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世界の平和にとって1秒たりとも気が抜けない激務を担うオースティン国防総省長官の緊急入院・手術を巡る米国の軍事・防衛態勢の継続・維持問題

2024-01-30 07:25:45 | 国家の内部統制

Last updated:January 29,2024

 筆者の手元に米国防総省からのリリースが複数届いている。要約すると国防総省オースティン長官(70歳)の前立腺がんによる緊急人院とその後の回復、トップ軍幹部の動向、野党共和党を含むホワイトハウスへの批判、国防長官の執行権限の委譲の法的問題等であろう。この問題に関する世界の情報メデイアが交錯している。いずれにしても大統領選挙を控えバイデン政権の不安定さや透明性の欠如批判に応える責任はあろう。

 この問題は自衛隊幹部の執務不能時における非常事態問題は東シナ海等の紛争問題や北朝鮮問題を抱えるわが国でも他山の石とすべき重要問題であることは言うまでもない。

 米国の国防総省はホワイトハウスに次ぐ巨大かつ重要組織であり、本ブログでも、わが国で日頃詳しい解説がない分野だけに立ち入った詳しい解説を心がけた。また、わが国のシビリアン・コントロールの在り方も併せて論じたい。

  本ブログの執筆中に米国と英国はイエメンにあるフーシ派武装勢力の標的約十カ所への攻撃を開始した旨の情報が配信されてきた。まさに重要な軍事決断時期であったといえる。

 国防総省は1月29日、以下のリリースを行った。「ロイド・J・オースティン国防長官は本日、国防総省での勤務に復帰した。 同長官は、2024年1月15日にウォルター・リード国立軍事医療センターから退院して以来、自宅で職務を行っていた」

 なお、国防総省は1月29日、以下のリリースを行った。「ロイド・J・オースティン国防長官は本日、国防総省での勤務に復帰した。 同長官は、2024年1月15日にウォルター・リード国立軍事医療センターから退院して以来、自宅で職務を行っていた」

Ⅰ.18日、国防総省報道官のパット・ライダー少将(Major General Patrick S. Ryder)が撮影禁止、記録のみの筆記録(Transcripts)プレス・ブリーフィングの概要

Patrick S. Ryder少将

 私が最初に行いたいのは、記者の多くが持っている今後の予定(timeline)に関する質問のいくつかに対処することである。 次に、長官の健康状態に関する状況の最新情報を提供する。

 12月22日(金)、国防長官ロイド・J.オースティンIII(Secretary of Defense Lloyd J. Austin)は、ウォルターリード国立軍事医療センター(Walter Reed National Military Medical Center))で選択的医療処置を受けた。彼の手続き中および彼の入院中に、彼は特定の運用権限を国防副長官に移管した。その後、1223()にいったん退院し、休暇中も自宅で仕事を続けた。

 11()の夕方、彼は激しい痛みを経験し始め、救急車でウォルターリード国立軍事医療センターに移送され、そこで集中治療室に入院した。彼は意識はあったが、かなり苦痛であった。その夜、彼は医師による検査と評価を受けた。

 1月2日(火)の午後、長官の状態と医学的アドバイスに基づいて, 国防長官の特定の任務の権限移譲にかかる関係法(10 USC 132)201031付け 大統領令 EO13533 (Executive Order 13533)「国防総省内での継承命令の規定」にもとづき、国防総省キャスリーン・ヒックス国防副長官(Deputy Secretary of Defense Kathleen Anne Holland Hicks  )(筆者注1)に移管された。長官および副長官のスタッフと合同スタッフは、定期的な電子メール通知手続きを通じて移管が行われたことを通知された。

Kathleen H. Hicks 副長官

 1月4日(木)、副長官と国家安全保障顧問(National Security Advisor)は、長官から長官の入院について通知を受けた。国防長官のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官(National Security Advisor ,Jacob Jeremiah Sullivan) (筆者注2)はインフルエンザで病気になり、これらの通知が遅れた。現在、ホワイトハウスと議会の通知を含めるために、これらの通知手順を改善する方法を検討している。

Jacob Jeremiah Sullivan 氏

 1月4日の午後、副長官と国防長官の大統領補佐官は、公式声明の起草と議会のアウトリーチに直ちに従事し始めた。また副長官は、1月5日にワシントンDCに戻るための緊急時対応計画を立て始めた。しかし、副長官は同日午後、長官が1月5日に完全な通信能力と関連する運用上の責任を再開する準備をしていることを知らされた。したがって、副長官は暫定的に最良のコミュニケーション姿勢を確保するために適切な場所に留まった。

 国防長官の権限移管にかかる法律「10 U.S.C. § 132(b) 」(筆者注3)準拠し、および大統領令EO 13533「国防総省内での継承命令の規定」により、特定の状況下では、国防副長官が国防長官の代理を務め、その権限を行使するものとする。

 10 USC 132(b)と一致し, ヒックス副長官は、この期間に部局の日常的な運用および管理の決定を行い、完全に承認され、他の軍事問題について大統領を支援する準備ができていた。

 1月5日の午後、国防総省の長官と他の首席補佐官が国防長官の大統領補佐官から通知を受けた。

 オースティン長官は1月5日の夕方に任務を再開した。

 オースティン長官は現在、ウォルターリード国立軍事医療センターに入院しており、元気で順調に回復している。彼はもはや集中治療室にいないが、病院のよりプライベートな地域で回復にあったている。彼は体調には不快感を経験し続けているが、彼の予後は良好である。

 1月5日の夜に職務を再開して以来、長官は運用上の最新軍事情報を受け取り、必要なガイダンスを提供してきた。彼は必要な安全な通信機能に完全にアクセスでき、国防総省の日常業務として世界中で監視し続けている。

 また、ヒックス副長官、統合参謀本部議長であるCQブラウン・ジュニア大将(Chairman of the Joint Chiefs of Staff Gen. Charles Q. Brown, Jr.)、および上級スタッフとも密に連絡を取り合っている。

Gen. Charles Q. Brown, Jr.大将

 1月8日、彼は大統領デイリーブリーフ(PDB)(筆者注4)と運用アップデートを受け取った。彼が自分の回復に焦点を当てている間でも、彼は本日一日中、部局とホワイトハウスの上級指導者と接触することを期待している。

 現在、彼の退院の具体的な日付はまだ決まっていないが、長官が利用可能になった時点で、長官の健康、執務等ステータスに関する最新情報を提供し続ける。

 また、オースティン長官が透明性の問題について責任を負ったことを強調したいと思う。そして、同省は私たちの通知手順を改善するための措置を講じた。

 1月2日の午後、私は広報担当国防次官補 (ATSD (PA)(筆者注5)から、長官が入院していることを知らされた。彼には提供する追加情報がなかった。しかし、私はもっと学び、より以前に国民の承認を求めるべきだったと認識している。

 したがって、今回の経験から学ぶことをお詫び申し上げる。あなたが私たちに期待する基準を満たすために、私はできる限りのことを行う。1月8日遅くに国防総省報道協会と面会し、さらに話し合い、フィードバックとアドバイスを受けることを楽しみにしている。また、国防総省記者団から軍事記者・編集者協会などから受け取ったフィードバックにも感謝する。

 国防長官と国防総省にとって、私たちが奉仕するアメリカ国民の信頼ほど重要なものはない。そして我々は毎日その信頼を獲得し、それに値するために一生懸命働き続ける。

 1月12日国防総省の追加リリースを仮訳する。

 パット・ライダー少将(Major General Patrick S. Ryder)は、国防長官ロイド・J.オースティンIII(Secretary of Defense Lloyd J. Austin)の健康状態について次のように最新情報を提供した。

 オースティン長官は引き続きウォルターリード国立軍事医療センターに入院しており、健康状態は良好である。

  彼はDODの上級スタッフと連絡を取り、必要な安全な通信機能に完全にアクセスし、世界中の国防総省の日常業務を監視し続けている。

 長官は今週、イエメンのフーシ派支配地域の軍事目標に対する1月11日夜の多国籍攻撃への米軍の参加の監督と指揮に積極的に従事した。 大統領の指示を受けて、11日米国中央軍に攻撃を実行するよう命令を出し、安全な通信機能一式を使って作戦をリアルタイムで監視した。 長官の多国籍攻撃後の声明はここで見ることができる。

 1月12日、オースティン長官は下院軍事委員会委員長のマイク・D・ロジャース下院議員(House Armed Services Committee Chairman Rep. Michael Dennis Rogers : D-Wash.)

Michael Dennis Rogers 氏

 上院軍事委員会のランキング上級委員のロジャー・F・ウィッカー上院議員(Roger Frederick Wicker)、下院軍事委員会ランキング委員のアダム・スミス下院議員(House Armed Services Committee Ranking Member Rep. Adam Smith: Washington's 9th congressional district.選出 民主党)と電話会談を行った。

Adam Smith 氏

 現時点ではオースティン長官の退院の具体的な日程は未定であるが、DODはそれまで毎日最新情報を提供し続ける。

Ⅱ.ウォルター・リード国立軍事医療センターの医療関係者の長官の治療内容・診断結果の詳細声明

 2024 年 1 月 9 日の声明を仮訳する。

 メリーランド州ベセスダにある「ウォルター・リード国立軍事医療センター」の外傷医療ディレクターのジョン・マドックス博士(Dr. John Maddox, Trauma Medical Director)とマーサがんセンター前立腺疾患研究センター長のグレゴリー・チェスナット博士(Dr. Gregory Chesnut, Center for Prostate Disease Research of the Murtha Cancer Center Director)は1g月9日、オースティン 長官に関して次の声明を発表した。

 長官は定期的に推奨する健康診断の一環として、定期的に前立腺特異抗原(PSA)監視を受けている。 2023 年 12 月初旬の検査室評価の変更により、治療が必要な前立腺がん(prostate cancer)が特定された。 2023年12月22日、医療チームと相談した後、ウォルター・リード国立軍事医療センターに入院し、前立腺がんの治療と治癒を目的とした前立腺切除術と呼ばれる待機的外科手術(elective medical procedure)を受けた。 この手術中、彼は全身麻酔下にあった。 長官は手術から順調に回復し、翌朝帰宅した。 彼の前立腺がんは早期に発見され、予後は良好である。

 2024年1月1日、長官は12月22日の手術処置による吐き気と激しい腹部、股関節、脚の痛みを伴う合併症のためウォルター・リード国立軍事医療センターに入院した。 初期の検査で尿路感染症が判明した。 1月2日、綿密な監視とより高度なケアのために彼をICUに移送する決定が下された。 さらなる検査により、腹水の貯留により小腸の機能が損なわれていることが判明した。その結果、腸の内容物が逆流してしまい、鼻からチューブを入れて胃の内容物を排出することで治療された。 腹水の貯留は非外科的ドレーン留置により排出された。 彼は入院中中着実に回復してきた。また 彼の感染症は治癒した。 彼は回復を続けており、時間はかかるかもしれないが、完全な回復が期待されている。 この入院中、長官は一度も意識を失うことはなく、全身麻酔も一度も受けなかった。

