クッソおもんねぇ。
「磯野家の人々〜20年の後サザエさん」
観たかったのはコレジャナイ・・・。
ただでさえ漫画(アニメ)の実写化はヤイノヤイノ言われる。キャストのイメージがとか、ストーリーの選択がとか、このセリフがとか。しかも国民的番組と言われるサザエさん。1969年から続く長寿番組で、日本人なら誰でも知ってる日本一有名な魚介類家族。その実写化となれば、そりゃ大変だ。人によって思い入れが違うだろうからね。
サザエさんは今までに実写化はされている。過去の実写版もほぼ見てるが今までそれはそれで楽しめたからね。
しかし今回の「20年後のサザエさん」はひどすぎた。
20年後をオリジナルストーリーとして描くということで楽しみにしてたのだが、期待はずれもいいとこ。
暗い。重い。しんどい。
これほど「コレジャナイ」と思ったことは過去ない。
所詮長谷川町子さんが全く関わっていない別物。ジェームス・キャメロンが関わっていないターミネータ−3よりひどい、怒りさえ湧いてきそうな出来栄え。虚しくて途中で観るのを止めてしまった。
天海祐希が悪いのではない。サザエさんのコスプレをした天海祐希だったがそこが問題ではない。観月ありさ、星野知子、浅野温子・・・歴代の実写版サザエさんの名優たちもそれぞれ違和感はあったからね。藤原紀香も今舞台で演じてるらしいが、誰が演じてもサザエさんはサザエさんだ。
西島秀俊のマスオさんと小手伸也のアナゴさんの飲み屋のシーンなんか二人とも上手いなぁって思った。二人がなぜ一緒の会社で働いてるのかは不明だが(今アニメではそう設定されてるの?)、口癖や口調は紛れもなくマスオとノリスケだ。
伊武雅刀の波平さん、市毛良枝のフネさんなんかイメージぴったりだ。そのままといっていい。何の違和感もない。説明されなくても誰だかわかる。
カツオを演じた濱田岳は、このままスピンオフで数本単発ドラマにしてほしいくらいイメージ通りのカツオだったし、松岡茉優や成田凌も違和感あるが「これはワカメちゃんだ、これはタラちゃんだ」って思いながら見れば問題ない。
矢嶋智人のノリスケさんも、勝又州和のサブちゃん(三河屋さんね)も岡崎体育の中島くんだって、アニメイメージをそんなに崩していない。黒川智花とは思えないくらい下手な演技だったかおりちゃん(酔っ払いとか泣きの演技って難しいのよね)や、誰役?って会話内容で推測しなければわからなかった堀内敬子のタイコさんもスルーできる。
じゃぁ何がそんなにひどかったのか。
ストーリーがとにかく暗いのだ。
サザエさんといえば毎週毎週ドタバタのホームドラマだ。カツオがしょうもないいたずらをし、ワカメは悪気なく周りの人を困らせる。そんな二人に姉さんであるサザエは振り回され時には自分もご近所でトラブルを起こす。そんなサザエさんや義理の弟妹を入り婿のマスオさんは笑って理解してあげる。波平はたまに癇癪で怒鳴りフネさんは冷静沈着、これがお約束のサザエさんの日常だ。
基本的に楽しい。問題は何一つ根本的に解決していなくてもそれでいいのだ。じゃんけんしてまた来週だ。だから日曜日に楽しいサザエさんを見終わった後「あぁ、明日からまた学校だ」「あぁ休日が終わっちまったい」と憂鬱になる人も出るくらいなのだ。
しかし今回のアニメでは全然楽しくならない。カツオはいたずらをせず真剣にレストランの存続を悩んでるし、ワカメは持ち前の空気読めない感を消し仕事のスランプと焦りを結婚することで逃げようとしてる。タラちゃんは就活で悩みイクラちゃんに嫉妬心を燃やす。
こんなサザエさん一家が描きたかったのか?視聴者は見たかったのか?
