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米国の新型インフルエンザA(H1N1)の第二波への準備状況とワクチン開発の最新動向

2009-06-05 03:59:50 | 海外の医療最前線

Last Updated :March 5,2021

 5月30日の本ブログで予告したが、5月27日の朝日新聞夕刊で紹介された米国連邦保健福祉省(Health and Human Services:HHS)の疾病対策センター(CDC)科学・公衆衛生プログラム担当臨時副センター長(Interim Deputy Director for Science and Public Health Program)アン・シュカット医学博士(Dr.Anne Schuchat)が5月26日に行った記者会見は電話記者会見(Press Telebriefing)であった。(筆者注1)(筆者注2)

Dr.Anne Schuchat

 新聞記事に書かれている会見での博士の冒頭のコメントや各メディアとの質疑応答を原資料(transcript)に基づいて敷衍してみる。メキシコから世界46か国への急速な感染拡大が始まって約1か月がたち、米国は新型ウイルスの疫学面や坑ウイルス薬の検証・研究が進み2009年秋以降への準備のために、この8週間から10週間が第一トラックを走ることになる、また、これから南半球が本格的なインフルエンザ流行の季節になり、変異しつつある新型ウイルスへのヒトの抵抗力が試される時期に入る。2009年秋に向け季節性インフルエンザのピーク対策に加え、今までの感染の監視結果や研究室での試験結果等に基づく、新ワクチンの準備が政府・関係機関の当面の最大の焦点ということになる。(筆者注3)
 これらの取組むべき課題について、米国の動向を紹介するのが今回のブログの狙いである。


 なお、米国では新ワクチンの研究・開発に関してはHHSが5月23日付けで、「新型インフルエンザA(H1N1)のワクチン開発」に関し“The Biomedical Advanced Research and Development Authority;生物医学先端研究開発局;BARDA”が取組んでおり、新ワクチンに関する大量生産準備の重要な段階に入る旨ならびに同計画に関する“Q&A”を公表している。
 その内容および欧州疾病対策センター(ECDC)の新ワクチン研究・開発の動向きについても紹介する予定であるが、時間がないので機会を改める。

 これに関し、わが国では国立感染症研究所等のサイトでは医療機関向けタミフルなどの抗インフルエンザ薬の予防投与の考え方等は説明されているが、ワクチンの開発動向に関する情報は見当たらない(6月2日付けで国立感染症研究所感染情報センターがWHOの「新型インフルエンザA(H1N1)に対するワクチン“Q&A”(5月27日改定)を公表している)。しかし、同研究所の最近時のコメントは季節性インフルエンザと重症度が季節性のものと変わらない点を鵜呑みしたり、世界的に見てH5N1の感染リスクがなくなったわけでない点をあらためて強調している(わが国の疫学専門サイトは、基本的に分かりやすさを追求するあまり、科学的な説明が不足がちである。) (筆者注5) (筆者注6)

 さらにいえば、「ワクチン接種に関するガイドライン」について平成21年2月17日開催の新型インフルエンザ及び鳥インフルエンザに関する関係省庁対策会議において策定された「新型インフルエンザ対策ガイドライン」の中に「ワクチン接種に関するガイドライン」があるが、中身は空(「おって策定することとする」のみ)である。


1.米国の新型インフルエンザA(H1N1)ワクチン候補株(candidate vaccine)の開発・製造に関するHHSのリリース
 5月22日に行ったHHSのリリ-ス内容は次のとおりである。

・HHSのSebelius長官は、5月22日にHHSが新型インフルエンザA(H1N1)の将来的工業生産規模の準備のため重要な段階に入り、このため予備流行段階のインフルエンザ備蓄のため本年夏に行う臨床研究と2つの潜在的ワクチン成分の工業規模生産に使用するため既存の基金約10億ドル(約950億円)の投入を指示した。

・同基金はインフルエンザ・ワクチンのため米国に免許を持つ医薬品会社との契約に基づく新しい注文に使用され、それに基づきワクチン抗原(vaccine antigen:抗原は、アレルゲンとも呼ばれ抗体を産生する物質。抗体は体内に侵入した抗原に結合することにより、毒性を失わせたり、ウイルスの感染性を失わせたり、あるいは体外へ排泄する作用をする有効成分。) (筆者注7)とアジュバント(adjuvant:免疫補助剤(抗原とともに生体に投与されたとき、その抗原に対する免疫応答を非特異的に増強させる物質))を大量に提供する。

・この両者が確保できると、将来の推薦できる免疫プログラムに対しては柔軟性をもって提供できる。例えば、2005年「全米パンデミック・インフルエンザ戦略(the National Strategy for Pandemic Influenza)」(筆者注8)に基づき勧告を受けたときは、健康医療サービス担当者やそのた重要インフラに関与する人々の健康保護を支援するためにこれらの成分が必要になった場合等である。

・これらの基金に基づきワクチン製造メーカーは、ワクチンの適切な投与量、アジュバントが適切であるか否かおよびワクチンが安全で効果的であることの保証といった医療研究に使うことができる。米国政府はWHOや他国の関係機関とこれらの医療研究結果を共有すべく、また米国が研究を進めてきた投与量、安全性や効果についての情報を提供するつもりである(HHSのBARDAは2004年にインフルエンザの大流行に関しワクチン製造メーカーと開発・提供契約を結んでいる)。

2.CDCのアン・シュカット博士の記者会見の説明内容
(1)5月22日の記者会見時に同博士が述べた内容は、前記HHSのリリース説明より具体的であり、併せて説明しておく。(筆者注9)
「5月22日、CDCはニュ-ヨーク医科大学(New York Medical College)から新型H1N1ウイルスの遺伝子と他のウイルスの遺伝子を結合した候補ワクチン・ウイルスを入手した。このタイプのハイブリッド・ウイルス (筆者注10)はワクチン生産に不可欠な卵の中でより成長をみる。CDCは連邦食料医薬品局(FDA)とともに逆行性遺伝学(reverse generics:目的の遺伝子を選択的に破壊することで、その遺伝子の生体内における機能を解析する研究手法)を用いて第二の候補ウイルスを創り上げた。CDCは最適の免疫反応を得るため両者を試験中である。我々は適切なウイルスにした後、ワクチン工場にそれらを運び込みことになる。
 5月末までにその試作品を数か月検査し、安全確認を行い、一方または両者が使用可能であることが判明したときは、製造メーカーは2009年夏に試作品が安全であるか否かを確認するパイロット・ウイルスの生産を開始することになろう。これに関連し、5月22日に公開された内容は新しい新型インフルエンザ・ウイルスを創る遺伝子の多くが10年間以上豚の間で検出されないまま循環していたことを示唆している。」

(2)記者との質疑応答の要旨
 CDCとして新ウイルスの感受性分析、国際機関や他国との連携研究、各州の感染の現状分析、学校での集団感染リスクなど国内やグローバルな視点から、今後の米国としての取組みに関する重要な疑問に答えており、極力原文に忠実に全部紹介した。ただし、専門外なので誤訳などがあれば専門家の補足説明やコメントを期待する(質問の内容を読んで、わが国のメデイアもこのレベルに達して欲しいと思うが贅沢か?)。

ワシントンポスト:先生は入院したインフルエンザの重症事例として患者の半分(彼らは基礎疾患がない若い青年)に対して研究が行われたと説明されたが、ある意味で大変ショックを受けてことは10代や20歳代の青年が、なぜ最後に人工呼吸器をつけなければならないのか。あなた方は、あらゆる調査を行っているがそのような重症に感染しやすいことにつき何か「遺伝的な特性(genetic characteristics)」が認められるのか。
〔博士〕我々は入院患者の臨床パターンを理解するとともにその原因となった真のリスクの要因を特定すべく、仮にあるとすればよりそれを特徴づけるためのプロジェクトを現在進めている。私は季節性インフルエンザでさえ他の健康な人々に重大な合併症を引き起こすことがあると考える。我々は、米国内の小児の死亡について積極的に報告を行い、実際毎年50人から100人がインフルエンザで死亡している。彼らの多くは基礎疾患はない。インフルエンザで死亡する大多数はシニア層であり、実際入院する人は基礎疾患者である。しかし全体としてみれば、健康な若い人や10代の人でもこの季節性インフルエンザで死ぬことがある。遺伝学上のリスク(genetics of risk)は面白い関心テーマである。その研究が現在進められているかは確かではないが、季節性インフルエンザ問題とともに興味深い研究課題である。

ウォール・ストリート・ジャーナル:先生は、さきほどインフルエンザに似た感染者(influenza-like illness)数は予想したレベルに戻りつつあるといわれたが、そのことは季節性のインフルエンザのことを意味するのか、またはH1N1のレベルを意味するのか。我々が日々見る感染者数はそれとは反対のことを示しているが。今年の夏中も感染者数が増え続けると見ているのか。
〔博士〕我々がインフルエンザに似た感染についてウイルス検査を重ねてみたときに分かったことは“influenza-like illness”の大多数がウイルスとして分離出来るということである。まさに、今の問題が「新型H1N1ウイルス」なのである。数週間前はまだ一部季節性インフルエンザが流行していたが、現在「陽性」とされた場合はすべて新型H1N1ウイルスである。“influenza-like illness”の傾向についてより広く見るため国内の各地域別に見たとき、大部分の地域では減少し続けている。この時期としてはこの数週間は並外れた感染拡大が見られたが、国内9つの地域に分けて見ると1つのみの上昇傾向にあり、その他1から2の地域は予想したよりわずかに高い。今後の新型インフルエンザ・ウイルスの流行予想であるが、現時点ではおそらく1週間前より低くなっているといえる。

USAトゥディ:今年の冬における南半球の新型インフルエンザの追跡調査について説明して欲しい。
〔博士〕最も重要な側面はおそらくウイルスを正しく理解することであろう。このことはインフルエンザ疾患の人の実験室内での呼吸状態の検査が必要であり、我々が開発および配分する特別な試験キッズが必要となる。南半球には定期的にインフルエンザ調査を行う実験室が一定箇所あり我々は定期的なウイルス検査の中で新型インフルエンザの検査を最優先させることを希望している。また、我々はこの疾患の疫学的特性(epidemiologic characteristics)に関心をもっている。
 すなわち、①このウイルスは肺炎を併発し長期の入院を引き起こすか。②二次的細菌性肺炎を引き起こすのかまたはウイルス性の状況を優先させて見せているのか、③その環境は何か、④学校や集団での大流行を見ているが感染者を運び込む病院や地域での厳格な予防策はあるのか。
 これらの問題につき我々は取組んでいる。CDCはWHOや世界中の保健担当大臣等とともに感染症の調査機能、実験室の機能や現地調査の機能強化に取組んでいる。また汎米保健機関(Pan-America Health Organization:PAHO)や南半球での積極的な開発計画に関し一定のパートナーとの連携作業を進めつつある。

