ある年の札幌雪祭りが始まる頃に1年先輩のA氏が私の
ところへ訪ねてきた。珍しいことがあるものだと思って、久し
ぶりにコーヒーを入れた。A氏は何か特別な話がある様子
だった。しばらく雑談をしてからA氏は2月10日後4日間ほ
ど体が空いていないかという。どうしてかと尋ねると、千葉
大学の病理学にO教授のお手伝いで北海道へ行くことに
なったが、1人では無理なので誘いに来たという。
病理の教授というのは診療はしないが基礎医学では重要
な仕事を担っているという。そのO教授が北海道のある地域
で子供にだけ発生していたカシン・ベック病というのの予防
のために大変な努力をしている。その手伝いをするというの
だった。仕事の内容は水道水中の有機物の分析だという。
カシン・ベック病というのは、その病気の発見者、カシンと
ベックというソ連の医師2人の名前を付けたという。症状は
幼児期から15,6才頃までの間にある種の有機物の入った
水で育つと指の関節に異常が発生して治療が出来なくなると
いう。
私たち3人は札幌雪祭りが終わる頃に東京を出発した。A氏
と私は有機物測定用の薬品類と純水をもって出かけました。
その頃はまだ青函連絡船で青森から函館へ渡るために青函
連絡船に乗り換えました。船は1等寝台というのに乗せてくれ
ました。病理のO教授からはいろんな話を伺え幸運でした。札
幌に宿を取り現地まで3日間列車とタクシーで通いました。初
めて見たその地域の水道水の水は薄い茶色でした。それを目
の細かいフィルターと活性炭を通して濾過すると無色になるの
ですね。この装置をO教授が考案して無料で子供のいる家庭
に設置していたのでした。数ヶ月おきに点検と部品の交換に
いくのですが、その際に水質調査も行うのです。そのお手伝い
にいったのでした。今はきちんとした上水道を設備したと聞い
ています。