Civilian Watchdog in Japan-IT security and privacy law-

情報セキュリティ、消費者保護、電子政府の課題等社会施策を国際的視野に基づき提言。米国等海外在住日本人に好評。

オンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化にかかるEUや主要国の最新立法の動向

2024-02-16 14:05:03 | SNSと言論の自由問題

  筆者の手元に、米国連邦議会の独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)(注1)から標記レポートが届いた。

 この問題は単にオンライン憎悪(online hate)と憎悪犯罪(hate crime)やヘイト・スピーチ(hate speech)の規制強化の問題ではない。先に筆者が論じたデジタル社会の法制整備の一環でもある。

 今般のGAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した

 はたして、わが国では立法問題だけでなく企業等のポリシー等の調査がはたして適正に調査したりしているのか、疑問が湧いた。

 今回のブログは、(1)GAOレポートの概要紹介、(2)最近時のEU議会や欧州委員会の法規制の取り組み、(3)米国、ドイツ、フランスの立法の動向と更なる課題について解説を試みる。

12024.1.12 GAO レポートオンラインの過激主義:インターネット上で発生する憎悪犯罪について、より完全な情報が必要」の仮訳

 (1)概況報告(Fact Sheet)

 GAOが調査した調査によると、近年、かなりの数のインターネット・ユーザーがオンラインでのヘイトを経験している。

 GAOの研究と政府の報告書は、オンライン憎悪(online ate)と憎悪犯罪(hate crime)(注2)との関連性を示している。 たとえば、査読済みの研究(peer-reviewed study)では、パンデミック中に米国の一部の都市で、無作法なインターネット・コメントとアジア人に対するヘイト・クライムが関連付けられていることが判明した。

 連邦司法省(DOJ)は、執行機関から憎悪犯罪に関するデータを収集している。 司法省はヘイト・クライムの推定に全国世帯調査も行っているが、ヘイト関連のサイバー犯罪については調査対象でない。 ヘイトク・ライムをより深く理解し、対処するために、このデータを入手する方法を検討することを勧める。

【ハイライト】

*GAOが明らかとしたこと

 連邦司法省 は、次の 2 つの統計プログラムを使用して、ヘイト・クライム (例:人種、民族、性別、性同一性(gender identity)、宗教、身体障害、または性的指向に基づく偏見の証拠を示す犯罪等) に関するデータを収集している。

 連邦捜査局 (FBI) の「統一犯罪報告プログラム(Uniform Crime Reporting Program)」は、インターネット上で発生する憎悪犯罪を含む憎悪犯罪データを法執行機関から収集している。

 連邦司法省・司法統計局(Bureau of Justice Statistics:BJS)は、毎年実施する全国世帯調査「全国犯罪被害調査」を利用して、法執行機関に報告されたヘイト・クライムと報告されていないヘイト・クライムの蔓延の推定値を算出している。 ただし、BJS の調査は、インターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータを収集していない。

 「2022 年サイバー犯罪サイバー犯罪のより良い数値基準法(2022 Better Cybercrime Metrics Act)」では、BJS に対し、調査にサイバー犯罪被害に関する質問を含めることを義務付けている。BJS は、インターネット上の偏見に基づく被害を測定する 1 つの方法を調査する研究に資金を提供した。

 しかし、この調査では、対面でのヘイト・クライムを測定する方法と同様のアプローチなど、他の方法は検討されていない。 全国犯罪被害調査や補足調査でインターネット上の偏見に関連した犯罪被害を測定するための他の選択肢を模索することは、FBIのデータを補完し、司法省が憎悪の影響を受けるコミュニティを特定して支援を提供するのに役立であろう。

 GAO の調査によると、選ばれた 6 社すべてが、人種や宗教などの実際の特徴または認識されている特徴に基づいて、自社ポリシーでヘイト・スピーチまたは人々に対する暴力的過激主義を促進していると定義しているコンテンツを削除するために何らかの措置を講じていることが判明した。これら企業のデータによると、2018 年から 2022 年までに削除されたヘイト・コンテンツの量は、運営するプラットフォームによって異なった。これは、企業によるヘイト・コンテンツの定義と関連ポリシーのばらつきが部分的に原因であった。

インターネット上で発生するヘイト・スピーチ

 GAO調査によると、インターネット ユーザーの最大 3 分の 1 が、インターネット上でヘイト スピーチを経験したと報告しており、インターネット上でヘイト・スピーチや過激なスピーチを投稿するユーザーは、インターネットがヘイト・デオロギーの拡散に役立っているためにそうしている可能性があった。

 さらに、GAO調査や政府の報告書は、インターネット上のヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの関連性を示している。 たとえば、ある査読済みの調査研究では、インターネット上の非礼なコメントと、米国の一部の都市におけるアジア人に対するヘイト・クライムとの間に関連性があることが判明した。 また、国土安全保障省(DHS)とFBIは、インターネットは、より大規模な暴力的過激派組織の支援なしに、個人が自己過激化し、単独犯による攻撃を行う機会を生み出したと報告した。

GAO がこの調査を行った背景・理由

 FBI に報告されたデータによると、米国では、ほぼ毎時間ごとにヘイト・クライムが発生している。最近のヘイト・クライムの調査では、インターネット上のヘイト・スピーチへの暴露が被害者に対する攻撃者の偏見に寄与した可能性があることが示唆されている。 2021年、FBIはヘイト・クライムを国内の暴力的過激主義の防止と同じ国家的脅威の優先順位に置いた。

 GAOは、インターネット上のヘイト・クライムとヘイト・スピーチに関する情報を調査するよう連邦議会から依頼された。この報告書は、(1) 司法省がインターネット上で発生するヘイト・クライムに関するデータをどの程度収集しているか、(2) 選ばれた企業がインターネット・プラットフォームからヘイト・スピーチや暴力的過激派の言論を削除するために講じた措置についてどのような企業データが示しているか、および( 3) インターネット上でのヘイト・スピーチに関するユーザーの経験や表現、ヘイト・クライムや家庭内暴力的過激主義との関係についてわかっていることを論じた。

 GAOは米国のヘイト・クライムデータを分析し、連邦司法省職員にインタビューした。 GAOはデータを分析し、ヘイトや暴力的な過激派の言論を禁止する公的ポリシーを定めたインターネット・プラットフォームを運営する厳選された6社の関係者にインタビューした。 GAOは、インターネット上のヘイト・スピーチ、ヘイト・クライム、国内の暴力的過激派事件について記述した査読付き(peer reviewed)の非営利研究を評価した。

2.米国連邦法のヘイト・クライムに関する従来の立法措置

(1)1968 年の法律「公民権法Civil Rights Act of 1968」P.L.90-284)の第Ⅰ編Title I: Hate crimes(18 U.S. Code § 249 - Hate crime acts)は、人種、肌の色、宗教、国籍を理由に、またその人が公教育など連邦政府によって保護されている活動に参加していることを理由に、雇用、陪審員サービス、旅行、公共宿泊施設の利用、または他人のそれを助けることは、いかなる人に対しても故意に干渉するために武力を行使する、または武力を行使すると脅すことを犯罪とした。同法の各権利の内容を解説から以下のとおり、抜粋する。

TITLE I--VOTING RIGHTS

TITLE II--INJUNCTIVE RELIEF AGAINST DISCRIMINATION IN PLACES OF PUBLIC ACCOMMODATION

TITLE III--DESEGREGATION OF PUBLIC FACILITIES

TITLE IV--DESEGREGATION OF PUBLIC EDUCATION

TITLE V--COMMISSION ON CIVIL RIGHTS

TITLE VI--NONDISCRIMINATION IN FEDERALLY ASSISTED PROGRAMS

TITLE VII--EQUAL EMPLOYMENT OPPORTUNITY

TITLE VIII--REGISTRATION AND VOTING STATISTICS

TITLE IX--INTERVENTION AND PROCEDURE AFTER REMOVAL IN CIVIL RIGHTS CASES

TITLE X--ESTABLISHMENT OF COMMUNITY RELATIONS SERVICE

TITLE XI--MISCELLANEOUS

 その後の同法の解釈を巡る追加立法、改正の経緯をまとめたサイト(Civil Rights Act of 1866 & Civil Rights Act of 1871 - CRA - 42 U.S. Code 21 §§1981, 1981A, 1983, & 1988)がある。(TITLE 42 - THE PUBLIC HEALTH AND WELFARE CHAPTER 21 - CIVIL RIGHTS)

1981条    Equal rights under the law.                      

1981a条   Damages in cases of intentional discrimination in employment

1983条    Civil action for deprivation of rights.          

1988条    Proceedings in vindication of civil rights.    

 1988 年には、家族状況と身体障害に基づく保護規定が追加された。1996 年には、連邦議会は「教会放火防止法 (合衆国法典: 18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs) 」を可決した。この法律の下では、州際通商に影響を与える状況において、宗教/的不動産を汚損、損傷、破壊すること、あるいは個人の宗教的実践を妨害するとは犯罪であるとした。また、同法は宗教的財産に関係する人の人種、肌の色、民族性を理由に、宗教的財産を汚損、損傷、破壊することを禁じている。

(2)米国の近年のヘイト犯罪に関する法律

 連邦司法省が近年のHate Crime Laws一覧とリンクがまとめている。

以下で抜粋、仮訳する。

1.連邦により保護される諸活動保護法(18 U.S.C.§245 - Federally protected activities)

 人種、肌の色、宗教または民族的出自を理由に、連邦により保護される 6 つの行為について、その行為者に暴力または暴力の威嚇(暴力の行使を告知して威嚇すること)により、故意に傷害を与え、脅迫し、または妨害すること及びその未遂を禁ずる。

  1. B. The Public Health and Welfare § 3631. Violations; penalties (42 U.S.Code.§3631)

 法律に基づいて行動しているかどうかにかかわらず、武力または武力による脅迫によって、故意に傷害、脅迫、妨害を行った者、または傷害、脅迫、妨害を試みた者は誰でも、公正住宅権の妨害罪となる。

1.宗教関係財産等への損壊罪法(18 U.S. Code § 247 - Damage to religious property; obstruction of persons in the free exercise of religious beliefs)

 米国における宗教表現の自由と同様に、宗教施設は意図的な損害から保護されている。このため、連邦政府は宗教財産への損害を米国法第 18 編 247 に基づくヘイト・クライムと認定した。

 関係する状況、被害の深刻さ、犯罪の過程で誰かが負傷した場合、その刑罰は1年から40年の拘禁刑が科される可能性があり、または殺害された場合、裁判官はさらに死刑を科す可能性がある。

1.1990年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)統計法(Hate Crime Statistics Act of 1990) 28 U.S.Code §534 noteAcquisition, preservation, and exchange of identification records and information; appointment of officials )ヘイト・ライムの発生状況や発生場所を把握し、再発防止のために連邦政府がデータ収集を行うことを定めた法律。

34 USC 41305: Hate crime statistics 2024.2.12により改正法が行われた。

 E.1994年ヘイト・クライム(憎悪犯罪)量刑強化法(Hate Crimes Sentencing Enhancement Act of 1994)」(H.R.1152)ヘイト・ライムを行った加害者に対して、通常の犯罪の刑罰より、厳しい罰則を適用する法律。

F地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助法(42 U.S.C.§3716, 3716a)

42 U.S.Code §3716を仮訳する。

§3716: 州、地方、部族の法執行官による犯罪捜査と訴追のサポートに関する規定

(a) 資金援助以外の援助

(1) 一般

 州、地方、または部族の法執行機関の要請に応じて、司法長官は、犯罪捜査または犯罪の訴追において、技術的、フォレンジック的、検察的、またはその他の形式の支援を提供することができる。

(A) 暴力犯罪を構成する場合。

(B) 州法、地方法、部族法に基づく重罪に該当する場合。

(C) 被害者の実際のまたは認識されている人種、肌の色、宗教、出身国、性別、性的指向、性自認、または身体障害に基づいた偏見によって動機付けられている場合、または州、地域または部族のヘイト・クライムに違反している場合 。

(2) 優先順位

 第 1 項(一般)に基づく支援を提供する際、司法長官は、複数の州で犯罪を犯した犯罪者による犯罪、および犯罪の捜査または訴追に関連する特別な費用を賄うことが困難な地方の管轄区域を優先するものとする。

(b) 助成金

(1) 一般規定

 連邦司法長官は、ヘイト・クライムの捜査と訴追に関連する特別な経費のために、州、地方、部族の法執行機関に助成金を与えることができる。

(2) 司法省のプログラム

 このサブセクションに基づく助成金プログラムを実施するにあたり、司法省プログラムは助成金受領者と緊密に連携し、コミュニティグループや学校、大学を含むすべての影響を受ける当事者の懸念とニーズが、このサブセクションに基づいて開発された地域インフラを通じて確実に助成金に対処されるようにするものとする。

(3) 申請手続

(A) 一般規定

 本項に基づく助成金を希望する各州、地方、部族の法執行機関は、司法長官が合理的に要求する情報を添付または含む方法で、その時点で申請書を司法長官に提出するものとする。

