遠征に行った晩は、長崎3リーグの創立30年の記念祝賀会というパーティーにナゼか出席するハメになって、しかも一保護者の身分でナゼか来賓席に座るハメになって、当然スーツなんか持ってきてないからジャージ姿なワケだけど、お偉いさんとズラリ一緒の円卓に座ってるもんだから関係者が次々に挨拶にやって来て、その度にボクは恐縮しまくりながら乾杯しなくちゃいけなかったのだ。
果たしてボクはナニ者なのかと自問自答とする酒宴だったワケだけど、いつのまにかそれらしくなってお偉いさんと談笑してしまうから不思議なもんで、だからそういう性分ってことで1つ空いた来賓席に追いやられただけなのかもしれない。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、だから当然2次会にも誘われちゃって3次会から戻ったのは丑三つ時。ちなみにボクが酒にまみれている間、食事が終わった子供達は、監督の部屋でミーティングを行い、ランニングや素振りのトレーニングをして就寝したそうだ。
翌日、体内には十分なアルコールが残っていたにもかかわらず、懸命にしらふのフリをしてバスに揺られて試合会場へ向かった。
準決勝ではAコートで審判をやらなくちゃいけなくて、我がKMMリーグの応援はできなかった。
試合開始前、本部での会合が終わりとりあえず自陣の応援席に戻ろうとすると、ママ達がリョー坊の目にボールが当たったと言って心配しきった様子で寄ってきた。
リョー坊はベンチに寝かされ右目に氷りが当てられていた。
「ぼけ~っとしとったとだろ」
「・・・」
「キャッチミスや」
「ちがう」
「横から別の球でも飛んできたとや」
「ちがう」
「じゃぁ、なんや」
「・・・・」
「目、見せてん」
氷りを除けると閉じたつもりの右目のまぶたの奥に赤みがかった眼球が見えた。
「見えるや」
「わからん」
「痛いや」
「痛いのは痛い」
受け答えはハッキリしており言葉も力強かった。
「・・・どうやら、意識は、ハッキリしているようデス」
湯川学風にかしこまってそう言うと、集まってたママ達から笑みが漏れた。
「しばらく寝かせてたらよくなるんじゃぁないでしょうか、スミマセンが後はよろしくお願いします。」
このアクシデントで出場機会はもう無いだろうなと思いながらAコートへ掛けて行った。
準決勝が始まろうとしていた。ボクら審判がバックネットの傍に立っていると息を切らしながら走ってきたSGAママがボクに声を掛けた。やっぱり心配だからリョー坊を病院に連れて行くと言う。リョー坊は我慢強い子だから余計に心配だと言う。
ネット越しに「じゃぁ、お願いします」としか言えなかった。
ありがたいことだと思いながら、容体が悪くなったのかと凄く心配になった。これで帰りはみんなと別行動だな。仕方がないな。そう思った。
準決勝が始まった。
ボクは試合に集中した。だけど、チェンジのときは我がKMMリーグ対SSBリーグの試合が気になり、Bコートを眺めることが多かった。SSBリーグが優勢のようだった。
Aコートの試合も終盤だった。Bコートに目を向けるとKMMリーグが攻撃していた。バッターボックスにはKMMリーグのユニホームが見えた。走者は二塁。バッターボックスのユニホームは左打者でエラク小柄だった。4年生で一番小さいMUT君と思った。
ピッチャーが投げた。バッター、フルスイング。
バットが空を切った。選手達が本塁前に集まり整列した。試合終了だった。
最後のフルスイングは見慣れたスイングだった。
リョー坊のスイングだった。
「・・オマエ、出れたのか・・・・ナンデェ?」
試合終了後にママ達から聞いた話しによれば、試合会場にお医者さんがいたそうで、その人に診てもらったとのこと。問題無かったそうで、それでリョー坊は試合中盤になってエラーを連発した選手と交代ということになって、監督の呼び声に喜々としながらグランドに入って行ったとそういうことらしいのだ。
だけど試合はSSBリーグに惨敗。そしてSSBリーグは優勝。
そういう戦いだった。
家路に向かう車の中でリョー坊と少し話しをした。
「リョー坊、オマエ、ラストバッターだったんだな」
リョー坊は無言で、それには触れないでくれという表情だった。
「野球にはいろんなシチュエーションがあるけどさ、ラストバッターってさ、自分のバッティングができるっていうか、自分のバッティングが試されるそういう場面だよなぁ。オマエはいい経験したと思うよ。ホント、ある意味羨ましいよ。」
