脳の働きと深く関係する睡眠
人間は夜になると、睡眠をとります。睡眠は、成人で平均すると毎日7〜8時間程度の睡眠をとることが基準といわれていますが、これには特別な根拠はなく、睡眠時間は人によって大きな個人差があるようです。統計を見ても、日本人の大部分の睡眠時間は6〜9時間の間にありますが、6時間以下の人も5%います。
睡眠は以前、心や体の疲れを癒すための休息状態とされてきましたが、今日では脳の働きによって起こる積極的な休息活動の1つと考えられています。
眠りと脳の機能とは密接な関係があるとされ、これは起きている時の脳波と眠っている間の脳波が違うことからもわかります。一般に眠るのは体の疲労を回復させるためと考えられていますが、実はそうではありません。1日中、部屋にいて体は疲れていなくても、夜になると眠くなりますが、これは脳が疲労を取るために、自分自身を休息させようとするためです。これが睡眠の本質といわれています。このように考えれば、不眠とは何らかの原因で、脳に備わった眠りのメカニズムがうまく働かなくなった時に現われる症状と考えられます。
規則正しい生活は睡眠のリズムを整えるなど、脳の正常な働きにも深く関係してきます。なぜなら、間脳にある視床下部という部位には『生体リズム』が組み込まれており、朝型、夜型の多少のズレはあるにしても、ほぼ1日の周期で外界の昼夜リズムと同調した生活リズムを作り出しているためです。人間の体は、昼間は交感神経が優位で、体温が高めなのに対して、夜は副交感神経が優位で体温が低めにセットされ、眠りやすくなっているのは、この生体リズムのなせるわざなのです。
睡眠をコントロールする脳は、睡眠不足量を基にして、眠りの質を決定しています。連続して起きている時間が長いほど、深い眠りが多量に出現します。これが睡眠不足の埋め合わせに大きな役割を果たしています。睡眠不足があれば、それが夜の眠りに反映されて、深い眠りがいつもより多く出現し、不足分を質で補ってくれます。そのため、意識的にわざわざ長く寝なくても、うまく帳尻合わせができるわけです。
ノンレム睡眠とレム睡眠
睡眠にはノンレム睡眠(脳波は徐波を示し、体も脳も睡眠状態)とレム睡眠(脳波は覚醒に近い所見を示すが、体の緊張はとれている睡眠)の2種類があります。ノンレム睡眠からレム睡眠が約90分で1サイクルになって一晩で4〜5回、繰り返され、睡眠の1つの周期を作っています。
ノンレム睡眠には深く脳を休息させる働きがあります。またレム睡眠には脳を目覚めさせ筋肉を弛緩(しかん)させて、体を休ませる働きがあります。ちなみにレム睡眠の状態にある人を起こしてみると、大抵の人が夢を見ており、夢と関係の深い睡眠と考えられています。
就寝直後のノンレム睡眠は深いですが、サイクルを繰り返し、明け方になるにつれて浅い睡眠となります。一方でレム睡眠は間延びしてきます。これは脳が「もう起きるんだよ」と全身に向かって指令を出しているという解釈もできます。
一般に長時間の睡眠の場合は、浅い眠りと中途覚醒の割合が高く、質の悪い眠りを継続させていることになり、その分だけ、昼間にも眠気が残ります。そんな時、居眠りや昼寝をすると、その分だけ夜間に熟睡しにくくなります。
睡眠の深さ
睡眠の質は加齢とともに低下
生まれたばかりの赤ん坊は、3時間から4時間おきにミルクを飲んだり、ウンチをしたりして、あとはほとんど眠っています。このように1日に何回も眠ったり、起きたりする睡眠を「多相性睡眠」といいます。このような乳幼児期の多相性睡眠も成長するにつれ、集中的に夜だけ眠るようになります。このように夜1回だけ集中して眠ることを「単相性睡眠」といいます。
一般に睡眠の質は加齢とともに低下するといわれています。高齢者になると昼間でも居眠りをしたり、夜間に目が覚めやすくなったりしますが、これは脳の働きが低下するために起こる老化現象の1つと考えられています。高齢者で不眠を訴える人が多くなるのは、睡眠が途中で中断されてしまうのと関係があるようです。睡眠の質が低下しているので、量でカバーすることも必要であり、例えば早く就寝するとか、長く布団の中にいるなどの工夫をすることも大切でしょう。
それでは一体、どれくらい不眠を訴える高齢者がいるのでしょうか。ある県の在宅の高齢者を対象にした調査によると、全体の6分の1が不眠を訴えているようです。またアメリカでは60歳以上では全体の25%以上、70歳以上になると、その60%が満足に眠れない悩みを抱えているという報告も発表されています。