ヒョウとライオンとおじいさん
「昔々、ある日のこと、二人の女の子がカスングからウィンベまで歩いていた。だけど、あまりに疲れて、途中で歩けなくなってしまった」
ぼくたちは膝をかかえて床に座り、一語一語一心に耳を傾けた。父さんは話をたくさん知っていたが、ヒョウとライオンの話は僕の好きな話のひとつだった。その話はその後こんなふうに続く。
「地べたでは寝たくなかったから、女の子たちはきれいで静かな場所を探した。で、暫くすると、偶然、あるお爺さんの家が見つかった。そのお爺さんは二人の願いを聞くと、こう言った。
”もちろん、ここで休んでいってかまわんよ。さあさあ、中にはいりなさい”
その晩、二人がぐっすり眠っていると、お爺さんは玄関からこっそり外に出て、暗い森へと歩いていった。そこにはお爺さんの親友のヒョウとライオンがいた。お爺さんは言った。
“友よ、おまえたちに美味しいごちそうを用意した。ついてきなさい”
“なんと、それはありがたい”とヒョウは言った。“すぐに行くとしよう”
お爺さんは二匹の友を連れ、森を抜けて家に向かった。ヒョウとライオンはもうすぐご馳走が食べられるということで浮かれて、楽しそうに歌まで歌い始めた。しかし、女の子たちはお爺さんが戻ってくる前にもう目を覚ましていた。
一眠りして元気になったらしく、さらに旅を続けようと、お爺さんには会わずに出発していた。ベッドを貸してくれたお礼を書いたメモを残して。
お爺さんはヒョウとライオンを連れて家に戻るといった。
“ここで待ってなさい。今、ごちそうを連れてくるから”そう言って、家に入ると、ベッドは空っぽだった。
二人はどこへ行ったんだろう?
お爺さんは不思議におもって探したが、見つからなかった。そこでようやくメモに気付き、二人がもう行ってしまったことを知った。外ではヒョウとライオンがしびれを切らしていた。
“おい、俺たちのごちそうはどこだ?”とヒョウが言った。
“俺達がよだれを垂らし
てるのが見えないのか?”
お爺さんは家の中から呼ばわった。“もうちょっと待ってろ。どこかにいるはずだから、探させてくれ”
女の子がいないことがヒョウとライオンに知れたら、かわりにお爺さんが夕食に食べられてしまう。
お爺さんの家の隅には飲み水を貯めておくための大きなかめがあった。
他に手立てがないと見ると、お爺さんはその中に飛び込んでかくれた。
待ちきれなくなったライオンがとうとう言った。
“もう待ちきれん。中に入るぞ!”
ヒョウとライオンがドアを壊して入ると、家の中はもぬけの殻だった。女の子もいなければ、お爺さんもいなかった。これで夕食がなくなった。
“おい、あの爺さん、おれたちを騙しやがった”とヒョウが言った。
“自分までとんずらしちまった”ちょうどそのときだ。ヒョウは甕からお爺さんのシャツの端がはみ出ているのに気づいた。で、黙ってライオンに合図すると、力を合わせて甕を引っ張った。
お爺さんはたまらず飛び出した。
“頼む、やめてくれ。わしの話を聞いてくれ”しかし、ヒョウとライオンは聞く耳を持たなかった。お爺さんはあっというまに食べられてしまった」
父さんは両手を打って、話が終わったことを示した。それからぼくら子供たちを見まわして言った。
「人を不幸にしてやろうなんて考えた時には注意しなきゃいけないってことだ。そんなことを考えると、不幸は自分に降りかかってくる。
いつも他の人の幸せを祈ることだ」
☆☆☆☆☆
人間は、人間を殺してしまうヒョウとライオンと友達になってはいけないんだ。
同じ人間をホロコーストにしてはいけないんだよ。