 前立腺がんはアメリカ人男性のがんの最も一般的な原因であり、生涯のうち男性の8人に1人、アフリカ系アメリカ人男性の6人に1人が罹患する。 前立腺がんの発生頻度にもかかわらず、スクリーニング、治療、サポートに関する議論は非常に個人的でプライベートなものであることがよくある。 前立腺がんの発見と治療には早期のスクリーニングが重要であり、どのようなスクリーニングが自分にとって適切であるかについて医師に相談する必要がある。

Ⅲ.国防総省長官および副長官およびDOD上級役職員の覚書「標題: 国防長官の職務と義務の引継ぎに関する通知プロセスの見直し」の概要

 覚書を仮訳する。

DODサイト(2022年現在)から一部抜粋 上級幹部の顔写真が確認できる。

〇DODの国防長官府(OSD)の組織図 (筆者注8)

 本覚書は、合衆国法令集第10編第132(b)条(10 U.S.C. § 132(b)) に準拠し、 および大統領令 EO13533「国防総省内での継承命令の規定」により、特定の状況下では、国防副長官が国防長官の代理を務め、その権限を行使するものとする。これには、長官が職務の機能や職務を遂行できない場合も含まれる。 2024年1月1日の夜、オースティン国防長官は、最近の選択的医療処置後の合併症のためウォルターリード国立軍事医療センターに入院した。 2024 1 2 日、国防長官の特定の権限が国防副長官に移管された。 この移管は2024年 1 月 5 日(金)まで継続された。

 私(Kelly E. Magsamen)(筆者注9)はここに、総務管理部長のジェニファー・ウォルシュ(Jennifer Walsh)に対し、DOD法務顧問と相談の上、関連事実を特定するための調査を直ちに主導するよう指示した。

 緊急事態の期間中の状況を評価し、国防副長官が任務を十分に遂行するよう通知を受けたプロセスと手順をここに評価する。

Kelly E. Magsamen氏

 合衆国法典第10編§ 132(b)条および大統領令EO 13533に基づく国防長官の任務に関する任務の見直しの目的は、これらの出来事を取り巻く事実をより深く理解し、今後の適切なプロセスを推奨する。 このレビューの目的は、(1) 特定の権限が移譲されたと決定された場合の明確性と透明性を確保するのに役立たたせる、(2) 適切かつタイムリーな通知が大統領とホワイトハウス、および必要に応じて米国議会と米国国民に対して行われたこと。

 本レビューには次の内容を含める必要がある。

① 2024 年 1 月 1 日の国防長官の入院に始まる出来事と通知のタイムライン。

② 長官がその職務の機能や責務を遂行できるか、または遂行できないかどうか、およびそのような通知がどのように行われるかを判断するための現在のプロセスを調査する。

③ 必要に応じて、米国大統領、国防総省の高官、その他の関係者に対する既存の通知プロセスを改善するための勧告。

 私は、このレビュー審査を 30 日以内に完了するよう指示する。また、レビューは現在進行中であり、直ちに発効するが、さらに私は次のように指示する。

「権限の移譲」(transfer of authority TOAが発生した場合、上級幹部情報支援室(Cables Executive Support Office :ESO)(筆者注10)は、DOD法務顧問(General Counsel)、統合参謀本部議長および副議長(Chairman and Vice Chairman of the Joint Chiefs of Staff)、国防長官及び副長官の参謀本部(Deputy Chiefs of Staff to the Secretary and Deputy Secretary)、 統合軍司令官(Combatant Commanders)、陸軍長官(Service secretary means the secretary concerned as defined in 10 USC 101(a)(9))、参謀本部の制服組の最高幹部(Service Chiefs of Staff)(筆者注11)、ホワイトハウスのシユツエーション・ルーム(White House Situation Room) (筆者注12)、および長官および国防副長官の上級幹部。

② 電子メールのメッセージには、TOA の理由 (通信デバイスの圏外、定期的な治療、入院など) が含まれる。

③事前に計画された TOA を調整する際、国防長官の軍事補佐官 (Secretary's Military Assistant (MA) ) チームのメンバーが私、副長官の首席補佐官、副長官から長官、副長官、副長官の上級軍事補佐官に最新情報を伝える。その他の長官および副長官の軍事補佐官 MA は、事前に計画された TOA の予想スケジュールに基づいて 至急な連絡等を行う。

④緊急の TOA の場合、担当 軍事補佐官MA は少なくとも音声通信に依存し、電子メールでフォローアップする。ずれの場合も、Cables ESO からの電子メールは通知を記録する。

 上記の当面の措置は、30 日間のレビューの結果、さらに修正される可能性がある。

cc: DOD法務顧問

Ⅲ.今回の国防長官の緊急入院や軍最高幹部の対応の遅れ、ホワイトハウスへの情報遅れ等の問題

 今回のオースティン長官の緊急入院と権限移管に関する米国の議会等によるシビリアン・コントロールに関するメデイア等に見るさらなる課題につき1月7日のAP News 記事から抜粋、以下、仮訳する。

 オースティン国防長官(70歳)は、軽度の選択的医療処置後の合併症のため入院したままであると彼の報道官は述べた。 国防総省がウォルターリード国立軍事医療センターでの長官の入院に関する情報をどれほど密接に保持していたかがますます明らかになるにつれて、報道官は彼の当初の声明の中で、長官は回復中であり、すぐに国防総省に戻ることを楽しみにしていると述べたが、彼の病気について他の詳細を提供しなかった。

 国防総省報道官のパット・ライダー少将空軍少将は、ホワイトハウスと合同参謀本部はオースティン長官の入院について通知を受けたが、その通知がいつ起こったかは確認しなかったと語った。

 多くの米国当局者は1月6日、長官が入院していることを1月5日まで国防総省の最高幹部の多くが知らなかったと述べた。当局は匿名の条件で話し、プライベートな会話について話し合った。1月5日にホワイトハウスが彼の状態を知ったことを報告した最初の人物は米メデイアPolitico (筆者注13)であった。

 ライダー少将は、 議会のメンバーは1月5日の午後遅くに告げられ、他の当局者は議員が午後5時以降に通知されたと述べた。長官のスタッフの主要な上級メンバーにいつ伝わったかは明らかではないが、国防総省全体で, 多くのスタッフが、長官の病院滞在に関する声明を発表したときである5日の午後5時過ぎに知った。つまり、多くの軍幹部は長官が今週休暇を取っていると信じていた。

 長官が入院したときに引き継いだキャサリン・ヒックス国防副長官も不在であった。米国の当局者は、長官との間に彼女が仕事をすることを可能にするプエルトリコで彼女とのコミュニケーションセットアップを持っていたと述べた。 結果、米軍で41年間過ごし、2016年には4つ星の陸軍大将として引退した人は無力であった。

 ライダー少将は1月6日、長官の回復は順調で、1月5日の夕方、病院のベッドから全職務を再開したと語った。なぜ入院が長い間秘密にされているのかと尋ねられた少将は、5日にそれが“回復が進む状況であり、プライバシーと医療の問題のためであると述べ, 国防総省は長官の職務不在を公表しなかった。当時、少将はオースティンの医療処置または健康に関するその他の詳細を提供することを拒否した。

 連邦議会上院軍事委員会で最高位にある共和党ロジャー・ウィッカー(Mississippi Sen. Roger Frederick Wicker ) 氏(筆者注14)(筆者注15)(筆者注16)は「国防総省は、国防長官の病状を数日間故意に差し控えたことは受け入れられない。われわれ議会は、部局の衝撃的な法律違反について1時間ごとにさらに学習している」

Roger Frederick Wicker 氏

 また、アーカンソー州選出共和党のトム・コットン(Sen. Thomas Bryant Cotton , R-Arkansas)氏 (筆者注17)も大統領や議会等通知の遅れを次のとおり批判した。

Thomas Bryant Cotton 氏

 「国防長官は、核指揮系統を含む大統領と制服を着た軍部との間の指揮系統における主要なリンク責任者であり, 最も重要な決定を数分で行わなければならないとき、長官がホワイトハウスにすぐに伝えなかったことは, この衝撃的な内訳には影響があるはずである」

 国防総省をカバーするメディアメンバーを代表する国防総省報道協会(Pentagon Press Association:PPA)は、5日の夜にライダー少将とDOD広報担当次官補のクリス・ミーガー(Chris Meagher)氏に抗議の手紙を送った。

Chris Meagher氏

 PPAはその書簡で「長官がウォルターリード国立軍事医療センターに4日間滞在していて、国防総省が5日の夜遅くに国民一般に警告しているという事実は怒りそのものである。中東の米軍サービスメンバーに対する脅威が高まっている現在、米国はイスラエルとウクライナでの戦争で主要な国家安全保障の役割を果たしている。アメリカの国民がその最高の防衛指導者の健康状態と意思決定能力について知らされることは特に重要である」

 これまで他の米国の上級指導者たちは、自身の入院についてはるかに透明であった。すなわち、メリックガーランド司法長官が2022年に通常の医療処置に参加したとき, 彼のオフィスは1週間前に国民に通知し、彼が外出することが予想される期間と彼がいつ仕事に戻るかを概説した。

 今回のオースティン長官の入院時期は、イランが支援する民兵が米軍がイラクとシリアに駐留している基地で繰り返し無人偵察機、ミサイル、ロケットを発射した時期である。バイデン政権を何度も反撃するように導いた。これらの攻撃には、長官や他の主要な軍事指導者によるデリケートでトップレベルの議論と決定が含まれることがよくある。

 また、アメリカはイエメンのフーシ過激派(Houthi militants)による商業船への持続的な攻撃を阻止するために南紅海をパトロールするために船と他の資産を使用する新しい国際海事連合の背後にある主要な主催者でもある。(筆者注18)

 さらに、オバマ政権、特にオースティン長官は、武器を供給し、ウクライナに訓練する取り組みの最前線にいる。 彼はまた、ハマスとの戦争についてイスラエル人と頻繁にコミュニケーションをとっている。

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(筆者注1)DODサイトのヒックス副長官の略歴を仮訳する。

 キャスリーン・H・ヒックス閣下は第35代国防副長官を務めている。彼女は2021年2月9日にその役職に宣誓した。

 副長官に就任する前は、ヒックス 氏はヘンリー A. キッシンジャー氏が代表する外交問題評議会(Foreign Policy and International Relations : Council on Foreign Relations ) (筆者注6)上級副代表、CSIS(戦略国際問題センター)の国際安全保障プログラムのディレクターを歴任した。