サイエンス・マガジン:第1に、米国のインフルエンザ拡大はピークに達したといわれたが本当か。第2に、2,000万人分のワクチン成分の購入を決定したとあるが、残りの米国民への購入決定はいつ行われるのか。
〔博士〕H1N1の感染がピークかどうかという問題は複雑な問題である。私は天気に例えて説明するのが好きである。米国の一部の地域では寒冷前線が発生するかもしれないが大部分はより暖かくまたは夏の季節に入る。この病気がニューヨーク市やその一部の地域でなお活発なことは知っており、地元民から見ればこの状況はまだピークとはいえないであろう。全米的な統計や大部分の地方の統計は毎年のこの時期のピークを過ぎたことを想像させる。我々はその次の段階を考えており、さらに暖かい季節が来ることが我々に中休みを与えてくれている。
 ワクチン投与の問題に関する質問は重要な問題である。我々は、①ワクチン開発にかかる最初のステップ、②ワクチン製造にかかる次のステップ、さらに③一部または全国民に投与の決定というステップを分けて考えようとしている。これらのステップの決定に当り具体的な証拠に基づく十二分な熟考が必要であるが、免疫に関する決定は可能な限り遅れてはならないと考えている。この考えは、現在の深刻な状況とウイルスとともに生じている問題については南半球での経験のすべてを学ぼうということである。この対ウイルスのために開発している臨床パイロットの単位からすべてを学び、また試験したワクチンがさらに安全なものか、また潜在的リスクや潜在的有益性を理解し、おそらく今年の夏の遅い時期または初秋に決定するであろう国民への免疫提供プログラムに生かすつもりである。(筆者注11)

ヘルス・ディ(HealthDay):まさに今年の秋にウイルスが押し寄せてくると予想するのか。また、もしそうであるなら現状よりさらに悪くなると予想するか。
〔博士〕この点ははっきりさせたい。季節性のインフルエンザは今年の秋または冬に再び戻ってくる。毎年我々は多種のインフルエンザ種が流行し、その発病のタイミングは米国内の地域により晩秋と冬では大変異なる。毎年インフルエンザは季節性の問題として流行し続け、次の秋、次の冬と流行し続ける確かである。最近時に発生したインフルエンザよりさらに重度の病気を引き起こすか、流感ウイルスを支配するのか、または実際消えてしまうのかは予測できない。インフルエンザの大流行は時として波を打って押し寄せ、大変被害の大きかった「1918年インフルエンザ」では中程度の予告的な波が春に押し寄せ、大変ひどかった波は秋に来たことを記憶している。1918年の極めて悲惨な経験は心に残っている。しかし、我々は南半球においてこの冬に今回のウイルスが多くの疾病、一定規模の疾病を引き起こすか、または何も引き起こさないかにつき今言うことは出来ない。まさにその「可能性」のために準備しているのである。

カナディアン・プレス(筆者注12)今ほど説明された感受性試験(susceptibility testing)について伺いたい。すべてのウイルスがすべてOsteltamavir(製品名:タミフル)とZanamavir(製品名:リレンザ)に感受性がある、またはこれらの薬によりウイルスの感受性が減じると考えてきたがいかがか。
〔博士〕我々が試験したすべての新型H1N1ウイルスは、感受性がある。これと異なる結果を出した他の研究室は気にとめていない。この点につき私は本日問題解決のヒントがあるかどうか聞いたが答えは“No”であった。私の最新情報では我々は新型インフルエンザ・ウイルスに関しタミフルやリレンザの耐性(resistance)問題は調査していない。我々は季節性インフルエンザ・ウイルスの耐性はタミフルに対し実質的に感受性を持っているという観点から耐性の問題をとらえている。従って、ウイルスの動向を追跡しており、新型H1N1ウイルスが常に感受性(sensitive)があると信じてはいない。しかし、当分の間、我々の研究室から好ましい情報を提供し続けるつもりである。

○AP通信:先ほどの「ヘルス・ディ」の質問の通りであると思う。自分は南半球での監視体制についてその効果を疑問視している。先生は汎米保健機関(PAHO)と共同した研究を行うといわれたが、問題の季節はまさに南半球にある。我々に具体的な監視参加国に関する情報を示して欲しい。また、米国の新型インフルエンザ感染予防のためのワクチンについて説明されたが、南半球へのワクチン問題はどうなっているのか。南半球では流行の季節が間近に近づいており、あなた方はこの状態にうまく対応できるのか。
〔博士〕逆に質問させて欲しい。ワクチンの開発にかかるステップは極めて多い。
南半球での流行シーズンに備えたウイルスの開発・製造に十分な時間がない。従って、不幸にも我々が考えもしなかった新種ウイルスの出現と検出のタイミングにおいて南半球の流行シーズンのピークに合わせた適切なワクチンを確保することが出来なかった。一方、WHOは製造会社、ワクチン開発の最終的な必要性に向け開発途上国と共同作業を行っている。
 もう1つの質問である南半球の国々とは具体的にどの国かという点であるが、CDCはWHOの世界的なインフルエンザ監視ネットワークの一部である。我々も、また新ウイルスに対抗できる試薬(reagents)を開発し、正確な数字は今手元にないが100か国以上の国に移したと信ずる。我々はインフルエンザ研究施設を持つ他のほとんどの国が米国の新キットを活用し、新ウイルスの特定のために追加的に技術支援してくれることを期待する。そのことが南半球における重要な試薬の備蓄と試験をさらに進める技術的な支援を行う第一の方法となろう。さらに付け加えると我々は臨床疾患を調査するための積極的な努力をしたいと考えており、そのことがCDCが多くの国で呼吸疾患に的を絞り進めて来た本来の努力を真に形成することになる。どの国が我々の主たる対象となるかについての詳細はまだいえないが、今後の記者会見においてあなた方メディアと共有したいと考えている。

New York One :まず米国内で高い陽性感染者の増加が見られる地域があるといわれたが明らかにニューヨークがその1つであるというのは正しいか。また、他の地域について具体的にコメントして欲しい。また、CDCの監視結果についてニューヨークに特化して言えばCDCの研究スタッフは今回の感染拡大の震源地(epicenter)と思われるクイーンズ行政区の現場で原因を突き止めるため何を行っているのか、また仮に震源地であるとすればなぜより大きな地域(そこでは人々はバス、地下鉄や徒歩で多くの接触がある)に感染が拡大し漏れ出さないのかについて調査しているのか。あなたがたが予想しているどのくらい長期にこれらの活動が続くのか、すでに暖かい季節に入ったがウイルスの活動にどのような影響を与えると見ているのか。
〔博士〕ニューヨークは“influenza-like illness”に関し依然の数週間より高いレベルにある2地域(ニュージャージーとニューヨーク)のうちの1つである。
比較的高いレベルにある第2のグループとはニューイングランド6州(コネチカット、メイン、マサチューセッツ、ニューハンプシャー、ロードアイランド、バーモント)である。ニューヨーク、ニュージャージーとニューイングランド地区は他地区が減少傾向にある中でなお基本線のレベルを上回っている。第2の質問に関し、CDCはニューヨーク州保健局に対し州内の都市全体の状況のより正確な把握を行うため幾人かの専門家を派遣しているが、州当局が独自に大変活動的な報告が行える状況になったら引上げる予定である。
 第3の質問についてこのウイルスが米国内やニューヨーク州でどのくらい長く循環、感染拡大を続け、病気を引き起こすか、これはまさに取組むべき課題の1つである。時としてインフルエンザは夏でも病気を引き起こしており、季節性インフルエンザ・ウイルスはサマーキャンプで大流行することがある。この問題は一定の環境、すなわち人口特性や実際我々が知らない基準に基づくウイルスの生存性(survivability of the virus)の機能問題である。従って私はニューヨークがこの数週間および数か月後に感染事例がなくなるということは希望するが明言することは出来ない。しかし、南半球に関心を向けかつ今年の秋に向けて準備している理由の1つがそこである。ご存知の通り、ニューヨークでは積極的に調査が行われ、入院問題と取組んでいることから、我々はニューヨークの拡大する季節は終わったとは思ってはいない。

グリニッジ・タイム:学校閉鎖について質問する。最も新しいCDC勧告によると、学校の活動を妨げるような大規模な欠席がある場合以外は学校閉鎖は不要としている。しかし、CDCの最近の調査でも特に「地域1」や「地域2」(筆者注13)では新たな感染例がある。感染事例の検出に基づく感染拡大を阻止すべく学校を閉鎖させるといったガイドラインや助言の更新は行わないのか。
〔博士〕私の記憶では5月5日以降、暫定ガイダンスの改訂は行っていない。同ガイダンスは1918年の過去最大の緊張から学んだより緊張感のある世界的流行の今回のウイルスの重大性や伝播性に関する情報を織り込もうとした。今回のウイルスに関し感染拡大を低下させるため下校を勧告しなかった。学校で感染が起きた当初の対応に関する勧告を行った。その代り、我々は地方自治体これらの決定を行い、下校の決定要素は学生や教員等の欠席率により本当に学校が機能しなくなった程度の判断によるべきとの助言を行った。地方自治体が考慮すべき事項としては、われわれが手助けできるウイルスの重大性判断に加え、複合的な要素(学校の規模、彼らが学校にいないときどのようなサービスを受けられるのか、学校の行事の最中であったらどうするのか、競合するニーズがないか、彼らが学校にいないことによる彼らへの潜在的保護の価値とのバランスはどうか)などである。CDCやほとんどの自治体のガイダンスの対象は病気で在宅治療し、また回復した学生の保護が重要であると考える。学校で感染が生じた時は自宅で治療が行えるよう自宅に送り、学校の環境を混乱させないことが重要である。下校を勧告し続ける我々の現在のガイダンスは、感染の低下が目的ではなく学校のもつ機能がゆえに自治体が個別に決定するために必要なものと位置づけている。
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(筆者注1)CDCではインフルエンザに限らず“Press Telebriefing”はよく行う。緊急性が高いテーマを扱う機関らしい。「電話記者会見」であり、当日のやり取りは“webcast”で聞くことが出来、その内容は後日、記録(transcript)として公開されるとともにMP3ファイルで音声(やや聞き取りにくいが)でも確認できる。

(筆者注2)わが国のメデイアだけでなく研究機関においても米国CDCの動向は目がはなせないようである。国立感染症研究所の感染症情報センター(Infectious Disease Surveillance Center:IDSC) 「最新情報」サイトでは、CDCが発表する「ガイダンス(手引)」の仮訳がこのところ頻繁に行われている。
 最近時かつ一般人向けとおもわれるテーマに絞って掲載しておく。
小児における新型インフルエンザ A (H1N1)ウイルス感染に対する予防と治療の暫定的手引き(Interim Guidance for Clinicians on the Prevention and Treatment of Novel Influenza A (H1N1) Influenza Virus Infection in Infants and Children)を5月13日発表: (IDSC訳文発表日5月27日)
新型インフルエンザA(H1N1)によるヒト感染に対応した、集会に対するCDCの暫定的手引き(Interim CDC Guidance for Public Gatherings in Response to Human Infections with Novel Influenza A (H1N1)) を5月10日発表 : (IDSC訳文発表日5月26日)
新型インフルエンザA(H1N1)ウイルス感染患者及び濃厚接触者に対する
抗ウイルス薬使用の暫定的手引き-改訂版(Interim Guidance on Antiviral Recommendations for Patients with Novel Influenza A (H1N1) Virus Infection and Their Close Contacts)
を5月6日: (IDSC訳文発表日5月20日)