(B) 提出日

 サブパラグラフ (A) に従って提出される申請は、司法長官が指定する日付から 60 日間の期間内に提出されるものとする。

(C) 要件

 このサブセクションに基づいて助成金を申請する州、地方、および部族の法執行機関は、次のことを行うものとする。

(i) 助成金が必要とされる特別な目的を説明する。

(ii) 国家、地方自治体、またはインディアン部族にはヘイト・クライムの調査または訴追に必要なリソースが不足していることを証明する。

(iii) 補助金の実施計画を策定する際に、州、地方、部族の法執行機関が、ヘイトク・ライムの被害者にサービスを提供した経験のある非営利、非政府の被害者サービスプログラムと協議し、調整していることを証明する。

(iv) 本項に基づいて受領した連邦資金は、本項に基づいて資金提供される活動に利用できる非連邦資金に取って代わるのではなく、補完するために使用されることを証明する。

(4) 締切日

 本項に基づく補助金の申請は、連邦司法長官が申請を受領した日から 180 営業日以内に連邦司法長官によって承認または拒否されるものとする。

(5) 助成金額

 このサブセクションに基づく助成金は、単一の管轄区域に対して 1 年間で 100,000 ドル(約1,510万円)を超えてはならない。

(6) 報告書

 連邦司法長官は、遅くとも 2011 年 12 月 31 日までに、本項に基づいて提出された補助金の申請、そのような補助金の授与、および補助金の支出目的を記載した報告書を議会に提出するものとする。

(7) 歳出の認可

 2010 年、2011 年、および 2012 年の各会計年度に、このサブセクションを実行するために 5,00万 ドル(約755億円)が割り当てられることが承認されている。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4704、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2837参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路のタイトル I の一部として制定されたものではない。

連邦司法局の助成プログラム - 42 U.S.C. § 3716a (2012)

 以下、42 U.S.C. § 3716aを仮訳する。

(a) 補助金を与える権限

 連邦司法省の司法局プログラムは、連邦司法長官が定める規制に従って、ヘイト・クライムの特定、捜査、訴追、防止に携わる警察官に対し、地方の法執行機関を訓練するプログラムを含む、少年による憎悪犯罪と闘うことを目的とした州、地方、または部族のプログラムに助成金を与えることができる。

(b) 支出の認可

 このセクションを実行するために必要な金額が割り当てられることが許可される。

(Pub. L. 111–84、div. E、§4705、2009 年 10 月 28 日、123 Stat. 2838参照)

【法典化】

 このセクションは、「マシュー・シェパードおよびジェームス・バード・ジュニア憎悪犯罪防止法」の一部として、また 2010 年度の国防権限法の一部として制定されたものであり、1968年オムニバス犯罪規制および安全な街路法のタイトル I の一部として制定されたものではない。

G.「マシューシェパードとジェームズバードジュニアのヘイト・クライム憎悪犯罪防止法(Title 18, U.S.Code §249 - Matthew Shepard and James Byrd, Jr., Hate Crimes Prevention Act)」

 連邦議会で、 2009年10月22日に可決され、2009年10月28日にオバマ大統領によって2010年の国防権限法の上乗せ法案(National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2010/Division E) (HR 2647)に署名された。 1998年のマシューシェパードとジェームズバードジュニアの殺害への対応として考案されたこの法案は、1969年の米国連邦ヘイト・クライム法を拡大したもので、州、地方及び部族当局が行うヘイト・クライムの調査、訴追への技術的・資金的援助を規定するものである。

3.EUで進むオンライン・ヘイト・スピーチ規制議論と立法化

 ICT Global Trendの解説から一部抜粋する。なお、法律等の原本へのリンクや注書きは筆者が独自に行った。

 欧州委員会は2016年に「オンライン上の違法ヘイト・スピーチに対抗する行動規範(Code of Conduct on countering illegal hate speech online)」を策定するなど、長年に亘ってオンライン・ヘイト・スピーチ対策に取り組んできた。オンラインでの違法なヘイト・スピーチの拡散を防止および対抗するために、欧州委員会は 2016 年 5 月に Facebook、Microsoft、Twitter、YouTube と「オンラインでの違法なヘイト・スピーチ対策に関する行動規範」に合意した。

 2021年12月9日、欧州委員会はEU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項(注3)の「EU犯罪(EU crimes)」の現在のリストをヘイト・クライムとヘイト・スピーチにまで拡大する理事会決定を促す通知を採択した。 (注4) この理事会の決定が採択されれば、欧州委員会は第二段階として、人種差別主義や外国人排斥の動機に加え、他の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムをEUが犯罪化できる二次立法を提案することができるようになる。

 欧州委員会の政策「ツールボックス(The legal and policy framework in the EU)」には、2016 年から機能しているヘイト・スピーチとヘイト・クライムとの戦いに関するハイレベルグループの文脈において、各国当局を支援するための専用の交流機関やツールも含まれている。

 この取り組みは、被害者へのより良い支援に焦点を当てている。被害者の権利指令に沿って、法執行機関向けのヘイト・クライム訓練を強化し、ヘイト・クライムの記録、報告、データ収集を強化する。さらに、オンラインヘイトの課題に対処するために、欧州委員会は2016年に有名IT企業とともに、オンラインでの違法なヘイト・スピーチに対抗するための自主的な行動規範を開始した。

 この欧州委員会の政策は、反ユダヤ主義との戦いとユダヤ人の生活の育成に関するEU戦略(2021年から2030年)で言及されている反ユダヤ主義、反イスラム教徒の憎しみや反ユダヤ主義など、グループやコミュニティが経験する特定の形態のヘイト・スピーチやヘイト・クライムや反ジプシー主義にも特に注意を払っている。

 2018年中に、Instagram、Snapchat、Dailymotionが行動規範に参加し、2019年1月にJeuxvideo.com、2020年にTikTok、2021年にLinkedが参加した。2022年5月と6月に、Rakuten ViberとTwitchがそれぞれ行動規範への参加を発表した。

 2023年12月、欧州委員会と上級代表は「憎しみの余地はない:憎しみに対して団結する欧州」に関する共同声明を採択した。 この指針文書(communication)は、さまざまな政策にわたる行動を強化することにより、あらゆる形態の憎しみと戦うためのEUの取り組みを強化することを目的としている。 これらには、主要なオンライン・プラットフォームと合意した行動規範のアップグレードを通じて、オンラインでのヘイト・スピーチとの戦いの取り組みを強化すること、国内安全保障基金の予算の増額を通じて礼拝所の保護を強化する措置、および政府の役割のアップグレード、反ユダヤ主義との闘いとユダヤ人の生活の育成、反イスラム教徒の憎しみとの闘い、人種差別との闘いについての現調整官の特使を含む。

筆者追記】2024.1.18欧州議会サイトではヘイト・スピーチとへィト・クライム立法につき強い姿勢を見せている。抜粋し、仮訳する。

 欧州議会議員らは欧州連合理事会に対し、ヨーロッパのすべての人に対する憎しみからの適切なレベルの保護を確保するための法案を最終的に前進させるよう求めている。

 欧州議会は採択された報告書の中で、理事会はTFEU第83条第1項(いわゆる「EU犯罪」)(注4)の意味するところの刑事犯罪にヘイト・スピーチとヘイト・クライムを含める決定を現立法期間の終わりまでに採択すべきであると採択した法案2/12(49)の中で述べている 1月18日には賛成397票、反対121票、棄権26票であった。これらは国境を越えた側面を持つ特に重大な性質の犯罪であり、議会と評議会は刑事犯罪と制裁を定義するための最小限の規則を確立することができる。

4.ドイツの立法

 EU加盟国レベルでのオンライン・ヘイト・スピーチの取締まり規制は様々だが、先導的な立場に立ってきたのはドイツである。同国は2018年1月に、国内ユーザー数が200万人以上のプラットフォーム事業者に違法コンテンツを24時間以内に削除することを義務付ける法律を世界で初めて導入した。

 この法律は「ソーシャルネットワークにおける法執行を改善するための法律 (いわゆるネットワーク執行法 -Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG))と名付けられ、違反した場合の罰金は最大5,000万ユーロ(約80億5,000万円)に上る。2020年に入ってからは同法の幅広い改正が並行して進行中で、同年6月18日にはその一環として、右翼過激主義と憎悪犯罪に対抗することを目的とした「CDU/CSU 及びSPD 法」が採択された。同法は、違法コンテンツに関する報告を受けたプラットフォーム事業者に、報告を受けた時点で当該コンテンツを連邦刑事庁に直接届けることを義務付けるもので、NetzDG法をより厳格化した形となる。

ドイツの憎悪犯罪の規制強化

(1)「ソーシャルネットワーク(SNS)における法執行の強化に関する法律(Gesetz zur Verbesserung der Rechtsdurchsetzung in sozialen Netzwerken (Netzwerkdurchsetzungsgesetz - NetzDG)」(以下、「SNS規制強化法」という)が 2017 年 9 月 7 日に公布され、同年 10 月 1 日施行された。SNS 事業者に対し、一定の違法情報への対応手続の策定等を求めるものであり、設定された高額な過料とともに各国で大きく報じられた。

 国立国会図書館の解説から概要を抜粋する。

1.対象と範囲

(1)対象となる SNS 事業者

対象となる事業者は、国内の利用登録者が 200 万人以上の一般 SNS 事業者である。

(2)違法なコンテンツの範囲

SNS 法で対応を義務付けられる「違法なコンテンツ」は、第 1 条第 3 項に掲げられた刑法典上の犯罪の構成要件を満たすものであって、かつ違法性が阻却されないものをいう。(注5)したがって、刑法典上違法とならない情報(一部のフェイクニュース等)(注6)は、同法の対象外ということになる。

2.報告義務

  違法なコンテンツへの対応に関する報告を義務付けられるのは、年間 100 件を超える苦情を受けた SNS 事業者である(第 2 条第 1 項)。該当する SNS 事業者は、半年に 1 度、報告書をドイツ語で作成し、連邦官報及び自社のウェブサイトで公開しなければならない(当該期間終了から 1 か月以内)。

3.苦情処理手続の策定義務

 SNS 事業者には、違法なコンテンツに関する苦情を送信するための方法を利用者に提供するとともに、苦情処理手続を策定することが義務付けられる。

(1)手続において保証されるべき内容

 苦情処理手続においては、以下のことが保証される必要がある。まず、遅滞なく苦情を認識し、当該コンテンツの違法性及び削除等を行う必要性について審査することである。次に、当該情報が明らかに違法である場合には、これを24 時間以内に削除することが求められる。それ以外の場合であっても、違法なコンテンツは原則として 7 日以内に削除される必要がある。ただし、主張されている事実の真実性が違法性の判断に関係する場合や規制された自主規制機関(後述)の判断に委ねる場合はこの限りではない。

(2)規制された自主規制機関

  規制された自主規制とは、法規制により事業者の自主規制を促進する手段ないし、自主規制の枠組みを決定する手段である

4 過料

 SNS 法による報告義務及び苦情処理手続の策定義務等に反した事業者等には、秩序違反として過料が科せられる。法人に対する過料は最大で 5,000 万ユーロ(約 74 億5000円)(秩序違反法第30 条の規定の適用による)である。ただし、苦情処理手続において保証されるべき事項について不備があったり、その運用について体制上の問題があったりする場合が対象であって、個別のコンテンツを削除しなかったことをもって過料が科されるわけではない。

(2)2021年「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律」

 2021年4月1日に、「右派過激主義及びヘイト・クライムに対抗する法律(Gesetz zur Bekämpfung des Rechtsextremismus und der Hasskriminalität)」が公布され、同月3日に一部を除き施行された。(注7)

 同法は、前年の2020年7月に連邦参議院で可決されたが、同年5月の連邦憲法裁判所の違憲判決との関連から、連邦大統領が署名認証を行わなかったものである。

 ただし、同法は、同日(2021年4月1日)に公布された「既存データの開示に関する規則を2020年5月27日の連邦憲法裁判所の判決に由来する要件に適合させるための法律(Gesetz zur Anpassung der Regelungen über die Bestandsdatenauskunft an die Vorgaben aus der Entscheidung des Bundesverfassungsgerichts vom 27. Mai 2020)」(翌4月2日施行)の第15条によって、施行前に半分が廃止され、全5か条の条項法のみとなった。

5.フランスの立法

 フランスでは国務院(下院:Conseil d’État))が2020年5月14日に「インターネット上のヘイト・スピーチ対策法案(Loi du 24 juin 2020 visant à lutter contre les contenus haineux sur internet)」を可決、承認し、6月24日公布された。同法は、プラットフォーム事業者に対し、ネット上に投稿されたヘイト・スピーチや侮蔑表現を24時間以内に削除するよう義務付けるものである。違反企業には最大125万ユーロ (約2億125万円) の罰金が科され、悪質な場合には当該企業の全世界における年間収益の4%が罰金上限となる可能性もある。

