Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

オバマ大統領の官民サイバーセキュリティ情報共有とプライバシー強化法案および関連立法化動向(その2完) 

2015-03-30 16:07:43 | サイバー犯罪と立法

Last Updated :November 22,2016

(4)消費者のオンラインに対する信頼を改善することで革新を推進

・消費者の権利章典立法措置

オンラインの相互作用は明確な原則ーすなわちデータの収集の前後関係、ユーザーの期待を誤用していないことなどにより統治されねばならない。これらは「2012年の政府消費者保護憲章」の主要テーマであった。今日、商務省はこれらの諸権利を保証するため権利章典を制定法化(完成)するため改正案につき広く意見を公募する旨発表した。

 政府は今後45日以内に修正法案を発表する予定であり、また政府は議会に対しこの重要な問題につき積極的な検討を要請した。 

(5)これら一連の行動は大統領は次のような消費者のプライバシーおよびなりすまし被害阻止を支援するため、すでに取った措置のもとで行うことを意味する。

①先進的なマーケットづくりに取り組む連邦の支払い決済システムをより安全なものとする

 2014年10月17日、オバマ大統領は、「BuySecure Initiative」 (筆者注11)の先行的活動の一部として大統領令「Executive Order --Improving the Security of Consumer Financial Transactions」に署名、公布した。

  

 同令の内容は、連邦機関が使用する既存のおよび新たに発行するクレジットカードや”Direct Express”といったデビットカードにつき「CHIPand PIN」技術 (筆者注12)を導入すること、また連邦機関に設置するカード・ターミナルにつき「chip and PIN」対応端末に更新することで連邦の支払いシステムの安全性強化を図ることにある。これらの措置は”Home Depot”  ”Target”  ”Walgreens””Walmart”等が全国的な店舗にCHIP&PINの相互利用可能な端末設置を展開と並行して行われる。

 ②なりすまし被害を回避するための新たな措置

 また、大統領は連邦取引委員会による「Identity Theft.gov」いう1つのサイトのアクセスで一連の手続きが可能となる専用サイトの構築により、被害者支援、顧客が直接影響を受ける企業に対し、個人情報の窃盗被害情報やその他の情報を定期的な形で報告できる能力を連邦機関に保証できるよう「情報の共有化範囲」を広げることとした。 

Ⅳ.2015年1月13日 オバマ大統領のサイバーセキュリティ法案の骨子、国民参加のサミット会議、historically black colleges(歴史的に、アフリカ系アメリカ人への教育を第一としている大学)のサイバー教育への補助金交付の公表

 サイバーセキュリティ法案の提示が中心となる公表内容である。なお、ホワイトハウスのリリース文は決して丁寧な文章ではない。特にⅥ.で詳しく述べる2月13日に公布した「官民部門のサイバー情報の共有化推進にかかる大統領令(13691号)(Promoting Private Sector Cybersecurity Information Sharing)」の事前告知といえる内容である(この大統領令は2月13日カリフォルニア州スタンフォード大学で開催する主要テーマ「サイバーセキュリティと消費者保護」である「ホワイトハウス・サミット(ホワイトハウスや関連する連邦機関の上級リーダー官吏、金融サービス界、技術・通信業界、コンピュータセキュリティ業界、小売業界、法執行機関、消費者保護団体、技術専門家および学生等等主要な利害関係者が一同に集まる)」にあわせて公布するものである)。

 2014年12月18日に成立したサイバーセキュリティ関連5法案との関連性、サイバーセキュリティにおける包括法案といえるか、官民の個人情報の共有等については関係団体や専門家等からの多くの異論があり、さらなる解析が必要であることはいうまでもない。ここでは、あくまで大統領のリリース文に基づき説明する。 

1.サイバーセキュリテリィ法案の提起

(1)サイバーセキュリティに関する政府・民間の情報共有化を可能

 オバマ政権が、今回内容をアップデートした法案提出は政府と民間事業者の間の自発的ではあるが、サイバーセキュリティをより良いかたちで共有化を推し進めるものであり、また民間部門内での協働や情報の共有化を向上させるものである。特に、本法案は民間部門におけるDHSのNCCICとの間でサイバーの脅威につき適宜の共有を強調し、さらにその情報につき連邦関係機関と実務的な方法で出来うる限りリアルタイムで共有し、これらの企業体とともに企業のために目標を定めた賠償保護責任(liability protection)を提供することであらたに情報共有分析機関(ISAOs; Information Sharing and Analysis Organizations)を設置、運用することとした。 (筆者注13) 

 同立法はまた民間部門主導型のISAOsの組織化を促す。オバマ政権の立法案は賠償保護責任の適格性を得るために共有すべき不要な個人情報の削除や個人情報の保護のための手段を講じることなどにより特定のプライバシー制限を課すなどの法遵守を民間企業に求めるものである。

 さらに、同法案はDHSおよび司法長官に対し、大統領府・プライバシー・市民の自由権監視委員会(Privacy and Civil Liberties Oversight Board) (筆者注14)等に諮問のうえ連邦政府のための個人情報の受け取り、保持、使用および開示に関するガイドラインの策定を求める。最後に、オバマ政権は本法案の提出に当たり、政府と民間企業間において補完関係と既存の効果的関係に置くことを意図する。これらの法執行機関とその他の連邦機関との既存の関係はサイバーセキュリティの任務上重要なものである。 

(2)サイバー犯罪と戦うため法執行機関の権限にかかる法律の近代化

 法執行は、サイバー犯罪の捜査、阻止や起訴において適切な手段である。オバマ政権の提案法は、①ボット・ネット(botnets)の販売行為を起訴を認める、②米国内で盗んだクレジットカードや銀行口座番号等銀行を海外に販売することを犯罪とする、③個人なりすましのためのストーカー行為や犯罪を犯すためのスパイウェアを販売する行為の阻止させる権限を連邦法執行機関に拡大する、④裁判所にDOS攻撃やその他の犯罪行為の配布にかかるボット・ネットを停止させる権限を付与するといった内容を含む。

 さらに、1970年「組織の不正収益・贈収賄取締法(Racketeer Influenced and Corrupt Organizations Act:RICO法)」 (筆者注15)につき2011年5月12日に政府が提案したサイバーセキュリティ関連法案 (筆者注16)の主要要素の1つである組織犯罪の取締り強化であるが、サイバー犯罪にも適用され、刑罰内容の明確化とその他の類似する非サイバー犯罪との同一線上におくことを再確認されている。

 最後に、提案内容では重要でない犯罪は制定法の適用外とすることでコンピュータ詐欺や濫用罪の定義を近代化し、一方で自身の使用目的でアクセスできる権能を濫用するインサイダーに対しても起訴すべきことを明確にする。 

(3)全米規模での情報漏洩事故報告法の内容の改正

 今回の政府提案は、既存の46州(ワシントンD.C.およびその他の準州を加える)パッチワーク法である報告義務法を単純化・標準化することで民間事業者や消費者の立場を支援するとともに、セキュリティ侵害事故時に従業員や消費者に通知すべき点を明確化する通知要求の単一化、時宜性を改めて設定する。 

2.サイバーセキュリティと消費者保護に関するホワイトハウス・サミット

 前記Ⅳ項の冒頭で詳しく述べた。 

3.サイバーセキュリティ教育のため”Historically Black Colledges and Unversities”における優秀性、革新と持続可能性面からの資金援助

 オバマ大統領は2010年2月26日に標記大統領令(Promoting Execellance, Innovation,and Sustinability at Historically Black Colledges and Universities:HBCUs)を公布した。

 これらの単科大学や総合大学は150年以上の間、民間企業、政府、アカデミックや軍隊などで多くの米国全体におけるリーダーを輩出し、また米国民の男女を問わず希望や教育機会の均等を提供してきた。バイデン副大統領はこれまでのHBCUsの貢献を踏まえ、今後のサイバーセキュリティ教育コンソーシアムを支援すべく、13つのHBCUsおよび2つの研究機構に対し、今後5年間で2,500万ドル(約29億7,500万円)の補助金を提供することを発表した。 

Ⅴ.2015年1月15日 オバマ大統領が行った米国連邦内での統一的な個人情報漏洩通知義務化法案とこれまでの関連上程法案との比較

 これまで本ブログで言及してきた内容を集大成した法案であり、また2014年議会上院で上程された議員立法等(筆者注17)を踏まえたホワイトハウス法案「The Personal Data Notification & Protection Act」といえるものであるが、他方で基本的な点と個人情報の範囲は他の法案より広いということ等相違する点もあげられる。また、通知義務の例外として、危害の差し迫った漏洩の場合や中小企業は大量の個人情報を扱わないため義務の例外とする規定内容等を含む。

 ここでは、Covington & Burling LLPの解説ブログ内容等も引用して、法案の特徴的内容を概観する。

 なお、本年2月初旬に米国のBlue Cross & Blue Shield ( BC&BS ) という米国大手の医療保険グループの傘下保険会社「Anthem,Inc」の情報システムがハッキング被害にあった事件が報じられた。同社は被害者数を公表していないが、ウェブサイトで見ても顧客数等から見て全米第2位であることから、6,900万人以上が被害にあっているという指摘もある。(このハッキング事件に関し、サイバー犯罪専門サイト「Krebs on Security」が2月4日付ブログで詳しく解説している。)

 また、1月29日同保険団体グループのPremera Blue CrossのCEOであるジェフ・ロウ(Jeff Roe)自身が同社およびPremera Blue Cross Shield Cross of Alaska 、子会社ブランドのVivacity や Connexion Insurance solutions,Inc がハッカー被害に遭い、このための顧客保護対策として「Experianによる信用状調査書の毎日の無料モニタリング(free  credit monitoring)」および「ExrendCARETMによる個人識別保護サービス(identity protection services)」の提供を始めた旨リリースしている。同社の説明では、漏洩個人情報は、「顧客の姓名」「生年月日」「Eメールアドレス」「住所」「電話番号」「社会保障番号」「顧客ID番号」「銀行アカウント情報」「請求情報」「医療情報」が含まれているとある(このリリース内容の詳細をはじめ、サイバー犯罪としての解析は別途行う予定)

 さらに3月17日のKrebs on Securityブログ もPremera Blue Cross顧客情報のハッカー事件につき、専門的解析を行っている。 

1.通知義務の対象となる個人情報(Covered information)

 「機微個人識別情報(sensitive personally identifiable information)」とは、次の電子的、デジタル形式のすべての情報またはその編集された情報をいう。

①次の3つのデータ要素のうち2つの組み合わせによる個人の姓名または先頭の頭文字と名

(ⅰ)自宅の住所または電話番号

(ⅱ)母親の結婚前の旧姓(mother’s maiden name)

(ⅲ)生年月日(full birth date) 

(2)省略されていない社会保障番号(non-truncated social security number)、運転免許証番号、パスポート番号または外国人登録証番号(alien registration number)または政府発行の固有の識別番号(government-issued unique identification number) 

(3)指紋、声紋(voice print)、網膜(retina)または虹彩イメージ(iris image)または他の固有の身体的な特徴等の生体認証情報 

(4)金融取引口座番号、クレジット・デビットカード番号、電子識別番号(electronic identification number) (筆者注18)、ユーザ名、またはルーテイン使用するコード 

(5)オンライン・アカウントへのアクセス時に要するパスワードやセキュリティに関する質問・答えと組み合わされたユーザー名やEメールアドレス 

(6)次の3つのデータのあらゆる組み合わせ

(ⅰ)個人の姓名または先頭の頭文字と名

(ⅱ)金融取引口座番号、クレジット・デビットカード番号、電子識別番号、ユーザ名、またはルーテイン使用するコード

(ⅲ)それらのコードまたはパスワードで作り出すセキュリティ・コード、アクセスコード、パスワード、ソースコード 

 さらにホワイトハウス法案は、連邦取引委員会(FTC)に情報の特別な組み合わせが機微情報である、または情報そのものの一部が機微情報であると決定したときはこれらの機微情報の定義の改正権を認める。 

2.差し迫った危険リスクの定義(Risk of Harm)

 ホワイトハウス法案は、リスクアセスメントの結果、機微個人識別情報が安全性の侵害により当該個人に危害を及ぼすまたは及ぼす可能性があると合理的に見たりすくが存しないと結論づけた場合は事業者に通知義務を免除する。

また、当該データにつき使用不可、読めないまたは判読不可場合は、合理的に見て危険が存しないという推定が働く。もし、事業者がこの決定を行った場合は決定後30日以内にFTCに対し、決定結果を書面にて通知しなくてはならない。 

3.企業規模等による通知義務の適用除外(Exceptions from coverage)

 同法案では、12ヵ月間に10,000人以上の機微個人情報を使用、アクセス、移送、保管、廃棄(dispose)する州際ビジネスを行っている事業者のみ通知義務を課す。この規定は他の議員法案に比してユニークなもので、一定の範囲で中小企業に対する通知義務を免除することになろう。 

4.個人への漏洩通知の様式(Form of individual notice)

 ホワイトハウス法案は、個人への通知とメデイアへの通知の双方について義務付ける。

 個人向けの通知は、郵送や電話でもよく、またEメールによる通知は、もし当該個人がメールによる通知の同意しかつその通知が「The Electronic Signatures in Global and National Commerce Act (E-Sign Act)」 (筆者注19)に合致していることである。

 メデイアへの通知は1州の対象個人数が5000人以上の機微情報の漏洩事故である場合に義務付けられる。メデイアへの通知内容は「州または裁判管轄における主要メデイアに対し合理的に計算された範囲」でということであり、代替的通知のみで可とする既存の州法による通知義務からの離脱を意味する。 

5.個人への通知期限(Deadline for individual notice)

 ホワイトハウス法案は、事業者はセキュリティの漏洩の事実の発見後30日以内に個人宛に通知を行わねばならないと定める。ただし、事業者はもしその期限の延期が漏洩の範囲の特定のため合理的と考えられる場合、更なる情報の開示の回避、リスクアセスメントの行動を取るため、データの完全性のほじまたは連邦政府への通知のためを理由とする場合はFTCに追加を求めることが可となる。 

6.連邦政府への通知(Notice for Government)

 ホワイトハウス法案は、事業者に対し以下の場合、連邦の法執行機関および国家安全保障当局への通知義務を定める。

(1)5,000人以上の個人の機微情報がアクセスされたまたは不法に入手されたとき 

(2)当該漏洩が全米ベースで50万人以上の機微個人情報を含む情報システムの規模であるとき 

(3)その漏洩が連邦政府が所有するデータベースを含むとき 

(4)その漏洩が主に連邦機関の従業員および国家安全保障や法執行の契約先の従業員の個人機微情報に関係するとき 

7.個人信用情報機関への通知義務(Notice to credit reporting agencies)

 もしその漏洩が5,000人以上の個人に関係する場合、事業者はFTCからの期間延長通知を受け取らない限り、30日以内にタイミングと配布の時間を考慮のうえ各信用情報機関に通知しなくてはならない。 

8.法の執行時期(Enforcement)

 本法案のもとで、FTCは連邦司法長官と協議の上同法の遵守に関する調査のイニシアティブを取りうる。また州の司法長官は住民に代わり、民事訴訟を起こしたり、漏洩行為が故意的や意図的である場合、1違反行為あたり最高100万ドルをもって「差止め救済(injunctive relief)」や1個人あたり1日最高1,000ドルの「民事罰」を求めることができる。

 本法用のもとでの民事訴訟を起こす前に、州司法長官はFTCと連邦司法長官に通知することを求められる。 

9.連邦法の州法の専占(Pre-emption)規定

  従来の連邦法案の大多数と同様、この法案も連邦法の専占権(専占とは、一般的には連邦法に矛盾する州法を無効にすること)を定める。しかし、同法案は州が被害者保護目的で行う通知を求める点については認める。 

10.州における個人情報漏洩事故通知義務法の立法状況

 米国の全米州議会議員連盟(NCSL)がまとめた各州の義務化法(Security Breach Notification Laws)の制定状況を見ておく。全州の法引用サイトへのリンクが可。

 47州、ワシントンD.C.、グアム、プエルトリコ、ヴァージンアイランドのすべてが民間事業および州政府機関に対する個人識別情報を含む個人情報の漏洩時の通知義務法をすでに制定している。

 ここでニューヨーク州の通知義務法に関する関係サイトの内容につき簡単に触れておく。

(1)民間企業情報局の個人情報漏洩通知専門サイト(従来の担当部署はサイバーセキュリティ局であったが、2013.2014年ニューヨーク州執行予算に通過により機能、権限および義務が移管)

根拠法:一般ビジネス法(General Business Law)第899-aa条:ニューヨーク州でビジネスを行う企業または個人は州司法長官府が定める個人情報を含むコンピュータ化されたデータのすべての漏洩につき開示義務を定める。

 ニューヨーク州技術法(State Technology Law)第208条:同様の内容につき、州司法長官、州消費者保護局および情報技術サービス局・企業情報セキュリティ部に通知義務を負う旨定める。

(2)FAXやEメールでの届出様式 

Ⅵ.2015年2月13日 大統領令「官民間部門のサイバーセキュリティ情報の共有化強化(Executive Order :Promoting Private Sector Cybersecurity Information Sharing)」

 2月13日のホワイトハウス・サミットの概要はⅣ.で述べた。また、同日大統領が署名した大統領令の詳しい内容については、これまで本ブログで述べて来た内容で網羅されていると思えるのでFact Sheet の項目のみ挙げるにとどめる。

 なお、米国のサイバーセキュリティ戦略の推移を見て分かるように常にオバマ政権は新たな取り組み課題と法制化のあり方を模索していると感じる。今後も引き続き、比較法的な観点から立法論も含め論じて行きたい。

(1)民間部門のサイバーセキュリティ情報の協働を踏まえた共有化

①情報の共有および分析機関たるISAOs機能強化

②より安全、迅速、平易等を踏まえた情報の共有化のための自発的標準の開発 

(2)官民の情報共有化の一層の改良

①情報共有の中心となる機関ISAOsや連邦機関間の合意締結に向けDHSの監督権限の明確化

②民間事業会社等の機密性のアルサイバーセキュリティへの脅威にかかる情報へのアクセスの効率化 

(3)ISAOsを中核とした強力なプライバシーと市民的自由の保護の実現 

Ⅶ.スタンフォード大学の”Cyber initiative”の概要

 前書きで述べたとおり、最後に米国の主要大学の中で筆者において従来から友人が多いスタンフォード大学のプロジェクト「サイバー・イニチアティブ」の具体的な取組み例を簡単に紹介する。なお、同プロジェクトのメンバーの顔ぶれを見たとおり、学際的、分野横断的であることはいうまでもない。(顔ぶれは2015年3月現在) 

(1)構成メンバー

○部長:George Triantis(ロースクール教授、副学部長Associate Dean for Strategic Planning, Associate Dean of Research for Stanford University) 

○上級副部長:Allison Berke  

○常設委員会

Jeremy Bailenson(助教授:通信) 

Stephen R.Barley(教授:経営科学・エンジニアリング) 

Dan Boneh(コンピュータ科学・電子エンジニアリング) 

John Mitchell(コンピュータ科学・エンジニアリング) 

Ian Morris(古典学・歴史) 

Barbara van Schewick(法学) 

Amy Zegart(フーバー研究所上級研究員、国際安全保障協力センター(CISAC)副部長) 

○学外のPartners大学

・Massachusetts Institute Technology(MIT) 

・University of California, Berkley 

(2)スタンフォード・イニシアティブの設立目的は、サイバー技術問題からもたされる機会と挑戦を目指して研究分野横断的な研究機関および7つの関連する学部等のハブをめざすことにある。最終的には、本イニチアティブは政策の枠組み造りと既存および未来に向けた解決策を持続することにある。

