伊藤浩之の春夏秋冬

いわき市遠野町に住む元市議会議員。1960年生まれ。最近は遠野和紙に関わる話題が多し。気ままに更新中。

人は印象だけで判断できないと教えてくれた若者たち

2017年05月01日 | 日記
 人は見かけによらない。といったら当人たちに怒られちゃいますかね。

 Aさんに聞いた話です。

 交差点の手前で、車の左側前後輪を側溝に落としてしまい身動きが取れなくなってしまった車があったそうです。

 乗員は、ジャッキで対応しようとしますが、シャシなどが完全に地面についているためうまくいっていない。

 「たしか、牽引ロープを積んでいたはず」

 この人は、そう思いつきました。いったん脱輪車を通り過ぎて安全な場所に車を停め、荷物スペースを探しました。しかしロープはありませんでした。別の車に積み替えたようです。

 「これはだめだ」。そう思いました。同時にそのままにしておくのもかわいそう。役に立たないけかもしれないけれど、とりあえず声をかけてみようと思い話しかけた。

 あれ、何か様子が違う。言葉がちょっと違うのです。外国籍の方だったのです。運転手は日本語が十分にできないようでした。いっしょにいた若者は日本語に堪能で時折通訳をしてくれます。就労ビザで日本で働いている。こう話していたといいます。

 牽引ロープはないし、ジャッキで車を持ち上げるのも難しそう。そこで提案したそうです。

 「自宅に帰れば牽引ロープがあるので、引っ張ることができるけれど、往復40分程かかります。でも、最悪ロープが見つからないかもしれない。道路サービスのJAFもありますが、お金がかかります」

 JAFはどの位のお金がかかるのと聞かれた。そこでスマホで検索すると、脱輪を持ち上げる場合は会員外でも1万5,000円程の料金だと分かり、伝えました。本人はJAFを希望しました。

 連絡をとると、だいたい1時間後に現場に到着するといいます。

 待つ間に「大丈夫」と声をかける軽自動車の男性がいたそうです。JAFを呼んだと伝えると、「じゃ大丈夫だね」と車を走らせました。気にかけてくれる人がいることに心強さを覚えたといいます。

 そんな時に、ババババッと大きなエンジン音を響かせて、交差点を通り過ぎた車がありました。マフラーを直管に改造した改造車ですね。

 「映画みたいなの、初めて見た」。

 脱輪車の若者がつぶやくように話していたといいます。

 ほんの少し後、若者4人が交差点の向こうから姿を現わした。

 「大丈夫ですか」。「JAFを呼んだんだ」と答えた。「でもこの様子じゃ人手もいりますよ」、若者たちは手慣れた感じで脱輪の具合を調べ、「バックホーじゃなきゃだめかな」と言いあいながら、車を押して救出しようと試みたそうです。

 エンジンをかけ、後ろから5人で車を押した。しかし、タイヤの焦げたにおいはしてくるものの車は動かない。「完全に底がついている。だめだね」。そんな話をしているところにパトカーが通りかかりました。

 若者4人はここで退散。ややして例のバババ音が響いた。

 「そうかさっきの改造車を運転していたのは彼らだったのか。困っているのをみて助けに来てくれたんだね」

 4人の姿を見たとき、なんとなくそんな予感がしていました。やっぱりそうだったんです。

 改造車を楽しむ彼らにとってパトカーは忌避すべき存在。整備不良かなんかで反則切符をきられてしまいますから。彼らの改造車の雰囲気はとても手助けしてくれる印象を感じさせてくれなかった。バババという轟音を聞いた時、脱輪車を冷やかしているような印象を持った。

 でもその印象は間違っていた。困っている人を見過ごせない心を持っている若者たちが運転する車だったのですね。

 パトカーの警官は警ら中に脱輪車を見つけたものだから近寄ってきた。

 警官は「レッカー呼ぶ」と声をかけました。すでに呼んでいることを伝えた。「じゃっ大丈夫だね。一応事故なので、見かけた以上そのままにはしておけないんでね」と事情聴取が始まりました。

