■休日はコーヒーショップで謎解きを/ロバート・ロプレスティ 2020.6.29
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』 に続いて、ロプレスティの2冊目 『休日はコーヒーショップで謎解きを』 を読みました。
本書には、中短編9作品が収められていますが、ぼくは次の4編を楽しく読みました。
・ローズヴィルのピザショップ
・残酷
・列車の通り道
・共犯
人は二つの場所に同時にいることはできない。とはよくいわれることだ。そんなことはないのに。
ロプレスティが、このように述べたその理由は......?
卓越したフィクションには、わたしたちをここではないどこかへ運び、現実とはまったく異なる存在へと変化させ、ふだんとはちがう行動をさせる、そんな力がある。
これが、人々が本を読むことを好む理由のひとつであり、ぼくが良質のミステリを好むのもそれだからだ。
「こんにちは、ヴィンス」
「やあ、坊や。調子はどうだ?」
「まあまあかな」ポーは友達をふり返った。仲間はポーを見て笑っていた。「一つ質問してもいい?」
「ここは自由の国だ」
ポーは唇をなめた。「あなたはゴッドファーザーなの?」
「ローズヴィルの人はみんな好きだ。私はこの町に夢中なんだよ」
どこがそんなにいいんですか?」メアリーが尋ねた。「ピザ以外に、という意味ですけど」
「なんていったらいいんだろう」ヴィンスはつかのま遠くを見つめた。「ここでは生活のペースがゆっくりなんだ。退屈という意味じゃないよ。のんびりしている。人と人が話をする時間がある。お互いを気遣う時間が」
「まさにそれがローズヴィルなんです」メアリーはいった。
「自分で自分の身も守れない男なんかいやじゃないのか? ドニーと喧嘩することも、誰かほかの馬鹿と喧嘩することもできないなんて?」
「馬鹿っていうのは、拳で議論に決着をつけようとする人のことよ」メアリーはクリフのうしろに立って、クリフに腕をまわした。「わたしだって危険になれるんだけど」
クリフはメアリーの手にキスをした。「証明してみせてくれ」
コイルの最初の銃弾は上院議員の右肩の上に当たった。次の銃弾は、ターゲットが倒れかけたときに、青いネクタイの結びめのすぐ下に当たった。
上院議員の体がホテルの入口のステップに転がったときには、世界中の誰もが入りたがるクラブに一つ空席が出来ていた。
ボディガードはすばやく動いた。だが、上着の内側から拳銃を引き出そうとしたときにはすでにコイルの次の銃弾が肩に当たっていた。
致命的な一撃ではなかった。殺そうと狙ったわけではなかった。死んでもいいほどの給料をもらってはいないだろう。コイルはただ、追撃を阻止したいだけだった。
凄腕殺し屋コイルが犯行現場から離脱後、彼にはどのような運命が待っていたのか......地元民にはいたって日常茶飯であったが。
「くそ、そうだな。郡立総合病院に向かおう」
「それがいい」救命士はコイルの肩をぽんぽんとたたいた。「かまわないだろう、ミスター?」
「なんだって?」救命士は身を屈めた。「おいおい、聞いたかよ? こいつ、おれのことを指一本で殺せるっていってるぞ」
「恩知らずめ」運転手はいった。
「まあ、おれにとっちゃ、きょうはラッキーデイだったかもな。あんたの指はほとんど折れてるんだから」
救急車は北に向かいながら悲鳴さながらサイレンの音を響かせた。観光客は道を空けた。地元民は大半が無視した。サイレンなど珍しくもないからだ。
怒りが、復讐せずにいられない気持ちが、自分のなかから漏れでていくのを感じた。水漏れのする水筒から水がこぼれていくようだった。
「誰もが自分は映画の主人公だと思っているが、それがどういうたぐいの映画であるかについては、ほんとうのことを認めたがらない」
ヒッチコック映画か何かのヒーロー
その娘は、おとぎ話に出てくる正体を隠したお姫様のつもり
「あなたは探偵映画に出てくる依頼人のようなつもりでいる、とおれは思っていたが、ちがいましたね。これは西部劇なんだ。おれは町をきれいにするためにあなたが雇ったガンマンというわけです」
気を悪くしないでほしいんだがね。坊や、とストラボがいう。お前さんはスポークスパースンとしては最悪の選択肢だ。カサンドラみたいなものだからな、神話の予言者の。警告しても警告しても、だれも 彼 のいうことを信じなかった。
『 休日はコーヒーショップで謎解きを/ロバート・ロプレスティ/高山真由美編訳/創元推理文庫 』
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』 に続いて、ロプレスティの2冊目 『休日はコーヒーショップで謎解きを』 を読みました。
本書には、中短編9作品が収められていますが、ぼくは次の4編を楽しく読みました。
・ローズヴィルのピザショップ
・残酷
・列車の通り道
・共犯
人は二つの場所に同時にいることはできない。とはよくいわれることだ。そんなことはないのに。
ロプレスティが、このように述べたその理由は......?