(3)

(4)本イニシアティブ3つの作業分野に区分する。(1)国際安全保障、(2)商業おおよび個人の安全保障(3)社会的影響(societal effects)である。

2014年11月に立ち上げ、強固な資金面の基礎などを築くとともに、スタンフォード大学の既存のサーバー問題の研究、研究賞や教育・カリキュラムの開発に向けたグローバルなサイバー技術の専門家集団のための研究会やフォーラムを行う。

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(筆者注11)2014年10月17日の大統領令および関係決済企業の対応等については、ホワイトハウスのブログがより詳しく解説している。

一般メデイアの解説例としては、次のものがある。

「 On Friday, President Obama signed an executive order to speed the adoption of EMV-standard cards in the US. The transition to EMV—an acronym eponymous of Europay, MasterCard, and Visa, the companies that developed the standard—has been slow to gain traction in the US. The EMV standard will require credit card companies to stop relying on the magnetic stripe cards that are common today and move toward cards with embedded chips that will offer more secure credit card transactions.」

 (筆者注12) 「Chip-and- Pin」について筆者は2006.2.5 星野英二ブログ「英国内務省の同国関係分野別の「なりすまし詐欺」にかかる被害総額の推定情報は正確か」において,英国におけるchip & pin導入の効果を紹介した。すなわち「カード業界の2004年中のなりすまし詐欺被害額は3,690万ポンドで、「カードのICカード化(いわゆるchip and pin)」などにより2005年前半の被害額は約16%減少している」と述べている。 

(筆者注13) 「情報共有分析機関(ISAOs; Information Sharing and Analysis Organizations)」は、2015年2月13日の大統領令で決定・各分野や地域毎に、「ISAOs(情報共有分析機関)」という団体を組織して、政府と民間の情報共有の接点の役目を担わせる。

ISAOsは民間主導で、NPO、企業メンバー、又は民間の1企業など様々な形態が考えられる。

(注:類似の既存組織として、「情報共有分析センター」(ISACs; Information sharing and analysis center)。これは重要インフラ分野に対する物理・サイバー攻撃に対する脅威・脆弱性に関する情報共有を行うセンターであり、金融、エネルギー等セクター毎におかれ、一部はDHS(国土安全保障省)が運営。ISAOsとISACsは、相互補完的なものになると思われる)・ISAOsはDHS(国土安全保障省)傘下の国家サイバーセキュリティ通信統合センター(NCCIC;National Cybersecurity and Communications Integration Center)と連携しながら活動を行う。

(独立行政法人情報処理推進機構「サイバーセキュリティリスクと企業経営に関する研究会 第3回研究会(2015年3月17日)資料2「米国等のサイバーセキュリティに関する動向」から一部抜粋)

 なお、DHSのサイトでは、「大統領令13691号」に関する解説サイトやISAOsについてのFAQを設けている。特に、後者においては2013年2月13日大統領令第13636号を補完する大統領政策指令第21号(Presidential Policy Directive 21)を引用しつつ、ISACsとISAOsの比較を説明している。すなわち、ISAOsはISACsと異なり、直接重要インフラに結びついていないが、その代わり、例えば中小企業の部門横断的な、法務、経理、コンサル業務を担う会社が自主的に情報を共有するといったフレキシブルな取り組みを認める等につき解説する。 

(筆者注14) 「2004年情報活動改革テロリズム予防法(Intelligence Reform and Terrorism Prevention Act of 2004, Pub. L. No. 108-458)」3/27(41)第1061条(プライバシーと市民的自由)は次のとおり定める。

・ 大統領府内に、プライバシー・市民的自由監視会議(Privacy and Civil Liberties Oversight Board)を設置する。

・ プライバシー・市民的自由監視会議は、テロ対策の一環として実施される各政府機関の政策を分析・評価する。また同会議は、各政府機関の政策の立案・実施においてプライバシーと市民的自由が適切に考慮に入れられることを保障するため、大統領及び各省庁の長に助言を提供する。

・ プライバシー・市民的自由監視会議は、連邦議会上院の助言と同意に基づき大統領が任命する 5 名で構成される。 

(筆者注15)1970年「組織の不正収益・贈収賄取締法」(Racketeer Influenced and Corrupt Organization Act、通称RICO法、Title 18 USC Sec 1961-1968)のわが国の解説例を見ておく。 

*上記と同様、組織犯罪管理法の一環として制定された法律で、通称RICO法と呼ばれている。組織犯罪の収益源となる違法賭博行為や違法ブック・メーキング等の犯罪を根絶するための目的で制定されたもので、違反の場合には、刑法上(禁固年から終身刑)、民事上の罰則が課される。組織犯罪が州際間の財務取引に巧妙に入り込んできたことに対する対応で、組織犯罪と戦うための攻撃的なツールを提供した。この法は、合法的な組織に不正な資金が入ることを防ぐ三つの防御を定義する。即ち、1)不正な活動から得た資金や非合法な負債から得た資金を投資することの禁止、2)不正資金を取得する行動を担う企業を所有し、保持することの禁止、3)かかる手段を用いて取引をすることの禁止である。(大阪商業大学 IR*ゲーミング学会「新たなカジノ法制:IR推進法案の上程~何が起こるか」)

 *犯罪組織が正当な経済活動に影響を与えることを防止するために制定された。法律に規定された一定の連邦犯罪・州犯罪(=前提犯罪)を団体の活動として行うこと等を禁止し、違反に対して刑罰(20年以下の自由刑、罰金、没収)と民事的救済手段(団体からの被告人の排除、将来の違反行為の禁止、私人による3倍額賠償(+弁護士費用)訴訟など)を規定している。

適用範囲が組織犯罪に限定されておらず、前提犯罪に「詐欺」(mail and wire fraud:18U.S.C. §1341,1343)が含まれていること、私人が訴えを提起できる(有罪判決は民事的救済の要件ではない)ことから、組織犯罪と関係のない経済取引にも適用されてきた。(消費者庁「集団的消費者被害救済制度研究会」2010年1月29日( 東京大学教授 佐伯仁志

(筆者注16) 2011年5月12日のホワイトハウスの基幹施設に対するサイバー面の脅威に対する安全強化立法上の施策(法改正)のポイントについて、Fact Sheet の内容を概観する。

(1)米国民の保護

①全国ベースでの個人情報漏洩事故の報告義務システム

②RICO法等との整合性をとったコンピュータ犯罪者への取締り強化 

(2)国家規模での米国の基幹インフラの保護

①産業界、州、地方政府への連邦政府の自発的支援

②産業界、州、地方政府間の自発的情報の共有

③基幹インフラのサイバーセキュリティ計画 

(3)連邦政府のコンピュータおよびネットワークの保護

①FISMA等の改正による管理強化

②専門家の要請

③コンピュータシステムへの侵入阻止自働システムの開発

④連邦が認めたクラウドコンピュータシステム下において、州におけるデータセンターを州内に設置するのを要求しないよう手当てする。 

(4)個人のプライバシーと市民的自由の保護の新たな枠組み

①DHSにプライバシーと市民的自由の手続きに即してサーバーセキュリティ・プログラムを実行するよう求める。

②本法案のもとで個人情報を得るすべての連邦機関はプライバシーと市民的自由手続きの策定に際し、再度プライバシー・市民的自由の専門家および司法長官との事前諮問を行う。

③すべての個人情報のモニタリング、収集、使用、保持や共有は、サイバーセキュリティの脅威に対する保護目的のみに限る。

④民間事業者、州、地方政府はDHSと個人情報の共有を希望する時は、サイバーセキュリティの脅威と無関係な識別情報を除外する等合理的な努力をまず行わねばならない。

⑤この法提案は、レイヤー別監視プログラムおよび連邦議会への報告義務を負う。

⑥民間部門、州や地方政府の適用免除は提案が定める遵守条件により条件づけられる。 

(筆者注17) 代表的な個人情報漏洩時の通知義務にかかる上院法案5本の内容を概観する。

2014.2.24 Covington Burling LLPの解説ブログ Inside Privacy 「Comparison of Five Data-Breach Bills Currently Pending in the Senate」の主要部を引用する。リンクは筆者の責任で行った。

「Data Security and Breach Notification Act」(S.1193)Pat Toomey(共和党、ペンシルバニア州)

「Personal Data Privacy and Security Act」(S.1897) :Patrick Leahy(民主党、バーモント州)

「Data Security Act」(S.1927): Tom Carper(民主党、デラウェア州):およびRoy Blunt(共和党、ミズリー州)

「Data Security and Breach Ntifibcation Act」(S.1976): John D. Rockfeller(民主党、ウェストヴァージニア州)

「Personal Data Protection and Breach Accountability Act」(S.1995) :Richard Blumenthal(民主党、コネチカット州) 

 Covington事務所の法案比較の詳細はブログそのものを読んでいただきたいが、5法案につき次の6項目で比較している。

①法がカバーする情報の範囲(Covered Information)

②漏洩リスクの閾値(しきいち)(Risk of Harm Threshold)

③消費者および規制機関への通知基準(Notice to Consumers and Regulators)

④法執行機関と罰則内容(Enforcement and Penalties)

⑤連邦法および州法の占専(Federal and State Preemption)

⑥立法でカバーされる事業体およびセーフハーバーとの関係 

(筆者注18) 電子識別番号(electronic identification number)とは、一般的には

Unique Patient Identification Numbers, Electronic Heath Records (EHR), Electronic Medical Records (EMR)等をさす。 

(筆者注19) わが国の「The Electronic Signatures in Global and National Commerce Act (E-Sign Act)」等に関する比較的詳細な解説例を見ておく。

①MBR Consulting マナブーズ・ルーム・コンサルティング「消費者保護の観点から見た米国電子署名法 2000年6月25日」はわが国の電子署名法との比較を踏まえた解説である。

②法務省の「電子署名法の概要と認定制度について」 

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オバマ大統領の官民サイバーセキュリティ情報共有とプライバシー強化法案および関連立法化動向(その1) 

2015-03-30 14:33:24 | サイバー犯罪と立法

  2014年12月18日、オバマ大統領は「2002年電子政府法(E-Government Act of 2002)」の成立以来12年ぶりの重要なサイバー立法となる長年の課題である5つの関連法案に署名した(なお、John MaCain上院議員等連邦議会有力議員の中からは、なお包括的かつ体系的なサイバー立法を押す意見があることも事実であり、本ブログの読者も理解できるであろう更なる米国の立法課題といえよう)。

  また、同大統領は2015年1月から2月にかけ標記に関する新たな法案の策定等に向けた立法化の動きを精力的に行っている。すなわち、①サイバーセキュリティ法案、②消費者のプライバシー権利章典に関する法案、③連邦ベースの個人情報漏洩時の通知義務強化法案を策定すべく一連の公式の場で所見を述べている。 

 例えば、1月12日、オバマ大統領は連邦取引委員会(FTC)での所見スピーチで米国における標記2つの大きな立法課題をあげた。また、2月13日にはカリフォルニア州のスタンフォード大学でのホワイトハウス主催サミット(筆者注1)において主要企業や学内研究者や連邦機関に向けたスピーチで米国内のSONY等企業や政府機関に対するサイバー攻撃が相次いだことを受け、官民の情報共有を強化する政府の方針を述べるとともに、そのスピーチ直後、大統領令「Executive Order - Improving Critical Infrastructure Cybersecurity」に署名した (筆者注2) 

サミットでのオバマ大統領のスピーチ

  本ブログでは、オバマ政権が取り組んできた法整備・立法措置の中核的な問題についてこれまでの経過を概観するとともに、現在取り組んでいる立法課題を整理し、これと平行してアカデミックな立場からサイバー対策につき先行研究している筆者も参加しているスタンフォード大学の”Cyber initiative”の概要などにも言及しつつ、今後、米国が取り組むであろう課題等を取り上げることとした。 

 なお、本ブログを丁寧に読んだ読者は気がつくと思うがオバマ政権はほぼ2年おきにサイバー関連立法の見直しを行うとともに、包括法案への取り組みと議会の議員立法法案との調整を進めている(2011年5月12日ホワイトハウスのFactSheet の前文参照)。ただし、毎回のプロポーザルを丁寧に読むと微妙な変更点に気がつくと思う。 

 さらに2015年4月1日、オバマ政権は合衆国憲法、および法律(国際緊急事態経済権限法(International Emergency Economic Powers Act:IEEPA、50 USC 35 §1701〜1707) (筆者注3) 「国家非常事態法(National Emergencies Act:NEA)および「移民および国籍法(Immigration and Nationality Act)」に基づき付与された権限に基づき2015年4月1日、大統領令「重大な影響を持った形で国外からの米国サイバー空間の無効化活動を行う人・団体等の資産を封鎖(Executive Order -- "Blocking the Property of Certain Persons Engaging in Significant Malicious Cyber-Enabled Activities"))」を公布した。その意図、目的、その効果等なお疑問があるが、別途まとめたいと考える。

 これらの問題は大統領府、連邦機関の権限強化、見直しとともに、連邦議会の共和党や関係業界との調整等多くの課題を伴う問題であるが、わが国における詳しい解説は極めて少ないといえる。その中でジェトロ・ニューヨーク事務所報告「JETRO ニューヨークだより 2013年4月・5月の和田恭「米国におけるサイバーセキュリティ政策の最近の動向(前編)」および「同(後編)」 がその時点のものではあるが、正確かつ専門的な解説を行っている。

  今回は、2回に分けて掲載する。 

Ⅰ.2015年1月までのオバマ政権におけるサイバー対策立法のこれまでの経緯の概観

 2015年1月13日付けのホワイトハウスのリリース「SECURING CYBERSPACE-President Obama Announces New Cybersecurity Legislative and Other Cybersecurity Efforts」等に基づき概観しておく(ホワイトハウスのリリース文につき筆者の責任で補足説明や関係資料へのリンクを行った)。

  オバマ政権はサイバー立法等対策強化に関し、その始まりから節目に当たる経緯をたどると、まず2009年5月29日に「2009年サイバー・ポリシー・レビュー(2009 CYBERSPACE POLICY REVIEW:  Assuring a Trusted and Resilient Information and Communications Infrastructure 」 (全76頁)」においてサイバーセキュリティに関する第一弾的作業として行政機関の全領域を対象とする合計112のドキュメント・レビューを行った。その結果を踏まえ、2011年5月12日に民間部門および政府部門に国内外でのサイバー脅威に対する戦いを行うための各種手段を与えるべく連邦議会に対し迅速な行動を取るよう呼びかけるため「サイバーセキュリティに関する立法面の提案(Cybersecurity Legislative Proposal)」を公布した。

  また、同年5月12日には、諸外国に対し外交政策上サイバーセキュリティは優先度が高い問題であることを明確化するため「サイバー空間に関する国際戦略:ネットワーク世界における繁栄、セキュリティおよび開示性( INTERNATIONAL STRATEGY FOR CYBERSPACE :Prosperity, Security, and Openness in a Networked World」(全30頁)を公表した。

  その後、連邦議会がサーバーセキュリティに関する包括的な立法の通過ができなかった時に政府として産業界と協働してベースラインとなるサーバーセキュリティ標準化を確立して基幹インフラを保護するため、2013年2月12日に大統領令(第13636号)「Executive Order on Improving Critical Infrastructure Cybersecurity」を公布した。 (筆者注4)

 今日は公的および民間ベースのネットワークは組織犯や非国家組織者(国際テロリスト)と同様に前代未聞の凶暴なハッカーの脅威に直面していることから、大統領は次のステップとして国家システムを防衛するため後記Ⅲ.で具体的に述べるステップを明らかにした。その中には、新たな法案の提案、連邦議会の重要な任務の構築、サイバー攻撃を無能化すべく情報の共有化で解決する等が含まれると指摘している。 

Ⅱ.2014年12月18日に成立したサイバーセキュリティ関連5法案の概要

 その概要を米国ローファーム「ZwillGen PLLC の解説記事」「Bank Info Security記事」等をもとに解説する。 

(1) 「2014年連邦機関の情報セキュリティ現代化法(Federal Information Security Modernization Act)(S.2521)」

 同法は、大統領府・行政管理予算局(OMB)に、連邦機関におけるITセキュリティポリシーの策定につき既存の行政実務内容を成文化する権限を付与するものである。また、加えてDHSに民間機関のセキュリティ・ポリシーについても運用面で実行する権限を与える。さらに同法は国土安全保障省に「2002年FISMA(Federal Information Security Management Act)」の改正を受け連邦機関のネットワークのモニタリングにつき「チェクリスト方式(checklist-method)」 から「リアルタイム方式(real-time monitaring)」に変更する権限を与える。

 この問題の立法論の背景につき筆者なりに「FEDERAL NEWS RADIO 1500AM:OMBニュース(2014.6.24)記事」等を参照して以下のとおり補足する。 

*連邦機関においてサイバーセキュリティ保護のためのダイナミックな取組みの障害となっていたのは、12年前の成立法である「FISMA」ではなく、むしろOMBが2000年11月28日に発出したオンライン部内通達「A-130 OMB Transmittal Memorandum for Heads of Executive departments and Agencies No. 4 (November 28, 2000)」 (筆者注5)の見直しが十分でなかったことである。とりわけ、DHS監査総監部(OIG)やその他の監視機関はそれによりセキュリティ対策業務は渋滞していた。 

(2) 国家サイバー・セキュリティ保護法(National Cybersecurity Protection Act)(S.2519)

 DHS内に基幹重要インフラ保護、サイバーセキュリティ、関連プログラムの監視を行うため正式に「国家サイバーセキュリティおよびコミュニケーション統合化センター(National Cybersecurity and Communications ntergration Center:NCCIC)」 (筆者注6)を稼動することを定める。法案では政府と情報共有を選択する民間企業の責任に関し論議や審議を行った。さらに、DHS長官に官民の情報共有の手続きの開発および情報共有契約の適用方法等につき議会に勧奨することを命ずる。 

(3) 「サイバーセキュリティ担当従業員の専門性育成評価法(Cybersecurity Workforce Assessment Act)(S.2952)」

 精鋭のサイバーセキュリティ専門家を採用する目的で、DHSの長官に同省内にサイバーセキュリティの準備、能力、訓練、採用、サイバーセキュリティの専門従業員の保持等を行うため、包括的な戦略の開発、維持および更新を行うよう命ずる。 (筆者注7) 

(4) 「国土安全保障省の従業員評価法(Homeland Security Workforce Assessment Act)(H.R.2952)」

 前記(3)の「Cybersecurity Workforce Assessment Act」と同様に「国境パトロール機関の支払い改革法(Border Patrol Agent Pay Reform Act of 2014:S.1691)第4条の付帯法条項となるものである。DHSにサイバーセキュリティ専門要員のポストを新たに作り、定期的な従業員採用とは別に追加報酬、やる気手当等を適用することを認める。

 (5) 「2014年サイバーセキュリティ強化法(Cybersecurity Enhancement Act)(S.1353)」

 商務省に対し、同省傘下の国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology:NIST)の所長を通じて基幹インフラに対するサイバーリスクを減じるため任意の標準の開発権限を与える。また、同時にホワイトハウスの科学・技術政策局(Office of Science and Technology Policy)に連邦機関のサイバーに関する調査および戦略計画の開発を命ずる。 

Ⅲ.2015年1月12日 ホワイトハウスオバマ大統領がFTC会議で一般教書も踏まえた新たなサイバー立法の提案その他のサイバー対策強化案を公表

 具体的なホワイトハウスのリリース(概況報告「米国の消費者と家族の保護施策」)内容は次のとおりである。なお、リリース文では海外および専門外の人には必ずしもわかりやすい内容ではないため筆者の責任で適宜補足やリンクを行った。 

