【はじめに】
去る9月9日にオランダ銀行協会が銀行上級役職員の固定給や賞与についてコンプライアンスを前提とする行動規範を策定した旨公表したとわが国のメデイアも報じた。筆者は実は2009年春にこの問題につきブログ原稿の下書きを作成していたが多忙のため棚上げになっていた。
しかし、今回のオランダ銀行協会等の動きの背景にある金融先進国の動向はわが国の金融監督機関行政や金融機関としても無視しえない経営上重要な問題を含んでおり、そのためには正確な情報提供が不可欠と考え急遽取り纏めたものである。後日あらためて最新情報に基づきより詳細なレポートをまとめるつもりである。
【要旨】
2009年2月5日付日本経済新聞は、米国オバマ大統領とガイトナー財務長官が資本注入など公的支援を受けている金融機関の経営者層の年間総報酬を50万ドル(約4,500万円)に制限する旨報道した。
筆者の手元の資料に基づき正確に言うと、2月4日に連邦財務省およびホワイトハウスは金融危機のため政府から支援の内容により2つに区分した「役員報酬規制ガイドライン」(筆者注1)を発布した旨リリースしている。米国の「2008年緊急経済安定化法(Emergency Economic Stabilization Act of 2008:EESA)」に基づく財務省を中心とする各種施策のうち、同省は2008年10月30日に不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program)下における資本注入プログラム(Capital Purchase Program) (筆者注2)の適用金融機関の経営責任を問うため役員報酬制限に関する連邦暫定最終規則(October Interim Final Rule:31 CFR Part 30)を公表した。さらに本年1月16日には、役員報酬に関する報告および記録に関する規定等を同規則に追加している。
その後、AIGが連邦政府から総額約1,735億ドル(約16.7兆円)巨額の公的資金を投入、その見返りとして政府は同社の株式の8割を保有するという状況下でニューヨーク州のクオモ司法長官(Andrew M. Cuomo)が調査した結果、破綻原因を作った金融子会社の上級幹部等にボーナスを計1億6,500万ドル(約158億円)支給していた事実が明らかとなった。
さらに銀行の役員報酬に関しガイトナー長官は2009年5月20日連邦議会の銀行委員会において証言「Statemnt by Timothy F. Geithoner U. S. Secetary of the Treasury before the Sanate Banking Committee May 20,2009」を行っている。
同年6月10日財務省は「役員報酬およびコーポレートガバナンスに関するTARP暫定基準規則(Interrim Final Rule on TARP Standards for Compensation and Corporate Governance)」を公表した。
わが国では欧米金融機関の役員報酬規則やガイドラインの詳しい内容はほとんど報じられていないが(筆者注3)、納税者(taxpayer)たる国民を納得させるには必須のものと言えよう。また、3月3日付けのウォールストリート・ジャーナルはバンク・オブ・アメリカが2009年1月1日にメリル・リンチの買収の直前にメリル幹部に現金や株式で約10億円以上のボーナスを受けとった上級役員が11人、約3億円以上が149人いると具体名をあげて報じている。(筆者注4)
一方、米国以上に金融危機の深刻化が進んでいるEU主要国とりわけ英国やドイツ、オランダ、フランス、スイスの役員報酬問題はどうなっているのか。手元の資料で見る限り米国に比べ政府自体の姿勢も曖昧な点が気になっていたが、2月25日に欧州委員会は金融機関と市場の監督強化による金融危機の再来を防止するため、専門家グループによる31項目からなる勧告(recommendations)をとりまとめ公表した。同勧告は、(1)EU加盟27か国のための投資ファンドに関する共通ルールの策定、(2)株主保護およびEUの金融部門の危機管理システムの確立という観点に則し銀行員のボーナス支給額に上限(キャップ)を設けるといった内容が含まれている。
さらに9月4日、5日にロンドンで開催された20か国国・地域(G20)の財務相・中央銀行総裁会議が金融持株会社やグローバル金融グループ、金融機関の上級経営者、インベストメント・バンカーやトレーダー(筆者注5)に対する長期的視点に立った業績報酬といった報酬規制の国際的基準の必要性を共同声明に盛り込んだ。
これと時期を同じくして9月9日にはING等金融大国であるオランダ銀行協会、財務省が銀行上級役員等の固定給や賞与について銀行免許に従い、オランダ国内だけでなく、EU加盟国等における具体的行動規制を盛り込んだ全役職員が遵守すべき行動規範(Banking Code)を公表した。(筆者注6)