(筆者注3) 厚生労働省厚生労働省結核感染症課は、5月28日付けで都道府県等の衛生主管部局宛事務連絡「 新型インフルエンザにおける病原体サーベイランスについて」を発布している。その目的と要請内容は、「 都道府県及び国において新型インフルエンザ及び季節性インフルエンザの流行状況について迅速な把握を行い、流行状況に応じた適切な対策を講じるため、新型インフルエンザの検査診断に加え、季節性インフルエンザの病原体サーベイランスとあわせた新型インフルエンザの検査について、地域の状況に応じ、可能な限り実施してする」とある。
http://www.mhlw.go.jp/kinkyu/kenkou/influenza/hourei/2009/05/dl/info0528-04.pdf

(筆者注4) 厚生労働省医政局経済課は5月28日付けで (社)日本衛生材料工業連合会宛協力要請に事務連絡「新型インフルエンザの国内発生に伴うマスク等の安定供給について」を発している。そこに言うマスクとは特に「N95、サージカルタイプ、不織布タイプ」である。

(筆者注5) 本ブログの執筆中に慶応大学医学部熱帯医学寄生虫学教室生物災害危機管理研究室のブログ“Biosecurity Watch by Keio G-SEC Takeuchi Project”を見た。「バイオ・セキュリテイ」という筆者にとっては目新しい用語であるが、これらの研究があらためて注目されるべき時期になりつつあるのか。

(筆者注6) 科学的でないということは説明の曖昧さにつながる。例示しよう。「マスク」である。CDCが2007年5月に発表した市民向けガイダンスは「フェイスマスク」と「医療用レスピレーター(N95以上:サージカルでは不適)」の効果を機密性、感染持続時間、装着性から比較し、その使用場所において適切な選択使用が効果的である、すなわち「フェイスマスク」通勤電車等や人ごみのなかで鼻や口との接触(液滴:droplets)を極力避けうるという意味で有効であり、他方、医療用レスピレーターは医療機関、検疫機関等や感染者との接触が不可避な場合に有効であるのである。両者とも感染の機会の減少効果はあるものの万全ではない。

(筆者注7)「抗原」、「抗体」、「免疫」やワクチンのイロハを説明しておく。体を守っているのが「免疫」で、主役ともいうべきタンパクに「抗体」がある。ポリオやインフルエンザのワクチン接種も、抗体の免疫性を利用したもの。一例をあげると、インフルエンザのワクチンは、感染性をなくした不活性ウィルスである。これを皮下に注射することで、このウィルスの抗原に結合する(特定の)抗体が、血液中にできるのである。

(筆者注8) “the National Strategy for Pandemic Influenza”は2005年11月1日にホワイトハウスから発表された基本国家戦略で、毎年報告が行われている。

(筆者注9) 米国におけるインフルエンザa(HJ1N1)用新ワクチンの開発は医療研究機関からCDCやワクチンメーカーに渡りつつある具体的状況が5月3日付けの「ニューヨーク・タイムズ」等が報じている。
http://www.nytimes.com/2009/05/06/health/research/06vaccine.html?_r=1

(筆者注10) 「ハイブリッド・ウイルス」とは ヒトや豚が、鳥インフルエンザとヒトのインフルエンザに同時に感染して、体内で混ざり合い、ヒトからヒトへ感染するが生まれる。(ハイブリットとは「複合」という意味)。ところで新型インフルエンザはどこから来たのか。大阪府立公衆衛生研究所サイトの説明要旨は次のとおりである(専門用語は一部加筆した)。「ウイルスの遺伝子配列が決定され、その由来がある程度判明した。インフルエンザ・ウイルスの遺伝子RNA(リボ核酸)は8本の分節に分かれており、新型ウイルスの亜型を決定するヘマグルチニン(血球凝集素Hemagglutinin:HA)遺伝子と他の2本の遺伝子は北アメリカの豚インフルエンザ・ウイルスに由来するH1N1型のウイルスである。他の2本は北アメリカの鳥ウイルスに由来し、別の2本はユーラシア大陸の豚ウイルスで、残りの1本はヒト・ウイルスに由来することが判明している。従って新型インフルエンザは少なくとも4種類のウイルスの「ハイブリッド・ウイルス」であると考えられる。」。

また、日経メデイカルの解説「H5/N1ハイブリドウィルス誕生の要点とその意義」もわかりやすい。

(筆者注11) 5月26日の記者会見時の取材記者(John Cohen氏)自身が5月28日付けの“Science Insider”コーナーで「CDCの新型インフルエンザ・ピークの考えは楽観的過ぎる」と題して独自に専門家を取材した記事を載せている。

(筆者注12) “Canadian Press”はAP通信のようにカナダや世界の主要国を張りめぐる通信社である。

(筆者注13)「地域2」に当る地域は、ニュージャージー、プエルトリコ、USバージンアイランド、セブントリバルネーションズである。

〔参照URL〕
http://www.hhs.gov/news/press/2009pres/05/20090522b.html
http://www.cdc.gov/media/transcripts/2009/t090526.htm
https://www.medicalcountermeasures.gov/BARDA/MCM/panflu/nextsteps.aspx

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Copyright © 2006-2010 芦田勝(Masaru Ashida).All Rights Reserved.No reduction or republication without permission.


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海外における新型インフルエンザ感染拡大の最新動向と新たな研究・開発への取組み(N0.1)

2009-06-04 12:24:09 | 海外の医療最前線

 

CDC:Images of the H1N1 Influenza Virus(2010.3.26)から引用

Last Updated: March 5,2021

 2009年4月30日以降、本ブログでは、世界的な新型インフルエンザ感染拡大にあわせ、わが国のメディアが十分にフォローしていない海外およびWHOといった国際機関の正確な情報の提供に努めてきた。


 日々のブログ内容更新の方法について検討していたところ、6月2日の朝日新聞「文化」欄で京都大学佐藤卓己准教授による「熟慮要する危機報道」と題した投稿を読んで、改めてわが国の知識人といわれる人のレベルの低さを感じた。(筆者注1)
 その点は別として、「ポリシー・アナリスト」である筆者があらためて本ブログで特定のテーマを連載する目的は毎回読んでいただくと理解できると思うが、著しい収入格差、医療格差、情報格差等および21世紀の人類が解決しなければならない疫学・感染症研究のモデル実験がまさに地球規模で始まっているのである。先進各国はその分析に早い時期から国をあげて取組んできている。

 この連載ではWHOや各国別に研究・開発の最新情報を取り上げて紹介し、この問題は決して個別国だけでは解決し得ない問題であること、多くの国の利害を乗り越えながら国際的な研究機関のコラボレーションの取組みが不可欠であるという考えを広く日本でも広げたいと感じたからである。なお、筆者は従来から取組んできた海外主要国の公的機関、研究機関との情報ネットワーク(通信社や一般メディア以外)の構築がほぼ完成したことも今回の取組みの背景にある。(筆者注2)

 なお、この連載は全14回にわたる(その他に関連ブログもある)。2019年新型インフルエンザ(COVID-19)の世界的流行が長期にわたり、終息の目途が立たない中であらためて人類のインフルエンザとの戦いの歴史を振り返りる意味で時々刻々と変わる情報を、筆者が専門外ながら追った模様を伝える意味で今回、見直したものである。(筆者注2-2)

1.わが国の最新情報
 2009年6月3日現在の厚生労働省の発表では、日本の新型インフルエンザ感染者数は、394人(前日比+9人)である。各都道府県別発生状況は厚生労働省サイト「新型インフルエンザに関する報道発表資料」で確認できる。
 なお、本ブログで紹介してきているとおり、毎日厚生労働省は国内発生情報を公表するが、公的な海外情報は国立感染症研究所サイトのみである。しかし実際調べるとなるとそう簡単ではない。今後の話もあるので順を追って説明しておく。
 例として首相官邸HPから入る場合で説明する。(6月4日午前8時時点) (筆者注2-3)
首相官邸を開く
②画面右「新型インフルエンザへの対応」を開く
③画面下「関連リンク」の中から「厚生労働省」を選択、クリック
④厚生労働省画面右「国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)」をクリック
(画面右に「世界の状況WHOフェーズ 5」とあるがこれは今「フェーズ5」であると言うだけの内容である。)
IDSCの「インフルエンザパンデミック(Pandemic Flu)」の画面右「インフルエンザ関連:新型インフルエンザ(ブタインフルエンザA/H1N1)」をクリック
⑥「世界の報告数(WHO発表)」の画面にたどり着く。

 ただし、その情報は2.で説明するとおり、WHOの最新情報(6月3日発表分)ではない。最新情報はあらためてWHOのホームページに直接リンクするしかない。一方、米国CDCや英国(保健省健康保護局:HPA)の専門サイトはWHOの発表と数字と同期が取れている。また欧州疾病対策センター(European Center for Disease Prevention and Control:ECDC)域内の加盟国と域外の国の情報を分けてまとめている。その他フランス政府のインフルエンザ専門サイト「インフルエンザ・パンデミック(PANDÉMIE GRIPPALE)」は世界の各地域を分けて独自の統計や拡大傾向を分析している。特に、同サイトにリンクするフランス国立公衆衛生監視研究所(Institute de Veille Sanitaire)の収集情報に基づく最新感染世界地図をみたら前記佐藤氏はどのようにコメントするであろうか。

2.WHOの最新発表情報
 WHOの公表感染者数(2009年6月3日世界標準時6時現在)(update43)のデータに基づき累計確認感染者数が100人以上の国のみ紹介する。(多い順に並べ替えた) IDSC訳
全体の数字は66か国、累計感染者数は19,273人(うち死者は117人)である。

「国名」、「累計感染者数」、「6月1日比増加数」、「一部の国の専門サイトへのリンク」の順に記載した。

①米国:10,053人(+1,078人):CDC、②メキシコ:5,029人(+0)、③カナダ:1,530人(+194人): PHAC(公衆衛生庁)、④オーストラリア:501人(+204人): DHA 、⑤日本:385人(+15人)、⑥英国:339人(+110人):HPA(健康保護庁) 、⑦チリ:313人(+63人)、⑧スペイン:180人(+2人)、⑨パナマ:155(+48)、⑩アルゼンチン:131(+31)(筆者注3)

********************************************************************************************
(筆者注1)そこに見られる現状分析(原文を引用したいが某ブログが紹介しているので略す)は非科学的でかつ専門分野の「メディア史」から見ても研究者としての基本線がずれているとしか言いようがない(自説に都合の良い引用しかない)。
いちいち個別に反論を書いている時間が勿体ないので省略するが、同氏はWHOを初めとする海外の各国の取組みの厳しい現状をどの程度理解されたうえで発言されたのか、極めて疑わしい(今回のH1N1報道と関東大震災時の「流言蜚語(りゅうげんひご)」と同一の問題として比較する等現状認識が甘いし、研究者としての国際的視野に基づく自己検証機能が明らかに欠落している)。重ねて言うがWHOの事務局長マーガレット・チャン氏の総会スピーチや米国CDCのアン・シュカット部長の記者会見での発言をあらためて読み直して欲しい。

