今年度古典講座7回目『袴垂(ハカマダレ)、保昌(ヤスマサ)にあふ事』
意訳
『昔、袴垂という大盗賊の親分がいた。寒くなったので着る物を手に入れようと物色していると、
夜中、服を沢山着ている人がひとりで笛を吹いて歩いている。
これこそ獲物であろうと、走りかかって服を剥ぎ取ろうと思ったのだが不思議に怖く感じたので、
2~300mほど付いて行ったが、気が付く様子ではない。
試しに足音を立てて近寄ったが、笛を吹きながら振り返った様子は襲いかかれそうもなかったので走って逃げた。
何度も色々やってみたが少しも怯えた様子がない。
又1kmほど付いていったが、このままではいられないと思って刀を抜いて走りかかった時に、
今度は笛を吹くのを止めて振り返って「何者だ」と言うので肝がつぶれてしゃがみ込んでしまった。
逃げられないと思ったので、「おいはぎでございます」と言うと
「名前は?」と聞く。「袴垂と呼ばれております」と答えると、
「そういう者がいるとは聞いている。物騒な奴だ。付いて来い。」と言って又笛を吹いて行く。
この様子では逃げられないと観念し、一緒に行くうち家に着いた。
どこだろうかと思うと、摂津の守(県知事くらい)の前任の保昌という人だった。
家の中に呼んで、綿の厚い服を一枚下さった。
「着る物がいる時はここに来て言いなさい。知らない人に襲い掛かるような過ちはするな。」
と言ったのだが、たいそう不気味で恐ろしかった。
大変立派な人であったと、袴垂はその後捕らえられた時に語った。』
悠然と笛を吹いて歩く凛々しい姿は、なんだか牛若丸みたいですね。
そこで先生に「京の五条の牛若丸と弁慶の話は、これを元にして作られたんでしょうか?」と質問しましたら、
「いや、それは無いでしょう。」と即座に否定されました。