試合終了後、リョー坊は泣いていたそうだ。
惨敗したけど大きな財産を得た戦いだった。
果たしてボクはナニ者なのかと自問自答とする酒宴だったワケだけど、いつのまにかそれらしくなってお偉いさんと談笑してしまうから不思議なもんで、だからそういう性分ってことで1つ空いた来賓席に追いやられただけなのかもしれない。まぁ、そんなことはどうでもいいんだけど、だから当然2次会にも誘われちゃって3次会から戻ったのは丑三つ時。ちなみにボクが酒にまみれている間、食事が終わった子供達は、監督の部屋でミーティングを行い、ランニングや素振りのトレーニングをして就寝したそうだ。
翌日、体内には十分なアルコールが残っていたにもかかわらず、懸命にしらふのフリをしてバスに揺られて試合会場へ向かった。
準決勝ではAコートで審判をやらなくちゃいけなくて、我がKMMリーグの応援はできなかった。
試合開始前、本部での会合が終わりとりあえず自陣の応援席に戻ろうとすると、ママ達がリョー坊の目にボールが当たったと言って心配しきった様子で寄ってきた。
リョー坊はベンチに寝かされ右目に氷りが当てられていた。
「ぼけ~っとしとったとだろ」
「・・・」
「キャッチミスや」
「ちがう」
「横から別の球でも飛んできたとや」
「ちがう」
「じゃぁ、なんや」
「・・・・」
「目、見せてん」
氷りを除けると閉じたつもりの右目のまぶたの奥に赤みがかった眼球が見えた。
「見えるや」
「わからん」
「痛いや」
「痛いのは痛い」
受け答えはハッキリしており言葉も力強かった。
「・・・どうやら、意識は、ハッキリしているようデス」
湯川学風にかしこまってそう言うと、集まってたママ達から笑みが漏れた。
「しばらく寝かせてたらよくなるんじゃぁないでしょうか、スミマセンが後はよろしくお願いします。」
このアクシデントで出場機会はもう無いだろうなと思いながらAコートへ掛けて行った。
準決勝が始まろうとしていた。ボクら審判がバックネットの傍に立っていると息を切らしながら走ってきたSGAママがボクに声を掛けた。やっぱり心配だからリョー坊を病院に連れて行くと言う。リョー坊は我慢強い子だから余計に心配だと言う。
ネット越しに「じゃぁ、お願いします」としか言えなかった。
ありがたいことだと思いながら、容体が悪くなったのかと凄く心配になった。これで帰りはみんなと別行動だな。仕方がないな。そう思った。
準決勝が始まった。
ボクは試合に集中した。だけど、チェンジのときは我がKMMリーグ対SSBリーグの試合が気になり、Bコートを眺めることが多かった。SSBリーグが優勢のようだった。
Aコートの試合も終盤だった。Bコートに目を向けるとKMMリーグが攻撃していた。バッターボックスにはKMMリーグのユニホームが見えた。走者は二塁。バッターボックスのユニホームは左打者でエラク小柄だった。4年生で一番小さいMUT君と思った。
ピッチャーが投げた。バッター、フルスイング。
バットが空を切った。選手達が本塁前に集まり整列した。試合終了だった。
最後のフルスイングは見慣れたスイングだった。
リョー坊のスイングだった。
「・・オマエ、出れたのか・・・・ナンデェ?」
試合終了後にママ達から聞いた話しによれば、試合会場にお医者さんがいたそうで、その人に診てもらったとのこと。問題無かったそうで、それでリョー坊は試合中盤になってエラーを連発した選手と交代ということになって、監督の呼び声に喜々としながらグランドに入って行ったとそういうことらしいのだ。
だけど試合はSSBリーグに惨敗。そしてSSBリーグは優勝。
そういう戦いだった。
家路に向かう車の中でリョー坊と少し話しをした。
「リョー坊、オマエ、ラストバッターだったんだな」
リョー坊は無言で、それには触れないでくれという表情だった。
「野球にはいろんなシチュエーションがあるけどさ、ラストバッターってさ、自分のバッティングができるっていうか、自分のバッティングが試されるそういう場面だよなぁ。オマエはいい経験したと思うよ。ホント、ある意味羨ましいよ。」
試合終了後、リョー坊は泣いていたそうだ。
惨敗したけど大きな財産を得た戦いだった。
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