雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

親切か、おせっかいか~鉄道車内の案内放送考

2013年04月23日 | ポエム

▲画図湖の水面に映る青空と雲

親切か、おせっかいか~鉄道車内の案内放送考

 作家の椎名誠さんは、エッセイの中でJR九州の車内案内はうるさいと書かれていたが、確かにJR九州の都市間を走る特急では、親切過ぎる程の内容の放送がある。さらに英語、中国語、韓国語の案内もある。
 まず出発前と主要駅では、列車の行き先から編成の説明、途中停車駅と到着時刻の案内がある。停車駅が近づく度に、「まもなく○○駅に到着します」との案内がある。ゆっくりした女性の声のテープでの放送が終わると、車掌の生の車内放送で乗り換えや到着ホーム、進行方向の左右どちらのドアが開くか出口の案内もある。それらの放送が停車駅の度にくり返される。その上に車内販売の案内もあったりしてオススメのお土産の紹介まである。停車駅の多い昨今の特急においては、確かにこれでは耳が休まる間がない。
 これらの案内はJR九州だけではなく、日本中の鉄道において程度の差こそあれ、ほぼ同様だろう。指定席に乗っていると、指定を取っていないおばさんのグループが検札に来た車掌に自由席に移るように言われて「早く言ってよ」と文句を言う場面を見たことがあるが、ホームで、発車前の車内の案内で、また発車後の案内と「何度も言っとるやんけ」言いたくなる。
 一方、私が20代の頃にリュックを背負って旅した1970年代後半のヨーロッパの鉄道では、車内放送はほとんど無かった。現在でもそうなのかは知らない。列車は機関車牽引の客車なので、もともとモーター音は無く、駅に停車中は無音である。そして時間がくれば、発車のベルもなく「ガタン」と静かに動き始める。大人だなあ。これなら椎名さんも文句があるまい。私は「ユーレールパス」という1等に2ヶ月間乗り放題の鉄道パスを日本で買ってきており、可能な限り夜行列車を利用することで、ホテル代を浮かせた。
 当時のヨーロッパの国際列車が厄介なのは、眠っている間の途中駅で列車の編成を切り離したり付け加えたりすることで、自分の乗る車両の行き先を車両ごとの表示でしっかり確認しておかないと、朝起きたら目的と違う国に着いてしまったということも起こりうるのである。
 その上に車内放送が一切なく、「まもなく○○駅に到着します」さえも知らせてくれない。もっとも放送があったとしても私の語学力ではまず聞き取れなかったとは思うが。だから持参したトーマスクックの英語の時刻表で降りる駅の到着時刻を調べておき、その時刻が近づくと車窓を通過する駅名表示をチェックするようにしていた。たいていは大きな都市が目的地であることが多いかったので、駅名をチェックするまでもなく車窓の風景を見て、目的の駅が近いことを知ることが出来た。ただもう一つ厄介なことは、日本でもそうだが、大きな駅の近辺には、例えば熊本駅に上熊本駅と南熊本駅があるように、都市名に東西南北の付いた駅と中央駅などがあることだった。
 初めてヨーロッパの列車に乗った翌朝に、そろそろフランスとスペインの国境の乗り換え駅に着く頃だと緊張しているうちに列車が停車し、駅名表示に目的の町の名の綴りを見つけて「ここだ」と降りた。ところが、降りる乗客が少なく、雰囲気があまりにさみしい感じだったので「違う」と思って、再び列車に飛び乗った。動き出した列車から駅名表示をよく見たら、北か南か東か西かわからないが、少し駅名が違っていた。その後しばらくして、降りるべき国境の駅に着いたのだが、第六感が働いて助かった。
 これが一人旅なら自分だけの失敗で済むことだが、旅行会社に勤めていた私の知り合いが若い頃、十数名の高校生を率いて同じような経験をした話を聞いたことがある。ふと停まっている列車の窓から駅名を見て「降りろー」と、大慌てで列車を降りて駅名をよく確認したら目的駅と違っていたのだ。再び大騒ぎで「乗れー」と車内に戻り皆でほっとしてしたら、同行の高校生の一人が「どうしたの」と何事も無くトイレから席に戻って来たそうだ。もしその駅が降りるべき駅だったら、彼がトイレから戻ったとき、席にはツアーの同行者の影も形も無くなっていたのだと想像すると、それも何だか恐ろしい。(2013.4.23)

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