「今日は(山菜採りの人)どうですか?」
「いやあ、いないのお。・・・まあ完全にゼロではないどもな、本当に少ない。」
「そうですか。」
「んだども、クマはいっぱいいるからの。気をつけてな。」
「はい。」
「とにかく、出会ったら目を離さないで、ウォーってはったりかましてやるんだ。そうすっと逃げでぐ。俺も、30年猟師しったから、これで間違いない。絶対に背中見せんなよ。」
いつもの入山関所での会話だ。このところ、クマの目撃情報が多発しているから注意喚起を兼ねての話だと思う。もっとも、この山に入る人間にとっては、クマに出逢う危険性と覚悟は当然のことで、それよりも、クマに出会わない準備をしっかりしておくことが常識なのだ。具体的には、大きな音の出るものを携行すること。それだけで無用な事故は、ほぼ避けられる。
さて、車止めに着くと、
山の入り口 車がない!
「本当にいないよ。全部で3台だけだ。」
「こんなに少ないのは初めてだね。」
同行のA氏も驚いている。だって、長雨の後の高温でタケノコは間違いなく成長しているはずなのだから。
まあ、ライバルが少ないということは悪いことではない。マイペースでタケノコ採りを楽しもうではありませんか。
我々の到着よりも少し前に着いたのであろう山男のトランクには、発泡スチロールの保冷箱がたくさん並べられているのが見えた。商売人の方みたいですね。ヘッドランプを点け、ポケットラジオの音を響かせながら山に入っていった。
我々は、そんな姿を見ても急がない、慌てない。のんびりとマイペースで行動することが、この長丁場の山伏修行を成功させる最大のコツなのだ。
準備が整ったところで、熊鈴を鳴らしながら出発。
タニウツギが咲き始めていました
渡渉点のスノーブリッジに立つA氏
渡渉点を覆うスノーブリッジは、予想よりもしっかりと残っていました。あれだけの降雨と高温だったのに、ちょっと意外。
下界は、まだ霧の中(午前4時)
休憩所も無人
本日は、本当に人がいない。繰り返しになりますが、マイペースというのはすごく大事なんです。だけど、先行者や後続者に会っただけで、乱れてしまうことが少なからずあるんです。本日は、それがないから、極めて快適です。
ただ、前回まで沢を覆っていたスノーブリッジが、融け落ちていたり崩れかかったりしていたので、そこは慎重に通過しました。熊も怖いけど、スノーブリッジも怖い。
出発してから2時間。目的の斜面でタケノコ採り開始。
先週と違って、伸び加減のものが多い
伸び加減でも、極上なのが分かるので『ウラ折り』にしていただきましょう。
イケメンタケノコもたくさん出ています
これは、全部いただきましょう!
ハケゴが重たくなって、リュックに詰め替えすること3回。帰りが心配な量になってきた。
「A氏い~!もう、いいぜはあ。」
「俺も十分だあ。詰め替えして戻るか?」
「OK!」
収穫物をまとめて背負ってみると、ずっしりと重たい。これは、かなり気を付けないといけませんね。以前は、下りでブレーキをかけると疲れるからと、スピードに乗ってどんどん下っていたんだけど、この荷物、この歳では、足を踏み外しそうだ。多少のダメージがかかっても仕方がないから、一歩一歩確実に下った方が良さそうです。
ゆっくり下る分、景色の美しさがよく見える。
朝日に輝く渓水のしぶき
リュウキンカには日差しがよく似合う
夏を思わせる日差し
霧が消え、遥かに庄内平野が見える
ここから、N沢の雪渓を渡れば、もう難所はないのだけれど、それでも慎重に山を下る。重いリュックが肩に食い込むがこれも心地よい。満足です。
N沢の山の神様、本日もありがとうございました。