 運転手が外国籍と分かると、Aさんに警官が「責任者の方」と声をかけてきたそうだ。責任者ってどういう意味・・ああそうか、ブローカーかなんかと考えているのか・・そんなふうに思いを巡らせながら、「いやいやただの通りすがり」と否定した。

 「通りすがり・・アッハッハ」。笑ったかどうかは別として警官は笑顔を見せたそうです。

 パトカーが来てくれたことにはありがたさも感じた。

 赤色灯で危険表示をしてくれ、コーンも並べて安全確保をしてくれた。

 先ほど脱輪車の若者が、「ここに立っていて危険はないでしょうか」と話しかけてきた。

 場所が交差点なものだから次々と車がやってくる。信号機の近くで脱輪しているものだから、信号機近くに停車できない通行車が、青信号になった時に、それなりにスピードを上げて通り過ぎていく。不安を覚えて当然だ。

 Aさんは、かねて用意していた三角停止板(高速道路などで停車時に使用する赤い三角形の標識)を自分の車から持ち出して、脱輪車の後方に置いた。それでも不安は残る。辺りは暗がりが支配的になっていた。そんな時にパトカーの赤色灯の効果は絶大だった。

 事故車に気がついたのは午後6時10分頃。脱輪車の彼らに話しかけた後にJAFに電話したのは6時20分。この時間帯は、いまの季節ならまだまだ明るさが残っている。しかし、午後7時頃ともなると、さすがに辺りは暗くなってきていた。

 JAFは現着時間を午後7時15分頃と言っていたそうです。それより少し前、だいたい7時頃にJAFの車がやってきた。荷台に車を載せるタイプの車両だ。これには牽引装置がついている。

 脱輪の様子を見て、「これはレッカーじゃないと上がらないかもしれませんね」と言いながらも、とりあえずは牽引装置で巻き上げてみると準備を始めた。

 その間、パトカーの警官は車の誘導に当たり安全確保を図ってくれた。

 巻き上げの準備が完了した。JAFの職員が脱輪車に乗りエンジンをかけた。牽引装置はリモコンで操作するようだ。職員はたくみに車のハンドル、アクセル、そして牽引装置を操作し、見事に車を側溝から引き上げた。

 JAFの職員が脱輪車と作業車を安全な場所まで移動すると、警官は「現場確認も終わったので我々も引き上げます」と声をかけてパトカーに向かった。

 脱輪車の走行には問題はないようだ。運転手さんは作業料金1万2,880円を支払った。同乗していた若者はAさんにきょうのお礼とお金を差し出したそうです。Aさんにはもちろんそんな気はない。事故、しかも慣れない土地、不安もあるだろうと思った。それを少しでも解消できるならばと思い解決するまでとどまっただけだという。「いらない、いらない」と受け取らず、その場を立ち去りながら「高速のインターはあっちね。気をつけて帰ってね」と声をかけた。脱輪車の2人に少し笑顔が見えたことがうれしかったといいます。

 彼らは無事に帰ることができたのだろうか。

 Aさんは、改造車の若者4人の行動で目からうろこが落ちたといいます。一見、粗野に見える車。それは直管マフラーの騒音がそう感じさせるのだが、その見てくれだけで人を判断できないと思ったというのです。

 困っている人を見かけた時に、車を停め、現場にとどまり、手を貸そうとする行動には、少しの優しさと少しの勇気がいると思う。彼らはそれを難なくやってみせた。車を見た印象、騒音の印象だけで、彼らに強い悪印象を抱いた。それは間違いだった。そう思ったそうです。むしろ若者の行動には、この人のために何かをやってあげたいという善意を強く感じた。

 彼らには申し訳なかった。パトカーが来たことで、いつの間にかその場を離れた彼らに、一言、お礼をいうことができないまま分かれることになったが、彼らにお礼をいいたい。Aさんはそんなことを話していました。

 でも、まぁー、車の騒音を何とかすれば、彼らの善意や優しさは誰にでもストレートに伝わるとは思うのだけれど・・。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