アニメでは長年放送されても歳をとらないサザエさん一家。江口寿史の漫画で、実は拡大するとサザエさんの目尻に小ジワがってのがあるが、いつまでも画面の中のサザエさんファミリーおよびその周辺の人々は年齢を重ねていかない。
だからその20年後ってのを描くなら、このキャラはこうなってるだろうなって勝手にイメージ膨らませてしまう。変わらないなぁってとこと変わったなぁと思うところ。これが今回のドラマではあまりにもイメージと違いすぎて俺には無理だった。
以前グリコかなんかのCMで「25年後のサザエさん一家」ってのをやっていた。浅野忠信のカツオは相変わらず野球のバットを振っていたが、ワカメの宮沢りえは美しく、タラちゃんの瑛太はそのまま素直で、イクラちゃんの小栗旬は高級車に乗ってカッコ良く現れてた。こういう25年後のサザエさんファミリーはあるだろうなってのを、見事に表現してた。
しかし、今回の20年後のサザエさん一家は「こんなサザエさん一家は見たくない」って感じだった。
天海祐希のサザエさんは明るく元気だ。問題はない。サブちゃんを始めご近所商店街の人とも元気に挨拶をする。買い物に出かけて財布を忘れてても「今日はいい天気」となるだろう。しかし、カツオ、ワカメ、タラちゃんの暗さはなんだ。一体20年の間にお前らに何があったんだ。そりゃタラちゃんだっていつまでも三輪車乗って「デスゥ〜」って言ってるわけじゃないし、イクラちゃんも「ハィ〜」って言ってる間に成長し学生起業するだろう。
しかし今回のドラマの彼らは、お魚くわえたドラ猫を裸足で追いかけるサザエさんを、きっと冷めた目で見てそうだ。カツオはため息をつき、ワカメは愛想笑いをし、タラちゃんは焦って自暴自棄に陥ってる。
そして一番の原因は、幻のキャラ・ヒトデちゃんのせいかもしれない。
「えっ!?誰それ?」ってくらいよほどのコアなファンしか知らなかったヒトデちゃん。長谷川町子さんが描く10年後のサザエさんで一度だけ登場したヒトデを今回登場させたのはいい。だが、ただでさえ7人のサザエさんファミリー(正確には波平さん家だが)を見慣れた視聴者(俺のことだが)にとって、8人になると違和感がある。もちろん演じてる桜田ひよりもアウェー感あっただろう。緊張感丸出しの演技。
若手中堅ベテラン、並み居る演技派俳優人に囲まれての演技はきついものがあっただろうが、あまりにも酷すぎる棒演技。「時効警察(はじめました)」の吉岡里穂、「(まだ)結婚できない男」の深川麻衣と同じく馴染めない中での空回りで爆死してくれた。
「今日も嫌がらせ弁当」のパクリっぽい内容はともかく、サザエさん一家で育って、キャラ弁を人目を気にして嫌がるような高校生になるとは思えないしね。
森矢カンナが花沢さんイメージそのままで、「たぶんこの人は20年後こうなってるだろうな」って感じをうまく演じてただけに余計アラが目立った。
キャストのせいというより、そもそも脚本・キャラ設定が合っていないのだ。
アテ書き(俳優に合わせて脚本を書くこと)土地がい、キャラに合わせて脚本を書きそれを役者が演じるというかなりしんどいパターンであるのは有名アニメの実写化だから仕方がないが、脚本が悪すぎだ。演出家のせい?よくわからんが、演者のっていうより、つまんなさとイメージの違いが目についてしまった。
これまた以前の話になるが、TOYOTAのCMでドラえもんの実写版という無茶をしていた。
ジャン・レノがドラえもんを演じるという無茶でも違和感を感じさせないのだ。妻夫木聡ののび太は相変わらずのダメっぷりで、水川あさみのしずかちゃんは相変わらずの小悪魔ぶりだった。小川直哉のジャイアンは相変わらず音痴で、前田敦子のジャイ子は相変わらずのわがままっぷり(だけど可愛くなってる)、山下智久のスネ夫も相変わらずの成金ぶり(だけどボランティアしたり介護したり実は善人)だ。これは「たぶんこいつらは10数年後こうなってるな」ってみんなが思うドラえもんイメージそのままだった。
それに比べて今回の20年後のサザエさん、酷いなぁ。
サザエが小さい時に植えた木が風か雷で倒れてしまったとこで、辛くて観るのやめた。
観ててしんどいのだもの。
だからエンディングがどうなったかは知らない。ひょっとしたら大逆転、急展開で一気に笑えて感動して面白くなったのかもしれないが、脱落してしまった。
あと、ビールが絡むシーンが多々見受けられたのだが、あれは伏線だったのだろうか。レストランでワカメとマスオさんが背中合わせで座っててそれぞれ同時に「ビールで」というシーンがあったり、久々の実家でカツオがやたらと瓶ビールを冷蔵庫から持ち出してた。カツオはこの実家シーンで少なくとも、帰宅すぐ、タラちゃん帰宅、マスオさん帰宅と少なくとも3回はビールを持ち出し注ぎ飲むシーンがあったが、これでビールはストーリーに関係なかったらどうしよう。番組スポンサーがAsahiかサッポロとかだったのかな。まぁどうでもいけど。
是非これに懲りず、こうなったら「30年後のサザエさん一家」とかやってほしいな。イクラちゃんが上場して有名女優と恋愛する「イクラちゃん宇宙に行く」、ダメな新人社員につい怒ってしまいパワハラで告訴される「マスオさんがリストラ?」、三河屋がついに電子マネーを取り入れる「サブちゃんのペイペイ」の三本立てで。
いっその事、映画化にしてくれないか。
監督は庵野さんで。タイトルは「シン・サザエ」。
どうだ。