 しかし、その後、保守野党の共和党上院議員団が同法の違憲審査を請求した。最終的に、フランスの憲法裁判所にあたる憲法院(Conseil constitutionnel)は2020年6月18日、24時間以内の削除義務が表現及び言論の自由を侵害するとして、Avia法の主要部分に違憲性があるとの判断を下した。憲法院は、プラットフォーム事業者が罰金を逃れるために過剰反応し、問題のないコンテンツまで削除されるリスクがあるとして、一連の関連条項の削除を命じた。(注8)

5.日本

 日本もSNS等を介した自殺事件等からも手本格的な立法の必要性は多く叫ばれている。

 その中で、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(平成28年法律第68号)」、いわゆる「ヘイト・・スピーチ解消法」が成立し、平成28年6月3日に施行された。(法務省「ヘイトスピーチ、許さない」参照

 同法は、「本邦外出身者」に対する「不当な差別的言動は許されない」と宣言している。

 なお、同法が審議された国会の附帯決議のとおり、「本邦外出身者」に対するものであるか否かを問わず、国籍、人種、民族等を理由として、差別意識を助長し又は誘発する目的で行われる排他的言動は決してあってはならないものとされている。

 一般的には憎悪犯罪を特別に重く罰する法律は、思想・良心の自由・表現の自由を脅かす恐れがあり、日本国憲法の理念に反するという主張がある。また、何がヘイトに該当するかは必ずしも明確ではなく、恣意的な運用が懸念されることから、現状ではそのような法律は制定されていない。

https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00108.html#%E3%81%82%E3%82%8B%E3%81%AE%EF%BC%9F

******************************************::

(注1)わが国でのGAOの訳語も多岐にわたる。しかし、筆者は2008年にブログで取り上げ訳語にこだわった。

2008.11.29 「連邦議会独立補佐機関GAO(連邦議会行政監査局)による行政Watchdogの役割と機能」(Last Updated: Febuary 25,2022)の(注2)参照。

(注2) ヘイト・クライム( hate crime:憎悪犯罪)とは、人種、民族、宗教、などに係る、特定の属性を持つ個人や集団に対する偏見や憎悪が元で引き起こされる、嫌がらせ、脅迫、暴行等の犯罪行為を指す。アメリカ連邦公法によれば「人種・宗教・性的指向・民族への偏見が、動機として明白な犯罪 (Public Law101-275) 」と定義されている

(注3) EU運営条約TFEU(Treaty on the Functioning of European Union)第83条第1項を以下、仮訳する。

1.欧州議会と欧州連合理事会は、通常の立法手続きに従って採択された指令により, そのような犯罪の性質または影響、または 共通して彼らと戦う特別な必要性から特に深刻な犯罪の分野における犯罪と制裁の定義に関する最低限のルールを確立できる。

 これらの犯罪分野は次のとおりである。テロ、人身売買、女性と子供の性的搾取、違法麻薬密売、違法武器売買、マネーロンダリング、汚職, 支払い手段、コンピューター犯罪、組織犯罪の偽造。

 犯罪の進展に基づいて、欧州連合理事会は、この段落で指定された基準を満たす他の犯罪分野を特定する決定を採択することができる。欧州議会の同意を得た後、全会一致で行動するものとする。

(注4) 2021年12月9日、欧州委員会は「より包括的で保護的な欧州:EU犯罪のリストをヘイトスピーチとヘイトクライムに拡大する」に関する指針文書(communication)」を採択した。これは、現在のEU犯罪リストにつき、EU運営条約(TFEU )第83条に規定されているいわゆる「EU犯罪」にヘイト・クライムヘイト・スピーチにまで拡張する理事会決定を引き起こすことを目的としている。 このような決定により、欧州委員会は第2段階で、EU全体でヘイト・スピーチやヘイト・クライムに取り組むうえで加盟国の法的枠組みを強化することが可能となる。

(注5) 対象となるのは、第 86 条(違憲な組織(ナチス等)のプロパガンダの制作・頒布)、第 86a 条(違憲な組織のシンボルの頒布、公然使用)、第 89a 条(国家を脅かす暴力行為の準備)、第 91 条(第 89a 条の罪を文書によりそそのかすこと)、第 100a 条(国家反逆的な事実の歪曲)、第 111 条(犯罪の扇動)、第 126 条(犯罪行為を実行するという脅迫により公共の平穏を乱すこと)、第 129 条から第 129b 条まで(テロ組織の結成等)、第 130 条(民衆扇動罪。ヘイト・スピーチやナチスの暴力的支配の賛美等)、第 131 条(暴力表現)、第 140 条(犯罪行為への報酬の支払い等)、第 166 条(他者の宗教観・世界観の誹謗)、第 184d 条に付随する第 184b 条(ポルノの放送等)、第 185 条から第 187 条まで(名誉毀損的表現)、第 201a 条(盗撮等高度に私的な領域の撮影)、第 241 条(脅迫罪)又は第 269 条(法律行為の証拠となるデータの改ざん)である。

(注6) 違法情報に該当するフェイク・ニュースとしては、名誉毀損的表現(刑法典第 187 条(悪評の流布)等)が代表的なものである。しかし、フェイク・ニュース対策として期待される成果は少ないとするものもある。

(注7) 国立国会図書館「【ドイツ】右派過激主義及びヘイトクライムに対抗する法律」の解説

(注8)フランスの公共政策や社会を動かす主要な議論を理解するための鍵を提供する無料の政府情報サイトVie-publique.frの解説を仮訳する。

 テロリストまたは児童ポルノのコンテンツについて、憲法院は新法律でいうコンテンツの違法性の判断はその明白な性質に基づくものではなく、行政の単独の評価に従うものであり、オペレーターが実行するために許可される時間は、オペレーターのみに許可されないものであると考え、あくまで裁判官から判決にもとづく判断を得るべきである。

 憲法院にとって、この法案上程議員は、追求される目的に適合したり、それに比例したりしていない表現の自由を侵害していることになる。 個人によって報告されたコンテンツについて、憲法院は、合法なものを含むすべての異議申し立てのコンテンツを削除するよう運営者に奨励されるリスクを強調しており、したがって、これは表現の自由に対する新たな攻撃といえると指摘している。

*****************************************************************

Copyright © 2006-2024 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution. 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ケンタッキー州ルイビル市の女性が隣人への脅迫的な通信文を郵送したとして連邦大陪審によって起訴

2022-08-25 16:12:21 | SNSと言論の自由問題

 筆者の手元に米連邦司法省ケンタッキー州西部地区連邦検事局の8月 23日のリリースが届いた。

 ケンタッキー州ルイビル市(Louisville )の連邦大陪審(federal grand jury)は8月15日の週に、2020年11月と12月に他人を傷つける旨の脅迫を含む郵便通信で地元の女性スザンヌ・クラフト(54歳)を起訴すべきとする起訴状を裁判所に返送したという内容である。

 8月22日付けの法廷文書と陳述書によると、スザンヌ・クラフト(Suzanne Craft,54歳)は、米国郵政公社を通じて、近所に住む家族に複数の脅迫的な通信を送った。これらの通信の多くは、暴力や人種差別的な中傷の脅威内容を含んでいた。

 これだけの内容では、事実関係などがいまいち理解できなかった。さらに(1)スザンヌ・クラフトの具体的な違法行為の内容、(2)クラフトは、2020年7月の罪状認否の際に、最初の起訴に続いて接近禁止命令(no-contact order)を受けたが違反して、法廷侮辱罪で2回有罪判決を受けるなど詳しい内容が地元紙で確認できた点を補足した、さらにわが国でも最近DVに関し注目をあびているわが国の「接近禁止命令」も運用内容を正確に理解すべきという観点から内容を洗い出してみた。

Ⅰ.FBIの起訴にかかるリリース内容

 被告クラフトは、米国法典第18編第876条(c) (筆者注1)に違反して誘拐または傷害の脅迫を伴う州間通信の5つの訴因(accounts)で起訴された。被告は2022年8月19日、ケンタッキー州西部地区連邦地方裁判所の連邦治安判事の前に初出廷し、8月22日の審理の後、クラフトは裁判を待たずに拘留するよう命じられた。被告は有罪判決を受けた場合、最高25年の拘禁刑に処せられる。連邦制度には仮釈放はない。連邦地方裁判所の判事は、米国量刑ガイドラインおよびその他の法的要因を考慮した後、判決を決定する。

 連邦捜査局(FBI)と米国郵政監察局(United States Postal Inspection Service)が事件を調査している。

なお、起訴は単なる申し立てであり、すべての被告人は、法廷で合理的な疑いを超えて有罪と証明されるまで、無罪と推定される。

 Ⅱ.ケンタッキー州大手メデイア(courier-journal.)の解説記事の抜粋、仮訳

レポート記者:Caleb Stultz氏

Caleb Stultz氏

 クラフトは2年前の2020年、被害者ミケラ(Michela)とコニー・ピネダ(Connie Pineda)のレイク・フォレストの所有地で撮影されたビデオ監視が、ある女性が私有車道(driveway)に人種的な中傷(racial slur)や〔ナチスのかぎ十字章(卍)を描いていることを示した後、3件の「犯罪的迷惑いたずら(criminal mischief)行為」 (筆者注2)と3件の「嫌がらせ脅迫状(harassing communications)」で起訴された。当時52歳だったクラフトは、その行為の背後にいると警察などから非難され

た。

 その事件で最初に起訴された後、クラフトはその後も2020年11月に自宅に脅迫状を郵送したとして2020年に同家族の弁護士から告発された。

 被害者家族の弁護士であるヴァネッサ・カントリー(Vanessa Cantley)は、クーリエ・ジャーナル(Courier Journal)との以前のインタビューで、ピネダスが受け取った匿名の手紙には人種差別的な中傷と弾丸(bullets)が含まれていたと述べた.

 クラフトは、2020年7月の罪状認否の際に、最初の起訴に続いて接近禁止命令(no-contact order)(筆者注3)を受けたが、裁判所の記録によると、彼女はその後、その命令に違反したことで法廷侮辱罪で2回有罪判決を受けている。 裁判所の記録によると、彼女はこれら 2 つの事件で 7 日間の懲役と 7 日間の自宅軟禁を言い渡された。

 クラフトの裁判は 2022年10 月 24 日に開始される予定である。

Ⅲ.犯罪的いたずら(Criminal Mischief)の定義、要素、程度、罰則、罰金等は何か?

 わが国でも犯罪的いたずら(Criminal Mischief)に関する論文は意外と少ない。米国でも同様のようである。その中でJenifer Kuadli氏のレポートを読んだ。わが国でも参考となる点も多いと考え、以下のとおり、仮訳した。

【初めに】

 犯罪的ないたずらまたは悪意あるいたずらは、通常、同意なしに他人または公共の財産を故意に損傷または破壊することと定義される。ただし、犯罪的ないたずらを構成するものについては、各州が独自の定義を持っていることに留意すべきである。

 素人はおそらく、建物にスプレーペイントの落書きから窓を壊すことまで、何でも含むことができる破壊行為の同義語に精通しているであろう。場合によっては、犯罪的ないたずらも不法侵入を伴うことがある。

 被害の程度はさまざまであるが、小さくても大きくても、犯罪であるという事実は変わりはない。

1.犯罪的いたずらで起訴する場合の要素

 加害者が犯罪的いたずらで有罪判決を受ける前に、検察官は合理的な疑いを超えて犯罪のいくつかの要素を証明できなければならない。これらには以下が含まれる。

(1)被告人(犯罪的いたずらの被告人)が故意に他人の財産を損傷または破壊したこと。

 もちろん、刑事責任の問題もここでも関係している。近くの公園でサッカーをしている子供たちが誤って窓を壊した場合、それは犯罪的ないたずらを構成することはほとんどありえない。あなたの財産への損害が行われたとしても、被害当事者は裁判所の外でこの事件を解決する可能性がある。

 (2)被告が、当該財産を毀損又は破壊することについて、所有者の同意を得ていなかったこと。

 たとえば、ガレージのドアを塗装する許可を友人に与えたのに、彼らが間違った色でペイントした場合、それは犯罪的ないたずら事件を正当化するものではありません。

 その背後にある意図は、放火、強盗、または窃盗を犯すことではなかった。これらの財産犯罪の1つを犯すと、法廷で異なる犯罪証拠が正当化される。

2.犯罪的いたずらの例

 落書き(Graffiti)は、犯罪的ないたずらの最も一般的な形態の1つです。これには、建物のスプレー塗装から、車の窓への言葉や図面のエッチングまで、あらゆるものが含まれる。

 もう1つの例は、誰かが意図的に窓を壊した場合です。これは、例えば、抗議行動中や、配偶者との口論中に、悪意から、破壊行為の一部として行うことができる。同じことが、誰かの車に鍵をかけたり、道路標識を取り除いたり、誰かのデバイスをハッキングしたりするためにも当てはまる。

 不法侵入(Trespassing)も、一部の州では、一般的な犯罪的ないたずらの例の1つと考えられている。

 時には、犯罪的ないたずらの告発は、別の犯罪を犯す行為に巻き込まれた人に対して提起される。たとえば、強盗行為中に誰かが捕まった場合、その人は財産を傷つけたとして刑事上のいたずらで起訴されることもある。