また、英国では個別金融機関の役員報酬問題から金融監督機関である金融サービス機構(FSA)(筆者注7)(筆者注8)の経営層や事務スタッフの報酬引上げ問題も話題となっている。
わが国でも、地域金融機関等の経営悪化の状況は今後より具体的なかたちで問題視されるであろうが(3月13日に金融庁が公表した第二地銀3行に対する資本参加等)、国民の多くが生活の危機的状況下にあるなか、政府や監督機関はより透明な経営を実現すべくその機会を積極的に広げるべきであろう。(筆者注9)
今回のブログは、(1)米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要、(2)EU、スイス、オランダや英国の主要金融機関における役員やスタッフの報酬プログラムの具体的見直しの状況、および(3)各国政府の取組み姿勢等について最新資料に基づき解説する。
1.米国財務省の役員報酬規制ガイドラインの概要
〔2月4日付財務省リリースの要旨〕
(1)2月4日、財務省は現在の金融危機の解決を目指して米国政府から公的支援を受けている金融機関の役員報酬に関する新たな規制ガイドラインを公表した。そこに盛り込まれた諸施策は、公的資金が不適切に個人の所得に向けられることなくわが国の金融システムを安定化させることにより経済全体を強化するという公益目的のみに向けられるよう設計されている。すなわち、これら諸施策は金融界のトップ経営者の報酬が密接に株主や金融機関の利益と調整されるだけでなく、公的支援の最終的スポンサーである納税者との調整を行うものである。
(2)本ガイドラインは「一般的に利用される資本入手プログラム(generally available capital access program)」と特に金融機関が必要とする場合の「例外的支援プログラム(exceptional assistance)」の2つに区分する。前者は金融機関が受け取る金額限度と納税者への特定の返還方法はすべて同一である。また、本プログラムの最終目標は、中小企業や家庭等への融資において重要な役割を果たす比較的小規模の地域銀行に資金を提供することで、経済回復に必要な信用供与の支援を金融システム全体に保障するものである。従来、政府が発表してきた金融安定化策資本注入計画(不良資産救済プログラム(Troubled Asset Relief Program:TARP )がその例である。
一方、後者は標準的な支援以上のものを必要とする金融機関に対するものであり、同支援基準のもとで支援を受ける銀行は特に財務省との間で交渉結果を踏まえた協定を結ばなければならない。後者の例としてはAIG、バンクオブアメリカ、シティとの取引を含む。
Ⅰ.役員報酬規則の遵守とCEOによるその証明義務
政府の支援を受ける全金融機関は、役員報酬規則の遵守を確実なものとしなければならない。いかなる形式であれ支援を受ける全金融機関のCEOは、法令、財務省、契約上の役員報酬を厳格に遵守していることについて毎年証明することが義務づけられる。さらに政府支援を求める金融機関の報酬決定委員会(compensation committee)は上級役員報酬の調整について過剰かつ不要なリスク負担を負わないよう説明した資料の提出が義務化される。
Ⅱ.役員報酬に関する今後(筆者注10)強制される条件
A.例外的資金支援を受ける金融機関の場合
①従来の規制プログラムは、支援を受けている金融機関における上級役員に対する譲渡制限付株式以外の総年間報酬が50万ドル以上の者に対し、税控除措置(tax deduction)(必要経費としての計上)を禁止している。改正ガイドラインは、同制限を発展的に撤廃し、譲渡制限株式(Restricted Stock)(筆者注11)以外(cashによる報酬)について50万ドル以下に制限するという内容である。具体的には次のような内容が新たに課される。
②上級役員への追加的支給は、如何なる場合でも譲渡制限株式によるものでなければならず、当該株式は、政府支援債務を完済した場合にのみ譲渡制限が解除される。例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員に対する50万ドルを超える報酬は、譲渡制限株式または他の類似の長期的奨励手段によらなければならない。譲渡制限株式を受取る上級役員は、政府に支援金を返済した後(この返済には、契約に基づく配当金の支払いを含み、当該配当金で納税者の現在価値が保証される)か、または一定の期間(金融機関が、どの程度返済義務を果たしているか、納税者の利益がどの程度保護されているか、また貸出・安定化の基準がどの程度満たされているか等について検討のうえで定められる一定の期間)が経過した後のみ現金化することができる。