(筆者注2)平日平均300近い主として欧米等からの情報受信のピーク時間は、午前0時から3時頃である。睡眠時間はどうするのか・・「企業機密」である。この情報ネットワークにより日本にいながらにして海外メデイアと同時タイミングで最新情報がリアルタイムで入手できるし、海外のデスカッション・グループとの情報共有も可能となるのである。)

(筆者注2-2) わが国の厚生労働省はCOVID-19への対処などに参考とすべく2011年3月31日までのH1N1に関するすべての情報をまとめたサイト「新型インフルエンザA(H1N1)pdm09 対策関連情報」を立ち上げている。

(筆者注2-3) 2009年6当時のアクセス手順であり、2021年3月時点でWHOやIDSC原アーカイブ・更新データにあたる手順(URL)を以下概観する。なお、IDSCサイトではWHO原文と訳文が同時に確認できる。

【WHO】

https://www.who.int/csr/don/archive/year/2009/en/

【IDSC】http://idsc.nih.go.jp/disease/swine_influenza/rireki.html

(筆者注3) この時期、南半球にあたるオーストラリア、チリ、アルゼンチンの感染者数の増加が気になる。この点はフランスの“Info’pandémie grippale”も指摘している。

〔参照URL〕
http://www.who.int/csr/don/2009_06_03/en/index.html

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オーストラリアや世界の新型インフルエンザA(H1N1)感染者数の急増と世界的パンデミック化の可能性

2009-06-03 03:45:33 | 海外の医療最前線

 5月27日、同日午前中にオーストラリアの大型クルーズの乗船者等の感染拡大の記事(感染確認者数は当時50人)を書いたが、5月29日現地時間AEST午後6時現在の感染確認者数は168人と著しく急増している。
 一方、WHOがまとめた5月29日現在(グリニッジ標準時午前6時)で見ると世界53か国(5月27日時点48か国)で感染者数15,510人、死者99人である(5月27日時点では13,398人、死者95人)と比較しても、その拡大規模は引続き大きい。
 専門外の者がこれだけの数字でコメントすべきでないが、この数字の意味するところをわが国の国民はどのように解すべきなのか。また、後述するとおり、世界第三位の感染者数を出しているカナダの連邦政府関係機関の情報提供の内容を検証し、電子政府の内容比較の観点から考えてみる。


 なお、別途筆者なりに米国やEUの新ワクチンの研究・開発動向に関するレポートを作成中である。

1.オーストラリアの最新感染状況
 5月29日AEST(世界標準時(グリニッジ時)+10時間(日本は9時間) 午後6時現在)の州別確認感染者数を見ると8州のうち発生州は依然次の6州である(感染が確認されていないが疑いのある人数は今回は未公開である、集計自体出来ていないのかも知れない)。
・オーストラリア首都特別地域(ACT)3人(5月27日時点1人)
・ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)48人(16人)
・クイーンズランド州(QLD)11人(7人)
・南オーストラリア州(SA)6人(2人)
・ビクトリア州(VIC)99人(5月30日未明に州政府の専門サイトでみると138名となっている)(23人)
・西オーストラリア州(WA)1人(1人)
 なお、学校の閉鎖状況につきビクトリア州教育庁サイトでみると、公立学校21校全行で1~2人の感染者がでており、閉鎖校は5校(6月1日再開予定)、一方私立学校7校も1~2人の感染が確認されており、2校が閉鎖している。

2.WHOの統計に見る感染拡大
 5月29日現在で国別に見て増加傾向が続いている国が多い(括弧内は5月27日現在比増加数)。感染者確認数が100人以上の国を見ると、米国が感染者8,975人(+1,048):死者15人(+4)、メキシコ4,910人(+369):死者85人(+2)、カナダ1,118人(+197):死者2人(+1):日本364人(+4) (筆者注1):死者0人、英国203人(+66):死者0人、オーストラリア147人(+108):死者0人、スペイン143人(+5):死者0人、パナマ107人(+31):死者0人

3.カナダに見る連邦政府関係機関の情報提供のあり方とH1N1感染情報提供の概観
 筆者は新型インフルエンザの感染拡大問題が発生する前から毎日、連邦政府機関である「連邦公安省(Public Safety Canada(PHAC);Sécurié publique Canada))」から送られてくる各種情報を分析していた(これが本職に近い仕事である)。
 同サイトは、サイバー犯罪(コンピュータ・ウイルス)やテロ情報、インフルエンザ情報、ハリケーン、渡航者の健康管理情報、地震情報、食物アレルギー情報、国際貿易取引情報などの連邦関係機関とリンクを張りつつリアルタイムの情報収集とその提供を行っている。5月29日に送られてきた情報(DIR09-103) を読むと分かるとおり、WHOの感染者数や死者数のリリースおよびカナダの公衆衛生庁(Public Health Agency of Canada:PHAC)の最新情報にリンクする。
 ところで、今回の新型インフルエンザの急増国であるカナダのPHACサイトを見たが、州(10)や準州(3)ごとの最新感染者数の地図、5月27日時点から29日までの各州・準州の感染者増加数のほか感染者の平均年齢(22歳以下)が説明されている。さらに特徴的な点は、グラフで日別の症状発生者数を入院者とその他に分けて表示している点である。このグラフによると感染者発症のピークは5月8日~11日にかけてであり、その後は急速に減少していることが読み取れる。
 わが国でこれに相当する専門情報サイトは国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)の「新型インフルエンザ(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)」(筆者注2)であるが、日別の発生者数の傾向値は公表されていない。(筆者注3) しかし一方では総理大臣はテレビで「国身の皆さん、冷静に対応してください」のみである。正しくかつ迅速な情報提供が今求められているのではないか。

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(筆者注1) 6月2日現在の厚生労働省の発表ではさらに25人増え385人である。

(筆者注2) “IDSC”は確かに厚生労働省からリンクできるが、首相官邸からは直接リンクできない。また厚生労働省からの同センターへのリンクはまず「インフルエンザパンデミック」→「新型インフルエンザ(ブタインフルエンザA/H1N1)」へと再度リンク作業が必要となる。IDSCは専門サイトとはいえ、情報公開の徹底が国民の不安を軽減する手段と考えるがいかがか。

(筆者注3) 筆者自身気が付いた時期は6月中旬であるが、“IDSC”サイトでは①2009年6月4日からの「発症日別報告数のグラフ」、②5月19日からの「日本の流行地図(都道府県別同確認件数)」を掲載し始めている。

〔参照URL〕
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/0070BF69A1A93A41CA2575C00038EF5B/$File/Swine%20Update%206pm%2029%20May.pdf
http://www.who.int/csr/don/2009_05_29/en/index.html
http://www.phac-aspc.gc.ca/alert-alerte/swine-porcine/surveillance-eng.php

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オーストラリアの新型インフルエンザA(H1N1)感染者数の急増の背景と対応の実態

2009-05-27 14:15:30 | 海外の医療最前線

 Last Updated : March 5.2021

わが国では世界的に見た感染者数の増加が頭打ち等と言う記事が一部出始めている。世界第4位の感染者数をかかえる国の正しい意見とは思えないが、世界的な観光国であるオーストラリアでは現地時間5月25日オーストラリア・シドニー港(NSW州)に25日に入港した大型クルーズ船「パシフィック・ドーン(Pacific Dawn)号」に乗っていたオーストラリア人の男子2人(ともに5歳)が新型インフルエンザA型H1N1の検査で陽性を示したため、同船の旅客全員の1,800人以上が下船し、7日間の自宅またはホテルでの隔離措置を実施するよう保健当局から要請を受けた。


 今回のブログでは、まだわが国のメデイアではほとんど紹介されない(1)観光船におけるオーストラリアの集団感染とその対応の詳細、(2)海外からの帰国学生の監視や学校閉鎖さらに(3)観光国である同国のH1N1をめぐる対外的広報体制の問題点を指摘する。

1.オーストラリアの最新感染状況
 5月27日AEST(世界標準時(グリニッジ時)+10時間(日本は9時間) 6時現在)の確認感染者数は50人である。州別に見ると8州のうち発生州は次の6州である(感染が確認されていないが疑いのある人数は北部準州(1人)、タスマニア州(1人)である)。
・オーストラリア首都特別地域(ACT)1人(うかがわし検査中1人)
・ニュー・サウス・ウェールズ州(NSW)16人(84人)
・クイーンズランド州(QLD)7人(10人)
・南オーストラリア州(SA)2人(1人)
・ビクトリア州(VIC)23人(33人)
・西オーストラリア州(WA)1人(1人)
学校閉鎖はビクトリア州で3校、南オーストラリア州で2校、計5校である。

2.ニュー・サウス・ウェールズ州でのクルーズ船集団感染の状況と州保健省の対応内容
 NSW州保健省のケリー・チャント(Kerry Chant)局長、同省サイトおよびメディア“Herald Sun”に基づいてまとめると次のとおりとなる。なお、当局の説明はかなり時差がある。これらの情報については連邦ベースと州の保健省サイトの双方を見ながら最新かつ正確な情報を入手しなければならない。

NSW州保健省組織図とKerry Chant局長


(1)クルーの乗客中130人が呼吸器系疾患(respiratory illness)の兆候があり検査を行っている。感染者との接触を報告した172人に対し無料でタミフルが投与され、徹夜で彼らに対する検査が行われた。
(2)インフルエンザに似た症状を申し出た乗客中13人のクイーンズランド住民についてはゴールドコーストの病院に緊急入院が認められた。13人のうち2人(8歳と37歳)は引続き隔離されたが残りの人々は自宅に帰った。
(3)陽性結果がでた2人の男子についてはタミフルが投与され、24時間以内に兆候がなくなるまで隔離された。ビクトリア州の5歳男子は25日の午後1時過ぎに自宅に戻った。
(4)簡易検査で陽性が出たクルーの乗客の子供4人中2人は、一般的なインフルエンザであると診断された。

3.国内感染の阻止策の強化と観光面からの課題
 わが国と同様感染者数が急増している南半球の国の感染阻止策の現状を見ておくが、観光への影響を関係者は懸念しているが、迅速な情報開示は必須といえよう。
(1)帰国学生の監視体制(“daily Telegraph”記事:2009年6月25日)
 わが国と同様に、当局はビクトリア州で海外渡航者と接触の機会を持たない2人学生の感染事例の発生に戸惑っている。学校での集団感染のリスクを回避すべく NSW州保健省のケリー・チャント局長は5月25日にメキシコ、米国、カナダ、日本、パナマの5か国からの帰国学生に対し1週間の通学禁止措置を実施した。さらに他の学生に拡がった場合はさらにこの期間を延長する旨発表している。

(2)同国の政府観光局のH1N1感染の説明
 同国への中高生などの研修旅行はわが国で盛んであるが、5月27日時点で教育旅行サイトを見ると、5月24日現在の情報ではあるが感染者数が14人(同国で初めて感染者が確認されたのは5月9日クイーンズランド州である)であり、海外発生期から国内発生期に変更している。オーストラリアの二次感染は限定的であり、宿泊施設、観光施設は平常通り運営されている旨説明されている。上記の実態と併せ考えると、わが国の教育関係者はこの実態を正しく理解しているであろうか。