3.犯罪的いたずらの程度(Criminal Mischief Degrees)

 犯罪的ないたずらは通常「軽罪(misdemeanor)」として分類されるが、特定の状況下では「重罪(felony)」として分類される可能性がある。多くの州では、4つの犯罪的いたずらの程度を区別している。最初と最低はクラスCの軽罪で、最も深刻なものは第1級の重罪である。

 犯罪として責任追及の重大度は、被害の程度や、時には損傷した財産の性質によって異なる。たとえば、フロリダ州では、次のように分類される。

*損害が200ドル未満の場合、犯罪的ないたずらは軽罪として分類される。

*損害が200ドルから1,000ドルの間であれば、それは第1度の軽罪である。

*損害が1,000ドルを超える場合、それは第3度目の重罪である。

 損傷した財産が公開されていたり、誰かがその行為によって危険にさらされたり負傷したりした場合、起訴はより厳しくなる可能性がある。

 犯罪的ないたずらを犯すために使用される手段も、犯罪の重大度を判断する上で重要な役割を果たす。爆弾、爆発物、銃の使用、発砲など、誰かの財産を破壊したり傷つけたりすることは、ほとんどの州で第一級の犯罪的いたずらとみなされ、軽罪に分類される犯罪的いたずらよりもはるかに厳しい罰則が科せられる可能性がある。

 多くの場合、程度は、被告がこの種の犯罪を犯したのが初めてかどうか、または一連の犯罪の一部であったかどうかによって影響される。

 4.犯罪的いたずらに対する罰則(Penalties for Criminal Mischief)

 罰則は、犯罪の程度によっても異なるが、州、被害の程度、被告が過去の犯罪を記録に残していたかどうか、および特定の州の法律などの他の要因によっても異なる。

 しかし、一般的に言えば、軽犯罪の犯罪的いたずらは通常、最大1,000ドルの罰金および/または最大1年の拘禁刑につながる。一方、重罪に分類される犯罪的ないたずらは、何年もの投獄や著しく高い罰金など、はるかに厳しい罰則につながる可能性がある。

これらはあくまで一般的なガイドラインであり、特定のケースは大きく異なる可能性があることに注意することが重要である。そうは言っても、いくつかの一般的な罰則は次のとおりである。

5.罰金(Fines)

 最も一般的ないたずらは、落書きや軽微な犯罪的いたずら軽犯罪の同様の事件を散布することであるため、特に被告がそのような犯罪を犯したのが初めての場合、罰則は通常「罰金」である。軽罪に対する罰金は通常、200ドルから1,000ドルの範囲である。

 しかし、犯した犯罪が重罪であるという判決が下された場合は、罰則は大幅に高くなる。犯罪者は、財産への損害が甚大である場合、または犯罪者が犯罪的ないたずら重罪を犯している間に人々の生命または健康が危険にさらされた場合、5,000ドル以上の罰金を科せられる可能性がある。

 6.保護観察(Probation)または社会奉仕( Community Service)

 社会奉仕、または保護観察は、軽微な犯罪的いたずらに対する標準的な罰則でもある。

 裁判官は保護観察のみを裁定することも、他の罰則と組み合わせることもできる。保護観察には、多くの場合、地域社会奉仕、カウンセリング、または被告がアルコール、薬物、または武器を使用することを制限することが含まれる。保護観察は数ヶ月から数年続くかもしれない。

7.被害者への賠償金の支払い

 財産に損害を与えた場合、裁判所はほとんどの場合、賠償(restitution)を罰則として裁定する。賠償は、所有者の家やその他の財産に生じた損害を補償することを目的としている。賠償金は、被告が支払わなければならない他の手数料(州に支払われる罰金など)とは別のものであることを理解することが重要である。

 支払うべき適切な金額を決定することは容易ではない。それでも、それはしばしば弁護人が処理しなければならないものであり、あなたが雇う弁護士はおそらくそれについて多くの経験を持ち、払い戻しの総額を減らすことができるであろう。刑事司法の専門家は、通常、被害者が被った金銭的損失を合計することによって、刑事上のいたずらが引き起こした財産の損害に直接関連する償還総額を計算する。

8.投獄(Incarceration)

 拘禁刑は、犯罪的ないたずらに対するもう一つの典型的な判決である。損害の程度が重大な場合、被告は州立刑務所または地方刑務所のいずれかに投獄される期間を宣告される可能性がある。拘禁刑の期間は、数百ドル以下の損害賠償に対して1〜2ヶ月と短いかもしれない。ただし、犯罪的ないたずらが重罪とみなされた場合、または誰かの命が危険にさらされた場合、刑期は年数単位で計算される。

**************************************************************

(筆者注1) - 米国合衆国法典 - 注釈なし 第18編 犯罪と刑事訴訟§876 (18 U.S.C. § 876(c))。「脅迫的な通信を郵送する罪」を仮訳する。

(c)  前述のように故意にそのように郵便物を置くか(deposits)、配信の原因を起こした者はいかなる者も名前またはそれに署名された指定マークの有無にかかわらず、他人に宛てられ、人を誘拐する脅威または人を傷つける脅威を含む通信で 名宛人または別の者に郵送した場合、本編に基づいて罰金を科されるか、5 年以下の拘禁刑またはその両方が併科されるものとする。

そのような通信が、米国の連邦裁判官、連邦法執行官、または第 1114 条の対象となる官吏に宛てられた場合、その個人は本編に基づいて罰金を科されるか、10 年以下の拘禁刑またはその両方が併科される。

(筆者注2) 25 CFR § 11.410 - Criminal mischief(.§ 11.410 刑事犯罪上のいたずら)を仮訳する。

(a) 次の場合、当該人は犯罪行為で有罪となる。

(1) 故意に、無謀に、または火災、爆発物、またはその他の危険な手段の使用における過失により、他人の有形の財産に損害を与えた。

(2) 他人の有形の財産を故意または無謀に改ざんし、人または財産を危険にさらした。

(3)故意または無謀に、詐欺または脅迫により他人に金銭的損害を与えた。

(b) 犯罪的いたずらは、行為者が故意に 100 ドルを超える金銭的損失を引き起こした場合は軽罪であり、意図的または無謀に 25 ドルを超える金銭的損失を引き起こした場合は軽微な軽罪である。そうでない場合は、犯罪的ないたずらは違反行為にあたる。

(筆者注3) 接近禁止命令」とは、6ヶ月間、DV加害者がDV被害者の身辺につきまとったり、住まい(※同居中の住まいは除く)や勤務先などの近くをうろついたりすることを禁止する命令です。接近禁止命令は裁判所の判断によって発令されるものであり、発令してもらうには裁判所への申立てが必要です。接近禁止命令に違反した場合には、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。この罰則は、ほかの「保護命令」でも同様です。

*接近禁止命令を出してもらうためには、次の2つの要件を満たしていなければなりません。

①配偶者から身体的暴力または生命・身体に対する脅迫を受けたことがある。

②今後、配偶者から身体的暴力を振るわれ、生命・身体に重大な危害が加えられるおそれが大きい。

なお、ここでいう“配偶者”には、事実婚の関係にある者も含まれます。また、生活の本拠を共にする交際相手、いわゆる同棲相手についても、DV防止法を準用するというかたちで対象に含まれるとされています。

*接近禁止命令だけでは、次のような行為を禁止できません。これらも禁止するには、ほかの「保護命令」の申立ても行う必要があります。

    短時間に何度も電話やメール、FAXをすること

    子供や親族につきまとうこと

接近禁止命令以外の「保護命令」には、次の4つがあります。

①電話等禁止命令

②子への接近禁止命令

③親族等への接近禁止命令

④退去命令

(長谷川 聖治 弁護士「DVから身を守る「接近禁止命令」について|申し立ての流れや注意点」から一部抜粋)

*******************************************************************************

Copyright © 2006-2022 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserve.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ペンシルベニア州の公立学校の当時14歳女子学生が行ったSnapchatと教育委員会の処分をめぐる連邦最高裁判決の意義とこの問題の重要性

2021-06-27 07:19:41 | SNSと言論の自由問題

 

 わが国のメディアでも報じられたとおり、連邦最高裁判所は6月23日、州の公立学校には、学生がキャンパス外で言ったことを罰する一般的な権限がないと判示し、部活動禁止処分は合衆国憲法修正第一に反すると判示したが、一方で学校側が、一定の範囲で生徒の校外の言論を規制することは可能であるとする点も明示した。

 8-1のこの判決は、学校の子供たちがソーシャルメディアやテキストメッセージを通じてほぼ絶えず互いに連絡を取り合っている時代に、憲法修正第一の保護範囲を拡大した。 今回の決定は、すべての学生の学外の表現を保護するものではなかったが、最高裁判所は、将来の事件で解決される例外を制限することを提案した。 

 また、スティーブン・ブレイヤー最高裁判事は、「合衆国憲法修正第一が学校に与える裁量権」は、学外の表現の特殊な特徴に照らして、「減少されるべき」と補足意見を書いた。

 一方、クラレンス・トーマス最高裁判事は、停学を支持したであろうと述べ反対意見を述べた。 

 当時ペンシルベニア州の公立学校の9年生(日本の中学3年生)だったブランディ・レヴィ(Brandi Levy)は、ある土曜日にコンビニエンスストアでSnapchatに投稿したメッセージを理由として罰せられたが、連邦最高裁はレヴィの勝利を認めた。

Brandi Levy氏

 彼女は極めて下品な四文字言葉を使って「f ---学校f ---ソフトボールf ---チア-チームf ---全部」と書いた。学校のチアリーディングコーチの1人がメッセージを発見したとき、レヴィは2年生の間ずっとジュニア代表チームにおいて出場停止になった。

 彼女と彼女の両親は訴訟を起こし、連邦控訴裁判所は、彼女のメッセージがキャンパス外に投稿されたため、彼女は学校当局の手の届かないところにあり、罰せられないとの判決を下しました。今回、最高裁判所はそこまでは明確にしなかった。

 6月23日の判決は、学生の表現に関する裁判所の以前の決定をインターネット時代に併せ見直した。1969年、連邦最高裁判所は、生徒と教師は「校舎の門で言論または表現の自由に対する憲法上の権利を放棄することはない」と判示した。生徒の表現は、学校の仕事と規律を実質的に混乱させない限り、規制することはできないと最高栽判決は述べたのである。

 同裁判で、マハノイ地域学区の教育委員会は、レヴィの出場停止処分を擁護し、「スマートフォンとソーシャルメディアの普及、およびパンデミック時の遠隔教育の必要性により、キャンパス内とキャンパス外の境界線が曖昧になったと述べた。生徒の表現がどこから来たとしても、メッセージが学校に向けられて混乱を引き起こす場合、学校は生徒を懲戒することができなければならない」と同委員会は述べた。  

 今回のブログはわが国の新聞記事も必ずしも詳細かつ正確でない点を踏まえ、まず、(1)レヴィがSNSで行った行為の違法性、非常識性につき改めて検証した、(2)当時14歳であったレヴィは一時の感情が高ぶったはいえこのようなきわめて下品な言葉を安易に使うことが、すべて言論の自由.で保護されるとするといえるかについても納得いかない。他方、(3)学外授業で他人や学校の人格・名誉等を否定する言葉を問題視しない親や教育者も問題である。さらに言えば、このような言葉が、SNS等で使わえているとすると今回の失言だけでない、いじめなどの可能性も考えられる。

 同様の事案では、わが国の場合いかなる裁判所の判断が出てこようか私見も含め論じる。

1.事実関係と連邦最高裁の判決に至る経緯

 学校のチアーリーダーであるレヴィは、翌年に関しjunior varsity(JV)チームに降格させられた。彼女の中指を立てた写真(筆者注1)とFで始まる極めて下品な言葉をSnapchatで使い、:欲求不満のつかの間のフィット感で応答した。

「F---学校、f---ソフトボール、f---チアチ―ム、f---全部」(筆者注2)と当時14歳ペンシルベニア州の9年生(日本の中学3年生)だったブランディ・レヴィ(Brandi Levy)は土曜日にSnapchat (筆者注3)にアップした。Snapchatの「ストーリー」(スナップチャット)のすべてのフレンドが24時間だけ見れる、複数のスナップのまとめをいう)に投稿されたすべての「スナップ」と同様に、約250人の「友人」に送られたこの「スナップ」画像は、誰もが月曜日にペンシルベニア州のマハノイ地域の高校に戻る前に、24時間以内に消えてしまっていた。

 この問題は、思春期の怒り暴発とそれに対する大人の反応が最終的に最高裁判所に到着し、この事件は合衆国憲法修正第一の「言論の自由の保護」が米国の5,000万人の公立学校の学生の学外活動にどのように適用されるかを決定することに結びついた。

「これは、学生のスピーチを含む50年以上の判断中で最も重要なケースである」と、エール大学ロースクールの教授で、「校舎の門:公教育、最高裁判所、そしてアメリカの心のための戦い」の著者であるドライバー教授(Justin Driver)は述べた。

 Justin Driver氏

 ドライバー教授は「学生のスピーチの多くは学外にあり、ますますオンライン・スピーチの機会が増す。学校の管理者と話をすると、学外の学生のスピーチは彼らを悩ませ、下級裁判所はこの分野で必死に指導を必要としている」と一貫して取材記者に述べた。

 携帯電話は、ほぼすべてのティーンエイジャーの手とソーシャルメディアの優先コミュニケーション・モードの延長となっており、それは驚くべきことではない。そして、この1年間、Covid -19パンデミック下で多くの学生は、ズームクラス中(Zoom classes)に自宅で「スピーチ」を行っており、学校のキャンパスの近くに行っていない。

 憲法修正第一は「そのスピーチがキャンパス外で始まったからといって、キャンパス環境を覆す学生のスピーチを無視するよう学校に強制する」わけではないと、マハノイ地域学区が提出した簡単な報告・意見書は、レヴィをチアリーデイングチームから追い出すという学校の決定を支持した。.