譲渡制限株式を利用することによって、例外的資金支援を受けている金融機関の上級役員には、納税者にかかるコストを最小化するとともに、株主の長期的利益になるように努めようとする動機が働くことになろう。
③役員報酬の体系と戦略は、完全に情報開示されなければならず、また「法的拘束力のない投票権(“Say on pay” resolution)」に従うものとする。この“Say on pay”とは、経営者の報酬を株主総会の議案として株主の「賛否」を問うものである。 上級役員の報酬体系およびその報酬が健全なリスク管理と連動しているかについての合理性を説明した資料が、拘束力のない株主決議において承認されなければならないとするものである。ただし上記の通り、この決議は“advisory voting”つまり勧告的決議で可決したとしても経営者を法的に拘束しない(現在の制度には、株主の拘束力のない決定権条項はない)。(筆者注12)
④賭け的経営行為に関与した経営トップの役員について、ボーナスといった報酬を条件付で減らす「条件付回収条項(clawback provision)」(筆者注13)の制定を求める。例外的支援の下での現行の制度では、 上位5人の上級役員にしかボーナス条件付回収条項は適用されない。今後は、例外的資金支援を受けている金融機関は、ボーナスに関し条件付回収条項を設けなければならず、また、当該機関の財務情報や自分自身の成功報酬を計算する上で必要な数値実績につき不正確な情報を提供したと後日判明した場合には、上位5人以下の20名の上級役員からも回収するという条項を設けなければならない。
⑤上級役員についてのゴールデン・パラシュート(Golden Parachutes)の禁止拡大
金融機関に例外的資金支援を認める現行制度は、解任に際し支払われる多額(平均年収の3年分)の割増退職金であるゴールデン・パラシュート(筆者注14)の受取りを、上位5人の上級役員について禁止しているが、それを上位10人の役員にまで拡大する。さらに、それ以下の25名の役員については、最低1年分の報酬を超える退職金を受け取ることを禁止する。
⑥金融機関の取締役会による特別に贅沢な支出の承認に関するポリシーを採択の義務化
政府から例外的資金支援を受ける金融機関は、航空旅客サービス、オフィスや事務所の改修、娯楽、休日のパーティおよび会議やイベント等に関し、すべての全社的ポリシーを策定しなくてはならない。なお、このポリシーは、会社の通常の業務に関係する販売会議や職員の教育、報奨金等企業の通常の業務運営上に必要な合理的支出を対象としたものではない。
こうした新しい規則は、これまでのガイドラインの規定範囲を超えるものであり、過度な支出や贅沢な支出と認められるものについては、CEOによる支出証明を求めることになる。また、金融機関は、ホームページ上でこれらの経費の支出に関するポリシーを公開しなければならない。
B.一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合
財務省は、将来の一般的に利用可能な資本入手プログラムに関連して求められる役員報酬について、パブリックコメントに付すこと条件として以下のような「ガイダンス(案)」を提案する予定である。
①上級役員の年間総報酬は、完全かたちでの一般公開し(Full Public Disclosure)また株主の投票により承認された場合を除き50万ドルを上限とする。
一般に利用可能な資本入手プログラムに参加する金融機関は、報酬内容の開示による50万ドルに加え譲渡制限株式の取得に関する規則につき、また要求された場合には、「法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)」に基づきその放棄をなしうる。
将来の資本入手プログラムに参加するすべてに金融機関は、上級役員およびその他の従業員について過度のかつ不要な危険負担を行わないよう、報酬協定(compensation arrangements)の理由を見直し、かつ開示しなければならない。
なお、現行の資本入手プログラムの下では、金融機関は上位5人の上級役員の報酬協定のみ過度かつ不要な危険負担を回避するための見直しや承認するのみでよかった。
②欺まん的不公正な慣行を行っているトップ経営者がいる場合のボーナスの「条件付回収条項」の適用
例外的資金支援を受ける金融機関に適用される「条件付回収条項」は、一般的資本支援を受ける金融機関にも等しく適用される。資本買取プログラム(Capital Purchase Program)の下で上位5人の役員に適用されていた「条件付回収条項」はさらに奨励金の支払計算に使用する財務諸表(financial statements)や業績評価指標(performance metrics)に関し、故意に不正確な情報を流したと認められる場合は5人に続く上位20人の上級役員に対しても適用される。
③上級役員に対するゴールデン・パラシュートに基づく支給の禁止
一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関の場合においても、ゴールデン・パラシュートに基づく支給禁止は強化される。すなわち現行は解任時に3年分の年間報酬が認められているのに対し、今後は上位5人の上級役員に対し1年分の報酬額以上のゴールデン・パラシュートに基づく給付は認められなくなる。
④贅沢な支出に関する取締役会の承認ポリシーの採択
本ポリシーは例外的資金支援を受ける金融機関向けのものであるが、同様のことが一般的に利用可能な資本支援を受ける金融機関にも適用される。現行の資本買取プログラムには贅沢な支出に関するガイドラインはまったく決められていない。
C.長期的観点に立った規制改革
報酬戦略は適切なリスク管理、長期的価値および企業の成長と並ぶものでなければならない。そのためには次のステップを踏まなければならない。
①公的金融機関は自身の報酬決定委員会において健全なリスク管理のための戦略の見直しとその開示が求められる。
財務省長官と証券取引員会委員長は、政府による支援を受けていない金融機関も含め、報酬決定委員会に対し、役員や一定以上クラスの従業員の関する報酬協定の見直しや開示について、健全なリスク管理の推進や自社および株主にとって長期的価値の創造との調和をいかに行うかにつき協調して取組なくてはならない。
②トップ経営者の報酬は長期的見通しを奨励するという観点が求められる。
この10年間、金融機関のトップ経営者はますます株主や経済全体のために長期的経済的価値の創造を見通すことに努めてきたというコンセンサスがある。
真剣に考慮すべき価値がある1つの考え方として、金融機関のトップ経営者は数年間株式を維持しさらに企業の長期的観点から経済的利益が得られると判断できるときに初めてそれを現金化すべきであるというものがある。
③役員報酬に関する法的拘束力のない投票権(Say on pay resolution)の行使
金融面の回復支援を受ける金融機関を以上に、金融機関の所有者である株主はいかに報酬報奨的な構造がリスク管理を推進させるというのと同様の意味で、役員報酬のレベル設定および経済全体としての長期的な価値の創造の双方の視点から法的拘束力のない投票権を行使すべきである。
④ ホワイトハウスと連邦財務省による長期的役員報酬のあり方に関するカンファレンスの開催
財務省長官は、役員報酬の改革問題につき、株主の擁護者、主な公的年金、機関投資家のリーダー、政策立案者、役員、学識経験者、その他を交えた会議のホストを務める予定である。また、金融機関の役員報酬に関し良き実践例やガイドラインの確立のためのモデル役員報酬発議に関する証言、コメントおよび白書を求める。
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(筆者注1)「経営者報酬ガイドライン」自体わが国ではなじみが薄い概念である。一方、わが国の銀行も含め経営の透明性の見る上で必須の要素であろう。その意味で本ブログの執筆中に見出した同ガイドラインに関する報告書「2007年度経営者報酬ガイドライン-報酬ガバナンスの確立を-」日本取締役協会(ディスクロージャー委員会)は海外と日本の役員報酬比較や動向も含め大変参考になった(内容から見て米国人材コンサルティング会社タワーズぺリンの寄与度が高いように感じられたが)。
なお、2007年10月1日の第一版経営者報酬ガイドラインは2021.3.12現在で見ることはできない。現時点では「2016 年度 経営者報酬ガイドライン(第四版)――経営者報酬ガバナンスのいっそうの進展を―― 」のみが閲覧可である。
(筆者注2) 米国経済・金融の課題は毎日報道されているとおり、実際、行政における混乱の程度はかなりひどいといえる。従って、財務省等による「役員報酬規制」問題に特化して見ても、連邦規則の内容は刻々と変化しており、次のような経緯・内容を正確に理解しておく必要がある。
(1)2008年10月14日連邦財務省は2008年緊急経済安定化法(EESA)に基づくその支援適用金融機関が遵守すべき「役員報酬」および「コーポレート・ガバナンス」に関する次の3基準を「財務省通達」のかたちで公表した。
①不良資産競売プログラム(Troubled Asset Auction Program):EESAに基づき財務省に3億ドル(約290億円)以上で不良資産を競売する金融機関は、ゴールデン・パラシュート条項を含む新たな上級役員との雇用契約の締結を禁止する。(財務省通達2008-TAAP)
さらに、EESA下で金融機関は50万ドル以上の役員の役員報酬の税控除措置(tax deduction)が禁止され、また一定のゴールデン・パラシュート報酬についても同措置を禁止、さらにゴールデン・パラシュート支給額に対し20%の消費税(excise tax)が課される。(内国歳入庁通達2008-94)
②資本買取プログラム:適用金融機関は、(ⅰ)金融機関自身の価値を脅かす不要かつ過度のリスクを行うことを上級役員に奨励するような報奨報酬を行わないこと、(ⅱ)後日実質的に不適切と判断された損益計算書等に基づく上級役員に支払われたボーナスや報奨の返還義務、(ⅲ)内国歳入庁規則に基づくゴールデン・パラシュート支給の禁止、(ⅳ)50万ドルを超える役員報酬の税額控除を行わない合意が求められる。
③業績悪化金融機関へのケースバイケースに応じたプログラム:前記②と同様であるが、ゴールデン・パラシュート支給に関してはより厳格な禁止規定が、設けられる予定である。
(2)2009年1月16日財務省は、役員報酬に関する報告および記録保存義務を追加した暫定最終規則を公表した。なお、財務省は役員報酬に関する連邦規則についてFAQを作成し公表している。
今回の規則により金融機関のCEOは、毎年、事業年度終了後135日以内に今回の役員報酬基準を遵守しているかにつき認証を行うことが求められ、さらに買取対象金融機関と財務省の間で結ばれる証券買取契約の手続完了日後、120日以内にCEOは報酬決定委員会がリスク担当役員とともに上級役員報奨報酬契約において不要かつ過度のリスクを勧めていないことを保証すべく見直したことについて認証することが求められる。CEOは、これらの結果を毎年TARPの主席法遵守担当官(TARP Chief Compliance Officer)に報告しなければならない。
また、当該金融機関はこれらの各認証後6年間実証結果の記録を保存するとともにTARPの主席法遵守担当官に当該記録を提供しなければならない。
(筆者注3)米国財務省のガイドラインについて、経済コラムニストの小笠原誠治氏が2009年2月5日のブログで翻訳されており、本ブログでも参考にさせていただいた。ただし、同氏のブログでは英国やドイツ等についての報告は行われていない。
(筆者注4)ニューヨーク州司法長官アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)は、今回のメリル幹部に対するボーナス支給が証券取引法違反に該当する点につき捜査を進めており、これに対しバンクオブアメリカ(BOA)は3月5日にマンハッタンのニューヨーク州最高裁判所に対しボーナス支給に関する元メリルリンチCEOジョン・セイン(John Thain)の内部通報に基づく証言について、その機密性に関する緊急機密性保護命令(temporary confidentiality order)を求めた。一方、同長官はこの申立を却下するよう同裁判所に申し立てている。
(筆者注5) “investment banker”とは「インベストメント・バンク」においてその主要業務につき各種ファイナンス、金融工学や運用技法および証券・法律・税等の知識・経験を用いた財務相談やM&A、法人・公的機関・資産家等に運用アドバイスを行う金融のプロを言う。「インベストメント・バンク」は「投資銀行」と訳されて「銀行」という言葉が入ってはいるが、個人向けの融資は行わない。“Investment Bank”という呼称は、個人などから預かった預金を元手に企業に融資を行う“ Commercial Bank”と区別するための用語である。商業銀行はその収益の大部分を主に企業に融資することにより発生する利息に依るのに対し、投資銀行の収益は株式や債券の資本市場における発行時に発行額に応じて徴収する手数料に依ることが特徴で、自らはバランスシート上に大きなアセットを有さないので「銀行」と訳されているが、むしろ「法人向け証券会社」にイメージが近い。主に、株式市場を通じた企業の資金調達や、M&Aコンサルティングを手がけている外資系の金融機関を指す言葉で、インベストメント・バンクには預金の受入れ等の商業銀行業務の兼業は、法的には認められていない。なお、日本にも、このような事業を営んでいる企業は数多く存在しており、その多くは証券会社が担っている。
歴史的にみると1990年代には高度な金融工学技術を駆使して複雑な企業合併や巨額の資金調達アドバイスを行えるゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーのような米系投資銀行に対して、日本の大企業や政府系機関が相談するようになり、日本で「投資銀行」「インベストメント・バンク」などの名称が知られはじめた。その後、不良債権処理やM&A仲介、債権の証券化などを手がけながら存在感を強め、2000年代に入るとインベストメント・バンクは一般的に認知されるようになった。
インベストメント・バンクの主要業務は、顧客企業に対する有価証券の発行による資本市場からのファイナンス、M&Aコンサルティング、財務分野では、各種保有資産の流動化による資金調達(不動産やローン債権の証券化等)、金利や為替等のデリバティブ(スワップやオプション取引等金融商品の価格変動リスクを回避し、低コストでの調達や高利回りの運用といった有利な条件を確保するために開発された取引)を用いた財務リスクヘッジなどがある。また、ノンリコースローンやプロジェクトファイナンス等の、企業やプロジェクトが将来生み出すキャッシュフローに依拠した融資判断を行う先進的な融資も行っている。
一方、インベストメント・バンクは、有価証券やデリバティブのトレーディング等も行う。投資顧問先やヘッジファンドなどのように、クライアント企業のために行うトレーディングや、自己勘定のために行うトレーディングがある。その責任担当者を”trader”と言う。
(SITE BANKのM&A辞典「インベストメント・バンク(Investment Bank)」解説から一部抜粋・追加。)
(筆者注6) オランダ銀行協会等が定めた規範の英文の原語は“Provisional Banking Code”である。わが国のメディアは行動規範と訳しているが正確には「倫理規範」の要素も含まれるといえよう。ちなみに世界的金融グループである“Deutche Bank”経営方針(日本語)を読んで欲しい。そこには倫理規範や行動方針の考えが明示されている。
(筆者注7)わが国では英国FSAは比較的多くの機会の紹介されている割には、その内容は正確でない。すなわち本文で述べたとおり、FSAの役員報酬がなぜ問題になるかはFSAの機能・組織論の理解なしには語れないのである。FSAは「2000年金融サービス市場法」に基づき設立された独立非政府機関たる保証有限責任会社(company limited by guarantee)である。「保証有限責任会社」とは営利を目的としない社団が法人格を取得する際に用いられる会社形態であり、Chairman(会長) が議長を務める取締役会があり、また業務執行の最高責任者CEOが置かれるなど民間事業会社と類似の組織を持つ。実際FSAサイトを見ると財務省が任命するFSAの取締役会のメンバーは会長(Adair, Lord Turner)、CEO(Hector Sants)、常務取締役3名(Sally Dewar、David Kenmir,Jon Pain)、非常勤役員(non-executive member)9名(Carolyn Fairbairn,Peter Fisher,Brian Flanagan,Karin Forseke,Sir John Gieve,Professor David Miles,Michael Slack,Hugh Stevenson,なお副議長であったSir James Crosbyは2009年2月11日に急遽辞任しており、現状は8名である)
(筆者注8) Sir James Crosbyの辞任報道に対する国民の関心は高い。彼は2008年9月18日にロイズ・TSBが買収した英国住宅金融最大手HBOSのCEOであった人物である。ガーデアン紙(電子版)、タイムズ・オンライン等によるとHBOSの世界的リスク管理部門長であったPaul Moore氏による内部通報に基づく議会下院特別委員会(select committee)の論議が辞任の引き金になったようであり、英国ゴードン・ブラウン政権はこのままでいくとますます混迷の度合いを深めていくようである。
(筆者注9) 最近時、わが国の金融機関においても役員退職慰労金を廃止し、株式報酬型ストックオプション(新株予約権)の導入が行われ、各金融機関のホームページへも掲載されている。しかし、UBS等の例に見るとおり、欧米の企業ではさらにストック・オプションから譲渡制限付株式報酬への移行も行われ始めている。
(筆者注10) 前記小笠原誠治氏もブログ(追記)で指摘されているとおり、「将来の(going forward)」という用語は問題である。この規制ガイドラインは今後の新たに適用される金融機関への規制ルールであってAIG、バンクオブアメリカ、シティには適用されないと読める。それでは、今回の規制強化は世論を無視した骨抜き対策としか言いようがなかろう。
(筆者注11) “Restricted Stock(RS)”とは、譲渡制限期間付きの株式を付与する報酬プランである。RSを付与された役員や従業員は、譲渡制限期間中に配当を受け取ったり、議決権を行使することができる。ただし、譲渡制限期間が終了する前に退職するとRSの権利を失う。・・・・・RSは、一般に役職員の引留め効果が高いといわれる。ストック・オプションでは、権利確定時の株価が行使価格を上回らないと無価値になるのに対し、RSでは株価が下がってもゼロにならない限り報酬金額はゼロにならない。(野村総合研究所「資本市場クォータリー2004年冬」より引用)