〔参照URL〕
http://www.news.com.au/story/0,27574,25539275-421,00.html?referrer=email&source=eDM_newspulse
http://www.healthemergency.gov.au/internet/healthemergency/publishing.nsf/Content/0070BF69A1A93A41CA2575C00038EF5B/$File/swine-flu-update-6am-20090527.pdf

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WHO事務局長マーガレット・チャン氏が新型インフルエンザ大流行について再度警告

2009-05-20 03:22:55 | 海外の医療最前線

 

 新型インフルエンザA(H1N1)の弱毒性について、わが国のメディアが悪しき影響を受けているが、感染者数が圧倒的に多い米国の疾病予防管理センター(CDC)において“Novel Infuluenza A(H1N1)”(筆者注1)と言う表現やその危険性が季節性インフルエンザと同程度といった解説が定着し始めている。CDCが持つ世界的な影響度から見るとこのような評価を現時点で出すことはいかがと考え、参考として欧州疾病予防管理センター(ECDC)や欧州委員会「健康・消費者保護総局(the Directorate General(DG) for “Health and Consumers”)」(筆者注2)等の関係サイト等を見てみたが、”novel“は国別感染状況の地図の標題で出てきたのみである。

 その問題はさておき、本題に入る。5月18日にWHO事務局長マーガレット・チャン博士(Dr Margaret Chan Directorate-General of WHO)が第62回世界保健機構(WHO)総会(Sixty-second World Health Assembly)における開会スピーチの内容は、国際機関の立場や現実の世界が今取組むべき多くの課題を取り上げており、また世界的に深刻な大流行の兆しを見せる新型インフルエンザ問題について医療専門家としての警告をならすものである。(筆者注3)
 今回の総会の主たる議題がまさにフェーズの引上げの是非であり、英国やわが国の主張である引上げ反対とWHO事務局の意見調整である点は報道されているとおりであろう。

 わが国の関係者は改めて強い関心をもって世界的視野の問題を理解すべきと考え、専門外ではあるが仮訳を試みる次第である。
 
〔スピーチの仮訳〕(筆者の責任において補足的な訳語を追加した)
過去30年以上、世界は平均的により豊かになった。人々はより寿命が延びより健康的な生活を楽しんでいる。しかし、これらを助長した傾向には残忍な現実が隠されている。今日、同一国内や国家間における所得レベル、就業機会、健康状態の差はこの最近の歴史上見ないほど拡大している。我々の住む世界は均衡が取れていないし、特に健康の問題では最もこのことは顕著である。現在の経済の下降は豊かさや健康を低下させるが、とりわけ開発途上国ではその影響は最も大きいものとなるであろう。

人間社会は常に「不公平さ」で特徴づけられてきた。歴史は、「泥棒男爵」(筆者注4)とロビン・フッドといった相反する存在を持ってきた。しかし、今日における違いは、これらの不公平がとりわけ保健・医療分野の利用する権利に関し致命的になったことである。

世界は、2000年9月に189か国の代表者が国連総会において、その共同責任において「ミレニアム宣言」(筆者注5)とその「最終ゴール」を保証したことを感謝している。そのゴールの内容は、現実の世界がすばらしい公平さを導くため極めて重要な方法である。
世界中の人々が、健康推進に取組んでいる各国や国際機関の担当官が医療問題について優先させたことを感謝している。このことは、世界の医療問題についてより公正さの確保への最も確実な道につながる。

公衆衛生は、WHOの「『健康の社会的決定要因』委員会(the Commission on Social Determinants of Health)」で取り上げられたことに感謝されるべきである。私は同委員会の研究結果に全面的に賛成する。健康分野における成果に大きなギャップが不ぞろいであってはならない。

繰り返し言うが、健康問題はこの現実世界を形作る上でかならずしも重要な問題ではない。健康政策は経済利益の見通しと常に相対立し、健康問題は何度も経済的利益の切札にされてきた。何度も言うが、健康問題は近視眼的かつ他の分野の狭い焦点での政策から矛先を向けられてきた。
 
健康に関する平等性は、生きることと死ぬ方法の問題である。HIV/AIDSの大流行は最も可視的かつ測定可能な方法でこのことを教えてくれた。我々は危機が発生した時にまさに平等の意義を理解する。

世界は多くの危機や戦線に直面している。
2008年に我々の不完全な世界は、短期間に燃料危機、食糧危機や金融危機といった問題を提供してきた。気象変化の影響問題は強制的に軽視されすぎてきた。これらの危機は、国家、金融市場、経済や貿易システムにおいて急進的に相互依な形で起きた。

これらの危機は世界的規模で起き、開発途上国および弱い人々を最もひどく襲った。これらの貧しい世界を放置するすべての脅威は危機的にバランスを欠いている。

欠陥政策の結果は、フェアプレイの原則に基づき慈悲がなく例外を認めない。我々が見てきたように金融危機は急速にある国から他国に、また国内のある部門から他の多くの部門に感染した。経済運営がうまくいっており、不良資産を買わずに、また過度な金融リスクを引き受けなかった国でさえもそのような結果に悩まされている。同様に温室ガス排出権取引の貢献国は温暖化等気候の変化で第一にかつ最も強烈な打撃を受けている。

今、我々は、別の玄関先に極めて世界的な感染問題:21世紀の初めてインフルエンザの大流行の見通しを持つことになった。

5年間の長期にわたり家畜農場における高度の病原性鳥インフルエンザ(H5N1)(散発的に発生し人間においてしばしば命取りになる)の大流行を予期し、高い致死率を条件づけてきた。その結果、世界はよりよく準備を進めまた大きく脅えてきた。

今、我々は極めて高い大流行の可能性も持つ新型インフルエンザA(H1N1)ウィルス株が世界の端から端まで現れることを知った。鳥インフルエンザと異なり、新型インフルエンザ(H1N1)は人から人へと極めて簡単に感染し、1国内で一度感染すると急速に感染し、また新しい国へ感染が広がるのである。我々は引続きこの感染パターンを予期しなくてはならない。

鳥インフルエンザと異なり、H1N1は現時点ではメキシコを除き死者が極めて少なく、緩やかな疾患を見せている。我々はこの感染パターンが続くことを期待している。

定義上明らかなとおり、新たな疾患(diseases)は発病した時に十分理解されにくい、これは原因病原体がインフルエンザ・ウィルスの場合とりわけ正しい。インフルエンザ・ウィルスは最終的には“moving target” (筆者注6)である。その行動は不可解で予見が困難である。大流行の行動もウィルスが引き起こすがゆえに予見が難しい。現状どの程度ウィルスが進化しているかについて明言できる者はいない。

H1N1ウィルスの発生は政府、保健担当大臣、WHOにおいて正しい決定や極めて科学的に不確定な中で行動をとるよう圧力を生み出した。

4月29日、私はインフルエンザ大流行恩フェーズを「4」から「5」に引上げた。現在、なおフェーズは「5」である。

このウィルスはわれわれに猶予期間(grace period)をくれたが、この猶予期間がどのくらい続くのか知るすべがない。まさに今が嵐の前の静けさなのか誰も明言できない。

現在、南半球の数カ国(これらの国では季節性インフルエンザの流行が勢いづく)でウィルスの存在が確認された。我々は人間同士で感染しつつある新型インフルエンザと他のウィルスの相互作用について検討すべき個々の理由を持っている。

さらに我々は、「H5N1鳥インフルエンザ」が数カ国の家畜農場で明らかに確認されていることを忘れてはならない。この鳥インフルエンザ・ウィルスがH1N1とともに多くの人々にどのようなかたちで影響を与えるかにつき明言できない。

我々は「フェーズ5」への引上げに関し、多くの準備ステップを踏んだ。公衆衛生部門、研究所、WHOのスタッフや関係業界は24時間働いている。

大流行の特性の定義づけすることは、影響を受けるであろう世界人口の普遍的脆弱性を意味する。世界中すべての人に感染することはないであろうが、ほとんどすべてに人にリスクはある。

世界68億人の人々に行きわたるインフルエンザ抗薬やワクチンの製造能力は限りがあり、十分ではない。各国は近視眼的に不十分な方法を選択することでこの貴重な医療資源を無駄遣いすべきでない。

本日朝に聞かれたとおり、我々は新型ウィルスに関するリスク調査の強化に関するいくつかの質問に対する答えを得ようと努め、また各国政府に対する私のより正確な助言を行うべく試みている。

理想的に行けば、我々はハイリスクのグループに属する国に対する助言やこれらのグループの国々に支給すべき医療資源に関する推奨を行うための十分な知識を持つであろう。

私は本日の朝、総会参加国の主席医療技術担当官の意見を注意深く聞いたが、この内容は直ちに国際社会に警告をならすであろう。

今までのインフルエンザの大流行は調査や報告の能力を持った国々で起きていた。これらの国々の政府の調査努力、報告内容の透明性、ならびにウィルスに関する情報の共有に対する寛大さに感謝申し上げる。

インフルエンザの大流行は、脅威の共有以前に連帯の必要性に究極の表現である。大流行が早い段階では主に緩やかな疾病というかたちで現れたことは、まだ幸せである。

私は、国際社会に対しこの猶予期間を賢く利用することを強く主張する。また、あなた方が我々ができるすべてのことを一団となって正確に見極め、発展途上国への感染の阻止に矛先をむけて欲しい点を再度申し上げる。

私はインフルエンザ抗薬やワクチンメーカーを支援してきた。またWHO加盟国、援助国、国連機関、民間団体、NPOや国際基金を支援してきた。

そして、私は彼らに開発途上国に対する準備の拡大とその影響緩和手段の絶対的な必要性を主張してきた。
私が今まで述べたとおり、健康問題における公平性は生きることと死ぬ方法の問題である。危機のときこそとりわけ重要な問題である。

国際的な旅行のスピードと量はおどろくほどに増加している。まさに今H1N1で見たとおり、国際空港をもつ都市はウィルスを輸入するリスクを持つ。国家間の急激な相互依存性の増加は、経済の混乱の潜在性を増幅させる。

絶対的な同義的責任は別にして、国際社会において不均衡さにおいて被害を被る世界がないほど外部委託や看板方式(just-in-time production)を余儀なくさせてきた。我々は公平さについてきちんとかつフェアプレイの精神で面倒を見るべきである。
これらの輸入に伴い持ちこまれる脆弱性はすべての国に影響を与え、経済やビジネスを分裂させる。

今、手許にある証拠資料によると、メキシコ以外の国におけるH1N1ウィルスによる重度かつ致命的な感染による大規模発生は慢性的持病(chronic diseases)を持つ人に多く見られる。近年、持病の疾病が急速に増加するとともに豊かな国から貧しい国への移動している。

今日、慢性的持病で悩んでいる人の85%が低所得または中収入国の国民である。
この意味するところは明らかである。開発途上国は、あきらかに重度かつ致命的H1N1インフルエンザ感染リスクを持つ人々のまさにプールなのである。