(1)個人のなりすまし被害(Identity Theft)を追跡法の制定(Personal Data Notification & Protection Act)やなりすまし犯罪の特定やその阻止策

①個人情報の漏洩時の保有企業の顧客への統一的な通知義務法の制定

 大統領は、大規模な個人情報や金融取引情報等の漏洩・流失事件による心理面の被害をうける米国民に対し、心の平和を取り戻すため新たな立法手当てを推し進めた。この法案は、消費者につきその個人情報が漏洩したとき、その発見から30日以内に顧客への通知する義務を保有・管理する企業に課すことで責任の強化と明確化を図るものである。その一方で企業に対しては単一かつ全米ベースで標準化した通知規則を新たに策定する。 

②なりすまし犯罪の特定やその被害阻止策

 なりすまし被害時に、消費者に個人信用情報レベルの低下を回避させることも含め、最善のかたちで早期サインの1つのアクセスさせるため、大手銀行JPモルガン・チェイス(JMMorgan Chase)やバンク・オブ・アメリカ(Bank of America)や信用情報のスコアリング企業である「フェアー・アイザック・コーポレーション(Fair Isaac Corporation:FICO)」 (筆者注8)とともに、これらのクレジットカード顧客が無料で利用できる信用スコアを形成する企業数の増加をもたらすことになろう。さらに、USAA (筆者注9)State Employees’Credit Union なども会員に無料の信用情報の提供を可能とし、またAlly Financial (筆者注10)自社の自動車ローンの顧客がクレジットスコアが無料で照会可能とする提携企業数を広げる予定である。これらの企業努力などを通じ、成人の米国民の半数以上は、銀行、カード発行者や貸し手を通じてなりすましに適確に気がつき対応を取るためのアクセス手段を持つことになろう。 

(2)教室やその他での学生の個人情報の安全措置対策

①「学生のデジタル・プライバシー法」案の提案

 大統領は、教師や両親のために教育目的のみで教育の課程で収集される学生の情報を保証するための最善の技術を伴う教育や学習を強化を必要とするための信頼を得るため新たな立法措置を提案する。この連邦法案は画期的な法律といえるカリフォルニア州の法律「Student Online Personal Information Protection Act」等をモデルにしたもので、2014年5月1日のホワイトハウス向け報告「ビッグデータとプラバシー(技術面から見た視点):Report to President :Big Data and privacy:A Technological Perspective)」 等およびホワイトハウスの大統領のBig Data問題レビュー「Learn more about the big data review」等の勧告に基づくもので、各企業における教育面の使途に無関係の目的で第三者に学生の個人情報を販売したり学校内で収集した情報に基づき「ターゲット広告」を行うことを認めないという内容である。一方で、生徒の学習成果の改善といった調査目的をもつ構想や企業による学習技術の効率性の継続的な改善努力という点ではなお認められるものである。 

  なお、以下で米国プライバシー擁護団体であるEPICブログ「Student Privacy Project」が簡潔に同法のポイントを引用しているので、ここで併せて仮訳しておく。

「カリフォルニア州議会は包括的な学生のプライバシー保護法である「学生のオンライン個人情報保護法(Student Online Personal Information Protection Act (Senate Bill No. 1177 CHAPTER 839)」を通過させ、このほど成立した。 この新しい法律の中で特記すべき条項は次のとおりである。

 (1) 幼小中高(k-12:幼稚園(K)からはじまり、小学校(1-6学年)、中学高校(7-12学年)までの計13学年をさす)のモバイルやオンライン・サービスのオペレーター(事業者)が学生へ広告目的で当該学生の個人情報を使用することを禁止する、 (2) オンラインサービス・プロバイダー(ISP)に対し、商業目的で幼小中高学生のプロファイルを作成することを禁止するとともに、(3)学生の個人情報を他の企業に販売することを禁止する。 また、同法は、幼小中高のモバイルやオンラインのサービス・オペレータに対し、安全対策を確立し、学校または地区の関係機関の依頼にもとづき学生情報を削除することを義務付ける。 同時に、カリフォルニア州は学校が契約上でプライバシーを含め指導記録を社外調達する場合の生徒や両親の同意等規制法案(Assembly Bill 1584)を成立させた。

 その他、学校内におけるソーシャルメディア監視プログラムを統治する法案(Snate Bill 1349 )を可決した。 同州の学生オンライン個人情報保護法は、EPICがStudent Privacy権利章典(Student Privacy Bill of Rights)で概説・提言した多くの提案を取り入れた。」 (筆者注11)

 ②学生のためのプライバシー強化支援のための民間部門の新たな責務

 本日、75社は子供たちの個人情報の誤用から子供達、両親や教師に対し重要な意味をもって保護するという誓約書に署名したことから新たな責務が生じた。この誓約活動は、シンクタンク「Future of Privacy forum」「米国ソフトウエア&情報産業協会(SIIA: Software & Information Industry Association)」がリードし、本日、大統領はその他の企業に対し、このリードに追随するよう働きかけた。 

③連邦教育省は米国中の教育者の権限強化と学生の保護のための新たな手段を用意する

 連邦教育省と同省の「Privacy Technical Assistance  Center」は米国の子供たちのプライバシー保護にとって重要な役割を演じる。今日、我々は教育に関するデータが適宜かつ教育の任務目的に即して保証されるようわらわれの能力の強化を図るべく教師の教育訓練の支援と同様に来るべきモデルサービス条件を公表している。 

(3)新たに出現するプライバシー問題につき官民部門を召集

・スマートグリッドにかかる顧客の個人情報保護についての任意の行動規範(Voluntary Code of Conduct)を策定

  本日、連邦エネルギー省の連邦スマートグリッド対策本部(Federal Smart Grid Task Force)はエネルギーの使用情報を含む電気部門の顧客データの保護を目的とした公共施設や第三者のための取るべき任意の行動規範を公表した。

 同規範は1年にわたる産業界の関係者、プライバシー問題専門家ならびに広く大衆等やパブリックコメントを繁栄したものである。企業よる署名により、VCCは消費者の問題理解、選択や同意、アクセスのコントロール等の寄与することになろう。  

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(筆者注1) ホワイトハウス主催のサミット(於:スタンフォード大学)には実は筆者も同大学の友人から招かれて参加した。全内容につきホワイトハウス・サイトで、動画での確認が可能である。

(筆者注2)オバマ大統領のスピーチに中身として、さらに言及すべき点は2014年10月17日の「大統領令(Executive Order-Improving the Security of Consumer Financial Transactions)」である。オバマ大統領は金融取引や個人取引情報の安全性、個人ID情報のなりすまし被害救済の改善、さらに連邦機関間で流通する個人情報の安全性強化に関する大統領令に署名した。とりわけ、安全性強化手段として連邦政府機関が発行するクレジットカードにつき可能な限り早急にデビットカードと同様に”Chip-and -PIN”技術を導入するよう命じた。さらに、大統領府・国家安全保障会議(NSC)同・科学技術政策局(Office of Science and Technology Policy:OSTP)および同・行政管理予算局(OMB)に一定期間内に管理する個人情報管理の厳格化措置を命じた。

  同大統領令の内容につき、Covington & Burling LLPの解説(President Obama Signs Executive Order Aimed at Protecting the Security of Consumer financial Transactions)、およびCozen O’Connorの解説を中心において概観しておく。

 (1)政府支払いカードのセキュリティ強化措置

  クレジット、デビットその他政府公金の支払カード端末を有するすべての連邦法執行機関、部門において”Chip-and -PIN”技術導入により市民の個人情報のセキュリティ強化を図る。

 すなわち、財務長官は2015年1月1日までに新たに購入する端末につきセキュリティ特性を保証せねばならず、またこれらの安全特性を持たない旧端末を管理する連邦機関につきセキュリティ特性を保証するソフトウェアのインストール計画をたてねばならない。連邦共通役務庁長官(GSA)も同様に2015年1月1日までにGSA契約を介して交付されるクレジット、デビットカードやその他支払いカードのセキュリティ特性を確保するとともに、安全性特性を有しないすべての既存カードについては交換しなければならない。最後に、これらカードを扱うすべての連邦機関は2015年1月1日までにOMBに対し、これらカードにつきセキュリティ特性を有する保証計画を提出しなくてはならない。

 (2)個人なりすまし(Identity Theft)被害者救済の改善措置 

 個人なりすましの消費者たる被害者に対し、負担の軽減や遅延を減じるための措置を命じる。義務である。本命令に基づき、司法長官は国土安全保障省(DHS)長官と相俟って2015年2月15日までに実施内容を取りまとめることとなる。

 10月17日、”Chip-and-PIN”技術は欧州において広く用いられているものでクレジットカード番号の盗取を一層困難化するものである。さらに、同令は2015年1月1日までに連邦機関に設置する小口支払い用カード端末において”Chip-and-PIN”技術を導入するよう命じた。 

(筆者注3) 国際緊急事態経済権限法(IEEPA=International Emergency Economic Powers Act、50 USC 35 §1701〜1707)は、非常かつ尋常ではない国際的脅威に国家がさらされた場合に政府が「国家非常事態」を宣言し、経済に関する種々の権限を大統領が一時的に握ることを認める法律。同法の詳細は以下URLを参照。
http://www.law.cornell.edu/uscode/html/uscode50/usc_sup_01_50_10_35.html 他のサイトへ (JETRO基本的な米国の輸出入制度」から一部抜粋。

(筆者注4)大統領令第13636号について、ローラ・ミカ「サイバーセキュリティに関する大統領令」(国立国会図書館「外国の立法」2013.5)が概要を解説している。

(筆者注5)オンライン配信通達(Circular)とは、行政官庁がその所掌事務について、所管の機関や職員にオンライン文書で通知すること。また、その文書そのものをいう。 

(筆者注6)前文で述べた「米国におけるサイバーセキュリティ政策の最近の動向(後編)」においてNCCICにつき詳しく解説しているので、筆者なりに補足説明やリンクを追加して引用する。 

”NCCIC”は2009年10月30日に実際に運用するかたちですでに稼動している。

「DHSの国家重要インフラおよびITシステム保護総局(National Protection and Program Directrate:NPPD)の傘下の「サイバーセキュリティ・通信局(Office of Cybersecurity & Communication:CS&C:2009年発足)のうち、特に重要インフラを中心としたサイバー情報の集約機関として重要な役割を果たすのがNCCICである。NCCICは、国家サイバー事故対応計画(NCIRP)に基づき、それまでのNational Cyber Security Center(NCSC)を置き換える形で発足した機関であり、United States Computer Emergency Readiness Team (US-CERT):米国内のサイバー脅威情報の集約や警戒情報や注意喚起情報の発信を行う実働部隊)や、Industrial Control Systems Cyber Emergency Response Team:ICS-CERT:制御システムに関するサイバーセキュリティを担う部隊)などを統括している。NCCICには、US-CERTやICS-CERTのほか、NO&I(NCCICの各部門および活動全体の同期解析、情報の共有と事故対応につき計画、調整と統合能力に担当する)、DHS所管の重要インフラ中、IT分野の政府側調整機関であるNational Coordinating Center for Telecommunications(NCC)の4部門が存在する。365日24時間体制でサイバー監視を行っている」 

  (NCCICのサイトの組織図)

(筆者注7)サイバーセキュリティ専門家要員の育成は、主要国の喫緊かつ共通的課題である。例えば、英国でみると3月25日、内閣府担当大臣であるフランシス・モード(Francis Maude)は、英国のサイバーセキュリティ技術の基礎部強化を目的とした第一次計画(Cyber First)を公表した。そのプログラム(scheme)の特徴を英国・政府通信司令部・通信電子セキュリティグループ(CESG)サイト等を参照のうえ記しておく。

”Cyber First”は優秀な学生を対象に関連する科学、技術、エンジニアリングや数学の勉強を行うための財政的支援を行うもので、同時に卒業時に仕事に就く際は国家安全保障にかかる政府、民間企業企業への就職を斡旋するものである。急速に成長する産業界のニーズに応えるべくサイバーセキュリティに関する最先端技術の開発、人材の育成が主目的であり、その経済効果は60億ポンド(約1兆500億円)以上、雇用効果は40,000人以上と見込まれている。その名誉ある計画の応募適格者は、2015年秋に大学の第一学年または第二学年の学生で、サイバーに関する全英におけるコンペの成功者である。

またスポンサー支援計画の中身は、学業中に関しては年間4,000ポンド(約70万円)が支給される。 

その他、英国におけるサイバーセキュリティ強化に関する主要な国家計画の項目は次のとおりである。詳細な説明は略す。また、2015年3月24日、モード大臣は英国のサイバーセキュリティ技術の強化に関する第一次計画を発表した。この点も英国政府のリリースを参照されたい。

Academic Centres of Excellence in Cyber Security Research (ACE-CSRs)計画は、英国における「デジタル世界における英国の保護と推進(英国の新サイバーセキュリティ戦略が研究成果)2011.11.25 公布」として、いくつかのイニシアテイブの第一号である。 

②National cyber security programme and UK  Cyber Security strategy

2011年11月25日に公布した。2014年12月11日、本戦略に関する成果、更なる計画などを織り込んだ第三次進捗年次報告を公表した。

 (筆者注8)FICO Score”について、同社サイトの解説は次のとおりである。。

The FICO® Score, available at the three major consumer reporting agencies, helps lenders make accurate, reliable and fast credit risk decisions across the customer lifecycle. The FICO® Score rank-orders consumers by how likely they are to pay their credit obligations as agreed. The most widely used broad-based risk score; the FICO® Score plays a critical role in billions of decisions each year. The latest US version, FICO® Score 9 is the most current and predictive FICO® Score.

 また、消費者金融サービス研究学会年報 芦田勝「米国等の消費者信用情報機関等におけるビジネス倫理の実践的取組みの現状とわが国のCSR強化に向けた課題」において概要が解説されている。

(筆者注9)USAA”は、中堅銀行として現役軍人と退役軍人その家族を対象に、銀行サービス(free checking(当座預金口座で利息がつかない)ほか)、クレジットカード、生命保険/損害保険や自動車ローン、 投資相談等のサービスを行っている。 

(筆者注10)米ゼネラル・モーターズ(GM)の金融子会社だったアライ・フィナンシャルは2009年、政府が172億ドルの公的資金を注入して救済した。同社はそれ以降、サービスの幅を広げて業績を立て直してきた。2014年4月に実施した新規株式公開(IPO)では23億ドルを調達した。(2014.10.30 WSJ日本語版記事より一部抜粋)。 

(筆者注11)カリフォルニア州におけるプライバシー強化立法に関し、2012年にカリフォルニア州議会が通過させたプライバシー法(Assemmbly Bill 1844)は、同州の雇用主に雇用志願者や従業員のソーシャルメデイアのログ内容の開示を要求することを禁止する。また、同法は州の労働法第2部(Division Two)が適用され、また従業員がそのことにより解雇されたり脅迫されることから保護される旨定める。

 本ブログで引用した立法も含めカリフォルニア州の学童のプライバシー保護立法を概観するには2014.10.14 Josie Ahlquist「Carfornia Protecting Student Digital Privacy:Legal Updates in Education」を参照されたい。 

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ホワイトハウスの無人航空システムの使用時のプライバシー権等に関する覚書と法制整備等の最新動向(3完)

2015-03-22 16:59:00 | 個人情報保護法制

Last Updated:April 30,2024

Ⅲ.国土安全保障省(DHS)のOIG(監察総監部)の批判的内容の監査報告書と連邦議会の反応

1.OIGの監査報告書

 2014年12月、DHSの内部監査機関であるOIG(監察総監部)は税関・国境警備局(CBP)におけるUASの支出の無駄につき次の内容の報告書(U.S. Customs and Border Protection's Unmanned Aircraft System Program Does Not Achieve Intended Results or Recognize All Costs of Operations 」全文(全37頁))を公表した。 (筆者注14) (筆者注15)その概要を仮訳する。 

 米国の国土安全保障省(DHS)の税関・国境警備局(CBP)は、8年間にわたり市民の税金を何億ドルを消費した後においても、かかる費用を抜本的に控え目にいっている一方で、未だにUAS(Unmanned Aircraft System(無人航空機))プログラムの総額の支出額を立証していない。

 DHSの監察総監室(OIG)の調査結果に基づく最新の報告によると、 OIGはCBPが追加的に無人航空機の購入につきさらに4億4,300万ドル(約483億円)を費やす計画を破棄し、それらの税金を効果的に利用するよう勧告した。 

 米国税関・国境警備局のUASにかかる全費用に関する検証作業(OIGの2012年以来の第2回目の監査プログラム)は、CBPの航空・海上作戦局( Office of Air and Marine Operations:AMO)、航空・海上担当官(Air and Marine Officers:OAM)の努力には性能を測定する確かな方法が未だになく、かつ不法な移住を食い止めることの効果は最小限であったことが判明した。 

OIGは、2013財政年度(Fiscal Year 2013)の間に明確に以下の問題点を見出した。

① OAMは、無人航空機を運用するのに時間あたり2,468ドル(約27万円)かかったと見込んだ。 一方、OIGはOAMがオペレータの給与、設備および諸経費(overhead)等のような主要なコストを省略したことに注目して、実際の経費は時間あたり1万2,255ドル(約134万円)であることが明らかとなった。 

② 実際の飛行時間はOAMが想定した1日あたり16時間、365日の稼動目標とはほど遠かった。 OIGは、それらの目標時間の22パーセントだけにおいて、無人機(しばしば悪天気によって基地に置かれたまま)が飛行したことが判明した。 

③ CBPは米国のSouthwest Border(テキサス州からカリフォルニア州までの1,993マイル)を無人機監視することを売り込んだが、実際の展開の大部分はアリゾナ州の100マイル前後とテキサス州の70マイルのセグメント・エリアのみに使用範囲が制限された。 

 ④無人機監視は、不法移民の2パーセント未満のCBPの検挙を助けるのが功績とされた。しかし、監察総監ジョン・ロス(John Roth)は「高額な投資にもかかわらず、私たちは無人機がより安全な境界に貢献するという証拠を全く見出せないし、そして、現在追加しようとしている税者の税金を投資する理由が全くない。また、CBPが国境の安全性を確保するのはCBPとDHSにとって重要な任務であるが、CBPの無人機プログラムは、今までのところその努力の報いているにはほど遠い」と、C-SPAN 等で述べた。 

John Roth氏

 同時に同総監は、2015年2月26 日に連邦議会下院の国家安全保障委員会・監視および管理機関の効率化小委員会(Homeland Security:Before the Committee on Homeland Security Subcommttee on Oversight and Efficiency)において同主旨の証言「Assessing DHS’Performance:Watchdog Recommendations to improve Homeland Security 」(全13頁)を行っている。その詳細は略す。 

2.連邦議会の反応

 OIG報告は、ブッシュ政権の移民問題と並行する新年度DHS予算問題と微妙に関連するものとして連邦議会の論議を呼んでいる。 

 *****************************************************************

(筆者注14) 2014年10月24日、 関税・国境警備局の行政局副局長(assistant Commissioner Office of Administration)がOIGの報告書案に対する反論意見書(全8頁)を提出している。 

(筆者注15) 米国人権擁護団体EPICサイト「Domestic Unmanned Aerial Vehicles (UAVs) and Drones」もDHSのOIGの監査報告書を取り上げている。

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ホワイトハウスの無人航空システムの使用時のプライバシー権等に関する覚書と法制整備等の最新動向(その2)

