マグロのむれは泳いでいく。
ぐんぐんずんずんしゅーんしゅーんと。
大きめのマグロも小さめのマグロも
いっしょに海をぐるりとめぐる。
一年生のわかマグロが
でっかいせんぱいにきいてみた。
「わたしたちずいぶん泳いできたけどそろそろとまってもいいんじゃないかしら?」
せんぱいマグロは、丸い目を大きく見ひらいた。
「とまってもいいって?それはよくないよ。とまるときが、ずっとこなければいいなぁってぼくはねがってるんだ。すえながくみんなですすんでいきたいから」
「それって、つまり永遠に泳ぎつづけるっていうこと?」
わかマグロがききかえすと、せんぱいマグロは首をよこにふった。
「いや、永遠にというふうには、いかないんだ。永遠に生きられるものは、だれもいないからな」
せんぱいマグロは話をつづけた。
「だけど生きているかぎりは、ずっととまることなく、ぼくらはどんどん泳ぐんだ」
するとわかマグロは、つぶやいた。
「いったいどこにいこうとして泳いでいるのかな・・・」
「べつに、どこかにたどりつくために泳いでいるわけじゃないよ。はるばる遠くへ泳いで、とおりぬけて泳いで、ぐるっと海をめぐってずっと泳いでいく。それがぼくらの生き方だ」
せんぱいマグロがそう語ると、わかマグロはちょっとかんがえこんだ。
「でも、どうやって、いままで泳いできた場所をおぼえればいいのか・・・なにもかもびゅんびゅんすぎてしまうから、わからなくなるんだ」
せんぱいマグロはうなずいて、しずかな声でいった。
「耳をすまして、泳ぎながら海をよくきくんだ。海はおしえてくれる。きみがいままでどこを泳いできたか、これからどこへ泳いだらいいのか、ぜんぶおしえてくれるよ」
わかマグロはひとりごとのようにくりかえした。
「耳をすまして・・・
泳ぎながらきく・・・」
せんぱいマグロの目はかがやいている。
「そう。よくききながら泳ぐ。それが、ぼくらの生き方」