現在の大発生のいくつかの特筆すべき特徴は、下痢(diarrhoea)または嘔吐(vomiting)であり、これらの症状がごく普通に見られる。
ウィルスが便から検出された場合は感染の追加ルートとして取り込まれたこととなろう。このことの重要性はウィルスが混雑する都市部のスラム街の不適切な公衆施設の場合に重大な意味を持つ。

次の大流行は、HIV/AIDSの緊急措置以来の初めてのケースで、薬物抵抗性をもつ結核(tuberculosis)の再来となる。今日の世界で数百万の人が薬を投与しており定期的に治療を受けて生活している。これらのほとんどの人々が住む国の健康管理システムは、負荷過剰、スタッフ不足かつ資金不足である。

金融危機は多くの人々が当然の結果として民間医療(private care)や公的資金医療サービスを求めることによる更なる困難な問題を生み出すと予想されている。
もし、世界がインフルエンザの終結を見た一方で、自ら直面する広範囲の薬物抵抗性をもつ結核の大流行が出てきたときどのようなことが起こるであろうか。

これらの不確実性の中心で1つのことだけは確実である。感染性因子(infectious agent)が世界的な健康に関する緊急事態を引きこした時、健康問題は枝葉の問題ではなくなるということである。この問題がステージの中央に一直線に進むのである。

世界はインフルエンザの大流行を懸念しており、このことは正しい。WHOの総会は相当に理由をもって開催期間を短縮してきた。各国の健康担当官は今、数日以上母国を離れることがきわめて重要である。

多くのことが我々の手にある。どのように我々が公衆衛生に関する投資を行うべきか。
世界は見るであろう、また1つの大きな疑問があきらかに起きてこよう。世界の公衆衛生サービスは、21世紀の挑戦の下で目的適合型であるべきか。もちろん答えは「否」である。私はその結果を迅速、高くかつ悲惨に見うる。
今第二の疑問がある。我々が最終的に行うべきことは何か。

同時に我々は大流行に関する懸念を曖昧にしたり、他の重要な健康プログラムを中断することはできないし、そのつもりもない。事実、今週も多くの取組課題が持ち上がっており、最近のWHOの会合でも取組んできた。

健康担当部門は洞察力を欠くことについて非難されるべきでない。我々は何が必要かについて長い期間知識をもってきた。

効果的な公衆衛生は包括的であり、まさに地域レベルまでもカバーする強力な健康管理システムに基づき対処するものである。それは適宜の教育を受け、動機付けされかつ均衡の取れた適切な人数の要員によることである。
それは、適切な医療製品や他の仲介物への公正なアクセスを意味する。これらのすべての項目は今回のあなた方の検討議題である。特に、私は公衆衛生、医療改革および知的財産に関する仕事を完全に行いうべき点を主張する。

これはあなた方のまさに議題であるが、WHO等国際保健規則(International Health Regulations)は健康管理部門に対し2008年金融危機以来優先的権能を与えてきた。しかし、誤った政策は世界的な経済財の減速を引き起こす。国際保健規則は早期警戒の強調的メカニズムと所与の関心でなく、科学により後押しされた通常のリスク管理を提供する。

私は次のことを促したい。現在継続中の独自調査により導かれたとおり、ポリオ撲滅キャンペーン(polio eradication)の仕事を終了させるべきである。またこの仕事はすでに世界を破壊的疾病からの回避にのせるという目標に達したといえる。

まさに今、特に“sub-Saharan Africa;SPA”(サハラ以南アフリカに対する特別援助プログラム)“Asian sub-continent”(アジア亜大陸国への支援)
で行ってきたポリオ絶滅のための巨大な監視ネットワークとインフラを、H1N1感染阻止のために立ち上げなければならない。

提案されたプログラムに係る予算は皆さんの議題でもある。WHOは世界的な健康危機問題についての対応を準備すべくリード役である。WHOの提供するサービスはいくつかの地域では酷使されるが、しかし我々はうまく対応している。WHOが特に緊急事態が悪化したときに引続き十分な機能を行えるよう保証が必要である。

最後に次のコメントで締めくくりたい。

インフルエンザ・ウィルスはウィルスの世界で極めて驚くべき効果を持った。しかしウィルスは洗練されたものでない(not smart)、我々も同様である。

その対応への準備レベル、技術や科学的ノウハウは1968年以降大幅に進んだ。我々は国際保健規則(International Health Regulations)の見直しを行ってきた。

また、WHOは「世界的な集団発生事例に対する警戒と対応のためのネットワーク(Global Outbreak Alert and Response Network)」 と同様なメカニズムを試験し、強固にしてきた。

私が今述べたとおり、インフルエンザの大流行は世界的な団結の究極の表現である。我々はすべて一緒である。この困難を一緒に乗り切ろうではありませんか。

ご静聴ありがとうございました。


〔参照URL〕
http://www.who.int/dg/speeches/2009/62nd_assembly_address_20090518/en/index.html

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(筆者注1) 国立感染症研究所感染症情報センター(IDSC)の説明によると“novel influenza virus”、“novel influenza strain” の正確な意味は「これまでにヒトで検出されていなかった亜型のウイルス 」である。 日本語の「新型インフルエンザ(pandemic strain)」という言葉があるが、これは通常は、ヒトからヒトへ効率よく感染する能力を持ち、「大流行(パンデミック)」を起こす能力のあるウイルスという意味で、通常WHOフェーズの6で用いられるとのことである。

(筆者注2)欧州委員会の「健康・消費者保護総局(the Directorate General(DG) for “Health and Consumers”)」サイトで組織・機能について参照すべきである。なお、欧州連合―駐日欧州委員会代表部のサイトでは「欧州委員会の部局」で“Health and Consumer Protection DG ”として紹介されているが当該項目をクリックすると総局サイトにつながるだけで説明不足である。また、わが国の外務省サイトの説明では「欧州委員は事務執行に関し事務局職員により補佐されている。事務局は各国の中央省庁に該当する36部局からなり、主なものは総局(Directorate General)と呼称される」とある。これも正確でなく説明不足である。なお、現在の2021年現在のEU健康と食品の安全に関する総局(DG SANTE)は、2014年までは「健康と消費者のための総局(DG SANCO)」として知られており、欧州委員会の総局であった。 DG SANTEは、食品およびその他の製品の安全性、消費者の権利および人々の健康の保護に関する欧州連合法の実施に責任を負っている。2006年、DG Sancoは公衆衛生-EUポータルを立ち上げ、欧州市民がEUレベルでの公衆衛生イニシアチブとプログラムに関する包括的な情報に簡単にアクセスできるようにしたものである。

 なお、この改組に関するわが国の内閣府食品安全委員会サイトでは、(参考)駐日欧州連合代表部の欧州委員会の部局情報は以下のURLより入手可能である。とあるが、エラーとなる。また、参考までにEUのHealth and Food Safety (SANTE)の組織図を引用しておく。

(筆者注3)5月13日のロイター通信は、WHOの見解として「H1N1が今後強毒性のものに変異する可能性につき、豚インフルエンザウイルスから変異した今回のH1N1型の新型インフルエンザウイルスは、季節性のインフルエンザウイルスよりも感染力が強く、この新型インフルエンザウイルスに対して免疫を持っている人はほとんどいない。・・・・・1918年にパンデミックを引き起こし、数千万人が死亡したインフルエンザウイルスは、感染拡大の初期は弱毒性だったが、半年後に強毒性のものに変異し、世界中で猛威を振るった。1968年に感染が拡大した新型インフルエンザウイルスも、感染拡大初期は弱毒性だった。」という警告を報道している。

(筆者注4)「泥棒男爵(robber baron)」とは、19世紀のアメリカ合衆国で蘇った、寡占もしくは不公正な商習慣の追及の直接の結果として、それぞれの産業を支配して莫大な私財を蓄えた実業家と銀行家を指した、軽蔑的な意味合いの用語。この用語は現在、強力か裕福になるために疑わしい商習慣を使用したと見られる実業家や銀行家に関して使用されることもある。(Wikipediaから引用)

(筆者注5) 2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットにおいて、147人の国家元首を含む189の加盟国代表が参加して、ミレニアム宣言(Millennium Declaration)が採択された。ミレニアム(Millennium)とは千年紀のことで、ミレニアム宣言は、新しい千年紀に入ろうとする時期に、国際社会の目標として採択された。 ミレニアム宣言(15)は、平和と安全の確保、開発への貢献と貧困の撲滅、環境の保護、人権の尊重とグッド・ガバナンスの推進、アフリカの特別なニーズへの対応などを課題として掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を示した。( 「我が国ODAの課題―アジア及びアフリカに対する援助を中心として―」国立国会図書館「レファレンス 平成20年12月号」より抜粋)

(筆者注6)“moving target”とは、ウィルスが突然変異により絶え間なくゲノム情報を変化させることをいう。ゲノム情報(Wikipediaによると「ある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報」として定義される。遺伝子「gene」と、染色体「chromosome」あるいはgene(遺伝子(ジーン)の)+ -ome(総体(オーム))= genome (ジーノーム)をあわせた造語RNAやDNA研究における用語)の変化は,しばしばウイルスの免疫感受性,薬剤感受性,細胞指向性,宿主域の変化につながり,予防治療効果の低下や新興再興感染症の原因となる。
国立感染症研究所〔ウイルス 第55 巻 第2号,pp.221-230,2005〕から抜粋および加筆)

〔参照URL〕
https://apps.who.int/gb/ebwha/pdf_files/A62/A62_3-en.pdf

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緊急リリース(H1N1インフルエンザの最初の犠牲者はチフス・メアリーか)

2009-04-30 10:59:39 | 海外の医療最前線

Last Updated:March 6,2021

「鳥インフルエンザ問題(bird flu)」から「H1N1インフルエンザ(以前は豚インフルンザ)問題(swine flu)に変わって1週間もたたない内にメキシコを中心に世界中にその死者が広がっている。
 未知のかつ極めて危険な伝染病の危機管理に関し、その兆候に鈍感であった初動調査のミスや情報開示の不徹底の問題が問われる例として、いずれ日本の新聞等でも記事になるであろう。 「英国インディペンデント紙」が引用しているAP通信の記事を紹介する。なお、5月1日のNHK「クローズアップ現代」でもこの話が紹介されていた。

4月29日AP通信
 メキシコ南部観光都市のオアハカ(Oaxaca)の税務調査官(tax inspector)マリア・アデラ・グレティエス(Maria Gutierrez)39歳が病院外で死んだ。彼女の仕事は個別訪問が任務であり、メキシコの医療関係者の話のよると特定できないが少なくとも300人と接触している時に、彼女は最も伝染力の強い状態であったとされている。

 彼女は4月8日に地元の病院でH1N1インフルエンザ発病が認められ、その5日後に死亡した。彼女は糖尿病(diabetes)と激しい下痢(severe diarrhoea)によって悪化した急性呼吸障害(acute respiratory)で、数十人に感染したと信じられている。

 H1N1インフルエンザをメキシコの公的機関が特定する3週間前に彼女は死亡していたという今回の彼女に関する情報は、学校、官庁や多くの職場が非常警戒態勢の中から出てきた。2,000人以上が感染している状態でメキシコのH1N1インフルエンザの疑いのある死亡者数は4月28日夜の時点で152人に達している。米国では確認されたケースが64件、1ダース以上の感染者が出ているカルフォルニア州は健康緊急事態宣言を行っており、WHOは世界中で79例の確認事例を通知している。