卓越したフィクションには、わたしたちをここではないどこかへ運び、現実とはまったく異なる存在へと変化させ、ふだんとはちがう行動をさせる、そんな力がある。
これが、人々が本を読むことを好む理由のひとつであり、ぼくが良質のミステリを好むのもそれだからだ。
「こんにちは、ヴィンス」
「やあ、坊や。調子はどうだ?」
「まあまあかな」ポーは友達をふり返った。仲間はポーを見て笑っていた。「一つ質問してもいい?」
「ここは自由の国だ」
ポーは唇をなめた。「あなたはゴッドファーザーなの?」
「ローズヴィルの人はみんな好きだ。私はこの町に夢中なんだよ」
どこがそんなにいいんですか?」メアリーが尋ねた。「ピザ以外に、という意味ですけど」
「なんていったらいいんだろう」ヴィンスはつかのま遠くを見つめた。「ここでは生活のペースがゆっくりなんだ。退屈という意味じゃないよ。のんびりしている。人と人が話をする時間がある。お互いを気遣う時間が」
「まさにそれがローズヴィルなんです」メアリーはいった。
「自分で自分の身も守れない男なんかいやじゃないのか? ドニーと喧嘩することも、誰かほかの馬鹿と喧嘩することもできないなんて?」
「馬鹿っていうのは、拳で議論に決着をつけようとする人のことよ」メアリーはクリフのうしろに立って、クリフに腕をまわした。「わたしだって危険になれるんだけど」
クリフはメアリーの手にキスをした。「証明してみせてくれ」
コイルの最初の銃弾は上院議員の右肩の上に当たった。次の銃弾は、ターゲットが倒れかけたときに、青いネクタイの結びめのすぐ下に当たった。
上院議員の体がホテルの入口のステップに転がったときには、世界中の誰もが入りたがるクラブに一つ空席が出来ていた。
ボディガードはすばやく動いた。だが、上着の内側から拳銃を引き出そうとしたときにはすでにコイルの次の銃弾が肩に当たっていた。
致命的な一撃ではなかった。殺そうと狙ったわけではなかった。死んでもいいほどの給料をもらってはいないだろう。コイルはただ、追撃を阻止したいだけだった。
凄腕殺し屋コイルが犯行現場から離脱後、彼にはどのような運命が待っていたのか......地元民にはいたって日常茶飯であったが。
「くそ、そうだな。郡立総合病院に向かおう」
「それがいい」救命士はコイルの肩をぽんぽんとたたいた。「かまわないだろう、ミスター?」
「なんだって?」救命士は身を屈めた。「おいおい、聞いたかよ? こいつ、おれのことを指一本で殺せるっていってるぞ」
「恩知らずめ」運転手はいった。
「まあ、おれにとっちゃ、きょうはラッキーデイだったかもな。あんたの指はほとんど折れてるんだから」
救急車は北に向かいながら悲鳴さながらサイレンの音を響かせた。観光客は道を空けた。地元民は大半が無視した。サイレンなど珍しくもないからだ。
怒りが、復讐せずにいられない気持ちが、自分のなかから漏れでていくのを感じた。水漏れのする水筒から水がこぼれていくようだった。
「誰もが自分は映画の主人公だと思っているが、それがどういうたぐいの映画であるかについては、ほんとうのことを認めたがらない」
ヒッチコック映画か何かのヒーロー
その娘は、おとぎ話に出てくる正体を隠したお姫様のつもり
「あなたは探偵映画に出てくる依頼人のようなつもりでいる、とおれは思っていたが、ちがいましたね。これは西部劇なんだ。おれは町をきれいにするためにあなたが雇ったガンマンというわけです」
気を悪くしないでほしいんだがね。坊や、とストラボがいう。お前さんはスポークスパースンとしては最悪の選択肢だ。カサンドラみたいなものだからな、神話の予言者の。警告しても警告しても、だれも 彼 のいうことを信じなかった。
『 休日はコーヒーショップで謎解きを/ロバート・ロプレスティ/高山真由美編訳/創元推理文庫 』