■錆びた滑車/若竹七海 2019.4.29
2019年版 このミステリーがすごい!
国内篇 第3位 錆びた滑車
若竹七海作、『錆びた滑車』 を読みました。
このミステリを読んでいる間、女探偵、葉村晶はうら若き元気いっぱいの女性と、ぼくはいつも勘違いしがちでした。
物語が、きびきびと進行するので、そう感じてしまったのかも知れません。
老眼......という、場面があって、ああ!中年のおばはんだったねえ。でも、流石探偵、時には年の割に派手な立ち回りも。
このミステリで一番感動した台詞は、尻の大きなおばちゃんのこの一言。
「なに、あんた。これ以上つきまとうなら、ケイサツ呼ぶよ。どこの週刊誌か知らないけど、話すことなんかなんにもない。クビが決まったからって、古巣の悪口ベラベラ喋るような女だと思ってんなら大間違いだ。これでも教育機関の人間だよ。大人は若者の手本になるべきなんだ。理不尽な目にあわされたからって、なんでもかんでも暴露して溜飲を下げるようになっちゃいけない、誰かが身をもってそれを教えなきゃいけないんだ」
感動的なスピーチだった。たとえ片手に泡を吹いたビール缶を持ち、足にあわないヒールがすれて薄汚くなっていても、わたしは笑いを引っ込めた。
「失礼しました。でも、ヒロトの」
「ノーコメント」
そうだよねえ。
大人には、大人としての取るべき態度あるもんねえ。
ヒロト君は、.........
「育ちがいいんだね。ちゃんとお礼を言うなんて」
「挨拶とお礼は最大の防御だって、バアちゃんが言ってた」
「バアちゃんもそう言っていた。いくら仕事でも、感じのいい人と最悪のやつがいたら、どうしたって感じのいい人に親切にしたくなるもんだ、威張りくさって相手を見下しても、結局、損するのは自分だって」
他人の痛みなら何十年でも我慢できるっていうけど、本当だよな。
ちかごろの若いもんは、......
若い男の多くは雑で、いい加減で、興味のないことには目を向けない。靴下を脱いだまま床に落としておく、トイレットペーパーが切れても知らん顔、歯磨き粉のフタを閉めない生き物だ。
恋人との恋愛感情も家族愛もなかなか厄介だ。
「確かに幸いだわ。あれは面倒よ。若い頃はそれでも、じきに冷めると思った。目の前から光貴がいなくなって、別の男と結婚できればね。でも、そうはいかなかった。神経パルスをコントロールするのはおっそろしく大変なの。痛みを取れば、別の副作用が襲ってくる。恋を忘れられなくて、結婚が形だけのものになる」
「でも、本当の話よ。私が光貴に頼んだの。私抜きで、光貴とヒロトの二人だけで、遊園地に行ったりしないで。二人だけで楽しまないで。私抜きで、家族にならないでって。光貴は私の願いをきいてくれた」
『 錆びた滑車/若竹七海/文春文庫 』
2019年版 このミステリーがすごい!
国内篇 第3位 錆びた滑車
若竹七海作、『錆びた滑車』 を読みました。
このミステリを読んでいる間、女探偵、葉村晶はうら若き元気いっぱいの女性と、ぼくはいつも勘違いしがちでした。
物語が、きびきびと進行するので、そう感じてしまったのかも知れません。
老眼......という、場面があって、ああ!中年のおばはんだったねえ。でも、流石探偵、時には年の割に派手な立ち回りも。
このミステリで一番感動した台詞は、尻の大きなおばちゃんのこの一言。
「なに、あんた。これ以上つきまとうなら、ケイサツ呼ぶよ。どこの週刊誌か知らないけど、話すことなんかなんにもない。クビが決まったからって、古巣の悪口ベラベラ喋るような女だと思ってんなら大間違いだ。これでも教育機関の人間だよ。大人は若者の手本になるべきなんだ。理不尽な目にあわされたからって、なんでもかんでも暴露して溜飲を下げるようになっちゃいけない、誰かが身をもってそれを教えなきゃいけないんだ」
感動的なスピーチだった。たとえ片手に泡を吹いたビール缶を持ち、足にあわないヒールがすれて薄汚くなっていても、わたしは笑いを引っ込めた。
「失礼しました。でも、ヒロトの」
「ノーコメント」
そうだよねえ。
大人には、大人としての取るべき態度あるもんねえ。
ヒロト君は、.........
「育ちがいいんだね。ちゃんとお礼を言うなんて」
「挨拶とお礼は最大の防御だって、バアちゃんが言ってた」
「バアちゃんもそう言っていた。いくら仕事でも、感じのいい人と最悪のやつがいたら、どうしたって感じのいい人に親切にしたくなるもんだ、威張りくさって相手を見下しても、結局、損するのは自分だって」
他人の痛みなら何十年でも我慢できるっていうけど、本当だよな。
ちかごろの若いもんは、......
若い男の多くは雑で、いい加減で、興味のないことには目を向けない。靴下を脱いだまま床に落としておく、トイレットペーパーが切れても知らん顔、歯磨き粉のフタを閉めない生き物だ。
恋人との恋愛感情も家族愛もなかなか厄介だ。
「確かに幸いだわ。あれは面倒よ。若い頃はそれでも、じきに冷めると思った。目の前から光貴がいなくなって、別の男と結婚できればね。でも、そうはいかなかった。神経パルスをコントロールするのはおっそろしく大変なの。痛みを取れば、別の副作用が襲ってくる。恋を忘れられなくて、結婚が形だけのものになる」
「でも、本当の話よ。私が光貴に頼んだの。私抜きで、光貴とヒロトの二人だけで、遊園地に行ったりしないで。二人だけで楽しまないで。私抜きで、家族にならないでって。光貴は私の願いをきいてくれた」
『 錆びた滑車/若竹七海/文春文庫 』