 グレティエスの最後は、メキシコにおける混沌と秘密主義によるインフルエンザの大流行であるとして論争を呼ぶ可能性がある。彼女の治療にあたったオアハカの“Hospital Civil Aurelio Valdivieso”病院当局は、4月21日まで伝染病で死亡したことを十分確認せず、その時点でさらに1人の患者が死亡したのである。

 担当医は、当初グレティエスは肺炎(pneumonia)で苦しんでいると考えた。しかし、さらに16人の患者が重症呼吸器感染(severe respiratory infection)の兆候を示した時、緊急治療室の周りに隔離領域を設置した。その後まもなく同州の保健当局は彼女が最近時に接触したすべての人を捜し出し、健康診断を行い始めた。

 その極めて慎重な姿勢は、グレティエスが現代のチフス・メアリー(Typhoid Mary) (筆者注1)であったかも知れないということを示唆した。当局が捜し出した300人には、彼女は3月下旬から4月前半に家庭等を訪問し面談した人々が含まれていたのである。地元筋の情報では死者はいないが、33人から61人の面談相手はインフルエンザに似た病気の「兆候」を示していたと米国医療危機管理会社(Veratect)に述べていた。(筆者注2)

 オアハカはオアハカ州の歴史的な首都でメキシコの南太平洋岸の山岳地帯に位置する。この地理はH1N1インフルエンザの猛威に関し重要な点である。エドガー・フェルナンデス少年(4月2日に感染したがその後完全に回復 )は4月27日に患者ゼロ宣言を続けてきたメキシコ保健相ホセ・アンジェロ・コルドバ(Mexico’s Health Secretary Jose Angel Cordova)が公式に患者を認めた第1号である。少年はベラクルス地方のラ・グロリア(La Gloria)の小さな町に住んでおり、今回の爆発的広がりの潜在的源とされる広大な養豚場の5マイル風下に住んでいた。この農場は米国の農業会社であるスミス・フィールド(Smithfield Foods)が所有しており、メキシコの同子会社では1年間に100頭以上の子豚が生まれている。(筆者注3)(筆者注3-2)

 2009年2月に何十人も地元住民が奇妙なインフルエンザに似た病気にかかり始めた。2009年4月6日にラ・グロリア市(人口3,000人)は「警戒宣言」を発し400人が治療を要し1,800人が呼吸困難を示していた。保健所員は町を封鎖したが家の中を飛ぶ巨大な数のハエの撲滅を開始した。しかしながら、彼らはこの大発生がH1N1インフルエンザとは認識しておらず、町に集まった報道陣は結論を急がないよう促された。

 しかし、地元住民はそのことを信じていなかった。ホセ・ルイス・マルチネス(ラ・グロリアに住む34歳)は4月25日にレポーターに対し、高熱(fever)、咳(coughing)、関節痛(joint aches)、激しい頭痛(severe headache)、嘔吐(vomiting)や下痢(dirrhoea)が症状として出ると言うテレビを見てすぐに自分の周りの人々の症状であると理解したと述べている。

 4月25日首都であるメキシコシティに非常警戒宣言が出された。大規模集会が禁止され人々は公然とマスクをつけレストランはテイクアウトのみでバーは午後6時には閉めるという状況である。H1N1インフルエンザの猛威は、4月のはじめの2週間で首都に到着すると見られていた。メキシコの聖週間(Semana Santa:Holy Week)では全国から首都に100万人が集まる時期であったからである。

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(筆者注1) チフス・メアリーの本名は、メアリー・マローン(Mary Mallon)である。Wikipediaほかによると「世界で初めて臨床報告されたチフス菌(Salmonella enterica serovar Typhi)の健康保菌者(発病はしないが病原体に感染していて感染源となる人)。ニューヨークに移住したアイルランド系移民のシェフで、1900年代初頭にニューヨーク市周辺で散発した腸チフス(Typhoid fever)の原因になり、53人に感染させうち3人が死亡、彼女自身1938年に死亡、「腸チフスのメアリー」あるいは「チフスのメリー(Typhoid Mary、タイフォイド・メアリー))という通称で知られる。」

(筆者注2) Veractect社のCEOの説明によると、今回のH1N1インフルエンザ問題で世界的伝染病予防危機管理機関である「米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)」に対し、2009年3月末にメキシコでのインフルエンザの流行の兆候を初めて行っており、またコロラド州、ネバダ州、ワシントン州の厚生関係機関にこの情報を提供していた。同者の特徴は人工知能や多言語アナリストの世界的ネットワークを駆使して24時間365日体制で疾病の追跡情報をカークランドとアーリントンの運用センター(30人体制)で監視を行っている。同CEOの説明では世界中のブログを見たり情報提供を行いながら迅速な情報収集を行っているとのことである。

(筆者注3) この関係について、わが国のブログがメキシコの人権擁護グループ“LA VOZ DE AZTLAN”の報告を紹介している。
「豚フルー感染爆発の“グラウンド・ゼロ”は米国畜産大手スミスフィールド・フーズの子会社グランハス・キャロルで、昨年末から感染が始まっていたことが判明。
《ラ・ボス・デ・アストラン》はメキシコの非抑圧状況を鋭く分析する情報サイトとして定評があるが、今回のレポートによると、米国系大手畜産企業の子会社が、メキシコシティから100マイルほど離れた場所で運営している養豚場が、豚フルー感染爆発の“発生源”とのこと。この養豚場は衛生管理がズサンで、屎尿の沼ができており、大量のウイルス媒介昆虫が“涌いていた”という。すでに昨年12月には感染が始まっており、今や周辺住民の6割が感染症状を呈しているという。だが養豚企業側がワイロを使ってこのスキャンダルの露呈を阻止しており、地元ベラクルス州当局が、この問題を暴露した村民を「虚偽風説流布」の罪状で逮捕するという状況になっているという。
 このレポートの内容が事実なら、米国とメキシコからの豚肉は感染リスクが高いので、輸入禁止措置も検討されるべきであろう。」
http://www.asyura2.com/09/buta01/msg/146.html

(筆者注3-2) 2020.6.16 Asahi Shinbun英字版 Opinonが「VOX POPULI:無症候性ウイルスキャリアリスクを思い出させるTyphoidMary事件(VOX POPULI: Typhoid Mary case a reminder of asymptomatic virus carrier risk)」と題する記事を載せている。COVID-19パンデミックの対策を考えるうえで1つの問題指摘を行っており、ここで全文を仮訳する。

腸チフスの無症候性キャリアである彼女は、無意識のうちに47人に感染し、そのうち3人が死亡したとの報告がある。メアリー・マロン(1869-1938)は、メイドとしても働いていた才能のある料理人であり、子供たちと仲が良かった。

彼女が1906年の夏に彼の借りた別荘で裕福な銀行家を雇っていた間、銀行家の家族の6人が腸チフスにかかった。感染源としてマロンが疑われた。しかし、公衆衛生当局から血液検査と尿検査の提出を求められたとき、彼女は拒否し、彫刻フォークで彼らを脅したと伝えられている。

金森修(1954-2016)氏の「病魔という悪の物語:チフスのメアリー」によると、マロンは強制的に隔離されたが、自分には病気の症状がなかったため、隔離の理由がわからなかった。

3年後に検疫から解放された後、マロンは偽名で病院に通い、そこで大量感染を引き起こした。

当時、この病気の治療法は知られていないため、新聞は彼女の事件をセンセーショナルに扱い、彼女を「無実の殺人者」および「アメリカで最も危険な女性」と見なした。

彼女は1915年に検疫に戻された。この2回目の検疫は、23年後の彼女の死まで続いた。

国立保健医療科学院の研究者である逢見憲一氏(54歳)は、チフス・メアリーは公衆衛生の歴史において非常に重要な名前であると述べている。

「彼女は、公共の福祉と個人の自由の概念の間の根本的な対立を表している。前者は感染を封じ込める必要性に関係し、後者は絶対に必要でない限り個人を隔離することを強制しない。」

現在のCOVID-19のパンデミックは、無症候性キャリアによるウイルスの拡散に対する実行可能な対策なしに戦うことは不可能である。

私自身、感染症に対するあらゆる予防策を講じており、これまでのところ元気である。それでも、電車に乗るたびに、無症候性キャリアの一人なのか、隣の乗客が一人なのか、とても緊張する。マロンは死後も邪悪な女性として描かれ続けた。彼女の悲劇的な人生は、私たちを非常に重大な問題について熟考し、苦労させている。

〔参照URL〕
http://www.independent.co.uk/life-style/health-and-wellbeing/health-news/swine-flu-was-first-victim-a-modern-typhoid-mary-1675807.html

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オーストラリアの科学者チームがレーザープリンター・トナーの飛沫による肺がん等健康被害の拡大を示唆

2007-08-05 10:11:24 | 海外の医療最前線

 

Last Updated:Febuary 25,2022

 わが国でも職場や公共交通機関等における喫煙対策規制が強化されてきているが(筆者注1)、企業や筆者も含め一般家庭などでごく一般に利用されているレーザー・プリンター機がタバコや自動車の排気以上の微粒子物質を排出しているとの研究報告結果がオーストラリアの研究者グループにより発表された。この記事自体は本年8月はじめに「ITmedia」やCNET等でも訳されて簡単に紹介されている。

 このような重要な環境問題を、2006年4月にすでに取り上げたのはわが国と韓国の研究グループである(筆者注2)。数少ないこの分野の研究を参考に世界的権威をもつ米国化学会(American Chemical Society)(筆者注3)の学会誌においてオーストラリアのクイーンズランド工科大学のリディア・モラウスカ(Lidia Morawska)博士グループが発表したことから世界の環境問題の関係者は注目している。同博士グループは偶然の機会を通じて大手プリンター・メーカー62台の新・旧レーザー・プリンターのトナー粒子の排出値を検査し、その結果、17台から大量の超微粒子が排出されており、肺や血管等への影響(発癌を含む呼吸器の炎症や心臓や血管系への影響)があると指摘したのである。

Lidia Morawwska氏

 62台中最も対象機種が多かったヒューレッド・パッカード社は、国際基準に適合した品質管理を行っているとコメントしている。しかし、今回の調査にはわが国のプリンター・メーカーであるリコー、キャノン、東芝、京セラミタが含まれている。果たして、わが国のプリンター・メーカーや厚生労働省はどのようなコメントを出すのであろうか。喫煙やアスベストだけでなく事業所内における空気の環境保全問題が改めて問われる時代になったといえよう。

 今回は、この論文発表を受けて英国ロー・ファームが出した同国の事業所内の化学物質からの曝露保護に関する法規制の現状およびEU(欧州連合)における従業員の化学物質の曝露限度値指標(Indicative Occupational Exposure Limit values)(筆者注4)の検討内容についてEU資料に基づき紹介する。