 「生徒のスピーチがどこから来ても、学校は、スピーチが学校に向けられ、学校環境に同じ破壊的な害を課すときに、生徒を同様に扱うことができるはずだ。

 教育委員会の弁論趣意書(brief)とドライバー教授の著書の表題は、学生のスピーチ、ティンカー対デモイン独立コミュニティ学区に関する基本的な最高裁判所のケースを指す。1969年2月24日の最高裁の判決「ティンカー対デモイン裁判」(筆者注4)は、生徒と教師が「校舎の門で言論や表現の自由に対する憲法上の権利を放棄しない」ことを有名にした。

 しかし、1969年の判決で最高裁は「学校は、言論を制限する際に一般的に州よりも学生に対するより広範な権限を持っており、当局は学校機能の「物質的かつ実質的な」混乱を引き起こす可能性のあるキャンパス内スピーチのために学生を懲戒することができると」述べた(裁判所は、彼女がベトナム戦争に抗議するために身に着けていた黒い腕章は破壊的ではないと判断した)

 この半世紀の間に、連邦最高裁判所の憲法修正第一に関する決定はほとんどなく、学校の管理者の側の考えに傾いている。司法機関は、学生によるみだらなスピーチ、学校関係者の指示で運営された学生新聞、そして学校の活動で学生が開催した一見親マリファナのメッセージ「ボンヒッツ4イエス(“Bong Hits 4 Jesus”)」を持つ無意味な看板に関する学校の懲戒処分(disciplinary action)を支持している。.

 今回のレヴィのケースはこれとは異なる。これは、学校の行事に接続されていない、つまりオンラインと週末に行われた校舎の門をはるかに越えたスピーチ・メッセージに関するものである。

 フロリダ大学ブレヒナー情報の自由化センター所長のフランク・ロモント(Frank LoMonte)氏は、「これはSnapchatの軽度のかんしゃくに関する非常に狭いケースのように思えるかもしれないが、あらゆる年齢層の学生によるスピーチについてあてはまる問題である」と述べている。

Frank LoMonte 氏

 司法機関が学生のスピーチ事件を取りあげることはまれであるため、ロモント氏は「今般の最高裁は2、3世代に適用される基準を考え広く書いている。かつ彼らはすべてのメディアでのあらゆる形式のスピーチの基準を書いている」と記している。

 もちろん、レヴィと友人がウィルクス・バレの南西約40マイルのペンシルベニア州の石炭国の町、マハノイ市の24時間コンビニエンスストア、ココアハットにいたとき、それはレヴィの心にはなかった。ゴールデンベアーズ・ジュニアバリエーションチームで参加して1年後、彼女は代表チームに上がることを望んでいたが、さらに悪いことに、彼女の見解では、新入生が彼女の前に代表チームの地位を得ていた。

「その日、私は本当にイライラし、動揺していた」と、現在18歳で会計学を学ぶ大学生のレヴィは語った。

 彼女と彼女の友人が中指を伸ばして”Fuck you”ポーズをとったスナップに加えて、彼女は別のものを送った。「私と(レヴィが名前で識別した別の学生)が、私たちが多様性を作る前にチアリーダーの年が必要だと言われるのは大好きですが、それは他の誰にとっても問題ではないですか? 」レヴィは混乱した微笑顔でもってサイン・オフした。

 これは、24時間以内に溶解するレヴィのスナップを受け取った約250人に送られた。「私はそれが誰にも影響を与えるとは思わなかったし、それは本当にありませんでした」と、レヴィは語った。

 しかし、ある人がレヴィ・スクリーンショットを撮っていて別の人に見せた。一部のチアリーダーはレヴィのメッセージについて不平を言い、コーチたちは彼女を1年間メンバーから外すことを決めた。

 コーチは、レビィのスナップは、「敬意を表し、不適切な言葉や不適切なジェスチャーを避ける、「チアリーディング、チアリーダー、またはインターネット上に配置されたコーチに関する否定的な情報」に対する厳格なポリシーを含む彼女が同意したチーム・ルールに違反していると述べた。

 これに対しブランディの両親であるラリーとベティ・ルーは、アスレチックディレクター、校長、監督(superintedant)、教育委員会(school board)に訴えたが、役に立たなかった。

 その後、米国人権擁護団体である”American Civil Liberties Union: ACLU”(筆者注5)の助けを借りて、彼らは連邦訴訟を起こした。

 地区裁判官は、ブランディの演説が混乱を招くものではなかったことに留意し、分隊の停止が憲法修正第一に違反することに同意した。 裁判官は彼女が2年生のときにJVチームに復帰させるよう命じ、彼女は3年生と4年生に代表チームをつくった。

 これらは「少し厄介でした」と彼女は述べたが、この事件の最も永続的な影響は、仲間の学生が時々彼女を「B.L.」と呼ぶことである。

 教育委員会の控訴に基づいて行動する第3巡回区連邦控訴裁判所の判事は、地区裁判官よりもさらに進んだ意見を出した。 シェリル・アン・クラウス(Cheryl Ann Krause )裁判官は、この問題を検討した他の裁判所に反対し、ティンカーによる学校管理者への権限付与は、学外での演説には及ばないと述べた。

 同判事の意見は、「レビィの発言は学校が所有、運営、または監督するチャネルの外にあり、学校の許可証を持っていると合理的に解釈されないスピーチ」と定義した。

 また判事は「控訴裁判所は、管理者がデジタル時代の学校環境を管理する」ために直面する課題に留意した。しかし、私たちは同様に、新しいコミュニケーション技術が新しい領域を開き、規制当局が不適切、不快、または挑発的であると考える言論を抑制しようとする可能性があることを念頭に置いた。 そして、憲法修正第一が保護する貴重な自由を犠牲にすることなしに、どんなに善意を持っていても、そのような努力を許すことはできない」と 記した。

 同裁判所のトーマス・L・アンブロ判事(Ambro, Thomas L.)は、学外での演説に関して同僚と意見が一致せず、彼女の演説は実質的に混乱を招くものではなかったため、同僚がレヴィに有利な判決を下すだけで十分だったと述べた。

Ambro Thomas L.氏

 第二学区教育委員会は最高裁判所に対し、第3巡回区連邦控訴裁判所の判決を支持することは危険であると語った。

 すなわち、「公教育の黎明期以来、学校は、キャンパスを混乱させたり、他の生徒に危害を加えたりするスピーチを懲戒する権限を行使してきた。そのスピーチがキャンパス内で発生したかどうかに関係なく、ワシントンの弁護士リサS.ブラットが提出した学区の概要は述べている。

(2) 連邦最高裁判事の反対意見や補足意見

  最高裁の評決は多数意見8対1であった。

 一方、クラレンス・トーマス判事は、停学を支持したであろうと述べ反対意見を述べた。

Clarence Thomas判事

 また、スティーブン・ブレイヤー(Stephen Breyer)判事は、「合衆国憲法修正第一が学校に与える余裕」は、学外の表現の特殊な特徴に照らして、「減少されるべき」と補足意見を書いた。

Stephen Breyer判事

(3)合衆国憲法修正第一に関する連邦裁判所がが抱える学校外の生徒の各種言論とりわけネットワーク利用の多様化にかかる多くの課題

 人権擁護団体と教育委員会の対立点の洗い直しが問われている。Washinnton Postの記者は以下の点を挙げている。

 バイデン政権によって最高裁判所で支持されている地区は、多くの問題を提起している。すなわち、 彼のプレイコールについてのツイートの山でコーチを弱体化させる運動選手、 拡声器で通りの向こう側の破壊的な結果を引き越す学生、などである。 

 さらに深刻なことに、「コロンビア特別区および少なくとも25の州の法律では、学校の環境を大幅に混乱させたり、他の生徒の権利を妨害したりするキャンパス外の嫌がらせやいじめに対処することが学校に義務付けられている」と簡単に述べている。「クラスメートに自殺を促したり、黒人のクラスメートをリンチの写真で標的にしたり、妥協した立場にある仲間の学生のクラス全体の写真にテキストを送信したりする学生は、彼らの感染行為は学校にいる時間に限定されない」

 ネットいじめを懸念するグループの連立は、容赦ないオンライン嫌がらせの後に自分の命を奪った「別のチアリーダー、車で2時間の距離」など、そのような悲劇的な結果の例をもって簡単な多数の書類を提出した。

 第3巡回区連邦控訴裁判所の判決によると、レビィ訴訟はこれらの問題を提起しなかったため、「暴力を脅かしたり、他の人に嫌がらせをしたりする、学外の学生の演説の修正第一の影響を別の機会に留保した」

 ペンシルバニアACLUの責任者であるWitoldJ.Walczakは「学校はネットいじめに対処する必要がある。私たち[ACLUと教育委員会]を隔てているのは、これらの問題に対処するために学校にどれだけの力が与えられているかである。学区のアプローチはパワーグラブが大きすぎるように感じる」

 レヴィは、100以上の組織、250人の個人、および9人の共和党司法長官からなる広くイデオロギー的に多様な連立から支持を得ている。

 「過去10年間に、同じ側にこのように多様なグループが存在する別の事件は見つかりません」と、最高裁判所が6月23日にそれを聞いたときに事件を主張するACLU国内法務部長のDavidColeは述べた。「私たちは、右から左へ、学生から管理者へ、公民権団体、宗教の自由組織等からの支援を受けている」

DavidCole 氏

 この問題は、人気のない言論を保護することに誇りを持っているように見える最高裁判所に提起されている。 ロモント教授がスレートで書いたように、「ロバーツ最高裁判所は確かにそれをかたっている。憲法修正第一は私たちにあらゆる種類の不快感を許容することを要求している。これには、反同性愛者のヘイトスピーチ(スナイダー対フェルプス事件)、軍事的英雄主義についての嘘(米国対アルバレス事件)、またはグラフィカルに暴力的な闘犬のビデオの販売(米国対スティーブンス事件)も含まれる。

 以下、ワシントンポストの記者の解説は、連邦最高裁の修正第一に対する連邦最高裁判事の関連事件での意見などを論じているが、本ブログはあくまで事実関係のみを正確に伝えることであり、略す。

2.今回の連邦最高裁の学校内外のオンライン言論手段の更なる拡大傾向と教育現場での軋轢問題についての筆者の私見

(1) 疑問点

 限られた時間での解析は難しい。直接原告に聞けないし、事実関係の整理だけでも約半日かかった。しかし、わが国の憲法問題も含め言論や表現の自由をどこまで認めるのか。

A.レヴィのとった行動は、14歳が感情のままにそれも安易にsnapchatという即記録が残らないSNSを利用した点はいかにも子供じみており、彼女の両親は果たして冷静に教育委員会と話しあったうえで裁判にも持ち込んだのかという点である。

 また娘が普段と同級生や学校に対する不満を行っていないか、その冷静な解決をサポートしてきていたかといいう点で更なる疑問がわく。

B.”Fuck”の意味を調べてみた。人に向けてこの単語が使われた場合、極めて攻撃的な罵倒表現となる。「死ね」「殺すぞ」「今すぐに俺の前から消え失せろ」である。・・・他者や社会一般の幸福に対する冷淡さの感情を表現するときや、要求を強く拒絶したり、何かに失敗したり、突然嫌な思いを味わったり、怒りの感情が湧いてきた際にも咄嗟に出る単語であり、その際には「クソ!」「畜生!」といったニュアンスである。(Wikipedia:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%83%E3%82%AF)から一部抜粋。

 だとすると、レヴィの発言は未成年とはいえ常識的に見てもきわめて違法性があり、成人であれば名誉棄損責任やハラスメント責任を問われかねない失言である。

 なお、朝日新聞記事にあるように「くたばれ学校・・・」という訳語は内容から見て正確でない。

(2)青少年等に対するインターネット利用環境の安全性強化の先進的取組国の例

 この問題を正面から取り上げている国の例としてオーストラリアを見ておく。

 特に「eSafetyコミッショナー」は、関係法に基づく他国にない独自の権限を持つ。わが国においても参考になる点が多く、以下でそのHPの概要を仮訳する。なお、関係法のリンクは筆者の責任で行った。