(筆者注12) “Say on Pay”の意義は大和総研の吉川満氏や鈴木裕氏のレポートを参考にした。このような新語については必ずしも法的に見た適切な訳語がないことが一般的であり、レポート作成者はその辺を慎重に配慮した内容の精査が求められよう。また米国企業の動向で内容を精査することも大事である。例えばアップルは2009年4月28日付けで「アップル、Form 10-Qを修正」と題するリリースを行い、その中で「アップル取締役会の報酬委員会は、これまでSay on Pay問題の動向を注視してきましたが、近い将来、新しい法律または規則によって、すべての上場会社において何らかのSay on Pay投票が必要とされるようになるものと予想しています。また、仮にそうならない場合でも、アップルは来年度、Say on Pay 勧告的決議の導入をいたします。」と述べている。
この点についてわが国のシンクタンクの解説例で見ると、みずほ総研『みずほ米州インサイト』2009年8月11日号西川珠子氏「米国における役員報酬規制強化~政府による金融支援対象企業から全上場企業に適用拡大へ~」2頁の“Say on Pay”の説明は「役員報酬に関する株主承認決議の義務付け」とのみで法的拘束力問題については言及していない。この新制度論議は十分米国内での議論されていないことも事実であるが、読者に正確なイメージを提供することが調査担当者としては必須であろう。特に西川氏のレポートはわが国では貴重なレポートだけに残念である(本注は筆者のこれまでの研究論文の査読経験から見た感想である)。
(筆者注13) “clawback provision”について、わが国では的確な訳語やまともな解説はほとんどない。筆者なりに解説を行っておくが、今回の金融危機を背景に欧米の金融機関における“clawback provision”の取組みや研究は進むであろう。
“Clawback Provision” とは、 日本語にすると「条件付回収条項」であり、ボーナスの一部は「人質」として差し押さえられていて、将来、会社にとって不利になるような取引に手を染めたり、会社の風評に傷つけたり、業績悪化を招くような仕事をした場合は、人質になっているボーナスは没収されるという条項である。“clawback provision”に合意しないとボーナスは払って貰えなくなる。
(筆者注14)“Golden Parachutes”に関する人事・経営面の解説を読んだのは経団連経済本部経済政策グループ?の藤原清明氏の論文が専門外の筆者にとって大変参考になった。
ただし原稿が未定稿と記されており気になって直接本人に照会したが、その後見直しは行っていないとのことであった。ここで補足すると、「ゴールデン・パラシュートとは、敵対的買収の標的にされた会社の経営陣が経営の座を譲り渡す代わりに多額(解任前の5年間の課税対象期間の平均年間報酬の3倍)の割増退職金を受け取る取り決めをさす。ハイジャックされた旅客機からパイロットだけが落下傘で脱出、そしてその落下傘は100ドル札を無数に貼って作られたものだった・・・。そんなイメージが浮かびやすい見事なネーミングである。」http://blog.livedoor.jp/blue_monday_777_3/archives/54860726.html他
〔参照URL〕
https://www.treasury.gov/press-center/press-releases/Pages/tg139.aspx
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/TreasuryAnnouncesNewRestrictionsOnExecutiveCompensation/
http://ec.europa.eu/commission_barroso/president/pdf/statement_20090225_en.pdf
http://business.timesonline.co.uk/tol/business/industry_sectors/banking_and_finance/article5721401.ece?&EMC-Bltn=MLWE7A
http://www.ubs.com/3/e?pg=1&or=r&lo=t&qt=2008+compensation+ceo
http://www.nvb.nl/scrivo/asset.php?id=291492
http://www.fsa.gov.uk/pubs/policy/ps09_15.pdf
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