1.英国の印刷業者向け作業所内の健康保全規則と適用ガイダンスの策定
 英国で2002年に改訂された「1999年有害物質管理規則(the Control of Substances Hazardous to Health Regulations:COSHH )」および「2005年事業所での騒音管理規則(the Control of Noise at Work Regulations 2005)」を受けて、健康安全局(the Health and Safety Executive:HSE)は化学物質の排出管理・曝露保護や騒音管理等労働者の健康管理のため、印刷業界の経営者や労働組合に向けた50項目を取りまとめたガイダンスを策定・公表している。同ガイダンスの39頁以下がデジタル・インクジェット・プリンター作業に関する留意事項が記されており、大型ファンによる通気性の確保や密封された交換カートリッジの使用が可能である場所での使用の義務付け等が内容となっている。

2.EUの評議会・欧州委員会(EU行政機関)における職場の化学物質の曝露限度管理のあり方の検討・関係指令
(1)化学物質の曝露限度値に関するEU指令
 EUは、従来から労働者の危険物からの曝露保護のためのプログラムや曝露限界値の策定に取組んでいる。その法的根拠は、①1989年欧州評議会の労働者の職場での安全・健康の改善の促進の手段に関するフレームワーク指令(89/391/EEC)、②1998年事業所における化学物質からの労働者の健康・安全に関する保護指令(98/24/EC)(いわゆる化学物質指令)、③2000年第一次化学物質(63種)の曝露限度値一覧に関する欧州委員会指令(2000/39/EC)である。

(2)科学専門家グループ(Scientific Expert Group:SEG)による限度値の検討作業
 委員会は、1990年に評議会の要請に基づき、加盟国による各種の観点からの再検討結果を踏まえ曝露限度値設定のための科学専門家による非公式検討グループを設置した。事業所内曝露限度値(OELs)の奨励目的から、委員会はSEGを公式化し、併せて事業所内の化学物質に関するリスクの科学的査定の作業基盤を設定した。
 この事業所内の曝露限度値に関する科学委員会(Scientific Committee on Occupational Exposure Limits:SCOEL)は適切な限度値の提案のための助言を行うものである。
 委員会は、内部作業文書であるガイダンス注釈(Guidance note)を承認したが、これは事業所における安全、衛生、健康分野の専門家から集めた意見に基づき内容の更新を行っている。同注釈は、政府、産業界、労働者、科学者その他関係機関に対し、どのようにどの段階で介在を求めるかについての手順を含むものである。
委員会は、健康面の基本となる科学的コメントおよび最終段階としてさらに追加すべきデータについて関係者に対し公的要約文書の同意をとることになる。6か月間のパブリックコメントに付した後、最終版の文書内容の討議を経て委員会としての公表を行う予定である。
 なお、SCOELはOELsに関し意見の併合の過程で追加的に次の点に関する表記や情報について意見を提供することができる。①8時間の時間加重平均(Eight-hour time-weighted average:TWA-8h)、②短時間曝露限界値(short-term exposure limits:STEL)、③生物学的限界値(biological limit values:BLVs)

3.事業所の経営者に対する助言
 英国の専門弁護士は、今回の論文に関し、①差し当たり雇用者は現在の英国の保険安全規則等やガイダンスの遵守状況を再確認する手続きをとること、②労働衛生士(Occupational Hygienist)から適切な助言を得ることであり、小規模な事務所で通気性が十分確保された場所に設置したレーザー・プリンターを使用している場合はあわてる必要はないと述べている。
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(筆者注1)厚生労働省は平成15年5月に施行された「健康増進法」に基づき「職場における喫煙対策のためのガイドライン」を平成15年5月に改訂している。しかしこの点について事業所の取組状況は決して満足とはいえないという調査結果も出されている。

(筆者注2)2006年4月にアメリカ化学会から論文査定・承認された国立保健医療科学院、東京工業大学、金沢大学、テクノ菱和、韓国の仁川大学(University of Incheon)の研究グループの論文で、「Building and Environment」2007年5月号で発表している。

(筆者3)アメリカ化学会(American Chemical Society, ACS)は、米国に基盤をおく、化学分野の研究を支援する個人参加型の学術専門団体である。1876年に設立され現在の会員数は約163,000人と、化学系学術団体としては世界最大のものになっている。隔年で化学の全領域についての国内会議と、数10の特別分野についての小委員会を開催している。出版部門では、20誌ほどの雑誌(多くが各分野のトップジャーナルとなっている)と、数シリーズの書籍を発行している。中でも最も古いのは1879年に発行を開始した米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society, JACS)であり、これは現在発行されている全化学系雑誌の中でも、極めて高い権威を有する雑誌である。(Wikipediaから引用)。

(筆者注4)英国安全衛生委員会(Health and Safety Commission)における事業所内の化学物質の曝露限度値への取組については、やや古くなるが2003年11月、わが国の「国際安全衛生センター」が概要を紹介している。化学的専門知識が十分といえない事業者とりわけ中小企業向けの施策のあり方や実用化できるガイダンスの必要性等について配慮した姿勢は、わが国の今後の検討に当り参考となりうるものといえよう。

〔参照URL〕
http://www.out-law.com/page-8342
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2007/aug/science/nl_printers.html
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スイスの小児科医師会が幼児、子供のテレビやコンピュータ・スクリーンの見過ぎに警告を鳴らす

2007-02-12 10:44:38 | 海外の医療最前線

Last Updated :March 7,2021

 最近テレビ番組作成のやらせ問題がわが国でも問題となっている。これも今に始まったことではないが、幼児や少年期のテレビやPCの見過ぎが幼児等の精神面、感情面、精神運動面の発達等への影響を分析したスイスの小児科医師会編集による最新版の小冊子がスイスの両親向けに公表・配布された。

 スイスらしいと感じたのは、この小冊子の配布者がスイスの最大手の健康保険会社(Krankenkasse,Caise D’assurance-maladie)であるCSS Assuranceが作成し、その入手のためにはある程度の個人情報を提供するインターネットでの申込を行わねばならない点である。(筆者注1)なお、2021.3 現在で申込サイトは閉鎖されている。
 筆者としてはそこまでしてもと思い、今回は不本意ながらメディア情報の要旨のみ紹介する。

 また、たまたま発見したのであるが、スイスの小児科医会が編纂した平易な家族向け医療の手引き(「リアン、ケイトやその他の子供が病気になったとき:両親へのアドバイス」)はインターネットから入手可能である。この手引きは英語版があり、その内容は4編から構成、家族で読めるよう平易な解説で読みやすく作られている。(筆者注2)

 なお、筆者の関心はもう1点あり、極めて複雑な「スイスの医療保険制度」であるが、これについてはスイス社会保険庁(Bundesamt für Gesundheit:BAG)のサイト情報等に基づくスイス在住の女性グループによる丁寧な解説サイトがあるので、省略する。(筆者注3)

1. 医師や教師の警告内容
(1)チューリッヒのある幼児学校の先生は何人かの2歳から4歳くらいの幼児が学校に来る前に見ていたテレビの話をするときに荒唐無稽(mind boggles)な話しをする傾向の増加が見られるが、その原因はテレビの見過ぎでありかつ多くは一人で見ている。スイスの小児科医会は本小冊子で、14歳以下の子供は1週間に7時間から10時間以上テレビ等見せるべきでないと警告している。この警告は決して道徳的な意味をもたせているのではなく、親の関心を高めることを何よりも重視している。

(2)子供の成長と発達に関する章では、「あなた方両親は1週間当たり多くの時間をテレビやコンピュータの向かい合って過ごすことが、子供や幼児の身体的、心理面での発達の妨げになることを知っていますか」と問いかけ、さらに同医師会のニコル・ペラウド(Nicole Pellaud)は、「テレビは物事の認識、感情や精神運動性に関してそその必要性を満たしていないし、また年齢相当の他の適切な刺激を受ける機会を奪い、将来必要となったときには「テレビ」の中で見られた解決策のみに頼ることになる」と述べている。

2.テレビ等の適度な利用
  テレビはある種の技術(skill)を会得する何かを持ってはいるが、テレビはとりわけ幼児にとって本来設計されたものではない。すなわち、そこにあるものは本物の動きや色ではないバーチャルな世界である。したがって、1日の中で極めて限定した時間に限りかつ大人が常に付き添って見るべきでものである。
スイスの10代の子供たちは平均して1日に4時間テレビを見ており、これは米国の同世代と比較して約3倍である。

3.健康や精神面への被害
  仮に①スクリーンの前で長時間過ごすこと、②その内容の2要素が結びついた場合、それらは極めて短い時間に非常に攻撃的な行動を引き起こす。「本」にはこのようなマイナス効果は見られない。
また、食物に関する章ではテレビの肥満効果について過小評価されており、テレビでは大量に生産された食物の効果のみもてはやすことそのものが国民の健康に対する本当の被害を与えるものであると述べている。

4.小冊子の内容と配布部数
 スイスでは、この健康小冊子を子供が生まれるとその両親に寄贈され、また両親は子供の健康診断時にこの小冊子を必ず提示する。そのため、助産婦や小児科医のために子供の発達記録を書き留められるよう記載欄等が設けられている。その他に一般的な子供の発達に沿った情報等が織り込まれており、スイスの両親の90%が利用しており、2005年には67,000部、2006年には89,000部が印刷されている。

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(筆者注1)インターネットでの申込みはドイツ語、フランス語のいずれかのみである。無料であり、関心のある向きはチャレンジされたい。なお、申込の手順がやや複雑なので説明しておく。①CSS Assuranceの発刊物一覧を開く→②「Carnet de santé pour l’enfant」を選択し、言語と部数を指定する→③continuerをクリック→④個人情報登録画面→⑤envoyerをクリックする。

(筆者注2)この小冊子は40頁ものであるが、絵などを多用したためか34.68MBもある。
各編の項目のみ紹介しておく。
第1編:子供にための日常医薬薬の準備
第2編:いざと言うときの観察とチェック
① 発熱、②熱病発作(febrile convulsions)、③咳、④のどの痛み、⑤耳痛、⑥発疹(Rashes)
⑦異物の飲み込み、⑧動物に咬まれた、⑨虫指され、⑩頭痛、⑪嘔吐(Vomiting)、⑫下痢、⑬胃痛、⑭ヘルニア、⑮便秘
第3編:緊急事態
① 窒息(Suffocation)、②痙攣(Convulsion)、③昏睡(Coma)、④中毒、⑤事故(やけど、感電、溺死)
第4編:0ヶ月から3ヶ月の間の赤ん坊の健康管理チェック

(筆者注3)スイスの医療健康保険制度についての解説サイトのURL(連載)を紹介する(グルエッチへの投稿記事「6.スイスの医療制度」)。なお、今回の原稿を書くにあたり始めて発見したのが、このサイト「スイス日本ライフスタイル研究会」である。国際結婚し、スイスで永年暮らす女性7人が本の執筆を機会に立ち上げ研究会である。スイスの年金制度改革や医療保険制度等、実際にスイスで生活した体験に基づくものであり、日本女性の分析力、積極性に敬服する次第である。

その他に「スイスの健康保険制度 (issei.org)」も詳しい。

〔参照URL〕

スイスの医療保険制度、貧困の一因か? - SWI swissinfo.ch

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