 「eSafetyコミッショナー:Julie Inman Grant」は、オーストラリア政府の法律の下で、オンラインの安全性を促進するためのさまざまな機能と権限を持つ。同コミッショナーは、「2015年オンライン安全強化法(Enhancing Online Safety Act 2015(Cth))」に基づいて独立性を持った法律に基づく機関として設立された。2015年設立の政府機関、現従業員数71名。

Julie Inman Grant 氏

 コミッショナーの職務の多くは、同法第15条に定められている。当初、これらの機能は主にオーストラリアの子供たちのオンラインの安全性を高めることに関連していたが、2017年に、この法律は、すべてのオーストラリア人のオンラインの安全性を促進および強化するという委員会の権限を拡大するために改正された。 

(A)画像ベースの虐待に関連する権限 

① 2015年オンライン安全強化法により、コミッショナーはオーストラリアの子供を対象とした深刻なネットいじめに関する苦情を調査し、それに対処することができる。

 同法は、参加しているソーシャルメディアサービスからネットいじめの資料を削除するための2段階のスキームを確立している。このスキームの2つの層は、さまざまなレベルの規制監督の対象となる。

 ソーシャルメディアサービスは、オプト・イン事前許可ベースでスキームのTier1に参加する義務を負う。また、通信大臣によってTier2サービスとして宣言されたソーシャルメディアサービスは、コミッショナーからの要求に違反した場合、法的拘束力のある通知および民事罰の対象となる場合がある。 

(B)画像ベースの虐待に関連する権限 

 2015年オンライン安全強化法は、コミッショナーがオンラインプラットフォームからの性的な画像やビデオの削除を支援できるようにする民事罰制度を確立している。場合によっては、コミッショナーは、画像ベースの不正使用の責任者に対して措置を講じることができる場合もある。

 このスキームにより、eSafetyは、ソーシャルメディア・サービス、Webサイト、ホスティング・プロバイダー、および加害者に強制的な削除通知を送信し、性的な素材の削除を要求することができる。

 また、民事罰制度は、eSafetyに次のような加害者に対して行動を起こすため、以下のようなさまざまな権限を与える。

① 正式な警告を発する。

② 是正措置の方向性を与える。

③ 侵害通知を発布する。

④ 強制力のある事業を受け入れる。

⑤ 裁判所に差し止め命令または民事罰命令を求める。 

(C)違法で有害なオンライン・コンテンツに関連する権限 

①オンラインコンテンツ・スキーム

 また、コミッショナーは、「1992年放送サービス法(Cth)」の附則5および附則7に基づいてオンライン・コンテンツ・スキームを管理する。

 このスキームの下で、コミッショナーはオンライン・コンテンツに関する有効な苦情を調査し、禁止または潜在的に禁止されていることが判明した資料に対して措置を講じることができる。これには、児童の性的虐待に関する資料が含まれる。

 オンライン・コンテンツ・スキームは、法執行機関の役割、およびオンラインの児童の性的虐待と闘う「国際インターネットホットライン協会(International Association of Internet Hotlines :INHOPE)」と相互に関連している。

②忌まわしい暴力的な素材

 2019年のクライストチャーチのテロ攻撃後に「1995年刑法( Criminal Code Act 1995 (Cth) 」に加えられた改正により、忌まわしい暴力的資料(abhorrent violent material (AVM). )に関連する新しい犯罪条項が作成された。(筆者注6)

 この法律は、AVMを、記録またはストリーミングする加害者または共犯者によって作成されたオーディオ、ビジュアル、またはオーディオビジュアル素材として定義している。

  • 重傷または死亡につながるテロ行為
  • 殺人または殺人未遂
  • 拷問
  • レイプ
  • 暴力または暴力の脅威を伴う誘拐。

③サービスプロバイダーへの指示

 「1997年電気通信法(Telecommunications Act 1997 )(Cth)」は、eSafetyコミッショナーが、コミッショナーの機能と権限のいずれかに関連して、通信事業者またはサービスプロバイダーに書面で指示を与えることができると規定している。

 クライストチャーチのテロ攻撃に続いて、コミッショナーは、テロ行為や暴力犯罪を助長、扇動、または指示する資料へのアクセスや露出からオーストラリア人を保護することにより、オーストラリア人のオンラインの安全性を促進するという彼女の機能に関連して指示を出した。この指示により、インターネット・サービスプロバイダー(ISP)は、加害者のビデオとマニフェストへのアクセスを提供するWebサイトを一時的にブロックする必要が出てきた。 

***********************************************************************************:

(筆者注1) この中指は陰茎、人差し指と薬指は陰嚢を象徴し、"Fuck you"(くたばれ、くそくらえ)などの侮蔑表現に相当する卑猥で強烈な侮辱の仕草である。(Wikipediaから引用)

(筆者注2) ACLUの本判決の解説では“fuck school fuck softball fuck cheer fuck everything.”と明記されている。

(筆者注3)  ”Snapchat”は OSはiOS, Androidではスマートフォン向けの写真共有アプリケーション。登録した個人やグループに向けて画像などを投稿するSNSアプリ。アメリカではインスタグラムを抜いて、10代が選ぶSNS第1位になるほど人気がある。最大の特徴は投稿されたスナップやチャットの内容が、たったの数秒で消えてしまうことである。

(筆者注4) ティンカー対デモイン裁判の要旨をACLUサイト”TINKER V. DES MOINES - LANDMARK SUPREME COURT RULING ON BEHALF OF STUDENT EXPRESSION”から引用、仮訳する。

 ティンカー対デモイン裁判は、公立学校での言論の自由に対する学生の権利を確固たるものにした1969年の歴史的な最高裁判所の判決である。

 メアリー・ベス・ティンカー(Mary Beth Tinker)は1965年12月に13歳の中学生で、彼女と学生のグループがベトナム戦争に抗議するために学校に黒いアームバンドを着用することを決めた。教育委員会は抗議の風を受け、先行して禁止を通過させた。 メアリーベスが12月16日に学校に到着したとき、彼女は腕章を外すように命ぜられ、その後、停学処分された。

 弟のジョン・ティンカーとクリス・エックハートを含む他の4人の学生も同様に停学処分になった。 生徒たちは、アームバンドを外すことに同意するまで学校に戻ることができないと言われ、生徒たちはクリスマス休暇の後、腕章なしで戻ってきましたが、これに抗議して、学年度の残りの期間は黒い服を着て、憲法修正第一の訴訟を起こした。 

 1969年2月24日、連邦最高裁判所は7-2の判決を下し、学生は「校舎の門で言論または表現の自由に対する憲法上の権利を放棄しない」との判決を下した。

 同裁判所は、合衆国憲法修正第一が公立学校に適用され、教育プロセスを混乱させない限り、学校関係者は生徒の言論を検閲できないと認定した。黒の腕章を身につけることは混乱を招くものではなかったので、裁判所は、憲法修正第一が学生の腕章を身につける権利を保護したと判示した。

(筆者注5) 2021.6.23、ACLUは「SUPREME COURT RULES TO PROTECT STUDENTS’ FULL FREE SPEECH RIGHTS」“fuck school fuck softball fuck cheer fuck everything.”」で裁判経緯を解説している。

(筆者注6) オーストラリア連邦議会は、ソーシャルメディアなどのサービスで公開された暴力的な動画類を運営元の事業者が迅速に削除することを義務づける刑法改正法「Criminal Code Amendment(Sharing of Abhorrent Violent Material)Bill 2019」を可決した。2019年4月3日に上院をスピード通過したのに続き、下院でも翌日に可決した。違反した事業者やその幹部は、巨額の罰金や拘禁刑を科される可能性がある。 

****************************************************************************************

【DONATE(ご寄付)のお願い】

本ブログの継続維持のため読者各位のご協力をお願いいたします。特に寄付いただいた方で希望される方があれば、今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中でございます。 

◆みずほ銀行 船橋支店(店番号 282)

◆普通預金 1631308

◆アシダ マサル 

◆メールアドレス:mashida9.jp@gmail.com

【本ブログのブログとしての特性】

1.100%原データに基づく翻訳と内容に即した権威にこだわらない正確な訳語づくり

2.本ブログで取り下げてきたテーマ、内容はすべて電子書籍も含め公表時から即内容の陳腐化が始まるものである。筆者は本ブログの閲覧されるテーマを毎日フォローしているが、10年以上前のブログの閲覧も毎日発生している。

このため、その内容のチェックを含め完全なリンクのチェック、確保に努めてきた。

3.上記2.のメンテナンス作業につき従来から約4人態勢で当たってきた。すなわち、海外の主要メディア、主要大学(ロースクールを含む)および関係機関、シンクタンク、主要国の国家機関(連邦、州など)、EU機関や加盟国の国家機関、情報保護監督機関、消費者保護機関、大手ローファーム、サイバーセキュリテイ機関、人権擁護団体等を毎日仕分け後、翻訳分担などを行い、最終的にアップ時に責任者が最終チェックする作業過程を毎日行ってきた。

 このような経験を踏まえデータの入手日から最短で1~2日以内にアップすることが可能となった。

 なお、海外のメディアを読まれている読者は気がつかれていると思うが、特に米国メディアは大多数が有料読者以外に情報を出さず、それに依存するわが国メデイアの情報の内容の薄さが気になる。

 本ブログは、上記のように公的機関等から直接受信による取材解析・補足作業リンク・翻訳作業ブログの公開(著作権問題もクリアー)が行える「わが国の唯一の海外情報専門ブログ」を目指す。

4.他にない本ブログの特性:すべて直接、登録先機関などからデータを受信し、その解析を踏まえ掲載の採否などを行ってきた。また法令などの引用にあたっては必ずリンクを張るなど精度の高い正確な内容の確保に努めた。

その結果として、閲覧者は海外に勤務したり居住する日本人からも期待されており、一方、これらのブログの内容につき著作権等の観点から注文が付いたことは約15年間の経験から見て皆無であった。この点は今後とも継続させたい。

他方、原データの文法ミス、ミススペリングなどを指摘して感謝されることも多々あった。

5.内外の読者数、閲覧画面数の急増に伴うブログ数の拡大を図りたい。特に寄付いただいた方で希望される方があれば今後公開する筆者のメールアドレス宛にご連絡いただければ個別に対応することも検討中である。

【有料会員制の検討】

関係者のアドバイスも受け会員制の比較検討を行っている。移行後はこれまでの全データを移管する予定であるが、まとまるまでは読者の支援に期待したい。

                                                              Civilian Watchdog in Japan & Financial and Social System of Information Security 代表                                                                                                           

*****************************************************************************************************************************

Copyright © 2006-2021 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.You may reproduce materials available at this site for your own personal use and for non-commercial distribution.

 

 

 

 

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“EU加盟国におけるソーシャル・ネットワークキング(SNS)の成功と挑戦”等EUの取組み

2008-10-13 08:23:31 | SNSと言論の自由問題

Last Updated: March 6,2021

(Summary in English)
“Social Networking Sites(SNS): Commissioner Reding stresses their economic and societal importance for Europe”

Viviane Reding, Commissioner for Information Society and Media, has gave a speech on Social Networking Sites by "Forum for a safe Internet Society" on September 26(It was held in Luxembourg).
Reding is elected by the committee of European Commission in 1999, and reappointed in 2004. She has gave her views extremely aggressively about the themes of " The problem and view of Ubiquitous society" that starts up the discussion in Japan , also on this forum gives her views from the summary and empirical a viewpoint about this problem to be able to do nothing but work without reference to age or sex on concrete data of each member states .
She is taking up the problem on the part of the shadow of SNS ,the influence on the youth and invasion of privacy by the online tracking etc.,and the European Network Information Security Agency(ENISA) that is official body concerning the information security of EU,has made public titled“Security Issues and Recommendations for Online Social Networks” to the politicians and financial businessmen in charge appropriating in the signatory in October of 2007.
Especially, child's protection problem through the Internet and the mobile phone that is a topic recently also in our country,I will take up the former from the viewpoint of serving as a reference in examining current analysis and measures of our country.
As for the light and the shadow of SNS of Europe and U.S. , it is reported September 28 by Tagui Ichikawa ,the representative New York's JETRO , it is analyzed accuracy and widely of this problem.
For strike the measure because of losing user's uneasiness, the person in charge of government and the business of SNS promotion in Japan should read these speech and report.