2015-03-22 16:58:54 | 個人情報保護法制

 

Last Updated:April 30,2024

Ⅱ.ホワイトハウスの大統領覚書や連邦議会におけるUASのプライバシー保護法案の上程経緯およびFAAのUAS規則やプライバシー問題への取組み

1.ホワイトハウスの覚書(Presidential Memorandum)の内容

(1)2月15日、ホワイトハウスはオバマ大統領が大統領覚書「 Promoting Economic Competitiveness While Safeguarding Privacy, Civil Rights, and Civil Liberties in Domestic Use of Unmanned Aircraft Systems」(以下「覚書」という)に署名した旨リリースした。覚書はUASのビジネス利用に関する自主的なプライバシー標準および連邦政府機関によるUASの利用を統治する諸原則を確立するため、複数の関係者による手続きを確立するというものである。以下、その内容を仮訳する。

 覚書は、連邦航空局が策定した前述のNPRM「特定の小型UASに関する枠組み規則案(Operation and Certification of Small Unmanned Aircraft Systems:Notice of proposed rulemaking )NPRM」と同時に公布されたもので、政府や民間の状況下におけるUAS使用時におけるプライバシー侵害の懸念に関する政策立案者の一連の最新活動である。 

第1節 連邦政府機関の使用にかかるUASのポリシーと手続き

 連邦機関におけるUASは現状でも連邦の土地の管理、山火事のモニタリング、科学的調査、国境の監視、法執行の支援、軍の効率的な訓練等多くの分野で利用されている。この使用にあたり合衆国憲法、その他適用可能な規則やポリシーに合致するように個人情報は収集されねばならないし、また連邦機関は同時に「1974年プライバシー法(U.S.C.552a)」等に準拠する義務を負う。一方、データ主体は当該情報につきアクセス権や記録の修正権を持つ。 

(a)プライバシー保護

 特に連邦航空局・全米航空システム(National Airspace System:NAS)における多様な潜在的な使用に光を当てるとUAS技術の進捗が期待されるし、将来において先んじたUASの利用が見込まれることから、連邦政府はUASの持続的開発にかかるプライバシー保護やUASに関するポリシーを保証すべく手順を追うべきである。従って、連邦機関は、UASの新技術の配備に先立ってかつ少なくとも3年度ごとに保護されるべきプライバシー、市民権および市民自由権を保証すべく既存のUASに関するポリシーやUASが収集した個人情報の収集、使用、伝達にかかる手続きの検証義務が求められる。

 適用される環境下における1974年プラバシー法(筆者注6-2)の遵守要求に加え、NASにおいて収集された個人情報を収集する連邦機関は、次の要求要件を尊重した形でそのポリシーや手続を保証しなければならない。 

(ⅰ)収集および使用原則 

連邦機関はその収集または使用は認証された目的に関し、またその範囲内でのみUASを使用した個人情報の収集、またはUASの収集した個人情報を扱わねばならない。 

(ⅱ)保持期間の原則

 UASを使用して収集した個人識別可能情報(personally identifiable information:PII)を含む個人情報の収集は、保持機関の認可された任務にかかるうえで必要性があり、プライバシー法によりカバーされる記録システムまたはその他の適用法や規則により定められた長期の保持が要求される場合を除き、180日以上保持はしてはならない。 

(ⅲ)伝達(Dissemination)範囲の限定の原則

 プライバシー法に基づく記録システムにより維持されないUASが収集した個人情報は、その機関外への伝達は、法律が認めたとき、承認された目的を充足する場合または当該機関の要求される条件を遵守する限りにおける以外の伝達は行ってはならない。

 (b)市民権および市民的自由権の保護

 連邦機関は、市民権および市民的自由権を保護するため以下の行為を行うものとする。

(ⅰ)合衆国憲法修正第1に違反する手段または個人の民族性、人種、性、国籍、宗教、性的指向(sexual orientation)、性同一性障害(gender identity)に関する法違反の手段にかかる情報の収集、使用、保持または伝達に関する適宜のポリシーによる保証

(ⅱ)UASの諸活動は、合衆国憲法、適用すべき法律、大統領行政命令(Executive Order)その他大統領令(Presidential Directives)と整合性を取った方法で実行されることを保証

(ⅲ)適切なかたちでプライバシー、市民権および市民的自由に関する苦情の受付、調査に取り組む適宜の手続を保証 

(c)説明責任の遂行のための行動

 連邦機関は、効果的な監視を行うため、次の行動をとらねばならない。

(ⅰ)連邦機関のUASの使用に関し、既存の当該機関が持つポリシーや規則に準拠した監査やアセスメントに関する監視手続を保証

(ⅱ)USAのプログラム下で働く連邦職員や契約先の教育および行動基準の存在およびUSA技術の誤用や濫用のうかがわしいケースの報告に関する手続の存在を証明する。

(ⅲ)UASを使用して収集する個人情報のうちPIIを含む機微情報のアクセス可能な個人の意味ある監視を提供する現下のポリシーや手続を設定したりあるいは確認する。

(ⅳ)UAS使用に合致する適用法、規則やポリシーに適用可能なデータの共有合意やポリシー、データの使用のポリシーおよびデータ記録ポリシーを保証する。 

(d)UASの活動内容の透明性保持

 NAS内における透明性を増強するため、合理的に見てUASを使用する連邦機関は法執行や国家安全保障を危うくすると思われる個人情報の漏洩に関し、次の点で透明性を保証しなくてはならない。

(ⅰ)連邦機関のUASの使用がNASにおいてその運用が承認されている場合は、公示にかかる公表が提供されていること

(ⅱ)重要な点でプライバシー、市民権および市民的自由権の影響がある変更と同様に連邦機関のUASプログラムにつき公に公開されること

(ⅲ)一般大衆に対し、飛行任務の形式やカテゴリーの簡単な記述を含む年次ベースで前年度の予算ベースとの間のUASの運用の概要、当該連邦機関が他の連邦機関、州、地方政府、部族や特定地域に対し支援した回数を照会可能とする。

 (e)報告義務

 本大統領覚書の公布後180日以内に、連邦機関は大統領に対し本節の適用状況報告を提出しなければならない。本覚書公布日付の1年以内に連邦機関は本節の適用にかかるポリシーや手続につき国民のアクセス方法を公表する。

 第2節 複数の利害関係者の誓約手続き

 第1節で記載したUASの連邦機関の使用に加え、より優れた柔軟性、より低い資本経費や運用コストの組合せは、UASにおける都市部のインフラ管理、農業や災害時対策といった多様な側面で商業の民間部門の斬新な技術となることを認める。

 しかしながら、これらの機会は米国経済において競争力を強化する一方で、米国はプライバシー、市民権や市民的自由について潜在的な考慮を忘れてはならない。 

(a)ここではNASにおけるUASの使用に関し発行すべきプライバシー、説明責任および透明性に関する最善の実践実務の開発および対話のため複数の利害関係者による取組手続きが設置された。 

(b)本覚書の公布の90日以内に、商務省・電気通信情報局を介して、また他の関係機関と協議のうえ、民間ベースのUASの使用に関するプライバシー、説明責任および透明性についての枠組みの開発手続にかかる複数利害関係者の取組手順のイニチアチブを取ることになろう。この手続きに関し、民間航空での商業目的のUASの使用は、それが連邦法典U.S.C.40102(a)(41) (筆者注7)およびU.S.C.40125のもとで公共航空としての適格がある場合でも、民間航空の商業目的使用に含まれる。 

第3節 本覚書で使用する用語の定義

(a)「連邦機関(Agencies)」とは、NASのもとで運用するUASを実行する連邦行政執行機関(executive departments (筆者注8)および連邦政府をいう。

(b)「連邦政府による使用」とは、NASにおける連邦機関のUAS運用を意味する。連邦機関によるUASの使用には、別の連邦機関または州、地方政府、部族や特定地域に代わって行うUASの運用、あるいは連邦機関に代わりUASを運用する非政府機関を含む。

(c)「連邦航空局・全米航空システム(Natioal Airspace System:NAS)」は、合衆国の空域利用の共通ネットワークすなわち航空施設、機材やサービス;空港や着陸エリア;航空図、情報やサービス;関連する規則、法規および手続き;技術情報;労働力や器具を意味する。この定義には国防総省、運輸省や国土安全保障省により共同して共有するシステム・コンポーネントを含む。

(d)「無人航空システム (Unmanned Aircraft System)」は、NASのもとで安全かつ効率的に命令を下すため、パイロットやシステム操縦者に求められる無人航空機(航空機内の内外で直接の人間による介入なしに運行する航空機)でかつ関連する要素(無人航空機をコントロールする通信リンクや部品を含む)を含む。

(e)「個人識別情報(Personally identification information)」は、2007年5月22日、大統領府行政予算管理局覚書(Office of Management and Budget Momorandum M-07-16)および2010年6月25日、同局覚書(M-10-23)に定めたとおり単独または他のものと組み合わせで特定の個人にリンクまたはリンク可能な個人または識別情報を意味する。

 第4節(総則)

 略す。 

2.過去における連邦議会のUASのプライバシー保護法案

(1)2014年12月、ジョン D.ロックフェラー(John D.)上院議員(ウェスト・ヴァーニア州・民主党)の「2014年無人航空システムのプライバシー保護法案(Unmanned Aircraft Systems Privacy Act of 2014)」 (筆者注9)

  筆者は、同法案の正確な内容にあたるべく調査したが、現時点の同議員への取材に基づくメデイア情報仮訳をもって解説する。なお、筆者は同議員のコメントにつき調査した範囲で補筆した。

・同法は、商業UASの運用者に個人情報の収集および使用に関し、適切なプライバシー・ポリシーの採用とその遵守を求めるものである。同法案は商業無人機の使用の急増する一方で、米国の消費者が安全対策が適所に配備されないままにプライバシー問題に妥協することがないようにすべきであるという考えが背景にある。私は、2014年1月15日に開催した商務・科学・運輸委員会において、委員長として関係者から公聴した。急速な利用拡大と米国のビジネス界や消費者にとって極めて有望である一方で、もしわれわれがこの問題につき事前に対処しないと、重要なプライバシーリスクを引き起こすといえる。この法案はまさにそのことへの試みであり、手遅れにならないうちにこの問題に向けた取組みが必要である。

 法案は情報主体につき明示的事前同意なしに民間企業によるUAS監視を禁じる。また、同時に連邦運輸省とともに連邦取引委員会に対しリテール市場においてUASを購入するUAS事業者の法的義務に関するモデル・プライバシー・ポリシーの策定を命じる。同時に、法案は次の内容を含むプライバシーポリシーを公的なウェブサイト上に掲示するよう民間UAS事業者に求める。

・UASの運営にかかる環境の情報

・イメージ、データその他情報の収集にかかる特定の目的

・該当個人から事前に同意が得られない場合の情報の匿名化や集約手段

・個人がいったん行った同意を無効化するときや収集した個人情報のコピーの入手等についての事業者へのコンタクト方法

 また、法案は次の内容を含む。

・同法に違反する結果生ずる身体的危害やプライバシー侵害に対する民事訴訟権を付与する。

・無人航空機にかかる特定化情報の搬送が可能となる軽量かつ廉価UAS技術の開発を米国商務省・国立標準技術研究所(NIST)に命じる。

・NISTに遠隔識別情報送信(remote identification transmission)の能力評価にかかる標準試験方法の開発を求める。

・DOTに、小型無人航空機の製造・運用に関する遠隔識別情報にかかる諸規則の策定を求める。

・DOTに、遠隔識別送信のための「任意のモデル航空機ガイドライン」の公表を命じる。

・FTCに遠隔識別情報規定を含むプライバシー・ポリシーにかかる従来の関係規則の改正権を付与する。 

(2)2013年のEdward J. Markey 上院議員提案法案(S.1639 - Drone Aircraft Privacy and Transparency Act of 2013 :113th Congress (2013-2014)) 

 同法案の審議は2回の読会を終了しているので、詳細には立ち入らないが、後述4.で述べるとおり、同議員は2015年議会に同主旨の法案を再度上程している。 

3.FAAのUAS規則やプライバシー問題への取組み

(1)FAAが公表した「小型無人航空機システムに関する規則」の枠組み

 2月15日の FAAのリリース文に基づくわが国のCNET解説「米連邦航空局、商用ドローンの規制案を発表」があり、ほぼ網羅されているので、そのまま引用する。

「規制案は「運用制限」「操縦者認証と責任」などの主な4つの項目を定めている。運用制限の項目では、UASを重量55ポンド(25㎏)以下の無人航空機と定義し、オペレーター(操縦者)またはビジュアル・オブザーバー(VO)と呼ばれる操縦および監視担当者の見通し範囲内(VLOS:Visual line-of-sight)からUASを出さないよう義務付けている。UAVは肉眼(視力矯正眼鏡は着用可)で視認できることとする。運用時間は日の出から日没までの日中とし、飛行速度は最高で時速100マイル(時速約160㎞)、高度500フィート(約150m)までとする。操縦場所からは3マイル(約4.8㎞)まで見渡せる気象条件で、操縦に関与しない人物の頭上は飛行しない。上空1万8000フィート以上のクラスA空域(管制された空域)の飛行は禁止とされ、国際空港周辺や空路周辺などのクラスBからクラスEまでの空域は、許可を得て飛行可能となっている」 

 筆者なりに前述の「2012年連邦航空局の近代化・改革法(FMRA)」やFAAの連邦航空規則改正案の関係者の意見公募(NPRM)(Billing Code 4910-13-P:14 CFR Parts 21,43,45,47,61,101.107, and 183)(Notice of Proposal rulemaking) (筆者注10)の内容および米国ビジネスローファーム(Buchalter Nemer )の解説をもとに次の点を補足しておく。 

○FAAのパイロット免許(Pailot’s License)は必要ではない。FMRAの第333条は暫定的であるが商業用小型無人航空機の迅速な認可手続きについてFAAは検討を進めるであろうし、また連邦航空規則パート107は米国における数十億ドルにわたるUAS産業基盤の根拠となる。すなわち195頁にわたるNPRMを読む限りにおいて、Amazonの新ビジネスの可能性につき慎重な文言を使用しつつも、将来的な対価をえる配送ビジネスの問題に前向きに取り組みつつある。 

4.商務省・電気通信情報局(NTIA)の「UAS規制にかかるプライバシー、透明性および説明責任に関する意見公募」および新しいマルチ・ステーク・ホルダー・プロセスのための意見公募

(1)3月4日、米商務省・電気通信情報局(NTIA)は、「UAS規制にかかるプライバシー、透明性および説明責任に関する意見公募Privacy, Transparency, and Accountability Regarding Commercial and Private Use of Unmanned Aircraft Systems) およびUASの商業的で専用無人航空機のために最高の業務を拡張するために新しいマルチ・ステーク・ホルダー・プロセス(new multi-stakehlder process) (筆者注11)を構築するため「連邦官報」で「コメント公募(Request of Comment:RFC)」公布後90日間以内に第一回目の公開討議を召集したいと発表した(このため、コメント期限は公布後、45日目(4月20日)とされた)。 (筆者注11-2)

 前者につき逐語的な質問項目は次のとおり (筆者注12)NTIAの意見公募は2月15日のホワイハウスの大統領覚書を受けたものであるが、覚書が民間部門と政府によるドローンの利用に関するプライバシー問題を取り上げているのに対し、NTIAの対象は民間部門のみを対象としている。 

①プライバシーに関する質問:NTIAはUASにより収集した個人情報の収集、使用、保持および流布に関しプライバシー問題を課すとともに、利害関係者に商業および個人的なUASの使用におけるプライバシー保護に向けた安全装置の特定化を奨励する。 

③透明性に関する質問:NTIAはUASの使用につきプライバシーを強化するとともに他の価値を増強すること、またUASの操縦に関する透明性を推進するため、色等物理的マーキングや電子識別子(electronic identifiers)等といった識別メカニズムについての意見を求める。

 また、UAS操縦者に対し、重大な意味でプライバシーに影響を与え、迷惑をかけない、または安全面で関心等につき大衆にいかなる方法で適格な情報を提供しうるかを尋ねる。 

④説明責任に関する質問:NTIAはUASの操縦に関し、監査や調査という説明責任についてのコメントを求める。また日頃の行動、訓練、操縦、データのハンドリング、監視等につきどのような規則の策定が商業用のドローンの操縦に対する説明責任を実行することになるかにつき尋ねる。 

⑤利害関係者の取り組みの構造化への質問:NTIAはどのようにマルチステークホルダーの取り組み手順を構造化するべきか、また既存の最も優れた実務が参加者の仕事の上でモデルとなりうるかなどにつき尋ねる。 

(2)2月15日に公表した規則案に対する関係機関の意見はこれから出てこようが、プライバシー保護の観点から検証する意味でEPICのサイトのコメントを参照されたい。

 5.今連邦議会におけるUASにかかるプライバシー保護法案の上程

 この問題に関する2つの法案がエドワード・マーキー(Edward Markey)上院議員ピーター・ウェルチ(Peter Welch)下院議員から同時に上程されている。なお、FAAは2020年までに7,500機以上のDroneが米国の空を飛び回ると予測している。 

 法案番号、法案要旨のみあげ、詳細は略す。なお、両法案につき、米国の人権擁護団体である”American Civil Liberties Union(ACLU)”、”Electronic Frontiers Foundation(EFF)”、”Electronic Privacy Information Center(EPIC)”および”National Association of Criminal Defense Lawyers(NACDL)”等が支持するコメントを述べている。 

(1)マーキー法案 S. 635(113th): A bill to amend the FAA Modernization and Reform Act of 2012 to provide guidance and limitations regarding the integration of  unmanned aircraft systems into United States airspace, and for other purposes.

 (2)ウェルチ法案H.R. 2868 (113th): Drone Aircraft Privacy and Transparency Act of 2013

  同法案の要旨は次のとおりである。

①FAAは、Droneの免許受付にあたり、()個人情報を誰が収集するか、()飛行エリア、()どのような種類の個人情報を収集するか、()どのように個人情報を使用するか、()情報を第三者の売却することがあるか、および()情報の保持期間について説明する個人情報の収集声明文言を含む免許申請がない限り免許の発行を禁止する。

②さらに法執行機関およびその契約者(再委託先を含む)に対し、犯罪に無関係の情報の収集および保持情報の最小化に関する声明文言を求める。

③法執行機関が取り組むいかなる捜査等において捜査令状または極端な緊急性のあること(extreme exigent circumstances)の必要性の存在を義務付ける。

④FAAに対し、すべての承認された事業者一覧とデータ収集、データ最小化、免許に基づくデータの漏洩侵害およびDroneが飛行する時間と位置についての声明文言につき、公に入手可能なウェブサイトの作成を義務付ける。

6.欧州のドローンの軍事事業化展開、北朝鮮による基幹施設侵入

(1)EADSの取り組み(UAV news )

 欧州航空機大手エアバスを傘下に置く航空宇宙・防衛関連企業であるEADS (European Aeronautics Defence and Space Company)はEU域内でのドローン市場の強化に向けたビジネス活動を推し進めている。すでに2009年6月のパリ航空ショーで翼長92フィートの諜報、監視、目標取得任務型UASを公開した。

  、(2)非武装地帯等への北朝鮮製ドローンの飛来、落下事件

 CNN記事によると、2014年3月下旬に韓国内でドローン落下事故が報告された。 

 1機目は3月24日、27度線非武装地帯の南数マイルの町、坡州市で発見された。上記写真のとおり大統領府のイメージカラーであるブルー色を使っている。韓国の軍はこのドローンは航空監視が任務目的であり、日本製の小型カメラを搭載した初歩的なものであるとされている。すなわち、北朝鮮がドローーンで偵察する背景は空域情報を監視できる衛星を持たないことをあげている。

 2機目は3月31日に韓国軍の戦略的に重要な位置にある黄海の白翎島(Baengnyeong Island)で発見された。 (筆者注13) 

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(筆者注6-2)米国の個人情報保護法は保護対象者や実施主体別に制定されている。1974年プライバシー法の要旨につき連邦司法省の解説を仮訳する。

「1974年プライバシー法(5 U.S.C.§552a)」は、連邦機関の記録システムで保持さられる個人に関する情報の収集、維持、使用と普及を統治する公正な情報取扱実務の行動規範の確立する。その記録システムとは、情報が個人名で、または個人に割り当てられる若干の識別子により検索される連邦機関の管理下の一群の記録システムをいう。」

(筆者注7)U.S.C.40102(a)(41)本文は次のとおり。

“public aircraft” means any of the following:

(A) Except with respect to an aircraft described in subparagraph (E), an aircraft used only for the United States Government, except as provided in section 40125 (b).

(B) An aircraft owned by the Government and operated by any person for purposes related to crew training, equipment development, or demonstration, except as provided in section 40125 (b).

(C) An aircraft owned and operated by the government of a State, the District of Columbia, or a territory or possession of the United States or a political subdivision of one of these governments, except as provided in section 40125 (b).

(D) An aircraft exclusively leased for at least 90 continuous days by the government of a State, the District of Columbia, or a territory or possession of the United States or a political subdivision of one of these governments, except as provided in section 40125 (b).

(E) An aircraft owned or operated by the armed forces or chartered to provide transportation or other commercial air service to the armed forces under the conditions specified by section 40125 (c). In the preceding sentence, the term “other commercial air service” means an aircraft operation that

(i) is within the United States territorial airspace;

(ii) the Administrator of the Federal Aviation Administration determines is available for compensation or hire to the public, and

(iii) must comply with all applicable civil aircraft rules under title 14, Code of Federal Regulations.  

(筆者注8) executive departments”とは、アメリカ合衆国連邦政府の行政組織で、1789年設立の国務省や財務省を始め、国防総省(1947年)、内務省(1949年)、司法省(1870年、農務省(1862年)、商務省(1903年)、福祉保健省(1953年)、エネルギー省(1977年)、教育省(1980年)、国土安全保障省(2002年)などが含まれる。 

(筆者注9) 2014年無人航空システムのプライバシー保護法案(Unmanned Aircraft Systems Privacy Act of 2014)」の詳細な内容を確認すべく筆者なりに調べてみた。手掛りは連邦議会の情報サイトである”Congress.gov”で同議員の法案上程内容、民間の法案追跡サイト”govtrack .us”等つぶさにチェックした見たがやはり存しない。

また、同議員の公式サイトもリンクできない。本ブログでは、12月22日付け”USA magazine”の記事「ウェストバージニア州選出上院議員がUASプライバシー法案を提出」の内容を紹介するが、同議員は商務・科学・運輸委員会の委員長でもあり重要な法案だけに改めて調査したい。 

(筆者注10) FAAの連邦小型無人飛行機システムに関する運用、利用条件等に関する連邦規則改正案は全文195頁である。時間の関係で詳細な紹介は略すが、本来的な比較検討が必要であろう。

(筆者注11)欧米では1990年代以降に一般的に用いられている「マルチ・ステーク・ホルダー・プロセス」につき簡単に補足する。引用元は内閣府「持続可能な未来のためのマルチステークホルダー・サイト(Multistakeholder Portal for a Sustainable Future)

(1)ステークホルダーの平等代表性(equitable representation):あらゆるコミュニケーションにおいて、各ステークホルダー(利害関係者)が、平等に参加し、自らの意見を平等に表明できるということであり、また相互に平等に説明責任を負うこと、(2)意思決定、合意形成、もしくはそれに準ずる意思疎通:政策決定から共通認識の形成、実践的な取り組み実施に向けての合意、ステークホルダー間のパートナーシップやネットワーク形成に至るまでを幅広く含むもの。

 その歴史的な背景としては、1980年代後半から90年代にかけての持続可能な発展に関わる議論の中で登場した概念である。以降、様々なテーマ(環境、人権、労働、消費者問題等)と、レベル(国際、国内、地域等)のおいて適用。 

 なお、最近はこのような民主主義や自由経済の原点といえるこの考え方がややもすると薄れていると感じるのは、筆者のみであろうか。 

(筆者注11-2) NTIAは、2015年4月24日にUASの商用および私的使用に係る「プライバシー」「透明性」「説明責任」の観点からの関係機関や団体等からのコメント集約内容を公開した。Covington Burling LLP がその内容を取りまとめているので、以下、仮訳する。 

「 50以上の関係機関等がUASの非政府における使用に関するプライバシー、透明性問題等に係る意見を提供した。その多くの企業等はプライバシーに関する最善の実務の実践に関し、既存の州法上におけるプラバシーの侵害、不法侵入や覗き見責任を問うことは不要とするものであった。また、NTIAはドローン・ユーザーに対するプライバシーガイドラインを策定するに際し、合衆国憲法修正第一(信教・言論・出版・集会の自由、請願権)、および修正第四が定める権利(不合理な捜索・押収・抑留の禁止)に関する裁判管轄権問題に配意するよう強く求めた。その他の意見としては、現行法がUAS規制において、長期の監視に使われたり個人識別情報の集約にされることについて不十分である旨の懸念を述べた。これらの懸念に対処するため、コメントは(1)被写体となる個人は自身の財産上等の撮影に対するオプトアウト権を認める「飛行禁止ゾーン」の設定、(2)ドローンで収集した一定の個人識別情報の保有期間の制限、(3)顔認証ソフトや車のナンバープレート読み取りソフトの使用の組み合わせの限定等を勧告した。また、利害関係者からは、(1)ドローン本体に使用者名等を表示させる、(2)企業にはドローンをどのように使用するかについて詳細をオンライン上で表示させる、(3)ドローン・ユーザー名登録制度の創設等の指摘があった。他方、その他のコメントとしては集中化したオンライン登録制度の実施は特に趣味でUASを利用する操縦者に対する権利侵害につながるという指摘も出された。」

(筆者注12) Covington&Burling LLPのブログから引用する。 

(筆者注13) 2月27日の朝日新聞は韓国国防省が指摘した北朝鮮のドローン問題につき、国連安全保障理事会の専門家パネルの調査報告に言及している。この問題につき、さらに詳しい記事として「38 North」の関連部分を仮訳する。

「無人飛行機:2014年に3機の北朝鮮の無人空中車両(UAVs)は、軍事施設の上に空飛ぶ偵察任務の後、韓国で破壊た。同機の破片の検査では、飛行機が北朝鮮製であったか製造されて外国製だったかどうかは確定できなかった。いずれにしても、これらの事件は平壌が無人の航空機システムをその活動に取り込み続けそうなことを示唆する。韓国はこの問題は制裁に当たるすなわち「これらの無人空中車両の、そして、北朝鮮に対するすべての武器関連した軍需品[DPRKに]の供給、販売または移動を禁止している国連決議1874号 (2009年:resolution 1874 (2009))の第10項違反となる旨」専門家パネルに警告を通知した。 

 現行の決議カテゴリー1の規制対象は「少なくとも積載量500kgで少なくとも300kmの範囲に届けることができる完全な無人空中機ミサイル・システム(巡航ミサイル・システム、標的型ドローンや探査ドローンを含む)」というものであり、今回3つの落下したドローンがより短い距離が彼らがそのカテゴリー該当しないことを意味する。しかし、韓国は彼らがまだ「武器に関して」、したがって制裁の対象となると思われなければならないと考えている。 これは、今後数ヶ月に国連とそれの外部でおそらく討議される点である。 

  ***********************************************************
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ホワイトハウスの無人航空システム使用時のプライバシー権等に関する覚書と法制整備等の最新動向(その1)

2015-03-22 16:58:30 | 個人情報保護法制

 

Last Updated :April 29,2015

Illustration by NH/Shutterstock
(2015.3.9 MITは手紙のdrone配達を希望(MIT wishes it could deliver acceptance letters via drone)という動画サイトからの写真を引用)

 わが国では、最近、「日本政府は国家戦略特区の第二弾として、地方創生特区を2015年春をメドに指定する方針を公表した。地方創生特区では、無人飛行機(UAS:Unmanned Aircraft Systems (筆者注1) (いわゆるDrone(ドローン)による宅配サービスやネット利用の遠隔医療・遠隔教育など中山間・離島地域の活性化につながる先進技術の実証実験を目指す。有識者会議(筆者注2)では、無人飛行機の試験運用が始まっているアメリカ等の海外の先進事例の研究などの検討を進めており、政府は2月中にも実施計画を策定したい」とのニュースが出ている。 (筆者注3)
 また、日本ではまだ無人機に関する法律は整備されておらず、日本政府の「日本経済再生本部」は2月10日に公開した「ロボット新戦略 Japan’s Robot Strategy―ビジョン・戦略・アクションプラン―」 において、「小型無人機に関して運用実態を把握し、関係法令等の整備を検討する」としている。

 このようなわが国政府の動きの背景には、米国国内で業務用の無人航空機(UAS)がニュービジネスとして離陸しようとしている点があげられる。すなわちオンライン・コマース最大手のAmazonやネット大手Googleを筆頭に、業務用のドローンを使った自動配送システムの開発競争が活発化する中、米連邦運輸省・航空局(FAAは2月15日、商業利用のための小型UAS規則案(Operation and Certification of Small Unmanned Aircraft Systems:Notice of proposed rulemaking (NPRM)を発表する等(筆者注4)わが国の関係業界や規制・監督機関としても無視しえない重要な点があげられる。



(英国メデイア:The Telegraph2014.8.29付け記事のGoogleテスト飛行写真)

 他方、昨年10月以来フランスでは原子力発電所の周辺でドローンが飛来する事件、また韓国では2014年3月以降、北朝鮮からの飛来したと見られるドローンが非武装地帯等に落下するなど、国家の基幹施設等のセキュリティ問題も急浮上している。

 本ブログでは、第一部として米国UAS問題の取り組みを整理する意味で主要な学術的研究、連邦議会の関係委員会での論議、議会の勧告機関である連邦議会行政監査局(GAO)報告、人権擁護NPOの州立法の詳しい解析等の検討内容等をまとめた。関連する動向すべては網羅していないが、本文を読むと米国のこれまでの法整備にいたる経緯が正しく理解できるととともに、他方わが国の関係法整備も含めた研究の遅れが大いに気になろう。

 第二部として米国政府やローファーム”Hogan Lovells”の2月18日ブログ等に基づき、(1)2月15日、ホワイトハウスが無人航空システムの国内使用におけるプライバシー、市民権および市民的自由権保護に関する大統領覚書を公表したことからその具体的内容、(2)各州にけるプライバシー保護等の観点からの立法対応、(3)FAAの小型UAS規則案、(4)商務省・電気通信情報局(NTIA)の「UAS規制にかかるプライバシー、透明性および説明責任に関する意見公募(Privacy, Transparency, and Accountability Regarding Commercial and Private Use of Unmanned Aircraft Systems)および(4)フランス等のUASのビジネス面および北朝鮮からの飛来等社会的なリスク問題を概観する。

 第三部として最後に1月5日に国土安全保障省(DHS)の内部監査機関であるOIG(監察総監部)が行ったDHSへの批判的内容の報告書を概観し、併せて連邦議会の反応を見る。その意義は、これからわが国において官民共通して利用の拡大が見込まれるUAS分野において果たして国民の血税が無駄なく執行されているか、会計検査院等わが国のWatchdogの真のミッションのチェックの参考例と考えたことが背景にある。  

 なお、3月24日にGAOは「無人航空システム:FAAが実施している米国内における試験サイトにおける飛行試験結果およびカナダ、オーストラリア、フランス、英国の商業用UASの規則制定動向」を発表した。その内容もさることながら、筆者はそこで引用されているカナダ、オーストラリア、フランス等の関係機関のサイト等に当たってみた。具体的な規制内容の図解解説やガイダンス(カナダオーストラリア:ガイダンス、 ;フランス;EASA)は極めて分かりやすく、わが国の検討において参考になる点が多い。別途本ブログで詳しく取り上げる予定である。

 今回は、3回に分けて掲載する。

Ⅰ.これまでの米国のUASの基本的取組み
1.連邦議会の下院、上院関係委員会における公聴会の状況
 時間の関係ですべて網羅できないが、筆者が調べた範囲で引用する。これを読むだけでもUASに対する議会の多方面にわたる関心が高いことが窺えよう。なお、米国の無人航空機の官民、アカデミック等の取り組みの概要の解説はFAAの解説サイトを参照されたい。
 また、2012年までであるが、米国の無人航空機の規制にかかる法律、規則、ポリシー、法案等を概観できる資料「ミシシッピー大学ロースクール:The National Center for Remote Sensing, Air, and Space Law:Unmanned Aircraft Systems in U.S. National Airspace:Selected Document」も併せ参照されたい。

(1)2010年9月13日の上院「商務・科学・運輸委員会(Committee on Commerce,Science,and Transportation)」「航空事業の安全性小委員会(Subcommittee on Aviation Operation, Safety, and Security)」における専門分野別公聴会:(FIELD HEARING:委員長:ジョン D.ロックフェラー(John D. Rockefeller Ⅳ:ウェストヴァーニア州・民主党))

Senator John D. Rockefeller IV氏

①証人は次のとおり。(なお、4名の各証人の証言内容は同委員会サイトでダウンロードにより確認できる)

・Representative Earl Pomeroy , Congressman from North Dakota(2011年4月14日、管制官の居眠り問題の責任を取って辞任
Hank Krakowski , CFO, Air Traffic Organization; Accompanied by John Allen,Director, Flight Standards Service, Office of Aviation Safety, Federal Aviation Administration   
David Ahern , Director, Portfolio Systems Acquisition, Office of the Under Secretary of Defense (Acquisition, Technology and logistics
・Major General(少将) Marke Gibson , Director of Operations, Deputy Chief of Staff for Operations, Plans and Requirements, Headquarters U.S. Air Force
・Brigadier General L. Scott Rice , Co-Chairman, USAF/ANG National Airspace and Range Executive Council, National Guard Bureau

②目的:小委員会での委員長の冒頭主旨発言(原文が口語的英文なため一部意訳した)
 本公聴会は特に無人航空機(Unmanned Aerial Vehicles:UAVs)の訓練および運用問題を扱う。ノースダコタのグランド・フォークス空軍基地の領域が主要なUAVセンターになる予定である。我々は、無人偵察機プレデター(Predators)



およびグローバル・ホークス(Grobal Hawks)



(筆者注5)の一団を配置させる予定である。 我々はUAVsを飛行させることが米国の国土安全保障つながると考える。また、 ノースダコタ大学の航空宇宙科学センターを関係法およびUAV研究・調査のための研究センターとして国防総省の記述に基づき指定した。私は、一部委員会メンバーとともに空軍基地やノースダコタ大学を訪れ、実際にいかなる天候下でも無人航空機を安全に操縦、運用できていることを確認した。そこでは、真に無人航空機が有人機の隣り合せ領空で決まりきって操作するのを許容するのに必要な規則と手順を完成・開発することが優先的課題である。
 私が、この公聴会を必要と判断した理由の1つが、どこがこの問題のワーキンググループとして適格かにつき、われわれで理解しようとすることであり、また我々が欲するところから始めるために時間的なリミットまたは時代の敏感な需要を満たしうるかである。 そして、もしそうでないとしたら我々はどのようにそれらの必要条件を満たし始めるべきかである。
 FAAは特定の責任を有し、また空軍には別の責任がある。同時に我々がUAVsに関する訓練・運用能力についての統合化策を提供することで、米国の航空領空の安全性をいかに保証することである。
 これらが、2009年2月以来、何が起こっているかを理解しようとすることが本公聴会の目的である。我々が進みつつある中で、空軍とFAAがUAVsの能力と訓練について合意に達すること、またプレデターとグローバル・ホークスの一団をいつ確保できるかなどについて予想することにある。

(2)2014月1月15日の上院・商務・科学・運輸委員会での公聴会「Future of Unmanned Aviation in the U.S. Economy: Safety and Privacy Considerations」 
 内容は略す。連邦議会の動画サイトC-SPANで証言内容、記録を確認されたい。

(3)2014年1月15日の上院・商務・科学・運輸委員会の動画サイトC-SPAN「Unmanned Aerial Drones in The U.S 」上院・情報委員会委員長フェインスタイン氏証言
 内容は略す。なお、連邦議会の動画サイトC-SPANで証言内容、公式記録を確認されたい。

C-SPANから抜粋

(4)2014年12月10日、 連邦議会下院・航空小委員会公聴会: “U.S. Unmanned Aircraft Systems: Integration, Oversight, and Competitiveness”の動画
 内容は略す。標記連邦議会の動画サイトC-SPANで証言内容、公式記録を確認されたい。

2. 「2012年連邦航空局の近代化・改革法(FMRA:FAA Modernization and Reform Act of 2012)」の成立とFAAの新たな取組課題
 この問題に関し、米国ジョージ・メイソン大学のMercatus Center の解説によると、FMRAに基づき連邦議会は2015年9月までに時宜にあわせ無人航空機と呼ばれる無人機システム(UASs)を全米航空システムと統合するため連邦航空局(FAA)にその任務を課した。 その成果の一部として、議会は統合試験計画として機能するように6つの試験範囲を確立するようFAAに指示した。 2013年2月22日に、FAAはサイトと要求の選択のための「実験場プログラムの中で無人機システムの操作に関して国民と議会によって起こされたプライバシーへの懸念を記述するための提案されたアプローチ」のパブリック・コメントに関する過程を発表しつつ、連邦官報で通知を発した」とある。

3.2008年5月15日、2012年1月3日のGAO連邦議会行政監査局(GAO)報告および9月18日のGAO報告の概要

(1)2008年5月15日のGAO報告・勧告(全73頁)
 ハイライト部分を仮訳する。なお、本文を読まれて気がつくと思うがこの報告がなされたのは7年前である。わが国が今取り組むべき課題の多くが明確な解説とともに取りあげられている。

「UASsは、現在、国境警備、科学的研究とその他目的のために連邦機関によって使われている。地方自治体では法執行または消防活動等において潜在的用途を見ることができ、また民間部門では潜在的用途(例えば不動産の写真撮影)を見ることができる。関係業界の調査では、UASの生産高はそのような政府や民間部門の用途に対処するために将来的に増加すると見込んでいる。専門家は、UASsがより少ない雑音とより少ない環境への影響という観点から、ある程度有人航空機の飛行の代替的機能を果たすことができると予測する。
 UASsは、技術面、法規制面、作業負担等について国家空域システムにおいて通常の機能する能力に影響を及ぼすという調整難問を引き起こす。 UASsは、航空の安全条件(他の航空機を見て、避けることのようなこと)を満たすことができない。 UASsは、UASsが増加する潜在的挑戦が日常的な空域アクセスを得た後に予想できるセキュリティ保護の欠如をもたらす。 UASsに関するFAA規則の欠如は、FAAによるUASsの活動を個別的な承認によるという制限を課す。 UASsを運営する要請の予想された増加は、FAAのために作業負担難問を起こすことができよう。これらの挑戦について述べる複数の努力を調整することが、さらなる再挑戦である。
 FAAと国防総省(DOD)は、技術的挑戦について述べている。また DHSは、日常的なUASのアクセス問題につき空域の国家の安全保障問題に取り組んでいない。 FAAは、UAS安全な規制規則を完成することは10年以上かかると見込んでいるが、まだなお、その日常的なUASのアクセスを提供するために要求されるステップを伝えるプログラム計画や時間枠は発行されていない。 FAAは小さなUASsが空域アクセスをするのを許すことに取り組んでいて、特定の空域をUASテストに指定した。 それは、規則を作成するためにこのテストから始まり、またDODからのデータを使う予定であるが、すでに集めたデータはまだ分析していない。 その作業負担挑戦について述べるために、FAAはより多くのオートメーションを使っている。 航空投資家と専門家は、全てにかかわる事業者が連邦、アカデミックや民間部門の努力を調整して、促進するのを助けることができるように提案した。 2003年、連邦議会は、複数の連邦機関と民間部門の間で次世代航空運輸システムのために計画を調整するために、FAAと類似の事業体を創設した。」

(2)2012年1月3日のGAO報告 「U.S. Unmanned Aerial Systems:Jeremiah Ger1tler,Specialist in Military Aviation January 3, 2012」(全55頁)
 内容は逐一解説せずに項目のみあげる。しかし、読んで分かるとおり、米国の世界戦略上、UASの軍事的重要性は明らかである、かつ軍事面から取り上げるべき課題の広さが理解できよう。なお、GAOは同報告の中でDHSのTSA(運輸保安局)に対し、非軍事用UASの安全面の意味合いにつき精査するよう勧告した。

①Background,②Why Does the Military Want UAS? ,③What Missions Do UAS Currently Perform?,④Intelligence, Surveillance and Reconnaissance,⑤Strike ,⑥What Other Missions Might UAS Undertake in the Future?,⑦Resupply,⑧Combat Search and Rescue Refueling,⑨Air Combat,⑩Why Are There So Many Different UAS?,⑪Does the Department of Defense Have an Integrated UAS Development Policy?,⑫UAS Management Issues ,⑬Cost Management Issues,⑭Organizational Management Issues,⑮UAS and Investment Prioritie,⑯Interoperability,⑰Reliability/Safety,⑱Force Multiplication/Autonomy,⑲Engine Systems,⑳Duplication(複製) of Capability ,㉑Other Potential Missions,㉒The Issue of Airspace,㉓Recruitment and Retention,㉔Industrial Base Considerations,㉕Congressional Considerations,㉖Funding,㉗Trade-Offs,㉘Measures of Effectiveness,㉙Pace of Effort、㉚Management ,㉛Operators,㉜R&D Priorities,㉝Development Facilities,㉞Other Issues,㉟In Summation, ㊱Current Major DOD UAS Programs :
MQ-1 Predator;MQ-1C Grey Eagle MQ-9 Reaper ;RQ-4 Global Hawk;BAMSMQ-8B Fire Scout FIRE-X/MQ-8C RQ-170 Sentinel 、㊳Other Current UAS Programs

(3)2012年9月18日のGAOのUASに関する連邦議会の検討と連邦関係機関への勧告の概要
①GAO報告「UASの手段的進捗と潜在的プライバシー侵害に向けた検討は全米航空システムへの統合を容易にする」リリース概要
 このGAO報告は、2015年12月を規則制定の期限とする従来の航空域安全性や技術的課題という観点からプライバシー問題に一歩進めた検討を行っている。
 その該当要旨部のみ仮訳する。
「UASの国家安全保障、プライバシーおよびGPS信号への障害等への懸念は解決されておらず全米における通常の領域航空システムへのアクセスに影響するかもしれない。TSAには非軍事も含め、輸送のすべての手段につき安全面の規制を実施する権限を持つ。FAAおよび他の連邦機関は、ともにロナルド・レーガン・ナショナル空港への出入りにかかる限定的飛行制限等セキュリティ手順を実行すべきである。
 利害関係者のプライバシー問題は、UAS技術を用いた政府による監視、すなわそれらの個人情報の収集や使用における理由なき捜査や差押え等の合衆国憲法修正第4違反問題の可能性も引き起こす。
 現在、すべての連邦機関においてUASの利用に関し、連邦機関全体にわたるプライバシー問題を法規制する機関はない。利害関係者の中にはUASの政府による監視や法執行目的での使用のいうことから見て、DHSや司法省が扱うべきという見解も見られた。」

GAO報告全文(全49頁) 内容は略す。 

4.米国EPICのUASレポートの概要と州立法の全体像
(1)米国の人権擁護団体EPIC(Electronic Privacy Information Center)は2014年10月にDroneにおける官民の関係機関におけるプライバシー侵害問題をとりあげ「Spotlight on Surveillance - October 2014:DRONES: Eyes in the Sky」を公表した。NPOとしての本格的なものであり、主たる項目のみ引用する。
I. Introduction
II. Drone Surveillance Technology
III. Government Use of Drones
IV. Private Drone Use
V. Federal Regulation of Drones
VI. State Regulation of Drones
VII. EPIC’s Work

(2)主な州におけるUAS飛行にかかるプライバシー規制法の立法動向
カリフォルニア州
アイダホ州
インデイアナ州 
ルイジアナ州
ノースカロライナ州

 なお、上記も含め連邦や州の最新立法については全米州議会議員連盟(National Conference of State Legislatures:NCSL)のレポート、前記EPICのサイトや全米刑事被告弁護士会(NACDL)の”NACDL’s Domestic Drone Information Center”の連邦および州の法案一覧検索サイトを参照されたい。

NCSLレポートから抜粋

  州におけるドローン規制問題の論議で最近時、興味深いテキサス州弁護士会のブログ記事を読んだ。米国の女性弁護士で連邦政府の立案政策提言実績等で有名なリサ・エルマン(Lisa Ellman) (筆者注6)がテキサス州オーステインで3月13日~22日の間に開催された娯楽対話イベント「SXSW Interactive 2015」においてプレゼントした内容に関する記事である。

 細かな点は省略するが、ビジネスにおける商業用ドローンの利用可能範囲は極めて広いと述べる一方で(日本では農薬の空中散布の85%はドローンが行っていると引用)、プライバシー保護の面からは米国民の慎重な姿勢を有しており、立法政策にあたりそのバランスを十分配慮すべきといった論調である。その中で面白いと感じた指摘は次のとおりである。なお、エルマンのプレゼンテーションは動画サイトでも閲覧可能であり、米国で活躍する女性の例を直接見るのも面白かろう。

・立法論として未来を考えると土地の保有者は鉱山権や石油や天然ガス等に地下にある利益も保護されるべきであると主張するように、その位置の上空についても権利を主張するかもしれない。しかし、その権利は地上から約350フィート(約107メートル)以下とすべきであり、連邦が管理する500フィート(約152メートル)以上と統合管理されるべきと考える。

その他、ドローンの騒音問題も静か過ぎるとスパイ活動に有利になるといった問題も指摘できよう。

******************************************************************************
(筆者1)UAS””UAV””RPAS”および”drone”等の用語が必ずしも厳密な定義がなく使われている。一定の範囲で解説したものとしては、JAXA(宇宙航空研究開発機構)航空本部:航空マガジン 2014年夏号FLIGHT PASS No.6 「無人飛行機特集」文中の説明が分かりやすいが法的な意味での定義とは考えにくい。

(筆者注2) 「近未来技術実証特区検討会」においてドローンの実用化に向けた検討が始まると議事録に記されている。しかし、第1回会合の議事録を読んでこれからの具体的的検討の進め方についてイメージが湧く読者はいかほどいようか。

(筆者注3) 経済産業省の無人航空機の取組みの概要は,例えば「平成2014年9月17日経済産業省・製造産業局・航空機武器宇宙産業課課長補佐 府川秀樹「我が国無人航空機産業への期待」があげられる。ただし、プライバシー問題や法整備等への言及はまったくない。
 また、産業界の取組みとしては、日本産業用無人航空機協会の2014年9月17日の第4回産業用無人航空機の現状と利用に関する研究会の講演会資料等が参考となろう。同資料もプライバシー問題への言及はまったくない。

(筆者注4) 2015年3月19日、連邦航空局(FAA)はAmazon Logistics,Inc.に対し、同社が計画する無人航空機の研究、開発および操縦者の訓練目的での使用につき、試験的耐空証明(Experimental airworthiness certificate)を発行した旨発表した。次の掲げる条件下でのみ認めることから、以下で、その内容を仮訳する。

  なお、本件に関するメディア記事 等も参照されたいが、そこで読み取れる課題はいうまでもないが、(1)ここで規制対象となるUASは明らかに航空機の一種であり、趣味的なおもちゃの延長線上でないこと(operatorとはいわずpilotと言う用語を使用)、(2)米国といった広大な国土を有する国の規制ルールがそのまま狭い国土の日本では適用できない、(3)プライバシー侵害問題等関係規制機関の調整がまったくできていない点などがあげられよう。 

*(1)すべての航空操縦は、400フィート(約122m)以下または昼間の視覚気象条件の下で行うこと。 

(2)UASは常にパイロットと監視者の見通し通信飛行(VLOS: Visual Line of Sigh)で行うこと。 

(3)実際のUASを操縦するパイロットは、自家用操縦士技能証明(private pilot’s certificate)またはFAAが定める現時点の健康証明を持つこと。 

(4)アマゾンは毎月次の内容の報告をFAAに行う。①実施した飛行数、②1飛行あたりのパイロットの勤務時間、③異常なハードウェアやソフトの不具合数、④管制官からの指示の逸脱事例、⑤意図せざる通信状態の途絶

(筆者注5) グローバル・ホーク:主翼幅約40メートル、全長約14.5メートルの大型無人偵察機。米国防産業大手ノースロップ・グラマン製。赤外線センサーで夜間や悪天候下でも目標を捕捉できる。無人偵察機プレデターと異なり攻撃能力はない。米軍はアフガニスタン攻撃やイラク戦争で使用。2010年9月に米領グアムの空軍基地に配備した。気象観測や災害状況の把握でも活用され、東京電力福島第1原発事故後、原子炉建屋の損傷状況を調べるために使われた。

(筆者注6) リサ・エルマン(Lisa Ellman)がパートナーである大手法律事務所「McKenna Long & Aldridge LLPは、UASについて本格的な解説を行っている。

Lisa Ellman 氏
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英国の運輸省民間航空局によるUAS規制の現状と航空安全面やプライバシー面からの新たな課題

2015-03-17 19:47:15 | 個人情報保護法制



 筆者はブログ(その1その2その3完)で米国におけるUAS(Unmanned Aviation System:無人航空機)(またはUnmanned Aerial Vehcles:UAS)の軍や国境警備等におけるこれまで取組やFAA(Federal Aviation Administration)や連邦議会等における法規制の動向等を紹介した。 (筆者注1)
 このような国家レベルやオンライン・ビジネスの問題は別に「ハイテクかつ違法な玩具」としての側面を3月1日付けの英国メデイア「Dairy Mail Online」が論じている。その記事タイトルは「観光客等によるやっかいものドローンの流行:小型カメラつきドローンの無制限な飛行実態は「のぞき魔(Peeping Tom)」として警察等も有効な取締りもできないことから市民等の大きな苦情の原因となっている」である。

 世界レベルで話題となっているDIJ社製小型カメラ搭載型ドローン



 今回のブログは大人用の玩具とはいえ観光客の無差別的な小型カメラつきドローンの無制限な利用の実態には目に余るものがある一方で、警察等による警告は効果があがっていないというのが英国メデイア記事を読んだ印象である。


 さて本論であるが、筆者が本ブログで意図するのはその点ではない。わが国のメデイア等も論じているとおり、ドローンの利用は原発施設検査等社会経済的活動における重要性はいうまでもない。しかし、その半面で前述のブログで述べたとおり、その利用範囲を逸脱した結果は身体生命や経済的等に大きな損失を伴う問題でもある。

 今回は第一部として英国における運輸省・民間航空局(Civil Aviation Authrity:CAA)に見るUASシステムに関する規制の実態を概観する。筆者はこの分野の専門家ではないが、UAS規制の実態としては主要国のなかで先進的かつ明確な制度を有しており、わが国でも法規制制度の検討にあたり参考になりうると感じた。

 第二部として英国メデイアの記事等を参考にして観光客等による無秩序なドローン飛行の実態と警察等による警告の内容等を見る。

 第三部として英国議会の超党派ドローン問題議員連盟の取組みにつき概観する。世界的に見てもこの種の取組例は少ないと思われるし、重要な問題提起を行っている点からあえて取り上げる。

 本ブログでは詳しく立ち入らないが、わが国で最近も話題となっている監視カメラ(CCTV)撮影情報の漏洩問題等はこの問題に対する取組みの曖昧さが背景にあろう。最後に第Ⅳ部で英国の情報保護委員(ICO)サイトの解説内容と比較しつつ気になる問題点を述べておく。
 
 なお、CAAガイダンス中で引用されているEU(欧州連合)の民間航空機産業における安全に関する分野での規制やその管理機関である「欧州航空安全庁(EASA:European Aviation Safety Agency)」 (筆者注2)UAS規制

(Regulations on UAS (drone) explained)の実態を見ておく必要がある。この点については別途まとめる予定である。


Ⅰ.英国における運輸省・民間航空局(Civil Aviation Authrity:CAA)に見るUASシステムに関する規制
1.英国CAAのUASに関する解説サイト「無人航空機と航空機システム(Unmanned Aircraft and Aircraft Systems)」の概観

 なお、英国では「レクリエーション上の模型飛行機の安全使用ガイドライン(CAP 658: Model Aircraft: A Guide to Safe Flying)」 (筆者注3)を別途定めている。

(1)はじめに
 従来、UASは熱心なマニアによるレクリエーション目的の模型無人航空機として使われるだけであった。
 しかし、それらはその後、監視や情報収集といった専門的な利用目的の使用が増えてきている。それに伴い、それらのUASは一般市民により大きな危険をもたらす方法で操縦されてくるようになった。しかし、レクリエーション目的の有人飛行機や模型飛行機と異なり、UASには明確な操縦ガイドラインがないため、その操縦者はかれらが市民を危険にさらす潜在的危険性や本来負うべき責任につき知らない場合がある。
 さらに、現在はより大型のUASが開発されている。これらは、各国家レベルの国内法またはEU法等により指定されかつ承認された標準化された中で製造されており、しばしば飛行するためにひろい空間を必要とする。このため、大型のUASは他の空域利用者と空域や地上で容易に統合して利用できるよう追加的な手段をとることが必要となる。
 2010年1月、CAAは(1)航空機使用業務(aerial work)目的で使用する小型UASの操縦者に求められる条件、および(2)人や資産に接近した「密集地域内」でデータの収集や監視の装備を有し商業目的での飛行する前にACCに許可を得ることについて、新たな規則を導入した。
 その詳細は、以下の点にある。

○小型の無人航空機の操縦にかかるガイダンス
一般的・初歩的ガイダンス
 航空機市場の小型化の最後といえる無人航空機の操縦に関し、その許可(permission)や承認(approvals)に関する決定的な要素は航空機の重量(weight)であり、具体的には20kg以下である。
 また、立法の中で最も重要かつ包括的な条文はANO138条である。常に航空活動において危険にさらすことに関する規定である。すなわち、「人は無謀または過失により人や財産に対し危険にさらす原因をつくったり認めてはならない」と定める。
・用語の定義(255条)
 「小型無人航空機(Small unmanned aircraft)」とは、風船や凧以外のものでその飛行の開始時に取り付けられる品物や備品を含み燃料を除く重量が20kgを上限とする航空機をいう。
「混雑した地域(Congested Area)」とは、市街地、町やコミュニティにおいて住居、商業、産業またはレクリエーションで利用されるすべての地域をいう。

「電気的に推進する航空機」
電気的に推進する航空機では、バッテリー自体が航空機の一部であることに留意すべきである。バッテリーの充電自体が燃料である。すなわち、バッテリーは基本的に「燃料タンク」であり、換言するとバッテリーが上がったときでも重量は変わらない。

特別な規則
 2009年航空規則(Air Navigation Order 2009:ANO)166条および167条につき後記3.で詳しく述べる。

安全性に関する基本ガイド 
 ”You have control”Remember , when you fly an unmanned aircraft(or drone),the responsibility is yours Be safe,be legal )と題するリーフレットである。その裏面に留意事項8つが分かりやすく分類されている。

○CAAの許可手続
私はCAAの使用許可を得なくてはならないか?
② 略す。

○基本用語の定義
「無人航空機(Unmanned Aircraft:UA)」または「遠隔操縦航空機(Remotely Piloted Aircraft:RPA)」は航空機そのものを記述するものとして用いられる。これに対し、「無人航空機システム(Unmanned Aircraft System:UAS)は一般的に航空機のほかに、航空機の操縦にかかる無線データとリンクする管制センターなど操縦にかかるすべての装置を記載するものとして使用される。また、UAV(Unmanned Aerial Vehicle)の用語は、なお一部の分野で使用されるているが、航空機の定義分類が明確化する中で次第に消えていくものといえる。

○ガイダンス
 無人航空機の諸活動に関する英国のガイダンスは次のものである。ここでは逐一訳さないが、基本的に関係する項目は網羅されているといえる。
基本原則

空域の定義と衝突事故の回避ガイド 

耐空性 (筆者注4)

2.2004年4月更新の英国CAAのUAS(Unmanned Aircraft System Operations in UK Airspace – Policy and Guidance(CAP 722 | Ninth Edition Amendment 2)

全149頁にわたるもの。2023年11月22日に広く規制のあり方につき意見具申した結果を踏まえガイダンスとして見直したものである。

3.英国事務弁護士会のUASs法規制の解説
 英国の事務弁護士(solicitor)協会(Law Society) (筆者注5)の機関紙「Law Gazette」の解説文「Unmanned aircraft systems」がよく論点を整理しているので、ここで引用・仮訳する。

(1)現行のUAS規制
 英国では、UASsは重量と使用目的により規制されている。重量が150kg以下のUASsは運輸省管轄の
「2009年航空規則(Air Navigation Order 2009:ANO)」「2007年航空規制規則(Rules of the Air Regulations 2007)」および「CAP 722 Unmanned Aircraft System Operations in UK
Airspace – Guidance」
により規制される。
 CAAは、これらの重量20kg超150kg以下のUASsをさらに細分規定化する。また150kg超のUASsについては、EU域内の場合は規制機関である
「欧州航空安全庁(EASA:European Aviation Safety Agency)」
が規制・監督する。

A.重量20kg以下のUASs
 前記ANO253条にもとづき、重量が20kg以下のUAS(small unmanmed aircraft)については、有人航空機に適用されるほとんどの規定が除外される。例えば操縦者の登録義務が免除されたり、耐空性要件の免除である。ただし、
ANO138条「人は無謀または不注意による原因を引き起こしたり他人やその資産を危険にさらしてはならない」は小型UASを含むすべての航空機の操縦者に適用される。

CAAの規則等を簡単に表にまとめると以下のとおりとなる。

  (注)BNUC-S      Commercial Pilot Licence CPL (A)  

 小型無人航空機に関する特別な規定は、ANO166条167条に定める。すなわち、操縦者は直接視界内での操縦を維持・コントロールすること、次の範囲内での飛行は禁止される。
①地上400フィート(約122メーター)以上
②密集地では地上150メーター超または以内
③1,000人以上が集まる屋外集会での150メーター超または以内
④航空機につき責任を負う操縦者のコントロール下で50メートル以内に船、車両および構造物(structure)がある場合
⑤50メートル以内に人がいる場合
⑥いかなる意味でも営利目的を持つ場合

B.重量150kg以下、20kg超のUASs
「軽量(light)の無人航空機」と定義され、有人航空機と同様の規定が適用される。従って、それらは耐空性、操縦者の登録、飛行許可およびパイロット資格が必要とされる。もし航空機がこれらのすべての要件を満たさない場合は、CAAはANO242条に基づき例外免除証を発行する用意がある。

C.重量150kg超のUASs
 これらはEASAにより規制監督されるとともに、小型無人航空機や軽量無人航空機よりも厳格な規則が適用される。欧州連合規則(EC Regulation 216/2008)は、関係する諸規定を定めるもので、耐空性証明、継続的な耐空性、操縦、パイロット免許、航空交通管制、飛行場等を規定する。
これらのUASsの大規模な飛行または貨物に関する能力の公表の前に、実質的な投資コスト(現時点では商業的に見て魅力を失わせる)は下げられなければならない。

D.Amazon等のUASs新規事業化と英国の法規制問題
 2013年12月、AmazonはUASの最高2.3kg(5ポンド)の商品の配送サービス計画を公表した。このアイデアにつきUASについての規則はUASがパイロットの有視界になければならないという差し迫った障害が英国の規則上生じる。また、貨物の配送する空域(国内と国際の両面)利用問題との統合問題が生じるといえる。
 2014年4月8日、EUの行政機関である欧州委員会はUASの欧州空域での統合に関する政策報告書「COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT AND THE COUNCIL:A new era for aviation:Opening the aviation market to the civil use of remotely piloted aircraft systems in a safe and sustainable manner」を採択し、また同年10月8日にはEUの「輸送、電気通信およびエネルギー評議会(Transport Telecom and Energy Council)」 (筆者注6)は、統合が可能になる前に以下の問題が解決されねばならないことを明確化した。

①安全性対策
一度UASsが人、建造物、地形および他の航空物との衝突を回避するための十分な高度な技術が得られたら、1組の最小限のシステム要件が成文化される必要がある。現時点ではCAP 722 は「もし、UAS産業界がすべての飛行空域で操縦を可能とするUASを製造するつもりならば問題の発見とその回避に向けた取組みを行うべきであり、そのことは有人飛行機について定める規制や耐空性に関する標準につき同等とすべきであることを証明すべきである」と明記している。

②犯罪セキュリティ対策
 バーミンガム大学の政策委員会の委員長でまた元英国政府通信指令本部(GCHQ)の部長であったデビッド・オマンド(David Omand)教授は、UASsの一般犯罪、テロリスト、故意犯罪者による使用の潜在可能性を強調している。この点につき、英国上院特別委員会は犯罪立法による対応をすべきか否かなどにつき議論を行っている。

 UASsは、自身が分離した電波スペクトル(radio spectrum:無線周波数帯)を必要とする。そのような通信自体、ハッキング、電波妨害(jamming)、なりすまし(spoofing:そこではUASsは間違った方向に向けた指示が行く)から保護されねばならない。また、極めて小型のためまたはその素材により、レーダーでの確認が困難という不確実性問題がある。

 なお、筆者なりに英国議会の委員会での論議をフォローしてみた。特に際立ったのは英国議会上院特別委員会「国内市場、インフラストラクチャーおよび雇用問題小委員会」の議論報告書である。



 同小委員会はEU域内でのドローンのよるニュービジネスの新規創造予想を2050年までに15万件と見込むなど、「保険の付保義務」および「プライバシー問題」を中心に取り上げている。

③プライバシー面からの懸念
 UASsによる監視問題が懸念されている。英国にはプライバシー侵害にかかる刑事罰規定はないが、スパイ行為は2003年性犯罪法のもとで潜在的に「のぞき」の罪にあたりうる。一般的にUASの監視能力は、既存の「1998年情報保護法(Data Prtection Act 1998)」といったCCTV規制法で対処しうる。上院特別委員会は同法がより活発な活動を行うであろうUASに関し、さらに改正する必要があるかどうかの審議を行っている。  なお、筆者なりに米国のローファーム(Covington Burling LLP)の記事でUASによる監視活動に伴うプライバシー侵害リスクに対処すべく、2014年10月15日、 英国情報保護委員(ICO)はドローンが撮影したビデオ記録に関する「行動規範ガイダンス」の改定内容を固めた旨を確認した。

 そのポイントを簡単に引用する。
「ICOはドローンの使用が必要以上に極めて高いプライバシー侵害の可能性を持つことから、商業的使用や撮影専門家によるドローンの使用(CCTVカメラの使用にかかる規則を含む)につき、次のとおりいくつかの点で勧奨項目をまとめた。
()ドローンの使用は、個人の画像イメージを捕らえる他のエリアを飛行する記録行為を避けるため限定的に行わねばならない。
()そのような環境下でドローンを使用する団体等はその使用についての強固な正当性事由(strong justification)を提示しなければならない。
()団体等はドローンの使用に先立ち当該正当性事由の作成およびプライバシーへの影響を軽減するための手段を開発すべくプライバシー影響調査(privacy impact assessments)を実施しなければならない。
()かなりの高度からのドローン撮影は継続して行ってはならない。
()団体等は、プライバシーなど影響を受ける個人に対し、たとえば、ドローンの操縦者は明るく着色された衣服を着るなどドローンによる記録の事実を通知すべきであり、また影響を受けるエリア内にサインを送るなど画期的な手段を用いて通知行為をなすべきである。またドローンで収集した情報につき掲載ウェブサイト上でプライバシー通知を継続して行わねばならない。」

④保険問題
 EUにおける航空会社や航空機の操縦者に対する保険付保義務規定(Mandatory Insurance Requirements)は「EU 785/2004」である。この付保義務規定は、航空機の重量に応じた第三者賠償責任(third Party liability) (筆者注7)に関するものである。同規則2条2(b)条は同規則は20kg未満の模型飛行機には適用されずと定めることから、法律問題としては英国では現在小型無人航空機(small unmanned aircraft)に関する最小付保要件はないことになる。

Ⅱ.観光客等による無秩序なドローン飛行の実態と警察等による警告や罰金の内容等
 2月28日の英国メデイア”Dairy Mail Online”の記事に基づき、英国やフランスで話題となっているドローン違法飛行の問題およびドローンによる写真例を紹介する。

・昨年のクリスマス以降、新型小物である小型カメラつきの無人航空機が数千単位で受け取り、少なくとも1ダースの事故が明らかとなっている。いくつかの苦情は寝室の窓の外から飛行しているというものであった。
・観光客は英国議会やロンドンの大観覧車の近くでドローンを飛行させ、それはビルや人々に近接した飛行として違法であるにもかかわらず「自(分)撮りの写真(selfie)」を利用している。(同記事はドローンによる違法な撮影例を多く取り上げているが、本ブログではあえて略す)
・2月下旬にはパリ警察は3人の中東のメデイア「アルジャジーラ(Al Jazzeera)」の記者が違法にドローンを飛行させたとして逮捕した。エッフェル塔など歴史的建造物に近接し低空飛行した未確認飛行機の事例は、テロリストによる飛行やt路攻撃の標的となる脅威を震え上がらせた。
・このような法違反の飛行の急増に対しスコットランドヤードのドローン専門家は国家的なレベルでのガイドラインの策定をすすめている。同時に、混雑した場所でのドローンの使用に対し撮影した画像の押収できる根拠等を求めている。
・ドローンはより安価(500ポンド:約9万円)なおもちゃとして、また高解像度のカメラを搭載したりスマートフォンを搭載できたりして、風景や町並みにつき鮮明な写真やビデオが取れるため極めて人気商品になりつつある。
・ロンドンでは、ハイドパークで開かれたロンドンの冬には欠かせない存在となったウィンター・ワンダーランド(小さな子供など観覧車に乗り、氷の彫刻を見たり、友人同 士で訪れてバンドの生演奏に合わせて歌い踊りながら、ドイツ風のソーセージとビールを味わうなど老若男女を問わず楽しめるスポットとなっている)の上を飛行させたとして29歳の男性が航空規則違反を理由に警告文が送られた。
・2015年に入り、ウェスト・ヨークシャーでドローンに関する3件の報告があた。その1つは、他人の庭を飛びこえて飛行するドローンの例、2件目は3機のドローンが競技場の上を無責任に飛行したもの、3件目は飛行機の飛行を妨害する形での使用というものであった。
・サリー警察は、ある女性が2人の子供が記事で死んだ移動駐車サイトの現場をドローン撮影したとしてカメラマンを逮捕した。その後カメラマンは責任を問われずに釈放された。
・ロバート・ノールズ(Robert knowles)はカンブリア州のバロー・イン・ファーネス近くの橋を飛び越えさらに制限空域である原子力潜水艦の上をドローンで飛んだことを理由に800ポンド(約142000円)の罰金刑および不正使用ドローンにかかる費用として3500ポンド(約623,000円)の支払い命令が下された。
・マーク・スペンサーはアルトン・タワーでジェットコースターに乗っている人をクワドコプター(quadcopter)・ドローンで撮影したとして300ポンド(約53,400円)の罰金と250ポンド(約44,500円)の支払い命令が下された。

Ⅲ.英国議会の超党派ドローン問題議員連盟(All Party Paliamentary Group in Drones:APPG)の取組み 

 筆者は、バーミンガム大学のデビッド・オマンド教授の議会での証言内容をフォローする作業の中で同議員連盟のサイトを見出した。
ドローンに関する全党派議員グループAPPGは、2012年10月に設立された。 現メンバーは47名で、議長はトム・ワトソン(Tom Watson:下院:労働党)、副議長はバロン・スターン(Baroness Stern:上院:無所属)(cross-bench))とデイビッド・デイビス(David Daivis:下院:保守党)である。

1.APPGの設置目的
 ドローン(無人航空機)の英国政府による使用実態を調べること。(英国内と国外、軍部門および一般人の利用目的等の観点から)

2.APPGの検討作業の初期的な焦点
 APPGの仕事の最初の焦点は、以下の通り。
①パキスタン、イエメン、ソマリアその他におけるアメリカ合衆国によるドローンの使用;
②国際的に見た英国の機関による使用;
③法執行機関による英国内で使用;

3.検討の目的
 上記テーマの中で、APPGはその調査において人権、法律面、政治面およびその他のドローンの適用につきハイライトする必要を確認した。APPGは、政府によるドローンの利用に関する政治的かつ法律責任責任問題の検討を進めるつもりである。また、より一般的には遠隔抗戦型戦争(remote warfare)における一部の問題となる無人航空システムの役割を考慮することである。

4.最新の取り組んでいる検討テーマ
ドローンと反テロ法案(Drones and Counter-Terrorism Bill)
ドローン・ガイダンスの発刊 
オマンド教授やマイケル・クラーク教授 (筆者注8)を加えた検討作業
ドローンの国家安全保障面からみた影響

Ⅳ.わが国の監視カメラの使用に関するセキュリティ・ガイダンスがないのはなぜか   

 最近、朝日新聞が「『映像流出の危険、直視を』 ウェブカメラ問題で識者」という記事を掲載した。ドローンが撮影した画像などがネット上で流失することなど極めて大きなリスク問題といえるものである。この問題はインターネットの接続デバイスとプライバシー問題として取り上げるべき重要なテーマであるが、改めて取り上げることとし、今回は英国のプラバシーWatchdogであるICOがドローンにつきいかなる取組みを行っているであろうか。概観しておく。

 ICOのHPは各問題につき、一般向けガイドの部分とビジネス向けの解説とは明確に分けている。なお、英国では小型カメラ搭載型ドローンはCCTVとみなされ、すなわち「1998年情報保護法」や同法のガイダンスが適用される。
 ICOのサイトから、ドローン使用時の責任をもつため予め留意すべき事項を引用する。
①録画・記録する前に被写体となる人々に事前に分かるように通知すること。
②他人の家の庭などの撮影などは明らかにプライバシーの侵害となりうる点を考慮すること。
③カメラの機能を正確に知ること。
④バッテリーの短い時間にあわせた飛行計画をたてること。
⑤あなたの視界からドローンがなくならないよう注意すること。
⑥撮影画像のSNS等共有は慎重に考えること。
⑦画像等は安全な媒体に保管するか、不要なものは直ちに消去すること。

****************************************************************************************************
(筆者注1)2014年3月7 日「米国・国家輸送安全委員会(National Transportation Sfety board:NTSB)の行政法審判官(administrative law judge)パトリック・ジェラティ(Patrick Geraghty)は、2011年10月17日にFAAが下した10,000ドル(約122万円)の罰金処分に対する被告ラファエル・ピルカー(Raphael Pirker:スイス市民)の異議申立に対し、同無人航空機はUASにおける模型飛行機に分類できるとし、本事案ではFAAが主張したような連邦航空規則(FederalAviation Regulations)第91.13(a)条は適用されないとの理由から前記FAA処分の破棄を命じた。今回、FAAのUAS規則案をまとめた背景にはこのような司法トラブルが増えることへの懸念があげられる。



 この事件に関する詳しい記事としては、2014年3月7日、 CNN「Pilot wins case against FAA over commercial drone flight」を参照されたい。

(筆者注2)EASA」は2002年7月15日に「Regulation (EC) No 1592/2002」にもとづき設立、2008年にJAA(Joint Aviation Authorities:合同航空局)の機能を引き継ぎ、本格的に始動し始めた。現在の拠点はドイツのケルン。JAAとEASAの相違の1つは、EASAはヨーロッパ連合(EU)内の法的権限があるという点である。2008年以降、JAAはJAA TO(Joint Aviation Authorities Training Organisation)の名称で 「Training Organisation 」として存続している。

(筆者注3) わが国の現行の法規制下でのUAS飛行問題についてレクリエーション上の模型飛行機の範疇での規制問題や電波法上等の論点整理に関する解説サイトの例を挙げて置く。
①2014.9.12 弁護士 鈴木翔太 「人気の「ラジコンヘリ」一歩間違えると違法行為に?危険な3つのケースとは」
②2014.8.3 「マルチコプターの正しい飛行制限空域」
③2014.5.13 「WiFiで2km飛行するヘリ」
④「ラジコン用電波と電波法」

(筆者注4) 一般的に”Airwothy”な航空機とは、法律的にも機械的にも安全に飛行が出来る状態にある航空機と言う意味である。米国連邦航空規則(FAR:Federal Aviation Regulation)のSec3.には、「Airworthy means the aircraft conforms to its type design and is in a condition for safe operation(Airworthy とは、航空機が安全基準に適合した設計どおりに製造され、かつ安全に運航できる状態にあることをいう)と定義されている。

(筆者注5) 英国事務弁護士協会(Law Society)については筆者ブログを参照されたい。

(筆者注6) Transport, Telecommunications and Energy (TTE)
EUの「輸送、テレコミュニケーションとエネルギー(TTE)評議会」は、調整ネットワークを開発するこれらの地域での協力と全体として域内市場とEU経済全体にわたるインフラ問題を監視する。加盟国から、課題(例えば輸送担当大臣、テレコミュニケーションまたはエネルギー問題)に関してアイテムに対処するために、最もふさわしい立場にある大臣が代表に選ばれる。TTEは、交替制の代表により議長が任じられる。

(筆者注7) 被保険者が航空機等の飛行中に第三者に対して身体障害若しくは財産損害を与えてしまった場合に被る法律上の損害賠償責任をカバーするものである。

(筆者注8) マイケル・クラーク (Michael Clarke) 教授は、英国王立統合軍防衛安全保障問題研究所(Royal United Services Institute:rusi)の所長でもある。

Michael Clarke

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カナダのオフショアー油田・ガス開発事業者および原発事業者にかかる損害賠償法の改正法が成立

2015-03-08 16:19:16 | 消費者保護法制・法執行



 Last Updated : April 30,2024

2月26日、カナダのハーパー政府のグレッグ・リックフォード相(Greg Rickford:天然資源担当大臣兼北部オンタリオにおける経済発展イニチアチブ担当大臣)は昨年、両院を通過していた標記法案(C-22)が国王の裁可により成立した旨発表した。 (筆者注1)

 

Greg Rickford 氏

 同法案は2014年1月30日に議会に上程されたもので、同日、カナダの天然資源省ジョー・オリバー相(Joe Oliver:現財務大臣)「エネルギー・安全性および保障法案( Energy Safety and Security Act)」を連邦議会に上程した旨発表した。この法律はカナダにおけるオフショアー油田・ガス開発事業者および原発事業者の損害発生に対する補償に関し、世界的レベルから見て通用する規制・監督システムを確実化するとともに、安全性や環境保護の強化を目指すものである。

Joe Oliver

 この連邦立法は、カナダ政府におけるノヴァ・スコテイア州(Province of Nova Scotia)、ニューファンドランド州(Provance of Newfoundland)およびラボラドール州(Provance of Laborador)の3州と共同して連邦法と各州法の調和の観点からオフショア事業者の賠償責任法の改正を目的とするもので、これら3州はこの数か月以内に連邦法のほぼ同一内容の立法(mirror legislation) (筆者注2)を行う予定である。

 今回の新法案の主旨は、(1)カナダのオフショアー油田・ガス開発事業者が負う賠償額、(2)カナダの原子力発電事業者の賠償額の引き上げ等を目的とするものである。

 わが国の原発依存度は約30%であるが、東日本大震災から誘発された原発の暴走、廃炉、放射能対策
(筆者注3)等がいまだに進んでいない一方で、全国17原子力発電所48基はまったく稼動していない。また、東電の事業者責任の範囲については「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」の免責事由のあり方も含め適用範囲も明確ではないし、またわが国における公的補償のありかたも十分に論じられていないまま再稼動問題が話題となっている。 (筆者注4)(筆者注5)
 さらに、補償額の単純な比較も問題がある。つまり、わが国の原子力賠償法の上限は1,200億円(第7条)であり、一方、カナダの新賠償額は10億カナダドル(約950億円)というような比較である。カナダ法における免責自由の範囲、絶対責任規定ならびに監督機関の機能等も含めた包括的比較が必要であることは言うまでもない。

 カナダの原発依存度は約15%であるが、福島原発の大事故を真摯に受け止めつつ、その重大性から安全対策の強化、賠償額の見直しなどの積極的に取り組んでいる。

 本ブログはこれらの実情を明らかにするためまとめた。なお、筆者はこの分野はまったくの専門外である。誤解、補足も含め専門家による意見等を期待する。


1.法案上提時の政府の法案の説明要旨
 (1)カナダのオフショア油田・ガス田部門に関し、新法は太平洋オフショアの場合は、3,000万カナダドル(約28億5,000万円)から10億カナダドル(約950億円)に「絶対責任額」を引き上げ、また北極圏のオフショア油田・ガスについては4,000万カナダドル(約38億円)から10億カナダドル(約950億円)に引き上げる。
 なお、ここで記載された「絶対責任(absolute liability)」の法的意義につき「厳格(無過失)責任(strict liability)」と同義と説明している米国の法律用語サイトもあるので、ここで”USlegal””Uni study Guides””Duhaime legal Dictionary”の解説をもとに簡単に補足する。
「英米の不法行為法、刑法において、「厳格責任」とは法的有責性の有無に関わらず特定の人の作為・不作為により生じた損害または損失につき責任を負わせる法理である。一方、「絶対責任」には犯罪的行為または”actus reus”(”actus reus”とは、特定の法律によって犯罪または不法行為の構成要件として規定されている作為あるいは不作為があったという客観的な要件)が必要である。」 (筆者注6)

 また、事業者の「過失責任」については従来と同様、無限責任を負う。

 新法案は、 「1988年カナダ・ノヴァスコシア・オフショア石油資源の合意適用法(Canada-Nova Scotia Offshore Resources Petroleum Accord Implementation Act)」「1987年カナダ-ニューファンドランド太平洋資源の合意適用法(Canada-Newfoundland Atlantic Accrd Implementation Act)」「1985年カナダ原油およびガスの探検・開発事業法(Canada Oil and Gas Operation Act)」および「カナダ石油資源法(Canada Petroleum Resourses Act)」を改正するものである。

(2)原子力部門につき、新法案は事業者の絶対的賠償額の上限を75,000カナダドル(約712億円)から10億ドル(約950億円)に引き上げ、原発事故の損害にかかる「1997年原子力損害の補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage:国際原子力機関で採択されたもの)」の国内法適用となる。

2.各分野別の改正目的とその背景
オフショア石油・ガス分野
(1)オフショア油田・ガス田部門の安全・賠償強化
 大西洋部分エリアの環境記録はすでに強固なものではある。世界的なレベルとの整合性を確保すべく、連邦政府、ノヴァスコシア、ニューファンドランドおよびラボラドール州政府は世界基準をクリアーできるオフショアにおける石油およびガスの探査と開発のため更新拡大のための法改正に合意した。今回提案する法案は①事故の阻止、②事故時の対処、③説明責任、④対処内容の透明性 (筆者注7)の4つのエリアに焦点をあてている。その具体的な法改正措置の内容は、2012年秋に公表された「2012年環境維持および持続可能性開発に関する委員会報告(2012 Fall Report of the Commissioner of the Environment and Sustainable Development)」の勧告内容を受けたものである。

 カナダの現行のオフショア事故の責任体制(Current Offshore Liability Regime)は次のとおりである。
・カナダの事故責任体制は「汚染者支払原則(pollutter pays principle)」 (筆者注8)に基づく。現在、汚染物質の流出につき不注意(fault)または過失(negligent) (筆者注9)に基づく場合は無限責任(absolute liability)が課される。さらに大西洋オフショアの場合、3,000万カナダドル(約28億5,000万円)、北極オフショアの場合は4,000万ドル(約38億円)の無過失責任が課される。この結果、不注意または過失の有無に関わらず、事業者は清浄化費用および決定された額までの損害額につき責任を負う。
 すべてのオフショア油田等掘削または生産活動を行おうとする提案者は、事故等による原油等の流失から生じる事業資金負担能力や損害賠償がカバーできるという証拠を提出しなければならない。すなわち、この資金力とは一般的にいうと資産、保険および潜在的保証(北極圏オフショアの場合は3,000万カナダドル(約28億5,000万円)、大西洋圏の場合は4,000万ドル(約38億円)の預託)からなる財政能力要件は2億5,000万カナダドル(約237億5,000万円)から5億カナダドル(約475億円)の幅で構成される。この預託金は、オフショア監督機関により、信用状(letter of credit L/C) (筆者注10)、保証または債券(bond)のかたちで保有される。

(2)オフショア事業の事業者賠償責任の強化
 前述のとおり。

(3)法案のハイライト
○事故の予防に関する措置の強化
①掘削、生産および開発を行う事業者に対する財政能力を10億カナダドルまで引き上げる。この改定はカナダのオフショア領域での活動に関する事故の予防や対処能力を持つ会社のみに対し大きな保証を与える。
②3つのオフショア石油施設委員会(Offshore Boards) (筆者注11)に対し、「2012年カナダ環境アセスメント法(Canadian Environmental Assessment Act 2012)」に基づき責任を有する監督機関となるに必要なツールを提供する。この改正は関係するすべてのオフショア石油開発プロジェクトは最もふさわしい立場にある監督機関により厳しい「2012年カナダ環境アセスメント法(AEAA 2012)」に基づく検査に直面することが確実になる。
③各委員会に法令違反に対する行政処分および罰金刑を科す権限を付与する。このことは、事故が大規模なものなる前の小規模な違反段階で対処できる完全な手段を提供することを保証する。

○事故時の対処監督内容の改善
①流出油処理剤(spill treating agent)の安全な使用によりネットでの環境面での援助を実現させる。このことは、規制監督機関がオフショアにおける石油流出時の対処策の一部として化学分散剤(chemical dispersats)または流出油処理剤の使用の認可を認める新たなツールを作り出すことである。
②規制監督機関に、1プロジェクト当り1億カナダドル(約95億円)または共同出資した基金2億5,000カナダドル(約237億5,000万円)につき直接かつ自由なアクセス権を認める。このことにより、規制監督機関は事故対応または被害者に対する補償が得られない場合に直ちに金融支援を行うことを保証する。

○より強固な責任
①汚染事業者の支払責任原則(polluter pays principle)を法律上明記する。これは、汚染者が明らかにかつ正式に責任を負うという原則を確立する。
②不注意(fault)または過失(negligent)が立証された場合、無限責任を負う原則を維持、補強する。
③大西洋オフショアの場合は3,000万カナダドル、北極圏の場合は4,000万カナダドルから10億カナダドルに絶対責任額を引き上げる。
④政府の環境破壊事業者への責任追求の根拠を与える。これは、生物種(species)、海岸線や公的資源保護を意図するいかなる損害賠償請求の実行をも確実とする。
⑤認可事業者(authorization holders)の契約者の活動に関して責任を負うという原則を確立する。これは、責任はより小さな企業においても自己責任を負うという点を確実化する。

○事業者や監督機関の透明性の強化
①一般国民が監督機関が管理する「緊急時計画」、「環境保護計画」およびその化の関係文書につきアクセス可能とする。これは、事故の阻止や仮に事故が起きた時に事業者が取るべき手順を見直し、理解することを確実にする。
②2以上の監督機関の管轄権が分かれる行政の境界線をまたぐ分野につき、一体化した管理ができるメカニズムを確立する。これは、明らかに分割される2以上行政エリアにまたがる石油資源から生じる利益を保証することになろう。これらの制度改正につき、当初は大西洋オフショアの外部から始め、大西洋オフショアに影響を及ぼすものについては後から引き続き実施する予定である。
③監督機関にかかる費用に関し、被監督事業者から受け取る制定法上の根拠を確立する。このことは、石油やガス活動にかかるコスト請求の名宛人としての事業者の貢献責任を法律上明記することになる。

〔原子力分野〕
(1)原子力事業部門の安全・賠償強化
 カナダ原子力事業者は、カナダの電力需要の約15%を供給してきたが、50年以上にわたり安全なかたちで運用を実行してきた。カナダには強力かつ独立性を持った原子力安全委員会(Canada Nuclear Safety Commission)があるが、重要な委任を受けて適切な電力資源の管理を行う。

 本法案は、原子力にかかる民事責任体制を現代化するとともに国際的に整合性の取れたレベルの補償をもたらすものである。同法によるイニシアティブは世界的に通用する原子量エネルギー規制監督の枠組みを完成するものであり、また2012年秋に公表された「環境維持・持続可能性を持つ開発に関する委員会報告書(2012 Fall Report of the Commissioner of the Environment and Sustainable Development)」の勧告内容を受けたものである。

 2014年1月30日に上程された本法案(Bill C-22)は、1976年施行の「原子力責任法(Nuclear Liability Act:原子力損害の民事責任に関する法律:1970年に制定 1985年に改正)」に替わるものである。この法律は、カナダ国内の原子力発電所、原子炉研究炉、燃料処理工場や使用済核燃料管理工場等の核施設に適用するものである。


(2)法案のハイライト
○より強固な説明義務・責任
①カナダ政府は市民の怪我や損害に対する核施設事業者の絶対責任を維持する。このことは、怪我や損害賠償の責任を求める者は事業者の過失につき証明責任を負わないことを意味する。
②法案は、民事損害賠償額の上限を7,500万カナダドルから10億カナダドルに上限額を増額した。この新賠償額は現在の国際的な賠償額に相応する。
③法案は事業者のみが責任を負うと定める。この「絶対責任」かつ「排他的責任(exclusive liability)」原則 (筆者注12)は国民および該当産業界に対し明確かつ説明責任を確立する重要な原則である。
④新法案は、事業者に対し、従来の伝統的な保険付保という手段に加え、潜在的な財政責務能力を示すこと、またその他の形式で最高50%の金融安定化能力を示す方式を認める。
⑤政府は、損害賠償責任を負わない範囲で一定のリスクをカバーする責めを負う。すなわち、小型研究用原子炉などリスクの低い核施設等につい保障する。

○対応処置に対する改善
①新法案は、補償対象となる損害の範囲の定義を明確化する。すなわち、死亡を含む身体的損傷、身体的損傷に伴う心理的トラウマ、身体的損傷または財産的損失に伴う経済的損失、賃金等財産の運用にかかるコスト、権限を持つ監督機関により命ぜられた矯正手段に関する合理的な範囲のコストにおける環境面の損害、監督機関により命じられた予防・回避措置にかかる費用、などを明記する。
②新法案は、潜在的な病気等身体的な損傷にかかる補償請求時効期間に関し、現行10年間を30年間に延長する。なお、10年間の請求期間はすべての損害賠償請求期間として存続する。

○透明性の強化
①新法案は、賠償金支払請求の迅速化のため、一般司法裁判システムにかわる準司法請求審判所手続(quasi-judicial claims tribunal)の概要を明記する。
②新法案は、IAEAの原子力損害の補完的補償に関する条約(Convention on Supplementary Compensation for Nuclear Damage:CSC) (筆者注13)のカナダの批准を実装することになる。これを受け、カナダは同条約に調印し、2013年12月に議会に提出した。
③同条約は、条約批准国間で民事損害賠償を導き出す越境かつ輸送中の事故における原子力民事責任と補償に関する定めをおく。
④米国との原子力民事責任条約を結ぶうえで重要なものであり、両国はすでに条約関係国である。
⑤一度、条約は有効となると国内体制を財政面で補うことによりカナダの原子力民事責任体制を強化される。カナダは同条約はまだ有効ではない。40万メガワットの原発能力が取り付けられた国が少なくとも5カ国になった段階で有効となる予定である。条約の批准を検討中である日本や韓国が有効とすべく批准したときはカナダは批准することになる。

3.2015年.「原子力賠償責任法(Nuclear Liability and Compensation Act)(SC 2015、c 4、s 120)」の成立

Nuclear Liability Act (R.S.C., 1985, c. N-28)に代わる原子力施設にかかる賠償責任の法律で,2015年2月26日可決された。原子力事故の場合の民事責任と損害賠償に関する法律で、1985年原子力賠償法を廃止し、他の法律を結果的に改正するもの。2015 年カナダ法第 4 章第 120 条により制定され、2017 年 1 月 1 日に発効した。

 

【要旨】

 この法律は、原子力事故の場合の民事責任と損害賠償に関する規定を定める。 特に、この法律は、原子力事故に起因する損害に対する補償および民事責任制度を強化し、「原子力施設」を指定する原子力事業者の損害賠償責任を 7,500 万カナダドル(約85億900万円)から 10 億カナダドル(約113億4500万円)に増額し、それぞれの賠償責任額は、原子力施設以外の者が負うことのできないものとしている。 事業者は、損害を引き起こし、本法に基づいて責任を負う原子力事故についてカナダ国民に対して責任を負うものとした。 なお、本法は原子力施設として指定された原子力施設にも適用される。 これらには、原子力発電所、核研究用原子炉、核燃料廃棄物やその他の放射性廃棄物の管理に使用される核物質処理工場施設が含まれる。 ただし、この法律は、ウラン鉱山、天然ウランを使用する製油所、病院の原子力研究所などの施設には適用されない。法文は 80 のセクションで構成されている。

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(筆者注1) 法案C-22の審議経緯の詳細は、公式法案トラッキングサイト”LEGISinfo”で確認されたい。

(筆者注2)mirror legislation”とは、連邦法とほぼ同一内容の州法を制定する手続きをいう。

(筆者注3) 3月4日、英国会計検査院(NAO)は、英国議会・決算委員会に対し、英国の最大かつで最も危険・有害な核廃止施設であるセラフィールド・サイト(Shellafield site)の管理問題につき核物質の廃棄および清浄化の進捗の範囲等について最新状況を報告した。」
 なお、英国の核物質廃棄企業6社の統括団体であるNDA(Nuclear Decommissioning Authority)の概要を補足する。NDAの解説サイトの内容から一部抜粋する。
「英国原子力廃止措置機関(NDA)は、英国の19カ所の指定民間公共セクターの原子力発電所に対して安全かつ効果的に廃止措置(デコミッショニング)及びクリーンアップを行うことを保証するため、2004年英国エネルギー法の下に設立された英国政府の外郭団体(NDPB)です。19カ所の発電所は、NDAとの契約に基づき、それぞれが6つのサイトライセンス会社(SLCs)のうちの1社によって運営されています。SLCsは日々の業務及びサイトプログラムの提供に責任を負っています。」SLCsのうち1社がセラフィールド株式会社である。
「セラフィールドのサイトは1940年代から運転されており、世界初の商業原子力発電所、コールダーホールの故郷です。現在、このサイトは不要になった建物の廃止措置、使用済み燃料の管理(マグノックス炉及び酸化物燃料再処理施設と協力)、及び安全管理と核廃棄物の貯蔵を含む幅広い原子力関連業務を行っています」

(筆者注4) わが国の「原子力損害の賠償に関する法律(原賠法)」と「原子力損害賠償補償契約に関する法律(補償契約法)」の内容を概観する。なお、詳細については文部科学省の図解解説サイト「我が国の原子力損害賠償制度の概要」が分かりやすい。
○原子力事故による被害者の保護等を目的に策定された。原賠法では、原子力事故における原子力事業者の「無過失責任」、「責任の集中」及び「無限責任」の原則により、原子力事業者が全面的にその賠償責任を負うこととしている。しかし、異常に大きな天災地変や戦争などの社会的動乱による原子力事故は、賠償責任の対象から除かれる。また、原子力事業ごとの事故の賠償措置額を定め、原子力事業者が民間の「日本原子力保険プール」と賠償措置額を保証する保険契約を結ぶことを定めている。保険では埋められない損害を補償するため、補償契約法は事業者と政府が賠償措置額を上限とする補償契約を結ぶことを定めている。損害賠償の紛争は、原賠法によって設置される原子力損害賠償紛争審査会を通じて和解が図られる。福島第一原子力発電所事故の発生を契機に、原子力事業者が損害賠償するために必要な資金等に関する業務を速やかに処理し、損害賠償を迅速かつ適切に実施するため、平成23年9月に原子力損害賠償支援機構が設立され、賠償支援に係る業務を実施している。

(筆者注5) わが国の原子力事業者は原子力損害に対する無過失責任を負っているが、原子力賠償法第3条第1項但書きは、以下の事由による原子力損害については原子力事業者を免責としている。政府の基本的な説明文を引用する。
(1)賠償責任の厳格化
被害者保護の立場から、原子力事業者の責任を無過失賠償責任とするとともに、原子力事業者の責任の免除事由を通常の「不可抗力」よりも大幅に限定し、極めて異例な事由に限るという意図で、上記二つ(異常に巨大な天災地変、社会的動乱)のみを免責とした。
(2)自然災害の取扱い
 「異常に巨大な天災地変」にあたらないものは、原子力事業者の責任となるが、事由により以下のとおり区分される。
① 地震・噴火・津波→政府補償契約でカバー
② ①以外の事由(洪水、高潮、台風、暴風雨等)→民間損害保険会社の賠償責任保険でカバー
海外立法と比較するとこの第1号の免責事由については、大いに議論がある点である。政府の説明では、事業者の責任範囲が極めて限定されているが、政府の補償、保険会社の補償で海外の国際的水準には見合っていると述べている。
しかし、わが国内閣府原子力委員会の厳格なチェック機能を前提とした賠償制度が果たして十全な制度といえるか、ここでは詳しく論じないが、例えば次の論文などが参考になろう。
・立命館大学 経済学部教授 久保壽彦「原子力損害賠償制度の課題」
・2014年3月日本エネルギー法研究所「原子力損害賠償制度に関する今後の課題 東京電力(株)福島第一原発電所事故を中心として-平成23~24年度 原子力損害賠償に関する国内外の法制検討班報告書-」(全235頁)

(筆者注6)「絶対責任(absolute liability)」と「厳格(無過失)責任(strict liability)」の法的意義の相違については中央大学・総合政策部の平野晋教授が 法と経済 ロー&エコノミックス「厳格(無過失)責任」で説明されているが、専門家外には明らかに説明不足である。

(筆者注7) エネルギー事業者における対処内容の透明性(transparency)は極めて重要であることはいうまでもない。一方、最近時改めて問題となった東京電力福島第1原発で、放射性物質を含む雨水が排水路を通じて外洋に流出していたことが明らかになった。排水路を通じた流出は2011年3月の事故発生直後から続いていたとみられるが、東電の対応は後手に回っている等の記事を読むたびにこの問題の重要性が再認識される。

(筆者注8) 汚染者支払原則(pollutter pays principle)とは次をいう。
PPP(Polluter-Pays Principle:汚染者負担原則)とは、汚染者が汚染防止費用を負担すべきであるという考え方です。1972年5月のOECD理事会が採択した勧告「環境政策の国際経済面に関するガイディング・プリンシプル」の中で提唱されました。例えば、工場での生産により有害物質を排出する場合、その有害物質は当該工場の責任において処理されるべきだというものです。(Sustinable Japanサイトから引用)

(筆者注9)英米法にいう”negligent”や”fault”の概念につきあえて補足する。”negligent”は過失((人/物に損害を及ぼす状況下で然るべき「注意(care)」を欠くことをいう。「注意の欠如」には不注意にことをなした場合もなすべきことをなさなかった場合も含まれる。この説明では分かりにくい点があろう。
Find Lawの過失に関する解説をもって補足する。
・過失訴訟で原告が勝つために主張すべき要素は次の5つである。
①被告が原告に負う注意義務
②当該義務の不履行
③被告の行為と結果として起こる実際の被害の原因の関係
④その被害が予測できた同化に関係する近因
⑤被告の行為から結果的に導き出される損害

(筆者注10)信用状決済とは、国際貿易において、輸入業者が相手国の輸出業者に対して発行するもので、信用状に書かれた条件を満たせば、銀行がその輸出業者に対して代金支払いを保障するもの。つまり、輸入業者と輸出業者がお互いに決済について不安をもっているとき(もしくは信頼しきれないとき)にこのL/C決済がよく使われる。

(筆者注11)カナダにおけるオフショア石油施設委員会はノヴァスコシアを例に補足する。
「カナダ-ノヴァスコシアオフショア石油施設委員会(CNSOPB)は、ノヴァスコシアオフショアにおける石油削削活動の規制・監督に関して責任を有するカナダの連邦政府とノヴァスコシア州の独立した共同運営の機関である。1988年カナダ-ノヴァスコシア・オフショア石油資源合同適用法に基づき、1990年に設立された。」

(筆者注12)「排他的責任」の法的定義についてここでは詳しく立ち入らないが、原子力発電事業者等いわゆるoperatorの厳格な責任を定めるもので国際的に基準となることは間違いない。世界原子力協会(World Nuclear Association)の解説サイト”Liability for Nuclear Damage”を参照されたい。

(筆者注13) CSCは、IAEAの統一的な国際原子力損害補償制度で、ウィーン条約もしくはパリ条約に加盟している国、またCSCの付属書と整合性の取れた国内法を有する国であれば加盟できるものである。このような行動は、発電所の運転中、および越境輸送中の世界的な補償及び責任制限を確実にするために極めて重要な国際条約関係を可能とする。(2013年1月16日わが国の原子力委員会「原子力発電所輸出者のための行動原則」から一部抜粋)。

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