 2009 年から 2013 年まで、彼女は国防総省の高級文官を務めた。 2012年に米国上院によって政策担当首席国防次官に承認され、世界および地域の国防政策と戦略について国防長官に助言する責任を負った。

 また彼女は戦略、計画、戦力担当の国防副次官も務め、2012 年の国防戦略指針と 2010 年の 4 年ごとの国防見直しの開発を主導し、将来の戦力能力、海外での軍事態勢、緊急時および戦域作戦計画に関する指針の策定を主導した。

 Deputy Under Secretary of Defense for Strategy, Plans and Forces(SPF の DUSD) になる前の 2006 年から 2009 年まで、ヒックス氏は戦略国際問題研究所の上級研究員を務めていた。 ヒックス氏は国防長官室の公務員としてキャリアをスタートし、1993 年から 2006 年までさまざまな役職を務め、大統領管理インターンから上級行政職まで昇進した。

(筆者注2) ジェイコブ・ジェレマイア・サリバン(1976年11月28日生まれ)はアメリカの弁護士で、現在ジョー・バイデン大統領直属の国家安全保障担当大統領補佐官を務めている。 彼はこれまでに米国国務省でバラク・オバマ大統領の政策局長、バイデン副大統領の国家安全保障担当補佐官、ヒラリー・クリントン長官の首席補佐官を務めた。また サリバン氏は、イラン核交渉における米国連邦政府上級顧問、クリントン長官の2016年大統領選挙キャンペーンにおける上級政策顧問、さらにイェール大学ロースクールの客員教授も務めた。

 2020年11月23日、バイデン次期大統領はサリバン氏を米国国家安全保障担当大統領補佐官に任命すると発表し、2021年1月20日に就任した。

(筆者注3) (1)10 USC 132(b)条: Deputy Secretary of Defense を仮訳する。

(b) 副長官は、国防長官が定める職務を遂行し、権限を行使するものとする。 副長官は、長官が死亡、辞任した場合、またはその他の理由で長官の職責および職務を遂行できなくなった場合に、長官を代理し、その権限を行使するものとする。

(2)オバマ大統領時代に発令された2010.3.1 Executive Order 13533—Providing an Order of Succession Within the Department of Defenseを仮訳する。

 1998 年の連邦空員制度改革法 (修正版) を含むアメリカ合衆国の憲法および法律により、大統領として私に与えられた権限により、5 U.S.C. 3345 以降では、以下のことが命じらた。

セクション 1. 継承順位。

(a) 本命令第 2 条の規定に従い、国防総省の以下の職員は、列記された順序で、次の期間中、国防長官 (長官) の職を務め、その職務と義務を遂行するものとする。 長官が死亡、辞任、またはその他の理由で長官の職務の機能および職務を遂行できなくなった期間、長官がその職務の職務および職務を遂行できるようになるまでの期間:

(1) 国防副長官。

(2) 陸軍長官。

(3) 海軍長官。

(4) 空軍長官。

(5) 防衛次官(調達、技術、兵站担当)。

(6) 政策担当の国防次官。

(7) 国防次官(監察官)。

(以下は略す)

(筆者注4) 大統領日報 ( President's Daily Brief, PDB) は、米国政府の担当部局が毎日作成し、米国大統領に毎朝届けられる最高機密文書。これは大統領が認めたごく限られた政府高官らにも渡される。日報の内容には、機密性の高い情報分析、CIAの秘密工作に関する情報、最も機密性の高い米国の情報源からの報告、同盟国の情報機関と共有している報告、といったものが含まれる。大統領日報は、大統領選で当選し就任を控えた次期大統領にも渡される。

 大統領日報は国家情報長官が作成し、中央情報局 (CIA)、国防情報局 (DIA)、国家安全保障局 (NSA)、連邦捜査局 (FBI)、そのほか米国のインテリジェンス・コミュニティーに属する機関から上がってきた情報を総合した内容になっている。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注5) 広報担当国防次官補 (ATSD (PA)) は、広報、内部情報、地域関係、情報訓練、視聴覚問題の主任参謀であり、国防長官および国防副長官の補佐を務める。 国防総省の取り組みを支援し、約 3,800 人の軍人および民間人からなる世界的な広報コミュニティを主導している。次官補は、長官の情報原則に従って国防総省の情報を国民、議会、メディアに提供する。 2012 年 10 月以前は、この役職は「広報担当国防次官補」として知られているが、2011 年の大統領任命効率化および合理化法に応じて名前が変更された。ATSD(PA) は重要な人物であるが、国家の重要人物ではなく、唯一の広報担当者である。(Academic Acceleratorから抜粋)

(筆者注6) 外交問題評議会(Council on Foreign Relations)は、アメリカ合衆国のシンクタンクを含む超党派組織。 1921年に設立され、外交問題・世界情勢を分析・研究する非営利の会員制組織であり、アメリカの対外政策決定に対して著しい影響力を持つと言われている。超党派の組織であり、外交誌『フォーリン・アフェアーズ』の刊行などで知られる。本部所在地はニューヨーク。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注7) DODの行政管理部長 (Director of Administration and Management:DA&M) は、国防総省の国防長官室 (Office of the Secretary of Defense OSD) 内の役職である。 DA&Mは、組織および行政管理事項に関する国防長官および国防副長官の主席補佐官および顧問として、以下の責任を負う。

  ①組織憲章の策定と維持、②国防総省委員会の管理、③国防総省の本部管理、③OSD歴史的記録などの割り当てられたプログラムの監督プログラム、④国防総省の情報自由法プログラム、⑤国防総省プライバシー・ プログラム、⑥国防総省市民の自由プログラム、⑦OSD 内部管理制御プログラム、および⑧ OSD 情報技術/CIO プログラムである。さらに、DA&M は国防総省軍保護局とワシントン本部サービスの管理と監督の責任を果たしている。従業員は約 1,300 名、現場活動予算は 13 億ドル(約1,872億円)に達している。

(筆者注8) 国防総省の国防長官府(Office of the Secretary of Defense :OSD)の解説の仮訳

 アメリカ合衆国国防長官府 (Office of the Secretary of Defense (OSD) は、アメリカ国防総省の本部である。国防長官直属の組織であり、主に文民職員 (いわゆる「背広組」)で組織されている。政策開発、国防計画、資材管理、会計、及び背策評価の責任分野で各種権限を行使し、国防総省に対する権限、指揮、統制を実行する長官を支援する。長官府は、統合参謀本部とともに、国防総省を管理する国防長官の支援部門であり、アメリカ合衆国において連邦行政部全体を管理する大統領の大統領行政府に相当する。

 長官府には、国防長官 (SecDef)と国防副長官 (DepSecDef)に直属する6人の国防次官 (研究・技術、取得・維持、政策、会計検査、人事・即応、諜報・安全保障) が置かれている。国防次官は、全て大統領によって任命され、国防長官や国防副長官と同様に、連邦議会上院の承認を要する。

 その他の役職として、国防次官補、国防長官補佐官、法律顧問、運用試験・評価局長、行政事務局長及び割り当てられた職務を遂行するために国防長官が設置した役職があり、それぞれ国防長官を補佐する。

 長官と副長官は、6人の次官を監督し、それぞれの次官は数人の次官補を監督している。その他に長官に直属する特別職員も数人置かれている。以下、略す。(Wikipediaから抜粋、なお、そこに引用されているOSDの組織図は古い、本ブログのものを参照されたい)

(Wikipedia から抜粋, 仮訳)

【DODの国家情報機関機能】(青色部:筆者が説明を補筆した)

国防総省の組織の一部は、アメリカのインテリジェント・コミュニティ (IC)のメンバーとなっている。通常は国防総省の管轄下で活動する連邦レベルの諜報機関であるが、同時に国家情報長官の権限にも服している。これらの機関は、国家の政策立案者や戦争に関する権限を有する者が、その職務を遂行するために、戦闘支援機関として機能する。また中央情報局 (CIA)や連邦捜査局 (FBI)などの国防総省以外の諜報機関や法執行機関の支援も実施する。

 上記以外にも、各軍種には独自の諜報機関が置かれている。国防総省の管轄下にある国家情報機関とは別組織であるが、調整の対象とはなっている。国防総省は、シギント(signals intelligence:通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動のこと)、地理空間情報(Geospatial intelligence:地理空間情報を含む画像、信号、または署名の活用と分析から得られる、地球上の人間の活動に関するインテリジェンス。 GEOINT は、地球上の物理的特徴と地理的に参照された活動を記述、評価し、視覚的に表現する。 米国連邦法典で定義されている GEOINT は、画像、画像インテリジェンス (IMINT)、および地理空間情報で構成されている)、マジント(Measurement and Signature Intelligence :MASINT) は、情報収集の技術分野であり、固定または動的ターゲット・ソースの特有の特性 ンテリジェンス、音響インテリジェンス、核インテリジェンス、化学および生物学的インテリジェンスが含まれる)の各分野で国家情報機関の間の調整を担当している。また、これらの分野の資産を管理するとともに、情報衛星の打ち上げ、運用、情報網の構築を行っている。また国防総省は、CIAが実施するヒューミント(HUMINT; Human Intelligence):人が人に接触して収集するデータ、情報、知識。相手の経歴、身体的特徴、思想傾向、雰囲気、性癖、言語化されない暗黙知も含まれる)に協力すると同時に、軍事面での優先的なヒューミントを実施するために独自の機関 (国防情報局内の国防秘密局)を保有している。国防総省の国家情報機関は、国防次官 (諜報・安全保障担当)によって監督されている。

(Wikipedia等から抜粋) なお、日経XTECH「細分化が進むインテリジェンス」も参照されたい。

(筆者注9) ケリー・マグサメン(Kelly Magsamen)氏は、ロイド・J・オースティン3世国防長官の首席補佐官である。 国防長官の幹部スタッフを指揮し、国防長官に国防総省に関するすべての問題について助言やアドバイスを提供する責任を負う。

(筆者注10)覚書に出てくるCABLES EXECUTIVE SUPPORT OFFICEにつき補足する。SDCの解説を仮訳する。

 DISA(アメリカ国防情報システム局)は、軍事通信、電波監理や通信システムの開発などを担当する国防総省の内局) の戦略的コミュニケーションと広報を担当する部局である。

 国防総省長官通信局 (Secretary of Defense Communications:SDC)は、国防総省長官および国防総省副長官、その直属の事務所、および指定された特使に専用の通信サポート、意思決定サポート、および状況認識サービスを提供する。

 2017 年に国防情報システム局のミッション・ポートフォリオに統合された SDC は、すべての脅威シナリオおよび地理的位置にわたってグローバルな状況認識を提供する統合通信ソリューションを提供し、国防長官が合衆国法典第 10編 および第50 編1/8(22)で義務付けられている指揮統制権限と責任を行使できるようにする。

 国防長官の信頼できるプロバイダーとして機能する統合奉仕チームは、非常に小さな拠点を維持しながら、大きな任務を達成する。

 SDC の小さいながらも重要なコンポーネントの 1 つは、その使命をサポートする有能な軍人を継続的に探しているケーブル支局(Cables Branch)である。

 SDCの上級幹部支援官であるジョージ・ランドルフ(George Randolph)陸軍中佐ケーブル支局長は「SDCの作戦情報管理および指揮統制サポートセンターであり、約20人の軍人が配置され、3人チームで活動している。我々は、国防長官とその直属のスタッフに、場所に関係なく、複数のプラットフォームと分類にわたって包括的な音声、ビデオ、およびデータ機能を提供する」

 ケーブルズ支局のメンバーは、ホワイトハウス状況室、国務省、国防総省の各機関、および外国の対応機関との連絡役としても機能する」と述べた。

(筆者注11) 統合参謀本部 (Joint Chiefs of Staff:JCS) は、米国国防総省内の制服を着た最高幹部の組織であり、軍事に関して米国大統領、国防長官、国土安全保障会議および国家安全保障会議に助言を与え、 重要な組織である。 統合参謀本部の構成は法令で定められており、議長(CJCS)、副議長(VJCS)、陸軍、海兵隊、海軍、空軍、宇宙軍の長官、および軍司令官から構成される。(Wikipedia を抜粋、仮訳)

(筆者注12) シチュエーションルーム ( White House Situation Room) は、アメリカ合衆国、ホワイトハウスのウエストウイングの地下にある施設である。513.2平方メートルの会議室と情報管理センター機能を備える。

 シチュエーションルームは、アメリカ合衆国大統領とその顧問(国家安全保障問題担当大統領補佐官、国土安全保障担当大統領補佐官、大統領首席補佐官を含む)が、国内外の有事の監視と対応を行うため、そして外部機関(海外の機関を含む)と安全な通信を行うために利用すべく、国家安全保障会議のスタッフによって運営されている。(Wikipedia から抜粋)

 (筆者注13) ポリティコ(Politicoは、政治に特化したアメリカ合衆国のニュースメディアである。主にワシントンD.C.の議会やホワイトハウス、ロビー活動や報道機関の動向を取材し、テレビやインターネット、フリーペーパー、ラジオ、ポッドキャストなどの自社媒体を通じてコンテンツを配信している。(Wikipediaから抜粋 )

(筆者注14) ロジャー・F・ウィッカー(Roger Frederick Wicker)氏は、2007年12月から米国上院でミシシッピ州民の代表を務めている。上院議員時代、ウィッカー氏は雇用を創出し、連邦政府の行き過ぎを制限し、生命を守り、強力な国防を維持する成長促進政策を擁護してきた。

 ウィッカー氏は、第 118 連邦議会の上院軍事委員会のランキング上級委員(筆者注13)である。ウィッカー氏は上院商業・科学・運輸委員会の上級委員でもあり、以前はそれぞれ第116議会と第117議会で議長と幹部を務めていた。 彼の他の委員会の任務には、環境および公共事業委員会および規則および管理委員会が含まれる。

Roger Frederick Wicker氏

 ウィッカー氏は米国ヘルシンキ委員会の幹部であり、欧州安全保障協力会議 (CSCE)(筆者注16)の副議長でもある。また、ウィッカー氏は、米国商船アカデミー議会訪問者委員会のメンバーも務めている。(ウィッカー氏のHPから抜粋、仮訳)

(筆者注15) 連邦議会委員会構造は立法プロセスにおける主要部分である。委員会は一般的に、様々な政策分野にフォーカスを置き、与党議員が議長を務める(各委員会における最年長の少数派党員は「有力メンバー」(ranking member)と呼称される)。また各議会委員会には個別の職員も常駐している。

(筆者注16) 欧州安全保障協力機構(OSCE)は、ソビエト連邦が最初に全ヨーロッパ安全保障会議の設立を提案した1950年代初頭にその起源を持つ。1960年代半ばに、ワルシャワ協定はそのような会議の呼びかけを更新した。1969年5月、フィンランド政府はヘルシンキを会議場として提供する覚書をすべてのヨーロッパ諸国、米国、カナダに送った。1972年11月から、最初の35か国の代表が3年近く集まり、会議の手配と枠組みを策定し、1975年7月に作業を終えた。

1975年8月1日、最初の35の参加国の指導者がヘルシンキに集まり、ヨーロッパの安全保障協力会議の最終法に署名した。ヘルシンキ合意とも呼ばれる最終法は条約ではなく、非公式に“バスケットと呼ばれる3つの主要セクションで構成される政治的拘束力のある合意である「コンセンサス」に基づいて採用された。この包括的な法律には、バンクーバーからウラジオストクに及ぶ地域の安全と協力を強化するために設計された幅広い措置が含まれる。(OSCEサイトから抜粋、仮訳)

(筆者注17) トム・コットン氏はアーカンソー州出身のアメリカ合衆国上院の共和党議員である。 所属する委員会には、刑事司法およびテロ対策小委員会のランキングメンバーを務める司法委員会、情報委員会、空陸電力小委員会のランキングメンバーを務める軍事委員会が含まれる。(トム・コットン氏のHPから抜粋、仮訳した)

(筆者注18)1月11日の米国非営利公共メディアNational Public Radio(NPR) は以下のとおり報じている。抜粋、仮訳する。

 国防当局者が匿名を条件に語ったところによると、米国と英国はイエメンにあるフーシー派武装勢力の標的約十カ所への攻撃を開始した。今回の空爆は、紅海での国際貨物船と米軍艦に対するフーシー派による2カ月以上にわたる攻撃に続くもので、米当局が封じ込めに懸命に取り組んできた中東紛争が拡大している。

 バイデン大統領は書面による声明で、今回の共同攻撃はフーシー派の行動に対する防衛反応であり、オーストラリア、バーレーン、カナダ、オランダの支持を得ていたと強調した。

 バイデン氏は「こうした標的型攻撃は、米国と米国のパートナーが米国人員への攻撃を容認したり、敵対勢力が世界で最も重要な商業航路の一つで航行の自由を脅かしたりすることを容認しないという明確なメッセージであり、私は必要に応じて我が国国民と国際商取引の自由を守るため、さらなる措置を躊躇なく指示するつもりである」と述べた。

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FBIシャーロット現地事務所は年末年始のホリデー休暇中にセクストーション未遂が増加する可能性があると警告

2024-01-19 14:47:02 | サイバー犯罪と立法

Last updated: january 19,2024

 サイバー犯罪たるセクストーション(Sextortion)につき、米国や中国、フィリピンなどでも被害が確認されている。「性的な」という意味の「セックス(Sex)」と「脅迫・ゆすり」を指す「エクストーション(Extortion)」を合わせた造語で「性的脅迫」と訳され、性的な動画や写真を入手し、それを「ばらまく」などと脅して金銭を要求することを指す。(FBIのyoutube)(筆者注1)

大阪府警資料から抜粋

 また、グルーミング(チャイルド・グルーミング)とは、子どもからの信頼を得て、その罪悪感や羞恥心を利用するなどにより、関係性を操る行為である。特に、子どもを手なずけることによって、性的な接触・搾取をする目的で行われる性犯罪の準備行為をいう。(筆者ブログ(1)同(2完)参照) なお、米国の未成年者に対する性犯罪規制立法については筆者ブログ参照。

 グルーミングの対象となった児童は、失望させたくないと思って相手の要求を断れなかったり、相手を信頼するあまり相手の要求に疑問を抱くことなく、わいせつな写真を送信したり、性行為をしてしまうことがある。

 2023年7月13日施行の刑法改正において、面会要求等罪は、悪質なグルーミングを処罰することによって、児童を性加害から保護することを目的として成立し、面会要求等罪には、わいせつ目的で児童に対して面会を求める面会要求罪と、わいせつな映像の送信を求める映像送信要求罪の2つがある。

 今回のブログは、わが国の(1)セクストーションの正確な定義、手口の解析、被害防止策、法的対策・検討状況, (2) グルーミング(チャイルド・グルーミング)に関する刑法改正とその意義、(3)米国で話題となっているAI画像生成ツールと児童性的虐待素材 (CSAM)問題、(4)関連した立法として「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」の概要と意義を解説する。

 なお、本ブログで取り上げるとおり、これらサイバー性犯罪の加害者は医師や教員、公認会計士等社会的ステイタスが高いことが多い。病む現代社会の象徴であろう。

Ⅰ.セクストーションの正確な定義、手口の解析、被害防止策、法的対策・検討状況

1.わが国のセクストーションの解説例

NHKの解説から一部抜粋引用する。

(1)「セクストーション」被害は?

 セキュリティー会社などによるとアメリカでは、10年以上前から被害が確認され、2022年には、被害にあった17歳の少年が、自ら命を絶ったとして、2023年5月、アメリカ司法省はSNSで女性になりすましたアカウントで脅迫したナイジェリア人の3人を起訴するなど、被害が深刻化している。

(2)その手口は 不正アプリのインストールの誘導も並行する

 セクストーションのようなサイバー犯罪からどう身を守ればいいのか。

 わが国のセキュリティーの専門機関「情報処理推進機構=IPA」に取材した。

 手口としては、SNSや、語学学習・国際交流を目的として外国人と出会える「言語交換アプリ」のメッセージでやりとりをしている際に、性的な動画や写真を送るよう要求されるケースが多く、「もっと動画が交換しやすいアプリがある」などと誘導され、不正アプリをインストールする被害も確認されている。

 こうした不正アプリでは、スマートフォン内の電話帳の情報が盗み取られ、「友人や知人に動画や写真をばらまく」と脅されるケースもあるということである。

 このほか、いきなりメールが送りつけられ、「あなたがアダルトサイトを見ているときに、恥ずかしい姿を録画した」などと、暗号資産のビットコインを要求する手口も確認されている。

 セキュリティー会社のノートン(norton)によると、こうした「セクストーション」に関連するメールは、世界各国で確認されている。2023年11月24日から12月15日までの間に世界であわせて554万件あまりを検知し、国別で見ると、日本は64万件と、1位のチェコ、2位のアメリカに次いで、3位の多さだったということである。

(3) 専門家「相手の手に渡ったものは取り戻せない 十分注意を」

 情報処理推進機構(IPA)セキュリティセンター 中島尚樹さんによると「SNSなどでやりとりするセクストーションは攻撃側の立場で考えればやり取りの手間がかかっていると思うが、高額な口止め料が手に入るという面がある。『どうすれば相手から画像を取り戻せるか、どうすれば消してもらえるか』という相談も寄せられるが、残念ながら一度、相手の手に渡ったものは消すことも、取り戻すこともできない。日ごろから十分注意する必要がある。

(4)被害に遭わないための施策?

 そして、以下のような対策が重要だと指摘する。

①他人に見られて困る写真や動画は、スマートフォンに残さない。

②第三者に送るのは、なおさら非常にリスクが高まるため、絶対に共有しない。

③通常の公式マーケットで配信されていない不正アプリは無料であってもインストールしない。

(5) もし被害に遭ってしまったら?

①警察に相談すること。(筆者注2)

②不正アプリをいったんインストールしてしまった場合は、電源を切るかWi-Fiでなく機内モードにするなどして通信を遮断してから警察に相談すること。

筆者補足】

「セクストーション」犯罪に関し法的扱いはどうなるのか。ネット上の解説では消費者被害にくわしい金田万作弁護士は、脅してお金を請求するため「恐喝罪」にあたると説明している(お金を払っていなければ恐喝未遂罪)というのが一般的である。筆者も同様の考えであるが、サイバー犯罪で恐喝罪で立件するのは簡単ではない。すなわち、(1)証拠の保存も含め加害者の特定や被害額等が極めて困難である点、(2)わが国ではサイバー犯罪に精通した弁護士や裁判官が極めて少ない点などである。これらにつき機会を改めたい。

2.米国のセクストーション犯罪と被害防止対策

(1) FBIシャーロット現地事務所のリリース「FBI Charlotte Warns Sextortion Attempts Likely to Increase During Holiday Break」内容の仮訳

 FBIシャーロット現地事務所は、セクストーション犯罪は通常、学校や休暇中に増加することを親、介護者、十代の若者たちに警告している。 セクストーションとは、成人が十代のふりをして被害者を操作または誘惑し、露骨な性的画像を作成および共有させ、追加の写真や金銭を強要することをいう。

 全米でセクストーション事件が急増しており、特に10代の少年をターゲットにした金銭的セクストーションが急増している。 2022 年から 2023 年にかけて、シャーロット FBI ではセクストーションの報告が 20% 増加した。 実際には、犠牲者の数はさらに多いようです。 被害者の中には犯罪を通報することをためらう人もいるかもしれない。

(2)金融セクストーション事件では、捕食者(若い女の子を装った詐欺師)が欺瞞と操作を用いて、通常 14 歳から 17 歳の若い男性を説得し、ビデオを通じて露骨な行為に従事させ、その様子を詐欺師が秘密裏に録画する。次に、詐欺師は、自分たちが録音・録画したことを明らかにし、被害者にお金を払わせたり、露骨な写真やビデオをオンラインに投稿させたりするよう脅して、金銭を強要しようとする。

 児童性的虐待資料 (CSAM) とみなされるものの作成を大人が子供に強制した場合は、最高で連邦刑務所での終身刑を含む重い刑罰が科せられる。

 被害に遭うことをやめさせるには、子供たちは信頼できる大人、親、教師、介護者、または法執行機関に通報する必要がある。このことは子どもにとっては当惑するかもしれないが、法執行機関が加害者を特定できるよう名乗り出れば、その被害者や他の人たちに対する無数の性的搾取事件を防ぐことができるかもしれない。

 「子どもたちがうつ状態に陥ったり、孤立したり、自傷行為をしたりするのを時々見てきたが、それは私たちが絶対に起きてほしくないことである。親は子どもにデバイスを与えるとき、意図的に接する必要があります。子どもたちは そのデバイスが何なのか、そのデバイスにどんなアプリケーションがあるのかを知る必要があり、親は子供たちが誰と通信しているのかを知り、その危険性について説明する必要がある」とFBI担当特別捜査官ノースカロライナ州でロバート・M・デウィット氏は  「加害者は、私たちの子供たちを操作し、コミュニケーションをとる方法を理解しています。繰り返しになるが、それが彼らのフルタイムの仕事である」語った。

 FBI は、オンラインで子供たちを守るために次のヒントを提供している。

 ① 地元の法執行機関または FBI (tips.fbi.gov) または FBI のインターネット犯罪苦情センター (IC3) (ic3.gov) にお問い合わせください。

 ②法執行機関が調査する前に、デバイス上の何も削除しないでください。

 ③オンラインでの出会いについてすべて法執行機関に伝えてください。 恥ずかしいかもしれませんが、犯罪者を見つける必要があり、他の子供たちを守ることができます。

 セクストーションの詳細については、fbi.gov/sextortion を参照されたい。

(2) 連邦法に基づく既存の要件とSTOP CSAM法案の内容

Pumphrey Law事務所の解説から抜粋、仮訳

 18 U.S. Code § 2258A - Reporting requirements of providers オンラインサービス・プロバイダーは、サービスに対する明らかなCSAM違反の知識を報告する必要がある。連邦法では、見かけのCSAMを故意かつ喜んで報告しなかったプロバイダーは、最初の知識と故意の報告の失敗に対して$ 150,000(約2,145万円)の罰金を科されると記している。プロバイダーが2回目以降に報告に失敗した場合、$ 300,000(約4,290万円)までの罰金を科すことができる。

〇 2023年4月、米国連邦議会上院多数派で上院司法委員会委員長ホイップ・ディック・ダービン(Whip Dick Durbin (D-IL)氏は 法案(Strengthening Transparency and Obligation to Protect Children Suffering from Abuse and Mistreatment Act of 2023:STOP CSAM Act)を上程。

Whip Dick Durbin氏

 「2023年の虐待および虐待法に苦しむ子供たちを保護するための透明性と義務の強化(STOP CSAM)法案」は、児童の性的虐待資料(CSAM)の急増をオンラインで阻止するために作成された。主な改正内容は以下のとおり。

(ⅰ) 義務的な児童虐待報告範囲の拡大

(ⅱ) 連邦裁判所における子どもの保護: 連邦刑事訴追中の児童被害者と目撃者のための特別なプライバシー保護を強化(身体的傷害、心理的虐待を含む)

(ⅲ) 特定の児童被害者に対する賠償– 特定の被害者の賠償を管理するために裁判所が受託者を任命することを許可する法的枠組みを新たに作成

(ⅳ) 被害者がCSAMをテクノロジー企業に報告し、コンテンツを削除するように依頼する簡単な方法を作成。またテクノロジー企業がコンテンツを削除できなかった場合は、管理上の罰則を新たに規定。

(3) カリフォルニア州中央部連邦検事局では以下の事案を取り上げている。

(ⅰ) 2023.12.1 元小児科医は児童の性的虐待資料の多数の画像を所有したとして連邦刑務所で7年6カ月の刑を宣告された。

 元小児科医は12月1日、数十枚のDVDに児童の性的虐待資料(CSAM)を所持し、パーソナル・コンピューティング・デバイスに数百枚のそのような画像を所持したとして連邦刑務所で7年6カ月の刑を宣告された 。

 ロサンゼルスのビバリーグローブ地区住の62歳のゲイリー・デビッド・グーリン(Gary David Goulin)は、児童ポルノの所持の1カウントに有罪を認め、連邦地方判事のマーム・エウシ=メンサー・フリンポン(Maame Ewusi-Mensah Frimpong)氏から罰金5万ドルと特別査定で追加の2万2100ドルの支払いを命じられた。 彼は性犯罪者として登録する必要があり、刑務所から釈放されると15年間監視付き釈放されることになる。

 2021年11月、グーリンは12歳未満の未成年者を含む性的に露骨な素材を含む4枚のDVDを故意に所有していた。グーリンはさらに、CSAMを含む追加の57枚のDVDを故意に所有することを彼の嘆願の合意で認めた。これらのDVDの平均実行時間は3時間21分であった。

(ⅱ)サンタクラ住の男性が児童ポルノの制作の罪で有罪

 2023.5.22連邦陪審は、住宅地で未成年の被害者のヌードを隠しカメラでこっそり撮影したとして、児童性的虐待資料(CSAM)を作成したとしてキャニオンカントリーの男性で元海軍特殊部隊に有罪判決を下した。

 ロバート・キド・ステラ(Robert Quido Stella)被告(50歳)は5月22日午後、児童ポルノ製造の3件の罪で有罪判決を受け、それぞれの罪には連邦刑務所で最低15年、最高30年の拘禁刑が科せられる。

 法廷文書によると、国土安全保障省捜査局(HSI)は2年前、ステラがダークウェブの児童ポルノサイトにアクセスしたという通報を受けた。

(ⅲ) サンバーナーディーノ郡の女性は、乳児を含む子供の性的虐待の素材を作ったとして40年の刑を宣告

2023.5.8ロサンゼルス –サンバーナーディーノ郡の女性ステファニー・ケイシー・マリー・スティーブンス(Stefani Kasey Marie Stevens)(31歳)は、5月8日、露骨な性的ビデオを制作する目的で幼児の監護権を得たことなど、児童性的虐待に関わる重大な犯罪を犯した罪で、連邦刑務所で40年の刑を言い渡された。

ユカイパ在住のスティーブンスは、バージニア・A・フィリップス連邦地方判事から判決を受け、この訴訟で7月31日に賠償審理を予定されていた。 スティーブンスは釈放されたが、残りの人生は監視付き釈放となる。

(ⅳ) フィリピン人被害者の児童の性的虐待資料を作成した連邦刑務所での生活に対するサウスベイ住の公認会計士への有罪判決

ロサンゼルス –サウスベイ住の男性ビリー・エドワード・フレデリック(Billy Edward Frederick) (52歳)は、30人近くの子供たちの何千もの性的に露骨な画像やビデオを制作したことを認めた後、連邦刑務所で仮釈放なしの終身刑を宣告された。

 そのうちの被害者のうち1人は少なくとも2年間にわたって搾取され、お金と引き換えにオンラインで性行為を行った。

   フレデリック(52歳)は、米国連邦地方裁判所のデール・スーザン・フィッシャー裁判官から判決を受けた。

Dale Susan Fischer 判事   

 フィッシャー裁判官は、「刑務所での生活は、犯罪が深刻であることを適切に反映していると付け加えた”フレデリック“が”の被害者を対象とし、子供がいる世界の一部 性的に搾取されていることで知られている」と述べた

   フレデリックは2021年9月に2件の重罪につき有罪を認めた, すなわち、米国への輸送のための児童ポルノの作成、および犯罪的な性行為に従事する未成年者の誘惑の罪である。

(4) セクストーションの犯罪特性と予防策

 TREND MICROの解説から抜粋、引用する。

煩雑な指示を送る攻撃者

 今回確認されたセクストーションは、最初のメールから最後に要求金額を明かすまで以下の段階がある。

 メール受信者の裸が映った動画を保有している、と知らせるメールが攻撃者から送信される。メールに記載されたユーザ名とパスワードを使用して、あるメールアカウントにログインするように指示が書かれている。

 メールアカウントにログインすると、一通のメールがあり、開封すると3つのライブ映像らしきページへのリンクが埋め込まれている。1つは被害者の携帯電話のカメラからの映像、もう2つはその携帯電話からマルウェア感染したとされる公共の場所に設置された監視カメラからの映像である。しかし、携帯電話のカメラからの映像とされる画面には、「Connection Lost」(接続が失われました)と表示される静止画が表示されている

 ページには、マルウェアの詳細と前述の脅迫内容が表示される。脅迫状にはさらに、指定した別のメールアドレスにメールを送信するよう指示が書かれている。

 受信者がメールを送信すると、また別のユーザ名とパスワードが記載されたメールが返信され、それを使用してまた別のメールアカウントにログインするように指示がある。

セクストーションの被害に遭わないためには

 セクストーションによるネット詐欺の手口は常に変化している。そのような詐欺を回避する方法を知っておこう。セクストーションに直面した場合、パニックに陥らないことが重要です。恐怖にかられてしまうと、攻撃者の要求に屈してしまいがちです。脅迫メールに返信することも避けよう。

 以下は、セクストーションによる被害を回避する方法である。

①個人情報は、安全なプラットフォームにのみ保存する。

②不明な送信元から送られたメールに埋め込まれたURLをクリックしたり、添付ファイルを開いたりしない。送信元が見慣れた商標または会社である場合は、公式サイトに記載されている電話番号またはメールアドレスに照合して確認するか、連絡してメールが本物か確認する。

③インターネットで利用するアカウントには破られにくいパスワードを使用し、定期的に変更する。

(5)金銭目的のセクストーション(Financially motivated sextortion )の特性(2024.1.19 FBIサクラメント現地事務所リリースに基づき補筆)

  金銭目的のセクストーションも、異なる目的を持って同様のパターンに従う。性的に露骨なコンテンツを受け取った後、犯罪者は、被害者が支払い (ギフト カード、モバイル決済サービス、電信送金、暗号資産など) を提供しない限り、被害者の権利を侵害するコンテンツを公開すると脅迫す。 このような場合、犯罪者の動機は性的満足だけではなく、主に金銭的利益である。この、金銭目的でセクストーションを行う犯罪者は、米国外にいることが多く、主にナイジェリアやコートジボワールなどの西アフリカ諸国、またはフィリピンなどの東南アジア諸国にいる。 犯罪者がターゲットとする被害者の多くは14歳から17歳の男性であるが、どんな子供でも被害者になる可能性がある。

(6) AI画像生成ツールと児童性的虐待素材 (CSAM)問題

 2023年12月20日Stanford Digital Repository「AI画像生成ツールが子供の露骨な写真を使ってトレーニングされていることが研究で判明(Identifying and Eliminating CSAM in Generative ML Training Data and Models)」要約を仮訳する。

 人気の人工知能画像生成装置の基盤の中に、児童の性的虐待に関する数千枚の画像が隠されていることが、企業に自社が構築した技術の有害な欠陥に対処するための措置を講じるよう促す新たな報告書で明らかになった。

 これらと同じ画像により、AI システムが偽の子供のリアルで露骨な画像を生成したり、着衣を着た本物の十代の若者のソーシャル メディア写真をヌードに変換したりすることが容易になり、世界中の学校や法執行機関が警戒を強めています。

【要約】

 生成機械学習モデルは、児童性的虐待素材 (CSAM) を含む露骨なアダルト コンテンツを作成できることや、服を着た被害者の無害な画像を変更してヌードまたは露骨なコンテンツを作成できることが十分に文書化されている。 この研究では、LAION-5B データセット (人気のある安定拡散シリーズ モデルのトレーニングにその一部が使用された) を調べて、このデータセットでトレーニングされたモデルのトレーニング・ プロセスにおいて CSAM 自体がどの程度役割を果たしたかを測定した。本研究にあたり 「PhotoDNA 知覚ハッシュ マッチング(PhotoDNA perceptual hash matching)」(筆者注3)、「暗号化ハッシュ・ マッチング(cryptographic hash matching)」(筆者注4)、「k- 最近傍クエリ(k-nearest neighbors queries)、機械学習分類手法( ML:Machine Learning classifiers)」技術を組み合わせて使用した。

 この方法では、トレーニング セット内の既知の CSAM の数百の教材例と、その後外部関係者によって検証された多くの新しい候補が検出された。 また、このトレーニング セットのコピーの維持、将来のトレーニング セットの構築、既存のモデルの変更、LAION-5B でトレーニングされたモデルのホスティングが必要なユーザーに対して、この問題を軽減するための推奨事項も提供した。

Ⅱ.グルーミング犯罪の日米比較

 弁護士法人VERYBESTの解説から抜粋するとともに、筆者の判断で補筆した。

1.日本のグルーミング対策:グルーミングの具体的な手口

(1)SNSを通じて、子どもの信頼を得てから性的行為に及ぶ手口

TwitterやInstagram、TikTokなどのSNSでは、小・中学生や高校生でも、誰でも簡単にアカウントを開設することができる。

(2)元々近い関係にある者が、徐々にボディタッチからエスカレートさせる

たとえば学校の教員や家庭教師、習い事の先生、保育士などは、仕事の中で子どもの信頼を得やすい職業の代表例である。

(3)公園などで子どもに声をかけて、徐々に親しくなる。

公園などで遊ぶ子どもに声をかけて接近するのも、グルーミングの古典的手口としていまだに散見される。悩みなどの相談に乗るふりをして子どもと親しくなり、自宅へ連れ込んでわいせつ行為や性交渉などを迫るグルーミングには要注意である。

(2)未成年者を被害者とする重大な性犯罪の処罰「不同意わいせつ罪」と「不同意性交等罪」(2023.7.13[施行の刑法改正)

 法務省の刑法一部改正図解

 「不同意わいせつ罪」とは、被害者が同意していないにもかかわらず、体を触ったり、自己の性器を触らせたりするなどのわいせつな行為を行うことを指す。法定刑は「6か月以上10年以下の拘禁刑」(刑法第176条)である。

 また、「不同意性交等罪(刑法第177条)」は、暴行または脅迫があったり、アルコールや薬物の影響があったりするような、性交等に同意しない意思を形成、表明、もしくは全うすることが困難な状態となった被害者に対して、性交・肛門性交・口腔(こうくう)性交、または膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなもののいずれかをした場合に成立する。

 さらに、被害者が16歳未満の場合には、暴行または脅迫などがあったか否かにかかわらず、性交・肛門性交・口腔(こうくう)性交、または膣や肛門に陰茎以外の身体の一部や物を挿入する行為でわいせつなもののいずれかが行われた時点で強制性交等罪が成立する。不同意性交等罪の法定刑は「5年以上20年以下の有期拘禁刑」である。

(3)16歳未満の子どもに対する「面会要求等に対する罪」(刑法第182条)が新設

 グルーミングの段階では、一般的にはまだ具体的な性的接触・搾取は行われません。そのため、グルーミングの行為自体を犯罪として処罰することはできません。

 ただし、グルーミングに引き続いて性的接触・搾取が行われる可能性が高い点が問題視され、性被害を予防する観点から、グルーミングの段階で法的な規制を及ぼすべきではないかと議論されている状況でした。

 令和5年7月13日の刑法改正により、16歳未満の子どもにわいせつ目的で面会要求等を行うことに対しても処罰がくだるようになった。

 面会要求等の罪については、威迫、偽計または誘惑したり、拒否されたのに繰り返し会うことを求めたり、金銭やお金を与えることを約束したりすることで成立する。

 このように会うことを求めるだけでも1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科され、また、実際に会うことにより、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される。

 つまり、グルーミング行為そのものが犯罪になる。

2.米国のセクストーション罪の概要と法規制の内容

  FBIの解説(金銭目的のセクストーション:Financially Motivated Sextortionとは?)および(Sextortionとは?)から抜粋、仮訳する。

(1 ) 概要

大人がオンラインで子供のふりをして、被害者に性的に露骨な写真やビデオの撮影と送信を強要し、その後すぐに支払いを要求したり、被害者の家族や友人に写真を公開すると脅したりする行為は、金銭目的のセクストーションとして知られている。

 金銭目的のセクストーションは犯罪であり、あらゆる年齢の親、教育者、介護者、子供は、オンラインでの安全を保つ方法、リスクと危険信号、自分や知り合いが被害者になった場合の報告方法について知っておく必要がある。

(2)犠牲者

  〇 被害者は通常 14 歳から 17 歳の男性であるが、どんな子供でも被害者になる可能性がある。

 〇金銭目的のセクストーション計画の男性被害者の驚くべき数の自殺者が確認されている。

  被害者はしばしば孤独を感じ、当惑し、助けを求めることを恐れる。 しかし、被害者が自分たちだけではないことを理解することが重要である。 身の危険を感じた場合は、信頼できる大人に助けを求めてほしい。

〇自分の子供や知人が搾取されている場合はどうすればよいか?

 あなた、あなたの子供、またはあなたが知っている人が搾取されている場合は、最寄りの FBI 出張所に連絡するか、1-800-CALL-FBI に電話するか、オンラインで Tips.fbi.gov に報告してください。

覚えておいてください:あなたは一人ではありません、そしてこれはあなたのせいではありません。

(3)悪用されている被害者は次のことも行う必要がある。

 ①プラットフォームの安全機能を介して犯人たる捕食者のアカウントを報告します。捕食者があなたに接触するのをブロックします。

②プロフィールまたはメッセージを保存する。 これらは、法執行機関が捕食者を特定して阻止するのに役立つ。

③ お金やその他の画像を送信する前に、信頼できる大人または法執行機関に助けを求めてください。 捕食者と協力しても脅迫や嫌がらせを止めることはめったにありえないが、法執行機関は可能である。

  Ⅲ. わが国のグルーミング(チャイルド・グルーミング)に関する刑法改正とその意義

1.面会要求等の罪の新設

 弁護士法人VERYBEST「グルーミング行為とは|子どもに性犯罪を犯す人間の手口や罪」から一部抜粋する。なお、「面会要求等罪(グルーミング罪)とは?構成要件や罰則について弁護士が解説」も併せ参照されたい。

 「面会要求等の罪」については、威迫、偽計または誘惑したり、拒否されたのに繰り返し会うことを求めたり、金銭やお金を与えることを約束したりすることで成立する。

 このように会うことを求めるだけでも1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に科され、また、実際に会うことにより、2年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される。(刑法第182条第1項)

 つまり、グルーミング行為そのものが犯罪になる「可能性がある」ということである。

 また、性交等を行っていたり、性的部位を露出していたりする写真や動画を求めることでも、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科されることとなった(第182条第3項)

 さらに性犯罪は不法行為(民法第709条)にも該当し損害賠償請求の対象になる。

したがって、性犯罪の被害を受けてしまった方は、加害者に対して損害賠償(慰謝料など)を請求することが可能である。

 Ⅳ.関連した立法として「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」の改正概要と意義

警察庁サイトから以下、抜粋する。

1.平成26年(2014年)6月18日,第186回通常国会において,児童ポルノ禁止法が改正され,同年7月15日から施行された。

ここでは,本改正の経緯及び概要を説明する。

(1)児童ポルノの定義規定の改正

 児童ポルノの定義は,児童ポルノ禁止法第2条第3項に定められているが,そのうち第3号に定められている児童ポルノの定義が明確化され,「衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に性的な部位(性器等若しくはその周辺部,臀部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり,かつ,性欲を興奮させ又は刺激するもの」(下線部が追加部分)となった。

(2)一般的禁止規定の新設

 児童ポルノ禁止法第3条の2に,何人も,児童買春をし,又はみだりに児童ポルノを所持し,児童ポルノに係る電磁的記録を保管し,その他児童に対する性的搾取又は性的虐待に係る行為をしてはならない旨の一般的禁止規定が新設された。

⑶ 自己の性的好奇心を満たす目的での所持・保管罪の新設

 児童ポルノ禁止法第7条第1項に,自己の性的好奇心を満たす目的で,児童ポルノを所持し,又は児童ポルノに係る電磁的記録を保管した者(自己の意思に基づいて所持又は保管するに至った者であり,かつ,当該者であることが明らかに認められる者に限る。)は,1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処することとする罰則が新設された。

2.わが国の児童買春、児童ポルノこれら犯罪の処罰事例の検索

 最高裁判所サイト:わが国裁判例結果一覧のうち「児童買春、児童ポルノ裁判例検索」で検索できる。

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(筆者注1) 2023年10月9日付け東京新聞web版は「恥ずかしい写真、拡散される恐怖で泥沼に…セクストーション被害が増加 狙われる若者、男子も多数」を取り上げている。

(筆者注2)NHKの解説は不親切である。より正確にいうと警視庁相談窓口のうち以下が該当しよう。

「サイバー犯罪対策課(平日午前8時30分から午後5時15分まで)

電話:03-5805-1731

STOP!児童ポルノ・情報ホットライン(24時間)

電話:0570-024-110」

性犯罪被害相談電話(ハートさん)

電話:#8103

24時間対応(年中無休)

性犯罪にあわれた方が少しでも相談しやすいように、警察庁が設置した全国共通番号です。(都県境では、他県につながることがあります)

新規ウィンドウで開きます。性犯罪被害相談電話全国共通番号「#8103(ハートさん)」(外部サイト)

(筆者注3) Google、Facebook、Twitterなど、数多くの企業が違法コンテンツをプラットフォームから削除するためにMicrosoftが開発した画像識別技術「PhotoDNA」を利用しています。PhotoDNAは違法画像にデジタル署名を付与してデータベース化し、インターネット上の画像をこのデータベースと照合するという形で利用します。Microsoftはハッシュ化された違法画像のデータから画像を再構成することはできないと主張していますが、研究者が新たに、PhotoDNAから画像を再構成することに成功したと報告しました。(GIgaZINE記事から抜粋)

(筆者注4) 暗号学的ハッシュ関数(cryptographic hash function)は、ハッシュ関数のうち、暗号など情報セキュリティの用途に適する暗号数理的性質をもつもの。任意の長さの入力を(通常は)固定長の出力に変換する。

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米HHS・FDA(食品医薬品局)は北米・中南米の地域統括会社たるオリンパス・コーポレーションは火傷や火につながる可能性があるため、気管支ファイバースコープと気管支ビデオスコープをリコール

2024-01-03 09:53:52 | 食品安全・医薬

 筆者の手元に米国連邦保健福祉省(HHS)傘下の食品医薬品局(FDA)のリコール通知が届いた。筆者は、かつてブログでオーストラリアの競争・消費者委員会(ACCC)によるエアバックの安全リコールを取る上げたことがあるが、今回のリコール対象は医療機器である。

 このリコール制度は各国を比較してもかなり複雑である。今回のブログは(1)米国FDAサイトからリコール通知内容を解説し、(2)米国リコール制度の概要をなるべく正確に理解できるよう工夫する, (3) 今回のオリンパスのリコール通知のこれまでの経緯、(4)わが国のリコール制度の概観を試みるものである。

 なお、本ブログを読まれた方は気が付かれると、米国の重大なリコール通知(class )と比較して、はたしてオリンパスのリコール通知の正確な受け止め方はどうすべきであろうか。

Ⅰ.FDAのリコール通知

 FDAはオリンパス北米・中南米の地域統括会社たるオリンパス・コーポレーションが販売した「気管支ファイバースコープ(bronchofiberscopes)」と「気管支ビデオスコープ(bronchovideoscopes)」を「クラスⅠリコール」すなわち、最も深刻なタイプのリコールとして識別した。これらのデバイスを使用すると、重大な怪我や死を引き起こす可能性があるとした。

このリコールは修正(correction)であり、製品の削除(removal)ではない。

 1.リコールされた製品

①製品名:オリンパス気管支ファイバースコープと気管支ビデオスコープ

②製品コード:参照 データベースエントリをリコール

③モデル番号: 完全なリスト添付

④販売期間:2001年1月1日から2023年9月11日

⑤米国でリコールされたデバイス数:17,691台

➅オリンパスがリコールを開始した日付:2023年10月12日

2.使用デバイス

 気管支ファイバースコープ(bronchofiberscopes)気管支ビデオスコープ(brochovideoscopes)は、カメラやライトなどのアクセサリを使用して人の気道を調べたり処理したりする管状の医療デバイスである。

オリンパスのサイトから引用

3.リコールの理由

 オリンパス北米および中南米における地域統括会社たるオリンパスコーポレーション(オリンパス)は、特定の気管支ファイバースコープと気管支ビデオスコープをリコールしている。

 リコールの対象となる影響を受けた気管支ビデオスコープを使用すると、人の気道や肺の重大な火傷、気道の出血、呼吸困難、無呼吸、意識喪失、死亡など、深刻な健康への悪影響が生じる可能性がある。またけがは、長期の処置、追加の医療、長期入院、ICUケア、および死亡につながる可能性がある。さらに燃焼により、デバイスの一部が損傷または破損する可能性があり、患者に怪我をさせたり、意図せずに残ったりする可能性があり、けがの回復(retrieval)または外科的切除(surgical removal)が必要になる場合がある。

〇この問題に関しては、4人の負傷者を含め、192件の苦情があった。なお、報告された死者いない

〇次の場合、デバイスが燃焼するリスクが発生する。高周波焼灼(high-frequency cauterization)が酸素の供給中に行われたとき、または電気外科用アクセサリの電極セクションが内視鏡の端に近づきすぎたとき。

4.リコールで誰が影響を受ける可能性があるか。

 オリンパス気管支ファイバースコープまたは気管支ビデオスコープで治療を受けている人およびスコープを使用する医療従事者

5.前記影響を受ける人は何をすべきか

 2023年10月12日、オリンパスは影響を受けるすべての顧客に 緊急医療機器の是正措置につき書簡通知した。

この書簡では、デバイスの操作マニュアルの警告条項、特に次の内容を確認するよう顧客に求めていた。

①酸素を供給しながら高周波焼灼の実行を停止させる。

②内視鏡で使用する電気外科用デバイスを内視鏡から十分離してください。

③操作マニュアルに記載されているように、オリンパス気管支鏡と互換性のある高周波機器のみを使用してください。

6.連絡先情報

 このリコールについて質問がある米国のお客様は、1-800-848-9024(オプション1)のオリンパスに連絡する必要がある。

 影響を受けるオリンパスのデバイスの完全なリスト

Bronchovideoscope Olympus BF Type 1T150    Evis Exera II Bronchovideoscope Olympus BF Type 1T180

OES気管支ファイバースコープオリンパスBFタイプ1T60     Evis Exera III Bronchovideoscope Olympus BF-1TH190

Evis Exera II Bronchovideoscope Olympus BF Type 1TQ180      Evis Exera III BronchovideoscopeオリンパスBF-H190

以下、略す。

Ⅱ.FDAのリコール制度概要 

 FDAサイトの解説を仮訳する。

 リコールは、食品医薬品局 (FDA) が管理する法律に違反する製品を削除または修正する方法である。リコールは、製造業者や販売業者が、傷害や重大な欺瞞の危険性がある製品、またはその他の欠陥がある製品から公衆の健康と福祉を守る責任を負っているために行われる自主的な措置である。連邦規則集(Code of Federal Regulations: CFR)のうち 「21 CFR  PART 7—ENFORCEMENT POLICY」(筆者注)は、責任ある企業が効果的なリコールを実施できるようにするためのガイダンスを提供している。

21 CFR Part 7

 医療機器のリコールは、通常、21 CFR 7 に基づいてメーカーによって自主的に行われる。まれに、メーカーまたは輸入業者が健康へのリスクがある機器を自主的にリコールしない場合、FDA は 21 CFR 810 に基づいて医療機器リコール当局がメーカーにリコール命令を発行する場合がある。21 CFR 810 には、連邦食品医薬品化粧品法 の第 518 条(e) に基づいて医療機器のリコール権限を行使する際に FDA が従う手順が記載されている。

 21 CFR 806「医療機器の修正(correction)と除去(removals)」に基づき、製造業者および輸入者は、医療機器の修正または除去が健康へのリスクを軽減する目的で開始された場合、デバイスを除去したり、健康に危険を及ぼす可能性のあるデバイスに起因する法律違反を是正したりするため、医療機器の修正または除去について FDA に報告する必要がある。

【各用語の定義】

① 修正(correction)とは、製品を他の場所に物理的に移動せずに、製品の修理(repair)、改良(modification)、調整(adjustment )、ラベルの貼り直し(relabeling)、破壊(destruction)、または綿密な検査 (inspection)(患者の監視を含む) を意味する。

② 市場からの撤退(Market withdrawal)とは、FDA による法的措置の対象とならない軽微な違反を伴う流通製品、または通常の在庫ローテーションの実施、日常的な機器の調整や修理などの違反を伴わない、企業による流通製品の除去または修正を意味する。

③ リコール(recall)とは、FDA が管轄する法律に違反していると見なし、FDA が差し押さえなどの法的措置を開始する対象となる、企業が市販製品を削除または修正することを意味する。 リコールには、市場からの撤退や在庫の回収は含まれない。

④リコール戦略(Recall strategy)とは、特定のリコールを実施する際に取られる計画的な行動方針を意味し、リコールの深さ、公衆への警告の必要性、およびリコールの有効性チェックの程度に対処する。

⑤リコール会社(recalling firm)とは、リコールを開始した会社、または食品医薬品局の要請によるリコールの場合は、リコール対象製品の製造および販売に主な責任を負う会社を意味する。

除去(removal)とは、修理、改良、調整、再ラベル付け、破壊、または綿密な検査のために、デバイスを使用場所から他の場所に物理的に移動することを意味する。

健康に対するリスク(risk to health)とは、(1) 製品の使用または製品への曝露により、重大な健康への悪影響または死亡が引き起こされる合理的な確率があること。または (2) 製品の使用または製品への曝露が、一時的または医学的に回復可能な健康への悪影響、または重大な健康への悪影響の可能性が低い結果を引き起こす可能性があること。

  定期保守(Routine servicing)とは、デバイスの通常の耐用年数が終了したときの部品の交換 (校正、バッテリーの交換、通常の磨耗への対応など) を含む、定期的に計画されたデバイスのメンテナンスを意味する。予期せぬ性質の修理、通常の寿命よりも早い部品の交換、またはデバイスの複数ユニットの同一の修理または交換は、定期的なサービスではない。

在庫回収(Stock recovery)とは、市販されていないデバイス、または製造業者の直接の管理下にないデバイスの修正または削除を意味する。つまり、デバイスが製造業者の所有または管理下にある敷地内にあり、一部が含まれていないもの。 今回、修正または除去措置に関係するロット、モデル、コード、またはその他の関連ユニットが販売または使用のためにリリースされた。

分類Classification

 リコールは、リコール対象の製品によってもたらされる健康被害の相対的な程度を示すために、FDA によって以下のとおり、数値指定 (I、II、または III) に分類される。

クラス I - 違反製品の使用または曝露が重大な健康への悪影響または死亡を引き起こす合理的な確率がある状況をいう。

クラス II - 違反製品の使用または曝露が、一時的または医学的に回復可能な健康への悪影響を引き起こす可能性がある状況、または重大な健康への悪影響の可能性が低い状況をいう。

クラス III - 違反製品の使用または曝露が有害事象を引き起こす可能性が低い状況をいう。

Ⅲ.オリンパスのリコール通知のこれまでの経緯

 以下のとおり抜粋する。

1.2023年7月4日「米国における気管支内視鏡とレーザー治療機器を使用する際の医療機関への自主的な注意喚起について」

 OCAは、一死亡例の他重篤な患者さんの傷害に関連する事象を受けて、気管支内視鏡と適合するレーザータイプを明記し、適合しないレーザータイプを使用した際に生じるリスクについて通知します。また既存のレーザー使用に関する注意喚起を強化するために、気管支内視鏡の取扱説明書の更新を行います。これは市場からの製品回収ではありません。なお、アルゴンプラズマ凝固療法(APC)使用による気管支内で気管支内視鏡が燃焼する事象が1件発生しましたが、燃焼の原因が特定できていないため、APC使用に関する取扱説明書の更新は行っておりません。患者さんと医療従事者の安全、そして潜在的なリスクを軽減することが当社の最優先事項です。

 オリンパスの気管支内視鏡は、気道および気管支内の内視鏡診断・治療に使用することを目的としています。今回の注意喚起では、日本を含む全世界で発売している気管支内視鏡(BFシリーズ内視鏡)32機種が対象の製品になります。そのうち19機種は米国で販売されており、米国食品医薬品局(FDA)およびその他の規制当局に通知をしています。

 OCAは、2023年6月8日付の注意喚起レターで当社の気管支内視鏡を使用する全ての医療従事者の方々に対し、当社のレーザー対応の気管支内視鏡がNd:YAGレーザーまたは810nmダイオードレーザーのみに対応していることを理解いただき、徹底するよう要請しました。

 さらに、オリンパスは、当社の気管支内視鏡とレーザー治療機器の組み合わせに関する取扱説明書の警告に十分注意するよう促しています。取扱説明書では、発火の恐れがあるため、酸素を供給しながらレーザー焼灼を行わないよう警告しています。患者さんの傷害(火傷、出血、穿孔)や装置の破損を避けるため、内視鏡検査に使用するモニター上でレーザープローブの先端が確認できましたら、レーザー焼灼の治療を行うこと、またその際に気管支内視鏡と体内の壁面の距離を可能な限り確保することの周知徹底を依頼しています。

 なお、これらの製品の使用で発生した副作用や品質上の問題は、FDAのMedWatchプログラム(英文のみ)12/19(46)にオンラインで報告することができます。

2.2020年9月3日「2020年8月25日発表の『内視鏡製品の自主回収に関するお知らせ』に関して国内における自主回収の補足説明」

 このたび、自主回収の対象となる2製品の内、気管支ビデオスコープ「OLYMPUS BF TYPE Q180」は、主に欧米で販売されている製品のため、国内での回収対象製品はございません。一方、胆道ファイバースコープ「OLYMPUS CHF TYPE CB30S」(以下、CHF-CB30S)は、グローバルで販売されている製品のため、国内も対象となります。

 当社は、当社の品質基準に照らし合わせ、患者様の安全確保を最優先に考え、「CHF-CB30S」を所有・使用している国内の医療機関に案内の上、自主回収を実施します。

3.2023年11月10日「米国における気管支内視鏡と高周波治療器の併用に関する医療機関への自主的な注意喚起について」

 当社の気管支内視鏡は、推奨された高周波治療器と使用した場合の安全性が確認されており、取扱説明書に記載されている指示および警告に従って引き続き使用することができます。患者さんと医療従事者の安全、そして潜在的なリスクを軽減することが、当社の最優先事項です。

 取扱説明書では、気管支内視鏡と高周波治療機器を併用する際、焼灼中に発火する恐れがあるので、酸素を供給しながら高周波焼灼を行わないよう警告しています。さらに、患者さんの健康被害(火傷、出血、穿孔)や気管支内視鏡の破損を避けるため、高周波治療機器の電極部を内視鏡先端部から十分離してご使用いただくよう記載しています。

 オリンパスの気管支内視鏡は、気道および気管支内の内視鏡診断・治療に使用することを目的としています。今回の注意喚起は、日本を含む全世界で発売している気管支内視鏡(BFシリーズ内視鏡)28機種が対象となります。

 本件は、気管支内視鏡とレーザー治療装置での気管支鏡使用に関して2023年7月3日(現地時間)にプレスリリースで公表された「米国における気管支内視鏡とレーザー治療機器を使用する際の医療機関への自主的な注意喚起について」とは別の措置になります。

Ⅳ.わが国のリコール制度の概要

弁護士 西村裕一氏の解説が体系的かつ分かりやすいので一部抜粋する。(なお、リンクと補足は筆者が行った)

 日本の法律上、「リコール」について明確な定義はなく、様々な製品について横断的にリコール制度を定めた法律はありません。

 各種製品ごとに異なったリコール制度があり、それぞれ別の法律に根拠があることから、リコール制度の内容も製品ごとに異なることになります。

1.自動車

自動車については、「道路運送車両法」にリコール制度が定められており、国土交通省が所管しています。

(1)自動車メーカー等による自主的なリコール

 自動車メーカー等が、自動車の設計・製作過程に基づく不具合を発見した場合、その不具合の状況・原因・改善措置・使用者への周知方法を届け出ることが求められます(道路運送車両法63条の3 )。

 自動車メーカー等が、不具合を把握していたにもかかわらず、この届出を行っていなかった場合は、1年以下の懲役または300万円の罰金を科される可能性があります。

(2)国土交通大臣の勧告によるリコール

 自動車のリコールは、基本的には自動車メーカー等の自主的な届出によって行われますが、国土交通大臣は、自動車の設計・製作過程の不具合を把握した場合、自動車メーカー等に対して、必要な改善措置を講ずるよう勧告することができます(同法63条の2)。

 自動車メーカー等がこのリコール勧告を無視した場合、国土交通大臣はリコール勧告に従わない旨を公表することができ、それでもなお自動車メーカー等がリコールを行わない場合は、リコールを命令することができます。

 このリコール命令に違反すると、1年以下の懲役または300万円以下の罰金が科され、法人に対しても2億円以下の罰金が併科される可能性があります。

2.医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器

 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器については、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(医薬品医療機器等法)にリコール制度が定められており、厚生労働省が所管しています。

*本法に関し、筆者なりに厚生労働省の「自主回収報告関連情報」サイトにより補足する。

【自主回収のクラス分類について】

クラス分類とは、回収される製品によりもたらされる健康への危険度の程度により、以下のとおり個別回収ごとに、I、II又はIIIの数字が割り当てられるものです。

クラスI:クラスIとは、その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となりうる状況をいう。

クラスII:クラスIIとは、その製品の使用等が、一時的な若しくは医学的に治癒可能な健康被害の原因となる可能性があるか又は重篤な健康被害のおそれはまず考えられない状況をいう。

クラスIIIクラスIIIとは、その製品の使用等が、健康被害の原因となるとはまず考えられない状況をいう。

(危害の防止)

第六十八条の九 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者又は外国特例承認取得者は、その製造販売をし、又は第十九条の二、第二十三条の二の十七若しくは第二十三条の三十七の承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の使用によつて保健衛生上の危害が発生し、又は拡大するおそれがあることを知つたときは、これを防止するために廃棄、回収、販売の停止、情報の提供その他必要な措置を講じなければならない。

2 薬局開設者、病院、診療所若しくは飼育動物診療施設の開設者、医薬品、医薬部外品若しくは化粧品の販売業者、医療機器の販売業者、貸与業者若しくは修理業者、再生医療等製品の販売業者又は医師、歯科医師、薬剤師、獣医師その他の医薬関係者は、前項の規定により医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者又は外国特例承認取得者が行う必要な措置の実施に協力するよう努めなければならない。

( 回収の報告 )

第六十八条の十一 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造販売業者、外国特例承認取得者又は第八十条第一項から第三項までに規定する輸出用の医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器若しくは再生医療等製品の製造業者は、その製造販売をし、製造をし、又は第十九条の二、第二十三条の二の十七若しくは第二十三条の三十七の承認を受けた医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品を回収するとき ( 第七十条第一項の規定による命令を受けて回収するときを除く。 ) は、厚生労働省令で定めるところにより、回収に着手した旨及び回収の状況を厚生労働大臣に報告しなければならない。

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(筆者注) CFR の 21 章(Title 21)は、「Food and Drug」に関する章であり、医薬品や食品、添加物、医療機器、規制薬物等に関する規定です。「21 CFR」と呼ばれ、Part 1 から 1,499 まで用意されており、その内容によりアメリカ食品医薬品局(Food and Drug Administration、FDA)、アメリカ麻薬取締局、そして国家薬物取締政策局によって管理されています。

(米国研究製薬工業協会サイトから一部抜粋)

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