 欧州委員会委員で情報・メデイア担当のヴィヴィアン・レディング氏(Viviane Reding)は、2008年9月26日に「より安全なインターネット社会のためのフォーラム(ルクセンブルグで開催)」でSNS(筆者1)に関する標題("Social Networking in Europe: success and challenges")のスピーチを行った。


Viviane Reding氏

 1999年に欧州委員会の委員に選任され、2004年に再任されている女史であるが、わが国でも議論を呼んでいる「ユビキタス社会」の展望と課題について従来から極めて精力的に意見を述べている

 レディング氏のスピーチ内容は、駐日欧州委員会代表部サイト等でも今後紹介されるであろうが、老若男女を問わず取組まざるを得ないこの問題につき加盟各国の具体的データに基づき総括的かつ実証的観点から意見を述べており
(筆者注2)、その仮訳を試みた(項目立ては筆者の責任で行った)。

 また、同女史が取り上げているSNSの影の部分(青少年への影響やオンライン追跡によるプライバシー侵害等)およびセキュリティ面の課題についてはEUの情報セキュリティに関する公的機関である欧州ネットワーク情報セキュリティ庁: (European Network and Information Security Agency;ENISA ) が加盟国の政財界責任者あてに2007年10月に
「オンライン社会ネットワークに関する脆弱性・セキュリティ問題およびその解決への勧告書」(筆者注3)を公表している。特に最近ではインターネット・携帯電話を介した子供の保護問題がわが国でも話題になっていることから、わが国の現状の分析や対策を検討する上で参考になるとの観点から前者を取り上げた。

 欧米におけるSNSの光と影についてはJETROニューヨーク駐在員の市川類氏のレポートが正確かつ幅広く分析されており、利用者の不安をなくすための施策を打つためにも、わが国の官民のSNS推進責任者はまず読むべきであろう。

1.はじめに

 年齢確認(age verification)、メディア間の利用分類(cross-media classification)および子供によるオンライン技術とSNS(social networking sites)の利用の問題はこの数月以上我々の議論の種となろう。(筆者注4)
本日の話は、①SNSの持つ社会・経済現象をどのように考えるべきか、②娯楽や知識に関し社会および専門的な理由からSNSがEU市民にどのように使われているか、そして③どのように我々の生活を変えたか、さらに④若年層の日々の生活や将来を形成するうえでどのような貢献を果たしているかについて述べる。

2.EUのweb2.0市場についての概観
 SNSはこの2、3年で非常に一般的なものとなった(筆者注5)。2007年にEUにおけるSNSユーザー人口は35%増加した。2007年EUのオンライン利用者の56%がSNSを訪れ、定期的ユーザー数は現在の4,120万人から4年後には1億740万になると予想されている。2007年英国では960万人が国のSNSのコミュニティに属し、フランスでは890万人、ドイツでは860万人という数字が出ている。フランスの視聴者は2008年5月だけで合計1億3,700万時間オンラインのビデオを見ており、また携帯電話の加入者のうち329万人が携帯電話でビデオを見ている。
 Facebook、YoutubeやMySpaceといった米国に本拠地を置く知名度の高い企業と平行してEUの企業もこの分野で活躍している。フィンランドの“Habbo Hotel”は8,000万の登録者数がいると主張している。英国の“Badoo” や“ Faceparty”は1,500万人のユーザーの会員資格の結合が行われている。ベルギーに本拠を置く“Netlog”は1,700万人、フランスの“Dailymotion”は1,100万人を数える状態である。オランダの“Hyves”、ドイツの“StudiVZ”、ブルガリアの“Aha.bg”、デンマークの“Arto.dk”、スペインの“Tuenti”、ポーランドの“Grono”等いずれも繁盛している。またこれらのリストには新しい役者が登場している。
 まさに、それらは人脈と娯楽の範囲を広げるということであるが、我々はSNSがさらに更なる機能を果たすことを知っている。SNSは公的機関や専門機関にとって全体的に有益性がある。すなわち、SNSは働く専門家、子供、退職者および旅行者にとって各種サービスを提供する。参加者はネットワークを通じ、個人的な写真、会話、メデイアの娯楽を共有し、また社会や政治的生活の組織化するとともにまだ我々が計画したり想像しえないすべてのことを行っている。
 今、私が述べた数字だけを考えるならSNSがEUの産業界にとって新たな経済的な可能性をもたらすことは否定しがたいといえよう。SNSの持つオープンな性格、インターネットの柔軟性、文化的多様性や高度な対話性、さらに異なる聴衆を企業や改革者が無視しえない環境に導くという事実である。実際、SNSの重要性を理解している企業の中には顧客サービスの改善のためにSNSを利用しているところもある。その結果、顧客は初めて製品改革やサービスの開発に本気で取組み、最終的に当該企業は顧客の忠誠心と更なる購買を獲得するのである。

3.企業内利用の現状
 ある企業は、自社の従業員のために従業員が物理的にどこにいようとコミュニケーションが図れるよう特別なSNSを開設した。その結果、関与意識や生産性向上にかかわる企業の決定に関与していると感じさせる機会を与えることになった。
 広告の分野では、特に潤沢な予算を持たない中小企業にとってSNSはまったく新しい文脈をもたらした。中小企業の40%はウェブサイトの運営は金がかかり過ぎるためウェブサイトを持っていない。しかしながら、ウェブ2.0はわずかな資金でオンライン・コミュニティの参加者することで顧客を楽しませ、かつ自らのビジネスの推進を図る効果的手段となった。

4.人材開発分野
 人材募集と人材開発の専門家は、面談の相手探しを「オンライン接続型」から「ビジネスネットワークやそこでの自己推薦型」へと変えつつある。これは必要とするポストを埋めるのにメディア介在型人材募集より効率的であるといえよう。ドイツのXING(筆者注6)British Ecademyはこの分野で急速に伸びている。

5.研究機関の啓蒙活動
 SNSを通じて研究機関はどこにいても情報と経験を共有化できる。彼らは簡単でかつ直接的な方法で自らの活動内容の説明するために、SNSにより提供される機会を利用する。最近の例では、欧州原子核研究機構(CERN)(筆者注7)の研究関係者が「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」(筆者注8)の機能と目的について説明するのにラップソングを作曲し、Youtubeに載せたところ200万以上の閲覧数を上げたのである。(筆者注9)

6.芸術創造活動分野での利用
 SNSはオンラインの内容が創造的な分野で繁盛している。内容を作成し共有することは今や簡単なこととなり、ユーザーに新しい形の情報を形作る機会を与えることとなった。ビデオ共有会社が好例である。多くのミュージシャンは自らのビデオをMyspaceに置くことで有名になった。また、Daily motionは、創造的なビデオプロデューサーを奨励して短編映画のような文化的行事にリンクする特別なサービス“motionmakers”を新たに設けた。

7.モバイル型SNS
SNSはモバイル・ウェブを成功させることにも貢献できる。新しい研究では、モバイル・ウェブのユーザーが現在の5億7,700万人から2013年には17億人に増加するという予想を述べている。英国のジュニパー・リサーチ(筆者注10)は、SNS、wikis、オンライン・チャット、インスタント・メッセージといった協調的適用の要求の急増がこのような成長の原因であると分析している。

8.SNS運用会社の規模拡大
SNSはユーザー数の増加に伴い、より多くの従業員を雇用し始めている。ベルギーの本部を置くNetlogはSNSの運用の開発費用として500万ユーロ(約7億500万円)投資を誘致した。フィンランドのSulake 社は、同社の主要サービス“Habbo Hotel” (筆者注11)の強固な成長を維持するため1,800万ユーロ(約25億3,800万円)の増資を行った。同社は2000年に設立されフィンランドのヘルシンキに本部と世界中の14の事務所を持つ。世界中の従業員数は約300人以上で世界のデジタル・コンテンツ企業のトップ25に評価されている。(筆者注12)

9.若年層のSNSの利用状況
 若年層はSNSをとり取り込むことが早い。EUにおけるインターネット・ユーザーの平均年齢は過去数年間で低下した。9歳から10歳の子供は現在1週間に数回オンライン接続する。12歳から14歳は毎日1~3時間インターネットを利用している。彼らの主たる活動目的はチャット、インスタント・メッセージングやSNSを介したコミュニケーションであろうか。
 デンマーク、英国やイタリアの研究では、ほとんどの子供や若年層が既存の友達関係を維持するとともに社会的関係の強化を意図してSNSを利用しているといわれている。若年層はSNSが既存の友人関係と旧友との接触を管理する上での効果的手段であると見ている。最近のサイバー・メディア法の研究者(筆者注13)「デジタル時代に生まれた第一世代の子供たちを理解するために(Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives)」が指摘しているように、若年層はいつでもネットワーク技術にアクセスでき、自分たちの両親とは異なる情報、友情やプライバシーといった問題を経験している。我々はこのような新しい状況を考慮しておく必要がある。デジタル第一世代(digital natives)は創造的かつ参加型である。このことは、彼らにリスクとともに新たな自由をもたらす。従って、このことは我々が若年層が安全なかたちで自由を得られることを保障するため協同的な取組みを行う理由といえる。
 “Safer Internet Programme”の中で欧州委員会が立ち上げたパブリック・コメント募集に対し、アイルランドの10代の若者の関心事について共有したい。すなわち「アイルランド国際青年助言議会(International Youth Advisory Congress)」のコメント(筆者注14)の中で子供たちがオンラインで遭遇する主たるリスクの1つである「サイバーいじめ(cyber-bullying)」について言及している点である。

10.段階的自主性の確保、過保護はだめ
 子供たちを保護するために我々は何をすべきか。まず過保護になってはいけない。子供は18歳になると大人になる、我々は信頼性と独立性に向い合えるよう彼らに準備をさせなければならない。我々は非常に幼い子供を保護することから始まり年長の子供にはある程度の権限をあたえるという段階的対応を取るべきである。子供によるSNS利用上の問題について利用可能な研究は少ないが、いくつかの統計的数字について述べておく。デンマークの研究では12歳から18歳のSNSユーザーの31.5%がインターネット利用時に見知らぬ人からいやな経験を受けているとされている。またイタリアの研究では、SNSのユーザーの32.8%が少なくとも1つの不快(ポルノ的な内容、攻撃的なメッセージおよびセクシャル・ハラスメント)な経験をオンライン中に経験している。ユーザーの何人かは本人の同意なしに個人情報をばら撒かれたり、ヌード写真をSNS上で掲載されたというものである。

 ソニア・リヴィングストン教授(筆者注15)が指摘しているとおり、我々は「脆弱性があり、認識面や技術がもたらす社会的発達の過程ですばらしいが一面もろさを持つ子供達を守り」かつ「子供たちはメデイアに精通する技術を持ちながら、彼らの周辺にいる大人たちから過小評価されるため、自らの権利で行動する有能かつ創造的なエージェントであること」を理解しなくてはならない。

 では、我々は潜在的なオンライン・リスクから若年層を守るため子供や青年の生活にどの範囲で干渉すべきであろうか。これに関し年齢確認、クロス・メデイア格付け(区分)について欧州委員会が行ったパブリック・コメント募集に対し、70件の意見が寄せられた。これらの提案中から2008年の“Safer Internet Forum”において、委員会は①SNSへの関与のあり方、②年齢確認の2点について議論に取組んだ。

11.フォーラムでの具体的論議
①効果的年齢確認について
 加盟各国におけるインターネット・ユーザー、特に未成年がアダルト向けの内容サイトにアクセスしたりアダルト商品を購入するときの年齢確認について昨日のフォーラムでは具体的ツール、技術的ならびに法的な挑戦の試みについて議論した。
最近の英国の研究(英国「通信庁(Ofcom:Office of Communications)」)(筆者注16)によると通常、主要なSNSの登録最低年齢が13歳(MySpaceの場合は14歳)にもかかわらず、8歳から11歳の27%がSNSサイトにプロフィールを持っていた。1回目の年齢確認で登録拒否された場合、2回目の登録を拒否するといった登録の規制に関する方法も役に立つかもしれない。しかし、現実に戻ってみよう。未成年の登録を完全に阻止するのは現状では不可能である。インターネット業界は彼らのサービスを利用する未成年を保護することで先見的役割を果たすべきである。私は利害関係者により広く受け入れられて有効な実効性が保証される限り業界自主規制(self-regulation)の支持者である。
 業界による自主規制の具体例を挙げてみよう。
 英国では2008年4月に「2008年SNSプロバイダーおよび娯楽サービス提供者のための良き実践ガイダンス(Good practice guidance for the providers of social networking and other user interactive services 2008)」(筆者注17)が採択された。その策定にあたり、デジタル・コンテンツの関係産業界、英国政府が割り振ったアカデミー、通信事業者、放送機関、NOP等がメンバーとしてかかわった。また、デンマークのインターネット・メデイア協会の自主規制協定、米国連邦司法長官とFacebookおよびMySpaceとの協定が行われている。

 EUにおいて2007年に欧州委員会が主導し成功裡に進んだ携帯電話が若いティーンエイジャーや子供の安全な携帯電話の利用問題に続いて、委員会は現在、子供や若年層が安全にSNSを利用できるためのガイドラインを策定するためSNSと議論を行っている。私はこの点を祝うとともに、2009年2月10日に開催される“Safer Internet Day”において具体的な成果が出ることを願っている。

②サイバーいじめ対策
 我々はすでにSNSユーザーを安全に導くツールや情報に関し、うまく行っている例を持っている。それらの例では「サイバーいじめとその教育問題」と同様に嫌がる内容、不適当、違法な行為を報告する場所がある。攻撃的なユーザーに対する文書による警告、登録アカウントの利用停止や取消といったことにつながるという報告が行われている。警察がその合法性を求めるとき、SNSサイトは国内法に即したかたちで「通信内容データ」と「内容の開示」を行うべくポリシーを有している。さらに、ほとんどのSNSは従業員に対し異なるタイプの状況に応じられるよう教育を行っている。デンマークのNGOであるセイブ・デンマークはSNS業者のArto.dkの仲介役となっており、その点を保存しておいて欲しい。

