪は偶然だったと主張したり、心神喪失や酩酊のために殺人を意図する能力がなかったと主張したりするかもしれない。このような状況では、被告は犯罪を完全に免除されるわけではないが、危険または過失ではあったとしても、被告の行動が故意ではなかったことが証明できれば、罪状は過失致死罪に減軽される可能性がある。

2.法のもとでの非自発的過失致死(Involuntary Manslaughter Under the Law)

 非自発的過失致死は、無謀(recklessness)または刑事上の過失(criminal negligence)、または軽罪(misdemeanor )などの低レベルの犯罪行為の結果として生じる意図的でない殺人として定義される。過失致死は、熟慮や計画、あるいは故意さえも必要としないため、他の形態の殺人とは区別される。これらの精神状態は必須ではないため、過失致死は殺人の最も低いカテゴリーである。

無謀と犯罪的過失(Recklessness and Criminal Negligence)

【重要な事実】

何が刑事上の過失に該当するかについては、州法によって異なる。

(1)最初の種類の過失致死は、被告が無謀(recklessness)または不注意で他人の死亡につながる行為を行った場合に発生する。「無謀」とは、通常、被告が自分たちが生み出しているリスクを認識していたことを意味し、「過失」とは通常、被告がリスクを認識していなかったが、合理的に認識しておくべきであったことを意味する。

 過失致死に求められる刑事上の過失のレベルは通常の民事上の過失よりも高く、被告が非常に不合理な行為をしたことが求められる。この過失基準を説明するために使用される正確な用語は州によって異なるが、多くはそれを「刑事上の過失(criminal negligence)」または「重過失(gross negligence)」と呼んでいる。

 刑事上の過失には、被告が行う義務のある行為の不履行も含まれる場合がある。例えば、 親には子どもを世話し保護する義務があるにもかかわらず、暑い日に車の中に放置されて子どもが死亡した場合、親は過失致死罪に問われる可能性がある。 別の例としては、旅行会社が乗客に適切な安全手順をアドバイスせず、その結果乗客が死亡した場合が考えられる。 このツアーオペレーターは職務を怠り、刑事上の過失を犯したことになる。

(2)軽罪過失致死(Misdemeanor Manslaughter)

 2 番目の非自発的過失致死は、重罪殺人規則が適用されない軽罪または低レベルの重罪の実行中に発生する意図的でない殺人によって生じる。過失致死の軽犯罪が引き起こされる犯罪は州法によって異なる。軽罪には、重罪未満で、通常は罰金または 1 年以下の拘禁刑が科せられる犯罪が含まれる。一部の州では、軽罪中に殺人が発生すると、軽罪過失致死罪に問われる可能性がある。他のケースでは、より重大な軽犯罪中に発生した殺人のみが過失致死罪に問われる。

 さらに、あなたの州の重罪殺人規則を確認して、どのような重罪がその規則の対象となるかを判断することが重要です。重罪中に発生した殺人が重罪殺人規則に含まれない場合、代わりに軽犯罪過失致死罪が適用される場合があります。

刑罰と防御(Punishment and Defenses)

 過失致死はさまざまな状況で起訴される可能性があるため、過失致死に適用される刑罰と弁護は州によって大きく異なる。連邦裁判所では、過失致死罪では1年から6年の拘禁刑が科される可能性があるが、多くの州では過失や背景にある軽犯罪の重大さに応じてさまざまな量刑が定められている。

 過失致死は故意の表示を必要としないため、被告は犯罪を犯す意図がなかったという弁護を利用することはできない。ただし、被告は、自分の行為が刑事上の過失を構成するのに必要な過失のレベルに達していないと主張することはできる。これには、殺害は本当に事故であり、被告の不注意な行動によるものではないと主張することが含まれる可能性がある。

(注)不当な過失死の民事責任

過失致死罪で無罪となった被告でも、民事不法死亡事件では被相続人の家族に対して責任を負う可能性がある。

 過失致死の軽罪の場合、根底にある軽犯罪に対する弁護は、軽罪過失致死罪に対する弁護にもなる。たとえば、被告が死亡につながる軽犯罪で起訴されたが、被告がその砲撃は正当防衛であったと首尾よく主張した場合、これは軽犯罪過失致死罪の抗弁にもなる。

(注6) 「情熱の熱」の意義をコーネル大学ロースクールLegal Information Instituteサイトから抜粋、以下仮訳する。

 情熱の熱とは、犯罪容疑者が提起する可能性のある感情を和らげる要素であり、犯罪容疑、特に被害者によって誘発された犯罪当時、制御不能な怒り、恐怖、または激怒にあったと主張する際に利用される。 弁護側は熱の存在につき殺人事件の訴追における悪意の要素を打ち消すために使用される。 米国対ビシナーズ事件では、殺人訴追において事前に想定されていた悪意の要素を満たすためには、原告たる政府は合理的な疑いを超えて情熱の熱が存在しないことを証明しなければならないとの判決が下された。

(注7) 第二級殺人は、計画的ではない故意の殺人として定義される。一部の州では、第二級殺人には、人命に対する無謀な無視によって引き起こされる殺人である「堕落した心臓による殺人」も含まれる。第二級殺人は、州の第一 級殺人の定義に当てはまらない、意図的で場合によっては極めて無謀な殺人を包括するカテゴリーとしてみなされることがよくある。たとえば、カリフォルニア州では、第二級殺人は第一級殺人を構成しないすべての殺人として定義されている。したがって、第二級殺人の正確な概要を理解するには、特定の州の法律に注目する必要がある。

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