 SNSの安全な設定に関し、私は特に12歳以下の年少者を目標とする例えば“Penguin、“Cbeebies”“Barbiegirls.com”“Imbee”“kpwebben.se”等チャット、メッセージ交換の内容について事前にスクリーニングする等、仲介機能や最小限の個人情報を収集し、可能な範囲で両親のコントロール権に寄与することが必要であると考える。この点について、もちろんティーンエイジャーにとって状況はそれぞれ異なる。先ほど述べた両親自体が子供を安全に過ごすことやオンラインを倫理的に利用することについて教育すべきであると指摘したアイルランドの若人の貢献の件に戻りたいと思う。また、私は子供や若年層の間における技術の利用や大人の利用に関する理解のギャップが広がっていることを踏まえると正しいことであると考える。

 本委員会に対するパブリック・コメントの中で、発言者は両親と子供の間の議論と協同的利用がオンライン時の子供や若年者を守る最も有効な方法であると指摘された。子供や若年層も他の大人の市民と同様に、彼らの権利を意識すべきである。EU各国は違法な個人情報に使用を保護するための良い国内法を持っている。


 欧州連合は、加盟27か国の協力のもとで「欧州の安全なインターネット環境ネットワーク(the Europe-wide awareness network:INSAFE )」(筆者注18)による意識改革活動を通じて、この問題に取組んでいる。このネットワークの活動は両親、教師や子供に変化を与えることを目指している。 
 INSAFEによって組織化された活動の代表的なイベント(毎年開催)が“Safer Internet Day”である。2008年は50か国以上100の機関が参加し本当に国際的なイベントとなった。2007年のイベントでは、デンマークのティーンエイジャーが良く利用するデンマークを拠点とするSNSサイトと協力して非常にうまく行っているキャンペーンを立ち上げた。そのキャンペーンは「アンチ・ヒーロー」というタイトルで個人情報や友達のビデオを流し、ありとあらゆる悪さを行うといったユーモアたっぷりのものであった。2009年2月10日に次回の“Safer internet Day”が始まる。
 欧州委員会は、子供のオンライン利用時の安全性の強化するための努力を続ける。委員会が提案した2009年から2013年を新たな期間とするより安全なインターネット・プログラム(サイバーいじめやその教育対策等で特にSNSを通じて広がったリスクを排除することが目的)が、2008年末までに欧州議会と閣僚理事会において採択されることを希望する。

13.まとめ
 SNSは我々に1枚のコインの両面を与える。一方で、SNSはITの新技術を使い理解するといった変化をもたらした。我々をインターネットの活発なユーザーに変え、オンラインで新しい様式の芸術を作るための特殊技能が必要でないことを示した。またSNSは、我々の、①社会的関係、②どのように仕事を得るか、③情報をどのように探すか等についても変化をもたらした。そうすることで、SNSは現実社会やオフラインの世界の市民と同じくらいにオンライン世界の市民であるデジタル時代に生まれた子供や若人の日々の生活に影響を与えてきた。
 他方で我々はデジタル社会が子供や若人のプライバシー権を尊重し可能な限り安全であるよう保証しなければならない。若年層に人々が自分自身を表現することを許し、またSNSが提供する多くの機会に接する利益がいかに重要かを忘れてはならない。

 このことが、我々が若い世代に①リスク、②権利に関する情報や③彼ら自身を守るためのツールを提供しなければならない理由である。そして、我々は我々自身が彼らの考え方、要求、不満ならびに大変大事なのは彼らの助言に耳を貸すといったかたちで相互のコミュニケーションのチャンネルを常に開いておくということである。

 私は今回参加された皆さんが、我々の責任をすべて理解されていると信じる。2009年2月に開かれる“Safer Internet Day”までにSNSが未成年者の保護やデータのプライバシー保護に関する自主規制に取組み、適宜な「行動規範(code of conduct)」を持つことを期待する。そのことが、EU全体でSNSを前進させる重要なステップとなろう。

*********************************************************************************

(筆者注1)SNSは、欧米ではSNS(Social Networking Service/ Site)の略語。

(筆者注2)レディング氏のスピーチは、項目立てがないので筆者の責任で項目立てを行った。なお、レディングのスピーチ原稿の最後に事務局がまとめた資料“Social Networking Sites: Commissioner Reding stresses their economic and societal importance for Europe”のURLが紹介されている。本ブログの最後にあげておいた。併読されたい。

(筆者注3)残念ながらジェトロの市川氏のレポートは米国が中心であり、ENISAのポジションペーパーについては15項目の問題点と19項目の改善勧告を行っていると説明しているのみである。

(筆者注4)SNSにおける年齢確認については利用者が急速に伸びた2007年5月頃から問題となっているようである。
英国政府のブロードバンドのあり方に関し主導的役割を担っているBSG(Broadband Stakeholder Group)が2008年7月に「年齢確認、クロスメディア間の格付け分類およびオンラインSNS(Age Verification, Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking) という5頁ものの報告書をまとめている。また、“Second Life”や“MySpace”において未成年者保護という観点から取り上げている。Second Lifeは18歳以上が自由な利用可能者であり13歳から17歳まで用には別途“Teen Second Life”を用意し、年齢確認のベータ版を2007年5月に開始している。平易な解説Q&A が用意されているので参考となろう。

(筆者注5) SNSが米国の一般人に極めて日常的に利用されている例としては、reuters等の大手メディア・サイトでも“Facebook”による情報・意見の共有というかたちで具体化している。

(筆者注6)XINGのサイトでは16カ国語で利用できる。ただし日本語の「利用規約」を読んでみたが、いかにも直訳的な内容である。

(筆者注7)ジュネーブ郊外にある欧州合同原子核研究機構(CERN)が建設中の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)がいよいよ2008年夏に完成し、史上最高エネルギーの素粒子実験が開始される。これまで建設に14年の歳月を費やしたこの加速器は、現在の最高エネルギーを一挙に7倍(14 TeV)にまで高める性能を有する。LHCでの高エネルギー陽子・陽子衝突の反応を記録する巨大なアトラス測定器も完成に近づいており、実験開始に向けて調整を行っているところである。今後数年のうちに、素粒子の質量の起源ともいわれる未知の素粒子であるヒッグス粒子や、宇宙の暗黒物質の解明にもつながる超対称性粒子などの新発見が期待されている。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用・一部表現を追加)

(筆者注8)CERNはヨーロッパ諸国により設立された素粒子物理学のための国際研究機関。設立は1954年。所在地はスイスジュネーブ郊外。加盟国はヨーロッパの20カ国。 日本は、米国、ロシア等と共に、オブザーバー国として参加している。世界の素粒子物理学研究者の半数以上(約7,000人)が施設を利用している。(東京大学 大学院理学系研究科サイトから引用)

(筆者注9)ラップソングを作曲したのはミシガン州のサイエンスライターのKate McAlpine さんである。この話は関係者の間では大きな話題となっている。本ブログの読者も一度閲覧してみてはいかがか。

(筆者注10)Juniper Researchは、英国に本社を置く、コンテンツ専門の調査会社で、特に、成長著しいモバイル分野としては、ゲーム、着信メロディ、ギャンブルなど多岐にわたるレポートを出版している。

(筆者注11) Habbo Communitesは世界32カ国の子供等が利用している。もちろん日本語のサイトがあり、自由に利用しているようである。筆者が閲覧している時点でもオンライン利用者が371人、過去30日間の訪問者数は延べ239,102人と表示されていた(フィンランドのサイトを見たがオンライン接続中が1,612人、過去30日間の延べ訪問者数は1,238,744人であった(フィンランドの人口は約530万人)。このSNSサイトは「Habbo ジャパン株式会社」が事業主体であり、当然ながら商品の購入などに関しては「特定商取引法に基づく表示」が行われているとあり、同法11条に基づく要件は一応満たしていると思われるが、相手が未成年であることを前提するとこのままでよいのか大いに疑問である。
 ある通信販売業者の表示例では、「未成年者の場合は、親権者の同意を得た後ご購入下さい。そうでない場合、 弊社の商品は未成年には販売できかねますので、ご了承下さい。尚、未成年者が成人と偽って購入された場合は、民法により成人者と同様の扱いになりますので、 ご注意下さい。」とある。これも言葉足らずであるが、少なくとも言及している。
  より正確には、「民法4条の規定では、例外を除き未成年者から注文があった場合、その未成年者は注文を取り消すことができるとされている。これを回避する方法としては、注文画面に年齢を確認するためのフォームを用意することが考えられる。これにより、Webサイト運営者が未成年者を誤って成人と判断した場合には、民法20条にもとづき未成年者側は取消権を失う可能性がある。(経済産業省「 電子商取引等に関する準則(平成18年2月)」29~30頁参照)」であろう。

(筆者注12)Silicon Alley Insider社は世界的デジタル・コンテンツ格付け企業である。
 そのHPを見ると“SAI 25”と言う項目があり、最新のデジタルコンテンツ企業上位25社がリストアップされている(Facebook(評価額90億ドル(約8,820億円))、Wikipedia(同70億ドル) 、Craigslist(同50億ドル)、Mozila Corp(同40億ドル)等があり、Habboは12億5千万ドル(約1,225億円)と上位グループに入っている。なお、Habbo の企画運営会社であるSulake 社のHPを見るとヴァーチャル世界およびSNSに特化したオンライン型娯楽企業であるとしている。


(筆者注13)レディング氏が引用した最近の研究とは、2008年9月1日に発刊された“Born Digital:Understanding the First Generation of Digital Natives”である。この本の執筆者(John Palfrey 教授とUrs Gasser助教授の共著)はハーバード・ロー・スクールのサイバー法やメディア法の研究グループBerkmann Center for Internet & Societyのメンバーである。実は過去のブログでも紹介したことがあるが、筆者も同センターのディスカッショングループのメンバーである。

(筆者注14)レディング氏はコメントのもととなる欧州委員会の公的資料には言及していないが、筆者が独自に知らべた限り次の資料にもとづくものと思われる。
“PUBLIC CONSULTATION ;Age Verification,Cross Media Rating and Classification,Online Social Networking”のQuestionnaire 3の箇所である。 http://ec.europa.eu/information_society/activities/sip/docs/pub_consult_age_rating_sns/results/iyac_a532002.pdf

(筆者注15)Sonia Livingstone 教授はロンドン大学メデイア・コミュニティ学部教授で社会心理学が専門である。

Sonia Livingstone 氏

(筆者注16)英国では、2003年7月にEU での先陣を切って通信と放送両分野の規制の統合を目的とする新たな法律として「2003年通信法(Communications Act 2003)」が成立した。これに基づき、同年12月通信と放送分野に個別分散していた5つの規制機関が廃止され、それらの機能・権限を統合した新しい独立規制機関「通信・メディア庁」(Ofcom:Office of Communications)が誕生した。(レファレンス2004.11号 69頁より引用)。なお、Ofcomの活動内容については筆者が2006年5月13日付ブログで紹介している。https://blog.goo.ne.jp/fukuhei_2006/e/cc24045a04b98232e06798e596171db4

(筆者注17) レディング氏の原稿に基づき筆者が独自に調べたが“Good practice guidance for the providers of social networking ”と言うガイダンスは英国内にはなかった。本文の標題が正しいと思う。
 同ガイドラインの策定プロジェクト・チームのメンバーは次の機関である。英国・米国の業界代表はもちろん研究機関、NPOだけでなく放送機関も含まれる等幅広い研究姿勢が伺える。AOL UK、Yahoo!UK、MySpace、セントラル・ランチェスター大学(サイバースペース研究機構)、ロンドン大学のソニア教授、安全なインターネットのための慈善組合連合、Orange、Facebook、Childnet Intenational、BBC、全米子供の搾取から権利を守る保護センター、Internet Watch Foundation、UK モバイルブロードバンド・グループ、Google /Youtube、Mychild Online(オランダ)等である。

(筆者注18)“insafe”は、要するにEU加盟国が協力して安全なIT社会特に若年層の保護を狙いとするネットワーク拠点である。実際アクセスしてみると分かるが、各国の情報拠点との接続やEU加盟各国(25か国)へのヴァーチャルツアー接続ができる。試しに英国の国旗フラッグをクリックしてみた。主人公の名前の紹介からはじまり、“detail” というタイトルのアニメが始まった。要するに「個人情報は簡単に他人に渡してはいけないよ!」という内容である。マイクロソフトが作成したもので大変楽しくかつ教育的配慮が気に入った。このほかに、違法なSNSのコンテンツの報告サイト(国際インターネットホットライン協会の報告サイト(inhope )にリンクする。当然ながら、EU以外のわが国や米国、台湾、韓国など35か国がリンク対象国になっている)やFAQによる解説など、わが国でも多くの参考となる内容が盛り込まれている。
 
〔参照URL〕
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=SPEECH/08/465&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/08/587&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en
*******************************************************************************************

Copyright © 2006-2021 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.

 




コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする